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  • 特許-リアクトルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】リアクトルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/44 20060101AFI20220712BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20220712BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B29C33/44
B29C45/26
H01F41/04 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018194999
(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公開番号】P2020062778
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(72)【発明者】
【氏名】飯島 遥
(72)【発明者】
【氏名】冨田 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】三浦 嘉也
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌徳
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-291270(JP,A)
【文献】特開2011-049495(JP,A)
【文献】特開平07-205217(JP,A)
【文献】実開平07-007918(JP,U)
【文献】特開平04-049018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 - 33/76
H01F 30/00 - 38/12
H01F 38/16
H01F 41/00 - 41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型および下型を用いて樹脂モールドを形成するリアクトルの製造方法であって、
前記上型および前記下型のうち一方の型にピン又は穴部が設けられており、
前記樹脂モールドから前記上型と前記下型の対向方向とは異なる方向に突出するように前記リアクトルの端子台を形成する位置に前記ピン又は前記穴部が位置するように、前記上型および前記下型を配置し、
前記上型および前記下型を用いて前記リアクトルの樹脂モールドと前記端子台を成形し、
前記ピン又は前記穴部によって前記端子台を前記一方の型に固定することによって、前記リアクトルを前記上型および前記下型のうち他方の型から離型した後に、前記リアクトルを前記一方の型から離型する、リアクトルの製造方法。
【請求項2】
前記ピンは、前記対向方向に延びている、請求項1に記載のリアクトル製造方法。
【請求項3】
前記端子台は、前記端子台の形成される位置に前記ピンが位置した状態でインサート成形することで形成される、請求項1または2に記載のリアクトル製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上型と下型を用いて樹脂モールドを形成するリアクトルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーコントロールユニット(PCU)に用いられるリアクトルには、射出成形によって樹脂モールドが形成される。例えば、特許文献1には、ボビンを金型に入れ、キャビティ空間に溶融樹脂を射出することによって樹脂モールドが形成されることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、固定金型と可動金型との型開き前に、エアー吹き出し口から成形体と固定金型側のキャビティ形成凹状面との間にエアーを吹き付ける方法が記載されている。これにより、エアー層を形成し、離型性を良好としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-14433号公報
【文献】特開2003-33953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リアクトルの端子台を樹脂モールドで一体的に形成しようとすると、型を開ける際に、端子台が型に貼りついて変形してしまう可能性がある。
【0006】
本発明は、上型と下型を用いて樹脂モールドを形成するリアクトルの製造方法において、リアクトルを型から離型する際に、リアクトルの端子台が型に貼り付くことを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る上型および下型を用いて樹脂モールドを形成するリアクトルの製造方法において、前記上型および前記下型のうち一方の型にピン又は穴部が設けられており、前記リアクトルの端子台を形成する位置に前記ピン又は前記穴部が位置するように、前記上型および前記下型を配置し、前記上型および前記下型を用いて前記リアクトルの樹脂モールドと前記端子台を成形し、前記リアクトルを前記上型および前記下型のうち他方の型から離型した後に、前記リアクトルを前記一方の型から離型する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】リアクトルの概略斜視図。
図2】リアクトルの概略下面図。
図3】上型の概略平面図。
図4】下型の概略平面図。
図5】成形を説明する概略図。
図6】成形を説明する概略図。
図7】比較例の概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態において説明する寸法、材料、形状及び構成要素の相対的な位置は任意に設定でき、本発明が適用される装置の構成又は様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に具体的に記載された実施形態に限定されない。
【0010】
図1は、リアクトル10の概略斜視図である。なお、樹脂モールド11によって覆われている部分は、外部から直接視認することはできない。ただし、説明の便宜上、図1においては、樹脂モールド11によって覆われている部分にも引き出し線を記載している。
【0011】
図1に記載されているリアクトル10は、一対のU字状のコア22と、一対のコイル23とを備えている。このリアクトル10には、コア22及びコイル23の少なくとも一部を覆う樹脂モールド11が形成されている。さらに、樹脂モールド11には、比較的に薄い端子台12が形成されており、この端子台12には一例として電流が流れるバスバーが締結される。
【0012】
コア22の少なくとも一部は、射出成形によって形成される樹脂モールド11によって覆われている。このコア22は、U字の先端同士が対向するように配置されており、全体としてリング状の形状を構成している。一例として、コア22は、金属軟磁性粉末、電磁鋼板、またはフェライトによって形成される。また、コア22の周囲には、不図示の筒部を介して一対のコイル23が巻き回されている。一例として、コイル23は、絶縁被膜によってコーティングされている銅の平角線を巻回して形成される。
【0013】
樹脂モールド11は、コイル23の一部を露出させるように、その少なくとも一部を覆っている。具体的に、樹脂モールド11は、コイル23の下面と上面の一部を露出させている。図1においては、樹脂モールド11に形成された窓24から、コイル23の上面の一部が露出している。また、樹脂モールド11は、コア22の表面も覆っている。さらに、樹脂モールド11には、リアクトル10を固定するための三つの脚13が形成されている。代替的に、二つ以下または四つ以上の脚13を形成してもよい。
【0014】
各コイル23からは接続用の端子部25が同一方向に引き出されている。一例として、端子部25はコイル23と概ね直交する方向に沿って外方(図1においては上方)に引き出される。また、一対のコイル23はコア22に嵌め合わされ、かつコア22同士はその先端同士が対向するように突き合わされる。これにより、組立体20が得られる。
【0015】
以下、コア22、及びコイル23を備える成形体を組立体20として説明する。この組立体20は、リアクトル10を製造するとき、インサート物として上型50(図3)及び下型60(図4)の間に配置される。また、この組立体20は、公知の方法で製造できる。
【0016】
図2は、リアクトル10の概略下面図である。なお、樹脂モールド11によって覆われている部分は、外部から直接視認することはできない。ただし、説明の便宜上、図2においては、樹脂モールド11によって覆われている部分にも引き出し線を記載している。
【0017】
図2に示すように、各コイル23の下面は外部に露出している。一方、組立体20の側面は、樹脂モールド11によって覆われている。また、断面矩形状のリアクトル10の三つの角部に形成された脚13は、樹脂モールド11から外方に向かって突出している。さらに、端子台12も、樹脂モールド11から外方に突出するように形成されている。この端子台12は、脚13と比較して複雑な形状を有している。
【0018】
図3は上型50の概略平面図であり、図4は下型60の平面図である。上型50は、キャビティ空間CS(図5B)を形成する上型凹部51と、端子台12を形成するための端子台用凹部52とを備えている。また、下型60は、上型凹部51と共にキャビティ空間CSを形成する下型凹部61と、端子台12を形成するための端子台用凹部62とを備えている。この下型凹部61には、スライドコア65(図6B)が出没する穴63が形成されている。さらに、端子台用凹部62の略中央には、対向する上型50に向かって突出するように、略円筒状のピン64が設けられている。
【0019】
図5及び図6は、樹脂モールド11の成形を説明する概略図である。まず、リアクトル10の端子台12を形成する位置にピン64が位置するように、上型50および下型60を配置する(図5A)。そして、下型60上に組立体20を載置する。次に、上型50を下型60に近づく方向に(図5Aにおける下方向)に移動させる。これにより、上型50と下型60とを閉じて、両者の間にキャビティ空間CSを形成する(図5B)。このキャビティ空間CSは、上型凹部51と下型凹部61とによって画定される。
【0020】
続いて、樹脂モールド11および端子台12を形成するために、キャビティ空間CSに溶融樹脂MRを射出し、インサート成形を行う(図5C)。この溶融樹脂MRは、一例としてポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂である。また、溶融樹脂MRを射出するゲート(不図示)は、上型50に形成されている。キャビティ空間CSに満たされた溶融樹脂MRが固化することにより、上型50および下型60を用いてリアクトル10の樹脂モールド11と端子台12とを成形する。このとき、図5Cに示すように、ピン64の端部は端子台12が形成される部分に埋まった状態となる。
【0021】
次に、上型50を下型60から離れる方向に(図6Aにおける上方向)に移動させる。これにより、成形されたリアクトル10を、上型50(ピン64が設けられていない他方の型)から離型する(図6A)。このとき、端子台12に埋まっているピン64が干渉するため、ピン64が抵抗となり、ピン64と端子台12との摺動力によって端子台12が下型60に固定される。すなわち、ピン64と端子台12の間には、樹脂の収縮及びピン64の面粗さなどに起因する摺動力が生じる。この摺動力によって、端子台12及びリアクトル10は、下型60に固定される。このように、最初に開ける上型50を開く際に、リアクトル10が下型60に固定されるため、端子台12の貼り付きを抑制して、上型50からリアクトル10を離型できる。
【0022】
その後、払い出し用のスライドコア65を、穴63(図4)を通して突き出す。これにより、スライドコア65がリアクトル10を押し上げて、リアクトル10を下型60(ピン64が設けられている一方の型)から離型する。このようにして、成形体としてのリアクトル10を製造することができる。
【0023】
[比較例]
一方、図7に示すようにピン64を設けない場合、リアクトル10を、上型50から離型しようとすると、端子台12が上型50に貼り付いてしまう。これにより、端子台12が上型50に引っ張られるため、端子台12の形状が崩れて変形してしまう。すなわち、端子台12のような複雑な形状を、比較的に短い成形サイクルで樹脂成形する場合、成形時に発生するガスが圧縮熱を発生する。この圧縮熱を金型が蓄熱することによって、金型温度は高くなる。金型温度が高くなると、樹脂が十分に冷えて固化する前に、金型を開くことになる。その結果、端子台12が開いた金型に貼り付いて変形し、端子台12の形状が崩れてしまう。
【0024】
特に、リアクトル10を製造する場合、リアクトル10の本体部分には、端子台12よりも大きくかつ重いインサート物(組立体20)がある。このインサート物は、端子台12よりも熱を吸収できる容積(熱マス)が大きい。そのため、金型におけるインサート物の周辺部分の熱は、インサート物に奪われて金型に蓄熱され難い。これに対して、端子台12にはインサート物がなく、本体部分よりも小さくかつ薄い。そのため、金型における端子台12の周辺部分の熱は、端子台12に奪われ難く金型に蓄熱される。さらに、端子台12は樹脂の流動方向における末端に位置する。そのため、端子台12の周辺においては、ガスの圧縮熱も発生しやすい。
【0025】
その結果、端子台12の周辺部分の金型温度が高くなってしまう。金型温度が高くなると、端子台12を形成する樹脂が十分に冷えて固化する前に、金型を開くことになる。その結果、端子台12が金型に貼り付いて変形してしまう。一方、上述したピン64を設けた金型によれば、リアクトル10を金型から離型する際に、端子台12が金型に貼り付くことを抑制できる。これにより、樹脂が十分に冷えて固化する前に金型を開いた場合であっても、端子台12の変形を抑制することができる。
【0026】
さらに、ピン64を金型に設けるのみであるため、例えば、圧縮空気等の冷却用の気体を導入するための設備を追加する必要がない。また、金型に冷却用の気体を導入するための導入経路を形成する必要もない。このため、安価かつ容易に端子台12の貼り付きおよび変形を抑制することができる。
【0027】
以上、各実施形態を参照して本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本発明に含まれる。また、各実施形態及び各変形形態は、本発明に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【0028】
例えば、ピン64に代えて、端子台12にピンを形成するための穴部が設けられていてもよい。この場合、成型時に上型50又は下型60の穴部に樹脂が充填されることによって、端子台12から突出するピンが形成される。これにより、端子台12から突出するピンと穴部との摺動力によって端子台12が固定される。また、リアクトル10を上型50よりも先に下型60から離型する場合(下型60を先に開く場合)、ピン64は上型50に設けることができる。この場合、スライドコア65も上型50に設けられる。また、上型50および下型60に加えて、他の型を用いて3分割以上の金型を構成してもよい。この場合、後に開かれるいずれか一つの型にピンが設けられる。すなわち、二番目以降に開く型にピン64が設けられている。さらに、ピン64は、端子台12に干渉するような形状であれば、円筒形状以外の形状を有していてもよい。例えば、ピン64は、角柱形状、円錐形状、角錐形状、または湾曲したフック形状等の形状を有していてもよい。
【0029】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0030】
(付記1)
突出部を有する成形体の製造方法であって、
第1の金型と、ピン又は穴部が設けられた第2の金型とを準備し、
前記突出部分を形成する位置に前記ピン又は前記穴部が位置するように、前記第1の金型と前記第2の金型との間にインサート物を配置し、
前記第1の金型と前記第2の金型を閉じた後に、前記インサート物の少なくとも一部が樹脂モールドによって覆われかつ前記突出部が形成されるように、前記成形体を成形し、
前記成形体を前記第1の金型から離型した後に、前記成形体を前記第2の金型から離型する、成形体の製造方法。
【0031】
(付記2)
上型および下型を用いて樹脂モールドを形成するリアクトルの製造方法であって、
前記上型および前記下型のうち一方の型にピン又は穴部が設けられており、
前記リアクトルの端子台を形成する位置に前記ピン又は前記穴部が位置するように、前記上型および前記下型を配置し、
前記上型および前記下型を用いて前記リアクトルの樹脂モールドと前記端子台を成形し、
前記リアクトルを前記上型および前記下型のうち他方の型から離型した後に、前記リアクトルを前記一方の型から離型し、
前記上型および前記下型を配置する際には、前記第1の金型と前記第2の金型との間に、前記ピン又は前記穴部を避けるようにインサート物を配置する、リアクトルの製造方法。
【符号の説明】
【0032】
10:リアクトル
11:樹脂モールド
12:端子台
50:上型
60:下型
64:ピン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7