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特許7113598パティキュレートフィルタの故障検出装置及び故障検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】パティキュレートフィルタの故障検出装置及び故障検出方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/023 20060101AFI20220729BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20220729BHJP
   G01N 27/22 20060101ALI20220729BHJP
   G01N 27/00 20060101ALN20220729BHJP
【FI】
F01N3/023 K
G01N27/04 Z
G01N27/22 Z
G01N27/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017138425
(22)【出願日】2017-07-14
(65)【公開番号】P2019019749
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 健介
(72)【発明者】
【氏名】小池 和彦
(72)【発明者】
【氏名】宮川 豪
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-191694(JP,A)
【文献】特開2004-293413(JP,A)
【文献】特開2005-307880(JP,A)
【文献】国際公開第2012/053097(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/063364(WO,A1)
【文献】特開2011-185167(JP,A)
【文献】特開2011-226295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/02~ 3/038
F01N 11/00
G01N 27/04
G01N 27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(E)の排気通路(EX)に配設されたパティキュレートフィルタ(101)の故障検出装置(1)であって、
上記パティキュレートフィルタを通過した排気中の粒子状物質の量に対応する信号を出力する粒子状物質検出部(20、200)を有するセンサ(2)と、
上記内燃機関の負荷(L)を検出する負荷検出部(10A)と、
上記負荷検出部により検出された上記負荷を判定実行閾値(L0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行するか否かを決定する判定実行決定部(10B)と、
上記判定実行決定部により、故障判定を実行すると決定されたときに、上記粒子状物質検出部の出力値(S)を、故障判定閾値(S0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する故障判定部(10C)と、を備えており、
上記判定実行決定部において、上記判定実行閾値は、上記内燃機関の回転数毎の上記粒子状物質の排出量と上記負荷との関係に基づいて、上記粒子状物質の排出量が急増する負荷領域の値に設定され、検出された上記負荷が上記判定実行閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行すると決定されると共に、
上記故障判定部における上記故障判定閾値は、上記負荷領域において上記パティキュレートフィルタの故障時に上記粒子状物質検出部に到達する上記粒子状物質の量に基づいて設定され、故障判定を実行すると決定される都度、上記出力値と上記故障判定閾値とを比較して、上記出力値が上記故障判定閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障と判定される、パティキュレートフィルタの故障検出装置。
【請求項2】
上記故障判定部は、故障判定を実行すると決定される都度、上記内燃機関の運転条件に応じて上記故障判定閾値を設定する、請求項1に記載のパティキュレートフィルタの故障検出装置。
【請求項3】
上記負荷検出部により検出された上記負荷に基づいて、上記粒子状物質検出部による検出期間を設定し、上記検出期間における上記出力値の積算値(ΣS)を算出する積算値算出部(10E)を、さらに備え、
上記故障判定部は、上記積算値を、上記故障判定閾値である積算閾値(ΣS0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する、請求項1又は2に記載のパティキュレートフィルタの故障検出装置。
【請求項4】
上記判定実行決定部は、上記負荷が上記判定実行閾値以上である期間(T)が、期間閾値(T0)以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行すると決定し、
上記積算値算出部は、上記負荷が上記判定実行閾値以上である期間に基づいて、上記検出期間を設定する、請求項3に記載のパティキュレートフィルタの故障検出装置。
【請求項5】
内燃機関(E)の排気通路(EX)に配設されたパティキュレートフィルタ(101)の故障検出装置(1)であって、
上記パティキュレートフィルタを通過した排気中の粒子状物質の量に対応する信号を出力する粒子状物質検出部(20、200)を有するセンサ(2)と、
上記内燃機関の負荷(L)の平均値(Lave)を検出する負荷検出部(10A)と、
上記負荷検出部により検出された上記負荷の平均値を判定実行閾値(L0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行するか否かを決定する判定実行決定部(10B)と、
上記負荷の平均値が算出された期間に基づいて、上記粒子状物質検出部による検出期間を設定し、上記検出期間における上記粒子状物質検出部の出力値(S)の積算値(ΣS)を算出する積算値算出部(10E)と、
上記判定実行決定部により、故障判定を実行すると決定されたときに、上記出力値の積算値を、故障判定閾値(S0)である積算閾値(ΣS0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する故障判定部(10C)と、を備えており、
上記判定実行決定部は上記判定実行閾値である平均閾値(Lave0)を、上記内燃機関の回転数毎の上記粒子状物質の排出量と上記負荷との関係に基づいて、上記粒子状物質の排出量が急増する負荷領域を含む領域における平均の値に設定し上記負荷の平均値が、上記平均閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行すると決定すると共に、
上記故障判定部における上記積算閾値は、上記負荷領域を含む領域において、上記パティキュレートフィルタの故障時に上記粒子状物質検出部に到達する上記粒子状物質の量に基づいて設定され、故障判定を実行すると決定される都度、上記出力値の積算値と上記積算閾値とを比較して、上記出力値の積算値が上記積算閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障と判定される、パティキュレートフィルタの故障検出装置。
【請求項6】
上記粒子状物質検出部は、上記排気中の粒子状物質の量に対応する信号を連続的に出力可能である電荷検出式のセンサ素子として構成される、請求項1~5のいずれか1項に記載のパティキュレートフィルタの故障検出装置。
【請求項7】
内燃機関(E)の排気通路(EX)に配設されたパティキュレートフィルタ(101)の故障検出方法であって、
上記パティキュレートフィルタの下流側に、上記パティキュレートフィルタを通過した排気中の粒子状物質の量に対応する信号を出力する粒子状物質検出部(20、200)を有するセンサ(2)を配設し、
上記内燃機関の負荷(L)を検出する負荷検出工程(S11、S21)と、
上記負荷検出工程により検出された上記負荷を判定実行閾値(L0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行するか否かを決定する判定実行決定工程(S12、S22~S24)と、
上記判定実行決定工程により、故障判定を実行すると決定されたときに、上記粒子状物質検出部の出力値(S)を、故障判定閾値(S0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する故障判定工程(S15~S17、S27~S29)と、を備えており、
上記判定実行決定工程において、上記判定実行閾値は、上記内燃機関の回転数毎の上記粒子状物質の排出量と上記負荷との関係に基づいて、上記粒子状物質の排出量が急増する負荷領域の値に設定され、検出された上記負荷が上記判定実行閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行すると決定されると共に、
上記故障判定工程における上記故障判定閾値は、上記負荷領域において上記パティキュレートフィルタの故障時に上記粒子状物質検出部に到達する上記粒子状物質の量に基づいて設定され、故障判定を実行すると決定される都度、上記出力値と上記故障判定閾値とを比較して、上記出力値が上記故障判定閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障と判定される、パティキュレートフィルタの故障検出方法。
【請求項8】
上記故障判定工程において、故障判定を実行すると決定される都度、上記内燃機関の運転条件に応じて上記故障判定閾値を設定する、請求項7に記載のパティキュレートフィルタの故障検出方法。
【請求項9】
上記負荷検出工程により検出された上記負荷に基づいて、上記粒子状物質検出部による検出期間を設定し、上記検出期間における上記出力値の積算値(ΣS)を算出する積算値算出工程(S25)をさらに備え、
上記故障判定工程(S27~S29)は、上記積算値を、上記故障判定閾値である積算閾値(ΣS0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する、請求項7又は8に記載のパティキュレートフィルタの故障検出方法。
【請求項10】
上記判定実行決定工程(S22~S24)は、上記負荷が上記判定実行閾値以上である期間(T)が、期間閾値(T0)以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行すると決定し、
上記積算値算出工程(S25)は、上記負荷が上記判定実行閾値以上である期間に基づいて、上記検出期間を設定する、請求項9に記載のパティキュレートフィルタの故障検出方法。
【請求項11】
内燃機関(E)の排気通路(EX)に配設されたパティキュレートフィルタ(101)の故障検出方法であって、
上記パティキュレートフィルタの下流側に、上記パティキュレートフィルタを通過した排気中の粒子状物質の量に対応する信号を出力する粒子状物質検出部(20、200)を有するセンサ(2)を配設し、
上記内燃機関の負荷(L)の平均値(Lave)を検出する負荷検出工程(S31)と、
上記負荷検出工程により検出された上記負荷の平均値を判定実行閾値(L0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行するか否かを決定する判定実行決定工程(S32)と、
上記負荷の平均値が算出された期間に基づいて、上記粒子状物質検出部による検出期間を設定し、上記検出期間における上記粒子状物質検出部の出力値(S)の積算値(ΣS)を算出する積算値算出工程(S33)と、
上記判定実行決定工程により、故障判定を実行すると決定されたときに、上記出力値の積算値を、故障判定閾値(S0)である積算閾値(ΣS0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する故障判定工程(S35~S37)と、を備えており、
上記判定実行決定工程(S32)は上記判定実行閾値である平均閾値(Lave0)を、上記内燃機関の回転数毎の上記粒子状物質の排出量と上記負荷との関係に基づいて、上記粒子状物質の排出量が急増する負荷領域を含む領域における平均の値に設定し上記負荷の平均値が、上記平均閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行すると決定すると共に、
上記故障判定工程における上記積算閾値は、上記負荷領域を含む領域において上記パティキュレートフィルタの故障時に上記粒子状物質検出部に到達する上記粒子状物質の量に基づいて設定され、故障判定を実行すると決定される都度、上記出力値の積算値と上記積算閾値とを比較して、上記出力値の積算値が上記積算閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障と判定される、パティキュレートフィルタの故障検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタの故障検出装置及び故障検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の排出規制が厳しくなっており、排ガス通路にパティキュレートフィルタを設けて粒子状物質(すなわち、Particulate Matter;以下、適宜PMと称する)を捕集すると共に、粒子状物質を検出するPMセンサを設けて、パティキュレートフィルタの故障を速やかに検出することが要求されている。粒子状物質は、導電性のSoot(すなわち、煤)を主成分とし、未燃の燃料やエンジンオイルに由来するSOF(すなわち、Soluble Organic Fraction;可溶性有機成分)を含む混合物である。
【0003】
PMセンサを用いた故障検出装置では、通常、判定処理を周期的に実行して、パティキュレートフィルタの下流側に排出されたPM量を検出し、予め設定した閾値と比較している。例えば、特許文献1には、PMセンサに堆積した粒子状物質を除去するPM除去処理実行部と、PM除去処理から所定期間後のPMセンサ出力と所定の閾値との比較により、パティキュレートフィルタ故障の有無を判定する故障判定部と、所定期間が経過するまでの吸入空気量の平均値を算出する平均吸入空気量算出部と、平均吸入空気量に基づいて閾値を設定する閾値設定部と、を備えるパティキュレートフィルタの故障検出装置が開示されている。
【0004】
特許文献1において、所定期間は、例えば、積算吸入空気量算出部によって算出される吸入空気量の積算値が所定の判定実行値に達するまでの期間である。判定実行値は、好適には、吸入空気量の平均値に応じて変更され、判定実行値設定部は、平均吸入空気量算出部によって算出される吸入空気量の平均値が小さいときは、平均値が大きいときに比べて判定実行値をより小さい値に設定する。
【0005】
PMセンサは、一般に、絶縁性基体の表面に一対の電極を配置した電気抵抗式のセンサ素子を備え、素子表面に粒子状物質が堆積して一対の電極間が導通すると、PM堆積量に応じた電流出力が検出される。また、特許文献2に記載されるように、電荷検出式のセンサ部を備える非堆積型のPMセンサがあり、例えば、高電圧電界中を通過させることにより排気中の粒子状物質を帯電させ、帯電量に応じて流れる電流を検出する。このようなPMセンサをパティキュレートフィルタの下流側に配置することで、センサ出力に基づき、故障の有無を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5382210号公報
【文献】特許第5902808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、運転条件の変化により吸入空気量が変化すると、排気と共にPMセンサに取り込まれるPM量も変化する。そのため、電気抵抗式のセンサ素子を備えるPMセンサでは、例えば、吸入空気量が小さい運転条件において、センサ出力が得られるまでに時間がかかり、検出感度が低下する。その対策として、特許文献1では、排気流量と相関する吸入空気量の平均値に応じて、故障判定のための閾値を変化させている。さらに、PM流量が少ないほどPM捕集率は高くなるとして、吸入空気量の平均値が小さいときには、判定実行までの所定期間に相当する吸入空気量の積算値を小さくしている。
【0008】
しかしながら、吸入空気量が小さい運転条件では、PM排出量の絶対量も少なくなるために、閾値に到達するまでの所定期間が短く設定されると、故障判定が困難となる場合がある。例えば、パティキュレートフィルタに微小クラックが生じた場合のように、粒子状物質のすり抜けがわずかであると、パティキュレートフィルタを通過してPMセンサに到達するPM量が所定期間に閾値に到達せず、故障と判定されないことがある。また、電気抵抗式のセンサ素子は、通常、故障判定に先立ちセンサ再生を行っており、故障判定が間欠的となるので、パティキュレートフィルタの故障を即時に検出できないおそれがある。
【0009】
電荷検出式のセンサ部を用いたPMセンサは、センサ出力が連続的に得られる利点があり、リアルタイムでの故障判定が可能になる。一方で、エンジン負荷の変動が大きい運転条件では、センサ出力が排気脈動の影響を受けて変動しやすくなる。そのため、出力ズレや誤差が大きくなりやすく、パティキュレートフィルタの故障判定を精度よく行うことが難しい。
【0010】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、PMセンサの検出方式によらず、センサ出力に基づく故障検出を高い精度で行い、パティキュレートフィルタの故障を早期に検出できるパティキュレートフィルタの故障検出装置及びパティキュレートフィルタの故障検出方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、
内燃機関(E)の排気通路(EX)に配設されたパティキュレートフィルタ(101)の故障検出装置(1)であって、
上記パティキュレートフィルタを通過した排気中の粒子状物質の量に対応する信号を出力する粒子状物質検出部(20)を有するセンサ(2、200)と、
上記内燃機関の負荷(L)を検出する負荷検出部(10A)と、
上記負荷検出部により検出された上記負荷を判定実行閾値(L0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行するか否かを決定する判定実行決定部(10B)と、
上記判定実行決定部により、故障判定を実行すると決定されたときに、上記粒子状物質検出部の出力値(S)を、故障判定閾値(S0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する故障判定部(10C)と、を備えており、
上記判定実行決定部において、上記判定実行閾値は、上記内燃機関の回転数毎の上記粒子状物質の排出量と上記負荷との関係に基づいて、上記粒子状物質の排出量が急増する負荷領域の値に設定され、検出された上記負荷が上記判定実行閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行すると決定されると共に、
上記故障判定部における上記故障判定閾値は、上記負荷領域において上記パティキュレートフィルタの故障時に上記粒子状物質検出部に到達する上記粒子状物質の量に基づいて設定され、故障判定を実行すると決定される都度、上記出力値と上記故障判定閾値とを比較して、上記出力値が上記故障判定閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障と判定される、パティキュレートフィルタの故障検出装置にある。
本発明の他の態様は、
内燃機関(E)の排気通路(EX)に配設されたパティキュレートフィルタ(101)の故障検出装置(1)であって、
上記パティキュレートフィルタを通過した排気中の粒子状物質の量に対応する信号を出力する粒子状物質検出部(20、200)を有するセンサ(2)と、
上記内燃機関の負荷(L)の平均値(Lave)を検出する負荷検出部(10A)と、
上記負荷検出部により検出された上記負荷の平均値を判定実行閾値(L0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行するか否かを決定する判定実行決定部(10B)と、
上記負荷検出部により検出された上記負荷の平均値が算出された期間に基づいて、上記粒子状物質検出部による検出期間を設定し、上記検出期間における上記粒子状物質検出部の出力値(S)の積算値(ΣS)を算出する積算値算出部(10E)と、
上記判定実行決定部により、故障判定を実行すると決定されたときに、上記出力値の積算値を、故障判定閾値(S0)である積算閾値(ΣS0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する故障判定部(10C)と、を備えており、
上記判定実行決定部は上記判定実行閾値である平均閾値(Lave0)を、上記内燃機関の回転数毎の上記粒子状物質の排出量と上記負荷との関係に基づいて、上記粒子状物質の排出量が急増する負荷領域を含む領域における平均の値に設定し上記負荷の平均値が、上記平均閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行すると決定すると共に、
上記故障判定部における上記積算閾値は、上記負荷領域を含む領域において、上記パティキュレートフィルタの故障時に上記粒子状物質検出部に到達する上記粒子状物質の量に基づいて設定され、故障判定を実行すると決定される都度、上記出力値の積算値と上記積算閾値とを比較して、上記出力値の積算値が上記積算閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障と判定される、パティキュレートフィルタの故障検出装置にある。
【0012】
本発明のさらに他の態様は、
内燃機関(E)の排気通路(EX)に配設されたパティキュレートフィルタ(101)の故障検出方法であって、
上記パティキュレートフィルタの下流側に、上記パティキュレートフィルタを通過した排気中の粒子状物質の量に対応する信号を出力する粒子状物質検出部(20、200)を有するセンサ(2)を配設し、
上記内燃機関の負荷(L)を検出する負荷検出工程(S11、S21)と、
上記負荷検出工程により検出された上記負荷を判定実行閾値(L0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行するか否かを決定する判定実行決定工程(S12、S22~S24)と、
上記判定実行決定工程により、故障判定を実行すると決定されたときに、上記粒子状物質検出部の出力値(S)を、故障判定閾値(S0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する故障判定工程(S15~S17、S27~S29)と、を備えており、
上記判定実行決定工程において、上記判定実行閾値は、上記内燃機関の回転数毎の上記粒子状物質の排出量と上記負荷との関係に基づいて、上記粒子状物質の排出量が急増する負荷領域の値に設定され、検出された上記負荷が上記判定実行閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行すると決定されると共に、
上記故障判定工程における上記故障判定閾値は、上記負荷領域において上記パティキュレートフィルタの故障時に上記粒子状物質検出部に到達する上記粒子状物質の量に基づいて設定され、故障判定を実行すると決定される都度、上記出力値と上記故障判定閾値とを比較して、上記出力値が上記故障判定閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障と判定される、パティキュレートフィルタの故障検出方法にある。
本発明のさらに他の態様は、
内燃機関(E)の排気通路(EX)に配設されたパティキュレートフィルタ(101)の故障検出方法であって、
上記パティキュレートフィルタの下流側に、上記パティキュレートフィルタを通過した排気中の粒子状物質の量に対応する信号を出力する粒子状物質検出部(20、200)を有するセンサ(2)を配設し、
上記内燃機関の負荷(L)の平均値(Lave)を検出する負荷検出工程(S31)と、
上記負荷検出工程により検出された上記負荷の平均値を判定実行閾値(L0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行するか否かを決定する判定実行決定工程(S32)と、
上記負荷の平均値が算出された期間に基づいて、上記粒子状物質検出部による検出期間を設定し、上記検出期間における上記粒子状物質検出部の出力値(S)の積算値(ΣS)を算出する積算値算出工程(S33)と、
上記判定実行決定工程により、故障判定を実行すると決定されたときに、上記出力値の積算値を、故障判定閾値(S0)である積算閾値(ΣS0)と比較することで、上記パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する故障判定工程(S35~S37)と、を備えており、
上記判定実行決定工程(S32)は上記判定実行閾値である平均閾値(Lave0)を、上記内燃機関の回転数毎の上記粒子状物質の排出量と上記負荷との関係に基づいて、上記粒子状物質の排出量が急増する負荷領域を含む領域における平均の値に設定し上記負荷の平均値が、上記平均閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障判定を実行すると決定すると共に、
上記故障判定工程における上記積算閾値は、上記負荷領域を含む領域において上記パティキュレートフィルタの故障時に上記粒子状物質検出部に到達する上記粒子状物質の量に基づいて設定され、故障判定を実行すると決定される都度、上記出力値の積算値と上記積算閾値とを比較して、上記出力値の積算値が上記積算閾値以上であるときに、上記パティキュレートフィルタの故障と判定される、パティキュレートフィルタの故障検出方法にある。
【発明の効果】
【0013】
上記一態様の故障検出装置において、判定実行決定部は、負荷検出部により検出された内燃機関の負荷と判定実行閾値とを比較し、例えば、負荷が判定実行閾値以上になると、パティキュレートフィルタの故障判定の実行を決定する。すると、故障判定部が、PMセンサの粒子状物質検出部によって検出される出力値を読み込み、故障判定閾値と比較する。故障判定閾値は、例えば、基準故障パティキュレートフィルタからのPM排出量に相当する所定値であり、読み込んだ出力値が故障判定閾値以上であるとき、故障と判定することができる。
【0014】
このように、負荷に基づく判定実行決定部を備えることで、例えば、粒子状物質の排出量が比較的大きく精度の高い検出が可能な運転条件となったときにのみ、故障判定部を作動させて、粒子状物質検出部の出力値から、故障判定を行うことができる。そして、この故障検出装置を用いて、上記他の態様の故障検出方法における、判定実行決定工程と、故障判定工程と、を順次実行することができる。これにより、適切なタイミングで故障判定を実施することができ、その結果、検出誤差や出力ばらつきを小さくすることができるので、速やかにパティキュレートフィルタの故障検出を行うことができる。
【0015】
以上のごとく、上記態様によれば、PMセンサの検出方式によらず、センサ出力に基づく故障検出を高い精度で行い、パティキュレートフィルタの故障を早期に検出できるパティキュレートフィルタの故障検出装置及びパティキュレートフィルタの故障検出方法を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態1における、パティキュレートフィルタの故障検出装置を備える内燃機関の概略構成図。
図2】実施形態1における、PMセンサの粒子状物質検出部であるセンサ素子の構成例を示す概略斜視図。
図3】実施形態1における、故障検出装置に設けられるPMセンサの構成例を示す全体断面図。
図4】実施形態1における、センサ素子の作動を説明するための図。
図5】実施形態1における、センサ素子のセンサ出力特性を説明するための図。
図6】実施形態1における、故障検出装置において実行されるパティキュレートフィルタの故障検出処理のフローチャート図。
図7】実施形態1における、エンジンの負荷とPM排出量との関係を示す図。
図8】実施形態1における、エンジンの出力とPM排出量との関係をエンジンの回転数毎に示す図。
図9】実施形態1における、エンジン負荷の時間変化の一例を示すタイムチャート図。
図10】実施例1における、故障検出装置を用いて計測されたPM量と故障検出率の関係を、参照例1及び比較例1と比較して示す図。
図11】実施例1における、PMセンサの粒子状物質検出部であるセンサ部の構成例を示す概略図。
図12】実施形態1における、故障検出装置に設けられるPMセンサの他の構成例を示す概略断面図。
図13】実施形態2における、故障検出装置において実行されるパティキュレートフィルタの故障検出処理のフローチャート図。
図14】実施形態2における、エンジン負荷とセンサ出力積算値の時間変化の一例を示すタイムチャート図。
図15】実施例2における、故障検出装置を用いて計測されたPM量と故障検出率の関係を、参照例2及び比較例2と比較して示す図。
図16】実施形態3における、故障検出装置において実行されるパティキュレートフィルタの故障検出処理のフローチャート図。
図17】実施形態3における、エンジン負荷とその平均値の時間変化の一例を示すタイムチャート図。
図18】実施例3における、故障検出装置を用いて計測されたPM量と故障検出率の関係を、参照例3及び比較例3と比較して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態1)
次に、パティキュレートフィルタの故障検出装置の実施形態1について、図1図9を参照して説明する。図1に示すように、内燃機関は、例えば、ディーゼルエンジン(以下、エンジンと称する)Eであり、過給機T/Cを備えた4気筒直噴エンジンとして構成されている。その排気通路である排気管EXには、パティキュレートフィルタ101が配設されており、パティキュレートフィルタ101の故障を検出するために、故障検出装置1が設けられる。排気管EXには、パティキュレートフィルタ101の上流側に、酸化触媒102が配置されている。パティキュレートフィルタ101の下流側には、センサとしてのPMセンサ2が配置されており、パティキュレートフィルタ101を通過して下流側へ排出される粒子状物質を取り込み、PM量に対応する信号を出力する。
【0018】
図2に示すように、PMセンサ2は、粒子状物質検出部として、堆積型の電気抵抗式センサ素子20を有している。また、センサ素子20と一体に、センサ素子20に堆積する粒子状物質を加熱するためのヒータ部3が設けられる。センサ素子20は、細長い直方体形状の絶縁性基体23の一端側の表面(例えば、図2の左端側の上面)に、櫛歯状の一対の電極21、22を有する。センサ素子2の内部には、一対の電極21、22に対応する位置に、ヒータ部3を構成するヒータ電極31が埋設されている。一対の電極21、22から長手方向に延びるリード線21a、22aは、センサ素子2の他端側において端子部21b、22bを介して外部の電圧印加部24に接続し、一対の電極21、22に所定の検出用電圧を印加可能となっている。同様に、ヒータ電極31は、センサ素子2の他端側へ引き出されるリード線31a、31bを介して、図示しない車載バッテリ等の電源部に接続される。絶縁性基体23は、例えば、アルミナ等の絶縁性セラミックスからなり、一対の電極21、22、ヒータ電極31は、例えば、Pt等の貴金属電極からなる。
【0019】
図3に示すように、PMセンサ2は、センサ素子20が収容されるハウジングHと、ハウジングHの先端側に取付けられる排気側カバーC1と、基端側に取付けられる大気側カバーC2とを有している。センサ素子20は、その長手方向がPMセンサ2の軸方向Xと一致し、一対の電極21、22を有する一端側が、排気側カバーC1内に位置するように、筒状絶縁体H1を介してハウジングHの内周に保持固定される。PMセンサ2は、ハウジングHの外周に設けられるネジ部によって、排気管EX(例えば、図1参照)の管壁に取り付けられる。これにより、センサ素子20の一端側は、排気側カバーC1に保護された状態で、排気管EX内に突出位置し、排気管EX内を流通する排気に晒される。排気側カバーC1は、例えば、インナカバーC11とアウタカバーC12からなる二重容器状で、両カバーC11、C12に設けた通孔C11a、C12a、を介して、排気が流通可能となっている。
【0020】
ここで、図4を参照して、PMセンサ2によるPM量の検出原理を説明する。電気抵抗式のPMセンサ2において、センサ素子20の絶縁性基体23の一表面には、一対の電極21、22が互いに離間し、かつ対向して配設されている。検出期間中には、一対の電極21、22間に、電圧印加部24によって所定の検出用電圧が印加されており、一対の電極21、22間に発生する電界によって、センサ素子20の近傍に浮遊している粒子状物質(すなわち、図中のPM)が静電捕集される。図4の左図に示す状態では、電極21、22間が導通しておらず、センサ出力は0となる(すなわち、(1)未出力域)。絶縁性基体23の表面に、導電性の粒子状物質が徐々に堆積していき、図4の中図に(2)示すように、一対の電極21、22間が粒子状物質によって接続されると導電パスが形成される(すなわち、(2)出力域)。
【0021】
したがって、このときに流れる電流値を、電流計24にて検出することで、PM堆積量に応じた出力値が得られる。図5に示すように、電気抵抗式のPMセンサ2の出力特性は、導電パスが形成されるまでセンサ出力が0となる不感期間を有し、その後、センサ出力が立ち上がると、PM堆積量の増加と共に電極間抵抗が低下することで、センサ出力が上昇する。そこで、不感期間に対応するPM堆積量以上の所定の故障判定閾値S0を設定することで、PM堆積量に基づくパティキュレートフィルタ101の故障判定が可能になる。あるいは、不感期間の長さをパラメータとして、故障判定閾値S0を設定することもできる。その後は、図4の右図に示すように、センサ素子20の表面に堆積する粒子状物質を加熱して除去することにより、PMセンサ2を再生することで、次回検出が可能になる(すなわち、(3)加熱・再生)。
【0022】
図1において、PMセンサ2の検出信号は、エンジン制御装置(以下、ECUと称する)100に接続されるセンサ制御部10に随時入力される。
故障検出装置1は、
ECU100に設けられ、エンジンEの負荷Lを検出する負荷検出部10Aと、
センサ制御部10に設けられ、負荷検出部10Aにより検出された負荷Lを判定実行閾値L0と比較することで、判定実行閾値L0以上であるときに、パティキュレートフィルタ101の故障判定を実行すると決定する判定実行決定部10Bと、
判定実行決定部10Aにより、故障判定を実行すると決定されたときに、センサ素子20の出力値Sを、故障判定閾値S0と比較することで、パティキュレートフィルタ101の故障の有無を判定する故障判定部10Cと、を備えている。
判定実行決定部10Bは、具体的には、負荷Lが判定実行閾値L0以上であるときに、パティキュレートフィルタ101の故障判定を実行すると決定する。
また、センサ制御部10は、ヒータ部3を作動させて、センサ素子20を加熱する加熱制御部10Dを備えており、例えば、故障判定後にセンサ素子20を、堆積した粒子状物質を燃焼除去可能な再生温度Tに加熱して、センサ素子20を再生することができる。
これら各部を用いて故障検出装置1により実行される故障検出処理の詳細は、後述する。
【0023】
エンジンEには、各気筒に対応させて燃料噴射弁INJが設けられ、ECU100からの指令を受ける駆動装置103によって駆動されて、燃焼室内に燃料を直接噴射する。燃焼後の排気は、排気通路EXに排出され、酸化触媒102及びパティキュレートフィルタ101を通過する間に浄化される。パティキュレートフィルタ101は、例えば、公知のウォールフロータイプのフィルタ構造を有し、排気に含まれる粒子状物質を捕集する。具体的には、コーディエライト等からなる多孔質セラミックスハニカム構造体内に、ガス流路となる多数のセルを形成し、多数のセルの入口側又は出口側を互い違いとなるように目封じした構成のものが好適に用いられる。
【0024】
酸化触媒102は、例えば、コーディエライト等からなる多孔質セラミックスハニカム構造体からなる担体表面に、酸化触媒成分を担持して構成される。酸化触媒102の上流側には、排気中に燃料を添加するための燃料添加弁104が配設され、例えば、パティキュレートフィルタ101の再生時に、燃料添加弁104から供給される燃料を酸化触媒102上にて酸化燃焼させて、排気を昇温することができる。
【0025】
吸気通路である吸気管INには、アクセル開度に応じて吸入空気量を調整するスロットルバルブ105の上流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ106が設けられる。過給機107は、排気管EXに設けられるタービン107aが、吸気管INに設けられるコンプレッサ107bを駆動して、吸入空気を所定の過給圧となるように圧縮する。また、排気管EXと吸気管INとの間は、EGR弁108aを備えるEGR通路108にて接続されており、EGR弁108aの開度に応じた流量の排気が吸気管INへ再循環される。EGR通路108の下流側の吸気管INには、吸気圧センサ109が配設される。
【0026】
ECU100には、入出力インターフェイス100Aを介して、エアフローメータ106、吸気圧センサ109からの検出信号の他、図示しないアクセル開度センサ、エンジン回転数センサ等の各種センサからの検出信号が入力される。ECU100は、これら各種センサからの検出信号に基づいて、エンジンEの運転状態を知り、予め記憶されたプラグラムや運転条件毎のマップ値等に基づいて、最適なエンジン燃焼状態となるように、エンジン各部を制御する。駆動装置103は、ECU100からの指令信号に基づいて、燃料噴射弁INJ、燃料添加弁104、スロットルバルブ105、タービン107a、EGR弁108aを、それぞれ所定のタイミングで駆動する。このような制御により、過給圧やEGR量が適正に制御されて、排気と共に排出される粒子状物質やNOx等を低減させることが可能になる。また、排気管EXに設置されるパティキュレートフィルタ101により、粒子状物質が捕集されるので、外部への放出が抑制される。
【0027】
ところが、パティキュレートフィルタ101に何らかの故障が生じた場合には、パティキュレートフィルタ101の捕集機能が低下して、下流側に粒子状物質が排出されるおそれがある。ここで、パティキュレートフィルタ101の「故障」とは、パティキュレートフィルタ101を構成する多孔質セラミックスハニカム構造体に割れが生じることによる部分的な機能喪失のみならず、微小クラックや劣化による捕集率の低下、その他の異常を含む。故障検出装置1は、このような故障を速やかに検出して運転者に知らせるために、パティキュレートフィルタ101の下流に漏れ出す粒子状物質をPMセンサ2にて検出し、センサ制御部10にて故障判定を行う。
【0028】
故障検出装置1は、具体的には、負荷検出部10A、判定実行決定部10B、及び故障判定部10Cが、以下の負荷検出工程、判定実行決定工程、及び故障判定工程を、順次実行することにより、パティキュレートフィルタ101の故障を検出する。
すなわち、負荷検出御部10Aは、例えば、ECU100に入力される各種センサからの検出信号に基づいて、エンジンEの負荷Lを検出する負荷検出工程を実行する。
次いで、判定実行決定部10Bが、負荷検出工程により検出された負荷Lを判定実行閾値L0と比較する判定実行決定工程を実行する。具体的には、負荷Lが判定実行閾値L0以上であるときに、パティキュレートフィルタ101の故障判定を実行すると決定する。
そして、故障判定部10Cが、判定実行決定工程により、故障判定を実行すると決定されたときに、故障判定工程を実行する。具体的には、PMセンサ2のセンサ素子20からの出力値Sを、故障判定閾値S0と比較することで、パティキュレートフィルタ101の故障の有無を判定することができる。
その後、再び、故障検出処理を実行する場合には、それに先立ち、加熱制御部10Dにより、ヒータ部3を作動させて、センサ素子20を加熱する再生工程を実行することができる。再生工程では、センサ素子20を、堆積した粒子状物質を燃焼除去可能な再生温度Tに加熱する。
【0029】
以下に、これら各工程について詳細に説明する。図6に示されるフローチャートは、故障検出装置1において周期的に実行される故障検出処理の一例であり、ステップS11が負荷検出工程に、ステップS12が判定実行決定工程に、ステップS15~S17が故障判定工程に、それぞれ対応する。
【0030】
まず、故障検出処理が開始されると、ステップS11において、その時点におけるエンジンEの負荷Lを検出する。エンジンEの負荷Lは、ECU100に入力される各種センサの検出結果に基づいて、例えば、回転数、吸入空気量、EGR率、冷却水温等をパラメータとして、ECU100に予め記憶したマップ等を参照することにより検出することができる。あるいは、ECU100の演算部において、これらパラメータに基づく演算を行って、負荷Lを算出するようにしてもよい。
【0031】
次に、ステップS12へ進んで、検出されたエンジンEの負荷Lが、実行判定閾値L0以上か否かを判定する(すなわち、L≧L0?)。一般に、エンジンEの負荷LはPM排出量と相関があり、例えば、図7に示すように、回転数2000rpmの定常条件において負荷L(単位:%)を、増加させた場合(例えば、10%~100%)、負荷Lの増加と共にPM排出量は増加する。特に、負荷Lが60%を超えると、PM排出量は急増している。ここで、図8に示すように、一定の回転数(例えば、回転数2000rpm)を保つために必要なエンジン出力は、そのときの負荷Lに応じて変化する。また、負荷Lが大きくなり出力が大きくなるほど、PM排出量が増加する。この傾向は、回転数が変化しても同様であり、概ね、負荷Lが70%以上となる出力領域で、PM排出量の増加が顕著となる。
【0032】
そこで、予め設定される実行判定閾値L0を、例えば、負荷70%とし、ステップS11にて検出された負荷Lが、実行判定閾値L0以上、すなわち、負荷70%以上であるときに、ステップS12を肯定判定する。図8中に示される関係に基づいて、例えば、エンジンEの回転数が低いときには、回転数が高いときよりも、実行判定閾値L0となる負荷比率がおおきくなるように、変更することもできる。また、よりPM排出量が多くなる回転数領域、例えば、回転数1500rpm以上を条件として、ステップ12を肯定判定するようにしてもよい。実行判定閾値L0は、例えば、ECU100の記憶領域にマップ値として予め記憶しておいてもよく、あるいは、回転数、吸入空気量、EGR率、冷却水温等をパラメータとして、ECU100の演算部にて、その都度算出して設定してもよい。
【0033】
ステップS12が肯定判定されたら、故障判定の実行に適した高負荷運転条件と判断して、判定実行を決定し、ステップS13へ進む。ステップS12が否定判定された場合、すなわち、L<L0であるときは、以降の故障判定を行わずに、本処理を一旦終了する。その間のセンサ出力のデータは、棄却される。ステップS13では、PMセンサ2のセンサ素子20からの出力値Sを読み込み、次いで、ステップS14に進んで、故障判定閾値S0を設定する。
【0034】
故障判定閾値S0は、パティキュレートフィルタ101が正常である場合のセンサ出力を超えて、明らかに故障と判定することができる所定値とする。例えば、図7図8に示すように、負荷Lが70%以上と高くPM排出量が増加している運転条件において、パティキュレートフィルタ101に微小クラック等の故障が発生したときのPM排出量に対応する故障判定閾値S0を、予め実機試験等を行って設定することができる。また、PMセンサ2に到達するPM量は、排気流量によっても変化するので、例えば、吸入空気量が大きいときには故障判定閾値S0が大きくなるように、吸入空気量に応じて調整してもよい。
【0035】
故障判定閾値S0は、例えば、センサ制御部10又はECU100の記憶領域に、エアフローメータ106によって検出される吸入空気量毎のマップ値として記憶しておくことができる。あるいは、吸入空気量等をパラメータとしてECU100の演算部にて、その都度、算出した故障判定閾値S0を、センサ制御部10に出力するようにしてもよい。
【0036】
続いて、ステップS15において、センサ出力値Sと所定の故障判定閾値S0とを比較して、センサ出力値Sが故障判定閾値S0未満か否かを判定する(すなわち、S<S0?)。ステップS15が肯定判定されたら、ステップS16に進んで、パティキュレートフィルタ101は正常と判定する。ステップS15が否定判定されたら、ステップS17に進んで、パティキュレートフィルタ101に何らかの故障が生じているとして、故障判定を行う。その後、本処理を一旦終了する。なお、ステップS17にて故障判定された場合には、別途、故障を運転者に知らせるための警告灯を点灯する等の処理を行う。
【0037】
その後、次回の故障検出処理に先立ち、センサ制御部10の加熱制御部10Dにより、ヒータ部3を作動させて、センサ素子20を加熱する再生工程を実行することができる。再生温度は、600℃以上(例えば、700℃)とすることが望ましい。あるいは、エンジンEの停止時又はアイドリングストップ等によるエンジンEの自動停止時等に、加熱制御部10Dを作動させることにより、運転継続中のセンサ再生を抑制して、故障検出可能な期間がより長くなるようにしてもよい。
【0038】
本フローチャートによる故障検出処理を、繰り返し実行することにより、PM排出量が多くなる所定の高負荷運転時のみにおいて、センサ出力値Sに基づく故障判定を実行可能となり、パティキュレートフィルタ101の故障検出の精度が向上する。
【0039】
図9に示すように、エンジン負荷の脈動が大きく、排気流動の変動が大きい運転条件では、負荷Lが実行判定閾値L0以上となる故障判定タイミング(例えば、図中に矢印で示すタイミング)が比較的高い頻度で生じる。その場合、本フローチャートに基づく故障検出処理によれば、負荷Lに応じた故障判定タイミングで確実にセンサ出力値Sが読み込まれるので、故障検出率が高くなる。ところが、従来のように、例えば、一定の時間周期で故障判定が行われる場合には、適当なタイミングで故障判定がなされない可能性が高い。そのため、PM排出量が少ない運転条件で故障判定がなされたり、その後のセンサ再生が高負荷運転時になされたりすることで、パティキュレートフィルタ101の故障が早期に検出できないおそれがある。
【0040】
(実施例1、比較例1)
その結果、図10に示すように、上記図6のフローチャートに従って故障検出処理を行った場合(すなわち、実施例1)と、従来の故障検出処理を行った場合(すなわち、比較例1)とで、故障検出率に大きな差が生じる。図10の上図における故障検出率とは、排気管EXに故障したパティキュレートフィルタ101を設置し、エンジンEをある走行モード条件で20回運転したときの、PMセンサ2による故障検出の成功率である。比較例1では、実施例1と同一のPMセンサ2を用い、走行モード全域で周期的に故障検出処理が立ち上がり、その後に再生処理を行うことで、間欠的にセンサ信号を出力させるようにして、故障判定を行った。
【0041】
また、図10の下図における計測PM量とは、比較例1と実施例1の出力信号から算出されるPM量であり、走行モード条件においてエンジンEから排出されるPM量を、定置型分析計により計測した結果(すなわち、参照例1)と比較して示している。また、計測PM量のばらつきを、図10中にエラーバーで示している。比較例1では、計測PM量が、参照例1に比べて大きく低減しており、乖離が大きいだけでなく、ばらつきも大きい。そのため、故障検出率は60%程度となっている。
【0042】
これに対して、実施例1では、計測PM量が参照例1により近くなっており、ばらつきも低減されている。これにより、故障検出率が90%程度まで、大きく向上しており、パティキュレートフィルタの故障を高精度に検出できる。
【0043】
なお、本形態では、PMセンサ2の粒子状物質検出部として、堆積型センサの一例である、電気抵抗式のセンサ素子20を用いたが、電気抵抗式以外の堆積型センサ、又は非堆積型センサを用いることもできる。ここで、堆積型センサとしては、電気抵抗式のセンサ素子20と同様に、素子表面に粒子状物質を堆積させて、PM堆積量に応じたセンサ信号を出力可能な静電容量式のセンサ素子が挙げられる。また、非堆積型センサは、素子表面に粒子状物質を堆積させずに、PM量に応じたセンサ信号を連続的に出力可能なセンサ部を有するものであり、例えば、上述した特許文献2の段落[0006]等に開示されるイオン化誘導電荷センサ、接触電荷センサ等の電荷検出式のセンサ部が挙げられる。
【0044】
図11図12に示すように、PMセンサ2の粒子状物質検出部として、非堆積型の電荷検出式センサ部200を用いた場合について、その概略構成と検出原理を説明する。
図11において、センサ部200は、イオン化誘導電荷センサの一例であり、粒子状物質PMを帯電させるPM帯電部201と、イオン203を放出するイオン放出部202とを有する。PM帯電部201は、中空筒状体の一端側にイオン放出部202が同軸的に配置されており、閉鎖端である他端側へ向けて、イオン放出部202からイオン203が放出されるようになっている。PM帯電部201の内部は、中央部にスリット204aを有する仕切壁204によって、イオン放出部202側の第1室201Aと、閉鎖端側の第2室201Bとに区画されており、第1室201Aの側壁にはPM導入口205が、第2室201Bの側壁にはPM排出口206が設けられる。
【0045】
図12にPMセンサ2の概略構成例を示すように、センサ部200は、排気側カバーC1の内側に保持された状態で、排気管EX(例えば、図1参照)の管壁に取り付けることができる。排気側カバーC1は一端閉鎖の筒状体で、センサ部200は、その長手方向が排気側カバーC1の軸方向Xと一致し、その閉鎖端側が、排気側カバーC1の閉鎖端側に位置するように配置され、排気側カバーC1の開口端側において、筒状絶縁体H1を介して保持固定される。これにより、排気側カバーC1に保護されたセンサ部200の一端側が、排気管EX内に突出位置し、排気管EX内を流通する排気に晒される。排気側カバーC1は、例えば、側面に設けた複数の通孔C11、C12を介して、排気が流通可能となっている。
【0046】
上記構成のセンサ部200において、第1室201Aに導入口205より取り入れられた粒子状物質PMは、イオン放出部202から放出されるイオン203によって帯電される(すなわち、帯電粒子PM1)。帯電粒子PM1は、スリット204aを通過して第2室201Bに導出された後、排出口206より排出される(すなわち、排出帯電粒子PM2)。このとき、イオン放出部202に供給された放電電流Idの大部分は、PM帯電部201に流れ込む(すなわち、受電電流Ir)が、電荷の一部は、排出帯電粒子PM2として排出されるため、電流ロスIlossが生じる。(すなわち、Id=Ir+Iloss)。この電流ロスIlossは、排出帯電粒子PM2の量に比例するため、電流ロスIlossを検出することで、排気管EXに存在するPM量に比例した出力信号を得ることができる。
【0047】
電荷検出式のセンサ部200は、センサ信号を連続的に出力可能であり、リアルタイムでセンサ出力が得られる。また、電気抵抗式のセンサ素子20のような不感期間を有しないので、検出可能な期間がより長くなり、リアルタイムで得られるセンサ出力を積算することで、所定の検出期間に排気管EXに排出されたPM量を検出することができる。このような非堆積型センサを用いたPMセンサ2によっても、上記図6のフローチャートに示される故障検出処理により、負荷Lに応じた故障判定タイミングで得られるセンサ出力値Sに基づいて、パティキュレートフィルタ101の故障検出を良好に実施できる。
このようなセンサ部200を備えるPMセンサ2に適した故障検出手法について、次に説明する。
【0048】
(実施形態2)
パティキュレートフィルタの故障検出装置の実施形態2について、図13図15を参照して説明する。本形態における故障検出装置1、センサ部200を備えるPMセンサ2の基本構造は、上記実施形態1と同様であるので、図示及び説明を省略し、以下、相違点を中心に説明する。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0049】
上記図9に示したように、エンジン負荷の脈動が大きい運転条件では、排気流動の変動が所定量以上になると、実際の排気中のPM量と、PMセンサ2の粒子状物質検出部からのセンサ出力値Sとの間にずれが生じやすくなることが知られている。その場合、負荷Lが実行判定閾値L0以上となるタイミングが、必ずしも故障判定の最適タイミングとならない可能性がある。特に、PMセンサ2の粒子状物質検出部が、上述した電荷検出式のセンサ部200のように、時間分解能の高い、連続的なセンサ信号を出力するセンサである場合に、負荷の脈動による瞬間的なセンサ出力のピーク変化に基づき、誤った故障判定をしてしまう可能性がある。
【0050】
そこで、本形態の故障検出装置1では、粒子状物質検出部としてセンサ部200を用いた場合において、より精度よい検出を行うために、所定の負荷Lが所定の時間以上続いた場合にのみ、故障判定を実行する。また、その間のセンサ出力値Sの積算値を故障判定に用いることで、誤検出を防止する。
そのために、上記図1中に示すように、ECU100には、エンジンEの負荷Lを検出する負荷検出部10Aに加えて、積算値算出部10Eが、さらに設けられている。
積算値算出部10Eは、負荷検出部10Aにより検出された負荷Lに基づいて、粒子状物質検出部であるセンサ部200による検出期間を設定し、この検出期間における出力値Sの積算値ΣSを算出する。
このとき、判定実行決定部10Bは、負荷Lが判定実行閾値L0以上である期間Tが、期間閾値T0以上であるときに、パティキュレートフィルタの故障判定を実行すると決定し、
積算値算出部10Eは、負荷Lが判定実行閾値L0以上である期間Tに基づいて、検出期間を設定する。検出期間は、例えば、期間Tである。
また、故障判定部10Cは、積算値ΣSを、故障判定閾値S0である積算閾値ΣS0と比較することで、パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する。
【0051】
故障検出装置1は、具体的には、負荷検出部10A、判定実行決定部10B、積算値算出部10E、及び故障判定部10Cが、以下の負荷検出工程、積算値算出工程、判定実行決定工程、及び故障判定工程を、順次実行することにより、パティキュレートフィルタ101の故障を検出する。
すなわち、判定実行決定部10Bは、判定実行決定工程において、負荷Lが判定実行閾値L0以上である期間Tが、期間閾値T0以上であるときに、パティキュレートフィルタ101の故障判定を実行すると決定する。
積算値算出部10Eは、負荷検出工程により検出された負荷Lに基づいて、粒子状物質検出部であるセンサ部200による検出期間を設定し、検出期間における出力値Sの積算値ΣSを算出する積算値算出工程を実行する。具体的には、積算値算出負荷Lが判定実行閾値L0以上である期間Tに基づいて、検出期間を設定する。検出期間は、例えば、期間Tである。
また、故障判定部10Cは、故障判定工程において、積算値ΣSを、故障判定閾値S0である積算閾値ΣS0と比較することで、パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する。
【0052】
以下に、これら各工程について詳細に説明する。図13に示されるフローチャートは、故障検出装置1において周期的に実行される故障検出処理の一例であり、ステップS21が負荷検出工程に、ステップS22~S24が判定実行決定工程に、ステップS25が積算値算出工程に、ステップS27~S29が故障判定工程に、それぞれ対応する。
【0053】
まず、故障検出処理が開始されると、ステップS21において、その時点におけるエンジンEの負荷Lを検出する。次に、ステップS22へ進んで、検出されたエンジンEの負荷Lが、実行判定閾値L0以上か否かを判定する(すなわち、L≧L0?)。ステップS21~S22は、上記実施形態1におけるステップS11~S12と同様にして行うことができる。
【0054】
ステップS22が肯定判定されたら、故障判定の実行に適した高負荷運転条件と判断して、ステップS23へ進む。ステップS22が否定判定された場合は、肯定判定されるまで、ステップS22を繰り返す。このように、負荷Lが、所定の実行判定閾値L0となるまで待機することで、適正な故障判定タイミングにて故障検出を実行することができる。
【0055】
ステップS23では、負荷Lが実行判定閾値L0以上である期間としての、時間Tを算出する。ここで、時間Tは、負荷Lが実行判定閾値L0に達してから、実行判定閾値L0以上である状態を維持している期間であり、センサ制御部10に内蔵するタイマ等を用いて
算出することができる。次いで、ステップS24に進んで、時間Tと所定の時間閾値T0とを比較し、時間Tが時間閾値T0以上となったか否かを判定する(すなわち、T≧T0?)。ここで、時間閾値T0は、PMセンサ2に用いる粒子状物質検出部の方式に応じて、所望の検出精度が得られるように、任意に設定することができる。
【0056】
ステップS24が肯定判定されたら、故障判定の実行に適した高負荷運転条件が所定期間以上継続したと判断して、判定実行を決定し、ステップS25へ進む。ステップS25では、負荷Lが実行判定閾値L0以上であった時間Tを検出期間として、時間Tにおけるセンサ出力値Sの積算値ΣSを算出する。ステップS24が否定判定された場合は、ステップS21へ戻り、その間のセンサ出力のデータは、棄却される。その後、ステップS24が肯定判定されるまで、ステップS21以降を繰り返す。このように、所定の実行判定閾値L0の継続時間が、所定の時間閾値T0以上となるまで、判定実行が決定されないので、適正な故障判定タイミングで、より確実な故障検出が可能になる。
【0057】
図14に示すように、図9と同様にエンジン負荷の脈動が大きく、排気流動の変動が大きい運転条件でも、負荷Lが実行判定閾値L0以上となる時間Tがごく短時間である場合には、時間閾値T0以上とならないので、ステップS24は肯定判定されない。負荷L≧実行判定閾値L0となり、さらに時間T≧時間閾値T0となると、ステップS24が肯定判定される(例えば、図中に矢印で示す時間T1、T2)。したがって、ステップS25では、時間T1、T2に相当する期間におけるセンサ出力値Sの積算値ΣS(例えば、図中に矢印で示す積算値ΣS1、ΣS2)を算出する。この積算値ΣSは、例えば、電気抵抗式のセンサ素子20であれば、時間Tの開始時刻と終了時刻におけるセンサ出力値Sの差分で表され、電荷検出式のセンサ部であれば、時間Tの開始時刻から終了時刻までのセンサ出力値Sを積算して算出することができる。
【0058】
次いで、ステップS26に進んで、故障判定閾値である積算閾値ΣS0を設定する。積算閾値ΣS0は、パティキュレートフィルタ101が正常である場合のセンサ出力を超えて、明らかに故障と判定することができる所定値であり、上記実施形態1における故障判定閾値S0と同様に、予め実機試験等を行って設定することができる。また、PMセンサ2に到達するPM量は、排気流量によっても変化するので、例えば、吸入空気量が大きいときには積算閾値ΣS0が大きくなるように、吸入空気量に応じて調整してもよい。
【0059】
実行判定閾値L0、時間閾値T0、積算閾値ΣS0は、例えば、センサ制御部10又はECU100の記憶領域に、予め記憶しておくことができる。あるいは、エンジンEの運転条件に応じて、例えば、ECU100に入力される各種センサからの検出信号に基づいて、その都度、算出してもよい。
【0060】
続いて、ステップS27において、センサ出力値Sの積算値ΣSと故障判定閾値ΣS0とを比較して、センサ出力値Sの積算値ΣSが故障判定閾値ΣS0未満か否かを判定する(すなわち、ΣS<ΣS0?)。ステップS27が肯定判定されたら、ステップS28に進んで、パティキュレートフィルタ101は正常と判定する。ステップS27が否定判定されたら、ステップS29に進んで、パティキュレートフィルタ101に何らかの故障が生じているとして、故障判定を行う。その後、本処理を一旦終了する。
【0061】
(実施例2、比較例2)
図15には、上記図13のフローチャートに従って故障検出処理を行った場合(すなわち、実施例2)と、従来の故障検出処理を行った場合(すなわち、比較例2)の、故障検出率と計測PM量とを比較して示している。図15の上図における故障検出率は、排気管EXに故障したパティキュレートフィルタ101を設置し、エンジンEをある走行モード条件で20回運転したときの、PMセンサ2による故障検出の成功率である。実施例2で用いたPMセンサ2は、上記実施例1のセンサ素子20に代えて、センサ部200を備えるもので、所定の期間における出力値Sの積算値ΣS0に基づく故障判定を行うようにした。比較例2では、実施例2と同一のPMセンサ2を用い、走行モード全域で連続的にセンサ信号を出力し、故障判定を行った。また、図15の下図における計測PM量は、上記実施例1と同様にして算出した。
【0062】
その結果、比較例2では、計測PM量が、比較例1よりも多くなっているものの、ばらつきは大きいままであり、故障検出率も70%程度にとどまっている。これに対して、実施例2では、計測PM量が参照例1により近くなっており、ばらつきもさらに低減されている。これにより、故障検出率が95%程度まで、大きく向上しており、パティキュレートフィルタの故障を高精度に検出できる。
【0063】
(実施形態3)
パティキュレートフィルタの故障検出装置の実施形態3について、図16図18を参照して説明する。本形態における故障検出装置1、PMセンサ2の基本構造は、上記実施形態2と同様であるので、図示及び説明を省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0064】
上記実施形態2のように所定の負荷Lが継続する期間に基づいて故障判定を実施するか否かを決定した場合、上記図9に示したように、エンジン負荷の脈動が大きい走行条件が継続するような条件では、十分な故障判定実施回数が確保できないおそれがある。そこで、本形態の故障検出装置1では、負荷Lの平均値Laveを算出し、所定の平均閾値Lave0と比較して大きい場合に、故障判定を実施する。このようにすると、走行条件によらず故障判定実施回数を確保できる。
【0065】
具体的には、故障検出装置1は、上記実施形態2と同様に、エンジンEの負荷Lを検出する負荷検出部10Aに加えて、積算値算出部10Eが、さらに設けられている。
負荷検出部10Aは、エンジンEの負荷Lを検出すると共に、検出した負荷Lの平均値Laveを算出する。平均値Laveは、例えば、予め設定した所定の期間における負荷Lに基づいて算出される。
このとき、判定実行決定部10Bは、負荷Lの平均値Laveが、判定実行閾値である平均閾値Lave0以上であるときに、パティキュレートフィルタの故障判定を実行すると決定し、
積算値算出部10Eは、負荷検出部10Aにより算出された負荷Lの平均値Laveに基づいて、粒子状物質検出部(例えば、センサ素子20)による検出期間を設定し、この検出期間における出力値Sの積算値ΣSを算出する。検出期間は、例えば、負荷Lの平均値Laveを算出するための所定の期間である。
また、故障判定部10Cは、積算値ΣSを、故障判定閾値S0である積算閾値ΣS0と比較することで、パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する。
【0066】
故障検出装置1は、具体的には、負荷検出部10A、判定実行決定部10B、積算値算出部10E、及び故障判定部10Cが、以下の負荷検出工程、積算値算出工程、判定実行決定工程、及び故障判定工程を、順次実行することにより、パティキュレートフィルタ101の故障を検出する。
すなわち、負荷検出部10Aは、負荷検出工程において、エンジンEの負荷Lを検出すると共に、検出した負荷Lの平均値Laveを算出する。
判定実行決定部10Bは、判定実行決定工程において、負荷Lの平均値Laveが、判定実行閾値である平均閾値Lave0以上であるときに、パティキュレートフィルタ101の故障判定を実行すると決定する。
積算値算出部10Eは、負荷Lの平均値Laveが算出された期間に基づいて、粒子状物質検出部であるセンサ部200による検出期間を設定し、検出期間における出力値Sの積算値ΣSを算出する積算値算出工程を実行する。検出期間は、例えば、負荷Lの平均値Laveを算出するための所定の期間である。
また、故障判定部10Cは、故障判定工程において、積算値ΣSを、故障判定閾値S0である積算閾値ΣS0と比較することで、パティキュレートフィルタの故障の有無を判定する。
【0067】
以下に、これら各工程について詳細に説明する。図16に示されるフローチャートは、故障検出装置1において周期的に実行される故障検出処理の一例であり、ステップS31が負荷検出工程に、ステップS32が判定実行決定工程に、ステップS34が積算値算出工程に、ステップS35~S37が故障判定工程に、それぞれ対応する。
【0068】
まず、故障検出処理が開始されると、ステップS31において、エンジンEの負荷Lの平均値Laveを算出する。具体的には、予め設定した所定の期間について、上記実施形態1におけるステップS11と同様にして、負荷Lを検出し、その平均値Laveを算出する。次に、ステップS32へ進んで、算出された負荷Lの平均値Laveが、予め設定した所定の平均閾値Lave0以上か否かを判定する(すなわち、Lave≧Lave0?)。
【0069】
ステップS32が肯定判定されたら、故障判定の実行に適した比較的高負荷運転が継続していると判断して、故障判定の実行を決定し、ステップS33へ進む。ステップS32が否定判定された場合は、ステップS31へ戻り、その間のセンサ出力のデータは、棄却される。その後、肯定判定されるまで、ステップS31を繰り返す。このように、負荷Lの平均値Laveが、所定の平均閾値Lave0となるまで待機することで、適正な故障判定タイミングにて故障検出を実行することができる。
【0070】
ステップS33では、負荷Lの平均値Laveの算出期間を検出期間として、この検出期間におけるセンサ出力値Sの積算値ΣSを算出する。次いで、ステップS34に進んで、故障判定閾値である積算閾値ΣS0を設定する。積算閾値ΣS0は、パティキュレートフィルタ101が正常である場合のセンサ出力を超えて、明らかに故障と判定することができる所定値であり、上記実施形態1における故障判定閾値S0と同様に、予め実機試験等を行って設定することができる。また、PMセンサ2に到達するPM量は、排気流量によっても変化するので、例えば、吸入空気量が大きいときには積算閾値ΣS0が大きくなるように、吸入空気量に応じて調整してもよい。
【0071】
実行判定閾値L0、時間閾値T0、積算閾値ΣS0は、例えば、センサ制御部10又はECU100の記憶領域に、予め記憶しておくことができる。あるいは、エンジンEの運転条件に応じて、例えば、ECU100に入力される各種センサからの検出信号に基づいて、その都度、算出してもよい。
【0072】
続いて、ステップS35において、センサ出力値Sの積算値ΣSと故障判定閾値ΣS0とを比較して、センサ出力値Sの積算値ΣSが故障判定閾値ΣS0未満か否かを判定する(すなわち、ΣS<ΣS0?)。ステップS35が肯定判定されたら、ステップS36に進んで、パティキュレートフィルタ101は正常と判定する。ステップS35が否定判定されたら、ステップS37に進んで、パティキュレートフィルタ101に何らかの故障が生じているとして、故障判定を行う。その後、本処理を一旦終了する。
【0073】
図17に示すように、エンジン負荷の脈動が大きく、排気流動の変動が大きい走行条件が続いた場合、例えば、上述した電荷検出式のセンサ部200のように、時間分解能の高い、連続的なセンサ信号を出力するセンサを用いると、負荷Lの脈動によって瞬間的なセンサ出力のピーク変化が生じる可能性がある。これを避けるために、上記した実施形態2のように、負荷Lが実行判定閾値L0以上となる時間Tが、所定の時間閾値T0に達することを条件とすると、故障判定が実行されない可能性がある。そのような走行条件でも、所定の期間の平均値Laveを見た場合には、平均閾値Lave0を超える時間が繰返し生じる(例えば、図17中に矢印で示す)。そこで、この期間におけるセンサ出力値Sの積算値ΣSを利用することで、より適当なタイミングで、比較的高い精度で故障判定を実行することができ、センサ出力の変動による誤検出を抑制できる。
【0074】
(実施例3、比較例3)
図18には、上記図16のフローチャートに従って故障検出処理を行った場合(すなわち、実施例3)と、従来の故障検出処理を行った場合(すなわち、比較例3)の、故障検出率を比較して示している。故障検出率は、排気管EXに故障したパティキュレートフィルタ101を設置し、エンジンEを、負荷変動の大きいある走行モード条件で20回運転したときの、PMセンサ2による故障検出の成功率である。実施例3で用いたPMセンサ2は、上記実施例2と同様に、センサ部200を備えるものである。比較例3では、実施例3と同一のPMセンサ2を用い、上記比較例2と同様にして故障検出処理を行った。
【0075】
その結果、比較例3では、故障検出率が大幅に低下し、10%程度であった。これは、エンジン負荷変動がより大きい走行条件では、出力のばらつきが大きくなって誤検出が増加するためである。また、実施例2のように、故障判定を実行判定閾値L0と時間閾値T0に基づいて行う場合、エンジン負荷変動が大きく負荷Lが実行判定閾値L0を超える時間が短いと、故障判定が実施されないため、故障検出の機会が限られてしまうことになる。一方、実施例3では、故障検出率が65%程度と実施例1、2より低いものの、比較例3のような大きな低下は見られなかった。これは、負荷Lの平均値Laveが高い、すなわち、比較的PM発生量の多い期間に、故障判定を実施するためであり、故障検出の機会を増加しながら、エンジン負荷変動が大きい条件でも、パティキュレートフィルタ101の故障を高精度に検出できる。
【0076】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。例えば、上記実施形態では、過給機及びEGR機構を備える内燃機関への適用例を示したが、内燃機関を含むシステム構成は、適宜変更することができる。また、内燃機関は、ディーゼルエンジンに限定されるものでなく、ガソリンエンジン、ガスエンジンその他であってもよい。また、自動車用に限らず各種用途に利用することができ、PMセンサやセンサ素子の構造も、適宜変更することができる。例えば、PMセンサは、インナカバーとアウタカバーからなる二重容器状の排気側カバーを有する構造としたが、排気側カバーは一重構造であってもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 故障検出装置
10A 負荷検出部
10B 判定実行決定部
10C 故障判定部
10D 加熱制御部
10E 積算値算出部
101 パティキュレートフィルタ
2 PMセンサ(センサ)
20 センサ素子(粒子状物質検出部)
200 センサ部(粒子状物質検出部)
3 ヒータ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18