(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】水酸化リチウム
(51)【国際特許分類】
C01D 15/02 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
C01D15/02
(21)【出願番号】P 2018124655
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2017129623
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田上 梓
(72)【発明者】
【氏名】上坂 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 和也
(72)【発明者】
【氏名】重松 伸彦
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-178584(JP,A)
【文献】KUBOTA Mitsuhiro et al.,Advanced Materials Reserch,2014年,953-954,pp.757-760
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃において、水蒸気圧がP1である密閉容器の中に入れて密閉し、前記密閉容器内の水蒸気圧が平衡状態に達した際の前記密閉容器内の水蒸気圧をP2とした場合に、以下の式(1)により算出される水分活性変化量が0.01以上
0.6以下である水酸化リチウム。
(水分活性変化量)=(P1/P0)-(P2/P0) ・・・(1)
(ただし、P0は25℃における水の飽和水蒸気圧を表す。)
【請求項2】
トータルカーボン量が0.10質量%以上0.40質量%以下である請求項1に記載の水酸化リチウム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化リチウムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコンなどの小型電子機器の急速な拡大とともに、充放電可能な電源として、リチウム二次電池の需要が急激に伸びている。そして、リチウム二次電池の正極に用いられる正極活物質として、リチウム金属複合酸化物が広く用いられている。
【0003】
リチウム金属複合酸化物の製造方法としては、原材料となるリチウム化合物と金属化合物とを混合し、焼成する方法が用いられることが多い。例えば特許文献1には、コバルト塩とニッケル塩との混合水溶液にアルカリ溶液を加えて、コバルトとニッケルの水酸化物を共沈させることによってコバルトとニッケルの複合水酸化物を得た後、水酸化リチウムなどのリチウム化合物と混合し、この混合物を焼成することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造法が開示されている。
【0004】
近年のリチウム二次電池の需要の急激な伸びに伴い、大量のリチウム金属複合酸化物が生産され、原材料の1つであるリチウム化合物の消費も大幅に増加している。
【0005】
リチウム金属複合酸化物の原材料であるリチウム化合物としては、炭酸リチウムや、水酸化リチウムが主に用いられている。特に水酸化リチウムは、焼成時における金属化合物との反応性が高いため、焼成温度を低温化する必要があるニッケルを多く含むリチウム金属複合酸化物の原材料として用いられることが多い。
【0006】
リチウム金属複合酸化物には、リチウム二次電池の正極に用いられた際に、優れた電池特性を発揮できることが求められているが、低コストも重要な要求特性になっている。このため、リチウム金属複合酸化物の製造において、それぞれの製造工程におけるコスト削減が検討されている。
【0007】
リチウム金属複合酸化物は、粉末原料を混合、焼成して製造されるため、リチウム化合物も粉末状態で、原材料メーカーからリチウム金属複合酸化物の製造メーカーに大量に輸送されている。
【0008】
粉末の運搬には、金属ドラム缶や袋などに充填され、外気との接触が比較的制限された状態でパレット積みされて輸送されていた。しかしながら、上述のようにコスト削減の要請から、近年では合理化・省力化による流通コスト低減のために、フレキシブルコンテナによる輸送が増加している。
【0009】
フレキシブルコンテナは、0.5~3トンの大量の粉末を一度に運搬することが可能であり、フレキシブルコンテナから開梱された粉末状のリチウム化合物は、リチウム金属複合酸化物の原材料の1つとして用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、リチウム化合物のうちリチウム金属複合酸化物の原材料として多く用いられる水酸化リチウムは潮解性を有する結晶体であるため、フレキシブルコンテナやビニール袋などに梱包された状態の場合、保管中に空気中の水分の影響により固結する場合があった。
【0012】
このため、例えば梱包材の外側から各種大型機械により、該梱包材から取り出せるサイズまでほぐした後、梱包材から取り出しさらに粉砕処理してから使用されており、他の原料と、混合、焼成等する前の処理に多大な労力、コストを要していた。
【0013】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、固結することを抑制した水酸化リチウムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
25℃において、水蒸気圧がP1である密閉容器の中に入れて密閉し、前記密閉容器内の水蒸気圧が平衡状態に達した際の前記密閉容器内の水蒸気圧をP2とした場合に、以下の式(1)により算出される水分活性変化量が0.01以上0.6以下である水酸化リチウムを提供する。
(水分活性変化量)=(P1/P0)-(P2/P0) ・・・(1)
(ただし、P0は25℃における水の飽和水蒸気圧を表す。)
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、固結することを抑制した水酸化リチウムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[水酸化リチウム]
本実施形態の水酸化リチウムの一構成例について説明する。
【0017】
本実施形態の水酸化リチウムは、25℃において、水蒸気圧がP1である密閉容器の中に入れて密閉し、密閉容器内の水蒸気圧が平衡状態に達した際の密閉容器内の水蒸気圧をP2とした場合に、以下の式(1)により算出される水分活性変化量が0.01以上となる。なお、以下の式(1)中のP0は25℃における水の飽和水蒸気圧を表す。
(水分活性変化量)=(P1/P0)-(P2/P0) ・・・(1)
既述のように、リチウム金属複合酸化物の原材料等として用いられる水酸化リチウムは、フレキシブルコンテナ等の梱包材の中に入れ、保管すると、空気中の水分の影響により固結する場合があり、各種用途で使用する場合に問題であった。なお、本明細書における固結とは、水酸化リチウム粉末の粒子同士が結合(接合)して固まり、より大きな塊状になることを意味する。
【0018】
本発明の発明者らは、水酸化リチウムが固結する原因について鋭意検討を行った。その結果、水酸化リチウムのうち水酸化リチウム一水和物が潮解性を有しており、水酸化リチウム一水和物は、湿度が84%以上になることでその粒子表面に付着した水により溶解し、湿度や温度の変動により再結晶化することが確認された。そして、係る溶解と、再結晶化とを繰り返し行うことで、粒子同士が結合し、固結していることが分かった。
【0019】
そこで、本発明の発明者らはさらに検討を行ったところ、水酸化リチウム一水和物以外に、吸水性物質を含有する水酸化リチウムとすることで、水酸化リチウム一水和物の潮解を抑制し、水酸化リチウムの固結を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。これは、吸水性物質を含有する水酸化リチウムとすることで、水酸化リチウム一水和物の粒子表面に付着(吸着)される水分を抑制し、潮解が生じることを抑制できるからと考えられる。
【0020】
なお、吸水性物質とは、吸水し、粒子の表面に付着した水よりも移動等がしにくい、結晶水等の形態で水分を保持することができる物質であり、例えば水酸化リチウム無水和物等が挙げられる。
【0021】
そして、本発明の発明者らは、水酸化リチウムに含まれる吸水性物質の量を、水分活性変化量により評価できることを見出した。水分活性変化量は、本発明の発明者らが新たに見出した評価指標であり、水酸化リチウムについて、水蒸気圧が平衡状態に達するまでに周囲の雰囲気から吸水できる程度を示しており、数値が高いほど吸水性物質の含有割合が高いことを意味する。
【0022】
水分活性変化量は、上述の式(1)により算出することができ、式(1)の各パラメータを例えば以下の手順により測定できる。
【0023】
まず、密閉容器を用意する(密閉容器準備工程)。なお、以下の一連の操作は一定の温度環境下で実施することが好ましいことから、密閉容器は25℃に保った恒温槽内に準備することが好ましい。
【0024】
密閉容器のサイズは特に限定されないが、密閉容器内の水蒸気圧の変化が評価しやすいように、評価に供する水酸化リチウムの体積に対して適切なサイズであることが好ましい。密閉容器のサイズは、例えば評価に供する水酸化リチウムの体積を1とした場合に、体積が3以下のサイズであることが好ましく、2以下のサイズであることがより好ましい。ただし、密閉容器のサイズが小さすぎると該密閉容器内の水分が十分ではなく、吸水性物質の量を正しく評価できない恐れがある。このため、密閉容器のサイズは、評価に供する水酸化リチウムの体積を1とした場合に、体積が1.2以上のサイズであることが好ましい。
【0025】
密閉容器は蓋付きの容器であり、容器内外での水分の移動を規制できる容器であればよく、密閉容器の材料や、具体的な構造は特に限定されるものではない。例えばポリプロピレン製の密閉容器等を用いることができる。
【0026】
そして、密閉容器内の水蒸気圧P1を測定、算出しておく(水蒸気圧P1算出工程)。
【0027】
密閉容器内の水蒸気圧P1は、25℃における飽和水蒸気圧と、密閉容器内の相対湿度(%RH)との積を100で割ることにより算出できる。例えば内部が空の状態で、密閉容器の蓋を閉め、密閉容器内の相対湿度を測定し、25℃における飽和水蒸気圧(%RH)と掛け合わせ、100で割ることで密閉容器内の水蒸気圧P1を算出できる。
【0028】
なお、密閉容器に水酸化リチウムを入れた直後、すぐには密閉容器内の水蒸気圧に変化は生じない。このため、後述する水酸化リチウム配置工程を行い、密閉容器内に評価に供する水酸化リチウムを配置し、蓋を閉めてからすぐに密閉容器内の相対湿度を測定し、該相対湿度を用いて上述の場合と同様に水蒸気圧P1を算出しても良い。
【0029】
次いで、密閉容器内に評価に供する水酸化リチウムを配置する(水酸化リチウム配置工程)。水酸化リチウムを密閉容器内に配置した後、すぐに密閉容器の蓋をし、密閉容器の内外での水分の移動を規制することが好ましい。
【0030】
次いで、密閉容器内の水蒸気圧が平衡状態になるまで、すなわち密閉容器内の水蒸気圧が変動しなくなるまで放置する。なお、密閉容器内の水蒸気圧は、25℃における飽和水蒸気圧と、密閉容器内の相対湿度との積を100で割った値であり、密閉容器内の相対湿度が変動しなくなった時に、密閉容器内の水蒸気圧が平衡状態に達したと判断することができる。そして、密閉容器内の水蒸気圧が平衡状態に達したことを確認した後、密閉容器内の水蒸気圧が平衡状態に達した際の密閉容器内の水蒸気圧P2を測定、算出する(水蒸気圧P2算出工程)。密閉容器内の水蒸気圧が平衡状態に達した際の密閉容器内の水蒸気圧P2は、25℃における飽和水蒸気圧と、密閉容器内の水蒸気圧が平衡状態に達した際の密閉容器内の相対湿度との積を100で割ることにより算出できる。
【0031】
上述の手順により測定、算出した測定開始前の密閉容器内の水蒸気圧P1、密閉容器内の水蒸気圧が平衡状態に達した際の密閉容器内の水蒸気圧P2、さらには25℃における飽和水蒸気圧P0を用い、既述の式(1)により水分活性変化量を算出できる。
【0032】
なお、上記式(1)内のP2/P0は、食品中の自由水の割合を評価する水分活性として知られており、水分活性を測定する水分活性測定装置が知られている。このため、上記一連のパラメータは水分活性測定装置を用いて測定することもできる。
【0033】
水分活性変化量は水酸化リチウム中に含まれる吸水性物質の割合に応じて変化し、水酸化リチウム中に含まれる吸水性物質の割合が高くなると数値が大きくなる。そして、本発明の発明者の検討によれば、本実施形態の水酸化リチウムの水分活性変化量は、0.01以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましい。これは、水酸化リチウムの水分活性変化量を0.01以上とすることで、該水酸化リチウムが十分な量の吸水性物質を含んでいることを意味し、固結の発生を抑制できるからである。
【0034】
本実施形態の水酸化リチウムの水分活性変化量の上限値は特に限定されるものではないが、本実施形態の水酸化リチウムの水分活性変化量は例えば0.6以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。これは、吸水性物質割合が高いと炭酸化が進行する可能性があるためである。水蒸気透過率の高い梱包材での長期保管による大気暴露をしない場合はこの限りではない。
【0035】
また、本実施形態の水酸化リチウムは、トータルカーボン量が0.10質量%以上であることが好ましい。
【0036】
これは、本発明の発明者の検討によれば、本実施形態の水酸化リチウムについて、トータルカーボン量が0.10質量%以上の場合、水酸化リチウム一水和物の潮解を抑制することが可能だからである。トータルカーボン量は、0.15質量%以上であることがより好ましい。
【0037】
本実施形態の水酸化リチウムは、例えば炭酸化処理を行うことで炭素を導入することができる。すなわち炭酸成分を含有する水酸化リチウムとすることができる。そして、係る炭素は、水酸化リチウム粒子の表面に炭酸化合物として存在し、トータルカーボン量が0.10質量%以上となるように炭素を導入することで水酸化リチウム一水和物の潮解が生じることを特に抑制できるからである。
【0038】
本実施形態の水酸化リチウムのトータルカーボン量の上限値は特に限定されないが、過剰に炭素を導入すると、該水酸化リチウムを他の金属成分と反応させてリチウム複合金属酸化物とし、リチウム二次電池等とした場合に、電池特性に影響を及ぼす恐れがある。このため、本実施形態の水酸化リチウムは、トータルカーボン量が0.40質量%以下であることが好ましく、0.20質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
水酸化リチウムのトータルカーボン量は、例えば全有機炭素計により評価することができる。
【0040】
なお、水酸化リチウムのトータルカーボン量を上記範囲にすることのみでも、上述のように水酸化リチウム一水和物の潮解を抑制できるため、固結を抑制することができる。ただし、水分活性変化量についても併せて既述の範囲を充足することで、吸水性物質が存在することによる固結抑制効果と、トータルカーボン量に関連して生じる水酸化リチウム一水和物の潮解を抑制する効果とが相乗的に働き、特に固結を抑制することができるため好ましい。
【0041】
本実施形態の水酸化リチウムの粒径等は特に限定されないが、本実施形態の水酸化リチウムによれば、固結することを抑制し、粉体の形状を維持することができ、リチウム金属複合酸化物等の各種目的組成物の原料とすることができる。このため、本実施形態の水酸化リチウムの平均粒径は、各種用途の化学反応に好適なサイズであることが好ましく、例えば平均粒径は650μm以下であることが好ましく、550μm以下であることがより好ましい。
【0042】
ただし、本実施形態の水酸化リチウムは、過度な微粒粉とすると取扱い性の観点等から好ましくないことから、平均粒径は150μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましい。
【0043】
なお、平均粒径は、乾式でレーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値50%での粒径を意味する。本明細書では平均粒径は同様の意味を有する。
【0044】
本実施形態の水酸化リチウムの製造方法は特に限定されるものではなく、任意の方法により製造することができる。
【0045】
本実施形態の水酸化リチウムの製造方法は、例えば水酸化リチウムについて、その水分活性変化量が0.01以上となるように調整する水分活性変化量調整工程を有することができる。
【0046】
水分活性変化量調整工程において、水分活性変化量を調整する具体的な方法は特に限定されるものではないが、水酸化リチウムの水分活性変化量が0.01以上となるように乾燥温度や、乾燥時間等の乾燥条件を選択し、乾燥を行う方法が挙げられる。具体的には例えば、水分活性変化量調整工程として、水酸化リチウムを乾燥する乾燥工程を有することができる。
【0047】
既述のように水酸化リチウムの水分活性変化量は、水酸化リチウムに含まれる水酸化リチウム無水和物等の吸水性物質の含有量に比例して変化する。このため、十分な量の吸水性物質、例えば水酸化リチウム無水和物が生じるように乾燥温度や、乾燥時間等の乾燥条件を調整することが好ましい。乾燥条件の選択方法は特に限定されないが、例えば予め予備試験を行い、乾燥条件と、得られる水酸化リチウムの水分活性変化量との関係を求めておき、乾燥条件を決定することができる。
【0048】
水分活性変化量調整工程において、水分活性変化量を調整する方法は上記乾燥条件を選択し、乾燥する方法に限定されるものはなく、例えば吸水性物質を添加する方法が挙げられる。具体的には、水分活性変化量調整工程として、予め製造しておいた水酸化リチウム無水和物等の吸水性物質を水酸化リチウムに添加する吸水性物質添加工程を有することもできる。
【0049】
既述のように、水酸化リチウムの水分活性変化量は、水酸化リチウム含まれる水酸化リチウム無水和物等の吸水性物質の含有量に比例して変化するため、水酸化リチウム無水和物等の吸水性物質を添加することで、その水分活性変化量を調整することができる。吸水性物質としては、水酸化リチウムの純度に大きな変動を与えないため、上述の水酸化リチウム無水和物を好ましく用いることができる。
【0050】
なお、水分活性変化量調整工程において、水分活性変化量を調整する方法は、1つの方法に限定されるものではなく、複数の方法を組み合わせて用いてもよい。このため、水分活性変化量調整工程は、例えば水酸化リチウムを乾燥する乾燥工程と、水酸化リチウムに予め製造しておいた水酸化リチウム無水和物等の吸水性物質を水酸化リチウムに添加する吸水性物質添加工程とを有することもできる。
【0051】
また、本実施形態の水酸化リチウムの製造方法は、水酸化リチウムを炭酸化する炭酸化工程を有することもできる。
【0052】
炭酸化工程では、水酸化リチウムを炭酸ガス含有雰囲気内に配置し、炭酸化を行うことができる。炭酸ガス含有雰囲気は、炭酸ガス(二酸化炭素ガス)と他のガスとの混合雰囲気であっても良く、炭酸ガスのみからなる雰囲気であっても良い。炭酸ガスと、他のガスとを混合した混合雰囲気とする場合、他のガスとしては、例えばアルゴンや、ヘリウム等の不活性ガスや、空気(大気)等が挙げられる。
【0053】
炭酸化工程では、水酸化リチウムについて、トータルカーボン量が0.10質量%以上0.40質量%以下となるように炭酸化の条件を選択することが好ましく、0.15質量%以上0.20質量%以下となるように炭酸化の条件を選択することがより好ましい。
【0054】
なお、炭酸化の条件としては、反応温度や、炭酸ガス含有雰囲気中の炭酸ガス濃度、圧力、反応時間等が挙げられ、予備試験等を行い、所望のトータルカーボン量となるように条件を選択することが好ましい。
【0055】
水分活性変化量調整工程において、乾燥工程を実施する場合であって、上記炭酸化工程も実施する場合、乾燥工程と、炭酸化工程とは同時に実施することもできる。具体的には、乾燥工程を実施する際の雰囲気を、炭酸化工程において既述の炭酸ガス含有雰囲気とすることで、乾燥工程と、炭酸化工程とを同時に実施することもできる。
【0056】
以上に説明した本実施形態の水酸化リチウムによれば、水分活性変化量を所定の範囲内とすることで、固結することを抑制できるため、フレキシブルコンテナ等に入れ、保管した場合でも固結し、大きな塊状となることを抑制できる。このため、各種用途に用いる際に解砕や、粉砕等の前処理の必要性を低減でき、取扱い性に優れる。
【0057】
なお、本実施形態の水酸化リチウムによれば固結を抑制できるものの、特に長期間に渡って保管等する場合には、固結をより長期間に渡って抑制できるように、水分活性変化量の大きな変化を防ぐため、水分透過率の低い梱包材等を用い、該梱包材により梱包した状態で保管することが好ましい。
【0058】
本実施形態の水酸化リチウムの用途は特に限定されるものではなく、水酸化リチウムを要する各種用途で用いることができる。例えば、本実施形態の水酸化リチウムは、リチウム二次電池等の正極活物質の原材料の1つとして好適に用いることができる。具体的には例えば、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いることができる、リチウムニッケル複合酸化物等の原材料の1つとして好適に用いることができる。そこで、以下にリチウムニッケル複合酸化物の製造方法の構成例について説明する。
[リチウムニッケル複合酸化物の製造方法]
次に、本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法の一構成例について説明する。
【0059】
本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法により、最終的に得られるリチウムニッケル複合酸化物の組成は特に限定されるものではなく任意の組成とすることができる。
【0060】
ただし、一般式:LixNi(1-y-z)MyNzO2+α(式中、Mは、CoおよびMnから選択される少なくとも1種、Nは、AlおよびTiから選択される少なくとも1種であり、0.95≦x≦1.15、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.8、-0.2≦α≦0.2である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが好ましい。
【0061】
リチウムニッケル複合酸化物としては、各種組成の複合酸化物が提案されているが、上記一般式で表されるリチウムニッケル複合酸化物は、電池特性に優れている点で好ましく、さらに、本実施形態に係るリチウムニッケル複合酸化物の製造方法を適用することにより、工業的規模での量産工程においても、優れた充放電特性を安定して備える正極活物質を得ることが可能となる。
【0062】
ここで、一般式のM元素は、Coおよび/またはMnであり、yを上記範囲とすることで、リチウム二次電池の正極材料に用いられた際の電池容量の低下を抑制しながらサイクル特性を向上させることができる。yは、0.1以上0.2以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0063】
また、一般式のN元素は、Alおよび/またはTiであり、zを上記範囲とすることで、リチウム二次電池の正極材料に用いられた際の電池容量の低下を抑制しながら熱安定性を向上させることができる。zは、0.02以上0.05以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0064】
そして、本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法は、以下の工程を有することができる。
【0065】
既述の水酸化リチウムと、ニッケル化合物との混合物を形成する混合工程。
【0066】
混合物を、酸素含有量が60容量%以上であり、炭酸ガス濃度が5容量ppm以下の雰囲気中において、700℃以上780℃以下の温度で焼成する焼成工程。
【0067】
以下に各工程について説明する。
(混合工程)
混合工程では、既述の水酸化リチウムと、ニッケル化合物との混合物を形成することができる。
【0068】
この際に用いるニッケル化合物は特に限定されるものではなく、例えば一般的にリチウムニッケル複合酸化物の原料となるニッケル化合物を用いることができる。
【0069】
ニッケル化合物としては特に、不純物混入の低減や粒径制御の観点から、ニッケル複合水酸化物、およびニッケル複合酸化物から選択された1種類以上を用いることが好ましい。具体的には調製するリチウムニッケル複合酸化物の目的組成に応じた、ニッケル複合水酸化物や、ニッケル複合酸化物を用いることができ、例えば、既述の一般式で示したリチウムニッケル複合酸化物を調製する場合、Ni(1-y-z)MyNz(OH)2+βや、Ni(1-y-z)MyNzO1+γから選択された1種類以上を用いることができる。
なお、上記式中のy、zは既述の一般式と同じ数値範囲とすることができる。また、β、γは-0.2≦β≦0.2、-0.2≦γ≦0.2とすることができる。
【0070】
ニッケル複合水酸化物は通常の方法で得られるものでよく、特に限定されないが、組成が均一であり、適度な粒径である粒子が得られるため、共沈法で得られたニッケル複合水酸化物を好ましく用いることができる。また、ニッケル複合酸化物は、ニッケルおよび添加元素を含有する化合物を酸化焙焼することで得られるものが好ましく、例えば上記ニッケル複合水酸化物を酸化焙焼して得られるものがより好ましい。
【0071】
原料として、ニッケル複合水酸化物、および/またはニッケル複合酸化物を用いた場合、これらの原料の二次粒子の平均粒径は特に限定されないが、5μm以上20μm以下の範囲とすることが好ましく、8μm以上15μm以下の範囲とすることがより好ましい。原料の平均粒径は、得られるリチウムニッケル複合酸化物に継承されるため、上記平均粒径の範囲とすることで、良好な充填性とともに、電池に用いた際の電解質との反応性を高くすることができ、電池特性を良好なものとすることができる。
【0072】
ニッケル化合物と混合する水酸化リチウムの量は特に限定されず、目的とするリチウムニッケル複合酸化物の組成に応じて選択することができる。例えば既述のリチウムニッケル複合酸化物の組成に応じた混合比とすることができる。焼成前後で組成はほとんど変化しないため、得ようとするリチウムニッケル複合酸化物の組成から、ニッケル複合酸化物と混合する水酸化リチウムの量を容易に決定することができる。
【0073】
なお、既述の水酸化リチウムを加熱し、脱水処理をしてから混合工程に供することもできる。水酸化リチウムの脱水処理を行う際の条件は特に限定されないが、例えば水酸化リチウムを流動させながら、加熱することが好ましい。水酸化リチウムを、流動、加熱する際の雰囲気は特に限定されないが、空気雰囲気、窒素雰囲気、真空雰囲気から選択された雰囲気とすることができる。また、加熱する際の温度は、例えば80℃以上250℃以下の範囲が好ましく、100℃以上200℃以下の範囲がより好ましい。
【0074】
水酸化リチウムと、ニッケル化合物とを混合する際の混合方法としては、通常用いられる方法でよく、一般的な混合機を使用することができ、シェーカーミキサー、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができ、ニッケル化合物の形骸が破壊されない程度に、十分に混合できればよい。
(焼成工程)
焼成工程では、混合工程で得られた混合物を焼成することで、リチウムニッケル複合酸化物を生成することができる。
【0075】
焼成時の雰囲気としては、酸素を十分に供給するため、酸素濃度を60容量%以上とすることが好ましく、80容量%以上とすることがより好ましい。
【0076】
リチウムニッケル複合酸化物の合成反応では、水が生成される。水が多量に生成されると、外部から十分な酸素が供給されない場合は、反応場への酸素の拡散が不足してリチウムニッケル複合酸化物の合成不足が発生し、電池容量の低下など、電池性能が劣化した正極活物質となる恐れがある。
【0077】
そこで、焼成時の雰囲気中の酸素濃度を60容量%以上とすることで、反応場における酸素分圧を十分に高め、より確実にリチウムニッケル複合酸化物の合成不足を防止できるため好ましい。
【0078】
酸素は、窒素あるいは不活性ガスと混合して用いることが好ましい。
【0079】
また、焼成温度としては、700℃以上780℃以下の範囲であることが好ましく、700℃以上750℃以下の範囲とすることがより好ましい。700℃未満では、得られるリチウムニッケル複合酸化物の結晶成長が十分でなく、良好な電池性能が得られない場合がある。また、780℃を超えると、得られるリチウムニッケル複合酸化物が分解を開始し、正極活物質として用いたときの電池反応時に、リチウムイオンの移動を妨げる結晶が混入し始め、電池性能の低下を招く恐れがある。このため、焼成温度は上記範囲とすることが好ましい。
【0080】
なお、焼成工程において、上記焼成温度に昇温する過程で、水酸化リチウムの溶融温度から焼成温度まで温度域、好ましくは、450℃以上650℃以下の範囲で保持してニッケル化合物と水酸化リチウムを十分に反応させることが好ましい。
【0081】
焼成に用いる炉は、雰囲気が制御できる各種の炉が使用可能であるが、排気ガスが発生することがない電気炉を用いることが好ましく、工業的生産においては、特にプッシャー炉やローラーハース炉などのように、連続的に焼成可能な炉を使用することが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の実施例について、比較例との対比により、より具体的に説明をおこなうが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0083】
ここでまず、以下の実施例、比較例で得られた水酸化リチウムの評価方法について説明する。
(1)水分活性変化量
水分活性測定装置(METER Group社製、型式:AquaLab Series4TE)を用いて、各実施例、比較例で作製した水酸化リチウムついて、水分活性変化量の算出式である以下の式(1)中のP1、P2を測定した。
(水分活性変化量)=(P1/P0)-(P2/P0) ・・・(1)
測定は以下の手順で行った。
【0084】
密閉容器であるサンプル室を備えた上記水分活性測定装置を用意し(密閉容器準備工程)、測定終了まで水分活性測定装置のサンプル室内を25℃に保持するように設定し、測定試料である各実施例、比較例で作製した水酸化リチウムをサンプル室内に投入し、サンプル室を密閉した(水酸化リチウム配置工程)。なお、密閉容器であるサンプル室内の容積は10mLであり、水酸化リチウムの体積が5mLとなるように投入した。
【0085】
サンプル室内に水酸化リチウム投入し、サンプル室を密閉した直後にサンプル室内の水蒸気圧P1を測定、算出した(水蒸気圧P1算出工程)。
【0086】
なお、サンプル室内の水蒸気圧P1が測定するタイミングによらず安定するように、水蒸気圧が16.1hPa以上21.0hPa以下となるように制御した雰囲気内に水分活性測定装置を配置して測定を行い、P1も係る範囲に入っていることが確認できた。
【0087】
サンプル室内の水蒸気圧が平衡状態になった後、サンプル室内の水蒸気圧P2を測定、算出した(水蒸気圧P2算出工程)。
【0088】
なお、用いた水分活性測定装置は、水蒸気圧P1、及び水蒸気圧P2について自動的に測定、算出できるように構成されている。
【0089】
以上の結果得られた、測定試料を投入直後のサンプル室内の水蒸気圧P1と、測定試料を投入し、サンプル室内の水蒸気圧が平衡状態に達した際のサンプル室内の水蒸気圧P2と、25℃における飽和水蒸気圧P0(31.69hPa)とを用いて、上記式(1)により、水分活性変化量を算出した。
(2)トータルカーボン量
以下の各実施例、比較例で製造した水酸化リチウムのトータルカーボン量は、全有機炭素計(LECO社製、型式:CS-600)により測定した。
(3)平均粒径
以下の各実施例、比較例で製造した水酸化リチウムの平均粒径は、乾式でレーザー回折・散乱法粒度分布測定機(日機装株式会社製 型式:HRA9320 X-100)を用いて測定した。
その結果、以下の実施例、比較例で得られた水酸化リチウムは、フレキシブルコンテナに入れる前には、原料と同じ平均粒径が550μm(実施例1~実施例4、比較例1、比較例2)、または200μm(実施例5、実施例6)であることを確認した。
【0090】
(4)固結の有無
以下の各実施例、比較例で製造した水酸化リチウム450kgをフレキシブルコンテナに入れ、大気雰囲気下、2年間保管した後、固結の有無を評価した。150mm以上の粒子が形成されている場合には固結有と評価し、150mm未満の粒子のみから構成される場合には固結無と評価した。
【0091】
以下に、各実施例、比較例での水酸化リチウムの製造条件等について説明する。
[実施例1]
以下の工程により、水酸化リチウムを製造した。
【0092】
平均粒径が550μmの水酸化リチウムについて、炭酸ガス濃度1体積%、残部が大気である炭酸ガス含有雰囲気下で、70℃で5時間乾燥する乾燥処理を行った。すなわち、水分活性変化量調整工程、及び炭酸化工程を同時に実施した。
【0093】
水分活性変化量調整工程、及び炭酸化工程の後、得られた水酸化リチウムについて既述の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例2]
水分活性変化量調整工程、及び炭酸化工程において、水酸化リチウムの熱処理条件を、炭酸ガス濃度1体積%、残部が大気である炭酸ガス含有雰囲気下で、75℃で5時間乾燥する乾燥処理に変更した点以外は、実施例1と同様にして水酸化リチウムを製造した。
【0094】
水分活性変化量調整工程、及び炭酸化工程の後、得られた水酸化リチウムについて既述の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例3]
水分活性変化量調整工程、及び炭酸化工程において、水酸化リチウムの熱処理条件を、炭酸ガス濃度2体積%、残部が大気である炭酸ガス含有雰囲気下で、70℃で3時間乾燥する乾燥処理に変更した点以外は、実施例1と同様にして水酸化リチウムを製造した。
【0095】
水分活性変化量調整工程、及び炭酸化工程の後、得られた水酸化リチウムについて既述の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例4]
炭酸化工程を実施しなかった点、及び水分活性変化量調整工程において、水酸化リチウムの熱処理条件を、炭酸ガスを導入せず、アルゴン雰囲気下で、70℃で5時間乾燥する乾燥処理に変更した点以外は、実施例1と同様にして水酸化リチウムを製造した。
【0096】
水分活性変化量調整工程の後、得られた水酸化リチウムについて既述の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例5]
平均粒径が200μmの水酸化リチウムを用いた点以外は、実施例1と同様にして水酸化リチウムを製造した。
水分活性変化量調整工程の後、得られた水酸化リチウムについて既述の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例6]
平均粒径が200μmの水酸化リチウムを用いた点以外は、実施例2と同様にして水酸化リチウムを製造した。
水分活性変化量調整工程の後、得られた水酸化リチウムについて既述の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例1]
炭酸化工程を実施しなかった点、及び水分活性変化量調整工程において、水酸化リチウムの熱処理条件を、炭酸ガスを導入せず、アルゴン雰囲気下で、70℃で3時間乾燥する乾燥処理に変更した点以外は、実施例1と同様にして水酸化リチウムを製造した。
【0097】
水分活性変化量調整工程の後、得られた水酸化リチウムについて既述の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例2]
水分活性変化量調整工程、及び炭酸化工程を実施せず、実施例1の水分活性変化量調整工程、及び炭酸化工程に供した水酸化リチウムをそのまま比較例2の水酸化リチウムとし、既述の評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
表1に示した結果によると、水分活性変化量が0.01以上である実施例1~6はいずれも固結が無いことを確認できた。特にトータルカーボン量が0.10質量%以上であり、かつトータルカーボン量が他の実施例よりも高い実施例3の水酸化リチウムは、フレキシブルコンテナに入れる前と比較して、その粒径にほとんど変化が見られないことが確認できた。
【0099】
一方、水分活性変化量が0.01未満であり、かつトータルカーボン量が0.10質量%未満である比較例1、2では固結の発生があることが確認できた。これは、水分活性変化量が0.1未満でかつトータルカーボン量が0.15%未満の場合、吸水性物質である水酸化リチウム無水和物の含有量が少なく、かつ、水酸化リチウム一水和物の潮解を抑制する炭酸化が進行しなかったため、水酸化リチウム一水和物が潮解し、固結することを抑制できなかったためと考えられる。