(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】酸化亜鉛鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 19/34 20060101AFI20220705BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20220705BHJP
C22B 5/10 20060101ALI20220705BHJP
C22B 7/02 20060101ALI20220705BHJP
C22B 19/30 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
C22B19/34
C22B1/00 601
C22B5/10
C22B7/02 A
C22B19/30
(21)【出願番号】P 2018235619
(22)【出願日】2018-12-17
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】高谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亨紀
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武史
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-120948(JP,A)
【文献】特開2003-342648(JP,A)
【文献】特開2018-197383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 19/00-19/38
C01G 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛と鉄との含有量比が異なる複数種類の鉄鋼ダストが順次搬入される酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、前記鉄鋼ダストのうちから複数種の鉄鋼ダストを順次選択して原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造方法であって、
複数種類の前記鉄鋼ダストを所定の混合比で混合して還元焙焼工程用調合原料とする調合工程と、
前記還元焙焼工程用調合原料に所定量の炭素質還元剤を添加して還元焙焼処理を施すことにより粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程と、を含んでなり、
前記調合工程では、単位操業期間毎の前記還元焙焼工程用調合原料中の亜鉛と鉄との含有率比の、予め規定した規準操業期間毎におけるバラツキが、常に所定のバラツキ基準値未満となるように、前記規準操業期間内における前記単位操業期間毎の前記鉄鋼ダストの混合比を決定し、
前記還元焙焼工程では、前記還元焙焼工程用調合原料中の亜鉛含有量と鉄含有量に応じて、該亜鉛と該鉄と、を還元するのに必要となる前記炭素質還元剤の必要量を求め、該必要量の前記炭素質還元剤を添加する、酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項2】
前記単位操業期間が、1日であって、前記還元焙焼工程用調合原料中の亜鉛と鉄との前記含有率比は、以下で定義される1日平均のZn/Fe比であり、
前記規準操業期間が、1月であって、前記バラツキが、前記Zn/Fe比の標準偏差である、
請求項1に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
Zn/Fe比=調合原料中の1日平均の亜鉛含有率(重量%)÷調合原料中の1日平均の鉄含有率(重量%)
【請求項3】
前記バラツキ基準値が0.3である、請求項2に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項4】
前記粗酸化亜鉛ダストに湿式処理を施して、水溶性不純物を除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、
前記粗酸化亜鉛ケーキに乾燥加熱処理を施す乾燥加熱工程と、を更に備える、請求項1から3のいずれかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼ダストを原料として酸化亜鉛鉱を製造する酸化亜鉛鉱の製造方法に関する。更に詳しくは、リサイクル品でもあり、通常、その組成にある程度のバラツキがある鉄鋼ダストを原料として用いて酸化亜鉛鉱を製造する場合において、高い亜鉛回収率を安定して保持することができる酸化亜鉛鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、粗酸化亜鉛等の亜鉛含有鉱から、不純物を分離除去して得た酸化亜鉛鉱が広く用いられている。酸化亜鉛鉱の原料となる粗酸化亜鉛ダストは、例えば、亜鉛含有鉱であり鉄鋼業における高炉や電気炉等から発生する鉄鋼ダストに還元焙焼処理を施すことによって得ることができる。この鉄鋼ダストの還元焙焼処理は、一般に、ロータリーキルンによる還元焙焼処理によって行われる。ロータリーキルンによる還元焙焼処理を行う場合、原料とする鉄鋼ダストは、カーボン等の炭素質還元剤と、組成調整剤である石灰石とともに、ロータリーキルン内に投入される。(特許文献1参照)。
【0003】
還元焙焼処理を行うロータリーキルン(本明細書において以下、「還元焙焼ロータリーキルン(RRK)」とも称する)内は燃料重油と上記の炭素質還元剤の燃焼により、最高温度が1050~1200℃程度に制御されている。この還元焙焼ロータリーキルン(RRK)内で鉄鋼ダストは還元焙焼され、揮発した金属亜鉛はキルン内で再酸化されて固体化した後、粒子状の粗酸化亜鉛ダストとして電気集塵機等で捕集される。そして、回収された粗酸化亜鉛ダストは、その後の湿式工程や乾燥加熱工程によって更に不純物を分離して必要な程度にまでその亜鉛品位を高めた酸化亜鉛鉱とされ、亜鉛地金の原料となる。
【0004】
最終製品である酸化亜鉛鉱の亜鉛品位は当然に高いものであることが求められる。酸化亜鉛鉱をISP製錬法等による亜鉛製錬の原料として用いるためには、各製錬工程において許容される値にまで、酸化亜鉛鉱の亜鉛品位を高める必要がある。
【0005】
ここで、原料として鉄鋼ダストを用いることは、資源リサイクルの促進、コスト削減の観点からは望ましいことではあるが、産業廃棄物としての一面も有する鉄鋼ダストは、通常、銘柄毎、即ち、発生元毎に、化学組成や物理的性状が大きく異なるものとなる。又、同一発生元であっても、搬入単位毎、即ち、ロット毎にある程度の化学組成や物理的性状のバラツキがあることが不可避である。このような鉄鋼ダストを原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいては、時々刻々と搬入されてくる組成の異なる複数種の鉄鋼ダストを、搬入順に単独で、或いは、それらを適宜混合して用いている。
【0006】
このため、時々刻々と搬入されてくる鉄鋼ダストを原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいては、還元焙焼処理に処す原料の亜鉛含有率や鉄含有率が、鉄鋼ダストの銘柄、ロットの切替え毎や混合比率の変更毎に経時的に変動することが不可避であり、この変動に対応するために、還元焙焼工程に投入する炭素質還元剤の添加量を随時調整していた。
【0007】
しかしながら、連続的に操業を行っている還元焙焼工程を行うロータリーキルン内において投入された原料等は一定の滞留時間をかけてキルン内を進行していくため、炭素質還元剤の添加量を随時調整したとしても、ロータリーキルン内の各部分毎においては、炭素質還元剤の過不足が生じてしまうことがある。これに起因して、炭素質還元剤が局部的に不足した場合には、FeOのような低融点相が形成され、半溶融物がキルン内壁に固着・成長し、ベコと称されるリング状の隆起物を生成して、キルン内滞留物の排出不良や反応性の悪化を招くことがあった(以下、ベコと称するリング状の隆起物の生成を指して「ベコ付き」と称することがある)。又、このような溶融物の固着・成長を抑制するために、ロータリーキルンの回転数を増加させると、この場合には、ロータリーキルン内での原料の滞留時間の減少によって、亜鉛の回収率が低下してしまうという問題が認識されるに至っていた。
【0008】
リサイクル品でもあり組成にバラツキがある鉄鋼ダストを原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、ベコ付きを防止して、還元焙焼工程における亜鉛の回収率を更に安定的に向上させることのできる酸化亜鉛鉱の製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、鉄鋼ダストを原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、ベコ付きを防止して、還元焙焼工程における亜鉛の回収率を、安定的に望ましい高さに保持することができる酸化亜鉛鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
酸化亜鉛鉱を製造するトータルプロセスにおいて、還元焙焼工程に投入される原料として、リサイクル促進の観点から、鉄鋼ダストが好ましく用いられている。本発明者らは、組成の異なる複数種の鉄鋼ダストを、還元焙焼工程に投入する原料として用いる場合において、それらの鉄鋼ダストの混合比を、一定の操業期間内における投入原料中の亜鉛と鉄との含有量比のバラツキが、予め規定した規準値未満に止まるように調整することにより、ベコ付きを防止して、還元焙焼工程における亜鉛の回収率を安定的に向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。より、具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1) 亜鉛と鉄との含有量比が異なる複数種類の鉄鋼ダストが順次搬入される酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、前記鉄鋼ダストのうちから複数種の鉄鋼ダストを順次選択して原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造方法であって、複数種類の前記鉄鋼ダストを所定の混合比で混合して還元焙焼工程用調合原料とする調合工程と、前記還元焙焼工程用調合原料に所定量の炭素質還元剤を添加して還元焙焼処理を施すことにより粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程と、を含んでなり、前記調合工程では、単位操業期間毎の前記還元焙焼工程用調合原料中の亜鉛と鉄との含有率比の、予め規定した規準操業期間毎におけるバラツキが、常に所定のバラツキ基準値未満となるように、前記規準操業期間内における前記単位操業期間毎の前記鉄鋼ダストの混合比を決定し、前記還元焙焼工程では、前記還元焙焼工程用調合原料中の亜鉛含有量と鉄含有量に応じて、該亜鉛と該鉄と、を還元するのに必要となる前記炭素質還元剤の必要量を求め、該必要量の前記炭素質還元剤を添加する、酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0013】
(2) 前記単位操業期間が、1日であって、前記還元焙焼工程用調合原料中の亜鉛と鉄との前記含有率比は、以下で定義される1日平均のZn/Fe比であり、前記規準操業期間が、1月であって、前記バラツキが、前記Zn/Fe比の標準偏差である、(1)に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
Zn/Fe比=調合原料中の1日平均の亜鉛含有率(重量%)÷調合原料中の1日平均の鉄含有率(重量%)
【0014】
(3) 前記バラツキ基準値が0.3である、(2)に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0015】
(4) 前記粗酸化亜鉛ダストに湿式処理を施して、水溶性不純物を除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、前記粗酸化亜鉛ケーキに乾燥加熱処理を施す乾燥加熱工程と、を更に備える、(1)から(3)のいずれかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鉄鋼ダストを原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、ベコ付きを防止して、還元焙焼工程における亜鉛の回収率を、安定的に望ましい高さに保持することができる酸化亜鉛鉱の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施態様について図面を参照しながら説明する。
【0019】
<全体プロセス>
本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、本発明特有の組成からなる「還元焙焼工程用調合原料」を得る調合工程S10、この「還元焙焼工程用調合原料」を還元焙焼して粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程S20と、を少なくとも含んでなる製造方法である。
【0020】
又、
図1に示すように、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、上記の調合工程S10及び還元焙焼工程S20に加えて、更に、還元焙焼工程S20で得た粗酸化亜鉛ダストから、フッ素等の水溶性不純物を処理液中に分離除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程S30、湿式工程S30で得た粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱して酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程S40、乾燥加熱工程S40で発生した排ガスダストを洗浄して洗浄後の排ガスダストケーキを得る排ガスダスト洗浄工程S50、及び、排水処理工程S60を備える全体プロセスとしての実施を、その好ましい実施形態とする製造方法である。尚、調合工程S10においては、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に投入する鉄鋼ダストをペレット化し、更に、還元剤等を予め内装することによって、還元焙焼工程における亜鉛の回収率を更に安定的に向上させることもできる。
【0021】
本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、原料として、亜鉛と鉄との含有量比が異なる複数種類の鉄鋼ダストが順次搬入されてくる状況下にある酸化亜鉛鉱の製造プラントにおける実施を想定する製造方法である。そして、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、より詳細には、上記状況下にある酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、順次搬入されてくる複数種類の鉄鋼ダストのうちから、実際に各操業期間毎において用いる複数種の鉄鋼ダストを順次選択し、原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、好適に実施することができる製造方法である。尚、「複数種類の鉄鋼ダストが順次搬入されてくる状況下」において「複数種の鉄鋼ダストを順次選択し、原料として用いる」態様の具体的な一例として、後述の実施例において開示されている試験操業での鉄鋼ダスト原料の使用態様を例示することができる。
【0022】
尚、上記のような鉄鋼ダストの搬入状況は、鉄鋼ダストを原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造においては、決して特殊な状況ではなく、極めて一般的な原料の供給態様でもある。よって、その意味において、本発明の製造方法は十分な実用性と汎用性を有するものでもある。
【0023】
この製造方法は、調合工程S10において、亜鉛と鉄との含有量比がそれぞれ異なる複数種類の鉄鋼ダストを、以下に詳細を説明する独自の制御規準に則って所定の混合比で混合することを第一の特徴とする。これにより、還元焙焼工程S20における亜鉛の回収率を安定的に向上させることができる。よって、この製造方法によれば、亜鉛製錬に投入する原料鉱となる酸化亜鉛鉱の亜鉛品位を望ましい高い範囲に安定的に保持することができる。
【0024】
<調合工程>
調合工程S10は、鉄鋼ダストを所定の混合比で混合して、「還元焙焼工程用調合原料」を得る工程である。より具体的には、この工程は、例えば、
図1において概念図として例示するように、亜鉛と鉄との含有率比が、それぞれ、α、β、γである、3種類の銘柄の鉄鋼ダストA~Cを、以下に詳細を説明する独自の操業管理規準に基づいて決定した調合計画に則って混合する工程である。
【0025】
尚、この工程においては、鉄鋼ダストの他に、リサイクルカーボン等の炭素質還元剤等を更に混合することが好ましく、又、これらの各原料を造粒したペレット状の原料とすることが、より好ましい。この混合造粒の作業、いわゆるペレタイズは、一般的に用いられるペレタイジング装置を用いて行うことができ、より具体的には、回転式のパン型ペレタイザー、又は、2軸不等速ピン式造粒機を用いて、鉄鋼ダストとリサイクルカーボンとを、所定のペレット組成となるように連続的に供給し、ミスト状の水分を添加しながら上記各原材料を混合造粒することにより行うことができる。
【0026】
調合工程S10においては、単位操業期間毎の「還元焙焼工程用調合原料中の亜鉛と鉄との含有率比」について、予め規定した「規準操業期間」毎における「バラツキ」が、所定の「バラツキ基準値」未満となるように、当該「規準操業期間」内における「単位操業期間」毎の各鉄鋼ダストの混合比を決定する。
【0027】
この製造方法の実施について、具体的な一例としては、規準操業期間を1月、単位操業期間を1日とし、複数の組成の異なる鉄鋼ダストの混合物である「還元焙焼工程用調合原料」中の「亜鉛と鉄との含有率比のバラツキ」について、「標準偏差σ」を「バラツキ基準値」として管理し、この標準偏差σの値が0.3未満となるように、各日における鉄鋼ダストの混合比を、向こう1か月に亘って予め決定して操業を行う例を、好ましい実施態様の一例として挙げることができる。
【0028】
「還元焙焼工程用調合原料中の亜鉛と鉄との含有率比」とは、単位操業期間を1日とする場合であれば、具体的に、以下に定義する1日平均のZn/Fe比となる。単位操業期間は操業形態に応じて変更することもできる。
Zn/Fe比=調合原料中の1日平均の亜鉛含有率(重量%)÷調合原料中の1日平均の鉄含有率(重量%)
【0029】
又、規準操業期間を1月、単位操業期間を1日とする場合に、上記の「Zn/Fe比」のバラツキを示す、標準偏差σは、下記[数1]に示す式により算出することができる。この場合も、規準操業期間及び単位操業期間は、操業形態に応じて変更することができる。
【0030】
【0031】
リサイクル品でもある鉄鋼ダストを原料として操業する酸化亜鉛鉱の製造においては、順次搬入されてくる複数原料を混合して使用する全過程において、混合物たる「還元焙焼工程用調合原料」中の亜鉛と鉄との含有率比(Zn含有率/Fe含有率)の変動を完全になくすことは、コスト面も考慮するならば、実態として不可能である。しかしながら、上述のように、「還元焙焼工程用調合原料」中の亜鉛と鉄との含有率比(Zn含有率/Fe含有率)の1日平均の値の月間のバラつきを標準偏差σを用いて管理する方法によれば、亜鉛の回収率に重大な影響を与える、上記含有率比(Zn含有率/Fe含有率)の急激な変動を未然に回避しながら、ベコ付きを防止して、亜鉛の回収率を安定的に望ましい高さに保持することができる。
【0032】
<還元焙焼工程>
還元焙焼工程S20を行う具体的な方法としては、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)による還元焙焼法が一般的に採用されている。還元焙焼工程S20では、調合工程S10において得た「還元焙焼工程用調合原料」が、還元剤及び石灰石等とともに、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に連続的に投入される。
【0033】
還元焙焼工程S20においては、上記の「還元焙焼工程用調合原料」中の亜鉛含有量と鉄含有量に応じて、同原料中に含まれる亜鉛及び鉄を還元するのに必要となる炭素質還元剤の必要量を求め、必要量の炭素質還元剤を添加する。本発明の製造方法においては、「還元焙焼工程用調合原料」の上記含有率比(Zn含有率/Fe含有率)の急激な変動は未然に回避されているため、鉄鋼ダストの銘柄の切替え毎や混合比率の変更毎に発生する計算上の還元剤の必要量とキルン内の還元反応の実際の進行との間の乖離がおきにくい。又、これにより、炭素質還元剤が局部的に不足する状況の発生を抑制することができる。
【0034】
より詳しくは、鉄鋼ダストの主成分はZnOとFe2O3であることから、銘柄によってZn含有率とFe含有率は反比例的に変化することが多い。即ち、Zn含有率が低下すればFe含有率が上昇し、逆にZn含有率が上昇すればFe含有率が低下する。よって、何も制御しなければ、Zn含有率/Fe含有率は二乗的に大きく変動する。ところで、亜鉛及び鉄を還元するのに必要となる炭素質還元剤の必要量は、化学量論に基いて求める。還元焙焼工程では、以下の反応が行われる。
C+O2→CO2
C+CO2→2CO
ZnO+CO→Zn(g)+CO2
Fe2O3+CO→2FeO+CO2
FeO+CO→Fe+CO2
g:気体を表す。
即ち、同じモル数であれば、亜鉛を還元するのに必要となる炭素質還元剤の必要量に対して、鉄を還元するのに必要となる炭素質還元剤の必要量は1.5倍となる。よって、Zn含有率/Fe含有率が大きく変動すると、更に炭素質還元剤の必要量が大きく変動する。
【0035】
前述の通り、連続的に操業を行っている還元焙焼工程を行うロータリーキルン内において投入された原料等は一定の滞留時間をかけてキルン内を進行していくため、炭素質還元剤の添加量を随時調整したとしても、ロータリーキルン内の各部分毎においては、炭素質還元剤の過不足が生じてしまうことがある。例えば、鉄鋼ダストの銘柄の切替えや混合比率の変更時に、原料組成に応じて炭素質還元剤の添加量を増やしたとしても、ロータリーキルン内で発生するCOガスは、しばらくは少ないままであるから、局部的に還元剤不足となる。ロータリーキルンの滞留時間が3~4時間程度であるときは、ロータリーキルン内の原料が置き換わるまでの3~4時間程度の間、その状態は続く。炭素質還元剤が局部的に不足した場合には、本来は金属鉄にまで還元されるべき鉄がFeOのような低融点相を形成し、半溶融物がキルン内壁に固着・成長し、ベコを生成して、キルン内滞留物の排出不良や反応性の悪化を招くことがあった。
【0036】
上述のような溶融物の固着・成長を抑制するために、ロータリーキルンの回転数を増加させると、ロータリーキルン内での原料の滞留時間の減少によって、亜鉛の回収率が低下してしまっていた。このように、炭素質還元剤の添加量の変動は、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)の操業を不安定にし、亜鉛の回収率を低下させていた。本発明によれば、Zn含有率/Fe含有率のバラツキを基準値未満に制御することにより、炭素質還元剤の必要量、即ち、添加量の変動を抑え、これをもって、還元焙焼工程における亜鉛の回収率を安定的に向上させることができる。
【0037】
この還元焙焼ロータリーキルン(RRK)の炉内は重油の燃焼と装入した炭素質還元剤の燃焼により、被処理物の最高温度が1050℃以上1200℃以下程度の範囲に制御されている。この炉内で鉄鋼ダストを含む上記の「還元焙焼工程用調合原料」は、還元焙焼されて、揮発した金属亜鉛は炉内で再酸化されて粉状の酸化亜鉛となる。粉状の酸化亜鉛は、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)からの排出ガスとともに集塵機に導入され、捕捉されて粗酸化亜鉛として回収される。
【0038】
本発明の製造方法によれば、この還元焙焼工程S20における亜鉛の回収率を安定的に高めることにより、高品位の粗酸化亜鉛を得ることができる。具体的には、還元焙焼工程S20において用いる「還元焙焼工程用調合原料」中の亜鉛と鉄との含有率比の経時的変動が、上述した本発明特有の制御規準に基づいて特定範囲内に制御されていて、尚且つ、上述のように適切に還元剤が投入されていることにより、例えば、上記の還元焙焼工程における1ヶ月平均の亜鉛の回収率を、目安として、1.0%程度向上させることが可能である。これにより、例えば、電解製錬法による亜鉛製錬にも好ましく用いることができる高品位の酸化亜鉛鉱を、従来よりも低コストで効率よく製造することができるようになる。又、副産物である含鉄クリンカー中の亜鉛品位を低下させることが出来るので、質の良い含鉄クリンカーの安定した生産が可能となる。
【0039】
尚、本明細書において「還元焙焼工程における亜鉛の回収率」とは、還元焙焼工程に投入する「還元焙焼工程用調合原料」に含有される亜鉛成分量に対する、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)内で揮発して回収された粗酸化亜鉛ダストに含まれる亜鉛成分量の割合のことを言う。又、この「還元焙焼工程における亜鉛の回収率」は、原料である鉄鋼ダスト中の亜鉛含有率と、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)から排出された含鉄クリンカー中の亜鉛含有率とを、それぞれ蛍光X線分析装置により測定し、得られた分析値、処理量及び産出量から算出することができる。
【0040】
尚、上記還元焙焼法によって、揮発せずにキルン中に残った還元焙焼残渣は、含鉄クリンカーと称する製品としてキルン排出端より回収され、還元された鉄分が多く含有されるため、鉄鋼メーカー向けの鉄原料、又は、埋め立て向けに払い出される。
【0041】
<湿式工程>
粗酸化亜鉛ダストに含有されるフッ素等の不純物を処理液中に分離抽出し、更に固液分離処理によって、粗酸化亜鉛ダストから不純物を水洗浄法により除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式処理は、以下の処理工程によって行うことができる。
【0042】
還元焙焼工程S20により鉄鋼ダストから回収された粗酸化亜鉛ダストは、工業用水等でレパルプされる。粗酸化亜鉛ダストの回収は、電気集塵機等で行うことができる。スラリーとなった粗酸化亜鉛ダストはpH調整及び凝集処理を行い、その後、脱水を行う。この洗浄脱水により、粗酸化亜鉛ケーキのハロゲン含有率は、フッ素含有率について0.6質量%未満、塩素含有率については、1.0質量%未満にまで低減することが好ましい。又、中性領域でイオンとして存在するカドミウムについても、除去することができる。フッ素等の不純物が処理液中に除去された状態において、固液分離により、不純物が分配された処理液をスラリーから除去する。これにより、粗酸化亜鉛ダストのスラリーがより亜鉛含有率の高い粗酸化亜鉛ケーキとなる。
【0043】
<乾燥加熱工程>
湿式工程S30で得た粗酸化亜鉛ケーキを、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等の加熱炉に装入して焼成・造粒する乾燥加熱工程S40により、フッ素等の残留不純物の含有率を更に低減させつつ、高品位の酸化亜鉛鉱を得ることができる。
【0044】
乾燥加熱処理の焼成温度については、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等から排出される際の被焼成物の温度が1100℃以上1150℃以下の範囲の温度となるように、炉内温度を保持管理することが好ましい。
【0045】
<排ガスダスト洗浄工程>
乾燥加熱工程S40で発生した排ガスダストを洗浄して洗浄後の排ガスダストケーキを得るための排ガスダスト洗浄工程S50を行うための洗浄設備としては、洗浄塔、湿式電気集塵機の組み合わせが一般的である。又、これらの設備で回収された洗浄後の排ガスダストケーキを、上流工程である乾燥加熱工程S40を行う乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等に繰り返して循環投入することにより、金属資源の有効利用を図る処理が行われている。
【0046】
<排水処理工程>
排水処理工程S60は、湿式工程S30において粗酸化亜鉛ダストから分離されたフッ素やカドミウムを高濃度で含有する廃液から、フッ素及びカドミウムを除去し、更に、廃液中に微量に含まれる重金属を中和処理により沈殿除去し、最終的にpHを調整して無害の排水とする工程である。
【0047】
<亜鉛回収率測定工程>
本発明においては、還元焙焼工程S20における亜鉛の回収率を、例えば上述した方法によって測定可能な設備によって行う工程である亜鉛回収率測定工程S70を、還元焙焼工程S20の下流工程として設けることが好ましい。この亜鉛回収率測定工程S70によって、上記の亜鉛の回収率を、常時、或いは、随時適当な間隔で測定確認することによって、上記の亜鉛の回収率を、より高い精度で制御することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限るものではない。又、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施例に記載されたものに限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
調合工程において、「還元焙焼工程用調合原料中の亜鉛と鉄との含有率比」について、予め規定した「規準操業期間」毎における「バラツキ」が、所定の「バラツキ基準値」未満となるように、当該「規準操業期間」内における「単位操業期間」毎の各鉄鋼ダストの混合比を決定する本発明の製造方法の実施により、還元焙焼工程における亜鉛の回収率が有意に向上することを確認するために以下の試験を行った。
【0051】
「還元焙焼工程用調合原料」を調合するための原料として、下記の範囲で組成にバラツキがある12種類の銘柄の鉄鋼ダスト(鉄鋼ダストA~L)を用いた。
Zn:20~40質量%、Pb:0.5~3.0質量%、Fe:10~30質量%、Cr:0.1~1.0質量%、F:0.0~1.0質量%、Cd:0.0~0.1質量%。
【0052】
先ず、試験操業1として、1ヶ月の間に、1回の受入れ当たり約500tの物量で時々刻々と搬入されて来る8種類の銘柄の鉄鋼ダストのうち、3種類を選定し、調合を行った。調合に当たっては、1ヶ月の間で、調合原料の1日平均のZn/Fe比の標準偏差が0.16となるように、鉄鋼ダストの組合せと混合比を調整した。尚、鉄鋼ダストの選定に当たっては、搬入から約1ヶ月以内に処理が完了するように、原則、搬入されて来る順番に3種類を選定した。3種類の鉄鋼ダストの合計量は、1日当たり240~310tである。鉄鋼ダストの組合せと混合比を調整する「調合変更」は、1ヶ月の間に11回行った。
【0053】
試験操業1では、3種類の鉄鋼ダストの他に、炭素質還元剤としてリサイクルカーボンを混合して、新日南株式会社製のダウ・ペレタイザー(登録商標)によって混合造粒し、粒径が5.0~10.0mmの炭素質還元剤内装ペレットを作製した。各調合原料における、鉄鋼ダストの総量に対するリサイクルカーボンの添加量は、炭素含有量が8.0質量%となるように調整した。なお、調合原料中の亜鉛含有量と鉄含有量に応じて、亜鉛と鉄とを還元するのに必要となる炭素質還元剤の必要量が求まるが、炭素質還元剤の必要量に対して、炭素含有量が8.0質量%の炭素質還元剤内装ペレットに含まれる炭素質還元剤量が少なくなるように調整しているので、残りの不足する炭素質還元剤として粉コークスを、炭素質還元剤内装ペレットとともに、直接、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に投入した。上記、炭素質還元剤内装ペレット、粉コークス、組成調整剤としての石灰石、繰返し物を、内径3m、長さ50mの還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に投入して還元焙焼工程を実施した。還元焙焼ロータリーキルン(RRK)の焙焼温度については、全ての試験操業において、被処理物の最高温度が1050~1200℃となる範囲とした。
【0054】
次に、試験操業2~5として、1ヶ月の間で、調合原料の1日平均のZn/Fe比の標準偏差を変えて、鉄鋼ダストの組合せと混合比を調整する試験を行った。結果として、全12種類の中で使用した鉄鋼ダストの銘柄、1日当たりの3種類の鉄鋼ダストの合計量、1ヶ月の間に行った「調合変更」の回数については若干異なるが、方法、及び条件は、試験操業1と同様にして、試験操業2~5を実施した。
【0055】
各々の試験操業において、それぞれ、還元焙焼工程用調合原料中の下記定義による「1日平均のZn/Fe比」の1月間のバラツキを標準偏差σで管理し、その値の許容範囲の上限値でもある「バラツキ基準値」を、試験操業毎に、0.1~0.6の範囲においてそれぞれ異なる値に設定した。その上で、各操業における「1日平均のZn/Fe比」の1ヶ月間のバラツキが「バラツキ基準値」を超えることがないように、試験操業毎に1ヶ月間の鉄鋼ダストの調合計画を決定した。
Zn/Fe比=調合原料中の1日平均の亜鉛含有率(重量%)÷調合原料中の1日平均の鉄含有率(重量%)
【0056】
試験操業毎の「1日平均のZn/Fe比」の1ヶ月間の標準偏差σ(以下、単に「Zn/Fe比の標準偏差σ」とも言う)は、各鉄鋼ダスト(A~L)のZn含有率及びFe含有率と調合原料量毎の3種類の鉄鋼ダストの混合比、及び、「調合変更」のスケジュールから算出し、この値が、試験操業毎に予め規定した「バラツキ基準値」未満になるように調合を計画し、調合工程を実施した。各試験操業における実際の「Zn/Fe比の標準偏差σ」は、表1に示す通り(表1においては、単に「σ」と示す)であった。
【0057】
尚、上記の「試験操業毎の「1日平均のZn/Fe比」の1ヶ月間の標準偏差σ」等を算出するために用いる各鉄鋼ダストのZn含有率とFe含有率の値については、搬入時に分析した各鉄鋼ダストの分析値のうち、直近の値を用いた。又、「調合変更」を実施した日については、変更前と変更後の調合原料中のZn含有率を、更に、調合時間で加重平均した値を、調合原料中の1日平均の亜鉛含有率とした。Fe含有率についても同様である。
【0058】
そして、試験操業毎に、還元焙焼工程での亜鉛の回収率を測定比較した。結果は表1に示す通りであった。亜鉛の回収率は、上記の鉄鋼ダスト中の亜鉛含有率と、RRKから排出された含鉄クリンカー中の亜鉛含有率とを、それぞれ蛍光X線分析装置により測定し、得られた分析値と処理量及び産出量から算出した。
【0059】
【0060】
尚、キルンの回転数を低下させるほどキルン内の滞留時間が増加し、亜鉛の回収率が向上するが、「Zn/Fe比の標準偏差σ」が増加すると、調合変更時の炉況悪化でキルン炉内への滞留物の固着が進行する。これを抑制するために、試験操業においは、キルン回転数を増加させる操作を行った。この結果キルン内滞留時間が減少し、亜鉛の回収率は低下した。又、「Zn/Fe比の標準偏差σ」を、0.57まで増加させて操業を行った試験操業5においては、キルン回転数の増加にかかわらず、キルン内壁に滞留物が固着・成長してリング状のダムが形成されたため、キルン内残留物の排出不良により操業停止にまで至った。
【0061】
表1より、本発明の製造方法においては、「Zn/Fe比の標準偏差σ」を、所定値以下に管理することにより、実操業における亜鉛の回収率を、有意に向上させることができることが分かる。又、「Zn/Fe比の標準偏差σ」を、0.3未満と規定して操業を管理することにより、亜鉛の回収率を95%以上とすることが可能であることも分かる。
【0062】
このような本発明の製造方法によれば、銘柄毎に化学組成のバラツキが大きい鉄鋼ダストを用いた酸化亜鉛鉱の製造において、亜鉛の回収率を95%以上とすることで、最終製品である酸化亜鉛鉱の亜鉛品位を高めて、ISP製錬法等による亜鉛製錬の材料として好適に用いることができる。又、副産物である含鉄クリンカー中の亜鉛含有率を2.0%以下にすることができ、高品質なリサイクル製品として鉄鋼メーカーに販売することができる。以上より、資源リサイクル促進の観点からも、本発明は、産業の発展に大きく寄与する。
【符号の説明】
【0063】
S10 調合工程
S20 還元焙焼工程
S30 湿式工程
S40 乾燥加熱工程
S50 排ガスダスト洗浄工程
S60 排水処理工程
S70 亜鉛回収率測定工程