(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】温度異常検知システム、温度異常検知方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
G05B23/02 302Z
G05B23/02 T
(21)【出願番号】P 2018205484
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122286
【氏名又は名称】仲倉 幸典
(72)【発明者】
【氏名】池内 涼
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆章
(72)【発明者】
【氏名】小園 健晃
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-181859(JP,A)
【文献】特開昭62-211997(JP,A)
【文献】特開2016-130699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも配電盤、制御盤および分電盤を含む盤
の筐体内に配置された対象機器の温度異常を検知する温度異常検知システムであって、
上記筐体は開閉可能な扉を有し、
上記対象機器は上記筐体内の上記扉から離れた位置に配置されており、
放射温度センサを含み、この放射温度センサによって上記対象機器から離れた位置で上記対象機器が示す第1温度を測定する第1温度センサと、
接触式温度センサを含み、この接触式温度センサによって上記筐体内で上記対象機器
から離れた位置の空気が示す第2温度を測定する第2温度センサと、
上記第1温度と上記第2温度との間の温度差を算出し、この温度差が予め定められた閾値以上になったとき、上記対象機器の温度異常が発生したと判定する異常判定部と
を備え
、
上記第1温度センサと上記第2温度センサとを共通に搭載したセンサ基板を備え、
上記センサ基板は、上記扉の内面に対して、上記対象機器が上記放射温度センサの視野に入るように、傾斜した状態で取り付けられている
ことを特徴とする温度異常検知システム。
【請求項2】
請求項1に記載の温度異常検知システムにおいて、
上記センサ基板を搭載したセンサ筐体を備え、このセンサ筐体は、上記放射温度センサのレンズが上記センサ筐体の外部に面する状態で、上記接触式温度センサを上記対象機器が放射する赤外線から遮蔽しており、
上記センサ基板は、上記センサ筐体を介して、取付具によって上記扉の内面に取り付けられている
ことを特徴とする温度異常検知システム。
【請求項3】
請求項2に記載の温度異常検知システムにおいて、
上記センサ筐体は、上記放射温度センサおよび上記接触式温度センサに電力供給するための電池を搭載している
ことを特徴とする温度異常検知システム。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一つに記載の温度異常検知システムにおいて、
上記第1温度センサ
が含む上記放射温度センサは、上記第1温度として、上記対象機器の表面のうち温度上昇が最も大きい部位の温度を取得することを特徴とする温度異常検知システム。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一つに記載の温度異常検知システムにおいて、
上記異常判定部は、上記盤の上記筐体の外部に配置されており、上記筐体内の上記第1温度センサおよび上記第2温度センサと信号ケーブルを介して又は無線で通信可能になっていることを特徴とする温度異常検知システム。
【請求項6】
請求項1から
5までのいずれか一つに記載の温度異常検知システムにおいて、
上記温度異常が発生したと判定された時、警報を発する警報部を備えたことを特徴とする温度異常検知システム。
【請求項7】
請求項1から
6までのいずれか一つに記載の温度異常検知システムにおいて、
上記温度異常が発生したと判定された時、上記異常判定部は、上記対象機器への電力供給を遮断するための電力遮断信号を出力することを特徴とする温度異常検知システム。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一つに記載の温度異常検知システムが、上記盤
の上記筐体内に配置された
上記対象機器の温度異常を検知する温度異常検知方法であって、
上記対象機器が示す
上記第1温度を
上記第1温度センサ
が含む上記放射温度センサが測定するとともに、
上記筐体内で上記対象機器
から離れた位置の空気が示す
上記第2温度を
上記第2温度センサ
が含む上記接触式温度センサが測定し、
上記異常判定部が、上記第1温度と上記第2温度との差を算出し、この差が
上記閾値以上になったとき、上記対象機器の温度異常が発生したと判定する
ことを特徴とする温度異常検知方法。
【請求項9】
請求項
8に記載の温度異常検知方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は温度異常検知システムおよび温度異常検知方法に関し、より詳しくは、各種盤内に配置された対象機器の温度異常を検知する温度異常検知システムおよび温度異常検知方法に関する。また、この発明は、そのような温度異常検知方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の温度異常検知システムとしては、例えば特許文献1(特開2009-067521号公報)に開示されているエレベータの制御装置のように、エレベータを運転制御する制御盤に、第1制御電源を成す機器(器具)の温度を検出すると共に、検知温度が予め定められた第1閾値(温度上限値)を超えると、第1検知信号を発生する第1温度検出手段を備えたものが知られている。この制御装置では、上記第1検知信号に基づいて第1開閉手段(第1制御電源に直流電圧を供給する)を開放にすることによって、上記制御盤内の火災の早期検出を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、
図6(A)に示すように、制御盤内の機器が正常に動作しているときは、夏季、冬季でそれぞれ動作開始温度Ts0,Tw0(ここで、季節による温度として、Ts0>Tw0である。)から時間経過に伴って温度が上昇し、或る程度の時間(例えば、30分間から1時間程度)が経過すると温度上昇分ΔTsinc,ΔTwincが一定となって、それぞれ飽和温度Ts1,Tw1に達する。このため、従来例の技術では、第1閾値(温度上限値)Tulは、夏季に誤判定しないように、夏季の飽和温度Ts1を少し超えた温度(例えば、80℃)に設定される。ここで、
図6(B)に示すように、制御盤内の機器が異常に発熱するとき(温度異常時)は、夏季、冬季でそれぞれ動作開始温度Ts0,Tw0から時間経過に伴って温度が上昇し、それぞれ正常時の温度上昇分ΔTsinc,ΔTwincよりも多く発熱(温度異常時の温度上昇分をΔTsinc′,ΔTwinc′で表している。ここで、ΔTsinc<Tsinc′であり、ΔTwinc<ΔTwinc′である。)して、それぞれ正常時よりも高い温度Ts1′,Tw1′に達する。従来例の技術では、夏季の温度異常時には、温度Ts1′が温度上限値Tulを超えるので、異常を検知することができる。しかしながら、冬季の温度異常時には、温度Tw1′が温度上限値Tulを超えない事態が起こって、異常を検知することができないという問題が生ずる。
【0005】
そこで、この発明の課題は、盤が設置されている環境の温度(例えば、季節による温度)にかかわらず、盤内に配置された対象機器の温度異常を精度良く検知できる温度異常検知システムおよび温度異常検知方法を提供することにある。また、この発明の課題は、そのような温度異常検知方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、この開示の温度異常検知システムは、
少なくとも配電盤、制御盤および分電盤を含む盤の筐体内に配置された対象機器の温度異常を検知する温度異常検知システムであって、
上記筐体は開閉可能な扉を有し、
上記対象機器は上記筐体内の上記扉から離れた位置に配置されており、
放射温度センサを含み、この放射温度センサによって上記対象機器から離れた位置で上記対象機器が示す第1温度を測定する第1温度センサと、
接触式温度センサを含み、この接触式温度センサによって上記筐体内で上記対象機器から離れた位置の空気が示す第2温度を測定する第2温度センサと、
上記第1温度と上記第2温度との間の温度差を算出し、この温度差が予め定められた閾値以上になったとき、上記対象機器の温度異常が発生したと判定する異常判定部と
を備え、
上記第1温度センサと上記第2温度センサとを共通に搭載したセンサ基板を備え、
上記センサ基板は、上記扉の内面に対して、上記対象機器が上記放射温度センサの視野に入るように、傾斜した状態で取り付けられている
ことを特徴とする。
【0007】
本明細書で、「対象機器」とは、温度測定の対象となる機器であり、動作時に温度上昇する可能性がある物を指す。また、「盤」とは、配電盤、制御盤、分電盤などの各種盤を含む。また、本明細書で、「放射温度センサ」とは、上記対象機器が放射した赤外線を検出して温度を測定するタイプの温度センサを意味する。また、本明細書で、「接触式温度センサ」とは、測温抵抗体、サーミスタ、熱電対、IC(Integrated Circuit;集積回路)温度センサなど、その温度センサが測定すべき対象物(ここでは、空気)に接触することによって、その対象物の温度を測定するタイプの温度センサを意味する。
【0008】
この開示の温度異常検知システムでは、上記センサ基板は、上記扉の内面に対して、上記対象機器が上記放射温度センサの視野に入るように、傾斜した状態で取り付けられている。したがって、上記第1温度センサは、上記対象機器が上記放射温度センサの視野に入っている状態で、上記放射温度センサによって上記対象機器から離れた位置で上記対象機器が示す第1温度を測定する。上記第2温度センサは、上記接触式温度センサによって上記対象機器から離れた位置の空気が示す第2温度を測定する。異常判定部は、上記第1温度と上記第2温度との間の温度差を算出し、この温度差が予め定められた閾値以上になったとき、上記対象機器の温度異常が発生したと判定する。ここで、上記第2温度は上記対象機器から離れた位置の空気が示す温度であるから、上記盤が設置されている環境の温度(例えば、季節による温度)を反映している。したがって、温度異常が発生したか否かを上記第1温度と上記第2温度との間の温度差に基づいて判定することによって、判定結果に対する、上記環境の温度による影響が相殺される。したがって、この開示の温度異常検知システムによれば、盤が設置されている環境の温度にかかわらず、盤内に配置された対象機器の温度異常を精度良く検知できる。
上記センサ基板は、上記扉の内面に対して取り付けられているので、たとえ上記対象機器が異常に温度上昇したとしても、その温度上昇による被害を受け難い。
また、上記センサ基板として、上記放射温度センサと上記接触式温度センサとが共通に配置されたタイプの市販品を用いることができる。したがって、上記第1温度センサと上記第2温度センサとをコンパクトに構成できる。
【0009】
一実施形態の温度異常検知システムでは、
上記センサ基板を搭載したセンサ筐体を備え、このセンサ筐体は、上記放射温度センサのレンズが上記センサ筐体の外部に面する状態で、上記接触式温度センサを上記対象機器が放射する赤外線から遮蔽しており、
上記センサ基板は、上記センサ筐体を介して、取付具によって上記扉の内面に取り付けられている
ことを特徴とする。
【0010】
この一実施形態の温度異常検知システムでは、上記放射温度センサのレンズが上記センサ筐体の外部に面する状態にあるので、上記レンズによって上記対象機器が放射した赤外線が集光されて入射する。したがって、上記放射温度センサによって、上記対象機器が示す第1温度を、上記筐体内で上記対象機器から離れた位置で測定できる。また、上記センサ筐体は上記接触式温度センサを上記対象機器が放射する赤外線から遮蔽しているので、上記接触式温度センサによって測定される上記第2温度は上記対象機器の温度上昇の影響を受け難くなって、上記温度異常の判定の精度がさらに高まる。上記センサ基板は、上記センサ筐体を介して、取付具によって上記扉の内面に取り付けられているので、上記扉の内面に堅固に取り付けられ得る。
【0011】
一実施形態の温度異常検知システムでは、上記センサ筐体は、上記放射温度センサおよび上記接触式温度センサに電力供給するための電池を搭載していることを特徴とする。
【0012】
【0013】
一実施形態の温度異常検知システムでは、上記第1温度センサが含む上記放射温度センサは、上記第1温度として、上記対象機器の表面のうち温度上昇が最も大きい部位の温度を取得することを特徴とする。
【0014】
この一実施形態の温度異常検知システムでは、上記第1温度センサが含む上記放射温度センサは、上記第1温度として、上記対象機器の表面のうち温度上昇が最も大きい部位の温度を取得する。したがって、上記第1温度と上記第2温度との間の温度差は、上記対象機器から離れた位置の空気に対する、上記対象機器の表面のうち最も注意を要する部位の温度上昇分となる。これに応じて、上記異常判定部は、上記第1温度と上記第2温度との間の温度差、すなわち、上記対象機器の表面のうち最も注意を要する部位の温度上昇分が予め定められた閾値以上になったとき、上記対象機器の温度異常が発生したと判定する。この結果、上記対象機器の表面において温度上昇にばらつきがある場合、最も注意を要する部位の温度上昇分に基づいて、温度異常が判定される。これにより、上記盤内の火災発生を有効に防止できる。
【0015】
一実施形態の温度異常検知システムでは、上記異常判定部は、上記盤の上記筐体の外部に配置されており、上記筐体内の上記第1温度センサおよび上記第2温度センサと信号ケーブルを介して又は無線で通信可能になっていることを特徴とする。
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
一実施形態の温度異常検知システムでは、上記温度異常が発生したと判定された時、警報を発する警報部を備えたことを特徴とする。
【0022】
この一実施形態の温度異常検知システムでは、上記温度異常が発生したと判定された時、警報部が警報を発する。したがって、ユーザは、この警報によって、上記盤内に配置された対象機器に温度異常が発生したことを直ちに認識でき、対象機器を交換するなどの必要な対策を迅速にとることができる。
【0023】
一実施形態の温度異常検知システムでは、上記温度異常が発生したと判定された時、上記異常判定部は、上記対象機器への電力供給を遮断するための電力遮断信号を出力することを特徴とする。
【0024】
この一実施形態の温度異常検知システムでは、上記温度異常が発生したと判定された時、上記異常判定部は、上記対象機器への電力供給を遮断するための電力遮断信号を出力する。したがって、この電力遮断信号に応じて上記対象機器への電力供給を遮断することによって、上記対象機器のさらなる温度上昇を避けて、上記盤内の火災の発生を防止することができる。
【0025】
別の局面では、この開示の温度異常検知方法は、
上記温度異常検知システムが、上記盤の上記筐体内に配置された上記対象機器の温度異常を検知する温度異常検知方法であって、
上記対象機器が示す上記第1温度を上記第1温度センサが含む上記放射温度センサが測定するとともに、上記筐体内で上記対象機器から離れた位置の空気が示す上記第2温度を上記第2温度センサが含む上記接触式温度センサが測定し、
上記異常判定部が、上記第1温度と上記第2温度との差を算出し、この差が上記閾値以上になったとき、上記対象機器の温度異常が発生したと判定する
ことを特徴とする。
【0026】
この開示の温度異常検知方法によれば、盤が設置されている環境の温度にかかわらず、盤内に配置された対象機器の温度異常を精度良く検知できる。
【0027】
さらに別の局面では、この開示のプログラムは、上記温度異常検知方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0028】
この開示のプログラムをコンピュータに実行させることによって、上記温度異常検知方法を実施することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上より明らかなように、この開示の温度異常検知システムおよび温度異常検知方法によれば、盤が設置されている環境の温度にかかわらず、盤内に配置された対象機器の温度異常を精度良く検知できる。また、この開示のプログラムをコンピュータに実行させることによって、上記温度異常検知方法を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1(A)は、この発明の一実施形態の温度異常検知システムの概略構成を示す図である。
図1(B)は、
図1(A)中の制御盤の前扉が閉じられた状態で、この制御盤内に設けられた、温度異常検知の対象となる対象機器と、センサ筐体との配置を模式的に示す図である。
【
図2】
図2(A)は、上記センサ筐体に搭載されたセンサアレイモジュールの外観を示す図である。
図2(B)は、上記センサアレイモジュールに含まれた、第1温度センサをなす放射温度センサの感温素子アレイを示す図である。
【
図3】上記温度異常検知システムの機能的なブロック構成を示す図である。
【
図4】上記温度異常検知システムが実行する温度異常検知の動作フローを示す図である。
【
図5】
図5(A)、
図5(B)は、上記温度異常検知システムによる効果を説明する図である。
【
図6】
図6(A)、
図6(B)は、従来例による問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0032】
(システムの構成)
図1(A)は、この発明の一実施形態の温度異常検知システム1の概略構成を模式的に示している。この例では、温度異常検知システム1は、盤の一例としての制御盤90内に配置された対象機器91の温度異常を検知するものであり、大別して、制御盤90の前扉90fの内側に配置されたセンサ装置95と、制御盤90の外部に配置された異常判定装置100とを備えている。この例では、制御盤90内のセンサ装置95と異常判定装置100とは、信号ケーブル99,180を介して通信可能に接続されている。なお、センサ装置95と異常判定装置100とは、無線で通信可能になっていてもよい。
【0033】
制御盤90は、一般的な構成のものであり、この例では、直方体状の外形をもつ筐体90Mと、この筐体90M内に配置された対象機器91と、この対象機器91に電力を供給する電源部92(後述の
図3参照)とを備えている。この例では、筐体90Mは、
図1(A)中に矢印Eで示すように開閉可能な前扉90fを有している。
図1(B)(前扉90fが閉じられた状態で制御盤90の内部を右側方から見たところを模式的に示す)に示すように、対象機器91は、筐体90Mの後壁90rの内面に沿って取り付けられている。
【0034】
対象機器91としては、例えば、直流電源、コンタクタ、調節計、モータドライバ、ブレーカなどの各種機器のほか、機器の一部をなすパワー半導体、リレー、ヒートシンク、電力系配線、端子など、動作時に温度上昇する可能性がある物が挙げられる。
【0035】
センサ装置95は、扁平な直方体状の外形をもつセンサ筐体95Mと、センサ筐体95Mに搭載された第1温度センサをなす放射温度センサ97と、センサ筐体95M内に収容された第2温度センサをなす接触式温度センサの一例としての測温抵抗体98とを備えている。なお、第2温度センサは、測温抵抗体98ではなく、サーミスタ、熱電対、IC温度センサなど、他のタイプの接触式温度センサであってもよい。
【0036】
図2(A)に示すように、この例では、放射温度センサ97は、センサ基板96に搭載された円筒状のキャンケース97bと、このキャンケース97bの先端開口を塞ぐように取り付けられたレンズ97aと、キャンケース97b内でセンサ基板96に沿って配置された感温素子アレイ97cとを備えている。レンズ97aは、対象機器91が放射した赤外線を集光して感温素子アレイ97c上に入射させる。感温素子アレイ97cは、この例では、サーモパイル(熱電堆)からなり、
図2(B)に示すように、8行×8列の感温素子191,191,…の配列によって構成されている。これらの感温素子191,191,…がレンズ97aを通してこの放射温度センサ97の視野内のそれぞれ別の方向を見ることによって、視野内の温度分布を表す複数(この例では、64個)の温度信号を出力することが可能になっている。後述のように、これらの64個の温度信号のうち、選択された信号が表す温度が第1温度T1として取得される。
【0037】
このように、第1温度センサが放射温度センサ97を含む場合、この放射温度センサ97によって、対象機器91が示す第1温度T1を、制御盤90の筐体90M内で対象機器91から離れた位置で測定できる。したがって、たとえ対象機器91が異常に温度上昇したとしても、その温度上昇による被害を受け難い。また、放射温度センサ97自体は、例えば熱電対温度センサに比して、短絡、発火などの危険が少ないという利点がある。
【0038】
図2(A)中に示すように、センサ基板96には、上述の放射温度センサ97とともに、測温抵抗体98が搭載されている。測温抵抗体98は、温度変化に伴う抵抗体の抵抗変化によって、この測温抵抗体98が配置されている位置で、
空気に接触することによって、その
空気の温度を表す温度信号(第2温度T2)を出力する。
【0039】
このように、放射温度センサ97と測温抵抗体98とが共通のセンサ基板96に配置されたものとしては、市販品、例えばSSC株式会社製のサーモパイルアレイセンサ(モジュールタイプ)を用いることができる。これにより、放射温度センサ97と測温抵抗体98とをコンパクトに構成できる。
【0040】
図1(B)中に示すように、放射温度センサ97と測温抵抗体98とを搭載したセンサ基板96は、上述のセンサ筐体95Mに、放射温度センサ97のレンズ97aが外部に面する状態で搭載されている。センサ筐体95Mは、図示しない取付金具によって、制御盤90の前扉90fの内面に、堅固に取り付けられている。この例では、センサ筐体95M(およびセンサ基板96)は、放射温度センサ97の視野に対象機器91が入るように、前扉90fの鉛直な内面に対して傾斜した状態で取り付けられている。
【0041】
この結果、測温抵抗体98によって第2温度T2が測定される位置P2は、制御盤90の筐体90M内で、かつ、対象機器91から離れた位置になっている。測温抵抗体98によって測定される第2温度T2は、筐体90M内で、かつ、対象機器91から離れた位置の空気93が示す温度と実質的に等しいと言える。
【0042】
なお、この例では、放射温度センサ97と測温抵抗体98は、センサ筐体95Mに搭載された図示しない電池からの電力供給によって動作する構成になっている。ただし、放射温度センサ97と測温抵抗体98は、制御盤90の電源部92から電力供給を受けてもよい。
【0043】
図3は、温度異常検知システム1の機能的なブロック構成を示している。
【0044】
温度異常検知システム1に含まれた異常判定装置100は、この例では、操作部102、記憶部103、制御部101、および警報部105を備えている。
【0045】
操作部102は、この例ではキーボードとマウスからなっている。この例では、操作部102は、特に、ユーザが処理開始/終了指示、および、温度異常の判定のための閾値Thを入力するために用いられる。
【0046】
記憶部103は、この例では、非一時的にデータを記憶し得るEEPROM(電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ)、および、一時的にデータを記憶し得るRAM(ランダム・アクセス・メモリ)を含んでいる。この記憶部103には、制御部101を制御するためのソフトウェア(コンピュータプログラム)が格納されている。また、この例では、記憶部103は、ユーザによって入力された温度異常の判定のための閾値Thを記憶する。
【0047】
制御部101は、この例では、記憶部103に格納された制御プログラム(ソフトウェア)に従って動作するプロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)を含んでいる。この制御部101は、ソフトウェアによって構成された差算出部141と、判定部142とを含んでいる。これらの差算出部141と判定部142とは、異常判定部を構成している。この制御部101の動作については、
図4の動作フローを用いて後に詳述する。
【0048】
警報部105は、この例では、LCD(液晶表示素子)からなる表示器151と、ブザー152とを含んでいる。表示器151は、制御部101からの信号に基づいて、各種情報を表示画面に表示する。ブザー152は、制御部101からの信号に基づいて、ブザー音を鳴動させる。
【0049】
(温度異常検知の動作)
図4は、異常判定装置100が実行する温度異常検知処理(温度異常検知方法)のフローを示している。この例では、制御盤90の運転開始と同時に、異常判定装置100は
図3中に示した操作部102を介した処理開始指示を受けて、この温度異常検知処理を開始するものとする。制御盤90が設置されている環境の温度はTaとする(
図3参照)。
【0050】
まず、
図4のステップS1に示すように、この例では、ユーザが操作部102を介して温度異常の判定のための閾値Thを入力する。この例では、閾値Th=20℃とする。ユーザによって入力された閾値Thは、
図3中に示した記憶部103に記憶される。
【0051】
次に、
図4のステップS2,S3に示すように、制御部101は、図示しない入出力インタフェースを介して、放射温度センサ97が出力する温度信号(第1温度T1)と、測温抵抗体98が出力する温度信号(第2温度T2)とを入力する。
【0052】
この例では、放射温度センサ97が出力する温度信号は、
図2(B)に示した8行×8列の感温素子191,191,…による計64個の信号を含んでいる。制御部101は、それらの信号のうち最も高い温度を表す信号(すなわち、対象機器91の表面91aのうち温度上昇が最も大きい部位P1の温度)を選択して、その信号が表す温度を第1温度T1として取得する。その理由は、対象機器91の表面91aのうち温度上昇が最も大きい部位P1が、最も注意を要する部位だからである。具体的には、例えば、
図2(B)に示した8行×8列の感温素子191,191,…の中で、或る感温素子191xの出力が、最も高い温度を表しているものとする。その場合、制御部101は、その感温素子191xが出力する信号を選択して、その信号が表す温度を第1温度T1として取得する。
【0053】
測温抵抗体98が出力する温度信号(第2温度T2)は、
図1(B)によって説明したように、制御盤90の筐体90M内で、かつ、対象機器91から離れた位置
の空気93が示す温度になっている。
【0054】
次に、
図4のステップS4に示すように、制御部101は差算出部141として働いて、第1温度T1と第2温度T2との間の温度差ΔTを算出する。ここで、ΔT=T1-T2である。なお、動作開始時には、T1≒Taであり、また、T2≒Taであることから、ΔT≒0である。
【0055】
次に、
図4のステップS5に示すように、制御部101は判定部142として働いて、温度差ΔTが閾値Th以上になったか否かを判断する。ここで、温度差ΔTが閾値Th未満であれば(ステップS5でNO)、制御部101(判定部142)は、対象機器91の温度異常が発生していないと判断して、この温度異常検知処理を終了するための終了条件が満たされていない限り(ステップS7でNO)、ステップS2に戻って処理を繰り返す。
【0056】
一方、温度差ΔTが閾値Th以上になっていれば(ステップS5でYES)、制御部101(判定部142)は、対象機器91の温度異常が発生したと判断する。そこで、ステップS6に進んで、この温度異常が発生したと判断した時点で、制御部101は、温度異常が発生したことを表す温度異常信号ATを作成して、
図3中に示した警報部105へ出力する。これにより、警報部105に含まれた表示器151は、対象機器91の温度異常が発生したことを表す警報(例えば、「対象機器91に温度異常が発生しました」という表示)を表示画面に表示する。また、ブザー152は、警報としてブザー音を鳴動させる。したがって、ユーザは、これらの警報によって、制御盤90内に配置された対象機器91に温度異常が発生したことを直ちに認識でき、対象機器91を交換するなどの必要な対策を迅速にとることができる。
【0057】
また、上記温度異常が発生したと判断した時点で、制御部101は異常判定部として働いて、対象機器91への電力供給を遮断することを表す電力遮断信号PWoffを作成して、制御盤90の電源部92へ出力する。この例では、電力遮断信号PWoffを受けた時、制御盤90の電源部92は、自動的に直ちに対象機器91への電力供給を遮断する。したがって、対象機器91のさらなる温度上昇を避けて、制御盤90内の火災の発生を防止することができる。
【0058】
なお、対象機器91への電力供給を自動的に直ちに遮断するのに代えて、制御部101は、例えば、表示器151の表示画面に、「対象機器91への電力供給を遮断してください」という表示を行ってもよい。この表示を見て、ユーザは、対象機器91への電力供給を手動によって遮断することができる。
【0059】
この後、
図4のステップS7では、制御部101は、この温度異常検知処理を終了するための終了条件が満たされたか否かを判断する。この例では、この温度異常検知処理を開始してから予め定められた処理期間が経過するか、または、操作部102を介した処理終了指示を受けると、制御部101は、終了条件が満たされたと判断して、この温度異常検知処理を終了する。
【0060】
(効果)
このように、この温度異常検知システム1は、第1温度T1と第2温度T2との間の温度差ΔT(=T1-T2)が閾値Th以上になったか否かに基づいて、対象機器91の温度異常を検知する。ここで、第2温度T2は筐体90M内で対象機器91から離れた位置の空気93が示す温度であるから、制御盤90が設置されている環境の温度Ta(例えば、季節による温度)を反映している。したがって、温度異常が発生したか否かを温度差ΔTに基づいて判定することによって、判定結果に対する、環境の温度Taによる影響が相殺される。したがって、この温度異常検知システム1によれば、制御盤90が設置されている環境の温度Taにかかわらず、制御盤90内に配置された対象機器91の温度異常を精度良く検知できる。
【0061】
例えば、夏季、冬季で動作開始時における第1温度T1と第2温度T2との間の温度差ΔTを、それぞれΔTs0、ΔTw0と表すものとする。動作開始時には、ΔTs0≒0であり、また、ΔTw0≒0である。
図5(A)に示すように、制御盤90内の対象機器91が正常に動作しているときは、夏季、冬季でそれぞれ動作開始時の温度差ΔTs0,ΔTw0から時間経過に伴って温度
差が上昇し、或る程度の時間(例えば、30分間から1時間程度)が経過すると温度上昇分ΔTsinc,ΔTwincが一定となって、それぞれ飽和温度差ΔTs1,ΔTw1に達する。この例では、閾値Thは、経験により、これらの飽和温度差ΔTs1,ΔTw1
が超えないように、上述の20℃に設定されている。したがって、対象機器91が正常に動作しているときは、異常判定装置100は、対象機器91の温度異常が発生したと誤判定することはない。また、
図5(B)に示すように、制御盤90内の機器が異常に発熱するとき(温度異常時)は、夏季、冬季でそれぞれ動作開始
時の温度
差ΔTs0,ΔTw0から時間経過に伴って温度
差が上昇し、それぞれ正常時の温度上昇分ΔTsinc,ΔTwincよりも多く発熱(温度異常時の温度上昇分をΔTsinc′,ΔTwinc′で表している。ここで、ΔTsinc<Tsinc′であり、ΔTwinc<ΔTwinc′である。)して、それぞれ正常時よりも高い温度差ΔTs1′,ΔTw1′に達する。この結果、ΔTs1′>Thとなり、また、ΔTw1′>Thとなる。したがって、夏季、冬季のいずれにおいても、異常判定装置100は、対象機器91の温度異常を精度良く検知することができる。
【0062】
このように、この温度異常検知システム1によれば、制御盤90が設置されている環境の温度Taにかかわらず、制御盤90内に配置された対象機器91の温度異常を精度良く検知できる。
【0063】
特に、上述の例では、測温抵抗体98によって第2温度T2が測定される位置P2は、制御盤90の筐体90M内で、かつ、対象機器91から離れた位置になっている。したがって、第2温度T2は筐体90M内で対象機器91から離れた位置の空気93が示す温度となって、対象機器91の温度上昇の影響を受け難くなる。しかも、測温抵抗体98は、センサ筐体95Mに収容されているので、対象機器91が放射した赤外線から遮蔽される。したがって、第2温度T2は、対象機器91の温度上昇の影響をさらに受け難くなる。したがって、第1温度T1と第2温度T2との間の温度差ΔTは、対象機器91の正味の温度上昇分となる。この結果、温度異常の判定の精度が高まる。
【0064】
また、上述の例では、異常判定装置100は、対象機器91の表面91aのうち温度上昇が最も大きい部位P1の温度、すなわち、最も注意を要する部位の温度を、第1温度T1として取得している。この結果、対象機器91の表面91aにおいて温度上昇にばらつきがある場合、最も注意を要する部位P1の温度上昇分に基づいて、温度異常が判定される。これにより、制御盤90内の火災発生を有効に防止できる。
【0065】
上述の温度異常検知方法を、ソフトウェア(コンピュータプログラム)として、CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタル万能ディスク)、フラッシュメモリなどの非一時的(non-transitory)にデータを記憶可能な記録媒体に記録してもよい。このような記録媒体に記録されたソフトウェアを、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)、パーソナルコンピュータ、PDA(パーソナル・デジタル・アシスタンツ)、スマートフォンなどの実質的なコンピュータ装置にインストールすることによって、それらのコンピュータ装置に、上述の異常判定装置100による温度異常検知方法を実行させることができる。
【0066】
また、上述の例では、制御盤90の外部に異常判定装置100が配置されたが、これに限られるものではない。例えば、制御盤90の内部に設けられたセンサ筐体95Mに、異常判定装置100を組み込んでもよい。その場合、異常判定装置100に無線通信可能な通信部を設けて、対象機器91の温度異常が発生した時、その通信部によって外部へ警報を送信するのが望ましい。ユーザは、その警報を受信することによって、制御盤90内に配置された対象機器91に温度異常が発生したことを直ちに認識でき、対象機器91を交換するなどの必要な対策を迅速にとることができる。
【0067】
また、上述の例では、対象機器91が配置されているのは制御盤90であるものとしたが、これに限られるものではない。対象機器91は、制御盤90以外の、配電盤、分電盤など、様々な盤に配置されていてもよい。そのような場合にも、この発明は好ましく適用可能である。
【0068】
また、上述の実施形態では、制御部101はCPUを含むものとしたが、これに限るものではない。制御部101は、PLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの、論理回路(集積回路)を含むものとしてもよい。
【0069】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した複数の実施の形態は、それぞれ単独で成立し得るものであるが、実施の形態同士の組みあわせも可能である。また、異なる実施の形態の中の種々の特徴も、それぞれ単独で成立し得るものであるが、異なる実施の形態の中の特徴同士の組みあわせも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 温度異常検知システム
90 制御盤
91 対象機器
97 放射温度センサ
98 測温抵抗体
100 異常判定装置
101 制御部
105 警報部