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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】微生物の分光測定解析のための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/35 20140101AFI20220705BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20220705BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20220705BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
G01N21/35
G01N33/48 M
G01N33/483 C
G01N33/48 Z
C12Q1/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020169484
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2021135282
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2020-10-07
(31)【優先権主張番号】10 2020 105 123.9
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521444446
【氏名又は名称】ブルカー ダルトニクス ゲーエムベーハー ウント コー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ノーマン マオダー
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-135240(JP,A)
【文献】特表2017-502658(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0138210(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0289729(US,A1)
【文献】特開2018-179991(JP,A)
【文献】YUSUF, Nurlisa et al.,In-vitro diagnosis of single and poly microbial species targeted for diabetic foot infection using e-nose technology,BMC Bioinfomatics,2015年,Vol.16, Article number:158,p.1-12
【文献】MU, Ke-Xin et al.,Near infrared spectroscopy for classification of bacterial pathogen strains based on spectral transforms and machine learning,Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems,2018年,Vol.179,p.46-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - 21/958
G01N 33/00 - 33/98
C12M 1/00 - 1/42
C12N 1/00 - 1/38
C12Q 1/00 - 1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の分光測定解析のための方法であって、
第1分類学的レベルで同一性が既知の試験微生物を提供する段階と、
前記試験微生物の分類学的分類に基づかない、分光測定データに対して変動をもたらす少なくとも1つの源の影響を可能にする条件下で前記試験微生物から分光測定データを取得する段階と、
前記第1分類学的レベルの下位にある第2分類学的レベルでの微生物の同一性を決定するように訓練された分類器を選択する段階であって、前記第1分類学的レベルでの前記試験微生物の前記既知の同一性に対して前記第2分類学的レベルでの考えられる同一性が付与される段階と、
前記第2分類学的レベルでの前記試験微生物の前記同一性を決定するために前記測定データに前記分類器を適用する段階と、を含み、
前記分類器は、前記第1分類学的レベルで前記試験微生物と同じ同一性を示し、前記第2分類学的レベルで異なる同一性を含む異なる既知の標準菌変動する負荷をかけた分光測定標準データでの訓練を通じて前記分類器を得ることによって変動に対して調整され、
前記訓練は、前記第2分類学的レベルでの前記試験微生物の解析における変動の影響をほとんどまたは完全に遮蔽するために、前記変動による影響を受ける前記標準データからの第2タイプのスペクトル特性よりも、前記第2分類学的レベルでの前記異なる同一性の識別を促進する前記標準データからの第1タイプのスペクトル特性により大きな重み付けを与える規則を含む、方法。
【請求項2】
前記提供する段階が生息環境からの前記試験微生物の分離を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生息環境が生物マトリックスおよび/または化学マトリックスである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記試験微生物の前記分離が前記マトリックスの除去を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記試験微生物の前記提供が増殖ステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記分光測定データが取得される前に前記試験微生物が滅菌される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記滅菌が、代謝阻害液またはエネルギーの影響への前記試験微生物の暴露を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1分類学的レベルと前記第2分類学的レベルとが互いに直接隣接している、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1分類学的レベルが種に相当し、前記第2分類学的レベルが亜種に相当する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1分類学的レベルが種に相当し、前記第2分類学的レベルが、異なる変種、たとえば病原性変種および非病原性変種、耐性変種および感受性(感性)変種または前記種の異なる株を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第1分類学的レベルでの前記試験微生物の同一性が、以下の方法:(i)質量分析法、(ii)赤外分光測定、(iii)選択培地での増殖(「API(分析プロファイルインデックス)試験」)および(iv)遺伝子配列解析、の少なくとも1つによってあらかじめ決定されている、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記1つ以上の変動が空気由来の変動である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記1つ以上の変動が、以下のスケール:周囲の空気の温度、湿度、圧力および二酸化炭素含量、の少なくとも1つにおける異なる値を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記分類器が、機械学習、たとえば人工ニューラルネットワーク(ANN)または線形判別分析(LDA)の方法の助けを借りて得られ、訓練される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記解析が赤外分光測定法を用いる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の分光測定解析のための方法に関し、特に赤外分光測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下、特定の側面を参照して従来技術を説明する。しかしながら、これを限定として解釈するべきではない。従来技術で公知のさらなる有用な開発・改良も、この序論の比較的狭い範囲を超えて用いることができ、以下の開示を読んだ後は、それらは当業者に容易に明らかとなるであろう。
【0003】
微生物、たとえば細菌、真菌、酵母、藻類または原生動物(およびウイルス)の分光測定解析時に、その生物体それ自体を除いて、分光測定は、そのスペクトルの内容に影響を与え、その結果としてその分析の質にも影響を与える変動の起因となる可能性がある。「その生物体それ自体を除いて」とは、これらの変動の起源が、その微生物の分類学的分類には存在しないことを意味する。
【0004】
通常はスクリーニング手段がないため、調製された試料が赤外分光光度計の測定チャンバ内で必然的にさらされる、測定時に一般的に行われる異なる湿度条件下での赤外分光測定解析において例を見出すことができる。試料の湿度は、赤外スペクトルに反映される回転振動および伸縮振動に直接の影響を与える。たとえば、暖かい季節の空気の絶対湿度は、一般的に、より寒冷な季節の絶対湿度よりも高い(季節依存性)。湿度は、測定が行われる場所によっても異なる可能性がある。たとえば、海岸(湿度は高い傾向にある)においても、高地や、さらには山(湿度は低い傾向にある)においても用いることができる、緊急事態管理組織の乗物における携帯型赤外分光光度計を考慮されたい。
【0005】
湿度におけるこの変化は、標準データの記録時に一般的な条件とは顕著に異なる条件下で実際の解析測定が実施される場合に問題となる。微生物を解析する場合、たとえば上から下までの階層、すなわちドメイン、門、綱、目、科、属および種における系統分類群を決定するためにしばしば標準データが用いられる。この解析の信頼性には、湿度に起因する差異が影響する可能性がある。この例は、測定チャンバにおいて一般的なように、湿度から温度に置き換えることができる。なぜなら、温度は、少なくとも間接的に、調製した試料の湿度を吸収する能力に影響を与え、ひいては分子の振動特性に影響を与えるからである。
【0006】
前述の例において、記載された問題を軽減するために機器による手段を採用することができるであろう。赤外分光光度計のために、気密シールされた測定チャンバを設計することもできるであろうし、測定時にチャンバ内で一定の均一な条件を維持するように、湿度および温度を事前調整したガスで測定チャンバを持続的にフラッシュすることもできるであろう。この恒常性が、標準データの記録時に一般的に行われる条件とは有意差がないことを確実にするだろう。しかしながら、この気密封止は、分光光度計の製造業者には取り上げられていない。
【0007】
微生物の分光測定解析に関して種々の報告が利用可能である。例として以下の文献を参照されたい。
【0008】
特許文献1は、医療診断または食料管理および環境モニタリングを目的とした、微生物の解析のための方法を説明している。微生物の数ピクセルの少なくとも1つのスペクトル画像を取得し、所定のスペクトル特性に基づいて、その数ピクセルのスペクトル画像から1つ以上のスペクトルを選択する。選択されたスペクトルは、微生物のスペクトル情報特性を含む。データベースにおける標準菌のスペクトルと選択された微生物のスペクトルとを比較することによって同定を行うことができる。複数の標準菌のそれぞれについて、各ピクセルが標準菌のスペクトルに一致する信号を含む数ピクセルの少なくとも1つのスペクトル画像を取得することと、所定のスペクトル特性に基づいて数ピクセルのスペクトル画像からスペクトルを選択して、標準菌のそれぞれについて少なくとも1つのスペクトルを含むデータベースを作成することと、によって、これらのデータベースを作成することができる。
【0009】
非特許文献1は、FTIR分光法を用い、赤外スペクトルおよび人工ニューラルネットワーク(ANN)から導き出される主要成分による、4つの異なる食品基質における、食品中に一般に見られる4つの腸内細菌(大腸菌(Escherichia coli;E.coli);大腸菌O26、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)およびシゲラ・ボイディ(Shigella boydii))の同定および定量について報告している。同定および定量に関するANNの分類精度は、それぞれ93.4%および95.1%であることが示されている。別々に培養し増殖させた腸内細菌から得られた独立したデータセットを用いてANNが検証された。この検証に関して、エルシニア・エンテロコリチカの検出のためのANNの精度は64%~100%であると示されている。この論文は、スペクトルにおけるバックグラウンドノイズのフィルタリングという課題を強調している。
【0010】
特許文献2は、振動分光法による微生物のタイピングまたは同定のための方法を記載している。試料中の漂白性成分によって引き起こされる信号変動が、得られる振動スペクトルから本質的に除去された微生物の試料について振動分光法分析が実施される。漂白性成分は、光脱色されたとき強度の減少を示す振動スペクトル帯を生成する成分として特定される。その意図は、タイピングおよび同定を目的として、補正された振動分光法情報を提供することである。
【0011】
特許文献3は、環境要因の変化によって生じる指紋スペクトルのドリフトを補正する方法であって、第1セットの環境要因の下で、対象の微生物と、対象の微生物と代謝的に類似していると推定される2番目の微生物とを培養することと、第1セットの環境要因の下で培養した対象の微生物の指紋スペクトルと、第1セットの環境要因の下で同様に培養した2番目の微生物の指紋スペクトルとを測定することと、第1セットの環境要因の下で培養した2番目の微生物の指紋スペクトルと、第2セットの環境要因の下で培養した2番目の微生物の指紋スペクトルとの間の違いを検出することと、第1セットの環境要因の下で培養された対象の微生物の指紋スペクトルを第2セットの環境要因の下で想定される対象の微生物指紋スペクトルに変換するために、2つのセットの環境要因の下で培養した2番目の微生物の指紋スペクトル間の違いを利用することと、を含む方法を開示している。
【0012】
特許文献4は、機器間に存在する機器変化および/または同じ機器内の経時的変化による分光光度計機器の解析のための方法であって、少なくとも1つの分光光度計機器から既知の標準の複数のスペクトルを提供するステップと、1つ以上のスペクトルから抽出したスペクトル特性に基づく複数の所定のクラスターの少なくとも1つにおける1つ以上の分光光度計機器を分類するステップと、各校正モデルが、それぞれのクラスターに分類された機器の機器変化を補正する、所定のクラスターのそれぞれのための少なくとも1つの校正モデルを提供するステップと、を含む方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】米国特許出願公開第2008/0132418 A1号明細書
【文献】欧州特許第2 174 116 B1号明細書
【文献】米国特許出願公開第2002/138210 A1号明細書
【文献】欧州特許第1 319 176 B1号明細書
【文献】独国特許第10 2013 022 016 B4号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3 083 981 A1号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3 392 342 A1号明細書
【非特許文献】
【0014】
【文献】M.J.Gupta et al.(Transactions of the ASABE,Vol.49(4),2006,1249-1255)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、測定時の変動の影響の存在下で、より確実で信頼性の高い微生物の分光測定解析を行うことが求められている。本発明によって達成できるさらなる課題は、以下の開示を読むことにより当業者に直ちに明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、微生物の分光測定解析のための方法に関し、特に赤外分光測定法に関する。
【0017】
微生物、たとえば細菌、真菌、酵母、藻類または原生動物(およびウイルス)の分類および同定のために多くの異なる分析技術が利用可能であるが、これらの多くは、抽出し、修飾し、検出することを必要とする特定の生化学物質に基づいている。最も頻繁に使用されるものは、たとえば胆汁溶解性、カタラーゼ、コアグラーゼ、DNアーゼ、運動性、毒素、オプトヒン、Streptex、オキシダーゼ、グラム染色、チール・ネールゼン染色、胞子、ケーシング、発酵能力などの、細菌の特性および酵素活性を記述している試験系である。他の頻繁に使用される方法は、細胞脂肪酸分析、タンパク質プロファイリング、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および16S_rRNA遺伝子配列決定、全DNAのG+C含量、高分解能ガス/液体クロマトグラフィー、ならびに、形状および外観に基づく細胞形態を決定するための顕微鏡検査である。前述の方法のすべてに共通していることは、分類のために細菌のただ1つの特異的マーカを使用することである。反対に、ほぼすべての生体分子は赤外線放射を吸収するため、赤外分光測定は、細菌細胞に存在するすべての生体分子を同時に検出する。赤外線放射と生体分子との相互作用によって生じるスペクトル情報はすべての細胞成分を網羅しており、したがって、分析される細菌の表現型の記述として用いることができる。
【0018】
第1分類学的レベルでの同一性が既知の試験微生物が提供される。第1分類学的レベルでの試験微生物の同一性は、特に、以下の方法:(i)質量分析法、(ii)赤外分光測定、(iii)選択培地での増殖(「API(分析プロファイルインデックス試験」)、および(iv)遺伝子配列解析、の少なくとも1つによってあらかじめ決定することができる。予備的な知見の決定の例は、特に、微生物の種の質量分析法による決定を、赤外分光測定による亜種の決定で補完した本出願人による特許文献5において見出すことができる。この方法は、さらに、生息環境、たとえば生物マトリックスおよび/または化学マトリックスから試験微生物を分離することを含むことができる。試験微生物の分離は、好ましくは、たとえば洗浄、濾過、遠心分離、蒸発、抽出、沈殿および/または他の形態の分離によるマトリックスの除去を含む。試験微生物の提供は、さらに、増殖ステップ、たとえば栄養液または、寒天などの平らな栄養培地での培養を含むことができる。
【0019】
試験微生物は、好ましくは滅菌(Sterilize)される。滅菌方法は、試験微生物を代謝阻害液(たとえばエタノールもしくはイソプロパノールなどのアルコールまたはギ酸などの酸)に暴露すること、および/またはエネルギー源(たとえば熱または高エネルギー放射線(場合により紫外線))に暴露することを含むことができる。滅菌は、特に、分析室で生じる意図しない/制御されない広がりに関連する生物学的リスクを防止するために、微生物が、好ましい条件下であっても、その増殖能力を失うことを意味する。たとえばバイオセーフティレベル2以上の分析室で作業する場合、試験微生物を滅菌する必要がない場合もある。なぜなら、そこで作業する専門スタッフは十分に訓練されていると仮定して間違いないからである。
【0020】
分光測定データは、試験微生物の分類学的分類を起源としない変動の少なくとも1つの源の影響を可能にする条件下で、(場合により滅菌された)試験微生物から取得される。1つ以上の変動は、空気起源であることができ、特に以下のスケール:周囲の空気の温度、湿度、圧力および二酸化炭素含量、の少なくとも1つにおける異なる値を含むことができる。空気起源の変動または空気変動は、標本スライド(たとえば小ガラスプレート)上に通例調製した、分光測定のために調製した試験微生物試料の近辺および周辺の条件の変化として現れる。1つ以上の変動は、好ましくは、連続スケールおよび有限スケールで影響を受ける可能性のある変化、特に少なくとも一端で(たとえば温度の絶対零度)で限定されたスケールまたは下限および上限(たとえば相対湿度の0%~100%)を有するスケールで影響を受ける可能性のある変化に関連する。
【0021】
第1分類学的レベルの下位にある第2分類学的レベルでの微生物の同一性を決定するように訓練された分類器(classifier)を選択する。第1分類学的レベルでの試験微生物の既知の同一性に対して第2分類学的レベルでの分類器の考えられる同一性を付与する。第1分類学的レベルと第2分類学的レベルとは、互いに直接隣接したレベル、たとえば種と亜種であることができる。さらに、第1分類学的レベルは種に相当してもよく、第2分類学的レベルは、異なる変種、たとえば病原性変種および非病原性変種、耐性変種および感性変種またはその種の異なる株を含んでもよい。異なる型のこれらの変種/株は、解析のために同一性サブクラス、たとえば第1群の全病原性血清型/株と、第1群とは異なる他の群の全非病原性血清型/株とに分類することができる。
【0022】
血清型(serotype)または血清型変種(serovariety、短縮形はserovar)という用語は、血清学的試験によって識別することができる細菌の亜種内の変種を表すために用いられる。これらは、細胞表面の抗原が異なっており、従来の微生物学により特異的抗体を用いて同定される。血清型の分類学的階層は、属⇒種⇒亜種(subspeciesまたはsubsp.)⇒血清型であり、たとえば追加された二項種名であるサルモネラ・エンテリカ亜種エンテリカ血清型チフィ(Salmonella enterica subsp. enterica serotype typhi)(短縮形はサルモネラ・チフィ(Salmonella typhi))を用いる。
【0023】
病原型(ギリシャ語のpathos「病気」に由来する)は、その病原性により、種または亜種内の他の株から識別することが可能な、同じ特徴を有する細菌株または株の群である。病原型は、二項種名に第3の項または第4の項を追加することによって表示される。たとえば、カンキツかいよう病を引き起こすことができる細菌ザントモナス・アクソノポディス(Xanthomonas axonopodis)には、異なる宿主特化を示す種々の病原型が存在する。X.アクソノポディス・パソバー・シトリ(X.axonopodis pv.citri)は、それらのうちの1つである。略語「pv.」は「病原型」を表す。ヒト病原体の毒性株にも病原型が存在するが、この場合、それらはその名称の前の前置文字によって表示される。たとえば、ほぼ完全に無害な腸内細菌である大腸菌には、非常に危険な病原型である腸管出血性大腸菌(EHEC:enteropathogenic E.coli)、腸管病原性大腸菌(EPEC:enteropathogenic E.coli)、毒素原性大腸菌(ETEC:enterotoxigenic E.coli)、腸管侵入性大腸菌(EIEC:enteroinvasive E.coli)、腸管凝集性大腸菌(EAEC:enteroaggregative E.coli)および分散接着性大腸菌(DAEC:diffusely adherent E.coli)が存在する。病原型は、一方で、異なる血清型を含むことができる。たとえば、EHECには多くの公知の血清型が存在する。同定されたすべてのEHEC血清型のおよそ60パーセントはO157、O103およびO26である。血清亜型O157/H7は特に危険である。
【0024】
広義には、微生物の解析は、特に、抗生物質(特にベータラクタム抗生物質およびグリコペプチド抗生物質)、さらには抗真菌薬などの抗菌物質に対する耐性に関する他の医学的に関連する特性ばかりでなく、毒素産生(「毒素型」)に関して、または同一もしくは同様なバクテリオファージに対する感受性(「ファージ型」)に関して異なる変種も含むことができる。一般に、「生物型(biovar)」という用語は、選択した一連の種または亜種の微生物が共通の生物学的特性を有する場合に用いられる。抗生物質耐性変種の例にはMRSA:メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)がある。
【0025】
「株」という用語は、単一の生物体から増殖した集団を表す。その集団は微生物株の寄託機関(多くは国立機関)に保管されている。属、種、亜種および変種を含む一続きの術語に、国際的に標準化された菌株表示が加えられる。株の個々の生物体は遺伝学的に同一である。異なる株は、それらの遺伝子構造がわずかに異なる。
【0026】
第2分類学的レベルでの試験微生物の同一性を決定するために測定データに分類器が適用される。分類器には、変動調整もなされる。なぜなら、分類器は、第1分類学的レベルで試験微生物と同じ同一性を示し、第2分類学的レベルで異なる同一性を含む異なる既知の標準菌の、標的変動負荷をかけた分光測定標準データでの分類器の訓練によって得られるからである。
この訓練は、第2分類学的レベルでの試験微生物の解析における変動の影響をほとんどまたは完全に遮蔽するために、標的変動による影響を受けた標準データからの第2タイプのスペクトル特性よりも、第2分類学的レベルでの異なる同一性の識別を補助する標準データからの第1タイプのスペクトル特性により大きな重み付けを与えるという規則を含む。
【0027】
本発明の他の側面において、所定の分類学的レベルでの微生物の同一性を識別する目的で、少なくとも1つの変動に対して調整されている分類器は、1つ以上の変動が影響を有することを可能にする条件下で、(任意選択的に滅菌された)試験微生物から取得された分光測定データに適用される。1つ以上の変動は、微生物の分類学的分類にそれらの起源を有さない。
【0028】
本方法に関して開示されたすべての実施形態を応用に移すこともできることは、この分野の専門家には明らかであろう。
【0029】
本発明は、以下の図面を参照することによって、よりよく理解することができる。図面における要素は必ずしも縮尺どおりではなく、主に本発明の原理を(主として模式的に)例示するものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1A】さまざまな相対湿度(rH)の関数としてのストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)の異なる血清型(SV)の赤外スペクトルの3次元空間での主成分分析(PCA)を示す。
図1B】スペクトル特性におけるさまざまな湿度の影響を除去することに向けられた線形判別分析を用いることを除いては、図1Aのスペクトルと同じスペクトルの評価を示す。
図2】透過法でのフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)の測定用セットアップを非常に簡略化した図を、取得されるスペクトルとともに示す。
図3】測定前の分光測定微生物試料調製の各ステップの例示的な順序(反時計回り)を示す。
図4】さまざまな相対湿度(rH)の関数としてのレジオネラ・ニューモフィラの異なる血清型(SV)の赤外スペクトルの2次元空間での主成分分析(PCA)を示す。血清型は病原性によって分類されている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明を、いくつかの実施形態を参照して例示し説明してきたが、添付された特許請求の範囲で定義される技術的教示の範囲を逸脱することなく形態および詳細の種々の変更を行うことができることは当業者に明らかであろう。
【0032】
図1Aは、赤外分光光度計の測定チャンバ内の測定に対して特に設定された、10%~80%の間の相対湿度の4つの異なる湿度レベル(rH#1~rH#4)の関数としての微生物ストレプトコッカス・ニューモニエの異なる血清型(SV)の赤外スペクトルの主成分分析(PCA)を示す。予想されるように、データポイントの個々の累積は複数の血清型に広がっている。
【0033】
図1Aにおいて、2例の血清型の4つの得られたデータクラウドは、明確にするために、異なるチェーンドットの楕円(SV#1およびSV#2)で強調されている。測定は、それぞれ、個々の湿度レベルについて細長いデータクラウドに反映された、それぞれ1つの血清型のいくつかの株/分離株に基づいた。異なる株/分離株は、角錐、立方体および球などの異なる形状によって分類されている。また、異なる湿度レベルについての同じ血清型の測定の分別は明確に視認できる。驚くべきことに、スペクトル特性の湿度依存性は、異なる血清型のデータクラウドが互いに融合したり混ざり合ったりすることを引き起こさないことも明らかである。代わりに、異なる血清型の個々のデータクラウドは、異なる湿度レベルも含めて別々のまま(「層状」のまま)であり、したがって解析の過程で識別することができる。
【0034】
分光測定時の変動が大きい(湿度スケールで10%~80%の)場合であっても安定した識別能であるというこの特性は、解析におけるこの変動を排除するために機械学習の方法などの高度な評価方法によって使用することができ、したがってこの目的に使用される分光光度計の複雑な変換の必要性を不要にするために使用することができると仮定する理由を、この所見は与えた。
【0035】
したがって、図1Aの図の基礎となるスペクトルを再び評価した。スペクトル特性(たとえば個々の公知の血清型の識別性を最大化する主成分)を同定し、その重み付けを増加させるという特定の目的で線形判別分析を用いたが、異なる株に本質的に起源を有する(その生物体における変動ではあるが)個々の血清型クラス内の変動および測定時の湿度レベルによって影響を受けるスペクトル特性はできるだけ遮蔽した。
【0036】
結果を図1Bに示す。図に示すように、血清型毎に4つの明確に分離したデータクラウドの層で図1Aに示された4つの異なる湿度レベルを、湿度にかかわらず、個々の血清型データクラウドが互いに重なることもまたは重複することもなく、血清型毎に1つの連続的な紡錘形のデータクラウドに統合した。まだ知られていない血清型のストレプトコッカス・ニューモニエの新しいスペクトルに適用する場合、新たに決定されたスペクトル特性を既知の空間容積に指定することができる変動調整された分類器を作成するためにこの結果を用いることができる。この目的のために、データクラウドの基礎をなす多次元特徴空間の容積を特徴づけることができ、特徴空間のどの容積が新しいスペクトルの重要なスペクトル特性を反映するものであるかを確認するために試験が実施される。
【0037】
透過法での赤外分光測定解析測定のために、高分解能を提供するフーリエ変換分光光度計(FT-IR)を用いることができる。図2における測定用セットアップの図を参照のこと。このスペクトルは、一般的に4000cm-1から500cm-1まで測定される。
【0038】
図2(下部)において破線で強調した、約1350cm-1から約700cm-1までの領域は、スペクトルの特異性のために特に有益であるとみなされる。信号対雑音比を改善するために、1秒当たり20スペクトルの取り込み速度で数百スペクトルを測定し、加算した。
【0039】
赤外スペクトルは、生体物質中の官能基および極性結合の数千の振動に基づく。これらは、一方で、微生物細胞のすべての成分(たとえばDNA、RNA、タンパク質、内部構造体、膜および細胞壁など)からエネルギー貯蔵物質にまで起因する。特定のスペクトル領域を特定の分子種に対して選択的に帰属させることができる(脂肪酸はCH基およびCH基の振動により3050~2800cm-1の範囲にわたり、アミドはペプチド結合により1750~1500cm-1の範囲にわたり、多糖は1200~900cm-1の範囲にわたる)とは言っても、スペクトル中の個々の特性に対する分子の明確な帰属は存在しない。900~700cm-1の領域は、すべての分子からの何らかを含み、変種間の識別に大変重要であるため、指紋領域とも呼ばれる。
【0040】
少し変更した実施形態において、赤外スペクトルは反射光法で測定することもできる。この場合、それらは、たとえば、アルミニウム製の金属製反射基板上で調製される。調製した微生物のスペクトルを液体中で測定することもでき、かつかなり少ない量の試料物質しか必要としない利点を有するラマン分光法を用いることも可能である。
【0041】
図1Aおよび図1Bから得られる知見は、以下のステップに従って、変動調整された分類器を作成するために実施することができる。
【0042】
(i)標準菌を調製して変動を指定する。
【0043】
最初のタスクは、識別するクラスを指定することである。第1分類学的レベルでの同一性として種の知見(たとえばストレプトコッカス・ニューモニエ)が想定される場合、下位の第2分類学的レベルでの考えられる同一性として相当する血清型を決定することを目的とすることができる。例として、臨床検査において最も頻繁に見出されるストレプトコッカス・ニューモニエの23の血清型を選択することができる。これらの微生物の標準バイオマスは、ライプニッツ研究所DSMZ・ドイツ微生物細胞培養コレクションGmbH(ブラウンシュヴァイク)などの公営の寄託所から入手することができる。
【0044】
生物体における変動を適切に検討するために、識別するクラスの微生物の代表の選択を考慮することができる。ストレプトコッカス・ニューモニエの例では、利用可能性に応じてこれを血清型毎に3~6の異なる株とすることができる。最も一般的な23の血清型の場合は、標準データをコンパイルして分類器を作成するために69~138株を用いることができる。
【0045】
次のタスクは、標準データの記録に変動を与え、かつ赤外分光測定時に変動の発生が考えられると思われるパラメータを指定することである。これは、空気変動、たとえば湿度、圧力、ガス濃度または温度にすることができる。原則として、標準データを記録する場合、2つ以上の変動パラメータ、たとえば湿度および温度の両方を考慮に入れることができる。しかしながら、変動パラメータの異なる代表値または標準値は、互いに組み合わせて記録しなければならないため、より広範囲の考えられる変動は、標準データを測定するために必要な作業の応分の増加も伴う。分光測定時のすべての実際的な条件を含む変動パラメータの参照ポイントのリストが選択される。参照ポイントのこの代表的な選択の値を補間することは可能であろう。
【0046】
(ii)標準データの記録
最初に、標準菌株を標準的な方法で調製することができる。たとえば、適切な培地上または培地中での培養後、生物汚染を防止するために必要に応じて滅菌した後、赤外分光測定のための標本スライド上に標準菌株を数回反復して乗せ、それらを測定チャンバ内に挿入することができる。測定チャンバは、変動パラメータに関して一定の所定の値、たとえば20℃で相対湿度10%に維持される。標本スライドの挿入後、調製した標準菌のバイオマスが、あらかじめ設定された条件に順化することができるように、一定時間の長さ(たとえば5分~10分)間待つことが好ましい。
【0047】
すべてのパラメータが決定した後、あらかじめ設定された条件下で、調製した標準菌の標準データを記録することができる。適切に変化させた条件下、すなわち、たとえば30%、55%および85%の相対湿度かつ20℃一定で、この手順を繰り返す。変動値の各変化の後には、過渡過程を減衰させ、再現性のある安定した結果を得ることができるように、数分間の順化期間をおくべきである。
【0048】
標準データを記録するこの方法は、たとえば、わずかに異なる培養条件(生物学的反復)または調製条件(たとえば技術的反復、試薬/薬剤もしくは化学物質の異なるバッチの使用)から、または機器変動を可能にする異なる分光光度計によって行われた測定から生じた下位の変動の測定によって補完することができる。このように記録された標準データは、完全性、明らかな外れ値(たとえば局所外れ値因子法(LOF)の方法を用いて)および/または妥当性に関してチェックされ、必要ならば補正および/または再記録される。
【0049】
(iii)変動調整された分類器の訓練
機械学習、たとえば人工ニューラルネットワーク(ANN)または線形判別分析(LDA)の方法を使用することが好ましい。クラス所属、たとえば前述のストレプトコッカス・ニューモニエの例における血清型#1、血清型#2、…、血清型#23に関して、訓練は教師ありである。しかしながら、変動条件、すなわち異なる周囲条件(たとえば湿度)または他の影響する因子(たとえばさまざまな培養、調製、分光光度計)に関して、分類器の訓練は教師なしである。これは、個々のクラス(ここでは種ストレプトコッカス・ニューモニエの血清型)の識別性を最大化する標準データにおけるスペクトル特性の意義を重視する要件と同じであるが、一方で、変動によって強く影響を受けるスペクトル特性は低い重み付けを与えられ、したがって事実上遮蔽される。スペクトル特性は、たとえば主成分に表れることができる。
【0050】
簡単に、かつ(厳密な科学的正確さの主張をしないで)説明の目的で言えば、機械学習アルゴリズムは、識別されるクラスの1つに対してそれぞれが帰属される、通例多次元多変量の特徴空間における部分容積(すなわち第2分類学的レベルでの同一性)を同定する。干渉を考慮するというこの基本的に公知の方法の予想外の側面は、相対湿度などの空気変動が、湿度が変化するとき、1つの血清型/株のスペクトル特性を他の血清型/株のスペクトル特性を重複させる原因とならず、その代わりにそれらは別々のままであり、したがってこのようなさまざまな条件下であっても、スペクトル特性の空間における識別能を確実にするということであった。
【0051】
標準データを用いるこのような訓練フェーズにおいてよくあるように、得られた分類器の効率を交差検証によって試験するためのオプションもある。必要に応じて、分類器の精度をさらに改善するために、交差検証の結果に基づいて機械学習アルゴリズムを調整することができる。
【0052】
(iv)検証(オプション)
1つ以上の試験微生物の分類学的帰属が既知である場合、外部データに基づく効率を検証するために、想定される変動(たとえばさまざまな相対湿度)を許容する条件下で検証テストの実行を行うことができる。
【0053】
分類器を作成するためのこの手順は、一方で、異なる分類学的レベルで同定することができる、大変広範囲の微生物にて変動調整された分類器データベースを作成するために繰り返すことができる。標準データは、好ましくは、臨床環境で最も多く出現する病原体から取得し、処理することができる。
【0054】
変動調整された分類器を作成した後、微生物を解析するための方法を次のとおりに行うことができる。
【0055】
図3における模式的な順序を参照のこと。
【0056】
第1に、試験微生物の同一性が、第1分類学的レベル、たとえば種で既知であるか、またはMALDI Biotyper(登録商標)(ブルーカー・ダルトニックGmbH、ブレーメン/ドイツ)などの質量分析計を用いて決定されていなければならない。これに基づき、決定される同一性のために適切な、変動調整された分類器が選択される。例として、これに関連して、特許文献6に記載されている方法が注目される。
【0057】
十分なバイオマスを得るために、試験微生物を栄養液中または平らな栄養培地上で培養することができる。このようにして増殖させた微生物細胞は、次いで、たとえば遠心分離もしくは濾過によって栄養液から分離するか、または寒天プレートから採取することによって栄養培地から取り除くことができる。滅菌を目的として、このように採取した微生物を、エタノールなどの活性阻害液(たとえば70%v/v)に再懸濁することができる。
【0058】
微生物は、増殖条件、たとえば異なる培地、温度、栄養素、ガス供給の変化(酸素など)、水分、培養期間などの変化に大変敏感に反応する。これらの因子は細胞組成および代謝の変化を引き起こすことができ、それは、赤外分光測定によって検出することができる。培養を目的として、コンフルエントな増殖をもたらすために、スパチュラを用いて純粋な単一コロニーの細胞物質を寒天プレート上に広げることができる。この技術は、コロニーに常に存在する異なる増殖期の大変再現性のある混合物中の細胞の採取を可能にする。臨床的意義のある大部分の株に関して、最適培養期間は約16~24時間であり、細菌のために頻繁に使用される培養温度は約35℃~37℃である。培養した試験微生物の試料物質は、たとえば直径1ミリメートルの定量白金耳を用いて、細胞層の中心から直接採取することができる(ステップA)。
【0059】
試験微生物を寒天などの平らな栄養培地上で培養する場合、1つ以上のコロニーからバイオマスを採取し、分光測定標本スライド上に直接乗せることができる。オプションで、紫外線を照射することによってバイオマスを滅菌して(たとえばストレプトコッカス・ニューモニエの場合)、均一な分布を確実にすることが重要である。あるいは、バイオマスを同様に代謝阻害液中に再懸濁することができる(ステップB)。この液体は、脱イオン水(通例は代謝阻害効果を発揮しない)とすることもできる。この場合においても、試験微生物を、標本スライドの試験部位上に乗せた後、紫外線照射または他のエネルギー源(たとえば熱)によって滅菌することができる。
【0060】
測定結果の妨げになる可能性のある栄養培地の残渣が、栄養培地からの、または栄養培地から取り出した試験微生物に付着しないように注意しなければならない。懸濁液中の試験微生物のバイオマスの均一な分布を実現するために、スチールなどの反応不活性な材料の小さなシリンダーまたはビーズを懸濁液に加えることができ、次いでシールした懸濁液容器を振盪することができる(ステップC)。
【0061】
次いで、この懸濁液を、たとえばプラスチック先端付きのピペットで、穏やかに標本スライド上に反復して分けて塗布するが(ステップD)、その数はプロトコルによって異なっていてもよい。均質な層の厚さでの均一な塗布は、最良の測定結果を保証する(ステップE)。研究中のすべての試料を標本スライドに塗布した後、数分間、たとえば10分~30分間、特定の温度、たとえば37℃で懸濁液を放置して乾燥させる(ステップF)。試験微生物を培養容器から採取してすぐに、さらなる再懸濁をせずに標本スライドに塗布する場合、乾燥は完全に省略することができるか、または少なくとも乾燥をずっと短時間にすることができる。
【0062】
このように調製した標本スライドは、次いで、分光光度計の測定チャンバ内に挿入し、変動の少なくとも1つの源の影響を可能にする条件下で試料毎に測定することができる。たとえば、本出願人による特許文献7で説明されている出願人の方法に従って、分光光度計の技術的性能をチェックするために、標本スライド上のいくつかの位置を試験標準バイオマスでコーティングすることもできる。
【0063】
記録したスペクトルは、ベースライン減算、平滑化および二次導関数の計算などの通常の処理ステップ後に、あらかじめ作成した変動調整された分類器での分析に供することができる。ここでは、前述のように、変動によって影響を受けないか、またはわずかな程度しか影響を受けないスペクトル特性のみを(またはそれを少なくとも主に)考慮に入れる一方で、変動による大きな変化を示すスペクトル特性は、主としてまたは完全に遮蔽する。
【0064】
変動調整された分類器による測定データの処理によって、研究中のスペクトルに対して、第2分類学的レベルでの考えられる同一性の1つが付与される。ストレプトコッカス・ニューモニエの例では、これは、参照された血清型の1つを意味する。まれな場合にのみ、たとえば培養、試料調製または測定中の予期しない乱れによって、または第2分類学的レベルで求められている試験微生物の同一性が標準データに含まれていないことによって(たとえば、臨床診療とはほとんど関連性のない大変まれな血清型の場合)、信頼性のある解析は可能ではない。
【0065】
図4は、主成分空間において、さまざまな湿度レベルであっても継続する血清型の識別能のさらなる例を示す。図は、明確にするために、ここでは2次元で示されている(PC2、PC3)。ベースは種レジオネラ・ニューモフィラであり、そのうち15の血清型がスペクトル特性の例に考慮されている。血清型は個々に分類されていないが、強病原性血清型と低病原性血清型とに分類されている。これは、ヒトにおけるすべてのレジオネラ症の70~80パーセントに関与している第1の血清型SV#1(右側のデータクラウド)と、たとえあるにしてもはるかに病原性の低い次の14のSV#2~SV#15とを識別する。同様に、感性(感受性)血清型/株と耐性血清型/株とを群に分類することも可能であろう。
【0066】
基礎となる株を三角形、正方形および円などの異なる記号で符号化した標準菌レジオネラ・ニューモフィラの異なる血清型の標準データを、4つの異なる相対湿度(10%(乾燥した)、30%(半乾燥の)、55%(湿気のある)および85%(熱帯の))で取得した。
【0067】
この図において、この変動は、本質的に、主成分軸PC2に沿ったデータクラウドが長くなっていることで現れる。しかしながら、変動にかかわらず、血清型1(SV#1)に属するデータクラウドは、グループ化された他の血清型SV#2~SV#15のデータクラウドからは十分に離れており、スペクトル特性に基づく識別能を確実にしていることは明白である。
【0068】
もしも、ある診療所にて、第1分析で(たとえば確立された質量分析MALDI-TOF法によって)、細菌種レジオネラ・ニューモフィラに帰することができる下痢の症例数の増加が見られた場合、特に病原性血清型SV#1と危険性のより少ない他の血清型SV#2~SV#15とを識別して、結果が陽性である場合には、特定の治療を開始するために、分離され培養された病原体のその後の赤外分光測定分析において、適切に訓練された分類器を用いることができる。もちろん、この手順は他の微生物に置き換えることができる。ここで記載した分類器作成の自由度は無限である。
【0069】
前述の方法から出発して、考えられる複数の微生物に関して、また個々およびいくつかの組み合わせの、分光測定時の複数の変動の考えられる源に関して、変動調整された分類器が決定される。このように、第1分類学的レベルで解析された微生物の同一性の知見があれば、下位の第2分類学的レベルでの同一性の分光測定副解析は、適切に変動調整された分類器を選択することによって確実に信頼性高く実施することができる。
【0070】
例として説明した実施形態に加えて、本発明のさらなる実施形態を考えることができる。本開示の知見があれば、場合によって任意の等価物を含む、特許請求の範囲の保護範囲に含まれるさらなる有利な実施形態を当業者は容易に設計することができる。
図1A
図1B
図2
図3
図4