IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-タイヤ 図1
  • 特許-タイヤ 図2
  • 特許-タイヤ 図3
  • 特許-タイヤ 図4
  • 特許-タイヤ 図5
  • 特許-タイヤ 図6
  • 特許-タイヤ 図7
  • 特許-タイヤ 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 13/00 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
B60C13/00 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019019051
(22)【出願日】2019-02-05
(65)【公開番号】P2020125045
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】中島 幸一
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-183869(JP,A)
【文献】特表2013-505872(JP,A)
【文献】特開2013-129233(JP,A)
【文献】特開2016-060419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイドウォール部の表面に、前記表面からへこんだ凹状マークを設けたタイヤであって、
前記凹状マークの底面は、前記凹状マークに一方向から光を当てたときに前記凹状マークの壁部が影となる影壁部分に沿った影領域と、前記影領域以外の主領域とに区分されるとともに、
前記影領域は、複数の微小突起を有し、
前記微小突起は、柱状突起であり、
前記柱状突起は、上端に凹部を具える、タイヤ。
【請求項2】
前記影領域は、前記影壁部分からの領域巾WAが、前記凹状マークの深さHよりも大である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記一方向は、前記凹状マークをタイヤ半径方向外側を上方側として正面視したときの対角線方向である、請求項1又は2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記一方向は、前記対角線方向のうち、タイヤ半径方向外側からタイヤ半径方向内側に向く斜め上方側からの対角線方向である、請求項3記載のタイヤ。
【請求項5】
前記柱状突起は、最大太さが50~1000μm、突出高さが50~1000μm、かつ隣り合う柱状突起間の中心間距離が100~1000μmである、請求項1~4の何れかに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記柱状突起は、上端側が小径をなす円錐台状をなす、請求項1~5の何れかに記載のタイヤ。
【請求項7】
前記凹部の深さは、前記柱状突起の突出高さの15%以上である、請求項1~6の何れかに記載のタイヤ。
【請求項8】
サイドウォール部の表面に、前記表面からへこんだ凹状マークを設けたタイヤであって、
前記凹状マークの底面は、前記凹状マークに一方向から光を当てたときに前記凹状マークの壁部が影となる影壁部分に沿った影領域と、前記影領域以外の主領域とに区分されるとともに、
前記影領域は、複数の微小突起を有し、
前記主領域は、凹凸の無い平滑面で形成される、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドウォール部の表面に設けた凹状マークの視認性を高めたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤのサイドウォール部の表面には、タイヤのメーカ名、ブランド名、サイズ等の標章を表すための文字、記号などであるマークが形成されている。従来、このようなマークは、視認性を高めるために、サイドウォール部の表面から突出するように凸状に形成されている。しかし凸状のマークは、空気抵抗が大であり燃費性能に悪影響を与える。
【0003】
そこで、下記の特許文献1には、マークを、サイドウォール部の表面よりも低い凹状に形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-129233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし凹状のマークの場合、サイドウォール部のゴムゲージ厚さの制約上、あまり深くすることができず、視認性に劣る。前記特許文献1では、凹状マークの内側表面に異色ゴムを配置することで、視認性の低下を抑制している。しかし異色ゴムの採用は、タイヤの形成工程が複雑となり、生産効率やコストに不利を招く。
【0006】
本発明は、サイドウォール部の表面に設けた凹状マークの視認性を、異色ゴムを用いることなく高めうるタイヤを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、サイドウォール部の表面に、前記表面からへこんだ凹状マークを設けたタイヤであって、
前記凹状マークの底面は、前記凹状マークに一方向から光を当てたときに前記凹状マークの壁部が影となる影壁部分に沿った影領域と、前記影領域以外の主領域とに区分されるとともに、
前記影領域は、複数の微小突起を有する。
【0008】
本発明に係るタイヤでは、前記影領域は、前記影壁部分からの領域巾WAが、前記凹状マークの深さHよりも大であるのが好ましい。
【0009】
本発明に係るタイヤでは、前記一方向は、前記凹状マークをタイヤ半径方向外側を上方側として正面視したときの対角線方向であるであるのが好ましい。
【0010】
本発明に係るタイヤでは、前記一方向は、前記対角線方向のうち、タイヤ半径方向外側からタイヤ半径方向内側に向く斜め上方側からの対角線方向であるのが好ましい。
【0011】
本発明に係るタイヤでは、前記微小突起は、上端に向かって厚さが減じるリブ状突起であり、互いに平行に配されるのが好ましい。
【0012】
本発明に係るタイヤでは、前記リブ状突起は、最大厚さが50~1000μm、突出高さが50~1000μm、かつ隣り合うリブ状突起間の中心間距離が200~1000μmであるのが好ましい。
【0013】
本発明に係るタイヤでは、前記リブ状突起は、前記一方向と同方向に延びるのが好ましい。
【0014】
本発明に係るタイヤでは、前記微小突起は、柱状突起であるのが好ましい。
【0015】
本発明に係るタイヤでは、前記柱状突起は、最大太さが50~1000μm、突出高さが50~1000μm、かつ隣り合う柱状突起間の中心間距離が100~1000μmであるのが好ましい。
【0016】
本発明に係るタイヤでは、前記柱状突起は、上端側が小径をなす円錐台状をなすのが好ましい。
【0017】
本発明に係るタイヤでは、前記柱状突起は、上端に凹部を具えるのが好ましい。
【0018】
本発明に係るタイヤでは、前記凹部の深さは、前記柱状突起の突出高さの15%以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は叙上の如く、凹状マークの底面を、影領域と、残部の主領域とに区分している。前記影領域は、凹状マークに一方向から光を当てたときに凹状マークの壁部が影となる影壁部分に沿った領域を意味する。そして、この影領域に複数の微小突起を設けることで、光の吸収率を高め、影領域を主領域よりも黒く見せることができる。
【0020】
これにより、凹状マークの底面にコントラストが与えられ、前記影領域を、一方向から光を当てたときの壁部による影のように見せることができる。又前記影を、凹状マークの壁部の一部のように見せることができる。そしてこれらの目の錯覚により、凹状マークを、実際の深さよりも深く見せることができ、視認性を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態のタイヤのサイドウォール部の一部を示す側面図である。
図2】(a)凹状マークを正面視した図面、(b)は凹状マークを斜めから見た斜視図である。
図3】凹状マークの断面図である。
図4】影領域を微小突起とともに示す拡大断面図である。
図5】リブ状突起の他の例を示す部分斜視図である。
図6】(a)、(b)は柱状突起の配列状態を示す部分平面図、及び断面図である。
図7】(a)、(b)は、斜め左上方側からの対角線方向を一方向とした場合の凹状マークの正面図及び斜視図である。
図8】(a)、(b)は、柱状突起の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態のタイヤ1は、少なくとも一方のサイドウォール部2に、タイヤのメーカ名、ブランド名、サイズ等である標章3を具える。
【0023】
標章3は、少なくとも1つの凹状マーク4から構成される。凹状マーク4は、文字、記号、図形などであり、標章3を構成する最小単位を意味する。本例では、「A」、「L」、「K」、「E」である4つの凹状マーク4により、「ALKE」の文字列である標章3(例えばブランド名)が形成される場合が示される。
【0024】
図2(a)、(b)に示すように、凹状マーク4は、サイドウォール部2の表面2Sから段差状に凹んだマークとして形成される。即ち、凹状マーク4は、底面6と、底面6から立ち上がりかつ凹状マーク4の輪郭をなす壁部7とを具える。
【0025】
底面6は、影領域Yaと、影領域Ya以外の主領域Ybとに区分される。ここで、影領域Yaとは、影壁部分8に沿った底面6上の巾領域を意味する。又影壁部分8とは、壁部7のうち、凹状マーク4に任意の一方向Fから光を当てたときに影となる部分を意味する。本例では、正面視において左斜め上方向から光を当てた場合が示される。これにより、壁部7のうち、底面6よりも左側及び上側に位置する部分(便宜上グレーで示される。)が、光が遮られて影となる。即ち、光が遮られて影となる壁部7の部分が影壁部分8となる。又壁部7のうちの他の部分は、光が当たる明壁部分9となる。
【0026】
そして影壁部分8に沿った前記影領域Yaに、複数の微小突起10が形成される。図2(a)、(b)には、微小突起10が後述するリブ状突起12である場合が示されており、同図には便宜上、リブ状突起12の稜線のみ描かれている。なお主領域Ybは、実質的に凹凸の無い平滑面で形成される。
【0027】
微小突起10は、光の吸収率を高めることができ、これにより影領域Yaを主領域Ybよりも黒く見せることができる。
【0028】
その結果、凹状マーク4の底面6にコントラスト(明暗)が与えられ、影領域Yaを、一方向Fから光を当てたときの壁部7による影のように見せることができる。又この影を、凹状マーク4の壁部7の一部のように見せることができる。そしてこれらの目の錯覚により、凹状マーク4を、実際の深さよりも深く見せることができ、立体感を増し、視認性を高めることが可能になる。
【0029】
ここで、図2(a)に示すように、前記一方向Fは、凹状マーク4をタイヤ半径方向外側を上方側として正面視したときの、対角線方向F1であるのが好ましい。特には、タイヤ半径方向外側からタイヤ半径方向内側に向く斜め上方側からの対角線方向F1であるのが好ましい。これにより、凹状マーク4に与える立体感の演出効果をより高めることができる。正面視とは、タイヤ半径方向外側を上方側として凹状マーク4を正面から見た状態を意味する。又対角線方向F1とは、凹状マーク4を囲む平行四辺形のうちで最小面積の平行四辺形Kの対角線を基準線Xとし、この基準線Xに対する角度が20度以下、好ましくは10度以下の方向を意味する。
【0030】
図2(a)、(b)では、一方向Fが、斜め上方側からの対角線方向F1のうち、左上方側からの対角線方向F1である場合が示される。しかし図7(a)、(b)に示すように、一方向Fが、右上方側からの対角線方向F1であっても良い。
【0031】
図3、4に概念的に示すように、影領域Yaは、影壁部分8からの領域巾WAが、凹状マーク4の深さHよりも大であるのが好ましい。これにより、凹状マーク4をより深く見せることができる。領域巾WAは影壁部分8の長さ方向と直交する向きの巾である。領域巾WAの上限は、特に規制されないが、深さHの4.0倍以下が、立体感を与える上で好ましい。又深さHは、特に規制されないが、サイドウォール部2のゴムゲージ厚さの制約上、0.3~1.0mm が一般的である。
【0032】
微小突起10としては、互いに平行に延びるリブ状突起12が好適に採用できる。このリブ状突起12は、その長さ方向と直交する断面が上端に向かって厚さが減じる三角形状、或いは台形状が好ましい。特には、リブ状突起12は、前記一方向F(図2(a)に示す)と同方向に延びるのが好ましい。これにより、影領域Yaを壁部7に見せる効果が高くなり、立体感を増すことができる。
【0033】
リブ状突起12では、最大厚さD2が50~1000μm、突出高さH2が50~1000μm、かつ隣り合うリブ状突起12、12間の中心間距離L2が100~1000μmであるのが好ましい。このようなサイズのリブ状突起12は、光がより反射しにくくなるので、光の吸収率が高まり影領域Yaをより黒く見せることができる。
【0034】
なおリブ状突起12としては、図5に示すように、三角形状の頂部を除去した断面台形状とすることができる。
【0035】
図6(a)、(b)に微小突起10の他の実施例を示す。本例では、微小突起10は柱状突起13として形成される。この柱状突起13の場合にも、光の吸収率を高めて影領域Yaを主領域Ybよりも黒く見せることができる。
【0036】
その結果、凹状マーク4の底面6にコントラスト(明暗)が与えられ、影領域Yaを、一方向Fから光を当てたときの壁部7による影のように見せることができる。又この影を、凹状マーク4の壁部7の一部のように見せることができる。そしてこれらの目の錯覚により、凹状マーク4を、実際の深さよりも深く見せることができ、立体感を増し、視認性を高めることが可能になる。
【0037】
柱状突起13では、最大太さD1が50~1000μm、突出高さH1が50~1000μm、かつ隣り合う柱状突起13、13間の中心間距離L1が100~1000μmであるのが好ましい。このようなサイズの柱状突起13は、光がより反射しにくくなるので、光の吸収率が高まり影領域Yaをより黒く見せることができる。
【0038】
図6(a)には、柱状突起13が碁盤目状に配列する場合が示される。しかし、千鳥状の配列でも良く、又中心間距離L1が前記範囲を満たすならばランダムに配列することもできる。
【0039】
本例では、柱状突起13として、上端側が小径をなす円錐台状の柱状突起13Aが示される。しかし、柱状突起13として、太さ一定の円柱状及び角柱状の柱状突起13B(図8(b)に示す)とすることもできる。
【0040】
図8(a)、(b)に、柱状突起13のさらに他の実施例を示す。本例の柱状突起13は、はその上端に、凹部15を具える。この凹部15は、照射された光の反射を低減するので、影領域Yaを一層黒く見せることができ、凹状マーク4の立体感をさらに高めうる。
【0041】
凹部15は、柱状突起13と同心に形成されるのが好ましい。又柱状突起13の高さ方向と直交する向きの凹部15の断面形状は、柱状突起13の断面形状と相似形であるのが、強度を均一に保つ上で好ましい。
【0042】
本例では凹部15及び柱状突起13の各断面形状が円形状をなす。又図8(a)に示すように、本例の凹部15は、その内径が、凹部15の深さが増すにつれて漸減する所謂先細テーパー状をなす場合が示される。しかし、図8(b)に示すように、凹部15の内径が一定のストレート孔状であっても良い。
【0043】
凹部15の深さH3は、柱状突起13の突出高さH1の15%以上であるのが、光の反射を低減するうえで好ましい。又深さH3の上限は突出高さH1の100%以下、さらには90%以下であるのが柱状突起13の剛性確保の観点から好ましい。
【0044】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0045】
図1に示すように、サイドウォール部の表面に、凹状マークからなる標章(「ALKE」の文字列)を表1の仕様で形成したタイヤを試作し、標章の視認性を比較した。
【0046】
影領域は、図2に示されるように、凹状マークに一方向(斜め右上方側からの対角線方向F1)から光を当てたときに凹状マークの壁部が影となる影壁部分に沿った影領域である。
【0047】
微小突起がリブ状突起(断面三角形状)の場合、最大厚さD2は100μm、突出高さH2は200μm、中心間距離L2は200μmであった。又微小突起が円錐台状の柱状突起の場合、最大太さD1は100μm、突出高さH1は200μm、中心間距離L1は200μmであった。又実施例5において、柱状突起の上端に設けた凹部の深さは、柱状突起の突出高さの15%であった。
【0048】
視認性は、目視による官能評価により比較例1を100とする指数で評価した。数値が大なほど優れている。
【0049】
【表1】
【0050】
表1の如く実施例は、標章の視認性に優れているのが確認できる。
【符号の説明】
【0051】
1 タイヤ
2 サイドウォール部
2S 表面
4 凹状マーク
6 底面
7 壁部
8 影壁部分
10 微小突起
12 リブ状突起
13 柱状突起
14 凹部
F1 対角線方向
F 一方向
Ya 影領域
Yb 主領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8