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  • 特許-分析用試料作製方法および分析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】分析用試料作製方法および分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
G01N1/28 G
G01N1/28 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018150281
(22)【出願日】2018-08-09
(65)【公開番号】P2020026968
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】近藤 光
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-294594(JP,A)
【文献】特開2007-047053(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0152052(US,A1)
【文献】特開2000-035391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - 1/44
G01N 23/00 -23/2276
H01J 37/00 -37/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属含有粒子が樹脂に包埋されてなる試料から収束イオンビーム(FIB)により試料片を摘出する試料片摘出工程と、
前記試料片の両端部分を厚肉のままとしつつ中央部分を薄肉化する薄片化工程と、
を有し、
前記試料片摘出工程では、前記試料片の厚肉の一端から別の厚肉の一端までの間の薄肉化された部分である電子顕微鏡用観察領域として、金属含有粒子の断面部分2個以上存在、且つ金属含有粒子の断面部分の面積が占める割合が50%を超えるように、前記金属含有粒子が存在する前記電子顕微鏡用観察領域を含む箇所を前記試料から前記試料片として摘出し、
前記薄片化工程では、前記金属含有粒子の前記断面部分を含む前記電子顕微鏡用観察領域となるように、前記試料を両側から薄肉化する、分析用試料作製方法。
【請求項2】
前記電子顕微鏡用観察領域において金属含有粒子の断面部分の面積が占める割合を65%以上とする、請求項1に記載の分析用試料作製方法。
【請求項3】
前記試料片の左右両端から薄肉部分にわたって、前記金属含有粒子の輪切り状の断面部分が存在する、請求項1又は請求項2に記載の分析用試料作製方法。
【請求項4】
前記試料片の上端から下端に向けて35~75%の幅の薄肉部分を前記電子顕微鏡用観察領域とするために、前記試料片の少なくとも上端が薄肉化されている、請求項1~3のいずれかに記載の分析用試料作製方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の分析用試料作製方法により作製された分析用試料における前記電子顕微鏡用観察領域に対して電子顕微鏡による分析を行う、分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用試料作製方法および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末材料は様々な分野に使用されている。粉末材料を製造開発するにあたって、その表面状態、粒度分布、分散状態、結晶状態等の基礎物性に関する知見を得ることは重要である。
【0003】
特許文献1の[請求項1][請求項6]等には、金属含有粒子を樹脂でコーティングしたものから、観察対象となる箇所(すなわち金属含有粒子を含む箇所)を試料片として摘出することが記載されている。この摘出には収束イオンビーム(以降、FIBとも称する。)が用いられる。摘出した試料片を薄片化したうえで電子顕微鏡による観察が行われる。
【0004】
特許文献1における試料片の摘出および薄片化には、例えば特許文献2に記載の技術を用いてもよい旨が特許文献1の[0048][0069]に記載されている。
【0005】
特許文献2の図1には、摘出対象となる試料基板1から微小試料片11を摘出する様子が記載されている。そして特許文献2の図1図2には、微小試料片11の長手方向の中央部分に対し、FIBを天地の天の方向(上方)から地の方向(下方)に向けて照射して微小試料片11を削る様子が記載されている。そして、微小試料片11の両端部分を厚肉のままとしつつ中央部分を薄肉化する様子が記載されている。
【0006】
薄片化に関する課題が特許文献3にて開示されている。特許文献3の[0005]には、断面TEM(透過型電子顕微鏡)用試料を作製するために試料を薄片化する際、特許文献3の図1Aに示すように、試料の両端部分を厚肉のままとしつつ中央部分を薄肉化する場合、試料に湾曲歪が生じることが記載されている。
【0007】
この湾曲歪への対策として、試料の薄片化の際に柱43を残して薄壁42の幅を狭くすることが記載されている(特許文献3の[0005])。この場合、観察領域が限定され且つ加工に手間がかかることから、薄壁42に切り込み45を入れることが記載されている(特許文献3の[0005][0007])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-145768号公報
【文献】特開2000-214056号公報
【文献】特開2000-35391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3に記載の手法のうち柱を残す手法は、特許文献3にも記載の通り、観察領域が限定され且つ加工に手間がかかる。特許文献3に記載の手法のうち切り込みを入れる手法は、薄壁に対する更なる加工が必要となるうえ、加工途中に薄壁が破断するおそれもある。また、複数の金属含有粒子が樹脂に包埋されてなる試料の薄片化工程において、形状に起因する応力集中部、すなわち薄肉化された部分の両端部については応力集中を推定できるが、金属含有粒子に起因する応力集中部を推定することは不可能である。
【0010】
本発明の課題は、薄片化による観察領域の確保の際の作業性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を行った。本発明者が観察したいのは、複数の金属含有粒子が樹脂に包埋されてなる試料における金属含有粒子である。そこで本発明者は、観察対象であるはずの金属含有粒子を、薄片の湾曲歪の抑止に利用する、という画期的な手法を想到した。
【0012】
即ち、上述の課題を解決するための第1の態様は、 複数の金属含有粒子が樹脂に包埋されてなる試料から収束イオンビーム(FIB)により試料片を摘出する試料片摘出工程と、
前記試料片の両端部分を厚肉のままとしつつ中央部分を薄肉化する薄片化工程と、
を有し、
前記試料片の厚肉の一端から別の厚肉の一端までの間の薄肉化された部分である電子顕微鏡用観察領域には金属含有粒子の断面部分を2個以上存在させ、且つ、前記電子顕微鏡用観察領域において金属含有粒子の断面部分の面積が占める割合が50%を超えるよう、前記試料片摘出工程および前記薄片化工程を行う分析用試料作製方法である。
第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
前記電子顕微鏡用観察領域において金属含有粒子の断面部分の面積が占める割合を65%以上とする。
第3の態様は、第1または第2の態様に記載の試料作製方法により作製された分析用試料における電子顕微鏡用観察領域に対して電子顕微鏡による分析を行う、分析方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薄片化による観察領域の確保の際の作業性を向上させられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、薄片化工程後の試料片の概略図であり、図1(a)は平面概略図、図1(b)は正面概略図、図1(c)は底面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態について説明を行う。本明細書において「~」は所定の値以上かつ所定の値以下のことを指す。
【0016】
<1.準備工程>
本工程では、複数の金属含有粒子が樹脂に包埋されてなる試料を用意する。
【0017】
金属含有粒子としては、本明細書に記載の各工程を困難なく実施可能なものであれば特に限定は無い。
【0018】
樹脂としても、本明細書に記載の各工程を困難なく実施可能なものであれば特に限定は無い。樹脂への包埋の態様についても、特許文献1に記載の態様を採用してもよいし、複数の金属含有粒子からなる粉末を熱または光硬化型樹脂中に分散させて、後に硬化させるという態様を採用してもよい。
【0019】
FIB装置内に試料を配置する前に、試料に対して導電処理を施す。
【0020】
<2.試料片摘出工程>
本工程では、複数の金属含有粒子が樹脂に包埋されてなる試料から収束イオンビーム(FIB)により試料片を摘出する。具体的な手法は特許文献2に記載の手法等の公知の手法を採用すればよい。
【0021】
試料片の形状には特に限定は無いが、直方体とするのが一般的である。本実施形態においては、この直方体の縦、横、高さの3辺のうち最小幅の部分を両面から薄肉化する。
【0022】
<3.薄片化工程>
本工程では、試料片の左右両端部分を厚肉のままとしつつ中央部分を薄肉化する。具体的な手法は特許文献2に記載の手法や、特許文献3の図2に記載の手法等、公知の手法を採用すればよい。
【0023】
本実施形態においては、試料ホルダーに試料片を載置して試料片を立てた状態で、試料ホルダーを揺動させながら試料片の厚さ方向に垂直な方向(上方から下方)にてFIBを照射して薄片化を行う。そのため、本工程を経た後では、試料片の厚肉の一端から別の厚肉の一端までの間(両端間の距離には特に限定は無いが例えば7~10μm)のうち、上方部分全体が薄肉化される(後述の図1(a))。その一方、下方部分は比較的厚肉のままである(後述の図1(c))。本工程における薄肉部分の厚さとしては、後に行われる分析内容に合わせて設定すればよいが、STEM(走査型透過電子顕微鏡)観察を行う場合、100nm以下であればよい。
【0024】
また、試料片の厚肉の両端各々から薄肉部分にわたり、厚肉から薄肉へと段階的にまたは連続的に厚さを減らしてもよい。これにより、厚肉部分と薄肉部分との境界部に過度の負荷がかかるのを抑えられる。
【0025】
<4.本実施形態の一つの特徴部分>
本実施形態の特徴は、試料片摘出工程および薄片化工程を行った後の試料片が以下の状態とすることにある。
(条件1)試料片の厚肉の一端から別の厚肉の一端までの間の薄肉化された部分である電子顕微鏡用観察領域には金属含有粒子の断面部分を2個以上存在させる。
(条件2)電子顕微鏡用観察領域において金属含有粒子の断面部分の面積が占める割合が50%を超えるようにする。
【0026】
図1は、薄片化工程後の試料片の概略図であり、図1(a)は平面概略図、図1(b)は正面概略図、図1(c)は底面概略図である。先ほど述べたように、試料片の厚肉の一端から別の厚肉の一端までの間のうち、上方部分全体が薄肉化される一方、下方部分は比較的厚肉のままである。
【0027】
図1(a)に示すように、薄片化工程後の試料は、試料片の両端部分を厚肉のままとしつつ中央部分が薄肉化されている。そして本実施形態においては、試料片の厚肉の一端から別の厚肉の一端までの間のうち、上方部分のみを薄肉化している。この薄肉化された部分が電子顕微鏡用観察領域(以降、単に観察領域とも称する。)となる。観察領域は、試料片の左右両端部分の間の薄肉化された上端から比較的肉厚のままの下端の間が20μmである場合、上端から下端に向けて少なくとも10μm(好ましくは上端から10~15μmまで)の幅の部分を指す。上端から下端までのうち上端から下端に向けて35~75%の幅の薄肉部分を観察領域としてもよい。上記の好適例のように、試料片の厚肉の両端各々から薄肉部分にわたり、厚肉から薄肉へと段階的にまたは連続的に厚さを減らす例を採用した場合、厚さの減少が終了した部分すなわち薄肉部分の端から観察領域が始まるとなる。
【0028】
そして図1(b)に示すように、薄肉化された部分の厚さ方向から見た場合(正面視)にて、上記の観察領域に、金属含有粒子における輪切り状の断面部分を2個以上存在させる。更に、観察領域において金属含有粒子の断面部分の面積が占める割合が50%を超えるようにする。
【0029】
これにより、包埋している樹脂に比べて比較的剛性が高い金属含有粒子における輪切り状の断面部分が薄肉部分に2個以上存在するため、薄肉化された部分の歪(しなり)が生じにくくなる。また、観察領域において金属含有粒子の輪切り状の断面部分の面積が占める割合が50%を超えるようにすることにより、観察領域において万遍無く該断面部分が配置されることとなり、薄肉化された部分の歪(しなり)が生じにくくなる。
【0030】
上記の条件1、2を満たすための具体的な手法としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0031】
試料片摘出工程の段階で、薄肉化された部分(上記試料片において上方部分となる部分)に、大きな金属含有粒子が存在および/または多数の金属含有粒子が存在するような箇所を試料から目星を付けておく。そして、該箇所に保護膜を形成したうえで、該箇所から試料片を摘出する、という手法が挙げられる。この手法は、FIB装置(例えば後述の実施例に記載のFIB装置)内に配置した試料表面をFIB装置に付属のモニタにより確認することによって実施可能である。
【0032】
薄片化工程において以下の手法を採用してもよい。薄片化工程では厚さ方向の両側から薄肉化を行うが、片側に金属含有粒子が偏っている場合、別の片側を多く削り、最終的に得られる薄肉部分に金属含有粒子における輪切り状の断面部分が多く含まれるようにしてもよい。
【0033】
結局のところ、最終的に得られる分析用試料が上記の条件1、2を満たすよう、上記の試料片摘出工程および薄片化工程を行えばよい。
【0034】
このとき、左右両端の少なくともいずれか(好ましくは各々)から薄肉部分にわたって、金属含有粒子における輪切り状の断面部分が存在するのが、歪がより生じにくくなり、好ましい。
【0035】
また、観察領域において金属含有粒子の輪切り状の断面部分の面積が占める割合を65%以上とするのが好ましく、70%以上とするのがより好ましく、75%以上とするのが更に好ましい。
【0036】
<5.分析工程>
上記の各工程を経て得られた分析用試料における電子顕微鏡用観察領域に対して電子顕微鏡による分析を行う。この分析としてはTEM観察、SEM(走査型電子顕微鏡)観察、STEM観察等が挙げられるが、定量分析をしても構わず、特に限定は無い。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は、上述の実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0038】
例えば本実施形態では薄片化工程後の試料片は、厚肉の左右両端部分の間における上方部分のみを薄肉化した例を挙げたが、中央部分全体を薄肉化しても構わない。その場合、観察領域は、試料片の左右両端部分の間の薄肉化された上端から下端までの全体としてもよい。その場合、厚肉の左右両端部分以外の部分において上記の条件1、2を満たすようにする。
【0039】
逆に、厚肉の左右両端部分の間における上方部分および下方部分を厚肉としつつ中央部分のみを薄肉化してもよい。つまり、試料片における上下左右の中央部分を観察領域としてもよい。その場合、該中央部分において上記の条件1、2を満たすようにする。
【実施例
【0040】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明の技術的範
囲は、当該実施例の範囲に限られるものではない。
【0041】
<実施例1>
準備工程として、平均粒径4μmの金属粒子を熱硬化性樹脂中に分散させた分散液を得た。そして3mm×3mmの試料台に分散液を薄く塗布させたのち、硬化させた。こうして樹脂包埋試料を得た。
【0042】
樹脂包埋試料の表面に、カーボンや白金などの導電性保護膜を形成した。
【0043】
導電性保護膜が形成された樹脂包埋試料をFIB装置(日立ハイテク社製FB-2100)内に配置した。そして、付属モニタで観察しながら、図1(b)に示すように3個の粒子が並んだ箇所(表面隆起部)に対し、タングステン保護膜を形成した。
【0044】
試料片摘出工程として、保護膜が形成された箇所周辺及び底部を加工・除去し、上記FIB装置における微小試料サンプリング機構を用い、試料片に針を取り付け、樹脂母材部から観察部を切り離し、摘出した。
【0045】
摘出した試料片を加工観察用治具(組成Cu、またはMo)のメッシュに取り付けた後、針から試料片を切り離した。
【0046】
薄片化工程として、試料片の左右両端部分を厚肉のままとしつつ中央部分を薄肉化した。厚肉の左右両端に挟まれた左右幅10μmの部分において、上端から下端に向けて10μmの部分を約100nm程度に薄肉化した。
【0047】
上記の一連の各工程(薄片化作業)を10回行った。その結果、10回のうち7回は湾曲歪を発生させることなく、薄肉部分の破断も無く、観察領域を確保できた。
【0048】
<比較例1>
本例では、上記の条件1、2を満たさなかったことを除けば実施例1と同様の作業を行った。その結果、10回のうち8回は湾曲歪が生じ、2回しか正常に薄片化工程を行えなかった。
図1