(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】ジ-n-オクチルアミン(DNOA)の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20220712BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20220712BHJP
G01N 30/68 20060101ALI20220712BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20220712BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220712BHJP
G01N 27/626 20210101ALI20220712BHJP
【FI】
G01N30/88 C
G01N30/72 A
G01N30/68 Z
G01N30/06 Z
G01N27/62 V
G01N27/62 C
G01N27/626 M
(21)【出願番号】P 2018128986
(22)【出願日】2018-07-06
【審査請求日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2017153096
(32)【優先日】2017-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅仁
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-209582(JP,A)
【文献】特開2005-298921(JP,A)
【文献】特開2010-037625(JP,A)
【文献】BEROZA, M et al.,Determination of the Carbon Skeleton and Other Structural Features of Organic Compounds by Gas Chromatography,Anal. Chem.,1963年,Vol.35, No.10,p.1353-1357
【文献】Gakushi,化学者のつぶやき TLCと反応の追跡,Chem-Station,2019年04月29日,[online], [令和3年12月23日検索], インターネット <URL: https://www.chem-station.com/blog/2019/04/tlc.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/88
G01N 30/72
G01N 30/68
G01N 30/06
G01N 27/62
G01N 27/626
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性化したジ-n-オクチルアミン(DNOA)を含有する
有機溶
液に対してアルカリ水溶液を接触させる接触工程と、
前記接触工程後に得られる有機相をガスクロマトグラフにかけてDNOAを分離する分離工程と、
分離されたDNOAを分析する分析工程と、
を有
し、
前記DNOAは、前記有機溶液中のトリ-n-オクチルアミン(TNOA)に由来する、ジ-n-オクチルアミン(DNOA)の分析方法。
【請求項2】
前記分析工程においては質量分析法または水素炎イオン化検出器(FID)による分析を行う、請求項
1に記載のジ-n-オクチルアミン(DNOA)の分析方法。
【請求項3】
前記分析工程においてはクロマトグラムにおけるDNOA由来のピーク面積からDNOAについての定量分析を行う、請求項1
または2に記載のジ-n-オクチルアミン(DNOA)の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジ-n-オクチルアミン(DNOA)の分析方法に属する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているトリ-n-オクチルアミン(TNOA)は劣化するとジ-n-オクチルアミン(DNOA)に変化することが知られている。以降、該DNOAのことを“TNOAに由来するDNOA”とも称する。
また、特許文献1には該DNOAをガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)法により分析したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者の調べにより、TNOAと該TNOAに由来するDNOAとを分別定量すべくガスクロマトグラフ質量分析法を使用してDNOAの濃度を定量しようとしても、実際の濃度よりも高い定量結果となり、正しく定量できないことが明らかとなった。
【0005】
本発明の課題は、DNOAを含有する溶液において該DNOAを正確に分析する手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の知見に基づき、上記課題を解決するための手段を検討した。その結果、DNOAを含有する有機溶媒が酸性の場合、上記の課題が生じることが明らかとなった。そして本発明者が鋭意検討を加えた結果、該酸性有機溶媒に対し、アルカリ水溶液を接触させた後に得られる有機相(DNOA含有)に対してガスクロマトグラフ質量分析法を使用してDNOAについての分析を行えば上記課題が解決できるという知見を得た。
【0007】
上記の知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
ジ-n-オクチルアミン(DNOA)を含有する酸性有機溶媒に対してアルカリ水溶液を接触させる接触工程と、
前記接触工程後に得られる有機相をガスクロマトグラフにかけてDNOAを分離する分離工程と、
分離されたDNOAを分析する分析工程と、
を有する、ジ-n-オクチルアミン(DNOA)の分析方法である。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記DNOAは、前記酸性有機溶媒中のトリ-n-オクチルアミン(TNOA)に由来する。
【0009】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の発明において、
前記分析工程においては質量分析法または水素炎イオン化検出器(FID)による分析を行う。
【0010】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様に記載の発明において、
前記分析工程においてはクロマトグラムにおけるDNOA由来のピーク面積からDNOAについての定量分析を行う。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、DNOAを含有する溶液において該DNOAを正確に分析する手法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】酸性有機溶媒中にてプロトン化(塩酸塩化)したDNOAを、アルカリ水溶液との接触により、遊離アミンへと変化させる様子を示す説明図である。
【
図2】実施例1におけるガスクロマトグラフ質量分析法のクロマトグラムを示す図である。
【
図3】比較例1におけるガスクロマトグラフ質量分析法のクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。本実施形態に係るジ-n-オクチルアミン(DNOA)の分析方法においては大きく分けて主に以下の2つの工程を有する。
・トリ-n-オクチルアミン(TNOA)と該TNOAに由来するジ-n-オクチルアミン(DNOA)とを含有する酸性有機溶媒に対してアルカリ水溶液を接触させる接触工程
・接触工程後に得られる有機相をガスクロマトグラフ質量分析法により分析する分析工程
【0014】
接触工程は一具体例を挙げると以下の作業を行う。
まず、TNOAと該TNOAに由来するDNOAを含む酸性有機溶媒をガラス瓶などに一定量秤量する。酸性有機溶媒においてはDNOAは
図1に示すようにプロトン化している。本明細書における“酸性有機溶媒”のpHは、DNOAがプロトン化する程度に低いpHである。
【0015】
本工程においては、その状態の酸性有機溶媒に対してアルカリ水溶液を添加する。該酸性有機溶媒はTNOAとDNOAとを含有しているため有機相であり、これに対してアルカリ水溶液を添加することから、いわゆる有機相と水相との2相接触の状態を本工程にて作り出す。そしてこの2相接触の状態において、一定時間攪拌する。こうすることにより、
図1に示すように、プロトン化したDNOAは脱プロトン化して遊離アミンの状態へと変化する。このようにDNOAを遊離アミンの状態とした後にガスクロマトグラフ質量分析法による測定を行うと、本工程を行わない場合に比べ、TNOAに由来するDNOAを正確に分析することが可能となる。詳しくは後述の実施例の項目にて説明する。
【0016】
このとき、使用するアルカリ水溶液の溶質としては水酸化ナトリウムのような水酸化物塩、炭酸塩、アンモニアなどいかなるものを用いてもよい。酸性有機溶媒中に含まれるすべてのアミン塩酸塩を遊離アミンまで中和するのに必要十分な濃度のアルカリを添加するのが好ましい。こうすることにより、溶液中に標準溶液と形態の異なる状態のアミンを存在させずに済み、ひいては正確な定量を行うことが確実化される。
【0017】
次のDNOAの分離工程および分析工程では、一具体例を挙げると以下の作業を行う。
接触工程により得られた2相の溶液からTNOAとTNOAに由来するDNOAとを含有する有機相を分取し、ガスクロマトグラフ質量分析計測定用のバイアルに移液し、測定を行い(DNOAの分離工程)、DNOAに由来するピークの面積を算出する。そして、事前に試薬のDNOAを用いて作成しておいた、ピーク面積と濃度との関係を表す検量線を利用し、DNOA濃度を算出する。
【0018】
別の具体例を挙げると以下の作業を行う。
接触工程後に得られる有機相をガスクロマトグラフにかけてDNOAを分離する分離工程を行う。
そして、分離されたDNOAに対し、水素炎イオン化検出器(FID)による分析を行う。
【0019】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0020】
本実施形態においてはTNOAに由来するDNOAに対する正確な分析を行うことを課題および効果に設定したが、上記の手法はそれに限定されない。例えば市販されたDNOAを購入者が再確認すべく上記の手法を用いても構わず、DNOAに対する正確な分析を行うという課題が生じ且つ効果を奏することになる。この内容をまとめると以下のようになる。
『ジ-n-オクチルアミン(DNOA)を含有する酸性有機溶媒に対してアルカリ水溶液を接触させる接触工程と、
前記接触工程後に得られる有機相をガスクロマトグラフ質量分析法により分析する分析工程と、
を有する、ジ-n-オクチルアミン(DNOA)の分析方法。』
【実施例】
【0021】
以下、本実施例について説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例および比較例で用いた試薬は次の通りである。
・ジ-n-オクチルアミン:東京化成工業製
・トリ-n-オクチルアミン:東京化成工業製
・希釈溶剤:芳香族炭化水素(丸善石油化学製:商品名スワゾール1800)
また、ガスクロマトグラフ質量分析法による測定を行った際の装置・測定条件を以下の表1に示す。
【表1】
【0022】
[実施例1]
TNOAと該TNOAに由来するDNOAとを含有する酸性有機溶媒を50mLのメスフラスコに1g採取し、希釈溶剤を用いて50mLに定容した。その酸性有機溶媒を蓋付のガラス容器に10mL採取した。
そこに5wt%の濃度に調製した水酸化ナトリウム水溶液を10mL加え、いわゆる2相接触の状態を作り出した。振とう機を用いて、この状態の溶液を10分間振とうさせた後、1時間静置した。
その後、有機相を測定用のバイアル瓶に移液し、ガスクロマトグラフ質量分析装置にセットし、表1の条件で測定を行い、
図2に示すクロマトグラムを得た(
図2中の実試料溶液)。
なお、標準溶液と実試料溶液と添加回収試験用溶液とのクロマトグラムの比較図を
図2に示す。ここで言う添加回収試験用溶液とは、実試料溶液に対して標準溶液を加えたものである。
その目的の一つは、添加回収試験での回収率の結果を得るためのものである。具体的には、試料を1g採取したものを50mLに定容する前に、その溶液中に一定量の標準溶液を添加した場合、(添加回収試験溶液の測定濃度)-(実試料の測定濃度)=(添加した分の濃度)の式によれば、正確な測定が行われるのならば(添加した分の濃度)が(実際に添加した分の濃度)と一致して回収率が100%となるはずである。正確な測定が行われているか否かを確認することが目的の一つである。
また、別の目的としては、クロマトグラムにおいて標準溶液、実試料溶液、添加回収試験用溶液各々でピーク位置にずれが生じた場合、何が原因でずれが生じているのかを確かめるためのものである。
なお、事前に検量線を得ておいた。具体的には、既知量のDNOAに対し、マトリックスマッチング用に一定量のTNOAを添加し、希釈剤で溶解して得た標準溶液を用い、検量線を得ておいた。該検量線に基づき、算出したDNOA濃度は5.1wt%であった。また、添加回収試験の回収率は100%と正確に定量することが可能であった。
その結果、標準溶液と実試料溶液および添加回収試験用溶液すべてのピーク形状が一致しており、実試料溶液中のDNOAが標準溶液中と同じ形態になっていることが分かった。
【0023】
[比較例1]
実施例1における接触工程を行わなかったことを除けば実施例1と同じ操作で分析を行った。
その結果、DNOA濃度は6.1wt%と算出された。添加回収試験の回収率も120%と高めとなり、この方法では、真値よりも2割程度高い定量値を出してしまうことが分かった。
なお、比較例1における標準溶液と実試料溶液および添加回収試験用の溶液のクロマトグラムの比較図を
図3に示すが、標準溶液と実試料溶液ではピーク位置、ピーク形状が異なっており、添加回収試験用の溶液のピークは両者が重なった形状をしていた。これは、形態が異なる2種の化合物を含有した状態となっていることを示すものであり、プロトン化したDNOAと、該DNOAが脱プロトン化して遊離アミンの状態となったDNOAとの2種が含有されているものと推察される。そしてその2種が存在することが原因で、定量値の真値よりも高い値(濃度、回収率)が産出されてしまうものと推察される。