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  • 特許-RHO型ゼオライト及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】RHO型ゼオライト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20220722BHJP
   B01J 29/70 20060101ALI20220722BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20220722BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220722BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
C01B39/48
B01J29/70 A
B01J20/18 A
B01J20/30
B01J20/28 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018202138
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020066564
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】脇原 徹
(72)【発明者】
【氏名】伊與木 健太
(72)【発明者】
【氏名】堀川 裕史
(72)【発明者】
【氏名】三橋 亮
(72)【発明者】
【氏名】楢木 祐介
(72)【発明者】
【氏名】前浜 誠司
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/020014(WO,A1)
【文献】特開2018-130719(JP,A)
【文献】特開2017-140614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/00
B01J 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナに対するシリカのモル比が10以上50以下の結晶性アルミノシリケートであり、 少なくとも以下の格子面間隔d(Å)に、以下の相対強度のピークを有する粉末X線回折パターン、を有することを特徴とするRHO型ゼオライト。
【表1】
【請求項2】
アルミナに対するシリカのモル比が15以上30以下の結晶性アルミノシリケートである請求項1に記載のRHO型ゼオライト。
【請求項3】
前記RHO型ゼオライトに含まれる一次結晶粒子の平均粒子径が1.5μm以上である請求項1又2に記載のRHO型ゼオライト。
【請求項4】
アルミナ源、シリカ源、セシウム源、1,2‐ジメチル‐3‐(4‐メチルベンジル)‐イミダゾリウムカチオン源、ハロゲン源及び水を含む組成物を結晶化させる結晶化工程、を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のRHO型ゼオライトの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のRHO型ゼオライトを含む触媒。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のRHO型ゼオライトを含む吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はRHO型ゼオライト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RHO型ゼオライトは酸素8員環を有する小細孔ゼオライトであり、メタノールのオレフィン転化反応用触媒(MTO触媒)や窒素酸化物還元触媒への適用が検討されている(特許文献1,非特許文献1)。
【0003】
これまで、RHO型ゼオライトの製造方法として、種々の製造方法が報告されている。例えば、特許文献1では、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化セシウム、沈降法シリカ及び水からなり、有機構造指向剤を含有しない原料を結晶化することで、アルミナに対するシリカのモル比が6.3のRHO型ゼオライトが得られることが報告されている。
【0004】
また、非特許文献1では、クラウンエーテルとセシウムの複合体を有機構造指向剤とする原料を結晶化及び焼成することで、アルミナに対するシリカのモル比が3.9~15.9のRHO型ゼオライトが得られることが報告されている。さらに、特許文献2では、合成手順を検討し、クラウンエーテル-アルカリ水溶液とアルミニウム原子原料溶液を混合した後、これにケイ素原子原料含有液を混合して水性ゲルを得、これを結晶化及び焼成することで、アルミナに対するシリカのモル比が9.9~18.8のRHO型ゼオライトが得られることが報告されている。
【0005】
さらに、非特許文献2では、カチオン性ポリマーを使用することで、セシウムを含有しない原料を結晶化及び焼成し、アルミナに対するシリカのモル比が5.4(Si/Al=2.7)のRHO型ゼオライトが得られることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第3904738号明細書
【文献】国際公開第2015/020014号
【非特許文献】
【0007】
【文献】「化学 アジア ジャーナル(Chem. Asian J.)」,ワイリーVCH(Wiley-VCH Verlag GmbH & Co.),(ドイツ),2017年,VOL12,1043-1047頁
【文献】「マイクロポーラス及びメソポーラス材料(Microporous and Mesoporous Materials)」,エルゼビア(Elsevier),(オランダ),VOL132,2010年,352-356頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、新規なRHO型ゼオライト、並びに、クラウンエーテル及びカチオン性ポリマーの使用を必須としないRHO型ゼオライトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示において、RHO型ゼオライト及びその製造方法について検討した。その結果、従来のRHO型ゼオライトとは異なる特徴を有するRHO型ゼオライト、及び、従来の製造方法と異なる原料系からRHO型ゼオライトが製造できることを見出した。
【0010】
すなわち、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] 少なくとも以下の格子面間隔d(Å)に、以下の相対強度のピークを有する粉末X線回折パターン、を有することを特徴とするRHO型ゼオライト。
【表1】
[2] アルミナに対するシリカのモル比が10以上である上記[1]に記載のRHO型ゼオライト。
[3] 前記RHO型ゼオライトに含まれる一次結晶粒子の平均粒子径が1.5μm以上である上記[1]又は[2]に記載のRHO型ゼオライト。
[4] アルミナ源、シリカ源、セシウム源、1,2‐ジメチル‐3‐(4‐メチルベンジル)‐イミダゾリウムカチオン源、ハロゲン源及び水を含む組成物を結晶化させる結晶化工程、を有することを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載のRHO型ゼオライトの製造方法。
[5] 上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載のRHO型ゼオライトを含む触媒。
[6] 上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載のRHO型ゼオライトを含む吸着剤。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、新規なRHO型ゼオライト、並びに、クラウンエーテル及びカチオン性ポリマーの使用を必須としないRHO型ゼオライトの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1のRHO型ゼオライトのSEM観察図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示について、実施形態の一例を示して説明する。
【0014】
本実施形態はRHO型ゼオライトに係る。RHO型ゼオライトは、国際ゼオライト学会で定義される構造コードでRHO構造となる結晶構造(以下、単に「RHO構造」ともいう。)を有する。ゼオライトの結晶構造は、粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)測定により得られるXRDパターンと、国際ゼオライト学会で規定された結晶構造のXRDパターンと、を対比することで同定できる。
【0015】
本実施形態において、XRDパターンは、以下の条件で行うXRD測定により取得することができる。
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件 : 32°/分
計測時間 : 3秒
【0016】
ゼオライトは、一般に、多孔性無機酸化物又は結晶性アルミノシリケートを意味する。本実施形態において、ゼオライトは結晶性アルミノシリケートであることが好ましい。結晶性アルミノシリケートはケイ素(Si)とアルミニウム(Al)が酸素(O)を介したネットワーク構造からなる結晶構造を有するものである。なお、本実施形態において結晶性アルミノシリケートは、結晶性シリコアルミノホスフェート(SAPO)又は結晶性アルミノホスフェート(AlPO)など、ネットワーク構造にリンを含有するもの、つまり、ゼオライト類縁物質とは異なる。
【0017】
本実施形態のRHO型ゼオライトは、少なくとも以下の格子面間隔d(Å)に、以下の相対強度のピーク(以下、単に「XRDピーク」ともいう)を有するXRDパターン、を有する。言い換えれば、本実施形態のRHO型ゼオライトは、少なくとも下表に示す格子面間隔d(Å)のそれぞれに、ピークトップが下表の相対強度を満たすピークを有するXRDパターンを有する。
【表2】
【0018】
好ましくは、又は、より好ましくは、本実施形態におけるRHO型ゼオライトは、少なくとも下表に記載の格子面間隔d(Å)に、下表に記載の相対強度のピークが現れるXRDパターンを有する。
【表3】
【0019】
本実施形態のRHO型ゼオライトのXRDパターンにおいて、上表に示したXRDピーク以外に相対強度が20%以上のピーク(格子面間隔d(Å)=9.96~11.25の範囲内にあるピークの相対強度を100%とした場合における相対強度が20%以上のピーク)を含まないことが好ましい。一方、上表に示したXRDピーク以外に、相対強度が10%未満のピークであってRHO型ゼオライトに由来するピークが含まれていてもよい。
【0020】
好ましくは、上記のXRDピークは、有機構造指向剤(以下、「SDA」ともいう。)を含まない状態のRHO型ゼオライトのピークである。
【0021】
本実施形態のRHO型ゼオライトは、SDAを含んでいてもよいが、1,2‐ジメチル‐3‐(4‐メチルベンジル)‐イミダゾリウム(以下、「DMMBI」ともいう)カチオンなどの特定のSDAを含む場合、XRDピークの相対強度(上表に示すXRDピークの相対強度)が変化する。例えば、DMMBIカチオンなどの特定のSDAを含有する本実施形態のRHO型ゼオライトは、少なくとも下表に記載の格子面間隔d(Å)に、下表に記載の相対強度のピークが現れるXRDパターンを有する。
【表4】
【0022】
好ましくは、又は、より好ましくは、DMMBIカチオンなどの特定のSDAを含有する本実施形態のRHO型ゼオライトは、少なくとも下表に記載の格子面間隔d(Å)に、下表に記載の相対強度のピークが現れるXRDパターンを有する。
【表5】
【0023】
本実施形態のRHO型ゼオライトにおいて、SDAを含有する形態は、特に限定されるものではないが、例えば、酸素8員環の細孔内にSDAが担持されている形態や、酸素8員環の細孔内を除く外表面にSDAが担持されている形態が挙げられる。なお、本実施形態のRHO型ゼオライトにSDAが含有される場合、後述する有機構造指向剤除去処理によりSDAを除去することができ、SDAが除去されたRHO型ゼオライトは、上表2や表3に示したXRDピークが現れるXRDパターンを有する。
【0024】
本実施形態のRHO型ゼオライトは、耐熱性をより高くする観点又はより触媒担体に適した固体酸性とする観点から、アルミナに対するシリカのモル比(以下「SiO/Al比」ともいう。)が10以上50以下であることが好ましく、15以上30以下であることがより好ましい。
【0025】
本実施形態のRHO型ゼオライトは、カチオンタイプがプロトン型(H型)又はアンモニウム型(NH 型)のいずれかであることが好ましく(つまり、カチオンとしてプロトン又はアンモニウムイオンを含有することが好ましく)、アンモニウム型であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態のRHO型ゼオライトは、個々の一次粒子が独立して成長した結晶粒子(以下、「一次結晶粒子」ともいう。)を含む。一次結晶粒子は、電子顕微鏡観察において、独立した略球状の結晶粒子として観察される。
【0027】
本実施形態のRHO型ゼオライトは、水熱耐久処理による結晶性の崩壊が抑制される傾向があるため、一次結晶粒子の平均粒子径(以下、「平均結晶粒子径」ともいう。)が1.5μm以上5.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以上3.0μm以下であることがより好ましい。
【0028】
平均結晶粒子径は、電子顕微鏡観察において150個以上の一次結晶粒子の水平フェレ径を計測し、これを平均して求めることができる。好ましくは、電子顕微鏡の観察倍率は3,000~15,000倍である。
【0029】
本実施形態のRHO型ゼオライトは、銅又は鉄の少なくともいずれかを含有していてもよい。銅や鉄が本実施形態のRHO型ゼオライトに含有されることで、窒素酸化物の還元特性が高くなる傾向がある。銅や鉄を含有する形態は、特に限定されるものではないが、例えば、酸素8員環の細孔内に銅や鉄が担持されている形態や、酸素8員環の細孔内を除く外表面に銅や鉄が担持されている形態が挙げられる。銅や鉄はイオン交換法、蒸発乾固法及び含浸担持法の群から選ばれる少なくともいずれかの方法で、本実施形態のRHO型ゼオライトに含有することができる。RHO型ゼオライトに含有させる銅や鉄の原料として、例えば、無機酸塩、更には硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩及び塩化物の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0030】
本実施形態のRHO型ゼオライトは、吸着剤、触媒及びイオン交換体並びにこれらの担体として使用することができる。より具体的には、本実施形態のRHO型ゼオライトは、窒素酸化物還元触媒として使用することができ、本実施形態のRHO型ゼオライトと窒素酸化物とを接触させることで窒素酸化物が還元される。
【0031】
次に、本実施形態のRHO型ゼオライトの製造方法について説明する。
【0032】
本実施形態のRHO型ゼオライトは、アルミナ源、シリカ源、セシウム源、1,2‐ジメチル‐3‐(4‐メチルベンジル)‐イミダゾリウムカチオン源、ハロゲン源及び水を含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)を結晶化させる結晶化工程、を含む製造方法、により製造することができる。
【0033】
アルミナ源は、アルミナ(Al)又はその前駆体となるアルミニウム化合物であり、例えば、アルミナ、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、非晶質アルミノシリケート、金属アルミニウム及びアルミニウムアルコキシドの群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができ、アルミン酸ナトリウム、非晶質アルミノシリケート及びアルミニウムアルコキシドの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
シリカ源は、シリカ(SiO)又はその前駆体となるケイ素化合物であり、例えば、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、沈殿法シリカ、ヒュームドシリカ及び非晶質アルミノシリケートの群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができ、テトラエチルオルトシリケート、コロイダルシリカ、沈殿法シリカ及び非晶質アルミノシリケートの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0035】
なお、非晶質アルミノシリケートは、原料組成物に含有されるアルミナ源及びシリカ源の両方として機能する化合物(以下、「シリカアルミナ源」ともいう。)である。
【0036】
セシウム源は、セシウムを含む塩であり、セシウムの水酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは水酸化セシウム又はフッ化セシウムが挙げられる。
【0037】
原料組成物は、リチウム、ナトリウム、カリウム及びルビジウムの群から選ばれる少なくとも1種を含む塩(以下、「アルカリ源」ともいう。)を含んでいてもよい。アルカリ源は、水酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、水酸化物又はフッ化物であることがより好ましい。特に好ましいアルカリ源として、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの少なくともいずれかが挙げられる。なお、アルカリ源としてフッ化物を用いる場合、当該フッ化物は、原料組成物に含有するハロゲン源としても機能する。
【0038】
1,2‐ジメチル‐3‐(4‐メチルベンジル)‐イミダゾリウムカチオン源は、DMMBIの塩であり、DMMBIの水酸化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、炭酸モノエステル塩、硫酸モノエステル塩、硝酸塩及び硫酸塩の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、DMMBIの水酸化物、塩化物及び臭化物の群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0039】
DMMBIカチオンは以下の一般式で示される四級アンモニウムカチオンであり、RHO構造を指向する有機構造指向剤(SDA)として機能する。
【化1】
【0040】
ハロゲン源はハロゲン化物であり、好ましくは臭化物又はフッ化物、より好ましくはフッ化物である。特に好ましいハロゲン化物として、フッ化水素(HF)、四級アンモニウムのフッ化物又はアルカリ金属のフッ化物などが例示できる。なお、ハロゲン源としてアルカリ金属ハロゲン化物を用いる場合、当該アルカリ金属ハロゲン化物は、原料組成物に含有され得るアルカリ源としても機能する。
【0041】
原料組成物に含まれる水は、脱イオン水や純水が例示できる。なお、原料組成物に含有される各原料(アルミナ源、シリカ源、セシウム源、1,2‐ジメチル‐3‐(4‐メチルベンジル)‐イミダゾリウムカチオン源、ハロゲン源)の少なくともいずれか一つが、含水物、水和物又は水溶液の含水物である場合、これに含まれる水は、原料組成物に含有する水として機能できる。
【0042】
原料組成物の組成としては、以下の組成を挙げることができる。
【0043】
SiO/Al比 : 5以上500以下、
好ましくは10以上100以下、
より好ましくは15以上 50以下
【0044】
DMMBI/SiO比 : 0.03以上1.00以下、
好ましくは0.10以上0.80以下、
より好ましくは0.30以上0.60以下
【0045】
Cs/SiO比 : 0.01以上1.00以下
好ましくは0.05以上0.80以下、
より好ましくは0.06以上0.50以下
【0046】
M/SiO比 : 0以上0.50以下
好ましくは0以上0.10以下、
より好ましくは0以上0.05以下
【0047】
X/SiO比 : 0.30以上2.0以下
好ましくは0.4以上1.5以下、
より好ましくは0.5以上1.0以下
【0048】
O/SiO比 : 2以上10以下
好ましくは3以上8以下、
より好ましくは4以上6以下
【0049】
上記の組成において、SiO/Al比はアルミナに対するシリカのモル比、DMMBI/SiO比はシリカに対するDMMBIカチオンのモル比、Cs/SiO比はシリカに対するセシウムのモル比、M/SiO比はシリカに対するアルカリ金属のモル比、X/SiO比はシリカに対するハロゲンのモル比、及び、HO/SiO比はシリカに対する水(HO)のモル比、である。
【0050】
M/SiO比におけるMはリチウム、ナトリウム、カリウム及びルビジウムの群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属であり、アルカリ金属(M)がナトリウム(Na)である場合、M/SiO比はNa/SiO比となる。同様にハロゲン(X)がフッ素(F)の場合、X/SiO比はF/SiO比となる。
【0051】
原料組成物は種晶を含んでいてもよく、種晶はRHO型ゼオライトであることが好ましい。原料組成物に対する種晶の含有量(以下、「種晶含有量」ともいう。)は、原料組成物(種晶を除いた原料組成物)に含まれるケイ素(Si)をSiOとして換算した重量に対する、種晶に含まれるケイ素をSiOとして換算した重量の割合として、0重量%以上20重量%以下であることが好ましく、5重量%以上10重量%以下であることがより好ましい。
【0052】
原料組成物を水熱処理することで原料組成物が結晶化し、RHO型ゼオライトが得られる。水熱処理は、原料組成物を密閉容器に充填し、これを密封した上で加熱することが挙げられる。水熱処理は、原料組成物を静置した状態又は撹拌した状態のいずれで行ってもよく、撹拌した状態で行う方が好ましい。
【0053】
結晶化温度は、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは120℃以上190℃以下で、更に好ましくは150℃以上180℃以下である。
【0054】
結晶化時間は結晶化温度より変化し、結晶化温度の高温化に伴い、結晶化時間は短くなる傾向がある。例えば、結晶化時間が10時間以上240時間以下、好ましくは24時間以上120時間以下であることが挙げられる。
【0055】
本実施形態における製造方法において、洗浄工程、イオン交換工程、乾燥工程又は有機構造指向剤除去工程の少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0056】
洗浄工程は、RHO型ゼオライトから不純物を低減する。洗浄方法は任意だが、例えば、固液分離により、RHO型ゼオライトを回収し、これを十分量の純水と混合し、これを洗浄する方法が挙げられる。
【0057】
イオン交換工程は、RHO型ゼオライトを任意のカチオンタイプ、例えば、アンモニウム型(NH 型)又はプロトン型(H型)、とする(つまり、製造したRHO型ゼオライトのカチオンとして、プロトン又はアンモニウムイオンを含有させる)。イオン交換方法は任意だが、例えば、RHO型ゼオライトを塩化アンモニウム水溶液に混合及び攪拌することによってカチオンタイプをNH 型とする方法、カチオンタイプがNH 型のRHO型ゼオライトを焼成することによってカチオンタイプをH型とする方法、が挙げられる。
【0058】
乾燥工程は、RHO型ゼオライトから水分を除去する。乾燥方法は任意であるが、例えば、RHO型ゼオライトを、大気中、50℃以上150℃以下で2時間以上静置することが挙げられる。
【0059】
有機構造指向剤除去工程は、RHO型ゼオライトに含まれるDMMBIカチオンを除去する。DMMBIカチオンの除去方法は任意であるが、例えば、大気中、400℃以上800℃以下で処理(例えば、焼成処理)することが挙げられる。有機構造指向剤除去工程において、有機構造指向剤除去処理を行うことで、SDAを含有しない本実施形態のRHO型ゼオライトが製造できる。一方、有機構造指向剤の除去処理を行わなければ、SDAを含有する本実施形態のRHO型ゼオライトを製造できる。
【実施例
【0060】
以下、実施例及び比較例に基づき本開示を具体的に説明する。しかしながら、本開示は以下の実施例に制限されるものではない。
【0061】
(結晶の同定)
粉末X線回折装置(装置名:UltimaIV、リガク社製)を使用し、試料のXRD測定をした。測定条件は以下のとおりであった。
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件 : 32°/分
計測時間 : 3秒
測定範囲 : 2θ=5°から31°
【0062】
(組成分析)
フッ酸と硝酸の混合水溶液に試料を溶解して試料溶液を調製した。ICP装置(装置名:OPTIMA5300DV、PerkinElmer社製)を使用して、当該試料溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で測定した。
【0063】
(水熱耐久処理)
試料をプレス成形し、12メッシュ~20メッシュの網を通過可能な凝集径の凝集粒子とした。凝集粒子状の試料3mLを常圧固定床流通式反応管に充填し、これに水分濃度10体積%の空気を300mL/分(空間速度として6,000h-1)で流通させながら、900℃で4時間処理することで、水熱耐久処理とした。
【0064】
(結晶化度及び耐熱性の評価)
水熱耐久処理後の試料を、それぞれ、上述した結晶の同定と同様な方法でXRD測定し、XRDパターンを得た。得られたXRDパターンにおける格子面間隔d(Å)=3.45~3.59のXRDピークの強度を結晶化度とした。
【0065】
水熱耐久処理後の試料の結晶化度の値を用い、以下の式から水熱処理前後の結晶化度の変化を求め、耐熱性の指標とした。
結晶化度変化(%) = P2/P1×100
P1は水熱耐久処理前の結晶化度、及び、P2は水熱耐久処理後の結晶化度である。
【0066】
合成例1(種晶用RHO型ゼオライトの合成)
「マイクロポーラス材料(Microporous Materials)」,エルゼビア(Elsevier),(オランダ),VOL4,1995年,231-238頁(以下、「参考文献」ともいう。)に準じた方法でRHO型ゼオライトを製造した。すなわち、18‐クラウン‐6‐エーテル(以下、「クラウンエーテル」ともいう。)、純水、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム及びアルミン酸ナトリウムを混合して組成物を得、これを80℃に加熱した。
【0067】
加熱後、室温まで降温し、組成物にシリカゾルを混合し、室温で24時間撹拌し、以下のモル組成を有する原料組成物を得た。
SiO/Al比 = 10
クラウンエーテル/SiO比 = 0.05
Cs/SiO比 = 0.06
Na/SiO比 = 0.36
O/SiO比 = 10
【0068】
原料組成物を密閉容器に充填し、当該容器を120℃で4日間、原料組成物を結晶化した。得られた結晶化物は、固液分離、並びに、エタノール及び温純水での洗浄後、大気中、80℃で乾燥した。
【0069】
当該結晶化物は、単一相のRHO型ゼオライトであり、これを本合成例のRHO型ゼオライトとした。当該RHO型ゼオライトの主なXRDピーク(格子面間隔d(Å)=10.64のピークの相対強度を100%とした場合における相対強度が10%以上のピーク)を下表に示す。
【表6】
【0070】
RHO型ゼオライトを大気中、600℃、2時間で焼成し、クラウンエーテルを除去した。クラウンエーテル除去後のRHO型ゼオライトはSiO/Al比が9.5、及び、一次結晶粒子の平均粒子径は1.10μmであった。クラウンエーテル除去後のRHO型ゼオライトの主なXRDピーク(格子面間隔d(Å)=10.59のピークの相対強度を100%とした場合における相対強度が10%以上のピーク)を下表に示す。
【表7】
【0071】
実施例1
22.3重量%DMMBIヒドロキシド水溶液にアルミニウムイソプロポキシドを混合し、アルミニウムイソプロポキシドが溶解するまで80℃で撹拌した。撹拌後、フッ化セシウム及びテトラエチルオルトシリケートを当該水溶液に混合し、これを50℃で撹拌した。水溶液を一晩撹拌後、これにフッ化水素を混合し、以下のモル組成を有する原料組成物とした。
SiO/Al比 = 30
DMMBI/SiO比 = 0.5
Cs/SiO比 = 0.2
F/SiO比 = 0.69
O/SiO比 = 4
【0072】
また、種晶含有量(原料組成物(種晶を除いた原料組成物)に含まれるケイ素(Si)をSiOとして換算した重量に対する、種晶に含まれるケイ素をSiOとして換算した重量の割合)が10重量%となるように合成例1で得られたRHO型ゼオライトを当該組成物に添加及び混合した後、原料組成物を密閉容器に充填し、当該容器を20rpmで回転しながら、175℃で4日間処理することで、これを結晶化した。得られた結晶化物は、固液分離、並びに、エタノール及び温純水での洗浄後、大気中、110℃で乾燥した。
【0073】
当該結晶化物は、単一相のRHO型ゼオライトであった。RHO型ゼオライト(SDAを含む状態のRHO型ゼオライト)の主なXRDピーク(格子面間隔d(Å)=10.57のピークの相対強度を100%とした場合における相対強度が10%以上のピーク)を下表に示す。
【表8】
【0074】
上表から理解できるように、原料組成物を結晶化して得られた本実施例のRHO型ゼオライトは、表4に示す全てのXRDピークを含んでいた。
【0075】
原料組成物を結晶化して得られたRHO型ゼオライトを、大気中、600℃、2時間で焼成し、DMMBIを除去した。焼成後のRHO型ゼオライト(SDAを含まない状態のRHO型ゼオライト)は、SiO/Al比が27.3、及び、平均粒子径が2.03μmであった。焼成後のRHO型ゼオライトの主なXRDピーク(格子面間隔d(Å)=10.54のピークの相対強度を100%とした場合における相対強度が10%以上のピーク)を下表に示す。また、図1に、焼成後のRHO型ゼオライトを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した図(写真)を示す。なお、図1のスケールは、5μmを示す。
【表9】
【0076】
上表から理解できるように、焼成後のRHO型ゼオライトは、表2に示す全てのXRDピークを含んでいた。
【0077】
比較例1
合成例1で得られた600℃、2時間で焼成し、クラウンエーテルを除去した。クラウンエーテル除去後のRHO型ゼオライトを本比較例のRHO型ゼオライトとした。
【0078】
本比較例のRHO型ゼオライトは、表2と表7の対比から理解できるように、格子面間隔d=6.12Å、4.74Å、3.54Å、3.35Å及び2.94ÅのXRDピークの相対強度が本実施形態のRHO型ゼオライトのXRDピークの相対強度と異なっていた。特に、本比較例のRHOゼオライトは、本実施例のRHOゼオライトとは異なり、格子面間隔dが7.16~7.80(Å)の範囲に相対強度が10%以上となるXRDピークを有していなかった。
【0079】
これより、本実施形態のRHO型ゼオライトは、従来のRHO型ゼオライトと結晶構造が異なり、新規のRHO型ゼオライトであることが分かった。
【0080】
実施例2
実施例1で得られた焼成後のRHO型ゼオライト、20%塩化アンモニウム水溶液に混合及び撹拌した。その後、濾過、洗浄を行い、これらを大気中、110℃で一晩乾燥することで、カチオンタイプがNH 型であるRHO型ゼオライトを得た。
【0081】
得られたRHO型ゼオライトを水熱耐久処理した後、耐熱性を評価した。結果を下表に示す。
【表10】
【0082】
上表より、高温高湿雰囲気への暴露後であっても、本実施例のRHO型ゼオライトは高い結晶性を維持すること、すなわち本実施例のRHO型ゼオライトは耐熱性が高いことが分かる。
図1