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特許7109120地震動を検出するための検出装置及びその検出結果に基づいて地震動の強度を予測するための予測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】地震動を検出するための検出装置及びその検出結果に基づいて地震動の強度を予測するための予測装置
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/00 20060101AFI20220722BHJP
   G01V 1/28 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
G01V1/00 D
G01V1/28
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021197716
(22)【出願日】2021-12-06
【審査請求日】2021-12-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515047884
【氏名又は名称】株式会社ミエルカ防災
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】特許業務法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】松尾 勇二
(72)【発明者】
【氏名】晝間 實
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-215208(JP,A)
【文献】特開2018-197679(JP,A)
【文献】特開2016-194530(JP,A)
【文献】特開2007-298448(JP,A)
【文献】特開2010-276536(JP,A)
【文献】特開2018-044784(JP,A)
【文献】特開2021-071332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00 - 99/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期微動を発生させるP波を検出するとともに、検出したP波に基づいて主要動を発生させるS波を予測する地震動検出予測システムにおいて、P波を検出するためにP波の観測点に配置されるP波検出装置であって、
観測点において所定の範囲内に設けられる複数の地震計と、
前記複数の地震計の各々によって計測される所定時間間隔である素区間ごとの複数の実時間計測データを用いて、P波の検出を判定するための判定値を算出する算出部と、
前記判定値に基づいてP波が検出されたかどうかを判定する判定部と、
前記判定部でP波が検出されたと判定されたときに、S波を予測するために用いられるP波データを外部に送信する通信部と
を備え
前記判定値は、前記素区間における複数の実時間計測データの標準偏差と、第1のしきい値との差に基づいて求められ、
前記第1のしきい値は、平常時に前記素区間ごとに求められた複数の実時間計測データの標準偏差を複数の前記素区間にわたって平均した平均値を用いて求められる、
P波検出装置。
【請求項2】
初期微動を発生させるP波を検出するとともに、検出したP波に基づいて主要動を発生させるS波を予測する地震動検出予測システムにおいて、P波を検出するためにP波の観測点に配置されるP波検出装置であって、
観測点において所定の範囲内に設けられる複数の地震計と、
前記複数の地震計の各々によって計測される所定時間間隔である素区間ごとの複数の実時間計測データを用いて、P波の検出を判定するための判定値を算出する算出部と、
前記判定値に基づいてP波が検出されたかどうかを判定する判定部と、
前記判定部でP波が検出されたと判定されたときに、S波を予測するために用いられるP波データを外部に送信する通信部と
を備え、
前記判定値は、前記素区間における複数の実時間計測データの平均値と、第2のしきい値との差に基づいて求められ、
前記第2のしきい値は、平常時に前記素区間ごとに求められた複数の実時間計測データの平均値を複数の前記素区間にわたって平均した平均値と、平常時に前記素区間ごとに求められた複数の実時間計測データの標準偏差を複数の前記素区間にわたって平均した平均値とを用いて求められる、
P波検出装置。
【請求項3】
初期微動を発生させるP波を検出するとともに、検出したP波に基づいて主要動を発生させるS波を予測する地震動検出予測システムにおいて、P波を検出するためにP波の観測点に配置されるP波検出装置であって、
観測点において所定の範囲内に設けられる複数の地震計と、
前記複数の地震計の各々によって計測される所定時間間隔である素区間ごとの複数の実時間計測データを用いて、P波の検出を判定するための判定値を算出する算出部と、
前記判定値に基づいてP波が検出されたかどうかを判定する判定部と、
前記判定部でP波が検出されたと判定されたときに、S波を予測するために用いられるP波データを外部に送信する通信部と
を備え、
前記判定値は、前記複数の地震計間で求められた前記素区間の複数の実時間計測データの相関係数と、第3のしきい値との差に基づいて求められ、
前記第3のしきい値は、前記複数の地震計間で求められた平常時の複数の実時間時計測データの相関係数を用いて定められる、
P波検出装置。
【請求項4】
P波の直前に発生するP波と関連する先行破壊地震動を検出し、その先行破壊地震動をP波と区別する先行破壊フィルタをさらに含む、
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のP波検出装置。
【請求項5】
前記判定部において地震動が検出されたと判定されたときに、地震動の検出の判定を第1の個数の素区間について繰り返し、前記第1の個数の素区間で連続して地震動が検出(仮検知)された場合、
前記先行破壊フィルタは、
前記第1の個数の素区間にわたって、各素区間における複数の実時間計測データの平均値を求め、2つの素区間の平均値の差分偏差を計算し、2つの差分偏差の移動平均として求めた値である先行破壊指標を算出し、
前記第1の個数の素区間内における任意の判定区間において、負の値の先行破壊指標が第2の個数以上の素区間で連続して現れたときに、検出された地震動は先行破壊地震動であると判定する、
請求項に記載のP波検出装置。
【請求項6】
P波の直前に発生するP波とは無関係の微小イベントを検出し、その微小イベントをP波と区別する微小イベントフィルタをさらに含む、
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のP波検出装置。
【請求項7】
前記判定部において地震動が検出されたと判定されたときに、地震動の検出の判定を第1の個数の素区間について繰り返し、前記第1の個数の素区間で連続して地震動が検出(仮検知)された場合、
前記微小イベントフィルタは、
前記第1の個数の素区間の各々における複数の実時間計測データの平均値の移動平均値を算出し、
前記移動平均値と、予め定められた微小イベントしきい値との差を算出し、
前記差が正のときに、P波が検出されたものと判定する、
請求項に記載のP波検出装置。
【請求項8】
初期微動を発生させるP波を検出するとともに、検出したP波に基づいて、主要動を発生させるS波を予測する地震動検出予測システムにおいて、検出されたP波に基づいてS波を予測するためのS波予測装置であって、
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のP波検出装置から送信されたP波データを受信する通信部と、
前記P波データに基づいて、到達するS波の強度を予測するS波予測部と、
を備えるS波予測装置。
【請求項9】
前記S波予測部は、
前記P波データを送信した地点におけるS波の強度を予測するための、予め定められたS波予測関数を受け取るように構成され、
前記P波データと、前記S波予測関数と、前記P波データを送信した地点と前記S波予測装置の地点との間の距離減衰とに基づいて、前記P波データを受信した地点におけるS波の強度を予測する、
請求項に記載のS波予測装置。
【請求項10】
前記S波予測装置の位置を計測する位置計測部と、
計測された前記位置とP波を検出したP波検出装置の位置とに基づいて、前記S波が到達するまでの猶予時間を算出する猶予時間算出部と
をさらに備える、請求項又は請求項に記載のS波予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動検出予測技術に関する。より具体的には、本発明は、初期微動を発生させるP波を検出するとともに、検出したP波に基づいて、主要動を発生させるS波を予測する地震動検出予測システムにおいて、複数の地震計を用いてP波を検出するP波検出装置、及び、P波検出装置によって検出されたP波に基づいてS波の強度を予測するS波予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震の発生を予知することは極めて困難である。そのため、地震発生直後に、多数の地震観測点で観測する地震の観測情報を基に、地震の発生時刻、震源位置及び規模の情報を算出し、これらの情報から予測される主要動の到達時刻や強度を未到達地域に報知する地震速報システムなどが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2015-25714号公報)には、震源近くの地域の建物に設けられた地震計の情報に基づいて警報を発するとともに、震度や被災状況に応じた地震対応を行うためのオンサイト警報に連動する災害時警報連動システムが開示されている。このシステムは、建物に設置され、地震計と通信可能に接続される各種家電機器と、全国各地の地震計と通信可能に接続され、当該全国各地の地震計の地震情報を集約するセンターサーバとを含むものとして構成されている。
【0004】
また、本出願の出願人は、特許文献2に開示される地震警報システムを提案している。この地震警報システムは、建物や事業所内の敷地内に3つ以上の地震計を設け、これらの地震計で計測されたデータ信号間の相関係数に基づいてP波の検出判定を行うとともに、P波の検出地点から受信したP波データに基づいてS波の強度を予測し、これに基づいて報知を行うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-25714号公報
【文献】特許第6887310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたシステムを含む従来のシステムにおいては、各地震計は、相当程度の距離が離れて分散設置されていることが想定されているので、これらの地震計からの情報をセンターサーバなどに集約したとしても、初期微動を発生させるP波を迅速かつ精度高く検出することが難しかった。
【0007】
また、従来のシステムは、複数の地震計からの情報をセンターサーバに集約し、複数の地震計からの情報に基づいて、当該センターサーバで主要動を発生させるS波の到来を予測したとしても、膨大な地震計のデータ処理に時間を要し、緊急警報を発することができるようなものではない。
【0008】
特許文献2に提案される技術は、特許文献1に開示されたシステムを含む従来のシステムと比較して、迅速かつ高精度にP波を検出することができる有用な技術である。しかし、近年、特に首都圏における発生確率の高まりが懸念されている直下型地震への対応を考慮すると、より迅速かつ高精度な地震動予測技術が求められている。
【0009】
本発明は、P波をより迅速かつ高精度に検出することができるとともに、検出したP波に基づいてS波の強度を予測することができる地震動検出予測システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、初期微動を発生させるP波を検出するとともに、検出したP波に基づいて主要動を発生させるS波を予測する地震動検出予測システムにおいて用いられる、P波を検出するためにP波の観測点に配置されるP波検出装置を提供する。P波検出装置は、複数の地震計と、P波の検出を判定するための判定値を算出する算出部と、判定値に基づいてP波が検出されたかどうかを判定する判定部と、判定部でP波が検出されたと判定されたときに、S波を予測するために用いられるP波データを外部に送信する通信部とを備える。P波の検出を判定するための判定値は、複数の地震計の各々によって計測される所定時間間隔(本明細書においては「素区間」という)ごとの複数の実時間計測データを用いて算出される。
【0011】
一実施形態においては、判定値は、複数の実時間計測データの標準偏差を用いて求められる。別の実施形態においては、判定値は、複数の実時間計測データの平均偏差を用いて求められる。さらに別の実施形態においては、判定値は、複数の地震計間における複数の実時間計測データの相関関数を用いて求められる。判定は、これらの組み合わせを用いて求めてもよい。
【0012】
P波検出装置は、P波の直前に発生するP波と関連する先行破壊地震動を検出し、その先行破壊地震動をP波と区別する先行破壊フィルタをさらに含むことが好ましい。また、P波検出装置は、P波の直前に発生するP波とは無関係の微小イベントを検出し、その微小イベントをP波と区別する微小イベントフィルタをさらに含むことが好ましい。
【0013】
本発明は、初期微動を発生させるP波を検出するとともに、検出したP波に基づいて、主要動を発生させるS波を予測する地震動検出予測システムに用いられる、検出されたP波に基づいてS波を予測するためのS波予測装置も提供する。S波予測装置は、上述のP波検出装置から送信されたP波データを受信する通信部と、P波データに基づいて、到達するS波の強度を予測するS波予測部とを備える。
【0014】
S波予測装置は、移動体とすることもでき、その場合にはさらに、S波予測装置の位置を計測する位置計測部と、計測された位置とP波を検出したP波検出装置の位置とに基づいて、S波が到達するまでの猶予時間を算出する猶予時間算出部とをさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る地震動検出予測システムは、建物内や事業所の敷地内に設けられる複数の地震計に基づいてP波の検出判定を行うとともに、P波の検出地点から受信したP波データに基づいてS波の強度を予測するように構成されている。したがって、本発明に係る地震動検出予測システムによれば、初期微動を発生させるP波を迅速かつ精度高く検出することが可能となるとともに主要動に関する緊急警報を迅速に発することができる。また、本発明に係る地震動検出予測システムは、地震前に発生する、地震とは無関係の微小イベントや地震に関連する先行破壊をP波と区別するためのフィルタを備えているため、P波の見逃し及び過小評価を防止し、より正確にP波の検出判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る地震動検出予測システムにおけるメインシステムの設置例を示す模式図である。
図2】地震動検出予測システムにおけるメインシステムの設置イメージを示す図である。
図3A】地震動検出予測システムの概要を示すブロック図であり、メインシステムのそれぞれがP波検出装置及びS波予測装置として機能する。
図3B】メインシステムのデータ処理部の機能を示すブロック図である。
図4】地震動検出予測システムにおける基本的な処理のフローチャートであり、(a)はメインシステムがP波検出処理を行うときのフローチャートを示し、(b)はメインシステムがS波予測処理を行うときのフローチャートである。
図5】地震計による計測データの一例を示す。
図6】地震動検出予測システムのメインシステムがP波検出装置として機能する場合において、標準偏差を指標として用いてP波の検出判定を行うための処理のフローチャートである。
図7】地震動検出予測システムのメインシステムがP波検出装置として機能する場合において、平均偏差を指標として用いてP波の検出判定を行うための処理のフローチャートである。
図8】地震動検出予測システムのメインシステムがP波検出装置として機能する場合において、相関係数を指標として用いてP波の検出判定を行うための処理のフローチャートである。
図9】P波検出装置における先行破壊フィルタの処理を示すフローチャートである。
図10】P波検出装置における微小イベントフィルタの処理を示すフローチャートである。
図11】P波検出装置におけるP波検出処理の具体的な一例を示すフローチャートである。
図12】S波予測装置において、S波の強度の予測を行う処理を示すフローチャートである。
図13】本発明の別の実施形態に係る移動体型S波予測装置の概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明は、初期微動を発生させるP波を迅速かつ高精度に検出するとともに、検出したP波に基づいて主要動を発生させるS波の強度を予測する地震動検出予測システムを提供する。地震動検出予測システムは、初期微動を発生させる地震動であるP波(Primary wave)を複数の地震計を用いて迅速かつ高精度に検出し、検出されたP波に基づいて、主要動を発生させる地震動であるS波(Secondary wave)を予測することができる。
【0018】
地震動検出予測システムは、さらに、当該地震を引き起こす破壊が生じる直前に発生する場合がある、当該地震と関係する先行破壊による地震動を検出し、この地震動をP波と区別することができる。地震動検出予測システムは、さらにまた、当該地震の直前に独立して発生する場合がある、当該地震とは無関係の微小イベントによる地震動を検出し、この地震動をP波と区別することができる。このように、先行破壊及び微小イベントによる地震動を検出し、これらの地震動をP波と区別することによって、P波の検出をより確実なものとすることができる。
【0019】
[地震動検出予測システムの概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る地震動検出予測システムにおけるメインシステムの設置例を示す模式図である。本発明の実施形態に係る地震動検出予測システム1は、3つの地震計が建物内や事業所の敷地内に設けられ、これらの3つの地震計からの計測データに基づいて、P波の検出判定などを実行する。本実施形態では、図1に示されるように第1地震計101、第2地震計102、第3地震計103からなる3つの地震計が設置される例を示しているが、これに限定されるものではなく、設置される地震計の数は複数であればよく、2つでも4つ以上でもよい。ただし、P波の検出について複数の地震計による多数決判定を行う場合には、地震計の数は奇数であることが好ましい。
【0020】
また、本実施形態では、第1地震計101及び第2地震計102が建物内に設置され、第3地震計103が、建物が属する敷地に設置される例を示しているが、設置方法はこれに限定されるものではない。ただし、3つの地震計は、建物が属する敷地内(建物内も含む)にある程度の距離を離しつつ設置されていることが好ましい。地震計を近接させて配置すると、例えば、近隣道路を走行するトラックなどの振動を複数の地震計が共に計測して、P波検出に支障をきたす場合がある。地震計の間の適切な距離は、地震計を設置する建物や敷地に応じて適宜設定されるが、例えば、30m~100m程度が想定される。
【0021】
地震動検出予測システム1において、第1地震計101、第2地震計102、第3地震計103と、それらの地震計によって計測されるデータを処理するシステムとを、メインシステム100という。図2は、本発明の実施形態に係る地震動検出予測システム1のメインシステム100の設置イメージを示す図であり、メインシステム100がA地点、B地点、C地点、・・・・に設置された状態を表している。
【0022】
本実施形態における地震動検出予測システム1は、メインシステム100が上記のように各地に配置され、それぞれのメインシステム100がネットワークを介して互いに通信を行うことができるように構成されている。そのため、P波を検出したメインシステム100が、計測したP波データを、他のメインシステム100に送信することができる構成となっている。このとき、各メインシステム100では、3つの地震計101、102、103で計測される計測データを用いてP波検出判定を行うので、迅速で精度の高いP波検出を行うことが可能となる。
【0023】
図3Aは、本発明に係る地震動検出予測システム1の概要を示すブロック図であり、例えば複数のメインシステム100A、100B、100C、・・・、100XがネットワークNを介して互いに接続された状態を示す。図3Aにおいては、A地点、B地点、C地点、・・・、X地点に設置されているメインシステムをそれぞれ100A、100B、100C、・・・、100Xとする。これらの構成は同様のものであるので、ここでは1つのメインシステム100Aについてのみ説明する。
【0024】
本発明に係る地震動検出予測システム1で用いられるメインシステム100Aにおいては、1つの地点において、適切な距離で間隔を空けて設置される第1地震計101、第2地震計102、第3地震計103を有している。第1地震計101、第2地震計102、第3地震計103によって計測されたデータ(それぞれの地震計の計測データ信号をS1、S2、S3とする)は、データ処理部110に送信される。メインシステム100Aにおけるデータ処理部110は、CPUとCPU上で動作するプログラムを保持するROMとCPUのワークエリアであるRAMなどからなる汎用の情報処理装置である。第1地震計101、第2地震計102、第3地震計103によって計測されたデータは、データ処理部110によって処理されるようになっている。
【0025】
図3Bは、データ処理部110の機能を示すブロック図である。データ処理部110は、算出部、判定部及び予測部を有し、さらに、微小イベントフィルタ及び先行破壊フィルタを有する。それぞれの詳細な機能は、後述される。
【0026】
データ処理部110は、図示されているデータ処理部110と接続される各構成と協働して動作する。また、本発明に係る地震動検出予測システム1における種々の制御処理は、データ処理部110内のROMやRAMなどの記憶手段に記憶保持されるプログラムをCPUが実行することによって実現されるものである。
【0027】
データ処理部110には、例えばハードディスクやソリッドステートドライブなどの記憶部120が接続されている。この記憶部120には、S波の強度を予測するために用いられるS波予測関数Fを格納することができる。さらに、記憶部120には、地震動検出予測システム1の動作に必要なプログラム、初期データ、中間処理時のデータ等や、施設情報(施設名、位置情報(緯度、経度)等)、サイト情報(地盤増幅度、平均的直下型地震の深さ等)を格納することができ、データ処理部110が各種データ等を参照できるようになっている。P波の計測データに基づいてS波の波形の強度を導くために用いられるS波予測関数Fは、各地点に依存するものであるので、記憶部120には、各地点でのそれぞれのS波予測関数Fを格納することができる。例えば、A地点であれば、A地点におけるS波予測関数FAが、B地点であれば、B地点におけるS波予測関数FBが、・・・というように、各地点におけるS波予測関数Fが予め準備され、記憶部120に格納することができる。
【0028】
また、データ処理部110には、無線又は有線によって外部との通信を可能にする通信部150が接続されている。通信部150は、データ処理部110から転送されるデータを、外部のネットワークNを介して自機ではないメインシステム100B、100C、・・・、100Xに送信することができるようになっている。また、通信部150は、外部のネットワークNを介して自機ではないメインシステム100B、100C、・・・、100Xから送信されてくるデータを受信し、受信したデータをデータ処理部110に送信することができるようになっている。
【0029】
[地震動検出予測システムにおける処理]
次に、本発明に係る地震動検出予測システム1における処理について説明する。
地震動検出予測システム1は、地震動の計測、P波を検出したことの判定処理、及びP波データに基づくS波の強度予測処理を行うことができる。P波を検出したことの判定処理を行う際には、微小イベント及び/又は先行破壊による地震動を検出して、これらの地震動をP波と区別するための処理を行うこともできる。
【0030】
図4は、本発明の実施形態に係る地震動検出予測システム1の処理のフローチャートを示す図である。図4(a)は、複数のメインシステム100のうち、P波の検出を行うメインシステム100(例えば、メインシステム100A)の処理であり、図4(b)は、P波を検出したメインシステム100からのP波データに基づいてS波の強度予測を行うメインシステム100(メインシステム100B、100C、・・・、100X)の処理である。本発明に係る地震動検出予測システム1を構成する全てのメインシステム100A、100B、100C、・・・、100Xは、いずれも、図4の処理を実行することができ、図4(a)の処理を実行するときには、メインシステム100は、P波の検出を行うP波検出装置として機能し、図4(b)の処理を実行するときには、メインシステム100は、S波の予測を行うS波予測装置として機能する。
【0031】
(P波検出判定)
図4(a)において、例えば震源地に最も近いメインシステム100Aで、P波の検出処理が開始される(S4a-1)。次に、S4a-2において、3つの地震計101、102、103の各々で地震動が計測される。地震動は、図5に示されるように、第1地震計101の波形はS1、第2地震計102の波形はS2、第3地震計103の波形はS3のように検出される。一般に、各地震計においては、例えばS1の波形に示されるように、通常はランダムノイズの波形が検出され、次に地震の発生に伴ってP波の波形が検出され、その後、S波が開始される。本発明においては、P波の発生を、より早い時点で高精度に検出し、P波データに基づいてS波の強度を推測することができる。各地震計101、102、103におけるデータS1、S2、S3のサンプリング周波数は、一般に100Hz又は200Hzとすることができるが、これに限定されるものではなく、本発明におけるP波の検出判定に用いることが可能な任意の周波数とすることができる。本明細書においては、任意の周波数でサンプリングされたそれぞれの計測データS1、S2、S3を「実時間計測データ」という。
【0032】
各地震計101、102、103においては、平常時にはランダムノイズが計測されており、地震が発生するとP波が計測され始める。メインシステム100Aでは、s4a-3において、各地震計101、102、103の計測値に基づいてP波の検出判定が行われる。P波の検出判定は、所定の指標を用いて算出された判定値を用いて行うことが可能であり、所定の指標として、標準偏差、平均偏差、若しくは相関係数、又はこれらの組み合わせを用いることができる。指標は、所定の時間間隔ごとの複数の実時間計測データを用いて算出される。本明細書においては、この所定の時間間隔を「素区間」という。1つの素区間のサイズは、測定の信頼性とP波判定の信頼性の観点から、好ましくは0.05秒から0.2秒であることが好ましいが、これに限定されるものではない。素区間のサイズが小さいと、平均化される実時間計測データの個数が少なくなり、個々の実時間計測データの変動がP波の検出精度に影響を与えやすくなる。一方、素区間のサイズが大きいと、素区間に含まれる実時間計測データの数が多くなるため処理時間が長くなり、迅速なP波の検出確定に時間がかかる場合がある。
【0033】
例えば、素区間のサイズが0.1秒、地震計のサンプリング周波数が100Hzの場合であれば、1つの素区間における実時間計測データの個数は10個であり、素区間のサイズが0.05秒、地震計のサンプリング周波数が100Hzの場合であれば、1つの素区間における実時間計測データの個数は5個である。それぞれの指標を用いてP波の検出を判定する方法は、後述する。
【0034】
このように、本発明においては、地震計の実時間計測データそのものではなく、1つの素区間にわたって取得された複数の実時間計測データを平均化して扱い、さらに複数の素区間のデータを平均化して扱うことによって、実時間計測データをそのまま処理した場合におけるデータの変動によって生じる可能性のある予測震度のばらつきを低減し、予測の高速化及び高精度化を実現することができる。
【0035】
P波が検出されたと判定された場合には、メインシステム100Aは、計測されたP波データを、ネットワークNを介してメインシステム100B、100C、・・・、100Xに送信する(s4a-6)。P波データは、少なくとも、計測されたP波の生データを含む。送信されるP波データとして、限定されるものではないが、例えば3つの地震計101、102、103のうち平穏時のノイズレベルが中間の値で推移する地震計によって計測されたデータを選択することができる。メインシステム100Aから送信するデータは、P波データに限定されるものではなく、例えば、メインシステム100Aにおいて予測されたS波の強度を含むものであってもよい。送信データに含まれるS波の強度は、本明細書において後述される方法と同様の方法で予測された強度であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、公知の方法によって予測された強度であってもよい。
【0036】
なお、地震動検出予測システム1が先行破壊フィルタ及び微小イベントフィルタを含む場合には、P波検出判定(s4a-3)の後に、地震動の仮検知(s4a-4)判定及び地震確定(s4a-5)判定が行われることが好ましい。これらの詳細は、後述される。
【0037】
(標準偏差を利用する判定)
P波の検出を判定するための一つの実施形態では、実時間計測データの標準偏差を判定の指標として用いる。図6は、標準偏差を指標として用いてP波の検出判定を行う処理のフローチャートである。この実施形態においては、P波の検出判定は、素区間における複数の実時間計測データの標準偏差σ[素区間]と第1のしきい値LT1との差として求められる判定値に基づいて、行うことができる。第1のしきい値LT1は、平常時に素区間ごとに求められた複数の実時間計測データの標準偏差を複数の素区間にわたって平均した平均値σ01に定数Kをかけて算出される。
【0038】
3つの地震計101、102、103のそれぞれにおいては、平常時にランダムノイズが計測されており、計測されたそれぞれのランダムノイズのデータはデータ処理部110に送られている。データ処理部110に設けられる算出部は、それぞれの地震計のランダムノイズデータを用いて、素区間ごとに求められた複数のランダムノイズデータの標準偏差を複数の素区間にわたって平均した平均値σ01を求める。σ01は、例えば、素区間ごとに求められた複数のランダムノイズデータの標準偏差を、限定されるものではないが例えば100秒間(素区間のサイズが0.1秒の場合は、1000個の素区間に相当する)にわたって平均することによって、算出される。σ01は、常時更新されることが好ましい。
【0039】
しきい値LT1は、上記の平均値σ01に定数Kをかけたもの、すなわち、
LT1=K×σ01
とすることができる。定数Kは、過去の地震データから求められる経験値であり、例えば1.5~2.0の数値を採用することができるが、これに限定されるものではない。Kの値は、システム管理者が任意に決定することができる。
【0040】
地震が発生した場合、P波検出判定処理が開始される(s6-1)。算出部は、各地震計101、102、103から送られてきたそれぞれの複数の実時間計測データを用いて、各地震計101、102、103ごとに1つの素区間における複数の実時間計測データの標準偏差σ[素区間]を求める。なお、σ[素区間]を求める前に、各地震計のデータについて、周知の方法でドリフト補正が行われることが好ましい。算出部は、このσ[素区間]と、平常時のしきい値LT1との差D1、
D1=σ[素区間]-LT1
を算出する(s6-2)。差データD1は、データ処理部110に設けられる判定部に送られる。
【0041】
判定部は、差データD1が正の値であるか負の値であるかに基づいて、差データD1が正の値であれば判定値1を生成し、負の値であれば判定値0を生成する。判定部は、3つの地震計101、102、103のそれぞれの判定値を用いて、多数決判定を行う(s6-3)。すなわち、3つの地震計101、102、103のうち、判定値1となった地震計が1台の場合は、当該素区間においてはP波は検出されていないと判定され、次の素区間において同様の判定が行われる(s6-3のNO)。一方、3つの地震計101、102、103のうち、判定値1となった地震計が2台以上の場合は、当該素区間においてP波が検出されたと判定される(s6-4)。P波が検出されたと判定された場合(図4(a)に示されるように、必要に応じて仮検知及び地震確定の判定の後)には、上述のとおり、計測されたP波データを、ネットワークNを介して、メインシステム100B、100C、・・・、100Xに送信することができる(図4のs4a-7)。
【0042】
(平均偏差を利用する判定)
次に、P波の検出を判定するための別の実施形態では、実時間計測データの平均偏差を判定の指標として用いる。図7は、平均偏差を指標として用いてP波の検出判定を行う処理のフローチャートである。この実施形態においては、P波の検出判定は、素区間における複数の実時間計測データの平均値Z[素区間]と第2のしきい値LT2との差として求められる判定値に基づいて、行うことができる。第2のしきい値LT2は、平常時に素区間ごとに求められた複数の実時間計測データの平均値を複数の素区間にわたって平均した平均値Z0と、平常時に素区間ごとに求められた複数の実時間計測データの標準偏差σ02に定数Kをかけた値とを用いて、算出される。
【0043】
データ処理部110の算出部は、平常時のそれぞれの地震計において、素区間ごとに求められた複数の実時間計測データ(ランダムノイズデータ)の平均値を複数の素区間にわたって平均した平均値Z0を求める。Z0は、例えば、素区間ごとに求められた複数のランダムノイズデータの平均値を100秒間(例えば、素区間のサイズが0.1秒の場合は、1000個の素区間に相当する)にわたって平均することによって算出される。また、算出部は、それぞれの地震計のランダムノイズデータを用いて、σ02を求める。σ02は、常時更新されることが好ましい
【0044】
しきい値LT2は、上記のZ0、σ02、及び定数Kを用いて、
LT2=Z0+K×σ02
とすることができる。なお、定数Kについては上述のとおりである。
【0045】
地震が発生した場合、P波検出判定処理が開始される(s7-1)。算出部は、各地震計101、102、103から送られてきたそれぞれの複数の実時間計測データを用いて、各地震計101、102、103ごとに1つの素区間における複数の実時間計測データの平均値Z[素区間]を求める。なお、Z[素区間]を求める前に、各地震計のデータについて、周知の方法でドリフト補正が行われることが好ましい。算出部は、このZ[素区間]と、平常時のしきい値LT2との差D2、
D2=Z[素区間]-LT2
を算出する(s7-2)。差データD2は、データ処理部110に設けられる判定部に送られる。
【0046】
判定部は、差データD2が正の値であるか負の値であるかに基づいて、差データD2が正の値であれば判定値1を生成し、負の値であれば判定値0を生成する。判定部は、3つの地震計101、102、103のそれぞれの判定値を用いて、多数決判定を行う(s7-3)。多数決判定については、図6を用いて上述したとおりである。P波が検出されたと判定された場合(s7-4)(図4(a)に示されるように、必要に応じて仮検知及び地震確定の判定の後)には、上述のとおり、計測されたP波データを、ネットワークNを介して、メインシステム100B、100C、・・・、100Xに送信することができる(図4のs4a-7)。
【0047】
(相関係数を利用する判定)
P波の検出を判定するためのさらに別の実施形態では、複数の地震計間における所定時間間隔の複数の実時間計測データについての相関関数を指標として用いる。この実施形態においては、P波の検出判定は、地震計101、102、103間で求められた素区間における複数の実時間計測データの相関係数r12、r23、r31と、第3のしきい値LT3との差として求められる判定値に基づいて、行うことができる。第3のしきい値LT3は、地震計101、102、103間で求められた平常時の複数の実時間時計測データの相関係数C012、C023、C031に基づいて、定められる。しきい値LT3は、例えば0.5~1.0の数値を採用することができるが、これに限定されるものではなく、過去の地震データや経験値等に基づいてシステム管理者が任意に決定することができる。図8は、相関係数を指標として用いてP波の検出判定を行う処理のフローチャートである。
【0048】
データ処理部110の算出部は、3つの地震計101、102、103の複数のランダムノイズデータを用いて、それぞれ2つの地震計間の相関係数C012、C023、C031を求める。すなわち、地震計101と地震計102との間の平常時の相関係数C012、地震計102と地震計103との間の平常時の相関係数C023、及び、地震計103と地震計101との間の平常時の相関係数C031を算出する。平常時の相関係数は、例えば、100秒間のランダムノイズデータを用いて算出される。
【0049】
地震が発生した場合、P波検出判定処理が開始される(s8-1)。算出部は、各地震計101、102、103から送られてきたそれぞれの複数の実時間計測データを用いて、地震計101、102、103のうちの2つの地震計間のそれぞれについて、1つの素区間における複数の実時間計測データの相関係数r12、r23、r31を求める。なお、相関係数を求める前に、各地震計のデータについてドリフト補正が行われることが好ましい。算出部は、これらの相関係数r12、r23、r31と、平常時のしきい値LT3との差、
D12=r12-LT3
D23=r23-LT3
D31=r31-LT3
を算出する(s8-2)。差データD12、D23、D31は、データ処理部110に設けられる判定部に送られる。
【0050】
判定部は、差データD12、D23、D31が正の値であるか負の値であるかに基づいて、差データD12、D23、D31が正の値であれば判定値1を生成し、負の値であれば判定値0を生成する。判定部は、3つの判定値を用いて多数決判定を行う(s8-3)。3つの判定値のうち1つの判定値のみが1の場合は、当該素区間においてはP波は検出されていないと判定され、次の素区間において同様の判定が行われる(s8-3の「NO」)。一方、3つの判定値のうち2つの判定値が1の場合(s8-3の「YES」)は、当該素区間においてP波が検出されたと判定される(S8-4)。P波が検出されたと判定された場合(図4(a)に示されるように、必要に応じて仮検知及び地震確定の判定の後)には、上述のとおり、計測されたP波データを、ネットワークNを介して、メインシステム100B、100C、・・・、100Xに送信することができる(図4のs4a-7)。
【0051】
(先行破壊フィルタ)
地震の発生の際には、地震発生の直前に地殻に小さな破壊(先行破壊)が発生することがわかっている。この先行破壊に起因する地震動は、本震と関連するものであるが、P波の検出及び判定の観点からは障害となる可能性がある。具体的には、こうした先行破壊が発生した場合、先行破壊による地震動を真のP波と見誤ったり、P波の大きさを真の大きさより過小に評価し、結果としてS波の過小評価に繋がったりするおそれがある。そこで、地震動検出予測システム1は、先行破壊に伴って生じる地震動である先行破壊地震動をP波と区別して、除去するための先行破壊フィルタを含むことが好ましい。
【0052】
先行破壊フィルタは、先行破壊指標を用いて、計測された地震動が先行破壊地震動であるかどうかを判定する。先行破壊指標として、各素区間における複数の実時間計測データの平均値を求め、2つの素区間の平均値の差分偏差を計算し、2つの差分偏差の移動平均として求めた値を用いることができる。先行破壊の判定を行うための素区間の所定個数(第1の個数)は限定されるものではなく、先行破壊判定の迅速性と信頼性を勘案して、適宜設定することができる。
【0053】
図9は、先行破壊フィルタによって先行破壊の判定を行う処理のフローチャートである。先行破壊フィルタは、まず、各地震計101、102、103で地震動を検出したときに、上述のいずれかの方法(図4(a)~図8を用いて説明した方法)によるP波の検出判定と同様の方法で、地震動の検出が行われる。素区間において、3つの地震計101、102、103のうち判定値1となった地震計が2台以上の場合(多数決判定)は、当該素区間において地震動が「仮検知」されたと判定される。この処理が、所定個数(第1の個数)の素区間にわたって実施される。
【0054】
所定個数(第1の個数)の素区間で連続して地震動が仮検知されたと判定された場合に、その地震動は「地震候補」となり(s9-2)、以下の処理が行われる。所定個数の素区間で処理が行われる中で、先行破壊フィルタは、各素区間の実時間計測データを用いて先行破壊指標を算出し(s9-3)、所定個数の素区間の後半の素区間(「判定区間」という)において、負の値の先行破壊指標が予め定められた個数(第2の個数)以上の素区間で現れたかどうかを求め(s9-4)、負の値が連続して現れたときには、先行破壊フィルタはその地震動が先行破壊による地震動であると判定する(s9-5)。なお、判定区間数及び先行破壊地震動と判定するための素区間数は、限定されるものではない。これらの素区間数は、先行破壊判定の迅速性と信頼性を勘案して、適宜設定することができる。
【0055】
(微小イベントフィルタ)
大きな地震においては、地震発生前にその地震とは独立の微小地震が付随することが多い。特に、震央がP波の検出判定を行う地点に近い、いわゆる直下型地震の場合には、地震の前に大きさが数ガル、継続時間が数秒の小さな地震が発生し、この地震動がP波の検出及び判定の障害となる可能性がある。具体的には、こうした微小地震が発生した場合、微小地震による地震動を真のP波と見誤ったり、P波の大きさを真の大きさより過小に評価し、結果としてS波の過小評価に繋がったりするおそれがある。そこで、地震動検出予測システム1は、この微小地震による地震動である微小イベント地震動をP波と区別して除去するための微小イベントフィルタを含むことが好ましい。
【0056】
図10は、微小イベントフィルタによって微小イベントの判定を行う処理のフローチャートである。微小イベントフィルタでは、所定個数の素区間におけるデータを用いて、微小イベントの判定を行う。所定個数は、上述の先行破壊の判定を行うための素区間の個数(第1の個数)と同じ数とすることができる。微小イベントの判定を行うための素区間の所定個数は限定されるものではなく、微小イベント判定の迅速性と信頼性を勘案して、適宜設定することができる。
【0057】
まず、上述の先行破壊の場合と同様に、各地震計101、102、103で地震動を検出したときに、上述のいずれかの方法(図4(a)~図8を用いて説明した方法)によるP波の検出判定と同様の方法で、地震動の検出が行われる。素区間において、3つの地震計のうち判定値1となった地震計が2台以上の場合(多数決判定)は、当該素区間において地震動が「仮検知」されたと判定される。この処理が、所定個数(第1の個数)の素区間にわたって実施される。
【0058】
所定個数(第1の個数)の素区間において連続して地震動が仮検知された場合にはその地震動は「地震候補」となり(s10-2)、以下の処理、すなわち「地震確定判定」が行われる。まず、3台の地震計のうち任意に選択された1台の地震計、あるいは3台の地震計を用いて、微小イベントの判定に用いる微小イベント指標値Z10を算出する(s10-3)。微小イベント指標値Z10は、所定個数(第1の個数)の素区間の各々における複数の実時間計測データの平均値を、素区間ごとにずらして平均した値(すなわち、素区間の移動平均値)である。選択する地震計は、例えば3台の地震計のうち平常時のランダムノイズのレベルが中央値のものを選択することができるが、これに限定されるものではない。
【0059】
この微小イベント指標値Z10と、微小イベントしきい値STとの差D4、
D4=Z10-ST
が算出される(s10-4)。微小イベントしきい値STは、予め定めた数値を地震動検出予測システム1に与えておいてもよく、必要に応じて管理者が任意に変更することができるようにしておいてもよい。
【0060】
微小イベントフィルタは、差データD4が正の値であるか負の値であるかに基づいて、差データD4が正の値であれば判定値1を生成し、0又は負の値であれば判定値0を生成する(s10-5)。判定値1が生成されたときに、この地震動は真のP波である、すなわちP波が検出された(地震確定)と判定される(s10-7)。P波が検出されたと判定された場合には、計測されたP波データを、ネットワークNを介して、メインシステム100B、100C、・・・、100Xに送信することができる(図4のs4a-6)。一方、判定値0が生成されたとき、すなわち差データD4が0又は負の値であるときには、この地震動は微小イベントによる地震動でありP波ではないと判定される(s10-6)。
【0061】
以上のように、本発明に係る地震動検出予測システム1では、複数の地震計で計測されるデータから算出された指標を用いるとともに、微小振動を真のP波と区別することによって、より迅速で高い精度の検出を行い、検出されたP波の計測データを、他のメインシステム100に送信し、他のメインシステム100でのS波強度の予測に資するようにしている。
【0062】
(典型的な地震判定処理の例)
図11には、上述の各方法を組み合わせた典型的なP波検出判定処理のフローチャートを示す。この例では、0.01秒単位で測定された実時間計測データを用いている。ある素空間における実時間計測データの有無を確認後、実時間計測データの素区間平均を算出する。この例では素空間のサイズは0.1秒である。
【0063】
次に、素区間平均を利用して素区間判定を行う。素区間判定は、上述のとおり、実時間計測データの標準偏差としきい値とを比較する方法、実時間計測データの平均偏差としきい値とを比較する方法、又は3つの地震計間の実時間計測データの相関係数としきい値とを比較する方法のいずれか又はこれらの組み合わせを用いて行うことができる。3つの地震計101、102、103のそれぞれにおいて指標がしきい値を上回るかどうかを判定し、3つの地震計101、102、103のうち上回った地震計の数が2つ以上であれば、当該素区間でP波が仮検知されたと判定される。
【0064】
その後も素区間判定を繰り返し、連続して10個の素区間で仮検知と判定されたときには、その地震動は地震候補となる。このとき、10番目の素区間の時点で、地震候補が先行破壊であるかどうかが判定される。先行破壊の判定は、先行破壊指標(差分偏差の移動平均)を用いて上述のとおり行われる。先行破壊は、仮検知から先行破壊判定までの間で1回しか実施しないので、既に先行破壊を実施していれば、次のステップに進む。現在の地震候補が先行破壊と判定された場合には、最初の仮検知から開始する。
【0065】
現在の地震候補が先行破壊ではないと判定された場合、又は既に先行破壊判定が行われている場合には、地震候補が微小イベントであるかが判定される。微小イベントの判定は、微小イベント指標(10素区間の移動平均)を用いて上述のとおり行われる。現在の地震候補が微少イベントではないと判定された場合には、現在の地震候補は真の地震であると判定され、地震確定となる。地震確定と判定されたときには、3台の地震計101、102、103のうち中間の値の地震計の計測結果をP波の強度とする。なお、地震計は3台に限定されるものではなく、例えば、2台の地震計が用いられている場合は、値が大きい方の地震計の測定結果をP波の強度とし、1台の場合はその地震計の値をP波の強度とすることもできる。4台以上の地震計が用いられている場合も、適宜の方法でP波の強度を確定することができる。P波の強度は、10番目の素区間における実時間計測データの平均値である。
【0066】
(S波強度予測)
次に、P波を検出したメインシステム100以外のメインシステム100で行われるS波強度の予測に関する処理について説明する。図4(b)は、上述のように、P波を検出したメインシステム100A(ここでは、メインシステム100Aは、P波検出装置として機能している)からのP波データに基づいてS波の強度予測を行うメインシステム100(メインシステム100B、100C、・・・、100X)が実行する処理のフローチャートである。これらの100B、100C、・・・、100Xは、S波の予測を行うS波予測装置として機能する。以下、メインシステム100BがS波の予測を行うS波予測装置であるものとして説明する。
【0067】
図4(b)において、s4b-1でS波の検出処理が開始される。次に、メインシステム100Bは、s4b-2において、P波を検出したメインシステム100Aから送信されてきたP波のデータを受信する。メインシステム100BがP波のデータを受信すると、s4b-3において、メインシステム100Bのデータ処理部110の予測部が、受信したP波データと距離減衰式とを用いてS波の強度を予測する。予測されたS波の強度がしきい値以上の場合には、メインシステム100Bは、s4b-4において、強度のレベルに応じて警報を報知する。予測されたS波の強度がしきい値より小さい場合には、警報を報知することなく処理を終了する(s4b-5)。
【0068】
図12は、S波の強度を予測するとともに、警報を報知するかどうかを判断する処理のフローチャートである。図12において、処理が開始され(s12-1)、s12-2でP波データを受信すると、メインシステム100Bは、s12-3で、P波が検出された地点Aにおける予め定められたS波予測関数Fを取得する。このS波予測関数Fは、P波の計測データからS波の強度を予測するために用いられるものであり、限定されるものではないが、例えばメインシステム100の地点ごとにP波の強度とS波の強度との比として、過去の地震データの解析から求めておくことができる。S波予測関数Fは、メインシステム100AからP波とともに送信されてもよく、予めメインシステム100Bの記憶部120に格納されたデータを読みだしてもよい。例えばメインシステム100Aが自らの地震計で検出したP波からS波を予測する場合には、自分のシステム内に保存しているS波予測関数を用いてS波を予測することができる。あるいは、メインシステム100Bが、メインシステム100Aからネットワーク経由で受信したP波に基づいてS波を予測する場合には、メインシステム100Aが検出したP波と供に送信されてくるS波予測関数を用いてS波を予測することができる。メインシステム100Bは、s12-4において、取得したS波予測関数FをP波の計測データに乗じることによって、P波検出地点AでのS波の強度Sを予測する。
【0069】
メインシステム100Bは、さらに、A地点において強度Sと予測されたS波がどのようにB地点に影響するかを、A地点からB地点に向かう地振動の距離減衰から把握する。そこで、メインシステム100Bは、s12-5において、予め定められ、好ましくはプログラムに組み込まれた、当業者に周知の距離減衰式を用いて地点Aと地点Bとの間の距離減衰を計算し、s12-6において、計算した距離減衰と強度Sとに基づいて、地点BにおけるS波の強度Sを算出する。
【0070】
強度Sが予測されると、メインシステム100Bは、s12-7において、得られた強度Sと予め定められたしきい値THSとを比較する。強度Sがしきい値THSより小さければ、警報報知が行われることなく処理が終了する(s12-9)。強度Sがしきい値THS以上の場合には、メインシステム100Bは、強度Sのレベルに応じて警報を報知部130で報知する(ステップs12-8)。
【0071】
[S波予測装置を移動体に搭載した実施形態]
本発明に係る地震動検出予測システム1においては、さらに、S波予測装置を移動体に搭載して移動体型S波予測装置とすることによって、地震発生時の被害をより効果的に減少させることができるようになる。例えばラッシュアワーに大きな揺れ(S波)に突然襲われた場合、特に大都市においては甚大な被害が予測され、電車の高架や高速道路に震度6や震度7の地震が到来したときには、電車の脱線転覆、電車や車両の高架からの落下、車両の多重衝突などといった被害が想定される。S波予測装置を移動体に搭載し、地震情報を速報することによって、被災を軽減することができる。ここで、移動体には、電車や自動車だけでなく、例えば、スマートフォン、タブレット、スマートウォッチなどの携帯電子機器も含まれる。
【0072】
図13は、本発明の別の実施形態に係る移動体型S波予測装置200の概要を示すブロック図である。移動体に搭載される移動体型S波予測装置200は、例えばインターネットを介して各種データを受信するための通信部151と、GPSシステム等を利用して自身の位置を特定するための位置計測部161と、各種プログラム、初期データ及び予測結果等のデータ等、並びに必要に応じてS波予測関数Fを記憶する記憶部121と、予測結果に基づいて警報を発報する報知部131とを有する。移動体型S波予測装置200は、例えば上述のメインシステム100AがP波を検出すると、そのメインシステム100AからのP波データを通信部151で受信する。移動体型S波予測装置200は、データ処理部111の予測部において、受信したP波データと、P波を検出したメインシステム100Aの地点におけるS波予測関数Fと、予め定められ、好ましくはプログラムに組み込まれた当業者に周知の距離減衰式を用いて計算されたA地点から移動体までの距離減衰とに基づいて、自身の位置(P波データを受信した地点)におけるS波の強度を予測することができる。S波予測関数F、距離減衰式については、上述のメインシステムにおけるS波強度予測の部分で説明したとおりである。
【0073】
移動体型S波予測装置200は、さらに、S波が到達するまでの猶予時間を算出する猶予時間算出部をデータ処理部111に有する。猶予時間算出部は、位置計測部161によって計測された自身の位置と、P波を検出したP波検出装置(例えば、メインシステム100A)の位置とを用いて、S波が移動体型S波予測装置200の地点に到達するまでの予測される猶予時間を求める。猶予時間は、自身の位置とP波を検出したP波検出装置の位置とから求められた両者の間の距離Lを用いて、以下の式で表される。
T=L/4-L/7-a
ここで、P波の伝達速度は7km/s、S波の伝達速度は4km/sであり、aは、P波検出装置においてP波を検出するのに要する時間である。移動体型S波予測装置200は、予測されたS波の強度と猶予時間とを含む警報を報知部131で発報する。
【0074】
さらに別の実施形態において、移動体型S波予測装置200は、気象庁の緊急地震速報を受信するように構成することもできる。緊急地震速報を受信したときには、S波予測部におけるS波強度の予測完了時刻と緊急地震速報の受信時刻のうちの早い方に基づいて、警報を報知部131で発報する。また、緊急地震速報を受信したときに、猶予時間算出部は、位置計測部161によって計測された自身の位置と、緊急地震速報に含まれる震源の位置とを用いて、S波が移動体型S波予測装置200の地点に到達するまでの予測される猶予時間T’を求める。猶予時間T’は、自身の位置と緊急地震速報に含まれる震源の位置とから求められた両者の間の距離L’を用いて、上述のとおり求めることができる。移動体型S波予測装置200は、P波を検出したP波検出装置の位置に基づいて計算された猶予時間Tと、緊急地震速報に含まれる震源の位置に基づいて計算された猶予時間T’とを比較して、より短い猶予時間を含む警報を報知部131で発報する。

【要約】
【課題】 P波をより迅速かつ高精度に検出することができるとともに、検出したP波に基づいてS波の強度を予測することができる地震動検出予測システムを提供する。
【解決手段】 地震動検出予測システムにおけるP波検出装置は、複数の地震計と、P波の検出を判定するための判定値を算出する算出部と、判定値に基づいてP波が検出されたかどうかを判定する判定部と、判定部でP波が検出されたと判定されたときに、S波を予測するために用いられるP波データを外部に送信する通信部とを備える。地震動検出予測システムにおけるS波予測装置は、上述のP波検出装置から送信されたP波データを受信する通信部と、P波データに基づいて、到達するS波の強度を予測するS波予測部とを備える。
【選択図】 図4
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13