(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】圧電薄膜共振器、フィルタ、デュプレクサおよび圧電薄膜共振器の製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20220803BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20220803BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20220803BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20220803BHJP
H03H 9/58 20060101ALI20220803BHJP
H01L 41/04 20060101ALI20220803BHJP
H01L 41/047 20060101ALI20220803BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20220803BHJP
H01L 41/332 20130101ALI20220803BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H3/02 B
H03H3/02 E
H03H9/72
H03H9/64 Z
H03H9/58 A
H01L41/04
H01L41/047
H01L41/09
H01L41/332
(21)【出願番号】P 2018036154
(22)【出願日】2018-03-01
【審査請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西原 時弘
(72)【発明者】
【氏名】谷口 眞司
【審査官】橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-108288(JP,A)
【文献】特開2010-010955(JP,A)
【文献】国際公開第2007/063842(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/17
H03H 3/02
H03H 9/72
H03H 9/64
H03H 9/58
H01L 41/04
H01L 41/047
H01L 41/09
H01L 41/332
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に空隙を介して形成され、前記基板と離れた位置に少なくとも一部の端部を
有する下部電極と、
前記基板および前記下部電極上に設けられる圧電膜と、
前記圧電膜の少なくとも一部を挟み前記下部電極と対向する共振部分を形成するように、
前記下部電極と前記圧電膜とに重なる上部電極とを有し、
前記上部電極と重なる領域の前記端部と前記基板との間に位置する前記圧電膜が、前記
下部電極の前記空隙側の面と連続的に連なり、前記基板と前記面とのなす角が鋭角であ
り、
前記圧電膜は、前記基板の主面の法線方向に前記圧電膜の結晶軸の1つが配向される第
1領域と、前記面の法線方向に前記圧電膜の結晶軸の1つが配向される第2領域と、前記
端部の法線方向に前記圧電膜の結晶軸の1つが配向される第3領域とを有することを特徴
とする圧電薄膜共振器。
【請求項2】
前記基板と前記面とのなす角の角度は、前記下部電極の前記空隙側の端部の角度より小
さいことを特徴とする請求項1に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項3】
前記基板と前記面とのなす角の角度と、前記下部電極の
前記空隙側の端部の角度との比率
は1:2である請求項1または2に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項4】
前記空隙の前記基板への投影形状は、前記共振部分の前記基板への投影形状より大きい、
請求項1から
3のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項5】
前記圧電膜は窒化アルミニウムまたは圧電性を高める元素を添加した窒化アルミニウム
である請求項1から
4のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器を含むフィルタ。
【請求項7】
送信フィルタと、
受信フィルタとを有し、
前記送信フィルタおよび前記受信フィルタの少なくとも一方が請求項
6に記載のフィル
タであるデュプレクサ。
【請求項8】
基板と、
前記基板上に空隙を介して形成され、前記基板と離れた位置に少なくとも一部の端部を
有する下部電極と、
前記基板および前記下部電極上に設けられる圧電膜と、
前記下部電極と前記圧電膜とに重なる上部電極とを有し、
前記上部電極と重なる領域の前記端部と前記基板との間に位置する前記圧電膜が、前記
下部電極の前記空隙側の面と連続的に連なり、前記基板と前記面とのなす角が鋭角であり、
前記基板と前記面とのなす角の角度と、前記下部電極の前記空隙側の端部の角度との比率
は1:2であることを特徴とする圧電薄膜共振器。
【請求項9】
基板上に前記基板とのなす角が鋭角である面を有する犠牲層を形成する第1のステップ
と、
前記犠牲層上および前記基板上に前記犠牲層の端部の一部が露出するように下部電極を形
成する第2のステップと、
前記基板上、前記犠牲層上および
前記下部電極上に
前記基板の主面の法線方向に前記圧
電膜の結晶軸の1つが配向される第1領域と、前記面の法線方向に前記圧電膜の結晶軸の
1つが配向される第2領域と、前記下部電極の基板から離れた位置にある先端部の法線方
向に前記圧電膜の結晶軸の1つが配向される第3領域となるような圧電膜を形成する第3
のステップと、
前記圧電膜上に、一部領域が前記圧電膜を挟んで前記下部電極と重なる上部電極を形成
する第4のステップと、
前記犠牲層を除去し空隙を形成する第5のステップとを含むことを特徴とする圧電薄膜
共振器の製造方法。
【請求項10】
前記第1のステップで使用する犠牲層は、SiO2、MgO、ZnO、感光性樹脂また
は感光性ポリイミドである請求項9に記載の圧電薄膜共振器の製造方法。
【請求項11】
前記第1のステップで前記犠牲層を形成する方法は、グレースケールマスクによる露光
法を含むことを特徴とする請求項9または10に記載の圧電薄膜共振器の製造方法。
【請求項12】
前記第1のステップで前記犠牲層を形成する方法は、ナノインプリント法、リフロー法
、グレースケールマスクによる露光法またはインクジェット法のいずれかを含むことを特
徴とする請求項9または10に記載の圧電薄膜共振器の製造方法。
【請求項13】
前記第2から第4のステップで前記下部電極、前記圧電膜および前記上部電極は、それ
ぞれ圧縮応力が-100~100MPaの範囲で形成される請求項9から12のいずれか
一項に記載の圧電薄膜共振器の製造方法。
【請求項14】
前記第5のステップで前記犠牲層は、ドライエッチングで除去することを特徴とする請
求項9から13のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器の製造方法。
【請求項15】
前記第4のステップおよび前記第5のステップの間に、前記圧電膜および前記下部電極
に
前記犠牲層を除去するためのエッチング媒体を導入するための孔部を形成するステップ
を含むことを特徴とする請求項9から14のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器の製造
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスとして特に圧電薄膜共振器、それを使用したフィルタおよびデュプレクサ、ならびに圧電薄膜共振器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器を用いた弾性波デバイスは、例えば携帯電話等の無線機器のフィルタおよびデュプレクサとして用いられている。圧電薄膜共振器の一つとして、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)が知られている。これは、基板上に、主要構成要素として、上部電極膜と圧電膜と下部電極膜の積層膜を有し、上部電極と下部電極が対向する部分の下部電極下には空隙が形成されている。このような空隙は、素子基板として用いられるSi基板を裏面からエッチング、または、Si基板の表面に設けた犠牲層をエッチングすることで形成される。FBARの動作には数100nm~数μmの薄い積層膜の共振部分を形成する必要があるため、機械的な強度を確保することが課題となる。
【0003】
近年、スマートフォンやタブレット端末等の普及に伴い急激にモバイルデータトラフィックが増加している。通信容量の増大に対応するためには搬送波の周波数帯域幅を確保する必要がある。従来の700MHz帯~2.5GHz帯にかけた周波数帯は、現在非常に混みあっており、搬送波の周波数帯域幅の確保が困難なため、サブ6GHz帯など搬送波の高周波化が検討されている。圧電薄膜共振器では高周波化に伴い積層膜の膜厚が薄くなる。この結果、FBARの共振部分の機械的な強度が弱くなり信頼性が低下する問題が生じる。
【0004】
従来のFBAR構造の概略構成の断面図を
図7に示す(特許文献1参照)。この構造の製造方法として、基板111上に断面が台形状の犠牲層(不図示)を形成する。この犠牲層上に、SiO2膜112、下部電極114、圧電膜115、上部電極116とを形成する。その後、犠牲層をエッチング液で除去することにより空隙113が形成される。空隙113上のSiO2膜112および圧電膜115の積層膜が振動することにより共振器として作用する。
【0005】
しかしながら、本構造では犠牲層パターンの台形状を引き継いで空隙113も台形状となり、その端部でSiO2膜112および下部電極114に角部117ができる。そして、角部117を起点にしてクラックが圧電膜115に生じ共振部分が破壊されるという機械的な強度の問題がある。
【0006】
従来の別のFBARの製造方法を
図8(a)から(d)に示す(特許文献2参照)。この構造の製造方法として、次の工程が挙げられている。
1)基板211上に断面が長方形状の薄い犠牲層222を形成する(
図8(a))。
2)次に、下部電極214、圧電膜215および上部電極216を形成する(
図8(b))。
3)続いて、下部電極214に対して導入孔220を形成し、導入孔220からエッチング液を導入して犠牲層222を除去することで空隙212を形成する。(
図8(c))
下部電極214、圧電膜215および上部電極216の積層膜の応力は圧縮応力となるように形成している。
この結果、犠牲層のエッチング終了時点で積層膜が膨れ、下部電極214と基板211との間にドーム形状の空隙212が形成される(
図8(d))。
【0007】
上述のFBAR構造では犠牲層222を使用し、下部電極214、圧電膜215および上部電極216の圧縮応力を利用しドーム形状の空隙を形成する点に特徴がある。しかしながら、下部電極214、圧電膜215および上部電極216の圧縮応力は、空隙212の角部217を起点にクラックを生じさせ、空隙212上の下部電極214、圧電膜215および上部電極216の重なる部分である共振部分を破壊する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公平5-84684号公報
【文献】特許第4149416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、機械的強度、信頼性、生産性に優れる圧電薄膜共振器、これを用いたフィルタおよび圧電薄膜共振器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するために、本発明の圧電薄膜共振器は、基板と、前記基板上に空隙を
介して形成され、前記基板と離れた位置に少なくとも一部の端部を有する下部電極と、前
記基板および前記下部電極上に設けられる圧電膜と、前記圧電層の少なくとも一部を挟み
前記下部電極と対向する共振部分を形成するように、前記下部電極と前記圧電膜とに重な
る上部電極とを有し、前記上部電極と重なる領域の前記端部と前記基板との間に位置する
前記圧電膜が、前記下部電極の前記空隙側の面と連続的に連なり、前記基板と前記面との
なす角が鋭角であり、前記圧電膜は、前記基板の主面の法線方向に前記圧電膜の結晶軸の
1つが配向される第1領域と、前記面の法線方向に前記圧電膜の結晶軸の1つが配向され
る第2領域と、前記端部の法線方向に前記圧電膜の結晶軸の1つが配向される第3領域と
を有することを特徴とする。
【0011】
上記構成において、前記基板と前記面とのなす角の角度は、前記下部電極の前記空隙側の端部の角度より小さい構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前期基板と前記面とのなす角の角度と、前記下部電極の前記空隙側
の端部の角度との比率は1:2である構成とすることができる。
【0013】
前記空隙の前記基板への投影形状は、前記共振部分の前記基板への投影形状より大きい
構成とすることができる。
【0014】
前記圧電膜は窒化アルミニウムまたは圧電性を高める元素を添加した窒化アルミニウム
である構成とすることができる。
【0015】
また、上記構成の圧電薄膜共振器を含むフィルタとすることができる。
【0016】
また、送信フィルタと、受信フィルタとを有し、前記送信フィルタおよび前記受信フィ
ルタの少なくとも一方が上述したフィルタであるデュプレクサとすることができる。
【0017】
上記目的を解決するために、本発明の圧電薄膜共振器は、基板と、
前記基板上に空隙を介して形成され、前記基板と離れた位置に少なくとも一部の端部を
有する下部電極と、
前記基板および前記下部電極上に設けられる圧電膜と、
前記下部電極と前記圧電膜とに重なる上部電極とを有し、
前記上部電極と重なる領域の前記端部と前記基板との間に位置する前記圧電膜が、前記
下部電極の前記空隙側の面と連続的に連なり、前記基板と前記面とのなす角が鋭角であり、
前記基板と前記面とのなす角の角度と、前記下部電極の前記空隙側の端部の角度との比率
は1:2であることを特徴とする。
【0018】
本発明の圧電薄膜共振器の製造方法は、基板上に前記基板とのなす角が鋭角である面を有
する犠牲層を形成する第1のステップと、前記犠牲層上および前記基板上に前記犠牲層の
端部の一部が露出するように下部電極を形成する第2のステップと、前記基板上、前記犠
牲層上および前記下部電極上に前記基板の主面の法線方向に前記圧電膜の結晶軸の1つが
配向される第1領域と、前記面の法線方向に前記圧電膜の結晶軸の1つが配向される第2
領域と、前記下部電極の基板から離れた位置にある先端部の法線方向に前記圧電膜の結晶
軸の1つが配向される第3領域となるような圧電膜を形成する第3のステップと、前記圧
電膜上に、一部領域が前記圧電膜を挟んで前記下部電極と重なる上部電極を形成する第4
のステップと、前記犠牲層を除去し空隙を形成する第5のステップとを含むことを特徴と
する。
【0019】
また、前記第1のステップで使用する犠牲層は、SiO2、MgO、ZnO、感光性樹脂または感光性ポリイミドであることを特徴とする。
【0020】
また、前記第1のステップで前記犠牲層を形成する方法は、グレースケールマスクによる露光法を含むことを特徴とする。
【0021】
また、前記第1のステップで前記犠牲層を形成する方法は、ナノインプリント法、リフロー法、グレースケールマスクによる露光法またはインクジェット法のいずれかを含むことを特徴とする。
【0022】
また、前記第2から第4のステップで前記下部電極、前記圧電膜および前記上部電極は、それぞれ圧縮応力が-100~100MPaの範囲で形成されることを特徴とする。
【0023】
また、前記第5のステップで前記犠牲層は、ドライエッチングで除去することを特徴とする。
【0024】
また、前記第4のステップおよび前記第5のステップの間に、前記圧電膜および前記下部
電極に前記犠牲層を除去するためのエッチング媒体を導入するための孔部を形成するステ
ップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、機械的強度、信頼性に優れる圧電薄膜共振器、これを用いたフィルタおよびデュプレクサならびに圧電薄膜共振器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係り、直列共振器に用いられる圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図、
図1(c)は、実施例1に係り、並列共振器に用いられる圧電薄膜共振器の構造を示す断面図である。
【
図2】
図2(a)および(b)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の空隙の端部を示す図である。
【
図3】
図3は、圧電膜の結晶軸の方向を示す
図2(a)の拡大図である。
【
図4】
図4(a)から(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す図(その1)であり、
図4(d)は、
図4(c)の下部電極の端部の拡大図である。
【
図5】
図5(a)から(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す図(その2)である。
【
図6】
図6は、実施例1に係る圧電薄膜共振器を用いたフィルタの回路図である。
【
図7】
図7は、特許文献1に記載される従来の圧電薄膜共振器の概略構成を示す断面図である。
【
図8】
図8は、特許文献2に記載される従来の圧電薄膜共振器の製造方法を示す図である。
【
図9】
図9は、比較例に係る圧電薄膜共振器の空隙の端部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0028】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器10の平面図である。圧電薄膜共振器10は後述する直列共振器と並列共振器とで構造が異なるが、平面視において差異はないため、両方の説明に
図1(a)の平面図を用いる。
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図であり、例えば、ラダー型フィルタの直列共振器の断面図である。
図1(c)は、
図1(a)のA-A断面図であり、例えばラダー型フィルタの並列共振器の断面図である。
【0029】
図1(a)および
図1(b)を参照し、直列共振器の構造について説明する。Si(シリコン)の基板11上に、ドーム状の形状を有する空隙12が形成されるように下部電極13が設けられている。ドーム状の形状とは、端部17に近づくほど高さが低く、中央に近づくほど高さが高くなるような形状である。点線で囲んだ領域31および領域32は、それぞれ空隙12の端部17aおよび端部17bを含む領域であり、後述する
図2で示す拡大部分を示す。端部17aは下部電極13と上部電極16とが重なり合う部分、すなわち
図1(a)に示す共振部分21の、点αから点βの短周側にある。端部17bは、共振部分21の、点αから点βの長周側にある。共振部分21については後述する。
【0030】
下部電極13は、例えばCr(クロム)層13aとCr層上のRu(ルテニウム)層13bとを含んでいる。下部電極13には後述する犠牲層をエッチングするための孔部19が形成されている。犠牲層は空隙12を形成するための層である。下部電極13上に、(002)方向を主軸とするAlN(窒化アルミニウム)からなる圧電膜14が設けられている。圧電膜14と下部電極13とに重なるように圧電膜14上に上部電極16が設けられており、共振部分21を構成する。上部電極16はRu層16aとRu層16a上のCr層16bとを含んでいる。共振部分21は、
図1(a)、
図1(b)および
図1(c)の点線33で挟まれた領域を指しており、空隙12の上に下部電極13と圧電膜14と上部電極16が積層された構造の部分である。
【0031】
圧電膜14内には、例えばSiO2(二酸化シリコン)膜からなる挿入膜15が、共振部分21の外部から共振部分に一部かかるような領域に設けられている。挿入膜15は圧電膜14の膜厚方向のほぼ中央に挿入される。ただし、中央でなくてもよい。圧電膜14上および上部電極16上には周波数調整膜としてSiO2膜が形成されている(不図示)。周波数調整膜はパッシベーション膜として機能させてもよい。
【0032】
図1(c)を参照し、並列共振器の構造について説明する。並列共振器は直列共振器と比較し、共振部分21においてRu層16aとCr層16bとの間に、Ti(チタン)層からなる質量負荷膜18が設けられている。その他の構成は直列共振器の
図1(b)と同じであり説明を省略する。直列共振器と並列共振器との共振周波数の差は、質量負荷膜18の膜厚を調整して設けられる。直列共振器と並列共振器との両方の共振周波数の調整は、前述の周波数調整膜の膜厚を調整することにより行なう。
【0033】
6GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極13のCr層13aの膜厚は30nm、Ru層13bの膜厚は65nm、AlN層からなる圧電膜14の膜厚は400nmである。SiO2膜からなる挿入膜15の膜厚は50nmである。上部電極16のRu層16aの膜厚は75nm、Cr層16bの膜厚は10nmである。SiO2膜からなる周波数調整膜の膜厚は25nmである。共振部分の総厚は655nmである。Ti膜からなる質量負荷膜18の膜厚は35nmである。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0034】
基板11としては、Si基板以外に、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs(ガリウム砒素)基板等を用いることができる。下部電極13および上部電極16としては、CrおよびRu以外にもAl(アルミニウム)、Ti(チタン)、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)もしくはIr(イリジウム)等の金属単層膜またはこれらの複合膜を用いることができる。圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO3(チタン酸鉛)等を用いることができる。
【0035】
また、例えば、圧電膜14は、AlNを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の改善のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素としてSc(スカンジウム)、Mg(マグネシウム)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)などを用いることにより、実効的電気機械結合係数を向上できる。
【0036】
挿入膜15としては、Au(金)、Al、Cu、Ti、Pt、Ta、Cr、SiO2等のヤング率が小さい材料を使用した方がQ値を向上できる点で好ましい。周波数調整膜(不図示)としては、SiO2膜以外にもSiN(窒化シリコン膜)またはAlN等を用いることができる。
【0037】
質量負荷膜18としては、Ti以外にも、Ru、Cr、Al、Cu、Mo、W、Ta、Pt、RhもしくはIr等の金属単層膜またはこれらの複合膜を用いることができる。また、例えばSiNまたは等の窒化金属または酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜18は、上部電極16の層間以外にも、下部電極13の下、下部電極13の層間、上部電極16の上、下部電極13と圧電膜14との間または圧電膜14と上部電極16との間に形成することができる。質量負荷膜18は、共振部分21内に形成されていれば、共振部分21より大きくてもよい。
【0038】
図2(a)および(b)は、それぞれ
図1(b)の点線で囲んだ領域31および領域32の部分拡大図であり空隙12の2つの端部17を拡大して示した図である。
図2(a)に示されるように、下部電極13は、端部17aにおいて基板11と接していない。下部電極13の空隙12側の面25と、圧電膜14が空隙12と接する境界の面26とは連続的に連なっている。
図2(b)に示されるように、端部17bにおいて、下部電極13は、基板11と接する。点線で囲んだ領域33は、後述する
図3で示す部分である。なお、面25および面26は、厳密には曲面であるが、端部17aおよび端部17bにおいて曲率は非常に小さいため、斜面として近似する。
【0039】
図3は、
図2(a)の点線で囲んだ領域33をさらに拡大した図である。
図3に示すように、圧電膜14における端部17a付近には圧電膜14の結晶軸の配向される方向が異なる領域24があり、基板11の主面の法線方向に配向されている第1領域24a、面26の法線方向に配向されている第2領域24b、下部電極13の先端の面の法線方向に配向されている第3領域24cが存在する。θ1は基板11の主面と面26とがなす角度であり、θ2は下部電極13の先端の角度である。
【0040】
圧電膜14の結晶軸が配向される方向は、領域24aと領域24cとでは大きく異なるが、基板11が面26とのなす角を鋭角にすることにより、端部17aにおける圧電膜14の結晶軸の配向される方向は、領域24aから領域24cへと領域24bを介して漸次変化する構造にすることができる。これにより圧電膜14の形成時における結晶の圧縮による応力を緩和し、クラックの発生を抑制することができる。領域24bにおける結晶軸の角度は、領域24aと領域24cの中間であるのが好ましいため、θ1は、θ2の半分であるのが好ましい。より好ましくは、θ1=15°、θ2=30°である。
【0041】
図9は、特許文献2に記載の方法で空隙312を形成した圧電薄膜共振器の比較例であり、空隙312の端部317a付近の構造を示した断面図である。なお、その切断面は
図1(b)、(c)と同等の位置である。基板311上に空隙312を介して圧電膜314およびCr層313aとRu層313bとを有する下部電極313が形成されている。端部317aでは下部電極313は基板311に接していない。圧電膜314は結晶軸が配向される方向が異なる領域324を有し、結晶軸が基板311の主面の法線方向に配向される領域324a、端部317aの法線方向に配向される領域324b、下部電極313の先端方向に配向される領域324cを有する。
【0042】
図9に示すように、特許文献2に記載の方法では基板311と圧電膜314とのなす角がほぼ直角になるように端部317aが形成される。このため、結晶軸の配向される方向が大きく異なる領域324aと領域324bとの間および領域324aと領域324cとの間で応力が集中し、端部317aを起点にクラック325が発生しやすい。
【0043】
図4(a)から(d)および
図5(a)から(c)は、実施例1に係る共振器の製造方法を示す断面図である。
【0044】
図4(a)に示すように、平坦主面を有する基板11として、たとえば、二酸化シリコン22が設けられたSi基板を使用する。二酸化シリコン22の膜厚は、好ましくは0.5~2μmのSiO2である。二酸化シリコン22は熱酸化法、CVD法、またはスパッタリング法で形成する。二酸化シリコン22は、MgO(酸化マグネシウム)、ZnO(酸化亜鉛)、Ge(ゲルマニウム)、感光性樹脂または感光性ポリイミドであってもよく、それらの場合の膜厚は0.01~5μmである。二酸化シリコン22上にドーム状のレジスト23を形成する。このドーム状のレジスト23の形成方法はグレースケールマスクによる露光法がある。これは濃淡の異なるグレースケールマスクを用いて透過する光量を調節することにより、レジストの反応速度を調整し、所望のレジストパターン形状を得る方法である。ドーム状のレジスト23を形成する他の方法は、ドーム状に形成された原版をレジスト23にあて紫外線で露光するナノインプリント法、レジスト23を加熱溶融させるリフロー法、レジスト23を滴下するインクジェット法等がある。
【0045】
次に、
図4(b)に示すように、ドーム状のレジスト23をマスクにして、二酸化シリコン22をドライエッチングし、二酸化シリコン22をドーム状に形成して、犠牲層22aを形成する。なお、二酸化シリコン22に感光性樹脂または感光性ポリイミドを用いる場合、レジスト23を用いなくてもよく、これらをパターニングした後に、ベークしてドーム状に形成する。
【0046】
続いて、
図4(c)に示すように、犠牲層22aおよび基板11上に下部電極13としてCr層13aおよびRu層13bを形成する。下部電極13は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。その後、下部電極13を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状に形成する。
【0047】
図4(d)は、
図4(c)の下部電極13の左側に示される先端部の拡大図である。下部電極13は、犠牲層22aの端部の一部が露出するようにフォトリソグラフィによるパターニングにより、位置合わせがなされる。ドーム状の犠牲層22aの端部と基板11とのなす角は、15°程度であることが好ましい。下部電極の角度θ2は、30°程度の角度で形成するのが好ましい。下部電極13は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0048】
図5(a)に示すように、下部電極13および基板11上に下側圧電膜14a、挿入膜15を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。挿入膜15を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状に形成する。挿入膜15は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0049】
そして、
図5(b)に示すように、上側圧電膜14b並びに上部電極16としてRu層16aおよびCr層16bを例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。上部電極16を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状に形成する。上部電極16は、リフトオフ法により形成してもよい。なお、
図1(c)に示す並列共振器においては、上部電極Ru層16aを成膜した後、質量負荷膜18を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。質量負荷膜18を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状に形成する。その後、上部電極Cr層16bを形成する。
【0050】
続いて、圧電膜14および上部電極16を覆うように周波数調整膜(不図示)を、例えばスパッタリング法またはCVD法を用いて形成する。その後、エッチングガスを下部電極13の下の犠牲層22aに導入し犠牲層22aを除去する。エッチングガスは、
図1(a)に示した孔部19を介して導入される。犠牲層22aをエッチングする媒体としては、犠牲層22以外の共振器を構成する材料を極力エッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極13が極力エッチングされない媒体であることが好ましい。例えば、犠牲層としてSiO2を使用した場合は、ドライエッチングではCF4+H2等のガス、ウェットエッチングではバッファードフッ酸等の溶液が用いられる。
【0051】
図5(c)に示すように、ドーム状の犠牲層22aが除去された時、ほぼ同じ形状のドーム状の空隙12が形成される。ドーム状の犠牲層22aを用いるため下部電極13、圧電膜14および上部電極16の各膜の応力は圧縮応力である必要がなく、応力を極力なくして形成することができる。下部電極13、圧電膜14および上部電極16は、0をねらい値として好ましくは-100Mpaから100Mpaの範囲で形成する。これにより前述の圧縮応力によるクラックの発生を抑制することができる。
【0052】
以上により、
図1(a)および
図1(b)に示した直列共振器、および
図1(c)に示した並列共振器が製作される。
【実施例2】
【0053】
図6は、本発明の実施例2に係り、実施例1に係る圧電薄膜共振器を送信用フィルタに用いたデュプレクサの回路図の例である。送信用フィルタ27は、複数の圧電薄膜共振器が直列共振器及び並列共振器としてラダー型に接続されたラダー型フィルタであり、直列共振器S1からS4と並列共振器P1からP3とを備えている。並列共振器P1からP3のグランドは共通化され、並列共振器P1からP3とグランドとの間にインダクタL2が接続されている。直列共振器S1からS4と並列共振器P1からP3は、実施例1に示した構造を有する圧電薄膜共振器である。共振器の膜厚構成は、実施例1に記載した通りである。
【0054】
デュプレクサ26は、アンテナ端子Antと送信端子Txとの間に前述した送信用フィルタ27が接続され、アンテナ端子Antと受信端子Rxとの間に受信用フィルタ28が接続されている。受信用フィルタ28は送信用フィルタ27と同様に、圧電薄膜共振器を用いたラダー型フィルタでもよい。また、SAW(surface acoustic wave)フィルタを用いたラダー型フィルタでもよいし、多重モード型フィルタでもよい。アンテナ端子Antとグランドとの間にはインダクタL1が接続されている。送信用フィルタ27は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号としてアンテナ端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信用フィルタ28は、アンテナ端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。インダクタL1は整合用に用いられ、送信用フィルタ27を通過した送信信号が、受信用フィルタ28側に漏れずにアンテナ端子Antから出力するようにインピーダンスを整合させる。
【0055】
なお、直列共振器と並列共振器の数、共振部分の形状とサイズ、共振器を構成する材料と各膜厚は、仕様に応じて適宜変更される。本実施例では本発明に係る圧電薄膜共振器を送信用フィルタ27に用いた場合を説明したが、送信用フィルタ27及び受信用フィルタ28の少なくとも一方に用いることができる。フィルタ設計は、本実施例のラダー型フィルタの場合の他にも、例えばラティス型フィルタ等、複数の圧電薄膜共振器を備えるフィルタであればよい。
【符号の説明】
【0056】
10 圧電薄膜共振器
11,311 基板
12,312 空隙
13,313 下部電極
14,314 圧電膜
16,316 上部電極