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特許7116429導電性輻射放熱被膜の作製方法とその製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】導電性輻射放熱被膜の作製方法とその製品
(51)【国際特許分類】
   C23D 5/00 20060101AFI20220803BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20220803BHJP
   C03C 8/08 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C23D5/00 J
C23C26/00 C
C03C8/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018222462
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020084283
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000214191
【氏名又は名称】長崎県
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】山口 典男
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-253475(JP,A)
【文献】特開2007-22853(JP,A)
【文献】特開昭48-8818(JP,A)
【文献】特開2009-221047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23D 5/00
C23C 26/00
C03C 8/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面上に、バナジウムを主成分とする導電性ガラスフリットを施して、焼成することにより、該金属表面に前記ガラスフリットを原料とする被膜を複合化することを特徴とする導電性を有する輻射放熱材料の作製方法。
【請求項2】
バナジウムを主成分とする導電性ガラスフリットが、酸化バナジウム(V)にリン酸(P)を所定量配合してガラス化した系からなる、請求項1に記載の導電性を有する輻射放熱材料の作製方法。
【請求項3】
バナジウムを主成分とする導電性ガラスフリットが、酸化バナジウム(V)とリン酸(P)のモル比として、9:1、8:2、7:3または6:4の割合の組成を有する、請求項1または2に記載の導電性を有する輻射放熱材料の作製方法。
【請求項4】
金属表面に、バナジウムを主成分とする導電性ガラスフリットの輻射被膜が複合化した構造を有することを特徴とする導電性を有する輻射放熱材料。
【請求項5】
前記輻射被膜が、バナジン酸ナトリウムを含む、請求項4に記載の導電性を有する輻射放熱材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱技術として輻射を活用した素材であって、かつ、ノイズ対策にも適用することができる、導電性と輻射特性を併せもつ導電性輻射放熱材料の作製方法とその製品に関するものである。本発明は、アルミニウム筐体に、導電性フリットを施し、導電性を高めた新しい輻射放熱素材に関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。
【背景技術】
【0002】
一般に、小型化や高出力化した電子機器などにおいては、素子などの発熱によりその性能を十分に発揮できなかったり、安定的な動作ができないなどの課題がある。熱を外部に適切に放出することが必要であるが、熱伝導や対流による放熱だけでは不十分となってきており、第3の熱移動手段である輻射が活用されはじめている。
【0003】
熱伝導の良い金属(例えば、アルミニウムや銅など)は、輻射率が低いため、輻射による放熱がほとんど期待できない。輻射を高めるためには、金属材料(部材)表面をセラミックス化するなどの手段が取られる。しかしながら、これらの被膜は絶縁被膜となっている。
【0004】
一方、電子機器のもうひとつの大きな課題として、ノイズ対策がある。筐体に導電性があることでノイズ対策に寄与できる。これまでの輻射表面処理では、導電性が極めて低く、放熱およびノイズ対策の両方に対して貢献することができない。
【0005】
そこで、輻射が高く、かつ導電性のある被膜を形成することで、課題に対して貢献でき、輻射表面処理の応用も広がることが考えられる。輻射を用いた放熱技術の先行技術としては、例えば、金属アルミニウムを水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液に浸漬することで、アルミニウム基材の表面に、アルミニウム水酸化物(アルミニウム水和酸化物を含む)、または当該アルミニウム水酸化物とケイ酸化合物の皮膜を形成させ、輻射率を劇的に向上させ、遠赤外線放射皮膜により冷却効果を高めたアルミニウム基材及びその製造法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、輻射放熱材料の先行技術としては、例えば、輻射率が96%からなる液体セラミック塗料と粘着性フィルムなどからなる「やわらかシール」と「ハードタイプ」の2種から構成される貼る放熱材が提案されている(非特許文献1)。また、放熱塗料の先行技術として、例えば、輻射率に着目した放熱塗料技術なども提案されている(非特許文献2)。しかしながら、これらの材料は、セラミックスや樹脂などから構成されており、導電性がない、または期待できないものとなっている。
【0007】
一方、高い輻射率を有する導電性素材を施した放熱材料について、「導電性フリット/放熱」、「導電性フリット/輻射」、「導電性フリット/遠赤外」で先行技術調査を行ったが、該当する特許は見出せなかった。また、本発明での構成要件である「酸化バナジウム/導電/ガラス(フリット)/輻射」についても先行技術調査を行ったが、該当する特許は見出せなかった。
【0008】
上記以外の先行技術として、ガラス基板表面に形成された透明導電膜と、導電性フリット材を電極材料として用いた透明面状ヒーター並びに電磁波シールド体が提案されている(特許文献2)が、輻射による放熱特性を併せもつ提案とはなっていない。また、絶縁基板上の配線パターンに銀粉とガラスフリットを用いたものを、遠赤外線輻射加熱を用いて焼き付けることを特徴とする絶縁基板状の導電膜の作製方法の提案がなされている(特許文献3)が、輻射放熱技術の提案とはなっていない。
【0009】
なお、同公開特許公報において、導電膜の反射率、透過率の波長依存性のデータが示されている。一般的に、反射率、透過率、吸収率の和は1であり、吸収率は輻射率と同じである。これらのことから、輻射放熱に必要な遠赤外線波長である5μm以上のデータを検証すると、輻射率としては、約30~50%であり、本被膜による輻射放熱特性は期待できないことが分かる。
【0010】
一方、小型化、高出力化が進む電子機器においては、放熱およびノイズ対策は重要であり、当該技術分野においては、これらの特性と導電性を兼ね備えた新しい輻射放熱部材の開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5083578号
【文献】特開2008-159534号公報
【文献】特開昭63-199390号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】出牛他、「沖テクニカルレビュー」、第199号、Vol.71、No.3、pp.22-23(2004)
【文献】山根、表面技術、vol.66(6),pp236-239(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況の中で、本発明者は、導電性を有し、かつ、輻射放熱できる筐体の開発を目標として鋭意研究を行った結果、電子機器などの筐体の素材として一般的に用いられるアルミニウムと、導電性を有するガラスフリットを複合化するためのガラスフリット組成や焼成条件などの検討を行った結果、金属表面上にバナジウムを主成分とするガラスフリットを施して焼成することで複合化した導電性を有する輻射放熱材料を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、導電性を有し、かつ、輻射放熱できる筐体を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、金属表面上にバナジウムを主成分とするガラスフリットを施して焼成することで複合化した導電性を有する輻射放熱材料を提供することを目的とするものである。
さらに、本発明は、輻射被膜にバナジン酸ナトリウムを含む導電性輻射熱被材料の作製方法とその製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)金属表面上に、バナジウムを主成分とする導電性ガラスフリットを施して、焼成することにより、該金属表面に前記ガラスフリットを原料とする被膜を複合化することを特徴とする導電性を有する輻射放熱材料の作製方法。
(2)バナジウムを主成分とする導電性ガラスフリットが、酸化バナジウム(V)にリン酸(P)を所定量配合してガラス化した系からなる、前記(1)に記載の導電性を有する輻射放熱材料の作製方法。
(3)バナジウムを主成分とする導電性ガラスフリットが、酸化バナジウム(V)とリン酸(P)のモル比として、9:1、8:2、7:3または6:4の割合の組成を有する、前記(1)または(2)に記載の導電性を有する輻射放熱材料の作製方法。
(4)金属表面に、バナジウムを主成分とする導電性ガラスフリットの輻射被膜が複合化した構造を有することを特徴とする導電性を有する輻射放熱材料。
(5)前記輻射被膜が、バナジン酸ナトリウムを含む、前記(4)に記載の導電性を有する輻射放熱材料。
【0016】
次に、本発明について、更に詳細に説明する。
電子機器などの筐体には、熱伝導率が高く、安価で、軽量などの特徴が求められるため、一般的に、アルミニウムが用いられる。また、熱伝導性がより高い材料としては銅がある。しかしながら、アルミニウムや銅は、導電性は非常に高いものの、輻射率が著しく低いため、そのままの状態では、目的とする導電性を有する輻射放熱材料にはならない、という問題がある。
【0017】
そこで、本発明では、アルミニウムなどの熱伝導性の良い金属の表面に、導電性を有し、かつ、輻射率の高い素材をコーティングすることで上記問題を解決することを試みた。当該コーティング層としては、導電性ガラスフリットを選定した。この時、低融点のガラスフリットを選択したが、その理由は、次の通りである。すなわち、アルミニウムの融点は、合金成分により異なるが、純アルミニウムで約660℃であり、合金成分が入ることにより融点はさらに低下する。このため、600℃以上での焼成工程は選択できないためである。本発明では、金属表面上に、バナジウムを主成分とする導電性ガラスフリットを施して、焼成することにより、該金属表面に前記ガラスフリットを原料とする被膜を複合化することにより導電性を有する輻射放熱材料を作製する。この場合、複合化された被膜は、ガラスが残っていても、一部又は全部が結晶化していても良い。
【0018】
本発明では、低融点である酸化バナジウム(V)に注目し、バナジウムを主成分とする導電性ガラスフリットを選択し、ガラス化させるために、主成分のバナジウムに対して、リン酸(P)を所定量配合した系を基本とした。サンプルのVとPのモル比は、例えば、9:1、8:2、7:3、6:4としたが、本発明は、これらの組成比に制限されるものではなく、酸化バナジウムとリン酸の組成比は、任意の範囲に設定することができ、例えば、VとPの任意の組成比(例えば、7.5:2.5)も本発明の範囲に含まれる。なお、本明細書では、これらのサンプルの表記として、それぞれ9V1P、8V2P、7V3P、6V4Pと表記することとする。
【0019】
前記サンプルの混合物をアルミナ坩堝に入れ、電気炉にて1000℃、3時間溶融した後、ステンレス箔上に流し出し、急冷した。得られたサンプルを粉砕し、粉末X線回折により、ガラス化の状態を、また、熱分析により、ガラス転移点と、結晶化温度を確認した。
【0020】
9V1Pでは、Vの結晶が確認されたが、それ以外の8V2P、7V3Pおよび6V4Pのサンプルでは、全てガラス化していた(図1)。また、Pが増えるにつれて、ガラス転移点および結晶化温度は高温側にシフトすることが分かった(図2)。図1および図2の結果から、できるだけ低温での焼成をするために、8V2Pまたは7V3Pの基本組成が望ましいと判断された。
【0021】
次に、選択した基本組成(8V2P、7V3P)に、第3成分として、NaO,CuO,Feを5~15mol%配合したガラスを合成した。ガラスを粉砕して得られたガラスフリットと、1%ポリビニルブチラール(PVB)のエタノール溶液を混合して調製したペーストを、スクリーン印刷にてアルミニウム板上に塗布し、電気炉にて300℃~500℃で焼成した。
【0022】
得られたサンプルの遠赤外線輻射率、電気抵抗率を測定した。その結果、輻射特性と導電特性の両方の特性を有し、かつ、基材となるアルミニウムと導電性ガラスフリットとの複合体を作製することに成功した。このことにより、得られた複合体は、既存の輻射放熱材料にはない、新しい用途への応用を可能にする利点を有することが分かった。本発明は、金属表面に、バナジウムを主成分とする導電性ガラスフリットの輻射被膜が複合化した構造を有する前記導電性を有する輻射放熱材料、および、前記輻射被膜が、バナジン酸ナトリウムを含む、導電性を有する輻射放熱材料を提供する。本発明では、熱伝導性がより高い材料であれば、アルミニウムの場合と同様に、該金属表面に前記ガラスフリットを原料とする被膜を複合化することを特徴とする導電性を有する輻射放熱材料を作製する方法とその製品を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、上記構成を採用することにより、以下のような格別の効果を奏する。
1)電子機器などの筐体として一般的に使用されているアルミニウムの輻射放熱特性を高めた素材であって、同時に、導電性の機能を有した材料を提供することができる。
2)輻射放熱特性を高めることで、電子機器などの冷却効率を高めることができる。
3)輻射放熱特性を有する表面に導電性を付与することでノイズ対策などの課題に対しても寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】合成した各種フリット(9V1P、8V2P、7V3P、6V4P)のXRDパターンを示す。
図2】合成フリットのP含有率(mol%)に対するガラス転移温度(Tg)と結晶化温度(Tc)を示す。
図3】NaOを添加した7V3P系フリットの組成と電気抵抗率(Ωcm)の関係を示す。
図4】NaOを配合(配合割合:5、10、15mol%)した7V3P系フリットの分光輻射率(%)曲線を示す。
図5】7V3P-15NaO(mol%)フリットを500℃で焼き付けたサンプルのXRDパターンを示す。
図6】7V3P-NaO系フリット(5NaO、10NaO、15NaO)の焼付温度(℃)と電気抵抗率(Ωcm)の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
ガラスの基本組成7V3PにNaOを5~15mol%配合し、ガラスフリットを合成した。得られたガラスフリットをアルミニウム板上にスクリーン印刷にて塗布し、電気炉にて500℃で焼成したサンプルの電気抵抗率(Ωcm)を図3に示す。
【0027】
電気抵抗率は、NaO5~15mol%の配合で約10-1~10Ωcmとなり、未添加のものよりも導電性を高めることができることが分かった。また、遠赤外線輻射率の分光曲線を図4に示す。どの組成においても80%以上の積分輻射率を示した。また、7V3P-15NaO(mol%)を500℃でアルミニウムに焼き付けた被膜のXRD測定結果を図5に示す。この結果から、バナジン酸ナトリウム(Na0.7615)の生成が確認された。
【0028】
[比較例1]
これまでに開発してきた遠赤外線高輻射率素材(特許文献1)において、遠赤外線輻射率は約90%となるが、電気抵抗率を同様に測定したところ、装置の測定限界以上(>10Ωcm)となり、導電性と輻射特性を両立できないことが確認された。
【実施例2】
【0029】
NaOを配合(5NaO、10NaOおよび15NaO)した7V3Pフリットの焼付温度と電気抵抗率の関係について、図6に示す。どの配合組成においても450℃で最も下がる傾向が確認された。最も低下したサンプルでは、電気抵抗率は、10-2~10-3Ωcmとなり、導電性を向上させることができた。なお、焼成温度による輻射率への影響はなく、積分輻射率が80%以上となった。
【実施例3】
【0030】
7V3P-15NaO(mol%)フリットをPVBエタノール溶液と混合し、アルミニウムの筐体にスプレー塗布し、乾燥後450℃で焼成した。筐体内部に発熱源(6.2W)を設置し、筐体内部の温度を計測した。なお、筐体は通気孔などのない密閉式である。筐体内部の温度上昇は8.9℃であった。一方、未処理の筐体では、19.6℃の温度上昇を確認した。
【0031】
このように、輻射表面処理を行なうことで、筐体における放熱効果を確認した。また、筐体の電気抵抗は、約10Ωcmであり、輻射表面処理のひとつであるアルマイト(>10Ωcm)よりも著しく低下することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上詳述したように、本発明は、遠赤外線輻射を利用した導電性を有する輻射放熱材料の作製方法とその製品に係るものであり、本発明により、電子機器の筐体などで利用されるアルミニウムの輻射放熱特性を高めることができる。また、本発明では、低融点の導電性フリットを用い、アルミニウムとの複合体を得ることで、これまでの輻射放熱素材にはなかった電気伝導性も併せ持つ新規素材を提供することが可能となった。本発明の輻射放熱材料は、導電性を有することで、電子機器などのノイズ対策用の部材としても利用できる可能性を有しており、電子機器における2つの大きな課題(放熱・ノイズ)に対して同時に対応できる利点を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6