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特許7100365キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)ファミリーのシグナル伝達を標的とするモノクローナル抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)ファミリーのシグナル伝達を標的とするモノクローナル抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220706BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220706BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220706BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220706BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220706BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220706BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220706BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220706BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220706BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220706BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/28
A61K39/395 T
A61P35/00
A61K45/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018569121
(86)(22)【出願日】2017-06-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 US2017037038
(87)【国際公開番号】W WO2018005054
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-10
(31)【優先権主張番号】62/356,815
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521055703
【氏名又は名称】トレリス・バイオサイエンス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【弁理士】
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】エステルス, エンジェルス
(72)【発明者】
【氏名】ギシツキー, ミハイル
(72)【発明者】
【氏名】リザー, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】カウヴァール, ローレンス エム
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/069589(WO,A1)
【文献】特表2014-520092(JP,A)
【文献】特表2008-506368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キラーIgG様40受容体(KIR) KIR2DS4の細胞外部分ならびに抑制性KIR2DL1、KIR2DL2、およびKIR2DL3の細胞外部分に結合するモノクローナル抗体(mAb)であって、TRL8605の重鎖可変領域(配列番号5)およびTRL8605の軽鎖可変領域(配列番号6)
を含むmAb。
【請求項2】
Fv抗体、二重特異性抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、または前記可変領域に対して異種の一般的な定常領域を含む完全抗体である、請求項1に記載のmAb。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のmAbを単独でまたは組み合わせてコードする、1つ以上の核酸。
【請求項4】
請求項に記載の1つ以上の核酸を含む、1つまたは複数の組換えベクター。
【請求項5】
請求項に記載の1つまたは複数のベクターを含む細胞。
【請求項6】
請求項に記載の細胞を培養し、産生されたmAbを回収することを含んでなる、KIRの細胞外部分に結合するmAbの製造方法。
【請求項7】
対象者における癌を治療する方法で使用するための、請求項1または請求項2に記載のmAb。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載のmAbを、少なくとも1つの賦形剤と共に含有する、医薬用組成物または動物薬用組成物。
【請求項9】
追加の抗腫瘍剤をさらに含む、請求項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年6月30日に出願された米国仮特許出願第62/356,815号からの優先権を主張する。上記出願の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、免疫チェックポイントモジュレーター(immune checkpoint modulator:ICM)として作用する物質および方法に関する。より具体的には、本発明は、抑制性のキラー免疫グロブリン様受容体(Killer Immunoglobulin-like Receptor:KIR)ファミリーのシグナル伝達を低下させることによって、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)による腫瘍細胞の殺傷を増強する抗体に関する。本発明はまた、そのような作用物質の製薬学的用途、ならびにトランスフェクトした細胞株を用いてそのような作用物質を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
過去20年間にわたり、癌に対する抗体治療薬の発見は、腫瘍細胞に関連するタンパク質(腫瘍関連抗原としても知られる)に焦点が当てられてきた。VEGF、Her2、EGFR、およびCD20を標的とするものを含む、いくつかのそのような抗腫瘍抗体医薬が商品化されている。腫瘍関連抗原に対する自然免疫応答が非常に変化しやすいことにより、外因性のこれらの抗体の供給が必要となっている。この変化のしやすさは、一部には、腫瘍が免疫抑制因子を分泌することに起因している。
【0004】
過去5年間で、免疫系を刺激することにより作用し、それによって癌と闘う身体の自然な能力を向上させる、新しいクラスの癌治療薬が臨床的に開発されている。このクラスの治療薬は、免疫チェックポイントモジュレーター(ICM)として知られている。これまでのところ、このクラスの薬物全ては、それ自体が抗体であり、例えば、承認薬であるヤーボイ(Yervoy(商標))(イピリムマブ)、オプジーボ(Opdivo(商標))(ニボルマブ)、およびキイトルーダ(Keytruda(商標))(ペンブロリズマブ)が含まれており、それぞれの標的はCTLA-4、PD-1およびPD-L1である。これらのICM抗体は、免疫系に対するブレーキを一時的に解除することによって、腫瘍により誘発される免疫抑制に対抗している。ICM薬は、免疫抑制因子を分泌することが多いメラノーマの治療に特に有効であることが判明している。
【0005】
これらの第一世代ICM抗体の組み合わせにより効果が増強されることが臨床的に観察されているが、これと同時に自己免疫疾患に似た毒性が増加する。したがって、さらなる改善は、免疫系刺激の悪影響を最小限に抑えながら、抗腫瘍免疫を強化する薬剤の組み合わせを同定することにかかっている。ICM活性を有する天然のヒト抗体に基づくモノクローナル抗体は、良好な寛容性を示すように既に自然に選択されているため、特に興味深い。そのような抗体は、特定のICM標的に、またはそれらの標的上の特定のエピトープに、優先的に結合することができる。学術論文には、20種を超える潜在的なICM標的が記載されている。
【発明の概要】
【0006】
本発明のICM標的は、17種類の遺伝子(2種類の偽遺伝子を含む)を含む、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)ファミリーのメンバーである。
【0007】
米国特許第9,018,366号は、マウスハイブリドーマに由来するKIRファミリーに対するいくつかのモノクローナル抗体を開示している。本明細書に開示される、天然のヒト免疫レパートリーに由来する抗体は、‘366特許に記載された抗体とは異なっている。
【0008】
発明の開示
本発明は、ヒト免疫系のメモリーB細胞コンパートメント内の希少抗体(特異性と親和性によって定義される)に基づいたモノクローナル抗体(mAb)を提供する。驚くべきことに、天然の抗体が、癌がない健康な血液ドナーにおいて同定され、該ドナーからクローニングされた。すなわち、ICM抗体の投与によって代表されるこの薬理学的アプローチに対応する作用が天然にも存在し、このことは、健康な個体では初期の腫瘍が免疫系によって排除されるという長期にわたる免疫監視機構(immune surveillance)の概念と一致している。ICM標的に対する高親和性抗体を産生するメモリーB細胞が低頻度であることもまた、天然のICM機構が一過性であり、長期の自己免疫疾患をもたらすことなくメモリーB細胞レパートリーにフットプリントを残していくことを示唆している。
【0009】
したがって、本発明のmAbは、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)上に発現したKIRファミリーに対する天然のヒト抗体に基づいている。多くの腫瘍は、細胞傷害性T細胞からの攻撃を逃れるために、主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex:MHC)クラスI分子の発現をダウンレギュレートしている。しかし、これにより、「自己性の喪失」(missing self)の認識として知られるプロセスを介したNK細胞による細胞溶解への感受性が増大する。いくつかのKIRファミリーのメンバーによるヒトMHC(HLA抗原)の会合は、健康な細胞にとっては有用な、NK細胞媒介細胞傷害性を妨げる抑制性のシグナル伝達をもたらす。抑制性KIRのそれらのHLAリガンドへの結合を遮断する抗体は、腫瘍細胞のNK媒介殺傷を増強するのに有用である。
【0010】
一態様では、本発明は、KIRファミリーのメンバーを標的とする、単離された天然ヒト抗体に由来しかつ組換え的に産生されたモノクローナル抗体に関する。本発明の抗体は、単離された該抗体の可変領域を含み得るが、一般的に、完全抗体の形態で産生された場合には、単離された形態に生来でない一般的(generic)な定常領域を含むことができる。さらに、mAbは、F抗体を含む抗原結合フラグメントのみの形態であってもよい。それらはまた、いずれかの特定の種の抗体に類似するように改変することもでき、すなわち、イヌ、ネコ、例えばウシ、ヒツジ及びブタなどの家畜、ならびにウマ種など獣医学的に関心のある種を含む種に、「種化」(specie-ized)することができる。
【0011】
本発明はまた、これらの抗体を産生するための組換え材料、それらの産生方法、および癌を治療するための使用方法に関する。したがって、医薬用組成物および動物用(veterinary)組成物も含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に開示される抗体などのヒト関連抗体は、有効性の観点(健康なドナーからクローン化されたものに基づいている)と安全性の観点(毒性を生じさせるオフターゲット反応性の可能性の減少)の両方から特に好ましいものである。天然のヒトレパートリーにおける、特定の標的に対するヒト抗体の頻度は、典型的には、免疫化マウスのレパートリーおけるそれよりも数桁低い。したがって、何百万もの個々の抗体産生ヒトBリンパ球を詳しく調べることができるハイスループット技術が必要とされる。ヒトB細胞は生体外で非常に限られた寿命(10日未満)を有するので、この技術もその時間内で行われなければならない。
【0013】
本発明の抗体のベースとなる抗体は、以前に記載されたCellSpot(商標)技術(米国特許第7,413,868号および第7,939,344号;参照により本明細書に組み込まれる)を用いて同定された。このアッセイ方法は、ELISAと同等のアッセイを、単一細胞から該細胞の近くにフットプリントとして分泌されたIgGを捕捉することによってほぼ単一細胞の寸法の仮想ウェルにまで効果的に縮小するものである。この方法では、500万個のB細胞を容易に分析することができる。さらに、微視的な多重化試薬(コンビナトリアルに着色された蛍光ラテックスミクロスフェア;米国特許第6,642,062号参照;参照により本明細書に組み込まれる)の使用により、各細胞が分泌する抗体のフットプリントは、多数の生化学的プローブを用いて特異性および/または親和性について詳細に特徴づけられる。この定量的アッセイの忠実度は、調査集団から極めて稀な好ましい細胞を抽出するのに十分である。クローン化された抗体をコードする遺伝子は、外因性細胞において発現されても典型的には、元の同定アッセイと一致する表現型を示す。
【0014】
本発明の完全ヒトの完全抗体は、天然に実際に見出されるものとは区別される。なぜならば、それらは、重鎖および/または軽鎖の定常領域の一般的な形態をコードし、かつヒト抗体に代表的な関連する異種可変領域をさらにコードする核酸を構築することによって、組換えにより調製されるからである。さらに、B細胞はアッセイ前に培養されるので、このエクスビボ同定期間中に突然変異が生じる可能性がある。
【0015】
本明細書で使用する用語「抗体」または「mAb」は、免疫特異性または抗原結合性を依然として保持している、従来の抗体またはmAbの免疫反応性フラグメント、例えばFab、F(ab’)、Fフラグメント、ならびに重鎖および軽鎖の可変領域が定常領域の一部または全部を含まずに直接結合している一本鎖抗体を含む。また、1つの抗体源に由来する重鎖と軽鎖の対および異なる抗体源に由来する重鎖と軽鎖の対を含む二重特異性抗体も含まれる。同様に、軽鎖はしばしば特異性を喪失させることなく交換可能であるので、抗体の特異性を決定する重鎖可変領域を異種の軽鎖可変領域と組み合わせた抗体は、本発明の範囲内に含まれる。例えば、異なる種に由来する定常領域と可変領域を有するキメラ抗体、及び種化(species-ized)形態も含まれる。
【0016】
特異性を決定する可変領域の重要なアミノ酸配列は、フレームワーク上に配置されたCDR配列であり、そのフレームワークは、必ずしも特異性に影響を与えたりまたは許容できないレベルにまで親和性を低下させたりすることなく、変えることができる。こうしたCDR領域を特定することは、当技術分野で公知の方法により達成される。具体的には、関連するCDR領域を同定するための最も一般的に使用される方法は、Kabatの方法であり、例えば、Wu, T. T., et al., J. Exp. Med. (1970) 132:211 250およびKabat, E. A., et al. (1983) Sequence of Proteins of Immunological Interest, Bethesda National Institute of Health, 323ページに開示されている。別の同様の一般的に使用される方法は、Chothiaの方法であり、例えば、Chothia, C., et al., J. Mol. Biol. (1987) 196:901 917およびChothia, C., et al., Nature (1989) 342:877 883に発表されている。さらなる改良が、Abhinandan, K. R., et al., Mol. Immunol. (2008) 45:3832 3839により提案されている。本発明は、これらのシステムまたは当技術分野で公知の他の認識されたシステムのいずれかによって特定されたCDR領域を含む。
【0017】
本発明のmAbの結合特異性は、述べたように、CDR領域、主に重鎖のCDR領域によって決まるが、軽鎖のCDR領域によっても補完される(軽鎖はある程度交換することができる)。したがって、本発明のmAbは、重鎖の3つのCDR領域と、任意で、それに適合する軽鎖の3つのCDR、を含むことができる。結合親和性は、CDRがフレームワーク上に配置される様式によっても決定されるため、本発明のmAbは、3つの関連するCDRを含む重鎖の完全な可変領域だけでなく、任意で、問題の重鎖を補完する軽鎖に関連した3つのCDRを含む完全な軽鎖可変領域を含み得る。これは、単一のエピトープに免疫特異的であるmAb、ならびに2つの別々のエピトープに結合することができる二重特異性の抗体または結合部分(binding moiety)について当てはまる。
【0018】
二重特異性結合部分は、異なる特異性を有する2つの異なる結合部分を共有結合で連結させることによって形成され得る。現在、2つの別々の抗体由来の抗原特異性ドメインを組み込んだ単一抗体様分子(二重特異性抗体)を作製するための多くの技術が存在している。適切な技術は、MacroGenics社(Rockville, MD)、Micromet社(Bethesda, MD)およびMerrimac社(Cambridge, MA)により記載されている。(例えば、Orcutt, K. D., et al., Protein Eng. Des. Sel. (2010) 23:221 228; Fitzgerald, J., et al., MAbs. (2011) 1:3; Baeuerle, P. A., et al., Cancer Res. (2009) 69:4941 4944参照。)例えば、1つの単一特異性mAb由来の重鎖と任意で軽鎖のCDR領域を、適切な連結手段を介して、別のmAbの重鎖配列と任意で軽鎖のCDR領域を含むペプチドに結合させることができる。その連結がアミノ酸配列を介する場合には、二重特異性エンティティ(entity)の全体をコードする核酸を組換えにより発現させて、二重特異性結合部分を組換え的に産生させることができる。単一特異性を有する結合部分の場合と同様に、本発明はまた、実際にCDR領域を含む二重特異性の抗体または結合エンティティ/結合部分と同じエピトープの一方または両方に結合する結合部分も含む。本発明はさらに、完全な重鎖配列と軽鎖配列、または完全な重鎖配列と軽鎖の少なくともCDR、または重鎖のCDRと完全な軽鎖配列、を含む二重特異性構築物を包含する。
【0019】
上述したように、本発明のmAbは、KIRファミリー受容体のメンバーに対するものである。
【0020】
KIRファミリー受容体の名称は構造に基づいており、細胞外免疫グロブリン様ドメイン(D)の数および細胞質内尾部の長さ(LongまたはShort)を含む。特定の遺伝子を示すために最後の数字が追加される。KIRファミリーメンバーの大部分は抑制性であるが、刺激性のものもある。これらの遺伝子の異なる組み合わせが様々な程度で発現している。抑制性シグナル伝達と刺激性シグナル伝達のさらなるバランスは、KIR遺伝子内の多形と、KIRファミリーメンバーの一部のみを発現する個々の細胞で決められる。ヒトの約50%はハプロタイプAと呼ばれる特定の組み合わせを発現し、これは主に抑制性受容体:KIR2DL1-3およびKIR3DL1-3をコードする。ハプロタイプAは活性化受容体KIR2DS4およびKIR2DL4をも含む;しかしながら、KIR2DS4は大多数の事例では機能を欠いており、多くのKIR2DL4対立遺伝子産物は細胞表面上に提示されない。
【0021】
本発明のmAbは、公知の技術を用いて組換え的に産生させることができる。したがって、本明細書に記載される新規抗体に関して、本発明はまた、それらをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子、ならびにこれらのヌクレオチド配列を含むベクターまたは発現系、これらのヌクレオチド配列の発現のための発現系またはベクターを含む細胞、およびこれらの細胞を培養して、産生された結合部分を回収することによる該結合部分の産生方法に関する。組換え法で一般的に使用される細胞は、原核細胞、酵母、哺乳動物細胞、昆虫細胞および植物細胞を含めて、どのようなタイプの細胞でも使用することができる。また、新規抗体をコードする組換え分子で形質転換されたヒト細胞(例えば、筋細胞またはリンパ球)も含まれる。
【0022】
典型的には、本発明のmAbのための発現系は、発現の制御配列に結合されたタンパク質をコードする核酸を含む。多くの実施形態において、制御配列は該タンパク質をコードする核酸に対して異種である。したがって、本発明は、上記のように、二重特異性mAbを含む本発明のmAbのいずれかをコードする核酸、およびそれらを産生させるための組換え方法に関する。
【0023】
本発明はまた、活性成分として本発明のmAbを含む医薬用組成物および動物用組成物に関する。これらの組成物は、緩衝剤および他の単純な添加物などの適切な生理学的に適合しうる添加物を含有するか、またはリポソーム製剤もしくは遅延放出製剤などのより複雑な製剤であり得る。該組成物は、追加の活性成分、特に抗腫瘍化学療法剤を含んでもよい。本発明のmAbは診断にも使用することができる。
【0024】
本発明のmAbおよびその組成物は、ヒトおよび他の対象者、例えば動物対象者、における固形腫瘍および血液の腫瘍ならびにメラノーマを含めて、腫瘍の治療に有用であるだけでなく、研究室内実験、例えばラットまたはマウスでの実験を行う際にも有用である。必要とされる投与量は可変的であり、主治医の判断に任される。当業者であれば、治療される対象者の状態ならびに身体的特徴に応じて用量が適切に調整されることを理解するであろう。
【0025】
添加物を含む従来の製剤、投与方法および治療の適応症は、米国特許第9,018,366号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されており、本発明に含まれる。
【実施例
【0026】
実施例1
インフォームドコンセントのもとに得られた、Stanford Blood Centerの匿名ドナーからのヒト末梢血単核細胞(PBMC)を、米国特許第7,413,868号および第7,939,344号に記載されるCellSpot(商標)アッセイを用いて、KIR2DL3を含むICM標的についてスクリーニングした。全血から分離したB細胞を、短期間の増殖、分化および抗体分泌(約5日間継続)を開始させるためにサイトカインおよびマイトジェンで刺激し、アッセイに供するためにプレーティングした。陽性抗体の可変領域をコードする核酸を抽出し、該核酸を使用して抗体を次のように組換え的に産生させた:シグナルペプチドを含む発現ベクターに該DNAをクローニングし、可変領域をコードする該DNAと、抗体の定常領域をコードする独立してクローニングされたDNAとを融合する。
【0027】
KIR2DL3を含めて、異なるICM抗原への結合についての22人の血液ドナーの調査は、22人のうち19人のドナーにおいて抗KIR抗体の検出をもたらした。多反応性抗体を排除するためにカウンタースクリーン(counterscreen)としてBSAを使用した。こうして、以下に記載した4種のmAbが得られた。
【0028】
【表1】
【0029】
上記の配列を、米国特許第9,018,366号にマウス抗体について記載されたものと比較した。2つの例は、1-7F9および1-4F1と命名されている。1-7F9と比較すると、TRL8605 VH遺伝子は配列において51%同一であり(61%保存)、VLは62%同一である(75%保存)。1-4F1と比較すると、TRL8605 VH遺伝子は配列において51%同一であり(61%保存)、VLは59%同一である(68%保存)。
【0030】
実施例2
実施例1で調製したmAbを、購入したまたは社内で生産した異なるKIR細胞外ドメイン(ECD)を用いて吸着ELISAで試験した。連続希釈により、結合親和性(以下の表2にnMで記載)を算出することができた;ND:不検出。TRL8605は、いくつかのKIRファミリーメンバーに対してサブnM(sub-nM)の親和性を示す。
【0031】
【表2】
【配列表】
0007100365000001.app