(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】カッター装置、およびプリンタ
(51)【国際特許分類】
B26D 1/08 20060101AFI20220721BHJP
B41J 11/70 20060101ALI20220721BHJP
B26D 7/26 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
B26D1/08
B41J11/70
B26D7/26
(21)【出願番号】P 2018137085
(22)【出願日】2018-07-20
【審査請求日】2021-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2017142043
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 勉
【審査官】山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-084888(JP,A)
【文献】特開2006-075935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 1/08
B41J 11/70
B26D 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定刃と、前記固定刃に対して摺動し、一方の端部から他方の端部に向かって前記固定刃と順に噛み合うことで切断対象物を切断する可動刃と、を有する切断部と、
前記可動刃を移動させる駆動部と、
前記切断対象物の切断開始側の前記可動刃に接続され、前記可動刃を付勢する付勢部材と、
前記切断対象物の切断開始から切断終了までの間において、前記可動刃の移動方向に交差する平面に投影された前記可動刃の刃先と前記固定刃の刃先とにより形成される角度であるはさみ角の変動を抑制するように調整する調整部材と、を備え
、
前記調整部材は、前記移動方向に交差する方向における前記可動刃の両端部に回動可能に接続され、回動しながら前記可動刃を支持する支持部材であり、
前記支持部材は、回転軸から前記可動刃における切断開始側の端部との第1接続位置までの長さを、前記回転軸から前記可動刃における切断終了側の端部との第2接続位置までの長さより長くすることで、前記はさみ角の変動が所定範囲内になるように調整する、カッター装置。
【請求項2】
前記支持部材は、前記回転軸が回動可能に保持され、前記回転軸の両端部から屈曲した端部それぞれが、前記可動刃に回動可能に接続されている、請求項
1に記載のカッター装置。
【請求項3】
切断対象物に印字する印字部と、
印字された前記切断対象物を切断する請求項1
又は2に記載のカッター装置を備えるプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、カッター装置、およびプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レシートプリンタでは、プリンタの内部にセットされたロール紙(切断対象物)に所定の情報を印字し、印字後にカッター装置で切断することでレシートを発行する。このようなレシートプリンタでは、ロール紙を補給するため、セット性を考慮し、可動刃と固定刃とを分離構造とした分割型のカッター装置が用いられている。
【0003】
このような分割型のカッター装置は、部品の累積寸法や部品のたわみ等により、可動刃と固定刃とを一体構造とした一体型のカッター装置と比べて、可動刃と固定刃とが形成する角度が変動しやすく、精度が劣ることがあった。
【0004】
また、スライドタイプのカッター装置においては、例えば、切断過程において可動刃と固定刃が形成する角度の変動が少なくなるように、スライドする可動刃が平行に移動するための支持部材(スタビライザ)が用いられる場合がある。しかし、そのようなカッター装置では、可動刃を付勢する付勢部材(カッタースプリング)との位置関係や当該付勢部材による付勢力等により、切断過程において当該角度が変動して小さくなっていく傾向があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、切断対象物の切断開始から終了までの間において可動刃と固定刃が形成する角度の変動を抑制し、切断性能の低下を抑制するカッター装置、およびプリンタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のカッター装置は、固定刃と、前記固定刃に対して摺動し、一方の端部から他方の端部に向かって前記固定刃と順に噛み合うことで切断対象物を切断する可動刃と、を有する切断部と、前記可動刃を移動させる駆動部と、前記切断対象物の切断開始側の前記可動刃に接続され、前記可動刃を付勢する付勢部材と、前記切断対象物の切断開始から切断終了までの間において、前記可動刃の移動方向に交差する平面に投影された前記可動刃の刃先と前記固定刃の刃先とにより形成される角度であるはさみ角の変動を抑制するように調整する調整部材と、を備え、前記調整部材は、前記移動方向に交差する方向における前記可動刃の両端部に回動可能に接続され、回動しながら前記可動刃を支持する支持部材であり、前記支持部材は、回転軸から前記可動刃における切断開始側の端部との第1接続位置までの長さを、前記回転軸から前記可動刃における切断終了側の端部との第2接続位置までの長さより長くすることで、前記はさみ角の変動が所定範囲内になるように調整する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態にかかるレシートプリンタの概要を示す図である。
【
図4】
図4は、スタビライザの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、カッター機構の動作を説明する図である。
【
図6】
図6は、
図5(a)に対応する可動刃、固定刃、スタビライザの各部の位置関係を示す図である。
【
図7】
図7は、
図5(b)に対応する可動刃、固定刃、スタビライザの各部の位置関係を示す図である。
【
図8】
図8は、
図5(c)に対応する可動刃、固定刃、スタビライザの各部の位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態であるカッター装置、およびカッター装置を備えたレシートプリンタについて説明する。
【0009】
図1は、実施形態にかかるレシートプリンタの概要を示す図である。レシートプリンタ1は、レシートカバー部10と、本体部30とを備えている。レシートプリンタ1は、プリンタの一例である。
【0010】
本実施形態のレシートプリンタ1は、レシートカバー部10を下側の本体部30に対して開閉可能に固定している。レシートプリンタ1は、コマンドを受け取ると、ロール紙Rから用紙を搬送しながら所定の情報(レシート情報)を印字し、印字後の用紙を切断してレシートを作成する。
【0011】
まず、本体部30について説明する。本体部30は、内部に、収容部31と、サーマルヘッド41と、固定刃21とを備えている。
【0012】
収容部31は、用紙が巻回されたロール紙Rを矢印r1方向に回転自在な状態で収容する。本実施形態で用いる用紙は、切断対象物の一例であり、例えば、印字後に切断されることでレシートとして顧客に渡される。用紙に所定のレシート情報を印字する際には、用紙の一端が後述のプラテンローラ42の回転によって引っ張られて、用紙がロール紙Rから剥離される。
【0013】
本実施形態のレシートプリンタ1では、収容部31にロール紙Rを収容する場合、上方から投入することによって収容する、いわゆるドロップイン方式を採用している。
【0014】
サーマルヘッド41は、用紙の搬送部であるプラテンローラ42と密着し、用紙に所定のレシート情報を印字する。サーマルヘッド41が印字部の一例である。
【0015】
固定刃21は、サーマルヘッド41の上方(用紙の搬送下流側)に固定された状態で、印字後の用紙を切断する刃である。本実施形態では、固定刃21は、刃先21aが可動刃11側に向くよう(
図2における矢印A方向と反対方向)に設けられている。なお、固定刃21は、後述のレシートプリンタ1のカッター機構を構成する部材の1つである。
【0016】
次に、レシートカバー部10について説明する。
図2は、カッター機構の上面図である。
図3は、カッター機構の斜視図である。
図1~3に示すように、レシートカバー部10は、プラテンローラ42と、カッターフレーム15と、可動刃11と、駆動カムギア12と、カッタースプリング13と、スタビライザ14と、を備えている。
【0017】
本実施形態のカッター機構は、
図2、3に示すように、カッターフレーム15、可動刃11、駆動カムギア12、カッタースプリング13、スタビライザ14、および先に説明した固定刃21を備えている。カッター機構は、カッター装置の一例であり、プラテンローラ42やサーマルヘッド41等の他の部品と一体となってレシートプリンタ1を構成してもよいし、レシートプリンタ1から着脱可能な構成としてもよい。また、固定刃21と可動刃11が切断部の一例である。
【0018】
プラテンローラ42は、ステッピングモータ等からの駆動力が伝達されることにより回転して、サーマルヘッド41との間で挟持した用紙を、用紙の搬送方向上流側の収容部31から、下流側の用紙の切断位置に向けて搬送する。
【0019】
カッターフレーム15は、レシートプリンタ1の上面を覆うカバーであるとともに、レシートカバー部10に備えられた各種部品を保持する枠体である。
【0020】
可動刃11は、保持部11bに刃が固定されて構成されており、刃先11aが固定刃21の刃先21aに対向して設けられている。また、可動刃11は、固定刃21に対して摺動(
図2の矢印A方向に移動して接触)し、一方の端部(一端部)から他方の端部(他端部)に向かって固定刃21と順に噛み合うことで用紙を切断する。可動刃11の刃先11aは、対向する固定刃21の刃先21aに対して、所定の角度を有する位置に設けられているため、可動刃11の移動に伴って順に噛み合うことになる。
【0021】
図2に示すように、本実施形態の可動刃11の刃先11aは、移動方向(矢印A方向)に向かって左端部の刃先11a-Lが固定刃21の刃先21aに最も近く、矢印A方向に向かって右端部の刃先11a-Rが固定刃21の刃先21aに最も遠くなるように、所定の角度を有している。
【0022】
本実施形態において、用紙は、お互いの刃先が対向し合う可動刃11と固定刃21との間に進入し、固定刃21側(下方)から可動刃11側(上方)に向かって搬送される。可動刃11の刃先11aと固定刃21の刃先21aとの間の間隙は、用紙搬送路の一部を構成する。
【0023】
固定刃21の刃先21aは、搬送される用紙の面と平行に設けられている。可動刃11の刃先11aは、搬送される用紙の面と所定の角度を以って対向する。したがって、可動刃11の刃先11aと固定刃21の刃先21aとの間の間隙は、可動刃11の長手方向一端部側の方が、長手方向他端部側よりも小さい。用紙の切断は、上記一端部(切断開始側端部)から上記他端部(切断終了側端部)に向かって進行する。
【0024】
駆動カムギア12は、可動刃11を移動させる駆動部の一例である。駆動カムギア12は、歯車を回転させた回転運動を矢印A方向の駆動力に変換して可動刃11に伝達することで、可動刃11を固定刃21に向かって往復移動させる。可動刃11が往復移動する方向は、可動刃11の刃先11aを固定刃21の刃先21aに近付けたり、固定刃21の刃先21aから遠ざけたりする方向である。本実施形態では、カムを用いた駆動部を備えた構成となっているが、可動刃11を移動できれば、モータ等を用いた駆動部を備えた構成としてもよい。
【0025】
カッタースプリング13は、可動刃11の刃先11aと固定刃21の刃先21aとの間に進行した用紙を切断し始める側(切断開始側)、本実施形態では可動刃11の移動方向(A方向)に向かって左側(刃先11a-L側)に設けられる。カッタースプリング13は、保持部11bとカッターフレーム15との間に懸架され、可動刃11における切断開始側端部を、固定刃21の切断開始側端部に向けて付勢する。このカッタースプリング13が付勢部材の一例である。本実施形態のカッタースプリング13は、可動刃11を固定刃21側である下方に向かって付勢している。レシートカバー部10が閉められると、カッタースプリング13によって可動刃11が固定刃21側に押圧された状態で待機状態となる。
【0026】
そして、可動刃11が駆動カムギア12によって矢印A方向に移動する場合に、カッタースプリング13によって付勢されていることで、可動刃11は固定刃21に摺動していく。本実施形態では、スプリングにより可動刃11を付勢する構成となっているが、可動刃11を付勢できれば、板バネ等の他の付勢部材を用いた構成としてもよい。
【0027】
スタビライザ14は、その長さ方向を軸心方向とする回動(所定の角度範囲で回転)が可能な状態で、カッターフレーム15に取り付けられる。カッターフレーム15は、スタビライザ14が回動しても自身から浮き上がって離れてしまわない状態で、スタビライザ14を保持する。このような保持状態は、例えばカッターフレーム15の底面内側にスタビライザ14の回動の軸心となる部分を受け入れることができる溝を形成するとともに、この溝の脇から溝の一部を覆うような爪状の部材を溝の脇に設けるような構造によって可能である。カッターフレーム15内において、スタビライザ14は、その長さ方向が、カッターフレーム15上で固定刃21に向かって移動する可動刃11の移動方向(矢印A方向)に直交(交差の一例)する方向(矢印B方向)と平行を成す状態で配置される。そして、スタビライザ14は、カッターフレーム15内で、保持部11bの一端を支持する。保持部11bの一端には、スタビライザ14の両端部(後述の端部14b-1、14c-1)が回動可能に接続される。本実施形態のスタビライザ14は、可動刃11の保持部11bの奥側(矢印A方向の反対方向)で、かつ移動方向に直交する方向における両端部に形成された孔部(図示せず)に、スタビライザ14の両端部が挿入される。
【0028】
本実施形態では、可動刃11の移動方向(矢印A方向)に直交する平面に投影された可動刃11の刃先11aと固定刃21の刃先21aとにより形成される角度をはさみ角と称する。つまり、はさみ角は、カッター機構を可動刃11の移動方向と反対方向(矢印A方向と反対方向)から見た場合の可動刃11の刃先11aと固定刃21の刃先21aとにより形成される角度である。スタビライザ14は、用紙の切断開始から切断終了までの間において、はさみ角の変動を抑制するように調整する調整部材の一例であるとともに、可動刃11を支持する支持部材の一例である。以下にスタビライザ14の詳細について説明する。
【0029】
図4は、スタビライザ14の一例を示す図である。
図4(a)は、従来のスタビライザ114を示しており、
図4(b)は、本実施形態のスタビライザ14を示している。
【0030】
図4(b)に示すように、本実施形態のスタビライザ14は、回転軸14aの両端から屈曲した第1部位14b、第2部位14cが形成されている。そして、第1部位14b、第2部位14cは、回転軸14aと反対側に端部14b-1、14c-1が屈曲して形成されている。換言すると、スタビライザ14は、第1部位14bと第2部位14cとが回転軸14aを介して連続して一体形成されている。なお、従来のスタビライザ114において、第1部位114bが第1部位14bに相当し、第2部位114cが第2部位14cに相当する。
【0031】
そして、
図2、3に示すように、スタビライザ14は、回転軸14aがカッターフレーム15に回動可能な状態で保持されており、端部14b-1が保持部11bの切断開始側の端部に回動可能に接続され、端部14c-1が保持部11bの切断終了側の端部に回動可能に接続されている。また、スタビライザ14の端部14b-1、14c-1は、保持部11bの可動刃11ではない反対側両端部に回動可能な状態で取り付けられている。保持部11bの可動刃11ではない反対側両端部には、スタビライザ14の端部14b-1、14c-1が挿入される孔部が形成されている。そして、スタビライザ14は、保持部11bの可動刃11ではない反対側を、カッターフレーム15上で支える。また、保持部11bの可動刃11側は、可動刃11の刃先11aと対向する固定刃21によって支持される。
【0032】
図4(a)に示すように、従来のスタビライザ114は、回転軸114aから可動刃11における切断開始側の端部との接続位置までの長さL1と、回転軸114aから可動刃11における切断終了側の端部との接続位置までの長さL2とが等しくなっている。一方、
図4(b)に示すように、本実施形態のスタビライザ14は、回転軸14aから可動刃11における切断開始側の端部との接続位置(第1接続位置に相当)までの長さL3が、回転軸14aから可動刃11における切断終了側の端部との接続位置(第2接続位置に相当)までの長さL4より長さdだけ長くなっている。すなわち、L3=L4+dとなっている。
【0033】
スタビライザ14(114)の動きを部分ごとに説明する。回転軸14a(114a)は、カッターフレーム15に対して、自身の長さ方向を軸とする回動は可能であるが、その他の相対動作は不可能である。例えば、回転軸14a(114a)は、カッターフレーム15に対し、自身の長さ方向に沿った移動は不可能であり、また、当該長さ方向が変わるような移動は不可能である。
【0034】
端部14b-1(114b-1)および14c-1(114c-1)は、上述の通り、保持部11bの互いに対向し合う別々の位置に取り付けられている。端部14b-1(114b-1)および14c-1(114c-1)は、保持部11bに対して回動可能に取り付けられている。
【0035】
可動刃11は、矢印A方向に移動するとき、端部14b-1(114b-1)および14c-1(114c-1)を、A方向に移動させる。
【0036】
端部14b-1(114b-1)および14c-1(114c-1)が移動すると、回転軸14a(114a)は回動する。このとき、端部14b-1(114b-1)および14c-1(114c-1)は、回転軸14a(114a)を軸心として移動する。当該移動中、端部14b-1(114b-1)および14c-1(114c-1)は、回転軸14a(114a)との距離を、各々一定に保つ。
【0037】
保持部11bの往復動は、回転軸14aを軸心としてスタビライザ14をカッターフレーム15内で回動させる。このようなスタビライザ14の回動は、保持部11bの往復動する端部を上下動させる。
【0038】
次に、カッター機構の動作について説明する。
図5は、カッター機構の動作を説明する図である。まず、
図5(a)は、待機状態である。
図5(b)は、用紙の切断開始状態である。
図5(c)は、用紙の切断終了状態である。
図5(d)が、完了状態である。ここで、
図6~
図8は、
図5(a)~(c)に対応し、用紙の切断中の可動刃11、固定刃21、スタビライザ14の各部の位置関係を段階的に示した図である。なお、
図6~
図8は、可動刃11の移動方向(矢印A方向)に向かって左端部の刃先11a-Lが図中手前、右端部の刃先11a-Rが図中奥、となる向きの側面図である。
【0039】
ここで、
図6~
図8に示すように、可動刃11の刃先11aは、用紙の搬送方向に対し、傾いている(当該傾きの角は「はさみ角」である)。可動刃11の切断開始側端部(図中手前)は、切断終了側端部(図中奥)よりも、用紙搬送方向下流側(図中上側)に位置する。更に、可動刃11の切断開始側端部(図中手前)は、固定刃21よりも上方(用紙搬送方向下流側)に位置し、固定刃21の切断開始側端部と重なる。
【0040】
まず、切断開始前である、保持部11bが固定刃21から一番離れている状態(
図5(a)参照)において、スタビライザ14は、カッターフレーム15内で、固定刃21(可動刃11の刃先11a)とは反対側に倒れ込んでいる(
図6参照)。そのため、保持部11bの固定刃21に近い側(可動刃11の刃先11a側)は、固定刃21から遠い側(可動刃11とは反対側)よりも上方に位置する。この状態において、可動刃11の切断開始側端部は、固定刃21に接触している。
【0041】
用紙への所定の情報の印字が終了すると、可動刃11が駆動カムギア12からの駆動力により矢印A方向に移動し始め、さらにスタビライザ14も回転軸14aを軸に回動するとともに用紙を切断し始める(
図5(b)参照)。
【0042】
保持部11bが固定刃21の刃先21aに向かって近付き始めると、スタビライザ14は、カッターフレーム15内で、固定刃21(可動刃11の刃先11a)側に向かって徐々に立ち上がっていく。このようなスタビライザ14の立ち上がりにより、保持部11bの固定刃21に近い側(可動刃11の刃先11a側)を下方に向けて付勢する力は、徐々に増していく。
【0043】
可動刃11が固定刃21に向かって移動すると、刃先11aと刃先21aとは、一点で交差する(
図7参照)。固定刃21は、この交差する一点すなわち交差点Kで、可動刃11を支える。この交差点Kは、可動刃11が固定刃21に向かって移動するに連れて、可動刃11の切断開始側から切断終了側へと移動していく。刃先11aと刃先21aとの交差点Kが可動刃11の切断開始側から切断終了側へと移動していくにつれ、可動刃11の切断開始側端部は上方に移動してゆき固定刃21から離れていく。
【0044】
刃先11aと刃先21aとの交差点Kが可動刃11の切断終了側端部まで至っていない時には、可動刃11の切断終了側端部は、固定刃21の切断終了側端部よりも下方に位置している。そして、交差点Kが可動刃11の切断終了側端部に達すると(
図5(c)参照)、当該切断終了側端部は固定刃21上に位置し、固定刃21の切断終了側端部と重なる(
図8参照)。
【0045】
図5(b)の状態からさらに可動刃11が移動し、スタビライザ14も回動すると、用紙を切断し終え、
図5(c)の状態(用紙の切断終了状態)となる。さらに、可動刃11が移動し、スタビライザ14も回動し、その後停止すると
図5(d)の状態となる。このように、可動刃11が駆動カムギア12からの駆動力により矢印A方向に移動して用紙を切断する際、スタビライザ14は、回転軸14aを軸にして回動しながら、可動刃11の移動を規制して支持する。
【0046】
次に、
図9および
図10を用いて、従来のスタビライザ114と本実施形態のスタビライザ14による可動刃11の動きの違いについて説明する。
図9は、可動刃11の動きの説明図である。なお、
図9は、
図6~
図8と逆側からの側面図であって、可動刃11の移動方向(矢印A方向)に向かって右端部の刃先11a-Rが図中手前、左端部の刃先11a-Lが図中奥、となる向きの側面図である。
図9(a)は、従来のスタビライザ114を用いた場合を示し、
図9(b)は、本実施形態のスタビライザ14を用いた場合を示している。従来のスタビライザ114および本実施形態のスタビライザ14は、可動刃11の移動に伴ってそれぞれ回転軸114a、14aを軸としてr2方向に回動する。
【0047】
図10は、はさみ角を模式的に示す正面図である。
図10(a)は、用紙の切断開始時のはさみ角を示し、
図10(b)は、用紙の切断終了時のはさみ角を示している。なお、
図10(a)は、従来のスタビライザ114を用いた場合と本実施形態のスタビライザ14を用いた場合とに共通である。また、
図10(b)では、従来のスタビライザ114を用いた場合を破線にて示し、本実施形態のスタビライザ14を用いた場合を実線にて示している。
【0048】
従来のスタビライザ114を用いた場合の可動刃11の動きについて説明する(
図9(a))。従来のスタビライザ114は、回転軸114aから可動刃11との接続位置までの長さL1と、回転軸114aから可動刃11との接続位置までの長さL2とが等しくなっている(
図4(a))。
【0049】
また、上述したように、可動刃11は、切断開始側にカッタースプリング13が設けられて固定刃21を押圧するように付勢しているため、矢印A方向に移動する場合に、固定刃21に摺動しながら矢印A方向に移動していく。従って、
図10(a)に示すように、可動刃11は、用紙の切断開始時では、固定刃21に対して、切断終了側の刃先11a-R(
図2参照)が下方向に傾いている。つまり、切断開始時には、可動刃11と固定刃21によって、はさみ角θ1が形成されている。
【0050】
そして、従来、用紙の切断開始時から可動刃11がスライド移動していくことに伴い、可動刃11と固定刃21により形成されたはさみ角が減少していく(
図10(b)の破線により形成される角度α)。これは、可動刃11の移動に伴い、カッター機構の切断点が図中右側(切断開始側)から図中左側(切断終了側)へシフト移動する。
【0051】
従来のスタビライザ114を介してカッターフレーム15に接続された可動刃11は、カッターフレーム15に対し、略平行に移動する。本実施形態のスタビライザ14を介してカッターフレーム15に接続された可動刃11は、カッターフレーム15に対して、ねじれ移動する。より詳細には以下の通りである。
【0052】
従来のスタビライザ114においては、端部114b-1と回転軸14aとの距離(長さL1相当)と、端部114c-1と回転軸14aとの距離(長さL2相当)とは、等しい。よって、当該スタビライザ114により支えられた可動刃11は、概ね平行に移動する(
図9(a)参照)。
【0053】
ただし、可動刃11と固定刃21との相対位置が固定されていない構造であるために、固定刃21と噛み合っているときのはさみ角が、切断終了側に近づくほど小さくなってしまいがちである(
図10(a)に示すはさみ角θ1の角度から
図10(b)に示す角度αに減少)。この現象は、部品間にガタつきがある場合や、可動刃11などの部品がたわむ場合には、より顕著である。
【0054】
また、カッタースプリング13による付勢は、スタビライザ114の立ち上がりが大きくなるほど強く働くので、スタビライザ114の立ち上がりが大きくなるほど、つまり切断終了側に近づくほど、部品がたわみやすくなり、はさみ角が小さくなっていく。
【0055】
保持部11bが固定刃21の刃先21aに向かって近付くに連れて固定刃21から離れ、上方に位置するようになった可動刃11の切断開始側端部には、カッタースプリング13による固定刃21に向けての付勢力とスタビライザ114の立ち上がりによる下方に向けての付勢力とが働くようになる。これらの付勢力は、交差点Kが可動刃11の切断開始側から切断終了側へと移動していくに連れて、より強く働く。そして、この付勢力は、可動刃11の用紙の搬送方向に対する傾き(はさみ角)を小さくする。はさみ角が小さくなると、用紙が滑って交差点Kから逃げたりする等して用紙を上手く切れなくなり、切れ味が悪くなる。
【0056】
なお、このはさみ角が小さくなる現象には、保持部11bに対する可動刃11やスタビライザ114の取り付け精度、カッターフレーム15に対するスタビライザ114の取り付け精度、保持部11bの強度が影響する。なぜなら、可動刃11とカッターフレーム15との間のガタやたわみがあると、付勢方向の移動量が大きくなる。付勢方向ははさみ角を小さくする方向である。ガタやたわみは経時により増大する傾向がある。したがって、カッター機構の継続的な使用に伴って、このような現象がより起き易くなる。
【0057】
一方、本実施形態のスタビライザ14においては、
図4に示すように、端部14b-1と回転軸14aとの距離(長さL3相当)は、端部14c-1と回転軸14aとの距離(長さL4相当)よりも、長さdだけ長い。よって、回転軸14aと端部14b-1との距離と、回転軸14aと端部14c-1との距離とは、異なる。
【0058】
これにより、移動中の可動刃11の運動には、ねじれが含まれる(
図9(b)参照)。具体的には、スタビライザ14が回動し、可動刃11が前方に移動するにつれて、端部14b-1が端部14c-1よりも多く持ち上がることにより、可動刃11の移動に伴いねじれが生じる。
【0059】
このねじれは、はさみ角を大きくする。このねじれを含む運動を可動刃11がすることによって、部品にガタつきやたわみがあることで可動刃11が固定刃21に対して傾きが減少する方向に傾いたとしても、可動刃11が端部14b-1側に持ち上がって傾くため、はさみ角を大きく保つことができる(
図10(a)に示すはさみ角θ1の角度から
図10(b)に示すはさみ角θ2の角度のように、変化が少ない)。つまり、ガタつきやたわみのはさみ角への影響が抑制される。
【0060】
図10(a)に示すように、可動刃11は、用紙の切断開始時では、固定刃21に対して、切断終了側の刃先11a-Rが下方向に傾いている。従来は、可動刃11のスライド移動に伴いはさみ角が減少していたため、本実施形態のスタビライザ14は、上記の長さL3を長さL4より長くすることで、可動刃11の固定刃21に対するはさみ角度を調整する。このとき、スタビライザ14は、切断開始時における、可動刃11の刃先11aと固定刃21の刃先21aにより形成されるはさみ角(
図10(a)のθ1)から、切断終了時におけるはさみ角(
図10(b)のθ2)までの角度の変動が予め定めた所定範囲内になるように長さL3および長さL4を調整する。
【0061】
つまり、本実施形態のスタビライザ14は、切断開始側の高さ(
図4の回転軸14aから第1接続位置までの長さL3)を、切断終了側の高さ(
図4の回転軸14aから第2接続位置までの長さL4)より長さdだけ長くすることによって、可動刃11のスライド移動に伴って、スタビライザ14が回転軸14aをr2方向に回転し、可動刃11の切断開始側の高さを切断終了側の高さに対し矢印C方向(
図9(b))に上げていく。
【0062】
これにより、
図9(b)に示すように、駆動カムギア12により矢印A方向の駆動力を与えられた場合、可動刃11の切断終了側は矢印A方向より傾いた矢印A´方向に移動するとともに、可動刃11の切断開始側の刃先11aを矢印C方向に上げていく。これによって、可動刃11と固定刃21との切断点がシフト移動していく際に発生する可動刃11と固定刃21とにより形成されるはさみ角の減少を抑制するように補正できる。つまり、切断開始時のはさみ角θ1(
図10(a))から、切断終了時のはさみ角θ2(
図10(b))までの角度の変動を抑制する。
【0063】
このように、本実施形態のレシートプリンタ1は、可動刃11の移動を支持するスタビライザ14における切断開始側の長さL3を切断終了側の長さL4より長さdだけ長くすることで、用紙の切断開始から切断終了までにおいて可動刃11と固定刃21が形成するはさみ角の変動を抑制することができ、切断性能の低下を抑制することができる。
【0064】
また、本実施形態のレシートプリンタ1は、使用はじめのカッター機構の安定性はもとより、継続使用によって可動刃11とカッターフレーム15との間にガタが発生しても、使用寿命時まで十分なはさみ角を維持でき、追加部品等の特別な機構を用いることなく、長寿命、かつ信頼性を向上させたカッター装置(機構)を提供することができる。
【0065】
上記は、本発明の実施形態の一例を提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1 レシートプリンタ
10 レシートカバー部
11 可動刃
11a 刃先
11b 保持部
12 駆動カムギア
13 カッタースプリング
14 スタビライザ
14a 回転軸
14b 第1部位
14c 第2部位
14b-1、14c-1 端部
15 カッターフレーム
21 固定刃
21a 刃先
30 本体部
31 収容部
41 サーマルヘッド
42 プラテンローラ
θ1、θ2 はさみ角
【先行技術文献】
【特許文献】
【0067】