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特許7108708航空機用の発電制御装置及びそれを備えた発電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】航空機用の発電制御装置及びそれを備えた発電装置
(51)【国際特許分類】
   F02C 7/36 20060101AFI20220721BHJP
   B64D 41/00 20060101ALI20220721BHJP
   H02K 7/18 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
F02C7/36
B64D41/00
H02K7/18 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020557035
(86)(22)【出願日】2018-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2018042643
(87)【国際公開番号】W WO2020105083
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 吉平
(72)【発明者】
【氏名】今井 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 謙一郎
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0200299(US,A1)
【文献】特開昭60-190142(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0309077(US,A1)
【文献】特開2007-162688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 7/00- 7/20
F16H 13/00-15/56
F01D 15/10
F02C 7/00- 7/36
B64D 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機エンジンの回転動力を変速して発電機に伝達し、アクチュエータで押圧される摩擦クラッチにより変速段を切り換える有段変速機を備えた発電装置の制御装置であって、
前記有段変速機を制御する有段変速制御部を備え、
前記有段変速制御部は、
前記有段変速機の前記変速段を切り換えるシフト信号を出力するシフト指令部と、
前記有段変速機の前記変速段が切り換えられるときに、前記摩擦クラッチが半クラッチ状態になるように前記アクチュエータのクラッチ圧を制御するクラッチ制御部と、
前記発電機の発電負荷を受信する発電負荷受信部と、を有し、
前記クラッチ制御部は、前記摩擦クラッチが前記半クラッチ状態であるときに、前記発電負荷が大きくなるにつれて前記摩擦クラッチのクラッチ圧が大きくなるように前記アクチュエータを制御する、航空機用の発電制御装置。
【請求項2】
航空機エンジンの回転動力を変速して発電機に伝達し、アクチュエータで押圧される摩擦クラッチにより変速段を切り換える有段変速機を備えた発電装置の制御装置であって、
前記有段変速機を制御する有段変速制御部と、
前記有段変速機の出力側の回転数を受信する回転数受信部と、を備え、
前記有段変速制御部は、
前記有段変速機の前記変速段を切り換えるシフト信号を出力するシフト指令部と、
前記有段変速機の前記変速段が切り換えられるときに、前記摩擦クラッチが半クラッチ状態になるように前記アクチュエータのクラッチ圧を制御するクラッチ制御部と、を有し、
前記クラッチ制御部は、前記摩擦クラッチが前記半クラッチ状態であるときに、前記有段変速機の出力側の回転数が小さくなるにつれて前記摩擦クラッチのクラッチ圧が大きくなるように前記アクチュエータを制御する、航空機用の発電制御装置。
【請求項3】
前記有段変速機と前記発電機との間の動力伝達経路には無段変速機が介設されており、
前記発電制御装置は、前記発電機に入力される回転数が一定になるように前記無段変速機の入力回転数に基づいて前記無段変速機を制御する無段変速制御部を更に備える、請求項1又は2に記載の航空機用の発電制御装置。
【請求項4】
前記有段変速機では、前記摩擦クラッチが接続状態又は切断状態のいずれか一方の第1状態のときに第1変速段となり、前記摩擦クラッチが接続状態又は切断状態のいずれか他方の第2状態のときに第2変速段となり、
前記シフト信号は、変速比を減少させるシフトダウン信号と、変速比を増加させるシフトアップ信号と、を含み、
前記クラッチ制御部は、
前記有段変速機が変速比を減少させるよう前記変速段が切り換えられるときに、前記摩擦クラッチが半クラッチ状態になるように前記アクチュエータのクラッチ圧を制御した後に、前記摩擦クラッチが前記第2状態になるように前記アクチュエータのクラッチ圧を制御し、
前記有段変速機の変速比を増加させるよう前記変速段が切り換えられるときに、前記摩擦クラッチが半クラッチ状態になるように前記アクチュエータのクラッチ圧を制御した後に、前記摩擦クラッチが前記第1状態になるように前記アクチュエータのクラッチ圧を制御する、請求項1乃至のいずれか1項に記載の航空機用の発電制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の発電制御装置と、
航空機エンジンの回転動力を変速し、複数の変速段を有する有段変速機と、
前記有段変速機で変速された動力が伝達される発電機と、を備える、航空機用の発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機エンジンの回転動力を変速して発電機に伝達し、アクチュエータで押圧される摩擦クラッチにより変速段を切り換える有段変速機を備えた発電装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の多くは、飛行用エンジンで駆動される発電装置を主電源として備える。当該発電装置の一例としては、駆動機構一体型発電装置(Integrated Drive Generator:IDG)が挙げられ、この発電装置では、発電機と、当該発電機の上流側に配置された無段変速機とを一体に備える(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-158400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンから取り出す動力に大きな回転数変動が生じる場合を想定し、当該動力の回転数変動レンジが大きくなっても、適切な回転数に調整して発電機に動力伝達できる構成を考える必要がある。その対策として、発電装置の無段変速機の変速レンジを大きくしようとすると、無段変速機を大径化する必要があり、装置全体が大型化してしまうので好ましくない。発電装置の大型化を抑えたまま大きな回転数変動に対応する方策としては、発電装置の上流側に小型の有段変速機(例えば、2段式の有段変速機)を設け、その有段変速機の変速動作により発電装置に入力される動力の回転数変動レンジを狭めることが考えられる。
【0005】
しかし、有段変速機では、シフトアップ時に出力回転数が瞬間的に急低下し、シフトダウン時には出力回転数が瞬間的に急増加する。有段変速機の出力回転数が緩やかに変化する場合には、有段変速機の下流側にある無段変速機が変速動作を行うことで、発電機に入力される回転数が適切な範囲に調整されるが、無段変速機の応答能力を超えて有段変速機の出力回転数が瞬間的に急変する場合には、発電装置に入力される動力の回転数が瞬間的に大きく変動し、発電周波数が不安定になる。
【0006】
そこで本発明は、発電機の上流側に有段変速機を備えた発電装置において、発電機に入力される動力の瞬間的な回転数変動を防止して発電を安定させる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る航空機用の発電制御装置は、航空機エンジンの回転動力を変速して発電機に伝達し、アクチュエータで押圧される摩擦クラッチにより変速段を切り換える有段変速機を備えた発電装置の制御装置であって、前記有段変速機を制御する有段変速制御部を備え、前記有段変速制御部は、前記有段変速機の前記変速段を切り換えるシフト信号を出力するシフト指令部と、前記有段変速制御部は、前記有段変速機の前記変速段が切り換えられるときに、前記摩擦クラッチが半クラッチ状態になるように前記アクチュエータのクラッチ圧を制御するクラッチ制御部と、を有する。
【0008】
前記構成によれば、有段変速機が摩擦クラッチを接続状態にした第1変速段と摩擦クラッチを切断状態にした第2変速段との間で変速位置を切り替える際には、摩擦クラッチが半クラッチ状態を経由して変速されるので、有段変速機の出力回転数を緩やかに変動させることができる。よって、発電機の上流側に有段変速機を備えた発電装置において、発電機に入力される動力の瞬間的な回転数変動を防止して発電を安定させることができる。
【0009】
前記発電機の発電負荷を受信する発電負荷受信部を更に備え、前記クラッチ制御部は、前記摩擦クラッチが前記半クラッチ状態であるときに、前記発電負荷が大きくなるにつれて前記摩擦クラッチのクラッチ圧が大きくなるように前記アクチュエータを制御する構成としてもよい。
【0010】
前記構成によれば、有段変速機の変速時に有段変速機の出力トルクが変化することで、発電負荷に応じて変速時の有段変速機の出力回転数が変化しても、発電負荷を参照しながらクラッチ圧を制御することで、変速時の有段変速機の出力回転数の変化を的確に制御することが可能となる。
【0011】
前記有段変速機の出力側の回転数を受信する回転数受信部を更に備え、前記摩擦クラッチが前記半クラッチ状態であるときに、前記有段変速機の出力側の回転数が小さくなるにつれて前記摩擦クラッチのクラッチ圧が大きくなるように前記アクチュエータを制御する構成としてもよい。
【0012】
前記構成によれば、有段変速機の変速時に有段変速機の出力回転数を参照しながらクラッチ圧を制御することで、変速時の有段変速機の出力回転数の変化を的確に制御することが可能となる。
【0013】
前記有段変速機と前記発電機との間の動力伝達経路には無段変速機が介設されており、前記発電制御装置は、前記発電機に入力される回転数が一定になるように前記無段変速機の入力回転数に基づいて前記無段変速機を制御する無段変速制御部を更に備える構成としてもよい。
【0014】
前記構成によれば、エンジンから取り出される動力の回転数変動レンジが大きくても、有段変速機と無段変速機との組み合わせにより当該回転数変動レンジを狭めて発電機に入力される回転数を一定に保つことが可能となる。
【0015】
前記有段変速機では、前記摩擦クラッチが接続状態又は切断状態のいずれか一方の第1状態のときに第1変速段となり、前記摩擦クラッチが接続状態又は切断状態のいずれか他方の第2状態のときに第2変速段となり、前記シフト信号は、変速比を増加させるシフトアップ信号と、変速比を減少させるシフトダウン信号とを含み、前記クラッチ制御部は、前記有段変速機が変速比を減少させるよう前記変速段が切り換えられるときに、前記摩擦クラッチが半クラッチ状態になるように前記アクチュエータのクラッチ圧を制御した後に、前記摩擦クラッチが前記第1状態になるように前記アクチュエータのクラッチ圧を制御し、前記有段変速機が変速比を増加させるよう前記変速段が切り換えられるときに、前記摩擦クラッチが半クラッチ状態になるように前記アクチュエータのクラッチ圧を制御した後に、前記摩擦クラッチが前記第2状態になるように前記アクチュエータのクラッチ圧を制御する構成としてもよい。
【0016】
前記構成によれば、有段変速機がシフトアップ又はシフトダウンする際に、摩擦クラッチが半クラッチ状態を経由して変速されるので、有段変速機の出力回転数を緩やかに変動させることができる。
【0017】
本発明の一態様に係る航空機用の発電装置は、前述した発電制御装置と、航空機エンジンの回転動力を変速し、複数の変速段を有する有段変速機と、前記有段変速機で変速された動力が伝達される発電機と、を備える。
【0018】
前記構成によれば、有段変速機の変速に起因して、発電機に入力される動力の回転数が瞬間的に変動することを防止して発電を安定させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、発電機の上流側に有段変速機を備えた発電装置において、発電機に入力される動力の瞬間的な回転数変動を防止して発電を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る航空機エンジン及び発電装置を示す模式図である。
図2図1に示す発電装置のブロック図である。
図3図2に示す発電制御装置の有段変速制御部のブロック図である。
図4図2に示す有段変速機の断面図である。
図5】(A)(B)は図4に示す有段変速機の動作原理を説明する模式図である。
図6】比較例における有段変速機の入力回転数及び出力回転数と無段変速機の出力回転数との関係を示すグラフである。
図7図2に示す有段変速機の入力回転数及び出力回転数と無段変速機の出力回転数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0022】
図1は、実施形態に係る航空機エンジン1及び発電装置13を示す模式図である。図1に示すように、航空機エンジン1は、2軸ガスタービンエンジンであって、ファン2、圧縮機3、燃焼器4、タービン5、高圧軸6及び低圧軸7を備える。ファン2は、航空機エンジン1の前部に配置され、その周囲がファンケースで覆われている。タービン5は、前段側の高圧タービン8及び後段側の低圧タービン9を有する。高圧タービン8は、高圧軸6を介して圧縮機3と連結されている。高圧軸6は、内部に中空空間を有する筒状の軸体である。低圧タービン9は、低圧軸7を介してファン2と連結されている。低圧軸7は、高圧軸6の中空空間に挿通されている。
【0023】
低圧軸7には、径方向外方に延びた連結軸11が動力伝達可能に接続されている。連結軸11には、ギヤボックス12が動力伝達可能に接続されている。ギヤボックス12には、発電装置13が動力伝達可能に接続されている。即ち、低圧軸7の回転動力が、連結軸11及びギヤボックス12を介して発電装置13に伝達される。低圧軸7の回転数変動は、高圧軸6の回転数変動よりも大きいため、発電装置13に入力される動力の回転数変動レンジは大きくなる。なお、発電装置13に伝達するための動力は、低圧軸7の代わりに高圧軸6から取り出されてもよい。
【0024】
図2は、図1に示す発電装置13のブロック図である。図2に示すように、発電装置13は、有段変速機21、無段変速機22、発電機23及び発電制御装置28を備える。また、発電装置13は、センサとして、第1~第3回転数センサ24~26及び負荷センサ27を備える。航空機エンジン1の低圧軸7から取り出した回転動力は、有段変速機21及び無段変速機22によって夫々変速されてから発電機23に入力され、発電機23で発電された電力が航空機の電気機器(図示せず)に供給される。即ち、エンジン1から取り出す動力に大きな回転数変動が生じる場合を想定し、発電機23に入力される動力の回転数が安定するように有段変速機21及び無段変速機22により回転数が調整される。
【0025】
有段変速機21には、航空機エンジン1から取り出した回転動力が入力される。有段変速機21は、複数のギヤ列から動力伝達させるギヤ列を選択して変速を行う変速機であり、動力伝達させるギヤ列を切り替える際には出力回転数に変動が生じる。本実施形態では、有段変速機21は、一例として2段変速式であり、数に変動が生じる。本実施形態では、有段変速機21は、一例として2段変速式であり、下位段(等速段)と、下位段よりも増速比が大きい(減速比が小さい)上位段(増速段)とを有する。有段変速機21では、下位段から上位段にシフトアップするときや上位段から下位段にシフトダウンするときには、一のギヤ列が選択された状態からディスエンゲージ状態(ニュートラル状態)を経て他のギヤ列が選択された状態へと切り替わる。なお、本実施形態では、有段変速機21の変速段が2段のみの構成を例示したが、2段よりも多くてもよい。
【0026】
無段変速機22には、有段変速機21が変速して出力する回転動力が入力される。無段変速機22には、例えば、トロイダル式の無段変速機を用いることができる。トロイダル式の無段変速機は、入力ディスク及び出力ディスクに挟まれたパワーローラの位置をアクチュエータにより変化させることで、パワーローラを傾転させて変速比を変更するものである。トロイダル式の無段変速機は、公知であるためその詳細構造の説明は省略する。なお、無段変速機は、他の形式のものでもよく、例えば、油圧式変速機(Hydro Static Transmission)でもよい。
【0027】
発電機23には、無段変速機22が変速して出力する回転動力が入力される。発電機23は、交流発電機である。発電機23は、一定回転数の動力が入力されることで一定周波数の交流を発電する。第1回転数センサ24は、有段変速機21の入力回転数N1を検出する。第2回転数センサ25は、有段変速機21の出力回転数N2(即ち、無段変速機22の入力回転数)を検出する。第3回転数センサ26は、無段変速機22の出力回転数N3を検出する。負荷センサ27は、発電機23の負荷を検出し、例えば発電機23の電流及び電圧を検出するセンサを用い得る。なお、有段変速機21と無段変速機22との間に歯車を介在させ、有段変速機21の出力回転数N2が、無段変速機22の入力回転数と一致しない構成としてもよい。
【0028】
発電制御装置28は、無段変速制御部30及び有段変速制御部31を備える。無段変速制御部30は、第2及び第3回転数センサ25,26で検出された回転数N2,N3を参照し、発電機23に入力される回転数N3が一定になるように無段変速機22の変速動作を制御する。有段変速制御部31は、第1回転数センサ24(又は第2回転数センサ25)で検出される回転数N1(又はN2)を参照し、無段変速機22に入力される回転数の帯域が狭まるように有段変速機21の変速動作を制御する。
【0029】
図3は、図2に示す発電制御装置28の有段変速制御部31のブロック図である。図3に示すように、有段変速制御部31は、ハードウェア面においては、発電制御装置28のプロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及びI/Oインターフェース等を用いて実現される。発電制御装置28は、機能面においては、第1回転数受信部32、第2回転数受信部33、発電負荷受信部34、シフト指令部35及びクラッチ制御部36を備える。各受信部32~34は、I/Oインターフェースにより実現される。シフト指令部35及びクラッチ制御部36は、不揮発性メモリに保存されたプログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。
【0030】
第1回転数受信部32は、第1回転数センサ24から有段変速機21の入力回転数N1を受信する。第2回転数受信部33は、第2回転数センサ25が有段変速機21の出力回転数N2を受信する。発電負荷受信部34は、負荷センサ27から発電機23の負荷を受信する。シフト指令部35は、所定のシフト条件が成立したときに、有段変速機21の変速段を切り換えるシフト信号を出力する。前記シフト条件は、シフトダウン条件及びシフトアップ条件を含む。
【0031】
具体的には、シフト指令部35は、所定のシフトダウン条件が成立するとシフトダウン信号を出力し、所定のシフトアップ条件が成立するとシフトアップ信号を出力する。クラッチ制御部36は、前記シフト条件が成立すると、有段変速機21において後述のブレーキ56の摩擦クラッチ61(図4参照)が半クラッチ状態になるように摩擦クラッチ61に圧着力を付与するピストン62(アクチュエータ)のクラッチ圧を制御する。なお、クラッチ制御部36は、摩擦クラッチ61(図4参照)を半クラッチ状態にするクラッチ圧の制御の開始は、シフト信号の出力の前でも、シフト信号の出力と同時でも、シフト信号の出力の後でもよい。
【0032】
図4は、図2に示す有段変速機21の断面図である。図4に示すように、有段変速機21は、摩擦クラッチ61を備えたブレーキ56により低速段及び高速段を互いに切り替えるように構成されている。有段変速機21は、半クラッチ状態を用いて伝達動力の大きさを連続的に変化させることが可能な摩擦クラッチ61により変速段を切り替えるものであれば、その具体的構成は特に限定されない。本実施形態では、その一例として、遊星歯車機構40、入力軸41、出力軸42及びケーシング43を備えた有段変速機21を例示する。
【0033】
遊星歯車機構40は、サンギヤ51、リングギヤ52、プラネタリギヤ53、キャリア54、ワンウェイクラッチ55、及び、ブレーキ56を備える。遊星歯車機構40のプラネタリギヤ53を保持するキャリア54には、入力軸41が接続されている。遊星歯車機構40のサンギヤ51には、出力軸42が接続されている。リングギヤ52には、ケーシング43に支持されたブレーキ56が接続されている。入力軸41及び出力軸42は、互いに同じ軸線X1上に配置されている。
【0034】
入力軸41は、ケーシング43から入力側に突出している第1軸部41aと、ケーシング43に収容された第2軸部41bとを有する。第2軸部41bは、キャリア54に接続されている。第2軸部41bは、筒状であり、出力軸42に向けて開放された内部空間を有する。
【0035】
出力軸42は、筒状の第2軸部41bの内部空間に挿入される先端部42aを有する。出力軸42の先端部42aは、軸受(図示せず)を介して入力軸41の第2軸部41bに回転自在に支持されている。出力軸42のうち先端部42aよりも出力側(下流側)には、サンギヤ51が接続されている。
【0036】
ワンウェイクラッチ55は、入力軸41と出力軸42との間に挟まれている。具体的には、ワンウェイクラッチ55は、環状であり、入力軸41の第2軸部41bの内周面と出力軸42の先端部42aの外周面との間に挟まれている。ワンウェイクラッチ55は、一方向回転のみを動力伝達して逆回転を動力伝達しないものであり、入力軸41から出力軸42に回転動力を伝達し、出力軸42から入力軸41には回転動力を伝達しない。
【0037】
リングギヤ52は、プラネタリギヤ53に噛み合う内歯を有する。ブレーキ56は、ケーシング43に支持された状態でリングギヤ52の外周面に接続されている。ブレーキ56は、リングギヤ52をケーシング43に対して固定する作動状態と、リングギヤ52をケーシング43に対して相対回転自在にする非作動状態との間で動作する。具体的には、ブレーキ56は、摩擦クラッチ61と、摩擦クラッチ61に圧着力を付与するピストン62(アクチュエータ)とを有する。
【0038】
摩擦クラッチ61は、ケーシング43の内周面とリングギヤ52の外周面との間に介設されている。摩擦クラッチ61は、例えば多板クラッチである。具体的には、摩擦クラッチ61は、リングギヤ52に対して共回転不能で且つ軸線X1方向に移動可能に接続された摩擦板65と、ケーシング43に対して共回転不能で且つ軸線X1方向に移動可能に接続された相手板66とを有する。
【0039】
ピストン62は、摩擦クラッチ61に対向している。ピストン62は、ケーシング43に摺動自在に支持されている。ケーシング43には、ピストン62に油圧を付与するための油圧流路43aが形成されている。油圧流路43bには、航空機エンジン1の動力で駆動される油圧ポンプ(図示せず)により圧油が供給される。
【0040】
油圧流路43aから供給される圧油がピストン62を押すことで、ピストン62が摩擦クラッチ61を押圧し、摩擦クラッチ61が接続状態(ブレーキ56の作動状態)になる。油圧回路43aからピストン62に付与される油圧が低下してピストン62が後退すると、摩擦クラッチ61が切断状態(ブレーキ56の非作動状態)になる。なお、摩擦クラッチ61を押圧するアクチュエータは、ピストン62のような油圧式のものに限られず、他の態様(例えば、電磁式アクチュエータ等)でもよい。
【0041】
図5(A)(B)は、図4に示す有段変速機21の動作原理を説明する模式図である。図5(A)に示すように、有段変速機21では、ブレーキ56が作動状態となることで、リングギヤ52がケーシング43に対して固定され、入力軸41の回転動力がキャリア54、プラネタリギヤ53及びサンギヤ51を介して出力軸42に伝達されて増速される(N1<N2)。他方、図5(B)に示すように、有段変速機21では、ブレーキ56が非作動状態となることで、リングギヤ52がケーシング43に対して相対回転自在となり、入力軸41の回転動力がワンウェイクラッチ55を介して出力軸42に等速で伝達される(N1=N2)。
【0042】
即ち、ブレーキ56が作動状態となると、有段変速機21が高速段(増速)となり、ブレーキ56が非作動状態となると、有段変速機21が低速段(等速)となる。なお、有段変速機21の2段の変速段(高速段及び低速段)の組合せは、増速段及び等速段の組合せでなくてもよく、例えば、増速段及び減速段の組合せや等速段及び減速段の組合せであってもよい。
【0043】
図6は、比較例における有段変速機の入力回転数及び出力回転数と無段変速機の出力回転数との関係を示すグラフである。図7は、図2に示す有段変速機21の入力回転数及び出力回転数と無段変速機の出力回転数との関係を示すグラフである。なお、図6及び7では、下位段(低速段)が等速であり且つ上位段(高速段)が増速である二段変速の例を示すが、上位段が下位段よりも変速比が大きい(減速比が小さい)構成であればこれに限られない。
【0044】
図6に示す比較例では、有段変速機21の入力回転数が第1閾値A1を上回るシフトダウン条件が成立すると、シフトダウン信号が出力されて有段変速機21が高速段から低速段に変速されるため、有段変速機21の出力回転数が減少側に急変動し、無段変速機22の出力回転数も主に減少側に急変動する。また、有段変速機21の入力回転数が第2閾値A2を下回るシフトアップ条件が成立すると、シフトアップ信号が出力されて有段変速機21が高速段から低速段に変速されるため、有段変速機21の出力回転数が増加側に急変動し、無段変速機22の出力回転数も主に増加側に急変動する。
【0045】
これに対し、図7に示す本実施形態の例では、有段変速機21の入力回転数が第1閾値A1を上回るシフトダウン条件が成立すると、シフト指令部35がシフトダウン信号をクラッチ制御部36(図3参照)に出力する。クラッチ制御部36は、シフトダウン信号が出力されると、摩擦クラッチ61(図4参照)が半クラッチ状態になるようにピストン62のクラッチ圧を制御した後に、摩擦クラッチ61が切断状態になるようにピストン62のクラッチ圧を制御する。
【0046】
有段変速機21の入力回転数が第2閾値A2を下回るシフトアップ条件が成立すると、シフト指令部35がシフトアップ信号をクラッチ制御部36(図3参照)に出力する。クラッチ制御部36は、シフトアップ信号が出力されると、摩擦クラッチ61(図4参照)が半クラッチ状態になるようにピストン62のクラッチ圧を制御した後に、摩擦クラッチ61が接続状態になるようにピストン62のクラッチ圧を制御する。そのため、無段変速機22の出力回転数の増加側への変動量が抑制される。なお、半クラッチ状態に保つ時間は、予め設定されているとよい。
【0047】
クラッチ制御部36は、シフト信号が出力されると、発電負荷受信部34で受信した発電負荷や第2回転数受信部33で受信した有段変速機21の出力回転数N2に応じて、半クラッチ状態におけるピストン62のクラッチ圧を制御する。具体的には、クラッチ制御部36は、シフト信号が出力されると、発電負荷が大きくなるにつれて半クラッチ状態におけるクラッチ圧が大きくなるように摩擦クラッチ61を制御する。クラッチ制御部36は、シフト信号が出力されると、有段変速機21の出力回転数N2が小さくなるにつれて半クラッチ状態におけるクラッチ圧が大きくなるように摩擦クラッチ61を制御する。
【0048】
有段変速機21の摩擦クラッチ61の切断時におけるサンギヤ51のトルクTsは、以下の数式(1)で求められる。ここで、Pは発電機23の負荷、N2は有段変速機21の出力回転数、Lは発電機23から有段変速機21までの動力伝達の機械的ロスである。
【0049】
s=P/N2+L ・・・・・・(1)
そして、リングギヤ52を固定するための必要トルクTrは、以下の数式(2)で求められる。ここで、D1はサンギヤ51の外径、D2はリングギヤ52の外径である。
【0050】
r=Ts・D2/D1 ・・・・・(2)
そこで、クラッチ制御部36は、摩擦クラッチ61によるリングギヤ52の把持トルクTcを必要トルクTrに基づいて決定する。具体的には、クラッチ制御部36は、有段変速機21のシフトダウン時には把持トルクTcが以下の数式(3)を満たすようにピストン62の押圧力(クラッチ圧)を制御し、有段変速機21のシフトアップ時には把持トルクTcが以下の数式(4)を満たすようにピストン62の押圧力(クラッチ圧)を制御する。
【0051】
c=Tr-ΔT ・・・・・(3)
c=Tr+ΔT ・・・・・(4)
【0052】
ΔTは、ゼロ又は正の値であり、一定値でも可変値でもよい。一例として、最大トルクをTmaxとすると、ΔTは以下の数式(5)のように決めることができ、好ましくは以下の数式(6)のように決めるとよい。
0.001Tmax<ΔT<0.5Tmax ・・・・・(5)
0.05Tmax<ΔT<0.2Tmax ・・・・・(6)
但し、シフトダウン時にTr>ΔTとなる場合は、Tc=0とする。
【0053】
即ち、有段変速機21のシフト時の半クラッチ状態では、摩擦クラッチ61によりリングギヤ52が完全固定されない程度にピストン62が制御される。よって、図7に示すように、シフト時の半クラッチ状態において、発電機23の負荷が一定の場合には、クラッチ圧が有段変速機21の出力回転数に反比例して変化することになる。その結果、有段変速機21の出力回転数の急変動が抑制され、無段変速機22の出力回転数の変動量が抑制される。
【0054】
以上のように、有段変速機21が摩擦クラッチ61を接続状態にした高速段と摩擦クラッチ61を切断状態にした低速段との間で変速位置を切り替える際には、摩擦クラッチ61が半クラッチ状態を経由して変速されるので、有段変速機21の出力回転数を緩やかに変動させることができる。特に、有段変速機21の下流側には無段変速機22があるため、航空機エンジン1から取り出される動力の回転数変動レンジが大きくても、有段変速機21と無段変速機22との組み合わせにより回転数変動レンジを狭めて発電機23に入力される回転数を略一定に保つことが可能となる。よって、有段変速機21を備えた発電装置13において、発電機23に入力される動力の瞬間的な回転数変動を防止して発電を安定させることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 航空機エンジン
13 発電装置
21 有段変速機
22 無段変速機
23 発電機
28 発電制御装置
30 無段変速制御部
31 有段変速制御部
32 第1回転数受信部
33 第2回転数受信部
34 発電負荷受信部
35 シフト指令部
36 クラッチ制御部
61 摩擦クラッチ
62 ピストン(アクチュエータ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7