(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極活物質の評価方法、および非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220726BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220726BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/36 A
(21)【出願番号】P 2018019415
(22)【出願日】2018-02-06
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓真
(72)【発明者】
【氏名】金田 治輝
(72)【発明者】
【氏名】小鹿 裕希
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199891(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含む非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記正極活物質は、一般式(1):Li
dNi
1-a-b-cMn
aM
bNb
cO
2+α[ただし、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0.0003≦c≦0.03、0.95≦d≦1.2、0.33<(1-a-b-c)、0≦α≦0.4である。]で表され、
前記一次粒子の内部にニオブの少なくとも一部が固溶し、
中和滴定法により求められる、前記正極活物質を水に浸漬した際に水に溶出するリチウム量が正極活物質全体に対して0.02質量%以上0.10質量%以下である、
非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記一次粒子の内部の平均ニオブ濃度に対して、前記一次粒子内部の最大ニオブ濃度が1倍以上3倍以下である、請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記正極活物質は、リチウムとニオブを含む化合物を含有し、
前記リチウムとニオブを含む化合物が前記一次粒子の表面に存在する、請求項1又は請求項2に記載の非水系電解質二次電池用
正極活物質。
【請求項4】
X線回折パターンにおける(003)面のピークからシェラーの式よって求められる結晶子径が110nm以上200nm以下である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用
正極活物質。
【請求項5】
体積平均粒径MVが5μm以上20μm以下である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項6】
複数の一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含む非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
ニッケルマンガン複合水酸化物粒子およびニッケルマンガン複合酸化物粒子のうち少なくとも一方と、ニオブ化合物と、リチウム化合物とを混合することと、
前記混合することで得られたリチウムニオブ混合物を、焼成することと、を備え、
前記ニッケルマンガン複合水酸化物粒子および前記ニッケルマンガン複合酸化物粒子は、ニッケル、マンガン、及び、任意に元素Mを含み、それぞれの金属の原子比が、Ni:Mn:M=(1-a-b):a:b[ただし、0.05≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0.33<(1-a-b)、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素]で表され、
前記リチウムニオブ混合物は、ニオブを、リチウム以外の金属元素全体に対して、0.03原子%以上3原子%以下含み、
前記正極活物質は、前記ニオブの少なくとも一部が前記一次粒子の内部に固溶し、かつ、中和滴定法により求められる、前記正極活物質を水に浸漬した際に水に溶出するリチウム量が正極活物質全体に対して0.02質量%以上0.10質量%以下となるように調整される、
非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記リチウムニオブ混合物を酸化性雰囲気中850℃以上1000℃以下で焼成する、請求項6に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物のニオブの少なくとも一部が前記一次粒子に固溶し、かつ、前記一次粒子内部の最大ニオブ濃度が1倍以上3倍以下である、請求項6又は請求項7に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記焼成することは、X線回折パターンにおける(003)面のピークからシェラーの式よって求められる前記正極活物質の結晶子径が110nm以上200nm以下となるように行う、請求項6~請求項8のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記ニッケルマンガン複合水酸化物粒子は、ニッケルを含む塩、マンガンを含む塩、及び、任意に元素Mを含む塩を含有する反応水溶液中で、前記反応水溶液のpH及びアンモニウムイオン濃度を所定の範囲に制御して晶析することにより得られ、
前記ニッケルマンガン複合酸化物粒子は、前記晶析することで得られた前記ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を、熱処理することにより得られる、
請求項6~請求項9のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記ニオブ化合物は、ニオブ酸または酸化ニオブであり、平均粒径が0.01μm以上10μm以下である請求項6~請求項10のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記リチウム化合物は、炭酸リチウムである、請求項6~請求項11のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項13】
前記ニッケルマンガン複合酸化物粒子は、前記ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を105℃以上700℃以下の温度で熱処理して得られる、請求項6~請求項12のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項14】
一般式(1):Li
dNi
1-a-b-cMn
aM
bNb
cO
2+α[ただし、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.6、0、0≦b≦0.6、0.0003≦c≦0.03、0.95≦d≦1.2、0.33<(1-a-b-c)、0≦α≦0.4である。]で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の評価方法であって、
中和滴定法により求められる水に浸漬した際に水に溶出するリチウム量を測定することと、
前記水に溶出するリチウム量が正極活物質全体に対して0.02質量%以上0.10質量%以下である正極活物質を選択すること、を備える、
非水系電解質二次電池用正極活物質の評価方法。
【請求項15】
正極、負極、及び、非水系電解質を備え、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を前記正極に含む、非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極活物質の評価方法、および非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高い電池容量や耐久性を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、電動工具やハイブリット自動車をはじめとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池などの非水系電解質二次電池がある。非水系電解質二次電池は、負極および正極と電解液等で構成され、負極および正極の活物質として、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。さらに、非水系電解質二次電池には、高い電池容量や耐久性などに加えて、より高い熱安定性が求められている。
【0004】
非水系電解質二次電池については、現在研究開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いた非水系電解質二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
非水系電解質二次電池の正極活物質としては、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2)などのリチウム金属複合酸化物が提案されている。
【0006】
上記正極活物質中でも、近年、熱安定性に優れ、かつ、高容量であるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)が注目されている。リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物やリチウムニッケル複合酸化物などと同じく層状化合物であり、遷移金属サイトにおいてニッケルと、コバルトと、マンガンとを基本的に組成比1:1:1の割合で含む。
【0007】
一方、非水系電解質二次電池として高い性能(高サイクル特性、高容量、高出力)を有する正極を得ることを目的として、上記リチウム金属複合酸化物にニオブを添加する技術が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、一般式:LiaNi1-x-y-zCoxMyNbzOb(但し、MはMn、FeおよびAlよりなる群から選ばれる一種以上の元素、1≦a≦1.1、0.1≦x≦0.3、0≦y≦0.1、0.01≦z≦0.05、2≦b≦2.2)で示されるリチウムとニッケルとコバルトと元素Mとニオブと酸素からなる少なくとも一種以上の化合物で構成される組成物からなる非水系二次電池用正極活物質が提案されている。特許文献1によれば、粒子の表面近傍または内部に存在するLi-Nb-O系化合物が高い熱安定性を有していることから、高い熱安定性と大きな放電容量を有する正極活物質が得られるとされている。
【0009】
また、特許文献2には、Li1+xNiaMnbCocO2+d(x+a+b+c=1、0.7≦a+b、0<x≦0.1、0≦c/(a+b)<0.35、0.7≦a/b≦2.0、-0.1≦d≦0.1)で表される層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物に、ニオブの量が0.05質量%以上2.00質量%以下となるようにニオブが付与されたものを用いた正極活物質が提案されている。特許文献5によれば、このような正極活物質を用いることにより、様々な温度条件下における出力特性を向上させることができるとしている。
【0010】
また、特許文献3には、ニッケル含有水酸化物とリチウム化合物と平均粒径が0.1~10μmのニオブ化合物とを混合してリチウム混合物を得る混合工程および該リチウム混合物を酸化雰囲気中700~840℃で焼成してリチウム遷移金属複合酸化物を得る焼成工程を含む製造方法によって得られた多結晶構造の粒子で構成されたリチウム遷移金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、多孔質構造を有し、比表面積が0.9~3.0m2/gであり、リチウム以外のアルカリ金属含有量が20質量ppm以下である正極活物質が提案されている。この正極活物質は、高い熱安定性と充放電容量および優れたサイクル特性を実現するとされている。
【0011】
ところで、非水電解質二次電池の正極は、例えば、正極活物質と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダーや、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの溶剤とを混合して正極ペーストにし、アルミ箔などの集電体に塗布することで形成される。このとき、正極ペースト中の正極活物質からリチウムが遊離した場合、バインダーなどに含まれる水分と反応し水酸化リチウムが生成することがある。この生成した水酸化リチウムとバインダーとが反応し、正極ペーストがゲル化を起こすことがある。正極ペーストのゲル化は、操作性の悪さ、歩留まりの悪化を招く。この傾向は、正極活物質におけるリチウムが化学量論比よりも過剰で、且つニッケルの割合が高い場合に顕著となる。
【0012】
正極ペーストのゲル化を抑制する試みがいくつかなされている。例えば、特許文献4には、リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質と、酸性酸化物粒子からなる添加粒子とを含む非水電解液二次電池用正極組成物が提案されている。この正極組成物は、バインダーに含まれる水分と反応して生成した水酸化リチウムが酸性酸化物と優先的に反応し、生成した水酸化リチウムとバインダーとの反応を抑制し、正極合材ペーストのゲル化を抑制するとしている。また、酸性酸化物は、正極内で導電材としての役割を果たし、正極全体の抵抗を下げ、電池の出力特性向上に寄与するとしている。
【0013】
また、特許文献5には、リチウムイオン二次電池製造方法であって、正極活物質として、組成外にLiOHを含むリチウム遷移金属酸化物を用意すること;正極活物質1g当たりに含まれるLiOHのモル量Pを把握すること;LiOHのモル量Pに対して、LiOH1モル当たり、タングステン原子換算で0.05モル以上の酸化タングステンを用意すること;および、正極活物質と酸化タングステンとを、導電材および結着剤とともに有機溶媒で混練して正極ペーストを調製すること;を包含する、リチウムイオン二次電池製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2002-151071号公報
【文献】特開2011-070789号公報
【文献】特開2015-122298号公報
【文献】特開2012-028313号公報
【文献】特開2013-084395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記特許文献1~3に記載される正極活物質は、いずれも電池特性に対して改善はみられるものの、さらなる電池特性の向上が要求されている。また、特許文献1には、ニオブは、粒子表面の近傍にLi-Nb-O系化合物として存在すること、特許文献2には、リチウム含有遷移金属の少なくとも表面、又は、内部にニオブを含有することが記載されるが、電池特性を安定して向上させるためには、正極活物質内において、ニオブがより均一に分布することが望ましい。
【0016】
また、上記特許文献4、5の正極活物には、正極ペーストの粘度上昇の抑制できることが記載されているが、ニオブを含有する正極活物質における正極ペーストのゲル化抑制の効果については記載されていない。なお、特許文献1~3にも、正極ペーストのゲル化抑制へのニオブの効果については一切、記載されていない。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑み、高い電池特性を有し、かつ、正極作製時の正極ペーストのゲル化が抑制される正極活物質を提供することを目的とする。また、本発明は、このような正極活物質を、工業規模の生産において容易に、低コストで製造することができる方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、ニオブを含有する正極活物質であって、正極ペーストのゲル化が抑制され、かつ、高い電池容量を有する二次電池を安定して得ることができる正極活物質を簡便に選択することができる正極活物質の評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、特定量のマンガンを含むリチウムニッケルマンガン複合酸化物に、特定量のニオブを添加することにより、得られる正極活物質の溶出リチウム量を低減し、電池容量の向上と、正極ペーストのゲル化の抑制との両立が可能であるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0019】
本発明の第1の態様では、複数の一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含む非水系電解質二次電池用正極活物質であって、正極活物質は、一般式(1):LidNi1-a-b-cMnaMbNbcO2+α[ただし、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0.0003≦c≦0.03、0.95≦d≦1.2、0.33<(1-a-b-c)、0≦α≦0.4である。]で表され、一次粒子の内部にニオブの少なくとも一部が固溶し、中和滴定法により求められる、前記正極活物質を水に浸漬した際に水に溶出するリチウム量が正極活物質全体に対して0.02質量%以上0.10質量%以下である、非水系電解質二次電池用正極活物質が提供される。
【0020】
また、一次粒子の内部の平均ニオブ濃度に対して、一次粒子内部の最大ニオブ濃度が1倍以上3倍以下であることが好ましい。また、上記正極活物質は、リチウムとニオブを含む化合物を含有し、リチウムとニオブを含む化合物が前記一次粒子の表面に存在することが好ましい。また、X線回折パターンにおける(003)面のピークからシェラーの式よって求められる結晶子径が110nm以上200nm以下であることが好ましい。また、体積平均粒径MVが5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の第2の態様では、複数の一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含む非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子およびニッケルマンガン複合酸化物粒子のうち少なくとも一方と、ニオブ化合物と、リチウム化合物とを混合することと、混合することで得られたリチウムニオブ混合物を、焼成することと、を備え、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子および前記ニッケルマンガン複合酸化物粒子は、ニッケル、マンガン、及び、任意に元素Mを含み、それぞれの金属の原子比が、Ni:Mn:M=(1-a-b):a:b[ただし、0.05≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0.33<(1-a-b)、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素]で表され、リチウムニオブ混合物は、ニオブを、リチウム以外の金属元素全体に対して、0.03原子%3原子%以下含み、上記正極活物質は、ニオブの少なくとも一部が一次粒子の内部に固溶し、かつ、中和滴定法により求められる、正極活物質を水に浸漬した際に水に溶出するリチウム量が正極活物質全体に対して0.02質量%以上0.10質量%以下となるように調整される、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0022】
また、上記正極活物質の製造方法は、リチウムニオブ混合物を酸化性雰囲気中850℃以上1000℃以下で焼成することが好ましい。また、リチウムニッケルマンガン複合酸化物のニオブの少なくとも一部が前記一次粒子に固溶し、かつ、前記一次粒子内部の最大ニオブ濃度が1倍以上3倍以下であることが好ましい。また、焼成することは、X線回折パターンにおける(003)面のピークからシェラーの式よって求められる前記正極活物質の結晶子径が110nm以上200nm以下となるように行うことが好ましい。また、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子は、ニッケルを含む塩、マンガンを含む塩、及び、任意に元素Mを含む塩を含有する反応水溶液中で、反応水溶液のpH及びアンモニウムイオン濃度を所定の範囲に制御して晶析することにより得られ、ニッケルマンガン複合酸化物粒子は、前記晶析することで得られた前記ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を、熱処理することにより得られることが好ましい。また、ニオブ化合物は、ニオブ酸または酸化ニオブであり、平均粒径が0.01μm以上10μm以下であることが好ましい。また、リチウム化合物は、炭酸リチウムであることが好ましい。また、ニッケルマンガン複合酸化物粒子は、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を105℃以上700℃以下の温度で熱処理して得られることが好ましい。
【0023】
本発明の第3の態様では、一般式(1):LidNi1-a-b-cMnaMbNbcO2+α[ただし、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.6、0、0≦b≦0.6、0.0003≦c≦0.03、0.95≦d≦1.2、0.33<(1-a-b-c)、0≦α≦0.4である。]で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の評価方法であって、中和滴定法により求められる水に浸漬した際に水に溶出するリチウム量を測定することと、水に溶出するリチウム量が正極活物質全体に対して0.02質量%以上0.10質量%以下である正極活物質を選択すること、を備える、非水系電解質二次電池用正極活物質の評価方法が提供される。
【0024】
本発明の第4の態様では、正極、負極、及び、非水系電解質を備え、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を正極に含む、非水系電解質二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の正極活物質は、正極作製時の正極ペーストのゲル化が抑制され、かつ、二次電池において高い電池特性を有することができる。また、本発明の正極活物質は、正極作成時の取り扱いが容易であるため、歩留まりを改善することができる。また、本発明の正極活物質の製造方法は、このような正極活物質を、工業規模の生産において容易に、低コストで製造することができる。さらに、本発明の正極活物質の評価方法は、ニオブを含有する正極活物質であって、正極ペースト作製時のゲル化が抑制され、かつ、高い電池容量を有する二次電池を得ることができる正極活物質を簡便に選択することができる。
【0026】
また、非水系電解質二次電池用正極活物質の評価方法は、正極ペーストのゲル化が抑制され、かつ、高い電池容量を有する正極活物質を簡便に選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本実施形態の正極活物質の製造方法の一例を示した図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の正極活物質の製造方法の一例を示した図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の正極活物質の評価方法の一例を示した図である。
【
図4】
図4は、電池評価に使用したコイン型電池の概略図である。
【
図5】
図5は、実施例及び比較例のXRD測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の本実施形態を説明する。なお、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造または形状、縮尺等が異なっている場合がある。
【0029】
1.非水系電解質二次電池用正極活物質
本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」ともいう。)は、多結晶構造の粒子で構成され、複数の一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(以下、「リチウム金属複合酸化物」ともいう。)を含有する。また、正極活物質は、一次粒子の内部にニオブの少なくとも一部が固溶し、中和滴定法により求められる、正極活物質を水に浸漬した際に水に溶出するリチウム量(以下、「溶出リチウム量」ともいう。)が正極活物質全体に対して0.02質量%以上0.10質量%以下である。
【0030】
本実施形態に係る正極活物質は、特定量のマンガン及びニオブを含み、かつ、溶出リチウム量を上記範囲とすることにより、正極ペーストのゲル化を抑制と、二次電池の正極における優れた電池特性(高い充放電容量、優れた出力特性、熱安定性など)とを両立できる。
【0031】
[正極活物質の組成]
正極活物質は、一般式(1):LidNi1-a-b-cMnaMbNbcO2+α(ただし、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0.0003≦c≦0.03、0.95≦d≦1.20、0.33<(1-a-b-c)、0≦α≦0.4である。)で表される。
【0032】
(Mn)
上記一般式(1)において、Mnの含有量を示すaの範囲は、0.05≦a≦0.6、好ましくは0.10≦a≦0.55、より好ましくは0.10<a≦0.50、さらに好ましくは0.12≦a≦0.45である。である。aの値が上記範囲である場合、優れた出力特性、高いエネルギー密度が得られ、さらに熱安定性も高いものとすることができる。一方、aの値が0.05未満である場合、熱安定性の改善効果が得られず、aの値が0.6を超える場合、出力特性やエネルギー密度が低下する。また、本実施形態の正極活物質では、後述するNbとあわせて、Mnを上記範囲で含有することにより、正極抵抗を低減し、非常に高い出力特性を有する二次電池を得ることができる。
【0033】
(元素M)
前記一般式(1)において、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaの中から選択される少なくとも1種の元素である。Mの含有量示すbの範囲は、0≦b≦0.6であり、bの値が0を超える場合、熱安定性や保存特性改善及び電池特性等を改善することができる。例えば、MがCoを含む場合、電池容量及び出力特性により優れる。MがCoの場合、好ましくは0.05≦b≦0.5、より好ましくは0.1≦b≦0.4である。
【0034】
(Nb)
上記一般式(1)において、Nbの含有量を示すcの範囲は、0.0003≦c≦0.03である。cの値が上記範囲である場合、二次電池の正極に用いた際、高い電池容量を得ることができる。また、Nbを上記範囲で含み、かつ、正極活物質の溶出リチウム量を後述する特定の範囲とすることにより、一次粒子内部、及び/又は表面に存在するニオブの分布をより均一なものとし、正極ペーストのゲル化の抑制と高い電池特性とを両立することができる。また、リチウムの原料として、炭酸リチウムを用いた場合、正極活物質の溶出リチウム量を低減するとともに、残留カーボンも低減することができる。一方、cの値が0.0003未満である場合、溶出リチウム量や、残留カーボンの低減効果が得られない。また、cの値が0.03を超える場合、ニオブ化合物の偏析が起こりやすくなり、出力特性と電池容量が低下することがある。
【0035】
また、ニオブの分布をより均一なものとし、高い電池特性を有する正極活物質を得るという観点から、cの範囲は、0.0005≦c≦0.025とすることが好ましく、0.001≦c≦0.02とすることがより好ましい。
【0036】
なお、例えば、上記一般式(1)において、cの値が、0.005を超える場合、後述する正極活物質の製造方法を用いることにより、一次粒子の内部にニオブを固溶させるだけでなく、一次粒子の表面にリチウムニオブ化合物を形成させることができる。しかし、同量のニオブを含む場合においても、製造時の条件の変動により、一次粒子の表面にリチウムニオブ化合物が過剰に形成されたり、不均一に形成されたりすることがある。このような場合、期待される電池特性や、正極ペーストのゲル化抑制の効果が得られない。そこで、正極活物質の溶出リチウム量を適切な範囲に制御することにより、一次粒子の表面に、より好適な量及び分布でリチウムニオブ化合物を形成されることができる。よって、ニオブの含有量を示すcの範囲が、特に、0.005<c<0.02である場合、正極活物質の溶出リチウム量を特定の範囲に制御することにより、より電池特性に優れた二次電池を容易に安定して得ることができる。
【0037】
(Ni)
上記一般式(1)において、Niの含有量を示す(1-a-b-c)の範囲は、0.33<(1-a-b-c)である。通常、Niの含有量が多いほど、得られる二次電池の電池容量(初期充放電容量)を向上させることができるものの、正極作製時の正極ペーストのゲル化が生じやすくなる傾向がある。本実施形態の正極活物質は、例えば、ニッケルの含有量が、上記一般式において、0.5≦(1-a-b-c)である場合や、0.55≦(1-a-b-c)である場合においても、ニオブを特定の範囲で含有し、かつ、溶出リチウム量を特定の範囲に制御することにより、正極ペーストのゲル化を抑制し、かつ、電池特性を向上させることができる。
【0038】
(Li)
上記一般式(1)において、Liの含有量を示すdの範囲は、0.95≦d≦1.2である。通常、Liの含有量が多いほど、正極を作製する際の正極ペーストのゲル化が生じやすくなる傾向がある。本実施形態の正極活物質は、例えば、Liの含有量が、上記一般式(1)において、1.0<d≦1.2である場合においても、ニオブを特定の範囲で含有し、かつ、溶出リチウム量を特定の範囲に制御することにより、電池特性を向上させつつ、かつ、正極ペーストのゲル化を抑制することができる。
【0039】
[溶出リチウム量]
本発明者らは、ニオブを特定の量で含む正極活物質において、正極活物質の溶出リチウム量を特定の範囲に調整することにより、詳細は不明であるが、一次粒子内部、及び/又は表面に存在するニオブの分布をより均一なものとし、正極ペーストのゲル化を抑制し、かつ、電池特性を向上させることができるとの知見を得て本発明を完成させた。
【0040】
本実施形態の正極活物質は、溶出リチウム量が正極活物質全体に対して0.02質量%以上0.10質量%以下であり、好ましくは0.04質量%以上0.08質量%以下である。溶出リチウム量が上記範囲である場合、正極ペーストのゲル化を非常に抑制し、かつ、電池特性に優れた二次電池を得ることができる。また、溶出リチウム量が0.10質量%を超える場合、正極活物質中の余剰リチウムが多い状態となり、ペーストのゲル化を抑制することが難しい。一方、溶出リチウム量が0.02質量%未満である場合、電池特性が悪化することがある。
【0041】
また、例えば、上記一般式(1)において、リチウムの含有量を示すdが1を超え、かつ、ニッケルの含有量の範囲が0.5≦(1-a-b-c)である場合、溶出リチウム量は、0.05質量%以上0.10質量%以下としてもよい。また、例えば、リチウムの含有量を示すdが1を超え、かつ、(1-a-b-c)の範囲が0.55≦(1-a-b-c)である場合、溶出リチウム量は、0.06質量%以上0.10質量%以下としてもよい。ニッケルの含有量及び溶出リチウム量が上記範囲である場合、正極ペーストのゲル化を非常に抑制し、かつ、電池特性に優れた二次電池を得ることができる。
【0042】
なお、溶出リチウム量は、正極活物質を5g分取して25℃の純水100ml中に投入し、浸漬して30分撹拌後濾過して、濾液をHCl水溶液を用いて中和滴定して、純水中に溶出したリチウム量(正極活物質全量に対する質量%)を算出することにより求めることができる。
【0043】
正極活物質の溶出リチウム量は、後述するように、正極活物質の製造工程において、マンガンとニオブとを特定の範囲で含有させ、かつ、晶析工程(ステップS10)において、反応溶液中の溶存酸素濃度や反応溶液の温度等を調整したり、焼成工程(ステップS30)において、焼成温度等を調整したり、仮焼工程(ステップS25)を追加したりすることにより、上記範囲に制御することができる。
【0044】
なお、溶出リチウムは、原料として用いられたリチウム化合物の残留物(未反応のリチウム化合物)や、正極活物質の結晶中に存在するリチウムなどの余剰リチウムに由来すると考えられる。
【0045】
[ニオブの存在形態]
本実施形態に係る正極活物質は、ニオブを含有し、ニオブの少なくとも一部が一次粒子に固溶する。正極活物質にニオブが含まれる場合、正極活物質の溶出リチウム量を低減することができる。この理由の詳細は不明であるが、以下の現象が推察される。すなわち、ニオブ(通常、5価)は正極活物質中に含まれるニッケルと比較すると価数の高い元素であり、高い価数の元素が正極活物質の製造時、特に焼成工程(ステップS30)に存在することにより、前駆体粒子(ニッケル複合水酸化物粒子、ニッケル複合酸化物粒子など)とリチウム化合物とが焼結反応する際に、ニッケルの価数高くする必要がニオブの未添加品と比べると低減される。これに伴い、リチウム化合物の反応が進行しやすくなり、未反応のリチウム化合物の残留量が低減され、溶出リチウム量も低減すると考えられる。
【0046】
特にリチウム化合物として、炭酸リチウムを用いた場合、水酸化リチウムと比較して融点が高いことから、焼成工程後に未反応のリチウム化合物として残留しやすい傾向がある。しかし、本実施形態に係る正極活物質では、ニオブの含有により、焼成時の炭酸リチウムの反応を促進させ、最終的に、未反応の炭酸リチウムの残留量を低減し、溶出リチウム量の低減とともに、不純物である残留カーボンの含有量も低減することができると考えられる。
【0047】
また、ニオブの少なくとも一部が一次粒子に固溶する場合、正極活物質を二次電池に用いた際の熱安定性の向上と正極抵抗の低下という効果を得ることができる。なお、一次粒子にニオブが固溶するとは、例えば、ICP発光分析法により、ニオブが検出され、かつ、走査型透過電子顕微鏡(S-TEM)におけるEDXを用いた一次粒子断面の面分析により、ニオブが一次粒子内に検出される状態をいい、後述するようにニオブが一次粒子内の全体にわたって検出されることが好ましい。
【0048】
[一次粒子内のニオブ濃度]
本実施形態の正極活物質は、一次粒子の内部の平均ニオブ濃度に対して、一次粒子内部の最大ニオブ濃度(最大ニオブ濃度/平均ニオブ濃度)が1倍以上3倍以下であることが好ましい。最大ニオブ濃度/平均ニオブ濃度が上記範囲を超える場合、一次粒子内のニオブ濃度の変動が大きくなり、正極活物質全体として、電池特性等が低下することがある。また、より高い効果を得るためには、一次粒子内で極度にニオブ濃度が低い部分の存在を抑制することが好ましく、一次粒子内での最小ニオブ濃度が、該一次粒子内の平均ニオブ濃度に対して、50%以上であることが好ましい。
【0049】
一次粒子内のニオブ濃度の変動は、走査型透過電子顕微鏡(S-TEM)のEDX測定により、一次粒子断面の組成を線分析することにより確認することができる。一次粒子内の平均ニオブ濃度に対する、最大ニオブ濃度(最大ニオブ濃度/平均ニオブ濃度)は、例えば、複数の二次粒子から任意に20個以上の一次粒子を選択し、個々の一次粒子の断面内をS-TEMのEDXにより組成を線分析することにより得ることができる。線分析の方向は、一次粒子断面の最大長となる方向で行うことが好ましいが、後述のニオブ化合物の影響を排除する場合などにおいては、最大長の50%以上の長さで分析できる方向で行ってもよい。線分析によって得られた個々の一次粒子のニオブ濃度の計測値から、最大ニオブ濃度と一次粒子内の平均ニオブ濃度を求め、個々の一次粒子の最大ニオブ濃度の比(最大ニオブ濃度/平均ニオブ濃度)をそれぞれ算出する。さらに個々の一次粒子から算出される最大ニオブ濃度の比の値を個数平均することにより、一次粒子内の最大ニオブ濃度の比を求めることができる。なお、ニオブ濃度の変動は、一次粒子内での値であることから、事前の面分析などにより一次粒子の表面のニオブ化合物が確認された場合には、そのニオブ化合物の存在により一次粒子の表面付近のニオブ濃度の計測値が影響されない位置でEDXによる線分析してニオブ濃度の変動を計測する。また、最小ニオブ濃度は、上記と同様に、複数の二次粒子から任意に20個以上の一次粒子を選択し、個々の一次粒子の断面内をS-TEMのEDXにより組成を線分析することにより得ることができ、複数の一次粒子から算出される[(最小ニオブ濃度/平均ニオブ濃度)×100](%)の値を個数平均することにより求めることができる。
【0050】
[リチウムニオブ化合物]
本実施形態に係る正極活物質は、上述したように一次粒子内部にニオブが固溶し、かつ、一次粒子の表面にリチウムとニオブを含む化合物(以下、「リチウムニオブ化合物」ともいう。)が存在してもよい。
【0051】
リチウムニオブ化合物は、リチウムイオン伝導率が高く、リチウムイオンの移動を促す効果があると考えられ、一次粒子表面に形成されたリチウムニオブ化合物は、電解液と一次粒子との界面でLiの伝導パスを形成することができる。これにより、得られる二次電池の正極抵抗を低減して、出力特性を向上させると考えられる。
【0052】
リチウムニオブ化合物としては、特に限定されないが、LiNbO3、LiNb3O8、Li3NbO4から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Li3NbO4であることがより好ましい。
【0053】
なお、リチウムニオブ化合物は、リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面をすべて被覆する必要はなく、少なくとも該一次粒子の表面の一部に存在していれば、正極抵抗の低減効果が得られる。さらに、リチウムニオブ化合物は、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面と固着していることが好ましい。
【0054】
なお、本明細書における一次粒子の表面とは、二次粒子の外面で露出している一次粒子の表面と二次粒子外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している一次粒子の表面を含むものである。さらに、一次粒子間の粒界であっても一次粒子の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば含まれるものである。
【0055】
一次粒子表面に存在するリチウムニオブ化合物は、後述する焼成工程(ステップS30)において、ニオブ原料として用いたニオブ化合物と、リチウム原料として用いたリチウム化合物とが反応することにより形成される。このリチウムニオブ化合物を形成する反応も、溶出リチウム量の低減に寄与していると推察される。また、上述したように、リチウム化合物として炭酸リチウムを用いた場合、さらに残留カーボンの含有量を低減することができる。
【0056】
リチウムニオブ化合物は、結晶とアモルファスの共存状態、あるいはアモルファスの状態で存在していてもよい。一方、リチウムニオブ化合物が結晶状態で存在する場合、存在量の増加とともにX線回折(XRD)測定で存在を確認することができる。
【0057】
なお、リチウムニオブ化合物は、いずれの存在形態であっても、その形成過程においてリチウム化合物との反応を必要とするため、ニオブを添加しない正極活物質と比較すると、相対的に焼成時の反応促進しているものと推察され、少なくとも一次粒子表面の一部に存在することで、正極活物質の溶出リチウム量の低減効果が得られる。また、リチウム化合物として、炭酸リチウムを用いた場合、残留カーボンの低減効果も得られる。
【0058】
また、リチウムニオブ化合物の存在は、正極活物質の溶出リチウム量を測定することにより、間接的に評価することができる。例えば、リチウム溶出量が、ニオブを添加しない以外は同様の条件で製造された正極活物質と比較して、例えば、0.03質量%以上、好ましくは0.05質量%以上低減されている場合、リチウムニオブ化合物の形成が推定できる。
【0059】
[(003)面の結晶子径]
正極活物質は、(003)面の結晶子径が好ましくは110nm以上200nm以下であり、より好ましくは120nm以上190nm以下であり、さらに好ましくは130nm以上180nm以下である。また、(003)面の結晶子径が上記範囲である場合、正極活物質の溶出リチウム量を上記範囲に調整することが容易となる。なお、(003)面の結晶子径は、焼成工程(ステップS30)において、焼成温度等を調整することにより、上記範囲とすることができる。なお、(003)面の結晶子径は、X線回折パターンにおける(003)面のピークからシェラーの式よって求められる結晶子径である。
【0060】
(平均粒径)
正極活物質は、平均粒径が3μm以上20μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であるのがより好ましく、5μm以上15μm以下であることがさらに好ましい。平均粒径が上記範囲である場合、正極活物質を二次電池の正極に用いた際、高い出力特性および電池容量と、正極への高い充填性とを両立させることができる。正極活物質の平均粒径が3μm未満になると、正極への高い充填性が得られないことがあり、平均粒径が20μmを超えると、高い出力特性や電池容量が得られないことがある。なお、平均粒径は、体積平均粒径MVをいい、例えば、レーザー光回折散乱式粒度分布計により測定される体積積算値から求めることができる。
【0061】
2.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
図1~
図2は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、「正極活物質の製造方法」ともいう。)の一例を示す図である。
図1に示すように、正極活物質の製造方法は、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子およびニッケルマンガン複合酸化物粒子のうち少なくとも一方の粒子(以下、「前駆体粒子」ともいう。)と、ニオブ化合物と、リチウム化合物とを混合すること(ステップS20)と、混合することで得られたリチウムニオブ混合物を、焼成すること(ステップS30)と、を備える。本実施形態に係る正極活物質の製造方法により、上述した正極活物質を容易に製造することができる。
【0062】
本実施形態に係る正極活物質の製造方法は、後述するように、得られる正極活物質を水に浸漬した際に水に溶出するリチウム量(以下、「溶出リチウム量」ともいう。)が特定の量となるように調整することにより、一次粒子内部、及び/又は、一次粒子の表面にニオブが均一に分布した正極活物質を得ることができる。さらに、本実施形態に係る正極活物質の製造方法は、ニオブ以外の元素についても、一次粒子内部により均一に分布させるという観点から、
図2に示すように、前駆体粒子を晶析すること(ステップS10)により製造することが好ましい。
【0063】
本実施形態に係る製造方法により得られる正極活物質は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(以下、「リチウム金属複合酸化物」ともいう。)を含み、ニオブの少なくとも一部がリチウム金属複合酸化物の一次粒子の内部に固溶する。この正極活物質は、例えば、一般式(1):Li
dNi
1-a-b-cMn
aM
bNb
cO
2+α[ただし、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0.0003≦c≦0.03、0.95≦d≦1.2、0.33<(1-a-b-c)、0≦α≦0.4である。]で表される。以下、
図1~
図2を参照して、本実施形態の製造方法に用いられる各工程の一例について説明をする。なお、以下の説明は、製造方法の一例であって、製造方法を限定するものではない。
【0064】
[晶析工程(ステップS10)]
まず、ニッケルを含む塩(ニッケル塩)、マンガンを含む塩(マンガン塩)、及び、任意に元素Mを含む塩(元素M塩)を含有する反応水溶液中で、反応水溶液のpH及びアンモニウムイオン濃度を所定の範囲に制御して晶析すること(ステップS10)により、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子(以下、「ニッケル複合水酸化物」ともいう。)を得る。
【0065】
晶析工程(ステップS10)により得られたニッケル複合水酸化物は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子から主に構成され、この一次粒子の内部にマンガンを均一に含むことにより、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物(正極活物質)の一次粒子内でもマンガンが均一に分布し、この正極活物質を用いた二次電池は、高い熱安定性や導電率の低下という効果を得ることができる。また、ニッケル複合水酸化物の一次粒子内にマンガンが含有されることで、後述する焼成工程(ステップS30)における焼成温度を高くすることが可能となり、ニオブをリチウム金属複合酸化物(正極活物質)の一次粒子に均一に固溶することができる。
【0066】
なお、前駆体粒子(ニッケル複合水酸化物、及び/又は、ニッケル複合酸化物)以外の原料を、正極活物質の前駆体として用いた場合、例えば、ニッケル水酸化物などのニッケルを含む化合物(ニッケル化合物)とマンガンを含む化合物(マンガン化合物)とを混合して得られた混合物や、ニッケル化合物にマンガン化合物を被覆した粒子を、リチウム化合物と混合して焼成した場合、得られる正極活物質中のマンガンの分布が不均一となって、上記効果が十分に得られないことがある。
【0067】
(ニッケル複合水酸化物粒子の組成)
ニッケル複合水酸化物粒子は、ニッケル、マンガン、及び、任意に元素Mを含み、それぞれの元素の原子比(2)が、Ni:Mn:M=(1-a-b):a:b[ただし、0.05≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0.33<(1-a-b)、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素]で表される。
【0068】
ニッケル複合水酸化物粒子は、例えば、一般式(2):Ni1-a-bMnaMb(OH)2+β(ただし、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0.33<1-a-b、0≦β≦0.4)で表されてもよい。
【0069】
なお、ニッケル複合水酸化物粒子は、上記一般式(2)の元素比(「元素比(2)」ともいう)を有すれば、晶析工程(ステップS10)以外の方法で製造することもできるが、正極活物質に含まれる金属元素の分布をより均一なものとし、溶出リチウム量を所望の範囲に容易に制御するという観点から、晶析工程(ステップS10)により得ることが好ましい。
【0070】
晶析工程(ステップS10)は、上記元素比(2)で表されるニッケル複合水酸化物粒子が得られる方法であれば、特に限定されないが、以下の方法を好適に用いることができる。まず、ニッケル塩、マンガン塩、及び、任意に元素M塩を含む混合水溶液に、アルカリ水溶液を加えて反応水溶液とする。次に、反応水溶液を一定速度にて撹拌して、反応水溶液のpH及び温度を一定の範囲に制御することにより、反応水溶液中にニッケル複合水酸化物粒子を共沈殿させ、晶析させる。以下、晶析工程に用いられる各材料、及び、好適な晶析条件について説明する。
【0071】
(混合水溶液)
硝酸塩溶液、塩化物溶液を用いる。混合水溶液に含まれる金属元素の組成と得られるニッケル含有水酸化物に含まれる金属元素の組成は一致する。したがって、目的とするニッケル複合水酸化物の金属元素の組成と同じになるように混合水溶液の金属元素の組成を調製することができる。
【0072】
(アルカリ水溶液)
アルカリ水溶液は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いる。
【0073】
(錯化剤)
アルカリ水溶液と併せて、錯化剤を混合水溶液に添加してもよい。錯化剤は、特に限定されず、水溶液中でニッケルイオンやその他金属イオンと結合して錯体を形成可能なものであればよく、例えば、アンモニウムイオン供給体が挙げられる。アンモニウムイオン供給体としては、とくに限定されないが、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどを使用することができる。
【0074】
(反応水溶液の温度及びpH)
なお、晶析工程(ステップS10)では、上記したアンモニウムイオン供給体などの錯化剤を使用しなくてもよい。すなわち、晶析工程では、アンモニウムイオン濃度を所定の範囲に制御しなくてもよい。錯化剤を使用しない場合、反応水溶液の温度を、60℃を越えて80℃以下の範囲とすることが好ましく、かつ、反応水溶液の温度でのpHが10以上pH12以下(25℃基準)であることが好ましい。
【0075】
反応槽(反応水溶液)のpHが12を超えて晶析する場合、ニッケル複合水酸化物が細かい粒子となり、濾過性も悪くなり、球状粒子が得られない場合がある。一方、pHが10よりも小さいとニッケル複合水酸化物粒子の生成速度が著しく遅くなり、濾液中にNiが残留し、Niの沈殿量が目的組成からずれて目的の比率の混合水酸化物が得られなくなることがある。
【0076】
また、反応水溶液の温度が60℃超である場合、Niの溶解度が上がり、Niの沈殿量が目的組成からずれ、共沈にならない現象を回避できる。一方、前記反応水溶液の温度が80℃を越える場合、水の蒸発量が多いためにスラリー濃度が高くなり、Niの溶解度が低下する上、濾液中に硫酸ナトリウム等の結晶が発生し、不純物濃度が上昇する等、正極活物質の充放電容量が低下する可能性が生じる。
【0077】
一方、アンモニアなどのアンモニウムイオン供給体を錯化剤として使用する場合、Niの溶解度が上昇するため、反応水溶液のpH10以上pH13以下であることが好ましく、温度が30℃以上60℃以下であることが好ましい。
【0078】
なお、上記のpH及び温度は、得られるニッケル複合水酸化物粒子の組成を均一にするという観点から一定値とすることが好ましい。例えば、pHの変動幅は、±0.4以内とすることが好ましく、±0.3以内とすることがより好ましい。pHの変動幅が大きい場合には、晶析反応が一定とならず、均一な組成をニッケル複合水酸化物粒子が得られない場合がある。
【0079】
(アンモニウムイオン濃度)
反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、好ましくは3g/L以上25g/L以下の範囲内で一定値に保持する。アンモニウムイオン濃度が3g/L未満である場合、金属イオンの溶解度を一定に保持することができないため、形状及び粒径が整った板状の水酸化物一次粒子が形成されず、ゲル状の核が生成しやすいため粒度分布も広がりやすい。一方、アンモニウムイオン濃度が25g/Lを越える場合、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎ、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増えて、組成のずれなどが起きやすくなる。
【0080】
また、アンモニウムイオン濃度が変動する場合、金属イオンの溶解度が変動し、均一な組成を有するニッケル複合水酸化物粒子が形成されないため、一定値に保持することが好ましい。例えば、アンモニウムイオン濃度は、上限と下限の幅を5g/L程度として所望の濃度に保持することが好ましい。
【0081】
(溶存酸素濃度)
反応水溶液中の溶存酸素濃度は、0.2mg/L以上8.0mg/L以下の範囲に調整することが好ましい。溶存酸素濃度を上記の範囲に制御することで、正極活物質の前駆体として好適なニッケル複合水酸化物粒子を得ることができる。なお、晶析工程(ステップS10)中、溶存酸素濃度は、得られるニッケル複合水酸化物粒子の組成を均一にするという観点から一定の範囲となるように制御することが好ましい。溶存酸素濃度の変動幅は、例えば、±0.2mg/L以内とすることが好ましく、±0.1mg/L以内とすることがより好ましい。
【0082】
なお、溶存酸素濃度は、ウインクラー法(化学分析法)、隔膜透過法(電気化学測定法)、蛍光測定法などの方法により測定できる。なお、反応水溶液中の溶存酸素濃度は、例えば、不活性ガス(例えば、N2ガスやArガスなど)などのガスを反応槽内に導入し、これらのガスの流量や組成を制御することにより調整できる。なお、これらのガスは反応槽内空間に流してもよいし、反応水溶液中に吹き込んでもよい。また、反応水溶液を、攪拌羽根などの攪拌装置を用いて、後述する範囲内の動力で適度に攪拌することにより、反応水溶液全体の溶存酸素濃度をより均一にすることが好ましい。
【0083】
(晶析物の濾過、水洗)
そして定常状態になった後に晶析物(沈殿物)を採取し、濾過、水洗してニッケル複合水酸化物粒子を得る。あるいは、混合水溶液とアルカリ水溶液、場合によってはアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を連続的に供給して反応槽からオーバーフローさせて沈殿物を採取し、濾過、水洗してニッケルマンガン複合水酸化物粒子を得ることもできる。
【0084】
(元素Mの添加)
ニッケル複合水酸化物粒子が、元素M(Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選ばれる少なくとも1種の元素)を含む場合、元素Mを配合する方法としては、晶析工程の生産性を高める観点から、上記ニッケルとマンガンを含む混合水溶液に元素Mを含む水溶液を添加し、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子(元素Mを含む)を共沈させる方法が好ましい。
【0085】
元素Mを含む水溶液としては、たとえば、硫酸コバルト、タングステン酸ナトリウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、硫化モリブデン、五酸化バナジウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、水酸化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩化クロム、タンタル酸ナトリウム、タンタル酸などを含む水溶液を用いることができる。
【0086】
元素Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaの中から選択される少なくとも1種の元素であり、熱安定性や保存特性改善及び電池特性等を改善するために任意に添加することができる。
【0087】
また、晶析条件を最適化して組成比の制御を容易にするため、少なくともニッケルとマンガンを含む混合水溶液に、アルカリ水溶液を加えて晶析させた後、元素Mを被覆する被覆工程を設けてもよい。
【0088】
被覆方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、例えば、1)ニッケル及びマンガンを含む混合水溶液(ただし、元素Mを除く)にアルカリ水溶液を加えて晶析させたニッケル含有水酸化物に、元素Mを被覆する方法、または、2)ニッケル、マンガン及び元素Mの一部を含む混合水溶液を作製し、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子(元素Mを含む)を共沈させ、さらに共沈物に元素Mを被覆してMの含有量を調整する方法が挙げられる。
【0089】
元素Mの被覆方法の一例について以下に説明する。まず、晶析により得られた複合水酸化物粒子を純水に分散させ、スラリーとする。次いで、このスラリーに狙いの被覆量見合いのMを含有する溶液を混合し、所定のpHになるように酸を滴下し、調整する。酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸などが用いられる。次いで、スラリーを所定の時間混合した後、スラリーの濾過及び残渣の乾燥を行い、元素Mが被覆された複合水酸化物粒子を得ることができる。なお、他の被覆方法としては、Mを含む化合物を含有する溶液を複合水酸化物粒子に噴霧した後乾燥させるスプレードライ法、Mを含む化合物を含有する溶液を複合水酸化物粒子に含浸させる方法などが挙げられる。
【0090】
なお、晶析工程(ステップS10)は、バッチ方式による晶析法を用いてもよく、連続晶析法を用いてもよい。例えば、バッチ方式による晶析法の場合、反応槽内の反応水溶液が定常状態になった後に沈殿物を採取し、濾過、水洗してニッケル複合水酸化物粒子を得ることができる。また、連続晶析法の場合、混合水溶液とアルカリ水溶液、場合によってはアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を連続的に供給して反応槽からオーバーフローさせて沈殿物を採取し、濾過、水洗して複合水酸化物粒子を得ることができる。
【0091】
[熱処理工程(ステップS11)]
なお本実施形態の製造方法は、後述する混合工程(ステップS20)の前に、ニッケル複合水酸化物粒子を熱処理する工程(ステップS11)を備えてもよい(
図2参照)。熱処理により、ニッケル複合水酸化物粒子に含まれる水分の少なくとも一部が除去される。ニッケル複合水酸化物粒子中に残留する水分の少なくとも一部を除去することにより、焼成工程(ステップS30)で得られる正極活物質のLi/Meのばらつくことを防ぐことができる。また、ニッケル複合水酸化物粒子を熱処理することにより、上記金属元素の元素比(2)と同様の原子数比を有するニッケル複合酸化物粒子を得てもよい。
【0092】
熱処理は、ニッケル複合水酸化物粒子中の残留水分が除去される温度まで加熱すればよく、例えば、熱処理の温度は、105℃以上700℃以下とすることが好ましい。ニッケル複合水酸化物粒子を105℃以上で加熱した場合、残留水分の少なくとも一部を除去することができる。なお、熱処理の温度が105℃未満の場合、残留水分を除去するために長時間を要するため工業的に適当でない。一方、熱処理の温度が700℃を超える場合、複合酸化物粒子に転換された粒子が焼結して凝集することがある。例えば、ニッケル複合水酸化物粒子の大部分をニッケル複合酸化物粒子まで転換する場合、熱処理の温度は、350℃以上700℃以下とすることが好ましい。
【0093】
熱処理を行う雰囲気は、特に限定されず、例えば、容易に操作が行えるという観点から、空気気流中において行うことが好ましい。また、熱処理の時間は、特に限定されず、例えば、1時間以上とすることができる。熱処理の時間が1時間未満である場合、複合水酸化物粒子中の残留水分の除去が十分に行われない場合がある。また、熱処理の時間は、好ましくは5時間以上15時間以下である。また、熱処理に用いられる設備は、特に限定されず、複合水酸化物粒子を空気気流中で加熱できるものであればよく、例えば、送風乾燥器、ガス発生がない電気炉などが好適に使用できる。
【0094】
熱処理においては、例えば、晶析工程(ステップS10)で得られた複合水酸化物粒子を熱処理(焙焼)して、一般式(3):Ni1-a-bMnaMbO1+β(ただし、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0≦β≦0.4)で表される複合酸化物粒子を得てもよい。また、熱処理工程(ステップS11)後、得られた前駆体粒子と、ニオブ化合物と、リチウム化合物とを混合すること(ステップS20)により、リチウムニオブ混合物を得てもよい。
【0095】
また、本実施形態の正極活物質の製造方法における他の例としては、混合工程(ステップS20)で用いられるニッケル複合水酸化物粒子に代えて(あるいはともに)、上記一般式(3)で示されるニッケル複合酸化物粒子を用いてもよい。また、混合工程(ステップS20)は、上記一般式(2)で表されるニッケルマンガン複合水酸化物粒子、および、上記一般式(3)で表されるニッケルマンガン複合酸化物粒子から選択される一種以上と、ニオブ化合物と、リチウム化合物と、を含むリチウムニオブ混合物を調製してもよい。なお、上記一般式(3)で表されるニッケルマンガン複合酸化物粒子は、熱処理以外の方法で得てもよい。
【0096】
[混合工程(ステップS20)]
次いで、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子およびニッケルマンガン複合酸化物粒子のうち少なくとも一方(前駆体粒子)と、ニオブ化合物と、リチウム化合物とを混合する(ステップS20)。
【0097】
前駆体粒子は、一次粒子内にマンガンを含有することにより、リチウムニオブ混合物を比較的高い温度で焼成することが可能となる。そして、高い温度で焼成することにより、得られる正極活物質の複数の一次粒子内で、マンガン及びニオブを均一に分布(固溶)させることができる。複数の一次粒子内にマンガンとニオブとが含有(固溶)された正極活物質は、高い熱安定性を有し、かつ、導電率が低下する。
【0098】
ニオブ化合物としては、ニオブを含む公知の化合物を用いることができ、例えば、ニオブ酸、酸化ニオブ、硝酸ニオブ、五塩化ニオブ、硝酸ニオブなどを用いることができる。これらの中でも、入手のしやすさや、リチウム金属複合酸化物中への不純物の混入を避けるという観点から、ニオブ酸、酸化ニオブ、又は、これらの混合物が好ましい。なお、リチウム金属複合酸化物中に不純物が混入した場合、得られる二次電池の熱安定性や電池容量、サイクル特性の低下を招くことがある。
【0099】
ニオブ化合物は、粒子(固相)で混合されることが好ましい。ニオブを固相添加する場合、ニオブ化合物の粒径により、後の焼成工程(ステップS30)における、反応性が変化するため、用いるニオブ化合物の粒径が重要な要素の一つとなる。ニオブ化合物の平均粒径は、好ましくは0.01μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上3.0μm以下であり、さらに好ましくは0.08μm以上1.0μm以下である。平均粒径が0.01μmより小さい場合、粉末の取り扱いが非常に困難になるという問題や、混合工程(ステップS20)焼成工程(ステップS30)において、ニオブ化合物が飛散し、狙い通りの組成を活物質中に添加できない問題が生じることがある。一方で、平均粒径が10μmより大きい場合、焼成後のリチウム遷移金属複合酸化物中にNbが均一に分布せず、熱安定性を確保できないことがある。なお、平均粒径は、体積平均粒径MVであり、例えば、レーザー光回折散乱式粒度分布計により測定される体積積算値から求めることができる。
【0100】
ニオブ化合物は、予め、ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル・ナノジェットミル、ビーズミル、ピンミルなど各種粉砕機を用いて、上記範囲の粒径となるように粉砕してもよい。また、ニオブ化合物は、必要に応じて、乾式分級機や篩がけにより分級してもよい。例えば、篩がけを行い、0.01μmに近い粒子を得ることができる。
【0101】
リチウム化合物は、特に限定されず、リチウムを含む公知の化合物を用いることができ、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、又は、これらの混合物などが用いられる。これらの中でも、残留不純物の影響が少なく、焼成温度で溶解するという観点から、炭酸リチウム、水酸化リチウム、又は、これらの混合物が好ましい。
【0102】
複合水酸化物粒子とリチウム化合物とニオブ化合物との混合方法は、特に限定されず、複合水酸化物粒子等の形骸が破壊されない程度で、複合水酸化物粒子とリチウム化合物とニオブ化合物とが十分に混合されればよい。混合方法としては、例えば、一般的な混合機を使用して混合することができ、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いて混合することができる。なお、リチウムニオブ混合物は、後述する焼成工程(ステップS30)の前に十分混合しておくことが好ましい。混合が十分でない場合、正極活物質の個々の粒子間でLiとLi以外の金属元素Meとの比(Li/Me(Li/Me比))がばらつき、十分な電池特性が得られない等の問題が生じることがある。
【0103】
リチウム化合物は、リチウムニオブ混合物中のLi/Meが、0.95以上1.2以下となるように、混合される。つまり、リチウムニオブ混合物におけるLi/Meが、得られる正極活物質におけるLi/Meと同じになるように混合される。これは、焼成工程(ステップS30)前後で、Li/Me及び各金属元素のモル比は変化しないので、この混合工程(ステップS20)における、リチウムニオブ混合物のLi/Meが、正極活物質のLi/Meとなるからである。また、ニオブ化合物は、リチウムニオブ混合物中のニオブ含有量が、リチウムニオブ混合物中のLi以外の金属元素(Ni、Mn、元素M、Nb)の合計に対して、0.03原子%以上3原子%以下となるように混合される。
【0104】
なお、混合工程(ステップS20)は、例えば、晶析により前駆体粒子を得る晶析工程(ステップS10)と、得られた前駆体粒子と、水とを混合して得られたスラリーに、ニオブ塩溶液と酸とを添加して、ニオブ化合物で被覆された複合水酸化物粒子を得るニオブ被覆工程と、ニオブ化合物で被覆された複合水酸化物粒子と、リチウム化合物と、を混合して、リチウムニオブ混合物を得る工程と、を含んでもよい。なお、混合工程(ステップS20)におけるニオブ化合物の添加方法は、固相添加でもよく、上述のニオブ被覆工程による添加でもよいが、生産性の観点から、工業的には、固相添加が好ましい。
【0105】
[仮焼(ステップS25)]
リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用した場合には、後述する焼成工程(ステップS30)の前に、リチウムニオブ混合物を、焼成温度より低く、かつ、350℃以上800℃以下、好ましくは450℃以上780℃以下の温度で保持して、仮焼することが好ましい。上記仮焼の温度で保持する時間は、例えば、1時間以上10時間以下程度、好ましくは3時間以上6時間以下である。仮焼を行った場合、ニッケル複合水酸化物粒子へのリチウムの拡散が十分に行われ、より均一なリチウム金属複合酸化物を得ることができる。例えば、リチウム化合物として炭酸リチウムを使用する場合、400℃以上700℃以下の温度で1時間以上10時間以下程度保持して仮焼することが好ましい。
【0106】
[焼成工程(ステップS30)]
次いで、得られたリチウムニオブ混合物を焼成する(ステップS30)。焼成により、前駆体粒子中にリチウム化合物中のリチウムが拡散するので、多結晶構造の粒子からなるリチウム金属複合酸化物(正極活物質)が形成される。リチウム化合物は、焼成時の温度で溶融し、ニッケル複合水酸化物粒子内に浸透してリチウム金属複合酸化物を形成する。この際、ニオブ化合物は溶融したリチウム化合物とともに、前駆体粒子の二次粒子内部まで浸透する。また、一次粒子の内部においても結晶粒界などがあれば浸透する。これにより、ニオブの一次粒子内部における拡散が促進され、得られるリチウム金属複合酸化物内の一次粒子内でニオブの少なくとも一部が固溶する。また、ニオブ化合物の一部は、リチウムニオブ化合物として、一次粒子の表面に形成されてもよい。
【0107】
(焼成温度)
リチウムニオブ混合物の焼成温度は、好ましくは850℃以上1000℃以下であり、より好ましくは900℃以上950℃以下である。焼成温度が上記範囲である場合、リチウム化合物の溶融が生じるとともに、ニオブ化合物の浸透と拡散が促進される。また、温度を高くすることで、ニオブの拡散が促進されるとともに、リチウム金属複合酸化物の結晶性が高くなり、出力特性やエネルギー密度を向上させることができる。
【0108】
一方、焼成温度が850℃未満である場合、ニッケル複合水酸化物粒子中へのリチウムおよびニオブの拡散が十分に行われなくなり、未反応のリチウム化合物やニオブ化合物が残留したり、リチウム金属複合酸化物の結晶構造が十分整わずに、電池特性が低下したりすることがある。一方、焼成温度が1000℃を超える場合、リチウム金属複合酸化物の粒子間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒成長を生じることがある。異常粒成長が生じた場合、焼成後の粒子が粗大となってしまい粒子形態を保持できなくなり、正極活物質の比表面積が低下し、二次電池の正極抵抗が上昇して、電池容量が低下することがある。
【0109】
(焼成時間)
焼成時間は、前駆体粒子と、リチウム化合物との焼結反応が十分に行われる時間であれば特に限定されないが、例えば1時間以上であり、好ましくは、3時間以上24時間以下である。焼成時間が1時間未満である場合、リチウム金属複合酸化物の生成が十分に行われないことがある。
【0110】
(焼成雰囲気)
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とする。ここで、酸性雰囲気とは、酸素濃度が3容量%以上100容量%以下の雰囲気をいう。焼成の雰囲気の酸素濃度が3容量%未満である場合、得られる正極活物質を十分に酸化できず、リチウム金属複合酸化物の結晶性が十分でない状態となることがある。また、焼成は、大気中、又は、酸素気流中で行うことが好ましく、電池特性を向上させる観点から、酸素気流中で行うことが好ましい。
【0111】
(焼成炉)
焼成に用いられる炉(焼成炉)は、特に限定されず、大気ないしは酸素気流中でリチウムニオブ混合物を焼成できるものであればよい。焼成炉は、ガス発生がない電気炉が好ましい。また、焼成炉は、バッチ式の炉を用いてもよく、連続式の炉を用いてもよい。
【0112】
焼成後に得られるリチウム金属複合酸化物は、正極活物質として用いてもよい。また、焼成後に得られるリチウム金属複合酸化物は、粒子間の焼結は抑制されているが、弱い焼結や凝集により粗大な粒子を形成していることがある。このような場合には、解砕により上記焼結や凝集を解消して粒度分布を調整した後、正極活物質として用いてもよい。
【0113】
[溶出リチウム量]
焼成工程(ステップS30)後に得られる正極活物質(リチウム金属複合酸化物)は、中和滴定法により求められる、正極活物質を水に浸漬した際に水に溶出するリチウム量(溶出リチウム量)が正極活物質全体に対して0.02質量%以上0.10質量%以下となるように調整される。溶出リチウム量が上記範囲である場合、ニオブが正極活物質の一次粒子の内部及び/又は表面に均一に分布し、正極ペーストのゲル化を抑制し、かつ、二次電池の電池特性をより向上させることができる。
【0114】
また、電池特性をより向上させるという観点から、正極活物質の溶出リチウム量の下限は、0.03質量%以上好ましく、0.04質量%以上がより好ましい。溶出リチウム量の下限が小さすぎる場合、リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に過剰又は不均一にリチウムニオブ化合物が形成され、電池容量等を低下させることがある。
【0115】
また、溶出リチウム量は、上述したように、正極活物質の組成や製造方法により変動する値である。本実施形態に係る正極活物質の溶出リチウム量は、例えば、ニオブ化合物を混合しない以外は、同様の製造条件で製造された正極活物質の溶出リチウム量よりも、0.03質量%以上低くなるように調整することが好ましく、0.04質量%以上低くなるように調整することが好ましい。溶出リチウム量が上記範囲で低減される場合、ニオブが正極活物質の一次粒子の内部及び/又は表面に均一に分布していることを示すと考えられる。
【0116】
なお、溶出リチウム量は、正極活物質を5g分取して25℃の純水100ml中に投入し、浸漬して30分撹拌後濾過して、濾液をHCl水溶液を用いて中和滴定して、純水中に溶出したリチウム量(正極活物質全量に対する質量%)を算出することにより求めることができる。
【0117】
溶出リチウム量は、正極活物質の製造工程において、マンガンとニオブとを特定の範囲で含有させ、かつ、晶析工程(ステップS10)において、反応溶液中の溶存酸素濃度や反応溶液の温度等を調整したり、焼成工程(ステップS30)において、焼成温度等を調整したり、焼成工程(ステップS30)の前に仮焼工程を追加したりすることにより、上記範囲に制御することができる。
【0118】
3.非水系電解質二次電池用正極活物質の評価方法
本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の評価方法(以下、「正極活物質の評価方法」ともいう。)は、
図3に示すように、中和滴定法により求められる水に浸漬した際に水に溶出するリチウム量(以下、「溶出リチウム量」ともいう。)を測定すること(ステップS40)と、溶出リチウム量が正極活物質全体に対して0.02質量%以上0.10質量%以下である正極活物質を選択すること(ステップS50)と、を備える。本実施形態の評価方法により、正極ペースト作製時のゲル化が抑制され、かつ、高い電池容量を有する二次電池を得ることができる正極活物質を簡便に選択することができる。なお、ステップS50は、上記した正極活物質の製造方法に含まれてもよい。
【0119】
また、本実施形態の評価方法に用いる正極活物質は、一般式(1):LidNi1-a-b-cMnaMbNbcO2+α[ただし、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.6、0、0≦b≦0.6、0.0003≦c≦0.03、0.95≦d≦1.2、0.33<(1-a-b-c)、0≦α≦0.4である。]で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる。なお、上記一般式(1)を構成する各元素の好ましい範囲や、好ましい特性は、上述した正極活物質と同様である。
【0120】
[溶出リチウム量の測定工程(ステップS40)]
まず、評価対象となる正極活物質を、水に浸漬した際に水に溶出するリチウム量(溶出リチウム量)を、中和滴定法により測定する。溶出リチウム量は、正極活物質を5g分取して25℃の純水100ml中に投入し、浸漬して30分撹拌後濾過し、濾液をHCl水溶液を用いて中和滴定して、純水中に溶出したリチウム量(正極活物質全量に対する質量%)を算出することにより求めることができる。
【0121】
上記一般式(1)で表される正極活物質において、ニオブが一次粒子内部、及び/又は表面に均一に存在する場合、得られる正極活物質の溶出リチウム量を低減することができる。よって、溶出リチウム量を測定することにより、ニオブの存在形態を間接的に評価することができる。
【0122】
[正極活物質の選択工程(ステップS50)]
次いで、水に溶出するリチウム量(溶出リチウム量)が正極活物質全体に対して0.02質量%以上0.10質量%以下である正極活物質を選択する。溶出リチウム量が上記範囲の正極活物質を選択することにより、正極ペーストのゲル化が抑制され、かつ、高い電池特性を有する正極活物質を容易に生産性高く得ることができる。
【0123】
また、溶出リチウム量は、上述したように、正極活物質の組成や製造方法により変動する値である。本実施形態に係る正極活物質の溶出リチウム量は、例えば、ニオブ化合物を混合しない以外は、同様の製造条件で製造された正極活物質の溶出リチウム量よりも、0.03質量%以上低い正極活物質を選択することが好ましく、0.04質量%以上低い正極活物資を選択することが好ましい。溶出リチウム量が上記範囲の正極活物質を選択した場合、ニオブが正極活物質の一次粒子の内部及び/又は表面に均一に分布していることを示すと考えられ、高い電池特性を有する正極活物質を容易に生産性高く得ることができる。
【0124】
4.非水系電解質二次電池
本実施形態の非水系電解質二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、上述の正極活物質を正極に用いる。以下、本実施形態の二次電池の一例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。本実施形態の二次電池は、正極、負極、及び非水電解質を含み、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、非水系電解質二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0125】
(正極)
上記の正極活物質を用いて、二次電池の正極を作製する。以下に正極の製造方法の一例を説明する。まず、上記の正極活物質(粉末状)、導電材および結着剤(バインダー)を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペースト(「正極ペースト」ともいう)を作製する。
【0126】
正極合材中のそれぞれの材料の混合比は、リチウム二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウム二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60~95質量%、導電材を1~20質量%、結着剤を1~20質量%含有することができる。
【0127】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもある。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることなく、他の方法に依ってもよい。
【0128】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0129】
結着剤(バインダー)としては、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸などを用いることができる。
【0130】
必要に応じ、正極活物質、導電材および活性炭を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0131】
(負極)
負極は、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0132】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0133】
(セパレータ)
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0134】
(非水系電解質)
非水系電解質は、例えば、非水系電解液、固体電解質である。非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0135】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0136】
(二次電池の形状、構成)
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0137】
(二次電池の特性)
本実施形態に係る二次電池は、高い電池容量及び耐久性と、過充電時における酸素放出抑制による高い熱安定性とを両立できる。また、本実施形態に係る二次電池に用いられる正極活物質は、上記のような工業的な製造方法で得ることができる。よって、本実施形態に係る二次電池は、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源や、電気自動車用電源、ハイブリッド車用の電源などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0138】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における正極活物質に含有される金属の分析方法及び正極活物質の各種評価方法は、以下の通りである。
(1)組成の分析
得られたニッケルマンガン複合水酸化物及び正極活物質の組成は、ICP発光分析法により測定した。
(2)平均粒径MV
平均粒径(体積平均粒径MV)の測定は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)により行なった。
(3)結晶子径及びリチウムニオブ化合物の検出
XRD回折装置(パナリティカル社製、X‘Pert PRO)を用いて、得られた正極活物質の結晶構造と、リチウムニオブ化合物の定性評価を行った。また、(003)面の結晶子径は、XRD測定結果から、2θ=18°付近に存在する(003)面のピークの解析を行い、Scherrerの式を用いて算出した。
(4)ニオブ濃度
正極活物質をS-TEMによる一次粒子の断面分析が可能となるように加工した。正極活物質に含まれる複数の二次粒子から任意に30個の一次粒子を選択し、個々の一次粒子断面内をS-TEMのEDXにより組成を線分析した。その際に、線分析の方向は、事前に面分析して一次粒子の表面のニオブ化合物の存在により一次粒子の表面付近のニオブ濃度の計測値が影響されない方向で、かつ当該一次粒子の最大長の50%以上の長さで分析できる方向を選択した。線分析によって得られたニオブ濃度の計測値から、最大ニオブ濃度と一次粒子内の平均ニオブ濃度を求め、個々の一次粒子の最大ニオブ濃度の比をそれぞれ算出し、さらに各一次粒子から算出される最大ニオブ濃度の比を個数平均することにより正極活物質の最大ニオブ濃度の比を求めた。
【0139】
(5)溶出リチウム量
溶出リチウム量は、得られた解砕後の正極活物質を5g分取して25℃の純水100ml中に投入し、浸漬して30分撹拌後濾過して、濾液をHCl水溶液を用いて中和滴定して、純水中に溶出したリチウム量(正極活物質全量に対する質量%)を算出した。
【0140】
(6)初期充電容量及び初期放電容量
初期充電容量及び初期放電容量は、
図4に示すコイン型電池CBAを作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電して初期充電容量とし、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。放電容量の測定には,マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0141】
コイン型電池CBAは、以下の方法により作製した。まず、得られた正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形し、
図4に示す正極(評価用電極)PEを作製した。作製した正極PEを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した後、この正極PEを用いて2032型コイン電池CBAを、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。負極NEには、直径17mm厚さ1mmのリチウム(Li)金属を用い、電解液には、1MのLiClO
4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。セパレータSEには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン電池は、ガスケットGAとウェーブワッシャーWWを有し、正極缶PCと負極缶NCとでコイン型の電池に組み立てた。
【0142】
(7)正極ペーストの安定性の評価]
正極活物質25.0gと、導電材のカーボン粉1.5gと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)2.9gと、N-メチル-2ピロリドン(NMP)とを遊星運動混練機により混合し正極合材ペーストを得た。N-メチル-2ピロリドン(NMP)は、JIS Z 8803:2011に規定される振動粘度計による粘度測定方法により、粘度が1.5~2.5Pa・sとなるように添加量を調整した。得られたペーストを76時間保管してゲル化の発生状況を目視で評価し、ゲル化が発生していないものを○、ゲル化が発生したものを×とした。
【0143】
[実施例1]
(晶析工程)
反応槽(60L)に純水を所定量入れ、攪拌しながら槽内温度を70℃に設定した。このとき反応槽内に、反応槽液中の溶存酸素濃度が0.8mg/L以下となるようにN2ガスを流した。さらに、晶析工程中もN2ガスを反応槽に供給し、晶析工程全体において、反応槽液中の溶存酸素濃度が0.8mg/L以下を維持するように調整した。この反応槽内にニッケル:コバルト:マンガンのモル比が55:25:20となるように、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンの2.0Mの混合水溶液と、アルカリ溶液である25質量%水酸化ナトリウム溶液とを反応槽に同時に連続的に添加した。
【0144】
なお、上記硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンの2.0Mの混合水溶液および前記25質量%水酸化ナトリウム溶液は、反応槽への添加開始前に、N2ガスを流して、それぞれの溶液(上記混合水溶液、上記水酸化ナトリウム溶液)の溶存酸素濃度が0.8mg/L以下となるように調整し、晶析工程中もそれぞれの溶液の溶存酸素濃度が0.8mg/L以下を維持するようN2ガスを供給して、調整した。また上記水酸化ナトリウム溶液は、添加開始前に0℃に加温し、反応槽への添加中も70℃を維持するように調整した。
【0145】
混合水溶液の滞留時間は8時間となるように流量を制御し、また反応槽内の溶解ニッケル濃度は350mg/LとなるようにpHを10.8~11.1(pHの変動幅0.3以内)に制御した。反応槽が安定した後、オーバーフロー口からニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を含むスラリーを回収した後、濾過を行いニッケルコバルトマンガン複合水酸化物のケーキを得た(晶析工程)。濾過を行ったデンバー内にあるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物140gに対して1Lの純水を通液することで、不純物の洗浄を行った(洗浄工程)。
【0146】
濾過後の粉を乾燥機に投入し空気(酸素:21容量%)気流中にて400℃で5時間保持して熱処理し、ニッケル:コバルト:マンガンのモル比(原子数比)が55:25:20で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子/ニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子(以下、「前駆体粒子」ともいう。)を得た。
【0147】
(混合工程)
得られた前駆体粒子と、炭酸リチウム、平均粒径が1.0μmのニオブ酸(Nb2O5・nH2O)をニッケル:コバルト:マンガン:ニオブのモル比が54.6:24.7:19.7:1.0になるように、かつリチウムとニッケル、コバルト、マンガン、ニオブの合計メタル量との原子比(以下、Li/Meと表す)が1.03になるように秤量した後、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合し、リチウムニオブ混合物を得た。
【0148】
(焼成工程)
得られたリチウムニオブ混合物を焼成炉に投入して、空気(酸素:21容量%)気流中にて炉内温度700℃で3時間保持して仮焼し、次いで炉内温度を900℃に昇温して10時間保持して焼成した。焼成後の焼成物を冷却し、解砕してリチウムニッケルコバルトマンガンニオブ複合酸化物粒子(正極活物質)を得た。
【0149】
得られた正極活物質の体積平均粒径MVを表1に示す。XRD測定の結果、
図1に示されるようにLi-Nb化合物に帰属されるピークが異相として確認できた。また、STEM-EDX分析の結果から、ニオブが結晶構造中に固溶していることが確認され、一次粒子内部の平均ニオブ濃度に対して、一次粒子内部の最大ニオブ濃度が1~3倍の範囲であることが確認された。さらに、XRD測定結果から、Scherrerの式を用いて(003)面の結晶子径を算出した結果、125.5nm(1255Å)であった。
【0150】
(電気化学特性評価)
得られた正極活物質を用いた二次電池の電池特性評価(初期充放電容量)を上述の方法で行った。これらの評価結果を表1に示す。
【0151】
[実施例2]
実施例1の晶析工程と同様にして、ニッケル:コバルト:マンガンのモル比(原子数比)が60:20:20で表される前駆体粒子を得た。得られた前駆体粒子と、炭酸リチウム、平均粒径が1.0μmのニオブ酸(Nb2O5・nH2O)をニッケル:コバルト:マンガン:ニオブのモル比が59.6:19.7:19.7:1.0になるように、リチウムとニッケル、コバルト、マンガン、ニオブの合計メタル量との原子比(以下、Li/Meと表す)が1.03になるように秤量した後、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合し、リチウムニオブ混合物を得た。焼成工程以降は実施例1と同様とし、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
【0152】
[比較例1]
得られた前駆体粒子と炭酸リチウムを、ニッケル:コバルト:マンガンのモル比が55.0:25.0:20.0になるように秤量したこと以外は実施例1と同様に正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
【0153】
[比較例2]
得られた前駆体粒子と炭酸リチウムを、ニッケル:コバルト:マンガンのモル比が60.0:20.0:20.0になるように秤量したこと以外は実施例2と同様に正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。また、結晶構造評価によって得られたXRDプロファイルを
図1に示す。
【0154】
[比較例3]
得られた前駆体粒子と、炭酸リチウム、平均粒径が1.0μmのニオブ酸(Nb2O5・nH2O)をニッケル:コバルト:マンガン:ニオブのモル比が59.6:19.7:19.7:1.0になるように秤量し、気流中にて820℃で10時間保持して焼成したこと以外は実施例1と同様に正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
【0155】
[比較例4]
得られた前駆体粒子と、炭酸リチウムをニッケル:コバルト:マンガンのモル比が80.0:10.0:10.0になるように秤量し、気流中にて820℃で10時間保持して焼成したこと以外は実施例1と同様に正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
【0156】
[比較例5]
得られた前駆体粒子と、炭酸リチウム、平均粒径が1.0μmのニオブ酸(Nb2O5・nH2O)をニッケル:コバルト:マンガン:ニオブのモル比が79.6:9.7:9.7:1.0になるように秤量し、気流中にて820℃で10時間保持して焼成したこと以外は実施例1と同様に正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
【0157】
【0158】
(評価結果)
表1に示すように、実施例1、2の正極活物質では、Nbを添加しない以外は同様の条件で製造された比較例1、2の正極活物質と比較すると溶出Liが少なく、正極作製時に正極ペーストのゲル化が抑制されることが示された。
【0159】
また、
図5は、実施例及び比較例のXRDプロファイルを示す図であり、
図5に示されるように、実施例1、2の正極活物質では、Li-Nb化合物(リチウムニオブ化合物)に帰属されるピークが異相として確認された(
図1中の▼が異相に対応するピーク)。一方、比較例1の正極活物質では、Li-Nb化合物に帰属されるピークが確認されなかった。
【0160】
実施例の正極活物質では、Li-Nb化合物の生成により、焼成後の未反応の炭酸リチウムなどの余剰リチウム量が減少し、溶出Li量が低減していると推定される。よって、Li-Nb化合物の形成はゲル化の抑制に効果がある。
【0161】
また、特に、一般式(1)中、Niの含有量が0.55以上である実施例2の正極活物質は、Nbを含まない以外は同様の組成を有する比較例2の正極活物質と比較した場合、正極ペーストのゲル化が抑制されつつ、かつ、より高い充放電容量を有することが示された。
【0162】
また、比較例3の正極活物質では、焼成温度以外は、実施例2と同様の条件で製造されているが、焼成条件(焼成温度:850℃未満)が適切でなかったため、ニオブ酸と余剰リチウムとの反応が良好に進まず、溶出Li量が低減されなかった。
【0163】
また、比較例4、5の正極活物質では、比較例4ではNbを添加せず、比較例5ではNbを添加した以外は、同様の条件で製造されているが、焼成条件(焼成温度:850℃未満)が適切でなかったため、Nbの添加の有無に関わらず、溶出Li量が低減されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本実施形態では、高い容量、耐久性、熱安定性を両立する非水系電解質二次電池用正極活物質を工業的な製造方法で得ることができる。この非水系電解質二次電池は、常に高容量・高寿命を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適に用いることができる。
【0165】
また、本実施形態の二次電池は、従来のリチウムコバルト系酸化物あるいはリチウムニッケル系酸化物の正極活物質を用いた電池との比較においても、安全性に優れており、さらに容量・耐久性の点で優れている。そのため、小型化、高寿命化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適に用いることができる。
【0166】
また、本実施形態の正極活物質及びそれを用いた二次電池は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源や定置型蓄電池としても用いることができる。
【0167】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0168】
CBA…コイン型電池
PE…正極(評価用電極)
NE…負極
SE…セパレータ
GA…ガスケット
WW…ウェーブワッシャー
PC…正極缶
NC…負極缶