(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】流量測定装置
(51)【国際特許分類】
G01F 1/66 20220101AFI20220726BHJP
【FI】
G01F1/66 101
(21)【出願番号】P 2021505466
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010620
(87)【国際公開番号】W WO2020183719
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】吉武 直毅
(72)【発明者】
【氏名】石田 ゆい
(72)【発明者】
【氏名】鶴亀 宜崇
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-304281(JP,A)
【文献】特開2005-037290(JP,A)
【文献】特開昭55-027935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/66
G01F 1/704-1/716
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の断面積を有する管路の内部における流体の流量を測定する流量測定装置であって、
前記流量測定装置は、前記管路における互いに異なる位置にそれぞれ設けられた第1及び第2のトランスデューサであって、電気信号を音響信号に変換する第1のトランスデューサと、音響信号を電気信号に変換する第2のトランスデューサとに接続され、
前記流量測定装置は、
前記第1のトランスデューサから、複数の周波数及び所定の時間長を有する測定信号を送信し、前記管路の内部における流体を介して、前記第2のトランスデューサにより前記測定信号を受信し、
送信された前記測定信号を示す基準信号と、受信された前記測定信号との間の第1の相関係数を計算し、
前記第1の相関係数のピーク値が第1のしきい値よりも高いとき、前記測定信号に基づいて前記管路の内部における流体の流量を計算し、
前記第1の相関係数のピーク値が第1のしきい値以下であるとき、前記測定信号の周波数及び時間長の少なくとも一方を変更して前記測定信号を再送信する、
流量測定装置。
【請求項2】
前記流量測定装置は、前記第1の相関係数
のピーク値が前記第1のしきい値以下であるとき、前記測定信号の時間長を増大させる、
請求項1記載の流量測定装置。
【請求項3】
前記流量測定装置は、前記第1の相関係数
のピーク値が前記第1のしきい値以下であるとき、前記測定信号の周波数帯域幅を増大させる、
請求項1又は2記載の流量測定装置。
【請求項4】
前記流量測定装置は、前記第1の相関係数
のピーク値が前記第1のしきい値以下であるとき、前記測定信号の中心周波数を変更する、
請求項1~3のうちの1つに記載の流量測定装置。
【請求項5】
前記測定信号は、先頭からの時間経過に応じて変化する周波数を有する、
請求項1~4のうちの1つに記載の流量測定装置。
【請求項6】
前記流量測定装置は、
前記第1の相関係数のピーク値が前記第1のしきい値以下であり、かつ、前記第1のしきい値よりも小さい第2のしきい値
よりも高いとき、前記測定信号の周波数及び時間長の少なくとも一方を変更して前記測定信号を再送信し、
再送信された前記測定信号を示す基準信号と、受信された前記測定信号との間の第2の相関係数を計算し、
前記第2の相関係数のピーク値が前記第1の相関係数のピーク値よりも増大したとき、前記測定信号に基づいて前記管路の内部における流体の流量を計算し、
前記第2の相関係数のピーク値が前記第1の相関係数のピーク値よりも増大しなかったとき、前記第1のしきい値を低減して前記測定信号を再送信する、
請求項1~5のうちの1つに記載の流量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、所定の断面積を有する管路の内部における流体の流量を測定する流量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、超音波を利用して液体の流量を測定する超音波流量測定方法を開示している。特許文献1の方法によれば、液体を流す流路の上流側及び下流側において対向するよう配置された一対の超音波振動子を用いて、液体の流れの正逆方向に超音波を伝搬させてその正方向に伝搬した超音波と逆方向に伝搬した超音波との伝搬時間差に基づいて液体の体積流量を求める。特許文献1の方法は、一対の超音波振動子の間で超音波の送受信を行い、超音波の波形信号を取得するステップを含む。特許文献1の方法は、取得した複数の超音波の波形信号を比較して、波形信号の相関関数を算出するステップを含む。特許文献1の方法は、波形信号の相関関数の相関値により測定に有効な波形信号であるか否かを判定し、有効と判定した波形信号に基づいて、超音波の伝搬時間差を求めるとともに、その伝搬時間差により液体の体積流量を求めるステップを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
管路(流路)において、流体とともに、ゴミ、気泡(流体が液体である場合)などの異物が流れることがある。このような異物が存在する場合、異物によって測定信号(超音波など)が乱反射するので、測定される流量の精度が低下する。
【0005】
特許文献1の方法によれば、測定に有効な波形信号であるか否かを判断し、有効と判断した波形信号のみに基づいて液体の流量を計算している。しかしながら、液体が多量の異物を含む場合には有効な波形信号が得られないので、液体の流量を計算することができない。従って、流体が多量の異物を含む場合にもその流量を高精度に測定することができる流量測定装置が求められる。
【0006】
本開示の目的は、流体が異物を含む場合にもその流量を高精度に測定することができる流量測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る流量測定装置によれば、
所定の断面積を有する管路の内部における流体の流量を測定する流量測定装置であって、
前記流量測定装置は、前記管路における互いに異なる位置にそれぞれ設けられた第1及び第2のトランスデューサであって、電気信号を音響信号に変換する第1のトランスデューサと、音響信号を電気信号に変換する第2のトランスデューサとに接続され、
前記流量測定装置は、
前記第1のトランスデューサから、複数の周波数及び所定の時間長を有する測定信号を送信し、前記管路の内部における流体を介して、前記第2のトランスデューサにより前記測定信号を受信し、
送信された前記測定信号を示す基準信号と、受信された前記測定信号との間の第1の相関係数を計算し、
前記第1の相関係数のピーク値が第1のしきい値よりも高いとき、前記測定信号に基づいて前記管路の内部における流体の流量を計算し、
前記第1の相関係数のピーク値が第1のしきい値以下であるとき、前記測定信号の周波数及び時間長の少なくとも一方を変更して前記測定信号を再送信する。
【0008】
これにより、流体が異物を含む場合にもその流量を高精度に測定することができる。
【0009】
本開示の一態様に係る流量測定装置によれば、
前記流量測定装置は、前記第1の相関係数のピーク値が前記第1のしきい値以下であるとき、前記測定信号の時間長を増大させる。
【0010】
これにより、時間長の増大前よりも、異物による影響を低減することができる。
【0011】
本開示の一態様に係る流量測定装置によれば、
前記流量測定装置は、前記第1の相関係数のピーク値が前記第1のしきい値以下であるとき、前記測定信号の周波数帯域幅を増大させる。
【0012】
これにより、周波数帯域幅の増大前よりも、異物による影響を低減することができる。
【0013】
本開示の一態様に係る流量測定装置によれば、
前記流量測定装置は、前記第1の相関係数のピーク値が前記第1のしきい値以下であるとき、前記測定信号の中心周波数を変更する。
【0014】
これにより、中心周波数の変更前よりも、異物による影響を低減することができる。
【0015】
本開示の一態様に係る流量測定装置によれば、
前記測定信号は、先頭からの時間経過に応じて変化する周波数を有する。
【0016】
これにより、単一周波数の信号又は短い時間長の信号を用いる場合に比べて、測定信号がノイズに埋もれにくくなり、流体の流量を高精度に測定することができる。
【0017】
本開示の一態様に係る流量測定装置によれば、
前記流量測定装置は、
前記第1の相関係数のピーク値が前記第1のしきい値以下であり、かつ、前記第1のしきい値よりも小さい第2のしきい値よりも高いとき、前記測定信号の周波数及び時間長の少なくとも一方を変更して前記測定信号を再送信し、
再送信された前記測定信号を示す基準信号と、受信された前記測定信号との間の第2の相関係数を計算し、
前記第2の相関係数のピーク値が前記第1の相関係数のピーク値よりも増大したとき、前記測定信号に基づいて前記管路の内部における流体の流量を計算し、
前記第2の相関係数のピーク値が前記第1の相関係数のピーク値よりも増大しなかったとき、前記第1のしきい値を低減して前記測定信号を再送信する。
【0018】
これにより、流体の種類、異物の種類、異物の量などに応じて、第1のしきい値の大きさを動的に変更することにより、流体の流量を高精度に測定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示の一態様に係る流量測定装置によれば、流体が異物を含む場合にもその流量を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1の実施形態に係る流量測定装置1の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の制御回路11によって実行される流量測定処理を示すフローチャートである。
【
図3】第1の実施形態の第1の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M2の波形を示すグラフである。
【
図4】
図3の測定信号M1,M2の周波数特性を示すグラフである。
【
図5】第1の実施形態の第2の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M3の波形を示すグラフである。
【
図6】
図5の測定信号M1,M3の周波数特性を示すグラフである。
【
図7】第1の実施形態の第3の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M4の波形を示すグラフである。
【
図8】
図7の測定信号M1,M4の周波数特性を示すグラフである。
【
図9】第1の実施形態の第4の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M5の波形を示すグラフである。
【
図10】
図9の測定信号M1,M5の周波数特性を示すグラフである。
【
図11】第1の実施形態の第5の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M6の波形を示すグラフである。
【
図12】
図11の測定信号M1,M6の周波数特性を示すグラフである。
【
図13】第1の実施形態の第6の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M7の波形を示すグラフである。
【
図14】
図13の測定信号M1,M7の周波数特性を示すグラフである。
【
図15】第1の実施形態の第7の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M8の波形を示すグラフである。
【
図16】
図15の測定信号M1,M8の周波数特性を示すグラフである。
【
図17】第1の実施形態の第1~第3の変形例に係る流量測定装置によって使用される測定信号M11~M13の周波数特性を示すグラフである。
【
図18】第1の実施形態の第4の変形例に係る流量測定装置によって使用されるトランスデューサ2-1~2-3,3-1~3-3の配置を示す図である。
【
図19】第1の実施形態の第5の変形例に係る流量測定装置によって使用されるトランスデューサ2,3-1~3-3の配置を示す図である。
【
図20】第1の実施形態の第6の変形例に係る流量測定装置によって使用されるトランスデューサ2,3の他の配置を示す図である。
【
図21】第1の実施形態の第7の変形例に係る流量測定装置によって使用されるトランスデューサ2-1,2-2,3-1,3-2の配置を示す図である。
【
図22】第2の実施形態に係る流量測定装置1の制御回路11によって実行される流量測定処理の第1の部分を示すフローチャートである。
【
図23】第2の実施形態に係る流量測定装置1の制御回路11によって実行される流量測定処理の第2の部分を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の一側面に係る実施形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。各図面において、同じ符号は同様の構成要素を示す。
【0022】
[適用例]
図1は、本実施形態に係る流量測定装置1の構成を示すブロック図である。流量測定装置1は、所定の断面積を有する管路4の内部における流体5の流量を測定する。流体5は、液体であってもよく、気体であってもよい。
図1では、管路4が、内側の直径2aを有する円形の断面形状を有する場合を示すが、それに限定されず、管路4は他の任意の断面形状を有してもよい。
【0023】
流量測定装置1は、管路4における互いに異なる位置にそれぞれ設けられたトランスデューサ2,3であって、電気信号を音響信号に変換するトランスデューサ2(又は3)と、音響信号を電気信号に変換するトランスデューサ3(又は2)とに接続される。トランスデューサ2,3は、互いに距離Lを有するように、かつ、トランスデューサ2,3を通る直線が管路4の長手方向(例えば、管路4の内面)に対して角度θを有するように、管路4にそれぞれ設けられる。
【0024】
トランスデューサ2,3のそれぞれは、電気信号と音響信号とを相互に変換してもよい。トランスデューサ2,3は、例えば、電気信号と超音波信号とを相互に変換する超音波トランスデューサであってもよい。トランスデューサ2,3は、例えば、圧電素子であってもよい。また、トランスデューサ2,3のそれぞれは、互いに近接して配置された、電気信号を音響信号に変換するトランスデューサと、音響信号を電気信号に変換するトランスデューサとの組み合わせであってもよい。
【0025】
流量測定装置1は、トランスデューサ2(又は3)から、複数の周波数及び所定の時間長を有する測定信号を送信し、管路4の内部における流体5を介して、トランスデューサ3(又は2)により測定信号を受信する。流量測定装置1は、送信された測定信号を示す基準信号と、受信された測定信号との間の相関係数を計算する。
【0026】
流量測定装置1は、相関係数のピーク値がしきい値Th1よりも高いとき、測定信号に基づいて管路4の内部における流体5の流量を計算する。相関係数のピーク値がしきい値Th1よりも高いことは、トランスデューサ2,3の間において、測定信号が、ゴミ、気泡(流体が液体である場合)などの異物による影響をあまり受けずに伝搬したことを示す。流体5の流量は、任意の既知の方法に基づいて計算されてもよい。例えば、流体5の流量は、トランスデューサ2からトランスデューサ3に、又はその逆に送信された測定信号の伝搬時間に基づいて計算されてもよい。また、流体5の流量は、トランスデューサ2(又は3)からトランスデューサ3(又は2)に送信された測定信号に生じたドップラーシフトに基づいて計算されてもよい。
【0027】
流量測定装置1は、相関係数のピーク値がしきい値Th1以下であるとき、測定信号の周波数及び時間長の少なくとも一方を変更して測定信号を再送信する。相関係数のピーク値がしきい値Th1以下であることは、トランスデューサ2,3の間において、測定信号の波形が異物の影響により大きく変化して伝搬したことを示す。この場合、流量測定装置1は、例えば、測定信号の時間長を増大させてもよく、測定信号の周波数帯域幅を増大させてもよく、測定信号の中心周波数を変更してもよい。
【0028】
本実施形態に係る流量測定装置1によれば、流体5がゴミ、気泡などの異物を含む場合であっても、測定信号の周波数及び時間長の少なくとも一方を変更して測定信号を再送信することにより、異物の影響を低減し、流体5の流量を高精度に測定することができる。
【0029】
本明細書では、トランスデューサ2,3の一方を「第1のトランスデューサ」ともいい、他方を「第2のトランスデューサ」ともいう。また、本明細書では、送信された測定信号を示す基準信号と、受信された測定信号との間の相関係数を「第1の相関係数」ともいう。また、本明細書では、しきい値Th1を「第1のしきい値」ともいう。
【0030】
[第1の実施形態]
図1~
図19を参照して、第1の実施形態に係る流量測定装置について説明する。
【0031】
[流量測定装置の構成]
図1は、第1の実施形態に係る流量測定装置1の構成を示すブロック図である。流量測定装置1は、制御回路11、送信回路12、受信回路13、スイッチ回路14、入力装置15、及び表示装置16を備える。
【0032】
制御回路11は、流量測定装置1の他の構成要素を制御し、また、
図2を参照して後述する流量測定処理を実行して流体5の流量を測定する。
【0033】
送信回路12は、制御回路11の制御下で、測定信号を発生する。測定信号は、複数の周波数及び所定の時間長を有するように発生される。測定信号の周波数は、所定の周波数帯域幅にわたって連続値を有してもよく、離散値を有してもよい。測定信号は、例えば、先頭からの時間経過に応じて変化する周波数を有してもよく、例えば、チャープ信号(スイープ信号)であってもよい。測定信号は、部分的に、例えばその先頭において、一定の周波数を有する時間区間を含んでもよい。発生された測定信号は、スイッチ回路14を介してトランスデューサ2,3に送られ、さらに、制御回路11に送られる。
【0034】
受信回路13は、スイッチ回路14を介してトランスデューサ2,3に接続される。受信回路13は、トランスデューサ2,3の一方から送信されて他方によって受信された測定信号を取得する。
【0035】
スイッチ回路14は、スイッチ14a,14bを含む。スイッチ回路14は、制御回路11の制御下で、送信回路12をトランスデューサ2,3の一方に接続し、受信回路13をトランスデューサ2,3の他方に接続する。
【0036】
入力装置15は、ユーザ入力に応じて、流体5の流量を測定することを制御回路11に指示する。入力装置15は、例えば、キーボード、スイッチ、及び/又はポインティングデバイスなどを含む。
【0037】
表示装置16は、測定された流体5の流量を表示する。
【0038】
管路4は、例えば、鋼又は合成樹脂(例えばテフロン(登録商標))からなるものであってもよい。管路4は、例えば、外径13mm及び内径8mmを有する。管路4は、より小さなサイズ(例えば、外径3mm及び内径1.6mm)を有してもよく、より大きなサイズ(例えば、外径60mm)を有してもよい。
【0039】
[流量測定装置の動作]
図2は、
図1の制御回路11によって実行される流量測定処理を示すフローチャートである。
【0040】
ステップS1において、制御回路11は、測定信号のパラメータの初期値を送信回路12に設定する。ここで、測定信号のパラメータは、測定信号の周波数及び時間長を含む。測定信号の周波数が連続値を有する場合には、測定信号のパラメータは、測定信号の中心周波数及び周波数帯域幅を含む。測定信号の周波数が離散値を有する場合には、測定信号のパラメータは、測定信号に含まれる各周波数成分を含む。測定信号のパラメータの初期値は、入力装置15を介してユーザ入力として取得されてもよく、制御回路11に接続又は内蔵されたメモリ(図示せず)から読み出されてもよい。
【0041】
ステップS2において、制御回路11は、スイッチ回路14を切り換えて、トランスデューサ2から測定信号を送信してトランスデューサ3により当該測定信号を受信し、次いで、トランスデューサ3から測定信号を送信してトランスデューサ2により当該測定信号を受信する。測定信号は、管路4の内部における流体5を介して伝搬する。送信回路12は、送信された測定信号を制御回路11にも送る。受信回路13は、受信された測定信号を制御回路11に送る。
【0042】
ステップS3において、制御回路11は、トランスデューサ2から送信された測定信号を示す基準信号と、トランスデューサ3で受信された測定信号との間の相関係数を計算し、また、トランスデューサ3から送信された測定信号を示す基準信号と、トランスデューサ2で受信された測定信号との間の相関係数を計算する。
図1の例では、制御回路11は、送信回路12によって発生された測定信号をそのまま基準信号として使用する。制御回路11は、例えば、送信された測定信号f(x)及び受信された測定信号g(x)を離散時間m=1,…,Mでそれぞれサンプリングし、離散化された測定信号f(m)及びg(m)を得る。この場合、時刻nにおける相関係数Cor(n)は例えば次式で計算される。
【0043】
【0044】
相関係数Cor(n)がピーク値になるときの時刻nは、測定信号を受信した瞬間を示す。
【0045】
ステップS4において、制御回路11は、相関係数のピーク値がしきい値Th1よりも高いか否かを判断し、YESのときはステップS7に進み、NOのときはステップS5に進む。しきい値Th1は、例えば、0.5~0.9の範囲内のいずれかの値に設定されてもよく、この範囲よりも小さな値又は大きな値に設定されてもよい。
【0046】
ステップS5において、制御回路11は、測定信号のパラメータが変更可能であるか否かを判断し、YESのときはステップS6に進み、NOのときはステップS9に進む。
【0047】
ステップS6において、制御回路11は、測定信号のパラメータを変更する。測定信号は、前述のように、測定信号の周波数及び時間長の少なくとも一方について変更される。
【0048】
図3は、第1の実施形態の第1の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M2の波形を示すグラフである。
図4は、
図3の測定信号M1,M2の周波数特性を示すグラフである。測定信号M2は、測定信号M1の時間長よりも長い時間長を有する。測定信号M1は、例えば、20マイクロ秒の時間長を有する。測定信号の時間長を増大させることにより、時間長の増大前よりも、異物による影響を低減することができる。
【0049】
図5は、第1の実施形態の第2の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M3の波形を示すグラフである。
図6は、
図5の測定信号M1,M3の周波数特性を示すグラフである。測定信号M3は、測定信号M1の送信回数よりも大きな送信回数を有する。測定信号の送信回数を増大させることにより、送信回数の増大前よりも、異物による影響を低減することができる。
【0050】
図7は、第1の実施形態の第3の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M4の波形を示すグラフである。
図8は、
図7の測定信号M1,M4の周波数特性を示すグラフである。測定信号M4は、測定信号M1の周波数帯域幅よりも長い周波数帯域幅を有する。測定信号の周波数帯域幅を増大させることにより、周波数帯域幅の増大前よりも、異物による影響を低減することができる。
【0051】
図9は、第1の実施形態の第4の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M5の波形を示すグラフである。
図10は、
図9の測定信号M1,M5の周波数特性を示すグラフである。測定信号M5は、測定信号M1の中心周波数fc(M1)よりも高い中心周波数fc(M5)を有する。測定信号の中心周波数を変更させることにより、中心周波数の変更前よりも、異物による影響を低減することができる。特に、より高い周波数帯域のほうが特徴的な周波数成分を含みやすいので、測定信号の中心周波数を増大させることにより、異物による影響を低減しやすくなる。
【0052】
図2のステップS6において測定信号のパラメータを変更した後、制御回路11は、ステップS2~S4を繰り返し、測定信号を再送信し、その相関係数を再計算する。
【0053】
図2のステップS7において、制御回路11は、測定信号の伝搬時間を計算する。ここで、制御回路11は、トランスデューサ2から測定信号を送信した瞬間から、トランスデューサ3で測定信号を受信した瞬間(すなわち、測定信号の相関係数のピーク値に達した瞬間)までの時間長Taを計算する。また、制御回路11は、トランスデューサ3から測定信号を送信した瞬間から、トランスデューサ2で測定信号を受信した瞬間(すなわち、測定信号の相関係数のピーク値に達した瞬間)までの時間長Tbを計算する。
【0054】
ステップS8において、制御回路11は、測定信号の伝搬時間に基づいて流体5の流量を計算し、流体5の流量を表示装置16に表示する。流体5の速度をvとし、音速をcとするとき、トランスデューサ2からトランスデューサ3への測定信号の伝搬時間Taは、Ta=L/(c+v・cosθ)で表される。また、トランスデューサ3からトランスデューサ2への測定信号の伝搬時間Tbは、Tb=L/(c-v・cosθ)で表される。従って、流体5の速度vは次式で表される。
【0055】
【0056】
流体5の流量Qは、管路4の断面積と、流体5の速度vとの積で表される。従って、
図1の例では、流体5の流量Qは、Q=πr
2vで表される。
【0057】
一方、ステップS9において、制御回路11は、流体5の流量を測定できなかったことを示すエラーメッセージを表示装置16に表示する。
【0058】
ステップS5~S6では、測定信号のあるパラメータを1度だけ変更してもよく、測定信号の同じパラメータを予め決められた回数だけ繰り返し変更してもよい。また、ステップS5~S6を2回目以降に実行するとき、前回に変更した測定信号のパラメータとは異なる測定信号のパラメータを変更してもよい。
【0059】
図11は、第1の実施形態の第5の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M6の波形を示すグラフである。
図12は、
図11の測定信号M1,M6の周波数特性を示すグラフである。測定信号M6は、測定信号M1の時間長よりも長い時間長を有し、さらに、測定信号M1の周波数帯域幅よりも長い周波数帯域幅を有する。多くの場合、測定信号の時間長を増大させれば、異物による影響を低減できると考えられる。しかしながら、測定信号の時間長を増大させても異物による影響を十分に低減できない場合、さらに測定信号の周波数帯域幅を増大させることにより、より確実に、異物による影響を低減することができる。
【0060】
図13は、第1の実施形態の第6の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M7の波形を示すグラフである。
図14は、
図13の測定信号M1,M7の周波数特性を示すグラフである。測定信号M7は、測定信号M1の時間長よりも長い時間長を有し、さらに、測定信号M1の中心周波数fc(M1)よりも高い中心周波数fc(M7)を有する。測定信号の時間長を増大させても異物による影響を十分に低減できない場合、さらに測定信号の中心周波数を変化させることにより、より確実に、異物による影響を低減することができる。
【0061】
図15は、第1の実施形態の第7の実施例に係る流量測定処理において使用される例示的な測定信号M1,M8の波形を示すグラフである。
図16は、
図15の測定信号M1,M8の周波数特性を示すグラフである。測定信号M8は、測定信号M1の時間長よりも長い時間長を有し、測定信号M1の周波数帯域幅よりも長い周波数帯域幅を有し、さらに、測定信号M1の中心周波数fc(M1)よりも高い中心周波数fc(M8)を有する。測定信号の2つのパラメータを変化させても異物による影響を十分に低減できない場合、さらに他のパラメータを変化させることにより、より確実に、異物による影響を低減することができる。
【0062】
本実施形態に係る流量測定装置1は、流体5が異物を含む場合であっても、
図3~
図16に示すように測定信号のパラメータを変更することにより、異物の影響を低減し、流体5の流量を高精度に測定することができる。
【0063】
流体5において異物が一時的に発生することがある。従って、測定信号のパラメータを変更した後、予め決められた時間が経過したとき、測定信号のパラメータを初期値にリセットしてもよい。
【0064】
図2のステップS4では、トランスデューサ2からトランスデューサ3に送信された測定信号に係る相関係数のピーク値と、トランスデューサ3からトランスデューサ2に送信された測定信号に係る相関係数のピーク値との両方が、しきい値Th1よりも高いか否かを判断してもよい。なお、流体5が異物を含む場合、トランスデューサ2からトランスデューサ3に送信された測定信号と、トランスデューサ3からトランスデューサ2に送信された測定信号とは、異物からほぼ同じ影響を受けると考えられる。従って、制御回路11は、ステップS4がYESになるまでは、ステップS2~S3において、トランスデューサ2,3の間で一方向にのみ測定信号を送信し、その測定信号に係る相関係数のみを計算してもよい。この場合、制御回路11は、ステップS4がYESになった後で、トランスデューサ2,3の間で他方向に測定信号を送信し、その測定信号に係る相関係数を計算し、その後、ステップS7~S8を実行する。
【0065】
図2では、測定信号の伝搬時間に基づいて流体5の流量を計算する場合について説明したが、代替として、測定信号に生じたドップラーシフトに基づいて流体5の流量を計算してもよい。送信された測定信号の周波数をfaとし、受信された測定信号の周波数をfbとする。周波数fbは、fb=fa×(c+v・cosθ)/(c-v・cosθ)で表される。流体5の速度vは、v=c/(2cosθ)・(fb-fa)/fbで表される。従って、
図1の例では、流体5の流量Qは、Q=πr
2vで表される。この場合、トランスデューサ2,3の間で測定信号を一方向のみに送信してもよい。測定信号が複数の周波数を含む場合であっても、上述したものと実質的に同様の方法で、流体5の流量を計算することができる。
【0066】
[第1の実施形態の変形例]
図17は、第1の実施形態の第1~第3の変形例に係る流量測定装置によって使用される測定信号M11~M13の周波数特性を示すグラフである。
図3~
図16では、測定信号として、先頭からの時間経過に応じて線形に増大する周波数を有するチャープ信号を用いる場合について説明した。代替として、
図17に示す測定信号M11~M13を用いてもよい。測定信号M11は、先頭からの時間経過に応じて指数的に増大する周波数を有するチャープ信号である。測定信号M12は、先頭からの時間経過に応じて線形に減少する周波数を有するチャープ信号である。測定信号M13は、先頭からの時間経過に応じて指数的に減少する周波数を有するチャープ信号である。
図3~
図17に示す測定信号M1~M13に限らず、複数の周波数及び所定の時間長を有するのであれば、他の任意の測定信号を使用可能である。周波数の初期値又は最終値は、ゼロでなくてもよい。
【0067】
図18は、第1の実施形態の第4の変形例に係る流量測定装置によって使用されるトランスデューサ2-1~2-3,3-1~3-3の配置を示す図である。流量測定装置は、複数ペアのトランスデューサ2-1~2-3,3-1~3-3の間で測定信号をそれぞれ送受信して流体5の流量をそれぞれ計算し、計算された複数の流量の平均値を計算してもよい。これにより、一対のトランスデューサ2,3のみを用いる場合よりも、流体5の流量をより高精度に計算することができる。
【0068】
図19は、第1の実施形態の第5の変形例に係る流量測定装置によって使用されるトランスデューサ2,3-1~3-3の配置を示す図である。流量測定装置は、トランスデューサ2,3-1の間で
測定信号を送受信し、トランスデューサ2,3-2の間で測定信号を送受信し、トランスデューサ2,3-3の間で測定信号を送受信し、これらの測定信号に基づいて流体5の流量をそれぞれ計算し、計算された複数の流量の平均値を計算してもよい。これにより、一対のトランスデューサ2,3のみを用いる場合よりも、流体5の流量をより高精度に計算することができる。
【0069】
図20は、第1の実施形態の第6の変形例に係る流量測定装置によって使用されるトランスデューサ2,3の他の配置を示す図である。トランスデューサ2,3は、その一方のトランスデューサから送信された測定信号が、他方のトランスデューサによって受信される前に、管路4の内面によって少なくとも1回反射されるように配置されてもよい。流体5の流れが管路4の長手方向に平行ではなく、半径方向にも速度成分を有すると、誤差が生じる。この場合、トランスデューサ2,3を
図20に示すように配置することにより、管路4の半径方向における流体5の速度成分を相殺することができ、誤差が生じにくくなる。また、トランスデューサ2,3を
図20に示すように配置することにより、流体5において伝搬する測定信号の経路長を長くすることができる。これにより、測定信号の伝搬時間をより高精度に計算し、従って、流体5の流量をより高精度に計算することができる。
【0070】
図21は、第1の実施形態の第7の変形例に係る流量測定装置によって使用されるトランスデューサ2-1,2-2,3-1,3-2の配置を示す図である。トランスデューサ2-1,2-2,3-1,3-2は、トランスデューサ2-1,3-1の間の測定信号の経路と、トランスデューサ2-2,3-2の間の測定信号の経路とが交差するように配置されてもよい。空間的な制約により、トランスデューサ2,3を
図20に示すように配置できないことがある。この場合、トランスデューサ2-1,2-2,3-1,3-2を
図21に示すように配置することにより、
図20の場合と同様に、管路4の半径方向における流体5の速度成分を相殺することができ、誤差が生じにくくなる。
【0071】
図1の流量測定装置1は、一対のトランスデューサ2,3の間で測定信号を繰り返し送受信し、これらの測定信号に基づいて流体5の流量をそれぞれ計算し、計算された複数の流量の平均値を計算してもよい。これにより、流体5の流量をより高精度に計算することができる。
【0072】
相関係数を計算するための基準信号は、前述のように、送信回路12によって発生された測定信号自体であってもよい。
【0073】
相関係数を計算するための基準信号は、送信回路12によって発生された測定信号の少なくとも一部の周波数成分を、トランスデューサ2,3の周波数特性を考慮して調整することによって生成されてもよい。トランスデューサ2,3の周波数特性に起因して、送信回路12からトランスデューサ2,3に入力される電気信号の波形と、トランスデューサ2,3から出力される音響信号の波形とは互いに異なる。同様に、トランスデューサ2,3に入力される音響信号の波形と、トランスデューサ2,3から受信回路13に入力される電気信号の波形とは互いに異なる。例えば、基準信号は、送信回路12によって発生された測定信号の複数の周波数成分のうち、トランスデューサ2,3の共振周波数付近の周波数成分を強調することによって生成されてもよい。
【0074】
相関係数を計算するための基準信号は、トランスデューサ2,3から音響信号を出力するごとに、音響信号をモニタリングすることによって生成されてもよい。
【0075】
相関係数を計算するための基準信号は、トランスデューサ2,3から出力されたいくつかの音響信号の平均をとることによって生成されてもよい。代替として、相関係数を計算するための基準信号は、理想状態においてトランスデューサ2,3に入力される音響信号をモニタリングすることによって生成されてもよい。送信回路12によって測定信号を発生するごとに測定信号(電気信号又は音響信号)をモニタリングすることは、精度の向上にはつながるが、処理の負荷が増大するという問題点がある。そこで、処理の負荷を低減するために、平均された音響信号又は理想状態における音響信号など、予め決められた基準信号を用いて相関係数を計算してもよい。
【0076】
[第1の実施形態の効果]
本実施形態に係る流量測定装置1によれば、流体5が異物を含む場合であっても、測定信号の周波数及び時間長の少なくとも一方を変更して測定信号を再送信することにより、異物の影響を低減し、流体5の流量を高精度に測定することができる。
【0077】
本実施形態に係る流量測定装置1によれば、測定信号の相関係数を計算することにより、流体5が異物を含んでいることを検出することができる。
【0078】
本実施形態に係る流量測定装置1によれば、複数の周波数及び所定の時間長を有する測定信号を用いることにより、単一周波数の信号又は短い時間長の信号を用いる場合に比べて、測定信号がノイズに埋もれにくくなり、流体5の流量を高精度に測定することができる。
【0079】
[第2の実施形態]
図22~
図23を参照して、第2の実施形態に係る流量測定装置について説明する。測定信号の相関係数の大きさは、流体の種類、異物の種類、異物の量などに応じて変化する。第2の実施形態では、このことを考慮し、相関係数と比較するしきい値の大きさを動的に変更する。
【0080】
第2の実施形態に係る流量測定装置1は、第1の実施形態に係る流量測定装置1(
図1を参照)と同様に構成され、
図22~
図23を参照して説明する流量測定処理を実行する。
【0081】
図22は、第2の実施形態に係る流量測定装置1の制御回路11によって実行される流量測定処理の第1の部分を示すフローチャートである。
図23は、第2の実施形態に係る流量測定装置1の制御回路11によって実行される流量測定処理の第2の部分を示すフローチャートである。
【0082】
図22のステップS11において、制御回路11は、測定信号のパラメータの初期値を送信回路12に設定する。ステップS12において、制御回路11は、トランスデューサ2及び3の間で測定信号を送受信する。ステップS13において、制御回路11は、送信された測定信号を示す基準信号と、受信された測定信号との間の相関係数を計算する。制御回路11は、計算した相関係数のピーク値をいったん記憶する。ステップS14において、制御回路11は、相関係数のピーク値が第1のしきい値Th1よりも高いか否かを判断し、YESのときはステップS15に進み、NOのときは
図23のステップS17に進む。ステップS15において、制御回路11は、測定信号の伝搬時間を計算する。ステップS16において、制御回路11は、測定信号の伝搬時間に基づいて流体5の流量を計算し、流体5の流量を表示装置16に表示する。
図22のステップS11~S16は、
図2のステップS1~S4,S7,S8と実質的に同様である。
【0083】
図23のステップS17において、制御回路11は、相関係数のピーク値が第2のしきい値Th2よりも高いか否かを判断し、YESのときはステップS18に進み、NOのときはステップS23に進む。第2のしきい値Th2は、第1のしきい値Th1よりも小さな値に設定される。例えば、第1のしきい値Th1が0.5に設定される場合、第2のしきい値Th2は0.1に設定されてもよい。
【0084】
ステップS18において、制御回路11は、測定信号のパラメータを変更する。ステップS18では、
図2のステップS6と同様に、測定信号の周波数及び時間長の少なくとも一方が変更される。ステップS19において、制御回路11は、トランスデューサ2及び3の間で測定信号を送受信する。ステップS20において、制御回路11は、送信された測定信号を示す基準信号と、受信された測定信号との間の相関係数を計算する。ステップS21において、制御回路11は、ステップS20で計算された相関係数のピーク値が、
図22のステップS13で計算された相関係数のピーク値に対して増大したか否かを判断し、YESのときは
図22のステップS15に進み、NOのときは
図23のステップS22に進む。ステップS21において、制御回路11は、相関係数のピーク値が実質的に増大したか否か、例えば、所定の変化量(例えば+0.2)よりも大きな変化量で増大したか否かを判断してもよい。ステップS22において、制御回路11は、第1のしきい値Th1を予め決められた大きさ、例えば0.2だけ低減する。
【0085】
図23のステップS22において第1のしきい値Th1を低減した後、制御回路11は、
図22のステップS11~S14を繰り返し、測定信号を再送信し、その相関係数を再計算する。
【0086】
図23のステップS23において、制御回路11は、測定信号のパラメータを変更する。ステップS23では、
図2のステップS6と同様に、測定信号の周波数及び時間長の少なくとも一方が変更される。ステップS24において、制御回路11は、トランスデューサ2及び3の間で測定信号を送受信する。ステップS25において、制御回路11は、送信された測定信号を示す基準信号と、受信された測定信号との間の相関係数を計算する。ステップS26において、制御回路11は、ステップS25で計算された相関係数のピーク値が、
図22のステップS13で計算された相関係数のピーク値に対して増大したか(例えば、0.2よりも大きな変化量で増大したか)否かを判断し、YESのときは
図22のステップS15に進み、NOのときは
図23のステップS27に進む。ステップS27において、制御回路11は、流体5の流量を測定できなかったことを示すエラーメッセージを表示装置16に表示する。
【0087】
図22及び
図23の流量測定処理によれば、流体の種類、異物の種類、異物の量などに応じて、第1のしきい値Th1の大きさを動的に変更することにより、流体5の流量を高精度に測定することができる。
【0088】
図23のステップS22で第1のしきい値Th1を低減しても、第1のしきい値Th1が第2のしきい値Th2よりも大きい間には、
図23のステップS18~S22を繰り返し実行してもよい。
【0089】
流体5において異物が一時的に発生することがある。従って、測定信号のパラメータを変更した後、予め決められた時間が経過したとき、測定信号のパラメータを初期値にリセットしてもよい。また、第1のしきい値Th1を低減した後、予め決められた時間が経過したとき、第1のしきい値Th1を初期値(例えば0.5)にリセットしてもよい。
【0090】
本明細書では、
図23のステップS18又はS23で測定信号のパラメータを変更する前(すなわち、
図22のステップS13)に計算された相関係数を、「第1の相関係数」ともいう。また、本明細書では、
図23のステップS18又はS23で測定信号のパラメータを変更した後(すなわち、
図22のステップS20又はS25)に計算された相関係数を、「第2の相関係数」ともいう。
【0091】
図22及び
図23では、測定信号の伝搬時間に基づいて流体5の流量を計算する場合について説明したが、代替として、第1の実施形態で説明したように、測定信号に生じたドップラーシフトに基づいて流体5の流量を計算してもよい。
【0092】
[第2の実施形態の効果]
第2の実施形態に係る流量測定装置1によれば、流体の種類、異物の種類、異物の量などに応じて、第1のしきい値Th1の大きさを動的に変更することにより、流体5の流量を高精度に測定することができる。
【0093】
[まとめ]
本開示の各側面に係る流量測定装置は、以下のように表現されてもよい。
【0094】
本開示の第1の側面に係る流量測定装置によれば、所定の断面積を有する管路4の内部における流体5の流量を測定する流量測定装置1であって、流量測定装置1は、管路4における互いに異なる位置にそれぞれ設けられた第1及び第2のトランスデューサであって、電気信号を音響信号に変換する第1のトランスデューサと、音響信号を電気信号に変換する第2のトランスデューサとに接続される。流量測定装置1は、第1のトランスデューサから、複数の周波数及び所定の時間長を有する測定信号を送信し、管路4の内部における流体5を介して、第2のトランスデューサにより測定信号を受信する。流量測定装置1は、送信された測定信号を示す基準信号と、受信された測定信号との間の第1の相関係数を計算する。流量測定装置1は、第1の相関係数のピーク値が第1のしきい値Th1よりも高いとき、測定信号に基づいて管路4の内部における流体5の流量を計算する。流量測定装置1は、第1の相関係数のピーク値が第1のしきい値Th1以下であるとき、測定信号の周波数及び時間長の少なくとも一方を変更して測定信号を再送信する。
【0095】
本開示の第2の側面に係る流量測定装置によれば、第1の側面に係る流量測定装置において、流量測定装置1は、第1の相関係数のピーク値が第1のしきい値Th1以下であるとき、測定信号の時間長を増大させる。
【0096】
本開示の第3の側面に係る流量測定装置によれば、第1又は第2の側面に係る流量測定装置において、流量測定装置1は、第1の相関係数のピーク値が第1のしきい値Th1以下であるとき、測定信号の周波数帯域幅を増大させる。
【0097】
本開示の第4の側面に係る流量測定装置によれば、第1~第3のうちの1つの側面に係る流量測定装置において、流量測定装置1は、第1の相関係数のピーク値が第1のしきい値Th1以下であるとき、測定信号の中心周波数を変更する。
【0098】
本開示の第5の側面に係る流量測定装置によれば、第1~第4のうちの1つの側面に係る流量測定装置において、測定信号は、先頭からの時間経過に応じて変化する周波数を有する。
【0099】
本開示の第6の側面に係る流量測定装置によれば、第1~第5のうちの1つの側面に係る流量測定装置において、流量測定装置1は、第1の相関係数のピーク値が第1のしきい値Th1以下であり、かつ、第1のしきい値Th1よりも小さい第2のしきい値Th2よりも高いとき、測定信号の周波数及び時間長の少なくとも一方を変更して測定信号を再送信する。流量測定装置1は、再送信された測定信号を示す基準信号と、受信された測定信号との間の第2の相関係数を計算する。流量測定装置1は、第2の相関係数のピーク値が第1の相関係数のピーク値よりも増大したとき、測定信号に基づいて管路4の内部における流体5の流量を計算する。流量測定装置1は、第2の相関係数のピーク値が第1の相関係数のピーク値よりも増大しなかったとき、第1のしきい値Th1を低減して測定信号を再送信する。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本開示によれば、所定の断面積を有する管路の内部における流体の流量を測定する流量測定装置であって、流体が異物を含む場合にもその流量を高精度に測定することができる流量測定装置が提供される。
【符号の説明】
【0101】
1…流量測定装置、
2,2-1~2-3,3,3-1~3-3…トランスデューサ、
4…管路、
5…流体、
11…制御回路、
12…送信回路、
13…受信回路、
14…スイッチ回路、
15…入力装置、
16…表示装置。