(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】搬送機構の安全システム
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20220705BHJP
【FI】
B66B5/00 G
(21)【出願番号】P 2020199462
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 壮
【審査官】三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-216425(JP,A)
【文献】特開2009-029530(JP,A)
【文献】特開2014-198609(JP,A)
【文献】特開2019-011144(JP,A)
【文献】特開2002-284459(JP,A)
【文献】特開2013-216426(JP,A)
【文献】特開2020-023388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人を乗せられる又は物を載せられる
かごを
昇降路に沿って走行させる搬送機構の保守作業を行なう複数の作業員の各々に一対一に装着され、各々固有の識別子を送信する複数の第1通信装置と、
前記
かごの天面と、前記
昇降路の
下端に一対一に配置され、前記複数の第1通信装置の各々から送信される識別子を各々受信する複数の第2通信装置と、
前記複数の第1通信装置の各々の識別子の登録を受け付け、前記複数の第1通信装置の何れかから送信される識別子が前
記第2通信装置
の何れかにより受信されている間、警告の出力又は前記
かごの移動を制限する制御を行なう制御装置と、
を含
み、
前記制御装置は、
前記かごの天面に配置された第2通信装置が、前記第1通信装置の前記識別子を受信している間、最上階の前記かごの呼び登録及び前記かご内の最上階への行先登録は許容しないが、最下階の前記かごの呼び登録及び前記かご内の最下階への行先登録は許容し、
前記ピットに配置された第2通信装置が、前記第1通信装置の前記識別子を受信している間、最下階の前記かごの呼び登録及び前記かご内の最下階への行先登録は許容しないが、最上階の前記かごの呼び登録及び前記かご内の最上階への行先登録は許容する、
搬送機構の安全システム。
【請求項2】
前記昇降路の下端
はピットである、
請求項1に記載の搬送機構の安全システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記昇降路の下端に設置された第2通信装置により、登録済の識別子の何れが受信されている状況では、前記かごの下方への走行を制限する、
請求項2に記載の搬送機構の安全システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記
ピットに設置された第2通信装置により、登録済の識別子の何れが受信されている状況では
、カウンタウェイトと前記
ピットとの間の距離、又は前記かごの底面と前記
ピットの上端との間の距離が閾値以下となった場合に警告を出力する、
請求項2又は請求項3に記載の搬送機構の安全システム。
【請求項5】
前記複数の箇所には、前記かごの天面が含まれ、
前記制御装置は、前記かごの天面に設置された第2通信装置により、登録済の識別子の何れが受信されている状況では、前記かごの上方への走行を制限する、
請求項2乃至請求項4の何れかに記載の搬送機構の安全システム。
【請求項6】
前記かご内には、前記かごの走行指示を入力するための操作盤が設けられ、
前記かごの天面には、前記操作盤に対する遠隔操作を行なうための第1入力装置が設けられ、
前記制御装置は、前記かごの天面に設置された第2通信装置により、登録済の識別子の何れもが受信されていない状況で前記第1入力装置からの入力がなされた場合には、前記第1入力装置からの入力を無効にする、
請求項5に記載の搬送機構の安全システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記かごの天面に設置された第2通信装置により、登録済の識別子の何れが受信されている状況では、前
記カウンタウェイトと前記かごの天面との間の距離、又は前
記昇降路の
天井と前記かごの天面との間の距離が閾値以下となった場合に警告を出力する、
請求項4乃至請求項6の何れかに記載の搬送機構の安全システム。
【請求項8】
前記昇降路には、前記かごの走行指示を入力するための操作盤に対する遠隔操作を行なうための第2入力装置が設けられ、
前記制御装置は、前記昇降路に設置された第2通信装置により、登録済の識別子の何れもが受信されていない状況で前記第2入力装置からの入力がなされた場合には、前記第2入力装置からの入力を無効にする、
請求項2乃至請求項7の何れかに記載の搬送機構の安全システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人又は物を搬送する搬送機構の保守作業を行なう作業員の安全を確保する安全システム、に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターやエスカレーター等の搬送機構の保守作業に従事する作業員の安全を確保するための技術が種々提案されている。たとえば、特許文献1では、作業員が本来身体に装着するべき安全保護具の装着忘れを防止できる安全保護具検知システムが開示されている。また、特許文献2では、エレベーターのかごで複数の作業員が点検操作を行なう際に、全ての作業員が安全帯を適切に取り付けたか否かを、簡易且つ精度よく確認することを可能にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-76882号公報
【文献】特開2019-1605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
搬送機構の保守作業に複数の作業員が従事する場合、一の作業員から他の作業員の所在を目視確認できない状況で作業が行なわれることがある。例えば、エレベーターの保守作業であれば、他の作業員がエレベーターのかごの上(天面)に乗っている状況やピットに降りている状況で、一の作業員がかご内の操作盤を操作してかごを上下に走行させる場合である。このように、一の作業員から他の作業員の所在を目視確認できない状況では、作業員どうしの声掛け等により互いの所在を確認して事故の発生を防いでいるが、声掛けを忘れる或は周囲の音の影響により声が聴こえ難い場合があり、事故の発生を防ぎ切れない虞がある。
【0005】
本発明の目的は、搬送機構の保守作業に複数の作業員が従事する場合において、一の作業員から他の作業員の所在を目視確認できない場合であっても、保守作業を安全に行なえるようにする搬送機構の安全システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の搬送機構の安全システムは、
人を乗せられる又は物を載せられる搬送体を搬送路に沿って走行させる搬送機構の保守作業を行なう複数の作業員の各々に一対一に装着され、各々固有の識別子を送信する複数の第1通信装置と、
前記搬送体と、前記搬送路の少なくとも一方の端を含む複数の箇所に一対一に配置され、前記複数の第1通信装置の各々から送信される識別子を各々受信する複数の第2通信装置と、
前記複数の第1通信装置の各々の識別子の登録を受け付け、前記複数の第1通信装置の何れかから送信される識別子が前記搬送路の一端に配置される第2通信装置により受信されている間、警告の出力又は前記搬送体の移動を制限する制御を行なう制御装置と、
を含む。
【0007】
前記搬送体はエレベーターのかご、前記搬送路は前記かごの昇降路であり、
前記複数の箇所には、前記かご内、及び、前記昇降路の下端を含むことができる。
【0008】
前記制御装置は、前記昇降路の下端に設置された第2通信装置により、登録済の識別子の何れが受信されている状況では、前記かごの下方への走行を制限することができる。
【0009】
前記制御装置は、前記ピットに設置された第2通信装置により、登録済の識別子の何れが受信されている状況では、カウンタウェイトと前記ピットとの間の距離、又は前記かごの底面と前記ピットの上端との間の距離が閾値以下となった場合に警告を出力することができる。
【0010】
前記複数の箇所には、前記かごの天面が含まれ、
前記制御装置は、前記かごの天面に設置された第2通信装置により、登録済の識別子の何れが受信されている状況では、前記かごの上方への走行を制限することができる。
【0011】
前記かご内には、前記かごの走行指示を入力するための操作盤が設けられ、
前記かごの天面には、前記操作盤に対する遠隔操作を行なうための第1入力装置が設けられ、
前記制御装置は、前記かごの天面に設置された第2通信装置により、登録済の識別子の何れもが受信されていない状況で前記第1入力装置からの入力がなされた場合には、前記第1入力装置からの入力を無効にする構成とすることができる。
【0012】
前記制御装置は、前記かごの天面に設置された第2通信装置により、登録済の識別子の何れが受信されている状況では、前記カウンタウェイトと前記かごの天面との間の距離、又は前記昇降路の天井と前記かごの天面との間の距離が閾値以下となった場合に警告を出力することができる。
【0013】
前記昇降路には、前記かごの走行指示を入力するための操作盤に対する遠隔操作を行なうための第2入力装置が設けられ、
前記制御装置は、前記昇降路に設置された第2通信装置により、登録済の識別子の何れもが受信されていない状況で前記第2入力装置からの入力がなされた場合には、前記第2入力装置からの入力を無効にする構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の搬送機構の安全システムによれば、第1通信装置から送信される識別子が第2通信装置により受信されている間、警告の出力又は搬送体の移動が制限されるので、搬送機構の保守作業に複数の作業員が従事する場合において、一の作業員から他の作業員の所在を目視確認できない場合であっても、保守作業を安全に行なうことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による搬送機構の安全システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、エレベーターの安全システムに含まれる通信装置の配置例を示す図である。
【
図3】
図3は、制御装置が実行する安全確保処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態による搬送機構の安全システム10の構成例を示す図である。以下の説明では、搬送機構としてエレベーターを例示し、当該エレベーターの保守作業を行なう作業員の安全を確保する。
図1に示すように、安全システム10は、通信装置20A,20Bと、通信装置30A~30C、制御装置40を含む。
【0018】
通信装置20A及び通信装置20Bは、通信電波を発信する無線発信器である。通信装置20A及び通信装置20Bには、夫々固有の識別子が予め割り当てられている。通信装置20A及び通信装置20Bの各々に割り当てられている識別子の具体例としては、互いに異なる番号を表す数字文字列が挙げられる。通信装置20A及び通信装置20Bは、図示せぬ電源の投入を契機として、各々に割り当てられている識別子を重畳させた通信電波を一定の周期で発信する。なお、通信装置20は、RFIDタグ等であってもよい。
【0019】
通信装置20A及び通信装置20Bの各々は、エレベーターの保守作業を行なう2人の作業員の各々に一対一に装着される。以下では、通信装置20Aを装着する作業員は適宜作業員Aと称し、通信装置20Bを装着する作業員は作業員Bと称する。また、以下では、通信装置20Aと20Bとを区別する必要がない場合には、通信装置20と表記する。通信装置20は本発明における第1通信装置の一例である。
【0020】
通信装置30A、通信装置30B及び通信装置30Cの各々は、通信装置20との間の距離が予め定められた閾値以下になると、通信装置20から発信された通信電波を受信する受信機である。以下では、通信装置30A、30B及び30Cの各々を区別する必要がない場合には、通信装置30と表記する。通信装置30は、受信した通信電波から当該通信電波に重畳されている識別子を復号する。通信装置30は、通信ケーブルを介して制御装置40に接続されている。通信装置30は、受信した通信電波から復号した識別子を制御装置40へ送信する。
【0021】
図2は、本実施形態における通信装置30A、通信装置30B及び通信装置30Cの配置例を示す模式図である。
図2における符号51は、安全システム10が設置されるエレベーターにおけるそらせ車であり、符号52は駆動装置である。また、
図2における符号53は駆動シーブである。駆動シーブ53及びそらせ車51には、複数本(図では1本のみ示す)の主ロープ54が巻き掛けられている。主ロープ54の一端部には、かご50が接続される。かご50は本発明における搬送体の一例であり、かご50の昇降路は本発明における搬送路の一例である。
【0022】
主ロープ54の他端部には、カウンタウェイト55が接続される。即ち、かご50及びカウンタウェイト55は、主ロープ54により1:1ローピング方式で昇降路内に吊り下げられる。かご50及びカウンタウェイト55は、駆動装置52の駆動力により昇降路内を昇降する。
図2中の一点鎖線は、本実施形態におけるエレベーターの最下階の床面を示す。
図2に示すように、本実施形態では、かご50の昇降路の下端、即ち最下階の床面の更に下方にピット56の空間が設けられる。
【0023】
図2に示すように、通信装置30A、通信装置30B及び通信装置30Cの各々は、かご50内、かご50の天面(かご50を鉛直上方から見たときの面)、及びピット56に一つずつ配置することができる。具体的には、通信装置30Aはかご50内に、通信装置30Bはかご50の天面に、通信装置30Cはピット56に夫々配置している。通信装置30は本発明における第2通信装置の一例である。以下では、かご50の天面のことを「かご50の上」と呼ぶ場合がある。
【0024】
通信装置30A、通信装置30B及び通信装置30Cの各々は、自装置を中心として半径が上記閾値の範囲内に他の通信装置30が位置しないように配置される。例えば、上記閾値がかご50の高さの半分よりも小さければ、通信装置30Aをかご50の高さ方向の中点付近に配置すればよい。通信装置30Aと通信装置20Aとの距離が閾値以下となる場合には、通信装置30Bと通信装置20Aとの距離、及び通信装置30Cと通信装置20Aとの距離は何れも上記閾値よりも大きくなる。同様に、通信装置30Bと通信装置20Aとの距離が閾値以下となる場合には、通信装置30Aと通信装置20Aとの距離、及び通信装置30Cと通信装置20Aとの距離は上記閾値より大きくなり、通信装置30Cと通信装置20Aとの距離が閾値以下となる場合には、通信装置30Aと通信装置20Aとの距離、及び通信装置30Bと通信装置20Aとの距離は閾値より大きくなる。
【0025】
制御装置40は、かご50内に設置される操作盤に接続される。なお、
図2では、制御装置40及び操作盤の図示は省略している。この操作盤には、かご50の移動先や扉の開閉を指示するための操作ボタン、音声メッセージを出力するためのスピーカー等が設けられる。また、操作盤には、エレベーターの動作モードを通常の運行を行なう通常モードと、保守作業用の保守モードとに切り替えるための操作子も設けられる。通常モードは、全自動運転モードを意味し、かごの操作盤の行先階ボタンや乗場の呼びボタンが押下され、これら呼びに応答してかごが走行する運転モードを意味する。動作モードが通常モードから保守モードに切り替えられると、通常、最下階と最上階への全自動運転はできない設定となっている。すなわち、乗場の最下階と最上階の呼びボタン及びかご操作盤の最下階と最上階の行先階ボタンを押下しても登録されない。また、保守モードでは、かご50を本来の着床位置からずらして停止させることができる。例えば、保守モードでは、操作盤に対する操作により、かご50の床面が最下階の床面よりも更に下方となる位置、即ちピット56にかご50が被る位置に停止させることができる。
【0026】
図1では詳細な図示は省略しているが、制御装置40は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリーと、フラッシュROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリーとを含む。不揮発性メモリーには、本実施形態の安全確保処理を制御装置40に実行させる保守点検用制御プログラム等が予め記憶されている。揮発性メモリーは当該保守点検用制御プログラムを実行する際のワークエリアとしてCPUによって利用される。CPUは、操作盤に対する操作により保守モードへの切り替えがなされたことを契機として保守点検用制御プログラムを不揮発性メモリーから揮発性メモリーに読み出し、保守点検用制御プログラムの実行を開始する。保守点検用制御プログラムに従ってCPUを作動させることで、制御装置40は、安全確保処理を実行する。
【0027】
図3は、安全確保処理の流れを示すフローチャートである。
図3に示すように、安全確保処理は、登録処理ステップS110、第1判定処理ステップS120、初期化処理ステップS130、第2判定処理ステップS140、走行制限処理ステップS150、及び計時処理ステップS160を含む。
【0028】
登録処理ステップS110では、制御装置40は、エレベーターの保守作業に従事する複数の作業員の各々が装着する通信装置20に割り当てられている識別子の入力を促し、入力された識別子を揮発性メモリーに書き込みことで、当該識別子を登録する。なお、識別子の入力は、操作盤に設けられている操作子の操作により実現されてもよく、また、エレベーターの保守作業に従事する複数の作業員(本実施形態では作業員A及び作業員B)が各々通信装置20を装着した状態でかご50に乗り込み、通信装置30Aにより取得された識別子を制御装置40の揮発性メモリーに書き込むことで実現されてもよい。
【0029】
第1判定処理ステップS120では、制御装置40は、エレベーターの動作モードが保守モードから通常モードへ切り替えられたか否かを判定する。第1判定処理ステップS120の判定結果がYesである場合には、制御装置40は、初期化処理ステップS130を実行する。初期化処理ステップS130では、制御装置40は、登録処理ステップS110にて揮発性メモリーに書き込んだ識別子を消去することで、登録済の識別子を初期化する。初期化処理ステップS130を完了すると、制御装置40は、安全確保処理を終了して通常モードに移行する。これに対して、第1判定処理ステップS120の判定結果がNoである場合には、制御装置40は、第2判定処理ステップS140以降の処理を実行する。
【0030】
第2判定処理ステップS140では、制御装置40は、登録処理ステップS110にて登録した複数の識別子の何れかが通信装置30B又は通信装置30Cを介して取得されたか否かを判定する。第2判定処理ステップS140の判定結果がYesである場合には、制御装置40は、走行制限処理ステップS150を実行し、その後、計時処理ステップS160を実行する。第2判定処理ステップS140の判定結果がNoである場合には、制御装置40は、走行制限処理ステップS150を実行することなく、計時処理ステップS160を実行する。
【0031】
より詳細に説明すると、登録済の複数の識別子の何れが通信装置30Bを介して取得されていることにより第2判定処理ステップS140の判定結果がYesとなっている場合、走行制限処理ステップS150では、制御装置40は、通常モードでの運転を禁止し、かご50の上方への走行を制限する。かご50の上方への走行の制限の具体例としては、かご50の上方への走行を禁止する態様(即ち、かご50を上方へ走行させない態様)、かご50の上方への走行速度を予め定められた速度以下とする態様、及びかご50の天面とかご50の昇降路の上端(即ち、昇降路の天井)との間の距離が所定の距離以下とならないようにかご50の走行範囲に制限を設ける態様、乗場の最上階の呼びボタンやかご操作盤の最上階の行先階ボタンを押下しても登録できない態様(ただし、特殊な操作により保守のためにこれらの登録は可能)が挙げられる。なお、所定の距離とは、作業員と昇降路の天井の衝突を防ぐため、かご50の天面と昇降路の天井との距離が500mm~1000mm以下に接近する距離とすることができる。
【0032】
登録済の複数の識別子の何れが通信装置30Bを介して取得されているということは、該当する識別子が割り当てられた通信装置20を装着している作業員がかご50の上に乗っているということを意味する。例えば、通信装置20Bを装着している作業員Bがかご50の上に乗っており、通信装置20Aを装着している作業員Aがかご50内で操作盤に対してかご50を上方へ走行させる操作を行なうとする。この場合、作業員Aは作業員Bを目視できないため、声掛け等による安全確認をし忘れると、作業員Aは、作業員Bがかご50の上に乗っていることを把握できない。このような状況でかご50の上方への走行を無制限に許容すると、作業員Bがかご50の天面と昇降路の天井との間に挟まれる事故の発生が懸念される。
【0033】
本実施形態によれば、作業員Aと作業員Bとが声掛け等による安全確認をし忘れたとしても、作業員Bがかご50の上に乗っている場合には、かご50の上方への走行が制限されるため、作業員Bの安全を確保できる。なお、登録済の識別子の何れが通信装置30Bにより取得されている場合、制御装置40は、かご50の上方への走行の制限に代えて、又はかご50の上方への走行の制限に加えて、警告の出力を行なってもよい。この場合の警告の出力の具体例としては、「かごの上に作業員が乗っています」といった音声メッセージ、又はビープ音の出力等が考えられる。このような警告の出力により、作業員Aはかご50の上に他の作業員が乗っていることを把握することができ、かご50の天面と昇降路の天井との間に他の作業員が挟まれる等の事故の発生を未然に防ぐことができる。
【0034】
また、登録済の識別子の何れが通信装置30Cを介して取得していることにより第2判定処理ステップS140の判定結果がYesとなっている場合、走行制限処理ステップS150では、制御装置40は、通常モードでの運転を禁止し、かご50の下方への走行を制限する。かご50の下方への走行の制限の具体例としては、かご50の下方への走行を禁止する態様(即ち、かご50を下方へ走行させない態様)、かご50の下方への走行速度を予め定められた速度以下とする態様、及びかご50の底面がピット56に被らないようにかご50の走行範囲に制限を設ける態様、乗場の最下階の呼びボタンやかご操作盤の最下階の行先階ボタンを押下しても登録できない態様(ただし、特殊な操作により保守のためにこれらの登録は可能)が挙げられる。
【0035】
登録済の識別子の何れが通信装置30Cにより受信されているということは、当該識別子を割り当てられた通信装置20を装着している作業員がピット56に降りているということである。例えば、通信装置20Bを装着している作業員Bがピット56に降りており、通信装置20Aを装着している作業員Aがかご50内で操作盤に対してかご50を下方へ走行させる操作を行なうとする。この場合、作業員Aは作業員Bを目視できないため、声掛け等による安全確認をし忘れると、作業員Aは、作業員Bがピット56に降りていることを把握できない。このような状況でかご50の下方への走行を無制限に許容すると、作業員Bがかご50の底面とピット56の床面との間に挟まれる事故の発生が懸念される。
【0036】
本実施形態によれば、作業員Aと作業員Bとが声掛け等による安全確認をし忘れたとしても、作業員Bがピット56に降りている場合には、かご50の下方への走行が制限されるため、作業員Bの安全を確保できる。なお、登録済の識別子の何れが通信装置30Cにより取得されている場合、制御装置40は、かご50の下方への走行の制限に代えて、又はかご50の下方への走行の制限に加えて、警告の出力を行なってもよく、この場合の警告の出力の具体例としては、「ピットに作業員が降りています」といった音声メッセージ、又はビープ音の出力等が考えられる。このような警告の出力により、作業員Aはピット56に他の作業員が降りていることを把握することができ、かご50の底面とピット56の底面との間に他の作業員が挟まれる等の事故の発生を未然に防ぐことができる。
【0037】
計時処理ステップS160では、制御装置40は、タイマー等により所定時間分の計時を行なう。そして、計時処理ステップS160を完了すると、制御装置40は、第1判定処理ステップS120以降の処理を再度実行する。
【0038】
本実施形態では、通信装置20から送信される識別子が通信装置30B又は通信装置30Cにより受信されている間、かご50の走行の制限が行なわれるので、エレベーターの保守作業に複数の作業員が従事する場合において、一の作業員から他の作業員の所在を目視確認できない場合であっても、保守作業を安全に行なうことが可能になる。
【0039】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0040】
<変形例>
たとえば、かご50の天面には、操作盤に対する遠隔操作を行なうためのリモートコントローラー(以下、リモコン)が設けられている場合がある。操作盤に対する遠隔操作を行なうためにかご50の天面に設けられるリモコンは本発明における第1入力装置とすることができる。この第1入力装置が設けられているエレベーターの保守作業において、かご50の上に設置された第2通信装置(上記実施形態では、通信装置30B)により、登録済の識別子の何れもが受信されていない状況で、第1入力装置からの入力がなされた場合には、制御装置40はかご50の上方への走行の制限に加えて、第1入力装置からの入力を無効にしてもよい。
【0041】
第1入力装置からの入力がなされたということは、かご50の上に作業員が乗っていることを意味する。かご50の上に作業員が乗っているにも拘わらず、かご50の上に設置された第2通信装置により、登録済の識別子の何れもが受信されていないということは、当該作業員が通信装置20を装着していないこと、又は当該作業員が装着している通信装置20の識別子の登録をし忘れていることが考えられる。当該作業員が通信装置20を装着していない、又は当該作業員が装着している通信装置20の識別子の登録をし忘れていると、かご50の上に乗っている作業員の安全確保に支障が生じ得る。そこで、かご50の上に設置された通信装置30により登録済の複数の識別子の何れもが受信されていない状況で、第1入力装置からの入力がなされた場合には、第1入力装置からの入力を無効にすることで、かご50の上に乗っている作業員の安全を確保できる。
【0042】
<変形例2>
また、操作盤に対する遠隔操作を行なうためのリモコンは、ピット56にも設けることができる。操作盤に対する遠隔操作を行なうためにピット56に設けられるリモコンは本発明における第2入力装置とすることができる。この第2入力装置が設けられているエレベーターの保守作業において、ピット56に設置された通信装置30により、登録済の複数の識別子の何れもが受信されていない状況で第2入力装置からの入力がなされた場合には、第2入力装置からの入力を無効にする制御を行なってもよい。ピット56に降りている作業員が通信装置20を装着していない場合、又は当該作業員が装着している通信装置20の識別子の登録をし忘れている場合であっても、ピット56に降りている作業員の安全を確保するためである。
【0043】
<変形例3>
かご50の上に設置された通信装置30により、登録済の複数の識別子の何れが受信されている状況では、制御装置40は、カウンタウェイト55とかご50の上端との間の距離が所定の閾値以下となった場合に警告を出力してもよい。かご50の上に乗っている作業員とカウンタウェイト55との衝突を避けるためである。たとえば、所定の閾値は、500mm~1000mmに設定することができる。なお、カウンタウェイト55の位置は、かごの位置から算出可能であり、また、かご50の上端の位置もかご50の位置から算出可能である。また、カウンタウェイト55に通信装置30を設置し、登録済の識別子のうちの何れかが当該通信装置30を介して取得されたことを契機として、「カウンタウェイトが近づいています」等の警告音声を制御装置40が出力してもよい。同様に、ピット56に設置された通信装置30により、登録済の識別子の何れが受信されている状況では、制御装置40は、カウンタウェイト55とピット56の上端との間の距離、又はかご50の底面とピット56の上端との間の距離が閾値以下となった場合に警告を出力してもよい。
【0044】
<変形例4>
通信装置20と、通信装置30A、通信装置30B及び通信装置30Cの各々との距離が所定の閾値以上である状態が所定時間に亘って継続した場合、即ち、通信装置30A、通信装置30B及び通信装置30Cの何れを介しても通信装置20の識別子が取得されない状態が所定時間に亘って継続した場合には、制御装置40は当該通信装置20の識別子を揮発性メモリーから削除してもよい。作業員の一時的な離脱に対処するためである。なお、離脱した作業員が保守作業に復帰する場合には、当該作業員が装着する通信装置20の識別子を改めて制御装置40に登録すればよい。
【0045】
<変形例5>
上記実施形態では、登録済の識別子がかご50の天面又はピット56に配置された通信装置30を介して取得されている間、かごの走行制限を制御装置40によって行なっている。しかしながら、登録済の識別子とは一致しない識別子が、かご50の天面又はピット56に配置された通信装置30を介して取得された場合には、制御装置40は識別子の登録漏れを警告する出力を行なってもよく、また、併せてかご50の走行制限を行なってもよい。
【0046】
<変形例6>
上記実施形態では、かご50の上とピット56の両方に通信装置30を配置しているが、ピット56のみに通信装置30を設けるようにしてもよい。また、かご50の位置を検出するために各階に設けられる位置検出用プレートに通信装置30を設け、かご50の上に作業員が乗っている状態でかご50を走行させる場合には、位置検出用プレートに設けられた通信装置30により上記作業員の装着する通信装置20の識別子が受信される毎に警告を出力する制御を制御装置40に実行させてもよい。
【0047】
<変形例7>
上記実施形態は、エレベーターの保守作業における安全確保に本発明を適用している。しかしながら、本発明はエレベーターの保守作業における安全確保に限定されるものではなく、エスカレーターや所謂動く歩道等のコンベアの保守作業における安全確保にも適用できる。つまり、本発明は、人を乗せられる又は物を載せられる搬送体を搬送路に沿って走行させる搬送機構の保守作業の安全確保に適用可能である。本発明の安全システムは、人を乗せられる又は物を載せられる搬送体を搬送路に沿って走行させる搬送機構の安全システムであって、以下の複数の第1通信装置と、複数の第2通信装置と、制御装置とを含んでいればよい。複数の第1通信装置は、搬送機構の保守作業を行なう複数の作業員の各々に一対一に装着され、各々固有の識別子を送信する。複数の第2通信装置は、搬送体、及び前記搬送路の少なくとも一方の端に設けられるピットを含む複数の箇所に一対一に配置され、前記複数の第1通信装置の各々から送信される識別子を各々受信する。制御装置は、前記複数の第1通信装置の各々の識別子の登録を受け付け、前記複数の第1通信装置の何れかから送信される識別子が前記搬送体以外に配置される第2通信装置の何れかにより受信されている間、警告の出力又は前記搬送体の移動を制限する制御を行なう。
【符号の説明】
【0048】
10 安全システム
20 通信装置
30 通信装置
40 制御装置
50 かご
51 そらせ車
52 駆動装置
53 駆動シーブ
54 主ロープ
55 カウンタウェイト
56 ピット