(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】流動剥離現象を減らす排気ディフューザストラット
(51)【国際特許分類】
F01D 25/30 20060101AFI20220720BHJP
F01D 9/02 20060101ALI20220720BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
F01D25/30 Z
F01D25/30 B
F01D9/02 101
F02C7/00 B
(21)【出願番号】P 2021035744
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】10-2020-0027608
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】507002918
【氏名又は名称】ドゥサン エナービリティー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リー、イク サン
(72)【発明者】
【氏名】ウィリー ホフマン
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-200211(JP,A)
【文献】特開2016-194297(JP,A)
【文献】米国特許第08061983(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/30
F01D 9/02
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ディフューザに備えられ、エアフォイルの断面形状を有するストラットであって、
前記ストラットのトレーリングエッジには、スパン方向に沿って少なくともその一部分に段差を形成する切開部が備えられ
、
前記切開部は、前記ストラットの半径方向の外側端部から始まり、
前記切開部とエアフォイルの翼型表面の両側境界線に沿ってそれぞれリブが備えられ、
前記切開部及び前記リブは前記ストラットのトレーリングエッジの少なくとも一部分にわたって形成され、前記切開部の表面には補強リブが備えられる、排気ディフューザストラット。
【請求項2】
前記切開部及び前記リブは前記ストラットのトレーリングエッジ全体にわたって形成される、請求項1に記載の排気ディフューザストラット。
【請求項3】
前記切開部及び前記リブは前記ストラットのスパン方向に沿って前記トレーリングエッジの途中で終端する、請求項1に記載の排気ディフューザストラット。
【請求項4】
前記切開部は、スパン長の少なくとも15%以上の長さを有する、請求項
1から3のいずれか一項に記載の排気ディフューザストラット。
【請求項5】
前記リブはエアフォイル表面の翼型曲面に沿って延びる、請求項
4に記載の排気ディフューザストラット。
【請求項6】
前記リブの端部は互いに離隔している、請求項
5に記載の排気ディフューザストラット。
【請求項7】
前記補強リブは格子状に形成されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の排気ディフューザストラット。
【請求項8】
前記補強リブの横リブの端部は前記リブに対して接触または接合される、請求項
7に記載の排気ディフューザストラット。
【請求項9】
前記切開部の深さはコード長に比べて10~30%の範囲である、請求項
1から8のいずれか一項に記載の排気ディフューザストラット。
【請求項10】
同心をなす内側の円筒状ハブ及び外側の円錐状ケーシングと、前記ハブ及びケーシングを互いに連結して支持するストラットとを備える排気ディフューザであって、
前記ストラットのトレーリングエッジには、スパン方向に沿って少なくともその一部分に段差を形成する切開部が備えられ
、
前記切開部は前記ケーシングに隣接して前記ストラットの半径方向の外側端部から始まり、
前記切開部とエアフォイルの翼型表面の両側境界線に沿ってそれぞれリブが備えられ、
前記切開部及び前記リブは前記ストラットのトレーリングエッジの少なくとも一部分にわたって形成され、前記切開部の表面には補強リブが備えられる、排気ディフューザ。
【請求項11】
前記切開部及び前記リブは前記ストラットのトレーリングエッジ全体にわたって形成される、請求項10に記載の排気ディフューザ。
【請求項12】
前記切開部及び前記リブは前記ストラットのスパン方向に沿って前記トレーリングエッジの途中で終端する、請求項10に記載の排気ディフューザ。
【請求項13】
前記切開部はスパン長の少なくとも15%以上の長さを有する、請求項
10から12のいずれか一項に記載の排気ディフューザ。
【請求項14】
前記リブはエアフォイル表面の翼型曲面に沿って延びる、請求項
13に記載の排気ディフューザ。
【請求項15】
前記リブの端部は互いに離隔している、請求項
14に記載の排気ディフューザ。
【請求項16】
前記補強リブは格子状に形成されている、請求項10から15のいずれか一項に記載の排気ディフューザ。
【請求項17】
前記補強リブの横リブの端部は前記リブに対して接触または接合される、請求項
16に記載の排気ディフューザ。
【請求項18】
前記切開部の深さはコード長に比べて10~30%の範囲である、請求項
10から17のいずれか一項に記載の排気ディフューザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ディフューザストラットに係り、さらに具体的には、排気ディフューザストラットのトレーリングエッジから発生する流動剥離現象を減らすことにより、排気ディフューザ内部の圧力損失を低減することができる排気ディフューザストラットに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンは、一般的に、圧縮機(compressor)、燃焼器(combustor)、及びタービン(turbine)を備える。圧縮機は、複数の圧縮機ブレードによって生成された圧縮空気を燃焼器に供給するが、この圧縮空気は、高温及び高圧の空気である。燃焼器は、圧縮機から導入された圧縮空気を燃料と混合して作った混合気を燃焼させる。燃焼器で生成された燃焼ガスはタービンへ排出され、タービンのタービンブレードは燃焼ガスによって回転することにより動力を生成する。生成された動力は電気発電や機械駆動などの様々な分野に使用される。例えば、ガスタービンは発電機、航空機、機関車などの駆動に使用される。
【0003】
ガスタービンの重要因子の一つは、燃焼ガスを外部へ排出する方法であるが、これにより、排気ディフューザがタービン上に位置して燃焼ガスを排気する。ところが、排気ディフューザの環状排気空間を形成するためには、同心をなす内側の円筒状ハブと外側の円錐状ケーシングが必要であり、また、ハブとケーシングとを互いに連結して支持するストラットが半径方向に備えられる。
【0004】
ここで、ストラットは、燃焼ガスの流動を最小限に妨害するためにエアフォイル(airfoil)の断面形状を持つが、燃焼ガス下流のトレーリングエッジは、燃焼ガスの流動が離れながらその下流に境界層を形成し、これによる流動剥離現象が生じて排気ディフューザ内部の圧力損失を引き起こす。排気ディフューザ内部の圧力損失は、排気効率を低下させ、ガスタービンに対して熱回収装置(HRSG、Heat Recovery System Generator)と蒸気タービンとを連結して構成する複合発電システムの効率にも悪い影響を及ぼす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6409072号公報(2018年9月28日登録)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一実施形態は、排気ディフューザストラットのトレーリングエッジから発生する流動剥離現象による排気ディフューザ内部の圧力損失問題を緩和することができる新規な排気ディフューザストラットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、排気ディフューザに備えられ、エアフォイルの断面形状を有するストラットに関するものであって、前記ストラットのトレーリングエッジには、スパン方向に沿って少なくともその一部分に段差を形成する切開部が備えられることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記切開部は、前記ストラットの半径方向の外側端部から始まり、特に前記切開部は、スパン長の少なくとも15%以上の長さを有することが好ましい。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、前記切開部は、前記ストラットのトレーリングエッジ全体にわたって形成できる。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、前記切開部とエアフォイルの翼型表面の両側境界線に沿ってそれぞれリブが備えられ得る。
【0011】
ここで、前記リブはエアフォイル表面の翼型曲面に沿って延びることができ、前記一対のリブの端部は互いに離隔している。
【0012】
前記切開部及びリブが前記ストラットのトレーリングエッジ全体にわたって形成され、前記切開部の表面には格子状の補強リブが備えられ得る。
【0013】
この時、前記補強リブの横リブの端部は、前記リブに対して接触または接合できる。
【0014】
前記切開部の深さは、コード長に比べて10~30%の範囲であることが好ましい。
【0015】
一方、本発明の一実施形態は、同心をなす内側の円筒状ハブと外側の円錐状ケーシング、及び前記ハブとケーシングとを互いに連結して支持するストラットを備える排気ディフューザに関するものであって、前記ストラットのトレーリングエッジには、スパン方向に沿って少なくともその一部分に段差を形成する切開部が備えられることを特徴とする、排気ディフューザを提供する。
【発明の効果】
【0016】
上述した構成を持つ本発明の一実施形態に係る排気ディフューザストラットは、トレーリングエッジの少なくとも一部分に対して段差を形成する切開部を備えることにより、燃焼ガスの流動に急激な変動をもたらし、急激な流動変動により攪乱された燃焼ガスでは境界層の形成が遅延する。燃焼ガスの境界層の形成及び発達が遅れた分だけトレーリングエッジ領域での流動剥離現象の発生も遅れるうえ、早く消滅する。よって、本発明の一実施形態に係る排気ディフューザストラットは、流動剥離発生の抑制によって排気ディフューザ内部の圧力損失を減少させ、排気効率を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る排気ディフューザが適用されるガスタービンの一例を示す図である。
【
図2】排気ディフューザの構造を概略的に示す図である。
【
図3】従来の一般的なストラットの構造を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るストラットの一実施形態を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るストラットの他の実施形態を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るストラットの別の実施形態を示す図である。
【
図7】
図3のストラットを通る燃焼ガスの流動を電算解析した結果を示す図である。
【
図8】
図4のストラットを通る燃焼ガスの流動を電算解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
「上(on)」又は「上(over)」という用語がこの明細書で層、領域、パターン又は構造を指し示すとき、その層、領域、パターン又は構造は、他の層、領域、パターン又は構造の真上に位置するか、或いは介在する層、領域、パターン又は構造も存在することがあることを理解すべきであろう。「下(under)」又は「下(below)」という用語がこの明細書で層、領域、パターン又は構造を指し示すとき、その層、領域、パターン又は構造は、他の層、領域、パターン又は構造の真上に位置するか、或いは介在する層、領域、パターン又は構造も存在することがあることを理解すべきであろう。「含む(includes)」及び「含む(including)」は、それぞれ「備える(comprises)」及び「備える(comprising)」と同等である。
【0019】
また、(例えば、第1及び第2部分などのように)「第1(first)」、「第2(second)」などの用語は、この明細書で別に具体的に記述されない限り、一つ以上存在することができる特定の特徴を識別する意図で使用されたものである。このような「第1」に対する言及は、必ずしも2つ以上が存在することを暗示しない。これらの言及は、明示的に記述されない限り、特定の特徴に対する時間上の順序、構造的方向、又は(例えば、左側又は右側などの)左右方向を付与する意図ではない。また、「第1」及び「第2」という用語は、選択的又は互換的に部材に使用できる。
【0020】
それだけでなく、「例示的(exemplary)」は、最善(best)ではなく、単に例(example)を意味する。お互いに対して特定の大きさ及び/又は方向に描写及び図示されている明細書の特徴、層及び/又は部材は、理解の単純性及び容易性を目的としたものであって、実際の大きさ及び/又は方向は、例示されたのとは著しく異なることもあると理解すべきである。つまり、各部材の大きさは図示の明瞭性のために誇張されており、各部材の大きさは各部材の実際の大きさとは異なることもある。図面に含まれるべきすべての部材が図示されているのではなく、この明細書に限定されているが、この明細書に必須的な特徴を除いた部材は、追加又は削除できる。
【0021】
本発明の実施形態の図面と説明は、(いくつかの場合には)明確性を目的としてよく知られている他の部材が省略され、本発明の明確な理解に適切な部材で簡略化されていることを理解すべきであろう。当業分野における通常の技術を有する者であれば、本発明の実現のために好ましいか及び/又は必要な部材を認識することができるだろう。しかし、これらの部材は当業分野によく知られており、これらが本発明をよりよく理解するのに役立たないので、これらの部材に対する議論はこの明細書に提供されない。
【0022】
添付図面において、同一の参照番号が、全体的に同一又は類似の構成要素を指示するために使用される。
図1は本発明の一実施形態に係るガスタービンの断面図である。
図1において、本発明の一実施形態に係るガスタービン100は、圧縮機110、燃焼器104、タービン120、ハウジング102、及び排気ディフューザ106を備える。
【0023】
ハウジング102は圧縮機110を覆い、圧縮機110は圧縮空気を燃焼器104に提供する。燃焼器104は、この圧縮空気を用いて高温のガスを生成し、高温のガスをタービン120に提供する。タービン120は、燃焼器104によって提供された高温のガスを用いて回転トルクを生成する。排気ディフューザ106は、タービン120の後方に位置して高温のガスを拡散(broaden)させ、その速度を低下させる。タービン120によって生成された回転トルクを圧縮機110に伝達するために、ガスタービン100は、圧縮機110とタービン120との間にトルクチューブ(torque tube)130をさらに備える。
【0024】
圧縮機110は、複数の圧縮機ブレード144を含むが、これらは、複数の圧縮機ロータディスク140上に半径方向に配置される。複数の圧縮機ブレード144のそれぞれは、ダブテール(dove tail)形態またはモミの木(fir tree)形態を介して圧縮機ロータディスク140に結合するように構成された圧縮機ブレードルート146を含む。圧縮機110は、複数の圧縮機ブレード144を回転させ、これにより、空気が複数の圧縮機ブレード144の回転に伴って圧縮されながら移動する。一実施形態において、圧縮機110は、タービン120に直接又は間接的に連結され、タービン120によって生成された動力の一部を受けるが、伝達された動力は、複数の圧縮機ブレード144を回転させるために使用される。
【0025】
圧縮機110で圧縮された空気は燃焼器104へ移動する。燃焼器104は、円形パターンで配列された複数のケーシングと複数のバーナーを含む。燃焼器104は、ライナー(liner)で形成される燃焼室を備えて、燃料ノズルを介して提供された燃料が燃焼器104の燃焼室へ提供される。圧縮空気が燃料と混合された後、燃焼室で燃焼する。次に、燃焼した高温のガスは、タービン120へ排出され、タービンロータディスク180上に取り付けられたタービンブレード184を回転させる。
【0026】
ガスタービン100は、タービンロータディスク180と圧縮機ロータディスク140を貫通するように配置されたタイボルト(tie bolt)150をさらに備える。タイボルト150の第1遠位末端(distal end)は複数の圧縮機ロータディスク140のうちの第1圧縮機ロータディスクに固定され、タイボルト150の第2遠位末端は固定ナット(fixing nut)190によって固定される。隣接する圧縮機ロータディスクの対向する面はタイボルト150によって圧縮されることにより、隣接する圧縮機ロータディスクは個別に回転しない。ガスタービン100はハウジング102上に取り付けられるベーン(vane)を備えることができ、ベーンは複数の圧縮機ロータディスク140同士の間に位置する。
【0027】
タービン120は、複数のタービンロータディスク180、及びタービンロータディスク180に結合する複数のタービンブレード184を備える。複数の圧縮機ブレード144と同様に、複数のタービンブレード184もタービンロータディスク180上に半径方向に配置される。また、複数のタービンブレード184は、ダブテールジョイント又はモミの木ジョイントを介してタービンロータディスク180に組み立てられる。
【0028】
燃焼した高温のガスは、タービン120を通過し、タービン120から排気される。排気ガスは、タービン120の後方に位置している排気ディフューザ106を通過した後、最終的に排出される。つまり、排気ディフューザ106は、タービン120から排気ガスを受けた後、ガスタービン100の外部へ排気ガスを送り出す。
【0029】
図2はタービン120の後方に位置している排気ディフューザ106の部分をさらに詳細に示す図である。排気ディフューザ106は、内側の円筒状ハブ210と外側の円錐状ケーシング220とが同心をなしてそれらの間に燃焼ガスの排気される環状空間を形成する。円錐状ケーシングは、かなり大きく、タービン120の後方に長く延び、厚さが相対的に薄いため、燃焼ガスの流動によって振動を起こすには構造的に耐久性が強くない。このため、ケーシング220は、中央のハブ210に対してストラット300で連結されて支持される構造を取る。
【0030】
ストラット300は、燃焼ガスの流動経路を横切るので、燃焼ガスの流動を最小限に妨害するためにエアフォイルの断面形状を有する。
図3は従来の一般的なストラット300の形状、特にその外形を示している。ストラット300がエアフォイルの断面形状を有することにより、燃焼ガスの下流側には、厚さが最も薄いトレーリングエッジ310が位置する。ストラット300の両方の表面を通る燃焼ガスは、トレーリングエッジ310から外れながら合流するが、エアフォイルの厚さが薄くなるトレーリングエッジ310の近傍で次第に境界層が形成されることにより、流動剥離現象が起こり始める。
【0031】
流動剥離現象は排気ディフューザ106内部の圧力損失を引き起こし、排気ディフューザ106内部の圧力損失は排気効率を落とす。また、ガスタービン100の排気効率だけが問題となるのではなく、ガスタービンに熱回収装置と蒸気タービンを連結して複合発電システムを構成する場合には、全体発電システムの効率にも悪い影響を及ぼす。
【0032】
図4はストラット300のトレーリングエッジ310領域で発生する流動剥離を効果的に抑制するための本発明の一実施形態を示す。
図4のストラット300によれば、ストラット300のトレーリングエッジ310には、スパン方向に沿って少なくともその一部分に段差を形成する切開部320が備えられている。
【0033】
トレーリングエッジ310に備えられた切開部320は、燃焼ガスの流動に急激な変動をもたらす。ストラット300のエアフォイルの表面に沿って流れていた燃焼ガスは、切開部320に会って急激に切開部320の内側に湾入して大きな渦を作り出す。渦によって攪乱された燃焼ガスは、境界層の形成が遅れ、境界層の形成及び発達が遅れた分だけトレーリングエッジ310領域での流動剥離現象の発生も遅れるうえ、早く消滅する。したがって、トレーリングエッジ310に作っておいた切開部320は、排気ディフューザ106内部の圧力損失を減少させる。
【0034】
切開部320は、トレーリングエッジ310にはスパン方向に沿って少なくともその一部分に備えられる。つまり、切開部320は、
図4に示すように一部分のみに形成されることもあり、
図6に示すようにトレーリングエッジ310の全体にわたって形成されることもある。トレーリングエッジ310の一部分に切開部320を形成するとしたとき、その位置と最小限の長さLは、燃焼ガスの流動を考慮して適切に設計されることが効果的である。ストラット300を通る燃焼ガスの流動を観察すると、ハブ210からケーシング220側へ行くほどスパン方向に沿って約80%スパン以上では流動角が大きくなり、それにより燃焼ガスがストラット300の表面を追い付かず流動剥離が発生する。よって、切開部320は、ケーシング220に隣接するストラット300の半径方向の外側端部から始め、特に切開部320の長さLは、スパン長の少なくとも15%以上の長さを有することが好ましいといえる。
【0035】
図5と
図6は本発明の一実施形態に係るストラット300の別の実施形態をそれぞれ示す。
図5を参照すると、ストラット300は、切開部320と、エアフォイルの翼型表面の両側境界線に沿ってそれぞれリブ330が備えられている。リブ330は、切開部320に向ける燃焼ガスの流動に対して顎部を成し、リブ330を乗り越えた燃焼ガスは、急激に切開部320に向けて湾入する。したがって、切開部320の縁に位置したリブ330は、境界層の形成を遅延させる作用を起こすのに効果的であり得る。
【0036】
また、
図5を参照すると、リブ330は、エアフォイルの表面に沿う燃焼ガスの流れを考慮して、エアフォイルの表面の翼型曲面に沿って延びる方向に突設できる。リブ330が形成されても、切開部320の表面は燃焼ガスの流れに晒されなければならないので、一対のリブ330の端部は互いに離隔している。
【0037】
図6はトレーリングエッジ310の全体にわたって切開部320及びリブ330が形成された実施形態に該当する。ここで、
図6の実施形態は、トレーリングエッジ310全体をスパン方向に沿って切開した分だけストラット300の構造的強度が弱くなり得る。これを補強するために、切開部320の表面には格子状の補強リブ340が備えられることが必要であり、
図6は補強リブ340が備えられた例を示す。
【0038】
また、切開部320の縁にリブ330が形成された場合には、補強リブ340の横リブ342の端部をリブ330に対して接触させるか、或いは両者を接合することにより、補強リブ340による構造強化効果をさらに高めることもできる。
【0039】
また、切開部320の長さLと同様に、切開部320の深さD、すなわちストラット300の内側にどれほど深く切開部320を形成させるかも考慮する必要がある。切開部320の役割は流動剥離現象を抑制することにあるので、切開部320の深さDも流動剥離現象を考慮して適切に決定する必要がある。切開部320の段差は、燃焼ガスの流れに大きな変動を起こすので、あまりにも深い切開部320はむしろストラット300の全体的な空力性能に悪影響をもたらすおそれがある。したがって、本発明の一実施形態では、概ねトレーリングエッジ310の基準コード長に比べ10~30%の範囲で流動剥離が始まることが一般的なので、これを考慮して、切開部320の深さDをコード長に比べ10~30%の範囲で制限することを一つの基準として提示する。
【表1】
【0040】
前記表1は、前述した
図3に示された従来のストラット300と、
図4から
図6に示された本発明の各実施形態別のストラット300に対する流動性能を相互比較したものである。Cpは、圧力回復に関する無次元係数(静圧に対する動圧の比)であって、圧力回復が早いほど、すなわちCpの値が大きいほど、排気効率の面で有利である。圧力損失は、ストラット300を通って起こる燃焼ガスの圧力降下をいい、その値が低いほど排気効率が優れるといえる。
図7を参照すると、本発明の三つの実施形態はいずれも、圧力回復の面で従来のストラット300に比べて優れるうえ、圧力損失も
図5の部分的な切開部320とリブ330とが組み合わされた実施形態で微小に高くなったことを除いてはすべて改善されたことを確認することができる。言い換えれば、本発明の一実施形態に係る切開部320を備えるストラット300は、定量的にみたとき、
図3の従来のストラット300よりも流動剥離の発生を抑える明らかな効果があり、特に
図4及び
図6の実施形態は圧力回復と圧力損失の面で有意な改善をもたらした。
【0041】
図7は
図3に示された従来のストラット300を通る燃焼ガスの流動を電算解析した結果を示し、
図8は
図4の部分的な切開部320を備える本発明の一実施形態に係るストラット300を通る燃焼ガスの流動を電算解析した結果を示す。
図7と
図8を比較すると、本発明の一実施形態に係るストラット300は、切開部320の内側領域に再循環流れが形成され、これにより流動剥離の長さが著しく改善されたことを確認することができる。このような電算解析結果は、表1において本発明の一実施形態に係る部分的な切開部320を備えたストラット300が圧力回復と圧力損失の面で従来に比べてすべて改善された定量的な結果に合致するものと評価することができる。
【0042】
このように、本発明の一実施形態に係るストラット300は、トレーリングエッジ310領域で発生する流動剥離を効果的に抑制することができ、これに基づいて、同心をなす内側の円筒状ハブ210と外側の円錐状ケーシング220、及び前記ハブ210とケーシング220とを互いに連結して支持するストラット300を備える排気ディフューザ106であって、前記ストラット300のトレーリングエッジ310に、スパン方向に沿って少なくともその一部分に段差を形成する切開部320が備えられる排気ディフューザ106を提供する。
【0043】
この明細書に記載された例および実施形態は、例示的なものに過ぎず、当業分野における通常の技術を有する者であれば、これを勘案して様々な変形と変更を提案することができる。これは、本明細書の概念及び範囲に含まれなければならないことを理解すべきであろう。これにより、本発明は、この明細書に記載された例に限定されることを意図したものではなく、この明細書に開示された原理と新規な特徴に合致する最広義の範囲が付与されるべきであろう。
【符号の説明】
【0044】
106 排気ディフューザ
210 ハブ
220 ケーシング
300 ストラット
310 トレーリングエッジ
320 切開部
330 リブ
340 補強リブ
342 横リブ
L 切開部の長さ
D 切開部の深さ