(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】水洗式大便器
(51)【国際特許分類】
E03D 11/08 20060101AFI20220714BHJP
【FI】
E03D11/08
(21)【出願番号】P 2021085806
(22)【出願日】2021-05-21
(62)【分割の表示】P 2020210109の分割
【原出願日】2014-08-18
【審査請求日】2021-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】筒井 寛明
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 善博
(72)【発明者】
【氏名】足立 友樹
【審査官】広瀬 杏奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-207503(JP,A)
【文献】特許第4941796(JP,B1)
【文献】特開2000-265525(JP,A)
【文献】特開2011-208362(JP,A)
【文献】特開2011-231472(JP,A)
【文献】特開2019-007350(JP,A)
【文献】特開2017-160669(JP,A)
【文献】特開2018-080503(JP,A)
【文献】米国特許第10676908(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
便鉢と、
前記便鉢の上端縁部に形成されたリムと、
前記リムのみに形成され、洗浄水を平面視において反時計周り方向へ吐出して前記便鉢に供給する吐水口とを備え、
前記吐水口は、前記リムにおける1ヶ所のみに1つだけ開口し、
前記便鉢の少なくとも後端部においては、前記便鉢の内面が、鉛直面に沿った切断面において直線状をなし、前記リムの上端面と弧状凸面を介して連なっており、
前記吐水口は、前記吐水口の開口領域の少なくとも一部が前後方向において前記便鉢の溜水面と重なる形態、及び前記吐水口の全体が前記溜水面の前端よりも前方の領域に開口する形態のうちのいずれか一方の形態であり、
前記吐水口の全体が、前記便鉢の左右方向中央よりも右方の領域に開口し、
前記吐水口が、前記洗浄水を後方へ吐出する水洗式大便器。
【請求項2】
前記便鉢の内面には、上方に面する棚面が全周に亘って形成されており、
前記吐水口の開口領域の最下端が、前記棚面と同じ高さである請求項1に記載の水洗式大便器。
【請求項3】
前記吐水口の少なくとも一部が、前後方向において前記溜水面の前端よりも前方の領域に開口している請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載の水洗式大便器。
【請求項4】
前記吐水口の高さ寸法は、前記吐水口からの洗浄水の吐出方向下流側に向かって小さくなっている請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水洗式便器。
【請求項5】
前記吐水口の上縁辺は水平方向に延びており、
前記吐水口の下縁辺は、前記吐水口からの洗浄水の吐出方向下流側に向かって高くなるように傾斜している請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水洗式大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗式大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、便鉢と、便鉢の上端縁部に沿って形成されたリムと、便鉢の内面上端縁に沿った形成された上部鉛直内壁面と、上部鉛直内壁面に開口する吐水口とを備えた水洗式大便器が開示されている。この水洗式大便器は、吐水口から吐出した洗浄水により、便鉢内を洗浄するとともに、便鉢内の汚物を排出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の水洗式大便器では、便鉢の上部鉛直内壁面のうち吐水口の開口領域の近傍に、オーバーハング部が形成されている。オーバーハング部の上面は、便鉢の水平な上面とほぼ面一状に連なっている。したがって、便鉢の上部鉛直内壁面のうちオーバーハング部が形成されている領域が汚れていた場合に、上から便鉢を覗き込んでも、その汚れ具合を目視で確認し難いという問題がある。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、便鉢の上部鉛直内壁面を全周に亘って目視できる水洗式大便器を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水洗式大便器は、便鉢と、前記便鉢の上端縁部に形成されたリムと、前記リムのみに形成され、洗浄水を平面視において反時計周り方向へ吐出して前記便鉢に供給するする吐水口とを備え、前記吐水口は、前記吐水口の開口領域の少なくとも一部が前後方向において前記便鉢の溜水面と重なる形態、及び前記吐水口の全体が前記溜水面の前端よりも前方の領域に開口する形態のうちのいずれか一方の形態であり、前記吐水口の全体が、前記便鉢の左右方向中央よりも右方の領域に開口している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を
図1~
図4を参照して説明する。尚、以下の説明において、前後方向に関しては、
図1における下側及び
図2,3における右側を前側と定義する。また、左右方向に関しては、
図1,4にあらわれる向きを、そのまま左側及び右側と定義する。本実施例1の水洗式大便器は、便鉢10と、溜水部17と、排水路19と、給水部24とを備えて構成されている。
【0014】
<便鉢10>
便鉢10は、上方へ開放された略擂り鉢状をなす。便鉢10には、その上端縁部に沿うようにリム11が形成されている。リム11の上端面11Sは、全周に亘って略水平であり、且つ全周に亘って一定高さで連続している。便鉢10の内面は、汚物(図示省略)を受け止めるための鉢面12となっている。鉢面12のうち上端部領域は、全周に亘って連続する上部鉛直内壁面13となっている。
図2~4に示すように、上部鉛直内壁面13は、リム11の上端面11Sに対し、曲率半径の小さい弧状凸面14を介して直角をなすように連なっている。上端面11Sと上部鉛直内壁面13は、弧状凸面14面に対し滑らかに(接線状)に連なっている。
【0015】
図2~4に示すように、便鉢10の平面視中心部を通る鉛直面に沿った切断面においては、上部鉛直内壁面13の上端側領域がほぼ直線状をなし、弧状凸面14は、凸面のみで構成されている。そして、上部鉛直内壁面13と上端面11Sが弧状凸面14を介して直角に連なる形態は、便鉢10(リム11)の全周に亘って連続している。したがって、上部鉛直内壁面13には、その全領域に亘り、便鉢10の内部へ突き出すオーバーハング部や凸部や凹部が形成されていない。これにより、リム11の上端面11Sより高い位置から斜め下方に向けた視線で上部鉛直内壁面13を見たときに、上部鉛直内壁面13の全領域を目視することが可能である。
【0016】
上部鉛直内壁面13は、リム11の略水平な上端面11Sに対して直角をなしている、本実施例における「直角」は、厳密な90°の角度に限定されるものではなく、90°より少し小さい角度と、90°よりも少し大きい角度も含む。したがって、上部鉛直内壁面13の向きは、厳密な鉛直方向(上下方向)に限らず、鉛直方向に対して上端側が便鉢10の内側へ僅かに倒れるように傾いた向き(つまり、リム11の上端面11Sと鋭角をなす向き)と、鉛直方向に対して上端側が便鉢10の外側へ僅かに傾いた向き(つまり、リム11の上端面11Sと鈍角をなす向き)も含む。
【0017】
鉢面12のうち上部鉛直内壁面13よりも下方の領域は、全周に亘って連続する棚面15となっている。棚面15は、上部鉛直内壁面13の下端に対し弧状凹面16を介して滑らかに連続している。棚面15は、全周に亘り、上方に面しており、上部鉛直内壁面13から遠ざかるほど低くなるように傾斜している。棚面15の水平面に対する傾斜角度は、周方向において一定ではなく部位によって異なるが、全周において45°よりも小さい角度に設定されている。
【0018】
<溜水部17及び排水路19>
便鉢10の下端部は、溜水部17となっている。溜水部17は、便鉢10の左右方向(幅方向)における中央に配置されている。また、溜水部17は、便鉢10の前後方向における中央よりも後方に偏った位置に配置されている。溜水部17の上端部内面は、全周に亘り、ほぼ鉛直な立壁18で構成されている。この立壁18の上端部は、棚面15の内周縁部に滑らかに連続している。
【0019】
図2に示すように、排水路19は、溜水部17に連なる上昇路20と、上昇路20の下流端(上端)に連なる下降路21とを備えて構成されている。下降路21は、トイレの床面に設けた排水管(図示省略)に接続されている。溜水部17は、排水路の入口に位置する。排水路19は、左右対称であり、便鉢10の左右方向(幅方向)における中央に配置されている。
【0020】
洗浄前は、洗浄水が溜水として溜水部17と上昇路20に貯留されている。溜水部17において溜水が静止しているときの液面を、溜水面23と定義する。鉢面12で受け止められた汚物や溜水部17内に沈下した汚物は、鉢面12に沿って旋回又は流下する洗浄水とともに、排水路19を通って排出される。
【0021】
<給水部24>
給水部24は、便鉢10に洗浄水を供給するためのものであり、便鉢10の上面部後方に隣接して形成されている。給水部24の前端における左右方向中央部は、リム11の後端部に連なっていて、給水部24の上面とリム11の上端面11Sが面一状に連続している。
図2,3に示すように、給水部24は、上面が開放されて洗浄タンク等の給水口(図示省略)に連通するように形成された後部給水空間25と、後部給水空間25の前方に位置し、連通孔27を介して後部給水空間25に連通する前部給水空間26とを備えて構成されている。
【0022】
<吐水口28>
便鉢10の上端部(リム11)には、給水部24内に供給された洗浄水を、便鉢10内に吐出するための吐水口28が形成されている。吐水口28は、上部鉛直内壁面13と前部給水空間26とを仕切る隔壁部29を貫通した形態である。つまり、吐水口28は、上部鉛直内壁面13の後端部に位置し、前方に向かって開口している。
【0023】
図4に示すように、吐水口28の開口形状(正面視形状)は、全体として横長の方形をなし、四隅が弧状に成形されているとともに、上下非対称且つ左右非対称である。吐水口28の開口縁を構成する4つの縁辺のうち、上縁辺30は水平方向に延びている。右縁辺31は鉛直方向に延びている。左縁辺32は弧状をなしている。下縁辺33は、水平ではなく、左方に向かって次第に高くなるように少し傾斜している。換言すると、吐水口28の下縁辺33は、便鉢10の左側から中央に向かって下るように傾斜している。したがって、吐水口28の高さ寸法は、右側から左側に向かって次第に小さくなっている。
【0024】
図1に示すように、前後方向において、吐水口28は、その全体に亘り、溜水部17の溜水面23の後端よりも後方の領域に開口している。また、吐水口28は、その全体が、便鉢10の左右方向中央よりも左方の領域に開口している。そして、吐水口28のうち左端部を除いた大部分の領域は、左右方向において溜水面23と重なるように開口している。また、
図4に示すように、吐水口28の開口領域の最上端(上縁辺30)は、上部鉛直内壁面13の上端(弧状凸面14の下端)よりも下方の位置に設定されている。吐水口28の開口領域の最下端(下縁辺33の右端)は、棚面15よりも上方の位置に設定されている。
【0025】
吐水口28からは、洗浄水が便鉢10内に吐出される。吐水口28からの洗浄水の吐出方向は、上部鉛直内壁面13に沿うような向きであり、平面視において反時計回り方向の向きである。洗浄水の吐出流量(単位時間当たりの吐水量)は、吐出開始時がほぼ最大であり、その後、徐々に減少し、吐出終了間際で最小となる。したがって、吐出開始から吐出終了間際までの間は、吐出された洗浄水が、上部鉛直内壁面13の下端部及び棚面15に接する旋回流34となる。この旋回流34は、上部鉛直内壁面13の下端部に沿うように流れるので、便鉢10(リム11)の上方に飛散することはない。旋回流34の旋回経路は、重力により次第に下方へ移動していき、溜水部17に流入する。
【0026】
そして、吐出終了間際では、吐出した洗浄水が、溜水部17に向かってほぼ鉛直下向きの誘導流35となる。この吐出終了間際の下向きの誘導流35は、棚面15の後端部における旋回流34に上から覆い被さるように流れ落ちる。したがって、棚面15の後端部では、旋回流34が誘導流35によって下向きに誘導され、溜水部17に流れ込む。溜水部17は、排水路19の入口に連通しているので、便鉢10内の洗浄水と汚物は確実に排出される。
【0027】
本実施例の水洗式大便器は、便鉢10と、便鉢10の内面上端部に形成され、便鉢10の略水平な上端面11Sの内周縁に対し、便鉢10の全周に亘って直角に連なる上部鉛直内壁面13とを有する。この上部鉛直内壁面13には、洗浄水を吐出して上部鉛直内壁面13に接する旋回流34を生成する吐水口28が開口している。吐水口28が開口する上部鉛直内壁面13は、全周に亘り、便鉢10の水平な上端面11Sと直角に連なっていてオーバーハング部を有していないので、リム11の上端面11Sより高い位置の視点からでも、上部鉛直内壁面13の全領域を全周に亘って目視することが可能である。
【0028】
また、吐水口28は、上部鉛直内壁面13の上下方向中間位置に開口している。この構成によれば、上部鉛直内壁面13に沿って一周した旋回流34は、吐水口28より低い位置を流れるのであるが、この一周した旋回流34に対し、吐水口28から吐出された洗浄水が上から覆い被さるので、洗浄水が上方へ飛散することを防止できる。
【0029】
また、便鉢10の内面には、上部鉛直内壁面13の下端縁に沿った上向きの棚面15が全周に亘って連続して形成されており、吐水口28の開口領域の最下端は、棚面15より上方に設定されている。この構成によれば、棚面15上を旋回する洗浄水に対し、吐水口28から吐出された洗浄水が上から覆い被さるので、棚面15上の洗浄水が上方へ飛散することを防止できる。
【0030】
また、上部鉛直内壁面13の平面視形状は、前端部と後端部の曲率半径が左右両側縁部の曲率半径よりも小さい形状をなしている。即ち、長軸を前後方向に向けた略楕円形をなしている。そして、吐水口28が、上部鉛直内壁面13の後端部(つまり、曲率半径の小さい領域)に開口している。この構成によれば、吐水口28から斜め前方に吐出された洗浄水は、吐出の直後に曲率半径の大きい側縁部に対して接線状に接触するので、洗浄水の水勢の低下が抑えられる。したがって、洗浄力の高い旋回流34が生成される。
【0031】
また、便鉢10のうち前後方向における中央よりも後方の位置には、排水路19に連なる溜水部17が配されており、吐水口28が、溜水部17の溜水面23よりも後方に配され、吐水口28から吐出した洗浄水の一部が、下向きの誘導流35を生成するようになっている。この構成によれば、吐水口28から吐出された洗浄水の一部が、溜水部17に向かう下向きの誘導流35となるので、汚物を効果的に排水路19へ誘導することができる。
【0032】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例では、吐水口を便鉢(リム)の後端部に配置したが、吐水口は、便鉢の後端よりも前方の位置に配置してもよい。
(2)上記実施例では、吐水口の数を1つだけとしたが、吐水口は、異なる位置に複数配置してもよい。この場合、2つ目からの吐水口は、旋回流を生成する吐水口でなくてもよい。例えば、下方にのみ吐水する吐水口でもよい。
(3)上記実施例では、吐水口の開口領域の最下端を棚面より上方に設定したが、吐水口の開口領域の最下端が棚面と同じ高さであってもよい。
(4)上記実施例では、吐水口の全体が、便鉢の左右方向中央より左方の領域に開口しているが、吐水口の全体が便鉢の左右方向中央より右方の領域に開口してもよく、吐水口が便鉢の左右方向中央線を跨ぐように開口してもよい。
(5)上記実施例では、吐水口の全体が、溜水部の溜水面の後端より後方の領域に開口しているが、吐水口の全体が溜水部の溜水面の前端より前方の領域に開口してもよく、吐水口の開口領域の一部が、前後方向において溜水面と重なるような位置関係であってもよい。
(6)上記実施例では、吐水口を前方から見た開口形状が左右非対称であるが、吐水口を前方から見た開口形状は左右対称であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
10…便鉢
11…リム
11S…リムの上端面
13…上部鉛直内壁面
15…棚面
17…溜水部
19…排水路
23…溜水面
28…吐水口
34…旋回流
35…誘導流