(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】エポキシ環とウレタン基を有するシランカップリング化合物およびそれらを含有する医科歯科模型用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
G09B 23/28 20060101AFI20220713BHJP
C07F 7/18 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
G09B23/28
C07F7/18 S CSP
(21)【出願番号】P 2018067800
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】渕上 清実
(72)【発明者】
【氏名】山本 健蔵
(72)【発明者】
【氏名】北田 直也
(72)【発明者】
【氏名】信野 和也
【審査官】東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-520952(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0109747(KR,A)
【文献】国際公開第2013/146130(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機充填材、エポキシ樹脂、硬化剤を含むことを特徴とする医科歯科模型用硬化性組成物であって、
前記無機充填材が、以下の式で表されるシランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とする医科歯科模型用硬化性組成物。
【化1】
Aは、エポキシ環を表し、
R1は、C2~C100の直鎖または分岐鎖のアルキレン基で、-C(O)-O-, -O-, -O-C(O)- 基を含み得、
R2 は、C2~C100の直鎖または分岐鎖のアルキレン基で、-O- , -S-, -NH-, -C(O)-O-, -O-C(O)-, -O-C(O)-NH-, -NH-C(O)-O-基を含み得、
R3はC1~C16の直鎖または分岐鎖のアルキル基またはフェニル基表し、mは1~3である。
【請求項2】
請求項1に記載の医科歯科模型用硬化性組成物であって、
前記[化1]において、
R1は、C2~C20の直鎖または分岐鎖のアルキレン基で、-C(O)-O-, -O-, -O-C(O)- 基を含み得、
R2 は、C2~C10の直鎖または分岐鎖のアルキレン基で、-O- , -S-, -NH-, -C(O)-O-, -O-C(O)-, -O-C(O)-NH-, -NH-C(O)-O-基を含み得ることを特徴とする医科歯科模型用硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ環とウレタン基を有する新規なシランカップリング化合物およびそれらを含有する医科歯科模型用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
医科歯科分野において、歯牙や顎骨の模型材料として石膏が一般的に使用されている。例えば、歯科分野における模型とは、修復すべき歯牙のインレー(埋め込み型)又は、オンレー(被せ型)などを作製する際の模型をいい、通常、以下のように作製し、使用する。まず、該当する歯牙に窩洞形成の後、アルギン酸印象材やシリコーン印象材等で印象を採得する。次に、樹脂や石膏などの模型材料をその印象に流し込み、硬化させた後、印象から取りだし、窩洞を再現させた歯科模型とする。そして、この歯科模型を元にして歯牙の修復物であるインレー又は、オンレーなどを作製することになる。この模型作製のための材料としては、石膏は安価であり、汎用されているが、重量があり、また硬化時間が長いという問題があった。また、石膏は硬いが脆いと言う特性を有しており、厚みが薄く微細な部分が欠けるなどの欠点も有していた。
【0003】
そこで、エポキシ樹脂を用いた歯科模型材料が試みられている。エポキシ樹脂は、熱硬化性樹脂の中では、比較的硬化速度が速く、また硬化収縮率も小さい部類に属する。しかし、エポキシ樹脂単体では、硬化収縮率が数%もあり、そのままでは使用することができなかった。すなわち、収縮率が大きいと、模型材料に用いた場合に、寸法精度が得られないという問題があった。そこで、収縮率を改良した次のようなエポキシ樹脂組成物が知られている。
【0004】
特許文献1には、エポキシ樹脂100重量部に対し、アスペクト比が50~200の平板状マイカを100~300重量部含む材料が記載されている。しかしながら、この材料はエポキシ樹脂と平板状マイカの間に化学結合がないため、材料強度に劣り、脆いと言う欠点を有していた。特許文献2には、エポキシ樹脂100重量部に対し長さ/厚さの比が5以上のマイカを配合した材料が記載されている。しかしながらこの材料も先に示した特許文献1同様に脆いと言う欠点を有していた。また、特許文献3~9にはシランカップリング剤を含む組成物の開示があるが、何れのシランカップリング剤もその分子内にウレタン結合を有さず、エポキシ樹脂との相溶性に劣り、十分な靭性を有するものではなかった。したがって、本発明は、従来技術においては得られなかった、硬化体の靭性および硬度が高く、軽量であり、速硬化性であり、且つ安全性が高い医科歯科模型用硬化性組成物を提供しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭55-108426
【文献】特開昭59-109550
【文献】特開昭63-51308
【文献】特開平7-277913
【文献】特開平18-225350
【文献】特開平14-114837
【文献】特開平20-1624
【文献】特開平7-206622
【文献】特開平20-137854
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、従来技術においては得られなかった、硬化体の靭性および硬度が高く、軽量であり、速硬化性であり、且つ安全性が高い医科歯科模型用硬化性組成物を提供しようとするものである。
【0007】
すなわち、本発明は、エポキシ環を有するエポキシ樹脂に対する高い親和性を与え、これにより医科歯科模型用硬化性組成物に用いた際に高い機械的強度、及び耐久性を与えるエポキシ環とウレタン基を同一分子内に有する新規なシランカップリング剤、および新規なシランカップリング剤により表面処理された無機充填剤および新規な医科歯科模型用硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者等の鋭意検討の結果、下記の化学構造式で表わされるシランカップリング剤を用いて無機充填剤を表面処理することで、エポキシ樹脂に対する高い親和性を与える事を発見した。これにより医科歯科模型用硬化性組成物に用いた際に高い機械的強度を与える事が可能となった。
【0009】
【0010】
Aは、エポキシ環を表し、R1は、C2~C100の直鎖または分岐鎖のアルキレン基で、-C(O)-O-, -O-, -O-C(O)- 基を含み得、R2 は、C2~C100の直鎖または分岐鎖のアルキレン基で、-O- , -S-, -NH-, -C(O)-O-, -O-C(O)-, -O-C(O)-NH-, -NH-C(O)-O-基を含み得、R3はC1~C6の直鎖または分岐鎖のアルキル基を表し、R4はC1~C16の直鎖または分岐鎖のアルキル基、フェニル基またはハロゲン原子を表しnが0のときには少なくとも1以上のハロゲン原子がSiに結合する。なお、nは0~3で、mは1~10である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシランカップリング剤にて無機充填剤を表面処理することで、エポキシ樹脂に対する高親和性を発現し、その結果として医科歯科模型用硬化性組成物に高い機械的強度(靭性および強度)、柔軟性(しなやかさ)及び接着性・密着性を与える。
【0012】
これは[化1]式中にエポキシ環とウレタン基があることに起因するものと考える。即ち、本発明のシランカップリング剤にて表面処理された無機充填剤はその表面にエポキシ環とウレタン基が導入され、これがエポキシ樹脂対する著しい高親和性を発現するものと考える。本発明により、無機充填剤の高充填化が可能となり、その結果として高い機械的強度、柔軟性(しなやかさ)や密着性および耐久性を達成することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のシランカップリング剤を表面に化学修飾する方法(ボトムアップ法)の反応図
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明におけるエポキシ環とウレタン基を有するシランカップリング剤の分子構造は、[化1]に示される構造であり、1種または複数の組み合わせで用いても良い。
【0015】
[化1]に示される構造をより詳しく記載すると、Aは、エポキシ環を表し、R1は、C2~C100の直鎖または分岐鎖のアルキレン基で、-C(O)-O-, -O-, -O-C(O)- 基を含み得、R2 は、C2~C100の直鎖または分岐鎖のアルキレン基で、-O- , -S-, -NH-, -C(O)-O-, -O-C(O)-, -O-C(O)-NH-, -NH-C(O)-O-基を含み得、R3はC1~C6の直鎖または分岐鎖のアルキル基を表し、R4はC1~C16の直鎖または分岐鎖のアルキル基、フェニル基またはハロゲン原子を表しnが0のときには少なくとも1以上のハロゲン原子がSiに結合する。なお、nは0~3で、mは1~10である。
【0016】
【0017】
以下に代表的な化合物の化学構造を記載する。
【0018】
【0019】
【0020】
また、本発明のシランカップリング剤を用いて無機充填剤を表面修飾する場合、無機充填剤に対して本発明のシランカップリング剤を表面処理する方法と、無機充填剤表面の珪素原子を介して、本発明のシランカップリング剤を表面に化学修飾する方法(ボトムアップ法)の2通りが想定される。
【0021】
無機充填剤に対して本発明のシランカップリング剤を表面処理する場合、処理濃度に関しては母粒子のシラノール基密度(mol/g)にもよるが、一般的には無機充填剤の0.05質量倍から10質量倍が好ましい。0.05質量倍より低い処理では十分にシランカップリング剤を導入出来ず、また、10質量倍を超えた場合にはシランカップリング剤のみの縮合物が生成し、機械的強度に影響を与えるために好ましくない。
【0022】
無機充填剤表面の珪素原子を介して、本発明のシランカップリング剤を表面に化学修飾する方法(ボトムアップ法)を以下に説明する。
エポキシ環を有するシランカップリング剤では、アルコラートの縮合時(無機充填剤への修飾時)の水分添加により部分的にエポキシ環が開環し、一部ヒドロキシ基に変換される可能性があるためである。以下、ボトムアップによる無機充填剤への本発明のシランカップリング剤構造化合物の導入(修飾)を
図1に示す。まず、末端オレフィンおよび末端ヒドロキシ基の化合物(図では10-ウンデセン-1-オール)に末端イソシアネート基および末端トリエトキシシラン(図では3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン)をウレタン化反応で結合させる。その後、得られた化合物を無機充填剤に縮合反応にて結合させる。この脱水・脱アルコールおよび縮合反応時には酸性水を用いてもアルコキシシラン部位以外には何ら化学構造変化等の影響を及ぼさない。この反応により得られた表面修飾無機充填剤を酸化剤(過酸化水素、ペルオキシ一硫酸カリウム、ペルオキシ一過硫酸カリウム、メタクロロ過安息香酸等)にてオレフィン部位を酸化する事で、本発明の構造を有する化合物を無機充填剤に確実に導入する事が可能となる。
【0023】
本発明のシランカップリング剤で処理する無機充填剤としては、それらの化学的組成は特に限定されないが、二酸化珪素、アルミナ、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。特に歯科用グラスアイオノマーセメントやレジン強化型グラスアイオノマーセメントおよびレジンセメント等に使用されているフルオロアルミノケイ酸バリウムガラス、フルオロアルミノケイ酸ストロンチウムガラス、フルオロアルミノケイ酸ガラス等も好適に使用できる。ここで言うフルオロアルミノケイ酸ガラスとは、酸化珪素および酸化アルミニウムを基本骨格とし、非架橋性酸素導入のためのアルカリ金属を含む。さらに修飾・配位イオンとしてストロンチウムを含むアルカリ土類金属およびフッ素を有する。また、更なるX線不透過性を付与するためにランタノイド系列の元素を骨格に組み込んだ組成物である。このランタノイド系列元素は組成域により修飾・配位イオンとしても組成に参加する。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。本発明のシランカップリング剤で処理された無機充填剤の本発明における医科歯科模型用硬化性組成物での組成割合としては、特に限定されないが、好ましくは25~90重量%の範囲内である。25重量%以下である場合には、硬化物の機械的(物理的)強度が低いため好ましくない。また、90重量%以上では調製したペーストの粘性が高すぎるため臨床上の操作性が悪く好ましくない。さらに、前記無機充填剤の平均粒子径は0.001~100μmであることが好ましく、より好ましくは0.001~10μmである。さらに、無機充填剤の形状は球状あるいは不定形状の何れでもよい。
【0024】
本発明における医科歯科模型用硬化性組成物で用いられるエポキシ樹脂は歯科分野および工業分野で用いられているものを単独で又は2種以上の組み合わせで何ら制限なく用いる事が出来る。これらエポキシ樹脂は室温で液状のものが好ましく、具体的には、室温で10,000CP 以下のものが好適である。室温で10,000cps 以下であれば、組成物の粘度を500,000CP以下に制御することができるからである。また、反応性を制御するため数種のエポキシ樹脂を混合してもよく、その場合には、固形エポキシ樹脂も適宜併用して使用可能である。なお、組成物の粘度を500,000CP以下にするのは、シリコーン印象材等に医科歯科模型用硬化性組成物を流し込む際に十分な流動性を確保するためである。
【0025】
本発明における医科歯科模型用硬化性組成物で用いられるエポキシ樹脂と硬化剤の合計量は、医科歯科模型用硬化性組成物100重量部中で、好ましくは10~60重量部であり、より好ましくは15~30重量部である。配合量が10重量部以下であれば医科歯科模型用硬化性組成物の粘度が高すぎる可能性があり、配合量が60重量部以上であれば、医科歯科模型用硬化性組成物の強度が低下する可能性がある。エポキシ樹脂と硬化剤の配合比率は、硬化剤の官能基のモル濃度にもよるが、好ましくは、エポキシ樹脂:硬化剤=10:0.5~10:2であることが好ましく、最も好ましくは、エポキシ樹脂:硬化剤=10:1の配合比率である。
【0026】
更に、本発明で使用可能な液状エポキシ樹脂としては、具体的にはビスフェノールA系またはビスフェノールF系エポキシ樹脂が好適である。かかる樹脂は、安価で室温での粘度が特に低く、作製した歯科模型材料の経時的安定性が良好だからである。代表的な化学構造を[化4]に示し、n=1~1000が好ましい。
【0027】
【0028】
本発明の医科歯科模型用硬化性組成物の硬化剤としては、歯科分野および工業分野で使用されている硬化剤から単独で又は2種以上の組み合わせで使用できる。特に医科・歯科分野に用いられている硬化剤は生物学的安全性の点で好ましい。すなわち、ポリアミン系、ポリオール系、ポリメルカプタン系、イミダゾール系が使用可能である。
【0029】
本発明の医科歯科模型用硬化性組成物に含めることができる成分は任意であるが、具体的に例示すると、染料および顔料などの着色剤、増粘材、芳香剤等が上げられる。
【実施例】
【0030】
本発明によるエポキシ環とウレタン基を有するシランカップリング剤で表面処理された無機充填剤の製造方法および、それらを含有する医科歯科模型用硬化性組成物の調製方法・物理的特性について詳しく説明するが、本発明はこれらの説明に何ら限定されるものではない。
【0031】
実施例1-1~1-5,(医科歯科模型用硬化性組成物の調製)
表1に記載した本発明のエポキシ環とウレタン基を有するシランカップリング剤(SC1~5)を用いOX-50(日本アエロジル社製)およびFuselex(龍森社製)の表面処理および医科歯科模型用硬化性組成物の調製を行った。詳細な表面処理方法を以下に記載する。表1に記載した量のシランカップリング剤(SC1~5)をエタノール10mLに溶解し、OX-50:15.0gおよびFuselex:45.0gを篩にて均一混合した無機充填剤素材に霧吹き機にて噴霧し、均一に混合した。その若干湿潤した混合粉体を110℃のオーブンに入れ、3時間熱処理を行い、無機充填剤素材表面にシランカップリング剤を固定化した。その表面処理済み粉全量に、表1記載のエポキシ樹脂を添加し、Thinky社製Planetary Vacuum mixer ARV-310にて1000rpm-5KPa-15minの条件下にて真空混合し医科歯科模型用硬化性組成物を得た。
【0032】
比較実施例1-1,(医科歯科模型用硬化性組成物の調製)
エタノール10mLをOX-50:15.0gおよびFuselex:45.0gを篩にて均一混合した無機充填剤素材に霧吹き機にて噴霧し、均一に混合した。その若干湿潤した混合粉体を110℃のオーブンに入れ、3時間熱処理を行った。その粉体全量に、表1記載のエポキシ樹脂を添加し、Thinky社製Planetary Vacuum mixer ARV-310にて1000rpm-5KPa-15minの条件下にて真空混合し医科歯科模型用硬化性組成物を得た。
【0033】
比較実施例1-2~1-3,(医科歯科模型用硬化性組成物の調製)
表1に記載したシランカップリング剤(C-SC1~2)を用いOX-50(日本アエロジル社製)およびFuselex(龍森社製)の表面処理および医科歯科模型用硬化性組成物の調製を行った。詳細な表面処理方法を以下に記載する。表1に記載した量のシランカップリング剤(C-SC1~2)をエタノール10mLに溶解し、OX-50:15.0gおよびFuselex:45.0gを篩にて均一混合した無機充填剤素材に霧吹き機にて噴霧し、均一に混合した。その若干湿潤した混合粉体を110℃のオーブンに入れ、3時間熱処理を行い、無機充填剤素材表面にシランカップリング剤を固定化した。その表面処理済み粉全量に、表1記載のエポキシ樹脂を添加し、Thinky社製Planetary Vacuum mixer ARV-310にて1000rpm-5KPa-15minの条件下にて真空混合し医科歯科模型用硬化性組成物を得た。
【0034】
曲げ強度試験
実施例1-1~1-5、 比較実施例1-1~1-3にて調製した医科歯科模型用硬化性組成物10.0gに対して硬化剤としてジャパンエポキシレジン製変性脂肪族ポリアミンLV11を0.30g加え、スパチュラにて十分に混合した後、ISO4049に準じ硬化体を作製しインストロン万能試験機(インストロン5567、インストロン社製)を用い曲げ強度を求めた。なお、金型に充填した各医科歯科模型用硬化性組成物と硬化剤の混合物は37℃の恒温器にて24時間保存した後に金型より外し、曲げ試験に供した。
【0035】
強制劣化後の曲げ強度試験
実施例1-1~1-5、 比較実施例1-1~1-3にて調製した医科歯科模型用硬化性組成物10.0gに対して硬化剤としてジャパンエポキシレジン製変性脂肪族ポリアミンLV11を0.30g加え、スパチュラにて十分に混合した後、ISO4049に準じ硬化体を作製した。その金型に充填した各医科歯科模型用硬化性組成物と硬化剤の混合物(硬化体)は37℃の恒温器にて24時間保存した後に金型より外し、試験体中央(3点曲げ試験時の中央冶具接触部位と同軸方向)にSUS棒‐直径2.0mmφを0.1mm振幅で100Hzの振動で10時間負荷を与えた後(インストロンELECTRO PLUS E3000、インストロン社製)に、インストロン万能試験機(インストロン5567、インストロン社製)を用い強制劣化後の曲げ強度を求めた。
【0036】
ビッカース硬さ試験
実施例1-1~1-5、 比較実施例1-1~1-3にて調製した医科歯科模型用硬化性組成物10.0gに対して硬化剤としてジャパンエポキシレジン製変性脂肪族ポリアミンLV11を0.30g加え、スパチュラにて十分に混合した後、厚さ2.0mm‐直径5.0mmの円柱金型に注ぎ、37℃の恒温器にて24時間保存した後に金型より外した。その試験体をJIS Z2244ビッカース硬さ試験に準じてビッカース硬さを測定した。
【0037】
収縮率試験
実施例1-1~1-5、 比較実施例1-1~1-3にて調製した医科歯科模型用硬化性組成物10.0gに対して硬化剤としてジャパンエポキシレジン製変性脂肪族ポリアミンLV11を0.30g加え、スパチュラにて十分に混合した後、厚さ2.0mm‐直径5.0mmの円柱金型に注ぎ、37℃の恒温器にて24時間保存した後に金型より外した。硬化前と硬化後における医科歯科模型用硬化性組成物の密度をガスピクノメーター(アキュピック1303:Micromeritics社製)を用いて測定し、得られた測定値から式(1)に従い、重合収縮率を算出した。なお、密度の測定は25℃にて行った。
重合収縮率(Vol%)=(1-Dbefore/Dafter)×100 ・・・(1)
(Dbefore:医科歯科模型用硬化性組成物の硬化前の密度、Dafter:医科歯科模型用硬化性組成物の硬化後の密度)
【0038】
密度試験
実施例1-1~1-5、 比較実施例1-1~1-3にて調製した医科歯科模型用硬化性組成物10.0gに対して硬化剤としてジャパンエポキシレジン製変性脂肪族ポリアミンLV11を0.30g加え、スパチュラにて十分に混合した後、厚さ2.0mm‐直径5.0mmの円柱金型に注ぎ、37℃の恒温器にて24時間保存した後に金型より外した。その硬化体の密度を電子天秤およびガラス製ピクノメーターを用い測定した。なお、従来より汎用されている石膏(サンエス石膏製 歯科用超硬質石膏DFロック)もメーカー指示に従い計量・練和し、同様の試験体を作製し試験に供した。
【0039】
速硬性試験
実施例1-1~1-5、 比較実施例1-1~1-3にて調製した医科歯科模型用硬化性組成物10.0gに対して硬化剤としてジャパンエポキシレジン製変性脂肪族ポリアミンLV11を0.30g加え、スパチュラにて十分に混合した後、ISO4049に準じ硬化体を作製しインストロン万能試験機(インストロン5567、インストロン社製)を用い曲げ強度を求めた。その試験体を所定時間37℃の恒温器にて保存した後に金型より外し、曲げ試験に供した。その曲げ試験結果(曲げ強度MPa)が24時間保存後の曲げ強度結果の70%に達した時間を硬化速度(実質的な模型完成時間)とした。なお、従来より汎用されている石膏(サンエス石膏製 歯科用超硬質石膏DFロック)もメーカー指示に従い計量・練和し、同様の試験体を作製し試験に供した。
【0040】
評価結果
評価結果表2-1、2-2および2-3に実施例および比較実施例に基づいて作製された各医科歯科模型用硬化性組成物の曲げ強度試験結果、強制劣化後の曲げ強度試験結果およびビッカース硬さ試験結果を示す。これらの結果より明らかなように、本発明のエポキシ環とウレタン基を有するシランカップリング剤を用いて調製した表面処理済無機充填剤を含有する医科歯科模型用硬化性組成物(実施例1-1~1-5)は未表面処理の無機充填剤を含有する医科歯科模型用硬化性組成物(比較実施例1-1)に比べ著しい高い曲げ強度特性を有していた。また、従来より使用されているシランカップリング剤を使用した医科歯科模型用硬化性組成物(比較実施例1-2~1-3)と比べても明らかに高い曲げ強度特性を有していた。特に、強制劣化後の曲げ強度試験結果は顕著な差異を認めた。すなわち、本発明のエポキシ環とウレタン基を有するシランカップリング剤を用いて調製した表面処理済無機充填剤を含有する医科歯科模型用硬化性組成物は、破断エネルギー特性が著しく向上している事が分かる。つまり、本発明のエポキシ環とウレタン基を有するシランカップリング剤にて無機充填剤を表面処理することで、医科歯科模型用硬化性組成物に靭性が発現し、それに起因して医科歯科模型用硬化性組成物に高い機械的強度を与える結果となった。これは、エポキシ環およびウレタン基が付与された結果と推測される。また、ビッカース硬さ試験結果においても、本発明のエポキシ環とウレタン基を有するシランカップリング剤を用いて調製した表面処理済無機充填剤を含有する医科歯科模型用硬化性組成物(実施例1-1~1-5)は未表面処理の無機充填剤を含有する医科歯科模型用硬化性組成物(比較実施例1-1)に比べ著しい高いビッカース硬さを有していた。また、従来より使用されているシランカップリング剤を使用した医科歯科模型用硬化性組成物(比較実施例1-2~1-3)と比べても明らかに高いビッカース硬さを有していた。これは、曲げ試験結果および強制劣化後の曲げ強度試験結果同様に、本発明のシランカップリング剤は共有結合を介して、エポキシ樹脂と結合しているためと判断出来る。収縮率に関しては、本発明のエポキシ環とウレタン基を有するシランカップリング剤を用いて調製した表面処理済無機充填剤を含有する医科歯科模型用硬化性組成物(実施例1-1~1-5)は未表面処理の無機充填剤を含有する医科歯科模型用硬化性組成物(比較実施例1-1)に比べほぼ半減した収縮率(2.2~2.5%)を示した。対して、未処理の無機充填剤を用いた医科歯科模型用硬化性組成物は5.5%と高い収縮率を示し、分子内にエポキシ環等の結合基を有さないがウレタン基を有するシランカップリング剤を用いた比較例1-2(4.3%)は比較例1-1(5.5%)よりは若干低い収縮率を示した。これはエポキシ樹脂がウレタン結合との相互作用で重合収縮を低減させたためと推察できる。密度(模型の重さ)に関しては、何れの実施例および比較例も汎用されている石膏と比べより軽量化されている事が分かる。最後に速硬性に関しては、石膏比べ著しく速い硬化を示した。中でも、本発明のエポキシ環とウレタン基を有するシランカップリング剤を用いて調製した表面処理済無機充填剤を含有する医科歯科模型用硬化性組成物(実施例1-1~1-5)は無機充填剤との化学的結合を有するために、より早い段階で24時間後の強度に近づき、歯科技工等の作業効率化に帰する結果を示した。以上の評価結果より明らかなように、本発明のエポキシ環とウレタン基を有するシランカップリング剤は従来技術では達し得なかった高い機械的強度を有する医科歯科模型用硬化性組成物や、更にスマートフォンを含む電子部品材料基盤接着や自動車素材等への高い靭性を有する接着など一般工業界への応用・提供を可能とした。
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【産業上の利用可能性】
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従来技術では、エポキシ樹脂に充填する無機充填剤としてマイカ等が選択されていた。しかしながら、それらの無機充填剤はエポキシ樹脂との相溶性に劣るため、高い機械的強度や靭性が得られているとは言い難かった。対して、本発明のエポキシ環とウレタン基を有するシランカップリング剤により表面処理された充填剤はエポキシ環を有するエポキシ樹脂に対する高い親和性を与え、これにより医科歯科模型用硬化性組成物に用いた際に高い機械的強度、及び耐久性を与える結果となった。従って、本発明のエポキシ環とウレタン基を有するシランカップリング剤は従来の課題を全て克服しており、産業上の利用の可能性は大きいと言える。