(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
H02M3/28 H
(21)【出願番号】P 2018201630
(22)【出願日】2018-10-26
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 健一
(72)【発明者】
【氏名】石垣 将紀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 広雄
(72)【発明者】
【氏名】津田 晋佑
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-014794(JP,A)
【文献】特開平08-317575(JP,A)
【文献】特開2012-070518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力交流電力を調整する第1スイッチング回路と、
前記第1スイッチング回路にトランスによって結合する第2スイッチング回路と、
前記第2スイッチング回路にトランスによって結合する第3スイッチング回路と、
前記第1スイッチング回路、前記第2スイッチング回路および前記第3スイッチング回路を制御する制御部と、を備え、
前記第2スイッチング回路には電池が接続されており、
前記第3スイッチング回路には補機系統が接続されており、
前記制御部は、
電池電流目標値と当該電池電流目標値に対する補正値とから求められた補正目標値と、前記電池に流れる電流の計測値との差異に基づいて、前記第1スイッチング回路のスイッチング位相と、前記第2スイッチング回路のスイッチング位相との差異を制御し、
前記第3スイッチング回路から前記補機系統に供給される補機電力に基づいて前記補正値を求めることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記補機電力に加え、前記補機系統に電力が供給されたことによって前記電力変換装置で生じる電力損失に基づいて、前記補正値を求めることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記電池電流目標値は、
前記電池に定格電力が供給されるとした場合における目標値であり、
前記制御部は、
前記第1スイッチング回路に定格値の前記入力交流電力が入力された場合における前記電力損失に基づいて、前記補正値を求めることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記電力損失が限界損失を超える場合の超過電力損失に基づいて、前記補正値を求めることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電力変換装置において、
電池電圧計測値が所定の切り換え電圧値以下であるときに、前記制御部は、前記補正目標値と前記電池に流れる電流の計測値との差異に基づいて、前記第1スイッチング回路のスイッチング位相と、前記第2スイッチング回路のスイッチング位相との差異を制御し、
前記電池電圧計測値が前記切り換え電圧値を超えたときに、前記制御部は、前記電池電圧計測値と基準電圧値との差異に基づいて、前記第1スイッチング回路のスイッチング位相と、前記第2スイッチング回路のスイッチング位相との差異を制御し、
前記切り換え電圧値は、前記基準電圧値よりも小さい値であることを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関し、特に、交流電力を直流電力に変換し電池に供給する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両が広く用いられている。電動車両には、駆動用モータに電力を供給するための電池が搭載されている。電動車両では回生制動によって発電した電力によって電池が充電され、プラグイン機能がある場合には、商用電源から供給される電力によって電池が充電される。また、ハイブリッド自動車では、エンジンによるジェネレータの駆動によって発電した電力によって電池が充電される。電池を充電するため、電動車両には電力変換装置が搭載される。電力変換装置は、入力電圧を適切な電圧に変換して電池に印加する。
【0003】
以下の特許文献1には、2つのスイッチング回路を各回路に接続された巻線によって磁気的に結合させ、2つのスイッチング回路の間で電力を伝送させる電力変換装置が示されている。特許文献2には、第1および第2の昇圧コンバータのパルス幅変調による力率改善を行いつつ、第1および第2の昇圧コンバータの周波数を調整することにより出力電圧を制御する電力変換装置が示されている。
【0004】
特許文献3には、力率改善回路として動作する第1のハーフブリッジ回路(スイッチング回路)と、AC/DCコンバータとして動作する第2のハーフブリッジ回路(スイッチング回路)とをトランスによって結合した電力変換回路(電力変換装置)が記載されている。第1のハーフブリッジ回路は、外部交流電源から出力される交流電力の力率を調整する。第1のハーフブリッジ回路から第2のハーフブリッジ回路には、トランスを介して電力が供給され、第2のハーフブリッジ回路は電動車両の主機電池に電力を供給する。この電力変換装置には、さらに、第2のハーフブリッジ回路にトランスによって結合した第3のハーフブリッジ回路が設けられている。第2のハーフブリッジ回路から第3のハーフブリッジ回路にはトランスを介して電力が供給され、AC/DCコンバータとして動作する第3のハーフブリッジ回路は電動車両の補機電池に電力を供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-193713号公報
【文献】特開2010-183726号公報
【文献】特開2018-14794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載された電力変換装置は、プラグイン機能を実現するために用いられる。主機電池の充電を迅速に行うため、第1のハーフブリッジ回路および第2のハーフブリッジ回路には、できるだけ大きい電力を伝送させることが望まれている。また、プラグイン機能による主機電池の充電は、電動車両が停車しているときに行われることが多く、主機電池の充電中にオーディオ機器、室内灯、空調装置等の補機の使用が可能となることが望まれている。補機を使用した場合には、第1のハーフブリッジ回路、第2のハーフブリッジ回路および第3のハーフブリッジ回路を介して補機電池または補機に電力が供給される。したがって、最大限の電力伝送によって主機電池を充電しているときには、第1ハーフブリッジ回路および第2ハーフブリッジ回路に過大な電力が伝送されてしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、電力変換装置における過大な電力伝送を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、入力交流電力を調整する第1スイッチング回路と、前記第1スイッチング回路にトランスによって結合する第2スイッチング回路と、前記第2スイッチング回路にトランスによって結合する第3スイッチング回路と、前記第1スイッチング回路、前記第2スイッチング回路および前記第3スイッチング回路を制御する制御部と、を備え、前記第2スイッチング回路には電池が接続されており、前記第3スイッチング回路には補機系統が接続されており、前記制御部は、電池電流目標値と当該電池電流目標値に対する補正値とから求められた補正目標値と、前記電池に流れる電流の計測値との差異に基づいて、前記第1スイッチング回路のスイッチング位相と、前記第2スイッチング回路のスイッチング位相との差異を制御し、前記第3スイッチング回路から前記補機系統に供給される補機電力に基づいて前記補正値を求めることを特徴とする。
【0009】
望ましくは、前記制御部は、前記補機電力に加え、前記補機系統に電力が供給されたことによって前記電力変換装置で生じる電力損失に基づいて、前記補正値を求める。
【0010】
望ましくは、前記電池電流目標値は、前記電池に定格電力が供給されるとした場合における目標値であり、前記制御部は、前記第1スイッチング回路に定格値の前記入力交流電力が入力された場合における前記電力損失に基づいて、前記補正値を求める。
【0011】
望ましくは、前記電力損失が限界損失を超える場合の超過電力損失に基づいて、前記補正値を求める。
【0012】
望ましくは、電池電圧計測値が所定の切り換え電圧値以下であるときに、前記制御部は、前記補正目標値と前記電池に流れる電流の計測値との差異に基づいて、前記第1スイッチング回路のスイッチング位相と、前記第2スイッチング回路のスイッチング位相との差異を制御し、前記電池電圧計測値が前記切り換え電圧値を超えたときに、前記制御部は、前記電池電圧計測値と基準電圧値との差異に基づいて、前記第1スイッチング回路のスイッチング位相と、前記第2スイッチング回路のスイッチング位相との差異を制御し、前記切り換え電圧値は、前記基準電圧値よりも小さい値である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電力変換装置における過大な電力伝送を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】電力損失と補機出力比率との関係を概念的に示す図である。
【
図3】制御部に構成される機能ブロックを示す図である。
【
図4】電力抑制制御のシミュレーション結果を示す図である。
【
図5】制御部に構成される機能ブロックを示す図である。
【
図6】電力損失と補機出力比率との関係を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
各図を参照して本発明の実施形態について説明する。本願明細書に示された「上」、「下」の用語は図面における上下を示し、図面に表された部品の取り付け位置を限定するものではない。また、複数の図面に示された同一の構成要素については同一の符号を付して説明の重複を避ける。
【0016】
(1)電力変換装置の構成
図1には、本発明の実施形態に係る電力変換装置の構成が示されている。電力変換装置は電動車両に搭載される。電力変換装置は、商用電源10から供給される交流電力を直流電力に変換して主機電池20に供給し、主機電池20を充電する。主機電池20は、駆動用モータジェネレータに電力を供給する。また、電力変換装置は、商用電源10から供給される交流電力を直流電力に供給し、補機電池24を充電する機能も有している。補機電池24は、オーディオ機器、室内灯、空調装置等の補機に電力を供給する電池である。
【0017】
電力変換装置は、第1スイッチング回路12、メイン・トランスTA、第2スイッチング回路14、サブ・トランスTB、第3スイッチング回路16および制御部34を備える。第1スイッチング回路12が有する電源入力端子301および302には、商用電源10が接続される。例えば、電源入力端子301および302にはコネクタが接続され、そのコネクタに外部の電力供給装置から引き出されたケーブルの先端のコネクタが接続されてもよい。
【0018】
第1スイッチング回路12および第2スイッチング回路14は、メイン・トランスTAによって結合しており、第2スイッチング回路14には主機電池20が接続されている。第2スイッチング回路14および第3スイッチング回路16は、サブ・トランスTBによって結合しており、第3スイッチング回路16には補機電池24が接続されている。制御部34は、各スイッチング回路を制御する。
【0019】
第1スイッチング回路12は、電源入力端子301、電源入力端子302、ハーフブリッジA、ハーフブリッジB、中間コンデンサCm、第1ダイオードD1および第2ダイオードD2を備える。ハーフブリッジAは、直列接続されたスイッチング素子S1およびS2を備え、ハーフブリッジB2は、直列接続されたスイッチング素子S3およびS4を備える。ハーフブリッジAおよびBは並列接続されている。スイッチング素子S1およびS2の接続点と、スイッチング素子S3およびS4の接続点との間には、プライマリ巻線L1が接続されている。ハーフブリッジAおよびBの両端には中間コンデンサCmが接続されている。
【0020】
ハーフブリッジA、ハーフブリッジBおよび中間コンデンサCmの上端には、第1ダイオードD1のカソード端子が接続されている。第1ダイオードD1のアノード端子には、第2ダイオードD2のカソード端子が接続されている。第2ダイオードD2のアノード端子は、ハーフブリッジA、ハーフブリッジBおよび中間コンデンサCmの下端に接続されている。第1ダイオードD1と第2ダイオードD2との接続点には、電源入力端子301が接続され、プライマリ巻線L1の中途点には、電源入力端子302が接続されている。ここで、プライマリ巻線L1の中途点は、プライマリ巻線L1を構成する巻線の中途の接続点(タップ)である。中途点は、巻き数が半分の点に設けられたセンタータップであってよい。
【0021】
第2スイッチング回路14は、ハーフブリッジEおよびハーフブリッジFを備える。ハーフブリッジEは、直列接続されたスイッチング素子S5およびS6を備え、ハーフブリッジFは、直列接続されたスイッチング素子S7およびS8を備える。ハーフブリッジEおよびFは並列接続されている。スイッチング素子S5およびS6の接続点と、スイッチング素子S7およびS8の接続点との間には、セカンダリ巻線L2およびプライマリ巻線L3が並列に接続されている。プライマリ巻線L1およびセカンダリ巻線L2は磁気的に結合し、メイン・トランスTAを構成する。ハーフブリッジEおよびFの上端には、出力電流計18を介して主機電池20の正極端子が接続され、ハーフブリッジEおよびFの下端には、主機電池20の負極端子が接続されている。主機電池20にはコンデンサが並列に接続されてもよい。また、主機電池20の正極端子には主機正極端子303が接続され、主機電池20の負極端子には主機負極端子304が接続されている。主機正極端子303および主機負極端子304には、駆動用モータジェネレータが接続されたパワーコントロールユニットが接続される。
【0022】
第3スイッチング回路16は、ハーフブリッジGおよびハーフブリッジHを備えるハーフブリッジGは、直列接続されたスイッチング素子S9およびS10を備え、ハーフブリッジHは、直列接続されたスイッチング素子S11およびS12を備える。ハーフブリッジGおよびHは並列接続されている。スイッチング素子S9およびS10の接続点と、スイッチング素子S11およびS12の接続点との間には、セカンダリ巻線L4が接続されている。プライマリ巻線L3およびセカンダリ巻線L4は磁気的に結合し、サブ・トランスTBを構成する。ハーフブリッジGおよびHの上端には、補機電流計28を介して補機電池24の正極端子が接続され、ハーフブリッジGおよびHの下端には、補機電池24の負極端子が接続されている。補機電池24にはコンデンサが並列に接続されてもよい。補機電池24の正極には補機正極端子305が接続され、補機電池24の負極には補機負極端子306が接続されている。補機正極端子305および補機負極端子306には、オーディオ機器、室内灯、空調装置等の補機が接続される。
【0023】
第1スイッチング回路12、第2スイッチング回路14および第3スイッチング回路16のそれぞれに含まれる各スイッチング素子にはダイオードが接続されている。すなわち、各ハーフブリッジを構成する2つのスイッチング素子のうち上側のスイッチング素子には、これら2つのスイッチング素子の接続点の側をアノードとしてダイオードが並列に接続され、下側のスイッチング素子には、これら2つのスイッチング素子の接続点の側をカソードとしてダイオードが並列に接続されている。各スイッチング素子には、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が用いられてよい。
【0024】
(2)第1スイッチング回路の動作
第1スイッチング回路12は、商用電源10から電力変換装置に入力される交流電力の力率を調整する力率改善回路として動作する。スイッチング素子S1~S4は、制御部34の制御によって次のように動作する。
【0025】
スイッチング素子S1がオフからオンになったときは、スイッチング素子S2はオンからオフになり、スイッチング素子S1がオンからオフになったときは、スイッチング素子S2はオフからオンになる。すなわち、ハーフブリッジAを構成するスイッチング素子S1およびS2は交互オンオフする。同様に、ハーフブリッジBを構成するスイッチング素子S3およびS4も交互にオンオフする。ハーフブリッジAのスイッチング位相とハーフブリッジBのスイッチング位相との間には180°の差異がある。ただし、スイッチング素子S1がオンオフする位相をハーフブリッジAのスイッチング位相と定義し、スイッチング素子S3がオンオフする位相をハーフブリッジBのスイッチング位相と定義する。各スイッチング素子のスイッチング周期は、商用電源10が出力する交流電圧の周期よりも短い。
【0026】
商用電源10によって、電源入力端子302に対し電源入力端子301に正の電圧が印加されている正の半周期では、第1ダイオードD1が導通し、第2ダイオードD2が遮断されるようにハーフブリッジAおよびBがスイッチングする。すなわち、正の半周期では、電源入力端子301が、中間コンデンサCm、ハーフブリッジAおよびハーフブリッジBの上端側に接続され、これらの下端側から切り離された状態と等価となる。
【0027】
商用電源10によって、電源入力端子301に対し電源入力端子302に正の電圧が印加されている負の半周期では、第2ダイオードD2が導通し、第1ダイオードD1が遮断されるようにハーフブリッジAおよびBがスイッチングする。すなわち、負の半周期では、電源入力端子301が、中間コンデンサCm、ハーフブリッジAおよびハーフブリッジBの下端側に接続され、これらの上端側から切り離された状態と等価となる。
【0028】
正の半周期および負の半周期のいずれにおいても、第1スイッチング回路12およびプライマリ巻線L1は2相のDC/DCコンバータ回路として動作する。これによって、中間コンデンサCmには上側の端子から下側の端子に電流が流れ、中間コンデンサCmは上側の端子を正として充電される。
【0029】
ハーフブリッジAおよびBのスイッチングによって、正の半周期では、商用電源10から電源入力端子301に流入し、電源入力端子302から商用電源10に流出する電流が流れる。負の半周期では、商用電源10から電源入力端子302に流入し、電源入力端子301から商用電源10に流出する電流が流れる。
【0030】
この入力電流はプライマリ巻線L1の漏れインダクタンスによって平滑される。ハーフブリッジAおよびBのスイッチングのデューティ比(周波数を一定としたときのパルス幅)を、電源入力端子301および302に印加される電圧瞬時値に応じて変化させることで、商用電源10から出力される電圧の時間波形に入力電流の時間波形が近似される。すなわち、電源入力端子301および302に流れる入力電流の時間波形は、商用電源10の出力電圧の波形に近似され、商用電源10から第1スイッチング回路12に入力される電力の力率が0に近付けられる。このように、第1スイッチング回路12は、入力交流電力の力率を調整し、入力交流電力を調整する。
【0031】
(3)第2スイッチング回路の動作
第2スイッチング回路14の動作について説明する。ハーフブリッジEを構成するスイッチング素子S5およびS6は交互にオンオフし、ハーフブリッジFを構成するスイッチング素子S7およびS8もまた交互にオンオフする。ハーフブリッジEのスイッチング位相とハーフブリッジFのスイッチング位相との間には180°の差異がある。ただし、スイッチング素子S5がオンオフする位相をハーフブリッジEのスイッチング位相と定義し、スイッチング素子S7がオンオフする位相をハーフブリッジFのスイッチング位相と定義する。
【0032】
第1スイッチング回路12からプライマリ巻線L1に印加された電圧に応じて、セカンダリ巻線L2の両端に電圧が現れる。この電圧は、スイッチング素子S5およびS6の接続点と、スイッチング素子S7およびS8の接続点との間に印加される。ハーフブリッジEおよびFのスイッチングによって、主機電池20には正極端子から流入する電流が流れ、主機電池20が充電される。
【0033】
商用電源10から第1スイッチング回路12、メイン・トランスTA、および第2スイッチング回路14を介して主機電池20に供給される電力は、第1スイッチング回路12のスイッチング位相(ハーフブリッジAのスイッチング位相)から第2スイッチング回路14のスイッチング位相(ハーフブリッジEのスイッチング位相)を減じた位相差φ1に応じて定まる。すなわち、位相差φ1が正の方向に増加する程、主機電池20に供給される電力は大きくなる。
【0034】
(4)第3スイッチング回路の動作
第3スイッチング回路16の動作について説明する。ハーフブリッジGを構成するスイッチング素子S9およびS10は交互にオンオフし、ハーフブリッジHを構成するスイッチング素子S11およびS12もまた交互にオンオフする。ハーフブリッジGのスイッチング位相とハーフブリッジHのスイッチング位相との間には180°の差異がある。ただし、スイッチング素子S9がオンオフする位相をハーフブリッジGのスイッチング位相と定義し、スイッチング素子S11がオンオフする位相をハーフブリッジHのスイッチング位相と定義する。
【0035】
第2スイッチング回路14からプライマリ巻線L3に印加された電圧に応じて、セカンダリ巻線L4の両端に電圧が現れる。この電圧は、スイッチング素子S9およびS10の接続点と、スイッチング素子S11およびS12の接続点との間に印加される。ハーフブリッジGおよびHのスイッチングによって、補機電池24には正極端子から流入する電流が流れ、補機電池24が充電される。
【0036】
主機電池20から第2スイッチング回路14、サブ・トランスTB、および第3スイッチング回路16を介して補機電池24に供給される電力は、第2スイッチング回路14のスイッチング位相(ハーフブリッジEのスイッチング位相)から第3スイッチング回路16のスイッチング位相(ハーフブリッジGのスイッチング位相)を減じた位相差φ2に応じて定まる。すなわち、位相差φ2が正の方向に増加する程、補機電池24に供給される電力は大きくなる。
【0037】
(5)電力抑制制御
本実施形態に係る電力変換装置では電力抑制制御が行われる。この制御は、商用電源10から電力変換装置に定格電力が入力され、主機電池20が充電されている状態において、さらに補機が使用され、補機電池24および補機の少なくとも一方に電力が供給された場合の制御である。補機電池24または補機に供給された電力と、補機の使用によって電力変換装置において生じる電力損失(損失増分)が、主機電池20に供給される電力から差し引かれる。なお、以下の説明では、補機電池24および補機を併せたものを「補機系統」という。補機系統に電力が供給されることで、補機電池24および補機の少なくとも一方に電力が供給される。
【0038】
補機の使用によって電力変換装置で生じる損失増分について
図2を参照して説明する。
図2には、電力損失P
loss_0と補機出力比率r
0との関係がグラフによって概念的に示されている。横軸は補機出力比率r
0を示し、縦軸は電力損失P
loss_0を示す。補機出力比率r
0は、補機電力P
sub_0および出力電力P
out_0を加算した値に対する、補機電力P
sub_0の比率である。補機電力P
sub_0は補機系統に供給される電力であり、出力電力P
out_0は主機電池20に供給される電力である。
図2における末尾の下付き符号「_0」および「0」は、計測値でない理論上の値であることを示す。
【0039】
補機系統に電力が供給されていないときは、補機出力比率r
_0は0である。補機出力比率r
0が0であるときは、電力損失P
loss_0は基準損失P
zである。補機系統に電力が供給され、補機出力比率r
0が増加するに従って電力損失P
loss_0も増加する。
図2には、基準損失P
zに対する電力損失P
loss_0の増加量が損失増分ΔP
loss_0として示されている。
【0040】
電力抑制制御に際して制御部34は、予め定められた定格電力が主機電池20に供給されるときの主機電流目標値iout
*(電池電流目標値)を決定する。制御部34は、補機電流計28から補機電流計測値ibatを取得し、補機電圧計26から補機電圧計測値Vbatを取得する。そして、補機電流計測値ibatおよび補機電圧計測値Vbatの積から、補機電力計測値Psubを求める。また、制御部34は、出力電流計18から出力電流計測値ioutを取得し、出力電圧計22から出力電圧計測値Voutを取得する。そして、出力電流計測値ioutおよび出力電圧計測値Voutの積から出力電力計測値Poutを求める。
【0041】
図3には、電力抑制制御が行われる際に、制御部34に構成される機能ブロックが示されている。テーブル参照部50には損失テーブルが記憶されている。損失テーブルは、補機出力比率r
0に対し、電力変換装置で生じる損失増分ΔP
loss_0(
図2)を対応付けたものである。テーブル参照部50には、補機電力計測値P
subおよび出力電力計測値P
outが入力される。テーブル参照部50は、補機電力計測値P
subおよび出力電力計測値P
outに基づいて、補機出力比率r=P
sub/(P
out+P
sub)を求める。テーブル参照部50は、損失テーブルを参照して、補機出力比率rに対応する損失増分ΔP
lossを取得し加算器52に出力する。なお、テーブル参照部50は、損失テーブルを記憶する代わりに、補機出力比率rに対して損失増分ΔP
lossを取得する関数のアルゴリズムを実行してもよい。加算器52には、損失増分ΔP
lossの他、補機電力計測値P
subが入力されている。加算器52は、補機電力計測値P
subおよび損失増分ΔP
lossを加算して抑制電力P
sを求め、乗算器54に出力する。乗算器54は、抑制電力P
sに主機電圧計測値V
outの逆数1/V
outを掛け合わせて補正値dを求め、第1減算器56に出力する。
【0042】
第1減算器56には、補正値dの他、主機電流目標値iout
*が入力されている。第1減算器56は、主機電流目標値iout
*から補正値dを減算し、補正目標値としての抑制電流目標値iout
*dを求め、第2減算器58に出力する。第2減算器58には、抑制電流目標値iout*dの他、出力電流計測値ioutが入力されている。第2減算器58は、抑制電流目標値iout*dから出力電流計測値ioutを減算して制御誤差eを求め、比例積分器60に出力する。比例積分器60は制御誤差eを積分して目標位相差φ1*を求める。制御部34は、第1スイッチング回路12のスイッチング位相から第2スイッチング回路14のスイッチング位相を減じた位相差φ1が、目標位相差φ1*に近付けられ、あるいは、一致するように第1スイッチング回路12および第2スイッチング回路14に含まれる各スイッチング素子(S1~S8)をスイッチングする。
【0043】
このような制御によれば、補正値dが主機電流目標値iout
*から減算された抑制電流目標値iout
*dに出力電流計測値ioutが近付けられ、または合わせられるように各スイッチング素子が制御される。これによって、補機系統に電力が供給された場合には、補機電力および損失増分を加算した電力だけ主機電池20に供給される電力が低下し、商用電源10から電力変換装置に入力される電力が増加することが回避される。これによって、主機電池20の充電中に補機が使用された場合であっても、第1スイッチング回路12または第2スイッチング回路14に過大な電力が伝送されることが回避される。
【0044】
図4には電力抑制制御のシミュレーション結果が示されている。
図4(a)には、出力電流計測値i
out、抑制電流目標値i
out
*dおよび補正値dが示されている。横軸は時間を示し、縦軸は出力電流計測値i
out、抑制電流目標値i
out
*dおよび補正値dの各値を示す。
図4(b)には、商用電源10から電力変換装置に入力される入力電力P
in、出力電力計測値P
outおよび補機電力計測値P
subが示されている。横軸は時間を示し、縦軸は入力電力P
in、出力電力計測値P
outおよび補機電力計測値P
subの各値を示す。ただし、各計測値はシミュレーション上の計測値である。
【0045】
時間t
0より前の時間帯では補機は用いられておらず、時間0~時間t
0までの間は、主機電池20の充電のみが行われ、時間t
0に補機の使用が開始されている。
図4(b)に示されているように、時間t
0以降では補機電力P
subが増加し、時間t
1以降に、ほぼ一定値となっている。
【0046】
これに伴い、
図4(a)に示されているように補正値dもまた時間t
0以降に増加し、時間t
1以降に、ほぼ一定値となっている。主機電流計測値i
outおよび抑制電流目標値i
out
*dは、補正値dの増加に伴って時間t
0以降に減少し、時間t
1以降に、ほぼ一定値となっている。
【0047】
図4(b)に示されているように、時間t
0より前の時間帯では、入力電力P
inは主機電池20の充電と共に増加して定格値P
rに達しており、主機電力計測値P
outは電力損失によって入力電力P
inよりも小さい値となっている。時間t
0以降に入力電力P
inは、若干減少するものの再び定格値P
rに収束している。
【0048】
(6)電力カット制御
本実施形態に係る電力変換装置では電力カット制御が行われてもよい。この制御は、商用電源10によって主機電池20が充電されているときに補機系統に電力が供給され、これによって生じる電力損失が限界損失を超える場合に、限界損失からの超過分である超過電力損失を、主機電池20に供給される電力から差し引くものである。ここで、限界損失とは、電力変換装置で許容される最大限の電力損失をいう。
【0049】
電力カット制御に際して制御部34は、定格電力が主機電池20に供給されるときの主機電流目標値iout
*(電池電流目標値)を決定する。制御部34は、補機電流計28から補機電流計測値ibatを取得し、補機電圧計26から補機電圧計測値Vbatを取得する。そして、補機電流計測値ibatおよび補機電圧計測値Vbatの積から、補機電力計測値Psubを求める。また、制御部34は、出力電流計18から出力電流計測値ioutを取得し、出力電圧計22から出力電圧計測値Voutを取得する。そして、出力電流計測値ioutおよび出力電圧計測値Voutの積から出力電力計測値Poutを求める。
【0050】
図6には、電力損失P
loss_0と補機出力比率r
0との関係がグラフによって概念的に示されている。この図に示されているように、補機出力比率r
0が増加するに従って、電力損失P
loss_0は増加する。補機出力比率r
0が限界値r
limitを超えると、電力損失P
loss_0は限界損失P
loss_limitを超える。
図6には、電力損失P
loss_0が限界損失P
loss_limitを超えた超過分が、超過電力損失ΔP
out_0として示されている。
【0051】
図5には、電力カット制御が行われる際に、制御部34に構成される機能ブロックが示されている。テーブル参照部50には超過損失テーブルが記憶されている。超過損失テーブルは、補機出力比率r
0に超過電力損失ΔP
out_0を対応付けたものである。超過損失テーブルでは、補機出力比率r
0が限界値r
limit以下であるときは、補機出力比率r
0に0が対応付けられ、補機出力比率r
0が限界値r
limitを超えるときは、補機出力比率r
0に超過電力損失ΔP
out_0が対応付けられている。
【0052】
テーブル参照部62には、補機電力計測値Psubおよび出力電力計測値Poutが入力される。テーブル参照部62は、補機電力計測値Psubおよび出力電力計測値Poutに基づいて、補機出力比率r=Psub/(Pout+Psub)を求める。テーブル参照部62は、超過損失テーブルを参照して、補機出力比率rに対応する超過電力損失ΔPoutを取得する。テーブル参照部62は、超過電力損失ΔPoutを出力電力計測値Poutで除して超過電流Δioutを求め、加算器66に出力する。なお、テーブル参照部50は、損失テーブルを記憶する代わりに、補機出力比率rに対して超過電力損失ΔPoutを取得する関数のアルゴリズムを実行してもよい。
【0053】
加算器66には、超過電流Δioutの他、補機補正値iin_subが入力されている。補機補正値iin_subは、乗算器64によって補機電力計測値Psubに主機電力計測値Voutの逆数を乗じたものである。すなわち、補機補正値iin_subは、補機電力計測値Psubを主機電力計測値Voutで除したものであり、主機電池20に流れる電流のうち補機系統に電力が供給されることによって減少が見込まれる電流成分に相当する。
【0054】
加算器66は、補機補正値iin_subおよび超過電流Δioutを加算して限界時補正値δを求め、第1減算器56に出力する。第1減算器56には、限界時補正値δの他、主機電流目標値iout
*が入力されている。第1減算器56は、主機電流目標値iout
*から限界時補正値δを減算し、補正目標値としての限界時電流目標値iout
*δを求め、第2減算器58に出力する。第2減算器58には、限界時電流目標値iout
*δの他、出力電流計測値ioutが入力されている。第2減算器58は、限界時電流目標値iout
*δから出力電流計測値ioutを減算して制御誤差εを求め、比例積分器60に出力する。比例積分器60は制御誤差εを積分して目標位相差φ1*を求める。制御部34は、第1スイッチング回路12のスイッチング位相から第2スイッチング回路14のスイッチング位相を減じた位相差φ1が、目標位相差φ1*に近付けられ、あるいは、一致するように第1スイッチング回路12および第2スイッチング回路14に含まれる各スイッチング素子(S1~S8)をスイッチングする。
【0055】
このような電力カット制御によれば、商用電源10によって主機電池20が充電されているときに補機系統に電力が供給された場合、主機電池20に供給される電力が補機電力だけ抑制されると共に、電力変換装置で発生する電力損失が限界損失Ploss_limit以下に抑制される。
【0056】
(7)充電制御
上述の電力抑制制御および電力カット制御は、主機電池20に流れる電流を目標値に近付け、または一致させる定電流制御である。主機電池20の出力電圧が所定の基準電圧に達した後において定電流制御を行った場合には、過大な電力が主機電池20に供給され、主機電池20の性能が劣化する可能性がある。
【0057】
そこで、電力変換装置では、主機電池20の出力電圧が切り換え電圧値Vch以下であるときに定電流制御を行い、主機電池20の出力電圧が切り換え電圧値Vchを超えたときは定電圧制御を行う。ここで、定電圧制御は、主機電池20に一定の基準電圧を印加する制御である。また、切り換え電圧値Vchは基準電圧値よりも小さい電圧である。
【0058】
このような充電制御に際して、制御部34は、主機電圧計測値Voutが切り換え電圧値Vch以下であるか否かを判定する。制御部34は、主機電圧計測値Voutが切り換え電圧値Vch以下であるときは、上述の電力抑制制御または電力カット制御、すなわち、定電流制御を行う。一方、主機電圧計測値Voutが切り換え電圧値Vchを超えたときは、制御部34は定電圧制御を行う。
【0059】
定電圧制御において制御部34は、基準電圧値Vsから主機電圧計測値Voutを減算した主機電圧誤差ε1を比例積分し、目標位相差φ1*を求める。制御部34は、第1スイッチング回路12のスイッチング位相から第2スイッチング回路14のスイッチング位相を減じた位相差φ1が、目標位相差φ1*に近付けられ、あるいは、一致するように第1スイッチング回路12および第2スイッチング回路14に含まれる各スイッチング素子(S1~S8)をスイッチングする。
【0060】
また、制御部34は、所定の補機基準電圧値Vasから補機電圧計測値Vsubを減算した補機電圧誤差ε2を比例積分し、目標位相差φ2*を求める。制御部34は、第2スイッチング回路14のスイッチング位相から第3スイッチング回路16のスイッチング位相を減じた位相差φ2が、目標位相差φ2*に近付けられ、あるいは、一致するように第3スイッチング回路16に含まれる各スイッチング素子(S9~S12)をスイッチングする。
【0061】
本実施形態に係る電力変換装置では、主機電圧計測値Voutが切り換え電圧値Vchに達したときに、充電制御の方式が定電流制御から定電圧制御に切り換えられる。切り換え電圧値Vchは、定電圧制御において主機電池20に印加される電圧値である基準電圧値Vsよりも小さい。これによって、充電方式の切り換え時における充電電圧の変動が抑制され、主機電池20に与えられる電気的な負担が軽減される。
【符号の説明】
【0062】
10 商用電源、12 第1スイッチング回路、14 第2スイッチング回路、16 第3スイッチング回路、18 出力電流計、20 主機電池、22 出力電圧計、24 補機電池、26 補機電圧計、28 補機電流計、301,302 電源入力端子、303 主機正極端子、304 主機負極端子、305 補機正極端子、306 補機負極端子、34 制御部、50,62 テーブル参照部、52,66 加算器、54,64 乗算器、56 第1減算器、58 第2減算器、60 比例積分器。S1~S12 スイッチング素子、D1 第1ダイオード、D2 第2ダイオード、TA メイン・トランス、L1,L3 プライマリ巻線、L2,L4 セカンダリ巻線、TB サブ・トランス。