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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】候補分析種を順位づけるための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20220721BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20220721BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20220721BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20220721BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N27/62 C
G01N30/72 A
H01J49/04 220
H01J49/26
H01J49/00 360
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020544276
(86)(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 US2019019354
(87)【国際公開番号】W WO2019165347
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-10-10
(31)【優先権主張番号】62/635,379
(32)【優先日】2018-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592071853
【氏名又は名称】レコ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】LECO CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100147511
【弁理士】
【氏名又は名称】北来 亘
(72)【発明者】
【氏名】アルタエフ,ヴィアチェスラフ
(72)【発明者】
【氏名】リチャーズ,トッド
(72)【発明者】
【氏名】フェル,ローン
(72)【発明者】
【氏名】ミクニット,ケビン,リー
【審査官】赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/002047(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047580(WO,A1)
【文献】特表2005-532565(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0297201(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0340216(US,A1)
【文献】特開2005-083952(JP,A)
【文献】KERBAR, A. et al.,CASE via MS: Ranking Structure Candidates by Mass Spectra,CROATICA Chemica Acta,2006年,Vol. 79, No. 3,pp. 449-464
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 40/00-49/48
G01N 30/00-30/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
候補分析種を順位づけるための方法であって、
分析種分子から検出されたイオン及びフラグメントイオンをマススペクトルとして提示することによって質量分析計での実験分析種を分析する工程であって、前記マススペクトルが各検出瞬時に対応するイオン質量と信号強度の組合せのリストを含む、分析する工程と、
所定の値の不合格範囲又は不合格判定基準、所定の値の合格範囲又は合格判定基準、及び所定の値の中立範囲又は中立判定基準をあらかじめ定める程と、
前記所定の値の不合格範囲、前記所定の値の合格範囲及び前記所定の値の中立範囲の各々の累積信頼度スコアの部分をあらかじめ定める程と、
前記実験分析種をライブラリヒットリスト内の複数の候補分析種に比較し、各候補分析種へ前記累積信頼度スコアの部分のひとつを割り当てる工程であって、
各候補分析種のライブラリマススペクトルに対するライブラリ類似度スコアに基づいて前記実験分析種を前記候補分析種に比較する工程、
前記ライブラリヒットリスト内の各候補分析種の前記ライブラリマススペクトル内の分子イオンの最も存在度の高い同位体の存在及びそれの質量に基づいて前記実験分析種を前記候補分析種に比較する工程、及び、
フラグメントイオンの存在度、イオンピーク中の最小イオン数、及びフラグメントイオンの質量に基づいて前記実験分析種を前記候補分析種に比較する工程、
に基づいて、前記累積信頼度スコアの部分のひとつを割り当てる工程と、
前記ライブラリヒットリスト内の誤った結果の確率を下げるために各候補分析種に割り当てられた前記累積信頼度スコアの部分に基づいて、前記候補分析種を順位づける工程と、
を備えている方法。
【請求項2】
前記ライブラリ類似度スコアのためのあらかじめ定められた前記所定の値の不合格範囲はX以下であり、前記ライブラリ類似度スコアのためのあらかじめ定められた前記所定の値の合格範囲はY以上であり、前記ライブラリ類似度スコアのためのあらかじめ定められた前記所定の値の中立範囲はXとYの間である、請求項1に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【請求項3】
前記不合格範囲に入る候補分析種の前記累積信頼度スコアの部分は-1.5の値を割り当てられ、前記中立範囲に入る候補分析種の前記累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられ、前記合格範囲に入る候補の前記累積信頼度スコアの部分は1の値を割り当てられる、請求項2に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【請求項4】
前記分子イオンの前記最も存在度の高い同位体の所定の判定基準は、最低限の許容可能な存在度及び質量確度ウインドーに基づく不合格判定基準、合格判定基準、及び中立判定基準を含んでおり、前記不合格判定基準は、前記分子イオンの前記最も存在度の高い同位体の前記存在度が前記最低限の許容可能な存在度を超過し且つ前記分子イオンの前記最も存在度の高い同位体の質量が前記質量確度ウインドーの外であることを要件とし、前記合格判定基準は、前記分子イオンの前記最も存在度の高い同位体の前記存在度が前記最低限の許容可能な存在度を超過し且つ前記分子イオンの前記最も存在度の高い同位体の前記質量が前記質量確度ウインドーの内であることを要件とし、前記中立判定基準は、前記不合格判定基準及び前記合格判定基準が満たされない場合に満たされる、請求項1に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【請求項5】
前記不合格判定基準を満たしている候補分析種の前記累積信頼度スコアの部分は-1.5の値を割り当てられ、前記合格判定基準を満たしている候補分析種の前記累積信頼度スコアの部分は1の値を割り当てられ、前記中立判定基準を満たしている候補分析種の前記累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられる、請求項4に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【請求項6】
前記フラグメントイオンの所定の判定基準は、最低限の許容可能な存在度及び質量確度ウインドーに基づく合格判定基準、中立判定基準、及び不合格判定基準を含んでおり、前記合格判定基準は、前記フラグメントイオンの前記存在度が前記最低限の許容可能な存在度を超過し且つ前記フラグメントイオンの前記質量が前記質量確度ウインドーの内であることを要件とし、前記不合格判定基準は、前記フラグメントイオンの前記存在度が前記最低限の許容可能な存在度を超過し且つ前記フラグメントイオンの前記質量が前記質量確度ウインドーの外である場合に満たされ、前記中立判定基準は、前記フラグメントイオンが前記最低限の許容可能な存在度判定基準を超過しない場合又は前記フラグメントイオンのピークのどれもが少なくとも最小イオン数を包含していない場合に満たされる、請求項1に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【請求項7】
前記合格判定基準を満たしている候補分析種の前記累積信頼度スコアの部分は1の値を割り当てられ、前記不合格判定基準を満たしている候補分析種の前記累積信頼度スコアの部分は-1.5の値を割り当てられ、前記中立判定基準を満たしている候補分析種の前記累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられる、請求項6に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【請求項8】
前記実験分析種をライブラリヒットリスト内の複数の候補分析種に比較し、各候補分析種へ累積信頼度スコアを割り当てる前記工程は、
保持指標値に基づいて前記実験分析種を前記候補分析種に比較し、前記保持指標値のあらかじめ定められた判定基準に基づいて各候補分析種へ前記累積信頼度スコアの第4の部分を割り当てる工程、を更に備えている、請求項1に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【請求項9】
前記保持指標値は、1つ又はそれ以上の次元による保持指標値から選択されている、請求項8に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【請求項10】
前記保持指標値は、許容保持指標ウインドーに基づく合格範囲、中立判定基準、及び不合格範囲を有しており、前記合格範囲は前記許容保持指標ウインドーの内であり、前記中立判定基準は前記候補分析種の前記保持指標値が使えないことを要件とし、前記不合格範囲は前記許容保持指標ウインドーの外である、請求項8に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【請求項11】
前記合格範囲に入る候補分析種の前記累積信頼度スコアの部分は1の値を割り当てられ、前記中立判定基準を満たしている候補分析種の前記累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられ、前記不合格範囲に入る候補分析種の前記累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられる、請求項10に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【請求項12】
前記累積信頼度スコアは-6から4までの範囲である、請求項1に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【請求項13】
前記候補分析種は各候補分析種の前記累積信頼度スコアの降順に順位づけられる、請求項1に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【請求項14】
実験分析種を分析することに関する前記工程は、ガスクロマトグラフィ-質量分析計を使用して起こる、請求項1に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【請求項15】
前記候補分析種を順位づける前記工程は、前記候補分析種を、各候補分析種に割当てられた前記累積信頼度スコアの部分に基づいて降順に順位づける程を備えている、請求項1に記載の候補分析種を順位づけるための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、ガスクロマトグラフィ-高分解度質量分析(GC-HRMS)、包括的二次元ガスクロマトグラフィ-高分解度質量分析(GC×GC-HRMS)、などを含む、質量分析計での試料の分析から得られるデータを処理する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性化合物と半揮発性化合物の複合混合物の分析からもたらされる分析種割り当ての信頼性を改善するのが望ましいのではないだろうか。分析種割り当ての結果を検欄する工程では、ライブラリヒットをより意味のある順に並べ替えライブラリヒットリスト内の誤った結果の確率を下げることによって分析員の労力を軽減するのが望ましいのではないだろうか。
【0003】
ガスクロマトグラフィ-高分解度質量分析(GC-HRMS)並びに包括的二次元ガスクロマトグラフィ-高分解度質量分析(GC×GC-HRMS)では、未知の又は疑われる分析種の混合物がGC注入部の中へ導入され、分析種は各々の物理化学的特性に従って分離される。その結果、分離された分析種はGCカラムから溶離し、イオン化のために質量分析計のイオン源の中へ導入される。分析種分子がイオン化されフラグメントイオンが作られる。質量分析計は分析種分子からのイオン及びフラグメントイオンを検出し、データは、各検出瞬時に対応するイオン質量と信号強度の組合せのリストであるマススペクトルとして提示される。
【0004】
マススペクトルは、記録され、保存され、マススペクトルデータベースに照らして検索されることができる。マススペクトルデータベースは、例えばNIST、Willeyなどの様な商業的に利用可能なデータベースを含む。別の例として、マススペクトルデータベースはユーザーによってカスタム作成されることもある。検索の結果は、問題の分析種毎のヒットリストとして提示されることができる。ヒットリストは、問題の分析種について提案される割り当てのための見込まれる候補のリストを包含する。ヒットリストエントリーのそれぞれは、候補を記述する情報、例えば名前、分子式、分子構造、マススペクトル、環二重結合等価数(RDBE)など、及び候補のライブラリマススペクトルに対する実験マススペクトルのマッチング確率を記述する情報、例えば類似度スコア、逆検索スコア、確率スコアなどの様な情報を包含する。
【0005】
ヒットリストが多数のエントリ(ユーザーによって設定された一連のマッチングパラメータに依存)を包含していて、その場合、より高い類似度スコアを有する候補が正しい割り当てである可能性がより高いとの仮定の下に、ヒットリストが類似度スコアの高いほうから低いほうへ順に並び変えられるようになっていることもある。分析員は、分析種割り当ての検覧を行うことになるだろう。検覧中に、分析員は最も高く順位づけられたヒットをピーク割り当てとして選択することができる。代わりに、分析員は、最も高く順位づけられたヒットの或る範囲、例えば上位5、上位10から、又は何れかの他の適切な範囲から、ピーク割り当てを選択することもできる。
【0006】
検覧は、提案された候補が分析された試料中に存在する可能性を試料のタイプと起源に基づいて解明すること、特徴的なフラグメントイオン、クロマトグラフィ条件に対する対応(即ち、候補はどれほど揮発性であるか及び候補はどのように注入部及びカラム温度に対応するかなど)、溶離順、などを探ること、を含み得る。検覧には、GC-MS及び関連のトピックスについての実質的な専門知識が必要とされ、GC-MS分野の専門家頼みになることもある。
【0007】
場合によっては、分析員が候補分析種(購入された標準又は合成されたもの)を入手し、既知の分析種に対し候補分析種と同一又は類似の条件で分析を行い、既知の分析種からの結果を候補分析種と比較することもある。マススペクトル及びクロマトグラフィ保持時間がマッチすれば、典型的には、割り当ては確証されることになる。クロマトグラム及びマススペクトルのマニュアルキュレーションによる分析種割り当て並びに標準を実行することによる確証のプロセスは、長時間に及び、費用もかかり、それでいて結果の100%信頼性を保証するとは限らない。したがって、GC-MSの結果を使う分析化学者及び研究者にとって、分析種割り当てのプロセスの信頼性の改善及び簡易化が望ましいのではないだろうか。
【発明の概要】
【0008】
開示の1つの態様は、分析種を順位づけるための方法を提供しており、方法は、例えばガスクロマトグラフィ-質量分析と関連して、質量分析計での実験分析種を分析する工程を含んでいる。方法は、実験分析種をライブラリヒットリスト内の複数の候補分析種に比較し、各候補分析種へ累積信頼度スコアを割り当てる工程であって、ライブラリ類似度スコアに基づいて実験分析種を候補分析種に比較する工程、分子イオンの最も存在度の高い同位体の存在及び質量確度に基づいて実験分析種を候補分析種に比較する工程、フラグメントイオンの存在及び質量確度に基づいて実験分析種を候補分析種に比較する工程、及び一部の実施形では保持指標値に基づいて実験分析種を候補分析種に比較する工程、に基づいて累積信頼度スコアを割り当てる工程、を含んでいる。方法は、候補分析種を各候補分析種の累積信頼度スコアに基づいて順位づける工程を含んでいる。
【0009】
開示の諸実施形は、以下の特徴の1つ又は複数を含むことができる。
【0010】
ライブラリ類似度スコアは、Xに等しい値及びXより下の値から成る不合格範囲と、Yに等しい値及びYより上の値から成る合格範囲と、XとYの間の値から成る中立範囲と、を有していてもよい。
【0011】
不合格範囲に入る候補分析種の累積信頼度スコアの部分は-1.5の値を割り当てられ、中立範囲に入る候補分析種の累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられ、合格範囲に入る候補の累積信頼度スコアの部分は1の値を割り当てられるようになっていてもよい。
【0012】
分子イオンの最も存在度の高い同位体の対候補質量確度は、最低限の許容可能な存在度及び質量確度ウインドーに基づく不合格判定基準、合格判定基準、及び中立判定基準を有していてもよい。不合格判定基準は、分子イオンの最も存在度の高い同位体の存在度が最低限の許容可能な存在度を超過し且つ分子イオンの最も存在度の高い同位体の質量が質量確度ウインドーの外であることを要件としていてもよい。合格判定基準は、分子イオンの最も存在度の高い同位体の存在度が最低限の許容可能な存在度を超過し且つ分子イオンの最も存在度の高い同位体の質量が質量確度ウインドーの内であることを要件としていてもよい。中立判定基準は、分子イオンがマススペクトル中に在ると予想されない、ライブラリ内のその存在度が確立された最小存在度より下である、又はイオンピーク中のイオン数が最小数より下である、という場合に満たされるとしてもよい。
【0013】
不合格判定基準を満たしている候補分析種の累積信頼度スコアの部分は-1.5の値を割り当てられ、合格判定準を満たしている候補分析種の累積信頼度スコアの部分は1の値を割り当てられ、中立判定基準を満たしている候補分析種の累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられるようになっていてもよい。
【0014】
フラグメントイオンは、最低限の許容可能な存在度及び質量確度ウインドーに基づく合格判定基準、中立判定基準、及び不合格判定基準を有していてもよい。フラグメントイオンの存在度が最低限の許容可能な存在度を超過し、フラグメントイオンの質量が――ここに化学式は候補分析種の分子式の化学元素のサブセットからしかつくられない――質量確度ウインドーの内であるという場合に、合格判定基準は満たされてもよい。但し、フラグメントイオン化学式は候補分析種の分子式からの元素のサブセットのみであってもよい。フラグメントイオンの存在度が最低限の許容可能な存在度を超過し、フラグメントイオンの質量が――ここに化学式は候補分析種の分子式の化学元素のサブセットからしかつくられない――質量確度ウインドーの外である場合に、不合格判定基準は満たされてもよい。中立判定基準は、フラグメントイオンが最低限の許容可能な存在度を超過していない又はピーク内のイオン数が最小判定基準より下であるという場合に満たされてもよい。
【0015】
合格判定基準を満たしている候補分析種の累積信頼度スコアの部分は1の値を割り当てられ、不合格判定基準を満たしている候補分析種の累積信頼度スコアの部分は-1.5の値を割り当てられ、中立判定基準を満たしている候補分析種の累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられるようになっていてもよい。
【0016】
フラグメントイオンの最低限の許容可能な存在度はZ%であってもよい。
【0017】
保持指標値は、許容保持指標ウインドーに基づく合格範囲、中立範囲、及び不合格範囲を有していてもよい。合格範囲は許容保持指標ウインドーの内であることとしてもよい。中立判定基準は、候補分析種の保持指標値が使えないことを要件としていてもよい。不合格範囲は、許容保持指標ウインドーの外であるとしてもよい。
【0018】
合格範囲に入る候補分析種の累積信頼度スコアの部分は1の値を割り当てられ、中立判定基準を満たしている候補分析種の累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられ、不合格範囲に入る候補分析種の累積信頼度スコアの部分は1の値を割り当てられるようになっていてもよい。
【0019】
許容保持指標ウインドーはW単位であるとしてもよい。
【0020】
累積信頼度スコアは-6から4までの範囲であってもよい。
【0021】
候補分析種は、各候補分析種の累積信頼度スコアの降順に順位づけられてもよい。
【0022】
開示の1つ又はそれ以上の実施形の詳細が、添付図面及び以下の説明に示されている。他の態様、特徴、及び利点は、説明と図面から及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】分析種を順位づけるための方法のフローチャートである。
図2】分析種を順位づけるための方法の部分のフローチャートである。
図3】分析種を順位づけるための方法の部分のフローチャートである。
図4】分析種を順位づけるための方法の部分のフローチャートである。
図5】分析種を順位づけるための方法の部分のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
様々な図面中の同様の参照符号は同様の要素を表す。
【0025】
図1を参照すると、分析種を順位づけるための方法10が概括的に示されている。分析種を順位づけるための方法10は、ガスクロマトグラフィ-質量分析を使用して実験分析種を分析する工程12を含んでいる。方法は工程12に示されるクロマトグラフィ-質量分析型の配置に関連して開示されているが、他の質量分析計構成に関連した順位づけ方法にとっては他の構成が適切である。引き続き図1を参照して、方法10は、実験分析種をライブラリヒットリスト内の複数の候補分析種と比較する工程16-22及び各候補分析種へ累積信頼度スコアを割り当てる工程24-30を含んでおり、割り当てる工程24-30は、ライブラリ類似度スコアに基づいて実験分析種を候補分析種に比較する工程16、分子イオンの最も存在度の高い同位体に基づいて実験分析種を候補分析種に比較する工程18、フラグメントイオンの存在度及び質量確度に基づいて実験分析種を候補分析種に比較する工程20、及び一部の実施形では保持指標値に基づいて実験分析種を候補分析種に比較する工程22、に基づいて累積信頼度スコアを割り当てる。方法は候補分析種を各候補分析種の累積信頼度スコアに基づいて順位づける工程34を含んでいる。
【0026】
或る実施形では、ここに説明されている様に、ガスクロマトグラフィ-質量分析(GC-MS)又はガスクロマトグラフィ-高分解度質量分析(GC-HRMS)を用いて実験分析種が分析されることになる。別の例として、実験分析種の分析12は、任意の適切なプロセスによって遂行されてもよい。GC-MS、GC×GC-MS、GC-HRMS、又はGC×GC-HRMSの使用は当該技術分野では既知ということになるだろう。
【0027】
候補分析種のライブラリヒットリストは、例えばソフトウェアアプリケーション、手作業による処理などの様な任意の適切な手段によって伝えられるだろう14。ライブラリヒットリストは、候補分析種を実験分析種と比較できるように、候補分析種それぞれについてのデータを包含していてもよい。候補分析種の実験分析種に対する比較及び対応するデータはヒット表に提示されるようになっていてもよい。
【0028】
図2を参照すると、ライブラリ類似度スコアを比較するための方法88が概括的に示されている。ライブラリ類似度スコア及び関連の判定基準は因子1と呼称されることもできる。方法88は、各候補分析種のライブラリ類似度スコアを求める工程36を含むことができる。例えば、ライブラリ類似度スコアは、Xに等しい値及びXより下の値から成る不合格範囲と、Yに等しい値及びYより上の値から成る合格範囲と、XとYの間の値から成る中立範囲と、を有していてもよい。Xは例えば600であり、Yは例えば800であってもよい。代わりに、X及びYは任意の適切な値であってもよい。不合格範囲、中立範囲、及び合格範囲は、ユーザーによって定義されてもよいし又は任意の適切な値の範囲であってもよい。ライブラリ類似度スコアが不合格範囲の内にある、例えば600に等しいか600より下であるという場合38、工程44にて累積信頼度スコアの部分は-1.5の値を割り当てられることになる。ライブラリ類似度スコアが合格範囲の内にある、例えば800に等しいか又は800より上であるという場合40、工程46にて累積信頼度スコアの部分は1の値を割り当てられることになる。ライブラリ類似度スコアが中立範囲の内にある、例えば601と799の間にあるという場合42、工程48にて累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられることになる。
【0029】
図3を参照すると、分子イオンの最も存在度の高い同位体を比較するための方法90が概括的に示されている。分子イオンの最も存在度の高い同位体及び関連の判定基準は因子2と呼称されることもできる。ユーザーは質量確度ウインドーを例えばppm又はmDaの単位で割り当てることができ、またユーザーはライブラリースペクトル中の分子イオンの最も存在度の高い同位体の最低限の許容可能な存在度を割り当てることができる。方法90は、分子イオンの最も存在度の高い同位体の存在及びそれのm/zを求める工程を含むことができる。分子イオンの最も存在度の高い同位体は、最低限の許容可能な存在度及び質量確度ウインドーに基づく不合格判定基準、合格判定基準、及び中立判定基準を有していてもよい。不合格判定基準は、分子イオンの最も存在度の高い同位体の存在度が最低限の許容可能な存在度を超過し且つ分子イオンの最も存在度の高い同位体の質量が質量確度ウインドーの外であることを要件としていてもよい。合格判定基準は、分子イオンの最も存在度の高い同位体の存在度が最低限の許容可能な存在度を超過し且つ分子イオンの最も存在度の高い同位体の質量が質量確度ウインドーの内であることを要件としていてもよい。中立判定基準は、不合格判定基準及び合格判定基準が満たされない場合に満たされるとしてもよい。合格判定基準が満たされる、例えば分子イオンの最も存在度の高い同位体の存在度が最低限の許容可能な存在度より上であり質量が質量確度ウインドーの内であるという場合52、工程58にて累積信頼度スコアの部分は1の値を割り当てられることになる。不合格判定基準が満たされる、例えば分子イオンの最も存在度の高い同位体の存在度が最低限の許容可能な存在度より上であり且つ質量が質量確度ウインドーの外にあるという場合54、工程60にて累積信頼度スコアの部分は-1.5の値を割り当てられることになる。中立判定基準が満たされる、例えば合格判定基準も不合格判定基準も満たされていないという場合56、工程62にて累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられることになる。
【0030】
質量確度基準について考慮されることになるイオンピーク中の最小イオン数は、例えば25イオンと定義されていてもよい。マススペクトル内のイオンピークが例えば25イオンとされる最小イオン数より少ないイオンを包含していて、それらのイオンが対応する累積信頼度スコアを定義するために使用されるという場合は、中立判定基準が満たされ、累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられるようになっていてもよい。別の例として、最小イオン数及び質量確度ウインドーについてのより精錬された定義が、例えばシステムの分解能、考慮イオンのm/z、スペクトル取得速度、クロマトグラフィピーク幅などに基づいて実施されてもよい。システムの信号強度を正確に検出する能力を上回る信号強度を有するイオンピーク、例えば飽和イオンは、無視されてもよい。
【0031】
図4を参照すると、フラグメントイオンを比較するための方法92が概括的に示されている。フラグメントイオン及び関連の判定基準は因子3と呼称されることもできる。ユーザーは、フラグメントイオンの最低限の許容可能な存在度を定義することができる。例えば、フラグメントイオンの最低限の許容可能な存在度はZ%であるとしてもよい。例えば、Zは1000分の300に等しい、即ち30%に等しいとされてもよいし、又は他の任意の適切な値に等しいとされてもよい。ユーザーは、質量確度ウインドーをppm又はmDaの単位で定義することができる。フラグメントイオンは、最低限の許容可能な存在度及び質量確度ウインドーに基づく合格判定基準、中立判定基準、及び不合格判定基準を有していてもよい。フラグメントイオンの存在度が最低限の許容可能な存在度を超過し、フラグメントイオンの質量が――ここに化学式は候補分析種の分子式の化学元素のサブセットからしかつくられない――質量確度ウインドーの内であるという場合に、合格判定基準は満たされてもよい。但し、フラグメントイオン化学式は候補分析種の分子式からの元素のサブセットのみであってもよい。フラグメントイオンの存在度が最低限の許容可能な存在度を超過し、フラグメントイオンの質量が――ここに化学式は候補分析種の分子式の化学元素のサブセットからしか生成されない――質量確度ウインドーの外である場合に、不合格判定基準は満たされてもよい。中立判定基準は、フラグメントイオンが最低限の許容可能な存在度を超過していない又はピーク内のイオン数が最小判定基準より下である場合に満たされてもよい。合格判定基準が満たされる、例えばフラグメントイオンの存在度が最低限の許容可能な存在度より上であり且つ質量が質量確度ウインドーの内にあるという場合66、工程70にて累積信頼度スコアの部分は1の値を割り当てられることになる。不合格判定基準が満たされる、例えば合格判定基準が満たされないという場合68、工程72にて累積信頼度スコアの部分が-1.5の値を割り当てられることになる。中立判定基準が満たされる、例えばフラグメントイオンの存在度が最低限の許容可能な存在度より下である又はフラグメントイオンピークがどれも最小判定基準を上回っていないという場合67、工程71にて累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てることになる。
【0032】
質量確度基準について考慮されることになるイオンピーク中の最小イオン数は、例えば25イオンと定義されていてもよい。マススペクトル内のイオンピークが例えば25イオンとされる最小イオン数より少ないイオンを包含していて、それらのイオンが対応する累積信頼度スコアを定義するために使用されるという場合は、中立判定基準が満たされ、累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられるようになっていてもよい。別の例として、最小イオン数及び質量確度ウインドーについてのより精錬された定義が、例えばシステムの分解能、考慮イオンのm/z、スペクトル取得速度、クロマトグラフィピーク幅などに基づいて実施されてもよい。システムの信号強度を正確に検出する能力を上回る信号強度を有するイオンピーク、例えば飽和イオンは、無視されてもよい。
【0033】
図5を参照すると、保持指標値を比較するための方法94が概括的に示されている。保持指標値は因子4と呼称されることもできる。ユーザーは、許容保持指標ウインドーを定義することができる。例えば、許容保持指標ウインドーはW単位とされてもよい。例えば、Wは50の値を有していてもよいし、又は任意の他の適切な値を有していてもよい。保持指標値は、許容保持指標ウインドーに基づく合格範囲、中立判定基準、及び不合格範囲を有していてもよい。合格範囲は許容保持指標ウインドーの内であるとしてもよい。中立判定基準は、候補分析種の保持指標値が使えないことを要件としていてもよい。不合格範囲は、許容保持指標ウインドーの外であるとしてもよい。合格判定基準が満たされる、例えば候補分析種の保持指標値が許容保持指標値の内にあるという場合76、工程82にて累積信頼度スコアの部分は1の値を割り当てられることになる。不合格判定基準が満たされる、例えば候補分析種の保持指標値が許容保持指標ウインドーの外であるという場合78、工程84にて累積信頼度スコアの部分は-1.5の値を割り当てられることになる。中立判定基準が満たされる、例えば候補分析種の保持指標値が使えないという場合80、工程86にて累積信頼度スコアの部分は0の値を割り当てられることになる。
【0034】
図1を参照して、累積信頼度スコアの諸部分が合計されて、候補分析種毎の累積信頼度スコアが求められることになる32。累積信頼度スコアは-6から4までの範囲ということになろう。候補分析種は、各候補分析種の累積信頼度スコアの降順に順位づけされることができる34。例えば、候補分析種は、デフォルトにより各候補分析種の累積信頼度スコアの降順に順位づけられ、2つ又はそれ以上の候補分析種の累積信頼度スコアの値が等しい場合にスペクトル類似度スコアによる二次的な仕分けがなされてもよい。それでもなお同点の場合、最初に見つけられた候補分析種が後で見つけられた候補分析種よりも高位に順位づけられるようになっていてもよい。
【0035】
分析種を順位づけるための方法10は、誤ったヒットを除外し、おそらくはガスクロマトグラフィ例えば因子4からの及び質量分析例えば因子1-3からの候補分析種をヒットリストの最上位に動かすことによって、候補分析種提案の信頼性を改善することができるだろう。
【0036】
累積信頼度スコアがどのように計算されたかをユーザーが理解するのを支援するため、ヒット表は、どの因子が中立値例えば0を又は不合格値例えば-1.5を割り当てられたのかを表示する注記付きの関連事項列を含んでいてもよい。
【0037】
別の例として、累積信頼度スコアの部分へ割り当てられる値、例えば合格値、不合格値、及び中立値は、割り当ての信頼性に対する様々な因子の重要度をより十分に反映させるように因子毎に修正されてもよい。例えば、因子1が因子2よりも重要であると判断された場合、因子1での不合格範囲、中立範囲、及び合格範囲へ割り当てられる値は、それぞれ-1.5、0、及び1から-2.5、0、及び2へ変更されてもよい。別の例として、例えば同位体の存在度の様な他の判定基準に基づき、付加的因子が追加されてもよい。
【0038】
多くの実施形を説明してきた。とはいえ、開示の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な修正がなされ得ることを理解しておきたい。したがって、他の実施形は付随の特許請求の範囲による範囲の内にある。
【符号の説明】
【0039】
10 分析種を順位づけるための方法
88 ライブラリ類似度スコアを比較するための方法
90 分子イオンの最も存在度の高い同位体を比較するための方法
92 フラグメントイオンを比較するための方法
94 保持指標値を比較するための方法
図1
図2
図3
図4
図5