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  • 特許-デニム生地およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】デニム生地およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/40 20210101AFI20220715BHJP
   A41D 31/14 20190101ALI20220715BHJP
   A41D 31/18 20190101ALI20220715BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20220715BHJP
   D02G 3/26 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
D03D15/00 C
A41D31/00 501C
A41D31/00 501E
A41D31/00 502B
A41D31/00 503B
D02G3/26
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018095512
(22)【出願日】2018-05-17
(65)【公開番号】P2019199669
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2019-11-29
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】593029075
【氏名又は名称】株式会社アズ
(74)【代理人】
【識別番号】100123021
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 元幸
(72)【発明者】
【氏名】武村 桂佑
(72)【発明者】
【氏名】野原 茂
【合議体】
【審判長】久保 克彦
【審判官】柳本 幸雄
【審判官】稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-231594(JP,A)
【文献】特開2005-146472(JP,A)
【文献】特開2003-138452(JP,A)
【文献】特開平5-287637(JP,A)
【文献】特開平7-126950(JP,A)
【文献】特許第6090894(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D15/00
D02G3/26
A41D31/00
A41D31/18
A41D31/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸と緯糸とで構成される斜文織のデニム用生地であって、
前記経糸および前記緯糸は、天然セルロース系繊維の単一素材の単糸で構成され、
前記経糸には強撚糸が用いられず、
前記緯糸にのみ追撚が加えられ、撚り係数が7.0以上の強撚糸が用いられている
ことを特徴とするデニム用生地。
【請求項2】
前記緯糸は、30/1~40/1番手の綿糸である
ことを特徴とする請求項1記載のデニム用生地。
【請求項3】
前記緯糸の織密度は、50~60本/1インチである
ことを特徴とする請求項1又は2記載のデニム用生地。
【請求項4】
経糸と緯糸とで構成される斜文織のデニム用生地の製造方法であって、
前記経糸および前記緯糸は、天然セルロース系繊維の単一素材の単糸で構成され、
原糸を先染めした後に緯糸にのみ追撚を加えて緯糸を強撚糸とする追撚工程を含む
ことを特徴とするデニム用生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛に関し、特にデニム用の生地およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジーンズ用のデニム生地は幌地を起源としており、丈夫でゴワゴワとした風合いに特徴がある。そもそもは重労働に従事する者の作業服として設計され、そのため着用耐久性が求められるものであったが、我が国のみならず世界中で普段着として着用されるに至っている。デニム生地は植物性繊維の織物が多く、洗濯を繰り返すにつれて生地の使用感を増すことが好まれる傾向にあるアイテムである。このような使用感を醸し出すための手法として、ゴムボールや石・砂を混ぜて一緒に洗濯するストーンウォッシュ加工や、酵素を利用した穏やかな洗濯をするバイオウォッシュ加工などの加工が施されることがある。また、ナチュラルインディゴ(藍染)や化学染料を使用したピュアインディゴといった染色加工も種々提案がなされており、デニム生地は独特の世界観で商品群が展開されているといえる。
【0003】
近年においては、生地に伸縮性を持たせて、風合いの硬さや着用時の動きやすさを改善した商品が数多く上市されるようになっている。このようなデニム生地に伸縮性を持たせる手法としては、織物を構成する経糸や緯糸に合成繊維(ポリエステル複合糸やポリエステル仮撚り加工糸、ポリウレタン弾性糸)を利用することが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3915398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、伸縮性を有する合成繊維を用いると、光や薬品等の化学物質(酸性雨・アルカリ性雨等を含む。)には極めて脆弱であり、対候性に問題があるとともに、着用の耐久性にも問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる問題点に鑑みなされたものであり、適度な伸縮性と通気性に富み、丈夫で軽量かつ着心地の良いデニム用の生地を提供することを目的とする。また、このようなデニム用の生地の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明に係るデニム生地は、経糸と緯糸とで構成される斜文織のデニム用生地であって、前記経糸は、天然セルロース系繊維であり、前記緯糸は、撚り係数が7.0以上の強撚糸の天然セルロース系繊維であることを特徴とする。
【0008】
これによれば、緯糸に強撚糸を用いて適度な伸縮性を得るとともに、合成繊維を使用しないで天然セルロース系繊維だけで生地を構成するので、通気性に富み、丈夫で軽量、かつ、着心地の良いデニム生地が実現される。
【0009】
ここで、前記緯糸は、30/1~40/1番手の綿糸であるのが好ましく、前記緯糸の織密度は、50~60本/1インチであるのが好ましい。
【0010】
これによれば、緯糸の太さと織密度とを好適にして良好な伸縮性が得られる。
【0011】
また本発明に係るデニム生地の製造方法は、経糸と緯糸とで構成される斜文織のデニム用生地の製造方法であって、原糸を先染めした後に緯糸へ追撚を加えて強撚糸とする追撚工程を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明に係るデニム生地によれば、緯糸に強撚糸を用いているので適度な伸縮性を得ることができ、また、合成繊維を一切使用せず綿糸等の天然セルロース系繊維だけで生地を構成しているので、通気性に富み、丈夫でありながら軽量で、かつ、さらさらとした柔らかな風合いの着心地の良いデニム生地が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係るデニム生地の組織図を示す図である。
図2】番手と伸長率の関係を示すグラフである。
図3】番手と伸長回復率の関係を示すグラフである。
図4】緯密度と伸長率の関係を示すグラフである。
図5】緯密度と伸長回復率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るデニム生地、および、その製造方法について説明する。
【0015】
本実施形態のデニム生地は、綿や麻などの植物繊維である天然セルロース系繊維を経糸と緯糸として用い、図1に示す3/1斜文織とした生地である。図1は本実施形態のデニム生地の組織図を示す図である。経糸には、予め染色した色糸(例えば、藍色糸)で、30/1~40/1番手の太さのものを用いる。緯糸には、予め染色した色糸および白色糸の2本を、それぞれ30/1~40/1番手の太さで用いる。従来のデニム生地を構成する糸は、10/1番手程度の太めのものが用いられるところ、本実施形態のデニム生地では、30/1~40/1番手の細めの糸を用いている。
【0016】
本実施形態のデニム生地を構成する緯糸は、強撚糸である。緯糸の強撚(ねじり)トルクを利用して生地の幅方向に対して適度なストレッチ性(伸縮性)を得るものである。すなわち、2本の強撚糸を緯糸に用いることで、通常の撚り戻りよりさらなるトルク作用が働くので、良好なストレッチ性を得ることができる。なお、素材の安定性を維持するために幅方向にのみストレッチ性を持たせるのが好ましく、その結果として緯糸のみに強撚糸を用いることにしている。
【0017】
ここで用いる強撚糸は撚り係数が7.0以上のものである。撚り係数はストレッチ性に影響を与える。下記の表1は、一般的に知られている綿糸の糸番手と撚り数の関係を示すものである。
【0018】
【表1】
【0019】
撚り数は、番手の平方根に撚り係数を乗じた値(番手の平方根で撚り数を除した値が撚り係数)である。表1では、撚り係数が3.2を甘撚り(ニット普通糸)、撚り係数が3.6を標準(織糸)、撚り係数が7.0以上を強撚(強撚糸)として撚り数を算出している。
【0020】
本実施形態のデニム生地は、上述の通り、それぞれ30/1~40/1番手の太さの緯糸を用い、50~60本/インチの織密度(打ち込み本数)の緯糸で構成されている。緯糸の番手(太さ)と織密度もストレッチ性に影響を与える。ストレッチ性の評価尺度として、伸長率と伸長回復率とを用いて説明する。
【0021】
下記の表2は、番手と糸の伸長率との相関関係を示すものである。図2は、表2をグラフ化したものである。また、下記の表3は番手と糸の伸長回復率との相関関係を示すものである。図3は、表3をグラフ化したものである。
【0022】
【表2】
【0023】
表2および図2からは糸番手が大きくなる(糸が細くなる)にしたがって、伸長率が増していくことが分かる。また、表3および図3からは伸長率と反比例して、糸が細くなるにしたがって、伸長回復率が低下していく傾向が窺える。
【0024】
【表3】
【0025】
【表4】
【0026】
【表5】
【0027】
表4および図4からは緯糸の織密度、つまり、1インチあたりの打ち込み本数が増すにつれて、伸長率が低下していくことが分かる。また、表5および図5からは、織密度の増加と比例した伸長回復率が、打ち込み本数の60本をピークに減少に転じていることが分かる。
【0028】
以上のことから、緯糸の糸番手は30/1~40/1番手のものが伸長率及び伸長回復率の点で適しているといえ、30/1番手よりも太くなれば伸長率が低下してしまうことで適さず、また40/1番手よりも細い糸にすると伸長率は良好でもその伸長回復率が低下してしまうので適さない。また、緯糸の織密度(1インチあたりの打ち込み本数)も50本以上60本以下が適しており、60本を超えると伸長率および伸長回復率の低下を招くことになってしまうので適さない。
【0029】
なお、本実施形態のデニム生地を用いた衣類等を着用した後はその伸長率と伸長回復率が鈍化することも想定される。しかしながら、衣類であるからも当然の如く着用後には必ず洗濯が行われる。このときアルカリ洗剤(アルカリ水溶液)による湿潤条件で強撚糸による解撚トルクで強い収縮力が働き、生地が最も安定な状態まで縮むので、一度糸が伸び切ってしまっても(生地が巾方向に伸び切っても)、湿潤させることにより再びストレッチ性が回復することになる。つまり、程良いストレッチ性が洗濯するたびに元に戻り伸縮状態が着用前と同様に維持継続していくことが可能となっている。
【0030】
本実施形態のデニム生地は、製造工程においても有用性を発揮する。すなわち、天然セルロース系繊維の単一素材であるため、染色工程において複合糸のための分散染料や、カチオン染料、酸性染料等を使用しなくて済むので煩雑な染色工程を省略することができる。具体的な製造手順は、原糸を先染めした後に緯糸へ追撚を加え、撚り戻り防止のための真空ヒートセットを施す。その後は、従来のデニム生地の製造方法と共通する(スキュー加工やサンフォライズ加工など)ので説明は省略する。
【0031】
(実施例)
40/1番手で撚り数25回/インチの経糸(紺)と、30/1番手で撚り数45回/インチの緯糸2本(紺と白)を使用して、経糸の打ち込み本数を128本/インチ、緯糸の打ち込み本数を52本/インチとし、経糸としては一般的な織物用糸を採用し、緯糸としては撚り係数が7.0以上の強撚糸を採用して、織組織が3/1斜文織のデニム生地を得た(表6)。そのデニム生地の伸長率と伸長回復率を表7に示す。なお、本検査の確認は、一般財団法人ボーケン品質評価機構によるものである。
【0032】
【表6】
【0033】
【表7】
【0034】
このように、経方向の伸長率が約3%(2.9%)で、緯方向の伸長率が約27%(26.6%)のデニム生地が得られた。本実施例のデニム生地を用いた衣類と従来のデニム生地を用いた衣類とを官能評価で相対比較すると、下記表8のようになる。
【0035】
【表8】
【0036】
以上説明したように、本実施形態のデニム生地によれば、丈夫で耐久性に優れるものの、吸湿性や通気性に劣り、生地が重くてゴワゴワとした風合いが残るという従来のデニム生地の特徴を快適にするため、合成繊維を一切使用しないで綿糸等の天然セルロース系繊維のみを使用し、適度なストレッチ性を得て、通気性に富み、丈夫でありながら軽量で、かつ、さらさらとした柔らかな風合いの着心地の良いデニム生地が得られる。
【0037】
以上、本発明に係るデニム生地について、実施の形態に基づいて説明したが本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の目的を達成でき、かつ発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々設計変更が可能であり、それらも全て本発明の範囲内に包含されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係るデニム生地は、アウター用途としてのジーンズ用デニム生地として有用であり、ストレッチ性を備えた生地であることから中衣・インナー用途にも適している。
図1
図2
図3
図4
図5