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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/08 20060101AFI20220705BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
B60C9/08 N
B60C15/06 B
B60C15/06 C
B60C15/06 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018123182
(22)【出願日】2018-06-28
(65)【公開番号】P2020001564
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 敏彰
(72)【発明者】
【氏名】立田 真大
(72)【発明者】
【氏名】宇野 弘基
(72)【発明者】
【氏名】竹中 裕人
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-094914(JP,A)
【文献】特開2000-071725(JP,A)
【文献】特開2015-147483(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129595(WO,A1)
【文献】特開2016-052840(JP,A)
【文献】特開2017-030620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00- 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に延びるコアと、当該コアよりも径方向外側に位置するエイペックスとを有する一対のビードと、
トレッド及び前記トレッドの端に連なる一対のサイドウォールの内側において、一方のビードから他方のビードに向かって延びるカーカスと、
径方向において前記サイドウォールの内側に位置する一対のクリンチと
を備え、
前記カーカスが、一方のコアと他方のコアとを架け渡す本体部と、前記本体部に連なり前記コアの周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部とを有するカーカスプライを備え、
前記コアと前記エイペックスとの境界の軸方向中心から当該エイペックスの外端までの長さが10mm以上15mm以下であり、
正規リムに組み込まれ、正規内圧の10%に内圧が調整された状態において、
前記エイペックスの内側面に沿って延びる前記本体部が軸方向に対して傾斜し、当該本体部が軸方向に対してなす角度が40°以上60°以下であり、
前記本体部が軸方向に対してなす角度が、前記エイペックスの径方向高さが半分となる位置に対応する前記エイペックスの内側面上の位置と前記エイペックスの外端とを通る直線が軸方向に対してなす角度である、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記カーカスと前記クリンチとの間に、補強層が設けられる、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記補強層が、架橋ゴムからなるゴム補強層であり、
前記ゴム補強層の損失正接が、前記エイペックスの損失正接と同等である、又は当該エイペックスの損失正接よりも小さく、
前記ゴム補強層の複素弾性率が、前記エイペックスの複素弾性率と同等である、又は当該エイペックスの複素弾性率よりも大きい、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム補強層の損失正接が前記クリンチの損失正接よりも大きく、
前記ゴム補強層の複素弾性率が前記クリンチの複素弾性率よりも大きい、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
径方向において、前記ゴム補強層の外端が前記クリンチの外端よりも外側に位置し、最大幅位置よりも内側に位置する、請求項3又は4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記クリンチの損失正接が前記エイペックスの損失正接よりも小さく、
前記クリンチの複素弾性率が前記エイペックスの複素弾性率よりも小さい、請求項1から5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
ビードベースラインからの径方向距離が25mmであるタイヤ外面上の位置を通る、前記カーカスの法線に沿って計測される、前記クリンチの厚さが、4mm以上である、請求項1から6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記補強層が並列した多数のフィラーコードを含むコード補強層であり、
軸方向において、前記コード補強層の内端が前記エイペックスと重複する、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
断面高さに対する前記コード補強層の径方向高さの比率が20%以上50%以下である、請求項8に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
図6に示されるように、タイヤ2のビード4はコア6及びエイペックス8により構成される。エイペックス8には、硬質な架橋ゴムが用いられる。剛性確保のために通常、30mm~40mmほどの長さを有するエイペックス8が採用される。
【0003】
タイヤ2のカーカス10は、コア6の周りにて折り返されたカーカスプライ12を備える。このカーカスプライ12は、一方のコア6と他方のコア6とを架け渡す本体部14を有する。ビード4の部分において本体部14は、エイペックス8の内側面16に沿って、コア6から軸方向外側に拡がりつつ、径方向外向きに延びる。
【0004】
図6に示されるように、エイペックス8の内側面16に沿って延びる本体部14の軸方向に対する傾斜の程度は、コア6側において大きく、エイペックス8の外端18側において小さい。つまり、この本体部14の傾斜には、傾斜角度が大きい部分から小さい部分に大きく変わる変曲点が存在する。
【0005】
ビード4の部分は、リムRに組み込まれる。このビード4の部分には、大きな荷重が作用する。耐久性などの性能の向上のために、このビード4の部分の構成について様々な検討が行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-052840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
環境への配慮から、低い転がり抵抗を有するタイヤの開発が進められている。タイヤは、トレッドにおいて路面と接触する。転がり抵抗の低減のために、変形に伴う発熱が抑制されたゴム組成物が開発され、このゴム組成物がトレッドに適用されている。転がり抵抗をさらに低減にすることが求められており、トレッドの構成に関する検討だけでは、要求レベルをクリアすることは難しい状況にある。
【0008】
特許文献1が開示するような小さなエイペックスをビードに採用すれば、軽量化を図ることができ、転がり抵抗の低減を達成できる見込みはある。しかしこの場合、剛性が不足し、操縦安定性が低下する恐れがある。剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減を図れる技術の確立が求められている。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成された空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減を図るために、鋭意検討したところ、エイペックスに沿って延びる本体部の傾斜がタイヤの転がり抵抗及び面内ねじり剛性に影響することを見出し、本発明を完成するに至っている。
【0011】
本発明に係る好ましい空気入りタイヤは、
周方向に延びるコアと、当該コアよりも径方向外側に位置するエイペックスとを有する一対のビードと、
トレッド及び前記トレッドの端に連なる一対のサイドウォールの内側において、一方のビードから他方のビードに向かって延びるカーカスと、
径方向において前記サイドウォールの内側に位置する一対のクリンチと
を備える。前記カーカスは、一方のコアと他方のコアとを架け渡す本体部と、前記本体部に連なり前記コアの周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部とを有するカーカスプライを備える。前記コアと前記エイペックスとの境界の軸方向中心から当該エイペックスの外端までの長さは、10mm以上15mm以下である。正規リムに組み込まれ、正規内圧の10%に内圧が調整された状態において、
前記エイペックスの内側面に沿って延びる本体部は軸方向に対して傾斜し、当該本体部が軸方向に対してなす角度は40°以上60°以下である。
【0012】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記カーカスと前記クリンチとの間に、補強層が設けられる。
【0013】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記補強層は架橋ゴムからなるゴム補強層である。前記ゴム補強層の損失正接は、前記エイペックスの損失正接と同等である、又は当該エイペックスの損失正接よりも小さい。前記ゴム補強層の複素弾性率は、前記エイペックスの複素弾性率と同等である、又は当該エイペックスの複素弾性率よりも大きい。
【0014】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記ゴム補強層の損失正接は前記クリンチの損失正接よりも大きい。前記ゴム補強層の複素弾性率は、前記クリンチの複素弾性率よりも大きい。
【0015】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、径方向において、前記ゴム補強層の外端は前記クリンチの外端よりも外側に位置し、最大幅位置よりも内側に位置する。
【0016】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記クリンチの損失正接は前記エイペックスの損失正接よりも小さい。前記クリンチの複素弾性率は、前記エイペックスの複素弾性率よりも小さい。
【0017】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、ビードベースラインからの径方向距離が25mmであるタイヤ外面上の位置を通る、前記カーカスの法線に沿って計測される、前記クリンチの厚さは、4mm以上である。
【0018】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記補強層は並列した多数のフィラーコードを含むコード補強層である。軸方向において、前記コード補強層の内端は前記エイペックスと重複する。
【0019】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、断面高さに対する前記コード補強層の径方向高さの比率は20%以上50%以下である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の空気入りタイヤでは、従来のタイヤに比べて小さなエイペックスが採用され、このエイペックスの内側面に沿って延びる本体部の傾斜角度が40°~60°の範囲で設定される。このタイヤでは、最大幅を示す位置とコアとの間において、本体部は、従来タイヤのように曲線を描くように延びるのではなく、概ね直線状に延びる。ビードの部分において本体部が短い長さで構成されるので、このタイヤでは、ボリュームの低減が図れる。このタイヤでは、転がり抵抗の低減が達成される。
【0021】
前述したように、このタイヤでは、最大幅を示す位置とコアとの間において、本体部は概ね直線状に延びる。このタイヤでは、この本体部の形状に、従来タイヤで確認された変曲点は形成されない。このため、この本体部の形状に基づく、面内ねじれ剛性の低下が抑えられる。このタイヤでは、小さなエイペックスが採用されているにも関わらず、十分な剛性が確保される。このタイヤは、操縦安定性に優れる。
【0022】
本発明によれば、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成された空気入りタイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図2図2は、図1のタイヤの一部が示された断面図である。
図3図3は、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図4図4は、本発明のさらに他の実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図5図5は、図4のタイヤのビードの部分における、カーカスコード及びフィラーコードの配列状況を説明する図である。
図6図6は、従来タイヤのビード部分が示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0025】
[第一実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ22(以下、単に「タイヤ22」と称することがある。)の一部を示す。このタイヤ22は、乗用車に装着される。
【0026】
図1は、タイヤ22の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ22の断面の一部を示す。この図1において、左右方向はタイヤ22の軸方向であり、上下方向はタイヤ22の径方向である。この図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ22の周方向である。この図1において、一点鎖線CLはタイヤ22の赤道面を表す。
【0027】
図1において、タイヤ22はリムRに組み込まれている。このリムRは正規リムである。タイヤ22の内部には空気が充填され、タイヤ22の内圧が正規内圧に調整されている。このタイヤ22には、荷重はかけられていない。
【0028】
本発明においては、タイヤ22をリムR(正規リム)に組み込み、タイヤ22の内圧が正規内圧に調整され、このタイヤ22に荷重がかけられていない状態は、正規状態と称される。本発明では、特に言及がない限り、タイヤ22及びタイヤ22各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
【0029】
本明細書において正規リムとは、タイヤ22が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0030】
本明細書において正規内圧とは、タイヤ22が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0031】
本明細書において正規荷重とは、タイヤ22が依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最高負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0032】
図1において、軸方向に延びる実線BBLはビードベースラインである。このビードベースラインは、リムR(正規リム)のリム径(JATMA等参照)を規定する線である。
【0033】
このタイヤ22は、トレッド24、一対のサイドウォール26、一対のクリンチ28、一対のビード30、一対のチェーファー32、カーカス34、ベルト36、バンド38及びインナーライナー40を備える。
【0034】
トレッド24は、その外面において路面と接触する。トレッド24の外面はトレッド面42である。このトレッド24には、溝44が刻まれている。このタイヤ22では、トレッド24は、ベース部24aと、このベース部24aの径方向外側に位置するキャップ部24bとを備える。ベース部24aは、接着性が考慮された架橋ゴムからなる。キャップ部24bは、耐摩耗性及びグリップ性能が考慮された架橋ゴムからなる。
【0035】
図1において、符号PEはこのタイヤ22の赤道である。この赤道は、溝44がないと仮定して得られる仮想トレッド面と赤道面との交点である。両矢印HSは、ビードベースラインからこの赤道PEまでの径方向距離である。この径方向距離HSは、このタイヤ22の断面高さ(JATMA等参照)である。
【0036】
それぞれのサイドウォール26は、トレッド24の端に連なる。サイドウォール26は、トレッド24の端からカーカス34に沿って径方向内向きに延びる。サイドウォール26は、架橋ゴムからなる。サイドウォール26は、カーカス34を保護する。このタイヤ22では、サイドウォール26とトレッド24との間にウィング46が配置される。
【0037】
それぞれのクリンチ28は、径方向においてサイドウォール26の内側に位置する。図1に示されるように、クリンチ28の一部はリムRのフランジFと接触する。クリンチ28は、耐摩耗性が考慮された架橋ゴムからなる。
【0038】
図1において、符号PWはこのタイヤ22の軸方向外端である。この外端PWは、サイドウォール26及びクリンチ28の外面、すなわち、このタイヤ22のサイド面に、模様や文字等の装飾がないと仮定して得られる仮想サイド面に基づいて特定される。一方の外端PWから他方の外端PWまでの軸方向距離は、このタイヤ22の最大幅、すなわち断面幅(JATMA等参照)である。この外端PWは、このタイヤ22が最大幅を示す位置である。
【0039】
ビード30は、クリンチ28の軸方向内側に位置する。ビード30は、コア48と、エイペックス50とを備える。コア48は、周方向に延びる。図1に示されるように、コア48は矩形状の断面形状を有する。コア48は、スチール製のワイヤーを含む。エイペックス50は、コア48よりも径方向外側に位置する。図1に示されたタイヤ22の断面において、エイペックス50は径方向外向きに先細りである。
【0040】
このタイヤ22では、エイペックス50は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。具体的には、このエイペックス50の複素弾性率Eaは60MPa以上120MPa以下である。このエイペックス50の損失正接LTaは、0.16以上0.18以下である。
【0041】
本発明においては、エイペックス50等のタイヤ22の構成部材の複素弾性率及び損失正接(tanδとも称される。)は、JIS K6394の規定に準拠し、粘弾性スペクトロメーターを用いて下記の条件にて測定される。
初期歪み=10%
振幅=±1%
周波数=10Hz
変形モード=引張
測定温度=70℃
【0042】
それぞれのチェーファー32は、ビード30の径方向内側に位置する。図1に示されるように、チェーファー32の少なくとも一部はリムRのシートSと接触する。このタイヤ22では、チェーファー32は布とこの布に含浸したゴムとからなる。
【0043】
カーカス34は、トレッド24、一対のサイドウォール26及び一対のクリンチ28の内側に位置する。カーカス34は、一方のビード30から他方のビード30に向かって延びる。カーカス34は、少なくとも1枚のカーカスプライ52を含む。このタイヤ22では、カーカス34は1枚のカーカスプライ52からなる。
【0044】
カーカスプライ52は、並列された多数のカーカスコードを含む。これらカーカスコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのカーカスコードは、赤道面と交差する。このタイヤ22では、カーカスコードが赤道面に対してなす角度は70°以上90°以下である。このタイヤ22のカーカス34は、ラジアル構造を有する。このタイヤ22では、有機繊維からなるコードがカーカスコードとして用いられる。
【0045】
このタイヤ22では、カーカスプライ52はそれぞれのコア48の周りにて折り返される。このカーカスプライ52は、一方のコア48と他方のコア48とを架け渡す本体部54と、この本体部54に連なりそれぞれのコア48の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部56とを有する。
【0046】
ベルト36は、トレッド24の径方向内側において、カーカス34と積層される。このタイヤ22では、ベルト36は2枚のベルトプライ58からなる。
【0047】
図示されていないが、それぞれのベルトプライ58は並列された多数のベルトコードを含む。それぞれのベルトコードは、赤道面に対して傾斜する。このベルトコードが赤道面に対してなす角度は10°以上35°以下である。このタイヤ22では、ベルトコードの材質はスチールである。
【0048】
バンド38は、径方向においてトレッド24とベルト36との間に位置する。バンド38は、ベルト36全体を覆う。このバンド38は、ジョイントレス構造を有する。図示されないが、バンド38は螺旋状に巻き回されたバンドコードを含む。有機繊維からなるコードがバンドコードとして用いられる。
【0049】
インナーライナー40は、カーカス34の内側に位置する。インナーライナー40は、タイヤ22の内面を構成する。このインナーライナー40は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー40は、タイヤ22の内圧を保持する。
【0050】
図2は、図1に示されたタイヤ22の断面の一部を示す。この図2には、タイヤ22のビード30の部分が示される。この図2において、左右方向はタイヤ22の軸方向であり、上下方向はタイヤ22の径方向である。この図2の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ22の周方向である。
【0051】
図2において、符号PMはコア48とエイペックス50との境界60の軸方向中心である。符号PAは、エイペックス50の外端である。両矢印LAは、境界60の軸方向中心PMからエイペックス50の外端PAまでの長さである。この長さLAは、エイペックス50の長さである。
【0052】
このタイヤ22では、境界60の軸方向中心PMからエイペックス50の外端PAまでの長さLA、すなわちエイペックス50の長さLAは10mm以上15mm以下である。従来のタイヤ2では、エイペックス8の長さは通常、30~40mmの範囲で設定される。このタイヤ22のエイペックス50は小さい。このエイペックス50は、軽量化に寄与する。このエイペックス50は、転がり抵抗の低減に寄与する。
【0053】
図2において、符号PBはエイペックス50の径方向高さが半分となる位置に対応するエイペックス50の内側面62上の位置である。実線BAは、この位置PBとエイペックス50の外端PAとを通る直線である。この実線BAは、軸方向に対して傾斜する。
【0054】
ビード30の部分においては、カーカスプライ52の本体部54は、エイペックス50の内側面62に沿ってコア48からこのエイペックス50の外端PAに向かって延びる。図2に示されるように、このタイヤ22では、本体部54は軸方向に対して傾斜する。本発明においては、このエイペックス50の内側面62に沿って延びる本体部54の傾斜方向は、前述の実線BAの傾斜方向によって特定される。
【0055】
図2において、実線ALはコア48とエイペックス50との境界60の軸方向中心PMを通り軸方向に延びる直線である。符号θcで表される角度は、実線BAが実線ALに対してなす角度である。本発明においては、ビード30の部分において、エイペックス50の内側面62に沿って延びる本体部54が軸方向に対してなす角度は、この角度θcで表される。
【0056】
本発明においては、前述の角度θcは、タイヤ22がリムR(正規リム)に組み込まれ、このタイヤ22の内圧が正規内圧の10%に調整され、そしてこのタイヤ22に荷重がかけられていない状態で測定される。図示されないが、このタイヤ22の製造では、モールドのキャビティ面にローカバー(未架橋状態のタイヤ22)を押し付けることによりタイヤ22が成形される。前述の状態におけるタイヤ22の外面は、モールドのキャビティ面に表わされたタイヤ22の外面に相当する。
【0057】
前述したように、このタイヤ22では、エイペックス50の内側面62に沿って延びる本体部54は、軸方向に対して傾斜する。特に、このタイヤ22では、ビード30の部分において、本体部54が軸方向に対してなす角度θcは40°以上60°以下である。
【0058】
図2において、符号PSはタイヤ22とリムRとの接触面の径方向外端である。実線LSは、この外端PSを通り径方向に延びる直線である。
【0059】
このタイヤ22では、カーカスプライ52の本体部54には、最大幅を示す位置PWとコア48との間に、この本体部54の傾斜角度θcを特定する実線BAに沿って延びる部分が存在する。図2に示されるように、このタイヤ22では、少なくとも実線LSよりも軸方向内側部分においては、この本体部54はこの実線BAに沿って直線状に延びる。
【0060】
このタイヤ22では、従来のタイヤ2に比べて小さなエイペックス50が採用され、このエイペックス50の内側面62に沿って延びる本体部54の傾斜角度θcが40°~60°の範囲で設定される。このタイヤ22では、最大幅を示す位置PWとコア48との間において、本体部54は、従来タイヤ2のように曲線を描くように延びるのではなく、概ね直線状に延びる。ビード30の部分において本体部54が短い長さで構成されるので、このタイヤ22では、ボリュームの低減が図れる。このタイヤ22では、転がり抵抗の低減が達成される。
【0061】
前述したように、このタイヤ22では、最大幅を示す位置PWとコア48との間において、本体部54は概ね直線状に延びる。この本体部54の形状に、従来タイヤ2で確認された変曲点は形成されない。このタイヤ22では、本体部54の形状に基づく、面内ねじれ剛性の低下が抑えられる。このタイヤ22では、小さなエイペックス50が採用されているにも関わらず、十分な剛性が確保される。このタイヤ22は、操縦安定性に優れる。このタイヤ22では、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成される。
【0062】
このタイヤ22では、好ましくは、クリンチ28の損失正接LTcはエイペックス50の損失正接LTaよりも小さい。このクリンチ28では、エイペックス50に比して、変形に伴う発熱が抑えられる。このクリンチ28は、転がり抵抗の低減に効果的に寄与する。この観点から、エイペックス50の損失正接LTaとクリンチ28の損失正接LTcとの差(LTa-LTc)は0.05以上が好ましい。良好な耐久性が維持される観点から、この差(LTa-LTc)は0.15以下が好ましい。
【0063】
このタイヤ22では、クリンチ28の損失正接LTcは0.04以上が好ましく、0.11以下が好ましい。損失正接LTcが0.04以上に設定されることにより、クリンチ28が適度な強度を有する。このタイヤ22では、良好な耐久性が維持される。この損失正接LTcが0.11以下に設定されることにより、このクリンチ28が転がり抵抗の低減に寄与する。
【0064】
このタイヤ22では、好ましくは、クリンチ28の複素弾性率Ecはエイペックス50の複素弾性率Eaよりも小さい。このクリンチ28はエイペックス50よりも軟質である。このクリンチ28は、最大幅を示す位置PWとコア48との間において、直線状に延びる本体部54の構成に貢献する。このタイヤ22では、本体部54の形状に基づく面内ねじり剛性の低下が抑えられるので、十分な剛性が確保される。この観点から、エイペックス50の複素弾性率Eaに対するクリンチ28の複素弾性率Ecの比(Ec/Ea)は0.25以下が好ましい。良好な耐久性が維持される観点から、この比(Ec/Ea)は0.04以上が好ましい。
【0065】
このタイヤ22では、クリンチ28の複素弾性率Ecは5MPa以上が好ましく、15MPa以下が好ましい。複素弾性率Ecが5MPa以上に設定されることにより、クリンチ28が面内ねじり剛性の確保に寄与する。このタイヤ22では、良好な操縦安定性が維持される。この複素弾性率Ecが15MPa以下に設定されることにより、クリンチ28が適度な柔軟性を有する。このタイヤ22では、良好な耐久性が維持される。
【0066】
このタイヤ22では、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成される観点から、クリンチ28の損失正接LTcはエイペックス50の損失正接LTaよりも小さく、そして、クリンチ28の複素弾性率Ecはエイペックス50の複素弾性率Eaよりも小さいのがより好ましい。
【0067】
本発明においては、クリンチ28の損失正接LTc及び複素弾性率Ecは、エイペックス50の損失正接LTa及び複素弾性率Eaと同様にして測定される。
【0068】
図2において、符号P25は、両矢印H25で示される、ビードベースラインからの径方向距離が25mmである、タイヤ22の外面上の位置である。両矢印TCは、この位置P25におけるクリンチ28の厚さである。厚さTCは、位置P25を通るカーカス34の本体部54の法線に沿って測定される。符号PCは、クリンチ28の外端である。両矢印HCは、ビードベースラインからクリンチ28の外端PCまでの径方向距離である。
【0069】
このタイヤ22では、ビードベースラインからの径方向距離が25mmであるタイヤ22外面上の位置P25を通る、カーカス34の本体部54の法線に沿って測定される、クリンチ28の厚さTCは4mm以上が好ましい。これにより、クリンチ28が適度な厚さを有する。このタイヤ22では、良好な耐久性が得られる。大きなボリュームは転がり抵抗に影響する。小さな転がり抵抗の観点から、このクリンチ28の厚さTCは、5mm以下が好ましい。
【0070】
このタイヤ22では、ビードベースラインからクリンチ28の外端PCまでの径方向距離HCは30mm以上が好ましく、40mm以下が好ましい。この距離HCが30mm以上に設定されることにより、クリンチ28がタイヤ22の剛性確保に寄与する。このタイヤ22では、良好な耐久性が得られる。この距離HCが40mm以下に設定されることにより、クリンチ28のボリュームが適切に維持される。このタイヤ22では、クリンチ28による転がり抵抗への影響が抑えられる。
【0071】
図2において、両矢印TSはサイドウォール26の厚さである。この厚さTSは、このタイヤ22が最大幅を示す位置PWにおいて測定される。両矢印TFは、ビード30とリムRのフランジFとの間に位置するクリンチ28の厚さである。この厚さTFは、コア48とエイペックス50との境界60の軸方向中心PMを通り軸方向に延びる直線、すなわち実線ALに沿って測定される。
【0072】
このタイヤ22では、最大幅を示す位置PWにおけるサイドウォール26の厚さTSは1.5mm以上が好ましく、3.0mm以下が好ましい。この厚さTSが1.5mm以上に設定されることにより、カーカス34の外側に十分なボリュームを有するサイドウォール26が構成される。このタイヤ22では、サイドウォール26がカーカス34を効果的に保護する。この厚さTSが3.0mm以下に設定されることにより、サイドウォール26のボリュームが適切に維持される。このタイヤ22では、サイドウォール26による質量及び転がり抵抗への影響が抑えられる。
【0073】
このタイヤ22では、ビード30とリムRのフランジFとの間に位置するクリンチ28の厚さTFは1mm以上が好ましく、4mm以下が好ましい。この厚さTFが1mm以上に設定されることにより、クリンチ28がカーカス34の露出防止に寄与する。この厚さTFが4mm以下に設定されることにより、タイヤ22をリムに組み込んだ際にコア48がリムに対して適正な位置に配置される。
【0074】
[第二実施形態]
図3は、本発明の他の実施形態にかかる空気入りタイヤ72の一部を示す。この図3は、タイヤ72の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ72の断面の一部を示す。この図3において、左右方向はタイヤ72の軸方向であり、上下方向はタイヤ72の径方向である。この図3の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ72の周方向である。
【0075】
このタイヤ72では、補強層74を設けた以外は、図1に示されたタイヤ22の構成と同等の構成を有する。したがって、この図3において、図1のタイヤ22の部材と同一の部材には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0076】
このタイヤ72においても、図1に示されたタイヤ22と同様、エイペックス50の長さは10mm以上15mm以下である。このタイヤ72のエイペックス50は、従来のエイペックス8よりも小さい。このエイペックス50は、軽量化に寄与する。このエイペックス50は、転がり抵抗の低減に寄与する。
【0077】
このタイヤ72では、エイペックス50の内側面62に沿って延びる本体部54は軸方向に対して傾斜する。ビード30の部分において本体部54が軸方向に対してなす角度は、40°以上60°以下である。
【0078】
このタイヤ72では、従来のタイヤ2に比べて小さなエイペックス50が採用され、このエイペックス50の内側面62に沿って延びる本体部54の傾斜角度が40°~60°の範囲で設定される。このタイヤ72では、最大幅を示す位置PWとコア48との間において、本体部54は概ね直線状に延びる。ビード30の部分において本体部54が短い長さで構成されるので、このタイヤ72では、ボリュームの低減が図れる。このタイヤ72では、転がり抵抗の低減が達成される。
【0079】
前述したように、このタイヤ72では、最大幅を示す位置PWとコア48との間において、本体部54は概ね直線状に延びる。この本体部54の形状に、従来タイヤ2で確認された変曲点は形成されない。このタイヤ72では、本体部54の形状に基づく、面内ねじれ剛性の低下が抑えられる。このタイヤ72では、小さなエイペックス50が採用されているにも関わらず、十分な剛性が確保される。このタイヤ72では、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成される。
【0080】
このタイヤ72では、カーカス34とクリンチ28との間に、補強層74が設けられる。特にこのタイヤ72の補強層74は、架橋ゴムからなるゴム補強層76である。このゴム補強層76は、小さなエイペックス50とともに、ビード30の部分の剛性に寄与する。このタイヤ72では、十分な耐久性が確保される。
【0081】
このタイヤ72では、好ましくは、ゴム補強層76の損失正接LTrは、エイペックス50の損失正接LTaと同等である、又は、このエイペックス50の損失正接LTaよりも小さい。このゴム補強層76を用いることにより、ビード30の部分において、変形に伴う発熱が抑えられる。このタイヤ72では、ゴム補強層76は転がり抵抗の低減に寄与する。この観点から、ゴム補強層76の損失正接LTrはエイペックス50の損失正接LTaよりも小さいのがより好ましい。具体的には、エイペックス50の損失正接LTaとゴム補強層76の損失正接LTrとの差(LTa-LTr)は、0.00以上が好ましく、0.04以上がより好ましい。ゴム補強層76の損失正接LTrは小さいほど好ましいので、転がり抵抗の低減の観点において、この差(LTa-LTr)は大きいほど好ましい。
【0082】
このタイヤ72では、ゴム補強層76の損失正接LTrは0.16以下が好ましい。このゴム補強層76は、転がり抵抗の低減に寄与する。この観点から、この損失正接LTrは0.14以下がより好ましく、0.12以下がさらに好ましい。
【0083】
前述したように、このタイヤ72では、ゴム補強層76は小さなエイペックス50とともにビード30の部分の剛性に寄与する。このタイヤ72では、ゴム補強層76の複素弾性率Erは60MPa以上100MPa以下の範囲で設定される。
【0084】
本発明においては、ゴム補強層76の損失正接LTr及び複素弾性率Erは、エイペックス50の損失正接LTa及び複素弾性率Eaと同様にして測定される。
【0085】
前述したように、エイペックス50の複素弾性率Eaは60MPa以上120MPa以下の範囲で設定される。このタイヤ72では、複素弾性率Eaが100MPa以下であるソフトタイプのエイペックス50と、複素弾性率Eaが100MPaを超えるハードタイプのエイペックス50とで、剛性確保に貢献するゴム補強層76の複素弾性率Erの設定に関する考え方が相違する。そこで、それぞれの場合について以下に説明する。
【0086】
[エイペックス50の複素弾性率Eaが100MPa以下である場合]
このタイヤ72では、エイペックス50にソフトタイプのエイペックスを採用する場合、ゴム補強層76の複素弾性率Erはエイペックス50の複素弾性率Eaと同等であるか、又は、このエイペックス50の複素弾性率Eaよりも大きいのが好ましい。このゴム補強層76が面内ねじり剛性の向上に寄与するので、このタイヤ72では、十分な剛性が確保される。このタイヤ72では、良好な操縦安定性が得られる。この観点から、ゴム補強層76の複素弾性率Erはエイペックス50の複素弾性率Eaよりも大きいのがより好ましい。具体的には、エイペックス50の複素弾性率Eaに対するゴム補強層76の複素弾性率Erの比(Er/Ea)は、1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。耐久性の観点から、この比(Er/Ea)は1.8以下が好ましい。
【0087】
このタイヤ72では、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成される観点から、エイペックス50にソフトタイプのエイペックスを用いる場合には、ゴム補強層76の損失正接LTrはエイペックス50の損失正接LTaと同等である、又はこのエイペックス50の損失正接LTaよりも小さく、そして、このゴム補強層76の複素弾性率Erはエイペックス50の複素弾性率Eaと同等である、又はこのエイペックス50の複素弾性率Eaよりも大きいのがより好ましい。このタイヤ72では、ゴム補強層76の損失正接LTrはエイペックス50の損失正接LTaよりも小さく、そして、このゴム補強層76の複素弾性率Erはエイペックス50の複素弾性率Eaよりも大きいのがさらに好ましい。
【0088】
[エイペックス50の複素弾性率Eaが100MPaを超える場合]
このタイヤ72では、エイペックス50にハードタイプのエイペックスを採用する場合、ゴム補強層76の複素弾性率Erはエイペックス50の複素弾性率Eaと同等であるか、又は、このエイペックス50の複素弾性率Eaよりも小さいのが好ましい。このタイヤ72では、ゴム補強層76によって面内ねじり剛性の向上を図るとともに、エイペックス50がビード30の部分の剛性に貢献する。このタイヤ72では、剛性が十分に確保されるので、良好な操縦安定性が得られる。剛性がバランスよく整えられる観点から、ゴム補強層76の複素弾性率Erはエイペックス50の複素弾性率Eaよりも小さいのがより好ましい。具体的には、エイペックス50の複素弾性率Eaに対するゴム補強層76の複素弾性率Erの比(Er/Ea)は、1.0以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。耐久性の観点から、この比(Er/Ea)は、0.5以上が好ましい。
【0089】
このタイヤ72では、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成される観点から、エイペックス50にハードタイプのエイペックスを用いる場合には、ゴム補強層76の損失正接LTrはエイペックス50の損失正接LTaと同等である、又はエイペックス50の損失正接LTaよりも小さく、そして、このゴム補強層76の複素弾性率Erはエイペックス50の複素弾性率Eaと同等である、又はエイペックス50の複素弾性率Eaよりも小さいのがより好ましい。このタイヤ72では、このゴム補強層76の損失正接LTrはエイペックス50の損失正接LTaよりも小さく、そして、このゴム補強層76の複素弾性率Erはエイペックス50の複素弾性率Eaよりも小さいのがさらに好ましい。
【0090】
このタイヤ72では、ゴム補強層76の複素弾性率Erはクリンチ28の複素弾性率Ecよりも大きい。このゴム補強層76はクリンチ28よりも硬質である。このゴム補強層76は、ビード30の部分の剛性に寄与する。図3に示されるように、コア48と最大幅位置PWとの間において、直線状に延びる本体部54をゴム補強層76は支持する。このタイヤ72では、ゴム補強層76は面内ねじり剛性の確保に寄与する。この観点から、このタイヤ72では、クリンチ28の複素弾性率Ecに対するゴム補強層76の複素弾性率Erの比は4以上が好ましい。耐久性の観点から、この比は、20以下が好ましい。
【0091】
このタイヤ72では、ゴム補強層76の損失正接LTrはクリンチ28の損失正接LTcよりも大きい。このため、ゴム補強層76の変形に伴う発熱量はクリンチ28のそれよりも大きい。しかしこのゴム補強層76はビード30の部分の剛性に寄与するので、このビード30の部分では荷重の作用による変形が抑えられる。このタイヤ72では、クリンチ28に比して大きな損失正接を有するゴム補強層76が配されるにも関わらず、転がり抵抗の増加が抑えられる。
【0092】
図3において、符号PRはゴム補強層76の外端である。符号PWはこのタイヤ72が最大幅を示す位置(以下、最大幅位置PW)であり、符号PCはクリンチ28の外端である。
【0093】
図3に示されるように、ゴム補強層76の外端PRは、径方向において、クリンチ28の外端PCよりも外側に位置する。このタイヤ72では、コア48と最大幅位置PWとの間において直線状に延びる本体部54が、硬質なゴム補強層76で十分に支持される。このタイヤ72では、ゴム補強層76は面内ねじり剛性の確保に寄与する。この観点から、このタイヤ72では、径方向において、ゴム補強層76の外端PRはクリンチ28の外端PCよりも外側に位置するのが好ましい。具体的には、ゴム補強層76の外端PRは、クリンチ28の外端PCから径方向外側に3mm以上7mm以下離れた位置に配置されるのが好ましい。
【0094】
この図3に示されるように、このタイヤ72では、径方向において、ゴム補強層76の外端PRは最大幅位置PWよりも内側に位置する。このタイヤ72では、このゴム補強層76のボリュームが適切に維持される。このタイヤ72では、転がり抵抗の増加が防止される。この観点から、このタイヤ72では、径方向において、ゴム補強層76の外端PRは最大幅位置PWよりも内側に位置するのが好ましい。具体的には、ゴム補強層76の外端PRは、最大幅位置PWから径方向内側に3mm以上7mm以下離れた位置に配置されるのが好ましい。
【0095】
このタイヤ72では、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成される観点から、径方向において、ゴム補強層76の外端PRは、クリンチ28の外端PCよりも外側に位置し、最大幅位置PWよりも内側に位置するのがさらに好ましい。
【0096】
図3において、両矢印TCは、ビードベースラインからの径方向距離H25が25mmであるタイヤ72外面上の位置P25を通る、カーカス34の本体部54の法線に沿って測定される、クリンチ28の厚さである。両矢印TRは、この本体部54の法線に沿って測定される、ゴム補強層76の厚さである。
【0097】
このタイヤ72では、クリンチ28の厚さTCに対するゴム補強層76の厚さTRの比は0.3以上が好ましく、0.45以下が好ましい。これにより、ゴム補強層76がクリンチ28とともにタイヤ72の剛性に効果的に貢献する。このタイヤ72では、剛性を確保しながら転がり抵抗の低減が図られる。
【0098】
図3において、両矢印TMはエイペックス50の外端PAの部分におけるゴム補強層76の厚さである。この厚さTMは、ゴム補強層76の外側面78の法線に沿って測定される。
【0099】
このタイヤ72では、ゴム補強層76による効果的な補強の観点から、この厚さTMは3mm以上が好ましく、5mm以下が好ましい。
【0100】
[第三実施形態]
図4は、本発明のさらに他の実施形態にかかる空気入りタイヤ82の一部を示す。この図4は、タイヤ82の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ82の断面の一部を示す。この図4において、左右方向はタイヤ82の軸方向であり、上下方向はタイヤ82の径方向である。この図4の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ82の周方向である。
【0101】
このタイヤ82では、補強層84を設けた以外は、図1に示されたタイヤ22の構成と同等の構成を有する。したがって、この図4において、図1のタイヤ22の部材と同一の部材には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0102】
このタイヤ82においても、図1に示されたタイヤ22と同様、エイペックス50の長さは10mm以上15mm以下である。このタイヤ82のエイペックス50は、従来のエイペックス8よりも小さい。このエイペックス50は、軽量化に寄与する。このエイペックス50は、転がり抵抗の低減に寄与する。
【0103】
このタイヤ82では、エイペックス50の内側面62に沿って延びる本体部54は軸方向に対して傾斜する。ビード30の部分において本体部54が軸方向に対してなす角度は、40°以上60°以下である。
【0104】
このタイヤ82では、従来のタイヤ2に比べて小さなエイペックス50が採用され、このエイペックス50の内側面62に沿って延びる本体部54の傾斜角度が40°~60°の範囲で設定される。このタイヤ82では、最大幅を示す位置PWとコア48との間において、本体部54は概ね直線状に延びる。ビード30の部分において本体部54が短い長さで構成されるので、このタイヤ82では、ボリュームの低減が図れる。このタイヤ82では、転がり抵抗の低減が達成される。
【0105】
前述したように、このタイヤ82では、最大幅を示す位置PWとコア48との間において、本体部54は概ね直線状に延びる。この本体部54の形状に、従来タイヤ2で確認された変曲点は形成されない。このタイヤ82では、本体部54の形状に基づく、面内ねじれ剛性の低下が抑えられる。このタイヤ82では、小さなエイペックス50が採用されているにも関わらず、十分な剛性が確保される。このタイヤ82は、操縦安定性に優れる。このタイヤ82では、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成される。
【0106】
このタイヤ82では、カーカス34とクリンチ28との間に、図3に示されたタイヤ82と同様、補強層84が設けられる。特にこのタイヤ82の補強層84は、前述のゴム補強層76ではなく、コード補強層86である。このタイヤ82では、コード補強層86はクリンチ28で覆われる。このコード補強層86は、小さなエイペックス50とともに、ビード30の部分の剛性に寄与する。このタイヤ82では、十分な耐久性が確保される。
【0107】
このタイヤ82では、コード補強層86は並列した多数のフィラーコードを含む。これらフィラーコードは、トッピングゴムで覆われる。このタイヤ82では、スチールコードがフィラーコードとして用いられてもよい。有機繊維からなるコード(以下、有機繊維コードともいう。)がフィラーコードとして用いられてもよい。この場合、この有機繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維及びアラミド繊維が好適に用いられる。
【0108】
図5には、コード補強層86に含まれるフィラーコード88の配列状況が、カーカスプライ52の本体部54に含まれるカーカスコード90の配列状況とともに示される。この図5において、上下方向はこのタイヤ82の径方向であり、左右方向はこのタイヤ82の周方向である。この図5に示されるように、フィラーコード88は径方向に対して傾斜する。
【0109】
図5において、符号θfはフィラーコード88が径方向に対してなす角度である。このタイヤ82では、このフィラーコード88の傾斜角度θfは30°以上70°以下である。このコード補強層86におけるフィラーコード88の本数は、コード補強層86の幅50mmあたりに20本以上40本以下である。
【0110】
図4に示されるように、このタイヤ82では、軸方向において、コード補強層86の内端92はエイペックス50と重複する。このタイヤ82では、コード補強層86のエイペックス50との一体性が確保される。このタイヤ82は、コード補強層86とエイペックス50とを連動させて、剛性の向上を図ることができる。さらにコード補強層86の内端92が適正な位置に配置されるので、このタイヤ82では、本体部54の傾斜角度が所定の範囲に設定される。このタイヤ82は、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減を図ることができる。この観点から、このタイヤ82では、軸方向において、コード補強層86の内端92はエイペックス50と重複するのが好ましい。このタイヤ82では、径方向において、このコード補強層86の内端92はエイペックス50の外端PAよりも内側に位置し、境界60の軸方向中心PMよりも外側に位置するのがより好ましい。
【0111】
図4において、両矢印HEはコア48とエイペックス50との境界60の軸方向中心PMからコード補強層86の内端92までの径方向距離である。両矢印HFは、コード補強層86の内端92からこのコード補強層86の外端94までの径方向距離である。この距離HFは、コード補強層86の径方向高さである。
【0112】
このタイヤ82では、エイペックス50との一体性を確保するとともに、本体部54の傾斜角度を所定の範囲に設定する観点から、コア48とエイペックス50との境界60の軸方向中心PMからコード補強層86の内端92までの径方向距離HEは5mm以上が好ましく、10mm以下が好ましい。
【0113】
このタイヤ82では、その断面高さHSに対する、コード補強層86の内端92からコード補強層86の外端94までの径方向距離HFの比率は20%以上が好ましく、50%以下が好ましい。この比率が20%以上に設定されることにより、コード補強層86が面内ねじり剛性の確保に寄与する。このタイヤ82では、良好な操縦安定性が得られる。この観点から、この比率は25%以上がより好ましい。この比率が50%以下に設定されることにより、タイヤ82のバットレスからビード30に至る部分、すなわちサイド部の剛性が適切に維持される。トレッド24の部分の剛性とサイド部の剛性との乖離が抑えられるので、このタイヤ82では、良好な操縦安定性が得られる。この観点から、この比率は45%以下がより好ましい。
【0114】
前述したように、コード補強層86はフィラーコード88を含む。このフィラーコード88の外径、すなわちコード径はコード補強層86の剛性に影響する。
【0115】
このタイヤ82では、フィラーコード88として有機繊維コードを用いる場合、この有機繊維コードのコード径は0.3mm以上が好ましく、1.0mm以下が好ましい。このコード径が0.3mm以上に設定されることにより、コード補強層86が面内ねじり剛性の確保に寄与する。このタイヤ82では、良好な操縦安定性が得られる。この観点から、このコード径は0.4mm以上がより好ましい。このコード径が1.0mm以下に設定されることにより、タイヤ82のサイド部の剛性が適切に維持される。トレッド24の部分の剛性とサイド部の剛性との乖離が抑えられるので、このタイヤ82では、良好な操縦安定性が得られる。この観点から、このコード径は0.8mm以下がより好ましい。
【0116】
このタイヤ82では、フィラーコード88としてスチールコードを用いる場合、このスチールコードのコード径は0.3mm以上が好ましく、3.5mm以下が好ましい。このコード径が0.3mm以上に設定されることにより、コード補強層86が面内ねじり剛性の確保に寄与する。このタイヤ82では、良好な操縦安定性が得られる。この観点から、このコード径は0.5mm以上がより好ましい。このコード径が3.5mm以下に設定されることにより、タイヤ82のサイド部の剛性が適切に維持される。トレッド24の部分の剛性とサイド部の剛性との乖離が抑えられるので、このタイヤ82では、良好な操縦安定性が得られる。この観点から、このコード径は1.0mm以下がより好ましい。
【0117】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成された空気入りタイヤが得られる。
【0118】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は前述の実施形態に限定されるものではなく、この技術的範囲には特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【実施例
【0119】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0120】
[実験1]
[実施例1]
図3に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=205/55R16)を得た。
【0121】
この実施例1では、エイペックスの長さLAは10mmであった。エイペックスの内側面に沿って延びる本体部の傾斜角度θcは50°であった。ゴム補強層の損失正接LTrは0.16であり、複素弾性率Erは60MPaであった。エイペックスの損失正接LTaは0.16であり、複素弾性率Eaは60MPaであった。このエイペックスは、ソフトタイプである。クリンチの損失正接LTcは0.04であり、複素弾性率Ecは15MPaであった。
【0122】
[比較例1]
ゴム補強層を設けず、長さLA及び角度θcを下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、比較例1のタイヤを得た。この比較例1の構成は、図6に示された従来のタイヤの構成と同等である。
【0123】
[比較例2]
ゴム補強層を設けず、角度θcを下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、比較例2のタイヤを得た。
【0124】
[実施例2及び比較例3-4]
角度θcを下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2及び比較例3-4のタイヤを得た。
【0125】
[実施例3-4]
損失正接LTrを下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例3-4のタイヤを得た。
【0126】
[実施例5]
損失正接LTr及び複素弾性率Erを下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例5のタイヤを得た。
【0127】
[実施例6]
複素弾性率Erを下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例6のタイヤを得た。
【0128】
[転がり抵抗]
試作タイヤを正規リムに組み込み、内圧を210kPaに調整した。転がり抵抗試験機を用い、転がり抵抗(RR)を測定した。荷重は、4.8kNに設定された。速度は、80km/hに設定された。この結果が、下記の表1及び2に指数で示されている。数値が大きいほど、転がり抵抗は小さい。
【0129】
[面内ねじり剛性]
試作タイヤを正規リムに組み込み、内圧を250kPaに調整した。面内ねじり剛性試験機を用い、タイヤのトレッド面を固定し、リムを周方向に0.8°回転させた時の反力を測定した。この結果が、下記の表1及び2に指数で示されている。数値が大きいほど、面内ねじり剛性は高い。
【0130】
[総合性能]
転がり抵抗及び面内ねじり剛性の各評価で得た指数の合計を求めた。この結果が、総合性能として、下記の表1及び2に示されている。数値が大きいほど好ましい。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】

【0133】
表1及び2に示されるように、実施例は、比較例に比して評価が高い。特に、実施例では、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0134】
[実験2]
[実施例7]
図1及び2に示された基本構成を備え、下記の表3に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=205/55R16)を得た。
【0135】
この実施例7では、エイペックスの長さLAは10mmであった。エイペックスの内側面に沿って延びる本体部の傾斜角度θcは50°であった。エイペックスの損失正接LTaは0.18であり、複素弾性率Eaは120MPaであった。このエイペックスは、ハードタイプである。
【0136】
この実施例7では、クリンチの損失正接LTcは0.04であり、複素弾性率Ecは15MPaであった。ビードベースラインからクリンチの外端までの径方向距離HCは40mmであった。位置P25を通る本体部の法線に沿って計測される、クリンチの厚さTCは5.0mmであった。
【0137】
[比較例5]
長さLA、角度θc、損失正接LTc及び複素弾性率Ecを下記の表3に示される通りとした他は実施例7と同様にして、比較例5のタイヤを得た。
【0138】
[比較例6]
長さLA及び角度θcを下記の表3に示される通りとした他は実施例7と同様にして、比較例6のタイヤを得た。
【0139】
[実施例8]
損失正接LTcを下記の表3に示される通りとした他は実施例7と同様にして、実施例8のタイヤを得た。
【0140】
[実施例9]
複素弾性率Ecを下記の表3に示される通りとした他は実施例7と同様にして、実施例9のタイヤを得た。
【0141】
[実施例10]
距離HCを下記の表3に示される通りとした他は実施例7と同様にして、実施例10のタイヤを得た。
【0142】
[実施例11]
厚さTCを下記の表3に示される通りとした他は実施例7と同様にして、実施例11のタイヤを得た。
【0143】
[実施例12]
図3に示された基本構成を備え、下記の表4に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=205/55R16)を得た。
【0144】
この実施例12では、エイペックスの長さLAは10mmであった。エイペックスの内側面に沿って延びる本体部の傾斜角度θcは50°であった。エイペックスの損失正接LTaは0.18であり、複素弾性率Eaは120MPaであった。このエイペックスは、ハードタイプである。
【0145】
この実施例12では、ゴム補強層の損失正接LTrは0.14であり、複素弾性率Erは85MPaであった。クリンチの損失正接LTcは0.04であり、複素弾性率Ecは15MPaであった。距離HCは40mmであり、厚さTCは5.0mmであった。
【0146】
[実施例13]
損失正接LTcを下記の表4に示される通りとした他は実施例12と同様にして、実施例13のタイヤを得た。
【0147】
[実施例14]
複素弾性率Ecを下記の表4に示される通りとした他は実施例12と同様にして、実施例14のタイヤを得た。
【0148】
[実施例15]
距離HCを下記の表4に示される通りとした他は実施例12と同様にして、実施例15のタイヤを得た。
【0149】
[実施例16]
厚さTCを下記の表4に示される通りとした他は実施例12と同様にして、実施例16のタイヤを得た。
【0150】
[転がり抵抗]
前述の実験1と同様にして、転がり抵抗に関する指数を得た。この結果が、下記の表3及び4に指数で示されている。数値が大きいほど、転がり抵抗は小さい。
【0151】
[面内ねじり剛性]
前述の実験1と同様にして、面内ねじり剛性に関する指数を得た。この結果が、下記の表3及び4に指数で示されている。数値が大きいほど、面内ねじり剛性は高い。
【0152】
[総合性能]
転がり抵抗及び面内ねじり剛性の各評価で得た指数の合計を求めた。この結果が、総合性能として、下記の表3及び4に示されている。数値が大きいほど好ましい。
【0153】
【表3】

【0154】
【表4】
【0155】
表3及び4に示されるように、実施例は、比較例に比して評価が高い。特に、実施例では、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0156】
[実験3]
[実施例17]
図4に示された基本構成を備え、下記の表5に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=205/55R16)を得た。
【0157】
この実施例17では、エイペックスの長さLAは10mmであった。エイペックスの内側面に沿って延びる本体部の傾斜角度θcは50°であった。エイペックスの損失正接LTaは0.16であり、複素弾性率Eaは60MPaであった。このエイペックスは、ソフトタイプである。クリンチの損失正接LTcは0.04であり、複素弾性率Ecは15MPaであった。
【0158】
この実施例17では、補強層としてコード補強層が採用された。このコード補強層では、ナイロン繊維からなるコードがフィラーコードとして用いられた。このことが、表の「タイプ」の欄に「N」で表されている。このフィラーコードのコード径は0.68mmであった。コアとエイペックスとの境界の軸方向中心PMからコード補強層の内端までの径方向距離HEは5mmであった。この実施例17では、軸方向において、コード補強層の内端はエイペックスと重複していた。断面高さHSに対するコード補強層の径方向高さHFの比率(HF/HS)は40%であった。
【0159】
[比較例7]
コード補強層を設けず、長さLA及び角度θcを下記の表5に示される通りとした他は実施例17と同様にして、比較例7のタイヤを得た。この比較例7は、前述の実験1における比較例1と同等の構成を有する。
【0160】
[参考例1]
コード補強層をゴム補強層に置き換えた他は実施例17と同様にして、参考例1のタイヤを得た。この参考例1は、前述の実験1における実施例1と同等の構成を有する。
【0161】
[実施例18]
距離HEを下記の表5に示された通りとした他は実施例17と同様にして、実施例18のタイヤを得た。
【0162】
[実施例19]
比率(HF/HS)を下記の表5に示された通りとした他は実施例17と同様にして、実施例19のタイヤを得た。
【0163】
[実施例20]
コード径を下記の表6に示された通りとした他は実施例17と同様にして、実施例20のタイヤを得た。
【0164】
[実施例21-23]
フィラーコードを変えた他は実施例17と同様にして、実施例21-23のタイヤを得た。実施例21及び23では、スチールコードがフィラーコードとして用いられた。このことが、表の「タイプ」の欄に「S」で表されている。実施例21では、コード径は0.85mmであった。実施例23では、コード径は0.65mmであった。実施例22では、アラミド繊維からなるコードがフィラーコードとして用いられた。このことが、表の「タイプ」の欄に「A」で表されている。実施例22では、コード径は0.68mmであった。
【0165】
[質量]
試作タイヤの質量を計測した。その結果が、下記の表5及び6に指数で示されている。数値が大きいほど軽量である。
【0166】
[転がり抵抗]
前述の実験1と同様にして、転がり抵抗に関する指数を得た。この結果が、下記の表3及び4に指数で示されている。数値が大きいほど、転がり抵抗は小さい。
【0167】
[面内ねじり剛性]
前述の実験1と同様にして、面内ねじり剛性に関する指数を得た。この結果が、下記の表3及び4に指数で示されている。数値が大きいほど、面内ねじり剛性は高い。
【0168】
[操縦安定性]
試作タイヤをリム(サイズ=16×6.5J)に組み込み、内圧を230kPaに調整した。このタイヤを、試験車両(1名乗車)の全輪に装着して乾燥アスファルト路面のテストコースを走行した。低速(40~80km/h)及び高速(100~120km/h)での、操舵に対する車両の応答挙動をドライバーに評価(官能評価)させた。その結果が、下記の表5及び6の「操縦安定性」の欄に、指数で示されている。数値が大きいほど、操縦安定性に優れる。
【0169】
[総合性能]
質量、転がり抵抗、面内ねじり剛性及び操縦安定性の各評価で得た指数の合計を求めた。この結果が、総合性能として、下記の表5及び6に示されている。数値が大きいほど好ましい。
【0170】
【表5】
【0171】
【表6】
【0172】
表5及び6に示されるように、実施例は、比較例に比して評価が高い。特に、実施例では、剛性を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0173】
以上説明された剛性を確保しながら転がり抵抗の低減を図る技術は、種々のタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0174】
2、22、72、82・・・タイヤ
4、30・・・ビード
6、48・・・コア
8、50・・・エイペックス
10、34・・・カーカス
12、52・・・カーカスプライ
14、54・・・本体部
16・・・エイペックス8の内側面
18・・・エイペックス8の外端
24・・・トレッド
26・・・サイドウォール
28・・・クリンチ
60・・・コア48とエイペックス50との境界
62・・・エイペックス50の内側面
74、84・・・補強層
76・・・ゴム補強層
86・・・コード補強層
88・・・フィラーコード
92・・・コード補強層86の内端
94・・・コード補強層86の外端
図1
図2
図3
図4
図5
図6