(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】銅張積層板および銅張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/18 20060101AFI20220720BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20220720BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20220720BHJP
C25D 3/38 20060101ALI20220720BHJP
C25D 21/12 20060101ALI20220720BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20220720BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C25D5/18
C25D5/12
C25D7/06 J
C25D3/38 101
C25D21/12 M
C25D7/06 H
C25D21/12 K
B32B15/08 J
B32B15/20
(21)【出願番号】P 2018221848
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 芳英
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-093934(JP,A)
【文献】特開2010-189733(JP,A)
【文献】特開2014-221946(JP,A)
【文献】特開2003-328179(JP,A)
【文献】特開2011-017036(JP,A)
【文献】特開2008-266722(JP,A)
【文献】特表2016-518530(JP,A)
【文献】特開2020-084280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00- 9/12
C25D 13/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材
(スルーホールまたはビアホールを有するものを除く)と、
前記基材の表面に成膜され、不純物として硫黄を含む銅めっき被膜と、を備え、
前記銅めっき被膜は、硫黄濃度が高い高硫黄濃度層と、硫黄濃度が低い低硫黄濃度層とが交互に積層されてなる
ことを特徴とする銅張積層板。
【請求項2】
前記高硫黄濃度層の二次イオン質量分析法により測定した硫黄濃度は5×10
18atoms/cm
3以上であり、
前記低硫黄濃度層の二次イオン質量分析法により測定した硫黄濃度は5×10
18atoms/cm
3未満である
ことを特徴とする請求項1記載の銅張積層板。
【請求項3】
硫黄を含有するブライトナー成分を含む銅めっき液を用いた電解めっきにより、基材
(スルーホールまたはビアホールを有するものを除く)の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、
前記基材をカソードとした正電解と、前記基材をアノードとした逆電解とを交互に行なって前記銅めっき被膜を成膜する
ことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【請求項4】
硫黄を含有するブライトナー成分を含む銅めっき液が貯留されためっき槽内を、ロールツーロールにより基材を搬送しつつ、電解めっきにより該基材の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、
前記めっき槽内に、前記基材の搬送方向に沿って、前記基材をカソードとした正電解を行なう正電解区域と、前記基材をアノードとした逆電解を行なう逆電解区域とを交互に設ける
ことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【請求項5】
前記逆電解における電流密度は0.05~1.00A/dm
2である
ことを特徴とする請求項
3または
4記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項6】
前記逆電解の一回あたりの時間は1~5秒である
ことを特徴とする請求項
3~
5のいずれかに記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項7】
前記銅めっき液のブライトナー成分の濃度は1~30mg/Lである
ことを特徴とする請求項
3~
6のいずれかに記載の銅張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板および銅張積層板の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、フレキシブルプリント配線板(FPC)などの製造に用いられる銅張積層板、およびその銅張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などには、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は、例えば、銅張積層板から製造される。
【0003】
銅張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている。メタライジング法による銅張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行なわれる。まず、樹脂フィルムの表面にニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成する。つぎに、下地金属層の上に銅薄膜層を形成する。つぎに、銅薄膜層の上に銅めっき被膜を形成する。銅めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで導体層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接導体層が形成された、いわゆる2層基板と称されるタイプの銅張積層板が得られる。
【0004】
この種の銅張積層板を用いてフレキシブルプリント配線板を製造する方法としてセミアディティブ法が知られている。セミアディティブ法によるフレキシブルプリント配線板の製造は、つぎの手順で行なわれる(特許文献1参照)。まず、銅張積層板の銅めっき被膜の表面にレジスト層を形成する。つぎに、レジスト層のうち配線パターンを形成する部分に開口部を形成する。つぎに、レジスト層の開口部から露出した銅めっき被膜を陰極として電解めっきを行ない、配線部を形成する。つぎに、レジスト層を除去し、フラッシュエッチングなどにより配線部以外の導体層を除去する。これにより、フレキシブルプリント配線板が得られる。
【0005】
セミアディティブ法において、銅めっき被膜の表面にレジスト層を形成するあたり、ドライフィルムレジストを用いることがある。この場合、銅めっき被膜の表面を化学研磨した後に、ドライフィルムレジストを貼り付ける。化学研磨により銅めっき被膜の表面に微細な凹凸をつけることで、アンカー効果によるドライフィルムレジストの密着性を高めている。しかし、銅めっき被膜の表面の凹凸が過剰であると、かえってドライフィルムレジストの密着性が悪化することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化学研磨後の銅めっき被膜の表面粗さは、銅めっき被膜の結晶粒のサイズに影響される。結晶粒が小さいほど化学研磨後の銅めっき被膜の表面が滑らかになり、結晶粒が大きいほど化学研磨後の銅めっき被膜の表面が粗くなるという傾向がある。
【0008】
銅めっき被膜の結晶粒はめっき処理後の再結晶の進行にともない、徐々に大きくなる。再結晶が進行中の銅めっき被膜に化学研磨を行なうと、化学研磨の時点におけるめっき処理からの経過時間によって、化学研磨後の銅めっき被膜の表面粗さが変化する。そのため、配線加工における工程管理が困難になる。また、再結晶が終了した銅めっき被膜は結晶粒が大きくなっていることから、化学研磨後の表面粗さが過剰となることがある。そこで、銅張積層板の銅めっき被膜には、再結晶の進行が遅いことが求められる場合がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、再結晶の進行が遅い銅めっき被膜を有する銅張積層板、およびその銅張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の銅張積層板は、基材(スルーホールまたはビアホールを有するものを除く)と、前記基材の表面に成膜され、不純物として硫黄を含む銅めっき被膜と、を備え、前記銅めっき被膜は、硫黄濃度が高い高硫黄濃度層と、硫黄濃度が低い低硫黄濃度層とが交互に積層されてなることを特徴とする。
第2発明の銅張積層板は、第1発明において、前記高硫黄濃度層の二次イオン質量分析法により測定した硫黄濃度は5×1018atoms/cm3以上であり、前記低硫黄濃度層の二次イオン質量分析法により測定した硫黄濃度は5×1018atoms/cm3未満であることを特徴とする。
第3発明の銅張積層板の製造方法は、硫黄を含有するブライトナー成分を含む銅めっき液を用いた電解めっきにより、基材(スルーホールまたはビアホールを有するものを除く)の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、前記基材をカソードとした正電解と、前記基材をアノードとした逆電解とを交互に行なって前記銅めっき被膜を成膜することを特徴とする。
第4発明の銅張積層板の製造方法は、硫黄を含有するブライトナー成分を含む銅めっき液が貯留されためっき槽内を、ロールツーロールにより基材を搬送しつつ、電解めっきにより該基材の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、前記めっき槽内に、前記基材の搬送方向に沿って、前記基材をカソードとした正電解を行なう正電解区域と、前記基材をアノードとした逆電解を行なう逆電解区域とを交互に設けることを特徴とする。
第5発明の銅張積層板の製造方法は、第3または第4発明において、前記逆電解における電流密度は0.05~1.00A/dm2であることを特徴とする。
第6発明の銅張積層板の製造方法は、第3~第5発明のいずれかにおいて、前記逆電解の一回あたりの時間は1~5秒であることを特徴とする。
第7発明の銅張積層板の製造方法は、第3~第6発明のいずれかにおいて、前記銅めっき液のブライトナー成分の濃度は1~30mg/Lであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、銅めっき被膜が高硫黄濃度層と低硫黄濃度層とが交互に積層された構造である。銅めっき被膜内の硫黄により再結晶が阻害されるため、銅めっき被膜の再結晶の進行を遅くできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る銅張積層板の断面図である。
【
図4】硫黄濃度測定試験における、銅めっき被膜の硫黄濃度分布を示すグラフである。
【
図5】光沢度測定試験における、逆電解の電流密度と銅めっき被膜の表面の光沢度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る銅張積層板1は、基材10と、基材10の表面に成膜された銅めっき被膜20とからなる。
図1に示すように基材10の片面のみに銅めっき被膜20が形成されてもよいし、基材10の両面に銅めっき被膜20が形成されてもよい。
【0014】
銅めっき被膜20は電解めっきにより成膜される。したがって、基材10は銅めっき被膜20が成膜される側の表面に導電性を有する素材であればよい。例えば、基材10は絶縁性を有するベースフィルム11の表面に金属層12が形成されたものである。ベースフィルム11としてポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。金属層12は、例えば、スパッタリング法により形成される。金属層12は下地金属層13と銅薄膜層14とからなる。下地金属層13と銅薄膜層14とはベースフィルム11の表面にこの順に積層されている。一般に、下地金属層13はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。特に限定されないが、下地金属層13の厚さは5~50nmが一般的であり、銅薄膜層14の厚さは50~400nmが一般的である。
【0015】
銅めっき被膜20は金属層12の表面に形成されている。特に限定されないが、銅めっき被膜20の厚さは1~3μmが一般的である。なお、金属層12と銅めっき被膜20とを合わせて「導体層」と称する。
【0016】
銅めっき被膜20は、特に限定されないが、
図2に示すめっき装置3により成膜される。
めっき装置3は、ロールツーロールにより長尺帯状の基材10を搬送しつつ、基材10に対して電解めっきを行なう装置である。めっき装置3はロール状に巻回された基材10を繰り出す供給装置31と、めっき後の基材10(銅張積層板1)をロール状に巻き取る巻取装置32とを有する。
【0017】
また、めっき装置3は基材10を搬送する上下一対のエンドレスベルト33(下側のエンドレスベルト33は図示省略)を有する。各エンドレスベルト33には基材10を把持する複数のクランプ34が設けられている。供給装置31から繰り出された基材10は、その幅方向が鉛直方向に沿う懸垂姿勢となり、両縁が上下のクランプ34に把持される。基材10はエンドレスベルト33の駆動によりめっき装置3内を周回した後、クランプ34から開放され、巻取装置32で巻き取られる。
【0018】
基材10の搬送経路には、前処理槽35、めっき槽40、および後処理槽36が配置されている。基材10はめっき槽40内を搬送されつつ、電解めっきによりその表面に銅めっき被膜20が成膜される。これにより、長尺帯状の銅張積層板1が得られる。
【0019】
図3に示すように、めっき槽40は基材10の搬送方向に沿った横長の単一の槽である。基材10はめっき槽40の中心に沿って搬送される。めっき槽40には銅めっき液が貯留されている。めっき槽40内を搬送される基材10は、その全体が銅めっき液に浸漬されている。
【0020】
銅めっき液は水溶性銅塩を含む。銅めっき液に一般的に用いられる水溶性銅塩であれば、特に限定されず用いられる。水溶性銅塩として、無機銅塩、アルカンスルホン酸銅塩、アルカノールスルホン酸銅塩、有機酸銅塩などが挙げられる。無機銅塩として、硫酸銅、酸化銅、塩化銅、炭酸銅などが挙げられる。アルカンスルホン酸銅塩として、メタンスルホン酸銅、プロパンスルホン酸銅などが挙げられる。アルカノールスルホン酸銅塩として、イセチオン酸銅、プロパノールスルホン酸銅などが挙げられる。有機酸銅塩として、酢酸銅、クエン酸銅、酒石酸銅などが挙げられる。
【0021】
銅めっき液に用いる水溶性銅塩として、無機銅塩、アルカンスルホン酸銅塩、アルカノールスルホン酸銅塩、有機酸銅塩などから選択された1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、硫酸銅と塩化銅とを組み合わせる場合のように、無機銅塩、アルカンスルホン酸銅塩、アルカノールスルホン酸銅塩、有機酸銅塩などから選択された1つのカテゴリー内の異なる2種類以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、銅めっき液の管理の観点からは、1種類の水溶性銅塩を単独で用いることが好ましい。
【0022】
銅めっき液は硫酸を含んでもよい。硫酸の添加量を調整することで、銅めっき液のpHおよび硫酸イオン濃度を調整できる。
【0023】
銅めっき液は一般的にめっき液に添加される添加剤を含む。添加剤として、ブライトナー成分、レベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などが挙げられる。銅めっき液は少なくともブライトナー成分を含む。また、銅めっき液はレベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などから選択された1種類を含んでもよいし、2種類以上を含んでもよい。
【0024】
ブライトナー成分は硫黄を含む。ブライトナー成分として、特に限定されないが、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(略称SPS)、3-メルカプトプロパン-1-スルホン酸(略称MPS)などから選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。レベラー成分は窒素を含有するアミンなどで構成される。レベラー成分として、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ヤヌス・グリーンBなどが挙げられる。ポリマー成分として、特に限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体から選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。塩素成分として、特に限定されないが、塩酸、塩化ナトリウムなどから選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0025】
銅めっき液の各成分の含有量は任意に選択できる。ただし、銅めっき液は銅を15~70g/L、硫酸を20~250g/L含有することが好ましい。そうすれば、銅めっき被膜20を十分な速度で成膜できる。銅めっき液はブライトナー成分を1~30mg/L含有することが好ましい。そうすれば、析出結晶を微細化し銅めっき被膜20の表面を平滑にできる。銅めっき液はレベラー成分を0.5~50mg/L含有することが好ましい。そうすれば、突起を抑制し平坦な銅めっき被膜20を形成できる。銅めっき液はポリマー成分を10~1,500mg/L含有することが好ましい。そうすれば、基材10端部への電流集中を緩和し均一な銅めっき被膜20を形成できる。銅めっき液は塩素成分を20~80mg/L含有することが好ましい。そうすれば、異常析出を抑制できる。
【0026】
銅めっき液の温度は23~38℃が好ましい。また、めっき槽40内の銅めっき液を撹拌することが好ましい。銅めっき液を撹拌する手段は、特に限定されないが、噴流を利用した手段を用いることができる。例えば、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材10に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌できる。
【0027】
めっき槽40の内部には、基材10の搬送方向に沿って複数のアノード41と複数のカソード42とが交互に配置されている。隣り合うアノード41、41の間に空間が空けられており、その空間にカソード42が配置されている。アノード41およびカソード42の材質および構造は、特に限定されないが、例えばチタンに酸化イリジウムをコーティングしたメッシュ状の不溶性電極でよい。また、基材10を把持するクランプ34は接地されている。
【0028】
アノード41と基材10との間に電流を流すと、基材10をカソードとした電解が行なわれる。以下、基材10をカソードとした電解を「正電解」と称する。また、めっき槽40のうち正電解を行なう区域を「正電解区域PZ」と称する。正電解を行なうことで、基材10の表面に銅めっき被膜20を成膜できる。
【0029】
一方、カソード42と基材10との間に電流を流すと、基材10をアノードとした電解が行なわれる。以下、基材10をアノードとした電解を「逆電解」と称する。また、めっき槽40のうち逆電解を行なう区域を「逆電解区域RZ」と称する。逆電解を行なうと、銅めっき被膜20の表面から銅が溶出する。
【0030】
アノード41およびカソード42は基材10の搬送方向に沿って交互に配置されている。したがって、めっき槽40内には、基材10の搬送方向に沿って、正電解区域PZと逆電解区域RZとが交互に設けられることになる。
【0031】
なお、正電解区域PZの数は、通常、2以上である。逆電解区域RZの数は1つでもよいし、複数でもよい。基材10の搬送方向を基準として、最も上流の区域および最も下流の区域は、通常、正電解区域PZである。
【0032】
めっき槽40に複数の正電解区域PZが配置される場合、複数の正電解区域PZにおける電流密度は同じでもよいし、異なってもよい。ただし、正電解区域PZにおける電流密度は、基材10の搬送方向の下流側に向かって、段階的に上昇するよう設定することが好ましい。また、めっき槽40に複数の逆電解区域RZが配置される場合、複数の逆電解区域RZにおける電流密度は同じでもよいし、異なってもよい。
【0033】
基材10は、正電解区域PZと逆電解区域RZとを交互に通過しながら、電解めっきされる。すなわち、めっき槽40では基材10に対して、正電解と逆電解とを交互に繰り返し行なう。これにより、銅めっき被膜20が成膜される。
【0034】
正電解における電流密度は逆電解における電流密度よりも高く設定される。また、正電解の一回あたりの時間(基材10の特定箇所が一の正電解区域PZを通過するのに要する時間)は、逆電解の一回あたりの時間(基材10の特定箇所が一の逆電解区域RZを通過するのに要する時間)よりも長く設定される。そのため、正電解と逆電解とを含む電解めっき全体としては、銅の電着量が溶出量よりも多くなる。
【0035】
なお、
図3に示すめっき槽40には、基材10の表裏両側にアノード41およびカソード42が配置されている。したがって、ベースフィルム11の両面に金属層12が形成された基材10を用いれば、基材10の両面に銅めっき被膜20を成膜できる。
【0036】
めっき槽40の内部に配置された複数のアノード41および複数のカソード42は、それぞれに整流器が接続されている。したがって、アノード41ごと、カソード42ごとに異なる電流密度となるように設定できる。ここで、正電解における電流密度を0.3~10.0A/dm2に設定することが好ましい。また、逆電解における電流密度を0.05~1.00A/dm2に設定することが好ましい。
【0037】
正電解の一回あたりの時間を30~60秒に設定することが好ましい。また、逆電解の一回あたりの時間を1~5秒に設定することが好ましい。
【0038】
このような方法により形成された銅めっき被膜20は不純物として硫黄を含む。また、
図1に示すように、銅めっき被膜20は高硫黄濃度層21と低硫黄濃度層22とが、厚さ方向に交互に積層された構造を有する。ここで、高硫黄濃度層21は相対的に硫黄濃度が高い層であり、低硫黄濃度層22は相対的に硫黄濃度が低い層である。
【0039】
このように、高硫黄濃度層21と低硫黄濃度層22とが積層される理由は、つぎのとおりであると考えられる。
正電解を行なっている間は、銅めっき被膜20の表面に添加剤(ブライトナー成分、レベラー成分およびポリマー成分)が吸着する。ここで、レベラー成分およびポリマー成分は正電解に起因する電気的な作用により銅めっき被膜20の表面に吸着する。一方、ブライトナー成分は電解に関わらず銅めっき被膜20の表面に吸着する。
【0040】
正電解に続いて逆電解を行なうと、銅めっき被膜20の表面に吸着していたレベラー成分およびポリマー成分は脱落する。一方、ブライトナー成分は逆電解においても銅めっき被膜20の表面に吸着したままである。また、レベラー成分およびポリマー成分が脱落した部分に新規のブライトナー成分が吸着することもある。その結果、銅めっき被膜20の表面は、相対的にブライトナー成分が多く吸着した状態となる。
【0041】
この状態で次の正電解が行なわれると、正電解の初期において、銅めっき被膜20に新たな銅が積層される際に多くのブライトナー成分が取り込まれる。そうすると、相対的にブライトナー成分が濃い層が形成される。ブライトナー成分には硫黄が含まれることから、ブライトナー成分が濃い層が高硫黄濃度層21となる。
【0042】
高硫黄濃度層21および低硫黄濃度層22の配置は、めっき槽40における正電解区域PZおよび逆電解区域RZの配置に依存する。低硫黄濃度層22の数は、通常、2以上である。高硫黄濃度層21の数は1つでもよいし、複数でもよい。基材10の表面(金属層12の表面)に直接積層される層および銅めっき被膜20の表面(基材10と反対側の面)に表れる層は、通常、低硫黄濃度層22である。
【0043】
このような構造を有する銅めっき被膜20は再結晶の進行が遅いという性質を有する。その理由は不明なところもあるが、概ねつぎのとおりであると考えられる。
銅めっき被膜20は銅めっき液のブライトナー成分に由来する硫黄の濃度が高い層(高硫黄濃度層21)と低い層(低硫黄濃度層22)とが交互に積層された構造を有する。銅めっき被膜20内の硫黄により再結晶が阻害されるため、銅めっき被膜20の再結晶の進行が遅くなる。
【0044】
銅めっき被膜20に含まれる不純物の濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)によって測定できる。高硫黄濃度層21の二次イオン質量分析法により測定した硫黄濃度は5×1018atoms/cm3以上であることが好ましい。低硫黄濃度層22の二次イオン質量分析法により測定した硫黄濃度は5×1018atoms/cm3未満であることが好ましい。硫黄濃度が上記の通りであれば、再結晶の進行を十分に遅くできる。
【0045】
また、銅めっき被膜20は高硫黄濃度層21を6層以上含むことが好ましい。そうであれば、再結晶の進行を十分に遅くできる。
【0046】
なお、銅めっき被膜20は硫黄以外の不純物、例えば、銅めっき液の添加剤に由来する塩素、炭素、酸素などを含んでもよい。
【実施例】
【0047】
つぎに、実施例を説明する。
(硫黄濃度測定試験)
まず、硫黄濃度測定試験を行なった。
つぎの手順で、基材を準備した。ベースフィルムとして、厚さ35μmのポリイミドフィルム(宇部興産社製 Upilex-35SGAV1)を用意した。ベースフィルムをマグネトロンスパッタリング装置にセットした。マグネトロンスパッタリング装置内にはニッケルクロム合金ターゲットと銅ターゲットとが設置されている。ニッケルクロム合金ターゲットの組成はCrが20質量%、Niが80質量%である。真空雰囲気下で、ベースフィルムの片面に、厚さ25nmのニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成し、その上に厚さ150nmの銅薄膜層を形成した。
【0048】
つぎに、銅めっき液を調整した。銅めっき液は硫酸銅を120g/L、硫酸を70g/L、ブライトナー成分を16mg/L、レベラー成分を20mg/L、ポリマー成分を1,100mg/L、塩素成分を50mg/L含有する。ブライトナー成分としてビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(RASCHIG GmbH社製の試薬)を用いた。レベラー成分としてジアリルジメチルアンモニウムクロライド-二酸化硫黄共重合体(ニットーボーメディカル株式会社製 PAS-A―5)を用いた。ポリマー成分としてポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体(日油株式会社製 ユニルーブ50MB-11)を用いた。塩素成分として塩酸(和光純薬工業株式会社製の35%塩酸)を用いた。
【0049】
前記銅めっき液が貯留されためっき槽に基材を供給した。電解めっきにより基材の片面に厚さ2.0μmの銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得た。ここで、銅めっき液の温度を31℃とした。また、電解めっきの間、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材の表面に対して略垂直に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌した。
【0050】
電解めっきにおいて正電解と逆電解とを交互に行なった。ここで、逆電解を6回行なった。具体的には、めっき開始時から、正電解(0.4A/dm2)を40秒、逆電解(0.01A/dm2)を3秒、正電解(0.4A/dm2)を40秒、逆電解(0.01A/dm2)を3秒、正電解(1.5A/dm2)を20秒、逆電解(0.01A/dm2)を3秒行なった後、45秒の正電解(3.0A/dm2)と3秒の逆電解(0.01A/dm2)とを一組として3回繰り返し、最後に正電解(3.0A/dm2)を45秒行なった。
【0051】
得られた銅張積層板に対して、銅めっき被膜の硫黄濃度を測定した。測定は二次イオン質量分析法によって行なった。測定装置としてアルバック・ファイ株式会社の四重極型二次イオン質量分析装置(PHI ADEPT-1010)を用いた。測定条件は、一次イオン種をCs+、一次加速電圧を5.0kV、検出領域を96×96μmとした。なお、本明細書における硫黄濃度の値は、前記条件で測定した値を基準とする。
【0052】
図4に測定結果を示す。
図4のグラフの横軸は銅めっき被膜の厚さ方向の位置である。0.0μmが銅めっき被膜の表面、2.0μmが銅薄膜層側の面である。縦軸は硫黄濃度である。
【0053】
図4のグラフから分かるように、銅めっき被膜の厚さ方向の硫黄濃度分布が周期的な4個のピークを有する分布となっている。1.9μm付近のピークは最初の3回の逆電解に対応する。残りの3個のピークはそれに続く3回の逆電解に対応する。各ピークの硫黄濃度は5×10
18atoms/cm
3以上である。また、ピーク間の下限は5×10
18atoms/cm
3未満である。したがって、この銅めっき被膜は高硫黄濃度層と低硫黄濃度層とが交互に積層された構成といえる。
【0054】
なお、二次イオン質量分析法による測定結果からはピークが4個しか確認できないが、銅めっき皮膜は、実際には、高硫黄濃度層を6層含んでいると推測される。測定装置の厚さ方向の分解能が高硫黄濃度層および低硫黄濃度層の厚みよりも大きいために、銅薄膜層側の3つの薄い高硫黄濃度層が合わさってブロードなピークとして現れていると考えられる。
【0055】
以上より、正電解と逆電解とを交互に行なうことで、高硫黄濃度層と低硫黄濃度層とが交互に積層された銅めっき被膜を成膜できることが確認された。
【0056】
(再結晶時間測定試験)
つぎに、再結晶時間測定試験を行なった。
硫黄濃度測定試験と同様の手順で基材および銅めっき液を準備した。また、硫黄濃度測定試験と同様の手順で基材の片面に銅めっき被膜を成膜した。
【0057】
電解めっきにおいて正電解と逆電解とを交互に行なった。ここで、逆電解を6回行なった。具体的には、めっき開始時から、正電解(0.4A/dm2)を40秒、逆電解を3秒、正電解(0.4A/dm2)を40秒、逆電解を3秒、正電解(1.5A/dm2)を20秒、逆電解を3秒行なった後、45秒の正電解(3.0A/dm2)と3秒の逆電解とを一組として3回繰り返し、最後に正電解(3.0A/dm2)を45秒行なった。
【0058】
逆電解における電流密度を0.01、0.05、0.10、0.50、1.00、1.50A/dm2と変化させつつ、上記の作業を6回行なった。得られた6つの銅張積層板を、それぞれ試料1~6と称する。また、逆電解を行なわず(逆電解の時間が0)、その他の条件を同様として上記の作業を行なった。これにより得られた銅張積層板を試料7と称する
【0059】
得られた試料1~7について、銅めっき被膜の再結晶時間を測定した。再結晶時間は四探針法により銅めっき被膜の抵抗率の変化を観察することで測定した。銅めっき被膜の再結晶の進行にともない、結晶粒が大きくなり、抵抗率が変化する。抵抗率が一定になった時点で再結晶終了と判断する。めっき処理から再結晶終了までの経過時間を再結晶時間とした。なお、抵抗率の測定器として、三菱ケミカルアナリティック製のロレスタAX MCP-T370を用いた。
【0060】
【0061】
表1より、逆電解を行なう(試料1~6)と、逆電解を行なわない場合(試料7)に比べて銅めっき被膜の再結晶の進行が遅くなることが分かる。また、逆電解における電流密度を0.05~1.00A/dm2とすれば、再結晶時間が十分に長くなることが分かる。
【0062】
(光沢度測定試験)
つぎに、試料1~7について光沢度測定試験を行なった。
試料1~7のそれぞれに対して、めっき直後の銅めっき被膜の表面の光沢度を測定した。また、めっき処理から1週間経過した試料1~7のそれぞれに対して化学研磨を行ない、化学研磨後の銅めっき被膜の表面の光沢度を測定した。さらに、めっき処理から2週間経過した試料1~7のそれぞれに対して化学研磨を行ない、化学研磨後の銅めっき被膜の表面の光沢度を測定した。光沢度の測定器として、日本電色工業株式会社製のVSR400を用いた。
【0063】
その結果を
図5のグラフに示す。
図5のグラフの横軸は逆電解における電流密度である。縦軸は銅めっき被膜の表面の光沢度である。光沢度は銅めっき被膜の表面粗さの指標として用いることができる。光沢度が高いほど滑らかであり、光沢度が低いほど粗い。
【0064】
図5のグラフより、逆電解における電流密度が0.05~1.00A/dm
2の範囲であれば、めっき処理から2週間後でも光沢度0.8以上を維持でき、化学研磨後の銅めっき被膜の表面を滑らかにできることが確認できた。
【符号の説明】
【0065】
1 銅張積層板
10 基材
11 ベースフィルム
12 金属層
13 下地金属層
14 銅薄膜層
20 銅めっき被膜
21 高硫黄濃度層
22 低硫黄濃度層