(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】骨髄異形成症候群の治療のためのインスリン様増殖因子-化学療法剤結合体
(51)【国際特許分類】
A61K 47/62 20170101AFI20220802BHJP
A61K 38/30 20060101ALI20220802BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20220802BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220802BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220802BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
A61K47/62
A61K38/30
A61K31/519
A61K9/08
A61K47/26
A61P35/02
(21)【出願番号】P 2019564458
(86)(22)【出願日】2018-05-21
(86)【国際出願番号】 US2018033747
(87)【国際公開番号】W WO2018217669
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-05-19
(32)【優先日】2017-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516209267
【氏名又は名称】アイジーエフ オンコロジー、 エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】マクタヴィッシュ、ヒュー
(72)【発明者】
【氏名】ドゥデク、アルカディウシュ、ゼット.
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-503862(JP,A)
【文献】特開平06-009429(JP,A)
【文献】Phase I study of IGF-methotrexate conjugate in the treatment of refractory malignancies expressing IGF-1R.,Journal of Clinical Oncology,2014年,Volume 32, Issue 15_suppl,suppl.tps2635,https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/jco.2014.32.15_suppl.tps2635
【文献】AM J HEALTH-SYST PHARM,2017年05月01日,Vol.74, No.9,e211-e223
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00
A61K 38/30
A61K 31/519
A61K 9/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点滴用の溶液である医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、(a)
765IGF-MTXからなる薬剤を含み
、
前記医薬組成物は、(b)100mL~1Lの5%~10%(w/v)ブドウ糖水溶液中に溶解された溶液であり、
前記溶液は5mM以上のNaCl又は2mM以上のリン酸塩を含まず、
前記溶液は輸液バッグに入っており、100mL~1Lの体積を有する、
医薬組成物。
【請求項2】
溶液が、100mL~500mL、150mL~500mL、200mL~500mL、又は約250mLの体積を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記薬剤が
(b)100mL~1Lの10%(w/v)ブドウ糖水溶液中に溶解された、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
765IGF-MTXからなる薬剤を含む医薬組成物を調製する方法であって、
前記薬剤を、体積100mL~1Lの
5%~10%ブドウ糖(w/v)水溶液からなる希釈液中に希釈することで、前記希釈液中の前記薬剤の溶液を作製すること、
を含む、方法。
【請求項5】
前記薬剤
を(b)100mL~1Lの10%(w/v)ブドウ糖水溶液中に溶解する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記医薬組成物が、20分間~2.5時間、又は30分間~2時間、又は45分間~1.5時間、又は1~2時間の時間をかけて
患者に注入することを特徴とする、請求項4又は請求項5に記載の方法。
【請求項7】
乏芽球性急性骨髄性白血病(O-AML)又は骨髄異形成症候群(MDS)又は慢性骨髄単球性白血病(CMML)
の治療
用医薬組成物である、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記薬剤が
(b)100mL~1Lの10%(w/v)ブドウ糖水溶液中に溶解された、請求項7に記載の
医薬組成物。
【請求項9】
(a)最大100mL~2Lの体積を保持できる輸液バッグに入った、
(b)5%又は10%(w/v)ブドウ糖溶液、及び前記溶液に溶解された(c)
765IGF-MTXからなる薬剤
、
を含むデバイスであって、
前記溶液は100mL~1L(より好ましくは100mL~500mL、150mL~500mL、又は約250mL)の体積を有する、
デバイス。
【請求項10】
(d)前記輸液バッグに接続されたチューブ管、及び
(e)前記チューブ管に接続された皮下用注射針、
をさらに含む、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記薬剤が
(b)100mL~1Lの10%(w/v)ブドウ糖水溶液中に溶解された、請求項9に記載のデバイス。
【請求項12】
前記溶液が10μEq以上250μEq以下の前記薬剤を含む、請求項9又は請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記溶液が、5mM以下のNaCl(好ましくは1mM以下のNaCl)及び2mM以下のリン酸塩(好ましくは1mM以下のリン酸塩)を含む、請求項9又は請求項11に記載のデバイス。
【請求項14】
前記溶液が5mM以下のNaClを含む(好ましくは1mM以下のNaClを含み、より好ましくはNaClを含まない)、請求項9又は請求項11に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
骨髄異形成症候群(MDS)は、多能性前駆細胞の異常を原因とする造血障害であり、造血不全、骨髄機能不全、末梢血中の血球減少、及び生存率の減少を特徴とする。
【背景技術】
【0002】
MDSは亜型として慢性骨髄単球性白血病(CMML)を含み、多くの場合、乏芽球性急性骨髄性白血病(O-AML)へと進行する。MDS、CMML、及びO-AMLは骨髄増殖性疾患の一種とみなすことができる。また、CMML及びO-AMLは、MDSと密接に関連したMDS亜型疾患とみなすことができる。[Schanz J, Tuchler H, Sole F, et al. New comprehensive cytogenetic scoring system for primary myelodysplastic syndromes (MDS) and oligoblastic acute myeloid leukemia after MDS derived from an international database merge. J Clin Oncol 2012; 30:820-829. http://www.clevelandclinicmeded.com/medicalpubs/diseasemanagement/hematology-oncology/myelodysplastic-syndromes/]
【0003】
米国において、MDSの治療薬は3つしか承認されていない。そのうち主要なものは、脱メチル化剤である、アザシチジン(5-AZA、VIDAZA)及びデシタビン(DACOGEN)の2つである。これらのメチル化阻害剤は、真偽は定かではないが、腫瘍抑制遺伝子の再活性化と、直接的な細胞毒性機序とを通じて働くとされており、造血前駆細胞の分化を誘導する場合がある。高リスク患者における最近の第III相試験においておよそ50%の患者に反応が認められ、アザシチジンを投与された患者では、ベストサポーティブケア又は化学療法を含む従来療法で治療された患者と比較して、経過観察2年目の生存率は2倍となった。多施設第III相試験でデシタビンが試験されたが、奏功が達成されたのは患者の30%で、完全及び部分寛解率は17%であり、ベストサポーティブケアとの比較でも全生存における優位性は示されていない。サリドマイドの関連物質であるレナリドマイド(REVLIMID)もMDS用に承認されており、全てではないがいくつかのMDS病型で有効性を示している。
【0004】
DNA複製を何らかの形で妨げる標準的な化学療法剤は通常MDSに使用されないが、それは、そのような化学療法剤が血球数を減少させて血球減少を引き起こすためであり、MDS患者が疾患の結果として既に血球を減少させていてさらなる血球数の減少に耐えることができないためである。レナリドマイドにも血球減少を引き起こす副作用があり、MDSにおけるその有用性は限定されている。
【0005】
MDS、O-AML、及びCMMLに対する既存薬は効果が不十分である。
【0006】
MDSと診断された際の平均余命は未だに4~85か月間であり、中央値は約24か月である(Bennett JM, Catovsky D, Daniel MT, et al. Proposals for the classification of the myelodysplastic syndromes. Br J Haematol 1982; 51:189-199. http://www.clevelandclinicmeded.com/medicalpubs/diseasemanagement/hematology-oncology/myelodysplastic-syndromes/)。MDS、O-AML、及びCMMLに対する新たな薬剤及び治療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
メトトレキサート(MTX)に共有結合した、インスリン様増殖因子-1(IGF-1又はIGF)又は765IGFなどのIGFバリアントの結合体(IGF-MTX)について以下に説明する。この結合体は、メトトレキサートと同様に、インビトロにおいてがん細胞に対して細胞毒性を示す。IGF-MTX結合体は、MTXと同様に、ジヒドロ葉酸還元酵素を阻害する。IGF-MTX結合体は、インビトロにおけるがん細胞の増殖阻害のIC50(50%阻害剤濃度)が、MTX単独よりも高い。しかし、マウスモデルにおけるインビボ腫瘍増殖阻害では、IGF-MTX結合体はMTXと比較して6倍超の有効性を有する。すなわち、IGF-MTXは、1kg当たりに投与されたMTX基のモル数に換算して、1/6倍という低用量であっても、MTXより高い有効性を有する。
【0008】
ヒト臨床試験において、765IGF-MTXが、0.2μEq/kgという驚くほど低い用量で一部の固形腫瘍患者の腫瘍成長を有効に遅延したことを以下に示す。1人の再発性ホジキンリンパ腫患者が、0.2μEq/kgの765IGF-MTXによる週1回の治療の後に、がんのない状態になったことも分かった。この臨床試験では、0.8μEq/kgまで、ヒトにおける用量制限毒性は見られなかった。この臨床試験では、試験された最大用量の0.8μEq/kgも含むどの用量においても、血球減少は全く見られなかった。対照的に、メトトレキサートによる治療では、血球減少が例外なく起こり、メトトレキサートを用いた場合に観察されるおそらくは最も重篤な共通の有害事象となる。
【0009】
0.5、2.0、及び4.0μEq/kgの765IGF-MTXを週1回、5週間投与するイヌにおける反復投与試験では、正常域を下回るレベルまでではないが、赤血球質量に僅かな減少が見られたが、リンパ球にも好中球にも減少は見られなかった。0.5、5、又は8μEq/kgを週1回、6週間投与するラットにおける反復投与試験では、0.5μEq/kgでは血球減少は見られず、5μEq/kgでは赤血球質量及び白血球にほんの僅かな減少が見られたが、3週間の回復期の後には正常値まで戻った。
【0010】
IGF-MTXを用いたヒト毒性試験及び動物毒性試験において血球減少が生じなかったことから、IGF-MTXは、疾患の帰結として血球減少が生じる白血病、特に、急性骨髄性白血病(AML)をはじめとする骨髄性白血病の治療において、関心を集めている。IGF-MTXを用いたヒト毒性試験及び動物毒性試験において血球減少が生じなかったことから、IGF-MTXは、骨髄における骨髄系クローンの増殖により、他の血液細胞の産生を押しやられ、強力な血球減少が生じ、患者が輸血依存となることを特徴とする、骨髄異形成症候群(MDS)(密接に関連した疾患である乏芽球性急性骨髄性白血病(O-AML)及び慢性骨髄単球性白血病(CMML)を含む)の治療において、特に関心を集めている。
【0011】
1種のMDS細胞株及び3種のAML細胞株が全て、MCF7とおよそ同じ濃度で、インビトロにおいて765IGF-MTXに対して感受性であり、また、インビボにおいてはIGF-MTXに対して感受性であることを、以下で示す。また、このMDS細胞株が、MCF7と同様、高レベルで1型IGF膜受容体(IGF-1R)を発現していることも示す。このことは、ヒトにおけるMDSがIGF-MTXに対して感受性であること、さらには、有効であるが血球減少を引き起こさない用量のIGF-MTXでMDS患者を治療できること、を示唆している。
【0012】
すなわち、本発明の1つの実施形態では、乏芽球性急性骨髄性白血病(O-AML)又は骨髄異形成症候群(MDS)又は慢性骨髄単球性白血病(CMML)の患者を治療する方法であって、O-AML、MDS、又はCMMLの治療の必要性が認められる患者に、インスリン様増殖因子1受容体(IGF-1R)リガンド-抗がん化学療法薬結合体を含む薬剤を投与することを含む方法が提供される。O-AML及びMDSは、MDSに非常に似た疾患として認識されている。
【0013】
別の実施形態では、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、O-AML、CMML、又はMDSの患者を治療する方法であって、AML、CML、O-AML、CMML、又はMDSの治療の必要性が認められる患者に、(a)メチル化阻害剤(例えば、アザシチジン又はデシタビン)、及び(b)インスリン様増殖因子1受容体(IGF-1R)リガンド-メトトレキサート結合体を含む薬剤を投与することを含み、前記IGF-1Rリガンドはインスリン様増殖因子1(IGF-1)又はそのバリアント又はインスリンである方法が提供される。
【0014】
765IGF-MTX、インスリン-MTX、及び長鎖型R3IGF-MTXはそれぞれ、リン酸緩衝生理食塩水中、又は塩(例えば約50mM超のNaCl)を含有するあらゆる中性pH溶液中で、難溶解性の傾向を示すことが分かっている。故に、現在では、765IGF-MTXは10mMのHCl中4mEq/Lの溶液として保存される。患者への注入のために、250mLの5%ブドウ糖水溶液又は10%ブドウ糖水溶液に希釈される。IGF-MTXは低血糖症を引き起こすため、5%ブドウ糖に含まれた状態の点滴としてIGF-MTXを送達することには、ブドウ糖の投与により、予想される軽度低血糖症が相殺されるという利点がある。また、765IGF-MTXはあらゆる濃度のブドウ糖水溶液に完全に溶解するが、中性pHの約150mMのNaClにおいては沈殿する傾向がある。
【0015】
このことから、本発明の別の実施形態では、点滴用の溶液である医薬組成物であって、前記医薬組成物は、(a)IGF-1Rリガンド-メトトレキサート共有結合体からなる薬剤を含み、前記IGF-1Rリガンドはインスリン様増殖因子1(IGF-1)又はそのバリアント又はインスリンであり、前記医薬組成物は(b)100mL~1Lの5%~10%(w/v)ブドウ糖水溶液中に溶解されており、前記組成物は5mM以上のNaCl又は2mM以上のリン酸塩を含まず、前記溶液は輸液バッグ内に含まれ、100mL~1Lの体積を有する、医薬組成物が提供される。
【0016】
別の実施形態では、IGF-1Rリガンドがインスリン様増殖因子1(IGF-1)又はそのバリアント又はインスリンである、IGF-1Rリガンド-メトトレキサート共有結合体からなる薬剤を投与する方法であって、前記薬剤を、体積100mL~1Lの5%~10%ブドウ糖(w/v)水溶液から実質的になる希釈液中に希釈することで、前記希釈液中の前記薬剤の溶液を作製すること、及び、前記溶液を患者に注入すること、を含む、前記方法が提供される。前記注入は30分間~2時間の時間をかけて行われることが好ましい。
【0017】
別の実施形態では、インスリン様増殖因子1受容体(IGF-1R)リガンド-抗がん化学療法薬結合体、を含む薬剤、を含む組成物であって、乏芽球性急性骨髄性白血病(O-AML)又は骨髄異形成症候群(MDS)又は慢性骨髄単球性白血病(CMML)を治療する方法で使用される組成物が提供される。
【0018】
別の実施形態では、(a)最大100mL~2Lの体積を保有できる輸液バッグに入った、(b)5%又は10%(w/v)ブドウ糖溶液、及び前記溶液に溶解された(c)IGF-1Rリガンド-メトトレキサート共有結合体からなる薬剤と、を含むデバイスであって、前記IGF-1Rリガンドはインスリン様増殖因子1(IGF-1)又はそのバリアント又はインスリンであり、前記溶液は100mL~1L(より好ましくは100mL~500mL、150mL~500mL、又は約250mL)の体積を有する、デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】I-125標識IGF1と比較した場合の、MCF7細胞上のIGF1Rに対する、765IGF及び長鎖型R3-IGFの競合結合アッセイ。
【
図2】I-125標識IGF1と比較した場合の、MCF7細胞上のIGF1Rに対する、765IGFの競合結合アッセイ。
【
図3】増殖阻害に対する765IGF-MTXのIC
50を求めるために用いた、765IGF-MTXによるMCF7細胞の増殖阻害のプロット。
【
図4】765IGF-MTXによるジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の阻害アッセイの結果。
【
図5】I-125標識IGF1と比較した場合の、MCF7細胞上のIGF1Rに対する、765IGF-MTXの競合結合アッセイ。
【
図6】765IGF-MTXによるMDS-L細胞の増殖阻害のプロット。
【
図7】MCF7(左2つの染色レーン)及びMDS-L(右の染色レーン)のウエスタンブロット。
【
図8】765IGF-MTXによるMCF7細胞の増殖阻害。
【
図9】nu/nuマウスにおけるMCF7腫瘍のIGF-MTX及びMTX単独によるインビボ腫瘍増殖阻害。
【
図10】nu/nuマウスにおけるMCF7-L腫瘍のIGF-MTX及びMTX単独によるインビボ腫瘍増殖阻害。
【
図11】nu/nuマウスにおけるLNCaP腫瘍のIGF-MTX及びMTX単独によるインビボ腫瘍増殖阻害。
【
図12】健常人由来の溶血後血液のフローサイトメトリーにおける、CD34及びIGF1R(CD221)の検出。
【
図13】10μLの1×10
6/mL MDS-L細胞と混合した、健常人由来の溶血後血液(100μL)のフローサイトメトリーにおける、CD34及びIGF1R(CD221)の検出。
【
図14】MDS-L細胞(1×10
6/mL)のフローサイトメトリーにおける、CD34及びIGF1R(CD221)の検出。
【0020】
定義:
用語「抗がん化学療法剤」は、酵素ではなく、かつがん細胞を死滅させるかまたはがん細胞の増殖を阻害するが、非がん性細胞にはより少ない効果を有する合成、生物学的、または半合成化合物を指す。
用語「がんを治療すること」は、たとえば、転移を予防すること、がんの増殖を阻害すること、がんの増殖を停止させること、またはがんの細胞を死滅させることを含む。
特定の受容体に対するリガンドの「結合親和性」という用語は、結合定数KA(解離定数KDの反対)またはその実験的に決定された近似値を指す。
用語「代謝拮抗物質」は、天然に存在する物質と構造的な類似性を持ち、阻害剤または基質として、酵素と相互作用し、細胞のプロセスに干渉する抗がん化学療法剤を指す。例として、メトトレキサート、フルオロウラシル、フロクスウリジン、フルダラビン、メルカプトプリン、チオグアニン、シタラビン、アザシチジン、クラドリビン、およびペントスタチンを含む。
「IGF-1受容体」はまた、1型IGF受容体としても文献において知られている。
本明細書において使用される「含有する」は、オープンエンド(open ended)である、すなわち、「含有する」は、他の不特定のエレメントの包含を可能にし、「含む」と同じ意味を有する。
本明細書において使用される「リーダー配列」は、タンパク質のN末端のアミノ酸配列を指す。リーダー配列はタンパク質の合成後に切断されず、成熟タンパク質の一部である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の1つの実施形態では、乏芽球性急性骨髄性白血病(O-AML)又は骨髄異形成症候群(MDS)又は慢性骨髄単球性白血病(CMML)の患者を治療する方法であって、O-AML、MDS、又はCMMLの治療の必要性が認められる患者に、インスリン様増殖因子1受容体(IGF-1R)リガンド-抗がん化学療法薬結合体を含む薬剤を投与することを含む、前記方法が提供される。O-AML及びCMMLは、MDSに非常に似た疾患として認識されている。
【0022】
別の実施形態では、急性骨髄性白血病(AML)、又は慢性骨髄性白血病(CML)、又はO-AML、又はCMML、又はMDSの患者を治療する方法であって、AML、CML、O-AML、CMML、又はMDSの治療の必要性が認められる患者に、(a)メチル化阻害剤(例えば、アザシチジン又はデシタビン)、及び(b)インスリン様増殖因子1受容体(IGF-1R)リガンド-メトトレキサート結合体を含む薬剤を投与することを含み、前記IGF-1Rリガンドはインスリン様増殖因子1(IGF-1)又はそのバリアント又はインスリンである、前記方法が提供される。通常、前記メチル化阻害剤、及びIGF-1Rリガンド-メトトレキサート結合体を含む前記薬剤は、同日に投与される。
【0023】
765IGF-MTX、インスリン-MTX、及び長鎖型R3IGF-MTXはそれぞれ、リン酸緩衝生理食塩水中、又は塩(例えば約50mM超のNaCl)を含有するあらゆる中性pH溶液中で、難溶解性の傾向を示すことが分かっている。故に、765IGF-MTXは現在、10mMのHCl中4mEq/Lの溶液として保存される。患者への注入のために、250mLの5%ブドウ糖水溶液又は10%ブドウ糖水溶液に希釈される。IGF-MTXは低血糖症を引き起こすため、5%ブドウ糖に含まれた状態の点滴としてIGF-MTXを送達することには、ブドウ糖の投与により、予想される軽度低血糖症が相殺されるという利点がある。また、765IGF-MTXはあらゆる濃度のブドウ糖水溶液に完全に溶解するが、中性pHの約150mMのNaClにおいては沈殿する傾向がある。
【0024】
このことから、本発明の別の実施形態では、注射用の溶液である医薬組成物であって、前記医薬組成物は、(a)IGF-1Rリガンド-メトトレキサート共有結合体からなる薬剤を含み、前記IGF-1Rリガンドはインスリン様増殖因子1(IGF-1)又はそのバリアント又はインスリンであり、前記医薬組成物は(b)100mL~1Lの5%~10%(w/v)ブドウ糖水溶液中に溶解されており、前記組成物は5mM以上のNaCl又は2mM以上のリン酸塩を含まず、前記溶液は輸液バッグ内に含まれ、100mL~1Lの体積を有する、前記医薬組成物が提供される。
【0025】
別の実施形態では、IGF-1Rリガンドがインスリン様増殖因子1(IGF-1)又はそのバリアント又はインスリンである、IGF-1Rリガンド-メトトレキサート共有結合体からなる薬剤を投与する方法であって、前記薬剤を、体積100mL~1Lの5%~10%ブドウ糖(w/v)水溶液から実質的になる希釈液中に希釈することで、前記希釈液中の前記薬剤の溶液を作製すること、及び、前記溶液を患者に注入すること、を含む、前記方法が提供される。前記注入は30分間~2時間の時間をかけて行われることが好ましい。
【0026】
前記IGF-1RリガンドはIGF-1Rに特異的に結合する抗体であってもよい。他の実施形態では、前記IGF-1Rリガンドは、インスリン、又はIGF-1(配列番号3)、又はIGF-1のバリアントである。具体的には、バリアントは765IGF(配列番号2)が好ましい。
【0027】
特定の実施形態では、前記抗がん化学療法薬はメトトレキサート、クロラムブシル、又はベンダムスチンである。特定の実施形態では、前記抗がん化学療法薬はメトトレキサートである。
【0028】
特定の実施形態では、前記化学療法薬は、遊離カルボキシル基を含む、非タンパク質性又は非ペプチド性の、小分子(2000Da未満の分子量)である。これらの化学療法薬はEDCを用いた反応によりタンパク質のIGF-1Rリガンドに結合し、これにより前記カルボキシル基が前記タンパク質のアミノ基に結合し得る。
【0029】
特定の実施形態では、本明細書に記載される患者の治療法は、患者の体重1kg当たり0.1~2.5μEqの用量における、IGF-1Rリガンド-メトトレキサート結合体、好ましくは765IGF-MTXの投与を含む。他の実施形態では、前記用量は、0.2~2.5μEq/kg、0.4~2.5μEq/kg、又は0.4~1.6μEq/kg、約0.2μEq/kg、約0.4μEq/kg、約0.8μEq/kg、約1.6μEq/kg、又は約2.5μEq/kgである。投与は週1回が好ましいが、週2回でも、2週間に1回でも、3週間に1回でもよい。1つの実施形態では、投与は、週1回を3週間と、その後の1週間の休薬で、28日間のサイクルで行われる。投与は静脈(intraveneous)注射による投与が好ましい。1つの実施形態では、前記結合体(IGF-1Rリガンド-抗がん化学療法薬結合体)は、体積100mL~1L(より好ましくは約200mL~約500mL、他の実施形態では100~500mL、150~500mL、200~500mL、又は約250mL、又は約500mL)の5%~10%ブドウ糖に含まれた状態で、点滴静注により投与される。
【0030】
いくつかの実施形態では、前記IGF-1Rリガンドは、前記化学療法薬に共有結合によって結合している。他の実施形態では、非共有結合による結合体であってもよく、例えば、アブラキサンが、パクリタキセルがアルブミンと結合しているナノ粒子であるのと同様に、化学療法薬及びIGF-1Rリガンドをナノ粒子内に一緒に埋め込むことによる結合体であってもよい。
【0031】
特定の実施形態では、前記IGF-1Rリガンドは、インスリン様増殖因子-1(IGF-1)、又はそのバリアント、又はインスリンである。前記IGF-1のバリアントは、天然IGF-1と比較して、可溶性IGF結合タンパク質に対する結合親和性が減少していることが好ましい。可溶性IGF結合タンパク質は、血液中に存在する、IGF-1に結合する可溶性タンパク質であり、それに対し、IGF-1R膜受容体は膜タンパク質であり、これを通じてIGF-1はその生物学的作用を発揮する。生体内のIGF-1の99%もが可溶性IGF結合タンパク質と結合しており、IGF-1は可溶性IGF結合タンパク質と結合すると、IGF-1Rに結合できなくなる。以下、可溶性IGF結合タンパク質に対する結合親和性が減少した特定のIGF-1バリアント、並びに、可溶性IGF結合タンパク質に対する結合親和性を測定するためのアッセイを説明する。
【0032】
大腸菌内で、組換えベクターから、T7プロモーターによる発現制御及びIPTGでの発現誘導下で、配列番号2の配列を有する融合タンパク質を発現させた。このタンパク質は、そのN末端に配列番号1の配列を有し、この配列は、精製用のポリHisタグと数個の追加のリジン残基とを与えている。このタンパク質のC末端は、19番目から88番目までの残基であり、R3-IGFと一致しており、R3-IGFは、野生型IGF-1(配列番号3)の第3残基の天然グルタミン酸が配列番号2の第21残基のアルギニンと置き換わっているヒト野生型IGF-1の配列である。
【0033】
R3-IGF(配列番号6)は、以下に説明されるような、IGF-1バリアントである。
【0034】
N末端配列としての配列番号1と、それに続いてR3-IGFを含む765IGF(配列番号2)は、高収率で発現され、異なるリーダー配列を含む他のIGF融合タンパク質コンストラクトよりも高い収率で精製される。765IGFは、別のIGF-1バリアントであるIGF132よりも保存安定性が高かった。また、765IGFはリフォールディングによりほぼ100%の収率で活性型であり、別のIGF-1バリアントである長鎖型R3-IGFよりも多くの野生型IGF-1を、MCF7細胞上のIGF-1受容体から立ち退かせた。
【0035】
配列番号1のリーダーはまた、5個のリジン残基を規定している。765IGF-メトトレキサート結合体は、メトトレキサートのカルボキシル基の1つを介して、アミド結合により、765IGFのアミノ基にメトトレキサートを共有結合させることによって作製された。765IGFは、8個のリジン側鎖(8個のうち5個は配列番号1のリーダーに存在する)とアミノ末端のα-アミノ基とを含む、9個のアミノ基を有する。765IGF-MTXでは、IGF単量体1個当たり平均して約8個のメトトレキサート基が結合している。長鎖型R3-IGFへの結合体及びIGF132への結合体では、IGF単量体1個当たりのメトトレキサート基はより少なかった。すなわち、これが、配列番号1のリーダーのもう1つの優位性である。
【0036】
R3-IGFは、配列番号2内の、配列番号1を含む融合タンパク質の中の、IGF-1バリアントである。R3-IGFは、IGF受容体(IGF-1R)を活性化するが、可溶性IGF結合タンパク質に対する結合親和性が減少(野生型IGF-1との比較)した、バリアントである(Francis, G.L., et al.1992, J. Mol. Endocrinol. 8:213-223; Tomas, F.M. et al., 1993, J. Endocrinol. 137:413-421)。可溶性IGF結合タンパク質は、IGF-1に結合し、血流中でIGF-1を保持し、IGF-1の生物学的半減期を延長する、天然の血清タンパク質である。しかし、IGF-1は、IGF結合タンパク質に結合すると、膜上のIGF受容体(IGF-1R)に結合できない。(Clemons, D.R., 1998, Mol. Cell. Endocrinol. 140:19-24)。この理由から、可溶性IGF結合タンパク質への結合性が減少したIGF-1バリアントは、野生型IGF-1よりも生体内で活性が高く、より速くIGF受容体を標的とする。
【0037】
IGF結合タンパク質に対する結合親和性は、ラットL6筋芽細胞条件培地を用いて試験することができる。ラットL6筋芽細胞の増殖より得られた前記培地(0.2mL)を、0.25%ウシアルブミン及び最終濃度0.1nM~1μMの競合性試験物質(野生型IGF-1又はIGFバリアント)を含む最終体積0.3mLの50mMリン酸ナトリウム(pH6.5、)中の8,000cpmの125I-IGF-1(約0.05μCi)と、混合する。室温で90分間インキュベートした後、結合体と遊離トレーサーを分離するため、0.2mg/mL硫酸プロタミンを含有するアッセイ緩衝液中5mg/mLの氷冷急速撹拌炭懸濁液を前記試料に添加し、氷上で8分間放置後、この混合物を5,000×gで20分間遠心分離する。上清中の放射活性をγ線計数器で測定する。バリアントの結合親和性を野生型IGFの結合親和性と比較することで、バリアントの可溶性IGF結合タンパク質に対する結合親和性が低下しているかどうかを判定することができる。
【0038】
可溶性IGF結合タンパク質に対する結合親和性が低下している特定のIGF-1バリアントとしては、IGF132(配列番号4)(米国特許第4,876,242号で開示)、長鎖型R3-IGF(配列番号5)、R3-IGF(配列番号6)、及び野生型IGF-1の最初の3個の残基が欠失しているdes(1-3)IGF1(配列番号7)が挙げられる。(長鎖型R3-IGF、R3-IGF、及びdes(1-3)IGF1については、Francis, G.L., et al.1992, J. Mol. Endocrinol. 8:213-223; Tomas, F.M. et al., 1993, J. Endocrinol. 137:413-421で説明されている)。すなわち、特定の実施形態では、可溶性IGF-1結合タンパク質に対する結合性が減少しているIGF-1バリアントであるポリペプチドは、配列番号4~7のいずれか1つを含む。
【0039】
IGF受容体が、本明細書に記載の(b)IGF-1又はIGFバリアントなどのIGF受容体リガンドと共有結合した(a)抗がん化学療法剤を含む結合体の、がんにおける標的となってもよい。インスリンはIGF-1Rに対する親和性を有するため、前記IGF-1Rリガンドはインスリンであってもよい。
【0040】
可溶性IGF-1結合タンパク質に対する親和性が減少した前記IGF-1受容体リガンドは、野生型IGF-1よりも、可溶性IGF-1結合タンパク質に対する結合親和性が、好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、さらにより好ましくは少なくとも100倍低い。
【0041】
可溶性IGF-1結合タンパク質に対する結合親和性は、Francis, G.L., et al.(1992, J. Mol. Endocrinol. 8:213-223); Szabo, L. et al. (1988, Biochem. Biophys. Res. Commun. 151:207-214);及びMartin, J.L. et al. (1986, J. Biol. Chem. 261:8754-8760)に記載されるように、精製後のIGF-1結合タンパク質の混合物又はラットL6筋芽細胞条件培地(天然に産生されるIGF-1結合タンパク質混合物)を用いて、標識IGF-1(例えば、125I IGF-1)に対しての競合結合アッセイによって、測定できる。
【0042】
IGF-1バリアントは、L6筋芽細胞条件培地中の可溶性IGF-1結合タンパク質に対する結合性についての、標識野生型IGF-1に対する競合結合アッセイにおいて、10nM超のIC50、より好ましくは100nM超のIC50を有することが好ましい。
【0043】
可溶性IGF-1結合タンパク質に対する親和性が減少したIGF-1バリアントなどの、前記IGF-1Rリガンドは、野生型IGF-1に近い、IGF-1受容体に対する親和性を有することが好ましい(例えば、野生型IGF-1よりも高いが30倍未満である、より好ましくは、野生型IGF-1よりも高いが10倍未満である)。
【0044】
特定の実施形態では、前記IGF-1バリアントは、IGF-1受容体(例えば、MCF-7細胞上)に対する結合性についての標識野生型IGF-1に対する競合結合アッセイにおいて、50nM未満、より好ましくは10nM未満、さらにより好ましくは5nM未満、さらにより好ましくは3nM未満、のKDを有する。
【0045】
このアッセイは、Ross, M. et al. (1989, Biochem. J. 258:267-272) and Francis, G.L., et al. (1992, J. Mol. Endocrinol. 8:213-223)、及び本明細書の実施例4で説明されている。
【0046】
本発明の特定の実施形態では、前記IGF-1バリアントは、IGF-1(配列番号3)を含むか、又は、配列番号3及び配列番号4のいずれか1つに対して少なくとも90%の同一性を有するセグメントを含む。
【0047】
特定の実施形態では、前記抗がん化学療法剤は、メトトレキサート、クロラムブシル、又はベンダムスチンなどの、遊離カルボキシル基を有するものであってもよい。
【0048】
特定の実施形態では、前記IGF-1Rリガンドと結合する前記化学療法剤は、メクロレタミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、チオテパ、ヘキサメチルメラミン、ブスルファン、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ストレプトゾシン、ダカルバジン(decarbazine)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、テニポシド、パクリタキセル、ドセタキセル、ダウノルビシン、イダルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ダクチノマイシン、プリカマイシン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトキサントロン、メトトレキサート、フルオロウラシル、フロクスウリジン、フルダラビン、メルカプトプリン、チオグアニン、シタラビン、アザシチジン、クラドリビン、ペントスタチン、シスプラチン、カルボプラチン、ミトタン、プロカルバジン、又はアムサクリンである。
【0049】
本方法の特定の実施形態では、前記IGF-1Rリガンドは、IGF-1(配列番号3)ではなく、且つ、765IGF(配列番号2)、IGF132(配列番号4)、長鎖型R3-IGF(配列番号5)、R3-IGF(配列番号6)、若しくはdes(1-3)-IGF1(配列番号7)であるか、IGF-1(配列番号3)ではなく、且つ、765IGF(配列番号2)、IGF132(配列番号4)、長鎖型R3-IGF(配列番号5)、R3-IGF(配列番号6)、若しくはdes(1-3)-IGF1(配列番号7)を含むか、又はIGF-1と少なくとも90%の同一性を有するバリアントである。
【0050】
他の実施形態では、前記IGF-1Rリガンドは抗IGF-1R抗体である。
【0051】
前記IGF-1Rリガンドがメトトレキサートと結合している特定の実施形態では、前記方法は、前記患者に、前記薬剤を、0.1~2.5μEq/kg、0.1~2.5μEq/kg、0.4~2.5μEq/kg、0.4~1.6μEq/kg、約0.2μEq/kg、約0.4μEq/kg、約0.8μEq/kg、約1.6μEq/kg、又は約2.5μEq/kgの用量で、投与することを含む。μEqとは、1μMのメトトレキサート基(前記リガンドに結合)である。
【0052】
メチル化阻害剤を投与することを含む前記方法では、前記メチル化阻害剤は、アザシチジン又はデシタビンであることが好ましく、アザシチジンであることがより好ましい。
【0053】
1つの実施形態では、注射用の溶液である医薬組成物であって、前記医薬組成物は、(a)IGF-1Rリガンド-メトトレキサート共有結合体からなる薬剤を含み、前記IGF-1Rリガンドはインスリン様増殖因子1(IGF-1)又はそのバリアント又はインスリンであり、前記医薬組成物は(b)100mL~1Lの5%~10%(w/v)ブドウ糖水溶液中に溶解されており、前記溶液は5mM以上のNaCl又は2mM以上のリン酸塩を含まず、前記溶液は輸液バッグ内に含まれ、100mL~1Lの体積を有する、医薬組成物が提供される。
【0054】
より具体的な実施形態では、前記溶液は100mL~500mL、150mL~500mL、200mL~500mL、又は約250mL、又は約500mLの体積を有する。
【0055】
特定の実施形態では、前記薬剤は765IGF-MTXである。
【0056】
より具体的な実施形態では、前記組成物は1mM未満のNaCl及び1mM未満のリン酸塩を含む。
【0057】
別の実施形態では、IGF-1Rリガンドがインスリン様増殖因子1(IGF-1)又はそのバリアント又はインスリンである、IGF-1Rリガンド-メトトレキサート共有結合体からなる薬剤を投与する方法であって、前記薬剤を、体積100mL~1Lの5%~10%ブドウ糖(w/v)水溶液から実質的になる希釈液中に希釈することで、前記希釈液中の前記薬剤の溶液を作製すること、及び、前記溶液を患者に注入うすること、を含む、前記方法が提供される。
【0058】
特定の実施形態では、前記溶液を患者に注入する工程は、20分間~2.5時間、又は30分間~2時間、又は45分間~1.5時間、又は1~2時間の時間をかけて行われる。
【0059】
別の実施形態では、インスリン様増殖因子1受容体(IGF-1R)リガンド-抗がん化学療法薬結合体、を含む薬剤、を含む組成物であって、乏芽球性急性骨髄性白血病(O-AML)又は骨髄異形成症候群(MDS)又は慢性骨髄単球性白血病(CMML)又は急性骨髄性白血病(AML)又は慢性骨髄性白血病(CML)を治療する方法で使用される、前記組成物が提供される。
【0060】
別の実施形態では、(a)最大100mL~2Lの体積を保有できる輸液バッグに入った、(b)5%又は10%(w/v)ブドウ糖溶液、及び前記溶液に溶解された(c)IGF-1Rリガンド-メトトレキサート共有結合体からなる薬剤と、を含むデバイスであって、前記IGF-1Rリガンドはインスリン様増殖因子1(IGF-1)又はそのバリアント又はインスリンであり、前記溶液は100mL~1L(より好ましくは100mL~500mL、150mL~500mL、又は約250mL)の体積を有するデバイスが提供される。
【0061】
前記デバイスは、(d)前記輸液バッグに接続されたチューブ管と、(e)前記チューブ管に接続された皮下用注射針と、をさらに含んでもよい。
【0062】
1つの実施形態では、前記薬剤は765IGF-MTXである。
【0063】
前記デバイスの1つの実施形態では、前記溶液は10μEq以上250μEq以下の前記薬剤を含む。
【0064】
前記デバイスの特定の実施形態では、前記溶液は、5mM以下のNaCl(好ましくは1mM以下のNaCl)を含み、2mM以下のリン酸塩(好ましくは1mM以下のリン酸塩)を含む。
【0065】
前記デバイスの特定の実施形態では、前記溶液は、5mM以下のNaClを含む(好ましくは1mM以下のNaClを含み、より好ましくはNaClを含まない)。
【0066】
受容体リガンドに抗がん化学療法剤を結合するためのガイドライン
インスリン受容体およびIGF-1受容体の天然のリガンドは、タンパク質、すなわちインスリン、IGF-1、およびIGF-2である。化学療法剤は、典型的に、タンパク質に存在する反応基によってタンパク質に結合させる。これらは、N-末端アルファアミノ基、C-末端アルファカルボキシル基、リジンの側鎖アミノ基、アスパラギン酸およびグルタミン酸の側鎖カルボキシル基、システインの側鎖チオール、ならびにアルギニンの側鎖を含む。タンパク質に見られる他の反応性の側鎖は、セリンおよびトレオニンの側鎖ヒドロキシル、チロシンのヒドロキシアリール、ヒスチジンのイミダゾール、ならびにメチオニン側鎖である。
【0067】
同じ反応基の多くは、化学療法剤ならびにインスリン受容体およびIGF-1受容体の非タンパク質性リガンドに見い出される。したがって、本明細書において議論されるタンパク質の修飾および架橋の原理の多くはまた、化学療法剤および非タンパク質性リガンドの修飾および架橋にも適用される。
【0068】
タンパク質コンジュゲーションおよび架橋の化学および原理は、Wong,Shan S.,Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking,1991,CRC Press,Boca Raton,Floridaにおいて記載される。この化学についての情報についての他のソースは、the Pierce Biochemistry catalog;およびGreene,T.W.,and Wutz,P.G.M.,Protecting Groups in Organic Synthesis,second edition 1991,John Wiley&Sons,Inc.,New Yorkおよびそこに引用される参考文献を含む。
【0069】
アミノ酸側鎖の中で最も強い求核剤は、還元システイン側鎖のチオールである。チオールは、ほとんどのタンパク質修飾試薬と反応する。アルファ-ハロアセトアミドおよびマレイミドは、システイン残基と、特にpH7.0以下で特異的に反応すると考えられる。チオールは、ジスルフィド交換によってジスルフィド試薬とも反応する。
【0070】
【0071】
アミノ基は、タンパク質に見出されるれる次に強い求核剤である。アルデヒドは、アミノ基と反応し、シッフ塩基を形成する。シッフ塩基は加水分解可能であり、これは本発明において利点となり得る。リガンド-化学療法剤コンジュゲートのがん細胞の中への取込みと共に、いくつかのケースでは、化学療法剤が活性となるためにコンジュゲートから化学療法剤を切断する必要がある。化学療法剤が加水分解可能な連結などのような切断可能な連結によってリガンドに連結される場合、これはより良好に達成される。切断可能な連結は、自然にまたは細胞の酵素によって切断することができる。たとえば、アミド結合は、プロテアーゼを含むいくつかの酵素によって切断される。シッフ塩基の結合は、かなりの割合で自然に加水分解する。ジスルフィドの結合は、がん細胞の細胞内還元的環境において還元的に切断されることが期待される。
【0072】
【0073】
アルデヒドとのアミノ基の反応によって形成されるシッフ塩基は、たとえば水素化ホウ素ナトリウムまたはピリジンボランによる還元によって安定化することができる。ピリジンボランは、インスリン、IGF-1、およびIGF-2において見られ、それらのタンパク質の構造にとって不可欠であるジスルフィドを還元しないという利点を有する。
【0074】
いくつかの化学療法剤において見られる、隣接する炭素上にヒドロキシル基を有する糖または他の成分は、たとえば過ヨウ素酸塩により糖を酸化することによって、アミノ基と反応するように修飾することができる。これは、炭素間を切断し、ジアルデヒドを産生する。アルデヒド基がアミノ基と反応する。
【0075】
グルタルアルデヒドなどのようなジアルデヒドは、アミノ基を有する2つの分子を架橋するであろう。
【0076】
他のアミノ試薬は、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、p-ニトロフェニルエステル、または酸無水物(たとえば無水コハク酸)などのような活性化カルボニルを含む。
【0077】
【0078】
アミノ基は、ハロゲン化スルホニルおよびハロゲン化アリール(たとえば2,4-ジニトロフルオロベンゼン)とも反応する。
【0079】
【0080】
アミノ基はまた、イソシアネートおよびイソチオシアネートと反応し、尿素またはチオ尿素誘導体を形成する。
【0081】
【0082】
イミドエステルは、アミノ基に対する最も特異的なアシル化剤である。イミドエステルは、約7~10のpHで、アミンと特異的に反応し、イミドアミドを形成する。この反応は、もとのアミノ基で、正に荷電している基、イミドアミドを生成することによって電荷安定性を維持するという利点を有する。イミドアミドはまた、中性を超えるpHでゆっくりと加水分解し、これはまた、加水分解によりがん細胞において遊離化学療法剤を放出することができるという点で利点ともなり得る。
【0083】
【0084】
カルボキシル基は、穏やかな酸性条件、たとえばpH5下で、ジアゾアセテートおよびジアゾアセトアミドと特異的に反応する。
【0085】
【0086】
カルボキシルの中で最も重要な化学修飾は、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリニル-4-エチル)カルボジイミド(CMC)および3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)などのようなカルボジイミドを使用する。アミンの存在下において、カルボジイミドは、2ステップでカルボキシルにアミド結合を形成する。第1のステップにおいて、カルボキシル基は、カルボジイミドに追加され、O-アシルイソ尿素中間体が形成される。アミンとの続く反応により、対応するアミドがもたらされる。
【0087】
【0088】
特に重要なカルボジイミド反応は、N-ヒドロキシスクシンイミドによりカルボキシルを活性化し、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを形成における使用である。
【0089】
【0090】
アルギニンは、グリオキサール、2,3-ブタンジオン、および1,2-シクロヘキサンジオンなどのような近接するジアルデヒドまたはジケトンと反応する。安定化が所望される場合、ホウ酸は付加物を安定化し得る。
【0091】
【0092】
反応基はまた、上記の反応のいくつかによって他の反応基と置換することができる。たとえば、無水コハク酸などのような酸無水物によるアミノ基の修飾は、正に荷電しているアミノ基を遊離カルボキシル基と置換する。同様に、カルボジイミドおよびエチレンジアミンなどのようなジアミンとのカルボキシル基の反応は、カルボキシル基を遊離アミノ基と置換する。
【0093】
架橋:上記に記載される反応基のうちの2つ、たとえば2つのアミノ反応基またはアミノ反応基およびチオール反応基を含有する試薬は、適切な基のうちの一方を含有する化学療法剤を、他方の適切な基を含有するインスリン受容体リガンドまたはIGF-1受容体リガンドに架橋するために使用することができる。また、カルボジイミドまたはカルボジイミドおよびN-ヒドロキシスクシンイミドにより活性化されたカルボキシル(たとえば化学療法剤の)は、アミノ基(たとえばタンパク質リガンドの)と反応することができ、アミド結合架橋を形成する。
【0094】
【0095】
活性化されたカルボキシルは、単離するのに十分に安定しているが、次いで、アミノ基と容易に反応し、アミド結合を形成するであろう。
N-スクシンイミジル-3-[2-ピリジルジチオ]プロピオナート(SPDP)などのようなスクシンイミドは、アミノ基を通して2つの化合物をつなぐために使用することができる。(Pierce Biotechnology catalogおよびThorpe,P.E.et al.1982,Immunol.Rev.62:119-158.を参照されたい)
【実施例】
【0096】
実施例1
大腸菌における発現について最適化されたヌクレオチド配列を有し、T7プロモーターのコントロール下にある、以下のタンパク質をコードするプラスミドは、DNA2.0社(Menlo Park、California)によって合成された。
【0097】
コードされるタンパク質 説明 配列
403IGF His6-IGF 配列番号:8
764IGF His6-K5-IGF132 配列番号:11
765IGF His6-K5-R3IGF 配列番号:2
784IGF mutTrx-R3IGF 配列番号:9
785IGF mutTrx-IGF132 配列番号:10
【0098】
大腸菌BL21株(DE3)を、それぞれのプラスミドで形質転換し、形質転換体を単離した。それぞれの10mlの形質転換BL21(DE3)培養物を、2Lバッフル付きフラスコ中50ug/mlカナマイシンを含有する500mlのLB培地(LB-kan)に接種するために使用した。これらを、0.6のO.D.600nmで、最終0.4mMIPTGにより誘導し、25℃で一晩増殖させた。
【0099】
細胞を50mM Tris-HCl pH8.0中に再懸濁し、凍結した。それらを解凍し、50mM Tris-HCl pH8.0、0.2%Triton-X100、細胞ペースト1g当たり0.5mgリゾチーム中、5%湿重量/容量の細胞重量で室温で30分間インキュベートした。次いで、それらを超音波処理し、細胞を破壊した。MgCl2を3mMの最終濃度で追加し、250μlのBENZONASEを培養物1リットル当たりに追加した。これを室温でさらに1時間インキュベートした。
【0100】
封入体を遠心分離によって単離した。可溶性画分を保存した。
封入体を、7M尿素、0.5M NaCl、20mMリン酸pH7.8中で可溶化した。
可溶化した封入体を、カラム中1mlのNi-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA)樹脂にロードした。カラムをNi-Aバッファーにより洗浄し、Ni-Bバッファーにより溶出した。
Ni-A 6M尿素、0.5M NaCl、20mMリン酸ナトリウム、20mMイミダゾール、pH7.3。
Ni-B 6M尿素、0.5M NaCl、20mMリン酸ナトリウム、0.4Mイミダゾール、pH7.3。
【0101】
タンパク質収量は以下のとおりであった。
403IGF溶出物3.6mg
764IGF溶出物16mg
765IGF溶出物24mg
784IGF溶出物6.7mg
785IGF溶出物1.9mg
【0102】
SDS-PAGEは、溶出物ならびに粗不溶性画分および粗可溶性画分について実行した。784IGFおよび785IGFは、可溶性画分中にIGFの約半分、不溶性画分中に半分を有したようであった。403IGF、764IGF、および765IGFは、不溶性画分中にIGFのほぼすべてを有するようであった。
【0103】
このデータから、収量は765IGFで最も良好であった。配列番号1リーダー配列を有するもの(764IGFおよび765IGF)は、単純なMet-His6リーダー(403IGF)を有するもの、またはチオレドキシンリーダー配列(784IGFおよび785IGF)を有するものよりも良好な収量をもたらした。また、IGF部分についてR3IGF変異を有するコンストラクト(765IGFおよび784IGF)は、融合タンパク質のIGF部分についてIGF132変異を有する対応するコンストラクト(764IGFおよび785IGF)よりも良好な収量をもたらした。
【0104】
実施例2
リフォールディングおよび結合アッセイ
実施例1の各2mlのもとのNi溶出物を、およそ等容量の100mMグリシン、6M尿素、pH9.5と混合し、CENTRICON 3kDaフィルターユニットで限外濾過によって濃縮し、次いで、前記バッファー中に再び戻し、約420μlまで濃縮した。次いで、それらを403IGF、764IGF、および765IGFについては2mg/ml、784IGFについては4mg/ml、785IGFについては2.4mg/mlに希釈した。
【0105】
これらの各200μlを、1.8mlのリフォールディングバッファーと急速に混合した。リフォールディングバッファーは、1.4M尿素、100mMグリシン、0.5M NaCl、19%エタノール、0.5mM GSSG、4mM GSH、pH9.5とした。それらを3時間室温でリフォールディングし、次いで、I-132放射性野生型IGF(Perkin Elmer,Inc.)に対して、IGF受容体への競合結合を結合アッセイで試験した。比較のために、市販のLong-R3-IGF(LR3IGF)も試験した。
【0106】
この実験においておよその結合定数(KD)は、以下のとおりであった。
LR3IGF 1nM
403IGF 2nM
764IGF 100nM
765IGF 10nM
784IGF 3nM
785IGF 40nM
R3IGFバリアント(LR3IGF、765IGF、および784IGF)を含む融合タンパク質は、IGF132バリアント(403IGF、764IGF、および785IGF)を含むものよりもKDが低かった。
【0107】
実施例3
765IGFの精製および収量
T7プロモーターのコントロール下に765IGF遺伝子を有し、大腸菌についての最適化コドン使用頻度を有する765IGFをコードするプラスミドは、DNA2.0(Menlo Park、CA、USA)によって合成された。大腸菌B121株(DE3)を前記プラスミドにより形質転換し、ファーメンター培養において増殖させ、IPTGにより誘導した。
【0108】
765IGFは、イオン交換クロマトグラフィーおよびニッケルアフィニティークロマトグラフィーによって変性条件下で精製した。精製765IGFの収量は、培養物1リットル当たり約60mgであった。
765IGFを、実施例2と同様の手順によってリフォールディングし、次いで、リフォールディングしたタンパク質を、DEAE樹脂によるイオン交換クロマトグラフィーおよびニッケル樹脂によるアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。
【0109】
実施例4
IGF-1受容体への765IGF結合アッセイ
方法:
アッセイの理論:放射性125I標識インスリン様成長因子-1(IGF-1)は、インビトロにおいて、MCF7細胞(ヒト乳がん細胞株)上に豊富な1型IGF受容体への結合について試験リガンドと競合する。試験するリガンドは、本発明者らのインスリン様成長因子-1(IGF-1)の765IGFバリアント、および765IGFと結合した葉酸代謝拮抗剤メトトレキサートを含有する本発明者らの新規な共有結合コンジュゲート、ならびに比較およびポジティブコントロールとしての市販で入手可能なlong-R3-IGF-1(Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)を含む。
【0110】
MCF7細胞培地:500mL MEM、0.01mg/mLウシインスリン;5mLピルビン酸ナトリウム、5mL非必須アミノ酸、10mL炭酸水素ナトリウム、10mLウシ胎児血清、5mLペニシリン/ストレプトマイシン。
MCF7細胞(ATCC HTB-22)を、48ウェル組織培養プレート(平底、低蒸発蓋を有り)に0.5mL/ウェルの容量でウェル当たり20,000細胞でまき、5%CO2、37℃に設定した細胞培養インキュベーター中に置いた。培養の2~3日後、プレートを、ウェル当たり0.5mLの冷結合アッセイバッファー(100mM Hepes-NaOH、pH7.2;120mM NaCl;5mM KCl;1.2mM MgSO4;0.1%BSA)により2×洗浄した。最終の洗浄の後に、0.5mLの結合アッセイバッファーをそれぞれのウェルに追加し、プレートを2~6時間4℃で置いた。
【0111】
試験リガンドは、200ulの容量で5mM HCl中10マイクロモル(long-R3-IGF)または20マイクロモル(765IGFおよびIGF-MTX)の濃度で調製した。濃度を決定するために、765IGF(9742ダルトン)およびlong-R3-IGF(9111ダルトン)の分子量を使用する。long-R3については、凍結乾燥した市販の物質を、10mM HCl中に1.0mg/mlで溶解し、これを、91ug/mlの濃度まで希釈し、10uM溶液にする。
765IGFおよびlong-R3-IGFは、2000nM~1nMの濃度でウェルにおいて結合バッファー中に希釈した。
【0112】
次に、I-125IGFの25uCiロット(Perkin Elmer Radiochemicals、Waltham、Massachussetts、USA)を、1mlの水中に溶解した。結合バッファー中への適切な希釈液を作製し、次いで、50ulの希釈放射性IGFをそれぞれのウェルに加えてウェル当たり0.03uCi以上を加えた。新鮮なI-125IGFについて、使用するプレート当たり、I-125IGFの1mlの水溶液のうちの100ulを、使用するプレート当たり2.6mlの結合バッファーに追加することができ、50ulをウェルに追加する。
【0113】
次いで、プレートを4℃で一晩インキュベートした。次いで、液体を、マイクロピペッターによりそれぞれのウェルから取り出し、ウェルを、結合バッファーで2度洗浄した。細胞を、0.5mL 300mM NaOH、1%SDSにより溶解し、溶解物をガンマカウンターで数えた。
【0114】
結果:
765IGFおよび市販のlong-R3-IGFについてのIGF-1受容体結合アッセイの結果を
図1に示す。高濃度で、765IGFは、一貫してlong-R3-IGFよりも多くの放射活性を減少させ、long-R3-IGFが結合しない膜上のIGF-1結合部位に765IGFが結合するかもしれないことを示唆する。このアッセイにおける765IGFのK
Dは1nM未満であったが、long-R3-IGFのK
Dは約3nMであった。
【0115】
実施例5
765IGFへのメトトレキサートのコンジュゲーション
タンパク質を、pH7.3コンジュゲーションバッファーにバッファー交換し、2.5mg/mlの濃度に調節した。
pH7.3コンジュゲーションバッファー:25mMリン酸ナトリウム、10mM NaCl、6M尿素、pH7.3。
pH6.3コンジュゲーションバッファーは、pH6.3の同じバッファーとする。
メトトレキサートを、20mg/mlでpH6.3コンジュゲーションバッファーに溶解し、pHをNaOHによりpH6.3に調節した。
1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)を、75mg/mlでpH6.3コンジュゲーションバッファーに新たに溶解した。
1容量のEDC溶液を1容量のMTX溶液に追加し、室温で30秒間インキュベートし、次いで、この混合物を、pH7.3コンジュゲーションバッファー中8容量の2.5mg/mlタンパク質溶液に追加した。
混合物を混合し、次いで、室温で一晩反応させた。次いで、6M HClを最終濃度60mMで反応混合物に追加した。次いで、反応混合物を10mM HClにバッファー交換した。
【0116】
結果:
タンパク質1モル当たりにコンジュゲートされたメトトレキサートの量は、1mM当たり21.6のメトトレキサート基のモル吸光係数を使用し、100mM HClにおいて305nmでのコンジュゲートの吸光度を測定することによって決定した(Chamberlin et al.Analytical Profiles of Drug Substances,1976,5:283-306.)タンパク質濃度は、定量的アミノ酸分析によって決定した。これによって、765IGF-MTXコンジュゲートにおけるIGFに対するMTX基のモル比は、およそ8となった。
【0117】
実施例6
765IGF-MTXインビトロ細胞傷害性アッセイ
細胞傷害性アッセイ.この効力アッセイは、765IGF-MTXとのインキュベーションによるインビトロにおけるMCF-7腫瘍細胞の増殖阻害アッセイである。
方法
0日目.0日目に、1ウェルにつき5000のMCF7細胞を、100ulの富栄養培地に96ウェル試験プレートにまいた。
1日目.シャドウプレート(shadow plate)を、それぞれの試験プレートについて作製し、シャドウプレートのそれぞれのウェルは、それぞれのウェルにおいて培地または3×の予定最終濃度の試験薬剤を培地中に含有した。ネガティブコントロールとして、培地を使用する。ポジティブコントロールとして、3uMのフリーのメトトレキサートを使用する。
シャドウプレートを作製した後、50ulを、シャドウプレートのそれぞれのウェルから試験プレートの対応するウェルに移し、試験プレートのウェルにおいて最終濃度の試験薬剤を生成した。
5日目.細胞増殖は、メーカーの指示に従って、Dojindo CCK-8試薬を追加し、インキュベートし、色素の吸光度を測定することによって決定する。
【0118】
結果:
765IGF-MTXによる代表的な細胞傷害性アッセイの結果を
図3に示す。765IGF-MTXのIC
50(細胞増殖の50%の阻害に必要とされる濃度)は、1L当たり249n当量であった。(ナノ当量は、765IGFにコンジュゲートされたメトトレキサート基のナノモルである。)比較のために、同じアッセイにおいて、フリーのメトトレキサートのIC
50を測定し、88nMとなった。
比較のために、LR3IGF-MTXコンジュゲート(long-R3-IGFにコンジュゲートされたメトトレキサート)は、約400nEq/LのIC
50を有した(McTavish et al.,2009,Translational Research 153:275-282)。
【0119】
実施例7
メトトレキサートおよびIGF-メトトレキサートコンジュゲートによるジヒドロ葉酸レダクターゼの阻害
方法:
実験は、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO、USA)のジヒドロ葉酸レダクターゼアッセイキットによりメーカーの指示に従って、行った。アッセイにおいて、ジヒドロ葉酸レダクターゼをpH7.5バッファーと混合する。次に、阻害剤-メトトレキサートまたはIGF-メトトレキサートコンジュゲート-を追加し、溶液を混合する。それを、30秒間インキュベートして阻害剤を結合させた。次いで、NADPHを50uM最終濃度50uMで追加し、次いで、ジヒドロ葉酸を最終濃度60uMで追加する。反応を、340nmで吸光度を測定することによってモニターする。
【0120】
結果:
試験したコンジュゲートは、以下のとおりであった。
実施例4において記載されるように調製した765IGF-MTX。765IGFは、メトトレキサートにコンジュゲートするのに利用可能な9つのアミノ基(8つのリジンおよびN-末端アミノ基)を有する。このバッチは、7.5のMTX:タンパク質モル比を有した。
765IGF-MTX 1/3。このコンジュゲートは、コンジュゲーション反応において、通常の濃度の1/3のMTXおよびEDCにより調製した。これにより、1.2のMTX:タンパク質モル比を有するコンジュゲートを産生した。
LR3IGF-MTX。この場合、IGFのバージョンは、long-R3-IGFである。これは、コンジュゲーションについて4つの利用可能なアミノ基(3つのリジン側鎖およびN-末端アミノ基)を有する。このコンジュゲートは、2.8のMTX:タンパク質比を有した。
加えて、フリーのメトトレキサートを試験した。
コンジュゲートは、阻害アッセイにおけるそれらの使用の前に、フリーのメトトレキサートを完全に除去するために徹底的に限外濾過した。
765IGF-MTXについての阻害データのプロットを
図4に示す。
メトトレキサートおよびコンジュゲートのIC
50は、このとおりであった。
【0121】
競合相手 IC
50
MTX:IGF比
メトトレキサート 5.3nM N.A.
765IGF-MTX 95nEq/L 7.5
1/3 765IGF-MTX 90 1.2
LR3IGF-MTX 99 2.8
【0122】
nEq/LでのIC50は、IGFタンパク質単量体当たりにコンジュゲートされたMTX基の数が異なったにもかかわらず、3つすべてのIGF-MTXコンジュゲートについてほぼ同じであった。これは、それぞれのコンジュゲートされたメトトレキサート基が、独立した酵素の阻害剤として作用することを示す。一度、1つの基がDHFR酵素に結合したら、コンジュゲート単量体上のさらなるメトトレキサート基が立体的にDHFR酵素に結合することができず、阻害できないならば、コンジュゲートのIC50は、観察されるように、nEq/L MTX基濃度の点から同じとなる代わりに、コンジュゲートそれぞれのタンパク質濃度nMについて同じとなるであろうということが期待されるであろう。阻害がMTX基に比例するので、より高度なMTX積載を有する765IGF-MTXは、13nMのタンパク質濃度の阻害定数を有し(95nEq/LをIGF当たり7.5MTXで割ると13nM IGFとなる)、それに対して、LR3IGF-MTXは、35nMのタンパク質濃度の阻害定数を有する。したがって、MTXのより高度な積載により、DHFRの同じ阻害、また推測では同じレベルの腫瘍細胞の死滅を実現するために使用される765IGFタンパク質はより少量しか必要とされない。
データは、タンパク質コンジュゲートMTX基がDHFRを阻害するが、フリーMTXと比較して、より高い濃度が阻害に必要とされることを示す。
【0123】
実施例8
MCF7細胞上のIGF-1Rに対する765IGF-MTXの結合
実施例4に記載されたように、765IGF-MTX結合体の競合結合アッセイを、MCF7を用いて、放射性標識IGF-1に対して、いくつか行った。その結果、765IGF-MTXのK
Dは約20nMである。(説明すると、これは、前記タンパク質結合体のnMであって、MTX基のnEq/Lではない。1つの765IGF当たり約8個のMTXが存在するため、20nMの765IGF-MTXは約160nEq/Lの765IGF-MTXとなる)
図5に示される特定の結合アッセイでは、K
Dは13.4nMであった。
【0124】
実施例9
インビボ毒性試験
MTDは非げっ歯類試験及びげっ歯類試験の両方に基づくものである。正式なGLP毒性インビボ試験をラット及びビーグル犬において完了させ、その試験では、イヌについて表1に示されるように、765IGF-MTX結合体を、静脈内に、単回で30分間かけて、試験1日目及び8日目に、点滴投与した。
【0125】
【0126】
臨床所見、連続血糖測定値、及び臨床病理を含む、得られた全てのデータの解析から、5%ブドウ糖中、0.2μEq/kg及び0.5μEq/kgの765IGF-MTX結合体の点滴静注で治療されたイヌにおいて、薬剤/治療に関連した有意な毒性はないことが分かった。0.2μEq/kgの群で目立ったものは一過性の呼吸困難及び不活動だけであったが、一方、0.5μEq/kgで処置された動物では、嘔吐及び下痢の単一エピソードが見られ、雌イヌの頭の皮膚には軽度の発赤及び腫脹も生じた。これら2群のイヌの治療は耐容性良好であり、治療に対するいずれの反応も一過性であり、自然に解消した。
【0127】
2μEq/kgを投与された動物では、治療に対する反応には、軽度から中等度のアナフィラキシー様反応及びじん麻疹型反応、一過性の食欲不振及び体重減少、並びに低血糖症が含まれる。6μEq/kgを投与されたイヌにおける治療に対する反応は、2μmol/kgにおける反応と同様であったが、より重篤でより長く持続した。すなわち、本試験から、ビーグル犬における765IGF-MTX結合体のMTDは、30分間かけた単回の点滴では、6μEq/kgであるとみなすことができる。
【0128】
2μEq/kgを投与された雌イヌ及び6μEq/kgを投与された両方の動物における、アナフィラキシー様反応及び低血糖症からの回復は、ジフェンヒドラミン及びブドウ糖を用いた治療により補助された。
【0129】
より高い用量群での低血糖症は、IGFの過剰な薬理作用であり、765IGF-MTX結合体の送達用ビヒクルとして5%ブドウ糖を用いることにより緩和された。アナフィラキシー様反応の原因ははっきりしていないが、メトトレキサートか、IGFか、あるいはその組み合わせによって引き起こされたのかもしれない。嘔吐、下痢、食欲不振及び体重減少はメトトレキサートに対する反応として知られている。
【0130】
ビーグル犬における重篤な毒性が発現しない最大用量は、0.5μEq/kgであった。イヌ用量(μEq/kg単位)から等価なヒト用量(μEq/kg)への変換を用いると、イヌでの0.5μEq/kgに等価なヒト用量は、ヒトでの0.27μEq/kgである。
【0131】
IGF-MTXは有意な血球減少を引き起こさない
MDS、CMML、及びO-AMLにおいては、これらの疾患の主な続発症となるという理由で、特に血球減少が懸念事項となる。ラット及びイヌの両方の反復投与GLP毒性試験において、IGF-MTXは、試験された最高用量でも、血球減少をほとんど引き起こさなかった。ラット及びイヌの両方の毒性試験においてIGF-MTXは、用量依存的な赤血球質量の減少をわずかに引き起こしたが、最高試験用量でも赤血球質量は正常範囲内であった。ラットにおいて、好中球もIGF-MTXによってわずかに減少したが、最高用量でも正常範囲内であり、イヌにおいては好中球はIGF-MTXによって減少しなかった。他のいかなる血液学的パラメーターもIGF-MTXによって影響を受けなかった。
【0132】
ヒト固形腫瘍患者における完全な第I相用量漸増試験では、0.8μEq/kgの用量が重篤有害事象もなく耐容性であることが分かった。MDS患者は固形腫瘍患者よりも血球減少の程度が大きいため、またMDS患者の安全性のために、この試験の新たな用量漸増を、0.2μEq/kgの用量レベルから開始して、1日目、8日目、及び15日目に投与して、実施している。用量漸増の概要については6ページの概要を参照されたい。
【0133】
実施例10
スプラーグドーリーラットにIGF-メトトレキサート結合体を週1回、6週間、静脈内投与した後、14日間の回復期をおく、毒性試験
この反復投与試験により、765IGFと命名されたインスリン様増殖因子のバリアントとメトトレキサート(MTX)との結合体である765IGF-MTXの、全身毒性、及び毒性の標的器官を調べた。このIGF-MTX結合体を、週1回、6週間、静脈内低速ボーラス投与で投与した。3群のスプラーグドーリーラットに、0.5、2及び5μEq/kg(1μEqは1μmolのメトトレキサート基である)の用量レベルで、2回、静脈内投与した。高用量群で毒性が認められなかったため、3回目の投与から、中用量群の用量レベルを2から5μEq/kgに増加し、これを治療の終わりまで続けた(すなわち、動物は5μEq/kgの投与を計4回受けた)。高用量群では、用量をまず5から10μEq/kgに増加し(3回目の投与)、その後、重篤な毒性が見られたため、残りの3回の投与については用量レベルを8μEq/kgに調整した。ラットの対照群には、IGF-MTX調製の希釈液として使用された5%ブドウ糖注射液(USP)(D5W)を投与した。
【0134】
この試験では4群のラットを用いた(対照群として1群、試験群として3群)。本試験用の試験群及び対照群はそれぞれ、10匹の雄ラット[系統:Crl:CD(登録商標)(SD)BR-Sprague-Dawley系(チャールスリバーカナダ社、カナダ)]から構成された。また、対照群、中用量群及び高用量群の回復群には雌雄毎に5匹のラットが含まれ、CBC/グルコース亜群には雌雄毎に3匹のラット(対照)及び雌雄毎、群毎に6匹のラット(試験群)が含まれた。毒物動態試験のための血液採取用に、さらに、雌雄毎に3匹のラットが対照群に割り当てられ、雌雄毎に9匹のラットが各試験群に割り当てられた。
【0135】
投与体積は、対照群を含む全ての群で4mL/kgであった。本報告のために用量レベルをいくらか調整しているが、本報告で使用された用量は0.5、5及び8μEq/kgとなる。
【0136】
全動物の検査には、毎日の臨床観察、並びに食物及び水の毎日のモニタリングが含まれた。動物には詳細な理学的検査も週1回の頻度で行った。初日、7、14、21、28、35及び41日目、並びに42日目の剖検前(本試験用動物)、加えて、37、42、及び49日目、並びに50日目の剖検前(回復用動物)に、体重を記録した。摂食量は毎週記録した。2回目の投与の24時間前、及びその後の各投与の24時間前に、全血球計算(CBC)を実施した。本試験期及び回復期の最後に、徹底的な臨床病理検査を実施した。
検眼鏡検査を最初(治療開始前)、及び本試験の最後に実施した。
【0137】
毒物動態検査用にプロトコルのスケジュールに従って血液試料も採取したが、この試料の解析は行わなかった。6回目の投与が終了した6日後に、各群から雌雄各10匹の本試験用動物を、安楽死させ、肉眼的剖検及び組織病理学的検査にかけた。対照群、5μEq/kg投与群及び8μEq/kg投与群の残りの雌雄各5匹の回復用ラットを、最後の投与の14日後に安楽死させ、剖検及び組織病理学的検査にかけた。
【0138】
高用量群では、3匹のラットが死亡及び/又は安楽死した。用量が5μEq/kgから10μEq/kgに増加した15日目(3回目の投与)に、1匹の雄(TK群)及び1匹の雌(本試験群)が投与完了直後に死亡した。
【0139】
被験物質の低pH(pH2.3程度)が、用量レベルが10μEq/kgに増加された後の代謝性アシドーシスを引き起こしたかもしれず、さらに/又は、被験物質が静脈内で沈殿した、という疑いがあった。組織病理学的評価によって、多数の、大きさの一定しない、丸い、緑色がかった灰色の、無定形の粒子が見つかり、いくつかは、急性に死亡した両方の動物の肺に中心密度を有した。これらのラットのうちの1匹は、これらの粒子を心臓にも有した。また、両方の動物で、肺における急性血栓塞栓症、及び心臓における急性静脈内凝固が見られた。注射された物質が沈殿し、微小血管の微小な塞栓及び閉塞を伴って血管内血小板凝集を惹起したと考えられる。
【0140】
24日目に安楽死させた第三のラットでは、虚血性壊死及び実質萎縮を伴う上行性腎盂腎炎が見られた。これらの変化は重篤であり、臨床的悪化を説明するものであった。この病態は偶発的であり、被験物質による治療とは関係がないと考えた。
【0141】
死亡したラットを除いて、全ての群の他の全てのラットは、特定の治療を受け、予定された安楽死及び剖検の日まで生存した。
【0142】
0.5μEq/kgのIGX-MTX結合体で治療されたいかなるラットにも、又は、2μEq/kg投与(最初の2回の投与)、その後5μEq/kg投与(残り4回の投与)を受けたラットにおいて、治療に関連した全身性毒作用は見られなかった。
【0143】
高用量群において、用量が10μEq/kgに増加された後、投与後1時間以内に、一部のラットで血尿が時折観察された。これは、試験製剤の低pH(pH=約2.3)によるものとされた。
【0144】
眼科学的検査の結果からはいかなる異常所見も認められず、試験群と対照群との間には摂食量増加及び体重増加の有意差は認められなかった。
【0145】
5μEq/kg投与群及び8μEq/kg投与群において最も治療に関連していそうであるが、MTX投与に対する有害反応としては予想され一般的なものである、以下の病理学的所見が得られた。
【0146】
試験時にモニタリングされたCBCパラメーターにおける一般的な傾向として、赤血球質量(赤血球(RBC)数、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(Hct))の用量依存的な僅かな減少と、それを補うための網状赤血球の増加があった。6回目の投与の前に、5μEq/kg治療群の赤血球質量は約8~15%(雄雌合わせて)減少し、8μEq/kg投与群では約15~19%減少した。同時に、網状赤血球数が、IGF-MTX結合体の5μEq/kg投与群及び8μEq/kg投与群において、それぞれ、47~102%及び2.2~2.4倍(雄雌合わせて)増加した。好中球数もこれらの両方の群で減少した。
【0147】
また、本試験の終わりに、IGF-MTX結合体による5μEq/kg治療群及び8μEq/kg治療群の雌雄両方の動物において、赤血球質量の減少が観察された(5μEq/kg投与群及び8μEq/kg投与群のそれぞれで、平均6~7%の減少、及び平均10~14%の減少)。それを補うための網状赤血球増加がこれらの群の両方で見られた。
【0148】
白血球(WBC)数もこれらの2群で減少していた(好中球、リンパ球及び単球が全て影響を受けた)。全ての細胞型がほぼ等しく影響を受けたように見えた。対照と比較したとき、好中球の減少は、5μEq/kg治療群では約5~35%(雄雌合わせて)であり、8μEq/kg投与群では50~57%の範囲内であった。血小板も、8μEq/kgを投与された雌では有意に減少した(対照群の雌と比較して約38%の減少)。回復用動物においては、これらの全てのパラメーターが、正常に戻るか、又は、回復を表す正常化の傾向を示した。
【0149】
5μEq/kg投与群及び8μEq/kg投与群の雄雌の両方において、脾臓の平均重量が増加した。この増加は、対照群ラットの脾臓の平均重量と比較して、平均して17~38%の範囲内であった。
【0150】
治療群で観察され、治療に関連すると考えられたものとして、以下の変化が見られたが、これらはIGFの予想された過大な薬理作用であった。
【0151】
0.5μEq/kg投与群(雄雌合わせて)では、投与後に平均血糖値が増加した。この増加は、6回の投与に亘って、0.3±0.5~4.0±5.0mmol/Lの範囲内であった。時折、この群の一部の動物で、血糖値の減少が観察された。
【0152】
5μEq/kg投与群では、6回の投与に亘る血糖値の平均増加又は平均減少は-1.8±7~7.5±3.4mmol/Lの範囲内であり、8μEq/kg投与群では、前記増加/減少は-2.1±1.3~2.6±3.1mmol/Lの範囲内であった。ある場合(3回目の投与-10μEq/kg)に、一部の動物の血糖値が2.8mmol/L未満に減少したため、この群の全ての動物に、ラット当たり2mLの10%ブドウ糖を腹腔内投与した。なお、血糖値の減少は用量依存的であるように思われた。
【0153】
組織病理学的評価により、8μEq/kg投与群の動物の肺において、毒性学的に重要である可能性のある、いくつかの変化が確認された。これらは以下の通りである。
【0154】
この試験の多くの動物の肺で、微小血管隆起の増加と、血管周囲の間質への顆粒球及びリンパ球の浸潤が見られた。これらの血管周囲への炎症性細胞の浸潤は、本試験における、対照群の5/20匹の動物及び8μEq/kg投与群の19/19匹の動物において観察された。この反応の重症度は8μEq/kg投与群でより高かった。この反応は、回復群では、対照群の4/10匹の動物及び高用量群の0/10匹の動物において観察された。
【0155】
高用量回復群の1匹の動物で、虚血性梗塞と合致する、置換性線維形成による、楔状の実質領域の喪失が見られた。これらは初期の局所的虚血イベントの副産物である。このような変化はプロトコルとは無関係の孤発性の病態として生じ得るものであるため、このような梗塞が本治療に関連しているかどうかは不明である。
【0156】
結論として、臨床所見、眼科学的検査、肉眼的剖検及び組織病理学的検査を含む、全ての得られたデータの解析により、IGF-MTX結合体を、0.5μEg/kg及び5μEg/kgで、週1回、6週間静脈内投与されたラットにおいて、薬剤/治療に関連する有意な毒性はないことが明らかとなった。これらの2つの用量レベルでは、動物は前記治療に良好な耐容性を示した。
【0157】
0.5μEg/kgの用量レベルにおいて、単なる、一部のラットで時折確認された所見であるが、血糖値のごく僅かな減少が見られた。この所見はIGFの予測される薬理作用であるため、本実験の条件下では、本試験の無作用量(NOEL)は、0.5μEq/kgを週1回、6週間、に等しいと見なした。
【0158】
5μEq/kgの用量レベルでは、0.5μEg/kg投与群の動物でより明白である血糖値の減少に加えて、赤血球質量のごく僅かな減少(6回目の投与前で約8~15%、本試験終了時で約6~7%)も見られた。この群では、本試験終了時に、WBCもごく僅かに減少していた(約5~35%)。回復の終了時、この群のRBC及びWBCは共に正常範囲内であったが、これは、これらの変化が可逆的であることを示している。この群では、脾臓重量のごく僅かな増加も見られ、これは、回復用動物における正常化の傾向を示すものである。これらの所見は、造血に対するMTXの既知の作用であった。従って、本実験の条件下では、本試験における無作用量(NOAEL)は、5μEg/kgに等しいと見なした。
【0159】
実施例11
ビーグル犬にIGF-メトトレキサート結合体を週1回、5週間、点滴静注した後、21日間の回復期をおく、毒性試験
この反復投与試験により、765IGFと命名されたインスリン様増殖因子のバリアントとメトトレキサート(MTX)との結合体である765IGF-MTXの、全身毒性、及び毒性の標的器官を調べた。このIGF-MTX結合体を、週1回、5週間、静脈(IV)点滴で投与した。3群のビーグル犬に、5%ブドウ糖(D5W)中、0.5、2及び4μEq/kg(1μEqは1μmolのメトトレキサート基である)の用量レベルで、静脈内投与した。4群目のイヌ対照群には、IGF-MTX結合体調製の希釈液として使用されたD5Wを投与した。
【0160】
この試験では4群のイヌを用いた(対照群として1群、試験群として3群)。対照群、中用量群及び高用量群は10匹のイヌ(雄5匹、雌5匹)から構成され、低用量群は6匹のイヌ(雄3匹、雌3匹)から構成され、品種はビーグル(リッジラン・ファームズ社)であった。試験物質及び対照物質はIV点滴で5mL/kg/時の投与体積で1時間かけて投与した。
【0161】
全動物の検査には、毎日の臨床観察、並びに食物及び水の毎日のモニタリングが含まれた。動物には詳細な理学的検査も週1回の頻度で行った。初日、8、15、22、29及び34日目、並びに35日目の剖検前(本試験用動物)、加えて、30、37、44、及び49日目、並びに50日目の剖検前(回復用動物)に、体重を記録した。摂食量は毎日記録した。初回投与の24時間後、及びその後の各投与の前に、全血球計算(CBC)を実施した。試験開始前、本試験期終了時及び回復期終了時に、徹底的な臨床病理検査を実施した。
【0162】
全ての動物は0.5~4μEq/kgの用量の指定の治療を受け、治療に関連した死亡は無かった。
眼科学的検査及び心電図(ECG)(QTを含む)の所見は、全ての試験群で、正常な生理学的限界内であることが分かった。
0.5μEq/kg投与群では、治療に対する臨床反応は、1匹の雄イヌでの軽度から中等度の不活動及び強膜充血、2匹の雌イヌでの嘔吐、並びに別の雌イヌでの軽度の呼吸困難からなり、軽度であった。また、1匹の雌の動物には、目の周辺の軽度の浮腫が見られた。上記所見は全て単一の臨床イベントであり、5回の投与が行われた期間中に1回のみ起こり、一過性であり、自然に解消した。これらの動物における投与後の血糖値の減少は全て無視できるものであった。試験終了時、赤血球質量の極めて僅かな減少がこの群で見られた(対照と比較して約10%の減少)。しかし、この群の赤血球(RBC)、ヘマトクリット(Hct)及びヘモグロビン(Hb)は、十分に、正常の範囲内であった。これらの所見は、規模が小さく、一過性で、自然に解消し、メトトレキサート治療の予測される副作用であったため、臨床的に関連があるものとみなさなかった。
【0163】
2μEq/kg投与群及び4μEq/kg投与群で治療関連性があるが、MTX投与に対する有害反応としては予想され一般的なものである、以下の臨床所見、臨床病理学的検査、及び肉眼的剖検が得られた。
【0164】
投与後に食欲不振が全てのイヌで見られ、その後、体重の減少(reduction in body weight)、及び/又は体重減少(body weight loss)が見られた。2μEq/kg投与群のイヌでは、各投与後の2日目に食欲不振が常に観察され、2~3日間継続したはずであるが、次の投与までには動物は完全に又は部分的に回復したはずである。本試験の終わりまで、これらのイヌの体重増加は無視できるものであり、34日間の期間をかけて、雄の動物は対照群の雄イヌの8.4%と比較して約1.2%のみの増加であり、雌は対照群の雌の11.1%と比較して2.8%の増加であった。この群の摂食量は対照群のイヌの摂食量よりも約22%低かった(雄雌合わせて)。
【0165】
4μEq/kg投与群の動物では、2μEq/kg投与群のイヌにおけるよりも、食欲不振がより重篤であった。これは、治療期間に亘って、対照と比較して約36~38%の摂食量減少をもたらし、イヌにおける総平均体重減少は雄で1.3kg、雌で0.9kgであった。3週間の回復期の間に、この群のイヌは体重を回復させ、これは体重減少が可逆的であることを示している。
【0166】
2μEq/kg投与群の一部の動物及び4μEq/kg投与群の全てのイヌで、悪心(レッチング)、下痢及び嘔吐が時折見られた。これらは投与が実施された日には常に観察された。
【0167】
赤血球質量(RBC、Hb、Hct)の減少及び赤血球大小不同症/大赤血球症は本試験の終了時まで軽度であった。この減少は、2μEq/kg投与群及び4μEq/kg投与群のイヌで、対照群のイヌと比較したとき、それぞれ約13%及び約15%であった。回復期の終了時にも尚、これらの2つの群の赤血球質量は試験前レベルを下回っていた。しかし、RBC、Hb及びHctのレベルの減少は正常範囲の下限を一度も越えなかった。
【0168】
平均総タンパク質量及びアルブミン値は、4μEq/kg投与群の動物において、正常範囲の限界値の僅かに下まで減少した。回復期の後、これらの値は正常範囲内にあった。アルブミン値の減少は、最も高い可能性として、これらのイヌで報告された食欲不振及び体重減少の結果であろう。
【0169】
2μEq/kg投与群の10匹中2匹のイヌにおいて、ALT活性が正常範囲の上限を上回って僅かに増加した(平均11%の増加)。4μEq/kg投与群のイヌでは、4匹のイヌが影響を受けて、増加は、平均して、雄で約1倍、雌で約52%であった。肝細胞障害の指標となる組織病理学的所見が見られない場合、このALTの増加は、最も高い可能性として、肝細胞透過性の変化による亜致死性傷害、及びALTの増加、を表すものであった。
【0170】
2μEq/kg投与群で、血糖値減少(初期血糖値-点滴終了直後の血糖値)は、-2.5±1.3~-0.7±1.3mmol/L(5回の投与に亘っての雄雌合わせた平均減少)の範囲内であった。4μEq/kg投与群では、この減少は-3.9±1.7~-1.6±0.6mmol/Lの範囲内であった。この血糖値減少はIGFの予想される薬理作用であった。
【0171】
2μEq/kg投与群及び4μEq/kg投与群における、投与及び治療に関連すると考えられ、臨床的に意義があり、毒性学的に重要な、臨床所見及び病理学的所見を以下に記載する。なお、以下の有害反応はあまり一般的ではないが、様々な条件でMTXを投与されたヒトにおける、公知の報告された反応である。しかし、IGFの存在によって以下の反応が促進されていないと、断言することはできない。これらの反応としては以下のものがある。
【0172】
頭部(眼、唇、耳の周辺)、咽頭、頸部及び前肢の皮膚の腫脹(浮腫)及び発赤(紅斑)として現れる反応の種類である、アナフィラキシー様反応(血管浮腫)が、主に点滴時に見られた。投与時にこれらの反応を見せたイヌの総数(全群合わせて)は、5匹(初回投与)、3匹(2回目の投与)、4匹(3回目の投与)、14匹(4回目の投与)、及び、6匹(5回目の投与)であった。なお、4回目の投与日に、これらの反応を見せたイヌの数及びこれらの反応の重症度が急に増加したが、後の投与(5回目の投与)時には、これらの反応は1日目、2日目及び3日目の投与で見られた反応と同等のものになった。
【0173】
IGF-MTX結合体の2μEq/kg投与群と4μEq/kg投与群との間で、アナフィラキシー様反応に違い(定性的にも定量的にも)は無いように思われた。
【0174】
2μEq/kg投与群の2匹のイヌが、1匹の雄イヌにおける2回目の投与時の癲癇と、1匹の雌イヌにおける3回目の投与時の一過性の意識消失及び姿勢緊張とからなる、神経性反応を見せた。これらの動物は共に、さらなる神経学的な事象を起こすことなく、後の治療を受けた。
【0175】
1匹のイヌにおける癲癇に対する1つの妥当な説明としては、次のようなものがある。炎症性メディエーターの放出による血液脳関門(BBB)の破綻(癲癇が始まる前、この動物は治療に対して中等度のアナフィラキシー様反応を見せ、抗ヒスタミン剤で治療する必要があった)、且つ/又は、このイヌの組織学的検査により判明した、脈絡叢における髄外造血によるBBBの破綻。後者はイヌにおける癲癇の素因的状態として報告されている。軽症の神経学的事象を見せた前記2匹目のイヌでも、脈絡叢における髄外造血が見られた。2つ目の説明として、この癲癇を起こしたイヌでは、点滴中に血液中のMTXが不意に急増した。1日目のこのイヌのMTXレベルは、2μEq/kg投与群の他のイヌよりも少なくとも2~7倍高く、4μEq/kg被験物質投与群のイヌよりも少なくとも2倍高かった。すなわち、この動物における癲癇に対する最も可能性の高い説明としては、BBBの破綻が有望であり、さらに、血液中のMTXの急増も考えられた。
【0176】
組織病理学的検査では、毒性学的に重要な可能性がある、以下のような、いくつかの所見が見られた。
【0177】
数匹のイヌにおいて、皮質内及び髄質内のリンパ球の枯渇による胸腺萎縮が生じ、治療の用量とともに頻度及び重症度が増加した。胸腺萎縮は、明白なものであり、0.5~4.0μEq/kg/週の用量範囲内で用量関連性があり、且つ、回復期を通じても持続した。これは、本被験物質の増殖中の胸腺内リンパ球に対する直接的な作用として生じたものと考えることもできるが、間接的なストレス応答が胸腺萎縮の最良の説明である。ヒトにおいては、胸腺萎縮はMTX化学療法の反応として報告されている。
【0178】
2μEq/kg投与群の癲癇を示した前記動物は、本試験の他の動物では見られなかったいくつかの所見を示した。これらの所見としては、盲腸及び直腸の表面粘膜におけるリンパ球浸潤の増加、一方の副腎の皮髄領域の一側性の限局的な変性及び石灰化、並びに、気管及び主気管支の呼吸上皮における混合白血球浸潤に伴う顕著な肥厚化が含まれる。
【0179】
遊離型MTXの毒物動態学的(TK)パラメーターを、低い(0.5μEq/kg)、中間(2.0μEq/kg)及び高い(4.0μEq/kg)MTX等価用量レベルのインスリン様増殖因子(IGF)MTX結合体による、5回の投与からなる週1回点滴静注試験から得られた血漿中濃度-時間データから、評価した。性別の異なる動物の間でMTXの血漿レベルに一貫性のある差異は確認されなかったため、雄のデータと雌のデータは合わせた。IGF-MTX結合体の1時間の点滴静注の間及び後の両方で、MTXの血漿レベルは時間とともに増加した。1日目、6~10匹のイヌの平均血漿中濃度に基づくと、最高血中濃度到達時間(Tmax)は、全ての用量レベルで、点滴開始から2時間であった。最高血中濃度(Cmax)の値は71.6~511.9ng/mLの範囲内であった。無限時間までの血中濃度-時間曲線下面積(AUC∞)及びCmaxの値は共に用量に比例した。MTXの血漿中の終末相半減期及び平均滞留時間はそれぞれ、4.6~5.5時間、6.1~7.6時間の範囲内であり、見かけのクリアランス(結合体からの遊離型MTXの遊離に基づく)は0.34~0.46L/時/kgと低く、見かけの分布容積は2.24~2.81L/kgと広かった。29日目の投与の後のMTXの薬物動態は、1日目の投与の後のMTXの薬物動態と類似していた。
【0180】
これらの所見は、結合体の代謝により遊離型MTXが時間依存的に遊離することを示唆している。すなわち、得られるMTXのTKは、経時的な、結合体からのMTXの遊離及び遊離型MTXの排除の両方に依存する。
【0181】
ビーグル犬に0.5~4.0μEq/kgの用量範囲内でIGF-MTX結合体を静脈内投与した後、IGF-MTX結合体の血清中濃度は、急速に減少した。性差による偏りはなく、1日目と比較して、血清暴露量の増加が29日目において観察された。0.02~0.05L/kg/時と小さい値であったIGF-MTX結合体の見かけのクリアランスは、1日目との比較で29日目では25~50%減少し、一方、0.07~0.20L/kgと小さい値であった、見かけの分布容積は、いかなる傾向も示さなかった。2.5~4.6時間の範囲内であったIGF-MTX結合体の終末相半減期は、1日目との比較で29日目ではごく僅かに延長し、一方、1.4~5.3時間の範囲内であった平均滞留時間は、いかなる傾向も示さなかった。まとめると、これらの所見からは、IGF-MTX結合体が、静脈内投与後、その大きな分子サイズと矛盾無く、低クリアランスで、狭い分布容積から、排出されることが示唆される。このIGF-MTX結合体の排出は、一連の投与に伴い、僅かによりゆっくりとなっていき、血漿中暴露が増加されることとなる。IGF-MTX結合体の排出は最大MTX濃度の発生よりも先に起こった。
【0182】
結論として、臨床所見、眼科学的検査、心電図検査、肉眼的剖検及び組織病理学的検査を含む、全ての得られたデータの解析により、IGF-MTX結合体を、0.5μEg/kgで、週1回、5週間静脈内投与されたイヌにおいて、薬剤/治療に関連する有意な毒性はないことが明らかとなった。
【0183】
この0.5μEq/kgという用量レベルでは、治療関連性が最も高そうな所見は、1匹の動物での軽度~中等度の不活動及び強膜充血、2匹のイヌでの嘔吐、及び別のイヌでの軽度の呼吸困難だけであった。また、1匹のイヌにおいては、眼の周辺に軽度の浮腫が見られた。試験終了時には、軽度の赤血球減少(対照群に対して約10%の減少)も見られた。これらの所見は、規模が小さく、一過性で、自然に解消し、メトトレキサート治療の予測される副作用であったため、臨床的に関連があるものとみなさなかった。
【0184】
従って、本実験の条件下では、本試験における無作用量(NOAEL)は、0.5μEg/kgを週1回、5週間、に等しいと見なした。
【0185】
2μEq/kg投与群及び4μEq/kg投与群で、MTX投与と関連した副作用には、体重増加又は体重減少の低下を伴う食欲不振、時折の下痢及び嘔吐が含まれた。また、軽度の赤血球質量減少(13~15%程度)、及びアルブミン値の低下、及びALT活性の僅かな増加も見られた。これらの所見は用量依存的であると思われ、RBC減少を除いて、全ての動物が回復期の最後までに完全に回復した。これら2つの群では、組織病理学的検査において、胸腺萎縮及び十二指腸での壊死細胞数の増加が見られた。
【0186】
また、本試験では、望ましくないが、MTX投与に対する有害反応として報告されていたため多少は予期されていた、2種類の有害反応が見られた。2μEq/kg投与群では、2匹のイヌにおいて、神経性の事象が生じた。1匹目のイヌは2回目の投与時に癲癇を起こした。この動物において、この癲癇は、炎症性メディエーター及び/又は髄外造血によって誘発された血液脳関門の破綻、並びに遊離型MTXの急増、の結果であり得るとされた。2匹目のイヌでは、一過性の意識消失及び姿勢緊張が見られた。2μEq/kg投与群及び4μEq/kg投与群で、アナフィラキシー様反応の発生が見られた。
【0187】
これらの神経性反応及びアナフィラキシー様反応について、MTXによって誘発されたものである可能性が最も高いが、IGFがこれらの事象に全く関与していないと断言することはできない。これらの有害反応の両方が、初期に、適切な治療(抗ヒスタミン剤及びジアゼパム)によって調節されたことを留意されたい。
【0188】
実施例12
IGF-1Rを発現する進行性腫瘍の治療におけるIGF-メトトレキサート結合体の第I相試験
本試験の主目的は、IGF-1Rを発現する、進行性の、以前に治療された悪性腫瘍の治療の際の毒性評価により、765IGF-MTXの最大耐用量(MTD)を求めることである。1つの選択基準は、被験者の腫瘍(組織、骨髄、又は血液)がIGF-1Rを発現していなければならない、というものであり、免疫組織化学(IHC)で10%以上の腫瘍細胞がIGF-1Rを発現していることと定められた。固形腫瘍又はリンパ腫を有する患者が組入れられた。
【0189】
この用量漸増試験には19人の被験者が組入れられた。765IGF-MTXを、28日間サイクルの1日目、8日目及び15日目に、250mLの5%ブドウ糖中、又は医師の判断により10%ブドウ糖中で、1時間かけてIV点滴投与した。疾患増悪、容認できない毒性、又は患者による拒否が無い限り治療は継続された。サイクル2終了時±7日、その後は2サイクル毎に行った画像診断により、反応を評価した。下記の表は、試験された各用量レベルについて、試験された被験者、被験者が有した悪性腫瘍の種類、被験者が完了したサイクル数、被験者が用量制限毒性(DLT)を発現したか、及び、該当する場合は、試験中止の理由、を示している。用量レベル3の1人のホジキンリンパ腫患者は22回の投与治療を受け、CTスキャンによる見かけの病態は安定していたが、リンパ節生検でがんのエビデンスが示されなかった際に治療を中止した。
【0190】
【0191】
有害事象
固形腫瘍患者が先行の固形腫瘍第I相の際に経験した、試験薬に関連しているかもしれない、又は関連している可能性が高いと判断された有害事象を、以下の表に示す。
【0192】
【0193】
全ての被験者で観察された、あるいは、単一の被験者における全ての薬剤投与で観察された、有害事象はなかった。最もよく見られた有害事象は、低血糖症(試験薬の予想される結果)、悪寒、及び発熱であった。これらの有害事象は、発生した場合、点滴終了後2時間以内には解消した。1人の被験者で、点滴によりグレード2の発熱が生じ、一晩継続した。1人の被験者で、点滴中にグレード3の低血圧が生じ、一晩継続した。悪心及び嘔吐はよく見られたが、点滴中に生じ、化学療法では典型的な数時間の遅れはなかった。いずれの場合も、これらの有害事象は、点滴終了後1時間以内には解消した。腹痛又は筋けいれんもよく見られたが、大腸癌患者に限定されているように思われ、そのため、試験薬の腫瘍組織に対する結合性と標的化に関連していたのかもしれない。1例の癲癇が、1人の被験者で、0.4μEq/kgの用量レベルの、サイクル5の1日目の点滴中(その患者の16回目の薬剤投与)に生じたが、2分後には解消した。この患者はグレード3の低血圧イベントも同時に発現し、そのために一晩入院した。
【0194】
血球減少の不発生
治療を受けたいずれの被験者にも血球減少のエビデンスが無かったことは、注目すべきことである。
【0195】
実施例13
MDS細胞株及びAML細胞株に対するインビトロ細胞傷害性、並びにアザシチジンとの相乗作用
IGF-MTXはMDS細胞株に対しインビトロで細胞傷害性を有する
765IGF-MTXを、インビトロのトリチウム取り込みアッセイで試験した。MDS-L細胞株は、川崎医科大学(日本)の通山薫博士から使用許諾を得たものである。1日目に、細胞を96ウェルプレート内に150μLの培地中、15,000細胞/ウェルで播種した。2日目、78nEq/L~15μEq/Lの範囲内の濃度のIGF-MTXを添加した。6日目、1μCiのトリチウム標識チミジンを1ウェル毎に加え、6時間時間後、各ウェルから回収とカウントを行った。結果を
図6に示す。IC
50は359nEq/Lであった。1nEqは1nmolのMTX基と定義される。1個の765IGFにつき約8個のMTX基が存在する。
【0196】
IGF-MTXは骨髄系がん細胞株に対しインビトロで細胞傷害性であり、アザシチジンと相乗的である
IGF-MTXに対する感受性について、3種のAML細胞株を実験室にて試験した。これらの3種類の細胞株はHL-60、HL-60/S4、及びKasumi-1である。3種とも全て、IGF-MTXに対して感受性を有し、IC50は458~668nEq/L(IGF-MTX結合体内のメトトレキサート基のnM)であった。これは、マウス異種移植片においてIGF-MTXに対し感受性を有するMCF7乳がん細胞株及びLNCaP前立腺がん細胞株に対してのIC50とほぼ同じである。
【0197】
IGF-MTXの効果は、少なくともKasumi-1細胞株及びHL-60細胞株に対して、アザシチジンと相加的又は相乗的であった(HL-60/S4に対する併用は試験されなかった)。IC50の約1/3の濃度のアザシチジンの存在下で、IGF-MTXのIC50は、Kasumi-1細胞株では668nEq/Lから398nEq/Lに減少し、HL-60細胞株では466nEq/Lから409nEq/Lに減少した。
【0198】
実施例14
MDS細胞株は高レベルのIGF-1Rを有する
MDS-L細胞を、10%ウシ胎仔血清、50ng/mLのIL-3、50μMのβ-メルカプトエタノールを添加したRMPM1640中で増殖させた。約5×105細胞/mLの密度になったときに細胞を回収し、25mM Tris、150mM NaCl、pH7.5(TBS)中、20×106細胞/mLに再懸濁し、タンパク質を0.5mg/mLにした。
MCF7を、10%FBS、0.1mg/mLヒトインスリンを添加したイーグル最小必須培地中で増殖させた。対数期にMCF7をTBS中に回収し、タンパク質を1.0mg/mLとした。
4~20%トリス-グリシンWedgeゲル上の非還元SDS-PAGEにかけた。
試料を4×LDSで希釈した(65μLの試料、20μLのLDS緩衝液)。
【0199】
レーン
1:マーカー、8μLのNEB社製P7710s、プレステインド
2、3:ブランク
4:15μLのMCF7試料(12μg)
5:3.75μLのMCF7試料(3μg)
6:ブランク
7:20μLのMDS試料(8μg)
【0200】
このゲルを、25mM Tris、192mM グリシン、0.1%SDS、20%メタノール(v/v)を含む転写用緩衝液中で、0.2μmPVDF膜(インビトロジェン社製LC2002)上に、電気的に転写した。
この膜を、TBST(0.1%Tween-20含有TBS)+5%ドライミルク中、23℃で、 時間ブロッキングし、その後、0.2μg/mLのビオチン化マウス抗IGF-1Rモノクローナル抗体BAF391(R&Dシステムズ社製)中、4℃で一晩プロービングした。翌日、膜をTBSTで3回、各々12分間洗浄し、その後、30mLのTBST+5%ミルクで1/2,000希釈したPierce High Sensitivity Streptavidin-HRP Conjugate(サーモフィッシャーサイエンティフィック社カタログ番号21130)中で、インキュベートした。Ttを前記TBST中、室温で60分間振盪した。その後、IをTBSTで2回簡単にすすいだ後、TBST中で12分間、3回、振盪した。
その後、メンブレンをECL Primeウエスタンブロット試薬中に5分間、振盪なしで置いて、カメラシステムに入れ、10分間検出した。
【0201】
結果:
ウエスタンブロットの結果を
図7に示す。バンドが見える左側の2本のレーンがMCF7であり、ロードされた総タンパク質量はそれぞれ12μg、3μgであった(レーン4及びレーン5)。その右側の染まりのあるレーンはMDS-L(レーン7)であり、タンパク質測定ではロードされたタンパク質は8μgであった。しかし、並行して泳動されたゲルのクマシー(commassie)染色では、レーン4のMCF7は、レーン7のMDS-Lのおよそ半分のタンパク質を実際には含んでいるように見えた。レーン7(MDS-L)の染色されたIGF-1Rバンドは約200kDaの位置に泳動している。MCF7レーンの2本の染色バンドの泳動位置は80kDa~150kDaあたりである。IGF-1Rは、予測分子量が205kDの二量体であり、各単量体は81kDaのポリペプチドと20kDaのポリペプチドとを含んでいる。そのため、MDS-Lのバンドは205kDaの二量体に相当し、MCF7のバンドは81kDaのポリペプチドと102kDaの単量体に相当する。
MCF7は標準的なIGF-1R高発現細胞株であり、MDS-Lはほぼ同量のIGF-1Rを有する。そのため、MDS-LもIGF-1Rを高発現している。
【0202】
実施例15
IGF-MTXは固形腫瘍由来の前立腺がん細胞株LNCaP及び乳がん細胞株MCF7の増殖を阻害する
インビトロ増殖アッセイ
LNCaP細胞を、グルタミン及び10%FCSを添加したRPMI培地100μL中、5,000細胞/ウェルで、96ウェルプレート内に播種した。24時間後、薬剤を含有しない新鮮培地(対照)、指定濃度のIGF-MTXを含有する新鮮培地、又は指定濃度のMTXを含有する新鮮培地を100μL加えた。さらに48時間インキュベートした後、製造業者の取扱説明書に従ってCell Counting Kit-8(同仁化学研究所製、熊本、日本)を用いて細胞増殖アッセイを行った。
【0203】
MCF7を、0.01mg/mLヒト組換え型インスリン、10%ウシ胎児血清、及びペニシリン/ストレプトマイシンを含有するイーグル最小必須培地中で培養した。インビトロ増殖アッセイ用に、前記細胞を8,000細胞/ウェルで96ウェルプレート内に播種した。1日後、765IGF-MTX又はMTXを指定濃度まで添加した。さらに5日後、ウェル毎に、50μLの新鮮培地中の1μCiのトリチウム標識チミジンを添加した。6時間後、細胞を回収し放射活性を求めた。
【0204】
インビトロ腫瘍阻害
細胞増殖に対する効果を評価するため、インビトロにおいて、IGF-MTX結合体及び遊離型MTXを、LNCaP腫瘍細胞とインキュベートした。未処理対照群の細胞との比較で、両方の薬剤がLNCaP細胞の増殖を阻害した。最高試験濃度の2000nMでは、遊離型MTXはIGF-MTXよりも有意(P=0.003)に大きい阻害を引き起こした。500nMの遊離型MTXによる増殖阻害が、2000nMのIGF-MTXによる増殖阻害と、ほぼ変わらなかった。長鎖型R3-IGF-MTXのIC50は約1000nEq/L(1nMのメトトレキサート基)(McTavish, H. et al., Translational Research 2009;153:275-282)であった。この場合では、結合体のIGF部分が長鎖型R3-IGFであった。
【0205】
MCF7細胞を用いた765IGF-MTXの増殖アッセイの結果を
図8に示す。この場合、765IGF-MTXのIC
50は715nEq/mLであった(
図8)。並行して行ったアッセイにおいての、MCF7に対する遊離型メトトレキサートのIC
50は、17nMであった(データ未記載)。
【0206】
実施例16
IGF-MTXはインビボのマウスにおける前立腺がん細胞株の腫瘍成長を、遊離型MTXと比較して、IGF-MTXの用量が1/6の場合でも、よりも効果的に阻害する
IGF-MTX結合体の合成、分析及び定量化
長鎖型R3-IGF-1はノボザイムズGroPep社(ノボザイムズ・バイオファーマ・AU社、スバートン、オーストラリア)から購入した。MTXはシグマ社(セントルイス、ミズーリ州、米国)から購入した。長鎖型R3-IGF-1(20mg)は3.0mLの10mM HClに溶解させた。その溶液に、リン酸ナトリウム(2.5mL、200mM、pH7.4)及び固体の尿素(1.625g)を加えた。その溶液を、20mMリン酸ナトリウム、pH7.4、5mM NaCl、6.5M尿素(尿素透析用緩衝液)に対して、4℃で一晩透析した(分子量カットオフは3500)。0.4mLの尿素透析用緩衝液に溶解された1.4モル当量のNaOHで中和されたMTX水和物(14.8mg)を、透析袋内の上記の長鎖型R3-IGF溶液に加えた。1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)と共にインキュベートすることにより、長鎖型R3-IGF-1及びMTXを結合した。EDCは、タンパク質のアミン基とMTX上のカルボキシル基との間に直接的なアミド結合を生成するゼロレングスの架橋剤である。新たにEDC(60mg)を尿素透析用緩衝液(0.6mL)に溶解し、前記透析袋に加え、密封し、ディッシュ内で室温で2時間保存した。反応を
図1に模式的に示す。
【0207】
2時間後、上記の袋を尿素透析用緩衝液中に入れ、4℃で3.5時間透析した。透析緩衝液を2mM HClに交換し、透析を一晩続けた。長鎖型R3-IGF-1は、結合に利用可能な計4個のアミノ基のために、3個のリジン残基及びアミノ末端を有する。飽和度を求めるため、結合型の長鎖型R3-IGF-1タンパク質におけるMTX濃度を、ε372nm=6.47mM-1を用いて、pH11における光吸収によって求めた。以後、この結合型タンパク質をIGF-MTXと呼ぶ(長鎖型R3-IGF-1-メトトレキサート)。
【0208】
インビボ腫瘍成長アッセイ
MCF7細胞(ヒト乳腺癌細胞株)を0.1mg/mLインスリン及び10%FCSを添加したイーグル最小必須培中で増殖させた。このエストロゲン依存性のMCF7-L細胞株は、ミネソタ大学のディーパリ・サクデフ(Deepali Sachdev)氏から寄贈されたものである。MCF7-L細胞を、0.1mg/mLインスリンを添加した改変IMEM培地(インビトロジェン社製、カールズバッド、カリフォルニア州、米国)中で増殖させた。LNCaP細胞(転移性のヒト前立腺腺癌)を、グルタミン及び10%FCSを添加したRPMI(インビトロジェン社製、カールズバッド、カリフォルニア、米国)中で増殖させた。細胞は37℃、5%CO2、加湿雰囲気下で増殖させた。それぞれの場合で、細胞をコンフルエントの2/3程度にまで増殖させ、トリプシン処理で回収し、富栄養培地で洗浄した後にPBSで2回洗浄し、BD Matrigel Matrix(ベクトン・ディッキンソン社製、フランクリン・レイクス、ニュージャージー州、米国)中のリン酸緩衝生理食塩水中に再懸濁した。細胞をマウスの背中に皮内注射した。エストロゲンペレット(0.5mgのエストラジオール、60日間放出型、イノベーティブ・リサーチ・オブ・アメリカ社製、サラソタ、フロリダ州、米国)を、MCF7細胞及びMCF7-L細胞を移植する2日前に、肩甲骨の間の皮下に埋入した。MCF7細胞及びMCF7-L細胞は8週齢の雌nu/nuマウスに移植した。LNCaP細胞は8週齢の雄nu/nuマウスに移植した。IGF-MTX結合体は2mM HCl、1%グリセロールに含ませて投与した。MTXはPBSに溶解させた。未処置のビヒクル対照群には2mM HCl、1%グリセロールを投与した。薬剤は、マウス体重1g当たり12.5:Lの体積で、尾静脈注射により、静脈内投与した。全ての試験はミネソタ大学の動物実験委員会に承認され、関連する倫理指針に従った。
【0209】
結果:マウスにおける異種移植片腫瘍増殖阻害
3つのインビボ試験を実施して、長鎖型R3-IGF-1を有するMTXの標的化を評価した。最初の予備的な試験では、ヌードマウスの背中に乳がんMCF7細胞を皮内移植した。15匹のマウスで腫瘍が触知可能(約5×5mm)となったら、マウスを3つの群にランダムに分配した(1群あたりn=5)。ランダム化の後、0日目、4日目及び8日目に、ビヒクル、40nmol/gの遊離型MTX又は10nmol(MTX)/gのIGF-MTXの尾静脈注射により、マウスを処置した。最初の処置の1日後になっても、IGF-MTX結合体処置群の腫瘍は他の群の腫瘍よりも小さかった(
図9)。12日間の観察の間、遊離型MTX群及び無処置対照群では腫瘍は成長し続けたが、一方、IGF-MTXで処置された腫瘍は概して腫瘍成長の徴候を示さなかった。12日目になると、IGF-MTX結合体処置群とMTX処置群との間には、平均腫瘍体積に約8倍の差があり、これは統計的に有意であることが分かった(P=0.048、対応のないt検定)。遊離型MTXの用量と比較して1/4のMTX用量で該結合体が使用された場合であっても、IGF-MTX結合体で処置されたマウスの腫瘍体積はより小さかった。これらのデータは、IGF-MTX結合体が、インビボでのMCF7腫瘍の成長の制御において、1/4の用量で使用された場合であっても、遊離型MTXよりも効果的であることを示すものである。
【0210】
第2のインビボ試験を、エストロゲン依存性MCF7株のMCF7-Lを用いて行った。腫瘍細胞を移植し、腫瘍成長についてマウスをモニタリングした。腫瘍移植の19日後、可視サイズの腫瘍を有する15匹のマウスを、平均腫瘍サイズが同じになるように3つの群に分けた。その後、0日目及び5日目に、ビヒクル、遊離型MTX(40nmol/g)又はIGF-MTX結合体(10nmol(MTX)/g)をマウスに尾静脈注射した。22日目、腫瘍成長はIGF-MTX処置群の動物及び遊離型MTX処置群の動物においておよそ等しく阻害された(
図10)。ただし、IGF-MTX結合体の用量は遊離型MTXの用量の1/4であった。IGF-MTX群と無処置対照群の間の22日目の腫瘍体積の差には有意性が認められた(P=0.008)。これらのデータにより、再度、より低用量のIGF-MTXがインビボ腫瘍増殖阻害においてより高用量の遊離型MTXと等しく効果的であることが、示唆される。
【0211】
最後のインビボ試験では、前立腺がんLNCaP細胞を0日目にマウスに皮内移植し、その後、マウスを異なる処置群に無作為に割り付けた。5日目(腫瘍が可視サイズになる前)に、種々の濃度のMTX又はIGF-MTX結合体をマウスに単回尾静脈注射した(
図11)。8nmol/gのIGF-MTX結合体処置群及び3.2nmol/gのIGF-MTX結合体処置群(用量は各MTX分子のモルとして表される)の腫瘍サイズは、より高用量(50、20及び8nmol/g)の遊離型MTX処置群のマウスと比較して、ずっと小さくなった。IGF-MTX結合体の最低試験用量である1.28nmol/gは、腫瘍成長を阻害しなかった。試験終了時(98日目)、8nmol/gのIGF-MTX処置群と50nmol/gの遊離型MTX処置群とを比較した場合の腫瘍成長の差には、有意性が認められた(P=0.04、両側t検定)。高い方から2つのIGF-MTX濃度(8nmol/g及び3.2nmol/g)の併合結果と、最も高い遊離型MTX濃度(50nmol/g)との間にも、有意差が認められた(P=0.011)。さらに、高い方から2つのIGF-MTX濃度(8nmol/g及び3.2nmol/g)の併合結果と、遊離型MTX濃度(20nmol/g及び50nmol/g)の併合結果との間にも、有意差が認められた(P=0.029)。これらのデータに基づくと、インビボ腫瘍成長に対して、1/6.25の用量(50nmol/gMTXに対して8nmol/gのIGF-MTX)であっても、IGF-MTX結合体が遊離型MTXよりも有効であると、合理的に結論付けることができる。
【0212】
考察
LNCaPモデルでの腫瘍増殖阻害において、IGF-MTX(LR3IGF-MTX)は遊離型MTXよりも少なくとも6倍効果的であった。これは、1/6倍モル用量のIGF-MTX内メトトレキサート基(8nEq/kg)が、6倍モル用量の遊離型MTX(50nmol/kg)よりも効果的であったという意味である。同様に、MCF7モデルにおいても、IGF-MTXは、IGF-MTXのモル用量が遊離型MTXの1/4倍であっても、遊離型MTXと少なくとも同程度に有効であった。これは、MCF-7細胞を用いた場合に、MTXのIC50がIGF-MTXのIC50の約1/50倍(MTXが17nMであるのに対し、IGF-MTXは715nEq/L)であったインビトロの結果とは、対照的である。このことは、インビボにおけるIGF-MTXの前記腫瘍細胞に対するターゲティングが、途方もないものであることを示すものである。
【0213】
実施例17
血液細胞及びMDS-Lのフローサイトメトリーは、正常な血液細胞がCD34及びIGF-1Rをほぼ有しておらず、MDS-L細胞が高レベルのCD34及びIGF-1Rを有していることを示す
血液幹細胞のマーカーであるCD34、及びIGF-1Rを検査するためのフローサイトメトリーアッセイを開発した。IGF-1R(CD221と称する)は、BDバイオサイエンス社製のCD221クローン1H7で検出した。
健常ドナー由来の溶血させた全血、及び生存可能に凍結された各体積の1×106/mL MDS-L細胞と混合された前記血液に対して、フローサイトメトリーを実施した。
【0214】
全血単独の結果を
図12に示し、10μLのMDS-L細胞と混合された100μLの全血の結果を
図13に示し、75μLのMDS-L細胞単独の結果を
図14に示す。Q1(CD221+/CD34-)に含まれる細胞の割合、Q2(CD221+/CD34+)に含まれる細胞の割合、及びQ4(CD221-/CD34+)に含まれる細胞の割合を、表2にまとめる。
【0215】
【0216】
健常ドナーの血液中には、CD34陽性の白血球も、IGF1R(CD221)陽性の白血球も、ほぼ存在しなかった。MDS-L細胞では、ほぼ全ての細胞がCD34とIGF1Rのいずれかに対して陽性であり、9.9%が両方に対して両性であった。このことは、MDS細胞が、IGF1R陽性又はCD34陽性又は両方に陽性である、血液中のほぼ唯一の細胞であることを示唆している。
【0217】
実施例18
AML-03:骨髄異形成症候群、CMML及び乏芽球性AMLの治療におけるIGF-メトトレキサート結合体の予備実験
概要
主目的:
本試験の主目的は、進行性の以前に治療された骨髄異形成症候群(MDS)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)及び乏芽球性急性骨髄性白血病(乏芽球性AML又はO-AML)の治療に対する、インスリン様増殖因子-1-メトトレキサート結合体、765IGF-MTXの利用の、安全性及び忍容性を決定することであり、最大耐用量(MTD)の決定も含む。
【0218】
副次目的:
本試験の副次目的は、進行性の以前に治療されたMDS患者、CMML患者、又はO-AML患者における奏功率、無増悪生存期間、及び全生存で評価される、765IGF-MTXの臨床的利点を決定することである。
【0219】
患者集団:
標準的治療に抵抗性又は不耐性であり、そのような治療に反応しそうにないという、MDS、CMML又はO-AMLの診断
患者は、試験へのエンロールより前の以前の抗がん治療の急性毒性作用(有害事象共通用語規準(CTCAE)v.4.0でグレード1以下)からの回復を経験していなければならない
年齢は18歳以上
ECOGのパフォーマンスステータスが0、1、又は2(付録III)
【0220】
試験デザイン:
この予備試験は、進行性の以前に治療されたMDSを有する患者、CMML患者及びO-AML患者におけるIGF-メトトレキサート結合体(765IGF-MTX)の使用を評価するものである。0.20~2.5μEq/kgの用量の765IGF-MTXを、28日間サイクルの1日目、8日目及び15日目に、1.5時間かけて、IV点滴投与する。2サイクル後に評価される疾患増悪、容認できない毒性、又は患者による拒否が無い限り治療は継続された。反応の評価は、サイクル2、サイクル4、及びサイクル6の終了時(それぞれ+/-3日)に実施される骨髄試験で確認する。
最終的な最大耐用量レベル(MTD)が決定されたら、3人の患者における、そのMTDの、サイクル1の1日目、2日目、15日目、及び16日目の、765IGF-MTXの薬物動態(PK)を評価する。
【0221】
試験概要
患者をスクリーニングし、試験に参加させた場合、28日間サイクルの1日目、8日目、及び15日目に治療を実施する。患者の治療は、疾患増悪、容認できない毒性、又は患者による中止の選択が無い限り実施する。初回投与前の28日間以内、並びにサイクル2の後、サイクル4の後、及びサイクル6の後に骨髄試料を採取する。サイクル1の1日目、サイクル2の1日目及び15日目、並びにその後のサイクルの15日目に、薬力学試験用試料を採取する。前記最大耐用量では、サイクル1の1~2日目及び15~16日目に2日間に亘って薬力学試験用試料を採取する。
【0222】
【0223】
1. 目的
1.1. 主目的
主目的は、進行性の以前に治療されたMDS、CMML又はO-AMLの治療に使用された場合の、765IGF-MTXの安全性及び忍容性を決定することであり、IGF-MTXのMTDの決定も含む。
【0224】
1.2.副次目的
2.2.1 進行性の以前に治療されたO-AMLを有する患者、CMML患者又はMDS患者における、全奏効率(ORR;=CR及びPR)、無増悪生存率(PFS)、累積憎悪率(CIP)、及び全生存率(OS)の評価により、765IGF-MTXの臨床的利点を評価すること。
【0225】
1.3. 相関性のある目的
1.3.1. 765IGF-MTX、765IGF、メトトレキサート、及び7-OHメトトレキサートの薬物動態(PK)の特徴付け
1.3.2. QT延長の可能性の評価
1.3.3. 可溶性IGF-1及びIGF-1Rのレベルに対する765IGF-MTXの薬力学的(PD)効果の評価
1.3.4. 765IGF-MTXに対する抗体の形成の評価
1.3.5. 中和抗体の形成の評価
1.3.6. 異常細胞上のIGF-1Rの発現レベルの評価
【0226】
2. エンドポイント
2.1. 主要エンドポイント
主要エンドポイントは765IGF-MTXの安全性及び忍容性である。これは、CTCAEv.4.0で定義される有害作用(AE)の評価により、評価される。
【0227】
2.2. 副次エンドポイント
2.2.1. ORR、PFS、CIP、OSの評価による765IGF-MTXの臨床的利点の評価
2.2.2. 造血器腫瘍に対する以下の応答基準によって定義される、完全寛解(CR)、CRi、PR(付録Iの表5及び表6、並びに付録IIを参照):
2.2.2.1. 急性白血病:2015 SWOG Manual Chapter 11A44(付録I);European LeukemiaNetの診断基準45及び2003 IWGの診断基準46
2.2.2.2. MDS:2006 IWGの診断基準47(付録II)
【0228】
2.3. 相関性のあるエンドポイント
3.3.1 765IGF-MTX、765IGF、メトトレキサート、及び7-OHメトトレキサートの、点滴開始から最後の定量化可能な血漿中濃度の時点までのAUC、点滴開始から無限時間までのAUC、観察された最高の血漿中濃度、最高血漿中濃度の時点、遊離型MTX及びIGF-MTXの両方の終末相の消失速度定数(terminal elimination constant)によって定められる、薬物動態(PK)パラメーター。
3.3.2 765IGF-MTXのQT延長の可能性の評価
3.3.3 血漿中IGF-1濃度及び血漿中IGF-1R濃度、並びに標準的治療の全身性PD変数(細胞数、差)によって定められる、薬力学的パラメーター(PD)
3.3.4 血漿中765IGFレベル及び765IGF-MTXの毒性/反応
3.3.5 血清中IGF-1Rレベル及び血中IGF-1Rレベル、並びに765IGF-MTXの毒性/反応
3.3.6 765IGF-MTXに対する抗体の形成の評価
3.3.7 中和抗体の形成の評価
3.3.8 IHC、及びフローサイトメトリーで測定される、骨髄の患部組織におけるIGF-1Rの発現レベル、並びに、フローサイトメトリーで測定される、血液細胞におけるIGF-1Rの発現レベル
【0229】
3. 全体的な設計及び試験計画
この予備試験は、進行性の以前に治療されたMDSを有する患者、CMML患者及びO-AML患者における765IGF-MTXの安全性及び臨床的利点を評価するものである。765IGF-MTXを、28日間サイクルの1日目、8日目及び15日目に、1.5時間かけて、IV点滴投与する。疾患増悪、容認できない毒性、又は患者による拒否が無い限り治療は継続する。反応の評価は、サイクル2の終了時、その後は8週間±7日間(2サイクル)毎にサイクル6の終了時まで、さらにその後は医師の判断で実施された、骨髄試験により確認する。
【0230】
用量設定成分:最大で5つの用量レベルを試験する(ページ6の概要を参照)。最大耐用量(MTD)を、0.33で推定された用量制限毒性(DLT)と、改変された毒性発現確率の区間に基づくデザイン(modified toxicity probability interval design)を用いて、決定する。
【0231】
改変には、初回量にサイズ1のコホートを用いること、が含まれ、これにより、該初回量レベルを通じて急速な増大が可能であり、また、試験薬に関連すると考えられるグレード2以上の毒性(脱毛、悪心、又は下痢は除く)が観察されたらサイズ3のコホートに拡大すること、が含まれる。追加の患者コホートは、1/1例(グレード2の毒性を示さない)、3/3例、5/6例、又は7/9例の患者が、現行の用量レベルで、DLTを発現しないで、計画されたサイクル1の治療の全て(765IGF-MTXの3回の投与と規定)を完了しない限りエンロールされず、2週間以内の遅延でサイクル2を開始することができる。試験責任医師の判断で、サイクル間の患者内用量漸増も許容されるが、1用量レベルで2サイクル後のみであり、患者内用量漸増を行われた患者が、より高い用量レベルで治療された唯一の患者になることはない。
【0232】
用量漸増は、判明した改変された毒性発現確率の区間に基づくデザインに基づいて、試験統計家との協議の後、行われる。試験完了時に用量レベルがいずれも許容できない場合、最適用量レベルが特定されないということとなり、この薬剤のさらなる調査は保証されない。
【0233】
薬物動態学(PK)及び薬力学(PD)による最大耐用量(MTD)コホート:MTD:MTDは、治療された患者のうち33%以下でDLTを付随する最高用量と規定される。MTDを決定したら、合計9例の患者がそのMTDに集められるまで、エンロールを継続する。この群では、サイクル1の1日目及び15日目の薬剤投与の前及び投与後48時間以内に、少なくとも3例の患者に対して、薬物動態試験を実施する。サイクル1の1日目、並びにサイクル2の1日目及び15日目、756IGF-MTX点滴前に、薬力学試験用試料を評価し、各治療サイクルの第4週の中で1つの試料を採取する。
試験完了時に用量レベルがいずれも許容できない場合、最適用量レベルが特定されないということとなり、この薬剤のさらなる調査は保証されない。
【0234】
患者の用量制限毒性(DLT)は、サイクル1の間に以下の事象のうち1つが発生することと規定される:
治療の最初のサイクル(28日間)の間の7日間を超えるグレード4以上の治療に関連した血液毒性
治療の最初のサイクル(28日間)の間のグレード3以上の治療に関連した臨床的非血液毒性(最大限度の医療介入及び/又は予防が行われない場合の、グレード3以上の、悪心、嘔吐、又は下痢は除く)
治療の最初のサイクル(28日間)の間の発熱性好中球減少
治療の最初のサイクル(28日間)の間の、重大な出血による、血小板が10×109/L未満となること
【0235】
追加の患者コホートは、1/1例(グレード2の毒性を示さない)、3/3例、5/6例、又は7/9例の患者が、現行の用量レベルで、DLTを発現しないで、計画されたサイクル1の治療の全て(765IGF-MTXの3回の投与と規定)を完了しない限りエンロールされず、2週間以内の遅延でサイクル2を開始することができる。
【0236】
MTDは、その用量レベルで治療された患者のうち、DLTを発現したのが33%未満である用量レベルと規定される。
【0237】
最低9例の患者を前記MTDで治療して安全性を確認しなければならず、765IGF-MTXをベースとした薬物動態試験を少なくとも計3例の患者に行う。
【0238】
サイクル1の1日目(24時間)及び15日目(24時間)の薬剤投与の前及び投与後24時間以内に、薬物動態試験を実施する。サイクル1の1日目の投与前、サイクル2の1日目及び15日目の投与前、並びにその後の全てのサイクルの15日目の投与前の、薬力学試験用試料を評価する。
【0239】
4. 患者の選択
試験のエントリーは性別や民族的背景を問わず18歳以上の成人に開放することとする。女性や少数民族を求め含めるための最大限の努力を払うが、患者集団はメイヨークリニックで実施された他の試験の患者集団と何ら変わりがないと予想される。
【0240】
4.1. 選択規準
5.1.1 標準的治療に抵抗性又は不耐性であり、そのような治療(少なくとも1ラインの治療)に反応しそうにないという、O-AMLの診断;又は
標準的治療に抵抗性又は不耐性であり、そのような治療(少なくとも1ラインの治療)に反応しそうにないという、MDS/CMMLの診断
5.1.2 サイクル1開始前、試験エントリーの14日間以内の骨髄生検及び骨髄穿刺液に対する組織学的診断が確認されていること
5.1.3 血小板が10×109/L超
5.1.4 年齢が18歳以上
5.1.5 ECOGパフォーマンスステータスが0、1又は2(付録III)
5.1.6 全身化学療法歴、免疫療法歴、又は生物学的療法歴、放射線治療歴及び/又は外科手術歴は許容される。試験エントリーの1か月前までのメトトレキサート全身投与歴は許容される。治療前及び治療中のメトトレキサートのくも膜下腔内投与は試験責任医師の判断で許容される。
【0241】
以前の治療から試験薬の初回投与までの時間:
以前の放射線照射、非細胞傷害性小分子薬剤、以前の大手術(患者の生命に対するリスクを含む外科手術と定義;具体的には、頭蓋、胸部、腹部、又は骨盤腔の臓器に対する手術)、以前のFDA認可全身治療から、少なくとも2週間経過
【0242】
5.1.7 患者は、試験ヘノエンロールより前の以前の抗がん治療の急性毒性作用(有害事象共通用語規準(CTCAE)v.4.0でグレード1以下)からの回復を経験していなければならない;唯一の例外として、グレード2の神経障害は許容される
5.1.8 試験登録の14日間以内の適切な臓器機能は以下のように定められる:
【0243】
【0244】
5.1.9 女性において尿又は血清妊娠検査が陰性であること
生殖能を有する男性及び女性の患者は、765IGF-MTXの投与中、及び最後の投与から3か月間、適切であれば承認された避妊法(例えば、禁断、経口避妊薬、埋め込み型ホルモン避妊薬、又はダブルバリア法)を用いなければならない。
5.1.10 将来の医療を損なうことなくいつでも患者が同意を取り消すことができることを理解した上での、通常の医療の一部ではない試験に関連した手順を実施する前の、自発的な書面によるインフォームドコンセント。
【0245】
6 試験パラメーター
6.1 治療手順の標準
【0246】
【0247】
6.2 研究に関する手順
【0248】
【0249】
1MTDのPK用患者でのみ実施。
765IGF-MTX点滴前(アム・ラブス(am labs)が765IGF-MTX点滴の1時間以内の場合、アム・ラブス(am labs)の時点)、点滴が終了する5分前(+/-5分)、及び以下の時点で注入:30分(+/-5分)、60分(+/-15分)、2時間(+/-15分)、4時間(+/-15分)、6時間(+/-15分)、10時間(+/-24時間15分(+/-2時間))。10時間の時点は1日目には収集されるが、15日目には収集さない。
2MTDのPK用患者でのみ実施。765IGF-MTX点滴前(+/-5分)、及び点滴開始の30分後(+/-5分)、点滴完了後以下の時点:60分(+/-15分)及び3時間(+/-15分)。全ての患者で、ECGはベースライン、1日目、サイクル1(点滴前)、及び最終投与の30日後(±1週間)に実施される(セクション8.1を参照)。
3点滴前の採血
4骨髄生検及び骨髄穿刺液は、ベースライン及び24週までの8週間(±1週)毎に、すなわち、サイクル2、サイクル4、及びサイクル6の後の、次のサイクルの最初の投与の前、に収集される。ある患者から、サイクル1の1日目より前の28日間のベースライン期間に、フローサイトメトリー用に生存可能に凍結又は新鮮採取された骨髄穿刺液が得られない場合でも、その患者はエンロールしてよく、ベースライン試料のための新たな骨髄穿刺液は必要ない。
5EDTAチューブへの全血採取
【0250】
7 相関試験
相関試験用の血液試料の採血に関する情報(使用する採血チューブ、採血体積、採血後処理、分注手順及び保存、並びに、特に、使用するアッセイ)は付録VIIに記載されている。
【0251】
7.1 薬物動態
7.1.1 薬物動態試験用試料の採取
765IGF-MTXの薬物動態を、サイクル1の1日目及び15日目の投与後に調べる。上記の日の朝、765IGF-メトトレキサートをセクション7.1.1に記載の通りに点滴する。研究チームは、点滴の開始時点及び終了時点、並びに点滴された765IGF-MTX溶液の体積を記録する。全血(6mL)を、反対腕の挿入された翼状針から、又は患者が中心静脈カテーテルを有する場合は末梢部位から、765IGF-MTX点滴の直前、点滴終了の5分前、並びに、点滴完了から30分後、60分後、2時間後、4時間後、6時間後、10時間後、及び24時間後、に採取する(上記の研究に関する手順の表の脚注1の通りの時間帯)。10時間の時点は、1日目に採取されるが15日目には採取されない。IGF-MTX及びIGFに結合していないMTXの毒物動態学解析を行う。これらの時点はイヌにおける薬物動態に基づいている。PK用試料の採取手順については付録VIIを参照されたい。
【0252】
7.1.2 薬物動態試験用試料の処理
血液試料(6mL)は6mL EDTA入り(パープルトップ)チューブに採取する。抗凝固剤と完全に混ざるように、チューブを数回軽く反転させるべきである。試料採取の正確な回数を、チューブのラベルと、提供された薬物動態データフォームに記録すべきである。遠心分離まで、チューブは濡れた氷上に置くべきである。血液採取の120分間以内に、各血液試料を4℃で5~10分間、約3,000×gで遠心分離する。それぞれ約0.5mLの一定分量をピペット操作で4本の別々のプラスチック製遠心管に入れ、分析まで-80℃で凍結する。PK用試料の採取手順については付録VIIを参照されたい。
【0253】
765IGF-MTX、765IGF、メトトレキサート及び7-OH-メトトレキサートの血漿中濃度は、イリノイ大学シカゴ校の毒性学研究所(Toxicology Research Laboratory)で、GLP条件の下、有効な測定法を用いて測定する。
【0254】
7.1.3 薬物動態パラメーターの測定
765IGF-メトトレキサート、765IGF、メトトレキサート及び7-OH-メトトレキサートの薬物動態は、コンパートメントモデル及びノンコンパートメントモデルを用いたアプローチにより解析する。各目的化合物について、WinNonlin6.3(ファーサイト社(Pharsight)、セントルイス、ミズーリ州)を用いて、血漿中濃度-時間データのノンコンパートメント解析を行う。評価される薬物動態パラメーターには、1)点滴開始から最後の定量可能な血漿中濃度までの薬剤の血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC0-t)、2)点滴開始から無限時間までのAUC(AUC0-∞)、3)確認された最大血漿中濃度(Cmax)、4)最大血漿中濃度の時間(最高血中濃度到達時間)、及び5)終末相の消失速度定数(terminal elimination constant)(λz)が含まれる。
【0255】
目的化合物の血漿中濃度-時間データを、NONMEM(バージョン7.3)に実装されている非線形混合効果モデリングを使用して、適切なモデルに個別かつ同時に適合する。データは、個人アプローチ及び集団アプローチでモデル化する。親及び代謝産物の性質を組み込んだ、1-コンパートメントモデル、2-コンパートメントモデル、及び3-コンパートメントモデルを評価する。最尤を推定するために、条件付一次近似法、モンテカルロ期待値最大化法、及びモンテカルロベイジアン法を検討する。
【0256】
抗765IGF抗体が一部又は全ての患者で検出された場合、これらの抗体の存在が薬物動態パラメーターに与える影響を調べる。これは、例えば、抗治療薬抗体が存在し得ない初回投与時の薬物動態パラメーターと、抗765IGF抗体の発生が示された後の投与時のパラメーターとを比較することにより、また、抗765IGF抗体を有する患者のパラメーターと、それを有さない患者のパラメーターを比較することにより、実施される。
【0257】
7.1.4 薬物動態の統計解析
765IGF-MTX、765IGF、メトトレキサート、及び7-OH-メトトレキサートの各パラメーターは、記述統計(幾何平均、中央値、標準偏差及び変動係数)によって表される。各化合物で調べられる主要な薬物動態パラメーターは、AUC0-t、AUC0-∞、Cmax及びλzである。記述統計は人口統計的データに対し計算を行う。グラフと相関性を用い、値の分布と2変量の関連性を調べる。
【0258】
7.2 薬力学的評価
サイクル1の1日目、サイクル2の1日目及び15日目、並びにその後の各サイクルの15日目に薬力学試験用試料を評価する。
全身性反応は、全ての被験者で測定され、765IGF-MTXがこれらの生物学的マーカーの産生に影響を与えるか否かの評価に用いられる、IGF-1の血漿中濃度、並びにIGF-1Rの血中濃度及び血清中濃度と定義される。毒性(例えば、WBC数、細胞集団差異、血小板などの変化)の測定も全身性PD変数と見なされる。
最尤推定法を用いて、薬力学的データを適切なモデルに適合する。治療薬の全身作用とバイオマーカーとの間に関連性が存在するか否かを判定するため、個々のベースライン補正最大バイオマーカー濃度を、個々の765IGF-MTX薬物動態値に対してプロットし、ピアソン相関係数を算出する。
【0259】
7.3 765IGF-MTXのQT延長の可能性の評価
QT評価を、PK用被験者で、765IGF-MTX点滴直前、点滴開始から30分後、並びに点滴完了から60分後及び3時間後のECGによって、PK採取時のみ実施する。全ての被験者で、ベースライン(エンロールの14日間以内)、サイクル1の1日目(点滴前)及び765IGF-MTXの最終投与の30日間(±1週間)後のECGにより、QT評価を実施する。
【0260】
7.4 血漿中IGFレベル及び765IGF-MTXの毒性/反応
治療前及び治療中の血漿中可溶性IGF-1レベルが765IGF-MTXの毒性及び/又は反応と関連しているかどうかを確認するために、サイクル1の1日目の点滴前、並びにサイクル2の1日目及び15日目の点滴前の血液試料を各患者から採取する。血漿中IGF-1の定量化は、クエスト・ダイアグノスティクス社、テストコード16293により、LC/MSで実施する。臨床反応とマーカーレベルとの間の記述的解析を実施する。バイオマーカーの採取手順については付録VIIを参照されたい。
【0261】
7.5 血清中IGF-1Rレベル及び血中IGF-1Rレベル、並びに765IGF-MTXの毒性/反応
治療前及び治療中の血清中IGF-1Rレベル及び血中IGF-1Rレベルが765IGF-MTXの毒性及び/又は反応と関連しているかどうかを確認するために、サイクル1の1日目の点滴前、並びにサイクル2の1日目及び15日目の点滴前の血清試料及び血液試料を各患者から採取する。血漿中IGF-1Rの定量化は、IGFオンコロジー社(IGF Oncology)により、ウェスタンブロッティングを用いて実施される。臨床反応とマーカーレベルとの間の記述的解析を実施する。バイオマーカーの採取手順については付録VIIを参照されたい。
【0262】
7.6 抗765IG-MTX抗体の形成
サイクル1の1日目の点滴前、並びにサイクル2の1日目及び15日目の点滴前に各患者から血清試料を採取し、治験依頼者が前臨床試験のイヌ及びラットにおいて抗765IG-MTX抗体の検出に用いたアッセイにより、抗治療薬抗体について分析する。このアッセイとはサンドイッチELISAであり、この方法は96ウェルプレートに血清を播き、プレートの各ウェルに治療薬を添加して該血清中に存在し得る抗治療薬抗体と結合させ、その後、結合型の765IGF-MTX治療薬をR&Dシステムズ社製のヒトIGF-1 ELISAキット、Quantikineの抗IGF-HRP結合体抗体により検出することを含む。
上述のサンドイッチ型アッセイにより765IGF-MTXに対する抗体が検出される。765IGF-MTXの代わりに765IGFタンパク質をプレートに添加して、同じアッセイを実施する。これにより765IGFタンパク質に対する抗体が検出される。
【0263】
前記血清試料は、中和抗体の存在についても分析を行う。このアッセイでは、インビトロのヒトMCF7乳がん細胞の死滅アッセイで血清を765IGF-MTXと混合することで、MCF7細胞の増殖阻害において患者血清の添加が765IGF-MTXの最小発育阻止濃度に影響を与えるか否かを確認する。このアッセイは、サイクル2の1日目及び15日目の治療前、並びにサイクル4及びサイクル6の15日目の治療前に採取された同じ血清試料に対して実施する。バイオマーカーの採取手順については付録VIIを参照されたい。
【0264】
リスク評価
抗765IGF抗体についてアッセイを行うことから生じる患者へのリスクは、最小限であり、サイクル1の1日目の点滴前、並びにサイクル2の1日目及び15日目の点滴前の、追加の採血のみから生じる。少量の血液(7.5mL/採血)を取っても、患者の健康には何の影響もない。抗765IGF抗体を発現している可能性から生じる患者へのリスクも、小さいものであり、患者がこれらの抗体を発現しているか否かを知ることにより和らげられるであろう。第一に、いずれのイヌもいずれのラットも前臨床検査で抗治療薬抗体を発現していなかったことから、患者が抗765IGF抗体を発現することはありそうにない。前記抗体を発現することから生じる患者へのリスクは、もしそれが起こった場合、前記抗体が、本治療薬の有効性を低減する可能性があると予想されることと、本治療薬の投与に対するアナフィラキシー反応のリスクを高めることであろう。アナフィラキシー反応は、リツキシマブなど、いくつかの生物学的医薬を用いた場合に生じ、通常はジフェンヒドラミンなどの抗ヒスタミン剤により対処できる。765IGFに対する抗体の形成は、高血糖症の発症可能性などの、IGFR1受容体に対する抗体と同様の副作用も引き起こし得る。本試験では、血糖レベルのモニタリングは定期的に実施される。
【0265】
7.7 中和抗体及び765IGF-MTXの毒性/反応
サイクル1の1日目の点滴前、サイクル2の1日目及び15日目の点滴前、並びにサイクル4及びサイクル6の15日目の点滴前に採取された血清試料を、中和抗体の存在について分析する。このアッセイでは、インビトロのヒトMCF7乳がん細胞の死滅アッセイで血清を765IGF-MTXと混合することで、MCF7細胞の増殖阻害において患者血清の添加が765IGF-MTXの最小発育阻止濃度に影響を与えるか否かを確認する。バイオマーカーの採取手順については付録VIIを参照されたい。中和抗体の存在又はレベルを、765IGF-MTXに対する臨床反応及び765IGF-MTXの毒性と関連付ける記述的解析を実施する。
【0266】
7.8 IHC及びフローサイトメトリーによる、骨髄穿刺液の異常細胞におけるIGF-1R発現レベル
骨髄穿刺液を患者から採取した際、一部は凝固、固定、パラフィン包埋し、第2の一部は室温に保ち、同日に一晩輸送する。固定試料については病理報告を作成する。全ての試料は、メイヨ―クリニックに留め、試験終了時に、病理報告と共に、IHCによるIGF-1R発現レベル検査(テストコードは19429X)のために、クエスト・ダイアグノスティクス社に一斉に輸送する。
【0267】
新鮮生細胞(viable)骨髄穿刺液を、フローサイトメトリーによるIGF-1R及びCD34の発現検査のために、その日のうちに一晩かけてチャールスリバー社に輸送する。このアッセイはHe et al.28のアッセイと同様である。
【0268】
7.9 フローサイトメトリーによる全血の異常細胞のIGF-1R発現レベル
全血をEDTA付チューブに採血し(6mL)、フローサイトメトリーによるIGF-1R及びCD34の発現検査のために、室温の断熱容器内で、その日のうちに一晩かけてチャールスリバー社に輸送する。このアッセイはHe et al.28のアッセイと同様である。この採取及び検査は、ベースライン時と、治療開始後の8週間毎である。
【0269】
結果:
現在までに、2例の被験者がエンロールされ、共にO-AMLと診断された。被験者101は以前にMDSに罹患しO-AMLへと移行させたことがある。
治療前のベースライン時、及び8週間後の2サイクルの治療(6回の投与)後の、骨髄穿刺液中の芽球数及び全血球数における両被験者の差異を、表3に示す。共に用量レベル1(0.2μEq/kg)を投与された。共に80歳以上(80歳及び83歳)の男性であった。
【0270】
【0271】
骨髄内芽細胞割合は、MDSと、その関連疾患であるO-AML、及びCMMLの評価に用いられる重要なパラメーターである。骨髄内芽細胞割合は、被験者101では大幅に改善され、被験者102では安定している。次の重要な測定値は白血球であるが、これは両被験者で大幅に改善している。次の重要なパラメーターは好中球と血小板である。好中球は両方の被験者で大幅に改善しているが、血小板は被験者101では改善し、被験者102では悪化している。測定されたいずれの血液パラメーターも、被験者102の血小板を除いて、両方の被験者で向上したか安定であった。
【0272】
8週間後の両被験者の臨床評価は安定病態であった。臨床試験の試験責任医師によるこれら被験者の両方の治療開始時の推定余命が僅か3か月であったことから、ほぼ全てのパラメーターの改善を伴う8週間の安定病態は有効性のエビデンスとなる。
【0273】
配列
SEQ ID NO:1 MVKGKHHHHHHNGKGKSK
SEQ ID NO:2 (765IGF)
MVKGKHHHHH HNGKGKSKGP RTLCGAELVD ALQFVCGDRG FYFNKPTGYG SSSRRAPQTG
IVDECCFRSC DLRRLEMYCA PLKPAKSA
SEQ ID NO:3 (human IGF-1)
GPETLCGAEL VDALQFVCGD RGFYFNKPTG YGSSSRRAPQ TGIVDECCFR SCDLRRLEMY
CAPLKPAKSA
SEQ ID NO:4 (IGF132)
FVNQHLCGSHLVEALYL VCGDRG FYFNKPTGYG SSSRRAPQTG IVDECCFRSCDLRR LEMYCAPLKPAKSA
SEQ ID NO:5 (long-R3-IGF)
MFPAMPLSSLFVN GPRTL CGALVDALQ FVCGDRGFYF NKPTGYGSSS RRAPQTGIVD ECCFRSCDLR RLEMYCAPLK PAKSEA
SEQ ID NO:6 (R3-IGF)
GPRTLCGAELVD ALQFVCGDRG FYFNKPTGYG SSSRRAPQTG
IVDECCFRSC DLRRLEMYCA PLKPAKSA
SEQ ID NO:7 des(1-3)IGF1
TLCGAELVD ALQFVCGDRG FYFNKPTGYG SSSRRAPQTG
IVDECCFRSC DLRRLEMYCA PLKPAKSA
SEQ ID NO:8, 403IGF
MTSGHHHHHHSAGVNG FVNQHLCGSHL VEALYLVCGD RGFYFNKPTG YGSSSRRAPQ TGIVDECCFR SCDLRRLEMY CAPLKPAKSA
SEQ ID NO:9, 784IGF
MVKQIESKTAFQEALDAAGDKLVVVDFSATWCGHCKMIKPFFHSLSEKYSNVIFLE
VDVDDSQDVASESEVKSMPTFQFFKKGQKVGEFSGANKEKLEATINELVGSKSGHHHHHH
SAKGGPRTLCGAELVDALQFVCGDRGFYFNKPTGYGSSSRRAPQTGIVDECCFRSCDLRR
LEMYCAPLKPAKSA
SEQ ID NO:10, 785IGF
MVKQIESKTAFQEALDAAGDKLVVVDFSATWCGHCKMIKPFFHSLSEKYSNVIFLE
VDVDDSQDVASESEVKSMPTFQFFKKGQKVGEFSGANKEKLEATINELVGSKSGHHHHHH
SAKGFVNQHLCGSHLVEALYLVCGDRGFYFNKPTGYGSSSRRAPQTGIVDECCFRSCDLR
RLEMYCAPLKPAKSA
SEQ ID NO:11, 764IGF
MVKGKHHHHHHNGKGKSKFVNQHLCGSHLVEALYLVCGDRGFYFNKPTGYGSSSRR
APQTGIVDECCFRSCDLRRLEMYCAPLKPAKSA
【0274】
引用された特許、特許文献、および他の参照文献は、全て本明細書に援用される。
<1> 骨髄異形成症候群(MDS)、乏芽球性急性骨髄性白血病(O-AML)、又は慢性骨髄単球性白血病(CMML)の患者を治療する方法であって、
MSDS、O-AML、又はCMMLの治療の必要性が認められる患者に、インスリン様増殖因子1受容体(IGF-1R)リガンド-抗がん化学療法薬結合体を含む薬剤を投与すること、
を含む、方法。
<2> 前記患者がMDSの治療の必要性が認められる患者である、前記<1>に記載の方法。
<3> 前記IGF-1Rリガンドが前記抗がん化学療法薬と共有結合している、前記<1>に記載の方法。
<4> 前記IGF-1Rリガンドが、インスリン様増殖因子1(IGF-1)若しくはそのバリアント又はインスリンである、前記<1>~<3>のいずれか一項に記載の方法。
<5> 前記IGF-1Rリガンドが、IGF-1結合タンパク質に対する結合親和性がIGF-1と比較して減少しているIGF-1のバリアントである、前記<4>に記載の方法。
<6> 前記IGF-1Rリガンドが、IGF-1(配列番号3)ではなく、且つ、765IGF(配列番号2)、IGF132(配列番号4)、長鎖型R3-IGF(配列番号5)、R3-IGF(配列番号6)、若しくはdes(1-3)-IGF(配列番号7)であるか、765IGF(配列番号2)、IGF132(配列番号4)、長鎖型R3-IGF(配列番号5)、R3-IGF(配列番号6)、若しくはdes(1-3)-IGF(配列番号7)を含むか、又はIGF-1(配列番号3)と少なくとも90%の同一性を有するバリアントである、前記<5>に記載の方法。
<7> 前記IGF-1Rリガンドが抗IGF-1R抗体である、前記<1>に記載の方法。
<8> 前記抗がん化学療法薬がメトトレキサート、ベンダムスチン、及びクロラムブシルからなる群から選択される、前記<4>又は<1>又は前記<6>に記載の方法。
<9> 前記抗がん化学療法薬がメトトレキサートである、前記<8>に記載の方法。
<10> 前記抗がん化学療法薬がメトトレキサートであり、前記薬剤が、体積100mL~1Lの5%~10%ブドウ糖に溶解されて、患者の体重1kgあたり0.1~2.5(又は0.2~2.5、又は0.4~2.5、又は0.4~1.6)μEqの用量で投与される、前記<4>又は<6>に記載の方法。
<11> 前記薬剤が765IGF-MTXである、前記<1>又は<10>に記載の方法。
<12> 前記体積が100mL~500mL、150mL~500mL、200mL~500mL、又は約250mLである、前記<10>又は<11>に記載の方法。
<13> 前記患者に前記薬剤を0.2~2.5μEq/kgの用量で投与することを含む、前記<12>に記載の方法。
<14> 前記患者に、前記薬剤を、0.2~2.5μEq/kgの用量で、週1回又は週2回(例えば、週1回を3週間、その後1週間休薬)、投与することを含む、前記<13>に記載の方法。
<15> 急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、O-AML、CMML、又はMDSの患者を治療する方法であって、
AML、CML、O-AML、CMML、又はMDSの治療の必要性が認められる患者に、
(a)メチル化阻害剤(例えば、アザシチジン又はデシタビン)、及び
(b)インスリン様増殖因子1受容体(IGF-1R)リガンド-メトトレキサート結合体を含む薬剤、
を投与することを含み、
前記IGF-1Rリガンドはインスリン様増殖因子1(IGF-1)又はそのバリアント又はインスリンである、
方法。
<16> 前記IGF-1Rリガンドが、IGF-1結合タンパク質に対する結合親和性がIGF-1と比較して減少しているIGF-1のバリアントである、前記<15>に記載の方法。
<17> 前記IGF-1Rリガンドが、IGF-1(配列番号3)ではなく、且つ、765IGF(配列番号2)、IGF132(配列番号4)、長鎖型R3-IGF(配列番号5)、R3-IGF(配列番号6)、若しくはdes(1-3)-IGF(配列番号7)であるか、765IGF(配列番号2)、IGF132(配列番号4)、長鎖型R3-IGF(配列番号5)、R3-IGF(配列番号6)、若しくはdes(1-3)-IGF(配列番号7)を含むか、又はIGF-1(配列番号3)と少なくとも90%の同一性を有するバリアントである、前記<15>に記載の方法。
<18> MDS、O-AML、又はCMMLの患者を治療する方法であり、前記患者がMDS、O-AML、又はCMMLの治療の必要性が認められる患者である、前記<15>に記載の方法。
<19> 前記メチル化阻害剤がアザシチジンである、前記<15>又は<18>に記載の方法。
<20> 前記薬剤が765IGF-MTXである、前記<15>、前記<18>、又は前記<19>に記載の方法。
<21> アザシチジンで患者を処置することを含み、前記薬剤が765IGF-MTXである、前記<18>に記載の方法。
<22> 前記765IGF-MTXが、体積100mL~1Lの5%~10%ブドウ糖に溶解されて、患者の体重1kgあたり0.1~2.5μEqの用量で投与される、前記<20>に記載の方法。
<23> 前記体積が100mL~500mL、150mL~500mL、200mL~500mL、又は約250mLである、前記<22>に記載の方法。
<24> 点滴用の溶液である医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、(a)メトトレキサート-IGF-1Rリガンド共有結合体からなる薬剤を含み、前記IGF-1Rリガンドはインスリン様増殖因子1(IGF-1)又はそのバリアント又はインスリンであり、
前記医薬組成物は、(b)100mL~1Lの5%~10%(w/v)ブドウ糖水溶液中に溶解された溶液であり、
前記溶液は5mM以上のNaCl又は2mM以上のリン酸塩を含まず、
前記溶液は輸液バッグに入っており、100mL~1Lの体積を有する、
医薬組成物。
<25> 溶液が、100mL~500mL、150mL~500mL、200mL~500mL、又は約250mLの体積を有する、前記<24>に記載の医薬組成物。
<26> 前記薬剤が765IGF-MTXである、前記<24>に記載の医薬組成物。
<27> IGF-1Rリガンドがインスリン様増殖因子1(IGF-1)若しくはそのバリアント又はインスリンである、IGF-1Rリガンド-メトトレキサート共有結合体からなる薬剤を投与する方法であって、
前記薬剤を、体積100mL~1Lの実質的に5%~10%ブドウ糖(w/v)水溶液からなる希釈液中に希釈することで、前記希釈液中の前記薬剤の溶液を作製すること、及び
前記溶液を患者に注入すること、
を含む、方法。
<28> 前記溶液を患者に注入する工程が、20分間~2.5時間、又は30分間~2時間、又は45分間~1.5時間、又は1~2時間の時間をかけて行われる、前記<27>に記載の方法。
<29> インスリン様増殖因子1受容体(IGF-1R)リガンド-抗がん化学療法薬結合体を含む薬剤、を含む組成物であって、
乏芽球性急性骨髄性白血病(O-AML)又は骨髄異形成症候群(MDS)又は慢性骨髄単球性白血病(CMML)を治療する方法で使用される、
組成物。
<30> (a)最大100mL~2Lの体積を保持できる輸液バッグに入った、
(b)5%又は10%(w/v)ブドウ糖溶液、及び前記溶液に溶解された(c)IGF-1Rリガンド-メトトレキサート共有結合体からなる薬剤と、
を含むデバイスであって、
前記IGF-1Rリガンドはインスリン様増殖因子1(IGF-1)又はそのバリアント又はインスリンであり、
前記溶液は100mL~1L(より好ましくは100mL~500mL、150mL~500mL、又は約250mL)の体積を有する、
デバイス。
<31> (d)前記輸液バッグに接続されたチューブ管、及び
(e)前記チューブ管に接続された皮下用注射針、
をさらに含む、前記<30>に記載のデバイス。
<32> 前記薬剤が765IGF-MTXである、前記<30>に記載のデバイス。
<33> 前記溶液が10μEq以上250μEq以下の前記薬剤を含む、前記<30>又は<32>に記載のデバイス。
<34> 前記溶液が、5mM以下のNaCl(好ましくは1mM以下のNaCl)及び2mM以下のリン酸塩(好ましくは1mM以下のリン酸塩)を含む、前記<30>又は<32>に記載のデバイス。
<35> 前記溶液が5mM以下のNaClを含む(好ましくは1mM以下のNaClを含み、より好ましくはNaClを含まない)、前記<30>又は<32>に記載のデバイス。
【配列表】