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特許7107634中空ポリマー粒子、ポリマー粒子懸濁液の製造方法、および中空ポリマー粒子の製造方法
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  • 特許-中空ポリマー粒子、ポリマー粒子懸濁液の製造方法、および中空ポリマー粒子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】中空ポリマー粒子、ポリマー粒子懸濁液の製造方法、および中空ポリマー粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/18 20060101AFI20220720BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20220720BHJP
   C08F 6/00 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C08F2/18
C08F2/44 B
C08F6/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2016241783
(22)【出願日】2016-12-14
(65)【公開番号】P2017119843
(43)【公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2015256192
(32)【優先日】2015-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000211020
【氏名又は名称】ジャパンコーティングレジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 正典
(72)【発明者】
【氏名】吉村 延能
(72)【発明者】
【氏名】大西 啓介
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-146223(JP,A)
【文献】特開2010-155909(JP,A)
【文献】特開2003-181274(JP,A)
【文献】特開平07-157672(JP,A)
【文献】特開2005-054084(JP,A)
【文献】特開2002-080503(JP,A)
【文献】特開2012-007056(JP,A)
【文献】特開2011-075786(JP,A)
【文献】特開2008-222810(JP,A)
【文献】特開昭61-087734(JP,A)
【文献】特開2010-185064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60、6/00、12/08、20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー成分と非反応性溶媒、および重合開始剤を混合してモノマー溶液を調製し、このモノマー溶液が油滴として水性媒体中に分散してなる懸濁液を調製し、この懸濁液中に分散するモノマー溶液中のモノマー成分を懸濁重合してポリマー粒子を製造し、
前記非反応性溶媒として15℃における体積密度が1.2g/cm以下である、ポリブテン、エチレン-α-オレフィンオリゴマー、α-オレフィン油、流動パラフィン、流動イソパラフィン、又はそれらの混合物を用い、
前記非反応性溶媒の使用量がモノマー成分100重量部に対して5~85重量部であり、
前記モノマー成分として、エチレン性不飽和基を2つ以上有するエチレン性不飽和化合物をモノマー成分全体に対して3~50重量%含有し、
前記懸濁重合で製造される懸濁液中のポリマー粒子に内包される前記非反応性溶媒を除去することにより得られるポリマー粒子が球状であり、
平均粒子径が0.05μm以上20μm以下であることを特徴とする中空ポリマー粒子の製造方法。
【請求項2】
前記中空ポリマー粒子は、三次元変角光度計を用い、中空ポリマー粒子に入射角60°で光照射したときの反射光強度を測定した際に、測定角度が-55°~55°の間における反射光強度(%)の最大値と最小値の差が20%以下であることを特徴とする請求項に記載の中空ポリマー粒子の製造方法。
【請求項3】
三次元変角光度計を用い、中空ポリマー粒子に入射角60°で光照射したときの反射光強度を測定した際に、測定角度が-55°における反射光強度(%)が60%以下であることを特徴とする請求項記載の中空ポリマー粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空ポリマー粒子に関するものであり、詳細には、均一な光拡散性を有する中空ポリマー粒子、更には該中空ポリマー粒子を形成するのに有効なポリマー粒子懸濁液の製造方法、および中空ポリマー粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリマー粒子は、塗料、化粧料等の光反射材や液晶バックライト用光拡散板、プロジェクターのスクリーン等の光拡散剤として広く用いられている。また、ポリマー粒子として、内部に中空部分を有することでポリマー層との屈折率の差により光拡散性を向上させた中空ポリマー粒子を用いることも知られている。このような中空ポリマー粒子は、断熱性、遮音性、耐衝撃性等を付与したり、各種物質を内包するためのマイクロカプセルとして有用であり、様々な分野で利用されている。
このようなポリマー粒子について、近年、塗料や化粧料分野等において、均一な光拡散性を有するポリマー粒子が求められるようになっている。光が均一に拡散することにより、ポリマー粒子を含有する塗料や化粧料を塗布した際に、よりムラなどがなく、良好な皮膜外観が得られるものとなる。
【0003】
例えば、特許文献1には、(メタ)アクリル酸エステル-スチレン系共重合体と、架橋性ビニル系単量体を含む(メタ)アクリル酸エステルとの混合物を水性媒体の存在下で懸濁重合することにより得られる、内側重合体層及び外側重合体層を備える単中空粒子が開示されており、これを用いて得られる形成板は高いヘイズと良好な光拡散性を有することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、粒子外表面及び粒子内表面がポリビニルアルコールで被覆されている、粒子内部に複数の空孔を有する多孔質中空ポリマー粒子が開示されており、香料の徐放性、光拡散性、液体吸収性、体感性、耐溶剤性及び機械的強度に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-67946号公報
【文献】特開2009-120806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示の単中空粒子は、光拡散性は有するものの、粒子表面が平滑な球状粒子であり、均一な光拡散性を有するものではなかった。
【0007】
また、上記特許文献2に開示の多孔質中空ポリマー粒子は、光の出射面に対する角度の違いにより、輝度分布がばらつくことがなく、どのような角度にも対応することができると記載されているものの、ポリマー粒子内部は多孔質であり、単一の中空部分を有しないため、光拡散性が不十分である場合があった。また、遮熱性等に劣り、さらには各種物質、特に液体物質を内包するためのマイクロカプセルとしては、単一の中空部分を有するポリマー粒子と比較して利用し難いものであった。
【0008】
そこで、本発明はこのような背景下において、均一な光拡散性を有する中空ポリマー粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに本発明者等は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、三次元変角光度計を用い、中空ポリマー粒子に入射角60°で光照射したときの反射光強度を測定した際に、測定角度が-55°~55°の間における反射光強度(%)の最大値と最小値の差がより小さいものである中空ポリマー粒子が上記の目的を達成することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
また、モノマー成分と非反応性溶媒を含有するモノマー溶液を、水性媒体中で懸濁重合するポリマー粒子懸濁液の製造方法において、非反応性溶媒として体積密度のより小さい溶媒を用いて製造することにより、上記目的を達成する中空ポリマー粒子を安定的に製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
これは、懸濁重合する際に、モノマー成分を溶解する溶媒として比較的体積密度の小さい特定の溶媒を用いることにより、重合初期の段階でモノマー成分が重合してなるポリマーと溶媒とが相分離し、ポリマー重合を通して粒子内部に溶媒がまとまって安定的に存在することとなり、そのため、外殻にポリマー層を有し、内部に単一の空隙部分を有する中空粒子を効率的かつ安定的に製造できるようになるのである。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、三次元変角光度計を用い、中空ポリマー粒子に入射角60°で光照射したときの反射光強度を測定した際に、測定角度が-55°~55°の間における反射光強度(%)の最大値と最小値の差が20%以下であることを特徴とする中空ポリマー粒子に関するものである。
【0013】
また、モノマー成分と非反応性溶媒を含有するモノマー溶液を、水性媒体中で懸濁重合するポリマー粒子懸濁液の製造方法であって、非反応性溶媒として15℃における体積密度が1.2g/cm3以下である溶媒を用いるポリマー粒子懸濁液の製造方法に関するものである。
【0014】
さらに、本発明においては、前記ポリマー粒子懸濁液の製造方法で得られるポリマー粒子懸濁液を用いる中空ポリマー粒子の製造方法にも関するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の中空ポリマー粒子は、均一な光拡散性に優れ、かつ断熱性等にも優れるものであり、化粧料、塗料等、各種分野において好適に用いられる。
また、本発明のポリマー粒子懸濁液の製造方法、中空ポリマー粒子の製造方法によれば、光拡散性に優れ、断熱性等にも優れるポリマー中空粒子を安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】代表的な中空ポリマー粒子のSEM写真である。
図2】代表的な中空ポリマー粒子の断面のTEM写真である。
図3】実施例および比較例のポリマー粒子の各測定角度における反射光強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、これらの内容に限定されるものではない。
本発明において、(メタ)アクリルとはアクリルあるいはメタクリルを、(メタ)アクリロイルとはアクリロイルあるいはメタクリロイルを、(メタ)アクリレートとはアクリレートあるいはメタクリレートをそれぞれ意味するものである。
【0018】
<中空ポリマー粒子>
本発明の中空ポリマー粒子は、三次元変角光度計を用い、中空ポリマー粒子に入射角60°で光照射したときの反射光強度を測定した際に、測定角度が-55°~55°の間における反射光強度(%)の最大値と最小値の差が20%以下であることを特徴とするものであり、好ましくは18%以下、更に好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下である。なお、通常下限値は0%、好ましくは1%である。
反射光強度の最大値と最小値の差が小さいほど、光の出射面に対する角度の違いによる反射光強度のばらつきがなく、各方向に均一に光が反射するものであることを示す。反射光強度の最大値と最小値の差が大きいと、光の反射強度にバラつきが生じ、例えば、ポリマー粒子を含有する塗料や化粧料を塗布した際に、塗膜にムラやテカリなどが生じ、ソフトフォーカス効果が得られない傾向がある。
【0019】
本発明における反射光強度とは、次のようにして測定することで得られる値である。
まず市販の黒色の厚紙(5cm×5cm)の上に両面テープ(3cm×5cm)を貼付し、厚紙に被着している側と反対側の粘着面上に、ポリメタクリル酸メチル粒子(綜研化学社製「SP-50」、形状:中実平滑粒子)を塗布し、刷毛で均一に広げて、反射光強度の基準測定用サンプルとする。
次に、測定対象となる中空ポリマー粒子を作製し、上記と同様にして市販の黒色の厚紙の上に両面テープを貼り、その上に中空ポリマー粒子を塗布し、反射光強度の対象測定用サンプルとする。
三次元変角光度計(株式会社村上色彩技術研究所製「GP-200」、ハロゲンランプ使用)を用いて、入射角を60°に設定し、基準測定用サンプル(平滑中実粒子)の反射光強度を測定した時の最大SENSITIVITYが170になるようにHIGH VOLTを調整し、対象測定用サンプルの反射光強度を測定した際の値を対象測定用サンプル(注ポリマー粒子)の反射光強度とする。
【0020】
また、本発明においては、光学特性の点からは、測定角度が-55°における反射光強度が60%以下であることが好ましく、特に好ましくは57%以下、更に好ましくは55%以下である。なお、通常下限値は0.1%、好ましくは1%である。
【0021】
本発明の中空ポリマー粒子の形状は、例えば図1に示すように、粒子表面に凹凸(シワ状の窪み)を有するものである。そして、例えば図2に示すように、ポリマーからなる外殻を有し、粒子内部に単一の空隙部分を有するものである。
【0022】
上記外殻を形成するポリマーを構成するモノマー成分としては、エチレン性不飽和基を1つ有するエチレン性不飽和化合物(以下、「単官能モノマー」と記載することがある。)やエチレン性不飽和基を2つ以上有するエチレン性不飽和化合物(以下、「多官能モノマー」と記載することがある。)が挙げられる。
【0023】
単官能モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン等のスチレ系モノマー;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル、2-エチルヘキサン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の脂肪族系(メタ)アクリレート系モノマー;イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環族の(メタ)アクリレート系モノマー;フェノキシ(メタ)アクリレート等の芳香族系(メタ)アクリレート系モノマー;(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル等のハロゲン系(メタ)アクリレート系モノマー;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、イタコン酸、フマル酸、ジメチルアミノメチルメタクリレート等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0024】
これらの中でも、中空ポリマー粒子の強度や柔軟性、ハンドリングの点から、スチレン系モノマー及び(メタ)アクリレート系モノマーから選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、その含有量としては、モノマー全体に対して50~99.9重量%、更に好ましくは70~99.5重量%、特に好ましくは85~99重量%である。単官能モノマーの含有量が少なすぎるとポリマー粒子表面の凹凸が不十分となる傾向があり、多すぎるとポリマー粒子の球状を維持し難くなる傾向がある。
なかでも、スチレン系モノマーとしてはスチレン、(メタ)アクリレート系モノマーとしてはアルキル基の炭素数が1~18、特には1~10、更には1~6の脂肪族系(メタ)アクリレート系モノマーが好ましく、なかでもメチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0025】
上記多官能モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルオキシエチレン、マレイン酸ジアリル、テトラアリルオキシエタン等のアリル基を2個以上有するモノマー;アリル(メタ)アクリレート等があげられる。これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
なかでも、重合安定性の点からジビニルベンゼンを用いることが好ましい。
【0026】
上記多官能モノマーの含有割合としては、中空ポリマー粒子の強度や柔軟性、ハンドリングの点からモノマー成分全体の0.1~50重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5~30重量%、特に好ましくは1~15重量%である。多官能モノマーの含有量が少なすぎるとポリマー粒子の球状を維持し難くなる傾向があり、多すぎるとポリマー粒子表面の凹凸が不十分となる傾向がある。
【0027】
上記モノマー成分を懸濁重合して本発明のポリマー粒子懸濁液を製造することができる。更に、該ポリマー粒子懸濁液を用いて本発明の中空ポリマー粒子を製造することができる。
【0028】
<ポリマー粒子懸濁液の製造方法>
本発明のポリマー粒子懸濁液の製造方法は、モノマー成分と非反応性溶媒を含有するモノマー溶液を、水性媒体中で懸濁重合するものである。
【0029】
上記非反応性溶媒はモノマー成分と重合しない溶媒であり、本発明のポリマー粒子懸濁液の製造方法においては、非反応性溶媒として15℃における体積密度が1.2g/cm3以下である溶媒を用いることが必要であり、好ましくは0.5~1.0g/cm3、特に好ましくは0.6~0.9g/cm3である。
このような溶媒を用いることにより、重合初期の段階でモノマー成分が重合してなるポリマーと溶媒とが相分離し、ポリマー重合中を通して粒子内部に溶媒がまとまって安定的に存在することとなり、そのため、内部に空隙部分を有する中空粒子を効率的かつ安定的に製造することができるのである。
【0030】
かかる15℃における体積密度が1.2g/cm3以下である溶媒としては、例えば、ポリブテン、エチレン-α-オレフィンオリゴマー、α-オレフィン油、流動パラフィン(0.9g/cm3)や流動イソパラフィン(0.8g/cm3)等の流動パラフィン類、スクアラン(0.8g/cm3)、トリミリスチン酸グリセリン、セチルオクタノエート、トリ(カプリル、カプリン酸)グリセリン、メチルポリシロキサン(1.0g/cm3)、シクロメチコン(1.0g/cm3)、液状ラノリン(1.0g/cm3)、ラノリン脂肪酸イソプロピル、イソプロピルミリステート(0.9g/cm3)、イソプロピルパルミテート(0.9g/cm3)、ブチルステアレート(0.9g/cm3)、アプリコトカネルオイル(0.9g/cm3)、コムギの胚種油、月見草油(0.9g/cm3)、スクアレン(0.9g/cm3)、酢酸トコフェロール(1.0g/cm3)、パルミチン酸レチノール(0.9g/cm3)、アボカド油(0.9g/cm3)、綿実油、ミンク油、ヒマシ油、オリーブ油、ホホバ油(0.9g/cm3)、シリコーン油等の各種油脂類、グリセリド、トリグリセリド、ナフタレン含有油、炭化水素含有溶剤およびそれらの混合物等があげられる。上記括弧内は、15℃における体積密度である。
なかでも、水性媒体との相溶性が低く、かつ、モノマー成分との相溶性および比重のバランスに優れ、中空ポリマー粒子の重合安定性に優れる点から、流動パラフィン類を用いることが好ましく、特には流動イソパラフィンが好ましい。
【0031】
かかる非反応性溶媒の使用量については、モノマー成分100重量部に対して5~200重量部であることが好ましく、更に好ましくは15~150重量部、特に好ましくは30~85重量部である。溶媒が多すぎると、ポリマー粒子の強度が低下し、ポリマー粒子の球状を維持し難くなり、均一な光拡散性が低下する傾向があり、少なすぎると内部の空隙率が低下し、反射光強度の最大値が増加する傾向があり、ソフトフォーカス効果が低下する傾向がある。
【0032】
上記水性媒体としては、例えば、水、または水を主体とするアルコール性溶媒があげられ、好ましくは水である。
【0033】
また、本発明においては、懸濁安定性の向上や、重合安定性向上の点から、水性媒体に分散安定剤を含有することが好ましい。
【0034】
上記分散安定剤としては、具体的には、無機化合物;アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤および両性イオン界面活性剤等の界面活性剤;保護コロイド能を有する水溶性高分子;および水溶性オリゴマー等があげられる。
【0035】
上記無機化合物としては、例えば、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛等のリン酸塩、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸亜鉛等のピロリン酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、コロイダルシリカ、タルク、リン酸三カルシウム等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0036】
上記アニオン性界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ石けん等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、サーファクチンナトリウム(株式会社カネカ製、C55-n95.5-2n713Na1.5)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0037】
上記カチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0038】
上記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレン-オキシプロピレンブロックポリマー等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0039】
上記両性イオン界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド等があげられる。
【0040】
上記保護コロイド能を有する水溶性高分子としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシアルキルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0041】
上記水溶性オリゴマーとしては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、アルキレングリコール基等の親水性基を有する重合体が好ましく、中でも10~500程度の重合度を有する重合体または共重合体が好適にあげられる。水溶性オリゴマーの具体例としては、例えば、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体等のアミド系共重合体、メタクリル酸ナトリウム-4-スチレンスルホネート共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ポリ(メタ)アクリル酸塩等が挙げられる。さらに、具体例としては、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、アルキレングリコール基等を有するモノマーやラジカル重合性の反応性乳化剤を予め単独または他のモノマーと共重合してなる水溶性オリゴマー等も挙げられる。これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いられる。
【0042】
本発明においては、モノマー成分を含有する油滴を安定的に分散させ、重合安定性を付与する点、および得られるポリマー粒子懸濁液の安定性を付与する点から、分散安定剤としてポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂と記載することがある。)を用いることが好ましい。
【0043】
PVA系樹脂の平均ケン化度としては、70~99.9モル%であることが好ましく、特に好ましくは80~99.5モル%、更に好ましくは85~99.0モル%である。
かかる平均ケン化度が低すぎると安定的に重合が進行しにくく、重合が完結したとしてもポリマー粒子懸濁液の保存安定性が低下してしまう傾向があり、高すぎると懸濁液作製時の安定性が低下する傾向がある。
なお、平均ケン化度は、JIS K 6726に記載のケン化度の算出方法にしたがって求めることができる。
【0044】
また、PVA系樹脂の平均重合度としては、50~5,000であることが好ましく、特に好ましくは150~4,000であり、更に好ましくは300~3,000である。かかる平均重合度が低すぎると、保護コロイド能力が不充分となり重合が安定的に進行しにくい傾向があり、高すぎると、重合時に増粘して反応系が不安定になり分散安定性が低下する傾向がある。
なお、平均重合度は、JIS K 6726に記載の平均重合度の算出方法にしたがって求めることができる。
【0045】
本発明において、PVA系樹脂として、ポリビニルアルコール、または、各種変性種によって変性された変性ポリビニルアルコール系樹脂を用いることができ、その変性量は、通常20モル%以下、好ましくは15モル%以下、更に好ましくは10モル%以下である。
【0046】
変性ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基をはじめとするアニオン性基で変性されたアニオン変性PVA系樹脂、四級アンモニウム基等のカチオン性基で変性されたカチオン変性PVA系樹脂、アセトアセチル基、ジアセトンアクリルアミド基、メルカプト基、シラノール基をはじめとする各種官能基等により変性された変性PVA系樹脂や、側鎖に1,2-ジオール構造を有する変性PVA系樹脂等を挙げることができる。
【0047】
本発明において、上記分散安定剤の使用量は、前述のモノマー成分100重量部に対して、0.1~60重量部であることが好ましく、特に好ましくは0.3~45重量部、更に好ましくは0.5~30重量部である。
かかる分散安定剤の使用量が少なすぎると、モノマー溶液の分散安定性が低下し、重合安定性が低下する傾向があり、使用量が多すぎると、重合されたポリマー粒子が凝集し、重合安定性が低下する傾向がある。
【0048】
なお、上記分散安定剤の水性媒体中への添加方法としては、予め水性媒体中に添加しておいたり、分散安定剤を添加したモノマー溶液を水性媒体中に分散させたりすることができるが、予め水性媒体中に添加しておくことが好ましい。
また、上記分散安定剤の添加方法としては、(1)分散安定剤をモノマー溶液に全量含有させて一括して添加する方法や、(2)重合の経過に伴って必要に応じて重合途中に分散安定剤をさらに1回以上添加する方法等を用いることができる。
【0049】
さらに、通常、重合においては、重合開始剤を用いることが好ましく、その他必要に応じて、重合調整剤、pH調整剤等を配合することができる。
【0050】
上記重合開始剤としては、例えば、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2′-アゾビスイソブチレート、2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2′-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、4,4′-アゾビス-4-シアノバレリックアシッドのアンモニウム(アミン)塩、2,2′-アゾビス(2-メチルアミドオキシム)ジヒドロクロライド、2,2′-アゾビス(2-メチルブタンアミドオキシム)ジヒドロクロライドテトラヒドレート、2,2′-アゾビス{2-メチル-N-〔1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル〕-プロピオンアミド}、2,2′-アゾビス〔2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド〕等のアゾ系化合物;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;アルキルパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p-メタンヒドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、ジ-イソブチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、過酸化水素等の有機過酸化物;各種レドックス系触媒(この場合酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、p-メタンハイドロパーオキサイド等が、還元剤としては亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等が用いられる。)等があげられる。
【0051】
これらの重合開始剤は単独であるいは2種以上併せて用いられる。これらの中でも重合安定性に優れる点で、アゾ系化合物や有機過酸化物等の油溶性開始剤が好ましい。
【0052】
上記重合開始剤の使用量は、用いるモノマー成分の種類や重合条件などによって異なるが、通常、モノマー成分100重量部に対して、0.01~10重量部であることが好ましく、更に好ましくは0.5~7重量部、特に好ましくは1~5重量部である。重合開始剤の使用量が少なすぎると、重合速度が遅くなる傾向がみられ、多すぎると、得られる共重合体の分子量が低下し、ポリマー粒子の強度が低下する傾向がある。
【0053】
なお、上記重合開始剤の添加方法としては、モノマー溶液に全量含有させて一括して添加する方法や、重合の経過に伴って必要に応じて重合途中に複数回に分けて分割して反応缶に添加する方法等を用いることができる。
【0054】
また、前記重合調整剤としては、例えば、連鎖移動剤、pH緩衝剤等があげられる。
上記連鎖移動剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;n-ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、チオグリセロール等のメルカプタン類等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0055】
また、上記pH緩衝剤としては、例えば、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、蟻酸ナトリウム、蟻酸アンモニウム等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0056】
さらに、重合においては、重合用モノマー溶液の油滴以外の場所で重合が生じることによるポリマー粒子の発生を抑制するために、水性媒体中に無機塩や水溶性重合禁止剤を添加してもよい。無機塩を添加することにより水性媒体に対するモノマー成分の溶解度を低下させ、水性媒体相での重合を抑制することができる。また、上記水溶性重合禁止剤を添加することにより、水性媒体相での重合を抑制することができる。
上記無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。上記水溶性重合禁止剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、塩化銅、塩化鉄、塩化チタン、ヒドロキノン等が挙げられる。
【0057】
本発明のポリマー粒子懸濁液は、より具体的には、下記の工程[I]~[III]を経ることにより製造できる。
[I]モノマー成分と非反応性溶媒、および重合開始剤を混合してモノマー溶液を調製する工程。
[II]上記モノマー溶液が油滴として水性媒体中に分散してなる懸濁液を調製する工程。
[III]上記懸濁液中に分散するモノマー溶液中のモノマー成分を重合させることにより、ポリマー粒子が水性媒体中に分散してなるポリマー粒子懸濁液を製造する工程。
【0058】
工程[II]における懸濁液の調整においては、まず反応缶に水、および分散安定剤、及び必要に応じて重合調整剤、pH調整剤等を仕込み、次いで上記工程[I]で別途調整したモノマー溶液を添加し、撹拌、分散することにより、モノマー溶液が油滴として水中に分散してなる懸濁液を調製することができる。
【0059】
上記撹拌による分散方法としては、プロペラ翼等の撹拌力によってモノマー滴に分散する方法や、ローターとステーターから構成される装置を用いた高剪断力を利用する方法、ステティックミキサー、バイプロミキサー、ホモジナイザー、ホモミキサー、超音波分散機、高圧ホモジナイザー等の公知の分散機を用いた方法等があげられる。
【0060】
撹拌時の温度条件としては、重合反応が開始しない温度であればよく、通常常温であればよく、好ましくは25±15℃程度である。
【0061】
上記撹拌により作製された、水中に分散してなるモノマー溶液の油滴の平均粒子径は、分散安定剤の使用量や上記工程[II]における、撹拌、分散条件により適宜調整することが可能であるが、通常0.01~100μm、好ましくは0.1~50μm、特に好ましくは0.5~30μmである。モノマー溶液の油滴の平均粒子径が大きすぎるとモノマー懸濁液の安定性が低下する傾向があり、小さすぎると重合安定性が低下し、安定したポリマー粒子が得られにくい傾向がある。
【0062】
本発明において、上記油滴の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA社製等)を用いることにより測定した値である。
なお、上記油滴の平均粒子径を揃える方法としては、マイクロフルイダイザー、ナノマイザー等の液滴同士の衝突や機壁への衝突力を利用した高圧型分散機を用いる方法等があげられる。
【0063】
工程[III]における重合条件としては、モノマー成分の種類、重合スケール等に応じて適宜選択することができるが、反応時の温度条件としては、常圧下において通常40~100℃であり、特に好ましくは60~90℃である。
【0064】
上記重合反応に要する時間としては、例えば、1~48時間とすることが好ましく、より好ましくは3~24時間である。
【0065】
また、重合時には、撹拌することが好ましく、その際の攪拌装置としては、懸濁重合に使用する装置であればよいが、例えば、パドル型、タービン型、インペラ型等の棒・板・プロペラ状の撹拌子が槽内で回転する装置等攪拌翼による攪拌混合を用いることができる。なかでも攪拌翼による攪拌混合が好ましい。また、邪魔板付重合缶を使用してもよい。
【0066】
かくして、本発明のポリマー粒子懸濁液の製造方法に従って、ポリマー粒子が水性媒体中に分散してなるポリマー粒子懸濁液が得られる。かかるポリマー粒子は、ポリマー内部に非反応性溶媒を内包しているものである。
【0067】
本発明の製造方法により得られる懸濁液の固形分濃度は、10~60重量%であることが好ましく、特に好ましくは20~55重量%、更に好ましくは30~50重量%である。かかる固形分濃度が低すぎると生産性が低下する傾向があり、高すぎると重合安定性が低下する傾向がある。
【0068】
<中空ポリマー粒子の製造方法>
上記の製造方法により得られるポリマー粒子懸濁液を製造後、ポリマー粒子懸濁液から水性媒体およびポリマー粒子に内包されてなる非反応性溶媒を除去することにより、内部に単一の空隙を有する本発明の中空ポリマー粒子が得られる。
【0069】
上記ポリマー粒子懸濁液から水性媒体およびポリマー粒子に内包されてなる非反応性溶媒を除去する方法としては、例えば、上記ポリマー粒子懸濁液をろ過して、固形分(ポリマー粒子)と水性媒体を分離し、分離したポリマー粒子を常温(25℃程度)の有機溶剤中で1~24時間程度撹拌した後、再度ろ過してポリマー粒子を採取し、その後、採取したポリマー粒子を加熱および/または真空乾燥させる方法があげられる。
【0070】
上記有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール等の低級アルコール類、アセトン等のケトン類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の低級炭化水素類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類等を用いることができる。なかでも、洗浄性に優れる点、取扱いのしやすさの点から低級アルコール類、とりわけイソプロパノールを用いることが好ましい。
【0071】
上記加熱乾燥としては、例えば、循風乾燥機、スプレードライヤー、流動層式乾燥機等を用いて加熱乾燥することでき、加熱条件としては、例えば、循風乾燥機を用いた場合では30~90℃の温度条件で3~24時間加熱乾燥させることが好ましい。
上記真空乾燥としては、例えば、真空乾燥機等を用いて、0~90kPaの減圧条件下で、10~90℃の温度条件で3~20時間加熱乾燥させることが好ましい。
【0072】
このようにして得られる中空ポリマー粒子の平均粒子径は、0.05~50μmであることが好ましく、更には0.1~20μm、特には0.5~15μmであることが好ましい。中空ポリマー粒子の平均粒子径が大きすぎると、光拡散が不十分となり、また化粧品用途で用いる場合に使用感が低下する傾向がある。また、平均粒子径が小さすぎると、使用時の取り扱いが困難になる傾向がある。
【0073】
上記中空ポリマー粒子の平均粒子径は、卓上SEM(走査型電子顕微鏡:ジャスコインターナショナル社製のPhenom proX)にて中空ポリマー粒子を撮影し、撮影結果からメジャー機能を用いて、50個以上の中空ポリマー粒子の粒子径を測定し、その平均値を中空ポリマー粒子の平均粒子径とする。測定条件としては、チャージ軽減ホルダーを用い、加速電圧5kVにて、無蒸着観察を行なう。
【0074】
かくして得られる本発明の中空ポリマー粒子は、光の均一拡散性に優れ、かつ断熱性等にも優れる中空ポリマー粒子であり、化粧料、塗料等、各種分野において好適に用いられる。
【実施例
【0075】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」は、重量基準を意味する。
【0076】
〔実施例1〕
〈ポリマー粒子懸濁液(A-1)の製造〉
モノマー成分としてメチルメタクリレートを56部、スチレンを36部、トリメチロールプロパントリアクリレートを8部、重合開始剤として2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製:「V-65」)を2部、非反応性溶媒としてイソパラフィン(出光興産社製:「IPソルベント1620MU」、(15℃における体積密度0.762g/cm3))を37部それぞれ準備し、これらを混合、撹拌することにより、モノマー溶液を調製した。
【0077】
つぎに、イオン交換水に分散安定剤としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製:「ゴーセノールEG-05」)を1.8%の濃度となるように添加し、ポリビニルアルコール水溶液を作製した。続いて、上記モノマー溶液に、上記ポリビニルアルコール水溶液639部を加え、ホモミキサー(4,000rpm×1分)で撹拌することにより、ポリビニルアルコール水溶液(水性媒体)中に、モノマー溶液が油滴として分散してなる懸濁液を得た。
上記懸濁液中の油滴の平均粒子径を、HORIBA社製のレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した結果、油滴の平均粒子径は約9μmであった。
【0078】
続いて、撹拌機、ジャケット、還流冷却機および温度計を備えた300mlの重合器を用意し、この重合器内に、上記懸濁液を一括投入した後、200rpmにて撹拌し、重合器を75℃まで昇温して、油滴のモノマー成分の重合反応を開始した。上記重合反応を75℃で5時間かけて行なった後、重合器を室温(25℃)まで冷却することにより、非反応性溶媒が内包されてなるポリマー粒子が水性媒体中に分散してなるポリマー粒子懸濁液(A-1)を得た。
【0079】
〈中空ポリマー粒子(P-1)の製造〉
上記で得られたポリマー粒子懸濁液(A-1)をろ過し、固形分(ポリマー粒子)と水溶液を分離した。採取した固形分を、25℃のイソプロパノール中で1時間撹拌した後、濾過することにより同様に固形分を採取し、採取した固形分を50℃で約24時間乾燥させることにより、中空ポリマー粒子(P-1)を得た。
得られた中空ポリマー粒子(P-1)の平均粒子径について、HORIBA社製のレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した結果、平均粒子径は約10μmであった。
【0080】
上記実施例1で得られた中空ポリマー粒子(P-1)について、卓上走査型電子顕微鏡(SEM)(ジャスコインターナショナル社製、Phenom proX)を用いて、形状を観察した。その結果、粒子表面に凹凸(シワ状の窪み)を有するものであった。
【0081】
上記実施例1で得られた中空ポリマー粒子(P-1)について、中空ポリマー粒子をエポキシ樹脂で包接し、ミクロトーム(ライカマイクロシステムズ製:ULTRACUT UCT)で薄切することにより、中空ポリマー粒子が包接されたエポキシ樹脂切片を作成し、この切片を四酸化ルテニウム(RuO4)にて染色し、透過型電子顕微鏡(TEM)(JEOL製 JEM-1400)で観察した。その結果、粒子内部に単一の空隙部分を有するものであることがわかった。
【0082】
〔実施例2〕
〈ポリマー粒子懸濁液(A-2)の製造〉
モノマー成分としてスチレンを94部、ジビニルベンゼン(新日鉄住金化学製:DVB-570)を6部、重合開始剤として2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製:V-65)を2部、油溶性溶剤としてイソパラフィン(出光興産社製:IPソルベント1620MU(15℃における体積密度0.762g/cm3))を37部それぞれ準備し、これらを混合・撹拌することにより、モノマー溶液を調製した。
【0083】
つぎに、イオン交換水に分散安定剤としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製:ゴーセノールEG-05)を5.0%の濃度となるように添加し、ポリビニルアルコール水溶液を作製した。続いて、上記モノマー溶液に、上記ポリビニルアルコール水溶液650部を加え、ホモミキサー(4,000rpm×1分)で撹拌することにより、ポリビニルアルコール水溶液(水性媒体)中に、モノマー溶液が油滴として分散してなる懸濁液を得た。上記懸濁液中の油滴の平均粒子径は約8μmであった。
【0084】
続いて、撹拌機、ジャケット、還流冷却機および温度計を備えた300mlの重合器を用意し、この重合器内に、上記懸濁液を一括投入した後、200rpmにて撹拌し、重合器を75℃まで昇温して、油滴のモノマー成分の重合反応を開始した。上記重合反応を75℃で5時間かけて行なった後、重合器を室温(25℃)まで冷却することにより、ポリマー粒子が水性媒体中に分散してなるポリマー粒子懸濁液(A-2)を得た。
【0085】
〈中空ポリマー粒子(P-2)の製造〉
上記で得られたポリマー粒子懸濁液(A-2)を用いて、実施例1と同様にして、中空ポリマー粒子(P-2)を得た。
得られた中空ポリマー粒子(P-2)の平均粒子径は約8μmであった。
【0086】
〔実施例3〕
〈ポリマー粒子懸濁液(A-3)の製造〉
モノマー成分としてスチレンを97部、ジビニルベンゼン(新日鉄住金化学製:DVB-960)を3部、重合開始剤として2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製:V-65)を2部、非反応性溶媒としてイソパラフィン(出光興産社製:IPソルベント1620MU、(15℃における体積密度0.762g/cm3))を82部それぞれ準備し、これらを混合・撹拌することにより、モノマー溶液を調製した。
【0087】
つぎに、イオン交換水に分散安定剤としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製:ゴーセノールEG-40)を0.57%の濃度となるように添加し、ポリビニルアルコール水溶液を作製した。続いて、上記モノマー溶液に、上記ポリビニルアルコール水溶液368部を加え、ホモミキサー(900rpm×5分)で撹拌し、得られた懸濁液を高圧乳化分散装置(APV GAULIN製:15MR-8TA、条件:60kg/cm2×2回、100kg/cm2×4回)に通すことで、ポリビニルアルコール水溶液(水性媒体)中に、モノマー溶液が油滴として分散してなる懸濁液を得た。
上記懸濁液中の油滴の平均粒子径を、HORIBA社製のレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した結果、油滴の平均粒子径は約6μmであった。
【0088】
続いて、撹拌機、ジャケット、還流冷却機および温度計を備えた2000mlの重合器を用意し、この重合器内に、上記懸濁液を一括投入した後、110rpmにて撹拌し、重合器を75℃まで昇温して、油滴のモノマー成分の重合反応を開始した。上記重合反応を75℃で3時間行った時点で、イオン交換水に分散安定剤としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製:ゴーセノールEG-40)が5.00%の濃度で溶解している水溶液を13部添加した。さらに75℃で2時間重合反応を継続した後、重合器を室温(25℃)まで冷却することにより、非反応性溶媒が内包されてなるポリマー粒子が水性媒体中に分散してなるポリマー粒子懸濁液(A-3)を得た。
【0089】
〈中空ポリマー粒子(P-3)の製造〉
上記で得られたポリマー粒子懸濁液(A-3)を用いて、実施例1と同様にして、中空ポリマー粒子(P-3)を得た。
得られた中空ポリマー粒子(P-3)の平均粒子径は約7μmであった。
【0090】
〔比較例1〕
比較例1として、メチルメタクリレート粒子(P’-1)(綜研化学社製、「SP-50」、平均粒子径5μm)を準備した。この粒子の形状をSEM観察した結果、表面が平滑な中実粒子であることが確認できた。
【0091】
〔比較例2〕
モノマー成分としてエチレングリコールジメタクリレートを63部、重合開始剤として2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製:V-65)を1部、油溶性界面活性剤としてポリリシノレイン酸ヘキサグリセリル(日光ケミカルズ社製:ヘキサグリンPR-15(HLB3.2))を0.2部(アクリル系モノマーに対して0.38%)それぞれ準備し、これらを混合・撹拌することにより、モノマー溶液を調製した。
【0092】
一方、イオン交換水に塩化ナトリウムを1%の濃度となるように添加し、水溶液(内水相)を作製した。つぎに、上記モノマー溶液64部と、上記塩化ナトリウム水溶液27.56部とを混合して超音波処理装置(350μA×4.5分)を用いて乳化することにより、モノマー溶液中に、上記水溶液(内水相)が分散されてなる油中水(Wi/O)型懸濁液を形成した。
【0093】
つぎに、イオン交換水に分散安定剤としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製:ゴーセノールEG-05)を1.6%の濃度となるように添加し、水溶液を作製した。つぎに、上記油中水(Wi/O)型懸濁液に、上記水溶液222部を加え、ホモミキサー(5,000rpm×1分)により撹拌することにより、水溶液(水性媒体)中に、油中水(Wi/O)型懸濁液(I)からなる油滴(多数の微細な水滴を内包する)が分散してなる水中油(Wi/O/Wo)型懸濁液を得た。
【0094】
撹拌機、ジャケット、還流冷却機および温度計を備えた300mlの重合器を用意し、この重合器内に、上記水中油(Wi/O/Wo)型懸濁液を一括投入した後、150rpmにて撹拌しながら30分掛けて、重合器内部を窒素雰囲気とした。
【0095】
その後、常圧下、重合器を70℃まで昇温して、油滴のモノマー成分の重合反応を開始した。上記重合反応を70℃で6時間かけて行なった後、重合器を室温(25℃)まで冷却することにより、水(水溶液)が内包されてなるポリマー粒子が水性媒体中に分散してなる懸濁液(A’-1)を得た。
【0096】
〈中空ポリマー粒子の製造〉
上記で得られたポリマー粒子懸濁液(A’-1)をろ過し、固形分(ポリマー粒子)と水溶液を分離した。採取した固形分を、70℃のオーブン中で加熱乾燥させることにより、中空ポリマー粒子(P’-2)を得た。
得られた中空ポリマー粒子(P’-2)の平均粒子径は約14μmであった。
得られた中空ポリマー粒子(P’-2)の形状をSEM観察した結果、表面が平滑な中空粒子であることが確認できた。
【0097】
〔比較例3〕
モノマー成分としてスチレンを95部、ジビニルベンゼン(新日鉄住金化学製:DVB-570)を5部、重合開始剤として2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製:V-65)を2部、非反応性溶媒として1,2-ジクロロエタン(15℃における体積密度1.26g/cm3)を89部それぞれ準備し、これらを混合・撹拌することにより、モノマー溶液を調製した。
【0098】
つぎに、イオン交換水に分散安定剤としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製:ゴーセノールEG-40)を0.57%の濃度となるように添加し、ポリビニルアルコール水溶液を作製した。続いて、上記モノマー溶液に、上記ポリビニルアルコール水溶液360部を加え、ホモミキサー(2000rpm×1.5分)で撹拌し、得られた懸濁液を超音波ホモジナイザー(BRANSON製:Digital Sonifier、条件:AMPLITUDE 70%×3分)で乳化することによって、ポリビニルアルコール水溶液(水性媒体)中に、モノマー溶液が油滴として分散してなる懸濁液を得た。
上記懸濁液中の油滴の平均粒子径を、HORIBA社製のレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した結果、油滴が安定に存在できずに、すぐに崩壊したことがわかった。
【0099】
<反射光特性>
上記実施例1~3および比較例1~2で得られた各ポリマー粒子を用いて、下記の方法で光線反射率を測定し、反射光特性を評価した。結果を表1に示す。
【0100】
〔測定用サンプルの作製〕
まず市販の黒色の厚紙(5cm×5cm)の上に両面テープ(3cm×5cm)を貼付し、厚紙に被着している側と反対側の粘着面上に、比較例1のポリメチルメタクリレート粒子(綜研化学社製「SP-50」、形状:中実平滑粒子)を塗布し、刷毛で均一に広げて、反射光強度の基準測定用サンプルとした。
【0101】
次に、上記と同様にして市販の黒色の厚紙の上に両面テープを貼り、その上に実施例1~3および比較例2、比較例3で製造した中空ポリマー粒子を塗布し、反射光強度の対象測定用サンプルとした。
【0102】
三次元変角光度計(株式会社村上色彩技術研究所製「GP-200」、ハロゲンランプ使用)を用いて、入射角を60°に設定し、基準測定用サンプル(比較例1のポリマー粒子)の反射光強度を測定した時の最大SENSITIVITYが170になるようにHIGH VOLTを調整し、対象測定用サンプル(実施例1~3および比較例2で製造した中空ポリマー粒子)の反射光強度(%)を測定した。
測定結果を図3に示す。
【0103】
上記反射光強度(%)の測定結果より、測定角度-55°~55°における、反射光強度(%)の最大値と最小値の差を算出し、評価した。
(評価基準)
○:測定角度-55°~55°における、反射光強度(%)の最大値と最小値の差が20%以下
×:測定角度-55°~55°における、反射光強度(%)の最大値と最小値の差が20%より大きい
【0104】
また、測定角度-55°における反射光強度を評価した。
(評価基準)
○:測定角度-55°での反射光強度が60%以下
×:測定角度-55°での反射光強度が60%より大きい
【0105】
【表1】
【0106】
図3及び表1の結果より、実施例1~3の中空ポリマー粒子は、粒子表面が平滑な中実粒子(比較例1)や表面が平滑な中空粒子(比較例2)と比較して、反射光強度の最大値と最小値の差が小さく、各方位に均一に光が拡散するものであることがわかる。
また、実施例1~3の中空ポリマー粒子は、入射角60°に対する測定角度-55°での反射光強度(最大反射光強度に相当するものとみなすことができる)が、比較例1のポリマー粒子と比較して低いものであり、光拡散性に優れることがわかる。
これらの実施例の中空ポリマー粒子の特性は、例えば、化粧料用途等において優位性のあるものである。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の中空ポリマー粒子は、光の均一拡散性に優れ、かつ断熱性等にも優れるものであり、化粧料、塗料等、各種分野において好適に用いられる。例えば、どの角度からみても光が均一に拡散するため、化粧品用途でのソフトフォーカス等の効果が得られる。
また、本発明のポリマー粒子懸濁液の製造方法、中空ポリマー粒子の製造方法によれば、光拡散性に優れ、断熱性等にも優れるポリマー中空粒子を安定的に製造することができる。
図1
図2
図3