(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】圧着グリップ
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20220728BHJP
B21C 1/00 20060101ALI20220728BHJP
F16B 4/00 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
E04G21/12 104C
B21C1/00 H
F16B4/00 E
(21)【出願番号】P 2021090119
(22)【出願日】2021-05-28
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000252056
【氏名又は名称】日鉄SGワイヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】森石 慶久
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-345656(JP,A)
【文献】特開2021-038601(JP,A)
【文献】特開平09-170294(JP,A)
【文献】特開平06-272384(JP,A)
【文献】特開2004-036206(JP,A)
【文献】実開平06-018521(JP,U)
【文献】特開平09-170293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/12
E04C 5/12
E02D 5/80
E01D 1/00
B21C 1/00
F16B 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒状の圧着グリップと、
前記圧着グリップに内挿する円筒状のインサートと、からなり、
前記インサートは、外周面にインサート外周面歯を形成し、内周面にインサート内周面歯を形成し、
前記インサートの前記インサート
内周面歯の高さは、挿通する被覆緊張材の被覆材の厚さよりも高
く、
前記インサートには、一方の端部から、軸心について対称であり他方の端部に達しない2本のスリットを形成し、他方の端部からは一方の端部の前記スリットから円周方向に90度回転した位置に一方の端部に達しないスリットを形成する、
圧着グリップ。
【請求項2】
請求項
1に記載の圧着グリップにおいて、
前記インサートのそれぞれのスリットの軸方向の長さは、前記インサートの長さの半分以上の長さであることを特徴とする、
圧着グリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PC工法における緊張材の端部に設ける圧着グリップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
PC工法における緊張材として、特に防塵性能が求められる施工箇所には、鋼材の外周を樹脂製の被覆材により被覆した被覆緊張材が用いられる。
また、緊張材において、特に固定側の張力保持には、緊張材の端部に予め圧着固定する圧着グリップが用いられる。
【0003】
圧着グリップとしては、例えば特許文献1に記載の圧着グリップが知られている。
また、特許文献2には、樹脂製の被覆材により被覆した緊張材に固定する圧着グリップが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-82043号公報
【文献】特開平10-325245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の圧着グリップは、内周面にねじ山を形成したスリーブを内挿した状態でダイスを通して縮径し、ねじ山を緊張材に食い込ませて圧着固定している。しかし、特許文献1の対象となる緊張材は被覆材のない緊張材であり、被覆緊張材に用いたとしても、ねじ山が被覆材にしか食い込まず、被覆材がスリップして引張加重に耐えられないおそれがある。
このため、特許文献2においては、予め被覆材をカッターやカンナ等で切除してむき出し部を形成し、その部分に圧着グリップを固定している。しかし、被覆材を切除する作業が必要であり、また、むき出し部が定着具の外部に露出してしまうと、その部分が腐食し、緊張材の強度が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、被覆緊張材の被覆材を切除する必要のない、圧着グリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本願の第1発明は、略円筒状の圧着グリップと、前記圧着グリップに内挿する円筒状のインサートと、からなり、前記インサートは、外周面にインサート外周面歯を形成し、内周面にインサート内周面歯を形成し、前記インサートの前記インサート内周面歯の高さは、挿通する被覆緊張材の被覆材の厚さよりも高く、前記インサートには、一方の端部から、軸心について対称であり他方の端部に達しない2本のスリットを形成し、他方の端部からは一方の端部の前記スリットから円周方向に90度回転した位置に一方の端部に達しないスリットを形成する、圧着グリップを提供する。
本願の第2発明は、第1発明の圧着グリップにおいて、前記インサートのそれぞれのスリットの軸方向の長さは、前記インサートの長さの半分以上の長さであることを特徴とする、圧着グリップを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果の少なくとも一つを得ることができる。
(1)インサート内周面歯の高さは、被覆緊張材の被覆厚さより高いため、被覆緊張材の被覆材を貫通し、鋼材に食い込ませることができる。インサート内周面歯は鋼材に食い込むため、被覆材のスリップが生じることがない。
(2)インサートは、スリットを設けることで圧着時にスリットの分だけ被覆緊張材に押し込まれるため、高さのあるインサート内周面歯であっても被覆緊張材の鋼材に食い込ませることができる。
(3)インサートの全長に亘ってスリットは形成されているため、インサートは全長に亘って被覆緊張材に押し込まれ、被覆緊張材と一体となり、圧着不良が生じることがない。
(4)歯を用いて一体として引張加重を保持するため、短い定着長さでも大きな引張加重に対抗することができ、圧着グリップを小さくすることができる。
(5)被覆材を切除する作業が不要であり、容易に圧着加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図5】本発明の圧着グリップと被覆緊張材の断面図(1)
【
図6】本発明の圧着グリップと被覆緊張材の断面図(2)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
<1>圧着グリップの構成
本発明の圧着グリップ1は略円筒状であり、円筒状のインサート2を内挿する(
図1)。
圧着グリップ1は後述の圧着加工を行うため、延性の高い鋼材からなる。
一方、インサート2は内包する緊張材と接し、緊張材の引張加重に対抗するものであるため、高硬度であり延性の低い鋼材からなる。
インサート2は、端部から軸方向にスリット21を形成する。
スリット21は、一方の端部から、軸心について対称(点対称)となる2本のスリット21を形成し、他方の端部からは一方の端部のスリット21から円周方向に90度回転した位置にスリット21を形成する。それぞれのスリット21の軸方向の長さは、インサート2の長さの半分以上の長さとする。
【0012】
<2>圧着グリップとインサートの関係
インサート2のインサート外周面22には、インサート外周面歯22aを形成し、インサート内周面23にはインサート内周面歯23aを形成する(
図2)。
インサート内周面歯23aはその高さh23を、挿通する被覆緊張材の被覆材32の厚さより高くし、インサート外周面歯22aの高さh22よりも高くする。
【0013】
<3>圧着グリップの圧着
図3のように、被覆緊張材3はインサート2に挿通される。
圧着グリップ1の被覆緊張材3への圧着は、インサート2を事前に圧着グリップ1に挿入しておき、次に被覆緊張材3をインサート2に挿通し、専用の圧着機のプランジャー5でダイス4に通して押し出し加工して行う(
図4)。ダイス4には加工前の圧着グリップ1の外径よりも小径の加工孔が形成されており、押出加工により圧着グリップ1が縮径される。
【0014】
<4>圧着状態
圧着グリップ1の圧着加工前は、圧着グリップ1にインサート2を挿入し、インサート2に被覆緊張材3を挿入できるように、圧着グリップの内径、インサートの外径と内径、被覆緊張材3の外径が規定される(
図5(a))。
押出加工により、圧着グリップ1と内部のインサート2は同時に縮径される。このとき、延性の低いインサート2は縮径量が小さいが、インサート2はスリット21を有し、縮径に合わせてスリット21の分、被覆緊張材3に押し込まれる(
図5(b))。
【0015】
インサート2のインサート外周面22には、インサート外周面歯22aを形成している。圧着グリップ1の縮径により、高硬度であり延性の低いインサート2側のインサート外周面歯22aが、延性の高い圧着グリップ1の内周面11に食い込むことで、圧着グリップ1とインサート2は一体となる。
そして、インサート内周面23のインサート内周面歯23aは、インサート2が被覆緊張材3に押し込まれることで、被覆材32を貫通し、鋼材31に食い込む。インサート内周面歯23aの高さh23は、被覆材23の厚さよりも高いため、被覆材32を貫通し、鋼材31に食い込ませることができる。インサート内周面歯23aは鋼材31に食い込むため、被覆材32のスリップが生じることがない。
また、高硬度のインサート2は、スリット21を設けることで縮径に合わせてスリット21の分、被覆緊張材3に押し込まれるため、高さのあるインサート内周面歯23aを被覆緊張材3の鋼材31に食い込ませることができる。
さらに、スリット21は一方の端部側と他方の端部側でそれぞれ90度回転した位置に設け、その長さはインサート2の長さの半分以上の長さである。このため、インサート2の全長に亘ってスリット21は形成されており、インサート2は全長に亘って被覆緊張材3に押し込まれ、被覆緊張材3と一体となり、圧着不良が生じることもない。
【0016】
本発明の圧着グリップ1は、圧着グリップ1とインサート2はグリップ内周面11にインサート外周面歯22aが食い込ませることで、また、インサート2と被覆緊張材3とはインサート内周面歯23aを被覆緊張材3に食い込ませることでそれぞれ一体となる。歯を用いて一体として引張加重を保持するため、短い定着長さでも大きな引張加重に対抗することができ、圧着グリップ1を小さくすることができる。
また、被覆材32を切除する作業も不要であり、容易に圧着加工することができる。
そして、被覆材32を切除して鋼材31を露出した部分がなく、鋼材31の腐食による被覆緊張材3の強度が低下するおそれもない。
【符号の説明】
【0017】
1:圧着グリップ、11:グリップ内周面
2:インサート、21:スリット、22:インサート外周面、23:インサート内周面
3:被覆緊張材、31:鋼材、32:被覆材
4:ダイス
5:プランジャー
【要約】
【課題】被覆緊張材の被覆材を切除する必要のない、圧着グリップを提供すること。
【解決手段】略円筒状の圧着グリップ1と、圧着グリップ1に内挿する円筒状のインサート2と、からなり、インサート2は、外周面22にインサート外周面歯を形成し、内周面23にインサート内周面歯を形成し、インサート2のインサート内周面歯の高さは、挿通する被覆緊張材の被覆材の厚さよりも高い。
【選択図】
図1