(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220705BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220705BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220705BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2019555334
(86)(22)【出願日】2018-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2018042984
(87)【国際公開番号】W WO2019103037
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2017224023
(32)【優先日】2017-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】相原 俊明
(72)【発明者】
【氏名】戸屋 広将
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/104305(WO,A1)
【文献】特開2017-063003(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103998(WO,A1)
【文献】特開2017-202971(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170548(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0050835(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
C01G 53/00-53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Li
zNi
1-x-yCo
xM
yO
2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.20、-0.2≦α≦0.2、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選択される1種類以上の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、及び前記一次粒子が凝集した二次粒子を有し、
前記二次粒子の表面、及び内部の前記一次粒子の表面に、タングステン及びリチウムを含む化合物が配置された被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子を複数個含む非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合の相対標準偏差が0.4以下である非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含む、リチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合が0.01%以上3.0%以下である請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
一般式:Li
zNi
1-x-yCo
xM
yO
2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.20、-0.2≦α≦0.2、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選択される1種類以上の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、及び前記一次粒子が凝集した二次粒子、を有するリチウムニッケル複合酸化物粒子と、三酸化タングステンと、水とを混合してタングステン混合物を得る混合工程と、
前記タングステン混合物を熱処理する熱処理工程とを有し、
前記三酸化タングステンは、XRDパターンにおいて、WO
2.90の(200)面のピーク強度I
WO2.90と、WO
3.00の(200)面のピーク強度I
WO3.00との比である、I
WO2.90/I
WO3.00が0.15以下である非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記三酸化タングステンは、累積10%粒子径が10μm以上、累積50%粒子径が30μm以上55μm以下、累積90%粒子径が100μm以下である請求項3に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記三酸化タングステンは、比表面積が0.5m
2/g以上7.0m
2/g以下である請求項3または4に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高エネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池に対する要求が高まっている。また、ハイブリッド自動車をはじめとする電気自動車用の電源として、高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、例えば負極、正極、電解液などで構成され、その負極および正極の材料として用いられる活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が使用される。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池については、現在、研究開発が盛んに行われている。その中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
これまでに提案されている主な正極活物質としては、層状系材料としてのコバルト酸リチウム(LiCoO2)に代表されるリチウムコバルト複合酸化物、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)に代表されるリチウムニッケル複合酸化物、スピネル系材料としてのマンガン酸リチウム(LiMn2O4)に代表されるリチウムマンガン複合酸化物などを挙げることができる。
【0006】
このうち、リチウムニッケル複合酸化物は、サイクル特性が良く、低抵抗で高出力が得られる材料として注目されている。そして、近年では高容量化や、高出力化を目的として、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に、タングステン及びリチウムを含む化合物を配置することが検討されている。
【0007】
例えば特許文献1には、一般式:LizNi1-x-yCoxMyO2(ただし、0.03≦x≦0.35、0.01≦y≦0.35、0.95≦z≦1.20、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される一次粒子および一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物粒子から構成された非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子の表面及び内部の一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を有し、
前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に存在するタングステンおよびリチウムを含む化合物以外のリチウム化合物に含有されるリチウム量が、正極活物質の全量に対して0.05質量%以下で、前記リチウム化合物における炭酸リチウムに含まれるリチウム量が、正極活物質に対して0.02質量%以下であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に、タングステン及びリチウムを含む化合物を配置した非水系電解質二次電池用正極活物質とした場合に、該非水系電解質二次電池用正極活物質を用いた二次電池において、電池特性にばらつきが生じ、さらには電池特性が低くなる場合があった。
【0010】
係る原因について、本発明の発明者らが検討を行ったところ、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に配置したタングステン、及びリチウムを含む化合物の組成が粒子間でばらついている場合があることを見出した。
【0011】
そこで本発明の一側面では、表面にタングステン、及びリチウムを含有する化合物を有する被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子を複数個有しており、粒子間でのタングステン含有量のばらつきを抑制した非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
一般式:LizNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.20、-0.2≦α≦0.2、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選択される1種類以上の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、及び前記一次粒子が凝集した二次粒子を有し、
前記二次粒子の表面、及び内部の前記一次粒子の表面に、タングステン及びリチウムを含む化合物が配置された被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子を複数個含む非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合の相対標準偏差が0.4以下である非水系電解質二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、表面にタングステン、及びリチウムを含有する化合物を有する被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子を複数個有しており、粒子間でのタングステン含有量のばらつきを抑制した非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例、比較例において作製したコイン型電池の断面構成の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[非水系電解質二次電池用正極活物質]
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の一構成例について以下に説明する。
【0016】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)は、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子を複数個含むことができる。
【0017】
被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子は、一般式:LizNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.20、-0.2≦α≦0.2、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選択される1種類以上の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、及び一次粒子が凝集した二次粒子を有し、二次粒子の表面、及び内部の一次粒子の表面に、タングステン及びリチウムを含む化合物が配置されている。
【0018】
そして、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合の相対標準偏差を0.4以下とすることができる。
【0019】
本実施形態の正極活物質は、既述のように、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子を複数個含むことができる。すなわち、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粉末とすることができる。なお、本実施形態の正極活物質は、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粉末以外に、任意の成分を含むこともできるが、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粉末から構成することもできる。
【0020】
被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子は、一般式:LizNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.20、-0.2≦α≦0.2、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選択される1種類以上の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、及び二次粒子を有することが好ましい。これは、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子中のリチウムニッケル複合酸化物が、係る組成を有することにより、高い充放電容量を得ることができるからである。
【0021】
そして、上記被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子は、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子の表面、及び内部の一次粒子の表面に、タングステン及びリチウムを含む化合物を有することができる。
【0022】
このように、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子や、内部の一次粒子(以下、まとめて「リチウムニッケル複合酸化物の粒子」と記載する場合もある)の表面に、タングステン及びリチウムを含む化合物を配置した被覆含有リチウムニッケル複合酸化物とすることで、充放電容量を維持、向上させながら出力特性を向上させることができる。また、サイクル特性を向上させることができる。
【0023】
通常、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面が異種化合物により完全に被覆されると、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、リチウムニッケル複合酸化物が有する高容量という特性が低下するとも思われる。しかしながら、上述のように、タングステン及びリチウムを含む化合物の場合、リチウムイオン伝導性が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に、係る化合物を配置することで、電解液との界面でのリチウムの伝導パスを形成することができる。従って、リチウムニッケル複合酸化物の表面にタングステン及びリチウムを含む化合物を配置した被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子や、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子含む正極活物質では、反応抵抗を低減して出力特性を向上させることができる。
【0024】
このように正極活物質の反応抵抗を低減することで、電池内での電圧の損失を抑制し、出力電圧を高めることができるため、上述のように出力特性を向上させることができる。また、正極でのリチウムの移動が十分に行われるため、電池容量を向上させることができる。さらに、反応抵抗の低減により、充放電時における正極活物質等への負荷も低減することができ、サイクル特性を向上させることができる。
【0025】
なお、タングステン及びリチウムを含む化合物の具体的な組成は特に限定されるものではなく、タングステン及びリチウムを含むものであればよいが、タングステンおよびリチウムがタングステン酸リチウムの形態となっていることが好ましい。具体的には例えば、Li2WO4、Li4WO5、Li6WO6、Li2W4O13、Li2W2O7、Li6W2O9、Li2W2O7、Li2W5O16、Li9W19O55、Li3W10O30、Li18W5O15、またはこれらのいずれかの化合物の水和物から選択される1種類以上の形態であることが好ましい。
【0026】
タングステン酸リチウムが形成されることで、リチウムイオン伝導性がさらに高まり、反応抵抗の低減効果がより大きなものとなるため好ましい。
【0027】
タングステン及びリチウムを含む化合物は、上述のようにリチウムニッケル複合酸化物の二次粒子や、内部の一次粒子の表面に配置することができるが、完全に被覆されている必要はなく、これらの粒子の表面の少なくとも一部に配置されていれば足りる。
【0028】
上述のように、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子や、内部の一次粒子の表面に、タングステン及びリチウムを含む化合物を配置し、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子とすることで、正極活物質の反応抵抗を抑制し、出力特性を高めることができる。
【0029】
しかし、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物を有する正極活物質とした場合に、該正極活物質を用いた二次電池において、電池特性にばらつきを生じ、さらには電池特性が低くなる場合があった。すなわち、十分な出力特性を得られない場合があった。
【0030】
係る原因について、本発明の発明者らが検討を行ったところ、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子の粒子間において、タングステン含有量がばらついている場合があることを見出した。
【0031】
そこで、本実施形態の正極活物質においては、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合の相対標準偏差は0.4以下であることが好ましい。
【0032】
相対標準偏差は、変動係数ともいわれ、標準偏差を平均値で割った(除した)値となっている。このため、平均値の異なる、すなわちタングステンの添加量が異なる場合でも適用することができる。
【0033】
相対標準偏差を算出する場合にはまず、本実施形態の正極活物質が有する複数個の被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子について、それぞれリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合を測定、算出する。
【0034】
被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合は、例えば以下の式(1)により算出することができる。
【0035】
NW/(NNi+NCo+NM+NW)・・・(1)
上記式(1)内のNWは被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むタングステンの原子数を意味する。また、NNi、NCo、NMは、それぞれ被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むニッケルの原子数、コバルトの原子数、Mの原子数を意味する。なお、Mは既述のようにMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選択される1種類以上の元素である。
【0036】
被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子について、上記式(1)中のタングステン等の原子数を測定する方法は特に限定されないが、例えばEDS(Energy dispersive X-ray spectrometry:エネルギー分散型X線回折)等を用いることができる。また、測定する被覆含有リチウムニッケル複合酸化物の粒子の数も特に限定されないが、例えば5個以上100個以下であることが好ましく、10個以上20個以下であることがより好ましい。
【0037】
そして、得られた測定値から、リチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合の平均値、及び標準偏差を算出し、該平均値、及び標準偏差から相対標準偏差を求めることができる。
【0038】
被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合の相対標準偏差を0.4以下とすることで、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子を含む正極活物質を用いた二次電池の電池特性を安定して高めることができる。これは、該正極活物質に含まれる被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が、略均等にタングステン及びリチウムの化合物を含有している、すなわち被覆されていることを意味しており、正極活物質に含まれる被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子の特性が均一になるためと考えられる。
【0039】
係る相対標準偏差は、0.35以下であることがより好ましい。
【0040】
なお、相対標準偏差は0以上とすることができる。
【0041】
本実施形態の正極活物質が有する被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むタングステンの量は特に限定されるものではない。ただし、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合は、0.01%以上3.0%以下であることが好ましく、0.05%以上2.0%以下であることがより好ましい。特に0.05%以上1.0%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の(百分率での)割合は、以下の式(2)により算出することができる。
【0043】
NW/(NNi+NCo+NM+NW)×100・・・(2)
上記式(2)内のNWは被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するタングステンの原子数を意味する。また、NNi、NCo、NMは、それぞれ被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するニッケルの原子数、コバルトの原子数、Mの原子数を意味する。なお、Mは既述のようにMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選択される1種類以上の元素である。
【0044】
被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合を、0.01%以上とすることで、タングステン及びリチウムを含む化合物により、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子や内部の一次粒子の表面を十分に覆うことができる。このため、出力特性を特に高めることができるため好ましい。
【0045】
また、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合を3.0%以下とすることで、タングステン及びリチウムを含む化合物による、被覆の程度が過度に多くなることを防ぐことができ好ましいからである。
[非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法]
次に、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一構成例について説明する。
【0046】
なお、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法により既述の正極活物質を製造することができる。このため、既に説明した事項は一部省略する。
【0047】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に「正極活物質の製造方法」とも記載する)は、以下の工程を有することができる。
【0048】
リチウムニッケル複合酸化物粒子と、三酸化タングステンと、水とを混合してタングステン混合物を得る混合工程。
タングステン混合物を熱処理する熱処理工程。
なお、上記リチウムニッケル複合酸化物粒子は、一般式:LizNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.20、-0.2≦α≦0.2、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選択される1種類以上の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、及び一次粒子が凝集した二次粒子を有することができる。
【0049】
また、三酸化タングステンは、XRDパターンにおいて、WO2.90の(200)面のピーク強度IWO2.90と、WO3.00の(200)面のピーク強度IWO3.00との比である、IWO2.90/IWO3.00が0.15以下であることが好ましい。
【0050】
各工程について、以下に説明する。
[混合工程]
混合工程では、リチウムニッケル複合酸化物粒子と、三酸化タングステンと、水とを混合して、水分を含んだリチウムニッケル複合酸化物粒子と三酸化タングステンとのタングステン混合物を得ることができる。
【0051】
係るタングステン混合物を後述する熱処理工程で熱処理することで、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子や、内部の一次粒子の表面に存在する余剰リチウム等のリチウム化合物と、三酸化タングステンとを反応させることができる。このため、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子、及び内部の一次粒子の表面に、タングステン及びリチウムを含む化合物を配置することができる。
【0052】
ここで、タングステン混合物における水分率、すなわち含有水分量は3.5質量%以上7.5質量%以下であることが好ましい。水分率を上記範囲に調整することにより、熱処理工程においても十分な量の水分を含有させて一次粒子表面にタングステン及びリチウムを含む化合物を十分に分散させるとともに、リチウムニッケル複合酸化物粒子からのリチウムの過剰な溶出を抑制することができる。これはタングステン混合物における水分率を3.5質量%以上とすることで、熱処理工程においてタングステン及びリチウムを含む化合物を、リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子等の表面により均一に分散させることができるからである。また、タングステン混合物における水分率を7.5質量%以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物からリチウムが過剰に溶出することを抑制でき、好ましいからである。
【0053】
そして、本発明の発明者らの検討によれば、混合工程に供する三酸化タングステンが、XRDパターンにおいて、WO2.90の(200)面のピーク強度IWO2.90と、WO3.00の(200)面のピーク強度IWO3.00との比である、IWO2.90/IWO3.00が0.15以下であることが好ましい。
【0054】
従来あまり検討されていなかったが、高純度の三酸化タングステンとして販売されている場合であっても、一部酸素が欠損しているWO2.90が含まれている場合がある。そして、本発明の発明者らの検討によると、WO2.90はリチウム化合物との反応性が低く、未反応物として残留し易い。
【0055】
一方、上述のようにIWO2.90/IWO3.00が0.15以下の三酸化タングステンの場合、三酸化タングステン中のWO2.90の割合が抑制されているため、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子、及び内部の一次粒子の表面に、タングステン及びリチウムを含む化合物を均一に配置できる。このため、焼成後に得られる被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合の相対標準偏差を特に低くすることができるため好ましい。
【0056】
三酸化タングステン中のWO2.90の含有量は、上述のように粉末X線回折測定により得られるXRDパターンにおいて、WO2.90の(200)面のピーク強度IWO2.90と、WO3.00の(200)面のピーク強度IWO3.00との比である、IWO2.90/IWO3.00により評価できる。そして、本発明の発明者らの検討によれば、IWO2.90/IWO3.00を0.15以下とすることで、WO2.90を十分に抑制した三酸化タングステンとなる。
【0057】
なお、IWO2.90/IWO3.00が0.15を超える場合には、該三酸化タングステンを、酸素気流下、撹拌等を行いながら熱処理を行うこと等で酸化処理を行い、WO2.90の含有割合が抑制された三酸化タングステンとしてから混合工程に供することが好ましい。
【0058】
三酸化タングステンのIWO2.90/IWO3.00は、0.14以下であることがより好ましく、0.12以下であることがさらに好ましく、0.10以下であることが特に好ましい。
【0059】
IWO2.90/IWO3.00の下限値は特に限定されないが、例えば0以上とすることができる。
【0060】
また、混合工程に供する三酸化タングステンは、累積10%粒子径が10μm以上、累積50%粒子径が30μm以上55μm以下、累積90%粒子径が100μm以下であることが好ましい。
【0061】
三酸化タングステンの微細な粒子の含有割合が過度に高い場合、粒子が凝集し、分散することが難しくなる。また、三酸化タングステンの粗大な粒子の含有割合が過度に高い場合、熱処理工程においてリチウム化合物との反応が進行しにくくなり、三酸化タングステンの一部が未反応物として残留する恐れがある。
【0062】
一方、三酸化タングステンの累積10%粒子径、累積50%粒子径、及び累積90%粒子径が上記範囲の場合、分散し易く、熱処理工程におけるリチウム化合物との反応性を十分に高くすることができる。このため、熱処理工程後、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子、及び内部の一次粒子の表面に、タングステン及びリチウムを含む化合物を特に均一に配置できる。その結果、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合の相対標準偏差を特に低くすることができるため好ましい。
【0063】
累積10%粒子径の上限は特に限定されないが、例えば25μm以下とすることができる。また、累積90%粒子径の下限についても特に限定されないが、60μm以上とすることができる。
【0064】
累積10%粒子径(D10)は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値10%での粒径を意味する。
【0065】
累積50%粒子径(D50)は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値50%での粒径を意味する。
【0066】
また、累積90%粒子径(D90)は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布おける体積積算値90%での粒径を意味する。
【0067】
また、混合工程に供する三酸化タングステンは、比表面積が0.5m2/g以上7.0m2/g以下であることが好ましく、4.0m2/g以上6.5m2/g以下であることがより好ましい。
【0068】
これは三酸化タングステンの比表面積が0.5m2/g以上の場合、熱処理工程において、リチウム化合物との反応性を十分に高くすることができる。このため、熱処理工程の後、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子、及び内部の一次粒子の表面に、タングステン及びリチウムを含む化合物を特に均一に配置できる。その結果、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合の相対標準偏差を特に低くすることができるため好ましい。
【0069】
また、三酸化タングステンの比表面積を7.0m2/g以下とすることで、三酸化タングステンの一部がWO2.90に変化することを抑制できると考えられ、好ましいからである。
【0070】
三酸化タングステンの粒度分布や、比表面積の調整方法は特に限定されないが、例えば粉砕処理や、篩分けを行うことで調整、制御することができる。
【0071】
なお、混合工程に供するリチウムニッケル複合酸化物粒子の製造方法は特に限定されるものではない。
【0072】
例えば水酸化リチウムや、炭酸リチウム等のリチウム化合物と、ニッケル複合酸化物との原料混合物を、焼成することで製造することができる。
【0073】
ニッケル複合酸化物については特に限定されるものではないが、原料混合物から製造するリチウムニッケル複合酸化物に対応した組成を有していることが好ましい。
【0074】
ニッケル複合酸化物としては、具体的には例えば、一般式:Ni1-x-yCoxMyO1+β(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、-0.2≦β≦0.2、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選択される1種類以上の元素)で表されるニッケルコバルト複合酸化物等が挙げられる。
【0075】
また、原料混合物を焼成する温度は特に限定されないが、例えば600℃以上950℃以下であることが好ましく、700℃以上900℃以下であることがより好ましい。また、焼成雰囲気についても特に限定されないが、酸化性気体の雰囲気であることが好ましく、酸化性気体の気流下であることがより好ましい。酸化性気体としては、酸素を18vol%以上100vol%以下含む気体であることが好ましい。例えば空気(大気)や、酸素と不活性ガスとの混合気体、酸素等を用いることができる。
【0076】
なお、原料混合物を焼成した直後は、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に反応していない余剰のリチウム等が付着している場合があるため、水洗処理を行ってから、本混合工程に供することが好ましい。水洗工程では、純水に、得られたリチウムニッケル複合酸化物粒子を添加し、スラリー化にした後、ろ過等行い、液体を分離することで実施できる。
【0077】
スラリー化する際、スラリーに含まれる水に対するリチウムニッケル複合酸化物粒子の濃度(量)は特に限定されないが、例えば750g/L以上2000g/L以下となるように混合することが好ましく、1000g/L以上1500g/L以下となるように混合することがより好ましい。
【0078】
これは、スラリーに含まれる水に対するリチウムニッケル複合酸化物粒子の濃度を750g/L以上とすることで、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に付着した余剰成分、例えば余剰リチウム等を適度に残留させることができ、水洗後にリチウムニッケル複合酸化物の二次粒子や、内部の一次粒子の表面に残留する余剰リチウム等のリチウム化合物と、三酸化タングステンとを反応させることができるからである。また、スラリーに含まれる水に対するリチウムニッケル複合酸化物粒子の濃度を2000g/L以下とすることで、スラリーの粘度が高くなることを抑制し、撹拌を容易に行えるからである。
【0079】
なお、水洗工程で用いる水は特に限定されないが、電気伝導度が10μS/cm未満の水であることが好ましく、1μS/cm以下の水であることがより好ましい。また、スラリーの温度が10℃以上40℃以下となるように水の温度を選択することが好ましい。
【0080】
水洗時間については特に限定されないが、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に付着した余剰成分を適度に残しつつ、生産性も高める観点から、例えば5分間以上1時間以下であることが好ましい。なお、水洗の間、作製したスラリーを撹拌しておくことが好ましい。
【0081】
ろ過をおこなう場合、フィルタープレス等を用いることができる。ろ過を行う際、例えばろ過物に含まれる水分量を調整することで、ろ過物に含まれる水を混合工程における原料の水として用いることもできる。
【0082】
混合工程において、リチウムニッケル複合酸化物粒子と、三酸化タングステンとを混合する割合は特に限定されるものではない。ただし、熱処理工程後に得られる正極活物質において、被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合が所望の範囲となるように混合することが好ましい。
【0083】
このため、例えばタングステン混合物に含まれるタングステンの原子数を、タングステン混合物に含まれるリチウム以外の金属成分の原子数の合計に対して、0.01%以上3.0%以下となるように混合することが好ましい。特に、上記割合が0.05%以上2.0%以下となるように混合することがより好ましく、0.05%以上1.0%以下となるように混合することがさらに好ましい。
【0084】
また、混合工程において、リチウムニッケル複合酸化物粒子と、三酸化タングステンと、水とを混合、混練する際の温度等は特に限定されない。具体的には例えば10℃以上50℃以下とすることが好ましく、20℃以上50℃以下とすることがより好ましい。
【0085】
これは、混合する際の温度を50℃以下とすることにより、タングステン混合物中の水分量の減少を抑制しながら、三酸化タングステン、および水をリチウムニッケル複合酸化物粒子中に均一に分散することができるからである。
【0086】
一方、10℃以上の温度で混合することにより、混合時に余剰のリチウム化合物を溶出させることを可能にするとともに、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面にタングステンをより均一に分散させることができ、好ましいからである。
【0087】
混合工程において、リチウムニッケル複合酸化物粒子と、三酸化タングステンと、水とを混合する手段は特に限定されず、例えば、一般的な混合機を用いることができる。
【0088】
混合機としては例えば、シェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダー等から選択された1種類以上を用いることができ、リチウムニッケル複合酸化物粒子の形骸が破壊されない程度に十分に混合することが好ましい。
[熱処理工程]
熱処理工程では、タングステン混合物を熱処理することができる。
【0089】
熱処理工程での熱処理条件は特に限定されず、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に、タングステン及びリチウムを含む化合物を形成、配置できるようにその条件を選択することが好ましい。
【0090】
熱処理工程は、例えば二段階の熱処理工程を含むことができる。
【0091】
リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面に存在するリチウム化合物と三酸化タングステンとを反応させて、タングステン及びリチウムを含む化合物を生成し、該タングステン及びリチウムを含む化合物を水に溶解、分散させる第1熱処理工程を有することができる。
また、第1熱処理工程の熱処理温度より高い温度で熱処理することにより、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子、及び内部の一次粒子の表面にタングステン及びリチウムを含む化合物を形成させる第2熱処理工程を有することができる。
【0092】
第1熱処理工程において、タングステン混合物を加熱することで、混合物中に溶出しているリチウムのみならず、リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面に残存しているリチウム化合物を三酸化タングステンと反応させることができる。そして、タングステン及びリチウムを含む化合物を生成することができる。
【0093】
上記タングステン及びリチウムを含む化合物の生成により、得られる正極活物質における余剰リチウムを大幅に低減することができ、電池特性を向上させることができる。
【0094】
第1熱処理工程によって形成されたタングステン及びリチウムを含む化合物は、タングステン混合物中の水分で溶解し、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子や、内部の一次粒子表面に分散させることができる。
【0095】
上述のように、第1熱処理工程では、リチウム化合物と三酸化タングステンとを反応させ、タングステン及びリチウムを含む化合物を分散させるため、反応が十分に進行し、かつタングステン及びリチウムを含む化合物が分散するまで水分が残存することが好ましい。
【0096】
このため、第1熱処理工程における熱処理温度は、60℃以上80℃以下であることが好ましい。
【0097】
これは、第1熱処理工程の熱処理温度を60℃以上とすることで、リチウム化合物と三酸化タングステンとの反応を十分に進行させ、タングステン及びリチウムを含む化合物を十分に生成できるためである。
【0098】
また、第1熱処理工程の熱処理温度を80℃以下とすることで、水分の蒸発を抑制し、タングステン及びリチウムを含む化合物の分散を促進できるからである。
【0099】
第1熱処理工程の熱処理時間は、特に限定されないが、例えば、0.5時間以上2時間以下とすることが好ましい。
【0100】
第2熱処理工程は、第1熱処理工程の熱処理温度より高い温度で熱処理することにより、タングステン混合物中の水分を十分に蒸発させ、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子、及び内部の一次粒子表面にタングステン及びリチウムを含む化合物を形成できる。
【0101】
第2熱処理工程の熱処理温度も特に限定されないが、例えば100℃以上200℃以下とすることが好ましい。
【0102】
100℃以上とすることで、タングステン混合物中の水分を十分に蒸発させることができ、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子、及び内部の一次粒子の表面にタングステン及びリチウムを含む化合物を十分に形成することができ、好ましいからである。
【0103】
また、200℃以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物粒子同士がネッキングを形成したりすることをより確実に防げるため、好ましいからである。
【0104】
第2熱処理工程の熱処理時間は、特に限定されないが、水分を十分に蒸発させてタングステン及びリチウムを含む化合物を形成させるために5時間以上15時間以下とすることが好ましい。
【0105】
熱処理工程における雰囲気は、雰囲気中の水分や炭酸と、リチウムニッケル複合酸化物粒子表面のリチウムとの反応を避けるため、脱炭酸空気、不活性ガス、または真空雰囲気とすることが好ましい。
[非水系電解質二次電池]
次に、本実施形態の非水系電解質二次電池の一構成例について説明する。
【0106】
本実施形態の非水系電解質二次電池は、既述の正極活物質を正極材料として用いた正極を有することができる。
【0107】
まず、本実施形態の非水系電解質二次電池の構造の構成例を説明する。
【0108】
本実施形態の非水系電解質二次電池は、正極材料に既述の正極活物質を用いたこと以外は、一般的な非水系電解質二次電池と実質的に同様の構造を備えることができる。
【0109】
具体的には、本実施形態の非水系電解質二次電池は、例えばケースと、このケース内に収容された正極、負極、電解液およびセパレータを備えた構造を有することができる。
【0110】
より具体的にいえば、セパレータを介して正極と負極とを積層させて電極体とし、得られた電極体に電解液を含浸させることができる。そして、正極の正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および負極の負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、それぞれ集電用リードなどを用いて接続し、ケースに密閉した構造を有することができる。
【0111】
なお、本実施形態の非水系電解質二次電池の構造は、上記例に限定されないのはいうまでもなく、またその外形も筒形や積層形など、種々の形状を採用することができる。
【0112】
各部材の構成例について以下に説明する。
(正極)
まず正極について説明する。
【0113】
正極は、シート状の部材であり、例えば、既述の正極活物質を含有する正極合材ペーストを、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布乾燥して形成できる。なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。たとえば、目的とする電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等を行うこともできる。
【0114】
上述の正極合材ペーストは、正極合材に、溶剤を添加、混練して形成することができる。そして、正極合材は、粉末状になっている既述の正極活物質と、導電材と、結着剤とを混合して形成できる。
【0115】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材の材料は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛などの黒鉛や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)等のカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0116】
結着剤は、正極活物質をつなぎ止める役割を果たすものである。係る正極合材に使用される結着剤は特に限定されないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0117】
なお、正極合材には活性炭などを添加することもできる。正極合材に活性炭などを添加することによって、正極の電気二重層容量を増加させることができる。
【0118】
溶剤は、結着剤を溶解して正極活物質、導電材、および活性炭等を結着剤中に分散させる働きを有する。溶剤は特に限定されないが、例えばN-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0119】
また、正極合材ペースト中における各物質の混合比は特に限定されるものではなく、例えば一般の非水系電解質二次電池の正極の場合と同様にすることができる。例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、正極活物質の含有量を60質量部以上95質量部以下、導電材の含有量を1質量部以上20質量部以下、結着剤の含有量を1質量部以上20質量部以下とすることができる。
【0120】
なお、正極の製造方法は上記方法に限定されるものではなく、例えば正極合材や正極ペーストをプレス成型した後、真空雰囲気下で乾燥すること等で製造することもできる。
(負極)
負極はシート状の部材であり、例えば負極には、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、銅などの金属箔集電体の表面に、負極合材ペーストを塗布、乾燥して負極を形成することもできる。
【0121】
負極は、負極合材ペーストを構成する成分やその配合、集電体の素材等は異なるものの、実質的に上述の正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に必要に応じて各種処理が行われる。
【0122】
負極合材ペーストは、負極活物質と結着剤とを混合した負極合材に、適当な溶剤を加えてペースト状にすることができる。
【0123】
負極活物質としては例えば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
【0124】
吸蔵物質は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0125】
係る吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に、結着剤として、PVDF等の含フッ素樹脂を用いることができ、負極活物質を結着剤中に分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解液を保持する機能を有している。
【0126】
セパレータの材料としては、例えばポリエチレンや、ポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されない。
(電解液)
電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0127】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種類以上を混合して用いることができる。
【0128】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0129】
なお、電解液は、電池特性改善のため、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、難燃剤などを含んでいてもよい。
【0130】
ここまで、本実施形態の非水系電解質二次電池について、電解質として電解液(非水系電解液)を用いる形態を例に説明したが、本実施形態の非水系電解質二次電池は、係る形態に限定されるものではない。例えば電解質(非水系電解質)として、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0131】
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が挙げられる。
【0132】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば酸素(O)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、Li3PO4NX、LiBO2NX、LiNbO3、LiTaO3、Li2SiO3、Li4SiO4-Li3PO4、Li4SiO4-Li3VO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li2O-B2O3-ZnO、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3(0≦X≦1)、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3(0≦X≦1)、LiTi2(PO4)3、Li3XLa2/3-XTiO3(0≦X≦2/3)、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3.6Si0.6P0.4O4等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0133】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば硫黄(S)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-B2S3、Li3PO4-Li2S-Si2S、Li3PO4-Li2S-SiS2、LiPO4-Li2S-SiS、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0134】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、Li3N、LiI、Li3N-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0135】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
【0136】
上述のように電解質として固体電解質を用いた非水系電解質二次電池、すなわち全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は既述の構成から必要に応じて変更することができる。
【0137】
本実施形態の非水系電解質二次電池は、既述の正極活物質を用いた正極を備えている。このため、電池特性が優れた、具体的には例えば正極における反応抵抗が低く、高い電池容量を有する非水系電解質二次電池とすることができる。
【実施例】
【0138】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
原料である三酸化タングステンの評価を行った。また、以下に示す手順により該三酸化タングステンを用いて正極活物質を製造し、評価を行った。
【0139】
ここではまず、評価方法について説明する。
(XRDピーク強度比)
原料に用いた三酸化タングステンについて、粉末X線回折装置(株式会社リガク製 型式:Ultima IV)によりXRDパターンの測定を行った。測定条件は、線源:CuKα線、管電圧:40kV、管電流:40mA、サンプリング幅:0.02度、スキャンスピード:2.0度/min、発散スリット:1度、散乱スリット:1度、受光スリット:0.3mmとした。
【0140】
得られたXRDパターンから、WO2.90の(200)面のピーク強度と、WO3.00の(200)面のピーク強度とを算出し、XRDピーク強度比としてIWO2.90/IWO3.00を算出した。
(累積10%粒子径、累積50%粒子径、累積90%粒子径)
原料に用いた三酸化タングステンについて、レーザー回折・散乱法粒度分布測定機(日機装株式会社製 型式:HRA9320 X-100)を用いて粒度分布を測定した。そして、得られた粒度分布から、累積10%粒子径、累積50%粒子径、累積90%粒子径をそれぞれ求めた。
(比表面積)
原料に用いた三酸化タングステンについて、比表面積を全自動比表面積測定装置(マウンテック社製 型式:Macsorb HM model-1220により評価した。
(被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合の相対標準偏差)
得られた正極活物質について、カーボンテープ上に固定し、表面の導電性処理を行わずに、電界放出型走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製 型式: JSM―7001F)により観察を行った。なお、観察条件は、加速電圧5kV、WD=10mm、検出器=反射電子で行った。
【0141】
そして、粒径が10μm以上の任意に選択した10個のリチウムニッケル複合酸化物粒子について、EDSによる元素分析を行い、Ni、Co、Al、Wの原子濃度を測定した。
【0142】
次いで、得られた原子濃度を用い、以下の式(1)により被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合を算出した。
【0143】
NW/(NNi+NCo+NAl+NW)・・・(1)
上記式(1)内のNWは被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するタングステンの原子数を意味する。また、NNi、NCo、NAlは、それぞれ被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するニッケルの原子数、コバルトの原子数、原子Mであるアルミニウムの原子数を意味する。
【0144】
そして、算出した値から平均値と、標準偏差を求めた後、標準偏差を平均値で割ることで相対標準偏差を算出した。
(被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含む、リチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合)
得られた正極活物質について、カーボンテープ上に固定し、表面の導電性処理を行わずに、電界放出型走査電子顕微鏡により観察を行った。なお、観察条件は、加速電圧5kV、WD=10mm、検出器=反射電子で行った。
【0145】
そして、粒径が10μm以上の任意に選択した1個のリチウムニッケル複合酸化物粒子について、EDSによる元素分析を行い、Ni、Co、Al、Wの原子濃度を測定した。
【0146】
次いで、得られた原子濃度を用い、以下の式(2)により被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合を算出した。
【0147】
N
W/(N
Ni+N
Co+N
M+N
W)×100・・・(2)
上記式(2)内のN
Wは被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するタングステンの原子数を意味する。また、N
Ni、N
Co、N
Alは、それぞれ被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するニッケルの原子数、コバルトの原子数、原子MであるAlの原子数を意味する。
(初期放電容量、反応抵抗比)
得られた正極活物質として用いた正極を有する二次電池について、その性能(初期放電容量、反応抵抗)を評価した。まず、以下に記す方法で
図1に示す2032型コイン電池10を作成し、初期放電容量、及び反応抵抗比の評価を実施した。
【0148】
2032型コイン電池10は、ケース11と、このケース11内に収容された電極12とから構成されている。
【0149】
ケース11は、中空かつ一端が開口された正極缶111と、この正極缶111の開口部に配置される負極缶112とを有しており、負極缶112を正極缶111の開口部に配置すると、負極缶112と正極缶111との間に電極12を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0150】
電極12は、正極121、セパレータ122および負極123からなり、この順で並ぶように積層されており、正極121が正極缶111の内面に接触し、負極123が負極缶112の内面に接触するようにケース11に収容されている。
【0151】
なお、ケース11は、ガスケット113を備えており、このガスケット113によって、正極缶111と負極缶112との間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット113は、正極缶111と負極缶112との隙間を密封して、ケース11内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0152】
2032型コイン電池の作成は以下の手順で行った。上記正極活物質52.5mgと、アセチレンブラック15mgと、PTFE7.5mgを混合し、100MPaの圧力で、直径11mm、厚さ100μmにプレス成型した後、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥することにより、正極121を作製した。
【0153】
2032型コイン電池10の負極123には、直径13mm、厚さ1mmのリチウム金属を用い、非水系電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等質量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。また、セパレータ122には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。
【0154】
上述の正極121、セパレータ122、負極123を用いて、
図1に示す構造の2032型コイン電池10を、露点が-80℃に管理されたアルゴン(Ar)雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0155】
上記2032型コイン電池を作製してから室温に12時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.4mA/cm2として、カットオフ電圧が4.3Vで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vで放電させた時の放電容量を測定する充放電試験を行ない、初期放電容量を求めた。なお、初期放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0156】
また、充電電位4.0Vで充電した2032型コイン電池を用いて、交流インピーダンス法により抵抗値を測定した。測定には、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製)を使用し、
図2Aに示すようなナイキストプロットを得た。プロットは、溶液抵抗、負極抵抗と容量、および、正極抵抗と容量を示す特性曲線の和として表れているため、
図2Bに示した等価回路を用いてフィッティング計算し、正極抵抗の値を算出した。正極抵抗は電池の構成、部材により大きく変化するため、実施例および比較例の反応抵抗比の評価においては、実施例1の反応抵抗(正極抵抗)(Ω)を100とし、他の実施例、比較例の反応抵抗(正極抵抗)を相対値として評価した。
[実施例1]
無水水酸化リチウムと、Ni
0.91Co
0.045Al
0.045Oで表されるニッケル複合酸化物とを、リチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との原子数比であるLi/Meが1.02となるように秤量、混合した。
【0157】
なお、リチウム以外の金属とは、ニッケル複合酸化物に含まれる金属成分、すなわち、Ni、Co、Alを意味する。また、ニッケル複合酸化物としては、晶析法により製造したニッケル複合水酸化物を大気雰囲気下(酸素:21vol%)、500℃で焙焼することで調製したものを用いた。
【0158】
次いで、該混合物を匣鉢に入れ、ローラーハースキルンを用いて、酸素濃度80vol%以上の雰囲気中、765℃で220分保持することで焼成を行い、リチウムニッケル複合酸化物を生成した。
【0159】
得られたLi1.02Ni0.91Co0.045Al0.045O2で表されるリチウム金属複合酸化物の粒子(粉末)に、リチウム金属複合酸化物7.5kgに対して6.0Lのイオン交換水を添加し、スラリー化した。
【0160】
なお、用いたイオン交換水の電気伝導度は5μS/cmであった。
【0161】
そして、係るスラリーを10分間撹拌した後、フィルタープレスによりろ過した(水洗工程)。
【0162】
得られたろ過物に、リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合が0.15%となるように26.8gの三酸化タングステンを添加し、室温(25℃)で5分間混合することでタングステン混合物を調製した。なお、混合にはシェーカーミキサーを用いた。
【0163】
また、本実施例では、三酸化タングステンとして、表1に示した特性の三酸化タングステンを用いた。三酸化タングステンは、市販の三酸化タングステンを予め酸素気流下で撹拌を行いながら熱処理を行った後、ハンマーミルにより粉砕処理を行い、表1に示す特性となるように調整したものを用いた。
【0164】
得られた、タングステン混合物の含水率は4.5質量%であった。
【0165】
次いで、タングステン混合物を、脱炭酸エアー雰囲気下、70℃で1.0時間熱処理し(第1熱処理工程)、続けて170℃まで昇温し、6時間保持することで熱処理を行い(第2熱処理工程)、正極活物質を得た。
【0166】
得られた正極活物質についての評価結果を表1に示す。
[実施例2~5]
用いた三酸化タングステンを、表1に示した特性の三酸化タングステンとした点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を生成し、評価を行った。なお、三酸化タングステンは、市販の三酸化タングステンを予め酸素気流下で撹拌を行いながら熱処理を行った後、ハンマーミルにより粉砕処理を行い、表1に示す特性となるように調整したものを用いた。
[実施例6]
無水水酸化リチウムと、Ni0.88Co0.09Al0.03Oで表されるニッケル複合酸化物とを、リチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との原子数比であるLi/Meが1.02となるように秤量、混合した。
【0167】
なお、リチウム以外の金属とは、ニッケル複合酸化物に含まれる金属成分、すなわち、Ni、Co、Alを意味する。また、ニッケル複合酸化物としては、晶析法により製造したニッケル複合水酸化物を大気雰囲気下(酸素:21vol%)、500℃で焙焼することで調製したものを用いた。
【0168】
次いで、該混合物を匣鉢に入れ、ローラーハースキルンを用いて、酸素濃度80vol%以上の雰囲気中、765℃で220分保持することで焼成を行い、リチウムニッケル複合酸化物を生成した。
【0169】
得られたLi1.02Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウム金属複合酸化物の粒子(粉末)に、リチウム金属複合酸化物7.5kgに対して6.0Lのイオン交換水を添加し、スラリー化した。
【0170】
なお、用いたイオン交換水の電気伝導度は5μS/cmであった。
【0171】
そして、係るスラリーを10分間撹拌した後、フィルタープレスによりろ過した(水洗工程)。
【0172】
得られたろ過物に、リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するリチウム以外の金属成分の原子数に対する、タングステンの原子数の割合が0.15%となるように26.8gの三酸化タングステンを添加し、室温(25℃)で5分間混合することでタングステン混合物を調製した。なお、混合にはシェーカーミキサーを用いた。
【0173】
また、本実施例では、三酸化タングステンとして、表1に示した特性の三酸化タングステンを用いた。三酸化タングステンは、市販の三酸化タングステンを予め酸素気流下で撹拌を行いながら熱処理を行った後、ハンマーミルにより粉砕処理を行い、表1に示す特性となるように調整したものを用いた。
【0174】
得られた、タングステン混合物の含水率は4.5質量%であった。
【0175】
次いで、タングステン混合物を、脱炭酸エアー雰囲気下、70℃で1.0時間熱処理し(第1熱処理工程)、続けて170℃まで昇温し、6時間保持することで熱処理を行い(第2熱処理工程)、正極活物質を得た。
【0176】
得られた正極活物質についての評価結果を表1に示す。
[実施例7~実施例10]
用いた三酸化タングステンを、表1に示した特性の三酸化タングステンとした点以外は、実施例6と同様にして正極活物質を生成し、評価を行った。なお、三酸化タングステンは、市販の三酸化タングステンを予め酸素気流下で撹拌を行いながら熱処理を行った後、ハンマーミルにより粉砕処理を行い、表1に示す特性となるように調整したものを用いた。
[比較例1~4]
用いた三酸化タングステンを、表1に示した特性の三酸化タングステンとした点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を生成し、評価を行った。
【0177】
なお、比較例2では、市販の三酸化タングステンをそのまま用いた。また、比較例1、3、4では、三酸化タングステンは、市販の三酸化タングステンを予め酸素気流下で撹拌を行いながら熱処理を行った後、ハンマーミルにより粉砕処理を行い、表1に示す特性となるように調整したものを用いた。
[比較例5~8]
用いた三酸化タングステンを、表1に示した特性の三酸化タングステンとした点以外は、実施例6と同様にして正極活物質を生成し、評価を行った。
【0178】
なお、比較例6では、市販の三酸化タングステンをそのまま用いた。また、比較例5、7、8では、三酸化タングステンは、市販の三酸化タングステンを予め酸素気流下で撹拌を行いながら熱処理を行った後、ハンマーミルにより粉砕処理を行い、表1に示す特性となるように調整したものを用いた。
【0179】
【表1】
表1に示した結果によると、実施例1~実施例10で得られた正極活物質については、正極活物質の被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が含むリチウム以外の金属成分の原子数に対するタングステンの原子数の割合の相対標準偏差が小さくなっていることが確認できた。
【0180】
つまり、正極活物質に含まれる被覆含有リチウムニッケル複合酸化物粒子が、略均等にタングステン及びリチウムの化合物を含有している、すなわち被覆されていることを確認できた。
【0181】
そして、実施例1~実施例10で得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)では、比較例1~比較例8の場合と比較して、初期放電容量が高く、反応抵抗が抑制できていることを確認できた。これらの結果から、実施例1~実施例10の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池において、電池特性を安定して高めることができることを確認できた。
【0182】
以上に非水系電解質二次電池用正極活物質、及び非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法を、実施形態および実施例等で説明したが、本発明は上記実施形態および実施例等に限定されない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0183】
本出願は、2017年11月21日に日本国特許庁に出願された特願2017-224023号に基づく優先権を主張するものであり、特願2017-224023号の全内容を本国際出願に援用する。