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特許7115373特定事象発生検知装置、特定事象発生検知方法、および特定事象発生検知プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】特定事象発生検知装置、特定事象発生検知方法、および特定事象発生検知プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/246 20170101AFI20220802BHJP
   G08B 13/196 20060101ALI20220802BHJP
   G08B 25/00 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
G06T7/246
G08B13/196
G08B25/00 510M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019047879
(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2020149521
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箭野 裕己
(72)【発明者】
【氏名】白井 将之
(72)【発明者】
【氏名】田中 信頼
(72)【発明者】
【氏名】張 海虹
【審査官】佐藤 実
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-186727(JP,A)
【文献】國場幸祥 外3名,学習型AIと位置推定による次世代型知的防犯カメラシステムの研究,電気学会研究会資料 次世代産業システム研究会 IIS-15-064~085,一般社団法人電気学会,2015年09月17日,pp. 85-90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/246
G08B 13/196
G08B 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象エリアを撮像した動画像が入力される動画像入力部と、
前記動画像入力部に入力された動画像を処理し、前記対象エリア内におけるオブジェクトの移動を追跡する追跡部と、
前記追跡部における前記オブジェクトの追跡結果に基づき、設定距離よりも接近した2つの前記オブジェクトの組み合わせにおいて、これらの前記オブジェクトについて検出した、接近前後の動作の変化に基づきひったくりが発生したかどうかを判定する判定部と、を備え
前記判定部は、接近後における2つの前記オブジェクトの移動方向が同じである場合、接近後に後続側になった前記オブジェクトについて、接近後の第1期間における速度の最大値から、接近前の第2期間の速度の平均値を差し引いた値を移動速度の変化量として算出し、この移動速度の変化量の大きさに基づきひったくりが発生したかどうかを判定する、特定事象発生検知装置。
【請求項2】
前記判定部は、接近後に後続側になった前記オブジェクトについて算出した前記移動速度の変化量が設定量を超えていればひったくりが発生した判定する、請求項1に記載の特定事象発生検知装置。
【請求項3】
前記判定部は、接近前後における、前記オブジェクトの体勢の変化に基づきひったくりが発生したかどうかを判定する、請求項1、または2に記載の特定事象発生検知装置。
【請求項4】
前記判定部は、接近後における2つの前記オブジェクトの移動方向が同じでなければ、ひったくりが発生していないと判定する、請求項1~3のいずれかに記載の特定事象発生検知装置。
【請求項5】
前記判定部における判定結果に応じて、ひったくりの発生を出力する出力部を備えた、請求項1~4のいずれかに記載の特定事象発生検知装置。
【請求項6】
動画像入力部に入力された、対象エリアを撮像した動画像を処理し、前記対象エリア内におけるオブジェクトの移動を追跡する追跡ステップと、
前記追跡ステップでの前記オブジェクトの追跡結果に基づき、設定距離よりも接近した2つの前記オブジェクトの組み合わせにおいて、これらの前記オブジェクトについて検出した、接近前後の動作の変化に基づきひったくりが発生したかどうかを判定する判定ステップと、をコンピュータが実行し、
前記判定ステップは、接近後における2つの前記オブジェクトの移動方向が同じである場合、接近後に後続側になった前記オブジェクトについて、接近後の第1期間における速度の最大値から、接近前の第2期間の速度の平均値を差し引いた値を移動速度の変化量として算出し、この移動速度の変化量の大きさに基づきひったくりが発生したかどうかを判定するステップである、
特定事象発生検知方法。
【請求項7】
動画像入力部に入力された、対象エリアを撮像した動画像を処理し、前記対象エリア内におけるオブジェクトの移動を追跡する追跡ステップと、
前記追跡ステップでの前記オブジェクトの追跡結果に基づき、設定距離よりも接近した2つの前記オブジェクトの組み合わせにおいて、これらの前記オブジェクトについて検出した、接近前後の動作の変化に基づきひったくりが発生したかどうかを判定する判定ステップと、をコンピュータに実行させ
前記判定ステップは、接近後における2つの前記オブジェクトの移動方向が同じである場合、接近後に後続側になった前記オブジェクトについて、接近後の第1期間における速度の最大値から、接近前の第2期間の速度の平均値を差し引いた値を移動速度の変化量として算出し、この移動速度の変化量の大きさに基づきひったくりが発生したかどうかを判定するステップである、
特定事象発生検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、対象エリアを撮像した動画像を処理して、特定事象の発生を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ひったくりの発生を抑制するための装置があった(特許文献1等参照)。この特許文献1に記載された装置は、ひったくりが発生する可能性が高いかどうかを判定し、ひったくりが発生する可能性が高いと判定したときに、報知を行う構成である。ひったくりが発生する可能性が高いかどうかの判定は、2つの物体(例えば、歩行者と二輪車)が接近する接近速度が所定速度よりも速いかどうかによって行っている。
【0003】
特許文献1に記載された装置は、ひったくりの可能性が高いと判定したときに、報知を行うことによって、ひったくりを抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-199525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1等に記載された装置は、ひったくりが発生したかどうかを検知するものではなかった。このため、特許文献1に記載された装置は、ひったくりが発生したときに、そのことを検知して出力することができない。
【0006】
この発明の目的は、ひったくり等の特定事象が発生したときに、その発生を検知することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の特定事象発生検知装置は、上記目的を達成するため以下に示すように構成している。
【0008】
追跡部が、動画像入力部に入力された対象エリアの動画像を処理し、対象エリア内におけるオブジェクトの移動を追跡する。判定部が、追跡部におけるオブジェクトの追跡結果に基づき、設定距離よりも接近した2つのオブジェクトの組み合わせにおいて、これらのオブジェクトについて検出した、接近前後の動作の変化に基づき特定事象が発生したかどうかを判定する。
【0009】
この構成では、接近した2つのオブジェクトついて、検出された接近前後の動作の変化によって、特定事象が発生したかどうかを判定する。
【0010】
特定事象として、路上で発生する犯罪の1つであるひったくりを例にすると、多くの場合、ひったくりにあった被害者の動作が、以下に示す(1)~(4)のいずれかである。
(1)荷物を奪われるときに引っ張られて転倒する、
(2)荷物を奪われたことにショックを受けてしゃがみ込む
(3)奪われた荷物を持って逃げる加害者を追いかける、
(4)奪われた荷物を持って逃げる加害者を追いかけるときに転倒する、
また、路上で発生する犯罪の1つである路上強盗を例にすると、多くの場合、路上強盗にあった被害者の動作は、加害者の暴力行為等により倒れたり、しゃがみ込んだりする。路上強盗にあった被害者は、加害者を追いかけようとしない点で、ひったくりにあった被害者と相違する動作を行う。
【0011】
また、ひったくり、路上強盗のいずれも、加害者と被害者とが接近すること、および加害者が犯罪を行った場所(犯行現場)から離れる点で共通している。
【0012】
被害者の動作は、被害にあう前後、すなわち2つのオブジェクト(被害者と加害者)が接近する前後で変化する。したがって、2つのオブジェクトが接近する前後の動作の変化に基づき、ひったくり等の特定事象の発生を検知することができる。
【0013】
例えば、特定事象が発生したかどうかの判定を、接近前後における、オブジェクトの移動速度の変化量の大きさに基づいて行ってもよいし、接近前後における、オブジェクトの体勢の変化に基づいて行ってもよい。
【0014】
また、接近後における2つのオブジェクトが移動している場合、その移動方向が同じであるかどうかによって、特定事象が発生したかどうかを判定するのが好ましい。すなわち、2つのオブジェクトが異なる方向に移動していれば、被害者が加害者を追いかけていないので、特定事象が発生したと判定しない構成にするのが好ましい。これにより、特定事象の発生にかかる判定精度の低下を抑えられる。
【0015】
また、判定部における判定結果に応じて、特定事象の発生を出力する出力部を備えてもよい。このように構成すれば、発生した特定事象に対する対応が迅速に行える。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、ひったくり等の特定事象が発生したときに、その発生を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この例にかかる特定事象発生検知装置の主要部を示す図である。
図2】対象エリアを撮像したフレーム画像を示す図である。
図3】オブジェクトの追跡データを示す図である。
図4】追跡処理を示すフローチャートである。
図5】ひったくり発生検知処理を示すフローチャートである。
図6】s11で設定する対象時間帯を説明する図である。
図7図7(A)~(G)は、ひったくり時における被害者の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施形態について説明する。
【0019】
<1.適用例>
図1は、この例にかかる特定事象発生検知装置の主要部を示す図である。図2は、ビデオカメラによって撮像された対象エリアのフレーム画像の例を示す図である。図1に示すように、この例にかかる特定事象発生検知装置1には、ビデオカメラ5が接続されている。ビデオカメラ5は、対象エリアを撮像したビデオ画像(動画像)を特定事象発生検知装置1に入力する。ビデオカメラ5のフレームレートは、数十フレーム/sec(10~30フレーム/sec)である。特定事象発生検知装置1は、入力されたビデオ画像にかかるフレーム画像(図2参照)を処理し、対象エリアにおいて特定事象であるひったくりが発生したかどうかを検知する。特定事象発生検知装置1は、対象エリアにおいてひったくりが発生したことを検知すると、その旨を上位装置(不図示)に通知する。この上位装置は、例えば対象エリア内、または対象エリア周辺において、ひったくりの発生を報知する報知装置であってもよいし、犯罪の通報を受け付ける受付センタであってもよい。
【0020】
特定事象発生検知装置1は、対象エリアを撮像したビデオ画像を処理して、この対象エリア内を通行したオブジェクトの移動を追跡する。ここでは、オブジェクトとして、歩行者6、および二輪車7を例示している。二輪車7は、自転車、バイク等である。また、二輪車7の移動を追跡するとは、その二輪車7を運転している人物を追跡することを意味する。
【0021】
なお、対象エリア内で移動を追跡するオブジェクトには、歩行者6、二輪車7に限らず、自動車(四輪車)等の他の種類のオブジェクトが含まれていてもよい。
【0022】
特定事象発生検知装置1は、各オブジェクトを追跡することによって、設定距離(例えば、1m)よりも接近した2つのオブジェクトについて、接近前後の動作の変化を検出する。ここで言う動作とは、オブジェクトの移動速度、オブジェクトの移動方向、オブジェクトの体勢等である。特定事象発生検知装置1は、接近した2つのオブジェクトについて検出した、接近前後の動作の変化によって、ひったくりが発生したかどうかを判定する。
【0023】
<2.構成例>
この例にかかる特定事象発生検知装置1は、図1に示すように、制御ユニット11と、動画像入力部12と、動画記憶部13と、出力部14と、を備えている。
【0024】
制御ユニット11は、特定事象発生検知装置1本体各部の動作を制御する。また、制御ユニット11は、物体検出部21、同定部22、および判定部23を有している。制御ユニット11が有する物体検出部21、同定部22、および判定部23については、後述する。
【0025】
動画像入力部12には、ビデオカメラ5によって撮像された対象エリアのビデオ画像が入力される。
【0026】
動画記憶部13は、ビデオカメラ5によって撮像された対象エリアのビデオ画像を記憶する。動画記憶部13は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、メモリカード等の記憶媒体によって構成される。
【0027】
出力部14は、ひったくりが発生したと判定したときに、ひったくりの発生を上位装置に出力する。
【0028】
次に、制御ユニット11が有する、物体検出部21、同定部22、および判定部23について説明する。
【0029】
物体検出部21は、動画像入力部12に入力されたビデオ画像にかかるフレーム画像の中から、処理対象フレーム画像を選択し、選択した処理対象フレーム画像に撮像されているオブジェクト(歩行者6、二輪車7等)を検出する。物体検出部21は、入力されたビデオ画像にかかるフレーム画像を1フレームずつ順番に処理対象フレーム画像として選択してもよいし、入力されたビデオ画像にかかるフレーム画像を数フレーム(2~5フレーム)間隔で順番に処理対象フレーム画像として選択してもよい。
【0030】
また、物体検出部21は、背景差分等の公知の手法で、処理対象フレーム画像に撮像されているオブジェクトの検出を行えばよい。物体検出部21は、検出したオブジェクトの姿勢(立位、転倒、しゃがみ込み等)についても検出する。
【0031】
さらに、物体検出部21は、検出したオブジェクト毎に、そのオブジェクトの実空間上の位置を算出する。物体検出部21は、フレーム画像上の位置を実空間上の位置に変換する変換パラメータを用いて、オブジェクトの実空間上の位置を算出する。物体検出部21が算出するオブジェクトの実空間上の位置は、そのオブジェクトが路面に当接している位置である。例えば、オブジェクトが、歩行者6であれば足元位置であり、二輪車7であれば前輪が路面に当接している位置である。
【0032】
なお、物体検出部21は、他のオブジェクト等によって路面の当接位置がフレーム画像上に撮像されていないオブジェクトについては、当該オブジェクトが路面に当接している位置を推測する。
【0033】
同定部22は、時間的に連続する2つの処理対象フレーム画像において検出されたオブジェクトを対応づける同定処理を行う。この同定処理を行うことによって、物体検出部21が検出したオブジェクト毎に、対象エリア内における移動を追跡した追跡データを生成する。
【0034】
図3は、同定部によって生成された、あるオブジェクトの追跡データを示す図である。追跡データは、図3に示すように、オブジェクトを識別するID、およびオブジェクトの種別、検知時刻毎における、オブジェクトの速度、オブジェクトの移動方向、オブジェクトの位置、およびオブジェクトの姿勢(この発明で言う、体勢に相当する。)を対応づけたデータである。図3に示す検知時刻は、処理対象フレーム画像が撮像された時刻である。速度は、時間的に連続する2つの処理対象フレーム画像間での、オブジェクトの速度である。移動方向は、時間的に連続する2つの処理対象フレーム画像間での、オブジェクトの移動方向であり、この例では基準方向に対して、移動方向がなす角度を用いている。位置は、実空間上の位置である。
【0035】
物体検出部21、および同定部22が、この発明で言う追跡部に相当する。
【0036】
判定部23は、図3に示した追跡データを参照し、設定距離(この例では1m)よりも接近した2つのオブジェクトを抽出し、これら2つのオブジェクトについて接近前後の動作の変化を検出する。具体的には、接近前後における、オブジェクトの速度の変化、およびオブジェクトの姿勢の変化等を検出する。
【0037】
また、判定部23は、接近前後におけるオブジェクトの動作の変化に基づき、特定事象であるひったくりが発生したかどうかを判定する。多くの場合、ひったくりにあった被害者の動作は、以下に示す(1)~(4)のいずれかである。
(1)荷物を奪われるときに引っ張られて転倒する、
(2)荷物を奪われたことにショックを受けてしゃがみ込む
(3)奪われた荷物を持って逃げる加害者を追いかける、
(4)奪われた荷物を持って逃げる加害者を追いかけるときに転倒する、
この例では、判定部23は、接近前後において、一方のオブジェクトの姿勢が立位から、転倒、またはしゃがみ込みに変化した場合、ひったくりが発生したと判定する。また、判定部23は、接近前後における、一方のオブジェクトの速度の変化量が大きく、且つ2つのオブジェクトの移動方向が同じである場合、ひったくりが発生したと判定する。
【0038】
特定事象発生検知装置1の制御ユニット11は、ハードウェアCPU、メモリ、その他の電子回路によって構成されている。ハードウェアCPUが、この発明にかかる特定事象発生検知プログラムを実行したときに、物体検出部21、同定部22、および判定部23として動作する。また、メモリは、この発明にかかる特定事象発生検知プログラムを展開する領域や、この特定事象発生検知プログラムの実行時に生じたデータ(例えば、図3に示した追跡データ)等を一時記憶する領域を有している。また、メモリは、ビデオカメラ5が撮像したビデオ画像にかかるフレーム画像上の位置を実空間上の位置に変換する変換パラメータ等も記憶している。制御ユニット11は、ハードウェアCPU、メモリ等を一体化したLSIであってもよい。また、ハードウェアCPUが、この発明にかかる特定事象発生検知方法を実行するコンピュータである。
【0039】
<3.動作例>
この例にかかる特定事象発生検知装置1は、ビデオカメラ5から動画像入力部12に入力された対象エリアを撮像したビデオ画像を動画記憶部13に記憶しながら、以下に示す追跡処理、およびひったくり発生検知処理を行う。
【0040】
図4は、追跡処理を示すフローチャートである。物体検出部21が、動画像入力部12に入力されたビデオ画像にかかるフレーム画像の中から、処理対象フレーム画像を選択する(s1)。物体検出部21は、選択した処理対象フレーム画像に撮像されているオブジェクト(歩行者6、二輪車7等)を検出する(s2)。物体検出部21は、s2で検出したオブジェクト毎に、そのオブジェクトの外形形状を基に、オブジェクトの種類(歩行者6、二輪車7等)および姿勢を検出する(s3)。また、物体検出部21は、s2で検出したオブジェクト毎に、実空間上の位置を算出する(s4)。
【0041】
同定部22が、今回の処理対象フレーム画像に撮像されていたオブジェクト(s2で検出したオブジェクト)と、今回の処理対象フレーム画像に撮像されていたオブジェクトとを対応づける同定処理を行う(s5)。s5にかかる同定処理では、オブジェクトの外形形状、種類、位置等を用いて対応づける。同定部22は、s5で対応付けることができなかったオブジェクトについては、今回初めて検出したオブジェクトであると判定し、IDを付与する。同定部22は、s5で対応付けることができたオブジェクトについて、そのオブジェクトの速度、および移動方向を算出する(s6)。同定部22は、今回検出したオブジェクト毎に、追跡データを更新し(s7)、s1に戻る。
【0042】
s7では、s5で対応づけることができなかったオブジェクト(今回IDを付与したオブジェクト)については、そのオブジェクトの追跡データを生成する。また、s5で対応づけることができたオブジェクトについては、すでに生成されている追跡データに対して、今回の処理対象フレーム画像の処理で取得した、検知時刻、速度、移動方向、および実空間上の位置を対応づけたレコードを追加する。
【0043】
なお、同定部22は、前回の処理対象フレーム画像に撮像されていたオブジェクトであって、今回の処理対象フレーム画像に撮像されていなかったオブジェクトについては、対象エリア外に移動したと判定する。
【0044】
特定事象発生検知装置1は、この図4に示す追跡処理を繰り返し実行することにより、対象エリア内を通行したオブジェクト毎に、そのオブジェクトの移動を追跡した追跡データを生成する。
【0045】
次に、ひったくり発生検知処理について説明する。図5は、ひったくり発生検知処理を示すフローチャートである。判定部23は、ひったくりの発生を判定する対象時間帯を設定する(s11)。以下に示すように、この例では、加害者が被害者の荷物を奪った後の被害者の動作を、ひったくりが発生したかどうかの判定に用いることから、加害者が被害者の荷物を奪った時点で、ひったくりが発生したと判定することはできない。s11で設定する対象時間帯は、ひったくりが発生したかどうかの判定に用いる被害者の動作が得られる時間帯を想定している。具体的には、図6に示すタイミングt0が現時点であるとすると、現時点よりも以前のt2~t1の時間帯を対象時間帯に設定する。t1は、現時点であるt0よりも1秒程度以前の時間である。また、対象時間帯t2~t1の時間幅は数秒(1~3秒程度)である。
【0046】
判定部23は、s11で設定した対象時間帯t2~t1において、設定距離(1m程度)よりも接近した2つのオブジェクトの組み合わせを抽出する(s12)。s12で、歩行者6と歩行者6との組み合わせ、歩行者6と二輪車7との組み合わせ、および二輪車7と二輪車7との組み合わせを抽出する。判定部23は、各オブジェクトの追跡データを参照することにより、s12にかかる処理を行う。
【0047】
判定部23は、s12で抽出した組み合わせの中から、処理対象の組み合わせを選択する(s13)。判定部23は、s13で選択した組み合わせにおいて、一方のオブジェクトの姿勢が、接近前後において立位から転倒に変化したかどうかを判定する(s14)。判定部23は、図3に示した追跡データを参照することにより、s14にかかる判定を行う。判定部23は、一方のオブジェクトの姿勢が、接近前後において立位から転倒に変化していれば、ひったくりが発生したと判定する(s19)。この場合は、転倒したオブジェクトが被害者であり、荷物を奪われるときに引っ張られて転倒した状況、または奪われた荷物を持って逃げる加害者を追いかけようとして転倒した状況である。
【0048】
また、判定部23は、s14で接近前後において立位から転倒に変化していないと判定すると、一方のオブジェクトの姿勢が、接近前後において立位からしゃがみ込みに変化したかどうかを判定する(s15)。判定部23は、図3に示した追跡データを参照することにより、s15にかかる判定を行う。判定部23は、一方のオブジェクトの姿勢が、接近前後において立位からしゃがみ込みに変化していれば、ひったくりが発生したと判定する(s19)。この場合は、しゃがみ込んだオブジェクトが被害者であり、荷物を奪われたことにショックを受けてしゃがみ込んだ状況である。
【0049】
また、判定部23は、s15で接近前後において立位からしゃがみ込みに変化していないと判定すると、接近後における2つのオブジェクトの移動方向が同じ方向であるかどうかどうかを判定する(s16)。判定部23は、2つのオブジェクトの移動方向が同じ方向でないと判定すると、すなわち一方のオブジェクトが他方のオブジェクトを追いかけていない場合、ひったくりが発生していないと判定する(s20)。
【0050】
また、判定部23は、s16で2つのオブジェクトの移動方向が同じ方向であると判定すると、接近後において後続側になったオブジェクトについて、速度の変化量を算出する(s17)。s17で算出する速度の変化は、接近前後における速度の変化量である。s17では、接近後の速度から、接近前の速度を差し引いた値を算出する。ここでいう、接近後の速度とは、接近後の所定期間(1~2秒程度の期間)における速度の最大値であり、接近前の速度とは、接近前の所定期間(数秒程度の期間)における速度の平均値である。接近後においては、被害者が荷物を奪われてから、加害者を追いかける動作(走り出す)を開始する前の速度の影響を受けることなく、以下の判定を行うため、最大値を用いている。
【0051】
判定部23は、s17で算出した速度変化量が、設定量を超えているかどうかを判定する(s18)。判定部23は、s17で算出した速度変化量が、設定量を超えていれば、ひったくりが発生したと判定する(s19)。この場合は、被害者(接近後において後続側になったオブジェクト)が加害者を追いかけている状況である。
【0052】
また、判定部23は、s17で算出した速度変化量が、設定量を超えていなければ、ひったくりが発生していないと判定する(s20)。
【0053】
判定部23は、s13で選択した処理対象の組み合わせに対して、s19、またはs20にかかる判定を行うと、未処理の組み合わせがあるかどうかを判定する(s21)。判定部23は、未処理の組み合わせがあれば、s13に戻って上記処理を繰り返す。また、判定部23は、未処理の組み合わせが無ければ、s11に戻る。
【0054】
ここで、上記のひったくり発生検知処理について、図7を参照して、説明を補足しておく。図7では、歩行者6を被害者、二輪車7を運転している人を加害者として示している。ひったくりは、二輪車7(加害者)が歩行者6(被害者)に後ろから近付いて接近し(図7(A)→(B))、歩行者6が所持しているバック等の荷物を奪って逃走するパターンが多い(図7(B)→(C))。
【0055】
歩行者6は、荷物を奪われるときに、引っ張られるので転倒することがある(図7(D)参照)。この場合、上記の例の特定事象発生検知装置1は、s14にかかる判定によって、ひったくりが発生したと判定する。
【0056】
また、歩行者6は、荷物を奪われたことによって放心状態になり、その場にしゃがみ込むことがある(図7(E)参照)。この場合、上記の例の特定事象発生検知装置1は、s15にかかる判定によって、ひったくりが発生したと判定する。
【0057】
また、歩行者6は、荷物を奪った二輪車7を追いかけることがある(図7(F)参照)。この場合、歩行者6の移動速度は、荷物を奪われる前(二輪車7が接近する前(図7(A)、(B)参照))よりも速くなる。この場合、上記の例の特定事象発生検知装置1は、s18にかかる判定によって、ひったくりが発生したと判定する。
【0058】
また、歩行者6が、二輪車7の接近前後で速度が変化したかどうかにかかわらず、この二輪車7の移動方向と異なる方向に移動したときには、二輪車7を追いかけていない。したがって、歩行者6は、ひったくりにあっていないと判定できる。この例の特定事象発生検知装置1は、s16にかかる判定によって、ひったくりが発生していないのに、ひったくりが発生したと誤判定するのを抑制している。
【0059】
また、特定事象発生検知装置1は、歩行者6が荷物を奪った二輪車7を追いかけようとして、転倒することもあるが(図7(G)参照)、この場合には、s14にかかる判定によって、ひったくりが発生したと判定する。
【0060】
特定事象発生検知装置1は、図5に示したひったくり発生検知処理で、ひったくりが発生したと判定すると、出力部14において、ひったくりの発生を上位装置に出力する。
【0061】
この上位装置は、例えば対象エリア、および対象エリア周辺において、ひったくりの発生を報知する。この報知は、音声による報知であってもよいし、警告灯の点灯による報知であってもよいし、さらには、ビデオカメラ5によって撮像されたひったくりの発生時のビデオ画像を表示器に表示してもよい。
【0062】
また、上位装置は、犯罪の通報を受け付ける受付センタであってもよい。この場合には、発生したひったくりに対して迅速な対応をとることができる。
【0063】
また、この特定事象発生検知装置1がひったくりの発生を出力する上位装置は、1つの装置に限らず複数であってもよい。また、この特定事象発生検知装置1がひったくりの発生を出力した上位装置が、別の上位装置にもこれを転送するようにしてもよい。
【0064】
また、特定事象発生検知装置1は、ビデオカメラ5が撮像した対象エリアのビデオ画像を、動画記憶部13に記憶している。したがって、このビデオ画像を利用することによって、逃走した加害者の捜査も適正に行える。
【0065】
また、図4、および図5に示したフローチャートは、一例であるので、ステップの順番を入れ替えることも可能である。例えば、s3と、s4との順番を入れ替えてもよいし、s14と、s15との順番を入れ替えてもよいし、これら以外のステップ間で順番を入れ替えてもよい。
【0066】
<4.変形例>
路上での犯罪には、上記したひったくりの他にも、路上強盗がある。路上強盗では、被害者は、加害者の暴力行為等により倒れたり、しゃがみ込んだりする。路上強盗にあった被害者は、加害者を追いかけようとしない点で、上記したひったくりにあった被害者と相違する動作を行う。また、ひったくり、路上強盗のいずれも、加害者と被害者とが接近すること、および加害者が犯罪を行った場所(犯行現場)から離れる点で共通している。
【0067】
このことから、上記した例の特定事象発生検知装置1は、路上強盗についても、その発生を検知することができる。この場合、s16~s18の処理は不要になる。
【0068】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0069】
さらに、この発明に係る構成と上述した実施形態に係る構成との対応関係は、以下の付記のように記載できる。
<付記>
対象エリアを撮像した動画像が入力される動画像入力部(12)と、
前記動画像入力部(12)に入力された動画像を処理し、前記対象エリア内におけるオブジェクト(6、7)の移動を追跡する追跡部(21、22)と、
前記追跡部(21、22)における前記オブジェクト(6、7)の追跡結果に基づき、設定距離よりも接近した2つの前記オブジェクト(6、7)の組み合わせにおいて、これら2つの前記オブジェクト(6、7)のそれぞれについて検出した、接近前後の動作の変化に基づき特定事象が発生したかどうかを判定する判定部(23)と、を備えた特定事象発生検知装置(1)。
【符号の説明】
【0070】
1…特定事象発生検知装置
5…ビデオカメラ
6…歩行者
7…二輪車
11…制御ユニット
12…動画像入力部
13…動画記憶部
14…出力部
21…物体検出部
22…同定部
23…判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7