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特許7106629親油性大環状配位子、その錯体、及びその医学的使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】親油性大環状配位子、その錯体、及びその医学的使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 257/02 20060101AFI20220719BHJP
   A61K 33/244 20190101ALI20220719BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220719BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20220719BHJP
   A61K 51/04 20060101ALI20220719BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220719BHJP
   C07F 5/00 20060101ALN20220719BHJP
【FI】
C07D257/02 CSP
A61K33/244
A61K47/14
A61K47/44
A61K51/04 100
A61K51/04 200
A61P35/00
C07F5/00 G
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020502447
(86)(22)【出願日】2018-07-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-03
(86)【国際出願番号】 EP2018069784
(87)【国際公開番号】W WO2019016377
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】1756932
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591052505
【氏名又は名称】ゲルベ
【氏名又は名称原語表記】GUERBET
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】オリビエ ルッソー
(72)【発明者】
【氏名】オリビエ フージェール
(72)【発明者】
【氏名】サラ カトーン
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-190175(JP,A)
【文献】特表平04-504247(JP,A)
【文献】特表2005-504745(JP,A)
【文献】特表2009-513574(JP,A)
【文献】特開平11-279163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中:
- Rは、メチル又は(C~C10)アリールであり;
- R、R、及びRは、互いに独立に:H、(C~C20)アルキル、(C~C20)アルケニル、(C~C20)アルキニル、(C~C10)アリール、(C~C20)アルキレン-(C~C10)アリール、(C~C20)アルケニレン-(C~C10)アリール、及び(C~C20)アルキニレン-(C~C10)アリールからなる群から選択され;
前記R基、R基、及びR基の前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基、アルケニレン基、及びアルキニレン基は、任意選択でその鎖内に1若しくは複数の(C~C10)アリーレン及び/又は1若しくは複数の(C~C10)シクロアルキレンを含んでいてもよく;
前記R基、R基、及びR基の前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキレン基、アルケニレン基、及びアルキニレン基は、任意選択で:
ハロゲン、ハロ(C~C20)アルキル、(C~C20)アルキル、(C~C20)アルケニル、(C~C20)アルキニルからなる群から選択される1又は複数の置換基で置換されており;前記アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基は、任意選択でその鎖内に1又は複数の(C~C10)アリーレンを含み;
- Aは、任意選択でその鎖内に1又は複数の(C~C10)アリーレンを含んでいてもよい-(CH-基であり、
- nは、0~15の範囲の整数であり;
- mは、1~10の範囲の整数であり;
ここで、R がメチルである場合、nは4~8の範囲の整数である)で表される化合物又はその医薬的に許容される塩若しくはその光学異性体若しくはその幾何異性体若しくはその互変異性体若しくはその溶媒和物。
【請求項2】
式(I-1):
【化2】
(式中:
- R、R、R、n、及びmは、請求項1の定義と同義であり、;
- Bは、結合、(C~C20)アルキレン、(C~C20)アルケニレン、又は(C~C20)アルキニレンであり;
-R、R及びR は、互いに独立に、H及び(C~C20)アルキルから選択される)で表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
nが6であるか又は8である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
式(I-2)又は(I-3):
【化3】
(式中、R、R、R、及びmは、請求項1の定義と同義である)で表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
次に示す化合物:
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
からなる群から選択される、請求項1に記載の式(I)の化合物又はその医薬的に許容される塩。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の式(I)の化合物又はその塩と、M(Mは、化学元素である)との錯体。
【請求項7】
Mが放射性元素である、請求項6に記載の錯体。
【請求項8】
がんの治療に使用するための、請求項6に記載の錯体。
【請求項9】
前記がんが、肝臓癌である、請求項8に記載の錯体。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物又は請求項6若しくは7に記載の錯体と、任意選択で1種又は複数種の医薬的に許容される賦形剤と、を含む医薬組成物。
【請求項11】
ヨウ素化油を更に含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記ヨウ素化油が、ケシ種子油の脂肪酸のヨウ素化されたエチルエステルを含むヨウ素化油である、請求項11に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な親油性大環状配位子及び特に放射性を示すその錯体、並びに医用撮像及び/又は医学的療法、特に画像診断的介入治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍学においては、標的化及び個別化された治療が必要とされており、そのため、特異性及び効果の高い標的指向治療(vectored treatment)を組み合わせた早期発見手段を基礎とする新規な治療戦略が発展している。
【0003】
画像診断的介入治療は、個別化医療の実現に非常に有望な方向性を示している。それにより、病変若しくは腫瘍の正確な診断並びに/又はその画像誘導下及び監視下における早急な治療をこの順序で併用することが可能になる。これは最小侵襲手術と表現される。つまり、外来状態で治療を行うことが可能になり、それによって、多くの場合、従来の手術に匹敵する有効性をもたらしながら、費用の掛かる長期の入院日数が短縮される。したがって、画像診断的介入治療は、従来の手術治療の代替となるか又は追加することが可能である。
【0004】
画像診断的介入治療は、診断的方法(例えば、生検)又は治療的方法を実施するために身体の内部に位置する病変又は腫瘍に接近することを可能にするものである。蛍光透視法、超音波診断法、スキャナ、又はMRIによる画像化を行うことにより、医療処置において位置の正確な特定、誘導、及び最適な監視を行うことが可能になる。
【0005】
したがって、医用撮像及び/又は医学的療法、特に画像診断的介入治療において利用可能な新規な分子が必要とされている。より詳細には、医用撮像及び/又は医学的療法、特に画像診断的介入治療に利用可能な錯体が得られるように、化学元素、特に金属と錯体を形成することが可能な配位子が求められている。また、医用撮像及び/又は医学的療法に好適な組成物中に安定して配合することができる化学元素と錯体形成することが可能な配位子も必要とされている。
【0006】
このような配位子は、特に安定でなければならず、且つ、錯体がその標的に到達すると共に、骨、肺、及び腎臓等の、他の影響を受けやすい臓器又は組織に拡散しないように、十分な強度で金属と錯体を形成しなければならない。このような配位子は、特に、放射性元素を所望の医薬製剤中で安定化させ、投与後に放射能が体内に拡散することを回避することができるものでなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、化学元素、特に放射性元素と錯体形成することが可能な新規な配位子を提供することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、新規な錯体、特に放射性錯体を提供することを目的とする。
【0009】
本発明はまた、医用撮像及び/又は医学的療法、特にがん治療に特に有用な配位子及び/又は錯体を提供することも目的とする。
【0010】
本発明はまた、がんの医用撮像、標的化、及び/又は治療を可能にする錯体を含む安定な医薬組成物を提供することも目的とする。
【0011】
本発明は、患者に安全且つ効果的に、本発明による錯体を標的指向させる安定な医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、次に示す一般式(I):
【化1】
(式中:
- R1は、メチル又は(C6~C10)アリールであり;
- R3、R4、及びR5は、互いに独立に:H、(C1~C20)アルキル、(C2~C20)アルケニル、(C2~C20)アルキニル、(C6~C10)アリール、(C1~C20)アルキレン-(C6~C10)アリール、(C2~C20)アルケニレン-(C6~C10)アリール、及び(C2~C20)アルキニレン-(C6~C10)アリールからなる群から選択され;
3基、R4基、及びR5基の前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基、アルケニレン基、及びアルキニレン基は、任意選択で鎖内に1若しくは複数の(C6~C10)アリーレン及び/又は1若しくは複数の(C5~C10)シクロアルキレンを含んでいてもよく;
3基、R4基、及びR5基の前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキレン基、アルケニレン基、及びアルキニレン基は、任意選択で:
ハロゲン、ハロ(C1~C20)アルキル、(C1~C20)アルキル、(C2~C20)アルケニル、(C2~C20)アルキニルからなる群から選択される1又は複数の置換基で置換されており;前記アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基は、任意選択で鎖内に1又は複数の(C6~C10)アリーレンを含み;
- Aは、任意選択でその鎖内に1又は複数の(C6~C10)アリーレンを含んでいてもよい-(CH2n-基であり、
- nは、0~15の範囲、好ましくは0~10の範囲の整数であり;
- mは、1~10の範囲の整数である)で表される化合物又はその医薬的に許容される塩若しくはその光学異性体若しくはその幾何異性体若しくはその互変異性体若しくはその溶媒和物に関する。
【0013】
本発明者らは、窒素原子のうちの3個は3本の同一のアームで置換されていると同時に、残りの窒素原子は少なくとも1個のフェニル環を含む親油性アームで置換されている、サイクレン大環状1,4,7,10-テトラアザシクロドデカンをベースとする新規な配位子-金属錯体(キレートとも呼ばれる錯体)を開発した。このサイクレン大員環は次式で表される。
【化2】
【0014】
驚くべきことに、本発明による錯体は、良好な熱力学的安定性及び高い動力学的安定性(kinetic inertia)を有している。更に、同じく非常に驚くべきことに、本発明者らは、本発明による錯体は、Guerbet社から製造及び販売されており、ケシ種子油(poppyseed oil)の脂肪酸のヨウ素化物のエチルエステルから構成されるヨウ素化油であるLIPIODOL(登録商標)等のヨウ素化油に溶解することができることを見出した。したがって、本発明による錯体は、LIPIODOL(登録商標)等のヨウ素化油に溶解させて、特に肝臓に標的指向させることができ、がん、例えば肝臓癌を可視化及び/又は治療することを可能にする。
【0015】
これらの錯体はまた、LIPIODOL(登録商標)等のヨウ素化油中における放射化学収率が高い。特にこれらは、LIPIODOL(登録商標)等のヨウ素化油中における放射能の取り込み量が高く、in-vitro試験においてLIPIODOL(登録商標)の放射性溶液は高い安定性を示す。
【0016】
特に、LIPIODOL(登録商標)の標的指向性、放射性元素の治療有効性、及びこれらの生成物の高い忍容性を組み合わせることによって、安全且つ実施が容易ながんの治療的処置を提案することができる。
【0017】
本発明による錯体をLIPIODOL(登録商標)等のヨウ素化油によって標的指向させることにより、特に、錯体の送達量不足を回避することが可能になり、健康な臓器、特に健康な肝臓又は肝臓外臓器に望ましくない影響を及ぼす危険性を低下し、且つ、腫瘍の放射能を有効な線量に到達させることが可能になる。
【0018】
より詳細には、この標的指向により、本発明による錯体の注入時における介入放射線科医師(interventional radiologist)の作業が容易になる。例えば、放射線科医師は、蛍光透視法による監視下における動脈内注入時の操作がより安全且つより正確に行えるようになり、腫瘍が本発明による錯体を捕捉した量に応じて、錯体の送達速度を調整することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明による配位子の放射性標識率を百分率で示したものである。
図2】本発明による錯体の油性相への抽出度を百分率で示したものである。
図3】生理食塩水中における安定性試験を示すものであり、本発明による放射性トレーサ毎の損失量を百分率で示したものである。
図4】生理食塩水中に損失した本発明による放射性トレーサH5(a)及びH6(b)の量を百分率で示したものである。
図5】生理食塩水中に損失した本発明による放射性トレーサH5(a)及びH6(b)の量を百分率で示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
「配位子」は、金属等の化学元素、好ましくは放射性元素と錯体形成することができる化合物を意味する。一実施形態によれば、本発明における配位子は陰イオン形態にあり、陽イオン形態にある放射性元素、例えば酸化数(III)の金属陽イオンと錯体形成することができるものを意味する。本発明によれば、式(I)の化合物は配位子である。
【0021】
「放射性元素」は天然のものであるか人工的に製造されたものであるかに関わらず、化学元素の任意の公知の放射性同位体を意味する。一実施形態によれば、放射性元素は、イットリウム、希土類元素、及びランタニドの放射性同位体から選択される。
【0022】
「希土類元素」は、スカンジウムSc、イットリウムY、及びランタニドからなる群から選択される原子を指す。
【0023】
「ランタニド」は:La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLu(即ち、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウム)からなる群から選択される原子を指す。
【0024】
「錯体」は、上に定義した配位子が、上に定義した化学元素、好ましくは放射性元素と会合していることを意味する。「錯体」という語は「キレート」と同義である。
【0025】
「抽出度(degree of extraction)」又は「抽出率」は、本発明による放射性錯体を含む媒体、例えば極性媒体から、好ましくは、本発明による放射性錯体を合成するための反応混合物から、油性相、好ましくはヨウ素化油、より好ましくはLipiodol(登録商標)へ移行した放射能の量を意味する。この量は、最初に投入された放射能(キュリー又はベクレルで表される)に対する割合として表される。「本発明による放射性錯体を合成するための反応混合物」という語は、例えば、酢酸緩衝液及びエタノールの混合物を意味する。
【0026】
「放射性標識率(radiolabeling yield)」は、配位子を放射性標識するステップを経た後の、錯体形態で存在する放射能の量を意味する。この量は、最初に投入された放射能(キュリー又はベクレルで表される)に対する割合として表される。
【0027】
「熱力学的安定性」とは、所与の元素、特に所与の金属に対する配位子の親和性を表す。これは錯体形成反応:
金属+配位子⇔錯体
の平衡定数である。この定数は次に示す通りである:
解離(錯体から配位子及び金属へ解離):
【数1】
会合(配位子及び金属が会合して錯体を形成):
【数2】
【0028】
この値は、一般に、常用対数logKA又は-logKDの形で表される。一実施形態によれば、本発明による錯体は強い親和性を有する。一実施形態によれば、本発明による錯体は、熱力学的平衡定数が少なくとも16(LogKAが少なくとも16)である。
【0029】
上述の平衡反応に従い形成される錯体は、様々な因子(pH、競合する金属又は配位子の存在)の作用により解離する傾向がある。このような解離は、ヒト用医薬品に錯体を使用する状況下では、金属が体内に放出されることから、重大な結果をもたらす可能性がある。この危険性を制限するために、解離の遅い錯体、即ち、高い動力学的安定性を示す錯体が求められている。動力学的安定性は、酸媒体中で解離試験を行うことにより求めることができる。この実験により、各錯体の定められた条件下における半減期(T1/2)が求められる。
【0030】
本発明に関連する「治療(する)(treat)」、「治療(treatment)」又は「治療的処置(therapeutic treatment)」という語は、この語が適用可能な障害又は疾患又は前記障害の1若しくは複数の症状の進行を、後退、軽減、又は阻止することを表す。
【0031】
「医用撮像」という語は、X線吸収、核磁気共鳴、超音波反射、又は放射能等の様々な物理的現象に基づき、人体又は動物体の画像を取得及び再現する手段を指す。一実施形態によれば、「医用撮像」という語は、X線撮像、MRI(磁気共鳴撮像)、単光子放出断層撮像(SPET又は「単光子放出コンピュータ断層撮像」の場合はSPECT)、陽電子断層撮像(PET)及び発光を指す。好ましくは、医用撮像の方法はX線撮像である。特定の一実施形態によれば、本発明による錯体がGd(III)を含む場合、医用撮像の方法はMRIであり、本発明による錯体がγ線放出核種を含む場合はSPECTであり、本発明による錯体がβ+線放出核種を含む場合はPETである。
【0032】
造影剤が水のプロトンの緩和速度1/T1及び1/T2を促進する能力は、緩和度と称される量で測定される。特に、造影剤の緩和度(r)は、造影剤の濃度で規格化した緩和速度として定義される。
【0033】
「(C1~C20)アルキル」という語は、直鎖又は分岐であってもよい、1~20個の炭素原子を含む飽和脂肪族炭化水素を指す。好ましくは、アルキルは、1~10個の炭素原子を含み、1~5個の炭素原子を含む場合さえある。「分岐」は、アルキル主鎖上でアルキル基で置換されていることを意味する。
【0034】
「(C1~C20)アルキレン」という語は、2価である、上に定義したアルキル基を表す。
【0035】
「(C2~C20)アルケン」という語は、少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含む、上に定義したアルキルを表す。
【0036】
「(C2~C20)アルケニレン」という語は、少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含む、2価の上に定義したアルキルを表す。
【0037】
「(C2~C20)アルキン」という語は、少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を含む、上に定義したアルキルを表す。
【0038】
「(C2~C20)アルキニレン」という語は、少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を含む、2価の上に定義したアルキルを表す。
【0039】
「(C6~C10)アリール」という語は、単環式、二環式、又は三環式炭化水素含有芳香族化合物、特にフェニル及びナフチルを表す。
【0040】
「アリーレン」という語は、2価の上に定義したアリール、特にフェニレン及びナフチレンを表す。
【0041】
「(C5~C10)シクロアルキレン」という語は、5~10個の炭素原子を含む、単環式又は二環式の2価のシクロアルキルを表す。シクロアルキレンの中でも、本発明者らは、シクロペンチレン又はシクロヘキシレンを挙げることができる。
【0042】
一実施形態によれば、「ハロゲン」は、F、Cl、Br、I、At、及びこれらの同位体、好ましくは、F、Cl、Br、I、及びこれらの同位体を表す。特定の一実施形態によれば、ハロゲンはフッ素原子である。
【0043】
ヨウ素化油
「脂肪酸」という語は、少なくとも4個の炭素原子を有する炭素鎖を有する飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸を表すと理解される。天然の脂肪酸は、4~28個(一般には偶数)の炭素原子を有する炭素鎖を有する。本発明者らが称する「長鎖脂肪酸」は、炭素が14~22個の鎖長を有し、22個を超える炭素が含まれる場合は「非常に長い鎖」と称する。一方、本発明者らは、4~10個の炭素、特に6~10個の炭素原子、特に8又は10個の炭素原子を有する鎖長を有するものを「短鎖脂肪酸」と称する。当業者は、関連する命名法を熟知しており、特に:
- Ci~Cpを使用する場合は、Ci~Cpの範囲の脂肪酸を表し、
- Ci+Cpを使用する場合は、Ci脂肪酸及びCp脂肪酸を合わせたものを表し、
例えば:
- 14~18個の炭素原子を有する脂肪酸は「C14~C18脂肪酸」と記述し、
- C16脂肪酸及びC18脂肪酸を合わせてC16+C18と記述する。
- 飽和脂肪酸に関しては、当業者は次に示す命名法を用いるであろう。Ci:0(ここでiは、脂肪酸の炭素原子数である)。例えば、パルミチン酸は、(C16:0)と命名されることになる。
- 不飽和脂肪酸に関しては、当業者は、次に示す命名法を用いるであろう。Ci:x n-N(ここでNは、不飽和脂肪酸の酸基と反対側の炭素から数えた二重結合の位置となり、iは、脂肪酸の炭素原子数となり、xは、この脂肪酸の二重結合(不飽和)の数となる)。例えば、オレイン酸は、(C18:1 n-9)と命名されることになる。
【0044】
有利には、本発明によるヨウ素化油は、脂肪酸のヨウ素化誘導体、好ましくは、脂肪酸のエチルエステルのヨウ素化物、より好ましくは、ケシ種子油、オリーブ油、セイヨウアブラナ種子油、落花生油、大豆油、又はクルミ油の脂肪酸のヨウ素化されたエチルエステル、一層好ましくは、ケシ種子油又はオリーブ油の脂肪酸のエチルエステルのヨウ素化物を含むか又はこれらからなる。より好ましくは、本発明によるヨウ素化油は、ケシ種子油(ブラックポピー(black poppy)又はパパベル・ソムニフェルム・バーバタム・ニグラム(Papaver somniferum var.nigrum)とも呼ばれる)の脂肪酸のヨウ素化されたエチルエステルを含むか又はこれらからなる。ケシ種子油はまた、ケシ種子油(poppy seed oil)又はケシ油(poppy oil)も呼ばれ、好ましくは、不飽和脂肪酸(特に、リノール酸(C18:2 n-6)及びオレイン酸(C18:1 n-9))を80%超含み、そのうちの少なくとも70%はリノール酸であり、少なくとも10%はオレイン酸である。ヨウ素化油は、ケシ種子油等の油を、不飽和脂肪酸の二重結合にそれぞれヨウ素原子を1個結合することができる条件下において完全にヨウ素化し(Wolff et al.2001,Medicine 80,20-36)、次いでエステル交換に付すことにより得られる。
【0045】
本発明によるヨウ素化油は、好ましくは、ヨウ素を29~53%(w/w)、より好ましくは37%~39%(w/w)含む。
【0046】
ヨウ素化油の例として次に示すものを挙げることができる:Lipiodol(登録商標)、Brassiodol(登録商標)(セイヨウアブラナ種子油(Brassica compestis)由来)、Yodiol(登録商標)(落花生油由来)、Oriodol(登録商標)(ケシ種子油由来、脂肪酸トリグリセリド形態)、Duroliopaque(登録商標)(オリーブ油由来)。
【0047】
好ましくは、ヨウ素化油は、造影用製品として、及び画像診断的介入治療の特定の手法に使用されるヨウ素化油であるLipiodol(登録商標)である。この油は、ヨウ素化及び非ヨウ素化ケシ種子油脂肪酸エチルエステルの混合物である。これは主として(特に84%超)、ケシ種子油由来の長鎖脂肪酸(特にC18脂肪酸)のヨウ素化されたエチルエステルの混合物、好ましくは、モノヨウ素化ステアリン酸エチル及びジヨウ素化ステアリン酸エチルの混合物から構成される。ヨウ素化油としては、オリーブ油由来のステアリン酸(C18:0)のモノヨウ素化されたエチルエステルをベースとする油を用いることもできる。Duroliopaque(登録商標)と称されるこの種の製品は数年前に上市されている。
【0048】
「LIPIODOL」という語は、ヨウ素化油、好ましくは、Guerbetより製造及び販売されている注射剤である医薬品専用のLIPIODOL(登録商標)であり、ケシ種子油由来のヨウ素化脂肪酸のエチルエステルから構成される。特にLIPIODOL(登録商標)は、成人の中間期の肝細胞癌の肝動脈化学塞栓術中における可視化、孤立化(localization)、及び/又は標的指向に加えて、肝動脈経路の選択的造影(selective hepatic arterial route)による、悪性病変(それが肝原発性であるか否かに関わらず)の肝内進展の診断に使用される製品である。
【0049】
Lipiodol(登録商標)の主な特徴を次に示す:
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
一般式(I)の化合物
一般式(I)の化合物は不斉中心を有することができ、ラセミ体又は鏡像異性体の形態をとり得る。一般式(I)の化合物は、エナンチオマー、ジアステレオ異性体、又はエナンチオマー対のラセミ混合物若しくはジアステレオ異性体の混合物を含む様々な異性体形態から構成される。
【0053】
本明細書において以下に示す実施形態は、互いに独立に、又は互いの組合せとして考えることができる。
【0054】
一実施形態によれば、一般式(I)の化合物は、塩形態、好ましくは、医薬的に許容される塩の形態にある。
【0055】
「医薬的に許容される塩」は、特に、本発明による化合物の特性及び生物学的有効性を保存することが可能な塩を指す。医薬的に許容される塩の例は、Berge,et al.((1977),J.Pharm.Sd,Vol.66,1)に記載されている。例えば、一般式(I)の化合物は、ナトリウム塩又はメグルミン(1-デオキシ-1-(メチルアミド)-D-グルシトール又はN-メチル-D-グルカミン)の形態にある。
【0056】
本発明はまた、式(I)の化合物の光学異性体(エナンチオマー)、幾何異性体(シス/トランス又はZ/E)、互変異性体、及び溶媒和物、例えば、水和物にも関する。
【0057】
一実施形態によれば、R1がメチルである場合、nは4~8の範囲の整数である。一実施形態によれば、R1がメチルである場合、nは4~8の範囲の整数であり、R1が(C6~C10)アリールである場合、nは0~6の範囲の整数、好ましくは0~5の範囲の整数である。特定の一実施形態によれば、R1がメチルである場合、nは、4、6、又は8の整数である。
【0058】
一実施形態によれば、nは、1~15の範囲、好ましくは1~10の範囲、より好ましくは4~8の範囲の整数、例えば4、6、又は8である。一実施形態によれば、mは、1~5の範囲、好ましくは1~3の範囲の整数、例えば1である。
【0059】
一実施形態によれば、R1はメチル又はフェニルである。一実施形態によれば、A基並びに/又はR3基、R4基、及び/若しくはR5基は、鎖内に最大3個のアリーレン基を含む。
【0060】
一実施形態によれば、Aは-(CH2n基である。
【0061】
特定の一実施形態によれば、(C6~C10)アリールはフェニルである。一実施形態によれば、R3、R4、及びR5は、互いに独立に:H、(C1~C20)アルキル、(C2~C20)アルケニル、(C2~C20)アルキニル、(C6~C10)アリール、(C1~C20)アルキレン-(C6~C10)アリール、(C2~C20)アルケニレン-(C6~C10)アリール、及び(C2~C20)アルキニレン-(C6~C10)アリールからなる群から選択され;
3基、R4基、及びR5基の前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基、アルケニレン基及びアルキニレン基は、任意選択で、その鎖内に1又は複数の(C6~C10)アリーレンを含んでいてもよく;
前記アルキル基及び/又はアリール基は、任意選択で、ハロゲン、(C1~C20)アルキル、又はハロ(C1~C20)アルキルから選択される1又は複数の置換基で置換されている。
【0062】
一実施形態によれば、R3及びR5は、互いに独立に、H又は(C1~C20)アルキルから選択され、前記アルキル基は、任意選択で、ハロゲンから選択される1又は複数の置換基、好ましくはフッ素で置換されている。
【0063】
好ましくは、R3及びR5は、互いに独立に、H、tert-ブチル、又はCF3から選択される。一実施形態によれば、R3及びR5は同一であり、好ましくは、H又はtert-ブチル、より好ましくはHである。
【0064】
一実施形態によれば、R4は:H、(C1~C10)アルキル、(C6~C10)アリール、(C1~C10)アルキレン-(C6~C10)アリール、(C2~C10)アルケニレン-(C6~C10)アリール、及び(C2~C10)アルキニレン-(C6~C10)アリールからなる群から選択され;
前記アルキル基、アリール基、アルキレン基、及びアルケニレン基は、任意選択で、ハロゲン又はハロ(C1~C20)アルキルから選択される1又は複数の置換基で置換されている。
【0065】
一実施形態によれば、R3、R4、及びR5は:H、(C1~C20)アルキル、(C6~C10)アリール、及び(C1~C20)アルキレン-(C6~C10)アリールからなる群から選択され;
3基、R4基、及びR5基の前記アルキル基、アリール基、及びアルキレン基は、任意選択で、1又は複数のCF3基で置換されている。
【0066】
一実施形態によれば、R4は:H、(C1~C20)アルキル、フェニル、及び(C1~C20)アルキレン-フェニルからなる群から選択される。他の実施形態によれば、R4は:H、tert-ブチル、フェニル、-CH2-CH2-フェニル、及び-(CH27-CH3からなる群から選択される。
【0067】
一実施形態によれば、本発明による化合物は、次に示す一般式(I-1):
【化3】
(式中:
- R1、R3、R5、n、及びmは、請求項1の定義と同義であり、nは、好ましくは6又は8であり;
- Bは、結合、(C1~C20)アルキレン、(C2~C20)アルケニレン、又は(C2~C20)アルキニレンであり;
- R6、R7、及びR8は、互いに独立に、H及び(C1~C20)アルキルから選択される。好ましくは、R6及びR8はHであり、R7は(C1~C20)アルキルである)で表される。
【0068】
特定の一実施形態によれば、本発明による化合物は、次に示す一般式(I-1-1):
【化4】
(式中、R1、R3、R5、n、及びmは上記と同義であり、nは、好ましくは6であり、pは0~10の範囲、好ましくは0~5の範囲の整数、例えば、0、1、2、又は3である)で表される。
【0069】
一実施形態によれば、本発明による化合物は、次に示す一般式(I-2):
【化5】
(式中、R3、R4、R5、及びmは、上記と同義である)で表される。
【0070】
一実施形態によれば、本発明による化合物は、次に示す一般式(I-3):
【化6】
(式中、R3、R4、R5及びmは上記と同義である)で表される。
【0071】
一実施形態によれば、本発明による化合物は、次に示す一般式(I-4):
【化7】
(式中、R3、R4、R5、A、及びmは上記と同義である)で表される。
【0072】
本発明はまた、次に示す化合物からなる群から選択される化合物:
【化8】
【化9】
【化10】
又はその医薬的に許容される塩にも関する。
【0073】
一実施形態によれば、R3基、R4基、及びR5基、好ましくはR4基は:
- H、tert-ブチル、フェニル、-CH2-CH2-フェニル、-(CH27-CH3
【化11】
【化12】
から選択される。
【0074】
錯体
本発明はまた、上に定義した式(I)で表される化合物又はその塩の、化学元素M、好ましくは金属との錯体にも関する。好ましくは、Mは放射性元素である。
【0075】
一実施形態によれば、化学元素Mは、ビスマス(III)、鉛(II)、銅(II)、銅(I)、ガリウム(III)、ジルコニウム(IV)、テクネチウム(III)、インジウム(III)、レニウム(VI)、アスタチン(III)、サマリウム(III)、アクチニウム(III)、ルテチウム(III)、テルビウム(III)、ホルミウム(III)、ガドリニウム(III)、ユーロピウム(III)、及びイットリウム(III)からなる群から選択される金属の陽イオン、好ましくはイットリウム(III)である。
【0076】
特定の一実施形態によれば、化学元素Mは、212Bi(212Pb)、213Bi(III)、64Cu(II)、67Cu(II)、68Ga(III)、89Zr(IV)、99mTc(III)、111In(III)、186Re(VI)、188Re(VI)、211At(III)、225Ac(III)、153Sm(III)、149Tb(III)、166Ho(III)、212Pb(II)、177Lu(III)、及び90Y(III)から、好ましくは、212Bi(212Pb)、213Bi(III)、64Cu(II)、67Cu(II)、68Ga(III)、89Zr(IV)、99mTc(III)、111In(III)、186Re(VI)、188Re(VI)、211At(III)、225Ac(III)、153Sm(III)、149Tb(III)、及び166Ho(III)から、一層好ましくは、177Lu(III)、90Y(III)、及び166Ho(III)からなる群から選択される放射性元素である。
【0077】
一実施形態によれば、化学元素Mは、Sc、Y、ランタニド、又はその放射性同位体から選択される。好ましくは、Mは、イットリウムの放射性同位体及びランタニドの放射性同位体から選択される放射性元素である。一実施形態によれば、Mは、ランタニド、希土類元素、若しくはイットリウム、又はこれらの放射性同位体から選択される。
【0078】
一実施形態によれば、Mは:Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuから選択される。
【0079】
一実施形態によれば、Mは、次に示す放射性同位体から選択される:48Sc、86Y、90Y、140La、143Ce、153Sm、149Tb、152Tb、155Tb、161Tb、166Ho、及び177Lu。
【0080】
特に本発明による放射性元素の中でも、本発明者らは:166Ho、177Lu、149Tb、152Tb、155Tb、161Tb、86Y、90Y、及び153Smを挙げることができる。特定の一実施形態によれば、Mは、166Ho、177Lu、及び90Yからなる群から選択される放射性元素である。
【0081】
一実施形態によれば、、前記錯体は、次に示す一般式(III):
【化13】
(式中、R1、R3、R4、R5、A、m、及びMは、上記と同義である)で表される。特に、一般式(III)においては、COO-基により、元素Mとの錯体形成が可能になる。
【0082】
一実施形態によれば、本発明による配位子の放射性標識率は、10~100%、好ましくは75%~99%である。
【0083】
一般式(I)の化合物を調製するための方法
本発明はまた、一般式(I)の化合物を調製するための方法であって、次に示すステップ:
a)次に示す式(A):
【化14】
のサイクレン-グリオキサールを、次に示す式(B1):
【化15】
(式中、R3、R4、R5、及びmは、上記と同義であり、Xは、ハロゲン又はメシル(CH3-SO2-O-)、トシル(CH3-PH-SO2-O-)、及びトリフリル(CF3-SO2-O-)から選択される脱離基である)で表されるアルキル化剤でアルキル化することにより;式(IC):
【化16】
(式中、R3、R4、R5、及びmは上記と同義である)で表される化合物を得るステップと;
b)式(IC)の化合物を脱保護することにより、次に示す式(ID):
【化17】
(式中、R3、R4、R5、及びmは上記と同義である)で表される化合物を得るステップと;
c)式(ID)の化合物を、次に示す式(B2):
【化18】
(式中、AAは、ハロゲン原子、メシル(CH3-SO2-O-)、及びトリフリル(CF3-SO2-O-)から選択され、
1及びAは、上記と同義であり、Gpは、カルボン酸基の保護基、例えば(C1~C5)アルキル、好ましくはエチルである)で表される化合物から選択されるアルキル化剤でアルキル化することにより、次に示す式(IF):
【化19】
(式中、Gp、A、R1、R3、R4、R5、及びmは上記と同義である)で表される化合物を得るステップと;
d)鹸化により上に定義した式(I)の化合物を得るステップと;
を含む方法にも関する。
【0084】
一実施形態によれば、ステップa)は、トルエンの存在下に、50℃~70℃の間の温度、例えば約60℃で実施される。一実施形態によれば、ステップb)は、水酸化カリウム水溶液又はヒドラジン一水和物の存在下に実施される。一実施形態によれば、ステップc)は、無水アセトニトリル及びK2CO3の存在下に実施される。一実施形態によれば、ステップd)は、KOH及びエタノールの存在下に実施される。好ましくは、ステップa)、b)、及びc)は、アルゴン中で実施される。
【0085】
医薬組成物
本発明はまた、上に定義した式(I)の化合物又は上に定義した錯体と、任意選択で1種又は複数種の医薬的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物にも関する。
【0086】
この組成物は、用法が確立されている緩衝剤から選択される緩衝剤、例えば、乳酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、アスコルビン酸塩、炭酸塩、トリス((ヒドロキシメチル)アミノメタン)、HEPES(2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジン]エタンスルホン酸)、MES(2-モルホリノ-エタンスルホン酸)、及びこれらの混合物の緩衝剤等を更に含むことができる。
【0087】
医薬組成物は、油性相、特に上に定義したヨウ素化油を含むことができる。特定の一実施形態によれば、医薬組成物は、ケシ種子油の脂肪酸のエチルエステルのヨウ素化物を更に含む。
【0088】
一実施形態によれば、本発明による医薬組成物は、ヨウ素化油及び本発明による錯体からなる。通常、本発明による医薬組成物は、LIPIODOL(登録商標)及び本発明による錯体からなる。LIPIODOL(登録商標)は、ケシ種子油の脂肪酸のヨウ素化されたエチルエステルからなる。
【0089】
一実施形態によれば、上に定義した油性相中における本発明による錯体の抽出度は、35%~100%の間、好ましくは75%~100%の間にある。
【0090】
本発明による錯体は、特に、油性相中に抽出可能である。これらはまた、安定な油性相を含む組成物を得ることを可能にし、生理食塩水等の水性媒体の存在下における、本発明による錯体の水性媒体中への損失は僅かであり、例えば、少なくとも15日間までの間に0%~20%である。
【0091】
好ましくは、本発明による医薬組成物は放射線不透過性であり、したがってX線撮像により視認できる。
【0092】
特定の一実施形態によれば、医薬組成物は注射可能な組成物である。一実施形態によれば、本発明による医薬組成物は、肝動脈注射により投与される。
【0093】
本発明は、がん治療に使用するための上に定義した錯体又は医薬組成物に関する。
【0094】
本発明はまた、医用撮像に使用するための上に定義した錯体又は医薬組成物にも関する。
【0095】
本発明は、がんの治療用薬物を調製するための上に定義した錯体の使用に関する。
【0096】
本発明はまた、上に定義した錯体又は医薬組成物の医用撮像における使用にも関する。
【0097】
本発明は、がん患者を治療的に処置するための方法であって、上に定義した錯体又は医薬組成物を前記患者に投与することを含む方法に関する。特に、前記処置方法は、外科手術による処置(surgical treatment)ステップを含まない。
【0098】
本発明はまた、腫瘍を医用撮像する方法であって:
- 本発明による錯体又は医薬組成物をがん患者に投与するステップと;
- 医用撮像方法により腫瘍を検出するステップと;
を含む方法にも関する。
【0099】
「がん」は、体の正常な組織内の異常な細胞増殖(腫瘍とも称する)を意味する。これらのがん細胞は全て、無限に分裂することができる特定の形質を取得した、同一クローン、即ち癌始原細胞に由来する。腫瘍発生過程においては、特定のがん細胞がその産生部位から遊走し、転移を形成することができる。
【0100】
がんの中でも、本発明者らは、特に、肝臓癌、特に、原発性肝臓癌、好ましくは肝細胞癌を挙げることができる。特定の一実施形態によれば、がんの中でも、本発明者らは、肝細胞癌、類上皮血管内皮腫、胆管癌、神経内分泌腫瘍、及び他のがんの転移、例えば結腸直腸癌の転移を挙げることができる。
【0101】
特定の一実施形態によれば、がんは成人の中間期の肝細胞癌である。
【実施例
【0102】
I.一般的な実験条件:
これらの合成に使用した市販品及び溶媒は、基本的に、Sigma-Aldrich(登録商標)社、Merck(登録商標)社、Interchim(登録商標)社、及びVWR(登録商標)社から入手される。
【0103】
室内の周囲温度は通常20℃~25℃の間で変動する。溶媒の蒸発は、Buchi R-210エバポレータを用いて減圧下に約40℃の温度で実施する。反応及び精製は、シリカガラスプレート(シリカゲル60F254)を使用した薄層クロマトグラフィー(TLC)にて監視し、UV及びヨウ素を用いて発色させる。精製は、Teledyne Isco(登録商標)より入手したフラッシュクロマトグラフィー装置であるGRACE Reveleris(登録商標)又はCombiFlash(登録商標)Rfで実施する。シリカ上での精製に使用するカートリッジは、基本的に、GRACE Reveleris(登録商標)カートリッジ(40μm、4又は12g)とする。マイクロ波で活性化される反応は、Monowave Series Anton Paar(登録商標)反応装置内で実施した。
【0104】
分取HPLCによる精製を、PuriFlash(登録商標)4250にてSymmetryカラム(150×30mm;5μm)を用いて実施する。
【0105】
HPLCクロマトグラムは、Agilent Technologies(登録商標)製の装置である1200シリーズで記録する。検出は一般に、201nm及び270nmで実施する。特定の場合においては、Corona又はELSD検出器が必要である。使用するカラムは様々な供給業者から入手される:Waters(登録商標)(Symmetry C18)、Phenomenex(登録商標)(Luna C8)、及びACE(登録商標)(C4 ACE)。質量分析は、Bruker(登録商標)からのamaZon X 質量分析計を連結した液体クロマトグラフィーを用いて実施した。
【0106】
II.配位子の合成:
注記:以下に示す実施例において「Ar」という語は、本発明によるものなどのR3基、R4基、及びR5基で置換されたフェニルを指す。
【0107】
実施例1:アルキル化剤の調製
1-アルコール誘導体を変換するための一般手順
【化20】
臭素化:
アルコール誘導体をジクロロメタンで希釈した後、この溶液を氷/アセトン浴で予め冷却しておき、PBr3(ジクロロメタン中に溶解)を滴下する。反応混合物を室温で2時間攪拌した後、水(10mL)で処理する。有機相を回収し、シリカプラグで精製(ヘプタン/DCM(1:1))し、Na2SO4上で乾燥させ、濃縮乾固させる。
【0108】
メシル化:
三ツ口フラスコにアルコール(3.64mmol、1当量)を装入し、DCM(15mL)で希釈する(4mL/mmol)。この溶液を水/氷浴で冷却し、Et3N(2当量)及び塩化メシル(1.2当量)をセプタムを介して滴下する。反応混合物を10分間攪拌した後、水(15mL)を加える。有機相を回収し、Na2SO4上で乾燥させ、濃縮乾固させる。得られた黄色固体をシリカプラグ上でヘプタン/DCM混合物(4:6)を用いて精製する。
【0109】
【表3】
【0110】
実施例2:サイクレン-グリオキサールAのアルキル化
【化21】
サイクレン-グリオキサールA(1.2当量、5.6mmol)をトルエン4mLに溶解し、アルキル化剤B(Xはハロゲン又はメシル)(1当量、2.16mmol)を加える。次いで反応混合物を、アルゴン中、60℃で5時間~5日間(アルキル化剤Bの性質に依存)攪拌する。反応終了後、析出した固体を濾過してトルエンで十分に洗浄する。デシケータ内で乾燥させた後、得られた生成物Cを更に精製することなく使用する。
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
実施例3:モノアルキル化されたサイクレン-グリオキサールCの脱保護
【化22】
モノアルキル化されたサイクレン-グリオキサールC(1当量、1.5mmol)を水酸化カリウム水溶液(20%、10mL)又はヒドラジン一水和物(NH2-NH2-H2O、3mL)に溶解する。次いで反応混合物をアルゴン中で加熱及び攪拌する。
- マイクロ波加熱:生成物をガラス試験管に2Mの水酸化カリウム溶液と一緒に装入し、Anton Paar反応装置の窪みに差し込む。10分間昇温した後、一定温度(180℃)で1時間加熱するようにプログラムされた加熱サイクルを実施する。
【0114】
処理:
- 水酸化カリウムとの反応:混合物をクロロホルムで抽出する(×3)。有機相を合一し、乾燥させ、濾過した後、蒸発させる。所望の生成物Dを油又は固体形態で得る。特定の場合は塩基性アルミナカラムによる精製が必要である。
- ヒドラジンとの反応:反応混合物を冷却する。得られた固体を濾過した後、エタノールを加える。混合物を減圧下に濃縮する。所望の生成物Dを油又は固体形態で得る。特定の場合は塩基性アルミナカラムによる精製が必要である。
【0115】
【表6】
【0116】
【表7】
【0117】
実施例4:モノアルキル化サイクレンDのアルキル化
【化23】
【0118】
【表8】
【0119】
モノアルキル化サイクレンD(1当量、1.5mmol)を無水アセトニトリル(5mL)に溶解し、K2CO3(3.2当量、4.8mmol)を加える。予めアセトニトリル(3mL)に溶解しておいたアルキル化剤E(3.5当量、5.25mmol)を混合物に滴下する。次いで反応混合物をアルゴン中で18時間加熱還流する。反応終了後、塩を濾過し、濾液を蒸発させる。次いで得られたFを含む油状物を、シリカカラムフラッシュクロマトグラフィーにて精製し:100%ジクロロメタンで、次いでメタノールを80/20の比になるまで徐々に増加させる。
【0120】
【表9】
【0121】
実施例5:モノアルキル化サイクレンDのアルキル化、立体特異的アルキル化
【化24】
【0122】
【表10】
【0123】
- トリフラートアルキル化剤E4の調製手順:
【化25】
トリフルオロメタンスルホン酸無水物をCH2Cl2(5ml)に溶解した溶液を、アルゴン中、0℃で、R-(-)ヒドロキシ-2-フェニル-4-酪酸(15mmol)のエチルエステルをCH2Cl2(10ml)及びピリジン(1.2ml)中に溶解した溶液に滴下する。
【0124】
得られた混合物をこの温度で1時間維持した後、15℃で1時間、次いで室温で一晩維持する。濾過してピリジニウム塩を除去した後、濾液を濃縮し、次いでシクロヘキサン 5/EtOAc 5の組成を有する溶離液を用いてSiO2上でクロマトグラフィーに付す。選択された画分を蒸発させることにより半透明の油を収率53%で得、これを即座に次のステップに使用する。
TLC:Rf=0.5、溶離液 EtOAc 5/シクロヘキサン 5。
【0125】
- トリフラートアルキル化剤E4を用いたアルキル化手順:
先に調製したトリフラート試薬E4の溶液(1.3mmol、CH3CN 10ml中)を、アルゴン中、室温で、単官能化サイクレンD(3.8mmol)をCH3CN(10ml)及びジイソプロピルエチルアミン(0.54ml)に溶解した溶液に滴下する。室温で18時間反応させた後、反応混合物を濾過し、次いで濃縮し、次いでCH2Cl2/MeOHの組成を有する溶離液を用いてSiO2上でクロマトグラフィーに付す。画分を混合して蒸発させ、琥珀色の油状物を得る(収率41%)。
【0126】
【表11】
【0127】
実施例6:Fを鹸化するための一般手順
【化26】
エチルエステルFの形態の配位子(1当量、0.5mmol)をエタノール(5mL)に溶解し、水酸化カリウムのアルコール溶液(2mol/L、10mL)を加える。次いで反応混合物を還流下に18時間攪拌する。室温に戻し、エタノールを蒸発させる。塩酸(1mol/L)を加えてpH=1にすると固体が析出する。固体を濾過して水で十分に洗浄することにより塩を除去し、配位子Gを得る。
【0128】
配位子G1の場合は、エステルの段階で、シリカクロマトグラフィーによる精製時に4種の画分に分離することが可能であった。これら4種の画分を別々に鹸化することにより、4種の配位子画分を得た(G1-Iso1~G1-Iso4)。
【0129】
【表12】
【0130】
【表13】
【0131】
【表14】
【0132】
【表15】
【0133】
【表16】
【0134】
【表17】
【0135】
III.錯体の合成:
実施例7:Gでイットリウム89を錯体化するための一般手順
【化27】
配位子G(1当量、0.07mmol)をメタノール(3mL)に溶解する(pH=6)。次いで塩化イットリウム六水和物(1.5当量、0.1mmol)を加える(pH=4)。次いでナトリウムメトキシド溶液を制御下に加えてpHを中性にする。混合物を攪拌し、65℃で一晩加熱する。反応終了後に溶媒を蒸発させ、得られた固体を水で十分に洗浄することにより錯体Hを得る。
【0136】
【表18】
【0137】
IV.放射化学:
次に示す器具を放射性標識に使用した(表9):
【0138】
【表19】
【0139】
実験は、クリンプキャップで密栓したホウケイ酸ガラス瓶内で実施した。6本までの瓶を加熱するのに適したBioblock製ブロックヒーターで瓶を加熱した。撹拌が必要な場合は、Lab Dancer S40 vortex(VWR)を使用した。MF 20-R遠心分離装置(Awel)にて遠心分離を行った。
【0140】
CRC-127R放射能測定器(Capintec)を毎朝校正して、放射能を測定した。
【0141】
Whatman 1濾紙上で、MeOH/NEt3 0.1%混合物を溶離液として用いてTLCを行うことにより品質管理を行った。Cyclone phosphoimager(Perkin Elmer)を用いて放射化学的純度(RCP)を求め、Optiquantソフトウェアで処理した。
【0142】
実施例8:Gでイットリウム90を錯体化するための一般手順
【化28】
イットリウム90塩化物(1mL)をpH=7の酢酸緩衝液に溶解した溶液(1mL)を、配位子Gをエタノールに10-3mol/Lの濃度で溶解した溶液(1mL)に加える。溶液を90℃で30分間加熱する。こうしてイットリウム90錯体Jを得る。
【0143】
【表20】
【0144】
結果を図1にも示す。
【0145】
本発明による配位子の放射性標識率は、十分であるか又は非常に高い場合、特に75%を超える場合さえあることが分かる。
【0146】
実施例9:ヨウ素化ケシ種子油中に抽出するための一般手順
実施例8で調製した錯体JにLipiodol(登録商標)(2mL)を加え、混合物を激しく攪拌する。次いで遠心分離(3500回転/分、15分間)を行うことにより相分離させ、油性相を回収することにより所望の放射性トレーサHを得る。次いで油性相Hの放射能を測定することにより、放射性標識された錯体Jの抽出度を評価する。
【0147】
【表21】
【0148】
結果を図2にも示す。
【0149】
本発明による錯体のLipiodol(登録商標)中の抽出率は十分であり、75%を超える場合さえあることが分かる。したがってこれらは油性相中に容易に抽出することができる。
【0150】
実施例10:放射性トレーサHの安定性を評価するための一般手順
時間の経過に伴い水溶液(生理食塩水又はヒト血清)中に塩析したイットリウム-90の評価をγ線計数管を用いて計数することにより実施した。イットリウム-90の測定に関しγ線計数管を予め校正しておく(この装置のこの同位体の計数効率(counting yield)を算出)。
【0151】
各試料を異なる時点で100μLずつ分取し、予め秤量しておいた5mL容の試験管に装入する。試験管を秤量した後、γ線計数管で計数する。得られた測定値を計数効率及びイットリウム-90の減少分に関し補正し、溶液中に存在していた初期の放射能に対する水相中に塩析したイットリウム-90の百分率を求める。採取した液体の重量も考慮に入れる。
【0152】
新たに調製した放射性トレーサHを1mL採取し、12mL容の平底ガラス瓶に装入する。放射能を放射能測定器で測定し、時間を記録する。0.9%食塩水(生理食塩水)(10mL)を加え、混合物を攪拌する。次いでこの瓶を、30rpmに設定した攪拌装置を備えた、37℃に設定した恒温器に入れる。
【0153】
これを数日間攪拌する。塩析したイットリウム-90を評価するために試料を水相から異なる時点で採取する。
【0154】
【表22】
【0155】
結果を図3にも示す。
【0156】
実施例11:生理食塩水中で15日後の安定性試験
新たに調製した放射性トレーサHを1mL採取し、12mL容の平底ガラス瓶に装入する。放射能を放射能測定器で測定し、時間を記録する。0.9%食塩水(生理食塩水)(10mL)を加え、混合物を攪拌する。次いでこの瓶を、30rpmに設定した攪拌装置を備えた、37℃に設定した恒温器に入れる。
【0157】
これを15日間攪拌する。塩析したイットリウム-90を評価するために試料を水相から異なる時点で採取する。
【0158】
結果を次の表14及び図4に示す。
【0159】
【表23】
【0160】
実施例12:ヒト血清中で15日後の安定性
新たに調製した放射性トレーサHを1mL採取し、12mL容の平底ガラス瓶に装入する。放射能を放射能測定器で測定し、時間を記録する。ヒト血清(10mL)を加え、混合物を攪拌する。次いでこの瓶を、30rpmに設定した攪拌装置を備えた、37℃に設定した恒温器に入れる。これを15日間攪拌する。塩析したイットリウム-90を評価するために試料を水相から異なる時点で採取する。
【0161】
結果を下の表15及び図5に示す。
【0162】
【表24】
【0163】
安定性試験から、本発明による錯体は油性相中で安定であり、生理食塩水等の水相中に損失しないと結論付けることができる。この安定性により、特に、Lipiodol(登録商標)等の油性相中で患者に投与した場合に錯体を非常に良好に標的指向させることが可能になる。
図1
図2
図3
図4
図5