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特許7117741IgG結合性ペプチドを含む固相担体及びIgGの分離方法
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  • 特許-IgG結合性ペプチドを含む固相担体及びIgGの分離方法 図1
  • 特許-IgG結合性ペプチドを含む固相担体及びIgGの分離方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】IgG結合性ペプチドを含む固相担体及びIgGの分離方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 17/00 20060101AFI20220805BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20220805BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20220805BHJP
【FI】
C07K17/00
C07K1/22
C07K7/08 ZNA
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020551141
(86)(22)【出願日】2019-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2019039480
(87)【国際公開番号】W WO2020075670
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2018192083
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 祐二
(72)【発明者】
【氏名】内村 誠一
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/092867(WO,A1)
【文献】特表2018-516913(JP,A)
【文献】国際公開第2013/027796(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/230184(US,A1)
【文献】米国特許第6207160(US,B1)
【文献】国際公開第2016/186206(WO,A1)
【文献】KRAJEWSKI, K., et al.,Design and Synthesis of Dimeric HIV-1 Integrase Inhibitory Peptides,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2003年,Vol. 13,pp.3203-3205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgGと結合可能であることを特徴とするペプチドを固定化した固相担体であって、
前記ペプチドが、GPD(Hse)AYHRGELVWCTFH[配列中、Hseはホモセリンである]によって表されるアミノ酸配列から成り、且つ
前記ペプチドの外側のホモセリン残基とシステイン残基が、以下の式:
【化1】
[式中、
上部のホモセリン残基が前記ペプチドにおけるN末端側のホモセリン残基であり、且つ
下部のシステイン残基が前記ペプチドにおけるC末端側のシステイン残基である]
に示すように連結されている、
前記固相担体。
【請求項2】
前記ペプチドのN末端がPEG化されている、請求項1記載の固相担体。
【請求項3】
前記ペプチドのC末端がアミド化されている、請求項1又は2記載の固相担体。
【請求項4】
前記ペプチドが多量体化されている、請求項1~3のいずれか1項記載の固相担体。
【請求項5】
前記ペプチドの多量体が、該ペプチド間にスペーサーを有する、請求項4記載の固相担体。
【請求項6】
前記ペプチドと固相の間にスペーサーを有する、請求項1~5のいずれか1項記載の固相担体。
【請求項7】
請求項1~6 のいずれか1項記載の固相担体を含むIgG分離用カラム。
【請求項8】
請求項1~6 のいずれか1項記載の固相担体又は請求項7記載のIgG分離用カラムを含む、IgGの精製のためのキット。
【請求項9】
請求項1~6 のいずれか1項記載の固相担体又は請求項7記載のIgG分離用カラムにIgGを結合させる工程、及び
結合したIgGを溶出させてIgGを回収する工程、
を含む、IgGの精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgG結合性ペプチドを含む固相担体、該固相担体を含むIgG分離用カラム、該固相担体又はカラムを含むキット、及び該固相担体又はカラムを用いるIgGの精製方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
IgG抗体は、現在最も注目されているバイオ医薬品の1つである。近年、IgG抗体を中心とした抗体医薬が、医薬分野に利用されるようになり、工業的、製薬的な利用における重要性がますます高まっている。抗体の精製にはプロテインAカラムが中心的な役割を果たしており、多くの抗体医薬の製造メーカーは、このカラムを中心とした精製システムを導入している。
【0003】
しかしながら、このプロテインAカラムは、幾つかの問題点が指摘されている。1つには、精製抗体中へのプロテインAの混入の問題である。プロテインAはバクテリア由来のタンパク質であり、人体投与後の免疫原性が高く、またエンドトキシンの混入が危惧される。IgGのような医薬品の精製に用いるアフィニティーリガンドとしては、不都合な物質の混入が起こらないよう、リガンドとしてのプロテインAには高い精製度が求められており、これが医薬品精製に利用するプロテインAカラムのコストを上げる要因になっている。このため、プロテインAに代わる新たなアフィニティーカラムの開発が期待されている。
【0004】
本発明者等は、これまでにジスルフィド結合で環化された特定の配列を含むペプチドリガンド(特許文献1)、又はペプチド中のシステイン残基におけるスルフィド基を、特定の構造を有するリンカーによって架橋したIgG結合ペプチド(特許文献2)によりIgGを精製することができることを報告する。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のペプチドリガンドは、アルカリ溶液洗浄の繰り返しにより、親和性が低下するという問題を抱えていた。また、特許文献2に記載のIgG結合ペプチドは、特許文献1に記載のペプチドリガンドに比べ高いアルカリ耐性を有するものの、IgG結合親和性が低いという問題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/027796号
【文献】国際公開第2018/092867号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の実情に鑑み、IgG精製後のアルカリ溶液洗浄の繰り返しに対して耐性を有し、且つIgG結合親和性が高いIgG結合性ペプチドを固定化した固相担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、IgG結合性ペプチド中のシステイン残基におけるスルフィド基を、特許文献2に記載のリンカーとは異なる特定の構造を有するリンカーによって架橋することにより、当該ペプチドのアルカリ耐性及びIgG結合親和性が顕著に改善することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)IgGと結合可能であることを特徴とするペプチドを固定化した固相担体であって、 前記ペプチドが、下記の式I:
(X1-3)-C-(X2)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (I)
[式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、且つ
Wはトリプトファン残基である]
によって表される、13~17アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含み、且つ
前記ペプチドの外側の2つのシステイン残基が、以下の式:
【化1】
[式中、
上部のシステイン残基が前記ペプチドにおけるN末端側のシステイン残基であり、且つ
下部のシステイン残基が前記ペプチドにおけるC末端側のシステイン残基である]
に示すように連結されている、
前記固相担体。
(2)前記ペプチドが、下記の式II:
(X1-3)-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (II)
[式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Xaa3はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、且つ
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である]
によって表される、13~17アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む、(1)記載の固相担体。
(3)前記ペプチドが、下記の式III:
(X1-3)-C-A-Y-H-(Xaa1)-G-E-L-V-W-C-(X1-3) (III)
[式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Aはアラニン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、
Gはグリシン残基であり、
Eはグルタミン酸残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、且つ
Wはトリプトファン残基である]
によって表される、13~17アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む、(1)又は(2)記載の固相担体。
(4)17アミノ酸残基とした場合の、前記ペプチドのN末端から1~3、15~17番目の各アミノ酸残基が、
1番目のアミノ酸残基= S、G、F又は無し、
2番目のアミノ酸残基= D、G、A、S、P、ホモシステイン又は無し、
3番目のアミノ酸残基= S、D、T、N、E又はR、
15番目のアミノ酸残基= S、T又はD、
16番目のアミノ酸残基= H、G、Y、T、N、D、F、ホモシステイン又は無し、
17番目のアミノ酸残基= Y、F、H、M又は無し、
である、(1)~(3)のいずれか1記載の固相担体。
(5)前記ペプチドが、以下の1)~14)のいずれか1つのアミノ酸配列から成る、但し、Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、且つXaa2はホモシステインである、(4)記載の固相担体:
1) DCAYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号1)
2) GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2)
3) RCAYH(Xaa1)GELVWCS(配列番号3)
4) GPRCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号4)
5) SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号5)
6) GDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号6)
7) GPSCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号7)
8) GPDCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号8)
9) GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTHH(配列番号9)
10) GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号10)
11) SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号11)
12) SDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号12)
13) RGNCAYH(Xaa1)GQLVWCTYH(配列番号13)
14) G(Xaa2)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(Xaa2)H(配列番号14)。
(6)前記ペプチドが、下記の式IV:
D-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-T (IV)
[式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa3はアラニン残基又はトレオニン残基であり、且つ、
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である]
によって表される、13アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む、(1)又は(2)記載の固相担体。
(7)前記ペプチドが、以下の1)~4)のいずれか1つのアミノ酸配列から成る、但し、Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体である、(6)記載の固相担体:
1) DCTYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号15)
2) DCAYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号16)
3) DCTYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号17)
4) DCAWH(Xaa1)GELVWCT(配列番号18)。
(8)IgGと結合可能であることを特徴とするペプチドを固定化した固相担体であって、 前記ペプチドが、下記の式V:
D-C-(Xaa2)-(Xaa3)-(Xaa4)-(Xaa1)-G-(Xaa5)-L-(Xaa6)-W-C-T (V)
[式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、
Xaa2はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa3はトリプトファン残基又はチロシン残基であり、
Xaa4はヒスチジン残基、アルギニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa5はグルタミン酸残基、アスパラギン残基、アルギニン残基又はアスパラギン酸残基であり、且つ
Xaa6はイソロイシン残基又はバリン残基である]
によって表される、13アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含み、且つ
前記ペプチドの外側の2つのシステイン残基が、以下の式:
【化2】
[式中、
上部のシステイン残基が前記ペプチドにおけるN末端側のシステイン残基であり、且つ
下部のシステイン残基が前記ペプチドにおけるC末端側のシステイン残基である]
に示すように連結されている、
前記固相担体。
(9)Xaa1がアルギニン残基、リシン残基若しくはそのアシル化誘導体又はロイシン残基である、(1)~(8)のいずれか1記載の固相担体。
(10)前記ペプチドが、以下のアミノ酸配列から成る、(1)記載の固相担体:
GPDCAYHRGELVWCTFH(配列番号31)。
(11)前記ペプチドのN末端がPEG化されている、(1)~(10)のいずれか1記載の固相担体。
(12)前記ペプチドのC末端がアミド化されている、(1)~(11)のいずれか1記載の固相担体。
(13)前記ペプチドが多量体化されている、(1)~(12)のいずれか1記載の固相担体。
(14)前記ペプチドの多量体が、該ペプチド間にスペーサーを有する、(13)記載の固相担体。
(15)前記ペプチドと固相の間にスペーサーを有する、(1)~(14)のいずれか1記載の固相担体。
(16)(1)~(15)のいずれか1記載の固相担体を含むIgG分離用カラム。
(17)(1)~(15)のいずれか1記載の固相担体又は(16)記載のIgG分離用カラムを含む、IgGの精製のためのキット。
(18)(1)~(15)のいずれか1記載の固相担体又は(16)記載のIgG分離用カラムにIgGを結合させる工程、及び
結合したIgGを溶出させてIgGを回収する工程、
を含む、IgGの精製方法。
【0010】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-192083号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る固相担体に含まれるペプチドは、システイン残基におけるスルフィド基を、特定の構造を有するリンカーによって架橋することによって、アルカリ耐性及びIgG結合親和性が改善されている。従って、本発明に係る固相担体は、アルカリ洗浄工程等によってIgG結合能が低減されにくく、また、高いIgG結合親和性を有することで、効率的なIgG精製に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で調製した架橋環状IgG結合性ペプチド(実施例3)及び比較例3におけるジスルフィド結合で架橋されたIgG結合性ペプチドの、水酸化ナトリウム処理時のDBCの測定結果を示す。
図2】実施例1で調製した架橋環状IgG結合性ペプチド(実施例3)及び比較例3におけるジスルフィド結合で架橋されたIgG結合性ペプチドの、水酸化ナトリウム処理時のDBCの変動率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明に係る固相担体は、IgGと結合可能であることを特徴とするペプチド(IgG結合性ペプチド)を固定化した固相担体であって、該ペプチドの外側の2つのシステイン残基が、以下の式:
【化3】
[式中、
上部のシステイン残基がペプチドにおけるN末端側のシステイン残基であり、且つ
下部のシステイン残基がペプチドにおけるC末端側のシステイン残基である]
に示すように連結されている、固相担体である。本発明に係る固相担体によれば、当該固相担体上の、IgG精製後のアルカリ溶液洗浄の繰り返しに対して耐性を有し、且つIgG結合親和性が高いIgG結合性ペプチドにより、効率的にIgGを精製することができる。
【0015】
<IgG結合性ペプチドを含む固相担体>
一態様において、本発明は、IgG結合性ペプチドを含む固相担体に関する。本明細書における「固相担体」としては、限定するものではないが、ガラスビーズ、シリカゲル等の無機担体、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレン等の合成高分子や結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストラン等の多糖類から成る有機担体、さらにはこれらの組み合わせによって得られる有機-有機、有機-無機等の複合担体等が挙げられるが、中でも親水性担体は非特異吸着が比較的少なく、IgG結合性ペプチドの選択性が良好であるため好ましい。ここでいう親水性担体とは、担体を構成する化合物を平板状にしたときの水との接触角が60度以下の担体を示す。この様な担体としてはセルロース、キトサン、デキストラン等の多糖類、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸グラフト化ポリエチレン、ポリアクリルアミドグラフト化ポリエチレン、ガラス等から成る担体が代表例として挙げられる。
【0016】
固相担体の形態としては、ビーズ状、線維状、粒子条、膜状(中空糸も含む)、ゲル状等いずれも可能であり、任意の形態を選ぶことができる。特定の排除限界分子量を持つ担体作製の容易さからビーズ状が特に好ましく用いられる。ビーズ状の平均粒径は10~2500μmのものが使いやすく、とりわけ、IgG結合性ペプチド固定化反応のしやすさの点から25μmから800μmの範囲が好ましい。固相担体としては、具体的には例えば、磁性ビーズ、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、シリカゲルビーズ、及び多糖類ビーズ等が挙げられる。
【0017】
さらに固相担体表面には、IgG結合性ペプチドの固定化反応に用いうる官能基が存在しているとIgG結合性ペプチドの固定化に好都合である。これらの官能基の代表例としては、水酸基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、チオール基、シラノール基、エポキシ基、スクシンイミド基、N-ヒドロキシスクシンイミド基等、酸無水物基、ヨードアセチル基等が挙げられる。
【0018】
固相担体としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、多孔質セルロースゲルであるGCL2000、GC700、アリルデキストランとメチレンビスアクリルアミドを共有結合で架橋したSephacryl S-1000、アクリレート系の担体であるToyopearl、アガロース系の架橋担体であるSepharoseCL4B、エポキシ基で活性化されたポリメタクリルアミドであるオイパーギットC250L、NHS基で活性化されたセファロース担体を含むNHS活性化プレパックカラム等を例示することができる。ただし、本実施態様においてはこれらの担体、活性化担体のみに限定されるものではない。
【0019】
上述の固相担体はそれぞれ単独で用いてもよいし、任意の2種類以上を混合してもよい。また、固相担体としては、その使用目的及び方法からみて、表面積が大きいことが望ましく、適当な大きさの細孔を多数有する、すなわち、多孔質であることが好ましい。
【0020】
上記固相担体には、本明細書に記載のIgG結合性ペプチドが固定化されていることが好ましく、ペプチドの固定化は、当業者に周知の方法を用いて行うことができ、例えば物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法等によって行うことができる。固定化は、例えばIgG結合性ペプチドのN末端のアミノ基を、直接又はスペーサーを介して固相担体に共有結合させることによって行うことが好ましい。IgG結合性ペプチドの立体障害を小さくすることにより分離効率を向上させ、さらに非特異的な結合を抑えるために、親水性スペーサーを介して固定化することがより好ましい。親水性スペーサーは特に限定しないが、例えば、両末端をカルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基等で置換したポリアルキレンオキサイドの誘導体を用いるのが好ましい。
【0021】
上記固相担体へ導入されるIgG結合性ペプチド及びスペーサーとして用いられる有機化合物の固定化方法及び条件は特に限定されるものではないが、一般にタンパク質やペプチドを担体に固定化する場合に採用される方法を例示する。例えば、担体をアミノ基を含む化合物、N-ヒドロキシスクシンイミジル基を含む化合物、臭化シアン、エピクロロヒドリン、ジグリシジルエーテル、トシルクロライド、トレシルクロライド、ヒドラジン等と反応させて活性化し(担体が元々持っている官能基よりIgG結合性ペプチドが反応しやすい官能基に変え)、IgG結合性ペプチドと反応、固定化する方法、また、担体とIgG結合性ペプチドが存在する系にカルボジイミドのような縮合試薬、又は、グルタルアルデヒドのように分子中に複数の官能基を持つ試薬を加えて縮合、架橋することによる固定化方法が挙げられるが、固相担体の滅菌時又は利用時にIgG結合性ペプチドが固相担体より容易に脱離しない固定化方法を適用することがより好ましい。
【0022】
本明細書に記載のIgG結合性ペプチドを含む固相担体は、クロマトグラフィーカラム等に充填して、IgGを精製又は分離するために用いることができる。
【0023】
本発明に係る固相担体に含まれ得るIgG結合性ペプチドについて、以下詳細に説明する。
【0024】
本明細書中で使用する「IgG」は、哺乳動物、例えばヒト及びチンパンジー等の霊長類、ラット、マウス、及びウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物のIgG、好ましくはヒトのIgG(IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4)を指すものとする。本明細書におけるIgGは、さらに好ましくは、ヒトIgG1、IgG2、若しくはIgG4、又はウサギIgGであり、特に好ましくはヒトIgG1、IgG2、又はIgG4である。
【0025】
一態様において、本発明に係る固相担体に含まれ得るIgG結合性ペプチドは、下記の式I:
(X1-3)-C-(X2)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (I)
[式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、且つ
Wはトリプトファン残基である]
によって表される、13~17アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含み、且つ
該ペプチドの外側の2つのシステイン残基が、以下の式:
【化4】
[式中、
上部のシステイン残基がペプチドにおけるN末端側のシステイン残基であり、且つ
下部のシステイン残基がペプチドにおけるC末端側のシステイン残基である]
に示すように連結されている。
【0026】
上記式で、N末端又はC末端のX1-3という表記は、システイン(C又はCys)以外の独立的に任意のアミノ酸残基Xが1~3個連続していることを意味し、それを構成するアミノ酸残基は同じか又は異なる残基であるが、好ましくは3個全てが同じ残基でない配列から成る。同様に、X2もシステイン(C又はCys)以外の独立的に任意のアミノ酸残基Xが2個連続していることを意味し、それを構成するアミノ酸残基は同じか又は異なる残基であるが、好ましくは当該2個連続しているアミノ酸残基は同じ残基でない配列から成る。
【0027】
式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式I'及び式I''で表されるペプチドを以下に示す。
【0028】
すなわち、式I'で表されるペプチドは、
(X1-3)-C-(X1)-Y-H-(Xaa1)-G-N-L-V-W-C-(X1-3) (I')
[式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、
Gはグリシン残基であり、
Nはアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、且つ
Wはトリプトファン残基である]
によって表される、13~17アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む。
【0029】
式I''で表されるペプチドは、
(X1-3)-C-A-(X1)-H-(Xaa1)-G-E-L-V-W-C-(X1-3) (I'')
[式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Aはアラニン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、
Gはグリシン残基であり、
Eはグルタミン酸残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、且つ
Wはトリプトファン残基である]
によって表される、13~17アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む。
【0030】
また、式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式IIで表されるペプチドを以下に示す。
【0031】
すなわち、式IIで表されるペプチドは、
(X1-3)-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (II)
[式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Xaa3はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、且つ
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である]
によって表される、13~17アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む。
【0032】
上記の式I'、式I''及び式IIのペプチドのアミノ酸配列において、17アミノ酸残基とした場合の、N末端から1番目及び2番目並びに16番目及び17番目のアミノ酸残基Xは欠失していてもよく、そのようなペプチドは13アミノ酸長から成る。
【0033】
本明細書で使用する「17アミノ酸残基とした場合の」とは、ペプチドのアミノ酸残基をアミノ酸番号で呼ぶときに、式Iのペプチドについて最長のアミノ酸長である17残基のN末端から順番に1番目から17番目まで番号付けするために便宜的に表現した用語である。
【0034】
また、式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式IIIで表されるペプチドを以下に示す。
【0035】
すなわち、式IIIで表されるペプチドは、
(X1-3)-C-A-Y-H-(Xaa1)-G-E-L-V-W-C-(X1-3) (III)
[式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Aはアラニン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、
Gはグリシン残基であり、
Eはグルタミン酸残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、且つ
Wはトリプトファン残基である]
によって表される、13~17アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む。
【0036】
上記の式IIIのペプチドのアミノ酸配列において、17アミノ酸残基とした場合の、N末端から1番目及び2番目、並びに16番目及び17番目のアミノ酸残基Xは欠失していてもよく、そのようなペプチドは13アミノ酸長からなってよい。
【0037】
さらに、上記の各式のペプチドのアミノ酸配列のシステイン(C)以外のアミノ酸残基、すなわち、17アミノ酸残基とした場合のN末端から1~3、5、6、15~17番目の各アミノ酸残基は、以下のものから選択されることが好ましい。ここで、各大文字のアルファベットは、アミノ酸の一文字表記である:
1番目のアミノ酸残基= S、G、F又は無し、
2番目のアミノ酸残基= D、G、A、S、P、ホモシステイン又は無し、
3番目のアミノ酸残基= S、D、T、N、E又はR、
15番目のアミノ酸残基= S、T又はD、
16番目のアミノ酸残基= H、G、Y、T、N、D、F、ホモシステイン又は無し、
17番目のアミノ酸残基= Y、F、H、M又は無し、
5番目のアミノ酸残基= A又はT、
6番目のアミノ酸残基= Y又はW。
【0038】
また、式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式IVで表されるペプチドを以下に示す。
【0039】
すなわち、式IVで表されるペプチドは、
D-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-T (IV)
[式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa3はアラニン残基又はトレオニン残基であり、且つ、
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である]
によって表される、13アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む。
【0040】
式Iのペプチドの具体例のいくつかを以下の1)~18)に列挙するが、これらに制限されないことはいうまでもない:
1) DCAYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号1)、
2) GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2)、
3) RCAYH(Xaa1)GELVWCS(配列番号3)、
4) GPRCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号4)、
5) SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号5)、
6) GDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号6)、
7) GPSCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号7)、
8) GPDCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号8)、
9) GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTHH(配列番号9)、
10) GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号10)、
11) SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号11)、
12) SDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号12)、
13) RGNCAYH(Xaa1)GQLVWCTYH(配列番号13)、
14) G(Xaa2)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(Xaa2)H(配列番号14)、
15) DCTYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号15)、
16) DCAYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号16)、
17) DCTYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号17)、及び
18) DCAWH(Xaa1)GELVWCT(配列番号18)
[式中、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、
Xaa2はホモシステインであり、好ましくはホモシステイン同士は互いにジスルフィド結合を形成している]。
【0041】
式Iのペプチドの好ましい具体例として、
1) DCAYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号1、但し、Xaa1はアルギニン(R))、
2) GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2、但し、Xaa1はR、L、リシン(K)又はアセチル化リシン)、及び
4) GPRCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号4、但し、Xaa1はR)、
が挙げられ、特に好ましい例として、GPDCAYHRGELVWCTFH(配列番号31)が挙げられる。
【0042】
また、一態様において、本明細書に記載のIgG結合性ペプチドは、広義の一次構造として、下記の式V:
D-C-(Xaa2)-(Xaa3)-(Xaa4)-(Xaa1)-G-(Xaa5)-L-(Xaa6)-W-C-T (V)
[式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体であり、
Xaa2はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa3はトリプトファン残基又はチロシン残基であり、
Xaa4はヒスチジン残基、アルギニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa5はグルタミン酸残基、アスパラギン残基、アルギニン残基又はアスパラギン酸残基であり、且つ
Xaa6はイソロイシン残基又はバリン残基である]
によって表される、13アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含み、且つ
該ペプチドの外側の2つのシステイン残基が、以下の式:
【化5】
[式中、
上部のシステイン残基がペプチドにおけるN末端側のシステイン残基であり、且つ
下部のシステイン残基がペプチドにおけるC末端側のシステイン残基である]
に示すように連結されている。
【0043】
式Vのペプチドの具体例の幾つかを以下の19)~30)に列挙するが、これらに制限されないことはいうまでもない:
19) DCTYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号19)、
20) DCAYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号20)、
21) DCSYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号21)、
22) DCTWT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号22)、
23) DCTYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号23)、
24) DCTYR(Xaa1)GNLVWCT(配列番号24)、
25) DCTYS(Xaa1)GNLVWCT(配列番号25)、
26) DCTYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号26)、
27) DCTYT(Xaa1)GELVWCT(配列番号27)、
28) DCTYT(Xaa1)GRLVWCT(配列番号28)、
29) DCTYT(Xaa1)GDLVWCT(配列番号29)、及び
30) DCTYT(Xaa1)GNLIWCT(配列番号30)
[式中、Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基又はそれらの誘導体である]。
【0044】
上記の通り、本明細書に記載のIgG結合性ペプチドにおいて、Xaa1は、アルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基、若しくはアスパラギン残基、又はそれらの誘導体、好ましくはアルギニン残基、リシン残基若しくはその誘導体、ロイシン残基若しくはアスパラギン残基、さらに好ましくはアルギニン残基、リシン残基若しくはその誘導体、又はロイシン残基である。本明細書において、誘導体の種類は特に限定しないが、アセチル基又はプロピニル基等のアシル化誘導体(アシル化誘導体は、一般式:R-CO-で表され、式中、Rは炭化水素、好ましくは炭素数1~6のアルキル基である)が挙げられる。誘導体の例として、例えばリシン残基のεアミノ基がアシル化、例えばアセチル化された誘導体が挙げられる。
【0045】
前述の通り、本明細書に記載のIgG結合性ペプチドは、各アミノ酸配列の中に離間した少なくとも2つのシステイン(C)残基を有し、該システイン残基が、以下の式:
【化6】
[式中、
上部のシステイン残基がペプチドにおけるN末端側のシステイン残基であり、且つ
下部のシステイン残基がペプチドにおけるC末端側のシステイン残基である]
に示すように連結されていることを特徴としている。
【0046】
上記リンカーを有するペプチドを調製する方法は特に限定されない。
リンカーの形成に関与する硫黄原子(S)はシステイン残基、あるいはホモシステイン残基に由来し、他方のアミノ酸側鎖の脱離基Xと置換反応することによってリンカーが形成される。
【0047】
システイン残基と置換反応する場合、脱離基Xは他方のアミノ酸のβ位に結合し、ホモシステインと置換反応する場合、脱離基Xは他方のアミノ酸のγ位に結合する。
【0048】
脱離基Xは一般的な脱離基が利用可能であり、例えば、ハロゲン原子、スルフォニル化された水酸基などが挙げられる。本方法のリンカー形成における置換反応では、ハロゲン原子が好ましく、更に好ましくは塩素原子を用いることができる。
【0049】
該置換反応は原料ペプチドを適当なバッファー中において、室温(例えば約15℃~30℃)または高温下(30℃~70℃)で行うことができ、好ましくは40℃~60℃、更に好ましくは50℃で行うことができる。
【0050】
該置換反応工程は、置換反応を促進する塩基(又はアルカリ)、例えば弱塩基性の無機又は有機(例えば、塩化グアニジウム、重炭酸ナトリウム、及びジエチルアミン等)を適量加えて行ってもよい。
【0051】
該置換反応工程における硫黄原子(S)と脱離基(X)の混合比率は、特に限定しない。硫黄原子(S)と脱離基(X)のモル比率は、例えば1:0.2~1:5、好ましくは1:0.5~1:2、更に好ましくは1:1とすることができる。
【0052】
該置換反応工程における反応時間は、硫黄原子(S)と脱離基(X)の間で置換反応が生じる限り限定するものではないが、例えば、1時間~96時間、好ましくは10時間~72時間、更に好ましくは24~48時間とすることができる。
【0053】
本方法は、必要に応じて、上記工程を行った後の混合物から、不純物、例えば、未反応のペプチド及び化合物等を分離し、置換反応によって連結されたペプチドを精製する工程をさらに含んでよい。該工程は、本分野で公知の方法、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、及びHPLC等のクロマトグラフィー等により行うことができる。
【0054】
また、本明細書に記載のIgG結合性ペプチドは、その安定性の向上等のため、例えば、N末端のPEG化(ポリエチレングリコール付加)、及びC末端のアミド化等により修飾されていても良い。PEG化を行う場合のPEGの分子数は特に限定されず、例えば、1~50分子、1~20分子、2~10分子、2~6分子、又は4分子のPEGを付加することができる。
【0055】
また、本明細書に記載のIgG結合性ペプチドは、多量体化されていてもよい。本明細書において、IgG結合性ペプチドの「多量体化」とは、共有結合を介して2分子以上の上記IgG結合性ペプチドが連結されていることを指し、IgG結合性ペプチドの多量体は、例えば2~6量体、2~5量体、2~4量体、2~3量体、好ましくは2量体であってよい。
【0056】
前記ペプチドの多量体は、該ペプチド間にスペーサーを有していてもよい。多量体化は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば上記IgG結合性ペプチドのN末端のアミノ基を、スペーサーを介して2分子以上連結することによって行うことができる。スペーサーの種類は特に限定しないが、例えば両末端にカルボキシル基を有するアスパラギン酸及びグルタミン酸等のアミノ酸、並びに両末端をカルボキシル基、アルデヒド基、エポキシ基、N-ヒドロキシスクシンイミジル基等の官能基で置換したポリアルキレンオキサイドの誘導体が挙げられる。
【0057】
本明細書に記載のIgG結合性ペプチドは、ヒトIgGとの結合親和性が、他のヒト免疫グロブリン(IgA、IgE、IgM)と比較して約10倍以上、好ましくは約50倍以上、より好ましくは約200倍以上高いものであり得る。本明細書に記載のIgG結合性ペプチドとヒトIgGとの結合に関する解離定数(Kd)は、表面プラズモン共鳴スペクトル解析(例えばBIACOREシステム使用)により決定可能であり、例えば1×10-1M未満、1×10-3M未満、好ましくは1×10-4M未満、より好ましくは1×10-5M未満である。本明細書に記載のIgG結合性ペプチドは、IgGのFcドメインに結合し得る。
【0058】
本明細書に記載のIgG結合性ペプチドは、慣用の液相合成法、固相合成法等のペプチド合成法、自動ペプチド合成機によるペプチド合成等(Kelley et al., Genetics Engineering Principles and Methods, Setlow, J.K. eds., Plenum Press NY. (1990) Vol.12, p.1-19;Stewart et al., Solid-Phase Peptide Synthesis (1989) W.H. Freeman Co.; Houghten, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82: p.5132;「新生化学実験講座1 タンパク質IV」(1992) 日本生化学会編,東京化学同人)によって製造することができる。あるいは、本明細書に記載のIgG結合性ペプチドをコードする核酸を用いた遺伝子組換え法やファージディスプレイ法等によって、IgG結合性ペプチドを製造してもよい。例えば本明細書に記載のIgG結合性ペプチドのアミノ酸配列をコードするDNAを発現ベクター中に組み込み、宿主細胞中に導入し培養することにより、目的のIgG結合性ペプチドを製造することができる。製造されたIgG結合性ペプチドは、常法により、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、及び免疫吸着法等により、回収又は精製することができる。
【0059】
ペプチド合成では、例えば、各アミノ酸(天然であるか非天然であるかを問わない)の、結合しようとするα-アミノ基とα-カルボキシル基以外の官能基を保護したアミノ酸類を用意し、それぞれのアミノ酸のα-アミノ基とα-カルボキシル基との間でペプチド結合形成反応を行う。通常、ペプチドのC末端に位置するアミノ酸残基のカルボキシル基を適当なスペーサー又はリンカーを介して固相に結合しておく。このようにして得られたジペプチドのアミノ末端の保護基を選択的に除去し、次のアミノ酸のα-カルボキシル基との間でペプチド結合を形成する。このような操作を連続して行い側基が保護されたペプチドを製造し、最後に、すべての保護基を除去し、固相から分離する。保護基の種類や保護方法、ペプチド結合法の詳細は、上記の文献に詳しく記載されている。
【0060】
遺伝子組換え法による製造は、例えば、本明細書に記載のIgG結合性ペプチドをコードするDNAを適当な発現ベクター中に挿入し、適当な宿主細胞にベクターを導入し、細胞を培養し、細胞内から又は細胞外液から目的のIgG結合性ペプチドを回収することを含む方法によりなされ得る。ベクターは、限定されないが、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、ファージミド、及びウイルス等のベクターである。プラスミドベクターとしては、限定するものではないが、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、及び酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)等が挙げられる。ファージベクターとしては、限定するものではないが、T7ファージディスプレイベクター(T7Select10-3b、T7Select1-1b、T7Select1-2a、T7Select1-2b、T7Select1-2c等(Novagen))、及びλファージベクター(Charon4A、 Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP、λZAPII等)が挙げられる。ウイルスベクターとしては、限定するものではないが、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、及びセンダイウイルス等の動物ウイルス、並びにバキュロウイルス等の昆虫ウイルス等が挙げられる。コスミドベクターとしては、限定するものではないが、Lorist 6、Charomid9-20、及びCharomid9-42等が挙げられる。ファージミドベクターとしては、限定するものではないが、例えばpSKAN、pBluescript、pBK、及びpComb3H等が知られている。ベクターには、目的のDNAが発現可能なように調節配列や、目的DNAを含むベクターを選別するための選択マーカー、目的DNAを挿入するためのマルチクローニングサイト等が含まれ得る。そのような調節配列には、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、S-D配列又はリボソーム結合部位、複製開始点、及びポリAサイト等が含まれる。また、選択マーカーには、例えばアンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、及びジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、等が用いられ得る。ベクターを導入するための宿主細胞は、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、及び植物細胞等であり、これらの細胞への形質転換又はトランスフェクションは、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクル・ガン法、及びPEG法等を含む。形質転換細胞の培養は、宿主生物の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物の培養液は、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、及び無機塩類等を含有する。本明細書に記載のIgG結合性ペプチドの回収を容易にするために、発現によって生成したIgG結合性ペプチドを細胞外に分泌させることが好ましい。これは、その細胞からのIgG結合性ペプチドの分泌を可能にするペプチド配列をコードするDNAを、目的のIgG結合性ペプチドをコードするDNAの5'末端側に結合することにより行うことができる。細胞膜に移行した融合ペプチドがシグナルペプチダーゼによって切断されて、目的のIgG結合性ペプチドが培地に分泌放出される。あるいは、細胞内に蓄積された目的のIgG結合性ペプチドを回収することもできる。この場合、細胞を物理的又は化学的に破壊し、タンパク質精製技術を使用して目的のIgG結合性ペプチドを回収する。
【0061】
<IgG分離用カラム又はIgGの精製のためのキット>
一態様において、本発明は、上記のIgG結合性ペプチドを含む固相担体を含む、IgG(好ましくはヒトIgG)分離用カラムに関する。
【0062】
上記IgG分離用カラムは、IgGの精製又は分離のための、クロマトグラフィーカラム、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)カラム等のカラムを包含する。カラムのサイズは特に制限されないものとし、分析用、精製用、分取用等の用途、アプライ(搭載)又は注入する量、カラムの長さ又は内径等に応じて変化させうる。また、カラムの材質は、金属、プラスチック、ガラス等のカラムとして通常使用されるようなものでよい。
【0063】
上記のカラムは、上記の本発明に係る固相担体(乾燥又は湿潤状態のいずれであってもよい)をカラムに密に充填することによって製造できる。
【0064】
また、一態様において、本発明は、上記のIgG結合性ペプチドを含む固相担体又は上記のIgG分離用カラムを含む、IgG(好ましくはヒトIgG)の精製のためのキットに関する。
【0065】
本発明に係るキットは、IgGの分析手順や精製手順を記載した使用説明書、精製に必要な試薬やバッファー、固相担体の充填用カラムの少なくとも1つを含んでよい。
【0066】
<IgGの精製方法>
一態様において、本発明は、上記固相担体、又は上記IgG分離用カラムにIgGを結合させる工程、及び結合したIgGを溶出させてIgGを回収する工程を含む、IgG(好ましくはヒトIgG)の精製方法に関する。
【0067】
結合工程は、当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、上記固相担体又はIgG分離用カラムを適当なバッファーで平衡化し、0℃~室温、好ましくは0℃~約10℃、更に好ましくは約4℃の低温でIgGを含有する液をアプライし、固相担体上のIgG結合性ペプチドにIgGを結合させる。例えば血清中のIgGを分離する場合には、中性域のpH、例えばpH6.0~7.5のバッファーを使用してカラムにアプライし、結合工程を行うことができる。
【0068】
溶出工程も、当業者に公知の方法より行うことができる。例えば、酸性域のpH、例えばpH2~4のバッファー(例えば0.3MのNaClを含有するpH3.5~pH2.5の0.2Mグリシン-HClバッファー又は20 mM クエン酸バッファー)をカラムに流して行ってもよいし、上記のIgG結合性ペプチドを用いて競合溶出により溶出させてもよい。特に、コストの点から酸により溶出を行うことが好ましい。この場合、固相担体又はカラムを、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、及び水酸化カリウム溶液等のアルカリ性の溶液(例えば、0.1 M 水酸化ナトリウム溶液)で洗浄することにより固相担体又はカラムを再生し、再度結合工程に用いることができる。溶液のアルカリ性の程度は当業者であれば容易に決定することができる。従って、本発明に係る方法は、任意に、アルカリ性の溶液により洗浄することにより固相担体又はカラムを再生する工程を含み得る。
【0069】
IgGが回収されたか否かは、例えば、電気泳動による分子量の確認、及び任意にその後の抗IgG抗体を使用するウエスタンブロット法によって判定できる。例えば、電気泳動は、5~20%アクリルアミドグラジエントゲルを用いたSDS-PAGEにより行ってよく、また、ウエスタンブロットは、泳動後のタンパク質をPVDF膜に転写し、スキムミルクでブロッキング後、抗IgGα鎖ヤギ抗体とHRP標識抗ヤギIgGマウス抗体で検出を行うことができる。
【0070】
本発明に係る方法は、種々の方法で生産されたIgG含有生産物からIgGを精製する工程において、IgGに富む画分を得る場合に有用である。それゆえに、アフィニティークロマトグラフィー、HPLC等のカラムクロマトグラフィーにおいて本発明に係る方法を使用することが好ましい。IgGの精製に際しては、このようなクロマトグラフィー法に加えて、タンパク質の慣用的な精製技術、例えばゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過等を適宜組み合わせることができる。
【実施例
【0071】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
〔実施例1:架橋環状ペプチドの調製及び結合親和性の測定〕
原料ペプチド[配列:H2N-PEG4-GPD(Hse)AYHRGELVWCTFH, Hse: ホモセリン(配列番号32)]を、自動ペプチド合成機Prelude(Protein Technologies, Inc.)を用いて、固相ペプチド合成法(Fmoc法)にて合成した。すなわち、Rink Amide-ChemMatrix樹脂にα-アミノ基がFmoc基で、側鎖官能基が一般的な保護基で保護されたアミノ酸をMSNT/NMI/DCM条件により縮合し、樹脂へのC末端アミノ酸の担持を完了した。これにFmoc基脱保護溶液(20%ピペリジン/DMF)を注入してFmoc基を除去した後に、α-アミノ基がFmoc基で、側鎖官能基が一般的な保護基で保護されたアミノ酸をHCTU/NMM/DMF条件によって縮合し、ジペプチドを合成した。Fmoc基脱保護溶液によるFmoc基の脱保護とHCTU/NMM/DMF条件によるアミノ酸の縮合操作を繰り返すことにより、目的とする配列のペプチドを合成した。
【0073】
保護ペプチド樹脂の合成完了後、N-末端Fmoc基の脱保護、二炭酸ジ-tert-ブチル、DIPEAによるN-末端アミノ基のBoc化を行った。続いて、Hseの水酸基を塩素化する為に、Hseの保護基であるTrt基のみを2%TFA/5%TIPS/93%DCMで脱保護した。脱保護されたHseの遊離水酸基をトリフォスゲン、トリフェニルホスフィンによって塩素化した。樹脂上でのHse水酸基の塩素化終了後、脱保護溶液(2.5%トリイソプロピルシラン、2.5%水、2.5%1,2-エタンジチオール、92.5%トリフルオロ酢酸)を保護ペプチド樹脂に加えて、4時間反応することによってペプチド側鎖保護基の除去と共に、樹脂から遊離ペプチドを切り出した。
【0074】
樹脂をろ去し、得られたろ液を冷エーテルに添加することにより、ペプチドを沈澱として回収した。得られたペプチドはProteonaviカラム(SHISEIDO)にて溶媒系に0.1%TFA水溶液及びアセトニトリルを用いて精製した。
【0075】
最終精製ペプチドを、CAPCELL PAK UG120カラム(SHISEIDO)及びHPLCシステム(HITACHI)により純度を確認した。また、ESI-MSシステム(Synapt HDMS、WATERS)により分子量を確認し、凍結乾燥した。
【0076】
上記のように得られたHse側鎖水酸基が塩素化された原料ペプチドを6 M Gn・HCl, 0.2 M Tris・HCl, 1 mM TCEP水溶液に溶解し、50℃で反応させることによって環化した。反応開始から39時間後、HPLC分析によって環化生成物を確認した。目的とする環化ペプチドをProteonaviカラム(SHISEIDO)にて溶媒系に0.1%TFA水溶液及びアセトニトリルを用いて精製した。
【0077】
最終精製ペプチドを、CAPCELL PAK UG120カラム(SHISEIDO)及びHPLCシステム(HITACHI)により純度を確認した。また、ESI-MSシステム(Synapt HDMS、WATERS)により分子量を確認し、凍結乾燥した。
【0078】
なお、上記における略号は、以下の通りである:
DCM, dichloromethane; DMF, N,N-dimethylformamide; Fmoc, 9-fluorenylmethyl-oxycarbonyl; Boc, tert-buthoxycarbonyl; DIPEA, N,N'-diisopropylethylamine; HCTU, 1-[bis(dimethylamino)methylene]-5-chloro-1H-benzo-triazolium 3-oxide hexafluorophosphate; MSNT, 1-(mesitylene-2-sulfonyl)-3-nitro-1,2,4-triazole; NMI, N-methylimidazole; NMM, N-methylmorpholine。
【0079】
以上の手順により、GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2、Xaa1はアルギニンで、C末端はアミド化;配列番号31に示されるアミノ酸配列に相当する)で示されるアミノ酸配列を含み、且つペプチドの外側の2つのシステイン残基が、以下の式:
【化7】
[式中、
上部のシステイン残基がペプチドにおけるN末端側のシステイン残基であり、且つ
下部のシステイン残基がペプチドにおけるC末端側のシステイン残基である]
に示すように連結されている、N末端PEG4化及びC末端アミド化ペプチド(架橋環状ペプチド)を得た。
【0080】
親和性解析は、以下の方法で行った。先ず、BIAcoreT200(GE healthcare)にセットしたCM5センサーチップ上へ、等量混合した0.4 M EDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)と0.1 M sulfo-NHS(sulfo-N-hydroxysuccinimide、スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド)溶液を10 μl/mlの流速でセンサーチップにインジェクトすることにより、センサーチップを活性化した。その後、pH 5.5(10 mM 酢酸Na)の条件下で、ヒトIgGをセンサーチップ上に固定化した。測定には、HBS-EP緩衝液(10 mM HEPES、150 mM NaCl、0.005% Tween 20、3 mM EDTA、pH 7.4)を用い、流速50 μl/mlにて、15.6、31.2、62.5、125、250、500、1000 nMの上述の精製した架橋環状ペプチドを180秒間インジェクトすることで結合反応をモニターした。解離反応測定の際は、緩衝液のみを600秒間インジェクトした。相互作用パラメータの解析は、BIAevalution T100ソフトウェアを用いて行った。
【0081】
〔比較例1〕
比較例1として、特許文献2に記載の架橋環状ペプチドを合成し、実施例1と同様の方法で親和性の測定を行った。ペプチドの合成、及び架橋反応は以下の条件で行った。
【0082】
NH2-PEG4化合成ペプチドGPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2、Xaa1はアルギニンで、C末端はアミド化)は、ペプチド合成ビーズ(Rink-amide-Chemmatrix resin、Biotage)上にて、Fmoc固相合成法により常法に従って合成した。
【0083】
樹脂からのペプチドの切り出し、脱保護を行った後、ペプチドを得た。得られたペプチド65mg(15.6μmol)を6 M塩化グアニジウム(Gn・HCl)を含むリン酸緩衝液(pH =7.3)5 mLに溶解し、これにアセトニトリル120μLに溶解した1, 3-Dichloro-2-propanone(2.9 mg、23.4 μmol、1.5等量モル)を加えて、室温で攪拌した。1時間後、HPLC分析によって反応の終了を確認し、反応溶液を直接HPLCにて精製することによって、環化ペプチド(33 mg、7.8 μmol、収率50%)を得た。
【0084】
以上の手順により、GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2、Xaa1はアルギニンで、C末端はアミド化)で示されるアミノ酸配列を含み、外側の2つのシステイン残基中のスルフィド基が、以下の式:
【化8】
で表されるリンカーにより連結されている、N末端PEG4化及びC末端アミド化ペプチドを得た。
【0085】
実施例1及び比較例1の親和性測定結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示すように、実施例1に示す架橋構造の環状ペプチドはIgG結合機能を有し、特許文献2に記載の架橋環状ペプチドに比べてIgG親和性が高いことが明らかとなった。
【0088】
〔実施例2:動的結合容量(DBC)測定〕
架橋環状ペプチドが、ヒト抗体精製アフィニティーリガンドとして利用可能か、NHS活性化プレパックカラム(GE Healthcare)に固定化し、吸着性能評価を実施した。ペプチド固定化カラムは以下の方法で作製した。なお、溶液の送液にはシリンジを用いた。
【0089】
1 mL容量のNHS活性化プレパックカラムに、1 mM塩酸5 mLを送液し、カラム内のイソプロパノール溶液を除去した。次いで、1.0 mg/mLペプチド溶液(DMSOに溶解した100 mg/mLの実施例1で調製したペプチド溶液をカップリング溶液(20 mM 炭酸緩衝液、50 mM 塩化ナトリウム, pH8.3)で100倍に希釈)1 mLを送液し、室温で1時間固定化した。その後、1 M Tris (pH 8.0) 5 mLで、未反応のNHSを室温1時間ブロッキングした。最後に、吸着溶液(20 mM リン酸緩衝液、150 mM 塩化ナトリウム、pH 7.4)5 mLを送液し、クロマトグラフィー評価に用いた。
【0090】
DBC測定は、液体クロマトグラフィー装置AKTAexplore(GE Healthcare)を用いて行った。作製したカラムを吸着溶液で平衡化した後、吸着溶液に溶解した1 mg/mLヒト血清由来γ-グロブリン(Sigma-Aldrich)を1 mL/minの流速で送液した。DBCは、280 nm吸光度において、非吸着成分を除いた値がサンプル全体の吸光度の10%に到達するまでに送液されたサンプル量から求めた。
【0091】
〔比較例2〕
比較例2として、比較例1で合成、架橋したペプチドを実施例2と同様に固定化したカラムを作製し、DBC測定を実施した。
【0092】
それぞれのDBC値は、実施例2:9.4 mg/mL-column、比較例2:2.3 mg/mL-columnであり、実施例1に示す架橋構造の環状ペプチドは、特許文献2に記載の架橋環状ペプチドに比べてIgG吸着性能が高いことが明らかとなった。
【0093】
〔実施例3:アルカリ耐性の評価〕
実施例2と同じ方法で作製した1 mgペプチド固定化1 mLカラムに、0.1 M 水酸化ナトリウム溶液を10 mL送液し、その後、吸着溶液10 mLで洗浄を行った。1、2、5、10回前記水酸化ナトリウム溶液洗浄/吸着溶液洗浄処理を行った後に、実施例2と同様に、流速1 mL/minでDBC測定を行った。水酸化ナトリウム処理を行う前のDBCを100%とし、DBC変動率を求めた。
【0094】
〔比較例3〕
比較例3として、実施例2と同じ方法で、ジスルフィド結合で架橋されたNH2-PEG4化合成ペプチド(GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2、Xaa1はアルギニンで、C末端はアミド化)で示されるアミノ酸配列を含み、外側の2つのシステイン残基がジスルフィド結合で架橋されたペプチド)を1 mg固定化したカラムを作製し、実施例3と同様にアルカリ耐性評価を実施した。
【0095】
実施例3及び比較例3の測定結果を図1に示し、また実施例3及び比較例3におけるDBC変動率を図2に示す。また、実測値を表2にまとめた。
【0096】
【表2】
【0097】
図1及び2並びに表2に示すように、ジスルフィド結合で架橋されたペプチドでは、10回の水酸化ナトリウム処理により、DBCが45.2%にまで低下した(比較例3)。一方、実施例1に示す架橋構造を有する環状ペプチドでは、DBCの低下はほとんど認められず、高いアルカリ耐性を有することが明らかとなった。
【0098】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
【配列表】
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