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7105430ウイルス増殖阻害作用を有するトリアジン誘導体およびそれらを含有する医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】ウイルス増殖阻害作用を有するトリアジン誘導体およびそれらを含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 403/14 20060101AFI20220715BHJP
【FI】
C07D403/14 CSP
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022525557
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2022006496
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2021068672
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021105802
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021153819
(32)【優先日】2021-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001926
【氏名又は名称】塩野義製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】立花 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】上原 彰太
(72)【発明者】
【氏名】宇納 佑斗
(72)【発明者】
【氏名】中原 健二
(72)【発明者】
【氏名】垰田 善之
(72)【発明者】
【氏名】山津 維子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 茂
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 道仁
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/092966(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/020749(WO,A1)
【文献】LIU,Y. et al.,European Journal of Medicinal Chemistry,2020年,Vol.206,112711,https://doi.org/10.1016/j.ejmech.2020.112711
【文献】AKAJI,K. et al.,molecules,2020年,Vol.25,3920,https://doi:10.3390/molecules25173920
【文献】OLUBIYI,O.O. et al.,molecules,2020年,Vol.25,3193,https://doi:10.3390/molecules25143193
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
【化1】

で示される化合物またはその製薬上許容される塩。
【請求項2】
コロナウイルス3CLプロテアーゼの関与する疾患の治療および/または予防に使用するための、請求項1記載の化合物またはその製薬上許容される塩。
【請求項3】
式(I-B):
【化2】

で示される化合物およびフマル酸を含む複合体。
【請求項4】
式(I-B):
【化3】

で示される化合物およびフマル酸が、1:1のモル比で存在する請求項記載の複合体。
【請求項5】
式(I-B):
【化4】

で示される化合物のフマル酸共結晶。
【請求項6】
式(I-B):
【化5】

で示される化合物およびフマル酸が、1:1のモル比で存在する請求項5記載のフマル酸共結晶。
【請求項7】
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角度(2θ):9.5±0.2°、10.9±0.2°、18.6±0.2°、23.5±0.2°および24.6±0.2°にピークを有するフマル酸共結晶I形である、請求項6記載のフマル酸共結晶
【請求項8】
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角度(2θ):7.8±0.2°、9.5±0.2°、10.1±0.2°、10.9±0.2°、13.8±0.2°、14.7±0.2°、18.6±0.2°、22.6±0.2°、23.5±0.2°および24.6±0.2°にピークを有するフマル酸共結晶I形である、請求項6記載のフマル酸共結晶
【請求項9】
ラマンスペクトルにおいて、676.3cm-1±2cm-1、748.0cm-1±2cm-1、1029.3cm-1±2cm-1、1374.4cm-1±2cm-1、1515.5cm-1±2cm-1、1665.7cm-1±2cm-1、1715.7cm-1±2cm-1および1739.1cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有するフマル酸共結晶I形である、請求項6記載のフマル酸共結晶
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナウイルス3CLプロテアーゼ阻害活性を示す化合物、およびコロナウイルス3CLプロテアーゼ阻害活性を示す化合物を含有する医薬組成物に関する。また、本発明は、3CLプロテアーゼ阻害活性を示す化合物またはその製薬上許容される塩の結晶および共結晶、ならびにそれらを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ニドウイルス目コロナウイルス科オルトコロナウイルス亜科に属するコロナウイルスは、約30キロベースのゲノムサイズを有し、既知のRNAウイルスでは最大級の一本鎖+鎖RNAウイルスである。コロナウイルスはアルファコロナウイルス属、ベータコロナウイルス属、ガンマコロナウイルス属およびデルタコロナウイルス属の4つに分類され、ヒトに感染するコロナウイルスとして、アルファコロナウイルス属の2種類(HCoV-229E、HCoV-NL63)およびベータコロナウイルス属の5種類(HCoV-HKU1、HCoV-OC43、SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2)の計7種類が知られている。この内、4種類(HCoV-229E、HCoV-NL63、HCoV-HKU1、HCoV-OC43)は風邪の病原体であるが、残りの3種類は重症肺炎を引き起こす重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス(MERS-CoV)および新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)である。
【0003】
2019年12月に中国武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は急速に国際社会に蔓延し、2020年3月11日にWHOよりパンデミックが表明された。2022年1月28日時点で確認された感染者数は3.6億人以上、死者数は563万人以上に達する(非特許文献1)。SARS-CoV-2の主な感染経路として飛沫感染、接触感染およびエアロゾル感染が報告されており、SARS-CoV-2は3時間程度エアロゾルと共に空気中を漂い続け、感染力を維持することが確認されている(非特許文献2)。潜伏期間は2~14日程度であり、発熱(87.9%)、空咳(67.7%)、倦怠感(38.1%)、痰(33.4%)等の風邪様症状が典型的である(非特許文献3)。重症例では、急性呼吸窮迫症候群や急性肺障害、間質性肺炎等による呼吸器不全が起こる。また、腎不全や肝不全などの多臓器不全も報告されている。
【0004】
本邦においては、既存薬のドラッグリポジショニングから、抗ウイルス薬であるレムデシビル、抗炎症薬であるデキサメタゾン、リウマチ薬であるバリシチニブがCOVID-19に対する治療薬として承認され、2022年1月に抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブが追加承認されている。また、2021年7月に、抗体カクテル療法であるロナプリーブ(カシリビマブ/イムデビマブ)が特例承認され、2021年9月にソトロビマブが特例承認され、2021年12月にモルヌピラビルが特例承認された。これらの薬剤についての有効性や安全性については、十分なエビデンスが得られていない。したがって、COVID-19に対する治療薬の創製は急務である。
【0005】
コロナウイルスは、細胞に感染すると、2つのポリタンパク質を合成する。この2つのポリタンパク質中には、新たなウイルス粒子を作り出すための構造タンパク質、ウイルスゲノムを作る複製複合体、2つのプロテアーゼが含まれている。プロテアーゼは、ウイルスから合成されたポリタンパク質を切断し、それぞれのタンパク質を機能させるために不可欠な働きをする。2つのプロテアーゼのうち、ポリタンパク質の切断のほとんどを担うのが、3CLプロテアーゼ(メインプロテアーゼ)である(非特許文献4)。
3CLプロテアーゼを標的とした、COVID-19治療薬としては、2021年6月、Pfizer社によるPF-00835231のプロドラッグであるLufotrelvir(PF-07304814)のPhase1b試験の完了がClinicalTrials.govに掲載された(NCT04535167)。また、2021年3月、Pfizer社は新型コロナウイルス感染症に対する治療薬PF-07321332のPhase1試験を開始すると発表した。PF-00835231、LufotrelvirおよびPF-07321332の構造式は以下に示す通りで、本発明化合物とは化学構造が異なる(非特許文献5、12および13、ならびに特許文献6および7)。
PF-00835231:
【化1】

Lufotrelvir(PF-07304814):
【化2】

PF-07321332:
【化3】

さらに2021年7月、ハイリスク因子を持つCOVID-19患者を対象とした、PF-07321332およびリトナビル併用のPhase2/3試験が開始されることがClinicalTrials.govに掲載された(NCT04960202)。また、2021年11月、Pfizer社のホームページにおいて、PAXLOVID(TM)(PF-07321332;リトナビル)は、成人のハイリスク患者において、プラセボと比較して入院または死亡のリスクを89%減少させたことが報告された(非特許文献14)。さらに、2021年12月、PAXLOVID(TM)は米国で緊急使用許可が承認され、2022年2月10日にパキロビッド(登録商標)パックが日本で特例承認された。
【0006】
3CLプロテアーゼ阻害活性を有する化合物が非特許文献5~8に開示されているが、いずれの文献においても本発明に関連する化合物は記載も示唆もされていない。
Ρ2Xおよび/またはΡ2X2/3受容体拮抗作用を有するトリアジン誘導体およびウラシル誘導体が特許文献1~4および8~12に開示されているが、いずれの文献においても、3CLプロテアーゼ阻害活性および抗ウイルス効果については記載も示唆もされていない。
抗腫瘍効果を有するトリアジン誘導体が非特許文献9~11に開示されているが、いずれの文献においても、コロナウイルス3CLプロテアーゼ阻害活性および抗ウイルス効果については記載されておらず、また、本発明に関連する化合物は記載も示唆もされていない。
ガラニン受容体調節作用を有するトリアジン誘導体が特許文献5に開示されているが、いずれの文献においても、コロナウイルス3CLプロテアーゼ阻害活性および抗ウイルス効果については記載されておらず、また、本発明に関連する化合物は記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2012/020749号
【文献】国際公開第2013/089212号
【文献】国際公開第2010/092966号
【文献】国際公開第2014/200078号
【文献】国際公開第2012/009258号
【文献】国際公開第2021/205298号
【文献】国際公開第2021/250648号
【文献】中国特許出願公開第113620888号明細書
【文献】中国特許出願公開第113666914号明細書
【文献】中国特許出願公開第113735838号明細書
【文献】中国特許出願公開第113773300号明細書
【文献】中国特許出願公開第113801097号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】“COVID-19 Dashboard by the Center for Systems Science and Engineering at Johns Hopkins University”、[online]、Johns Hopkins University、[2022年1月28日検索]、インターネット<URL:https://coronavirus.jhu.edu/map.html>
【文献】The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE(2020年)、382巻、1564~1567頁
【文献】“Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)”、[online]、2020年2月28日、WHO、[2021年2月8日検索]、インターネット<URL:https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/who-china-joint-mission-on-covid-19-final-report.pdf>
【文献】Science(2003年)、300巻、1763~1767頁
【文献】“A comparative analysis of SARS-CoV-2 antivirals characterizes 3CLpro inhibitor PF-00835231 as a potential new treatment for COVID-19”、Journal of Virology、2021年4月26日、[2022年2月15日検索]、インターネット<URL: https://journals.asm.org/doi/10.1128/JVI.01819-20><doi: 10.1128/JVI.01819-20>
【文献】Cell Research(2020年)、30巻、678~692頁
【文献】Science(2020年)、368巻、409~412頁
【文献】ACS Central Science(2021年)、7巻、3号、467~475頁
【文献】Cancer Treatment Reviews(1984年)、11巻、Supplement 1、99~110頁
【文献】Contributions to Oncology(1984年)、18巻、221~234頁
【文献】Arzneimittel-Forschung(1984年)、11巻、6号、663~668頁
【文献】261st Am Chem Soc (ACS) Natl Meet ・ 2021-04-05 / 2021-04-16 ・ Virtual, N/A ・ Abst 243
【文献】Science(2021年)、374巻、1586~1593頁
【文献】"Pfizer’s Novel COVID-19 Oral Antiviral Treatment Candidate Reduced Risk Of Hospitalization Or Death By 89% In Interim Analysis Of Phase 2/3 EPIC-HR Study"、[online]、2021年11月5日、 Pfizer Press Release、[2022年2月15日検索]、インターネット<URL:https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizers-novel-covid-19-oral-antiviral-treatment-candidate>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、コロナウイルス3CLプロテアーゼ阻害活性を有する化合物を提供することにある。好ましくは、本発明は、抗ウイルス作用、特にコロナウイルスの増殖阻害作用を有する化合物、および該化合物を含有する医薬を提供する。また、本発明の目的は、3CLプロテアーゼ阻害活性を示す化合物またはその製薬上許容される塩の結晶および共結晶、ならびにそれらを含有する医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に関する。
(1)式(I):
【化4】

(式中、
Yは、NまたはCRであり;
は、水素原子または置換もしくは非置換のアルキルであり;
は、置換もしくは非置換の芳香族複素環式基、置換もしくは非置換の非芳香族複素環式基、置換もしくは非置換のカルバモイルまたは置換もしくは非置換のアミノであり;
は、置換もしくは非置換の芳香族炭素環式基(ただし、パラフルオロフェニル、パラクロロフェニルおよびパラメチルフェニルを除く)、置換もしくは非置換の非芳香族炭素環式基、置換もしくは非置換の芳香族複素環式基、置換もしくは非置換の非芳香族複素環式基または置換もしくは非置換のアルキルであり;
は、置換もしくは非置換の芳香族炭素環式基、置換もしくは非置換の非芳香族炭素環式基、置換もしくは非置換の芳香族複素環式基または置換もしくは非置換の非芳香族複素環式基であり;
-X-は、-NR-、-CR6’-、-O-、-S-または単結合であり;
およびR6’はそれぞれ独立して、水素原子または置換もしくは非置換のアルキルであり;
mは、0、1または2であり;
5aはそれぞれ独立して、水素原子または置換もしくは非置換のアルキルであり;
5bはそれぞれ独立して、水素原子または置換もしくは非置換のアルキルであり;
nは、0、1または2であり;
4aはそれぞれ独立して、水素原子または置換もしくは非置換のアルキルであり;
4bはそれぞれ独立して、水素原子または置換もしくは非置換のアルキルである)で示される化合物(ただし、以下の化合物:
【化5】

を除く)、またはその製薬上許容される塩。
【0011】
(AA1)式:
【化6】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩。
(AA1’)式:
【化7】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩。
(AA2)上記項目(AA1)または(AA1’)記載の化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する、医薬組成物。
(AA3)上記項目(AA1)または(AA1’)記載の化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する、コロナウイルス3CLプロテアーゼ阻害剤。
(AA4)上記項目(AA1)または(AA1’)記載の化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する、コロナウイルス増殖阻害剤。
(AA5)コロナウイルスが、アルファコロナウイルスおよび/またはベータコロナウイルスである、上記項目(AA4)記載のコロナウイルス増殖阻害剤。
(AA6)コロナウイルスが、SARS-CoV-2である、上記項目(AA4)記載のコロナウイルス増殖阻害剤。
(AA7)上記項目(AA1)または(AA1’)記載の化合物、またはその製薬上許容される塩を投与することを特徴とする、コロナウイルス3CLプロテアーゼの関与する疾患の治療および/または予防方法。
(AA8)コロナウイルス3CLプロテアーゼの関与する疾患の治療および/または予防に使用するための、上記項目(AA1)または(AA1’)記載の化合物、またはその製薬上許容される塩。
【0012】
(1B)式(I-B):
【化8】

で示される化合物およびフマル酸を含む複合体。
(2B)式(I-B):
【化9】

で示される化合物およびフマル酸が、1:1のモル比で存在する上記項目(1B)記載の複合体。
(3B)上記項目(1B)または(2B)記載のフマル酸共結晶。
(4B)粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ):9.5±0.2°、10.9±0.2°、18.6±0.2°、23.5±0.2°および24.6±0.2°にピークを有する、上記項目(3B)記載のフマル酸共結晶I形。
(5B)粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ):7.8±0.2°、9.5±0.2°、10.1±0.2°、10.9±0.2°、13.8±0.2°、14.7±0.2°、18.6±0.2°、22.6±0.2°、23.5±0.2°および24.6±0.2°にピークを有する、上記項目(3B)記載のフマル酸共結晶I形。
(6B’)ラマンスペクトルにおいて、676.3cm-1±2cm-1、748.0cm-1±2cm-1、1029.3cm-1±2cm-1、1374.4cm-1±2cm-1、1515.5cm-1±2cm-1、1665.7cm-1±2cm-1、1715.7cm-1±2cm-1および1739.1cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する、上記項目(3B)記載のフマル酸共結晶I形。
(6B)上記項目(3B)~(5B)、(6B’)のいずれかに記載の共結晶を含む医薬組成物。
(7B)298Kで測定した場合に、以下の結晶学的データ:
空間群:P-1
a = 8.4ű0.5Å
b = 11.7ű0.5Å
c = 15.2ű0.5Å
α = 83.8°±0.5°
β = 78.9°±0.5°
γ = 77.1°±0.5°
により特徴付けられる、上記項目(3B)記載のフマル酸共結晶I形。
(8B)298Kで測定した場合に、実質的に以下と等しい結晶学的データ:
空間群:P-1
a = 8.4374Å
b = 11.6780Å
c = 15.1612Å
α = 83.827°
β = 78.868°
γ = 77.147°
により特徴付けられる、上記項目(3B)記載のフマル酸共結晶I形。
(9B)以下の(a)~(c):
(a)図1に実質的に一致する粉末X線回折パターン;
(b)図3に実質的に一致するラマンスペクトル;および
(c)図4に実質的に一致する示差走査熱量曲線;
から選択される1以上のスペクトルおよび/または曲線により特徴付けられる、上記項目(3B)記載のフマル酸共結晶I形。
(10B)上記項目(7B)~(9B)のいずれかに記載の共結晶を含む医薬組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る化合物は、コロナウイルス3CLプロテアーゼに対する阻害活性を有し、コロナウイルス感染症の治療剤および/または予防剤として有用である。
さらに、化合物(I-0115)のフマル酸共結晶を含有する医薬組成物は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療剤として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形(Form I)の粉末X線回折パターンを示す。横軸は2θ(°)で、縦軸は強度(Count)を表す。
図2】式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形(Form I)の非対称単位中の構造図を示す。
図3】式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形(Form I)のラマンスペクトルを示す。横軸はラマンシフト(cm-1)を表し、縦軸はピーク強度を表す。
図4】式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形(Form I)のDSC分析結果を示す。横軸は温度(℃)を、縦軸は熱量(W/g)を表す。
図5】式(I-B)で示される化合物のカリウム塩I形結晶(Form I)の粉末X線回折パターンを示す。横軸は2θ(°)で、縦軸は強度(Count)を表す。
図6】式(I-B)で示される化合物のカリウム塩I形結晶(Form I)のラマンスペクトルを示す。横軸はラマンシフト(cm-1)を表し、縦軸はピーク強度を表す。
図7】式(I-B)で示される化合物のコハク酸共結晶I形(Form I)の粉末X線回折パターンを示す。横軸は2θ(°)で、縦軸は強度(Count)を表す。
図8】式(I-B)で示される化合物のコハク酸共結晶I形(Form I)のラマンスペクトルを示す。横軸はラマンシフト(cm-1)を表し、縦軸はピーク強度を表す。
図9】式(I-B)で示される化合物の無水物I形結晶(Form I)の粉末X線回折パターンを示す。横軸は2θ(°)で、縦軸は強度(Count)を表す。
図10】式(I-B)で示される化合物の無水物I形結晶(Form I)のラマンスペクトルを示す。横軸はラマンシフト(cm-1)を表し、縦軸はピーク強度を表す。
図11】式(I-B)で示される化合物のナトリウム塩I形結晶(Form I)の粉末X線回折パターンを示す。横軸は2θ(°)で、縦軸は強度(Count)を表す。
図12】式(I-B)で示される化合物のナトリウム塩I形結晶(Form I)のラマンスペクトルを示す。横軸はラマンシフト(cm-1)を表し、縦軸はピーク強度を表す。
図13】式(I-B)で示される化合物のナトリウム塩I形結晶(Form I)のTG/DTA分析結果を示す。縦軸は熱量(μV)又は重量変化(%)を示し、横軸は温度(℃)を示す。図中のCelは、セルシウス度(℃)を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本明細書において用いられる各用語の意味を説明する。各用語は特に断りのない限り、単独で用いられる場合も、または他の用語と組み合わせて用いられる場合も、同一の意味で用いられる。
「からなる」という用語は、構成要件のみを有することを意味する。
「含む」という用語は、構成要件に限定されず、記載されていない要素を排除しないことを意味する。
以下、本発明について実施形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。
また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当上記分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0016】
「ハロゲン」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子を包含する。特にフッ素原子および塩素原子が好ましい。
【0017】
「アルキル」とは、炭素数1~15、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~6、さらに好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分枝状の炭化水素基を包含する。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、n-へプチル、イソヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、n-ノニル、n-デシル等が挙げられる。
「アルキル」の好ましい態様として、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチルが挙げられる。さらに好ましい態様として、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、tert-ブチルが挙げられる。
【0018】
「芳香族炭素環式基」とは、単環または2環以上の、環状芳香族炭化水素基を意味する。例えば、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル等が挙げられる。6員芳香族炭素環式基としては、例えば、フェニルが挙げられる。
【0019】
「芳香族複素環式基」とは、O、SおよびNから任意に選択される同一または異なるヘテロ原子を環内に1以上有する、単環または2環以上の、芳香族環式基を意味する。
2環以上の芳香族複素環式基は、単環または2環以上の芳香族複素環式基に、上記「芳香族炭素環式基」における環が縮合したものも包含し、該結合手はいずれの環に有していても良い。
単環の芳香族複素環式基としては、5~8員が好ましく、より好ましくは5員または6員である。5員芳香族複素環式基としては、例えば、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、フリル、チエニル、イソオキサゾリル、オキサゾリル、オキサジアゾリル、イソチアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル等が挙げられる。
2環の芳香族複素環式基としては、8~10員が好ましく、より好ましくは9員または10員である。例えば、インドリル、イソインドリル、インダゾリル、インドリジニル、キノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、フタラジニル、キナゾリニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、プリニル、プテリジニル、ベンズイミダゾリル、ベンズイソオキサゾリル、ベンズオキサゾリル、ベンズオキサジアゾリル、ベンズイソチアゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾフリル、イソベンゾフリル、ベンゾチエニル、ベンゾトリアゾリル、イミダゾピリジル、トリアゾロピリジル、イミダゾチアゾリル、ピラジノピリダジニル、オキサゾロピリジル、チアゾロピリジル等が挙げられる。9員芳香族複素環式基としては、インドリル、イソインドリル、インダゾリル、インドリジニル、プリニル、ベンズイミダゾリル、ベンズイソオキサゾリル、ベンズオキサゾリル、ベンズオキサジアゾリル、ベンズイソチアゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾフラニル、イミダゾピリジル、トリアゾロピリジル、オキサゾロピリジル、チアゾロピリジル等が挙げられる。
【0020】
における「置換もしくは非置換の芳香族複素環式基」の置換基としては、例えば、
ハロゲン;シアノ;ヒドロキシ;
置換アルキル(置換基としては、ハロゲン、ヒドロキシ、カルバモイル、芳香族炭素環式基、非芳香族炭素環式基);非置換アルキル;
非置換アルキルオキシ;
非置換アルキルオキシカルボニル;
非置換芳香族炭素環式基;
が挙げられる。これらから選択される1以上の基で置換されていてもよい。
【0021】
における「置換もしくは非置換の芳香族炭素環式基」の置換基としては、例えば、
ハロゲン;シアノ;
置換アルキル(置換基としては、ハロゲン);非置換アルキル;
置換アルキルオキシ(置換基としては、ハロゲン、芳香族炭素環式基);非置換アルキルオキシ;
が挙げられる。これらから選択される1以上の基で置換されていてもよい。
【0022】
における「置換もしくは非置換の芳香族複素環式基」の置換基としては、例えば、
ハロゲン;ヒドロキシ;
置換アルキル(置換基としては、ハロゲン、ヒドロキシ、アルキルオキシ、ハロアルキルオキシ、アルキルアミノ、アルキルカルボニルアミノ、アルキルカルバモイル、アルキルスルホニル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基);非置換アルキル;
が挙げられる。これらから選択される1以上の基で置換されていてもよい。
【0023】
式(I)で示される化合物は、特定の異性体に限定するものではなく、全ての可能な異性体(例えば、ケト-エノール異性体、イミン-エナミン異性体、ジアステレオ異性体、光学異性体、回転異性体等)、ラセミ体またはそれらの混合物を含む。例えば、式(I)においてYがNであり、XがNHである化合物は、以下のような互変異性体を包含する。
【化10】

例えば、化合物(I-0115)は、以下のような互変異性体を包含する。
【化11】
【0024】
式(I)で示される化合物の一つ以上の水素、炭素および/または他の原子は、それぞれ水素、炭素および/または他の原子の同位体で置換され得る。そのような同位体の例としては、それぞれH、H、11C、13C、14C、15N、18O、17O、31P、32P、35S、18F、123Iおよび36Clのように、水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、フッ素、ヨウ素および塩素が包含される。式(I)で示される化合物は、そのような同位体で置換された化合物も包含する。該同位体で置換された化合物は、医薬品としても有用であり、式(I)で示される化合物のすべての放射性標識体を包含する。また該「放射性標識体」を製造するための「放射性標識化方法」も本発明に包含され、該「放射性標識体」は、代謝薬物動態研究、結合アッセイにおける研究および/または診断のツールとして有用である。
また、本発明の結晶は重水素変換体であってもよい。本発明の結晶は同位元素(例、H,14C,35S,125I等)で標識されていてもよい。
【0025】
式(I)で示される化合物の放射性標識体は、当該技術分野で周知の方法で調製できる。例えば、式(I)で示されるトリチウム標識化合物は、トリチウムを用いた触媒的脱ハロゲン化反応によって、式(I)で示される特定の化合物にトリチウムを導入することで調製できる。この方法は、適切な触媒、例えばPd/Cの存在下、塩基の存在下または非存在下で、式(I)で示される化合物が適切にハロゲン置換された前駆体とトリチウムガスとを反応させることを包含する。トリチウム標識化合物を調製するための他の適切な方法は、“Isotopes in the Physical and Biomedical Sciences,Vol.1,Labeled Compounds (Part A),Chapter 6 (1987年)”を参照することができる。14C-標識化合物は、14C炭素を有する原料を用いることによって調製できる。
【0026】
式(I)で示される化合物の製薬上許容される塩としては、例えば、式(I)で示される化合物と、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、バリウム等)、マグネシウム、遷移金属(例えば、亜鉛、鉄等)、アンモニア、有機塩基(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メグルミン、エチレンジアミン、ピリジン、ピコリン、キノリン等)およびアミノ酸との塩、または無機酸(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、臭化水素酸、リン酸、ヨウ化水素酸等)、および有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、マンデル酸、グルタル酸、リンゴ酸、安息香酸、フタル酸、アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等)との塩が挙げられる。これらの塩は、通常行われる方法によって形成させることができる。
【0027】
本発明の式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される塩は、溶媒和物(例えば、水和物等)、共結晶および/または結晶多形を形成する場合があり、本発明はそのような各種の溶媒和物、共結晶および結晶多形も包含する。「溶媒和物」は、式(I)で示される化合物に対し、任意の数の溶媒分子(例えば、水分子等)と配位していてもよい。また、式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される塩を、再結晶することで結晶多形を形成する場合がある。
【0028】
本明細書中で用いる「結晶」とは、構成する原子、イオン、分子などが三次元的に規則正しく配列した固体を意味し、そのような規則正しい内部構造を持たない非晶質固体とは区別される。本発明の結晶は、単結晶、双晶、多結晶などであってもよい。
さらに、「結晶」には、組成が同一でありながら結晶中の配列が異なる「結晶多形」が存在することがあり、それらを含めて「結晶形態」という。
加えて、式(I)で示される化合物は、これらの製薬上許容される塩又はこれらの製薬上許容される溶媒和物に変換してもよい。本発明の結晶は、これらの塩、水和物、溶媒和物、結晶多形のいずれであってもよく、二つ以上の混合物であっても、発明の範囲内に包含されることが意図される。
結晶形態および結晶化度は、例えば、粉末X線回折測定、ラマン分光法、赤外吸収スペクトル測定法、水分吸脱着測定、示差走査熱量測定、溶解特性を含めた多くの技術によって測定することができる。
【0029】
本明細書中で用いる「共結晶」とは、例えば、式(I-B)で示される化合物とカウンター分子が同一結晶格子内に規則的に配列することを意味し、任意の数のカウンター分子を含んでいても良い。また、共結晶とは、化合物とカウンター分子との分子間相互作用が、水素結合、ファンデルワールス力などの、非共有結合性かつ非イオン性の化学的相互作用を介するものをいう。共結晶は、化合物が本質的に無電荷または中性のままであるという点で、塩と区別される。共結晶は、カウンター分子が水もしくは溶媒ではないという点で水和物または溶媒和物と区別される。
【0030】
本発明の式(I-B)で示される化合物を含む複合体は、広義には、塩、共結晶および包接化合物、またはその溶媒和物を含む。
【0031】
本明細書中で用いる「溶媒和物」とは、例えば式(I)および式(I-B)で示される化合物に対し、任意の数の溶媒分子と規則正しく配列しているものをいう。
溶媒分子としては、例えば、アセトニトリル、クロロベンゼン、クロロホルム、シクロヘキサン、1,2‐ジクロロエテン、ジクロロメタン、1,2‐ジメトキシエタン、N,N‐ジメチルアセトアミド、N,N‐ジメチルホルムアミド、1,4‐ジオキサン、2‐エトキシエタノール、エチレングリコール、ホルムアミド、ヘキサン、メタノール、2‐メトキシエタノール、メチルブチルケトン、メチルシクロヘキサン、N‐メチルピロリドン、ニトロメタン、ピリジン、スルホラン、テトラリン、トルエン、1,1,2‐トリクロロエテン、キシレン、酢酸、アニソール、1‐ブタノール、2‐ブタノール、酢酸n‐ブチル、t‐ブチルメチルエーテル、クメン、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ギ酸エチル、ギ酸、ヘプタン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸メチル、3‐メチル‐1‐ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2‐メチル‐1‐プロパノール、ペンタン、1‐ペンタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、酢酸プロピル、テトラヒドロフラン、水(すなわち水和物)、エタノール、アセトン、1,1‐ジエトキシプロパン、1,1‐ジメトキシメタン、2,2‐ジメトキシプロパン、イソオクタン、イソプロピルエーテル、メチルイソプロピルケトン、メチルテトラヒドロフラン、石油エーテル、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸、好ましくは、酢酸、アニソール、1‐ブタノール、2‐ブタノール、酢酸n‐ブチル、t‐ブチルメチルエーテル、クメン、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ギ酸エチル、ギ酸、ヘプタン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸メチル、3‐メチル‐1‐ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2‐メチル‐1‐プロパノール、ペンタン、1‐ペンタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、酢酸プロピル、テトラヒドロフラン、水(すなわち水和物)、エタノール、アセトン、1,1‐ジエトキシプロパン、1,1‐ジメトキシメタン、2,2‐ジメトキシプロパン、イソオクタン、イソプロピルエーテル、メチルイソプロピルケトン、メチルテトラヒドロフラン、石油エーテル、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸、より好ましくは、水(すなわち水和物)、エタノール、アセトン、1,1‐ジエトキシプロパン、1,1‐ジメトキシメタン、2,2‐ジメトキシプロパン、イソオクタン、イソプロピルエーテル、メチルイソプロピルケトン、メチルテトラヒドロフラン、石油エーテル、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸などが挙げられる。
また、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩、共結晶および複合体は、大気中に放置することにより、水分を吸収し、吸着水が付着する場合や、水和物を形成する場合がある。
【0032】
本発明の式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される塩は、プロドラッグを形成する場合があり、本発明はそのような各種のプロドラッグも包含する。プロドラッグは、化学的又は代謝的に分解できる基を有する本発明化合物の誘導体であり、加溶媒分解により又は生理学的条件下でインビボにおいて薬学的に活性な本発明化合物となる化合物である。プロドラッグは、生体内における生理条件下で酵素的に酸化、還元、加水分解等を受けて式(I)で示される化合物に変換される化合物、胃酸等により加水分解されて式(I)で示される化合物に変換される化合物等を包含する。適当なプロドラッグ誘導体を選択する方法および製造する方法は、例えば“Design of Prodrugs, Elsevier, Amsterdam, 1985”に記載されている。プロドラッグは、それ自身が活性を有する場合がある。
【0033】
(粉末X線回折(XRPD))
粉末X線回折(XRPD)は、固体の結晶形態及び結晶性を測定するための最も感度の良い分析法の1つである。X線が結晶に照射されると、結晶格子面で反射し、互いに干渉しあい、構造の周期に対応した秩序だった回折線を示す。一方、非晶質固体については、通常、その構造の中に秩序だった繰返し周期をもたないため、回折現象は起こらず、特徴のないブロードなXRPDパターン(ハローパターンとも呼ばれる)を示す。
【0034】
式(I-B)で示される化合物の結晶形態は、粉末X線回折パターンおよび特徴的な回折ピークにより識別可能である。式(I-B)で示される化合物の結晶形態は、特徴的な回折ピークの存在によって他の結晶形態と区別することができる。
本明細書中で用いる特徴的な回折ピークは、観測された回折パターンから選択されるピークである。特徴的な回折ピークは、好ましくは回折パターンにおける約10本、より好ましくは約5本、さらに好ましくは約3本から選択される。
複数の結晶を区別する上では、ピークの強度よりも、当該結晶で確認され、他の結晶では確認されないピークが、その結晶を特定する上で好ましい特徴的なピークとなる。そういった特徴的なピークであれば、一つまたは二つのピークでも、当該結晶を特徴付けることができる。測定して得られたチャートを比較し、これらの特徴的なピークが一致すれば、粉末X線回折パターンが実質的に一致するといえる。
【0035】
一般に、粉末X線回折における回折角度(2θ)は±0.2°の範囲内で誤差が生じ得るため、粉末X線回折の回折角度の値は±0.2°程度の範囲内の数値も含むものとして理解される必要がある。したがって、粉末X線回折におけるピークの回折角度が完全に一致する結晶だけでなく、ピークの回折角度が±0.2°程度の誤差で一致する結晶も本発明に含まれる。
【0036】
以下の表および図において表示されるピークの強度は、一般に、多くの因子、例えばX線ビームに対する結晶の選択配向の効果、粗大粒子の影響、分析される物質の純度またはサンプルの結晶化度によって変動し得ることが知られている。また、ピーク位置についても、サンプル高の変動に基づいてシフトし得る。さらに、異なる波長を使用して測定するとブラッグ式(nλ=2dsinθ)に従って異なるシフトが得られるが、このような別の波長の使用により得られる別のXRPDパターンも、本発明の範囲に含まれる。
【0037】
(単結晶構造解析)
結晶を特定する方法の一つで、当該結晶における結晶学的パラメーター、さらに、原子座標(各原子の空間的な位置関係を示す値)および3次元構造モデルを得ることができる。桜井敏雄著「X線構造解析の手引き」裳華房発行(1983年)、Stout & Jensen著 X-Ray Structure Determination: A Practical Guide, Macmillan Co., New York (1968)などを参照。本発明のような複合体、塩、光学異性体、互変異性体、幾何異性体の結晶の構造を同定する際には、単結晶構造解析が有用である。
【0038】
(ラマン分光法)
ラマンスペクトルは分子または複合体系の振動の特徴を示す。その起源は分子と光線を含む光の粒子である光子との間の非弾性的な衝突にある。分子と光子の衝突はエネルギーの交換をもたらし、その結果エネルギーが変化し、これにより光子の波長が変化する。即ち、ラマンスペクトルは、対象分子に光子が入射されたときに発せられる、極めて波長の狭いスペクトル線であるため、光源としてはレーザー等が用いられる。各ラマン線の波長は入射光からの波数シフトにより表示され、これはラマン線と入射光の波長の逆数の間の差である。ラマンスペクトルは分子の振動状態を測定するものであり、これはその分子構造により決定される。
一般に、ラマンスペクトルピーク(cm-1)は±2cm-1の範囲内で誤差が生じ得るから、上記のラマンスペクトルピークの値は±2cm-1程度の範囲内の数値も含むものとして理解される必要がある。したがって、ラマンスペクトルにおけるラマンスペクトルピークが完全に一致する結晶だけでなく、ラマンスペクトルピークが±2cm-1程度の誤差で一致する結晶も本発明に含まれる。
【0039】
(示差走査熱量測定法(DSC))
DSCは、熱分析の主要な測定方法の一つで、原子・分子の集合体としての物質の熱的性質を測定する方法である。
DSCにより、医薬活性成分の温度または時間に係る熱量の変化を測定し、得られたデータを温度または時間に対してプロットすることにより示差走査熱量曲線が得られる。示差走査熱量曲線より、医薬活性成分が融解する際のオンセット温度、融解に伴う吸熱ピーク曲線の最大値およびエンタルピーに関する情報を得ることができる。
DSCについて、観察される温度は、温度変化速度ならびに用いる試料調製技法および特定の装置に依存し得ることが知られている。したがって、DSCにおける「融点」とは試料の調製技法の影響を受けにくいオンセット温度のことを指す。示差走査熱量曲線から得られるオンセット温度における誤差範囲はおよそ±2℃である。結晶の同一性の認定においては、融点のみならず全体的なパターンが重要であり、測定条件や測定機器によって多少は変化し得る。
【0040】
(示差熱熱重量同時測定法(TG/DTA))
TG/DTAは、熱分析の主要な測定方法の一つで、原子・分子の集合体としての物質の重量および熱的性質を測定する方法である。
TG/DTAは、医薬活性成分の温度または時間に係る重量および熱量の変化を測定する方法であり、得られたデータを温度または時間に対してプロットすることにより、TG(熱重量)およびDTA(示差熱)曲線が得られる。TG/DTA曲線より、医薬活性成分の分解、脱水、酸化、還元、昇華、蒸発に関する重量および熱量変化の情報を得ることができる。
TG/DTAについて、観察される温度、重量変化は、温度変化速度ならびに用いる試料調製技法および特定の装置に依存し得ることが知られている。したがって、TG/DTAにおける「融点」とは試料の調製技法の影響を受けにくいオンセット温度のことを指す。結晶の同一性の認定においては、融点のみならず全体的なパターンが重要であり、測定条件や測定機器によって多少は変化し得る。
【0041】
本発明に係る化合物は、コロナウイルス3CLプロテアーゼ阻害活性を有するため、コロナウイルス3CLプロテアーゼが関与する疾患の治療および/または予防剤として有用である。本発明において「治療剤および/または予防剤」という場合、症状改善剤も包含する。コロナウイルス3CLプロテアーゼが関与する疾患としては、ウイルス感染症が挙げられ、好ましくはコロナウイルス感染症が挙げられる。
一つの態様として、コロナウイルスとしては、ヒトに感染するコロナウイルスが挙げられる。ヒトに感染するコロナウイルスとしては、HCoV-229E、HCoV-NL63、HCoV-HKU1、HCoV-OC43、SARS-CoV、MERS-CoV、および/またはSARS-CoV-2が挙げられる。
一つの態様として、コロナウイルスとしては、アルファコロナウイルスおよび/またはベータコロナウイルス、より好ましくはベータコロナウイルスが挙げられる。
一つの態様として、アルファコロナウイルスとしては、HCoV-229EおよびHCoV-NL63が挙げられる。特に好ましくは、HCoV-229Eが挙げられる。
一つの態様として、ベータコロナウイルスとしては、HCoV-HKU1、HCoV-OC43、SARS-CoV、MERS-CoV、および/またはSARS-CoV-2が挙げられる。好ましくはHCoV-OC43またはSARS-CoV-2、特に好ましくはSARS-CoV-2が挙げられる。
一つの態様として、ベータコロナウイルスとしては、ベータコロナウイルスA系統(β-coronavirus lineage A)、ベータコロナウイルスB系統(β-coronavirus lineage B)、およびベータコロナウイルスC系統(β-coronavirus lineage C)が挙げられる。より好ましくは、ベータコロナウイルスA系統(β-coronavirus lineage A)、およびベータコロナウイルスB系統(β-coronavirus lineage B)、特に好ましくはベータコロナウイルスB系統(β-coronavirus lineage B)が挙げられる。
一つの態様として、ベータコロナウイルスとしては、サルベコウイルス亜属が挙げられる。
ベータコロナウイルスA系統(β-coronavirus lineage A)としては、例えばHCoV-HKU1およびHCoV-OC43、好ましくは、HCoV-OC43が挙げられる。ベータコロナウイルスB系統(β-coronavirus lineage B)としては、例えばSARS-CoVおよびSARS-CoV-2、好ましくはSARS-CoV-2が挙げられる。ベータコロナウイルスC系統(β-coronavirus lineage C)としては、好ましくはMERS-CoVが挙げられる。
一つの態様として、コロナウイルスとしては、HCoV-229E、HCoV-OC43、および/またはSARS-CoV-2、特に好ましくはSARS-CoV-2が挙げられる。
コロナウイルス感染症としては、HCoV-229E、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-HKU1、SARS-CoV、MERS-CoV、および/またはSARS-CoV-2による感染症が挙げられる。好ましくは、HCoV-229E、HCoV-OC43、および/またはSARS-CoV-2による感染症、特に好ましくは、SARS-CoV-2による感染症が挙げられる。
コロナウイルス感染症としては、特に好ましくは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が挙げられる。
【0042】
(本発明の化合物の製造法)
本発明に係る式(I)で示される化合物は、例えば、下記に示す一般的合成法によって製造することができる。抽出、精製等は、通常の有機化学の実験で行う処理を行えばよい。
本発明の化合物は、当該分野において公知の手法を参考にしながら製造することができる。例えば、WO2010092966、WO2012020749、WO2013089212、WO2014200078、WO2012020742およびWO2013118855を参考にして製造することができる。
【0043】
(A法)YがNであり、XがNRまたはOである場合
【化12】

(式中、AlkはC1-C3アルキルであり、Lgは脱離基であり、その他の記号は前記と同義である。)
(第1工程)
化合物(a-1)またはその塩酸塩もしくは臭素酸塩等を、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセタミド、N,N’-ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、THF等の溶媒中、DBU、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等の塩基(好ましくは、DBU)の存在下、-20℃~50℃、好ましくは-10℃~氷冷下で、イソシアネート(a-2)または1-カルバモイルイミダゾール(a-2’)と反応させる。続けて、反応混合物を、1,1’-カルボニルジイミダゾール、ホスゲン、トリホスゲン等のカルボニル化剤、およびDBU、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等の塩基(好ましくは、DBU)と、-20℃~50℃、好ましくは-10℃~氷冷下で、反応させることにより化合物(a-3)を製造することができる。
(第2工程)
化合物(a-3)をアセトニトリル、アセトン、DMF、DMSO等の溶媒中、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、N,N-ジイソプロピルエチルアミン等の塩基の存在下、50℃~加熱還流下、好ましくは加熱還流下で、化合物(a-4)と反応させることで、化合物(a-5)を製造することができる。
脱離基としては、例えば、ハロゲンおよび-OSO(C2t+1)(式中、tは1~4の整数)等が挙げられる。ハロゲンとしては、塩素、ヨウ素および臭素が好ましく、-OSO(C2t+1)基としては、-OTf基(トリフルオロメタンスルホン酸エステル)が好ましい。
(第3工程)
化合物(a-5)をNMP、DMF、DMA、DMSO、tert-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール等の溶媒中、酢酸等の酸の存在下または非存在下、60℃~150℃、好ましくは80℃~120℃で、化合物(a-6)または化合物(a-6’)と反応させることにより、化合物(I-a)で示される化合物を製造することができる。
【0044】
本発明に係る化合物は、コロナウイルス3CLプロテアーゼ阻害活性を有するため、ウイルス感染症の治療および/または予防剤として有用である。
さらに本発明化合物は、医薬としての有用性を備えており、好ましくは、下記のいずれか、または複数の優れた特徴を有している。
a)CYP酵素(例えば、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4等)に対する阻害作用が弱い。
b)高いバイオアベイラビリティー、適度なクリアランス等良好な薬物動態を示す。
c)代謝安定性が高い。
d)CYP酵素(例えば、CYP3A4)に対し、本明細書に記載する測定条件の濃度範囲内で不可逆的阻害作用を示さない。
e)変異原性を有さない。
f)心血管系のリスクが低い。
g)高い溶解性を示す。
h)タンパク質非結合率(fu値)が高い。
i)高いコロナウイルス3CLプロテアーゼ選択性を有している。
j)高いコロナウイルス増殖阻害活性を有している。例えば、ヒト血清(HS)またはヒト血清アルブミン(HSA)添加下において、高いコロナウイルス増殖阻害活性を有している。
コロナウイルス増殖阻害剤としては、例えば後述のCPE抑制効果確認試験(SARS-CoV-2)において、例えばEC50が10μM以下、好ましくは1μM以下、より好ましくは100nM以下である態様が挙げられる。
また、本発明に係る化合物の塩・結晶・複合体・共結晶は、医薬としての有用性を備えており、好ましくは、下記のいずれか、または複数の優れた特徴を有している。
bb)高いバイオアベイラビリティー、適度なクリアランス、高いAUC、高い最高血中濃度等、良好な薬物動態を示す。
gg)高い溶解性、高い化学安定性、低い吸湿性を示す。
【0045】
本発明の医薬組成物は、経口的、非経口的のいずれの方法でも投与することができる。非経口投与の方法としては、経皮、皮下、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、経粘膜、吸入、経鼻、点眼、点耳、膣内投与等が挙げられる。
【0046】
経口投与の場合は常法に従って、内用固形製剤(例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、フィルム剤等)、内用液剤(例えば、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤、シロップ剤、リモナーデ剤、酒精剤、芳香水剤、エキス剤、煎剤、チンキ剤等)等の通常用いられるいずれの剤型に調製して投与すればよい。錠剤は、糖衣錠、フィルムコーティング錠、腸溶性コーティング錠、徐放錠、トローチ錠、舌下錠、バッカル錠、チュアブル錠または口腔内崩壊錠であってもよく、散剤および顆粒剤はドライシロップであってもよく、カプセル剤は、ソフトカプセル剤、マイクロカプセル剤または徐放性カプセル剤であってもよい。
【0047】
非経口投与の場合は、注射剤、点滴剤、外用剤(例えば、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、エアゾール剤、吸入剤、ローション剤、注入剤、塗布剤、含嗽剤、浣腸剤、軟膏剤、硬膏剤、ゼリー剤、クリーム剤、貼付剤、パップ剤、外用散剤、坐剤等)等の通常用いられるいずれの剤型でも好適に投与することができる。注射剤は、O/W、W/O、O/W/O、W/O/W型等のエマルジョンであってもよい。
【0048】
本発明化合物の有効量にその剤型に適した賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等の各種医薬用添加剤を必要に応じて混合し、医薬組成物とすることができる。さらに、該医薬組成物は、本発明化合物の有効量、剤型および/または各種医薬用添加剤を適宜変更することにより、小児用、高齢者用、重症患者用または手術用の医薬組成物とすることもできる。例えば、小児用医薬組成物は、新生児(出生後4週未満)、乳児(出生後4週~1歳未満)幼児(1歳以上7歳未満)、小児(7歳以上15歳未満)若しくは15歳~18歳の患者に投与されうる。例えば、高齢者用医薬組成物は、65歳以上の患者に投与されうる。
【0049】
本発明の医薬組成物(例えば、式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形を含む医薬組成物)の投与量は、患者の年齢、体重、疾病の種類や程度、投与経路等を考慮した上で設定することが望ましいが、経口投与する場合、通常0.05~200mg/kg/日であり、好ましくは0.1~100mg/kg/日の範囲内である。非経口投与の場合には投与経路により大きく異なるが、通常0.005~200mg/kg/日であり、好ましくは0.01~100mg/kg/日の範囲内である。これを1日1回~数回に分けて投与すれば良い。
【0050】
本発明化合物は、該化合物の作用の増強または該化合物の投与量の低減等を目的として、例えば、他の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬(該治療薬としては、承認を受けた薬剤、および開発中または今後開発される薬剤を含む)(以下、併用薬剤と称する)と組み合わせて用いてもよい。この際、本発明化合物と併用薬剤の投与時期は限定されず、これらを投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。さらに、本発明化合物と併用薬剤とは、それぞれの活性成分を含む2種類以上の製剤として投与されてもよいし、それらの活性成分を含む単一の製剤として投与されてもよい。
【0051】
併用薬剤の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、本発明化合物と併用薬剤の配合比は、投与対象、投与ルート、対象疾患、症状、組み合わせ等により適宜選択することができる。例えば、投与対象がヒトである場合、本発明化合物1重量部に対し、併用薬剤を0.01~100重量部用いればよい。
【実施例
【0052】
以下に実施例および参考例、ならびに試験例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0053】
また、本明細書中で用いる略語は以下の意味を表す。
Boc:tert-ブトキシカルボニル
DBU:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン
DMA:N,N-ジメチルアセトアミド
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
DMSO:ジメチルスルホキシド
DTT:ジチオトレイトール
EDC:1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド
EDT:1,2-エタンジチオール
EDTA:エチレンジアミン四酢酸
FBS:ウシ胎児血清
HOBT:1-ヒドロキシベンゾトリアゾール
LHMDS:リチウムビス(トリメチルシリル)アミド
MEM:イーグル最小必須培地
NMP:N-メチルピロリドン
TFA:トリフルオロ酢酸
THF:テトラヒドロフラン
mM:mmol/L
μM:μmol/L
nM:nmol/L
【0054】
(化合物の同定方法)
各実施例で得られたNMR分析は400MHzで行い、DMSO-d、CDClを用いて測定した。また、NMRデータを示す場合は、測定した全てのピークを記載していない場合が存在する。
明細書中にRTとあるのは、LC/MS:液体クロマトグラフィー/質量分析でのリテンションタイムを表し、以下の条件で測定した。
(測定条件1)
カラム:ACQUITY UPLC(登録商標)BEH C18 (1.7μm i.d.2.1x50mm) (Waters)
流速:0.8mL/分
UV検出波長:254nm
移動相:[A]は0.1%ギ酸含有水溶液、[B]は0.1%ギ酸含有アセトニトリル溶液
グラジエント:3.5分間で5%-100%溶媒[B]のリニアグラジエントを行った後、0.5分間、100%溶媒[B]を維持した。
なお、明細書中、MS(m/z)との記載は、質量分析で観測された値を示す。
【0055】
(粉末X線回折パターンの測定)
日本薬局方の一般試験法に記載された粉末X線回折測定法に従い、各実施例で得られた結晶の粉末X線回折測定を行った。測定条件を以下に示す。
(装置)
リガク社製SmartLab
(操作方法)
測定法:反射法
使用波長:CuKα線
管電流:200mA
管電圧:45kV
試料プレート:アルミニウム
X線の入射角:2.5°
サンプリング幅:0.02°
検出器:HyPix-3000(2次元検出モード)
【0056】
(単結晶構造解析の測定と解析方法)
単結晶構造解析の測定条件および解析方法を以下に示す。
(装置)
リガク社製 XtaLAB P200 MM007
(測定条件)
測定温度:25℃
使用波長:CuKα線(λ=1.5418Å)
ソフト:CrysAlisPro 1.171.39.46e (Rigaku Oxford Diffraction, 2018)
(データ処理)
ソフト:CrysAlisPro 1.171.39.46e (Rigaku Oxford Diffraction, 2018)
データはローレンツ及び偏光補正、吸収補正を行った。
(結晶構造解析)
直接法プログラムShelXT(Sheldrick, G.M.,2015)を用いて位相決定を行い、精密化はShelXL(Sheldrick, G.M.,2015)を用いて、full-matrix最小二乗法を実施した。非水素原子の温度因子はすべて異方性で精密化を行った。水素原子はShelXLのデフォルトパラメータを用いて計算により導入し、riding atomとして取り扱った。全ての水素原子は、等方性パラメーターで精密化を行った。
図2の作図にはPLATON(Spek,1991)/ORTEP(Johnson,1976)を使用した。
【0057】
(ラマンスペクトルの測定)
各実施例で得られた結晶のラマンスペクトルの測定を行った。測定条件を以下に示す。
測定機器:RAMANTouch Vis2-NIR-SNU (ナノフォトン株式会社製)
測定方法:顕微レーザラマン分光法
レーザ波長:671nm
回折格子:600grooves/mm
検出器:CCD検出器
対物レンズ:50×(NA 0.80)
積算回数:3-10回
露光時間:1-10秒
【0058】
(示差走査熱量(DSC)の測定)
各実施例で得られた結晶のDSCの測定を行った。アルミニウムパンに試料約3mgを量り、クリンプして測定した。測定条件を以下に示す。なお、示差走査熱量(DSC)による測定は±2℃の範囲内で誤差が生じうる。
装置:TA Instrument Q1000/TA Instrument
測定温度範囲:0℃-295℃
昇温速度:10℃/分
雰囲気:N 50mL/分
【0059】
(TG/DTAデータの測定)
各実施例で得られた結晶約3mgを量り、アルミニウムパンにつめ、開放系にて測定した。測定条件は以下のとおりである。
(測定条件1)
装置:日立ハイテクノロジーズ TG/DTA STA7200RV
測定温度範囲:室温-400℃
昇温速度:10℃/分
【実施例1】
【0060】
化合物(I-0115)の合成
【化13】

工程1 化合物18の合成
化合物4(926mg、4.04mmol)、アセトニトリル(7.41mL)、炭酸カリウム(726mg、5.25mmol)および2,4,5-トリフルオロベンジルブロミド(1000mg、4.44mmol)を混合した。反応溶液を80℃で40分間攪拌し、放冷後、酢酸エチルで希釈した。不溶物を濾別後、ろ液を濃縮し、化合物18の粗生成物(1.51g、4.04mmol、収率:定量)を得た。
LC/MS(ESI):m/z=374、RT=2.54min、LC/MS測定条件1
【0061】
工程2 化合物19の合成
化合物18(1.51g、4.04mmol)およびTFA(3.02mL)を混合した。反応溶液を室温で4時間攪拌し、一晩静置した。TFAを減圧留去し、残渣にトルエンを加え共沸した。残渣にイソプロピルエーテルを加え懸濁後、ろ取し、化合物19(1.22g、3.84mmol、収率95%)を得た。
LC/MS(ESI):m/z=318、RT=1.68min、LC/MS測定条件1
【0062】
工程3 化合物20の合成
化合物19(200mg、0.63mmol)、DMF(1.8mL)、炭酸カリウム(261mg、1.89mmol)および3-(クロロメチル)-1-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール 塩酸塩(159mg、0.946mmol)を混合した。反応溶液を60℃で2時間攪拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えた。水層を酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過して濃縮した。残渣をイソプロピルエーテル、ヘキサン、酢酸エチルおよびクロロホルムの混合溶媒で懸濁し、ろ取した。残渣、DMF(1.8mL)、炭酸カリウム(261mg、1.89mmol)および3-(クロロメチル)-1-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール 塩酸塩(159mg、0.946mmol)を混合した。反応溶液を60℃で6時間攪拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えた。水層を酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過して濃縮した。残渣をイソプロピルエーテル、ヘキサン、酢酸エチルおよびクロロホルムの混合溶媒で懸濁してろ取し、化合物20(116mg、0.281mmol、収率45%)を得た。
LC/MS(ESI):m/z=413、RT=1.84min、LC/MS測定条件:1
【0063】
工程4 化合物(I-0115)の合成
化合物20(115mg、0.279mmol)、THF(2.30mL)および6-クロロ-2-メチル-2H-インダゾール-5-アミン(60.8mg、0.335mmol)を混合した。反応溶液に、LHMDS(558μL、0.558mmol)を0℃で滴下した。反応溶液を0℃で2時間半、室温で40分間攪拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えた。クロロホルムで抽出し、有機層を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール)で精製し、化合物(I-0115)(61.8mg、0.116mmol、収率42%)を得た。
1H-NMR(CDCl3)δ:7.96 (s, 1H), 7.82 (d, J = 2.5Hz, 2H), 7.48 (br s, 1H), 7.45-7.37 (m, 1H), 7.08 (s, 1H), 6.97-6.88 (m, 1H), 5.35 (s, 2H), 5.17 (s, 2H), 4.21 (s, 3H), 3.89 (s, 3H).
LC/MS(ESI):m/z=532、RT=1.70min、LC/MS測定条件1
【0064】
上記一般的合成法および実施例に記載の方法に準じて、以下の化合物を合成した。構造および物性(LC/MSデータ)を以下の表に示す。
表中にアミノ構造:
【化14】

で記載した、式(I)においてYがNであり、XがNHである化合物は、イミノ構造:
【化15】

を取ることもあり、イミノ構造で示した化合物もアミノ構造を取ることがある。
すなわち、同一の化合物でも、結晶化条件等により、イミノ構造を取る場合とアミノ構造を取る場合が存在し、塩や複合体を形成している場合においても、その塩や複合体のカウンター分子の種類により、イミノ構造を取る場合とアミノ構造を取る場合が存在し、同一カウンター分子であっても、結晶化条件等により、イミノ構造を取る場合とアミノ構造を取る場合が存在する。また、イミノ構造を取る化合物、その塩またはそれらの複合体と、アミノ構造を取る化合物、その塩またはそれらの複合体の混合物であることもある。
【0065】
【表1】
【実施例2】
【0066】
化合物(I-0115)1170mgにフマル酸 278mg(1.1eq)および酢酸エチル 5.85mLを加え、室温下で45分間攪拌した。固体をろ取し、乾燥することで、式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶(1369.4mg、94.6%)を得た。
【0067】
式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形の単結晶構造解析の結果を以下に示す。
R1 (I>2.00s(I))は0.0470であり、最終の差フーリエから電子密度の欠如も誤置もないことを確認した。
結晶学的データを表2に示す。
【0068】
【表2】

ここで、Volumeは単位格子体積、Zは単位格子中の分子数を意味する。
【0069】
また、非水素原子の原子座標を表3~表4に示す。ここで、U(eq)とは、等価等方性温度因子を意味する。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
次に、水素原子の原子座標を表5に示す。ここで、U(iso)とは、等方性温度因子を意味する。また、表5の水素原子の番号は、結合している非水素原子の番号に関連して付けた。
【0073】
【表5】
【0074】
さらに、原子間結合距離(単位:オングストローム)を表6に示す。
【0075】
【表6】
【0076】
式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形は、非対称単位中に、式(I-B)で示される化合物が1分子存在していた。式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形の非対称単位中の構造を、図2に示す。
なお、表3~表4および表6における非水素原子の番号は、それぞれ図2に記載された番号に対応している。
【0077】
表6に記載の通り、N10-C9の結合距離は約1.26Åを示し、N16-C9の結合距離は約1.37Åを示した。
N10-C9の結合距離(約1.26Å)は、N16-C9の結合距離(約1.37Å)よりも短いため、フマル酸共結晶I形の式(I-B)で示される化合物は、イミノ構造:
【化16】

であると同定した。
また、式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶の粉末X線回折の結果を示す。
粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ):7.8±0.2°、9.5±0.2°、10.1±0.2°、10.9±0.2°、13.8±0.2°、14.7±0.2°、18.6±0.2°、22.6±0.2°、23.5±0.2°および24.6±0.2°にピークが認められた。
上記粉末X線回折ピークにおいて、回折角度(2θ):9.5±0.2°、10.9±0.2°、18.6±0.2°、23.5±0.2°および24.6±0.2°のピークが式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶として特に特徴的である。
【0078】
式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶のラマンスペクトルの結果を図3に示す。
637.3cm-1±2cm-1、676.3cm-1±2cm-1、688.8cm-1±2cm-1、748.0cm-1±2cm-1、758.1cm-1±2cm-1、1029.3cm-1±2cm-1、1114.4cm-1±2cm-1、1281.3cm-1±2cm-1、1332.1cm-1±2cm-1、1374.4cm-1±2cm-1、1456.0cm-1±2cm-1、1515.5cm-1±2cm-1、1636.0cm-1±2cm-1、1665.7cm-1±2cm-1、1715.7cm-1±2cm-1、1739.1cm-1±2cm-1、2951.2cm-1±2cm-1、3068.3cm-1±2cm-1および3126.2cm-1±2cm-1に主なラマンスペクトルピークが認められた。
【0079】
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶は、676.3cm-1±2cm-1、748.0cm-1±2cm-1、1029.3cm-1±2cm-1、1374.4cm-1±2cm-1、1515.5cm-1±2cm-1、1665.7cm-1±2cm-1、1715.7cm-1±2cm-1および1739.1cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する。
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶は、676.3cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する。
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶は、748.0cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する。
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶は、1029.3cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する。
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶は、1374.4cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する。
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶は、1515.5cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する。
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶は、1665.7cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する。
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶は、1715.7cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する。
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶は、1739.1cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する。
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶は、676.3cm-1±2cm-1のラマンスペクトルピーク、748.0cm-1±2cm-1のラマンスペクトルピーク、1029.3cm-1±2cm-1のラマンスペクトルピーク、1374.4cm-1±2cm-1のラマンスペクトルピーク、1515.5cm-1±2cm-1のラマンスペクトルピーク、1665.7cm-1±2cm-1のラマンスペクトルピーク、1715.7cm-1±2cm-1および1739.1cm-1±2cm-1のラマンスペクトルピークからなる群から選択される1以上のラマンスペクトルピークを有する。
【0080】
式(I-B)で示される化合物のフマル酸共結晶I形結晶のDSC分析結果を図4に示す。オンセット温度(吸熱ピーク)は約272℃を示した。
【実施例3】
【0081】
化合物(I-0115)200mgに1mol/L水酸化カリウム水溶液395μL(1.05eq)およびアセトニトリル2mLを加え、溶媒乾固した。酢酸エチルを1mL加え、60℃で10分攪拌後、25℃で終夜攪拌した。固体をろ取し、乾燥することで、式(I-B)で示される化合物のカリウム塩I形結晶を得た。式(I-B)で示される化合物のカリウム塩I形結晶については、分子構造(アミノ体/イミノ体)は同定していない。
【0082】
式(I-B)で示される化合物のカリウム塩I形結晶の粉末X線回折の結果を図5に示す。
粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ):7.7±0.2°、8.1±0.2°、12.6±0.2°、16.7±0.2°、18.5±0.2°、19.4±0.2°、20.7±0.2°、22.0±0.2°、23.7±0.2°および25.3±0.2°にピークが認められた。
上記粉末X線回折ピークにおいて、回折角度(2θ):8.1±0.2°、16.7±0.2°、20.7±0.2°、22.0±0.2°および25.3±0.2°のピークが式(I-B)で示される化合物のカリウム塩I形結晶として特に特徴的である。
【0083】
式(I-B)で示される化合物のカリウム塩I形結晶のラマンスペクトルの結果を図6に示す。
638.4cm-1±2cm-1、676.3cm-1±2cm-1、724.1cm-1±2cm-1、749.1cm-1±2cm-1、876.9cm-1±2cm-1、1008.7cm-1±2cm-1、1105.9cm-1±2cm-1、1294.8cm-1±2cm-1、1363.1cm-1±2cm-1、1409.2cm-1±2cm-1、1457.0cm-1±2cm-1、1506.4cm-1±2cm-1、1526.5cm-1±2cm-1、1577.4cm-1±2cm-1、1624.1cm-1±2cm-1、1688.3cm-1±2cm-1、2952.0cm-1±2cm-1、2980.5cm-1±2cm-1、3073.7cm-1±2cm-1および3121.6cm-1±2cm-1に主なラマンスペクトルピークが認められた。
【0084】
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物のカリウム塩I形結晶は、749.1cm-1±2cm-1、1008.7cm-1±2cm-1、1363.1cm-1±2cm-1、1506.4cm-1±2cm-1、1577.4cm-1±2cm-1および1624.1cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する。
【実施例4】
【0085】
化合物(I-0115)190mgにコハク酸46.4mg(1.1eq)およびアセトニトリル3.8mLを加え、室温下で1時間攪拌した。固体をろ取し、乾燥することで、式(I-B)で示される化合物のコハク酸共結晶I形を得た。式(I-B)で示される化合物のコハク酸共結晶I形については、分子構造(アミノ体/イミノ体)は同定していない。
【0086】
式(I-B)で示される化合物のコハク酸共結晶I形の粉末X線回折の結果を図7に示す。
粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ):9.5±0.2°、10.9±0.2°、11.3±0.2°、13.4±0.2°、14.4±0.2°、18.7±0.2°、19.4±0.2°、22.6±0.2°、23.4±0.2°および24.4±0.2°にピークが認められた。
上記粉末X線回折ピークにおいて、回折角度(2θ):10.9±0.2°、18.7±0.2°、22.6±0.2°、23.4±0.2°および24.4±0.2°のピークが式(I-B)で示される化合物のコハク酸共結晶I形として特に特徴的である。
【0087】
式(I-B)で示される化合物のコハク酸共結晶I形のラマンスペクトルの結果を図8に示す。
631.6cm-1±2cm-1、676.4cm-1±2cm-1、748.1cm-1±2cm-1、812.3cm-1±2cm-1、1025.2cm-1±2cm-1、1114.6cm-1±2cm-1、1229.2cm-1±2cm-1、1331.3cm-1±2cm-1、1374.6cm-1±2cm-1、1515.7cm-1±2cm-1、1636.3cm-1±2cm-1、1665.0cm-1±2cm-1、1712.1cm-1±2cm-1、1737.5cm-1±2cm-1、2953.3cm-1±2cm-1、2982.6cm-1±2cm-1、3069.5cm-1±2cm-1、および3127.5cm-1±2cm-1に主なラマンスペクトルピークが認められた。
【0088】
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物のコハク酸共結晶I形は、676.4cm-1±2cm-1、748.1cm-1±2cm-1、1025.2cm-1±2cm-1、1374.6cm-1±2cm-1、1515.7cm-1±2cm-1、および1665.0cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する。
【実施例5】
【0089】
化合物(I-0115)150mgに酢酸エチル750μLを加え、60℃で終夜攪拌した。固体をろ取し、乾燥することで、式(I-B)で示される化合物の無水物I形結晶を得た。式(I-B)で示される化合物の無水物I形結晶については、分子構造(アミノ体/イミノ体)は同定していない。
【0090】
式(I-B)で示される化合物の無水物I形結晶の粉末X線回折の結果を図9に示す。
粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ):6.6±0.2°、9.6±0.2°、12.2±0.2°、13.2±0.2°、16.2±0.2°、17.5±0.2°、19.8±0.2°、23.3±0.2°、24.5±0.2°、および26.1±0.2°にピークが認められた。
上記粉末X線回折ピークにおいて、回折角度(2θ):6.6±0.2°、9.6±0.2°、13.2±0.2°、17.5±0.2°、および19.8±0.2°のピークが式(I-B)で示される化合物の無水物I形結晶として特に特徴的である。
【0091】
式(I-B)で示される化合物の無水物I形結晶のラマンスペクトルの結果を図10に示す。
630.4cm-1±2cm-1、672.8cm-1±2cm-1、744.6cm-1±2cm-1、805.4cm-1±2cm-1、997.8cm-1±2cm-1、1020.7cm-1±2cm-1、1297.9cm-1±2cm-1、1335.2cm-1±2cm-1、1362.0cm-1±2cm-1、1461.0cm-1±2cm-1、1505.4cm-1±2cm-1、1527.5cm-1±2cm-1、1629.1cm-1±2cm-1、1645.9cm-1±2cm-1、1755.7cm-1±2cm-1、2943.3cm-1±2cm-1、2982.1cm-1±2cm-1、3060.5cm-1±2cm-1、3104.7cm-1±2cm-1、および3123.2cm-1±2cm-1に主なラマンスペクトルピークが認められた。
【0092】
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物の無水物I形結晶は、630.4cm-1±2cm-1、744.6cm-1±2cm-1、997.8cm-1±2cm-1、1362.0cm-1±2cm-1、1461.0cm-1±2cm-1、1505.4cm-1±2cm-1、および1755.7cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する。
【実施例6】
【0093】
化合物(I-0115)95mgに1mol/L水酸化ナトリウム水溶液187μL(1.05eq)およびアセトニトリル1mLを加え、溶媒乾固した。得られた固体5mgにアセトニトリル100μLを加え、25℃で終夜攪拌した。固体をろ取し、乾燥することで、式(I-B)で示される化合物のナトリウム塩I形結晶を得た。式(I-B)で示される化合物のナトリウム塩I形結晶については、分子構造(アミノ体/イミノ体)は同定していない。
【0094】
式(I-B)で示される化合物のナトリウム塩I形結晶の粉末X線回折の結果を図11に示す。
粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ):6.6±0.2°、8.1±0.2°、10.9±0.2°、11.6±0.2°、13.2±0.2°、16.0±0.2°、22.1±0.2°、23.4±0.2°、26.6±0.2°、および28.9±0.2°にピークが認められた。
上記粉末X線回折ピークにおいて、回折角度(2θ):8.1±0.2°、10.9±0.2°、13.2±0.2°、23.4±0.2°、および26.6±0.2°のピークが式(I-B)で示される化合物のナトリウム塩I形結晶として特に特徴的である。
【0095】
式(I-B)で示される化合物のナトリウム塩I形結晶のラマンスペクトルの結果を図12に示す。
638.4cm-1±2cm-1、675.1cm-1±2cm-1、746.8cm-1±2cm-1、1013.0cm-1±2cm-1、1106.9cm-1±2cm-1、1126.2cm-1±2cm-1、1299.0cm-1±2cm-1、1367.2cm-1±2cm-1、1407.1cm-1±2cm-1、1457.0cm-1±2cm-1、1504.4cm-1±2cm-1、1526.5cm-1±2cm-1、1581.3cm-1±2cm-1、1629.1cm-1±2cm-1、1711.8cm-1±2cm-1、2959.1cm-1±2cm-1、3062.0cm-1±2cm-1、および3125.5cm-1±2cm-1に主なラマンスペクトルピークが認められた。
【0096】
一つの実施形態において、式(I-B)で示される化合物のナトリウム塩I形結晶は、746.8cm-1±2cm-1、1013.0cm-1±2cm-1、1367.2cm-1±2cm-1、1504.4cm-1±2cm-1、1526.5cm-1±2cm-1、および1581.3cm-1±2cm-1にラマンスペクトルピークを有する。
【0097】
式(I-B)で示される化合物のナトリウム塩I形結晶の示差熱熱重量同時測定(TG/DTA)分析結果を図13に示す。この結果、約72℃から約105℃に、吸熱ピークを伴う、8.1%の重量減少を確認した。
以上の測定結果から、式(I-B)で示される化合物のナトリウム塩I型結晶は、2.5~3水相当の水を含む結晶であると考えられる。
【0098】
以下に、本発明化合物の生物試験例を記載する。
本発明に係る式(I)で示される化合物は、コロナウイルス3CLプロテアーゼ阻害作用を有し、コロナウイルス3CLプロテアーゼを阻害するものであればよい。
具体的には、以下に記載する評価方法において、IC50は50μM以下が好ましく、より好ましくは、1μM以下、さらにより好ましくは100nM以下である。
【0099】
試験例1:human TMPRSS2発現Vero E6細胞(Vero E6/TMPRSS2細胞)を用いたCytopathic effect(CPE)抑制効果確認試験
<操作手順>
・被験試料の希釈、分注
予め被験試料をDMSOで適度な濃度に希釈し、2~5倍段階希釈系列を作製後、384ウェルプレートに分注する。
・細胞およびSARS-CoV-2の希釈、分注
VeroE6/TMPRSS2細胞(JCRB1819、5×10cells/well)とSARS-CoV-2(100-300TCID50/well)を培地(MEM、2%FBS、ペニシリン-ストレプトマイシン)で混合し、被験試料が入ったウェルに分注した後、COインキュベーターで3日間培養する。
・CellTiter-Glo(登録商標)2.0の分注および発光シグナルの測定
3日間培養したプレートを室温に戻した後、CellTiter-Glo(登録商標)2.0を各ウェルに分注し、プレートミキサーで混和する。一定時間置いた後、プレートリーダーで発光シグナル(Lum)を測定する。
【0100】
<各測定項目値の算出>
・50% SARS-CoV-2感染細胞死阻害濃度(EC50)算出
xを化合物濃度の対数値、yを%Efficacyとしたとき、以下のLogistic回帰式で阻害曲線を近似し、y=50(%)を代入したときのxの値をEC50として算出する。

y = min + (max - min)/{1 + (X50/x) ^Hill}

%Efficacy = {(Sample - virus control) / (cell control - virus control)} * 100%
cell control: the average of Lum of cell control wells
virus control: the average of Lum of virus control wells

min:y軸下限値、max:y軸上限値、X50:変曲点のx座標、Hill:minとmaxの中間点でのカーブの傾き
【0101】
本発明化合物を本質的に上記のとおり試験した。結果を以下に示す。
【0102】
化合物I-0115:0.328μM
【0103】
[参考例1]
国際公開第2012/020749号(特許文献1)の化合物I-0679、I-0683、I-0685およびI-1603、国際公開第2013/089212号(特許文献2)の化合物I-575およびI-580、および国際公開第2010/092966号(特許文献3)の化合物I-066を、本質的に試験例1の通り試験した。結果を以下の表に示す。
【0104】
【表7】
【0105】
【表8】
【0106】
国際公開第2012/020749号(特許文献1)の化合物I-0679、I-0683、I-0685およびI-1603、国際公開第2013/089212号(特許文献2)の化合物I-575およびI-580、および国際公開第2010/092966号(特許文献3)の化合物I-066は、50μMまでの濃度で、コロナウイルス増殖阻害活性を示さなかった。
【0107】
試験例2:SARS-CoV-2 3CLプロテアーゼに対する阻害活性試験
<材料>
・市販のRecombinant SARS-CoV-2 3CL Protease
・市販の基質ペプチド
Dabcyl-Lys-Thr-Ser-Ala-Val-Leu-Gln-Ser-Gly-Phe-Arg-Lys-Met-Glu(Edans)-NH2(配列番号:1)
・Internal Standardペプチド
Dabcyl-Lys-Thr-Ser-Ala-Val-Leu(13C6,15N)-Gln(配列番号:2)
Dabcyl-Lys-Thr-Ser-Ala-Val-Leu(13C6,15N)-Glnは、文献(Atherton, E.; Sheppard, R. C.、“In Solid Phase Peptide Synthesis, A Practical Approach”、IRL Press at Oxford University Pres、1989.およびBioorg. Med. Chem.、5巻、9号、1997年、1883-1891頁、等)を参考に合成できる。以下に一例を示す。
Rinkアミド樹脂を用いて、Fmoc固相合成によって、H-Lys-Thr-Ser-Ala-Val-Leu(13C6,15N)-Glu(resin)-OαOtBu(Lys側鎖はBoc保護、Thr側鎖はtert-ブチル基で保護、Ser側鎖はtert-ブチル基で保護、GluのC末端OHはtert-ブチル基で保護されており、Glu側鎖のカルボン酸を樹脂に縮合)を合成する。N末端Dabcyl基の修飾は4-ジメチルアミノアゾベンゼン-4’-カルボン酸(Dabcyl-OH)をEDC/HOBTを用いて樹脂上で縮合する。最終脱保護、および樹脂からの切り出しはTFA/EDT=95:5で処理することで行う。その後、逆相HPLCによって精製する。
・RapidFire Cartridge C4 typeA
<操作手順>
・アッセイバッファーの調製
本試験では、20mM Tris-HCl、100mM 塩化ナトリウム、1mM EDTA、10mM DTT、0.01% BSAからなるアッセイバッファーを使用する。IC50値が10nM以下の化合物については、20mM Tris-HCl、1mM EDTA、10mM DTT、0.01% BSAからなるアッセイバッファーを使用する。
・被験試料の希釈、分注
予め被験試料をDMSOで適度な濃度に希釈し、2~5倍段階希釈系列を作製後、384ウェルプレートに分注する。
・酵素と基質の添加、酵素反応
準備した化合物プレートに、8μMの基質、及び6または0.6nMの酵素溶液を添加し、室温で3~5時間インキュベーションを行う。その後、反応停止液(0.067μM Internal Standard、0.1% ギ酸、10または25% アセトニトリル)を加え酵素反応を停止させる。
・反応産物の測定
反応完了したプレートはRapidFire System 360及び質量分析器(Agilent、6550 iFunnel Q-TOF)、またはRapid Fire System 365及び質量分析器(Agilent、 6495C Triple Quadrupole)を用いて測定する。測定時の移動相としてA溶液(75% イソプロパノール、15% アセトニトリル、5mM ギ酸アンモニウム)とB溶液(0.01% トリフルオロ酢酸、0.09% ギ酸)を用いる。
質量分析器によって検出された反応産物は、RapidFire Integratorまたは同等の解析が可能なプログラムを用いて算出しProduct area値とする。また、同時に検出されたInternal Standardも算出しInternal Standard area値とする。
<各測定項目値の算出>
・P/ISの算出
前項目で得られたarea値を下記の式によって計算し、P/ISを算出する。
P/IS= Product area値/ Internal Standard area値
・50% SARS-CoV-2 3CLプロテアーゼ阻害濃度(IC50)算出
xを化合物濃度の対数値、yを%Inhibitionとしたとき、以下のLogistic回帰式で阻害曲線を近似し、y=50(%)を代入したときのxの値をIC50として算出する。

y = min + (max - min)/{1 + (X50/x) ^Hill}

%Inhibition = {1-(Sample - Control(-)) / Control(+)-Control(-))} * 100

Control(-):the average of P/IS of enzyme inhibited condition wells
Control(+):the average of P/IS of DMSO control wells
min:y軸下限値、max:y軸上限値、X50:変曲点のx座標、Hill:minとmaxの中間点でのカーブの傾き
【0108】
本発明化合物を本質的に上記のとおり試験した。結果を以下に示す。
【0109】
化合物I-0115:0.010μM
【0110】
以下に示す製剤例は例示にすぎないものであり、発明の範囲を何ら限定することを意図するものではない。
本発明の化合物は、任意の従来の経路により、特に、経腸、例えば、経口で、例えば、錠剤またはカプセル剤の形態で、または非経口で、例えば注射液剤または懸濁剤の形態で、局所で、例えば、ローション剤、ゲル剤、軟膏剤またはクリーム剤の形態で、または経鼻形態または座剤形態で医薬組成物として投与することができる。少なくとも1種の薬学的に許容される担体または希釈剤と一緒にして、遊離形態または薬学的に許容される塩の形態の本発明の化合物を含む医薬組成物は、従来の方法で、混合、造粒またはコーティング法によって製造することができる。例えば、経口用組成物としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等および有効成分等を含有する錠剤、顆粒剤、カプセル剤とすることができる。また、注射用組成物としては、溶液剤または懸濁剤とすることができ、滅菌されていてもよく、また、保存剤、安定化剤、緩衝化剤等を含有してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明に係る化合物は、コロナウイルス3CLプロテアーゼに対する阻害作用を有し、コロナウイルス3CLプロテアーゼが関与する疾患または状態の治療剤および/または予防剤として有用であると考えられる。
【要約】
本発明は、コロナウイルス3CLプロテアーゼ阻害活性を示す化合物またはその製薬上許容される塩およびそれらを含有する医薬組成物を提供する。ならびに、医薬原体として有用な結晶およびそれらを含有する医薬組成物を提供する。
式:

で示される化合物またはその製薬上許容される塩。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
0007105430000001.app