(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】レーザ加工ヘッド
(51)【国際特許分類】
B23K 26/14 20140101AFI20220707BHJP
B23K 26/38 20140101ALN20220707BHJP
【FI】
B23K26/14
B23K26/38 A
(21)【出願番号】P 2020542104
(86)(22)【出願日】2019-01-31
(86)【国際出願番号】 EP2019052379
(87)【国際公開番号】W WO2019149819
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】102018102337.5
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516234100
【氏名又は名称】プレシテック ゲーエムベーハー ウント ツェーオー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オピツ フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ルース クリスチャン
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-217397(JP,A)
【文献】国際公開第2016/135907(WO,A1)
【文献】特開2000-225488(JP,A)
【文献】特開2005-021908(JP,A)
【文献】米国特許第04467171(US,A)
【文献】国際公開第2017/081766(WO,A1)
【文献】特開平08-057676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
均質なガス流を生成するため
のガス供給装置(100)
を備えるレーザ加工ヘッドであって、
ガス入口(110)と、
レーザビームと前記ガス流とを重ね合わせるための共通容積部(120)と、
前記ガス入口(110)から延びて少なくとも3つのガス流路(305,405,505)に分岐するガス流路システムであって、各前記ガス流路が、前記ガス入口(110)を前記共通容積部(120)に設けられた少なくとも1つの出口開口部(132)に接続する、ガス流路システム(130,300,400,500)と、
前記共通容積部(120)の第1の端部に位置し、前記均質なガス流を供給する送出開口部(142)と
を備え、
前記ガス流路システム(130,300,400,500)は、前記ガス入口(110)から前記共通容積部(120)へのフロー経路に沿って連続的に配置された少なくとも2つの分岐点(302,304;402,404,406)を含み、前記ガス入口(110)に接続された第1のガス流路が第1の分岐点(302;402)で少なくとも2つの第2のガス流路に分割されており、当該第2のガス流路の各々が第2の分岐点(304;404)で少なくとも2つの第3のガス流路に分割されている、
レーザ加工ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の
レーザ加工ヘッドであって、前記ガス入口(110)から前記出口開口部(132)までのそれぞれの流路長が実質的に同じである、
レーザ加工ヘッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載の
レーザ加工ヘッドであって、前記ガス流路(305,405,505)が孔として構成されている、
レーザ加工ヘッド。
【請求項4】
請求項1または2に記載の
レーザ加工ヘッドであって、前記ガス流路システム(130,300,400,500)が平面に対して対称であり、その平面が、レーザ加工ヘッドの光軸(1)に実質的に平行であること、および/または、前記ガス入口(110)を通って延びること、および/または、前記共通容積部(120)の対称面であることを特徴とする、
レーザ加工ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の
レーザ加工ヘッドであって、前記平面が、前記ガス供給装置(100)の中心平面であること、および/または、前記ガス流路システムの分岐点(302,304;402,404,406)を通る中心平面であることを特徴とする、
レーザ加工ヘッド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の
レーザ加工ヘッドであって、集積容積部(510)が、前記ガス流路(305,405,505)と前記共通容積部(120)における前記出口開口部(132)との間に配置されている、
レーザ加工ヘッド。
【請求項7】
請求項6に記載の
レーザ加工ヘッドであって、前記ガス入口(110)から前記集積容積部(510)までのそれぞれの流路長が実質的に同じである、
レーザ加工ヘッド。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の
レーザ加工ヘッドであって、整流部材(520)をさらに備え、当該整流部材は、前記ガス流が前記ガス流路システム(500)から当該整流部材を介して前記共通容積部(120)内へ導かれるように配置されている、
レーザ加工ヘッド。
【請求項9】
請求項8に記載の
レーザ加工ヘッドであって、前記整流部材(520)が、管束、ふるい、フィン、ハニカム部材、および静定
用流路から成るグループから選択される、
レーザ加工ヘッド。
【請求項10】
請求項8または9に記載の
レーザ加工ヘッドであって、前記整流部材(520)が、前記共通容積部(120)の周辺部の周りに対称に分布する複数の静定
用流路(522)を含む、
レーザ加工ヘッド。
【請求項11】
請求項10に記載の
レーザ加工ヘッドであって、前記静定
用流路(522)の数が4~24または8~16であること、および/または、前記静定
用流路(522)における区域直径Dの区域長Lに対する比D/Lが0.05~0.3または0.1~0.3であることを特徴とする、
レーザ加工ヘッド。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の
レーザ加工ヘッドであって、前記ガス流路システム(130,300,400,500)のガス流路は、全ての後続のガス流路にわたってガス流が均一に分布されるように、各前記分岐点(302,304;402,404,406)にて2つまたはそれ以上の後続のガス流路に分岐する、
レーザ加工ヘッド。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の
レーザ加工ヘッドであって、当該ガス供給装置は、前記レーザ加工ヘッドに組み込まれるか、またはその一部分を形成し、
前記ガス供給装置(100)はさらに、前記送出開口部(142)の反対側にある前記共通容積部(120)の第2の端部に、前記ガス供給装置(100)をレーザ加工ヘッドに固定するための少なくとも1つの固定手段を備える、
レーザ加工ヘッド。
【請求項14】
請求項
1から13のいずれか一項に記載のレーザ加工ヘッドであって、光学素子をさらに備え、前記ガス供給装置の前記共通容積部(120)が、前記光学素子と、前記レーザ加工ヘッドのノズル開口部との間に配置される、レーザ加工ヘッド。
【請求項15】
請求項
1から13のいずれか一項に記載のレーザ加工ヘッドであって、
光学素子をさらに備え、前記共通容積部(120)が前記光学素子のすぐ後ろに配置され、前記出口開口部(132)は、各前記出口開口部(132)を通って流れるガス流を前記光学素子に対して0°~90°の角度に向けるように構成される、レーザ加工ヘッド。
【請求項16】
請求項
1から15のいずれか1項に記載のレーザ加工ヘッドであって、前記ガス供給装置の前記ガス入口(110)は、前記レーザ加工ヘッドにおける切断用ガスのための唯一のガス入口である、レーザ加工ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガス供給装置と、それを備えたレーザ切断用などのレーザ加工ヘッドとに関する。本開示は特に、ワークピースのレーザ切断のためのガス供給に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばレーザ溶接用またはレーザ切断用のレーザ加工ヘッドなどの、材料をレーザによって加工する装置において、レーザ光源またはレーザガイドファイバの端部から出射されるレーザビームは、ビームの案内および集束用の光学系を用いて、加工対象のワークピース上に集束またはコリメートされる。一般的に、コリメート光学系および集束光学系を備えたレーザ加工ヘッドが使用され、レーザ光は光ファイバを通じて供給される。
【0003】
レーザ放射を用いて金属材料を切断する場合に通常、レーザビームと共にガス流が加工ヘッドから発せられる。この目的のために、切断用ノズルが加工ヘッドに取り付けられ、それを通じて、レーザ放射および切断用ガスが加工対象のワークピースに向けられる。切断用ガスは、切断プロセスにおいて様々な役割を果たす。一方では、切断用ガスは、切断前部と切断側部に圧力と剪断力を伝達することで、切り口からの溶融材料の排出を支援する。ステンレス鋼の切断時には、切断用ガスのこの機能が優位を占めるため、当該用途には不活性媒体(通常は窒素N2)が使用される。他方、構造用鋼の切断時には、反応性ガス(通常は酸素O2)が使用される。この用途では、切断用ガスは、鉄の酸化鉄への変換を可能にすることで切断プロセスを支援する。このようにして、レーザ放射に加えて、反応熱がプロセスに追加的に導入される。また、構造用鋼の切断時にも、溶融物排出の機能は維持される。3つ目の役割として、切断用ガスは、運動量移動を通じてプロセスの排出物を偏向させることによって、加工ヘッドの最後の光学素子が汚染されることを防ぐ。
【0004】
切断用ガスの上記機能において、且つ、特にそれらのうちの溶融物排出及び酸化反応の機能においては、切断用ノズルからのガス送出時に、フローの変数が、フロー断面にわたって可能な限り均一且つ対称に分布していると有利である。より厚さが大きいシート(s>10mm)の加工時、および、より強いレーザ出力(P>4kW)の使用時に、プロセス結果にとって、フロー変数の均一分布がより重要になる。可能な限り均一なフロー変数の分布によって、得られる切断エッジの表面品質および直角度が改善され、より速い切断速度を達成できる。
【0005】
米国特許第4467171号には、集束ビームをワークピース上の点に向ける、レーザ切断装置用のレーザ切断用ノズルが記載されている。そのノズルは、円錐形状の中空内部を有する円錐形先端部を含む円筒形の本体を備える。複数のガス入口孔が本体を貫通して上記中空内部まで延びており、それによって、ガス渦流がノズル内に同軸に生成され、円錐形先端部の開口部を通じてワークピースに向けられる。
【0006】
欧州特許出願公開第0695600号には、ハウジング内に保持された集光レンズの付近にガスを導入するためのガス分配器を含むレーザ加工ヘッドが記載されている。そのガス分配器は、上記レンズの表面から離れてノズル出口に向かうように方向付けられたガス過流を生成する複数の角度付き分配スロットから成る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第4467171号
【文献】欧州特許出願公開第0695600号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、加工ヘッドのためのガス供給装置と、それを備えた加工ヘッドとを提供することを目的とし、その加工ヘッドは、特にレーザ切断用のレーザ加工ヘッドである。これらにより、切断エッジの表面品質および直角度が改善され、高い切断速度が達成される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、独立請求項の記載内容によって達成される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項に明記されている。
【0010】
本開示の実施形態によれば、均質なガス流を生成するためのレーザ加工ヘッド用ガス供給装置は、ガス入口と、レーザビームとガス流とを重ね合わせるための共通容積部と、ガス入口から延びて少なくとも2回分岐するとともに、ガス入口を共通容積部に設けられた複数の(たとえば少なくとも3つの)出口開口部に接続するガス流路システムとを備える。すなわち、ガス流路システムは、ガス入口から共通容積部へのフロー経路に沿って連続的に配置され得る少なくとも2つの分岐点を含むこと、および/または、それぞれがガス入口を少なくとも1つの出口開口部に接続する少なくとも3つのガス流路を含むことが可能である。ガスシステムは、流れるガス流が2つの後続のガス流路間で等しく分割される箇所である少なくとも1つの分岐点を有する場合がある。代替的または追加的に、ガス流路システムは、ガス流が少なくとも3つのガス流路に均等に分割される箇所である少なくとも1つの分岐点を有する場合がある。
【0011】
本開示のさらなる実施形態によれば、均質なガス流を生成するためのレーザ加工ヘッド用ガス供給装置は、ガス入口と、レーザビームとガス流とを重ね合わせるための共通容積部と、ガス入口から延びて少なくとも3つのガス流路に分岐するガス流路システムとを備え、各ガス流路は、ガス入口を共通容積部に設けられた少なくとも1つの出口開口部に接続する。それらのガス流路は、ガス流を互いに均等に受けるように構成され得る。ガス入口と、共通容積部における複数の出口開口部の各々との間に、同じ数の分岐点が配置されることを通じて、ガス流路システムにおける分配が実施されることが好ましい。さらに、それらの同じ数の分岐点によって、同じ数のガス流路が、ガス入口から離隔された箇所で分岐していることが特に好ましい。
【0012】
たとえば、ガス入口に接続された第1のガス流路が、第1の分岐点で2つの第2の(後続の)ガス流路に分割され、第2のガス流路が、第2の分岐点でそれぞれ2つの第3のガス流路に分割される場合がある。第3のガス流路は、それぞれ1つの出口開口部に接続することができる。あるいは、第3のガス流路は、さらなる分岐点で少なくとももう1回、半分ずつに分岐することができる。
【0013】
ガス入口から各出口開口部への流路部分または流路長、もしくは経路長が、実質的に同じ長さである場合がある。
【0014】
上記複数のガス流路は、少なくとも一つの分岐点の下流にて、互いから分離されているか、互いに接続されていないことが好ましい。したがって、ガス入口から導入されたガスは、数個のガス流路に分割され、再び合流するのは共通容積部においてのみである。ここで、ガス入口は、複数のガス流路によって、共通容積部における1つの出口開口部のみに接続される場合がある。あるいは、それらのガス流路が、共通容積部の手前で合流している場合がある。たとえば、その合流点と共通容積部との間に、フローを整流するための部材を追加で設けることができる。
【0015】
ガス流路システムおよび出口開口部は、共通容積部内の、および/または共通容積部から流れ出る、実質的に均質なガス流を提供するように構成され得る。分岐ガス流路システムおよび共通容積部における複数の出口開口部によって、フロー断面にわたって重要なフロー変数が均一且つ対称に分布するガスフローが提供され、それにより、レーザ切断中の溶融物排出や酸化などのガスの機能が向上し、加工品質も向上する。出口開口部は、共通容積部の周辺領域に配置することができる。出口開口部は、共通容積部に、または共通容積部の周辺部に、対称に配置することができる。出口開口部を共通容積部の周辺部に対称に配置することにより、ガス流をさらに均質化することが可能である。ガス供給装置は、ガス流とレーザビームとを同軸に重ね合わせ、それらを送出開口部から出力するように構成され得る。
【0016】
さらに、ガス供給装置は、均質なガス流を供給する送出開口部を、共通容積部の第1の端部に備える場合がある。ガス供給装置は、その送出開口部の反対側にある共通容積部の第2の端部に、ガス供給装置をレーザ加工ヘッドに固定するための固定手段を備える場合がある。ガス供給装置は、レーザ加工ヘッドに組み込まれるか、またはその一部分を形成することも可能である。たとえば、ガス流路システムは、レーザ加工ヘッドの少なくとも1つの構成要素に形成された孔として構成されることができる。それにより、振動を低減でき、レーザ加工ヘッドの外形寸法を小さくすることもできる。
【0017】
ガス流路システムまたは出口開口部は、各出口開口部を通って流れるガス流が、ガス供給装置の送出開口部の中心を通過して延びる共通容積部の対称軸に対して0°~90°の角度を成すように構成されることが好ましい。ここで、各出口開口部を通って流れるガス流は、ガス供給装置の送出開口部から離れる方向に向けることができる。すなわち、各出口開口部を通って流れるガス流は、送出開口部の反対側である共通容積部の(第2の)端部の方向に向けることができる。
【0018】
ガス供給装置は中心平面を有することがあり、ガス流路システムの少なくとも一部分または一部(好ましくは、ガス流路システム全体)が、その中心平面に対して対称であることが可能である。中心平面は、レーザ加工ヘッドの光軸に実質的に平行であり得る。光軸が、中心平面内に延在する場合がある。中心平面は、光軸を含み、且つガス入口を通って中心に延びることができる。たとえば、中心平面は、共通容積部の対称面であり得る。中心平面は、共通容積部の第1の端部から共通容積部の第2の端部まで延びることがある。
【0019】
さらに、ガス流路システムの分岐は、対応の分岐点の中心平面に対して対称であることが可能である。たとえば、ガス流路システムは、各分岐点で2つの流路に分割され得る。すなわち、ガス流路システムは、ガス流を分岐点で対称または半分ずつに分割するように構成されることができる。一例では、ガス流路システムは、第1の分岐点の中心平面に対して対称である場合がある。つまり、ガス流路システム全体が、第1の分岐点を通る対称面を有する。
【0020】
ガス流路システムは、少なくとも1つの集積容積部を提供する少なくとも1つの集積チャンバを含む場合がある。集積チャンバは、環状であることが可能である。集積チャンバは、共通容積部を取り囲むか、または共通容積部の周りに延在するように形成されることができる。集積チャンバまたは集積容積部は、好ましくは、ガス流路と共通容積部における出口開口部との間に配置される。すなわち、ガス流路システムのガス流路は、集積容積部に開口することが可能である。ガス流路の流路長、またはガス入口から集積容積部までの経路長は、全てのガス流路で同じである場合がある。
【0021】
ガス流路システムは、少なくとも一つの整流部材を備える場合がある。整流部材は、ガス流路システムおよび/または集積容積部からのガス流が、整流部材を介して共通容積部内へ案内されるように配置され得る。すなわち、整流部材は、ガス流路システムと共通容積部または共通容積部における出口開口部との間、もしくは、集積チャンバと共通容積部または共通容積部における出口開口部との間に配置することができる。整流部材が、ガス流路システムと共通容積部における出口開口部との間、または集積容積部と共通容積部における出口開口部との間に配置されている場合、ガス流路の流路長、またはガス入口から整流部材までの経路長は、全てのガス流路で同じである場合がある。
【0022】
整流部材は、管束、ふるい、フィン、ハニカム部材、および静定区域などを含むグループから選択され得る。たとえば、整流部材は、共通容積部の周辺部の周りに対称に分布する複数の静定区域を含むことができる。静定区域の数が4~24または8~16であること、ならびに/あるいは、静定区域における区域直径Dの区域長Lに対する比D/Lが0.05~0.3または0.1~0.3であることが可能である。
【0023】
出口開口部は、実質的に円形、楕円形、または細長い断面を有する場合がある。
【0024】
ガス入口は、ガス流路システムへの唯一のガス入口である場合がある。単一のガス入口は、ユーザにとって接続および取り扱いがより簡単である。さらに、ガス源への接続に必要な接続ラインは1つのみであり、多数の接続ラインを必要としない。このことは、可動式のレーザ加工ヘッドにとって特に有利である。また、接続ラインが1つのみの場合、長さ、直径、または経路配置の差異に起因する供給ライン間の圧力差が存在しないため、加工ヘッドをガス源へ接続することが、共通容積部内のガス流の均質性に何ら悪影響を及ぼさないようになっている。複数のガス入口がある場合、各ガス入口は、少なくとも3つのガス流路を介して1つの出口開口部に接続される。各ガス入口に対応付けられガス流路システムは、少なくとも3つのガス流路に分岐する少なくとも1つの分岐点、または、それぞれが2つのガス流路に分岐する少なくとも2つの分岐点を含むことができる。
【0025】
ガス流路システムおよび出口開口部は、共通容積部内に流れるガスおよび/または共通容積部から流れ出るガスにおいて、1つまたは複数のフロー変数の実質的に均一な分布を実現するように構成され得る。1つまたは複数のフロー変数は、流速、流れ方向、静圧、およびガス密度から成るグループから選択できる。
【0026】
ガス供給装置は、レーザ加工ヘッドの光軸とガス流の軸とが共通容積部内で実質的に同軸に重ね合わされるように構成され得る。
【0027】
ガス供給装置は、好ましくは、切断用ガスを供給するガス供給装置である。すなわち、ガス流は、特に切断用ガスから成る場合がある。
【0028】
さらに、本開示ではレーザ加工ヘッドが特定され、そのレーザ加工ヘッドは、レーザビームを供給するレーザ装置と、本明細書に記載の例示的な実施形態の一つに係る、均質なガス流を生成するためのガス供給装置とを備える。
【0029】
レーザ加工ヘッドはさらに、集束光学系や保護ガラスなどの光学素子を含むことがある。共通容積部は、光学素子に直に隣接して配置するか、その近傍に配置することができる。レーザ加工ヘッドはさらに、ノズル開口部を有するノズルを備えることができ、ノズル開口部は、レーザビームおよびガス噴射がノズル開口部を通じてワークピースに向けられるように構成される。上記光学素子は、特に、レーザビームのビーム経路における最後の光学素子であり得る。
【0030】
本開示のさらなる実施形態によれば、レーザ加工の方法が特定される。この方法は、ガス流をガス入口に導入することと、少なくとも2つの分岐を有するガス流路システム内でガス流を分割することと、ガス流路システムからのガスを共通容積部に供給することと、共通容積部内の供給ガス流にレーザビームを重ね合わせることとを含む。
【0031】
本開示によれば、分岐ガス流路システムによって、実質的に均質で対称的なガス供給を共通容積部に提供できる。本発明によるガス供給装置は、特に、送出開口部において、重要なフロー変数の均一な分布を実現できる。本発明による分岐ガス流路システムにより、切断エッジの表面品質および直角度の改善、ならびにより高い切断速度が可能になる。
【0032】
本開示の例示的な実施形態を図に示し、以下でさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本開示の実施形態に係るガス供給装置が組み込まれたレーザ加工ヘッドを示す概略図である。
【
図2】本開示の実施形態に係るガス供給装置のガス流路システムの構成の原理を示す図である。
【
図3】本開示の実施形態に係るガス供給装置のガス流路システムを示す図である。
【
図4】本開示の別の実施形態に係るガス供給装置のガス流路システムを示す図である。
【
図5】本開示のさらに別の実施形態に係るガス供給装置のガス流路システムを示す図である。
【
図6A】共通容積部内の速度分布についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図6B】共通容積部内の速度分布についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図7A】ノズル出口における水平断面内の速度分布についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図7B】ノズル出口における水平断面内の速度分布についてのシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下において、特記しない限り、同一または同等の要素には同じ参照符号を使用する。
【0035】
図1は、本開示の実施形態に係る、均質なガス流を生成するためのレーザ加工ヘッド用ガス供給装置を示す。図示の実施形態では、ガス供給装置は、レーザ加工ヘッドまたはその一部分に組み込まれている。他の実施形態では、ガス供給装置は、たとえばレーザ切断のためのレーザ加工ヘッドの下部または先端に取り付けられる場合がある。
【0036】
均質なガス流を生成するためのレーザ加工ヘッド用ガス供給装置100は、ガス入口110(たとえば空気圧継手)と、レーザビームとガス流とを重ね合わせるための共通容積部120と、ガス入口110から延びて少なくとも2回分岐し、ガス入口110を、複数のガス流路105を通じて、共通容積部に設けられた出口開口部132のうちの1つにそれぞれ接続するガス流路システム130とを含む。ガス流路システム130および出口開口部132は、共通容積部内または共通容積部の外に、実質的に均質なガス流を提供するように構成されている。
【0037】
出口開口部において、重要なフロー変数の可能な限り均一な分布を得るためには、それらのフロー変数が、(切断用)ガスおよびレーザビームのための共通容積部内で可能な限り均一に分布していることを必要とする。共通容積部の収束する形状の道程は、ガス流を均質化する作用があるが、この静定区域は、収束させる距離が特にf=200mm程度未満より短い場合に、フローを完全に仕上げるのに十分ではない。
【0038】
よって、本開示によれば、共通容積部内および/またはガス供給装置100の送出開口部142におけるフロー変数の均一な分布を達成するために、分岐ガス流路システムを使用する。たとえば、もし加工ヘッド内のガスがガス入口110から最後の光学素子に直接送られるとしたら、共通容積部内に均一な分布は得られないであろう。本開示は、ガス流路が数回分割され、集束レンズおよび/または保護ガラスなどのレーザ加工ヘッドの最後の光学素子の手前などで再び対称に合流することを可能にするものである。
【0039】
本開示の実施形態に係る、たとえばレーザ切断用であるレーザ加工ヘッドは、光ファイバなどの、レーザビームを供給するためのレーザ装置を備える。レーザビームは、「加工ビーム」または「加工レーザビーム」と呼ばれることもある。レーザ加工ヘッドは、レーザビームをワークピースの加工領域に向けるように構成されている。レーザ加工ヘッドは、レーザビームをコリメートするコリメータレンズと、たとえば集束レンズまたは複数の集束レンズの配列などの、ワークピース上にレーザビームを集束させる集束光学系とを備える場合がある。
【0040】
レーザ加工ヘッドはさらに、本明細書に記載の実施形態に従った、均質なガス流を生成するためのガス供給装置100を備える。ガス供給装置100は、レーザ加工システムによって供給されるレーザビームと、ガス入口110を介して供給され、ガス流路システムを通じて導かれるガス流とが、共通容積部において実質的に同軸に重ね合わされるように構成され得る。たとえば、ファイバブッシングであることが可能な光アクセス部150を設けることができ、それを通じて、レーザビームを共通容積部に導入することができる。
【0041】
実施形態によれば、レーザ加工ヘッドは、加工方向に沿って移動可能である場合がある。加工方向は、ワークピースに対するレーザ加工ヘッドの切断方向および/または移動方向であることが可能である。加工方向は、特に水平方向であり得る。加工方向は、「切断方向」または「送り方向」と呼ばれる場合もある。
【0042】
図2は、本発明によるガス供給装置100のガス流路システム130の流路の構成の原理を示す。
図1に示すようにガス供給装置100がレーザ加工ヘッド内に組み込まれている場合、ガス流路システム130は、レーザ加工ヘッドの1つまたは複数の構成要素201,202,203,204に形成された孔210によって実現されることができる。
【0043】
図2を参照すると、ガス入口110の後段に位置するガス流路システム130は、ガス供給装置100またはレーザ加工ヘッドの1つまたは複数の構成品または構成要素201,202,203,204に形成された、たとえば孔210などのラインまたは流路を含む。孔210は、数回分岐するように配置されることがあり、それによりガス流がさらに分散される。ガス供給デバイス100は、たとえば、共通容積部を構成する空洞またはチャンバを有する少なくとも1つの構成要素を備えることがある。さらに、ガス流路システム130を構成する孔210は、当該少なくとも1つの構成要素に設けられることが可能である。いくつかの実施形態では、ガス供給装置100は、それぞれが孔210を有するとともに、互いに接続しているか接続可能ないくつかの構成品または構成要素201,202,203,204(これらは、レーザ加工ヘッドの構成品または構成要素でもある場合がある)から成ることができる。ガスを確実に損失なしに送るようにするために、個々の構成品または構成要素の間に、対応のシールリング220を設ける場合がある。
図2は、例として、(切断用)ガスのための流路が、数個の構成品をどのように接合することで形成されるかを示す。以上のようにして、ガス入口110の後段のガスダクトは、数回分割されることができ、その後、共通容積部にて対称に合流され得る。
【0044】
ガス流路システム130は、互いに角度を成して延びる複数の孔210またはガス流路105を含むことができる。すなわち、少なくともいくつかの孔210または流路105は、互いに平行に延在していない場合がある。たとえば、少なくともいくつかの孔210または流路105は、互いに直角に延在することがある。一般的に、ガス流路システム130は、互いに接続された上下方向および水平方向の孔210または流路105を含む。孔210または流路105の方向の変更は、たとえば、ガス流路システム130の各分岐において実施されることができる。
【0045】
ガス供給装置100は、共通容積部の第1の端部に送出開口部142を備える。送出開口部142は、ガス供給装置100またはガス流路全体における最小直径を呈することがあり、そのため、この箇所で最高速度が得られ、超臨界のフロー条件下では質量流量をここで検出することができる。ガス供給装置100は、共通容積部の第2の端部において、レーザ加工ヘッドに取り付けられるように構成され得る。共通容積部の第2の端部は、第1の端部の反対側に位置することができる。もしくは、ガス供給デバイスは、レーザ加工ヘッドの一部分であるか、またはその中に組み込まれることがある。
【0046】
上記実質的に均質なガス流は、共通容積部内を流れるガス流、および/または、共通容積部から流れ出るガス流である場合がある。特に、分岐ガス流路システム、出口開口部、および共通容積部は、実質的に均質なガス流がガス供給装置100または送出開口部142から送出されるように構成され得る。本明細書で説明する他の実施形態と組み合わせ可能ないくつかの実施形態によれば、ガス流路システム130および出口開口部は、共通容積部内を流れるガスおよび/または共通容積部から送出開口部142を通って送出されるガスにおける1つまたは複数のフロー変数の実質的に均一な分布を実現するように構成される。1つまたは複数のフロー変数は、流量、流れ方向、静圧、およびガス密度などから成るグループから選択することができる。
【0047】
実施形態によれば、ガス(「切断用ガス」と呼ばれることもある)は、窒素などの不活性ガス、または酸素などの反応性ガスであることが可能である。たとえば、ステンレス鋼を切断する際には、窒素(N2)を使用できる。一方、構造用鋼を切断する際には、酸素(O2)を使用できる。この用途では、切断用ガスは、鉄を酸化鉄に変換しやすくすることで、切断プロセスを支援する。このようにして、レーザ放射に加えて、反応熱がプロセスに追加的に導入される。
【0048】
一般的に、ガス供給装置100は、共通容積部120を収容しているか、または共通容積部の第1の端部142に配置されている、切断用ノズル140を含むことがある。切断用ノズル140は、送出開口部142を含むことができる。共通容積部から送出されるレーザ放射および(切断用)ガスは、切断用ノズル140の送出開口部142を通り、ワークピース上の加工点に向けられることができる。
【0049】
ガス入口110は、ガス流路システム130への唯一のガス入口である場合がある。すなわち、いくつかの実施形態では、ガスは単一のガス入口を介してのみ供給され得る。ガス入口110は、ガス供給装置100の側部または上部に、あるいは加工ヘッドに配置されることがある。切断用ガスは、外部から直接に管を通じて、または内部から加工ヘッドの他の構成品を介して、ガス入口110に供給されることが可能である。
【0050】
共通容積部内にガスの均一な分布を実現することは、特に、通常はガスが単一の入口を通じて共通容積部120に供給される場合に、より難しくなる。そのような場合に、入口の位置に応じて、共通容積部内の全てのフロー変数に、強い方向依存性が生じてしまう。しかし、単一の入口または少数の入口のみを使用することで、ガスシリンダー束から加工ヘッドへの切断用ガスの接続および供給が容易になるので、応用の観点からは、それが望ましい。本発明による分岐ガス流路システムは、ガス供給ラインが片側からのみ接続されているとしても、共通容積部内のフロー変数の均一な分布を可能にする。
【0051】
ガス供給装置100は、レーザ加工ヘッドに取り付けられるか、または組み込まれることが可能である。実施形態によれば、レーザ加工ヘッドは光学素子を備え、その光学素子は特に、レーザビームのビーム経路における最後の光学素子である場合がある。一般的にその光学素子は、集束光学系(たとえば、光軸を定義することが可能な集束レンズまたは複数の集束レンズの配列)、あるいは、手前に位置する集束光学系をプロセスの排出物による汚染から保護する保護ガラスである。ガス供給装置100は、送出開口部142の反対側にある共通容積部の第2の端部に当該光学素子が配置されるように、レーザ加工ヘッドに固定または一体化されることができる。共通容積部は特に、当該光学素子のすぐ後に配置される場合がある。すなわち、当該光学素子と共通容積部との間に、さらなる光学素子は無い。共通容積部は特に、当該光学素子と送出開口部142との間に配置される場合がある。したがって、(切断用)ガスとレーザビームとは、最後の光学素子の下方で組み合わされる(すなわち、重ね合わされる、または重畳される)ことができる。レーザ放射およびガス流は、最後の光学素子の位置から共通容積部内に導かれ、共通容積部は、送出開口部142に向かって収束する形状であることが可能である。
【0052】
実施形態によれば、ガス供給装置100(特に、ガス流路システム130)は、レーザ加工ヘッドの光学素子の全周に沿って実質的に均質または均一なガス供給を提供するように構成される。光学素子の周辺部は、一般的に、たとえば集束光学系によって規定される光軸に直交する平面内に位置する。
【0053】
いくつかの実施形態では、共通容積部への出口開口部132は、ガス流を、レーザ加工ヘッドに固定され得るガス供給装置100の第2の端部に向けるか、あるいは、レーザ加工ヘッドの光学素子に向けるように配置されることができる。たとえば、ガス流は、光学素子に対して実質的に直交するように向けられる場合がある。一般的に、出口開口部は、垂直線および/または光軸に対して角度を成す向きに配置されることがある。実施形態によれば、垂直線に対する角度は、0°(光学素子に対して直角)~90°(光学素子に対して平行)の角度とすることができる。
【0054】
図3は、本開示の実施形態に係るガス流路システム300を示す。
図3は、本発明によるレーザ切断ヘッドのガスダクトを模式的に示し、そのガスダクトは、入口110から延びて3回分岐し、共通容積部120内で再び対称に合流する。したがって、ガス流路システムは、ガス入口110を、それぞれが1つの出口開口部132を介して共通容積部120に接続する4つのガス流路305を有する。図示しているのは、ガス供給装置内または切断ヘッド内でガスが占める体積部分である。したがって、ガス供給デバイス(または切断ヘッド)の構造は、これに対応する、凹凸が反転した形状を呈する。
【0055】
図3は、ガス体積部分に加えて、レーザビームの軸である光軸1を示す。単一のガス入口110(たとえば、切断用ガスポート)は、流体体積部分の上部に示されている。ここから、ガスダクトは、分岐点302および304で数回分岐して、合計4つのガス流路305に分かれる。その後、ガスは、4つの出口開口部132(すなわち供給ライン)を通じて共通容積部120に送られる。実施形態によれば、ガス流路の数は、出口開口部132の数と相関または比例する。2つ以上の分岐または分岐点を設けることができる。たとえば、
図3には3つの分岐点が示され、
図4には7つの分岐点が示されている。
【0056】
ガス供給デバイスは、中心平面を有することがある。中心平面は、レーザ加工ヘッドの光軸1に実質的に平行である場合がある。中心平面は、共通容積部120の第1の端部から共通容積部120の第2の端部まで延びることができる。一般的に、ガス流路システム300の少なくとも一部分(好ましくは、ガス流路システム300全体)(ガス入口110は含むことも含まないことも可能)が、中心平面に対して対称である。たとえば、中心平面は、共通容積部120の対称面である場合があり、その対称性はミラー対称性であり得る。
【0057】
出口開口部132は、共通容積部120の周辺部の周りに対称に配置されることがあり、特に、中心平面に対して対称に配置される場合がある。多分岐ガス流路システム300は、対称に配置された出口開口部132にガスを供給することができ、それにより、共通容積部120への均質なガス供給および共通容積部120内の均質なガス流を実現することができる。
【0058】
実施形態によれば、後続のガス流路内に均一分布のフローを実現するために、各分岐におけるガスダクトは、それぞれの分岐の中心平面に対して対称に構築され得る。このことにより、同じ体積流量が各ガス流路を通じて共通容積部120に送られることが確実となり、その結果、共通容積部120内に重要なフロー変数の均一且つ等方的な分布が得られる。
【0059】
図4は、本開示の別の実施形態に係るガス流路システム400を示す。ここで、
図4は、8つのガス流路405および8つの出口開口部132への分割を含む、本発明に係るガスダクトを図示している。ここでも、ガスダクトは、各分岐402,404,406で中心平面に対称に延びている。共通容積部120でより多くのガス流路405または出口開口部132が利用可能であるほど、共通容積部120内で重要なフロー変数がより均一に分布する。
【0060】
いくつかの実施形態では、全ての分岐においてガス流路が対称に延在するわけではない。その理由の1つは、切断ヘッド内で使用できる設置スペースが、限られているか、または一方向にしか使用できないことである場合がある。対称に延在しない場合は、実施形態によれば、流体平衡化を実践することがある。この目的のために、延在する孔または外に向かう流路の各々が同じ体積流量を搬送するように、それらの延在部分または延在する孔の直径、長さ、および/または位置に関する寸法を決めることができる。
【0061】
図5は、本開示のさらに別の実施形態に係るガス流路システム500を示す。
【0062】
実施形態によれば、ガス供給装置(特に、ガス流路システム500)は、少なくとも1つの集積容積部510および/または少なくとも一つの整流部材520を備える。ガス流は、集積容積部510から整流部材520を介して共通容積部120内へ送られることが可能である。特に、整流部材520は、集積容積部510と共通容積部120との間に配置されることがある。
【0063】
集積容積部510は、ガス流の速度を確実に低下させる。それと同時に、エネルギー保存の法則により、フローの静圧が上昇する。フローがより完全に減速されるほど、集積容積部510内の静圧の分布はより均一になる。静圧が均一分布であることにより、切断用ガスは集積容積部510の出口部に均一に供給され、その結果、切断用ガスは、均一分布にて共通容積部120内へ、たとえば周辺部を越えて流入する。このようにして、片側のみのガス入口110によってフローに生じてしまう方向依存性を、さらに低減することができる。
【0064】
図5の例では、ガス流はまず、4つのガス流路505に分散される。続いて、個々のラインは、たとえばレーザ加工ヘッドの最後の光学素子の近くに位置する、集積容積部510内で再び合流する。集積容積部510により、フローのさらなる均質化が確実に実施される。集積容積部510から、ガスは、整流部材520を介して、共通容積部120における出口開口部132に送られる。このようにして、最後の光学素子に向かうフローが、周辺部全体に特に均一に分布することが確実となり、共通容積部120内のフロー変数も特に均一に分布する。
【0065】
整流部材520は、管束、ふるい、フィン、ハニカム部材、および静定区域などから成るグループから選択され得る。たとえば、整流部材520は、共通容積部120の周辺部の周りに対称に分布する複数の静定区域522を含むことができる。静定区域522の数は、4~24または8~16である場合がある。さらに、静定区域における区域直径Dの区域長Lに対する比D/Lは、0.05~0.3または0.1~0.3とすることができる。区域直径Dは、「流路幅」または「管直径」と呼ばれることもある。
【0066】
図6Aおよび
図6Bは、共通容積部内の速度分布についてのシミュレーション結果を示す。より詳細には、
図6Aおよび
図6Bは、共通容積部内についてのCFDシミュレーション結果を示す。両図において対象としたフロー変数は、絶対速度である。
【0067】
図6Aは、本発明に係るガス流路システムを設けずに切断用ガスを片側からのみ供給する前提で、共通容積部内についてシミュレーションした速度分布を示す。対象のフロー変数は、不均一に分布している。
【0068】
図6Bは、本開示の実施形態に従って切断用ガスを分散させて対称に供給する前提で、共通容積部内についてシミュレーションした速度分布を示す。対象のフロー変数は、均一に分布している。対称的な供給ラインの場合に、片側供給ラインの場合よりも、共通容積部内で速度が実質的により均一に分布していることが、特に明白である。
【0069】
図7Aおよび
図7Bは、ノズル出口または送出開口部142における水平断面内の速度分布についてのシミュレーション結果を示す。より詳細には、シミュレーションした速度分布は、ノズル出口のすぐ上の水平断面について示している。
【0070】
図7Aは、本発明に係るガス流路システムを設けずに切断用ガスを片側からのみ供給する前提で、ノズル出口における水平断面内についてシミュレーションした速度分布を示す。対象のフロー変数の不均一分布は、共通容積部内で送出開口部142まで続いている。
【0071】
図7Bは、本発明のガス流路システムを使用して切断用ガスを対称に供給する前提で、ノズル出口における水平断面内についてシミュレーションした速度分布を示す。対象のフロー変数は、送出開口部142においても、はるかにより均一に分布している。
【0072】
共通容積部内の速度分布の均一性が、ノズル出口または送出開口部142における分布にも影響を及ぼすことは、明白である。1つの供給ラインしかない場合(
図7A)、速度分布は非常に非対称的である。最大値は明らかに中心からずれており、最小値は周辺部の一部分の片側に存在する。これとは対照的に、本発明による分散供給の場合、
図7Bに示されるように、回転対称な速度分布が切断円の中心点の周りに形成される。最大値は円の中心にあり、最小値は周辺部全体に存在する。このような速度分布により、
図7Aの分布の場合よりも良好な切断結果を得ることができる。
【0073】
本開示によれば、ガス流を均質化するために、分岐ガス流路システムが使用される。詳細には、ガス流は、共通容積部に入る前にヘッド内で複数のガスラインに分割され、共通容積部で再び対称に合流する。ここで、対応するライン同士または流路同士には、ほぼ同じ体積流量が供給される。ガス流を、本発明に従ってたとえばレーザ加工ヘッドにおいて分割することで、本発明に係るガス供給装置は、ガス送出開口部における重要なフロー変数を均一にすることができる。これにより、切断エッジの表面品質および直角度が改善され、より速い切断速度が達成される。