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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】生体力学的人工親指
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/42 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
A61F2/42
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018529508
(86)(22)【出願日】2016-08-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-09-06
(86)【国際出願番号】 US2016048758
(87)【国際公開番号】W WO2017035387
(87)【国際公開日】2017-03-02
【審査請求日】2019-06-13
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-07
(31)【優先権主張番号】62/209,833
(32)【優先日】2015-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518062978
【氏名又は名称】アールシーエム エンタープライズ,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】RCM ENTERPRISE,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】トンプソン,ロバート,ジェイアール.
(72)【発明者】
【氏名】ベングトソン,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】マクダフ,チャールズ コリン
(72)【発明者】
【氏名】ペト,チャールズ アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】ミニス,シドニー タイ
(72)【発明者】
【氏名】クルンパー,エリック デニス
(72)【発明者】
【氏名】クリテンデン,ブラッドレイ アーサー
【合議体】
【審判長】村上 聡
【審判官】平瀬 知明
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0303750(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0078118(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合先端部と、
ユーザの親指の残った部分を同心円状に受けるように構成された遠位リングであって、前記結合先端部とともに動作可能な第1のヒンジ接続部を有する前記遠位リングと、
近位アンカプレートであって、前記遠位リングとともに動作可能な第2のヒンジ接続部と、前記近位アンカプレート上に設置され、且つ前記近位アンカプレートを前記ユーザに回転接続するように構成されたアンカ取付点と、を有する前記近位アンカプレートと、
互いに対向する第1の端部及び第2の端部を有する、H形に形成されたロッカであって、前記第1の端部は、前記H形における第1のスプリットプロング部を形成しており、前記第1の端部は、前記結合先端部とともに動作可能な第3のヒンジ接続部を有し、前記第2の端部は、前記H形における第2のスプリットプロング部を形成しており、前記第2の端部は、前記近位アンカプレートとともに動作可能な第4のヒンジ接続部を有し、
前記第1及び前記第2の動作可能なヒンジ接続部は、z軸に関する中線を画定しており、
前記第3の動作可能なヒンジ接続部は、前記中線より下に位置しており、
前記第4の動作可能なヒンジ接続部は、前記中線より上に位置しており、
前記結合先端部は、前記ロッカによって与えられる牽引力に応じて関節運動を行う、
前記ロッカと、を含み、
複数のサイズ調整シムを更に含み、各サイズ調整シムは、異なる厚さを有し、前記遠位リングの内面に適合するように構成されており、前記複数のサイズ調整シムのうちの1つを前記複数のサイズ調整シムの別のものと交換することにより、前記遠位リングのインクリメンタルなサイズ調整を提供することが可能となる、
人工親指アセンブリ。
【請求項2】
前記ユーザの手の周りに取り付けられるように構成されたハンドストラップを更に含み、前記ハンドストラップは前記近位アンカプレートの前記アンカ取付点に固定されている、請求項1に記載の人工親指アセンブリ。
【請求項3】
前記第1及び前記第3の動作可能なヒンジ接続部は、組み合わされて、前記結合先端部上に固定される遠位協調ピボット点を形成しており、
前記第2及び前記第4の動作可能なヒンジ接続部は、組み合わされて、前記近位アンカプレート上に固定される近位協調ピボット点を形成しており、
前記遠位リング及び前記ロッカは、前記遠位協調ピボット点と前記近位協調ピボット点との間に独立に懸架されている、
請求項1に記載の人工親指アセンブリ。
【請求項4】
前記遠位リングと前記ロッカは、前記遠位協調ピボット点及び前記近位協調ピボット点を介して間接的に結合されている、請求項3に記載の人工親指アセンブリ。
【請求項5】
前記結合先端部は先端パッドを含む、請求項1に記載の人工親指アセンブリ。
【請求項6】
前記遠位リングと前記結合先端部との前記第1の動作可能なヒンジ接続部は、y軸に関する中心線に関して対称な第1の遠位ピボットヒンジ対を含み、
前記遠位リングと前記近位アンカプレートとの前記第2の動作可能なヒンジ接続部は、前記中心線に関して対称な第1の近位ピボットヒンジ対を含む、
請求項1に記載の人工親指アセンブリ。
【請求項7】
前記ロッカと前記結合先端部との前記第3の動作可能なヒンジ接続部は、前記中心線に関して対称な第2の遠位ピボットヒンジ対を含み、
前記ロッカと前記近位アンカプレートとの前記第4の動作可能なヒンジ接続部は、前記中心線に関して対称な第2の近位ピボットヒンジ対を含む、
請求項6に記載の人工親指アセンブリ。
【請求項8】
結合先端部と、
ハンドストラップに取り付けられるように構成された近位アンカプレートであって、前記ハンドストラップはユーザの手の周りに取り付けられるように構成されている、前記近位アンカプレートと、
外面及び内面を有するボディを有する遠位リングであって、前記内面は前記ユーザの親指の残った部分を同心円状に受けるように構成されている、前記遠位リングと、
前記遠位リングの前記ボディの前記外面からオフセットされたH形ロッカであって、前記遠位リングと前記H形ロッカは、前記結合先端部上に固定された遠位協調ピボット点と、前記近位アンカプレート上に固定された近位協調ピボット点とを介して、前記結合先端部と前記近位アンカプレートとの間に独立にピボット懸架されている、前記H形ロッカと、を含み、
複数のサイズ調整シムを更に含み、各サイズ調整シムは、異なる厚さを有し、前記遠位リングの内面に適合するように構成されており、前記複数のサイズ調整シムのうちの1つを前記複数のサイズ調整シムの別のものと交換することにより、前記遠位リングのインクリメンタルなサイズ調整を提供することが可能となる、
生体力学的に駆動される人工親指。
【請求項9】
前記遠位協調ピボット点は、前記遠位リングと前記結合先端部との間の第1の動作可能なヒンジ接続部と、前記H形ロッカと前記結合先端部との間の第3の動作可能なヒンジ接続部と、を含み、
前記近位協調ピボット点は、前記遠位リングと前記近位アンカプレートとの間の第2の動作可能なヒンジ接続部と、前記H形ロッカと前記近位アンカプレートとの間の第4の動作可能なヒンジ接続部と、を含む、
請求項8に記載の生体力学的に駆動される人工親指。
【請求項10】
前記第1及び前記第2の動作可能なヒンジ接続部は、z軸に関する中線を画定しており、
前記第3の動作可能なヒンジ接続部は、前記中線より下に位置し、
前記第4の動作可能なヒンジ接続部は、前記中線より上に位置する、
請求項9に記載の生体力学的に駆動される人工親指。
【請求項11】
前記遠位リングと前記結合先端部との前記第1の動作可能なヒンジ接続部は、y軸に関する中心線に関して対称な第1の遠位ピボットヒンジ対を含み、
前記遠位リングと前記近位アンカプレートとの前記第2の動作可能なヒンジ接続部は、前記中心線に関して対称な第1の近位ピボットヒンジ対を含み、
前記ロッカと前記結合先端部との前記第3の動作可能なヒンジ接続部は、前記y軸に関する前記中心線に関して対称な第2の遠位ピボットヒンジ対を含み、
前記ロッカと前記近位アンカプレートとの前記第4の動作可能なヒンジ接続部は、前記中心線に関して対称な第2の近位ピボットヒンジ対を含む、
請求項9に記載の生体力学的に駆動される人工親指。
【請求項12】
前記H形ロッカは、前記遠位リング内での前記親指の残った部分の動きを利用して、前記結合先端部の関節運動を行わせる牽引力を与えるように構成されている、請求項9に記載の生体力学的に駆動される人工親指。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体力学的人工親指に関する。
【背景技術】
【0002】
人が親指、親指セグメント、又は親指先端部を失うと、結果として手の能力が損なわれる。親指又は親指の一部を切断された人は、最も基本的な作業のいくつかを行うことができなくなる。例えば、親指又は親指先端部が失われていると、コンピュータのタイプ入力作業、或いは電話のキーパッドをダイヤルするだけの作業が著しく困難になる。この種の作業は、親指だけが提供できる精密な動作を必要とする。親指によって、人が精密な動作を行うことができるだけでなく、親指の持つ、親指以外の指の性質と反対の性質により、ものを持ち上げたり、且つ/又はつかんだりする手の能力が高められる。ものを片手で保持している間、ものの重みは、ユーザの親指及び他の指の全体に分散している。保持者が両手のそれぞれの親指でかけている力を加減するだけで、保持者はものを多様な様式で巧みに扱うことができる。しかしながら、保持者の1本の親指又は1本の親指の一部分が欠落していると、ものを巧みに扱う為に利用可能な制御量が大幅に低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この「発明の概要」では、後で「発明を実施するための形態」において詳述される概念のうちの幾つかを簡略化された形式で紹介する。この「発明の概要」は、特許請求される主題の重要な態様又は不可欠な態様を明らかにすることは意図されていない。更に、この「発明の概要」は、特許請求される主題の範囲を決定することの支援として使用されることも意図されていない。
【0005】
一実施形態は、人工親指アセンブリを提供する。人工親指アセンブリは、(1)結合先端部と、(2)ユーザの親指の残った部分を同心円状に受けるように構成された遠位リングであって、結合先端部とともに動作可能な第1のヒンジ接続部を有する遠位リングと、(3)近位アンカプレートであって、遠位リングとともに動作可能な第2のヒンジ接続部と、近位アンカプレートをユーザに回転接続するように構成されたアンカ取付点と、を有する近位アンカプレートと、(4)互いに対向する第1の端部及び第2の端部を有する、H形に形成されたロッカであって、第1の端部は、H形における第1のスプリットプロング部を形成しており、第1の端部は、結合先端部とともに動作可能な第3のヒンジ接続部を有し、第2の端部は、H形における第2のスプリットプロング部を形成しており、第2の端部は、近位アンカプレートとともに動作可能な第4のヒンジ接続部を有し、(a)第1及び第2の動作可能なヒンジ接続部は、z軸に関する中線を画定しており、(b)第3の動作可能なヒンジ接続部は、中線より下に位置しており、(c)第4の動作可能なヒンジ接続部は、中線より上に位置しており、(d)結合先端部は、ロッカによって与えられる牽引力に応じて関節運動を行う、ロッカと、を含んでよい。
【0006】
別の実施形態は、生体力学的に駆動される人工親指を提供する。生体力学的に駆動される人工親指は、(1)結合先端部と、(2)ハンドストラップに取り付けられるように構成された近位アンカプレートであって、ハンドストラップはユーザの手の周りに取り付けられるように構成されている、近位アンカプレートと、(3)外面及び内面を有するボディを有する遠位リングであって、内面はユーザの親指の残った部分を同心円状に受けるように構成されている、遠位リングと、(4)遠位リングのボディの外面からオフセットされたH形ロッカであって、遠位リングとH形ロッカは、結合先端部上に固定された遠位協調ピボット点と、近位アンカプレート上に固定された近位協調ピボット点とを介して、結合先端部と近位アンカプレートとの間に独立にピボット懸架されている、H形ロッカと、を含んでよい。
【0007】
更に別の実施形態は、二方向人工親指器具を提供する。二方向人工親指器具は、ハンドストラップに取り付けられた偏心関節ピボットと、偏心関節ピボットと回転結合された関節アセンブリと、を含んでよい。関節アセンブリは、結合先端部と、近位アンカプレートと、互いに対向する遠位端及び近位端を有する調節可能リングテンドンであって、遠位端は結合先端部にピボット接続されており、近位端は近位アンカプレートにピボット接続されている、調節可能リングテンドンと、を含んでよい。関節アセンブリは更に、ユーザの親指の残った部分を同心円状に受けるように構成されたリングであって、リングは、調節可能リングテンドンと作用的に関連しており、調節可能リングテンドンの遠位端と近位端との間のターゲット位置に選択的に配置可能である、リングを含んでよい。関節ピボットは、リング内での親指の残った部分の外転及び内転の動きを利用して、x-y平面に平行な面内で、z軸に平行な軸を中心として、結合先端部の関節運動を行わせるように構成されてよく、関節アセンブリは、リング内での親指の残った部分の垂直方向の動きを利用して、x-z平面に平行な面内で、y軸に平行な1つ以上の軸を中心として、結合先端部の関節運動を行わせるように構成されてよい。
【0008】
本技術の更なる目的、利点、及び新規な特徴が、一部は以下の記述において説明され、一部は、当業者であれば、以下の内容を精査することでより明らかになるであろうし、或いは、本技術を実施することにより明らかになるであろう。
【0009】
以下の図面を参照しながら、好ましい実施形態を含む、本発明の非限定的且つ非網羅的な実施形態を説明する。特に断らない限り、これらの様々な図面の全体を通して、類似の参照符号は類似の要素を参照する。以下の図面において、本発明の例示的実施形態を図解する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】人工親指アセンブリの一実施形態の斜視図である。
図2図1の人工親指アセンブリの正面図である。
図3図1の人工親指アセンブリの背面図である。
図4】乃至
図5図1の人工親指アセンブリの、それぞれ、上面斜視図及び底面斜視図であり、ハンドストラップを介してユーザの手に装着されている場合の図である。
図6図1の人工親指アセンブリの上面図である。
図7図1の人工親指アセンブリの側面図である。
図8図1の人工親指アセンブリの、近位アンカプレートを除いた背面図である。
図9】一代替人工親指アセンブリ及び対応するハンドストラップの斜視図である。
図10図9の人工親指アセンブリの別の斜視図である。
図11図9の人工親指アセンブリの底面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、当業者であれば本発明のシステム及び方法を実施できるほどの詳細さで実施形態をより完全に説明する。しかしながら、実施形態は多様な形態で実施されてよく、本明細書に記載の実施形態に限定されるものとして解釈されるべきではない。従って、以下の詳細説明は、限定的な意味に解釈されるべきではない。
【0012】
本明細書に開示の各種実施形態は、親指、親指先端部、又は親指セグメントを切断されたユーザに適合しうる、特注設計の自己完結型人工親指に関する。合理化され、洗練された、生体力学的に駆動される設計により、患者は、親指の残った部分がいかなるレベルであっても、本物の親指の動き及び機能性を模倣する機械式代替物を利用することが可能になる。人工親指アセンブリの自然な動作は、ユーザが親指全体及び親指先端部の屈曲伸長運動の最大制御を取り戻すことを可能にするものであり、又、ユーザの親指の残った部分、親指関節、及び/又は隣接指の動きに応じて本物のように自然に曲がったり丸まったりするように設計されている。
【0013】
本明細書に記載の実施形態は、特別に設計された構成要素、例えば、H形テンドン又はロッカ、及び/又はカップ状受け先端部(両方とも後で詳述)を特徴として備え、これらは、人工親指が任意の長さの親指の残った部分に固定されることを可能にすると同時に、切断部位を更なる損傷又は過敏症から保護し、個々のユーザにフィット性及び使い勝手、器用さ、握力、及び関節運動を最大限に提供する。
【0014】
図1~3は、人工親指の一実施形態100の斜視図、正面図、及び背面図を示す。この実施形態では、人工親指100は、ユーザの手に位置する近位端から、ユーザの手から少し離れて位置する遠位端にかけて延びる、相互接続された4つの主要構成要素を含んでよい。これらの構成要素は、近位アンカプレート102と、遠位リング104と、結合先端部106と、H形ロッカ108と、を含む。遠位リング104は、取り付けの為に、ユーザの親指の残った部分を受けて取り囲むように設計されたリング形状を形成するボディ110を有してよい。より具体的には、ボディ110は、ユーザの親指の残った部分の近位指骨の周りに、ぴったりとしたフィット性で固定されるように構成されてよい。近位アンカプレート102は、図4~5に示されるように、ハンドストラップ132により、ユーザの中手指節骨(MCP)関節130の上方に配置され、MCP関節130に隣接して固定されてよい。ハンドストラップ132の実施形態は、近位アンカプレート102をユーザのMCP関節130に対して適正な位置に固定する為に必要な(又はふさわしい)任意の適切な構成を有してよく、これにより、近位アンカプレート102に対して関節をマニピュレートすることにより、人工親指100の幾つかのヒンジ接続部がアクチュエートされる。
【0015】
より詳細には、上述の4つの主要構成要素を回転接続部で固定する為に、一連のヒンジが使用されてよい。一実施形態では、これらの回転接続部は、特に、図6~7に詳細に示されている一対の軸に関して配置されてよい。より具体的には、図6は、y軸に関して人工親指100を二等分する中心線Cを示しており、図7は、z軸に関して第1のヒンジ接続部112及び第2のヒンジ接続部114(両方とも後で詳述)と交差する中線Mを示している。
【0016】
図1及び図7に詳細に示されている様々な回転接続部を参照すると、遠位リング104は、第1のヒンジ接続部112を介して結合先端部106と回転結合されてよい。第1のヒンジ接続部112は、図6に関して上述された中心線Cに関して対称な一対の平行なピボットヒンジを含んでよい。第1のヒンジ接続部112の各ピボットヒンジは、遠位リング104と結合先端部106との間のピボット点を与えることが可能である。
【0017】
遠位リング104は、第2のヒンジ接続部114を介して近位アンカプレート102と回転結合されてよい。第2のヒンジ接続部114も、中心線Cに関して対称な一対の平行なピボットヒンジを含んでよく、ピボットヒンジは、人工親指の各側に1つずつ配置されて、各ピボットヒンジが遠位リング104と結合先端部106との間のピボット点を与える。図7に関して上述したように、中線Mは第1及び第2のヒンジ接続部112、114と交差しており、従って、第1及び第2のヒンジ接続部112、114は両方とも、z軸に関してちょうど中線M上に位置する。
【0018】
ロッカ108は、対向する第1の端部120及び第2の端部122を有して、結合先端部106と近位アンカプレート102との間を延びるH形を形成してよい。第1の端部120は、H形における第1のスプリットプロング部を形成してよく、これは、z軸(図7)に関して中線Mより下に位置する第3のヒンジ接続部116を介して結合先端部106と回転結合されてよい。ロッカ108の第2の端部122は、H形における第2のスプリットプロング部を形成してよく、これは、z軸(図7)に関して中線Mより上に位置する第4のヒンジ接続部118を介して近位アンカプレート102と回転結合されてよい。第3及び第4のヒンジ接続部116、118のそれぞれは、中心線Cに関して対称な一対の平行なピボットヒンジを含んでよく、各ピボットヒンジが、第1の端部120においてロッカ108と結合先端部106との間のピボット点を与え、第2の端部122においてロッカ108と近位アンカプレート102との間のピボット点を与える。
【0019】
第1、第2、第3、及び/又は第4のヒンジ接続部112、114、116、118のうちの任意の1つ以上が、動作時の人工親指100の過伸展を防ぐハードストップを特徴として備えてよい。例えば、図1及び図6に示されるハードストップ124が、第1のヒンジ接続部112、即ち、結合先端部106と遠位リング104との間の相対的な過回転を防ぐことが可能である。機械式ハードストップは、任意の適切なサイズ、形状、及び/又は構成を有してよい。
【0020】
この実施形態では、第1及び第3のヒンジ接続部112、116は、一列に並んで、結合先端部106上に固定される遠位協調ピボット点117を形成してよい。同様に、第2及び第4のヒンジ接続部114、118は、一列に並んで、近位アンカプレート102上に固定される近位協調ピボット点119を形成してよい。遠位リング104とH形ロッカ108は、直接には相互接続されていないが、それぞれが、遠位協調ピボット点117を介して結合先端部と、且つ、近位協調ピボット点119を介して近位アンカプレート102と直接にピボット接続している。結果として、ロッカ108と遠位リング104は、それぞれが独立に、結合先端部106と近位アンカプレート102との間でピボット懸架されており、これによって、互いに対して独立でありながらも協調して、y軸に平行な多くの回転軸を有する関節を形成する。この、ロッカ108と遠位リング104との連係は、これら2つの構成要素が実際に直接リンク又は接続されることなく、親指の残った部分から近位アンカプレート102及び遠位リング104にかけられる生体力学的入力力に応じた、結合先端部106の、複雑であり本物のようである垂直方向の関節運動(例えば、x-z平面に平行な面内の動き)を可能にする。
【0021】
近位アンカプレート102、遠位リング104、結合先端部106、及びロッカ108は、協調して4バーリンケージシステムを形成し、これは、遠位リング104にかかる牽引力に応じて、人間の手の中での腱の動作枠組みに酷似した関節運動を結合先端部106が行うことを可能にする。この点において、ヒンジ接続部112、114、116、及び118によって形成されるリンケージは、遠位リング104及びH形ロッカ108の両方が、結合先端部106と近位アンカプレート102との間で独立に回転懸架されることを可能にする。遠位リング104は、第1及び第2のヒンジ接続部112及び114によって結合先端部106と近位アンカプレート102との間に回転接続されており、ロッカ108は、第3及び第4のヒンジ接続部116及び118によって結合先端部106と近位アンカプレート102との間に回転接続されているが、遠位リング104とロッカ108は直接には接続されていない。これにより、遠位リング104及びロッカ108のそれぞれの、互いに独立でありながら相補的な運動が可能になる。両方の部品が、遠位リング104内でのユーザの親指の残った部分の動き、及び/又は近位アンカプレート102の下でのユーザのMCP関節の動きに応じて動き、これら2つの構成要素の間の接続が間接的であるという性質により、手から与えられる牽引力に対する複雑な反作用の動きが与えられ、これにより、親指100が自然な動きをまねることが可能になる。
【0022】
親指の残った部分、又はMCP関節によってかけられる牽引力により、遠位リング104に張力がかかり、座屈のリスクが軽減される。従って、遠位リング104にはめ込まれた患者の親指の残った部分の自然な動き、又は場合によっては、MCP関節及び/又は隣接指の動きを用いて、人工親指100の中で本物のような屈曲伸長運動をアクチュエートすることが可能である。ユーザは、あらゆる種類の日常活動を行うことができ、例えば、タイプ入力、楽器演奏、複雑且つ/又は扱いづらい物を持ち上げたり、巧みに扱ったりすること、及び他の任意の、手のあらゆる器用さを必要とする活動を行うことが可能である。
【0023】
ロッカ108がH形であることにより、ロッカ108と結合先端部106との間の第3のヒンジ接続部116が、親指100のアセンブリの外側、或いは遠位リング104と結合先端部106とによって画定される物理的境界の外側になることが可能である。この構成により、親指の残った部分が比較的長いユーザ、或いは近位指節骨が比較的長いユーザは、アセンブリ内の更なる隙間空間を活用することが可能である。様々な長さの、親指の残った部分を、更なる損傷及び/又は過敏症から引き続き保護しながら、アセンブリ内に無理なくフィットさせることが可能である。しかしながら、本明細書ではロッカ108について、H形の外形を有するものとして記載しているが、当然のことながら、ロッカ108は、任意の適切なサイズ、形状、タイプ、及び/又は構成であってよい。
【0024】
人工親指100の実施形態は、親指の残った部分の長さが様々であること(例えば、親指の欠損量が様々であること)を含め、多様なユーザ条件に対応する為に、特注設計が行われ、個別のフィッティングが行われる。この点において、各親指100は、元々の切断前の親指の長さと一致することを含めて、特化された機能性、並びに特定のユーザの解剖学的関節構造に対する機械的適合性の両方を与えるように、特定の患者又はユーザにフィットするようにカスタマイズされてよい。設計において考慮すべき点として、親指の欠損の量、置き換えるべき関節の数、及び他の、個々のエンドユーザに固有の特性がある。
【0025】
H形ロッカ108は、患者の親指の残った部分の上方及び周囲に全体を覆う「ケージ」を設けるように設計されており、これによって、人工装具100内で親指の残った部分に干渉することなく、親指の残った部分を炎症及び/又は過敏症から保護する。H形ロッカ108を装備することにより、ユーザは、任意の長さの親指の残った部分を人工親指100内に固定することが可能であり、これは、親指の残った部分の長さが指節間関節の先まで延びている場合でも可能である。ユーザの親指が、完全な形状であっても機能が不十分であるか機能していない場合には、結合先端部106を外して、人工親指100を、指の代替ではなく関節ブレースとして機能させることが可能である。代替として、結合先端部106は、患者の指に欠損がほとんど又は全くないものの親指の機能が完全ではない場合に親指先端部の全て又は一部を受けるように適合されたカップ又はくぼみを含んでよい。
【0026】
図1~8に示された実施形態では、結合先端部106は先端パッド126を含んでよい。先端パッド126は、本物の親指先端部のテクスチャを模倣する柔らかいテクスチャのシリコーン又は他の材料で形成されてよい。これは把持を支援し、タッチをより柔らかくする。一実施形態では、タッチスクリーン機構(図示せず)が設けられてよく、これにより、ユーザは、人工親指100を使用して、身体の自然電流に反応する容量性タッチスクリーンを操作することが可能になる。タッチスクリーン機構により、ユーザは、人工親指の先端部を通して自分の身体電流を方向づけることが可能になる。
【0027】
結合先端部106の一実施形態は親指の爪128を含んでもよく、これは、引掻きや皮むきの機能性を提供すること、並びにものを繊細に扱うことの助けとなることが可能な、自然なエッジが付いた爪を模倣している。
【0028】
見た目をより良くする為に、親指100の実施形態に、ユーザの肌の色調に合った皮膜及び/又は着色剤をコーティングしてよい。ユーザごとに人工親指100を最適化する為に人工親指のデザインの複雑な細部をカスタマイズすることは、付加的製造工程(即ち、3D印刷)により、容易に可能になる。
【0029】
人工親指100の実施形態は、人間の皮膚に対して刺激性でなく、且つ、ユーザが快適性及び信頼性を感じて人工親指を操作できるようにする任意の適切な構造材料で形成されてよい。例示的な材料として、チタン、ステンレス鋼、アルミニウム、シリコーン、カーボンファイバ、ナイロン、プラスチック/ポリマー、木、ゴム、金、銀、タングステン、フレックスケーブル、ネオプレン、又は他の任意の適切な材料がある。一実施形態では、人工親指100の構成要素は、Duraform EXポリマー材料から3D印刷される。
【0030】
生体適合性材料を用いると、人工親指100の様々な実施形態を、ユーザの親指に外科的に植え込まれることが可能な整形外科用インプラントとして適用することが可能である。この選択肢は、怪我で指骨が粉砕されて治癒又は修復が不可能なユーザに適用されてよい。このような状況では、人工親指100の植え込み可能な実施形態は、切断不要でユーザの元の骨の代わりになることが可能である。
【0031】
使用するには、ユーザは、遠位リング104を親指の残った部分にかぶせて摺動させ、ユーザのMCP関節130の上方/近傍で近位アンカプレート102をハンドストラップ132(図4~5)で固定するだけでよい。必要であれば、幾つかのサイズ調整シムを使用して、遠位リング104をユーザに合うように更に調節又は調整してよい。図8は、近位アンカプレートがそれ以外のアセンブリから取り外された人工親指100の背面図を示す。この実施形態では、遠位リング104に半円形シム134が装備されており、これは、ユーザの親指の残った部分の重量の増減、膨張、及び/又は他の製造後の径の変化に合うようにボディ110のサイズをインクリメンタルに調節することを可能にする為に遠位リング104に内側に挿入されてよい。より詳細には、各人工親指100とともにフィットキット(図示せず)が提供されてよく、フィットキットは幾つかのシム134を含んでよい。一実施形態では、各シム134は、遠位リング104のボディ110の内径dに当接するように構成された、ほぼ半円形又はU形であってよく、ボディ110内の対応するシム保持アパーチャ138を貫通して突出するように構成された幾つかの保持グロメット136を有してよい。各シム132は、厚さtが様々であってよく、これにより、ユーザは、ユーザの必要に応じて幾つかのインクリメントの形で遠位リング104のボディ110の内径dを調節することが可能になる。
【0032】
人工親指100が調節されて定位置に置かれたら、ユーザは、親指の残った部分及び/又はMCP関節の自然な動きを利用することが可能である。人工親指100の主要構成要素は、以前に元々の親指に関して用いられていたものと同じ認知過程による関節運動を行う。
【0033】
図9~11は、一代替実施形態である二方向人工親指の幾つかの斜視図を示す。二方向人工親指の実施形態は、ユーザの親指の残った部分を受けて保持するように構成された調節可能リングを、調節可能リングテンドンとともに含み、これらについては後で詳述する。このリング及び調節可能リングテンドンは、二方向人工親指200が、親指先端部又は1つ以上の親指セグメントが切断された後の親指を含む、任意の長さの親指の残った部分に固定されることを可能にするとともに、フィット性及び使い勝手、器用さ、握力、及び二方向関節運動を最大限に提供する。
【0034】
二方向人工親指の実施形態の動きの説明を簡単にする為に、以下では、図9で定義されているように、x軸、y軸、及びz軸に関して、親指の構成要素の垂直方向及び水平方向の相対的な動きについて説明する。
【0035】
これらの例示的実施形態を参照すると、図9~11は、生体力学的に駆動される二方向人工親指の一実施形態200の幾つかの斜視図を示しており、人工親指200はハンドストラップ202に接続されている。この実施形態では、人工親指200は調節可能リングテンドン210を含んでもよく、これは、その近位端において近位アンカプレート212と回転結合されており、その遠位端において結合先端部214と回転結合されている。近位アンカプレート212は、偏心関節ピボット204を介してハンドストラップ202と回転結合されてよく、偏心関節ピボット204は、人工親指200がユーザの親指の残った部分に取り付けられたときにユーザのMCP関節の上方に位置する。
【0036】
関節ピボット204はストラッププラットフォーム206を含んでよく、これは、人工親指200の他の部分に対して並び及び/又は深さが適切になるようにハンドストラップ202に取り付けられるか貼り付けられる。関節ピボット204は、アンカプレートプラットフォーム216を含んでもよく、これは、ストラッププラットフォーム206の反対側のアンカプレート212上に配置され、これによって、アンカプレート212の近位端はストラッププラットフォーム206とアンカプレートプラットフォーム216との間に配置され、これによって、アンカプレート212の近位端がストラッププラットフォーム206に回転結合されるように、関節接合部208がアンカプレート212をアンカプレートプラットフォーム216とストラッププラットフォーム206との間にピン留めすることが可能である。この構成では、アンカプレート212は、ストラッププラットフォーム206(及びハンドストラップ202)に対して、関節接合部208を中心として、或いは、z軸を中心としてx-y平面に平行な面内で回転する。
【0037】
調節可能リングテンドン210は、第1のヒンジ接続部218を介して近位アンカプレート212の遠位端と回転結合されてよく、第2のヒンジ接続部220を介して結合先端部214と回転結合されてよい。一実施形態では、調節可能リングテンドン210上にリング222が配置されてよい。リング222は、ユーザの親指の残った部分を同心円状に受けて保持するように構成されてよく、任意の適切な金属材料及び/又はプラスチック材料で形成されてよい。リング222は、把持性、快適性、及び実用性を高める為に1つ以上のシリコーン部分を含んでよい。これらのシリコーン部分は、リング222の下部に沿って配置されてよく、且つ/又は、親指とリング222との間の(例えば、近位指節骨の上部の)自然な圧点に沿って含まれてよい。リング222は、理想的なフィット性を実現する為にそれぞれがサイズ決定されている幾つかの交換可能なリングのうちの1つであってよい。これらのリングは、重量の増減、膨張などに合わせてユーザが適切なリング222を選択して調節できるフィットキット(図示せず)として提供されてよい。
【0038】
リング222は、調節可能リングテンドン210の長さ方向に調節されることが可能であり、これは、テンドン210内に配置された長手方向調節機構に沿ってリング222を摺動させることによって可能である。図11に示された一実施形態では、長手方向調節機構は、調節可能リングテンドン210内に形成された長手方向調節チャネル224であってよい。リング222を調節するには、ユーザは、リング222をチャネル224の長さ方向に摺動させ、ターゲット位置230でリング222をねじ228又は他の任意の適切な留め具でテンドン210に固定するだけでよい。ターゲット位置230は、ユーザの親指の残った部分の長さに基づいてよく、結果として、ユーザの親指がリング222内に保持されたときに関節ピボット204がユーザのMCP関節の上方/上に並んでよい。長手方向調節チャネル224は、調節可能リングテンドン210に沿って任意の適切な長さを有してよい。更に、長手方向調節機構は、任意の適切なサイズ、形状、タイプ、及び/又は構成であってよい。例えば、一代替実施形態では、長手方向調節機構は、調節可能リングテンドン210の長さ方向に配置された幾つかの別々の長手方向調節穴で形成されてよい。
【0039】
図9~11に示され、上述されたように、結合先端部214は、第2のヒンジ接続部220を介して調節可能リングテンドン210の遠位端と回転結合されてよい。一実施形態では、第2のヒンジ接続部220は、人工指200の他の構成要素との干渉によってのみ制限される360度の回転範囲にわたって調節可能であるように、任意の所望の角度で締め付けられるように構成されたねじであってよい。この点において、第2のヒンジ接続部220は、実現可能且つ/又は望ましい指先角度の全域内で無限の調節選択肢を提供する。
【0040】
結合先端部214は、先端パッド232を含んでよい。先端パッド232は、本物の指のテクスチャを模倣する柔らかいテクスチャのシリコーン又は他の材料で形成されてよい。これは把持を支援し、タッチをより柔らかくする。より本物の親指らしい外観にする為に、先端パッドにキャップをぴったりかぶせてもよい。一実施形態では、タッチスクリーン機構(図示せず)が設けられてよく、これにより、人工親指200のユーザは、身体の自然電流に反応する容量性タッチスクリーンを操作することが可能になる。タッチスクリーン機構により、ユーザは、結合先端部214を通して自分の身体電流を方向づけることが可能になる。
【0041】
上述のように、人工親指200は、二方向関節であるように設計されている。具体的には、近位アンカプレート212、調節可能リングテンドン210、及び遠位連結器214が一緒になって、垂直な2つの平面内を動く関節アセンブリ215を形成してよい。第1に、関節アセンブリ215は、関節接合部208を介して関節ピボット204に対して水平方向に回転することにより、z軸に平行な軸を中心とする、x-y平面に平行な面内の、第1の方向の動きを人工親指200に与える。第2に、調節可能リングテンドン210をそれぞれ近位アンカプレート212及び遠位連結器214に回転結合している第1及び第2のヒンジ接続部218及び220が、y軸に平行な軸を中心とする、x-z平面に平行な面内の、第2の、垂直方向の動きを関節アセンブリ215に与える。結果として、ユーザは、親指の自然な関節運動をまねる、遠位連結器214のより本物そっくりの動きを実現することが可能であり、これは、ユーザの親指の残った部分をリング222内で水平方向に動かして(例えば、親指の残った部分を内転及び/又は外転させて)人工親指200の関節アセンブリ215を第1の方向にアクチュエートすることにより、且つ、ユーザの親指の残った部分をリング222内で垂直方向に動かして親指200の関節アセンブリ215を第2の方向にアクチュエートすることにより可能であり、これによって、結合先端部214の水平方向及び垂直方向の両方での関節運動が実現される。
【0042】
人工親指100、200の実施形態は、多様なユーザ条件に対応する為に、特注設計が行われ、個別のフィッティングが行われる。この点において、各親指100、200は、特化された機能性、並びにユーザの解剖学的関節構造に対する機械的適合性の両方を与えるように、特定の患者又はユーザにフィットするように特注製造されてよい。
【0043】
見た目をより良くする為に、親指100、200の実施形態に、ユーザの肌の色調に合った皮膜及び/又は着色剤をコーティングしてよい。ユーザごとに人工指100、200を最適化する為に人工指のデザインの複雑な細部をカスタマイズすることは、付加的製造工程(即ち、3D印刷)により、容易に可能になる。
【0044】
親指100、200の様々な実施形態が、人間の皮膚に対して刺激性でなく、且つ、ユーザが信頼性を感じて人工親指を操作できるようにする任意の適切な構造材料で形成されてよい。例示的な材料として、チタン、ステンレス鋼、アルミニウム、シリコーン、カーボンファイバ、ナイロン、プラスチック、木、ゴム、金、銀、タングステン、フレックスケーブル、ネオプレン、又は他の任意の適切な構造材料がある。一実施形態では、この器具は、Duraform EXポリマー材料から3D印刷されてよい。
【0045】
人工親指100、200の実施形態の各部分は、ユーザの様々な条件に合わせて使用されてよい。実施形態は、様々なレベルの親指欠損に対応可能であり、即ち、親指先端の欠損にも親指全体の欠損にも対応可能である。更に、生体適合性材料を用いると、人工親指100、200の様々な実施形態を、ユーザの親指に外科的に植え込まれることが可能な整形外科用インプラントとして適用することが可能である。この選択肢は、怪我で指骨が粉砕されて治癒又は修復が不可能なユーザに適用されてよい。このような状況では、人工親指100、200の植え込み可能な実施形態は、切断不要でユーザの元の骨の代わりになることが可能である。
【0046】
親指100、200が(調節済みであれ未調節であれ)所定の場所に配置されたら、ユーザは自然な指の動きを利用することが可能である。親指100、200の回転結合された各構成要素は、以前に元々の親指に関して利用されていたものと同じ認知過程による関節運動を行う。
【0047】
上述の親指アセンブリ100、200の実施形態は、数々の独自の特徴を示し、医療上の様々な利点を備える。個人の手の期待される機能及び能力は、個人のそれぞれの生理的パターン及び生活様式パターンによって決定される。本明細書に記載の人工親指アセンブリの実施形態を使用すると、患者は、仕事でも遊びでも、自分の手の独立制御を取り戻すことが可能である。各器具は、特定の個人に合わせた特注の設計及び製造が行われ、製造後の変動に対応する為の、フィット性の更なる微調整及び微調節を可能にする機能(例えば、シム、交換可能リング)を含み、これによって、器具は、生体力学的に駆動され、低プロファイルであり、軽量であること、並びにユーザの日常活動がどのようなものを必要としても、それらの活動に対して高度に機能的に応えることを可能にする形でユーザにフィットすることが可能になる。例を幾つか挙げると、タイプ入力、ピアノなどの楽器の演奏、木工などがあり、更にいろいろなものがある。
【0048】
上述の生体力学的指アセンブリの実施形態は、能動的であり、二方向の動きに対応し、ユーザが自分の親指の残った部分を動かすだけで関節運動を行うリンクされた各構成要素を特徴として備える。親指100、200の実施形態をユーザ自身が生体力学的に駆動するようにすることは、可能な限り低プロファイルのデザインであることに強みを発揮する、シンプルでありエレガントであり合理化されたデザインを可能にすること以上に、親指の残った部分及び手全体の膨張を抑え、血行を高めることや、損傷した親指や隣接指の関節の健康を支えることなど、医療上の多くの恩恵をユーザに提供する。
【0049】
上述の実施形態は、特定の構造、要素、組成、及び方法ステップに固有の言葉で記載されてきたが、当然のことながら、添付の特許請求の範囲で定義されている技術は、必ずしも、記載された特定の構造、要素、組成、及び/又はステップに限定されない。むしろ、それらの特定の態様及びステップは、特許請求される技術を実施する形態として記載されている。本発明の趣旨及び範囲から逸脱しない限り、本技術の様々な実施形態が実施可能である為、本発明は、以下に添付されている特許請求の範囲に属する。
〔付記1〕
結合先端部と、
ユーザの親指の残った部分を同心円状に受けるように構成された遠位リングであって、前記結合先端部とともに動作可能な第1のヒンジ接続部を有する前記遠位リングと、
近位アンカプレートであって、前記遠位リングとともに動作可能な第2のヒンジ接続部と、前記近位アンカプレートを前記ユーザに回転接続するように構成されたアンカ取付点と、を有する前記近位アンカプレートと、
互いに対向する第1の端部及び第2の端部を有する、H形に形成されたロッカであって、前記第1の端部は、前記H形における第1のスプリットプロング部を形成しており、前記第1の端部は、前記結合先端部とともに動作可能な第3のヒンジ接続部を有し、前記第2の端部は、前記H形における第2のスプリットプロング部を形成しており、前記第2の端部は、前記近位アンカプレートとともに動作可能な第4のヒンジ接続部を有し、
前記第1及び前記第2の動作可能なヒンジ接続部は、z軸に関する中線を画定しており、
前記第3の動作可能なヒンジ接続部は、前記中線より下に位置しており、
前記第4の動作可能なヒンジ接続部は、前記中線より上に位置しており、
前記結合先端部は、前記ロッカによって与えられる牽引力に応じて関節運動を行う、
前記ロッカと、
を含む人工親指アセンブリ。
〔付記2〕
前記ユーザの手の周りに取り付けられるように構成されたハンドストラップを更に含み、前記ハンドストラップは前記近位アンカプレートの前記アンカ取付点に固定されている、付記1に記載の人工親指アセンブリ。
〔付記3〕
前記第1及び前記第3の動作可能なヒンジ接続部は、組み合わされて、前記結合先端部上に固定される遠位協調ピボット点を形成しており、
前記第2及び前記第4の動作可能なヒンジ接続部は、組み合わされて、前記近位アンカプレート上に固定される近位協調ピボット点を形成しており、
前記遠位リング及び前記ロッカは、前記遠位協調ピボット点と前記近位協調ピボット点との間に独立に懸架されている、
付記1に記載の人工親指アセンブリ。
〔付記4〕
前記遠位リングと前記ロッカは、前記遠位協調ピボット点及び前記近位協調ピボット点を介して間接的に結合されている、付記3に記載の人工親指アセンブリ。
〔付記5〕
前記結合先端部は先端パッドを含む、付記1に記載の人工親指アセンブリ。
〔付記6〕
前記遠位リングと前記結合先端部との前記第1の動作可能なヒンジ接続部は、y軸に関する中心線に関して対称な第1の遠位ピボットヒンジ対を含み、
前記遠位リングと前記近位アンカプレートとの前記第2の動作可能なヒンジ接続部は、前記中心線に関して対称な第1の近位ピボットヒンジ対を含む、
付記1に記載の人工親指アセンブリ。
〔付記7〕
前記ロッカと前記結合先端部との前記第3の動作可能なヒンジ接続部は、前記中心線に関して対称な第2の遠位ピボットヒンジ対を含み、
前記ロッカと前記近位アンカプレートとの前記第4の動作可能なヒンジ接続部は、前記中心線に関して対称な第2の近位ピボットヒンジ対を含む、
付記6に記載の人工親指アセンブリ。
〔付記8〕
複数のサイズ調整シムを更に含み、各サイズ調整シムは、異なる厚さを有し、前記遠位リングの内面に適合するように構成されている、付記1に記載の人工親指アセンブリ。
〔付記9〕
結合先端部と、
ハンドストラップに取り付けられるように構成された近位アンカプレートであって、前記ハンドストラップはユーザの手の周りに取り付けられるように構成されている、前記近位アンカプレートと、
外面及び内面を有するボディを有する遠位リングであって、前記内面は前記ユーザの親指の残った部分を同心円状に受けるように構成されている、前記遠位リングと、
前記遠位リングの前記ボディの前記外面からオフセットされたH形ロッカであって、前記遠位リングと前記H形ロッカは、前記結合先端部上に固定された遠位協調ピボット点と、前記近位アンカプレート上に固定された近位協調ピボット点とを介して、前記結合先端部と前記近位アンカプレートとの間に独立にピボット懸架されている、前記H形ロッカと、
を含む、生体力学的に駆動される人工親指。
〔付記10〕
前記遠位協調ピボット点は、前記遠位リングと前記結合先端部との間の第1の動作可能なヒンジ接続部と、前記H形ロッカと前記結合先端部との間の第3の動作可能なヒンジ接続部と、を含み、
前記近位協調ピボット点は、前記遠位リングと前記近位アンカプレートとの間の第2の動作可能なヒンジ接続部と、前記H形ロッカと前記近位アンカプレートとの間の第4の動作可能なヒンジ接続部と、を含む、
付記9に記載の生体力学的に駆動される人工親指。
〔付記11〕
前記第1及び前記第2の動作可能なヒンジ接続部は、z軸に関する中線を画定しており、
前記第3の動作可能なヒンジ接続部は、前記中線より下に位置し、
前記第4の動作可能なヒンジ接続部は、前記中線より上に位置する、
付記10に記載の生体力学的に駆動される人工親指。
〔付記12〕
前記遠位リングと前記結合先端部との前記第1の動作可能なヒンジ接続部は、y軸に関する中心線に関して対称な第1の遠位ピボットヒンジ対を含み、
前記遠位リングと前記近位アンカプレートとの前記第2の動作可能なヒンジ接続部は、前記中心線に関して対称な第1の近位ピボットヒンジ対を含み、
前記ロッカと前記結合先端部との前記第3の動作可能なヒンジ接続部は、前記y軸に関する前記中心線に関して対称な第2の遠位ピボットヒンジ対を含み、
前記ロッカと前記近位アンカプレートとの前記第4の動作可能なヒンジ接続部は、前記中心線に関して対称な第2の近位ピボットヒンジ対を含む、
付記10に記載の生体力学的に駆動される人工親指。
〔付記13〕
前記H形ロッカは、前記遠位リング内での前記親指の残った部分の動きを利用して、前記結合先端部の関節運動を行わせる牽引力を与えるように構成されている、付記10に記載の生体力学的に駆動される人工親指。
〔付記14〕
ハンドストラップに取り付けられた偏心関節ピボットと、
前記偏心関節ピボットと回転結合された関節アセンブリであって、
結合先端部と、
近位アンカプレートと、
互いに対向する遠位端及び近位端を有する調節可能リングテンドンであって、前記遠位端は前記結合先端部にピボット接続されており、前記近位端は前記近位アンカプレートにピボット接続されている、前記調節可能リングテンドンと、
ユーザの親指の残った部分を同心円状に受けるように構成されたリングであって、前記リングは、前記調節可能リングテンドンと作用的に関連しており、前記調節可能リングテンドンの前記遠位端と前記近位端との間のターゲット位置に選択的に配置可能である、前記リングと、
を含む前記関節アセンブリと、を含む二方向人工親指器具であって、
前記関節ピボットは、前記リング内での前記親指の残った部分の外転及び内転の動きを利用して、x-y平面に平行な面内で、z軸に平行な軸を中心として、前記結合先端部の関節運動を行わせるように構成されており、
前記関節アセンブリは、前記リング内での前記親指の残った部分の垂直方向の動きを利用して、x-z平面に平行な面内で、y軸に平行な1つ以上の軸を中心として、前記結合先端部の関節運動を行わせるように構成されている、
二方向人工親指器具。
〔付記15〕
前記ハンドストラップは、前記ユーザの手の周りに取り付けられるように構成されている、付記14に記載の二方向人工親指器具。
〔付記16〕
前記関節ピボットは、
前記ハンドストラップに固定されたストラッププラットフォームと、
アンカプレートプラットフォームであって、前記ストラッププラットフォームと前記アンカプレートプラットフォームとの間に、前記近位アンカプレートの近位端が、関節接合部によって回転結合されている、前記アンカプレートプラットフォームと、を含む、
付記14に記載の二方向人工親指器具。
〔付記17〕
前記関節接合部は、ピン又はねじのうちの一方を含む、付記16に記載の二方向人工親指器具。
〔付記18〕
前記調節可能リングテンドンに沿う、前記リングの前記ターゲット位置は、前記ユーザの前記親指の残った部分が前記リング内に保持されたときに前記関節ピボットと前記ユーザの中手指節骨(MCP)関節とが並ぶ位置を含む、付記14に記載の二方向人工親指器具。
〔付記19〕
前記リングは、幾つかの交換可能なリングのうちの選択された1つを含み、前記交換可能なリングのそれぞれは、様々なサイズの親指の残った部分を受けるようにサイズ決定された直径を有する、付記14に記載の二方向人工親指器具。
〔付記20〕
前記結合先端部は先端パッドを含む、付記14に記載の二方向人工親指器具。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11