IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オムロン株式会社の特許一覧

特許7107269制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム
<>
  • 特許-制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム 図1
  • 特許-制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム 図2
  • 特許-制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム 図3
  • 特許-制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム 図4
  • 特許-制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム 図5
  • 特許-制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム 図6
  • 特許-制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム 図7
  • 特許-制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム 図8
  • 特許-制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム 図9
  • 特許-制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム 図10
  • 特許-制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム 図11
  • 特許-制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム 図12
  • 特許-制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 5/46 20060101AFI20220720BHJP
   G05D 3/00 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
H02P5/46 K
G05D3/00 Q
H02P5/46 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019072100
(22)【出願日】2019-04-04
(65)【公開番号】P2020171166
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 健治
(72)【発明者】
【氏名】恵木 守
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-134882(JP,A)
【文献】特開2014-156340(JP,A)
【文献】特開2006-50875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 5/46
G05D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つのサーボモータを制御し、該サーボモータのそれぞれによって駆動される軸に対して機械的に接続された部材を移動させる制御装置であって、
二つの前記サーボモータの間のトルクバランスを調整するトルクバランス調整部を備え、
前記トルクバランス調整部は、両方の前記サーボモータに対するサーボ制御により前記部材の位置決め制御を実行した場合における前記部材の位置と、両方の前記サーボモータに対するサーボ制御を行う状態から前記サーボモータの一方に対するサーボ制御を維持し、前記サーボモータの他方に対するサーボ制御を解除した場合の前記部材の位置との差に基づいて前記サーボモータの他方に対する位置指令を補正する補正量を取得することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記トルクバランス調整部は、
前記部材の位置決め制御を実行する際に、前記軸に沿った一方を正方向とし、他方を負方向とするとき、前記部材の位置の正方向側において前記部材を正方向及び負方向に移動させたときの前記差と、該位置の負方向側において前記部材を負方向及び正方向に移動させたときの前記差との平均値に基づいて前記補正量を取得することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記トルクバランス調整部は、
前記軸に対して前記部材を複数位置に移動させて、各位置において前記補正量を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記トルクバランス調整部は、
前記部材の移動範囲に亘って前記軸に対して前記部材を移動させて前記補正量を取得し、前記部材の移動範囲における前記部材の位置と前記補正量とを関連付けた補正マップに基づいて、前記サーボモータの他方に対する位置指令を補正することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
二つのサーボモータを制御し、該サーボモータのそれぞれによって駆動される軸に対して機械的に接続された部材を移動させる際の、二つの該サーボモータの間のトルクバランスを調整する方法であって、
両方の前記サーボモータに対するサーボ制御により前記部材の位置決め制御を実行した場合における前記部材の第1の位置を取得するステップと、
両方の前記サーボモータに対するサーボ制御を行う状態から前記サーボモータの一方に対するサーボ制御を維持し、前記サーボモータの他方に対するサーボ制御を解除した場合の前記部材の第2の位置を取得するステップと、
前記第1の位置と前記第2の位置との差に基づいて前記他方のサーボモータに対する位置指令を補正する補正量を取得するステップと、
を含むトルクバランス調整方法。
【請求項6】
前記部材の位置決め制御を実行する際に、前記軸に沿った一方を正方向とし、他方を負方向とするとき、前記部材の位置の正方向側において前記部材を正方向及び負方向に移動させたときの前記差を第1の差として取得するステップと、
前記部材の位置の負方向側において前記部材を負方向及び正方向に移動させたときの前記差を第2の差として取得するステップと、
前記第1の差と前記第2の差との平均値に基づいて前記補正量を取得するステップを含むことを特徴とする請求項5に記載のトルクバランス調整方法。
【請求項7】
前記軸に対して前記部材を複数位置に移動させた、各位置において前記補正量を取得するステップを含むことを特徴とする請求項5又は6に記載のトルクバランス調整方法。
【請求項8】
前記部材の移動範囲に亘って前記軸に対して前記部材を移動させて前記補正量を取得するステップと、
前記部材の移動範囲における前記部材の位置と前記補正量とを関連付けた補正マップを作成するステップと、
前記補正マップに基づいて、前記サーボモータの他方に対する位置指令の補正量を取得するステップを含むことを特徴とする請求項7に記載のトルクバランス調整方法。
【請求項9】
二つのサーボモータを制御し、該サーボモータのそれぞれによって駆動される軸に対して機械的に接続された部材を移動させる際の、二つの該サーボモータの間のトルクバランスを調整するためのプログラムであって、
両方の前記サーボモータに対するサーボ制御により前記部材の位置決め制御を実行した場合における前記部材の第1の位置を取得するステップと、
両方の前記サーボモータに対するサーボ制御を行う状態から前記サーボモータの一方に対するサーボ制御を維持し、前記サーボモータの他方に対するサーボ制御を解除した場合の前記部材の第2の位置を取得するステップと、
前記第1の位置と前記第2の位置との差に基づいて前記サーボモータの他方に対する位置指令を補正する補正量を取得するステップと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、トルクバランス調整方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガントリ機構を有する負荷機械のように、制御軸間での干渉が生じ得る機械においては、干渉が生じ得る制御軸の間でトルクアンバランスが生じることがある。
【0003】
このように制御軸間でトルクのアンバランスが生じる場合には、設計段階から計算するか、又は、経験者が試行錯誤的にトルクバランスを調整していた。
【0004】
このため、トルクバランスの調整に時間がかかるという不都合が生じる場合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、効率的にトルクバランスを調整できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための本発明は、
二つのサーボモータを制御し、該サーボモータのそれぞれによって駆動される軸に対して機械的に接続された部材を移動させる制御装置であって、
二つの前記サーボモータの間のトルクバランスを調整するトルクバランス調整部を備え、
前記トルクバランス調整部は、両方の前記サーボモータに対するサーボ制御により前記部材の位置決め制御を実行した場合における前記部材の位置と、前記サーボモータの一方に対するサーボ制御を維持し、前記サーボモータの他方に対するサーボ制御を解除した場合の前記部材の位置との差に基づいて前記サーボモータの他方に対する位置指令を補正する補正量を取得することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、サーボ制御のオン・オフにより補正量を取得できるので、効率的にトルクバランスを調整することが可能である。
【0008】
また、本発明においては、
前記トルクバランス調整部は、
前記部材の位置決め制御を実行する際に、前記軸に沿った一方を正方向とし、他方を負方向とするとき、前記部材の位置の正方向側において前記部材を正方向及び負方向に移動させたときの前記差と、該位置の負方向側において前記部材を負方向及び正方向に移動させたときの前記差との平均値に基づいて前記補正量を取得するようにしてもよい。
【0009】
このようにすれば、静止摩擦の影響を排除して、より正確にトルクバランスを調整することができる。
【0010】
また、本発明においては、
前記トルクバランス調整部は、
前記軸に対して前記部材を複数位置に移動させて、各位置において前記補正量を取得するようにしてもよい。
【0011】
このようにすれば、所望の範囲での補正量を取得するので、より効率的にトルクバランスの調整が可能となる。
【0012】
また、本発明においては、
前記トルクバランス調整部は、
前記部材の移動範囲に亘って前記軸に対して前記部材を移動させて前記補正量を取得し、前記部材の移動範囲における前記部材の位置と前記補正量とを関連付けた補正マップに基づいて、前記サーボモータの他方に対する位置指令を補正するようにしてもよい。
【0013】
このようにすれば、トルクバランスが位置に依存する場合にも、補正マップを利用して効率的にトルクバランスを調整できる。
【0014】
また、本発明は、
二つのサーボモータを制御し、該サーボモータのそれぞれによって駆動される軸に対して機械的に接続された部材を移動させる際の、二つの該サーボモータの間のトルクバランスを調整する方法であって、
両方の前記サーボモータに対するサーボ制御により前記部材の位置決め制御を実行した場合における前記部材の第1の位置を取得するステップと、
前記サーボモータの一方に対するサーボ制御を維持し、前記サーボモータの他方に対するサーボ制御を解除した場合の前記部材の第2の位置を取得するステップと、
前記第1の位置と前記第2の位置との差に基づいて前記他方のサーボモータに対する位置指令を補正する補正量を取得するステップと、
を含む。
【0015】
また、本発明は、
前記部材の位置決め制御を実行する際に、前記軸に沿った一方を正方向とし、他方を負方向とするとき、前記
部材の位置の正方向側において前記部材を正方向及び負方向に移動させたときの前記差を第1の差として取得するステップと、
前記部材の位置の負方向側において前記部材を負方向及び正方向に移動させたときの前記差を第2の差として取得するステップと、
前記第1の差と前記第2の差との平均値に基づいて前記補正量を取得するステップを含むようにしてもよい。
【0016】
また、本発明は、
前記軸に対して前記部材を複数位置に移動させた、各位置において前記補正量を取得するステップを含むようにしてもよい。
【0017】
また、本発明は、
前記部材の移動範囲に亘って前記軸に対して前記部材部材を移動させて前記補正量を取得するステップと、
前記部材の移動範囲における前記部材の位置と前記補正量とを関連付けた補正マップを作成するステップと、
前記補正マップに基づいて、前記サーボモータの他方に対する位置指令の補正量を取得するステップを含むようにしてもよい。
【0018】
また、本発明は、
二つのサーボモータを制御し、該サーボモータのそれぞれによって駆動される軸に対して機械的に接続された部材を移動させる際の、二つの該サーボモータの間のトルクバランスを調整するためのプログラムであって、
両方の前記サーボモータに対するサーボ制御により前記部材の位置決め制御を実行した場合における前記部材の第1の位置を取得するステップと、
前記サーボモータの一方に対するサーボ制御を維持し、前記サーボモータの他方に対するサーボ制御を解除した場合の前記部材の第2の位置を取得するステップと、
前記第1の位置と前記第2の位置との差に基づいて前記他方のサーボモータに対する位置指令を補正する補正量を取得するステップと、
をコンピュータに実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、効率的にトルクバランスを調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1における制御システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】トルクアンバランスが生じた状態を示すグラフである。
図3】トルクアンバランスが生じる機序を説明する模式図である。
図4】実施例1における補正量算出の流れを示すフローチャートである。
図5】補正量算出を模式的に説明する図である。
図6】実施例1におけるトルクバランス調整の効果を示すグラフである。
図7】実施例2における補正量算出の流れを示すフローチャートである。
図8】実施例2における補正量算出時の機械要素の動作を説明する図である。
図9】実施例3における制御システムの概略構成を示すブロック図である。
図10】実施例3における補正マップ作成の流れを示すフローチャートである。
図11】実施例3におけるトルクバランス調整の効果を示すグラフである。
図12】実施例1の変形例に係る制御システムの概略構成を示すブロック図である。
図13】実施例3の変形例に係る制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔適用例〕
以下、本発明の適用例について、図面を参照しつつ説明する。本発明は例えば、図1に示すような制御システム1に適用される。ここでは、負荷機械10は、ガントリ機構やタンデム機構のように軸間干渉を生じ得る複数の軸を有する多軸構成の機械である。図1に示された、サーボモータ2,3は、負荷機械10の互いに軸干渉を生じ得る軸を駆動する。
【0022】
ガントリ機構は、例えば、サーボモータ2,3によって駆動される平行な二軸11,12と、これらの二軸に直交するように機械的に接続された機械要素13とを含む。サーボモータ2,3によって駆動される軸をそれぞれ第1軸11、第2軸12(図3参照)という。このような負荷機械10において第1軸11と第2軸12にトルクアンバランスが生じる場合について説明する。ここでは、機械要素13が部材に相当する。
【0023】
図2の上段は、第1軸11及び第2軸12の速度を示す。第1軸11の速度が実線で表記され、第2軸12の速度が破線で示されているが、第1軸11の速度と第2軸12の速度とはほとんど重なっている。図2の下段は、このときの第1軸11と第2軸12に対するトルク指令を示す。このとき、図3に理想状態として示すように、第1軸11と第2軸12に対して、機械要素13は軸方向の同じ位置に停止することになる。しかし、図3に位置ずれ状態として示すように、第1軸11と第2軸12に対して、機械要素13の軸方向の位置がずれている場合に、両軸の制御に対してサーボ制御が行われていると、両軸に対する機械要素13の位置を揃えるために、第1軸11と第2軸には、各々矢示する逆方
向のトルクが発生する。図2の下段のグラフはこの状態を示しており、第1軸11と第2軸12には、破線で囲んだ矢印のように常に不必要なトルクがかかることになる。
【0024】
後に詳述するように、本発明では、トルクバランス調整部61が、図4に示すように、両方の軸に対するサーボ制御をオンしたときの機械要素13の位置と、一方の軸に対するサーボ制御をオフしたときの位置ずれ状態の機械要素13の位置との差を、エンコーダ20,30等により検出して取得する。そして、これを補正量としてトルクバランスを調整する。
このようにすれば、効率的にトルクバランスを調整することができる。
【0025】
〔実施例1〕
以下では、本発明の実施例に係るトルクアンバランス調整方法について、図面を用いて、より詳細に説明する。
【0026】
図1は、本実施例に係る制御システム1の概略構成を示すブロック図である。負荷機械10は、ガントリ機構やタンデム機構のように軸干渉を生じ得る複数の軸を有する多軸構成の機械である。サーボモータ2,3はそれぞれ互いに軸干渉を生じ得る軸を駆動する。サーボモータ2,3の軸には回転角を検出するエンコーダ20,30が設けられている。サーボモータ2,3には、指令信号に従ってサーボモータ2,3の駆動信号を出力するサーボドライバ4,5がそれぞれ接続される。そして、サーボドライバ4,5には、ユーザ又は外部装置からの入力に応じて指令信号を出力するコントローラ6が接続される。コントローラ6には、サーボモータ2,3のエンコーダ20,30を通じて機械要素13の位置情報を取得して軸間のトルクバランスを調整するトルクバランス調整部61が設けられている。機械要素13の位置を検出するリニアスケールを負荷機械10に備え、トルクバランス調整部61はリニアスケールから機械要素13の位置情報を取得するようにしてもよい。
【0027】
上述のように、本実施例に係るコントローラ6は、トルクバランス調整部61を有する。負荷機械10は、第1軸11と第2軸12が平行に配置され、この第1軸11及び第2軸12に直交する方向に機械的に接続された機械要素13を有するガントリ機構を含む。図4は、トルクバランス調整部61におけるトルクバランス調整方法としての補正量算出の流れを示すフローチャートである。図5は、補正量算出を模式的に説明する図である。ここでは、コントローラ6が制御装置に相当する。
【0028】
まず、トルクバランス調整部61は、第1軸11及び第2軸12に対する同じ位置指令に基づき、両軸に対してサーボ制御をオンした状態で、位置制御を行う(ステップS1)。この位置で、両軸にトルクアンバランスが発生しているとして説明する。次に、トルクバランス調整部61は、一定時間が経過するのを待つ(ステップS2)。そして、トルクバランス調整部61は、機械要素13の位置変化が安定したところで(ステップS3)、いずれかの軸(ここでは第2軸12)に対する現在位置(これをp1とする)を読み込む(ステップS4)。そして、トルクバランス調整部61は、一方の軸である第1軸11に対するサーボ制御をオンしたままで、他方の軸である第2軸12に対するサーボ制御をオフする(ステップS5)。次に、トルクバランス調整部61は、一定時間が経過するのを待つ(ステップS6)。そして、トルクバランス調整部61は、機械要素13の位置変化が安定したところで(ステップS7)、再度、第2軸12に対する現在位置(これをp2とする)を読み込む(ステップS8)。このように一方の軸に対するサーボ制御をオンしたままで、他方の軸に対するサーボ制御をオフすることにより、サーボ制御がオフされた軸が、捩じれがない安定な状態に戻るように捩じれた分だけ変化する。トルクバランス調整部61は、第2軸12に対する機械要素13(破線で示す)の位置(p1)と、第2軸12に対する機械要素13(実線で示す)の位置(p2)の差(図ではdと表記)である
捩じれ量(補正量)を算出する(ステップS9)。ここで、p1は、両軸に対するサーボ制御がオンした状態での第2軸12に対する機械要素13(破線で示す)の位置であり、p2は、第1軸11に対するサーボ制御をオンしたままで、第2軸12に対するサーボ制御をオフした状態での第2軸12に対する機械要素13(実線で示す)の位置である。そして、現在位置での補正量をディスプレイ等の出力部に表示する(ステップS10)。ここでは、p1が第1の位置、p2が第2の位置に相当する。
ユーザがこの補正量を第2軸12の位置指令に対するオフセット量として設定すると、トルクバランス調整部61では、位置決め制御の際の第2軸12に対するオフセット量として位置指令を補正する。このようにすれば、効率的にトルクバランスを調整することができる。トルクバランス調整部61は、ステップS5において算出された補正量を自動的に位置決めの際の第2軸12に対するオフセット量として位置指令を補正するようにしてもよい。オフセット量は、距離でもよいし、パルス数で規定してもよい。
【0029】
図6は、上述のように算出した補正量を用いて補正した場合と、補正を行わない場合を、横軸に位置(mm)をとり、縦軸にトルク指令(%)をとって示したグラフである。補正を行わない場合には、第1軸11と第2軸12に対して、実線で示すように矢印で示すトルクアンバランスが生じているが、補正を行った場合には、破線で示すように第1軸11と第2軸12に対するトルクアンバランスを解消できていることが分かる。
【0030】
トルクアンバランスが発生している状態から、両軸に対するサーボ制御をオンしたままで、一方の軸に目標位置の補正量をもたせて、その補正量を調整することでバランスさせると、捩じれによるトルクと他の要因によるトルクを切り分けることができないので、捩じれ以外の原因も補正してしまう可能性がある。しかし、上述のように、両軸に対するサーボ制御をオンした状態の機械要素13の位置と、一方の軸に対するサーボ制御をオンし他方の軸に対するサーボ制御をオフしたときの機械要素13の位置との差である捩じれ量を補正量とすれば、捩じれに起因するトルクアンバランスのみを効率的に補正することができる。また、このような補正の後もトルクアンバランスが発生する場合には、捩じれとは別の要因が存在すると判断することもできる。
【0031】
このようにトルクバランスを調整することで、上述の第1軸11及び第2軸12のようにガントリ機構を構成する軸において、軸ごとの原点ずれがあった場合に発生するトルクアンバランスを解消することにより、原点ずれが補正される。従って、二軸の位置が正確に一致する。これにより、円軌跡を描くような場合に、円の精度が改善される。
【0032】
〔実施例2〕
実施例2に係る制御システム1の構成は実施例1と同じである。実施例1と同じ構成については同じ符号を付して説明は省略する。
本実施例では、第1軸11及び第2軸12に沿った所定範囲に含まれる格子点において実施例1で説明した補正量を算出し、一方の軸に対する位置指令を、他方の軸に対する位置指令からオフセットさせることにより、軸干渉を生じ得る複数の軸による位置決め制御の際のトルクバランスを調整する。
【0033】
図7は、本実施例に係るトルクバランス調整方法としての第1軸11及び第2軸12に沿った所定範囲に含まれる格子点における補正量算出の流れを示すフローチャートである。図8は、補正量算出における機械要素13の動作を説明する図である。
まず、上述の所定範囲に含まれる格子点のうち最も負方向に位置する格子点の位置を位置Aとし、両軸に対するサーボ制御をオンした状態で図8の矢印14に示すように位置Aから機械要素13を正方向へ所定距離だけ移動させる(ステップS11)。次に、図8の矢印15に示すように機械要素13を負方向へ所定距離だけ移動させる(ステップS12)。ここで、トルクバランス調整部61は、一定時間が経過するのを待つ(ステップS1
3)。そして、トルクバランス調整部61は、機械要素13の位置変化が安定したところで(ステップS14)、現在位置(p1とする)を読み込む(ステップS15)。この位置決め制御の際の速度指令は矩形波制御とすることが望ましい。矩形波減速によって摩擦の影響されずに、後述の位置ずれを安定して発生させることができる。次に、一方の軸(ここでは第1軸11とする)に対するサーボ制御をオンしたまま、他方の軸(ここでは第2軸12とする)に対するサーボ制御をオフする(ステップS16)。ここで、トルクバランス調整部61は、一定時間が経過するのを待つ(ステップS17)。そして、トルクバランス調整部61は、機械要素13の位置変化が安定したところで(ステップS18)、現在位置(p2とする)を読み込む(ステップS19)。次に、第2軸12に対するサーボ制御をオンする(ステップS20)。このとき、第1軸11に対するサーボ制御はオンされたままである。
【0034】
そして、図8の矢印16に示すように位置Aから機械要素13を負方向へ所定距離だけ移動させる(ステップS21)。次に、図8の矢印17に示すように機械要素13を正方向へ所定距離だけ移動させる(ステップS22)。ここで、トルクバランス調整部61は、一定時間が経過するのを待つ(ステップS23)。そして、トルクバランス調整部61は、機械要素13の位置変化が安定したところで(ステップS24)、、現在位置(p3とする)を読み込む(ステップS25)。次に、第1軸11に対するサーボ制御をオンしたまま、第2軸12に対するサーボ制御をオフする(ステップS26)。ここで、トルクバランス調整部61は、一定時間が経過するのを待つ(ステップS27)。そして、トルクバランス調整部61は、機械要素13の位置変化が安定したところで(ステップS28)、現在位置(p4とする)を読み込む(ステップS29)。次に、第2軸12に対するサーボ制御をオンする(ステップS30)。このとき、第1軸11に対するサーボ制御はオンされたままである。
【0035】
次に、現在の格子点(位置A)での補正量を算出する(ステップS31)。ここでは、正方向から負方向の順に機械要素13を移動させたときの現在位置の差分(第1の差)であるp2-p1と、負方向から正方向の順に機械要素13を移動させたときの現在位置の差分(第2の差)であるp4-p3との平均値を位置Aの補正量c(A)とする。すなわち、c(A)={(p2-p1)+(p4-p3)}/2とする。
【0036】
そして、所定範囲に含まれる複数位置からなる格子点のうち最後の格子点について補正量の算出が終了したか否かを判断する(ステップS32)。
ステップS32において、Yesと判断された場合には、所定範囲に含まれる格子点に対する補正量を、例えばディスプレイ等の出力部に表示する(ステップS33)。
ステップS32において、Noと判断された場合には、図8の矢印18に示すように所定範囲に含まれる次の格子点、例えば、正方向の隣に位置する格子点Bに移動し(ステップS34)、当該格子点に対してステップS11~S31までの処理を繰り返す。
【0037】
本実施例において正方向から負方向への移動と、負方向から正方向への移動を行うのは、方向依存性がある静止摩擦の影響を排除するためである。
このよう算出された補正量に従って位置制御すれば、容易にトルクバランスを調整することができる。
【0038】
〔実施例3〕
実施例3に係る制御システム21の構成を図9に示す。実施例1と同じ構成については同じ符号を付して説明は省略する。
本実施例では、軸干渉を生じ得る複数軸の稼働範囲の全体に亘ってトルクバランス調整を行う。これは、軸干渉を生じ得る複数軸の稼働範囲内における位置に依存した捩じれがあり得るからである。このような場合には、実施例2のように、稼働範囲内の所定範囲を
対象として算出された補正量によると、ある区間ではトルクバランスを保つことができるが、他の区間ではトルクバランスを保つことができない。このために、本実施例では、トルクバランス調整部61は、稼働範囲全体に亘って補正量を算出し、稼働範囲の全体に亘って位置と補正量とを関連付けた補正マップ62を作成し、この補正マップ62を用いて稼働範囲全体に亘る位置制御を行う。例えば、補正マップ62は、位置を横軸、補正量を縦軸とした構成をとることができるが、これに限られない。ここで、稼働範囲とは、第1軸11及び第2軸12を駆動することによって、機械要素13が移動する範囲(移動範囲)である。
【0039】
図10に、本実施例に係るトルクバランス調整方法としての補正マップ62作成の流れを示すフローチャートである。実施例2と同様の処理については同様の符号を付して説明は省略する。
稼働範囲全体に亘る補正量の算出は、実施例2において所定範囲内の格子点について行っていた補正量の算出を稼働範囲全体に亘る格子点について行う。各格子点における補正量の算出は、図8に示すフローチャートと同様であり、ステップS32において判断の対象となる格子点が稼働範囲に亘る点のみが異なる。本実施例では、このようにして、稼働範囲全体に亘る格子点の位置と、補正量とを関連付けた補正マップを作成する(ステップS35)。
トルクバランス調整部61は、このようにして作成された補正マップ62を保持しておき、位置決め制御の際の第2軸12に対するオフセット量として位置指令を補正する。
【0040】
図11は、述のように算出した補正量を用いて補正した場合と、補正を行わない場合を、横軸に位置(mm)をとり、縦軸にトルク指令(%)をとって示したグラフである。補正を行わない場合には、第1軸11と第2軸12に対して、実線で示すように矢印で示すトルクアンバランスが生じている。ここでは、トルク差が位置によって変化しているが、補正を行った場合には、破線で示すように第1軸11と第2軸12に対するトルクアンバランスを解消できていることが分かる。
【0041】
このように、本実施例によれば、トルクバランスをより効率的に調整することができる。
【0042】
〔変形例〕
図1は、実施例1の変形例に係る制御システム31の概略構成を示す。本変形例では
、トルクバランス調整部71は、コントローラ6ではなく、コントローラ6に接続されるツール7に設けられる。トルクバランス調整部71の機能は、実施例1に係るトルクバランス調整部61と同様であるため、詳細な説明は省略する。本変形例では、トルクバランス調整部71は、コントローラ6を介して信号の送受信を行う。ここでは、ツール7が制御装置に相当する。ツール7は、所定のプログラムを実行することでトルクバランス調整部71の機能を実現するパーソナルコンピュータとして構成することもできる。
【0043】
図1は、実施例3の変形例に係る制御システム41の概略構成を示す。本変形例では、図1に示す変形例と同様に、トルクバランス調整部71は、コントローラ6ではなく、コントローラ6に接続されるツール7に設けられる。そして、このトルクバランス調整部71は、補正マップ72を有する。トルクバランス調整部71の機能は、実施例3に係るトルクバランス調整部61と同様であり、補正マップ72も実施例3に係る補正マップ62と同様であるため、詳細な説明は省略する。本変形例では、トルクバランス調整部71は、コントローラ6を介して信号の送受信を行う。ここでは、ツール7が制御装置に相当する。ツール7は、所定のプログラムを実行することでトルクバランス調整部71の機能を実現するパーソナルコンピュータとして構成することもできる。
【0044】
実施例3のように、補正マップを作成すれば、機械要素13の稼働範囲に亘ってトルクバランスを調整することができるが、必ずしも稼働範囲全体に亘ってトルクアンバランスが生じるわけではない。このため、機械要素13を台形速度指令(速度は一定とする)によって移動させたときのトルクを検知し、軸方向の位置とトルクの関係から補正を要する領域を特定し、その範囲について、実施例2の補正を行うようにすることもできる。このようにすれば、必要最小限の領域についてのみ補正を行うことになるので、トルクバランス調整に要する時間を短縮することができる。
また、機械要素13を軸11,12に沿って移動させる際に、全ての格子点においてトルクバランス調整を行うのではなく、トルクバランス調整を行わない格子点を含む場合がある。このような場合には、トルクバランス調整を行わなかった格子点を挟み、かつ、トルクバランス調整を行った直近の二つの格子点においてトルクが同等であれば、トルクバランス調整を行わなかった格子点についても、位置指令に対するオフセット量を同じにする。このようにすれば、トルクバランス調整を行わなかった領域にも妥当な補正量が設定される。
【0045】
なお、以下には本発明の構成要件と実施例の構成とを対比可能とするために、本発明の構成要件を図面の符号付きで記載しておく。
<発明1>
二つのサーボモータ(2,3)を制御し、該サーボモータ(2,3)のそれぞれによって駆動される軸(11,12)に対して機械的に接続された部材(13)を移動させる制御装置(6)であって、
二つの前記サーボモータ(2,3)の間のトルクバランスを調整するトルクバランス調整部(61)を備え、
前記トルクバランス調整部(61)は、両方の前記サーボモータ(2,3)に対するサーボ制御により前記部材の位置決め制御を実行した場合における前記部材(13)の位置と、前記サーボモータ(2,3)の一方に対するサーボ制御を維持し、前記サーボモータの他方(3)に対するサーボ制御を解除した場合の前記部材(13)の位置との差に基づいて前記サーボモータの他方(3)に対する位置指令を補正する補正量を取得することを特徴とする制御装置(6)。
<発明2>
二つのサーボモータ(2,3)を制御し、該サーボモータ(2,3)のそれぞれによって駆動される軸(11,12)に対して機械的に接続された部材(13)を移動させる際の、二つの該サーボモータ(2,3)の間のトルクバランスを調整する方法であって、
両方の前記サーボモータ(2,3)に対するサーボ制御により前記部材の位置決め制御を実行した場合における前記部材の第1の位置を取得するステップと、
前記サーボモータ(2,3)の一方(2)に対するサーボ制御を維持し、前記サーボモータ(2,3)の他方(3)に対するサーボ制御を解除した場合の前記部材の第2の位置を取得するステップと、
前記第1の位置と前記第2の位置との差に基づいて前記他方のサーボモータ(3)に対する位置指令を補正する補正量を取得するステップと、
を含むトルクバランス調整方法。
<発明3>
二つのサーボモータ(2,3)を制御し、該サーボモータ(2,3)のそれぞれによって駆動される軸(11,12)に対して機械的に接続された部材(13)を移動させる際の、二つの該サーボモータ(2,3)の間のトルクバランスを調整するためのプログラムであって、
両方の前記サーボモータ(2,3)に対するサーボ制御により前記部材(13)の位置決め制御を実行した場合における前記部材の第1の位置を取得するステップと、
前記サーボモータ(2,3)の一方(2)に対するサーボ制御を維持し、前記サーボモータ(2,3)の他方(3)に対するサーボ制御を解除した場合の前記部材の第2の位置
を取得するステップと、
前記第1の位置と前記第2の位置との差に基づいて前記他方のサーボモータ(3)に対する位置指令を補正する補正量を取得するステップと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【符号の説明】
【0046】
2,3 サーボモータ、6 コントローラ、11 第1軸、12 第2軸、13 機械要素、61 トルクバランス調整部、62 補正マップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13