(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】ニオブ酸リチウム単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/30 20060101AFI20220712BHJP
C30B 15/20 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C30B29/30 A
C30B15/20
(21)【出願番号】P 2018118734
(22)【出願日】2018-06-22
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】窪内 裕太
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-239442(JP,A)
【文献】特開2003-192487(JP,A)
【文献】特開平08-133890(JP,A)
【文献】特開昭59-007674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/30
C30B 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法によるニオブ酸リチウム単結晶の製造方法であって、
白金坩堝を加熱して当該白金坩堝中のニオブ酸リチウムを融解させて融解物とする融解工程と、
前記白金坩堝中の前記融解物に種結晶を接触させるシーディング工程と、
前記シーディング工程後、前記種結晶を引き上げて、ニオブ酸リチウム単結晶により直径60mm以上の肩部を形成する肩部形成工程と、
前記肩部形成工程後、前記肩部を引き上げて、前記ニオブ酸リチウム単結晶により直胴部を形成する直胴部形成工程と、を含み、
前記肩部形成工程
は、前記肩部の形成開始から前記肩部の直径が60mmに到達するまでの前記種結晶の引き上げ時間を4.5時間以上
12時間以下とする
ことで、前記肩部において前記融解物に混入した白金を回収する工程を含む、ニオブ酸リチウム単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法によるニオブ酸リチウム単結晶の製造方法に関するものであり、特に、単結晶の育成中において、白金坩堝に起因する不純物が単結晶の直胴部へ混入することを抑制できる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニオブ酸リチウム(以下、「LN」と記載する場合がある)単結晶は、主に非線形光学材料や表面弾性波デバイス用材料として用いられている。
【0003】
LN単結晶は、工業的には主にチョクラルスキー法(以下、「Cz法」と記載する場合がある)で育成されている。Cz法では、例えば、単結晶製造装置の単結晶育成炉内に単結晶の原料を充填した坩堝を配置し、当該坩堝を加熱することで原料を融解し、原料融液を形成する。そして、坩堝内の原料融液に種結晶を接触させ(シーディング)、その後、種結晶を水平方向に回転させながら垂直方向に引き上げることで、種結晶と同一方位の単結晶を得ることができる。
【0004】
Cz法により酸化物単結晶を育成する際、単結晶製造装置を構成する加熱炉に設置した坩堝内で、原料を融解して原料融液を生成する。このため、坩堝の材料には、酸化物単結晶の融点を超える温度でも安定で、且つ原料融液と反応しないことが求められる。そのような坩堝の材料としては、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、またはモリブデン-タングステン合金(Mo-W合金)等が候補となるが、しばしば、坩堝に起因する不純物が育成中の単結晶に内包される場合があった。
【0005】
例えば、特許文献1に記載のように、サファイア単結晶を育成する際、坩堝の金属材料にMoを用いているが、育成条件によってはMoが育成したサファイア単結晶に内包されるという不具合があった。これは、高温で昇華したMoが微粒子となって融液に混入することから発生する。
【0006】
ところで、Cz法にてLN単結晶を育成する場合は、例えば特許文献2に記載のように坩堝の材質にはPtが選択される。この理由として、Ptは高温状態においても酸化しにくく大気中での育成が容易であること、LNの原料融液とPtの反応性が乏しいこと、Ptの融点(1768℃)がLN原料の融点(1257℃)よりも高いこと等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-150877号公報
【文献】特開2008-260663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、Ptは化学的に不活性であり、安定ではあるものの、LNを融解させるために高温状態で大気中に曝し続けることで、ごくわずかにLNの原料融液に混入し、育成したLN単結晶にPtが内包されるという不具合があった。Ptの混入経路としては、特許文献1のように、坩堝から昇華した白金がLN融液に混入する経路が考えられる。
【0009】
また、LNの原料融液に内包されたPtは、育成中に生じる原料融液内の対流のバランスによって、その濃度に分布を有していることが明らかになった。このPtの濃度分布により、後工程の黒化処理において外観上の不良を発生させていた。すなわち、LN単結晶のPtが含まれる部分は、Ptが含まれない部分に比べて黒化処理の際により黒く変色することから、単結晶の部分によって濃淡の色ムラ不良が発生し、品質不良となった。
【0010】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、Cz法を用いてニオブ酸リチウム単結晶を製造する場合において、白金坩堝由来の不純物の直胴部への混入を抑制できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、Cz法を用いたニオブ酸リチウム単結晶の製造工程の内、肩部の育成時において、肩部の育成の開始から肩部の直径が60mmに到達するまでの時間を制御することで、肩部においてPtを回収することができ、製品として用いられるLN単結晶の直胴部へのPtの取り込みを抑制できることを見出した。
【0012】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明の一態様であるチョクラルスキー法によるニオブ酸リチウム単結晶の製造方法は、白金坩堝を加熱して当該白金坩堝中のニオブ酸リチウムを融解させて融解物とする融解工程と、前記白金坩堝中の前記融解物に種結晶を接触させるシーディング工程と、前記シーディング工程後、前記種結晶を引き上げて、ニオブ酸リチウム単結晶により直径60mm以上の肩部を形成する肩部形成工程と、前記肩部形成工程後、前記肩部を引き上げて、前記ニオブ酸リチウム単結晶により直胴部を形成する直胴部形成工程と、を含み、前記肩部形成工程において、前記肩部の形成開始から前記肩部の直径が60mmに到達するまでの前記種結晶の引き上げ時間を4.5時間以上とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Cz法を用いてニオブ酸リチウム単結晶を製造する場合において、白金坩堝由来の不純物の直胴部への混入を抑制できる。その結果として、外観不良の無いニオブ酸リチウム単結晶基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の製造方法に用いることのできる単結晶製造装置の概略構成を示す断面図である。
【
図2】LN原料融液の流れを示す概略断面図である。
【
図3】肩部の育成開始から肩部が直径60mmに到達するまでの時間が、外観不良の発生へ与える影響を調査した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
本発明の製造方法は、Cz法によるLN単結晶の製造方法であり、例えば
図1に概略断面図を示す単結晶製造装置100を用いることができる。
【0017】
[単結晶製造装置]
単結晶製造装置100は、引き上げ軸10、白金坩堝40、抵抗加熱ヒーター70、支持台60を備える。
【0018】
引き上げ軸10は、その先端に種結晶20を設置することができ、白金坩堝40に入れられて融解した原料融液50の表面に種結晶20を接触させ(シーディング)、LN単結晶30を回転させながら引き上げるために用いる。引き上げ軸10は、例えば白金製の軸を使用することができ、引き上げ軸10の下端に種結晶20を保持する保持部11を有する棒状の部材を用いることができる。引き上げ軸10は、軸を中心として水平方向に回転するとともに、上下に移動することで、原料融液50の表面に種結晶20を接触させることができ、円錐状の肩部31および円柱状の直胴部32を育成することができる。また、LN単結晶30の育成に伴って、種結晶20とともにLN単結晶30を吊り下げて保持することができる。
【0019】
また、単結晶製造装置100においては、引き上げ軸10の上下移動および回転を行うため、例えば、不図示のモータを備えた引き上げ軸駆動手段を設けてもよい。なお、引き上げ軸10の回転速度および引き上げ速度は、形成するLN単結晶30の径の大きさや、直胴部32の長さ等により、適宜設定することができる。
【0020】
白金坩堝40は、LN単結晶の原料を入れ、溶融状態にした原料融液50を保持するものである。例えば、円形の底部41と、底部41の外縁部から立設した円筒形の側壁部42を有し、上部43が開口したカップ形状のものを用いることができる。なお、白金坩堝40としては、溶融状態の原料融液50を保持するため、耐熱性に優れた白金製の坩堝を使用する。
【0021】
抵抗加熱ヒーター70は、抵抗加熱方式により輻射熱等にて直接白金坩堝40やLN単結晶30を加熱して保温するヒーターであり、例えば不図示の外部電源に接続されている。抵抗加熱ヒーター70は、白金坩堝40の外周を囲んで配置することができ、白金坩堝40やLN単結晶30を効率的に加熱できるように、円筒状の形状のものを用いることができる。
【0022】
抵抗加熱ヒーター70としては、電気抵抗により発熱するカーボン、ニクロム(ニッケルとクロムの合金)、または二珪化モリブデン等を発熱体とするものを適宜用いることができる。LN単結晶30を製造する場合には、特に酸素雰囲気中で有用なニクロム製や二珪化モリブデン製のヒーターを用いることが好ましく、より耐熱性の高い二珪化モリブデン製の発熱体をヒーターとして用いることが、より好ましい。
【0023】
支持台60は、白金坩堝40を載置する台であり、抵抗加熱ヒーター70の加熱効率を考慮して、白金坩堝40を最適な位置に保持することができる。支持台60は、白金坩堝40の底部41の温度を測定する不図示の温度センサが白金坩堝40と接触できるよう、中心部に穴を設けることができる。支持台60は、例えばジルコニアやアルミナ等の耐熱性のセラミックス製であり、支持台60に載置した白金坩堝40を上下移動させるための駆動機構と組み合わせてもよい。
【0024】
単結晶製造装置100は、上記の他、抵抗加熱ヒーター70の径方向外方を囲み、育成炉の壁となる断熱材や、炉の天井や底部を構成する断熱材を備えることができる。これらの断熱材は外部への熱の放出を抑制する部材であり、例えばジルコニアやアルミナ等の耐熱性のセラミックスまたはフェルトを用いている。また、これらの断熱材の外周を覆う外壁を備えることができる。
【0025】
また、単結晶製造装置100は、LN単結晶の育成プロセスを含めた単結晶製造装置100全体の制御を行うための制御手段を備えることができる。制御手段は、例えば、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置)、及び、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを備えている。また、制御手段は、プログラムにより動作するマイクロコンピュータから構成されてもよいし、特定の用途のために開発されたASIC(Application Specified Integra Circuit)等の電子回路から構成されてもよい。
【0026】
[ニオブ酸リチウム単結晶の製造方法]
次に、Cz法によるLN単結晶の製造方法について、その一例として単結晶製造装置100を用いた製造方法を説明する。
【0027】
(融解工程)
融解工程では、白金坩堝40を加熱して白金坩堝40中のLNを融解させて融解物(原料融液50)とする。例えば、電源部(図示せず)より抵抗加熱ヒーター70に通電加熱して、白金坩堝40を適切に加熱することで、白金坩堝40内のLN原料を融点以上に加熱して融解し、原料融液50を得る。
【0028】
(シーディング工程)
シーディング工程では、白金坩堝40中の原料融液50に種結晶20を接触させる。具体的には、引き上げ軸10を下降させ、引き上げ軸10の下端に設置した種結晶20を原料融液50の上面に接触させる。
【0029】
(肩部形成工程)
肩部形成工程は、シーディング工程後、種結晶20を引き上げて、LN単結晶により直径60mm以上の肩部31を形成する工程である。例えば、抵抗加熱ヒーター70により育成炉内の温度を徐々に降下させ、それと同時に引き上げ軸10を回転させながら種結晶20を徐々に引き上げることにより、種結晶20の下部側において原料融液50を順次単結晶化させる。また、抵抗加熱ヒーター70への投入電力を適宜調整する。これらの操作により、所望とする直径となるまで、円錐状の肩部31を製造することが可能となる。
【0030】
肩部31の形成中は、抵抗加熱ヒーター70による加熱温度や、引き上げ軸10の回転数および引き上げ速度等を適宜制御する。特に、前記肩部形成工程において、肩部31の形成開始から肩部31の直径が60mmに到達するまでの種結晶20の引き上げ時間を4.5時間以上とする。例えば、種結晶20の引き上げ速度や引き上げ軸10の回転数を一定にして、上記の種結晶20の引き上げ時間を4.5時間に設定して肩部31を形成する場合、肩部31の直径の形成速度は、60mmに4.5時間を除して13.3mm/時間が目安となる。
【0031】
不純物の直胴部32への混入が抑制される理由について、
図2を参照しつつ説明する。
図2は、LN原料融液の流れを示す概略断面図であり、
図2(a)はシーディング工程前の白金坩堝40および原料融液50の縦断面図、
図2(b)はシーディング時の白金坩堝40および原料融液50の縦断面図、
図2(c)は肩部31を形成中の白金坩堝40、原料融液50および肩部31の縦断面図、
図2(d)は
図2(c)のAA’線で切断して上から白金坩堝40および原料融液50をみた断面図である。
【0032】
Ptは化学的に不活性であり、安定ではあるものの、LNを融解させるために抵抗加熱ヒーター70の出力を上げて白金坩堝40を高温状態で大気中に曝し続けることで、LNの融解中にLNの原料融液50に混入する。LN原料を融解させた後は、抵抗加熱ヒーター70の出力を下げて白金坩堝40の温度も下がるため、原料融液50への融解は認められない。
【0033】
原料融液50は、部分的な温度差によって熱対流Xを生じ、シーディング工程前においては原料融液50の外側が上昇し、内側が下降する熱対流Xが生じている(
図2(a))。原料融液50中の不純物も、熱対流Xに乗じて上昇および下降している。
【0034】
引き上げ軸10は、水平方向に回転しながら下降していき(
図2(a))、シーディングにより原料融液50の表面に種結晶20が接触すると、この回転が原料融液50へ伝わって、原料融液50の表面付近において外側へ向かう強制対流Yを生じさせる(
図2(b))。すなわち、結晶の回転により引き起こされる融液の流れとして強制対流Yが生じ、不純物も強制対流Yによって原料融液50の外側へ移動する。
【0035】
シーディングによって、熱対流Xによる原料融液50の流れる方向と、強制対流Yによる原料融液50の流れる方向は衝突し、領域Aにおいて熱対流Xの流れと強制対流Yの流れが停滞する(
図2(b))。不純物も同様に停滞し、領域Aにおいて不純物が多く集まる。
【0036】
このように不純物が停滞する状態で、種結晶20を引き上げると、不純物が多く集まる領域Aにおいて原料融液50が凝固して単結晶となり、肩部31が形成される(
図2(c)、(d))。
【0037】
肩部31の形成をゆっくりと行うことで、領域Aに集まる不純物がどんどん肩部31に取り込まれ、原料融液50中の不純物の濃度が下がっていく。そのため、肩部形成工程後には、原料融液中の不純物がほとんどなくなることで、直胴部32への不純物の混入が抑制される。
【0038】
肩部31の形成開始から肩部31の直径が60mmに到達するまでの種結晶20の引き上げ時間を、4.5時間以上とすることで、白金坩堝40由来の不純物が直胴部32へ混入することを抑制できる。その結果として、黒化処理の際の色ムラ不良をなくすことができ、外観不良の無いニオブ酸リチウム単結晶基板を製造することができる。
【0039】
前記の種結晶20の引き上げ時間が2時間未満の場合、肩部31が多結晶化する場合があり、単結晶の育成不良となるおそれがある。また、前記の種結晶20の引き上げ時間が2時間~4.5時間未満の場合、単結晶は育成できるものの、肩部31において不純物の取り込みが不十分となり、直胴部32に不純物が混入する場合がある。
【0040】
肩部31の形成開始から肩部31の直径が60mmに到達するまでの種結晶20の引き上げ時間の上限は特に限定されず、より長い時間をかけた場合であっても、白金坩堝40由来の不純物が直胴部32へ混入することを抑制できる。なお、肩部形成工程を手動で行うことを想定すると、種結晶20の引き上げ時間の上限は12時間とすることが好ましい。例えば、種結晶20の引き上げ速度や引き上げ軸10の回転数を一定にして、上記の種結晶20の引き上げ時間を12時間に設定して肩部31を形成する場合、肩部31の直径の形成速度は、60mmに12時間を除して5mm/時間が目安となる。
【0041】
なお、肩部形成工程において、形成開始から肩部31の直径が60mmに到達するまでは、単結晶の育成が難しいため、単結晶製造装置100の操作者が手動により育成条件を制御して肩部31を形成することが好ましい。かかる直径が60mmに到達した後は、そのまま手動で育成を継続してもよく、また、自動制御により育成を継続してもよい。
【0042】
(直胴部形成工程)
直胴部形成工程は、肩部形成工程後、肩部31を引き上げて、LN単結晶30により直胴部32を形成する工程である。例えば、抵抗加熱ヒーター70による加熱温度や、引き上げ軸10の回転数および引き上げ速度等を適宜制御することにより、所定高さの円柱状の直胴部32を形成することができる。
【0043】
(その他の工程)
本発明のLN単結晶の製造方法は、上記の工程に加え、さらなる工程を含むことができる。例えば、融解工程の前に、支持台60に載置された白金坩堝40にLN単結晶の粉末原料を充填する充填工程が挙げられる。また、直胴部31が所定の長さとなったところで、引き上げ軸10の引き上げ速度を制御して、原料融液50の上面と育成したLN単結晶30の下端とを切り離す工程(切り離し工程)や、切り離し工程後にLN単結晶30を冷却する工程(冷却工程)が挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の内容に何ら限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
単結晶製造装置100を使用し、LN単結晶の育成を実施した。まず、外径230mm、外高75mm、厚さ0.75mmの白金坩堝40にLNの粉末原料を投入した。そして、抵抗加熱ヒーター70に通電加熱して、白金坩堝40を加熱することで、白金坩堝40内の原料を融点以上に加熱して融解し、原料融液50を得た。原料融解後、白金坩堝40の温度が安定になった条件で、引き上げ軸10を下降させ、引き上げ軸10の下端の保持部11に設置した種結晶20を原料融液50の上面に接触させてシーディングを行った。そして、抵抗加熱ヒーター70により育成炉内の温度を徐々に降下させ、同時に引き上げ軸10を回転させながら徐々に引き上げることにより、種結晶20の下部側において原料融液50を順次単結晶化させ、肩部31を形成した。このとき、引き上げ軸10の上部に設置した重量検出器(図示しない)から計算される結晶直径をモニタリングしながら、適宜、抵抗加熱ヒーター70の出力を調整し、肩部31の形成開始から肩部31の単結晶直径が60mmに達するまでの時間を4時間30分とした。その後、引き続き肩部31の形成を継続し、肩部直径が150mmに到達した時点で、結晶直径を広げるのをやめ、製品部となる直胴部32の育成を開始した。直胴部32が所定の長さとなったところで、引き上げ軸10の引き上げ速度を制御して、原料融液50の上面と育成したLN単結晶30の下端とを切り離し、LN単結晶30を冷却することでLN単結晶が得られた。
【0046】
得られたLN単結晶を後工程において、ウェハ状に加工して黒化処理し、目視にて外観検査を実施したところ、白金坩堝40から混入した白金に起因する外観不良発生率は0%であった。
【0047】
[実施例2]
肩部31の形成開始から肩部31の単結晶直径が60mmに達するまでの時間を4時間45分とした以外は、実施例1と同様の条件でLN単結晶を得た。
【0048】
得られたLN単結晶を後工程において、ウェハ状に加工して黒化処理し、同様に外観検査を実施したところ、白金坩堝40から混入した白金に起因する外観不良発生率は0%であった。
【0049】
[比較例1]
肩部31の形成開始から肩部31の単結晶直径が60mmに達するまでの時間を3時間45分とした以外は、実施例1と同様の条件でLN単結晶を得た。
【0050】
得られたLN単結晶を後工程において、ウェハ状に加工して黒化処理し、同様に外観検査を実施したところ、ウェハの一部にリング状の色むらの発生が認められ、外観不良となった。白金坩堝40から混入した白金に起因する外観不良発生率は15%であった。
【0051】
[比較例2]
肩部31の形成開始から肩部31の単結晶直径が60mmに達するまでの時間を2時間12分とした以外は、実施例1と同様の条件でLN単結晶を得た。
【0052】
得られたLN単結晶を後工程において、ウェハ状に加工して黒化処理し、同様に外観検査を実施したところ、ウェハの一部にリング状の色むらの発生が認められ、外観不良となった。白金坩堝40から混入した白金に起因する外観不良発生率は21%であった。
【0053】
図3に、肩部31の育成開始から肩部31が直径60mmに到達するまでの時間が、外観不良の発生へ与える影響を調査した結果を示す。
図3中のプロットによって、ウェハにおける、白金坩堝40から混入した白金に起因する外観不良発生率を示した。
図3において、実施例1、2は外観不良が発生しておらず、比較例1の外観不良発生率は15%、比較例2の外観不良発生率は21%であることをプロットした。
【0054】
また、比較例1、2の他、肩部31の形成開始から肩部31の単結晶直径が60mmに達するまでの時間を、2時間~4時間の間においていくつかの時間とし、それ以外は、実施例1と同様の条件でLN単結晶を製造した。これらの場合についても同様に、ウェハにおける外観不良発生率を
図3にプロットした。
【0055】
結果として、肩部31の形成開始から肩部31の単結晶直径が60mmに達するまでの時間を、2時間~3時間の間とした場合には、いずれの場合においても外観不良が発生しており、外観不良発生率は最大で50%となった(
図3)。
【0056】
また、肩部31の形成開始から肩部31の単結晶直径が60mmに達するまでの時間を、3時間~4時間の間とした場合についても、いずれの場合においても外観不良が発生した。外観不良発生率は最大で24%となった(
図3)。
【0057】
[まとめ]
以上において説明したように、本発明であれば、肩部31の直径が60mmに到達するまでの間に、肩部31に不純物を回収することができるため、直胴部32へ不純物が混入することを抑制することができる。その結果として、品質不良が生じることがなく、ニオブ酸リチウム単結晶の基板を製造することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 引き上げ軸
11 保持部
20 種結晶
30 LN単結晶
31 肩部
32 直胴部
40 白金坩堝
41 底部
42 側壁部
43 上部
50 原料融液
60 支持台
70 抵抗加熱ヒーター
100 単結晶製造装置
A 領域
X 熱対流
Y 強制対流