(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】高温部品
(51)【国際特許分類】
C22C 1/04 20060101AFI20220722BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220722BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20220722BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20220722BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20220722BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20220722BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
C22C1/04 B
B22F1/00 M
B22F3/02 S
B22F3/10 F
B22F3/24 C
C22C19/03 H
C22C19/05 C
(21)【出願番号】P 2021022143
(22)【出願日】2021-02-15
(62)【分割の表示】P 2019519572の分割
【原出願日】2018-05-11
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/019037
(32)【優先日】2017-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日比野 真也
(72)【発明者】
【氏名】藤光 利茂
(72)【発明者】
【氏名】野村 嘉道
(72)【発明者】
【氏名】岡田 竜太朗
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-277721(JP,A)
【文献】特開2009-097094(JP,A)
【文献】特開2014-070230(JP,A)
【文献】特開昭61-147839(JP,A)
【文献】特開2011-012346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/04
B22F 1/00
B22F 3/02
B22F 3/10
B22F 3/24
C22C 19/03
C22C 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率で、0.002%以上0.07%以下のCと、6.00%以上7.50%以下のAl+Tiと、1.50%以上3.00%以下のNb+Taと、11.00%以上15.00%以下のCrと、3.80%以上5.20%以下のMoと、0.005%以上0.020%以下のBと、0.05%以上0.20%以下のZrとを含有するγ'析出強化型Ni基合金からなり、平均結晶粒径が150μm以上であり、その結晶粒組織が、直交する3方向全ての断面が等軸組織であり、且つ、非デンドライト組織である、
高温部品。
【請求項2】
Cの含有量が、質量百分率で0.03%より多く0.07%以下である、
請求項1に記載の高温部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ'(ガンマプライム)析出強化型Ni基合金から成る高温部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、ガスタービンエンジンのタービン部品などの高温部品は、高温環境下で所定の機械的特性を発揮する超合金材料で構成されている。このような超合金材料として、γ'相と呼ばれる金属間化合物を微細に析出させて高温強度を向上させることを目的とした、γ'析出強化型Ni基合金が知られている。γ'析出強化型Ni基合金は、例えば、母相(γマトリックス相)に固溶して強化する主元素としてCr(クロム)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Re(レニウム)、及びCo(コバルト)のうちの少なくとも1つを含有し、Ni(ニッケル)と結合してγ'相(主に、Ni3(Al,Ti))を形成する主元素としてAl(アルミニウム)、Ti(チタン)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)及びV(バナジウム)のうちの少なくとも1つを含有する。特許文献1,2では、この種のγ'析出強化型ニッケル基合金及びそれからなる部品が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載されたγ'析出強化型ニッケル基合金からなる部品の製造プロセスは、熱間等静圧圧縮成形(HIP)及び/又は押出圧密などによって合金粉末が圧密化されたビレットを得る工程、ビレットを合金のγ’ソルバス温度(γ'相の固溶温度)よりわずかに低い温度でネットシェイプ鍛造することによって成形された中間製品を得る工程、及び、中間製品を合金のγ’ソルバス温度よりも高い温度で固溶化熱処理(スーパーソルバス熱処理)することによって結晶粒が均一に粗大化された製品を得る工程から成る。固溶化熱処理は、合金のγ’ソルバス温度より高く且つ初期溶融温度より低い温度で、中間製品の結晶粒組織を再結晶化し、γ’析出物を合金に溶解(固溶化)させたのち、マトリックス内部又は粒界でγ’相を再析出させるための時効硬化処理を経る。
【0004】
特許文献2に記載されたニッケル基合金は、γ'相の容積割合を40~50%とするために、Al、Ti、及びNbの含有率の和を原子パーセントで10.5%以上13%以下としたものである。この合金からなる部品は、合金の粉末が熱間静水圧圧縮成形及び/又は引き抜きによって固化され、それが等温鍛造によって部品に成形され、成形された部品に対し再結晶化熱処理が施され、それが冷却されることにより得られる。再結晶化熱処理では、合金のγ'相のソルバス温度より高く且つ合金の溶融開始温度よりも低い温度で処理されることによって、15μmを超える粗大結晶粒微小構造の部品が得られる。
【0005】
ところで、粉末冶金法の一つとして、樹脂成形技術と粉末冶金の技法を組合せた金属粉末射出成形(Metal Injection Molding,以下、「MIM」と称する)が知られている。MIMの製造プロセスは、一般に、金属粉末とバインダー(プラスチック+ワックス)を均一に混練することによってコンパウンドを得る工程、コンパウンドを金型に射出して離型することによって中間成形体を得る工程、加熱、触媒、又は溶媒などによって中間成形体からバインダーを取り除く(脱脂する)工程、及び、脱脂された中間成形体を焼結して成形体(粉末成形体)を得る工程から成る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-532777号公報
【文献】特開2007-277721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MIMでは、ニアネットシェイプの三次元形状の成形が可能であり、材料の歩留まりが高く材料費及び後加工費を削減できる点、及び、生産のランニングタイムが比較的短く、生産性が高い点などの優れた点がある。従って、MIMを高温部品の製造方法に適用すれば、高温部品を安価に提供できるなどの多くのメリットがある。
【0008】
γ”析出強化型Ni基合金であるIN718(IN:Inconelは登録商標、以下同様)などの組成では、MIMによって所定の高温特性を備えた高温部品を製造できることが確認されている。しかしながら、γ'析出強化型Ni基合金では、MIMによって製造される高温部品は、高温特性に劣ることがわかっている。
【0009】
本願の発明者らは、MIMによって製造される高温部品を構成するγ'析出強化型Ni基合金の一例として、IN713Cの典型的組成の合金(以下、「IN713C-MIM」)を採用し、IN713C-MIMの高温特性について検討した。IN713Cは、耐クリープ性に優れたγ'析出強化型Ni基合金の一つである。
【0010】
これまでのIN713C-MIMに関する研究によれば、IN713C-MIMは、鋳造で製造された部品と比較して、耐クリープ性が低く、タービン部品などの高温部品として採用できるレベルの高温特性に到達していないというのが現状である。
【0011】
本願の発明者らは、IN713C-MIMの高温特性が向上しない理由が、原料である金属粉末の粒子径に依存した微細な結晶粒組織にあり、高温特性を向上させるためには結晶粒を粗大化することが効果的であると考えている。一般に、耐高温性能を有するNi基合金において結晶粒の粗大化により耐クリープ性が向上することが知られており、特許文献1に記載されたγ'析出強化型Ni基合金では結晶粒の粗大化により耐クリープ性を含む高温特性を向上させている。
【0012】
ところが、本願の発明者らが、特許文献1に記載された技術に倣ってIN713C-MIMの熱処理(スーパーソルバス熱処理)をしたところ、熱処理の前後で、耐クリープ性を向上させるために十分な程度の結晶粒の粗大化は確認できなかった。
【0013】
また、特許文献1,2は、合金粉末の焼結体を鍛造する、粉末鍛造法を開示している。特許文献1,2のように、熱処理前の部品に等温鍛造又は冷間鍛造によってひずみ与えたうえで、熱処理によって再結晶及び粒成長を行わせることにより、結晶粒を粗大化できることが知られている。これは、与えられた塑性ひずみにより結晶粒内に蓄積された転位に起因して材料の自由エネルギーが高められると、この自由エネルギーを駆動力として生成された再結晶粒が微細となることと、粒成長の駆動力となる粒界エネルギーは結晶粒が微細であるほど高いことによる。しかし、MIMと鍛造とはいずれも素形材技術であり、MIMで成形された粉末成形体を鍛造することは通常行われず、MIMと鍛造とは相容れない。
【0014】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、粉末鍛造などの塑性加工を含む方法を除く粉末成形方法を用いて、金属粉末から、γ'析出強化型Ni基合金からなる高温部品を製造するにあたり、高温部品の組織の結晶粒を粗大化する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
IN713Cの典型的組成には0.08~0.20質量%のC(炭素)が含まれており、この組成の合金粉末をMIMで成形して得られる粉末成形体では更にCの含有量が増加する。本願の発明者らは、粉末成形体の結晶粒界に存在する炭化物(メタルカーバイド)が粒界移動を妨げて結晶の粒成長を阻害していると推定し、IN713C-MIMの結晶粒が粗大化しなかったことの原因の一つが、IN713C-MIMの粉末成形体の含有炭素量にあるという考えに至った。
【0016】
そこで、本発明の一態様に係る高温部品の製造方法は、
γ'析出強化型Ni基合金の合金粉末から、特定の粉末成形方法を用いて所望の高温部品形状の粉末成形体を成形する成形工程と、
前記粉末成形体の結晶粒径を熱処理により粗大化させる結晶粒粗大化工程とを含み、
前記粉末成形体は、質量百分率で、0.002%以上0.07%以下のCと、5.40%以上8.40%以下のAl+Tiとを含有することを特徴としている。
【0017】
上記高温部品の製造方法によれば、粉末成形体の結晶粒界に存在して結晶の粒成長を阻害する炭化物を生成するCの含有量を粉末成形体において0.002質量%以上0.07%以下に制限することにより、得られる高温部品の結晶粒径は合金粉末の粒子径から成長していることがわかった。このような結晶の粒成長により粗大化された結晶組織を有する高温部品は、高い耐クリープ性を備えることが期待される。
【0018】
そして、上記の高温部品の製造方法によれば、質量百分率で、0.002%以上0.07%以下のCと、5.40%以上8.40%以下のAl+Tiとを含有するγ'析出強化型Ni基合金からなり、平均結晶粒径が150μm以上であり、その結晶粒組織が、直交する3方向全ての断面が等軸組織であり、且つ、非デンドライト組織である高温部品を製造することができる。なお、本明細書及び請求の範囲では、各結晶粒の長軸と短軸との寸法比(アスペクト比)の平均が2未満である金属組織を「等軸組織」と定義する。
【0019】
上記の高温部品は、Cの含有量が、質量百分率で0.03%より大きく0.07%以下であってよい。
【0020】
上記の高温部品は、前記γ'析出強化型Ni基合金がC、Al、及びTiの他に、質量百分率で、4.60%以下のNb+Ta、5.00%以上22.80%以下のCr、19.50%以下のCo、1.80%以上13.75%以下のMo+W、0.10%以下のB、1.0%以下のZr、及び、2.0%以下のHfを含有していてよい。
【0021】
また、上記の高温部品は、前記γ'析出強化型Ni基合金が、質量百分率で、0.03%以上0.07%以下のC、6.00%以上7.50%以下のAl+Ti、1.50%以上3.00%以下のNb+Ta、11.00%以上15.00%以下のCr、3.80%以上5.20%以下のMo、0.005%以上0.020%以下のB、及び、0.05%以上0.20%以下のZrを含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなるものであってよい。
【0022】
上記高温部品の製造方法は、前記成形工程と前記結晶粒粗大化工程の間に、又は、前記結晶粒粗大化工程と同時に行われる、ガス圧を利用して前記粉末成形体に等方的な圧力を加えることにより気孔率を低減させる気孔率低減工程を更に含んでいてよい。
【0023】
また、上記高温部品の製造方法において、前記結晶粒粗大化工程が、前記粉末成形体を、真空雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下において、所定の粗大化処理温度で加熱することを含み、前記粗大化処理温度が、前記粉末成形体に固有のピン止め効果消失温度以上前記粉末成形体のソリダス温度以下の範囲の温度であることが好ましい。但し、上記ソリダス温度は、実験によって求めたソリダス温度から所定のα℃を加えた値としてよい。
【0024】
また、上記高温部品の製造方法において、Cの含有量が、質量百分率で0.03%より大きく0.07%以下であってよい。
【0025】
また、上記高温部品の製造方法において、前記粉末成形体は、C、Al、及びTiの他に、質量百分率で、4.60%以下のNb+Ta、5.00%以上22.80%以下のCr、19.50%以下のCo、1.80%以上13.75%以下のMo+W、0.10%以下のB、1.0%以下のZr、及び、2.0%以下のHfを含有していてよい。
【0026】
また、上記高温部品の製造方法において、前記粉末成形体が、質量百分率で、0.03%以上0.07%以下のC、6.00%以上7.50%以下のAl+Ti、1.50%以上3.00%以下のNb+Ta、11.00%以上15.00%以下のCr、3.80%以上5.20%以下のMo、0.005%以上0.020%以下のB、及び、0.05%以上0.20%以下のZrを含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなるものであってよい。
【0027】
また、上記高温部品の製造方法において、前記特定の粉末成形方法は粉末鍛造法を除き、前記成形工程は前記合金粉末を前記高温部品形状に集めてそれを焼き固めることを含むものであってよい。
【0028】
また、上記高温部品の製造方法において、前記成形工程が、前記合金粉末と樹脂バインダーとを混練したコンパウンドを金型に射出して中間成形体を成形することと、前記中間成形体を脱脂することと、脱脂された前記中間成形体を焼結して前記粉末成形体を得ることとを含んでいてよい。
【0029】
このように、MIMを利用して、高温部品の形状に成形された粉末成形体を得ることによって、形状精度の高い高温部品を得ることができる。更に、MIMを利用することによって、材料の歩留まりが高く、材料費及び後加工費を削減でき、生産のランニングタイムが比較的短く、生産性の向上が期待できる。
【0030】
上記高温部品の製造方法において、前記合金粉末の平均粒子径が、20μm以上60μm以下であることが好ましい。
【0031】
合金粉末が上記の平均粒子径であることにより、中間成形体を脱脂する際に粉末同士の隙間からの樹脂バインダーの抜け性の向上が期待される。
【0032】
また、上記高温部品の製造方法において、前記合金粉末は、質量百分率で、0.002%以上0.02%以下のCを含んでいることが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、MIMなどの鍛造以外の成形方法を用いて、金属粉末から、高温特性に優れたγ'析出強化型Ni基合金からなる高温部品を製造するにあたり、高温部品の組織の結晶粒を粗大化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、高温部品の製造方法の流れ図である。
【
図3】
図3は、結晶粒粗大化の評価の基準と対応する組織写真の表である。
【
図4】
図4は、結晶粒粗大化の評価の基準と対応する組織写真の表である。
【
図5】
図5は、粉末成形体のDSCサーモグラムの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、高温部品のクリープ試験結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明に係る高温部品の製造方法は、例えば、ガスタービンエンジンのタービン部品などの、厳しい高温環境下での使用に適した高温部品を製造する方法として用いられる。この高温部品は、ステンレス鋼や耐熱鋼よりも高温強度(特に、耐クリープ性)の優れた、γ'析出強化型Ni基合金からなる。
【0036】
表1に、上記高温部品を構成しているγ'析出強化型Ni基合金(以下、単に「合金」と称する)に含まれる元素の割合(質量百分率)を示す。この合金は、質量百分率で、0.002%以上0.07%以下(好ましくは、0.006%以上0.07%以下、更に好ましくは、0.03%より大きく0.07%以下)のC(炭素)を含有する。また、上記合金のAl(アルミニウム)の含有率とTi(チタン)の含有率との和(Al+Ti)は、質量百分率で5.40%以上8.40%以下である。上記合金は、上記のC、Al及びTiの他に、質量百分率で、5.00%以上22.80%以下のCr(クロム)、19.50%以下(0%を含む)のCo(コバルト)、1.80%以上13.75%以下のMo(モリブデン)+W(タングステン)、4.60%以下(0%を含む)のNb(ニオブ)+Ta(タンタル)、0.10%以下(0%を除く)のB(ホウ素)、1.0%以下(0%を除く)のZr(ジルコニウム)、2.0%以下(0%を含む)のHf、残部としてNi(ニッケル)及び不純物を含有していてよい。
【0037】
【0038】
【0039】
表1に示す組成を有する合金として、表2に示すγ'析出強化型Ni基合金(合金商標名:IN713C、IN713LC、Mar-M246+Hf、Mar-M247、CM247LC、B1900、B1900+Hf、Rene’80、IN738、IN738LC、IN792、Rene’95、IN939、alloyα(オリジナル合金))の典型的組成(又は公称組成)から、Cの割合を0.002質量%以上0.07質量%以下(好ましくは、0.006質量%以上0.07質量%以下、更に好ましくは、0.03質量%より多く0.07質量%以下)に変化させたものが挙げられる。
【0040】
例えば、表2に示すIN713C、IN713LC、及びalloyαの典型的組成をもとにしたγ'析出強化型Ni基合金は、質量百分率で、0.002%以上0.07%以下(好ましくは、0.006%以上0.07%以下、更に好ましくは、0.03%より多く0.7%以下)のC、6.00%以上7.50%以下のAl+Ti、1.50%以上3.00%以下のNb+Ta、11.00%以上15.00%以下のCr、3.80%以上5.20%以下のMo、0.005%以上0.020%以下のB、0.05%以上0.20%以下のZrを含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなる。
【0041】
また、例えば、表2に示すalloyαの典型的組成をもとにしたγ'析出強化型Ni基合金は、質量百分率で、0.002%以上0.07%以下(好ましくは、0.006%以上0.07%以下、更に好ましくは、0.03%より多く0.7%以下)のC、6.00%以上7.50%以下のAl+Ti、1.80%以上3.00%以下のNb+Ta、13.00%以上15.00%以下のCr、3.80%以上5.20%以下のMo、0.005%以上0.020%以下のB、0.05%以上0.20%以下のZrを含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなる。
【0042】
ここで、高温部品の製造方法を、
図1を参照しながら説明する。
図1は、高温部品の製造の流れを示す流れ図である。
【0043】
図1に示すように、高温部品の製造プロセスは、合金粉末から所望の高温部品形状の粉末成形体を成形する成形工程(ステップS1)と、成形された粉末成形体を加圧することにより気孔率を低減させる気孔率低減工程(ステップS2)と、気孔率が低減した粉末成形体の結晶粒径を熱処理により粗大化させる結晶粒粗大化工程(ステップS3)とを含む。高温部品の製造プロセスは、合金の種類に応じて、上記の結晶粒粗大化工程(ステップS3)の後に、粒径が粗大化された粉末成形体を硬化させる硬化工程(ステップS4)を更に含んでいてよい。
【0044】
〔成形工程〕
成形工程(ステップS1)では、特定の粉末成形法を用いて、合金粉末から粉末成形体を成形する。粉末成形体は、後述する気孔率低減工程(ステップS2)や熱処理工程(ステップS3及びステップS4)で生じる幾分の変形が考慮されているが、実質的に所望の高温部品形状(ネットシェイプ・ニアネットシェイプ)を呈する。
【0045】
ここでは粉末成形法としてMIMを採用している。但し、粉末成形体の成形法は、MIMに限定されず、粉末鍛造法を除く粉末成形法が採用されてよい。このような粉末成形法は、合金粉末を高温部品形状に集めて、それを焼き固めることを含むものである。このような粉末成形法として、MIM、プレス圧縮成形法、熱間等静圧圧縮成形法(HIP)、冷間等静圧圧縮成形法(CIP)、及び積層造形法(AM:Additive Manufacturing)のうちいずれか一つが採用されてもよい。プレス圧縮成形法では、合金粉末を所望の高温部品形状の型で圧縮成形することにより中間品を造形し、中間品を焼結して粉末成形体を得る。熱間等静圧圧縮成形法では、合金粉末を高温部品形状のカプセルに充填し、それに均一な高圧と高温をかけることにより中間品を造形し、中間品を焼結して粉末成形体を得る。冷間等静圧圧縮成形法では、合金粉末を高温部品形状に密封し、それに均一な液圧を加えて中間品を造形し、中間品を焼結して粉末成形体を得る。積層造形法では、合金粉末をレーザーや電子ビームで1レイヤーずつ溶融凝固させて、所望形状の粉末成形体を造形する。なお、粉末成形体の成形法として、鍛造、押出し、圧延、及び引抜きなどの塑性加工を含む方法は用いられない。とりわけ、材料に与えられた塑性ひずみによる転位が残留するような、材料の再結晶温度以下での冷間塑性加工及び等温塑性加工は粉末成形体の成形に用いられない。
【0046】
図2は、成形工程の処理の流れ図である。
図2に示すように、成形工程(ステップS1)では、先ず、合金粉末とバインダーとを均一に混練して、それらのコンパウンドを得る(ステップS11)。コンパウンドは、ペレタイザーを使用して成形性の良いペレット状に成形される。バインダーは、従来、MIMに一般的に使用されてきたものであってよく、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアセタール(POM)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、カルナウバワックス(CW)、パラフィンワックス(PW)、及び、ステアリン酸(St)などのうち少なくとも1種類を含む。
【0047】
表3に、合金粉末に含まれる元素の割合(質量百分率)を示す。この合金粉末は、質量百分率で、0.002%以上0.02%以下のCと、5.40%以上8.40%以下のAl+Tiとを含有するNi基合金粉末である。この合金粉末は、上記のC、Al及びTiの他に、質量百分率で、4.60%以下(0%を含む)のNb+Ta、5.00%以上22.80%以下のCr、19.50%以下(0%を含む)のCo、1.80%以上13.75%以下のMo+W、0.10%以下(0%を除く)のB、1.0%以下(0%を除く)のZr、2.0%以下(0%を含む)のHf、残部としてNi及び不純物を含有していてよい。
【0048】
【0049】
合金粉末は、20μm以上60μm以下、望ましくは、30μm以上50μm以下の平均粒子径を有する。ここで、平均粒子径は、体積基準のメジアン径(d50)で表される。体積基準のメジアン径は、レーザー回折・散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて試料を測定し、粒度分布(累積分布)を求めたときの体積基準の相対粒子量が50%になる粒子径と定義される。この平均粒子径は、従来の一般的なMIMで用いられる金属粉末の平均粒子径(10μm程度)と比較して大きい。
【0050】
上記のようにして得たコンパウンドを、射出成形機を用いて、金型の所望の高温部品形状のキャビティに射出する(ステップS12)。そして、金型を開いて、グリーン体(中間成形体)を金型から離型する(ステップS13)。グリーン体は、合金粉末とバインダーとの混練物であるコンパウンドが射出成形されたものである。
【0051】
次に、グリーン体からバインダーを取り除く、即ち、脱脂する(ステップS14)。脱脂の方法としては、有機溶剤又は水にグリーン体を浸漬して脱脂する方法、グリーン体を100~600℃の脱脂炉で加熱して脱脂する方法などがある。
【0052】
続いて、脱脂されたグリーン体を焼結して粉末成形体を得る(ステップS15)。この工程では、一般的には1200~1300℃で0.5~3時間、脱脂されたグリーン体を加熱する。用いられる焼結条件は、粉末成形体が十分に緻密化される(例えば、比密度95%以上)温度と時間の組み合わせとなるように、経済性も考慮して決定される。この焼結工程は、前述の脱脂工程と連続して行われてもよい。
【0053】
本願の発明者らは、粉末成形体の結晶の粒成長を阻害する因子の一つが、結晶粒界に存在する炭化物であると考えている。そこで、粉末成形体の含有炭素量が、質量百分率で、0.002%以上0.07%以下(望ましくは、0.006%以上0.07%以下、更に好ましくは、0.03%より大きく0.07%以下)となるように粉末成形体の成形工程のプロセスを制御する。具体的には、合金粉末の炭素含有量を0.002%以上0.02%以下に制限する。また、MIMでは粉末表面に残存するバインダーによる炭素汚染も考えられるため、従来と比較して大きな粒子径の合金粉末を採用することにより、脱脂処理において粉末成形体の粉末同士の隙間からバインダーが抜けやすいようにしている。
【0054】
〔気孔率低減工程〕
気孔率低減工程(ステップS2)では、成形工程(ステップS1)で得られた粉末成形体の気孔率を減少させるように、粉末成形体にガス圧を与える。粉末成形体中の気孔も結晶粒の成長を阻害するピン止め因子となりうることから、気孔率低減工程(ステップS2)後の粉末成形体の気孔率は、少ないほどよい。
【0055】
気孔率低減工程(ステップS2)では、例えば、HIP(熱間等静圧圧縮成形法)を用いる。具体的には、ガス圧を利用して、900~1300℃の高温と数10~200MPaの等方的な圧力とを被処理体である粉末成形体に同時に加える。HIPで使用するガス種類は不活性ガス(例えば、Ar)であり、HIPのパラメータは、合金組成及び処理の目標サイクルタイムに従って変更可能であるが、温度、圧力、及び時間は、粉末成形体の気孔率を実質的になくすのに十分な程度に設定することがよい。
【0056】
〔結晶粒粗大化工程〕
結晶粒粗大化工程(ステップS3)では、粉末成形体の結晶粒を粗大化するための粗大化熱処理を行う。粗大化熱処理は、粉末成形体を、真空又は不活性ガス雰囲気下において、所定の粗大化処理温度で、所定の粗大化処理時間だけ加熱する。この熱処理では、粉末成形体が再結晶するために十分な自由エネルギーを持っていないため、再結晶は殆ど生じないと考えられる。なお、上記において「真空雰囲気」とは、圧力が1000Pa未満の空間状態のことをいう。また、上記において「不活性ガス雰囲気」とは、1000Pa以上のArなどの不活性ガスで置換された空間状態のことをいう。
【0057】
粉末成形体の結晶粒界には、合金に含まれるTi、Nb、Ta、Hf、Mo、Cr、Niなどの金属原子と炭素原子からなる化合物(以下、「炭化物」と称する)が存在している。Ti、Nb、Ta、HfとCが約1:1の比率で結合したMC炭化物や、Mo、Ni、CrなどとCが約6:1の比率で結合したM6C炭化物、Cr、MoなどとCが約23:6の比率で結合したM23C6炭化物などが知られている(「M」は金属元素を表す)。中でも、MC炭化物は高温で最も安定的であり、本願の発明者らは、粉末成形体の結晶粒界に存在する炭化物、主にMC炭化物が、粒界の移動を妨げようとするピン止め力を発現させていると考えている。そして、このピン止め効果は或る温度を境に急激に低下することが実験からわかっている。このピン止め効果が急激に低下する温度を、以下では「ピン止め効果消失温度」と称する。ピン止め効果消失温度では、粒界に存在してピン止め効果を発現させている炭化物が分解したり、或いは、粒界移動のエネルギーがピン止め力に勝って炭化物が移動する粒界に飲み込まれたりすることによって、ピン止め効果が急激に低下すると考えられる。この考えによれば、ピン止め効果消失温度以上の粗大化処理温度で熱処理を行うことにより、粉末成形体の結晶の成長を阻む要素が粒界からなくなり、結晶粒の粗大化の促進が期待される。
【0058】
上記のピン止め効果消失温度は、合金の組成によって異なり、また、類似する組成であっても炭素の含有量によって異なると考えられる。そこで、ピン止め効果消失温度を予め実験的に求め、粗大化処理温度を、ピン止め効果消失温度以上で、粉末成形体のソリダス温度以下の温度とする。粉末成形体のソリダス温度は、粉末成形体から最初に液相が生じる温度であって、粉末成形体の組成とその炭素含有量に依存する。粗大化処理温度がソリダス温度を超えると、粉末成形体を構成する元素のうち一部分の融点が低い液相が生じて粒界に部分溶融層が生じることから、理論上の粗大化処理温度はソリダス温度以下である。但し、実際はソリダス温度からα℃を加えた値を、粗大化処理温度の上限値としてよい。αは、リキダス温度とソリダス温度の差分の20%と規定する(α=(リキダス温度-ソリダス温度)/5)。
【0059】
図5は、粉末成形体を示差走査熱量計(DSC)で測定して得たDSCサーモグラムの一例を示している。示差走査熱量計は、試料に一定の熱を与えながら、基準物質と試料との温度を測定して、試料の熱物性を温度差としてとらえ、試料の状態変化による吸熱反応や発熱反応を測定する装置である。
図5に示すDSCサーモグラムは、縦軸が熱流量(Heat Flow)[mJ/s]、横軸が温度[℃]を表している。
【0060】
図5のDSCサーモグラムでは、ソルバス温度で発熱ピークがみられ、ソリダス温度とリキダス温度の間に吸熱ピークがみられる。その吸熱ピークの下がり初めの温度がソリダス温度と規定され、その吸熱ピークの上がりきった温度がリキダス温度と規定される。
【0061】
粗大化処理時間は、粉末成形体の形状や炭素量に加えて、粗大化処理温度にも影響される。粗大化処理時間が長いほど結晶粒の粗大化の程度が大きくなるが、粗大化処理時間が長くなると不経済である。そこで、粗大化処理時間は、実験で得られた結果に基づいて、高温部品が所望の耐クリープ性を備えるための結晶粒のサイズと、経済性との兼ね合いから決定してよい。
【0062】
なお、粗大化熱処理を真空雰囲気下で行うと、合金に含まれるCrが蒸発したり、蒸発する過程でCrが粒界拡散することによって、粒界にCrが濃化したりすることがわかっている。従って、合金中のCrの蒸発を回避する場合には、不活性ガス雰囲気下で粗大化熱処理を行う。
【0063】
なお、上記では、気孔率低減工程(ステップS2)が成形工程(ステップS1)と結晶粒粗大化工程(ステップS3)の間に行われるが、気孔率低減工程(ステップS2)は結晶粒粗大化工程(ステップS3)と同時に行われてもよい。また、後述するように、気孔率低減工程(ステップS2)が省略される場合には、成形工程(ステップS1)の焼結処理に連続して結晶粒粗大化工程(ステップS3)が行われてもよい。
【0064】
〔硬化工程〕
硬化工程(ステップS4)では、合金ごとに所定の溶体化処理及び時効処理を施し、母相中に適切なγ’相を分散析出させる。これらの条件は、必要とされる機械特性を勘案して決定される。なお、合金によっては、結晶粒粗大化工程(ステップS3)後に徐冷することにより、硬化処理(ステップS4)を施さずに強度を発揮するものがある。また、結晶粒粗大化工程(ステップS3)後に急冷を施すことにより、溶体化処理を省略することもできる。以上の工程(S1~S4又はS1~S3)により、高温部品を製造することができる。
【0065】
以上に説明した高温部品の製造方法は、γ'析出強化型Ni基合金の合金粉末から特定の粉末成形方法(但し、粉末鍛造法を除く)を用いて所望の高温部品形状の粉末成形体を成形する成形工程(ステップS1)と、成形された粉末成形体に対しガス圧を利用して等方的な圧力を加えることにより気孔率を低減させる気孔率低減工程(ステップS2)と、粉末成形体の結晶を熱処理により粗大化させる結晶粒粗大化工程(ステップS3)とを含んでいる。気孔率低減工程(ステップS2)と結晶粒粗大化工程(ステップS3)は同時に進行してもよい。また、結晶粒粗大化工程(ステップS3)の後に、結晶粒径が粗大化された粉末成形体からγ'相を析出させる熱処理を行ってもよい。
【0066】
上記において、成形工程は、合金粉末を高温部品形状に集めてそれを焼き固めることを含む。このような粉末成形方法として、金属粉末射出成形法、プレス圧縮成形法、熱間等静圧圧縮成形法、冷間等静圧圧縮成形法、及び積層造形法のうちいずれか1つが採用されてよい。
【0067】
上記において、粉末成形体は、質量百分率で、0.002%以上0.07%以下のCと、5.40%以上8.40%以下のAl+Tiとを含有する。この粉末成形体は、C、Al、及びTiの他に、質量百分率で、4.60%以下(0%を含む)のNb+Ta、5.00%以上22.80%以下のCr、19.50%以下(0%を含む)のCo、1.80%以上13.75%以下のMo+W、0.10%(0%を除く)以下のB、1.0%以下(0%を除く)のZr、及び、2.0%以下(0%を含む)のHfを含有してよい。
【0068】
或いは、粉末成形体は、表2のIN713LC及びalloyαに対応して、質量百分率で、0.03%より多く0.07%以下のC、6.00%以上7.50%以下のAl+Ti、1.50%以上3.00%以下のNb+Ta、11.00%以上15.00%以下のCr、3.80%以上5.20%以下のMo、0.005%以上0.020%以下のB、及び、0.05%以上0.20%以下のZrを含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなるものであってよい。このような組成の高温部品は耐クリープ性に優れたγ'析出強化型Ni基合金となる。
【0069】
上記製造方法によって得られる高温部品では、粉末成形体の結晶粒界に存在して結晶の成長を阻害すると考えられる炭化物を生成するCの含有量が制限されており、結晶粒粗大化工程を経ることによって結晶粒径が合金粉末の粒子径から成長することがわかっている。このような結晶粒径の成長により、高温部品の耐クリープ性の向上が期待される。即ち、上記高温部品の製造方法によれば、MIMなどの鍛造以外の成形方法を用いて、金属粉末から、高温特性に優れたγ'析出強化型Ni基合金からなる高温部品を製造することができる。
【0070】
そして、上記の高温部品の製造方法によって、質量百分率で、0.002%以上0.07%以下のCと、5.40%以上8.40%以下のAl+Tiとを含有するγ'析出強化型Ni基合金からなり、平均結晶粒径が150μm以上であり、その結晶粒組織が、直交する3方向全ての断面が等軸組織であり、且つ、非デンドライト組織である高温部品が得られる。
【0071】
また、上記高温部品の製造方法では、結晶粒粗大化工程において、粉末成形体を、真空雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下において、所定の粗大化処理温度で加熱する。ここで「粗大化処理温度」は、粉末成形体に固有のピン止め効果消失温度以上粉末成形体のソリダス温度以下の範囲の温度である。
【0072】
このように、結晶粒粗大化のための熱処理が、粉末成形体の粒界に存在する炭化物のピン止め効果が急激に低減するピン止め効果消失温度以上粉末成形体のソリダス温度以下の範囲の温度で行われることによって、粉末成形体の粒界の移動を阻害するものがなくなるので、結晶粒の成長の促進が期待される。
【0073】
また、上記高温部品の製造方法では、成形工程が、合金粉末と樹脂バインダーとを混練したコンパウンドを金型に射出して中間成形体(グリーン体)を成形することと、中間成形体を脱脂することと、脱脂された中間成形体を焼結して粉末成形体を得ることとを含んでいる。
【0074】
このようにMIMを利用して、高温部品の形状に成形された粉末成形体を得ることによって、形状精度の高い高温部品を得ることができる。更に、MIMを利用することによって、材料の歩留まりが高く、材料費及び後加工費を削減でき、生産のランニングタイムが比較的短く、生産性の向上が期待できる。
【0075】
そして、MIMを利用して高温部品の形状に成形された粉末成形体を得るに際し、合金粉末の体積基準の平均粒子径(d50)を20μm以上60μm以下としている。このように合金粉末が上記の平均粒子径であることにより、中間成形体を脱脂する際に粉末同士の隙間からの樹脂バインダーの抜け性の向上が期待される。
【0076】
また、MIMで使用される合金粉末は、質量百分率で、0.002%以上0.02%以下のCを含んでいる。このように、合金粉末のCの含有量を0.002%以上0.02%以下に抑えることによって、粉末成形体のCの含有量を0.07%以下に抑えることができる。
【0077】
[実施例]
次に、本発明に係る高温部品の製造方法の実施例を説明する。
【0078】
〔試料作製手順〕
以下で説明する各試料に共通する試料作製手順は、以下の通りである。
(ステップS1)
合金粉末とバインダーとを均一に混練したコンパウンドを、金型に射出して、厚さ約1~3mmの板状のグリーン体を得た。なお、バインダーは、PP、POM、及びPWを混ぜ合わせたものと、PP、PMMA,及びPWを混ぜ合わせたものとを、試料によって使い分けた。各試料の合金粉末に含まれる元素の割合(質量百分率)を表4に示す。なお、試料a1‐6、b1-7、c1-5、d1-12、e1-6、f1、g1、及び、h1の合金粉末は、表2の「alloyα」の組成からCの割合を変更したものである。
また、合金粉末の平均粒子径(d50)は、後述する試料a1~4,f2,g2を除いて、いずれも48.0μmである。
得られたグリーン体を、室温から500℃まで徐々に昇温させながら加熱脱脂し、更に連続して、十分な緻密化が進むような適切な焼結条件(炉内温度と時間)で加熱して、粉末成形体を得た。
(ステップS2)
上記ステップS1で得られた粉末成形体に対し、1204℃、102~104MPaのAr雰囲気下、4時間の条件でHIPを行った。なお、試料によっては、このHIPが意図的に省略されたものがある。
(ステップS3)
上記ステップS2によって気孔が低減された粉末成形体に対し、真空又はAr雰囲気下で、粗大化処理温度で、粗大化処理時間だけ加熱した。粗大化処理温度及び粗大化処理時間は、試料ごとに異なる。
(ステップS4)
上記ステップS3の粗大化熱処理を終えた粉末成形体に対し、1204℃で2時間の溶体化処理を施したのち、840℃で4時間と760℃で12時間の2段階の時効処理を行い、試料を得た。いずれの処理においても、冷却にはガスファンクールを実施している。なお、ステップS4は、強度試験を行う試料に対してのみ行い、組織観察を行う試料では省略した。
【0079】
【0080】
〔試料観察及び評価手順〕
板状の試料を厚み方向が視野に含まれるように切断してから樹脂埋めし、その切断面を研磨し、マーブル液でエッチングし、切断面を光学顕微鏡で撮像した。そして、撮像で得られた組織写真(画像)を用いて、以下の(1)~(3)の手順で結晶の平均粒径を求めた。なお、1枚の組織写真では厚み方向の全域について画像の鮮明度が結晶粒径の評価のために不十分である場合には、複数枚の組織写真を合成したものを組織写真として用いた。また、組織写真の撮像範囲を、厚み方向とその直交方向のアスペクト比が約1:1となるようにした。
(1)組織写真の撮像範囲全域に対し、縦横それぞれ等間隔で20本ずつの線を引き、各線について粒界とが交差する数を数える。
(2)組織写真中の金属組織上(つまり樹脂上ではない)に引かれた各線の長さを写真中のスケールバーに基づいて実寸法に変換した値を、(1)で求めた数で割った値を、各線における粒径とした。
(3)樹脂部を通る線を除く各線について求めた粒径の平均値を平均結晶粒径とした。
【0081】
平均粒径が150μm以上であれば結晶粒径が粗大化したと評価し、平均粒径が150μm未満であれば結晶粒径の粗大化が不十分であると評価した。また、組織写真から、非粗大化結晶粒の偏在の有無や、粒界の部分溶融の有無や、Crの蒸発の有無についても評価した。次表5に、結晶粒粗大化の評価の基準を示し、
図3及び
図4に結晶粒粗大化の評価の基準と対応する組織写真を示す。
【0082】
【0083】
表5及び
図3に示すように、「粗大化した(A)」と評価するものは、平均結晶粒径が150μm以上であって、その結晶粒組織が、直交する3方向全ての断面が等軸組織であり、且つ、非デンドライト組織であるものである。また、「粗大化した/非粗大化結晶粒の偏在(A
*1)」と評価するものは、上記(A)の評価基準をクリアできるものの、組織写真に平均結晶粒径100μm以下の結晶粒の10個以上の群集が確認されるものである。また、「粗大化した/部分溶融あり(A
*2)」と評価するものは、上記(A)の評価基準をクリアできるものの、組織写真に粒界に部分的な溶融が観察されるものである。また、「粗大化した/Cr蒸発あり(A
*3)」と評価するものは、上記(A)の評価基準をクリアできるものの、組織写真に粒界にCr蒸発が観察されるものである。表5及び
図4に示すように、「粗大化が一部見受けられた(B)」と評価するものは、平均結晶粒径が150μm未満であるが、試料の断面内部においても粗大化した結晶粒が観察されるものである。また、「粗大化しなかった(C)」と評価するものは、上記(A)(B)の評価基準を満たさないものである。
【0084】
〔粉末成形体の炭素量測定手順〕
粉末成形体の炭素量は、板状の試料をドリル等で切子状に削り出し、非分散型赤外線吸収法を用いて測定した。ただし、MIMにより作製された粉末成形体は、バインダーの抜け性の違いから、試料最表面の炭素量が低く測定される場合があるため、試料内部から切子を採取するよう留意した。
【0085】
〔合金粉末サイズによる炭素量減少効果の検証〕
成形工程(ステップS1)において、合金粉末サイズによって、粉末成形体の含有炭素量を減少できることを検証するための実験を行った。
【0086】
合金粉末の平均粒子径(d50)を10.9μmとし、粗大化処理温度を1280℃、粗大化処理時間を12時間、粗大化処理雰囲気を10kPaのAr雰囲気とし、前述の試料作製手順によって試料a1を得た。試料a1の粉末成形体の炭素量は0.074質量%であった。
【0087】
合金粉末の平均粒子径(d50)を23.6μmとし、粗大化処理温度を1280℃、粗大化処理時間を12時間、粗大化処理雰囲気を10kPaのAr雰囲気とし、前述の試料作製手順によって試料a2を得た。試料a2の粉末成形体の炭素量は0.050質量%であった。
【0088】
合金粉末の平均粒子径(d50)を30.7μmとし、粗大化処理温度を1280℃、粗大化処理時間を12時間、粗大化処理雰囲気を10kPaのAr雰囲気とし、前述の試料作製手順によって試料a3~4を得た。試料a3の粉末成形体の炭素量は0.061質量%であり、試料a4の粉末成形体の炭素量は0.046質量%であった。
【0089】
合金粉末の平均粒子径(d50)を48.0μmとし、粗大化処理温度を1280℃、粗大化処理時間を12時間、粗大化処理雰囲気を10kPaのAr雰囲気とし、前述の試料作製手順によって試料a5~6を得た。試料a5の粉末成形体の炭素量は0.058質量%であり、試料a6の粉末成形体の炭素量は0.034質量%であった。
【0090】
【0091】
表6に、試料a1~6の合金粉末の特性と、それらの試料の観察及び評価結果が示されている。表6から明らかなように、試料a1では、試料の断面内部においても粗大化した結晶粒が観察されたが、平均結晶粒径は所定の基準(150μm以上)を満たさなかった。試料a2~6では結晶粒径の粗大化がみられた。試料a2~6では合金粉末の炭素量は同じであるが、合金粉末の平均粒子径が異なり、そのことから粉末成形体の炭素量が異なる。そのため、試料a2~6には、結晶粒径の粗大化の程度や、粗大化の不十分な結晶粒の分布に差異がみられた。試料a2では、試料の厚み方向中央部に集中して粗大化の不十分な結晶粒が存在している一方、試料a2よりも平均粒子径の大きい試料a3~6では、粗大化の不十分な結晶粒は確認されなかった。以上から、合金粉末の平均粒子径が大きいほど良好に結晶粒径が粗大化することがわかった。
【0092】
また、表6からは、粉末成形体の炭素量が0.034質量%以上0.061質量%以下(概ね0.03質量%より多く0.07質量%以下)の範囲において、結晶粒径の十分な粗大化が認められる。また、粉末成形体の炭素量が0.074質量%において、基準を満たさないものの結晶粒径の粗大化が認められた。更に、結晶粒径の粗大化に対するピン止め効果は炭化物が担うことから、炭素量が0.034質量%より小さい場合でも、結晶粒径の粗大化が進むことは容易に推察される。このことから、粉末成形体の炭素量が0.07%以下の範囲において、結晶粒径が十分に粗大化するといえる。
【0093】
〔合金粉末に含まれる炭化物形成元素の違いによる粒成長の差異の検証〕
成形工程(ステップS1)において、合金粉末に含まれる炭化物形成元素の違いによる結晶の粒成長を検証するための実験を行った。
【0094】
合金粉末の平均粒子径(d50)を48.0μmとし、粗大化処理温度を1280℃、粗大化処理時間を12時間、粗大化処理雰囲気を10kPaのAr雰囲気とし、前述の試料作製手順によって試料h1を得た。試料h1の合金粉末において、Cと結びついてMC炭化物を形成する元素はTi及びNbである。
【0095】
試料h1で使用した合金粉末に平均粒子径が25μmの粉末Taを1.65質量%の割合で追加して、試料h1と同じ試料作製手順によって試料h2を得た。試料h2の合金粉末において、Cと結びついてMC炭化物を形成する元素はTi、Nb、及びTaである。
【0096】
試料h1で使用した合金粉末に平均粒子径が25μmの粉末Hfを1.50質量%の割合で追加して、試料h1と同じ試料作製手順によって試料h3を得た。試料h3の合金粉末において、Cと結びついてMC炭化物を形成する元素はTi、Nb、及びHfである。
【0097】
【0098】
表7に、試料h1,h2,h3の合金粉末の特性と、それらの試料の観察及び評価結果が示されている。表7から明らかなように、試料h1,h2,及びh3のいずれにおいても結晶粒径の粗大化がみられた。以上から、Ti、Nb、Ta,及びHfのうち少なくとも1つの元素を含む合金において、粉末成形体の炭素量を制限することにより結晶粒径の粗大化が発現することがわかった。alloyαに含まれるTi、Nbが形成するMC炭化物だけでなく、Ta、Hfが形成するMC炭化物が含まれていても結晶粒径の粗大化が発現したことから、表2で示した類似の合金についても、粉末成形体の炭素量を制限することにより結晶粒径の粗大化が発現することは容易に推察される。
【0099】
〔粗大化処理時間の検証〕
結晶粒粗大化工程(ステップS3)において、適切な粗大化処理時間を検証するための実験を行った。
【0100】
粗大化処理温度を1280℃、粗大化処理時間を1,2,4,12時間で相違させ、粗大化処理雰囲気を10kPaのAr雰囲気とし、前述の試料作製手順によって粗大化処理時間の異なる4種の試料b1~4を得た。各試料において、粉末成形体の炭素含有量は0.034~0.058質量%であった。
【0101】
また、粗大化処理温度を1280℃、粗大化処理時間を4,12,36時間で相違させ、粗大化処理雰囲気を10-2Paよりも高真空雰囲気とし、前述の試料作製手順によって粗大化処理時間の異なる3種の試料b5~7を得た。各試料において、粉末成形体の炭素含有量は0.034~0.058質量%であった。
【0102】
【0103】
表8に、粗大化処理時間の異なる試料b1~7の観察及び評価結果が示されている。表8から明らかなように、不活性ガス雰囲気下では、粗大化処理時間が2時間以上で結晶粒径の粗大化が確認され、4時間以上で非粗大化結晶粒の偏在のない良好な結晶粒径の粗大化がみられた。一方、真空雰囲気下では、粗大化処理時間が4時間以上で結晶粒径の粗大化が確認されたが、Crの蒸発が観察された。また、試料b7では、部分溶融も併せて観察された。以上から、粗大化処理時間が2時間以上で結晶粒径が粗大化するが、粗大化処理時間は望ましくは4時間以上であることがわかった。
【0104】
〔粗大化処理雰囲気の検証〕
結晶粒粗大化工程(ステップS3)において、適切な粗大化処理雰囲気を検証するための実験を行った。
【0105】
粗大化処理温度を1280℃、粗大化処理時間を4時間、粗大化処理雰囲気を10-2Paよりも高真空雰囲気,100PaのAr雰囲気,1300PaのAr雰囲気,10kPaのAr雰囲気,104MPaのAr雰囲気で相違させ、前述の試料作製手順によって粗大化処理雰囲気の異なる5種の試料c1~5を得た。各試料において、粉末成形体の炭素含有量は0.034~0.058質量%であった。
【0106】
【0107】
表9に、粗大化処理雰囲気の異なる試料c1~5の観察及び評価結果が示されている。表9から明らかなように、試料c1~5のいずれにおいても結晶粒径の粗大化が確認されたが、試料c1,c2ではCrの蒸発が観察され、試料c5では部分溶融が観察された。試料c3,4では良好な結晶粒径の粗大化がみられた。このことから、粗大化処理雰囲気を100Paより大きい不活性ガス雰囲気とすることで、Crの蒸発を抑えられることがわかった。
【0108】
〔粗大化処理温度の検証〕
結晶粒粗大化工程(ステップS3)において、適切な粗大化処理温度を検証するための実験を行った。
【0109】
粗大化処理条件のうち、粗大化処理温度と粗大化処理雰囲気の異なる試料を作成し、それぞれ観察及び評価をした。
【0110】
粗大化処理温度を表10の通りに1300,1280,1260,1250,1240,1220℃で相違させ、粗大化処理時間を12時間、粗大化処理雰囲気を10kPaのAr雰囲気とし、前述の試料作製手順によって試料d1~6を得た。各試料において、粉末成形体の炭素含有量は0.034~0.058質量%であった。
【0111】
粗大化処理温度を表10の通りに1300,1280,1260,1250,1240,1220℃で相違させ、粗大化処理時間を12時間、粗大化処理雰囲気を10-2Paよりも高真空雰囲気とし、前述の試料作製手順によって試料d7~12を得た。試料d7~12において粉末成形体の炭素含有量は0.034~0.058質量%であった。
【0112】
【0113】
表10に、試料d1~12の観察及び評価結果が示されている。表10から、試料d1~6では、Ar雰囲気下において、粗大化処理温度が1250℃の試料d4で粗大化が確認され、粗大化処理温度が1240℃の試料d5で粗大化が確認されなかった。これより、試料d1~6の合金では、Ar雰囲気下でのピン止め効果消失温度が1241℃以上1250℃以下にあると推定される。
【0114】
また、表10から、試料d9~12では、真空雰囲気下において、粗大化処理温度が1240℃の試料d11で粗大化が確認され、粗大化処理温度が1220℃の試料d12で粗大化が確認されなかった。これより、試料d9~12の合金では、真空雰囲気下でのピン止め効果消失温度が1221℃以上1240℃以下にあると推定される。
【0115】
〔気孔率低減工程の粗大化処理温度に与える影響の検証〕
高温部品の製造方法に含まれる気孔率低減工程(ステップS2)が、結晶粒粗大化工程(ステップS3)の粗大化処理温度に与える影響を検証するための実験を行った。
【0116】
粗大化処理温度を表11の通りに1300,1280℃で相違させ、粗大化処理時間を12時間、粗大化処理雰囲気を10kPaのAr雰囲気とし、気孔率低減処理としてのHIP(手順(iii))を省略した前述の試料作製手順で試料e1,2を得た。各試料において、粉末成形体の炭素含有量は0.034~0.058質量%であった。
【0117】
粗大化処理温度を表11の通りに1300,1280,1260℃で相違させ、粗大化処理時間を12時間、粗大化処理雰囲気を10-2Paよりも高真空雰囲気とし、気孔率低減処理としてのHIP(手順(iii))を省略した前述の試料作製手順で試料e3~6を得た。試料e3~6において、粉末成形体の炭素含有量は0.034~0.058質量%であった。
【0118】
【0119】
表11に、試料e1~5の観察及び評価結果が示されている。表11から、気孔率低減工程(ステップS2)が省略された前述の高温部品の製造方法、即ち、Ni基合金粉末から所望の高温部品形状の粉末成形体を成形する成形工程(ステップS1)と、前記粉末成形体の結晶粒径を熱処理により粗大化させる結晶粒粗大化工程(ステップS3)とを含む高温部品の製造方法によっても、結晶粒径が粗大化されたγ’析出強化型Ni基合金からなる高温部品を得ることができることが明らかである。
【0120】
また、気孔率低減工程(ステップS2)を省略し、結晶粒粗大化工程(ステップS3)をAr雰囲気下で行った場合には、粗大化処理温度が1300℃では結晶粒が粗大化したが、粗大化処理温度が1280℃では結晶粒が粗大化しなかったことから、気孔率低減工程を省略した場合のピン止め効果消失温度が1281℃以上1300℃以下にあることが推察される。更に、気孔率低減工程(ステップS2)を省略し、結晶粒粗大化工程(ステップS3)を高真空雰囲気下で行った場合には、粗大化処理温度が1280℃では結晶粒が粗大化したが、粗大化処理温度が1260℃では結晶粒が粗大化しなかったことから、気孔率低減工程を省略した場合のピン止め効果消失温度が1261℃以上1280℃以下にあることが推察される。
【0121】
以上の粗大化処理温度に関する検証実験結果から推定されるピン止め効果消失温度を表12に示す。また、表13では、炭素含有量が0.034~0.058質量%と0.10質量%の粉末成形体の、ソリダス温度及びリキダス温度の測定結果を示す。
【0122】
【0123】
【0124】
ソリダス温度及びリキダス温度の測定は、炭素含有量が0.034~0.058質量%と0.10質量%で異なる粉末成形体の試料f1,f2を作成し、各試料を示差走査熱量計(DSC)で計測し、その結果から各試料のソリダス温度、及びリキダス温度を求めた。なお、試料f1の粉末成形体は、前述の試料作製手順のステップS1に示した通り、MIMによって成形したものであるが、試料f2の粉末成形体は、熱間等静圧圧縮成形(HIP)によって成形したものである。より詳細には、試料f2の粉末成形体は、表4に示す所定組成であって、平均粒子径(d50)が26.9μmの合金粉末を、軟鋼製の缶に封入し、1204℃で104MPaのAr雰囲気下で4時間の熱間等静圧圧縮を行い、最後に軟鋼を除去して得たものである。
【0125】
また、表12から、気孔率低減工程の有無にかかわらず、Ar雰囲気下よりも真空雰囲気下の方がピン止め効果消失温度が低くなることがわかった。
【0126】
また、表12及び表13から、気孔率低減工程を省略した場合には、Ar雰囲気下の粗大化熱処理では、粗大化処理温度をソリダス温度近傍まで上げないと粉末成形体の結晶粒径は粗大化しないことがわかった。
【0127】
更に、表12から、気孔率低減工程を省略した場合には、気孔率低減工程を行う場合と比較として、Ar雰囲気下及び真空雰囲気下のいずれにおいても、粉末成形体の結晶粒径が粗大化する温度が高いことがわかった。これらのことから、粉末成形体中の気孔が結晶粒径の粗大化を妨げるピン止め因子となって、気孔率低減工程を省略する場合には、気孔率低減工程を行う場合と比較して、ピン止め効果消失温度が高温になったと推察される。このことから、結晶粒粗大化工程(ステップS3)において比較的低温の粗大化処理温度で粉末成形体の結晶粒径を粗大化させるためには、気孔率低減工程(ステップS2)を省略せずに行うことが好ましいといえる。
【0128】
また、表13を参照した表10,11から、粗大化処理温度がソリダス温度を超えると結晶組織の部分的な溶融が生じることがわかった。
【0129】
また、表13から、粉末成形体の炭素量が多い場合には、ソリダス温度が低くなることがわかった。結晶粒粗大化熱処理温度は、ピン止め効果消失温度以上、ソリダス温度以下であることから、そのウインドウを広げるためにも、粉末成形体の炭素量は少ない方が好ましいといえる。
【0130】
〔高温部品の高温特性の検証〕
高温部品の高温クリープ特性を評価するために、以下に示す方法で試験片及び比較試験片を作製し、ASTM E139に準拠してクリープラプチャー試験を行った。
【0131】
粗大化処理温度を1280℃、粗大化処理時間を12時間、粗大化処理雰囲気を10kPaのAr雰囲気とし、前述の試料作製手順で試料g1を得た。この試料g1から、標点距離12mm,幅3.2mm,厚さ1.5~2mmのサイズの試験片g1’を作製した。なお、試験片g1’の試験片形状は、ASTM E139の規格から外れている。この試験片g1’に対し、試験条件を927℃/227MPa、980℃/90MPaで変化させて、クリープラプチャー試験を行った。
【0132】
また、質量百分率で、表4に示す所定の組成であって、平均粒子径(d50)が26.9μmである合金粉末を用い、前述の試料作製手順のうち粗大化処理(ステップS3)を省略し、硬化処理(ステップS4)で1176℃で2時間の溶体化処理を施したのち925℃で16時間の時効処理を行なった点を除いて、余は同じ手順で比較試料g2を得た。比較試料g2の粉末成形体のCの含有量は0.12質量%であった。この比較試料g2から、標点距離16~20mm,Φ4mmのサイズの比較試験片g2’を作製した。この試験片g2’に対し、試験条件を927℃/227MPa,980℃/90MPa,760℃/690MPa,816℃/172MPa,927℃/90MPa,927℃/50MPaで変化させて、クリープラプチャー試験を行った。
【0133】
上記クリープラプチャー試験の結果をラーソンミラーパラメータに換算してプロットした結果が、
図6に示されている。なお、
図6では、『SUPERALLOYS II』Chester T. Sims, Norman S. Stoloff, William C. Hagel(1987年)に記載されたIn713C鋳造品の文献値も比較のために載せている。
【0134】
図6から明らかなように、試料g1の曲線とIn713C鋳造品の曲線との乖離度は、比較試料g2の曲線とIn713C鋳造品の曲線との乖離度と比較して小さい。この試験結果から、結晶粒粗大化処理によって結晶粒径が粗大化している試料g1では、結晶粒径が粗大化していない比較試料g2と比較して優れた高温クリープ強度(耐クリープ性)を備えていること、及び、その高温クリープ強度は鋳造品のそれに近い程度まで向上していることがわかる。