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特許7100159金属・セラミック複合関節プロテーゼ及びその応用、製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】金属・セラミック複合関節プロテーゼ及びその応用、製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/34 20060101AFI20220705BHJP
   A61F 2/36 20060101ALI20220705BHJP
   A61F 2/38 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
A61F2/34
A61F2/36
A61F2/38
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020567957
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 CN2019114541
(87)【国際公開番号】W WO2021081857
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】518160724
【氏名又は名称】北京愛康宜誠医療器材有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100142804
【弁理士】
【氏名又は名称】大上 寛
(72)【発明者】
【氏名】張▲衛▼平
【審査官】森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-518653(JP,A)
【文献】特表2009-533181(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0310948(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01433443(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/00 - 2/97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属・セラミック複合関節プロテーゼであって、金属体及びセラミック体を備え、前記金属体は、一体成形され、多孔質構造層、境界層及び根状層を備え、前記境界層は、前記多孔質構造層と前記根状層との間に位置し、前記根状層は、前記境界層に接続され互いに接触しない複数の根状フィラメントクラスタを備え、前記根状フィラメントクラスタは、前記境界層に垂直に接続される主根と前記主根の側面に接続される複数の側根とを備え、前記側根は、前記境界層側から離れるように傾斜して延伸し、前記セラミック体は前記根状フィラメントクラスタを被覆し前記境界層上に成形され、
前記側根と前記主根との接続部位は前記主根と前記境界層との接続部に近いことを特徴とする関節プロテーゼ。
【請求項2】
前記境界層は板状構造であり、複数の前記根状フィラメントクラスタは前記境界層の表面に規則的に接続されることを特徴とする請求項1に記載の関節プロテーゼ。
【請求項3】
金属・セラミック複合関節プロテーゼであって、金属体及びセラミック体を備え、前記金属体は、一体成形され、多孔質構造層、境界層及び根状層を備え、前記境界層は、前記多孔質構造層と前記根状層との間に位置し、前記根状層は、前記境界層に接続され互いに接触しない複数の根状フィラメントクラスタを備え、前記根状フィラメントクラスタは、前記境界層に垂直に接続される主根と前記主根の側面に接続される複数の側根とを備え、前記側根は、前記境界層側から離れるように傾斜して延伸し、前記セラミック体は前記根状フィラメントクラスタを被覆し前記境界層上に成形され、
前記境界層は板状構造であり、複数の前記根状フィラメントクラスタは前記境界層の表面に規則的に接続され、
前記板状構造には、規則的に配列された複数の溝が設けられ、隣接する溝の間に支持壁が形成され、前記根状フィラメントクラスタは、異なる支持壁の交差部の上面に接続される関節プロテーゼ。
【請求項4】
前記溝は立方体構造の溝であり、前記根状フィラメントクラスタは互いに直交する4つの前記支持壁の上面に接続されることを特徴とする請求項3に記載の関節プロテーゼ。
【請求項5】
前記支持壁は、厚さが0.1~3mm、高さが0.25~2.5mmであることを特徴とする請求項4に記載の関節プロテーゼ。
【請求項6】
金属・セラミック複合関節プロテーゼであって、金属体及びセラミック体を備え、前記金属体は、一体成形され、多孔質構造層、境界層及び根状層を備え、前記境界層は、前記多孔質構造層と前記根状層との間に位置し、前記根状層は、前記境界層に接続され互いに接触しない複数の根状フィラメントクラスタを備え、前記根状フィラメントクラスタは、前記境界層に垂直に接続される主根と前記主根の側面に接続される複数の側根とを備え、前記側根は、前記境界層側から離れるように傾斜して延伸し、前記セラミック体は前記根状フィラメントクラスタを被覆し前記境界層上に成形され、
前記境界層は板状構造であり、複数の前記根状フィラメントクラスタは前記境界層の表面に規則的に接続され、前記板状構造には、規則的に配列された複数の長尺状の補強リブが設けられ、前記根状フィラメントクラスタは前記補強リブの上面に等間隔に接続される関節プロテーゼ。
【請求項7】
前記境界層には、互いに直交する2組の前記補強リブが設けられ、各組に複数の前記補強リブが設けられることを特徴とする請求項6に記載の関節プロテーゼ。
【請求項8】
前記補強リブは、厚さが0.1~3mm、高さが0.25~2.5mmであることを特徴とする請求項7に記載の関節プロテーゼ。
【請求項9】
前記金属体の材質はタンタル金属又はタンタル合金であることを特徴とする請求項1に記載の関節プロテーゼ。
【請求項10】
前記多孔質構造層の孔径は50~1200マイクロメートルであることを特徴とする請求項1に記載の関節プロテーゼ。
【請求項11】
前記セラミック体の材質はアルミナ系セラミック、ジルコニア系セラミック又は炭化ケイ素系セラミックであることを特徴とする請求項1に記載の関節プロテーゼ。
【請求項12】
前記側根と前記主根の軸線の夾角は45°以下であることを特徴とする請求項1に記載の関節プロテーゼ。
【請求項13】
前記側根と前記主根の軸線の夾角は30°であることを特徴とする請求項12に記載の関節プロテーゼ。
【請求項14】
前記主根及び前記側根の直径はいずれも0.1~2ミリメートルであることを特徴とする請求項1に記載の関節プロテーゼ。
【請求項15】
互いに隣接し且つ距離が最も近い3つの前記根状フィラメントクラスタの、前記境界層における投影の中心を結ぶ線は正三角形を構成することを特徴とする請求項1に記載の関節プロテーゼ。
【請求項16】
股関節プロテーゼであって、人体の大腿骨に取り付けられる股関節ボールヘッドプロテーゼと、前記股関節ボールヘッドプロテーゼと嵌合する股関節寛骨臼カッププロテーゼとを備え、前記股関節ボールヘッドプロテーゼ及び前記股関節寛骨臼カッププロテーゼはいずれも請求項1~1のいずれか一項に記載の関節プロテーゼからなり、前記股関節寛骨臼カッププロテーゼの前記境界層は曲面板状構造であり、前記股関節ボールヘッドプロテーゼの前記境界層は平面板を複数回折り曲げた構造であることを特徴とする股関節プロテーゼ。
【請求項17】
膝関節プロテーゼであって、脛骨高原に取り付けられる膝関節大腿骨顆プロテーゼを備え、前記膝関節大腿骨顆プロテーゼは請求項1~15のいずれか一項に記載の関節プロテーゼからなり、前記膝関節大腿骨顆プロテーゼの前記境界層は平面板を複数回折り曲げた構造であることを特徴とする膝関節プロテーゼ。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の関節プロテーゼの製造方法であって、
前記金属体の三次元モデルを設計するステップと、
前記三次元モデルファイルを3Dプリント装置に入力して3Dプリントを行うステップと、
プリント成形された前記金属体を前記セラミック体の成形金型に装入し、前記根状層側にセラミックブランク粉体及び焼結助剤を充填して、前記成形金型を閉鎖し、前記セラミックブランク粉体及び焼結助剤を加圧して焼結前ブランクを形成するステップと、
整形された前記焼結前ブランクを焼結炉に入れて焼結し、前記根状フィラメントクラスタに結合されたセラミック体を形成するステップと、
前記セラミック体の関節摩擦面を研磨するステップと、を含む関節プロテーゼの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は整形外科用インプラントの分野に関し、特に金属・セラミック複合関節プロテーゼ及びその応用、製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、人工関節置換手術のインプラント製品は、通常2つの非常に重要な表面を有する。すなわち、関節摩擦面及び骨性結合界面であり、各関節摩擦面は関節摩擦対偶を構成する対向側の関節摩擦面と接触摩擦するため、機能要件を満たすように、十分な硬度及び靭性、低摩耗率、良好な潤滑性、耐変形強度等を含む良好な摩擦性が必要とされる。現在、業界では、一般には、セラミック界面を摩擦対偶の片側または両側の関節摩擦面とすることで、関節面の摩耗を効果的に低減させることができると考えられている。一方で、骨性結合界面は、インプラントが人体の骨に接触する界面であり、近年の研究を行ったところ、多孔質金属の表面が良好な骨内殖効果を有し、それにより人体の骨細胞組織が多孔質材料内部の空隙に内殖しやすくて骨組織と多孔質金属とをよく融合し、インプラントが人体の骨にしっかりと固定することができることがわかっている。
【0003】
セラミック材料は多孔質構造にすることが困難で骨細胞の内殖を実現できない一方、金属材質から構成される関節摩擦面はセラミック材質の優れた耐摩耗性を達成できない。
【発明の概要】
【0004】
従来技術の課題に対して、本発明は、金属・セラミック複合関節プロテーゼ及びその応用、製造方法を提供することを目的とし、該関節プロテーゼはセラミック製の関節摩擦面と多孔質金属製の骨性結合界面を1つの関節プロテーゼに整合することによって、関節摩擦面の摩耗を低減させるだけでなく良好な骨内殖効果を確保することができる。
【0005】
上記目的を実現するために、本発明の技術案は以下のとおりである。
【0006】
金属・セラミック複合関節プロテーゼであって、金属体及びセラミック体を備え、前記金属体は、一体成形され、多孔質構造層、境界層及び根状層を備え、前記境界層は、前記多孔質構造層と前記根状層との間に位置し、前記根状層は、前記境界層に接続され互いに接触しない複数の根状フィラメントクラスタを備え、前記根状フィラメントクラスタは、前記境界層に垂直に接続される主根と前記主根の側面に接続される複数の側根とを備え、前記側根は、前記境界層側から離れるように傾斜して延伸し、前記セラミック体は前記根状フィラメントクラスタを被覆し前記境界層上に成形される。
【0007】
さらには、前記側根と前記主根との接続部位は前記主根と前記境界層との接続部に近い。
【0008】
さらには、前記境界層は板状構造であり、複数の前記根状フィラメントクラスタは前記境界層の表面に規則的に接続される。
【0009】
さらには、前記板状構造には、規則的に配列された複数の溝が設けられ、隣接する溝の間に支持壁が形成され、前記根状フィラメントクラスタは、異なる支持壁の交差部の上面に接続される。
【0010】
さらには、前記溝は立方体構造の溝であり、前記根状フィラメントクラスタは互いに直交する4つの前記支持壁の上面に接続される。
【0011】
さらには、前記支持壁は、厚さが0.1~3mm、高さが0.25~2.5mmである。
【0012】
さらには、前記板状構造には、規則的に配列された複数の長尺状の補強リブが設けられ、前記根状フィラメントクラスタは前記補強リブの上面に等間隔に接続される。
【0013】
さらには、前記境界層には、互いに直交する2組の前記補強リブが設けられ、各組に複数の前記補強リブが設けられる。
【0014】
さらには、前記補強リブは、厚さが0.1~3mm、高さが0.25~2.5mmである。
【0015】
さらには、前記金属体の材質はタンタル金属又はタンタル合金である。
【0016】
さらには、前記多孔質構造層の孔径は50~1200マイクロメートルである。
【0017】
さらには、前記セラミック体の材質はアルミナ系セラミック、ジルコニア系セラミック又は炭化ケイ素系セラミックである。
【0018】
さらには、前記側根と前記主根の軸線の夾角は45°以下である。
【0019】
さらには、前記側根と前記主根の軸線の夾角は30°である。
【0020】
さらに、前記主根及び前記側根の直径はいずれも0.1~2ミリメートルである。
【0021】
さらには、互いに隣接し且つ距離が最も近い3つの前記根状フィラメントクラスタの、前記境界層における投影の中心を結ぶ線は正三角形を構成する。
【0022】
本発明は上記関節プロテーゼの応用をさらに提供し、その技術案は以下のとおりである。
【0023】
股関節プロテーゼであって、人体の大腿骨に取り付けられる股関節ボールヘッドプロテーゼと、前記股関節ボールヘッドプロテーゼと嵌合する股関節寛骨臼カッププロテーゼとを備え、前記股関節ボールヘッドプロテーゼ及び前記股関節寛骨臼カッププロテーゼはいずれも上記関節プロテーゼからなり、前記股関節ボールヘッドプロテーゼの前記境界層は曲面板状構造であり、前記股関節ボールヘッドプロテーゼの前記境界層は平面板を複数回折り曲げた構造である。
【0024】
本発明は上記関節プロテーゼの別の応用をさらに提供し、その技術案は以下のとおりである。
【0025】
膝関節プロテーゼであって、脛骨高原に取り付けられる膝関節大腿骨顆プロテーゼを備え、前記膝関節大腿骨顆プロテーゼは上記関節プロテーゼからなり、前記膝関節大腿骨顆プロテーゼの前記境界層は平面板を複数回折り曲げた構造である。
【0026】
本発明は上記金属・セラミック複合関節プロテーゼの製造方法をさらに提供し、
前記金属体の三次元モデルを設計するステップと、
前記三次元モデルファイルを3Dプリント装置に入力して3Dプリントを行うステップと、
プリント成形された前記金属体を前記セラミック体の成形金型に装入し、前記根状層側にセラミックブランク粉体及び焼結助剤を充填して、前記成形金型を閉鎖し、前記セラミックブランク粉体及び焼結助剤を加圧して焼結前ブランクを形成するステップと、
整形された前記焼結前ブランクを焼結炉に入れて焼結し、前記根状フィラメントクラスタに結合されたセラミック体を形成するステップと、
前記セラミック体の関節摩擦面を研磨するステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施例1における金属体に1つの根状フィラメントクラスタが接続されている構造模式図である。
図2図1の断面構造模式図である。
図3】本発明の実施例1における金属体の構造模式図である。
図4図3の上面模式図である。
図5】本発明の実施例1の構造模式図である。
図6】本発明の実施例1の成形プロセスの模式図である。
図7】本発明の実施例1の成形模式図である。
図8】本発明の実施例1における第2種の境界層の構造模式図である。
図9】本発明の実施例1における第3種の境界層の構造模式図である。
図10】本発明の実施例1における第4種の境界層の構造模式図である。
図11】本発明の第1応用例の模式図である。
図12】本発明の第2応用例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の設計思想を明確に説明するために、以下、例を参照しながら本発明を説明する。
【0029】
当業者が本発明の技術案をよく理解できるため、以下、本発明の例の図面を参照しながら本発明の例の技術案を明確かつ完全に説明する。明らかなように、説明される例は単に本発明の一部の例であり、すべての例ではない。本発明の例に基づいて、当業者が創造的な努力をせずに想到し得るほかの実施形態はいずれも本発明の特許範囲に属する。
【0030】
本実施形態の説明では、用語「上」、「下」等で指示される方位又は位置関係はいずれも図示に基づく方位又は位置関係であり、単に本発明を簡潔に説明するためのものであり、係る装置又は要素が必ず特定の方位を有し、特定の方位で構成されたり操作されたりすることを指示又は暗示しないので、本発明を限定しないと理解すべきである。
【0031】
なお、ここで使用される用語は具体的な実施形態を説明するためのものであり、本願に係る例示的な実施形態を限定することを意図しない。ここで使用されるものについて、文脈から特に断らない限り、単数形は、複数形も含むことを意図し、また、本明細書で用語「含む」及び/又は「備える」を使用する場合、特徴、ステップ、操作、デバイス、ユニット及び/又はそれらの組合せが存在することを示す。
【実施例1】
【0032】
図1~7に示される実施例は、本発明の金属・セラミック複合プロテーゼを提供するものであり、金属体及びセラミック体4を備え、金属体は、一体成形され、多孔質構造層3、境界層2及び根状層1を備え、境界層2は多孔質構造層3と根状層1との間に位置し、根状層1は、境界層に接続され互いに接触しない複数の根状フィラメントクラスタを備え、根状フィラメントクラスタは、境界層に垂直に接続される主根1-1と主根の側面に接続される複数の側根1-2とを備え、側根1-2は境界層側から離れるように傾斜して延伸し、セラミック体4は根状フィラメントクラスタを被覆し境界層2上に成形される。
【0033】
本実施例の金属・セラミック複合関節プロテーゼは、1つの関節プロテーゼの製品では金属とセラミックの複合を実現するものであり、関節摩擦面に必要な耐摩耗セラミック体4を満たすだけでなく、骨性結合面に必要な良好な骨内殖効果を有する多孔質金属構造3を満たす。根状層1の根状フィラメントクラスタがセラミック体4内に植え込まれていることで、セラミック体4と金属体との緊密かつ安定的な接続が実現される。かつ、根状クラスタ同士が互いに接触しないため、該関節プロテーゼ製品は、セラミック体4の焼結完了後の冷却中、根状フィラメントクラスタ同士の接触によりセラミック体4が局所的分離されてセラミック体4に内部応力が集中することが回避され、セラミック体4の局所に破裂やひび割れが生じることが防止される。
【0034】
本実施例における金属体は3Dプリント、金属粒子焼結、高温スプレー等の方法によって得られてもよく、金属体の材質は、タンタル金属又はタンタル合金であり、具体的には、関節の使用の需要及び応用コストに応じて選択される。多孔質構造層3の孔径は50~1200マイクロメートルである。本実施例におけるセラミック体の材質はアルミナ系セラミック、ジルコニア系セラミック、炭化ケイ素系セラミック、及び医療用インプラントの要件を満たすほかのセラミック材料であってもよい。
【0035】
図6及び図7に示すように、セラミック体4は、セラミックブランク粉末で根状フィラメントクラスタを被覆し、境界層上に焼結成形してなる。セラミック体4の焼結中、根状フィラメントクラスタとセラミック体4は、熱膨張係数の差によって異なる程度で変形する。根状フィラメントクラスタとセラミック体4に内部応力が生じる時、タンタル金属又はタンタル合金自体が良好な延性を有するため、根状フィラメントクラスタ自体が変形してセラミック体4の変形に適応することができ、これにより、内部応力を低減させ、根状フィラメントクラスタとセラミック体4をさらに緊密に結合させることができる。本実施例では、セラミック体4の材質としてアルミナ系セラミック、ジルコニア系セラミック又は炭化ケイ素系セラミックを選択する理由について、上記材料はタンタルと非常に近い熱膨張係数を有するためであり、アルミナセラミックの熱膨張係数は7.5×10-6/℃、ジルコニアの熱膨張係数は9.6×10-6/℃、炭化ケイ素の熱膨張係数は4.7×10-6/℃、タンタル金属の熱膨張係数は6.6×10-6/℃であり、それによってセラミック体4と根状フィラメントクラスタは近い熱膨張状況を有する。また、タンタル金属の溶融点は2995℃と高く、セラミックの焼結温度よりも遥かに高いため、焼結中、セラミック体4と根状フィラメントクラスタは大きすぎる熱膨張係数差によって不必要な内部応力が生じることなく、さらに根状フィラメントクラスタとセラミック体4をより緊密に結合できることが確保される。
【0036】
図1に示すように、側根1-2と主根1-1との接続部位は主根1-1と境界層2との接続部に近く、それによって側根1-2が主根1-1にさらに強固に接続される。図2に示すように、側根1-2と主根1-1の軸線の夾角αは45°以下であり、本実施例では、α=30°であるため、セラミック体4の焼結成形中、側根1-2と境界層2との間のセラミック体には、大きすぎる引張応力又は圧縮応力が生じることがない。
【0037】
図5に示すように、本実施例における境界層2は板状構造であり、複数の根状フィラメントクラスタは境界層2の表面に規則的に接続される。
【0038】
互いに隣接し且つ距離が最も近い3つの根状フィラメントクラスタの、前記境界層における投影の中心を結ぶ線は正三角形を構成し、図3及び図4に示すように、隣接する行の根状フィラメントクラスタ間の縦方向距離が等しく、異なる行の根状フィラメントクラスタが間隔をあけて設けられ、且つ隣接する根状フィラメントクラスタ間の距離が等しい。根状フィラメントクラスタがこのように配置されることで、根状フィラメントクラスタがセラミック体4内に均一に分布し、セラミック体4内の各方向に隣接する根状フィラメントクラスタの間隔が等しく、これにより、根状フィラメントクラスタがより均一に荷重を受けることができる。
【0039】
主根1-1及び側根1-2の直径はいずれも0.1~2ミリメートルである。
【0040】
本実施例における境界層2は図5に示される平板構造であってもよく、図8に示される構造であってもよく、すなわち、図5に示される板状構造には規則的に配列された複数の溝2-1が設けられ、隣接する溝の間に支持壁2-2が形成され、根状フィラメントクラスタは、異なる支持壁2-2の交差部の上面に接続される。図8に示すように、溝2-1は立方体構造の溝であり、溝を設ける際に、溝の底壁の厚さが強度要件を満たすことを確保する必要があり、根状フィラメントクラスタは互いに直交する4つの支持壁2-2が交差する上面に接続される。支持壁2-2が設けられることで、境界層2の強度を強化できる。且つ、根状フィラメントクラスタは、異なる支持壁2-2の交差部の上面に接続されることで、根状フィラメントクラスタと境界層2の接続強度が確保される。支持壁2-2は、厚さが0.1~3mm、高さが0.25~2.5mmである。
【0041】
本実施例では、溝2-1の空間形態は立方体構造に限定されず、ほかの形状であってもよく、例えば、円柱状、角柱状及びほかの不規則な立体形状が挙げられ、図9では、境界層の溝2-1は三角柱状である。
【0042】
本実施例では、境界層2はさらに図10に示される構造であってもよく、板状構造には、複数の規則的に配列された長尺状の補強リブ2-3が設けられ、根状フィラメントクラスタは補強リブ2-3の上面に等間隔に接続される。図10に示すように、境界層には、互いに直交する2組の補強リブ2-3が設けられ、各組に複数の補強リブが設けられ、根状フィラメントクラスタが補強リブ2-3の上面に等間隔に接続され、補強リブ2-3は、厚さが0.1~3mm、高さが0.25~2.5mmである。
【0043】
本発明の境界層は、さらに患者の骨床の形状及び生体力学の点から見て、平板、溝及び補強リブのうちの少なくとも2種を組み合わせた構造として設けられてもよい。
【0044】
本実施例における関節プロテーゼは、多孔質構造層が人体の骨に接続されることで、人体の骨が多孔質構造層内に内殖しやすく、関節プロテーゼを生体力学的に固定し、関節プロテーゼをより強固に固定する目的を達成することができる。本実施例では、金属・セラミック複合関節プロテーゼは、例えば、股関節プロテーゼ、膝関節プロテーゼ、肩関節プロテーゼ、踝関節プロテーゼ、側頭下顎関節プロテーゼ、肘関節プロテーゼ、手首関節プロテーゼ等のような様々な人工関節に適用できる。図11及び図12に示すように、本実施例における上記構造の関節プロテーゼの2種の応用例が提供され、図11は股関節プロテーゼの模式図であり、図12は膝関節プロテーゼの模式図である。図12では、膝関節脛骨高原プロテーゼの境界層2は平面構造であり、残りの部分の関節プロテーゼは曲面構造である。関節プロテーゼの製造時において、金属体の境界層2を図11の股関節寛骨臼カッププロテーゼ7に示される曲面板状構造としてもよく、境界層2を、図11の股関節ボールヘッドプロテーゼ6及び図12の膝関節大腿骨顆プロテーゼ9に示される平面板を複数回折り曲げた構造としてもよい。境界層2のこれらの2種類の構造には、根状フィラメントクラスタの軸線が交差する状況が存在し、このような根状フィラメントクラスタがセラミック体4により強固に結合できる。特に境界層2が曲面板状構造である場合には、根状フィラメントクラスタとセラミック体4の結合効果がさらに良好であり、セラミック体4と根状フィラメントクラスタは相対変位してセラミック体4の内部摩耗を引き起こすことがない。一方では、大部分の関節プロテーゼが曲面であるため、境界層を上記2種類の構造のうちの一方とする必要があり、これにより本実施例における関節プロテーゼは、より長い寿命を有する。
【実施例2】
【0045】
本発明は実施例1における金属・セラミック複合関節プロテーゼを製造する製造方法をさらに提供するものであり、以下のステップを含む。
【0046】
金属体の三次元モデルを設計するものであり、
三次元モデルファイルを3Dプリント装置に入力して3Dプリントを行い、実施例1における根状層1、境界層2及び多孔質構造層3を得る。3Dプリント装置は金属3Dプリント装置であり、
プリント成形された金属体を前記セラミック体の成形金型に装入し、前記根状層側にセラミックブランク粉体及び焼結助剤を充填して、前記成形金型を閉鎖し、前記セラミックブランク粉体及び焼結助剤を加圧して焼結前ブランクを形成する。境界層2の存在によって、多孔質構造層へのセラミックブランク粉体の拡散を阻止するとともに、焼結前ブランクの成形面を提供する。
【0047】
整形された焼結前ブランクを焼結炉に入れて焼結し、根状フィラメントクラスタに結合されたセラミック体4を形成する。整形の目的は、セラミックブランク粉体と根状フィラメントクラスタに良好な結合効果を与え、成形されたセラミック体4と根状フィラメントクラスタをより緊密に結合することである。
【0048】
関節摩擦面の滑らかさが活動摩擦の要件を満たすことを確保するように、セラミック体4の関節摩擦面を研磨する。
【0049】
なお、上記説明された具体的な実施例の以外、そのいくつかの構造は異なる形態としてもよい。これらは、当業者が本発明の思想を理解したうえでその基本スキルに基づいて想到できるものであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0050】
最後に、以上の実施形態は本発明の原理を説明するために採用される例示的な実施形態であるが、本発明はこれらに限定されないと理解できる。当業者であれば、本発明の原理及び趣旨を逸脱せずに種々の変形や改良を行うことができ、これらの変形や改良も本発明の特許範囲に属する。
【符号の説明】
【0051】
1、根状層;1-1、主根;1-2、側根;
2、境界層;2-1、溝;2-2、支持壁;2-3、補強リブ;
3、多孔質構造層;4、セラミック体;5、成形金型;6、股関節ボールヘッドプロテーゼ;7、股関節寛骨臼カッププロテーゼ;8、人体の大腿骨;9、膝関節大腿骨顆プロテーゼ;10、膝関節ガスケット;11、膝関節脛骨高原プロテーゼ。

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