(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220720BHJP
H02M 1/08 20060101ALI20220720BHJP
H03K 17/04 20060101ALI20220720BHJP
H03K 17/08 20060101ALI20220720BHJP
H03K 17/042 20060101ALI20220720BHJP
H03K 17/082 20060101ALI20220720BHJP
H03K 17/16 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M1/08 A
H03K17/04 Z
H03K17/08 Z
H03K17/042
H03K17/082
H03K17/16 Z
(21)【出願番号】P 2019040320
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2020-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2018069061
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桐淵 岳
(72)【発明者】
【氏名】宮川 智
(72)【発明者】
【氏名】福原 仁
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-090928(JP,A)
【文献】特開2016-187296(JP,A)
【文献】特開2015-166870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 1/08
H03K 17/04
H03K 17/08
H03K 17/042
H03K 17/082
H03K 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのスイッチング素子を直列接続した1つ以上のレグを備えたインバータ回路と、
前記インバータ回路内の各スイッチング素子のON/OFF制御を行う制御部と
を備え、
前記インバータ回路に、各レグを流れる電流を制限する1つ又は複数の電流制限回路が設けられており、
前記制御部は、前記インバータ回路に出力させるべき目標電圧又は目標電流が所定範囲外である場合には、各レグを流れる電流が制限されないように前記1つ又は複数の電流制限回路を制御すると共に、前記インバータ回路の各レグの2つのスイッチング素子を、デッドタイムを挟んで交互にON/OFF制御し、前記目標電圧又は目標電流が前記所定範囲内である場合には、各レグを流れる電流が制限されるように前記1つ又は複数の電流制限回路を制御すると共に、前記インバータ回路の各レグの2つのスイッチング素子を、デッドタイムを挟まずに交互にON/OFF制御する、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記インバータ回路のレグ毎に、そのレグを流れる電流を制限する前記電流制限回路が設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電流制限回路が、電流の制御対象となっているレグの一方のスイッチング素子のゲート電圧又はベース電流を調整することで当該レグを流れる電流を制限する回路であり、
前記制御部は、前記目標電圧又は目標電流が前記所定範囲内である場合には、前記一方のスイッチング素子のON時に前記一方のスイッチング素子を流れる電流が所定電流以下となるように前記電流制限回路を制御し、前記目標電圧又は目標電流が前記所定範囲外である場合には、前記一方のスイッチング素子のON時に前記一方のスイッチング素子を流れる電流が前記所定電流以下に制限されないように前記電流制限回路を制御する、
ことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記目標電圧又は目標電流が前記所定範囲内である場合において、前記一方のスイッチング素子をONする場合には、前記電流制限回路の応答速度に基づき定められた上昇パターン及び上昇開始タイミングで前記一方のスイッチング素子のONタイミ
ング以前に前記一方のスイッチング素子のゲート電圧又はベース電流が上昇し始めるように前記電流制限回路を制御する、
ことを特徴とする請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記一方のスイッチング素子が、電流センス付きスイッチング素子であり、
前記電流制限回路が、前記一方のスイッチング素子の電流センス端子を流れる電流に基づき、前記レグを流れる電流を制限する回路である、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置とインバータ回路とに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のレグを備えたインバータ回路をPWM(pulse width modulation)制御することで直流電力を交流電力に変換することが行われているが、各レグを構成するスイッチング素子(IGBT等)には、スイッチング遅延時間がある。そのため、各レグの2スイッチング素子を同時にオン/オフすると、各レグが短絡する期間(2スイッチング素子が共にオンとなる期間)が生じてしまう。そのような期間があると各スイッチング素子に過大な電流が流れてしまうため、インバータ回路のPWM制御時には、各レグの2スイッチング素子の制御信号に、デッドタイムが挿入されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デッドタイムを挿入すると、デッドタイムの長さ分、出力電圧が低下したり、不感帯が生じたりするが、インバータ回路のPWM制御時には、出力電圧または電流を目標値と一致させるための電圧または電流フィードバック制御が行われる。そのため、デッドタイムを設けても、最終的には出力電圧または電流を目標値とすることができる。ただし、低出力時にフィードバックにおける偏差が小さいため出力が目標値となるには時間がかかるため、従来のデッドタイムを有したPWM制御では、低出力時において応答性良く電力変換装置やインバータを制御することが困難であった。一方で、デッドタイムをなくして応答性を上げようとすると、インバータ回路をスイッチングではなくリニア制御する必要があり、特に大電力を扱う場合には回路の損失が大きく非効率となったり、装置が大きくなり実用上困難であった。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、低出力の交流電力を応答性良く出力でき、かつ、大出力時でも効率が良い電力変換装置、及び、そのような電力変換装置の構成要素として使用できるインバータ回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一観点による電力変換装置は、2つのスイッチング素子を直列接続した1つ以上のレグを備えたインバータ回路と、前記インバータ回路内の各スイッチング素子のON/OFF制御を行う制御部と、を備える。また、電力変換装置のインバータ回路には、各レグを流れる電流を制限する1つ又は複数の電流制限回路が設けられている。そして、電力変換装置の制御部は、前記インバータ回路に出力させるべき目標電圧又は目標電流が所定範囲外である場合には、各レグを流れる電流が制限されないように前記1つ又は複数の電流制限回路を制御すると共に、前記インバータ回路の各レグの2つのスイッチング素子をデッドタイムを挟んで交互にON/OFF制御し、前記目標電圧又は前記目標電流が前記所定範囲内である場合には、各レグを流れる電流が制限されるように前記1つ又は複数の電流制限回路を制御すると共に、前記インバータ回路の各レグの2つのスイッチング素子をデッドタイムを挟まずに交互にON/OFF制御する。
【0007】
すなわち、本発明の一観点による電力変換装置は、低出力時には、インバータ回路の各
レグの2つのスイッチング素子が、デッドタイムを挟まずにON/OFFされる構成であって、そのような制御により各レグに過大な電流が流れることは1つ又は複数の電流制限回路によって抑止される構成を有する。従って、この電力変換装置によれば、低出力の交流電力を応答性良く出力できると共に、大出力時でも効率良く電力を変換できることになる。
【0008】
電力変換装置に、インバータ回路のバスに電流制限回路が設けられている構成を採用しても、インバータ回路のレグ毎に、そのレグを流れる電流を制限する前記電流制限回路が設けられている構成を採用しても良い。
【0009】
電力変換装置に、後者の構成を採用する場合には、さらに、『前記電流制限回路が、電流の制御対象となっているレグの一方のスイッチング素子のゲート電圧又はベース電流を調整することで当該レグを流れる電流を制限する回路であり、前記制御部は、前記目標電圧又は目標電流が前記所定範囲内である場合には、前記一方のスイッチング素子のON時に前記一方のスイッチング素子を流れる電流が所定電流以下となるように前記電流制限回路を制御し、前記目標電圧又は目標電流が前記所定範囲外である場合には、前記一方のスイッチング素子のON時に前記一方のスイッチング素子を流れる電流が前記所定電流以下に制限されないように前記電流制限回路を制御する』構成を採用しておいても良い。
【0010】
この構成を採用する場合には、電流制限回路の応答速度が遅くても貫通電流が流れないようにするために、『前記制御部は、前記目標電圧又は目標電流が前記所定範囲内である場合において、前記一方のスイッチング素子をONする場合には、前記電流制限回路の応答速度に基づき定められた上昇パターン及び上昇開始タイミングで前記一方のスイッチング素子のONタイミング以前に前記一方のスイッチング素子のゲート電圧又はベース電流が上昇し始めるように前記電流制限回路を制御する』構成を採用しても良い。
【0011】
電力変換装置に、『前記一方のスイッチング素子が、電流センス付きスイッチング素子であり、前記電流制限回路が、前記一方のスイッチング素子の電流センス端子を流れる電流に基づき、前記レグを流れる電流を制限する回路である』構成を採用しておいても良い。
【0012】
また、本発明の一観点によるインバータ回路は、直流電力を交流電力に変換するためのインバータ回路であって、2つのスイッチング素子を直列接続した1つ以上のレグと、各レグを流れる電流を制限する1つ又は複数の電流制限回路と、を備える。従って、このインバータ回路を用いておけば、低出力の交流電力を応答性良く出力できる電力変換装置を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低出力の交流電力を応答性良く出力できると共に、大出力時でも効率良い電力を変換できる電力変換装置と、そのような電力変換装置の構成要素として使用できるインバータ回路とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る電力変換装置の概略構成及び使用形態の説明図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る電力変換装置が備えるインバータ回路の各レグの回路構成の説明図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る電力変換装置が備える制御部の機能ブロック図である。
【
図4】
図4は、IGBTの順方向特性の説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る電力変換装置の機能を説明するための図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の第2実施形態に係る電力変換装置における第2制御信号の制御例の説明図である。
【
図6B】
図6Bは、第2実施形態に係る電力変換装置における第2制御信号の制御例の説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る電力変換装置の変形例の説明図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る電力変換装置の変形例の説明図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る電力変換装置の変形例の説明図である。
【
図10】
図10は、
図8、
図9に示した電力変換装置に使用できる電流制限回路の回路構成例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
《第1実施形態》
図1に、本発明の第1実施形態に係る電力変換装置20の概略構成及び使用形態を示す。本実施形態に係る電力変換装置20は、モータ(三相モータ)40を駆動するための装置である。図示してあるように、電力変換装置20は、パワー回路21と制御部10とを備える。
【0017】
パワー回路21は、モータ40に供給する三相交流を生成するための回路である。図示してあるように、パワー回路21は、三相電源50からの三相交流を整流するための整流回路22、及び、平滑コンデンサ23を備える。さらに、パワー回路21は、平滑コンデンサ23により平滑化された整流回路22の出力電圧を、三相交流電圧に変換するためのインバータ回路24を備える。
【0018】
インバータ回路24は、正負の母線間に、U相用のレグ25、V相用のレグ25及びW相用のレグ25を並列接続した回路である。詳細については後述するが、このインバータ回路24の各レグ25は、直列接続された2つのスイッチング素子と、自レグ25を流れる電流の大きさを制限するための電流制限回路(図示略)とにより構成されている。なお、
図1には、各スイッチング素子として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を示してあるが、各レグ25を構成する各スイッチング素子は、IGBT以外のスイ
ッチング素子(MOS-FET、バイポーラトランジスタ等)であっても良い。
【0019】
電力変換装置20には、インバータ回路24の各レグ25の出力電流を測定するための電流センサ28が設けられている。以下、各電流センサ28によるU、V、W相の出力電流の測定結果のことを、それぞれ、U相電流測定値、V相電流測定値、W相電流測定値と表記する。
【0020】
制御部10は、PLC(Programmable logic controller)等の上位装置30からの指
示に従って、インバータ回路24を制御するユニットである。制御部10は、プロセッサとその周辺回路とから構成されており、制御部10には、各電流センサ28からの信号、モータ40に取り付けられたエンコーダ41(アブソリュートエンコーダやインクリメンタルエンコーダ)からの信号等が、入力されている。
【0021】
以下、電力変換装置20の構成をさらに具体的に説明する。
【0022】
まず、インバータ回路24の各レグ25の回路構成について説明する。なお、以下では、説明の便宜上、各レグ25のハイサイド側のスイッチング素子、ローサイド側のスイッチング素子のことを、それぞれ、第1スイッチング素子、第2スイッチング素子と表記す
る。
【0023】
図2に、本実施形態に係るインバータ回路24の各レグ25の回路構成を示す。図示してあるように、インバータ回路24の各レグ25は、基本的には、2つのスイッチング素子を直列接続したユニット(回路)である。ただし、各レグ25には、オペアンプと抵抗R1及び抵抗R2とにより構成された、第2スイッチング素子のゲート電極に電圧を印加するための電流制限回路26が設けられている。以下、抵抗R1の抵抗値のこともR1と表記する。
【0024】
図示してある回路構成から明らかなように、電流制限回路26は、第2制御信号として入力される電圧Vinと抵抗R1の両端間の電圧とが一致するように第2ゲート電極への印加電圧を調整することで第2スイッチング素子を流れる電流値をVin/R1に制限する回路である。なお、電流制限回路26内の抵抗R2は、過電流が流れることを防止するための抵抗である。従って、抵抗R2は省略しても良い。
【0025】
次に、制御部10(
図1)によるインバータ回路24の制御内容を説明する。
【0026】
図3に、制御部10の機能ブロック図を示す。
図示してあるように、制御部10は、電流制御部33及び制御信号生成部35として動作するように構成されている。
【0027】
電流制御部33は、電流指令値と、U相電流測定値、V相電流測定値及びW相電流測定値とに基づき、U相用の電圧指令値Vu、V相用の電圧指令値Vv及びW相用の電圧指令値Vwを生成するユニット(機能ブロック)である。
【0028】
より具体的には、電流制御部33は、電流指令値に基づき、各相用の電流指令値を生成し、生成した各相当の電流指令値と各相の電流測定値の偏差のPI演算により、各相用の電圧指令値を生成する。なお、電流制御部33に入力される電流指令値は、上位装置30から入力される値自体であっても、上位装置30から入力される情報や指示に基づき、制御部10内で生成される値であっても良い。
【0029】
制御信号生成部35は、電流制御部33からの各相の電圧指令値(Vu、Vv、Vw)に基づき、インバータ回路24内の各スイッチング素子をON/OFF制御するための制御信号を生成するユニットである。
【0030】
制御信号生成部35が各レグ25の第1スイッチング素子を制御するために生成する第1制御信号は、各レグ25の第1スイッチング素子のゲート電極に供給される通常のPWM信号である。一方、制御信号生成部35が各レグ25の第2スイッチング素子を制御するために生成する第2制御信号は、各レグ25の電流制限回路26内のオペアンプに供給される信号(
図2参照)となっている。そして、制御信号生成部35は、第1及び第2制御信号の生成アルゴリズムを電圧指令値V(Vu、Vv又はVw)に基づき変更するように構成されている。
【0031】
具体的には、制御信号生成部35は、電圧指令値Vが、-V
LMT以上且つV
LMT以下の値である場合には、当該電圧指令値Vに基づき、デッドタイムを挟んでいない(挿入していない)第1及び第2制御信号を生成する。また、この場合、制御信号生成部35は、第2スイッチング素子をONさせる際の第2制御信号のレベル(電圧値)を、ON状態にある第2スイッチング素子を、短絡電流の許容値として予め定められている電流値(以下、規定電流値と表記する)の電流しか流れないレベルに制御する。より具体的には、IGBTは、
図4に示したような順方向特性を有している。制御部10は、IGBT(第2
スイッチング素子)の活性領域が使用されてIGBT(第2スイッチング素子)のコレクタ電流(I
CE)が規定電流値以下となるように、電流制限回路26を介してIGBT(第2スイッチング素子)のゲート電圧を制御する。
【0032】
一方、電圧指令値Vが-V
LMT以上且つV
LMT以下の値ではない場合、制御信号生成部35は、当該電圧指令値Vに基づき、デッドタイムを挟んだ形の第1及び第2制御信号を生成する。また、この場合、制御信号生成部35は、第2スイッチング素子をONさせる際の第2制御信号のレベルを、第2スイッチング素子を流れる電流値が電流制限回路26によって制限されないレベルに制御する。すなわち、制御信号生成部35は、IGBT(第2スイッチング素子)の飽和領域(
図4参照)が使用されてIGBT(第2スイッチング素子)に十分な電流が流れるように、電流制限回路26を介してIGBT(第2スイッチング素子)のゲート電圧を制御する。
【0033】
以下、説明したように、本実施形態に係る電力変換装置20が備えるインバータ回路24の各レグ25には、各レグ25を流れる電流値を制限可能な電流制限回路26が設けられている。
【0034】
また、電力変換装置20が備える制御部10(制御信号生成部35)は、各レグ25の目標出力電圧(各相の電圧指令値)が所定電圧範囲内(-VLMT~VLMTの範囲内)ではない場合には、ON状態にある第2スイッチング素子を流れる電流値(以下、ON電流値と表記する)に特に制限を課すことなくデッドタイムを挟んで第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子を交互にON/OFFする。
【0035】
さらに、制御部10は、目標出力電圧が所定電圧範囲内である場合には、ON電流値が規定電流値以下となるレベルの第2制御信号を生成してデッドタイムを挟まずに第1スイッチング素子と第2スイッチング素子とを交互にON/OFFする。
図5に模式的に示してあるように、或るレグ25内の2スイッチング素子の制御信号を同時に変化させた場合、当該レグ25に電流制限回路26が設けられていなければ、大きな短絡電流が流れてしまうが、当該レグ25に電流制限回路26が設けられていれば、短絡電流の大きさを問題が生じないレベルまで低減することが出来る。より具体的には、第2スイッチング素子のOFF⇒ON時には、電流制限回路26により直接的に第2スイッチング素子を流れる電流が制限される。また、第1スイッチング素子のOFF⇒ON時(つまり、第2スイッチング素子のON⇒OFF時)、第1スイッチング素子に大きな電流が流れようとしても、第2スイッチング素子がON⇒OFFに遷移しようとするため、電流制限回路26により制限された電流以上の電流が流れないことになる。
【0036】
そして、各レグ25の2スイッチング素子を、デッドタイムを挟まずにON/OFFすれば、デッドタイムに起因する出力低下がない形でインバータ回路24を制御できる。
【0037】
従って、この電力変換装置20は、低出力の交流電力を応答性良く出力でき、且つ、大出力時でも効率が良い装置として機能することになる。
【0038】
《第2実施形態》
以下、第1実施形態の電力変換装置20の説明時に用いたものと同じ符号を用いて、本発明の第2実施形態に係る電力変換装置20について説明する。なお、以下では、第N(N=1,2)実施形態に係る電力変換装置20、当該電力変換装置20の制御部10のことを、それぞれ、第N電力制御装置20、第N制御部10とも表記する。
【0039】
上記した第1電力変換装置20では、各レグ25の電流制限回路26の応答速度が十分に速くない場合には、第2スイッチング素子を流れる電流値を制限できずに、各レグ25
に規定電流値を超える短絡電流が流れる虞がある。第2電力変換装置20は、各レグ25の電流制限回路26の応答速度が遅くても、各レグ25に規定電流値を超える短絡電流が流れないように、第1電力変換装置20を改良したものである。
【0040】
詳細には、第2電力制御装置20(第2実施形態に係る電力制御装置20)は、第1電力制御装置20と同じハードウェア構成を有している。また、第2制御部10(第2電力制御装置20の制御部10)は、各レグ25の目標出力電圧が所定電圧範囲内ではない場合には、第1制御部10と同様に、ON電流値(ON状態にある第2スイッチング素子を流れる電流値)に特に制限を課すことなくデッドタイムを挟んで第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子を交互にON/OFFする。
【0041】
第2制御部10は、各レグ25の目標出力電圧が所定電圧範囲内である場合にも、第1制御部10と同様に、ON電流値が規定電流値以下となるレベル(以下、電流制限用レベルと表記する)の第2制御信号を生成してデッドタイムを挟まずに第1スイッチング素子と第2スイッチング素子とを交互にON/OFFする。ただし、第2制御部10は、第2スイッチング素子をONする場合には、電流制限回路26の応答速度に応じた上昇パターン及び上昇開始タイミングで、第2スイッチング素子のONタイミング以前に第2制御信号のレベル(すなわち、第2スイッチング素子のゲート電圧)が上昇し始めるように電流制限回路26を制御する。
【0042】
なお、電流制限回路26の応答速度に応じた上昇パターン及び上昇開始タイミングとは、使用されている電流制限回路26の応答速度でもON状態にある第2スイッチング素子を流れる電流値が規定電流値以下となるように定められた第2制御信号の上昇パターン及び上昇開始タイミングのことである。これらのパラメータは、使用されている電流制限回路26の応答速度でもON電流値が規定電流値以下となるように、シミュレーションや実験により定めておけば良い。また、第2制御信号の上昇パターンは、
図6Aに示したように、上昇開始タイミング(第2スイッチング素子のONタイミング-Δt)から第2スイッチング素子のONタイミングまで一定レートで増加するものであっても良い。第2制御信号の上昇パターンは、
図6Bに示したように、第2スイッチング素子のONタイミングとなる前に、第2制御信号が電流制限用レベルに到達するものであっても良い。さらに、第2制御信号の上昇パターンは、上昇レートが時間により変化するものであっても良い。
【0043】
以上、説明したように、本実施形態に係る電力制御装置20の制御部10(第2制御部10)は、第2スイッチング素子をONする場合には、電流制限回路26の応答速度に応じた上昇パターン及び上昇開始タイミングで、第2スイッチング素子のONタイミング以前に第2制御信号のレベルが上昇し始めるように電流制限回路26を制御する。従って、本実施形態に係る電力制御装置20は、各レグ25の電流制限回路26の応答速度が遅くても、各レグ25に規定電流値を超える短絡電流が流れない装置として機能する。
【0044】
《変形例》
上記した各実施形態に係る電力変換装置20は、各種の変形を行えるものである。例えば、各実施形態に係る電力変換装置20のインバータ回路24を、
図7に示した回路構成を有するレグ25を備えたものに変形しても良い。すなわち、インバータ回路24を、第2スイッチング素子として電流センス付きスイッチング素子が用いられたレグ25であって、第2スイッチング素子の電流センス端子27を流れる電流値に基づき、第2スイッチング素子を流れる電流を制限する電流制限回路26が設けられたレグ25を備えたものに変形しても良い。
【0045】
各実施形態に係る電力変換装置20の制御部10を、目標出力電圧ではなく目標出力電流に基づき、各スイッチング素子に対する制御内容を変更するものに変形しても良い。
【0046】
電流制限回路26は、スイッチング素子を流れる電流を抵抗R1やR3で検出するものであったが、電流制限回路26として、スイッチング素子を流れる電流を、当該電流と共に変化する他の値で検出するものを採用しても良い。なお、他の値としては、スイッチング素子がFETである場合には、Vdsを例示でき、スイッチング素子がIGBTやトランジスタである場合には、Vceを例示できる。
【0047】
また、上記した電流制限回路26は、第2スイッチング素子(IGBT)のゲート電圧の制御により、レグを流れる電流を制限する回路であったが、
図8に模式的に示したように、各レグ25に、各スイッチング素子とは別に電流制限回路42を設けておいても良い。また、
図9に模式的に示したように、インバータ回路24のバスに、1つの電流制限回路43を設けておいても良い。
【0048】
なお、上記のような形で使用可能な電流制限回路42、43としては、
図10(A)、(B)に示した回路構成の回路を例示できる。また、
図8又は
図9に示した構成を採用する場合、制御部10を、インバータ回路24に出力させるべき目標電圧又は目標電流が所定範囲外である場合には、各レグ25を流れる電流が制限されないように各電流制限回路42又は電流制限回路43を制御すると共に、各レグ25の2つのスイッチング素子を、デッドタイムを挟んで交互にON/OFF制御し、目標電圧又は目標電流が所定範囲内である場合には、各レグ25を流れる電流が制限されるように各電流制限回路42又は電流制限回路43を制御すると共に、各レグ25の2つのスイッチング素子を、デッドタイムを挟まずに交互にON/OFF制御するユニットとしておけば良い。
【0049】
電力変換装置20を、モータ40以外の機器に交流電力を供給する装置や、インバータ回路24内のレグ25の数が3ではない装置に変形しても良い。また、電力変換装置20を、具体的な処理手順が上記したものとは異なる装置(例えば、PWMパルスの立ち上がり、立ち下がり位置を変更することでデッドタイムを挿入する装置)に変形しても良い。
【0050】
《付記》
(1) 2つのスイッチング素子を直列接続した1つ以上のレグ(25)を備えたインバータ回路(24)と、
前記インバータ回路(24)内の各スイッチング素子のON/OFF制御を行う制御部(10)と
を備え、
前記インバータ回路(24)に、各レグを流れる電流を制限する1つ又は複数の電流制限回路(26;42;43)が設けられており、
前記制御部(10)は、前記インバータ回路(24)に出力させるべき目標電圧又は目標電流が所定範囲外である場合には、各レグ(25)を流れる電流が制限されないように前記1つ又は複数の電流制限回路(26;42;43)を制御すると共に、前記インバータ回路(24)の各レグ(25)の2つのスイッチング素子を、デッドタイムを挟んで交互にON/OFF制御し、前記目標電圧又は目標電流が前記所定範囲内である場合には、各レグ(25)を流れる電流が制限されるように前記1つ又は複数の電流制限回路(26;42;43)を制御すると共に、前記インバータ回路(24)の各レグ(25)の2つのスイッチング素子を、デッドタイムを挟まずに交互にON/OFF制御する、
ことを特徴とする電力変換装置。
【0051】
(2) 直流電力を交流電力に変換するためのインバータ回路(24)であって、
2つのスイッチング素子を直列接続した1つ以上のレグ(25)と、
各レグ(25)を流れる電流を制限する1つ又は複数の電流制限回路(26;42;43)と、
を備えることを特徴とするインバータ回路(24)。
【符号の説明】
【0052】
10 制御部
20 電力変換装置
21 パワー回路
22 整流回路
23 平滑コンデンサ
24 インバータ回路
25 レグ
26、42、43 電流制限回路
28 電流センサ
30 上位装置
33 電流制御部
35 PWM信号生成部
40 モータ
41 エンコーダ
50 三相電源