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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】撮像装置および情報コード読取装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/00 20060101AFI20220712BHJP
   G03B 11/00 20210101ALI20220712BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20220712BHJP
   G03B 15/00 20210101ALI20220712BHJP
   G03B 17/02 20210101ALI20220712BHJP
   G06K 7/10 20060101ALI20220712BHJP
   H04N 5/225 20060101ALI20220712BHJP
   H04N 5/232 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
G02B13/00
G03B11/00
G02B5/02 C
G03B15/00 U
G03B17/02
G06K7/10 408
G06K7/10 416
H04N5/225 400
H04N5/232 290
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021014428
(22)【出願日】2021-02-01
(62)【分割の表示】P 2016010086の分割
【原出願日】2016-01-21
(65)【公開番号】P2021081734
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 慎也
(72)【発明者】
【氏名】庄 沱
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-142231(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146380(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/203151(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/146506(WO,A1)
【文献】特表2013-518474(JP,A)
【文献】特開平03-287215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 25/00 - 25/04
H04N 5/222 - 5/257
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚以上のレンズと、これらのレンズのうち隣接するいずれか2枚の間に配置された絞りと、前記レンズのうち最も後方の最終レンズより後方へ配置された光学素子とを有する光学系と、
前記光学素子より後方に配置された撮像素子と
前記撮像素子で取得された画像データに対して画像処理および復元処理を行う画像復元処理部と、
この画像復元処理部によって復元された画像を出力する復元画像出力部とを備え、
を備え、
前記光学素子は光拡散面を有しており、
前記レンズのうち最も前方の第1レンズの前面から前記絞りまでの第1距離が、前記絞りから前記撮像素子までの第2距離より大きいことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の撮像装置において、
前記光拡散面から前記絞りまでの第3距離と前記第2距離とが、0<前記第3距離<前記第2距離の関係を満たすことを特徴とする撮像装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の撮像装置において、
前記画像復元処理部は、拡散されて前記撮像素子に入射した点像関数のパターンから作成されたWienerフィルタまたはFIRフィルタを有することを特徴とする撮像装置。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の撮像装置において、
前記光拡散面は、点対称の円環構造で、断面視で不均一にギザギザした連続形状、レンズ形状、バイナリ格子形状、又は回折格子形状であることを特徴とする撮像装置。
【請求項5】
請求項1に記載の撮像装置において、
前記光学素子は取り外し可能であることを特徴とする撮像装置。
【請求項6】
請求項1に記載の撮像装置を備える情報コード読取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学系および撮像装置に関し、特に、バーコードや2次元コードなどの情報コードを読み取る情報コード読取装置に好適な光学系および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バーコードや2次元コードなどの情報コードの読み取りのために、光学系のフォーカスレンズをピント位置に移動させることで焦点を合わせる方法や、開口絞りを小さくすることでF値を大きくし、光学的な被写界深度を拡大させることでピント範囲を拡大する方法が知られている(例えば、特許文献2の明細書の背景技術セクションを参照)。
【0003】
また、光学系の球面収差を意図的に大きくして被写界深度を大きくする手法もある。具体的には、光学系内部に位相板を挿入することで意図的に球面収差を大きくする手法などもある(例えば、特許文献1,2を参照)。
【0004】
一方、光学ディフューザ(光拡散板)を用いて画像を記録するためのシステム、方法、及びメディアも提案されており、光学ディフューザがカメラレンズのアパーチャ(絞り)に配置されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0005】
ここで、被写界深度と、光線の方向を示すサジタル(sagittal)およびタンジェンシャル(tangential)について説明しておく。
【0006】
図22は被写界深度の概略説明図である。
【0007】
この図に示すように、F値がFで焦点距離fのレンズによってレンズ中心から物体距離sの被写体面O上の点は、レンズ中心から像距離s’の像面O’上では点として結像するが、像面O’から前後に外れると円として結像する。この円のことを錯乱円といい、ピントが合っているとみなされる最大径εの円を許容錯乱円という。この許容錯乱円に対応する像面O’側の範囲を、α1’とα2’とを合せて焦点深度α’という。また、この焦点深度α’に対応する被写体面O側の範囲を、α1とα2とを合せて被写界深度αという。
【0008】
また、タンジェンシャル面とは、光軸と主光線とを含む平面であり、面中心から放射状の方向に対応する。サジタル面とは、主光線を含み、タンジェンシャル面に垂直な平面であり、同心円の接線方向に対応する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-235794号公報
【文献】国際公開第2009/119838号
【文献】特許第5567692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1や特許文献2に開示されているような従来技術では、光学系そのものを意図的に収差の大きい設計とする必要があり、それにかかる光学設計の負荷が大きい。また、通常のレンズとして使用することができず、汎用性のない特殊な光学系とする必要があった。
【0011】
また、位相板を用いるものでは、スポット径を光軸方向(焦点深度付近)に略均一にしているものの、画像の中心と周辺のスポット差を完全に一致させることができず、特に、サジタル(sagittal)/タンジェンシャル(tangential)光線を各距離で揃えることは、設計的にも非常に困難であった。
【0012】
さらには、開放に対してF値が大きくなるにつれて視野内のサジタルおよびタンジェンシャルの差異が大きく発生し、信号処理における復元時に撮像範囲内の周辺含めた画像状態が均一な状態とならず、画面全域でコード読み取りが求められるようなシーンでは性能上の不利益があった。
【0013】
従来技術のこのような課題に鑑み、本発明の目的は、開発時間が大幅にかかる特殊な光学設計を用いることなく、撮像装置として予め設計されたレンズ光学系に取り外し可能な光拡散板を設置することで、安価で簡単に被写界深度を拡大可能な固定焦点型の撮像装置と、そのような撮像装置の光学系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の撮像装置は、2枚以上のレンズと、これらのレンズのうち隣接するいずれか2枚の間に配置された絞りと、前記レンズのうち最も前方の第1レンズより前方に配置された光学素子とを有する光学系と、前記レンズのうち最も後方の最終レンズより後方に配置された撮像素子とを備え、前記光学素子は光拡散面を有しており、前記第1レンズの前面から前記絞りまでの第1距離が、前記絞りから前記撮像素子までの第2距離より小さいことを特徴とする。さらに、前記光拡散面から前記絞りまでの第3距離と前記第1距離とが、0≦前記第1距離≦前記第3距離の関係を満たすようにしてもよい。
【0015】
または、本発明の撮像装置は、2枚以上のレンズと、これらのレンズのうち隣接するいずれか2枚の間に配置された絞りと、前記レンズのうち最も後方の最終レンズより後方へ配置された光学素子とを有する光学系と、前記光学素子より後方に配置された撮像素子とを備え、前記光学素子は光拡散面を有しており、前記レンズのうち最も前方の第1レンズの前面から前記絞りまでの第1距離が、前記絞りから前記撮像素子までの第2距離より大きいことを特徴とする。さらに、前記光拡散面から前記絞りまでの第3距離と前記第2距離とが、0≦前記第3距離≦前記第2距離の関係を満たすようにしてもよい。
【0016】
ここで、「前」とは光学系へ光線が入射する側(被写体側)であり、「後」とは光学系から光線が出射する側(撮像素子側)である。
【0017】
このような構成の撮像装置によれば、既存のレンズ光学系に取り外し可能な光拡散板を設置することで、安価で簡単に被写界深度を拡大可能な固定焦点型の撮像装置を実現することができる。
【0018】
本発明の撮像装置において、前記撮像素子で取得された画像データに対して画像処理および復元処理を行う画像復元処理部と、この画像復元処理部によって復元された画像を出力する復元画像出力部とをさらに備えてもよい。
【0019】
ここで、前記画像復元処理部は、拡散されて前記撮像素子に入射した点像関数のパターンから作成されたWienerフィルタまたはFIRフィルタを有してもよいが、これらのフィルタに限らない。また、前記光拡散面は、例えば、点対称の円環構造で、不連続の高さピッチ形状またはレンズ形状であってもよいが、これらの形状に限らない。
【0020】
本発明の光学系は、2枚以上のレンズと、これらのレンズのうち隣接するいずれか2枚の間に配置された絞りと、前記レンズのうち最も前方の第1レンズより前方に配置された光学素子とを備え、前記光学素子は光拡散面を有しており、前記第1レンズの前面から前記絞りまでの第1距離が、前記レンズのうち最も後方の最終レンズより後方に配置される撮像素子から前記絞りまでの第2距離より小さいことを特徴とする。
【0021】
または、本発明の光学系は、2枚以上のレンズと、これらのレンズのうち隣接するいずれか2枚の間に配置された絞りと、前記レンズのうち最も後方の最終レンズより後方へ配置された光学素子とを備え、前記光学素子は光拡散面を有しており、前記レンズのうち最も前方の第1レンズの前面から前記絞りまでの第1距離が、前記光学素子より後方に配置される撮像素子から前記絞りまでの第2距離より大きいことを特徴とする。
【0022】
このような構成の光学系によれば、上記のような撮像装置に適した光学系を実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の撮像装置によれば、既存のレンズ光学系に取り外し可能な光拡散板を設置することで、安価で簡単に被写界深度を拡大可能な固定焦点型の撮像装置を実現することができる。
【0024】
また、本発明の光学系によれば、上記のような撮像装置に適した光学系を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態1に係る撮像装置100の概略構成を示すブロック図である。
図2】撮像装置100の光学系110を拡大した断面図である。
図3】被写界深度拡大の原理を説明するための光学系110の概略構成図である。
図4】(a)は光拡散板115の斜視図である。(b)は光拡散板115の正面図である。(c)は光拡散板115の部分断面図である。(d)は光拡散板115の変形例である光拡散板115Aの部分断面斜視図である。
図5】(a)、(b)は光学系110に光拡散板115がない場合とある場合とで、距離と点拡がり関数(PSF:Point spread function)の関係をそれぞれ示す図である。
図6】(a)は光拡散板115の拡散角度σの概略説明図である。(b)は撮像素子120上でのPSFの角度分布を示すグラフである。
図7】(a)は画像復元処理部150で用いられる画像復元フィルタの概略説明図である。(b)は復元フィルタの一例としてWienerフィルタを示す式である。
図8】(a)は、絞り113が開放の場合に、光学系110の画面内像高による性能劣化を説明するための光学系110の概略構成図である。(b)はMTFの空間周波数特性を例示するグラフである。(c)は像高によるMTFの変化をサジタルおよびタンジェンシャル毎にそれぞれ例示するグラフである。(d)はMTFの空間周波数特性をサジタルおよびタンジェンシャル毎にそれぞれ例示するグラフである。
図9】(a)は、F値が大きい場合に、光学系110の画面内像高による性能劣化を説明するための光学系110の概略構成図である。(b)はサジタルに対してタンジェンシャルの性能劣化が大きい場合のイメージ図である。(c)は像高によるMTFの変化をサジタルおよびタンジェンシャル毎にそれぞれ例示するグラフである。(d)はMTFの空間周波数特性をサジタルおよびタンジェンシャル毎にそれぞれ例示するグラフである。
図10】光学系110の具体的な設計例を示す概略図である。
図11】その設計例の光学データである。
図12】(a)、(b)は光拡散板115がない場合とある場合との光学特性をそれぞれ例示するグラフである。
図13】光拡散板115がある場合の光学シミュレーション結果である。
図14】(a)は、光学系110がa>bの関係(実施形態1に非該当)である場合において、像高によるMTFの変化を撮像素子120上の周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。(b)は同じ場合において、MTFの空間周波数特性を撮像素子120上の軸中心と周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。
図15】(a)は、光学系110がa<bの関係(実施形態1に該当)である場合において、像高によるMTFの変化を撮像素子120上の周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。(b)は同じ場合において、MTFの空間周波数特性を撮像素子120上の軸中心と周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。
図16】(a)は、光学系110がa>bの関係(実施形態1に非該当)であってF値が大きい(F8.0)場合において、像高によるMTFの変化を撮像素子120上の周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。(b)は同じ場合において、MTFの空間周波数特性を撮像素子120上の軸中心と周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。
図17】(a)は、光学系110がa<bの関係(実施形態1に該当)であってF値が大きい(F8.0)場合において、像高によるMTFの変化を撮像素子120上の周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。(b)は同じ場合において、MTFの空間周波数特性を撮像素子120上の軸中心と周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。
図18】本発明の実施形態2に係る撮像装置の光学系210の断面図である。
図19】(a)は、光学系210がa<bの関係(実施形態2に非該当)である場合において、像高によるMTFの変化を撮像素子120上の周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。(b)は同じ場合において、MTFの空間周波数特性を撮像素子120上の軸中心と周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。
図20】(a)は、光学系210がa>bの関係(実施形態2に該当)である場合において、像高によるMTFの変化を撮像素子120上の周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。(b)は同じ場合において、MTFの空間周波数特性を撮像素子120上の軸中心と周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。
図21】(a)は本発明の実施形態1に係る撮像装置100の光学系110の変形例である光学系110Aの断面図である。(b)は本発明の実施形態2に係る撮像装置の光学系210の断面図である。
図22】被写界深度の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のいくつかの実施形態を、図面を参照して説明する。
【0027】
<実施形態1>
図1は本発明の実施形態1に係る撮像装置100の概略構成を示すブロック図である。図2は撮像装置100の光学系110を拡大した断面図である。なお、以下の説明では、光学系110へ光線が入射する側(被写体側でもある)を「前」(図中では左)、光学系110から光線が出射する側を「後」(図中では右)ということとする。
【0028】
図1に示すように、撮像装置100は、2枚以上のレンズを有する光学系110と、この光学系110の後方に配置された撮像素子120と、この撮像素子120から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバーター130と、RAW画像メモリ141とコンボリューション演算部142とを有するとともにA/Dコンバーター130から出力されたデジタル信号の画像データに対して画像処理を行う画像処理部140と、デコンボリューション演算部151を有するとともに画像処理部140による画像処理後の画像データに対して復元処理を行う画像復元処理部150と、この画像復元処理部150によって復元された画像を出力する復元画像出力部160とを備えている。
【0029】
撮像素子120としては、CCDセンサー、CMOSセンサー、MOSセンサーなどが挙げられるが、これらに限らない。撮像素子120がアナログ信号ではなく、デジタル信号を直接出力できる場合は、A/Dコンバーター130を省略可能である。
【0030】
画像処理部140と画像復元処理部150とは、必ずしも独立している必要はなく、1つに統合してもよい。
【0031】
また、図2に示すように、光学系110は、後端にマウント部111aと前端部内面にフィルタ溝111bとを有するとともに交換可能な円筒状のレンズ鏡筒111と、このレンズ鏡筒111内に前方から順に配置された第1レンズ112a、第2レンズ112b、および第3レンズ(最終レンズ)112cと、第2レンズ112bの直前に配置された絞り113と、フィルタ溝111bにねじ込まれたホルダー114に保持された光拡散板115とを備えている。
【0032】
ここで、この光学系110において次のように定める距離aおよび距離bについて、a<bであることを特徴とする。
【0033】
a:最も前方の第1レンズ112aの前面(第1面)から絞り113まで
b:絞り113から撮像素子120(の撮像面)まで
レンズ鏡筒111のマウント部111aとしては、例えばCマウントが挙げられるが、これに限らない。
【0034】
第1レンズ112aおよび第3レンズ112cを凸レンズ、第2レンズ112bを凹レンズとしているが、このような組み合わせに限らないし、全体のレンズ枚数も3枚に限らない。
【0035】
絞り113は開口絞りであるが、その配置は必ずしも図示された位置に限らない。
【0036】
ホルダー114に保持された光拡散板115は、フィルタ溝111bへのねじ込みが緩む方向に回すことで取り外すことができるので、他の光拡散板や光学素子などに交換することも容易である。
【0037】
図3は被写界深度拡大の原理を説明するための光学系110の概略構成図である。図4(a)は光拡散板115の斜視図である。図4(b)は光拡散板115の正面図である。図4(c)は光拡散板115の部分断面図である。図4(d)は光拡散板115の変形例である光拡散板115Aの部分断面斜視図である。図5(a)、(b)は光学系110に光拡散板115がない場合とある場合とで、距離と点拡がり関数(PSF:Point spread function)の関係をそれぞれ示す図である。
【0038】
図3に示すように、光学系110の最前面に配置された光拡散板115は、その前面115aは平面であるが、その後面が光を拡散する光拡散面115bとして形成されている。図4(a)~(c)に示すように、光拡散面115bの断面は、不連続の高さピッチでギザギザした連続形状であって、点対称の円環構造である。ただし、このような断面形状に限るわけではなく、例えば、図4(d)に示す光拡散板115Aのようなレンズ形状であってもよい。また、図示されていないが、バイナリ形状や回折格子形状といったものでもよい。光拡散板115や光拡散板115Aの材料としては、樹脂またはガラスなど、金型などで成型可能なものが好適である。
【0039】
光拡散板115がければ、図5(a)に示すように、合焦距離から少し外れるだけで撮像素子120上のスポット径は光線が大きく拡がってしまう。一方、光拡散板115がれば、図5(b)に示すように、合焦距離から外れても撮像素子120上のスポット径はほとんど拡がらない。つまり、光拡散面115bを有する光拡散板115によって、撮像素子120上の光線拡がり(ボケ特性)を距離方向に一定にすることができる。
【0040】
図6(a)は光拡散板115の拡散角度σの概略説明図である。図6(b)は撮像素子120上でのPSFの角度分布を示すグラフである。
【0041】
図6(a)に示すように、光拡散板115の拡散角度σは、レンズの射出瞳面から撮像素子120上の光線拡がり角として定義される。レンズの射出瞳面から撮像素子120までの距離Z、光線拡がり角2σ、および撮像素子120上での拡散幅Wに基づいて、拡散角度σ(ボケ幅)は次式で計算することができる。
【0042】
σ = tan-1(W/Z)
ここで、撮像素子120上でのPSFの角度分布は、図6(b)に示すように、略ガウス分布(Gaussian distribution)とする。
【0043】
図7(a)は画像復元処理部150で用いられる画像復元フィルタの概略説明図である。図7(b)は復元フィルタの一例としてWienerフィルタを示す式である。
【0044】
図7(a)に示すように、原画像f0にボケ特性としてPSF(k)が乗じられるとともにノイズ(n)が加えられることで観測画像fが得られる。この関係は、空間領域では次式で表すことができる。
【0045】
0*k+n = f
また、周波数領域では次式で表すことができる。
【0046】
0・K+N = F
ここで、F0、K、N、Fはそれぞれ原画像、PSF、ノイズ、観測画像に対応する。
【0047】
したがって、この逆過程を辿ることで観測画像fから復元画像frを生成することが可能となる。具体的には、その逆過程を辿るような周波数領域の復元フィルタ(H)を予め算出しておき、観測画像Fに対して復元フィルタ(H)を乗じることで復元画像Frを生成できる。なお、このことは当業者には一般的な内容なので、詳細な説明は省略する。
【0048】
ボケ特性が画面内(撮像素子120の像高内)で均一であれば、復元された画像もピントのあった均一なものとなる。
【0049】
復元フィルタ(H)としては、例えば、図7(b)に示すようなWienerフィルタが適用できるが、これに限らない。代わりに、FIRフィルタを用いれば、Wienerフィルタでの空間演算を近似することでFFTの演算が不要になるので、処理時間が短縮される効果がある。
【0050】
図8(a)は、絞り113が開放の場合に、光学系110の画面内像高による性能劣化を説明するための光学系110の概略構成図である。図8(b)はMTFの空間周波数特性を例示するグラフである。図8(c)は像高によるMTFの変化をサジタルおよびタンジェンシャル毎にそれぞれ例示するグラフである。図8(d)はMTFの空間周波数特性をサジタルおよびタンジェンシャル毎にそれぞれ例示するグラフである。
【0051】
図8(a)に示すように、光学系110に光拡散板115や位相板などの素子を挿入すると、図8(b)に示すように、画面内像高による性能劣化が発生する。特に、図8(c)および図8(d)に示すように、視野内でのサジタルとタンジェンシャルとの差違が課題となる。
【0052】
図9(a)は、F値が大きい場合に、光学系110の画面内像高による性能劣化を説明するための光学系110の概略構成図である。図9(b)はサジタルに対してタンジェンシャルの性能劣化が大きい場合のイメージ図である。図9(c)は像高によるMTFの変化をサジタルおよびタンジェンシャル毎にそれぞれ例示するグラフである。図9(d)はMTFの空間周波数特性をサジタルおよびタンジェンシャル毎にそれぞれ例示するグラフである。
【0053】
図8(a)に示した光学系110で、図9(a)に示すようにF値を大きくした場合、画面内像高による性能劣化がさらに大きくなる。例えば、原画像f0が十文字のとき、図9(b)に示すように、横棒の上下のみにボケが現れることになる。また、図9(c)および図9(d)に示すように、視野内でのサジタルとタンジェンシャルとの差違は、図8(c)および図8(d)のものよりそれぞれ拡大している。
【0054】
図10は光学系110の具体的な設計例を示す概略図である。図11はその設計例の光学データである。図12(a)、(b)は光拡散板115がない場合とある場合との光学特性をそれぞれ例示するグラフである。図13は光拡散板115がある場合の光学シミュレーション結果である。
【0055】
図10および図11に示すように、この設計例は焦点距離f=20mm、F値=3.0のトリプレットレンズであり、被写体までの距離が300mmで視野半径が38.4mmである。光拡散板の拡散角度は0.1°である。
【0056】
光学データの第2列以降の項目は順に、曲率半径、間隔、材料、面半径をそれぞれ示している。なお、曲率半径が無限大とは、そこが平面であることを意味する。
【0057】
光学データの2行目以降の#0は被写体、#1は光拡散板115の前面、#2は光拡散板115の拡散面、#3、4は第1レンズ112aの両面、#5は絞り113、#6、7は第2レンズ112bの両面、#8、9は第3レンズ112cの両面、#10は第3レンズ112cから撮像素子120までの距離(空間)、#11は撮像素子120にそれぞれ対応している。
図12(a)は光拡散板115がない場合の光学特性であり、図12(b)は光拡散板115がある場合の光学特性である。
【0058】
また、図13には光軸方向のデフォーカス範囲における撮像素子120上の軸中心と周辺のスポット径を示しており、軸中心および周辺においてもスポット径が略均一となっていることが分かる。
【0059】
図14(a)は、光学系110がa>bの関係(実施形態1に非該当)である場合において、像高によるMTFの変化を撮像素子120上の周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。図14(b)は同じ場合において、MTFの空間周波数特性を撮像素子120上の軸中心と周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。
【0060】
また、図15(a)は、光学系110がa<bの関係(実施形態1に該当)である場合において、像高によるMTFの変化を撮像素子120上の周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。図15(b)は同じ場合において、MTFの空間周波数特性を撮像素子120上の軸中心と周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。
【0061】
図8(c)および図8(d)を参照して既に上述したが、光学系110がa>bの関係である場合には、図14(a)に示すように、視野内でのサジタルとタンジェンシャルとの差違が大きくなる。特に、視野周辺でタンジェンシャルのMTFが大きく低下すると、2次元コードの正常な読み取りに支障を来たす恐れがある。
【0062】
一方、実施形態1のように光学系110がa<bの関係である場合には、図15(a)に示すように、視野周辺までサジタルおよびタンジェンシャルのMTFが高く維持されるとともに両者の差も極めて少ないので、2次元コードの読み取りに支障を来たす恐れはない。
【0063】
図16(a)は、光学系110がa>bの関係(実施形態1に非該当)であってF値が大きい(F8.0)場合において、像高によるMTFの変化を撮像素子120上の周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。図16(b)は同じ場合において、MTFの空間周波数特性を撮像素子120上の軸中心と周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。
【0064】
また、図17(a)は、光学系110がa<bの関係(実施形態1に該当)であってF値が大きい(F8.0)場合において、像高によるMTFの変化を撮像素子120上の周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。図17(b)は同じ場合において、MTFの空間周波数特性を撮像素子120上の軸中心と周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。
【0065】
図9(c)および図9(d)を参照して既に上述したが、光学系110がa>bの関係である場合には、図16(a)に示すように、視野内でのサジタルとタンジェンシャルとの差違がさらに大きくなり、特に視野周辺でのタンジェンシャルのMTFの大きな低下によって、2次元コードの正常な読み取りに支障を来たす恐れが高くなる。
【0066】
一方、実施形態1のように光学系110がa<bの関係である場合には、図17(a)に示すように、視野周辺までサジタルおよびタンジェンシャルのMTFが高く維持されるとともに両者の差も極めて少ないので、2次元コードの読み取りに支障を来たす恐れがない。
【0067】
以上で説明した実施形態1によれば、画像の周辺含む像高全域でのスポットサイズを略均一にすることができるので、復元画像においても被写界深度を拡大した良好な画像を得ることが可能となる。
【0068】
既存光学系を利用するため、光学系の構成をより単純化でき、画像全体でのスポットサイズを略均一にすることが可能であり、信号処理における復元画像をより良好な画像を提供することが可能である。また、新たに被写界深度拡大専用のレンズ設計・成型をすることなく、イニシャルコストのかかる金型など成型することもなく、既製品のレンズに対して拡散板を追加部品として使用できるので、非常に安価にシステムを構築することが可能となる。
【0069】
工場などの検査設備に設置した場合、背景技術セクションで言及した先行文献のように光学系内部へ位相板を組み込んでいるものでは、予め被写界深度が深くなっているため、ベスト位置(被写界深度の中心)へのフォーカス調整が行い難いのに対して、本発明の実施形態1によれば、光拡散板115を外した状態でフォーカス位置の初期調整ができ、詳しい光学知識がなくても容易にセッティングを行うことができる。
【0070】
また、検査用カメラを使用する際、工場内では定常的な振動が多く、F値を大きくして被写界深度を拡大したり、シャッタースピードを早くすることが考えられる。しかしF値を大きくすると明るさが足りなくなり、振動の影響を抑制できる高速なシャッタースピードの実現が困難になる。本発明の実施形態1によれば、F値(明るさ)を変えることなく被写界深度拡大が可能になる。
【0071】
<実施形態2>
上述した実施形態1に係る撮像装置100の光学系110を異なる構成の光学系210に置換した撮像装置を、本発明の実施形態2として以下で説明する。なお、同じ構成部材などには同じ参照符号を付し、主として相違点について説明する。
【0072】
図18は本発明の実施形態2に係る撮像装置の光学系210の断面図である。
【0073】
図18に示すように、光学系210は、後端にマウント部211aとその近傍内面にフィルタ溝211bとを有するとともに交換可能な円筒状のレンズ鏡筒211と、このレンズ鏡筒211内に前方から順に配置された第1レンズ212a、第2レンズ212b、第3レンズ112c、および第4レンズ(最終レンズ)212dと、第4レンズ212dの直前に配置された絞り113と、フィルタ溝211bにねじ込まれたホルダー114に保持された光拡散板115とを備えている。
【0074】
ここで、この光学系210において次のように定める距離aおよび距離bについて、a>bであることを特徴とする。
【0075】
a:最も前方の第1レンズ212aの前面(第1面)から絞り113まで
b:絞り113から撮像素子120(の撮像面)まで
図19(a)は、光学系210がa<bの関係(実施形態2に非該当)である場合において、像高によるMTFの変化を撮像素子120上の周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。図19(b)は同じ場合において、MTFの空間周波数特性を撮像素子120上の軸中心と周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。
【0076】
また、図20(a)は、光学系210がa>bの関係(実施形態2に該当)である場合において、像高によるMTFの変化を撮像素子120上の周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。図20(b)は同じ場合において、MTFの空間周波数特性を撮像素子120上の軸中心と周辺のサジタルおよびタンジェンシャル毎にシミュレーションによってそれぞれ求めたグラフである。
【0077】
光学系210がa<bの関係である場合には、図19(a)に示すように、視野内でのサジタルとタンジェンシャルとの差違が大きくなる。特に、視野周辺でタンジェンシャルのMTFが大きく低下すると、2次元コードの正常な読み取りに支障を来たす恐れがある。
【0078】
一方、実施形態2のように光学系210がa>bの関係である場合には、図20(a)に示すように、視野周辺までサジタルおよびタンジェンシャルのMTFが高く維持されるとともに両者の差も極めて少ないので、2次元コードの読み取りに支障を来たす恐れはない。
【0079】
以上で説明した実施形態2によっても、実施形態1と同様の効果を奏することができる。
【0080】
<各実施形態の変形例や光拡散板115の位置について>
図21(a)は本発明の実施形態1に係る撮像装置100の光学系110の変形例である光学系110Aの断面図である。図21(b)は本発明の実施形態2に係る撮像装置の光学系210の断面図である。なお、光学系110Aは、絞り113が第2レンズ112bの直前ではなく直後に配置されている点で光学系110と異なっている。
【0081】
上述した実施形態1や図21(a)のように、距離aおよび距離bがa<bの関係を満たしている場合、特に距離aおよび距離bにあまり大きな差が無いときは、次のように定める距離cも含めて、0≦a≦cの関係を満たすようにする。さらに、この関係を満たしながらcをできるだけ小さくする方が好ましい。
【0082】
c:光拡散板115の光拡散面115bから絞り113まで
上述した実施形態2や図21(b)のように、距離aおよび距離bがa>bの関係を満たしている場合、特に距離aおよび距離bにあまり大きな差が無いときは、上記の距離cも含めて、0≦c≦bの関係を満たすようにする。さらに、この関係を満たしながらcをできるだけ小さくする方が好ましい。
【0083】
なお、本発明は、その主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の各実施形態や各実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文にはなんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0084】
100 撮像装置
110 光学系
110A 光学系
111 レンズ鏡筒
112a 第1レンズ
112b 第2レンズ
112c 第3レンズ(最終レンズ)
113 絞り
114 ホルダー
115 光拡散板
120 撮像素子
130 A/Dコンバーター
140 画像処理部
141 RAW画像メモリ
142 コンボリューション演算部
150 画像復元処理部
151 デコンボリューション演算部
160 復元画像出力部
210 光学系
211 レンズ鏡筒
212a 第1レンズ
212b 第2レンズ
212c 第3レンズ
212d 第4レンズ(最終レンズ)
図1
図2
図3
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図5
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