(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】高分子化合物及びその製造方法、組成物及びその製造方法、樹脂組成物、潤滑油用添加剤並びに潤滑油
(51)【国際特許分類】
C08F 2/38 20060101AFI20220809BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220809BHJP
C10M 151/02 20060101ALI20220809BHJP
C08F 20/10 20060101ALN20220809BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220809BHJP
C10N 30/02 20060101ALN20220809BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20220809BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220809BHJP
【FI】
C08F2/38
C08L101/00
C10M151/02
C08F20/10
C10N30:00 Z
C10N30:02
C10N40:04
C10N40:25
(21)【出願番号】P 2021512042
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014187
(87)【国際公開番号】W WO2020203837
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2019068999
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019069000
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019069001
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 俊介
(72)【発明者】
【氏名】宮原 由希
(72)【発明者】
【氏名】新納 洋
(72)【発明者】
【氏名】井川 雅資
(72)【発明者】
【氏名】岡田 春樹
(72)【発明者】
【氏名】藤江 史子
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-064252(JP,A)
【文献】特開2007-277514(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101260162(CN,A)
【文献】特表2008-518052(JP,A)
【文献】国際公開第2018/097279(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00- 2/60
6/00-246/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C10M 101/00-177/00
C07C 321/00
C07C 333/00
C10N 30/02
C10N 30/00
C10N 40/04
C10N 40/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のポリマー鎖が2価以上の連結基で連結された高分子化合物であって、
前記2価以上の連結基は、チオール基と、チオエーテル構造及びチオウレタン構造の少なくとも一方とを有し、
相対重量平均分子量に対する絶対重量平均分子量の比(絶対Mw/相対Mw)が1.25以上
2.10以下であ
り、
多官能チオール化合物(A)に由来する部位と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)に由来する部位とを有する高分子化合物であって、
式(11)及び(12)を満たす、高分子化合物。
r×(f
A
-1)×(f
B
-1)<1.2 ・・・(11)
r=(f
B
×y)/(f
A
×x) ・・・(12)
(式(11)中、f
A
は、前記多官能チオール化合物(A)の1分子あたりのチオール基の平均数である。f
B
は、前記化合物(B)の1分子あたりの前記反応性基の平均数である。f
A
は2.0以上であり、f
B
は1.2以上である。ただし、チオール基数が2の化合物(A)のみ、かつ、前記反応性基の数が2の化合物(B)のみである場合を除く。rは、前記多官能チオール化合物(A)に由来する部位と前記化合物(B)に由来する部位のモル比をx:yとしたとき、式(12)で算出される値である。)
【請求項2】
前記2価以上の連結基は、式(1)及び(2)で表される構造の少なくとも一方を含む、請求項1に記載の高分子化合物。
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、1価の炭化水素基、水酸基又は1価の電子吸引性基であり、R
3は、酸素原子、2価の炭化水素基又は2価の電子吸引性基である。式(2)中、Xは酸素原子又は硫黄原子である。式(1)及び式(2)中、-*は、結合手である。)
【請求項3】
前記2価以上の連結基は、チオール基を、前記高分子化合物1分子あたり1~300個有する、請求項1又は2に記載の高分子化合物。
【請求項4】
前記絶対Mw/相対Mwが
1.25以上2.00以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の高分子化合物。
【請求項5】
多官能チオール化合物(A)と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)とを反応させて、チオール基を有する連鎖移動剤(F)を得る工程と、
前記チオール基を有する連鎖移動剤(F)及びラジカル重合開始剤の存在下でビニル系化合物を重合して高分子化合物を得る工程と
を含む、高分子化合物の製造方法
であって、
多官能チオール化合物(A)と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)とを、式(13)及び(14)を満たす条件で反応させる、高分子化合物の製造方法。
r’×(f
A
-1)×(f
B
-1)<1.2 ・・・(13)
r’=(f
B
×y’)/(f
A
×x’) ・・・(14)
(式(13)中、f
A
は、前記多官能チオール化合物(A)の1分子あたりのチオール基の平均数である。f
B
は、前記化合物(B)の1分子あたりの前記反応性基の平均数である。f
A
は2.0以上であり、f
B
は1.2以上である。ただし、チオール基数が2の化合物(A)のみ、かつ、前記反応性基の数が2の化合物(B)のみである場合を除く。r’は、前記多官能チオール化合物(A)と前記化合物(B)のモル比をx’:y’としたとき、式(14)で算出される値である。)
【請求項6】
前記チオール基と反応する反応性基が、アクリレート基、グリシジル基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種以上である、請求項5に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項7】
多官能チオール化合物(A)に由来する部位と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)に由来する部位とを有する化合物(E)を主成分とする組成物であって、式(11)及び(12)を満たす、組成物。
r×(f
A-1)×(f
B-1)<1.2 ・・・(11)
r=(f
B×y)/(f
A×x) ・・・(12)
(式(11)中、f
Aは、前記多官能チオール化合物(A)の1分子あたりのチオール基の平均数である。f
Bは、前記化合物(B)の1分子あたりの前記反応性基の平均数である。f
Aは2.0以上であり、f
Bは1.2以上である。ただし、チオール基数が2の化合物(A)のみ、かつ、前記反応性基の数が2の化合物(B)のみである場合を除く。rは、前記多官能チオール化合物(A)に由来する部位と前記化合物(B)に由来する部位のモル比をx:yとしたとき、式(12)で算出される値である。)
【請求項8】
前記化合物(E)は、1分子あたり少なくとも1つのチオール基を有する化合物である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
f
A+f
B>4.0である、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
前記チオール基と反応する反応性基が、アクリレート基、グリシジル基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種以上である、請求項7~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
ラジカル重合反応系における連鎖移動剤である、請求項7~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
多官能チオール化合物(A)と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)とを、式(13)及び(14)を満たす条件で反応させる、組成物の製造方法。
r’×(f
A-1)×(f
B-1)<1.2 ・・・(13)
r’=(f
B×y’)/(f
A×x’) ・・・(14)
(式(13)中、f
Aは、前記多官能チオール化合物(A)の1分子あたりのチオール基の平均数である。f
Bは、前記化合物(B)の1分子あたりの前記反応性基の平均数である。f
Aは2.0以上であり、f
Bは1.2以上である。ただし、チオール基数が2の化合物(A)のみ、かつ、前記反応性基の数が2の化合物(B)のみである場合を除く。r’は、前記多官能チオール化合物(A)と前記化合物(B)のモル比をx’:y’としたとき、式(14)で算出される値である。)
【請求項13】
f
A+f
B>4.0である、請求項12に記載の組成物の製造方法。
【請求項14】
触媒(C)の存在下で、前記多官能チオール化合物(A)と、前記チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)とを反応させる、請求項12又は13に記載の組成物の製造方法。
【請求項15】
前記多官能チオール化合物(A)と、前記チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)との反応開始時の溶媒の量が、前記多官能チオール化合物(A)及び前記チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)の総質量の50質量%以下であり、
前記多官能チオール化合物(A)と、前記チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)との反応中の外温が10~50℃である、
請求項12~14のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項16】
請求項1~4のいずれか1項に記載の高分子化合物又は請求項7~11のいずれか1項に記載の組成物と、熱可塑性樹脂とを含む、樹脂組成物。
【請求項17】
前記高分子化合物又は前記組成物と、熱可塑性樹脂との質量比が、(前記高分子化合物又は前記組成物)/熱可塑性樹脂=0.1/99.9~95/5である、請求項16に記載の樹脂組成物。
【請求項18】
複数のポリマー鎖が2価以上の連結基で連結された高分子化合物であって、前記2価以上の連結基は、チオール基と、チオエーテル構造及びチオウレタン構造の少なくとも一方とを有し、相対重量平均分子量に対する絶対重量平均分子量の比(絶対Mw/相対Mw)が1.25以上2.10以下である高分子化合物を含む潤滑油用添加剤。
【請求項19】
前記2価以上の連結基は、式(1)及び(2)で表される構造の少なくとも一方を含む、請求項18に記載の潤滑油用添加剤。
【化2】
(式(1)中、R
1
及びR
2
は、それぞれ独立に、水素原子、1価の炭化水素基、水酸基又は1価の電子吸引性基であり、R
3
は、酸素原子、2価の炭化水素基又は2価の電子吸引性基である。式(2)中、Xは酸素原子又は硫黄原子である。式(1)及び式(2)中、-*は、結合手である。)
【請求項20】
前記2価以上の連結基は、チオール基を、前記高分子化合物1分子あたり1~300個有する、請求項18又は19に記載の潤滑油用添加剤。
【請求項21】
前記絶対Mw/相対Mwが1.25以上2.00以下である、請求項18~20のいずれか1項に記載の潤滑油用添加剤。
【請求項22】
前記高分子化合物の相対Mwが15000以上45000以下である、請求項18
~21のいずれか1項に記載の潤滑油用添加剤。
【請求項23】
請求項18
~22のいずれか1項に記載の潤滑油用添加剤を含む潤滑油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物及びその製造方法、組成物及びその製造方法、樹脂組成物、潤滑油用添加剤並びに潤滑油に関する。
本願は、2019年3月29日に日本に出願された、特願2019-68999号、特願2019-69000号及び特願2019-69001号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
分子内に、チオール基と結合したポリマー鎖を複数有する高分子化合物は、塗料、接着剤、粘着剤、相溶化剤、分散剤等に使用されている。
特許文献1には、多価メルカプタンとビニル系化合物とをマイケル付加させてなる有機スルフィド化合物を連鎖移動剤として用いて、ビニル系モノマーをラジカル重合した高分子化合物が開示されている。
特許文献2には、多価メルカプタン部分を中心として複数のポリマー鎖が放射状に伸びた構造を備え、数平均分子量が2000~1000000であり、複数のポリマー鎖が2種以上の異なる組成を有する高分子化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2001-64252号公報
【文献】日本国特開平7-179538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱可塑性樹脂を用いた塗膜は一般に耐熱性等の物性が不十分であり、物性改善のため、各種の添加剤が使用される。しかし、添加剤として高分子化合物を用いると塗料の粘度が上がってしまい塗装作業が困難になる課題がある。
特許文献1及び特許文献2に記載された高分子化合物を熱可塑性樹脂に添加した場合も、耐熱性の向上効果と、溶液の高粘度化を抑制する効果を両立することは難しい。
【0005】
本発明は、熱可塑性樹脂の耐熱性を向上させ、添加した溶液の高粘度化を抑制する効果を有する高分子化合物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を有する。
[1] 複数のポリマー鎖が2価以上の連結基で連結された高分子化合物であって、前記2価以上の連結基は、チオール基と、チオエーテル構造及びチオウレタン構造の少なくとも一方とを有し、相対重量平均分子量に対する絶対重量平均分子量の比(絶対Mw/相対Mw)が1.25以上である、高分子化合物。
[2] 前記2価以上の連結基は、式(1)及び(2)で表される構造の少なくとも一方を含む、[1]に記載の高分子化合物。
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、1価の炭化水素基、水酸基又は1価の電子吸引性基であり、R
3は、酸素原子、2価の炭化水素基又は2価の電子吸引性基である。式(2)中、Xは酸素原子又は硫黄原子である。式(1)及び式(2)中、-*は、結合手である。)
[3] 前記2価以上の連結基は、チオール基を、前記高分子化合物1分子あたり1~300個有する、[1]又は[2]に記載の高分子化合物。
[4] 前記絶対Mw/相対Mwが3.00以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の高分子化合物。
[5] 多官能チオール化合物(A)と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)とを反応させて、チオール基を有する連鎖移動剤(F)を得る工程と、前記チオール基を有する連鎖移動剤(F)及びラジカル重合開始剤の存在下でビニル系化合物を重合して高分子化合物を得る工程とを含む、高分子化合物の製造方法。
[6] 前記チオール基と反応する反応性基が、アクリレート基、グリシジル基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種以上である、[5]に記載の高分子化合物の製造方法。
[7] 多官能チオール化合物(A)に由来する部位と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)に由来する部位とを有する化合物(E)を主成分とする組成物であって、式(11)及び(12)を満たす、組成物。
r×(f
A-1)×(f
B-1)<1.2 ・・・(11)
r=(f
B×y)/(f
A×x) ・・・(12)
(式(11)中、f
Aは、前記多官能チオール化合物(A)の1分子あたりのチオール基の平均数である。f
Bは、前記化合物(B)の1分子あたりの前記反応性基の平均数である。f
Aは2.0以上であり、f
Bは1.2以上である。ただし、チオール基数が2の化合物(A)のみ、かつ、前記反応性基の数が2の化合物(B)のみである場合を除く。rは、前記多官能チオール化合物(A)に由来する部位と前記化合物(B)に由来する部位のモル比をx:yとしたとき、式(12)で算出される値である。)
[8] 前記化合物(E)は、1分子あたり少なくとも1つのチオール基を有する化合物である、[7]に記載の組成物。
[9] f
A+f
B>4.0である、[7]又は[8]に記載の組成物。
[10] 前記チオール基と反応する反応性基が、アクリレート基、グリシジル基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種以上である、[7]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11] ラジカル重合反応系における連鎖移動剤である、[7]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12] 多官能チオール化合物(A)と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)とを、式(13)及び(14)を満たす条件で反応させる、組成物の製造方法。
r’×(f
A-1)×(f
B-1)<1.2 ・・・(13)
r’=(f
B×y’)/(f
A×x’) ・・・(14)
(式(13)中、f
Aは、前記多官能チオール化合物(A)の1分子あたりのチオール基の平均数である。f
Bは、前記化合物(B)の1分子あたりの前記反応性基の平均数である。f
Aは2.0以上であり、f
Bは1.2以上である。ただし、チオール基数が2の化合物(A)のみ、かつ、前記反応性基の数が2の化合物(B)のみである場合を除く。r’は、前記多官能チオール化合物(A)と前記化合物(B)のモル比をx’:y’としたとき、式(14)で算出される値である。)
[13] f
A+f
B>4.0である、[12]に記載の組成物の製造方法。
[14] 触媒(C)の存在下で、前記多官能チオール化合物(A)と、前記チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)とを反応させる、[12]又は[13]に記載の組成物の製造方法。
[15] 前記多官能チオール化合物(A)と、前記チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)との反応開始時の溶媒の量が、前記多官能チオール化合物(A)及び前記チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)の総質量の50質量%以下であり、前記多官能チオール化合物(A)と、前記チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)との反応中の外温が10~50℃である、[12]~[14]のいずれかに記載の組成物の製造方法。
[16] [1]~[4]のいずれかに記載の高分子化合物又は[7]~[11]のいずれかに記載の組成物と、熱可塑性樹脂とを含む、樹脂組成物。
[17] 前記高分子化合物又は前記組成物と、熱可塑性樹脂との質量比が、(前記高分子化合物又は前記組成物)/熱可塑性樹脂=0.1/99.9~95/5である、[16]に記載の樹脂組成物。
[18] [1]~[4]のいずれかに記載の高分子化合物を含む潤滑油用添加剤。
[19] 前記高分子化合物の相対Mwが15000以上45000以下である、[18]に記載の潤滑油用添加剤。
[20] [18]又は[19]に記載の潤滑油用添加剤を含む潤滑油。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱可塑性樹脂の耐熱性を向上させ、添加した溶液の高粘度化を抑制する効果を有する高分子化合物及びその製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、重合溶媒やモノマーへの溶解性に優れる組成物及びその製造方法を提供できる。本組成物は、連鎖移動剤として前記高分子化合物の製造に好適に用いうる。また、本組成物は、熱可塑性樹脂の耐熱性を向上させ、添加した溶液の高粘度化を抑制する効果を有する。
さらに、本発明によれば、耐熱性に優れ、塗装作業などの取扱い性にも優れる樹脂組成物を提供できる。本樹脂組成物は、熱分解した成分の揮発による発泡などの悪影響も抑制できる。
さらに、本発明によれば、潤滑油において、温度が変動しても十分に要求性能を満たす粘度指数を付与し、かつ高せん断安定性を有する潤滑油用添加剤を提供できる。これを含む潤滑油は温度変動による粘度変化が少なく、高せん断安定性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
【0009】
[高分子化合物及びその製造方法]
本発明の高分子化合物は、複数のポリマー鎖が2価以上の連結基で連結された高分子化合物であって、前記2価以上の連結基は、チオール基と、チオエーテル構造及びチオウレタン構造の少なくとも一方とを有し、相対重量平均分子量に対する絶対重量平均分子量の比(絶対Mw/相対Mw)が1.25以上である、高分子化合物である。
【0010】
本発明の高分子化合物は、熱可塑性樹脂の耐熱性を向上させ、添加した溶液の高粘度化を抑制する効果を有する。
【0011】
本発明の高分子化合物は、複数のポリマー鎖が2価以上の連結基で連結された高分子化合物である。
【0012】
本発明の高分子化合物の相対重量平均分子量(relative weight average molecular weight;以下、単に「相対Mw」とも記す。)に対する絶対重量平均分子量(absolute weight average molecular weight;以下、単に「絶対Mw」とも記す。)の比(絶対Mw/相対Mw)は、下限値は1.25以上であり、1.27以上であることが好ましく、1.29以上であることがより好ましい。
前記比(絶対Mw/相対Mw)が前記下限値以上であれば、本発明の高分子化合物を添加した溶液が高粘度になることを抑制できる。
前記比(絶対Mw/相対Mw)は、上限値は特に限定されないが、通常、3.00以下であり、2.10以下であることが好ましく、2.00以下であることがより好ましく、1.95以下であることがさらに好ましく、1.90以下であることがいっそう好ましい。
前記比(絶対Mw/相対Mw)が前記上限値以下であれば、熱可塑性樹脂に本発明の高分子化合物を添加した樹脂組成物の耐熱性に優れる。
【0013】
本発明の高分子化合物の相対Mwは、下限値は特に限定されないが、1000以上であることが好ましく、1500以上であることがより好ましく、5000以上であることがさらに好ましく、10000以上であることがいっそう好ましく、20000以上であることがよりいっそう好ましく、40000以上が特に好ましい。
本発明の高分子化合物の相対Mwは、上限値は特に限定されないが、2000000以下が好ましく、1800000以下がより好ましく、1500000以下がさらに好ましく、1200000以下がいっそう好ましく、800000以下がよりいっそう好ましく、500000以下が特に好ましい。
なお、本発明の高分子化合物の相対Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定されるポリメチルメタクリレート換算値である。本発明の高分子化合物の相対Mwは、具体的には、後述の実施例に記載された方法により算出される値である。
【0014】
本発明の高分子化合物の絶対Mwは、下限値は特に限定されないが、1250以上であることが好ましく、1500以上であることがより好ましく、5000以上であることがさらに好ましく、10000以上であることがいっそう好ましく、20000以上であることがよりいっそう好ましく、40000以上であることが特に好ましい。
本発明の高分子化合物の絶対Mwは、上限値は特に限定されないが、2000000以下であることが好ましく、1800000以下であることがより好ましく、1500000以下であることがさらに好ましく、1200000以下であることがいっそう好ましく、800000以下であることがよりいっそう好ましく、500000以下が特に好ましい。
なお、高分子化合物の絶対Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)と光散乱検出器とを用いて測定された分子量を意味し、具体的には、後述の実施例に記載された方法により算出された値を意味する。
【0015】
前記2価以上の連結基(以下、単に「連結基」とも記す。)は、チオール基(-SH)と、チオエーテル構造及びチオウレタン構造の少なくとも一方とを有する。チオエーテル構造とチオウレタン構造の両方を有してもよい。
本発明における「連結基」は、高分子化合物内において、複数のポリマー鎖を連結する部位を意味する。前記複数のポリマー鎖は、互いに同じでもよいし異なっていてもよい。前記ポリマー鎖は、通常、後述する繰り返し単位で構成される。また、前記ポリマー鎖は、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。
【0016】
本発明の高分子化合物は、熱可塑性樹脂に添加すると耐熱性を向上させる効果がある。その理由は以下のように推察される。
本発明の高分子化合物を添加した樹脂組成物は、熱可塑性樹脂が熱分解し始めても、分解により生成したラジカルが、高分子化合物が有するチオール基の連鎖移動反応により消費されるため、熱可塑性樹脂の熱分解が速やかに停止する。また、高分子化合物が熱分解し始めた場合は、チオエーテル構造やチオウレタン構造のS-C結合の開裂を終点にして熱分解が停止する。これにより、分解した高分子化合物の成分は揮発することなく樹脂組成物中に留まるため、高分子化合物のチオール基による耐熱性向上効果が引き続き十分に発揮される。
このように、本発明の高分子化合物によれば、熱可塑性樹脂の耐熱性の向上効果が得られる。高分子化合物は、少量の添加でも効果を奏する。
【0017】
従来、チオール基を有する化合物と他の化合物を反応させた際、意図せず、未反応の微量のチオール基が生成物に残ることがある。これに対して、本発明はチオール基を意図的に残すことで、耐熱性と取扱い性を両立できるという効果を有する。
前記連結基はチオール基を有するが、耐熱性向上効果の点から、本発明の高分子化合物は、チオール基を、1分子あたり、1個以上有することが好ましく、2個以上有することがより好ましく、5個以上有することがさらに好ましい。
本発明の高分子化合物の1分子当たりのチオール基の数は、上限値は特に限定されないが、300個以下であることが好ましい。本発明の高分子化合物の1分子当たりのチオール基の数が前記上限値以下であると、副反応による熱分解抑制効果の阻害が抑えられるため、耐熱性向上効果がより高まる。
【0018】
チオール基の定量は、例えばイールマン試薬を用いた呈色試験や酸化還元滴定法などにより行うことができる。イールマン試薬を用いた呈色試験は以下の方法により行う。まずイールマン試薬とポリマーをそれぞれ4mg/mLと50mg/mLになるようアセトン中に溶解させ、体積比1:2で混合した後1~3時間静置した後、混合溶液を紫外線分光光度計により測定し、450nm~550nmに極大を有するピークの高さからチオール基の数を算出できる。
【0019】
前記連結基は、後述する連鎖移動剤(F)に由来する2価以上の基であることが好ましい。
【0020】
連鎖移動剤(F)は、多官能チオール化合物(A)に由来する部位と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)(以下、単に「化合物(B)」という場合がある。)に由来する部位と、を有する。
連鎖移動剤(F)は、多官能チオール化合物(A)のチオール基と、化合物(B)のチオール基と反応する反応性基と、が反応して形成されたチオエーテル構造及びチオウレタン構造の少なくとも一方を有し、かつ、複数のチオール基を有する化合物である。連鎖移動剤(F)は、チオエーテル構造及びチオウレタン構造の両方を有してもよい。また、連鎖移動剤(F)は、異なる複数の化合物の混合物であってもよい。
【0021】
例えば、多官能チオール化合物(A)と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)とを反応させてチオール基を有する連鎖移動剤(F)を得、この連鎖移動剤(F)とラジカル重合開始剤の存在下でビニル系化合物を重合することにより、高分子化合物を得ることができる。
すなわち、連鎖移動剤(F)を用いてビニル系化合物のラジカル重合を行い、連鎖移動剤(F)が有する複数のチオール基の一部がポリマー鎖の成長の起点となることでチオール基が当該ポリマー鎖と結合し、残りのチオール基を未反応のまま残すことで、本発明に係る、前記連結基を有する高分子化合物が生成する。
【0022】
多官能チオール化合物(A)は、チオール基を分子内に少なくとも2つ有する化合物である。
多官能チオール化合物(A)としては、脂肪族ポリチオール化合物又は芳香族ポリチオール化合物が挙げられる。
【0023】
前記脂肪酸ポリチオール化合物としては、チオール基以外に硫黄原子を有しない脂肪族ポリチオール化合物、又はチオール基以外に硫黄原子を有する脂肪族ポリチオール化合物が挙げられる。
【0024】
前記芳香族ポリチオール化合物としては、チオール基以外に硫黄原子を有しない芳香族ポリチオール化合物、又はチオール基以外に硫黄原子を有する芳香族ポリチオール化合物が挙げられる。
【0025】
前記チオール基以外に硫黄原子を有しない脂肪族ポリチオール化合物としては、メタンジチオール、1,2-エタンジチオール、1,1-プロパンジチオール、1,2-プロパンジチオール、1,3-プロパンジチオール、2,2-プロパンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,2,3-プロパントリチオール、1,1-シクロヘキサンジチオール、1,2-シクロヘキサンジチオール、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジチオール、3,4-ジメトキシブタン-1,2-ジチオール、2-メチルシクロヘキサン-2,3-ジチオール、1,1-ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、チオリンゴ酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール(2-メルカプトアセテート)、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール(3-メルカプトプロピオネート)、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール(3-メルカプトブチレート)、ジエチレングリコールビス(2-メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、1,2-ジメルカプトプロピルメチルエーテル、2,3-ジメルカプトプロピルメチルエーテル、2,2-ビス(メルカプトメチル)-1,3-プロパンジチオール、ビス(2-メルカプトエチル)エーテル、エチレングリコールビス(2-メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパンビス(2-メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパンビス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパンビス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)(ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレートとも言う。)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、ジペンタエリスリトールヘキサキス(2-メルカプトアセテート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、及びジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトブチレート)が例示される。
【0026】
前記チオール基以外に硫黄原子を有する脂肪族ポリチオール化合物としては、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(メルカプトメチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトプロピル)スルフィド、ビス(メルカプトメチルチオ)メタン、ビス(2-メルカプトエチルチオ)メタン、ビス(3-メルカプトプロピルチオ)メタン、1,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)エタン、1,2-ビス(3-メルカプトプロピル)エタン、1,3-ビス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,3-ビス(2-メルカプトエチルチオ)プロパン、1,3-ビス(3-メルカプトプロピルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(2-メルカプトエチルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(3-メルカプトプロピルチオ)プロパン、1,2-ビス[(2-メルカプトエチル)チオ]-3-メルカプトプロパン、4-メルカプトメチル-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオール、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-メルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-メルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-メルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、テトラキス(メルカプトメチルチオメチル)メタン、テトラキス(2-メルカプトエチルチオメチル)メタン、テトラキス(3-メルカプトプロピルチオメチル)メタン、ビス(2,3-ジメルカプトプロピル)スルフィド、ビス(1,3-ジメルカプトプロピル)スルフィド、2,5-ジメルカプト-1,4-ジチアン、2,5-ジメルカプトメチル-1,4-ジチアン、2,5-ジメルカプトメチル-2,5-ジメチル-1,4-ジチアン、ビス(メルカプトメチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、及びビス(メルカプトプロピル)ジスルフィドが例示される。
【0027】
また、前記チオール基以外に硫黄原子を有する脂肪族ポリチオール化合物としては、ヒドロキシメチルスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチルスルフィドビス(3-メルカプトブチレート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(3-メルカプトブチレート)、ヒドロキシプロピルスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシプロピルスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシプロピルスルフィドビス(3-メルカプトブチレート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(3-メルカプトブチレート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(3-メルカプトブチレート)、ヒドロキシプロピルジスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシプロピルジスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシプロピルジスルフィドビス(3-メルカプトブチレート)、2-メルカプトエチルエーテルビス(2-メルカプトアセテート)、2-メルカプトエチルエーテルビス(3-メルカプトプロピオネート)、2-メルカプトエチルエーテルビス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ジチアン-2,5-ジオールビス(2-メルカプトアセテート)、1,4-ジチアン-2,5-ジオールビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,4-ジチアン-2,5-ジオールビス(3-メルカプトブチレート)、チオジグリコール酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、チオジブタン酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、4,4-チオジブチル酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、ジチオジグリコール酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、ジチオジブタン酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、4,4-ジチオジブチル酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、チオジグリコール酸ビス(2,3-ジメルカプトプロピルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2,3-ジメルカプトプロピルエステル)、チオジブタン酸ビス(2,3-ジメルカプトプロピルエステル)、ジチオグリコール酸ビス(2,3-ジメルカプトプロピルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2,3-ジメルカプトプロピルエステル)、及びジチオジブタン酸ビス(2,3-ジメルカプトプロピルエステル)も例示される。
【0028】
前記チオール基以外に硫黄原子を有しない芳香族ポリチオール化合物としては、1,2-ジメルカプトベンゼン、1,3-ジメルカプトベンゼン、1,4-ジメルカプトベンゼン、1,2-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,3-トリメルカプトベンゼン、1,2,4-トリメルカプトベンゼン、1,3,5-トリメルカプトベンゼン、1,2,3-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,4-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,3-トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,4-トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、2,5-トルエンジチオール、3,4-トルエンジチオール、1,3-ジ(p-メトキシフェニル)プロパン-2,2-ジチオール、1,3-ジフェニルプロパン-2,2-ジチオール、フェニルメタン-1,1-ジチオール、及び2,4-ジ(p-メルカプトフェニル)ペンタンが例示される。
【0029】
前記チオール基以外に硫黄原子を有する芳香族ポリチオール化合物としては、1,2-ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,3-トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,4-トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3-トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,4-トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼンを例示できる。
【0030】
本発明に用いる多官能チオール化合物(A)とは、特に限定されないが、脂肪酸ポリチオール化合物が好ましく、連鎖移動による連結基の分解を抑制する点から、チオール基以外にジスルフィド結合を有しない脂肪族ポリチオール化合物がより好ましく、チオール基以外に硫黄原子を有しない脂肪族ポリチオール化合物がさらに好ましい。
【0031】
多官能チオール化合物(A)の1分子あたりのチオール基の平均数は、下限値は特に限定されないが、1.5より大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、2.5以上であることがさらに好ましい。
一方、多官能チオール化合物(A)の1分子あたりのチオール基の平均数は、上限値は特に限定されないが、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましい。
【0032】
多官能チオール化合物(A)としては、分子内にエステルを有する多官能チオール化合物が好ましい。
前記分子内にエステルを有する多官能チオール化合物としては、分子内にエステルを有する脂肪酸ポリチオール化合物が好ましく、分子内にエステルを有し、チオール基以外にジスルフィド結合を有しない脂肪族ポリチオール化合物がより好ましく、分子内にエステルを有し、チオール基以外に硫黄原子を有しない脂肪族ポリチオール化合物がさらに好ましい。
【0033】
多官能チオール化合物(A)としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート(PEMP)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)(PEMA)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)(DPMP)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)(EGMP)、及びペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)が例示される。
多官能チオール化合物(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
多官能チオール化合物(A)の分子量は、下限値は特に限定されないが、80以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましい。
多官能チオール化合物(A)の分子量が前記下限値以上であると、臭気による取扱いの困難がより解消されやすい。
一方、多官能チオール化合物(A)の分子量は、上限値は特に限定されないが、2000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましい。
多官能チオール化合物(A)の分子量が前記上限値以下であると、粘度上昇による取扱いの困難がより解消されやすい。
なお、多官能チオール化合物(A)の分子量は、化学構造に基づいて理論的に算出される分子量である。
【0035】
化合物(B)は、チオール基と反応する反応性基(以下、単に「反応性基」とも記す。)を分子内に少なくとも1つ有する化合物である。
【0036】
前記反応性基は、例えば、チオール基と反応してS-C結合を形成し得る官能基である。
前記反応性基としては、(メタ)アクリレート基、ビニル基(ただし、(メタ)アクリレート基に含まれるビニル基を除く。)、グリシジル基、イソシアネート基が例示される。
前記反応性基としては、チオール基との付加反応性が高い点から、アクリレート基、グリシジル基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0037】
多官能チオール化合物(A)のチオール基と、化合物(B)の(メタ)アクリレート基、ビニル基又はグリシジル基とが反応することで、チオエーテル構造(R-S-R’)が形成される。多官能チオール化合物(A)のチオール基と、化合物(B)のイソシアネート基が反応することで、チオウレタン構造(R-S-C(=O)-NH-R’又はR-S-C(=S)-NH-R’)が形成される。R及びR’はそれぞれ任意の有機基を表す。
これにより、化合物(B)を介して多官能チオール化合物(A)が結合し、1分子内に多くのチオール基を、距離を離して存在させることができる。これを連鎖移動剤(F)とすることで、生成するポリマー鎖の立体障害の影響を受けにくくなり、複数のポリマー鎖を有する高分子化合物を製造できる。すなわち、多官能チオール化合物(A)単独では製造が困難な、高分岐度を有する高分子化合物を製造しうる。
【0038】
化合物(B)としては、アクリル酸、メタクリル酸、モノ(メタ)アクリレート系化合物、ポリ(メタ)アクリレート系化合物、モノビニル系化合物、ポリビニル系化合物、モノエポキシ系化合物、ポリエポキシ系化合物、モノイソシアネート系化合物、及びポリイソシアネート系化合物が例示される。
【0039】
前記モノ(メタ)アクリレート系化合物としては、炭素原子数1~30の直鎖又は分岐アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、及びエトキシエトキシエチル(メタ)アクリレートが例示される。
【0040】
前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物としては、ジオールとアクリル酸とを反応させて得られるジエステル化合物、1分子あたり3個以上の水酸基を有する化合物とアクリル酸とを反応させて得られるポリエステル化合物、及び2個以上のエポキシ基を有する化合物とアクリル酸とを反応させて得られる化合物が例示される。
前記ジオールとアクリル酸とを反応させて得られるジエステル化合物の具体例は、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジアクリロキシプロパン、2,2-ビス〔4-(アクリロシキエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル〕プロパン、ビス〔4-(アクリロキシ・エトキシ)フェニル〕メタン、及び2-ヒドロキシ-1-アクリロキシ-3-アクリロキシプロパンである。
前記1分子あたり3個以上の水酸基を有する化合物とアクリル酸とを反応させて得られるポリエステル化合物の具体例は、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラキスアクリレート(テトラメチロールメタンテトラアクリレート)、及びジペンタエリスリトールヘキサキスアクリレートである。
前記2個以上のエポキシ基を有する化合物とアクリル酸とを反応させて得られる化合物の具体例は、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及びビスフェノールFジグリシジルエーテルである。
【0041】
前記モノビニル系化合物としては、スチレン系化合物、ビニルエーテル系化合物、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル、フマル酸のジアルキルエステル、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル、マレイン酸のジアルキルエステル、イタコン酸、イタコン酸のモノアルキルエステル、イタコン酸のジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ビニルケトン、ビニルピリジン、及びビニルカルバゾールが例示される。
前記スチレン系化合物の具体例は、α-メチルスチレン、ビニルトルエン及びスチレンである。
前記ビニルエーテル系化合物の具体例は、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル及びイソブチルビニルエーテルである。
【0042】
前記ポリビニル系化合物としては、ブタジエン、イソプレン及びアリルアクリレート、並びに前述したモノビニル系化合物と同等の構造を1分子中に複数有する化合物が例示される。
前記モノビニル系化合物と同等の構造を1分子中に複数有する化合物としては、例えば、ジビニルベンゼンが挙げられる。
【0043】
前記モノエポキシ系化合物としては、フェニルグリシジルエーテル、クレシルグリシジルエーテル、p-t-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、炭素原子数が12~14のアルコールグリシジルエーテル、ブタンジグリシジルエーテル、ヘキサンジグリシジルエーテル及びシクロヘキサンジメチルジグリシジルエーテル、並びにポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールをベースとするグリシジルエーテルが例示される。
【0044】
前記ポリエポキシ系化合物としては、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノール型エポキシ樹脂及びノボラック型エポキシ樹脂、並びに複数のグリシジル基を有する化合物が例示される。
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びビスフェノールA/ビスフェノールF共重合型エポキシ樹脂が例示される。
前記ノボラック型エポキシ樹脂としては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂が例示される。
前記複数のグリシジル基を有する化合物としては、トリグリシジルアミノフェノール、ビフェニルジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート及びポリグリシジル(メタ)アクリレート、並びにグリシジル(メタ)アクリレートとこれと共重合可能なビニル系モノマーとのコポリマーが例示される。
【0045】
前記モノイソシアネート系化合物としては、n-ブチルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、フェニルイソシアネート及びベンジルイソシアネートが例示される。
【0046】
前記ポリイソシアネート系化合物としては、ジイソシアネート、変性イソシアネート及びトリイソシアネートが例示される。
前記ジイソシアネートの具体例としては、1,2-ジイソシアナトベンゼン、1,3-ジイソシアナトベンゼン、1,4-ジイソシアナトベンゼン、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、2,4-ジイソシアナトトルエン、エチルフェニレンジイソシアナート、イソプロピルフェニレンジイソシアナート、ジメチルフェニレンジイソシアネート、ジエチルフェニレンジイソシアネート、ジイソプロピルフェニレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアネート)、4,4’-メチレンビス(2-メチルフェニルイソシアネート)、ビベンジル-4,4’-ジイソシアネート、ビス(イソシアナトフェニル)エチレン、イソホロンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルイソシアネート)、3,8-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、3,9-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,8-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、及び4,9-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカンが挙げられる。
前記変性イソシアネートとしては、例えば、ジイソシアネートのビウレット型又はイソシアヌレート型が挙げられる。
前記トリイソシアネートの具体例としては、トリイソシアナトノナン、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリメチルベンゼントリイソシアネート、ベンゼントリイソシアネート、及びトルエントリイソシアネートが挙げられる。
【0047】
イソシアネート化合物の他の例としては、ポリアミン及びポリオールのいずれか一方又は両方で鎖長伸長されたイソシアネート化合物が例示される。
【0048】
化合物(B)としては、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、テトラエチレングリコールジアクリレート等が好ましい。
化合物(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
化合物(B)の1分子あたりの反応性基の数は、下限値は特に限定されないが、1以上であることが好ましい。
化合物(B)の1分子あたりの反応性基の数は、上限値は特に限定されないが、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。
化合物(B)を1種だけ用いる場合は、化合物(B)の1分子あたりの反応性基の数は2以上であることが好ましい。
化合物(B)の1分子あたりの反応性基の平均数は、本発明の高分子化合物が得られやすい点から、1.2~8であることが好ましく、1.3~6であることがより好ましく、1.5~3であることがさらに好ましい。
【0050】
化合物(B)の分子量は、下限値は特に限定されないが、80以上であることが好ましく、180以上であることがより好ましく、200以上であることがさらに好ましい。
化合物(B)の分子量が前記下限値以上であると、化合物(B)を連鎖移動剤(F)として重合に用いる際の溶媒への溶解性がさらに改善され、また、揮発による取り扱いの困難がより解消されやすい。
一方、化合物(B)の分子量は、上限値は特に限定されないが、2000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましく、400以下であることがさらに好ましい。
化合物(B)の分子量が前記上限値以下であると、粘度上昇による取扱いの困難がより解消しやすい。
なお、化合物(B)の分子量は、化学構造に基づいて理論的に算出される分子量である。
【0051】
前記連結基は、チオエーテル構造とチオウレタン構造の少なくとも一方を有する。
前記連結基がチオエーテル構造を有する場合、耐熱性向上の点から、式(1)で表される構造を有することが好ましい。
また、前記連結基がチオウレタン構造を有する場合、耐熱性向上の点から、式(2)で表される構造を有することが好ましい。
式(1)で表される構造は、例えば、多官能チオール化合物(A)のチオール基と、モノ(メタ)アクリレート系化合物又はポリ(メタ)アクリレート系化合物の(メタ)アクリレート基とを反応させることで形成できる。
また、式(2)で表される構造は、例えば、多官能チオール化合物(A)のチオール基と、モノイソシアネート系化合物又はポリモノイソシアネート系化合物のイソシアネート基とを反応させることで形成できる。
【0052】
【0053】
式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、1価の炭化水素基、水酸基又は1価の電子吸引性基である。
【0054】
前記1価の炭化水素基は、特に限定されないが、アルキル基であることが好ましく、炭素数6以下のアルキル基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることがさらに好ましく、メチル基であることがいっそう好ましい。
【0055】
前記1価の電子吸引性基は、特に限定されないが、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、トリフルオロメチル基等のハロゲン化炭化水素基、カルボキシル基(-COOH)、メトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基(-COOR)、フェノキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基(-COOR)、アセチル基等のアシル基(-COR)、シアノ基(-CN)、アリール基又はその置換体、ニトロ基(-NO2)、スルホ基(-SO3H)、アルコキシスルホニル基(-SO3R)、アルカンスルホニル基(-SO2R)、アルカンスルフィニル基(-SOR)、カルバモイル基(-CONH2)、又はアルキルカルバモイル基(-CONHR)であることが好ましい。
【0056】
R1は、水素原子であることが好ましい。また、R2は、水素原子、メチル基又は水酸基であることが好ましい。
【0057】
式(1)中、R3は、酸素原子、2価の炭化水素基、又は2価の電子吸引性基である。
【0058】
前記2価の炭化水素基は、特に限定されないが、アルキレン基であることが好ましく、炭素数6以下のアルキレン基であることがより好ましく、メチレン基又はエチレン基であることがさらに好ましく、メチレン基であることがいっそう好ましい。
【0059】
前記2価の電子吸引性基は、特に限定されないが、カルボニル基(-CO-)、エステル基(-COO-)、スルホ基(-SO3-)、スルホニル基(-SO2-)、スルフィニル基(-SO-)、アミド基(-CONH-)、又はアリール基若しくはその置換体等であることが好ましい。
【0060】
R3は、メチレン基又はエステル基であることが好ましい。
【0061】
式(1)中、-*は、結合手である。
【0062】
式(1)において、R1が水素原子であり、R2が水素原子、メチル基又は水酸基であり、R3がメチレン基又はエステル基である組み合わせが好ましく、R1が水素原子であり、R2が水酸基であり、R3がメチレン基である組み合わせ、又は、R1が水素原子であり、R2が水素原子若しくはメチル基であり、R3がエステル基である組み合わせがより好ましい。
【0063】
式(2)中、Xは、酸素原子又は硫黄原子であり、酸素原子であることが好ましい。
【0064】
式(2)中、-*は、結合手である。
【0065】
前記連結基は、長期熱安定性に優れる点及び製造しやすく多様な化合物を得やすい点から、チオエーテル構造を有することが好ましく、式(1)で表される構造を有することがより好ましい。前記連結基がチオエーテル構造を有する場合、本発明の高分子化合物は、チオエーテル構造が系中の過酸化物分解能を有しているため、長期熱安定性に優れる傾向がある。
また、前記連結基は、チオウレタン構造を有することが好ましい。前記連結基がチオウレタン構造を有する場合、本発明の高分子化合物は、凝集力が高いことから、力学特性に優れる傾向がある。
【0066】
連鎖移動剤(F)は、例えば、多官能チオール化合物(A)と化合物(B)とを付加重合反応させることで得られる。
多官能チオール化合物(A)と化合物(B)との付加重合反応では、溶媒を使用してもよいし、溶媒を使用しなくてもよい。前記付加重合反応において溶媒を使用する場合、溶媒は特に限定されず、例えば、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン(THF)又はトルエンを使用できる。ただし、前記付加重合反応において溶媒を使用する場合、反応効率向上のために、前記付加反応の開始時の溶媒量は、多官能チオール化合物(A)及び化合物(B)の総質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、溶媒を使用しないことがいっそう好ましい。
【0067】
多官能チオール化合物(A)と化合物(B)との付加重合反応に用いる多官能チオール化合物(A)のチオール基の総量と、化合物(B)の反応性基の総量とのモル比(反応性基/チオール基)は、下限は特に限定されないが、1/8以上であることが好ましい。
一方、前記モル比(反応性基/チオール基)は、上限は特に限定されないが、1/1.2以下であることが好ましく、1/1.5以下であることがより好ましく、1/3以下であることがさらに好ましい。
前記モル比(反応性基/チオール基)が、前記下限値以上前記上限値以下であると、複数のチオール基を有する連鎖移動剤(F)が得られやすくなる。
【0068】
多官能チオール化合物(A)と化合物(B)との付加重合反応中の外温は、特に限定されないが、10~80℃が好ましく、10~50℃がより好ましく、25~50℃がさらに好ましい。反応中の外温とは、例えば、反応容器を加温するウォーターバスやオイルバスの設定温度を言う。
【0069】
多官能チオール化合物(A)と化合物(B)との付加重合反応の反応時間は、0.05~10時間が好ましく、2~5時間がより好ましい。前記反応時間が0.05時間以上であると、反応原料が未反応のまま残ることを抑制しやすい。
【0070】
多官能チオール化合物(A)と化合物(B)との付加重合反応は、触媒(C)の存在下で行うことが好ましい。触媒(C)としては、特段の制限はないが、ホスフィン化合物が好ましい。ホスフィン化合物は、化合物(B)の反応性基に対して求核攻撃することで、双性イオン中間体であるホスフィンエノラートを与える。ホスフィンエノラートは塩基性が強いため、チオール基からプロトンを引き抜き、ホスフォニウムとなると同時に、チオレートアニオンを生じさせる。続いてチオレートアニオンが反応性基へ求核付加し、他のチオール基又はホスフォニウムからプロトンを引き抜くことで、チオール基と反応性基が結合する。
【0071】
前記ホスフィン化合物として、例えば、ホスフィン類及びジホスフィン類が挙げられる。
前記ホスフィン類の具体例として、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-t-ブチルホスフィン、トリ-n-オクチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、トリ-m-トリルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリ-2,4-キシリルホスフィン、トリ-2,5-キシリルホスフィン、トリ-3,5-キシリルホスフィン、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p-t-ブトキシフェニル)ホスフィン、ジ-t-ブチルフェニルホスフィン、[4-(N,N-ジメチルアミノ)フェニル]ジ-t-ブチルホスフィン、ジ-t-ブチル(2-ブテニル)ホスフィン、ジ-t-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン、及びトリメシチルホスフィンが挙げられる。
【0072】
前記ジホスフィン類の具体例として、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、2,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、及び1,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタンが挙げられる。
【0073】
触媒(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
触媒(C)の使用量は、多官能チオール化合物(A)の1gに対して、0.001~10質量%が好ましく、0.002~5質量%がより好ましく、0.004~3質量%がさらに好ましい。触媒(C)の使用量が前記範囲の下限値以上であれば、反応が進行しやすく、前記範囲の上限値以下であれば、残存触媒の影響がない。
【0074】
本発明の高分子化合物におけるポリマー鎖は、ラジカル重合性モノマー(D)に由来する構成単位を有する。
ラジカル重合性モノマー(D)としては、例えば、化合物(B)において例示したアクリル酸、メタクリル酸、モノ(メタ)アクリレート系化合物、ポリ(メタ)アクリレート系化合物、モノビニル系化合物及びポリビニル系化合物が挙げられる。
前記ポリマー鎖を形成するラジカル重合性モノマー(D)に由来する構成単位は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0075】
本発明の高分子化合物は、例えば、連鎖移動剤(F)を用いて、ラジカル重合性モノマー(D)をラジカル重合することで得られる。
ラジカル重合性モノマー(D)のラジカル重合の際の連鎖移動剤(F)の使用量は、ラジカル重合性モノマー(D)の総量100質量部に対して、0.2~20質量部が好ましく、0.6~15質量部がより好ましい。
【0076】
前記ラジカル重合の形態としては、例えば、溶液重合、塊状重合、懸濁重合又は乳化重合が挙げられる。
【0077】
前記ラジカル重合に用いる重合溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素系溶媒(トルエン、エチルベンゼン、キシレン等)、脂肪族炭化水素系溶媒(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等)、エステル系溶媒(酢酸ブチル等)、及びアルコール系溶媒(メタノール、エタノール等)が挙げられる。
前記重合溶媒は、1種でもよく、2種以上でもよい。
前記重合溶媒の使用量は、ラジカル重合性モノマー(D)の総量100質量部に対して、50~500質量部が好ましく、100~300質量部がより好ましい。
【0078】
前記ラジカル重合に用いるラジカル重合開始剤としては、例えば、ジベンゾイルペルオキシド及びtert-ブチルペルマレエート等の過酸化物、並びに2,2’-アゾビスイソブチロニトリル及びアゾビスイソバレロニトリル等のアゾ系化合物が挙げられる。
前記ラジカル重合開始剤は、1種でもよく、2種以上でもよい。
前記ラジカル重合開始剤の使用量は、ラジカル重合性モノマー(D)の総量100質量部に対して、0.0001~10質量部が好ましく、0.001~1質量部がより好ましい。
【0079】
前記ラジカル重合の重合温度は、適宜設定でき、例えば、前記ラジカル重合開始剤の使用温度範囲として好適である点で、-100~250℃が好ましい。
【0080】
前記ラジカル重合の重合時間は、適宜設定でき、例えば、0.5~48時間とすることができる。
【0081】
以上説明したように、本発明の高分子化合物は、複数のポリマー鎖が前記連結基で連結され、前記連結基がチオール基と、チオエーテル構造及びチオウレタン構造の少なくとも一方とを有し、前記比(絶対Mw/相対Mw)が特定の範囲に制御されている。これにより、熱可塑性樹脂の耐熱性を向上させる効果と、添加した溶液の高粘度化を抑制する効果とを両立できる。
【0082】
[組成物及びその製造方法]
本発明の組成物は、多官能チオール化合物(A)に由来する部位と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)に由来する部位とを有する化合物(E)を主成分とする組成物であって、式(11)及び(12)を満たす組成物である。
r×(fA-1)×(fB-1)<1.2 ・・・(11)
r=(fB×y)/(fA×x) ・・・(12)
式(11)中、fAは、前記多官能チオール化合物(A)の1分子あたりのチオール基の平均数である。fBは、前記化合物(B)の1分子あたりの前記反応性基の平均数である。fAは2.0以上であり、fBは1.2以上である。ただし、チオール基数が2の化合物(A)のみ、かつ、前記反応性基の数が2の化合物(B)のみである場合を除く。rは、前記多官能チオール化合物(A)に由来する部位と前記化合物(B)に由来する部位のモル比をx:yとしたとき、式(12)で算出される値である。
【0083】
本発明の組成物は、重合溶媒やモノマーへの溶解性に優れ、連鎖移動剤として前記高分子化合物の製造に好適に用いうる。また、本発明の組成物は、熱可塑性樹脂の耐熱性を向上させ、添加した溶液の高粘度化を抑制する効果を有する。
【0084】
化合物(E)は、式(11)及び(12)を満たす単一の化合物であってもよいし、式(11)及び(12)を満たす複数の化合物群であってもよい。
本発明の組成物は、化合物(E)を主成分とする。すなわち、化合物(E)を質量比で最も多く含んでいればよく、化合物(E)以外にも例えば、未反応の多官能チオール化合物(A)又は化合物(B)等を含んでいてもよい。
本発明の組成物は、前記組成物の総質量に対して、化合物(E)を、50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがさらに好ましく、90質量%以上含むことがいっそう好ましい。
【0085】
化合物(E)は、多官能チオール化合物(A)に由来する部位と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)に由来する部位とを有する。
化合物(E)において、多官能チオール化合物(A)に由来する部位とは、多官能チオール化合物(A)と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)とが反応した際に形成される構造において、多官能チオール化合物(A)に基づいて形成された部位を意味する。
同様に、化合物(E)において、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)に由来する部位とは、多官能チオール化合物(A)と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)とが反応した際に形成される構造において、化合物(B)に基づいて形成された部位を意味する。
なお、本発明において、多官能チオール化合物(A)に由来する部位を、多官能チオール化合物(A)からなる構成単位という場合がある。
また、本発明において、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)に由来する部位を、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)からなる構成単位という場合がある。
【0086】
チオエーテル構造又はチオウレタン構造としては、耐熱性向上の点から、式(1)又は式(2)に示す構造を有する部位が挙げられる。
【0087】
【0088】
化合物(E)は、製造しやすく多様な化合物を得やすい点で、チオエーテル構造を有することが好ましく、式(1)で表される構造を有することがより好ましい。
化合物(E)がチオエーテル構造を有すると、化合物(E)を連鎖移動剤に用いた重合により得られる高分子化合物が長期熱安定性に優れる傾向がある。
また、化合物(E)がチオエーテル構造を有すると、化合物(E)を連鎖移動剤に用いた重合により得られる高分子化合物が力学特性に優れる傾向がある。
【0089】
化合物(E)は、1分子あたり、少なくとも1つのチオール基を有することが好ましい。
化合物(E)の1分子あたりのチオール基の平均数は、下限値は特に限定されないが、3以上であることが好ましく、4以上であることがさらに好ましい。
一方、化合物(E)の1分子あたりのチオール基の平均数は、上限値は特に限定されないが、50以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましい。
化合物(E)の1分子あたりのチオール基の平均数が前記下限値以上であると、本発明の組成物を連鎖移動剤として用いた場合に得られるポリマーの分岐数が十分となりやすいほか、ポリマーの耐熱性を高める効果もある。
化合物(E)の1分子あたりのチオール基の平均数が前記上限値以下であると、本発明の組成物を連鎖移動剤として用いた場合に得られるポリマーの溶液粘度が低減できる。
【0090】
多官能チオール化合物(A)、及び、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)については、前述の記載をそのまま適用できる。
【0091】
本発明の組成物は、式(11)及び(12)を満たす。
r×(fA-1)×(fB-1)<1.2 ・・・(11)
r=(fB×y)/(fA×x) ・・・(12)
式(11)中、fAは、前記多官能チオール化合物(A)の1分子あたりのチオール基の平均数である。fBは、前記化合物(B)の1分子あたりの前記反応性基の平均数である。fAは2.0以上であり、fBは1.2以上である。ただし、チオール基数が2の化合物(A)のみ、かつ、前記反応性基の数が2の化合物(B)のみである場合を除く。rは、前記多官能チオール化合物(A)に由来する部位と前記化合物(B)に由来する部位のモル比をx:yとしたとき、式(12)で算出される値である。
【0092】
本発明の組成物は、式(11)及び(12)を満たすことにより、重合溶媒及びモノマーへの溶解性に優れる。理由は、例えば以下のように推察される。式(11)の(fA-1)と(fB-1)の各値が小さいと組成物製造時の反応点が少なくなるため、組成物の分子量が大きくなりすぎず、優れた溶解性を有する。rの値が小さいと生成物のチオール基数が増え、組成物の分岐数が大きくなり、溶解性が高まる。
なお、r、(fA-1)、(fB-1)の各値を全て小さくしようとすると製造原料等に大きな制約がかかるが、本発明では、式(11)すなわちr×(fA-1)×(fB-1)の積を1.2未満とするよう考慮して組成物の製造原料等を調整すればよく、必ずしも各値全てを小さくする必要はない。この観点から、本発明は組成物の製造における原料等の選択の自由度が高いという優位性も備える。
【0093】
式(11)の値は、1.2以下である。本発明者らは、化合物(E)を含む組成物においては、式(11)が1.2以下であると、重合溶媒やモノマーへの溶解性に優れ、連鎖移動剤にも適することを見出した。式(11)の値が1.2を超えると、ゲル化したり硬化したりしやすく、溶媒に溶解せず、他の樹脂等とも相溶しなくなってしまう。
式(11)の値は、上限値は1.2以下であり、1.15以下であることが好ましく、1.1以下であることがより好ましい。一方、式(11)の値は、下限値は特に限定されないが、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。式(11)の値が前記範囲の上限値以下であれば、重合溶媒及びモノマーへの溶解性がより優れる。式(11)の値が前記範囲の下限値以上であれば、得られる化合物(E)1分子あたりの未反応の官能基数が増加し、連鎖移動剤として用いやすくなる。例えば、化合物(E)を含む本発明の組成物を連鎖移動剤として用いると、得られるポリマーの溶液粘度が低減でき取扱い性が高まる。
【0094】
多官能チオール化合物(A)の1分子あたりのチオール基の平均数fAは、下限値は2.0以上であり、2.5以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましい。一方、多官能チオール化合物(A)の1分子あたりのチオール基の平均数fAは、上限値は特に限定されないが、多分岐チオール化合物(A)の不溶化を防ぐ点から、9.0以下であることが好ましく、6.0以下であることがより好ましい。
【0095】
化合物(B)の1分子あたりの反応性基の平均数fBは、下限値は1.2以上であり、1.3以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。一方、化合物(B)の1分子あたりの反応性基の平均数fBは、上限値は特に限定されないが、生成物に残存する未反応のチオール基を低減する点から、6.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。
【0096】
ただし、チオール基数が2の化合物(A)のみ、かつ、前記反応性基の数が2の化合物(B)のみである場合を除く。すなわち、チオール基を2個有する多分岐チオール化合物(A)と、チオール基と反応する反応性基を2個有する化合物(B)のみを反応させた場合、得られる化合物(E)がほぼ直鎖状となる。このため、化合物(E)を連鎖移動剤として用いた場合、得られるポリマーの分岐数が不十分となってしまう。
【0097】
また、fA+fBは、下限値は特に限定されないが、4.0超であることが好ましく、4.5以上であることがより好ましくは、5.0以上であることがさらに好ましい。fA+fBが4.0超であると、得られる化合物(E)の分岐が多くなり、組成物の溶解性が高まる。fA+fBは、上限値は特に限定されないが、通常、12.0以下であり、10.0以下であることが好ましい。
【0098】
化合物(B)に由来する部位のモル数yに対する、多官能チオール化合物(A)に由来する部位のモル数xの比率(x/y)は、下限値は特に限定されないが、0.5以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましい。一方、前記比率(x/y)は、上限値は特に限定されないが、8.0以下であることが好ましく、6.0以下であることがより好ましく、4.0以下であることがさらに好ましい。
前記比率(x/y)を前記下限値以上上限値以下とすることが、化合物(E)の分岐数や溶解性の点から好ましい。また、化合物(E)がチオール基を有しやすく、連鎖移動剤として用いやすい。
【0099】
本発明の組成物の相対Mwは、溶解性等の点で、1000以上であることが好ましく、1000~50000であることがより好ましく、2000~20000であることがさらに好ましい。
なお、組成物の相対Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定されるポリメチルメタクリレート換算値であり、具体的には後述の実施例に記載された方法により算出された値を意味する。本発明の組成物のGPC測定で得られる微分分子量分布においては、典型的には、分子量1000以上の領域に複数の分子量ピークが観測される。この場合、それら複数の分子量ピークがいずれも前記範囲に含まれていることが好ましい。
【0100】
本発明の組成物の製造方法としては、多官能チオール化合物(A)と、チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)とを、式(13)及び(14)を満たす条件で反応させることが好ましい。
r’×(fA-1)×(fB-1)<1.2 ・・・(13)
r’=(fB×y’)/(fA×x’) ・・・(14)
式(13)中、fAは、前記多官能チオール化合物(A)の1分子あたりのチオール基の平均数である。fBは、前記化合物(B)の1分子あたりの前記反応性基の平均数である。fAは2.0以上であり、fBは1.2以上である。ただし、チオール基数が2の化合物(A)のみ、かつ、前記反応性基の数が2の化合物(B)のみである場合を除く。r’は、前記多官能チオール化合物(A)と前記化合物(B)のモル比をx’:y’としたとき、式(14)で算出される値である。
【0101】
x’、y’及びr’は、反応の仕込み時の値であるが、反応後の組成物をそのまま「化合物(E)を含む組成物」として用いる場合は、それぞれx、y及びrと等しい。
【0102】
式(13)中のfA及びfBの好ましい範囲は、式(11)中のfA及びfBと同じであり、r’×(fA-1)×(fB-1)の好ましい範囲も式(11)中のr×(fA-1)×(fB-1)と同じである。
また、x’及びy’の好ましい比率はそれぞれ、式(11)中のx及びyの好ましい比率と同じであり、r’の好ましい値も式(11)中のrの好ましい値と同じである。
【0103】
多官能チオール化合物(A)及び化合物(B)としては、それぞれ、上述した多官能チオール化合物(A)及び化合物(B)が挙げられる。
【0104】
得られた組成物は化合物(E)が主成分であることが好ましい。未反応の多官能チオール化合物(A)及び化合物(B)を含んでいてもよい。
【0105】
本反応の条件については、前述の、多官能チオール化合物(A)と化合物(B)とを付加重合反応して連鎖移動剤(F)を得る条件をそのまま適用できる。
また、本反応には特段の制限はないが、触媒(C)の存在下で行うことが好ましい。触媒(C)としては、前述の記載をそのまま適用できる。
【0106】
また、組成物は、必要に応じて、顔料、紫外線吸収剤、接着促進剤、離型剤、安定化剤、酸化防止剤、消泡剤、可塑剤、粘度調整剤等の添加剤と併用してもよい。
前記添加剤の使用量は、前記組成物の総質量に対して、5質量%未満であることが好ましく、3質量%未満であることがより好ましく、1質量%未満であることがさらに好ましい。
【0107】
以上説明したように、本発明においては、化合物(E)を含む組成物が前記条件を満たすことで、分岐数が多く、かつ架橋性ポリマーネットワークが形成されておらず、重合溶媒やモノマーへの溶解性に優れる。
【0108】
本発明の組成物は、ラジカル重合反応系における連鎖移動剤として好適に使用できる。本発明の組成物を連鎖移動剤として用いて製造した分岐ポリマーは、分岐数が多いため、高分子量でも、添加した溶液の粘度を低く保つことができる。そのため、例えば前記分岐ポリマーを添加した塗料は、塗膜の物性向上効果と塗装性とを両立できる。また、この分岐ポリマーは耐熱性に優れる効果も備える。
さらに、本発明の化合物(E)を含む組成物は、熱可塑性樹脂に添加すると熱可塑性樹脂の耐熱性を向上させ、添加した溶液の高粘度化を抑制する効果を有する。このため、本組成物を塗料等への添加剤として用いてもよい。
【0109】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、上述した高分子化合物と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物(第1態様)、又は、上述した組成物と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物(第2態様)である。
【0110】
〈高分子化合物と熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物〉
本発明の樹脂組成物(第1態様)は耐熱性に優れる。
第1態様の樹脂組成物は、本発明の高分子化合物を含むことで、熱可塑性樹脂が熱分解し始めても、高分子化合物のチオール基による連鎖移動反応によって熱可塑性樹脂の熱分解が速やかに停止する。また、高分子化合物が熱分解し始めても、チオエーテル構造又はチオウレタン構造のS-C結合の開裂を終点にして熱分解が停止するため、分解成分が揮発せずに留まり、チオール基による効果が十分に発揮される。また、高分子化合物は沸点が樹脂組成物の成形温度に比べて高い傾向があり、そのため、成形時に高分子化合物が揮発して成形品に発泡等の不具合が生じることも抑制される。
従って、本発明の樹脂組成物(第1態様)を用いた塗料は、塗膜の耐熱性が高い。また、塗料の粘度が上がりにくく取扱い性に優れ、塗装作業が行いやすい効果がある。
【0111】
本発明の高分子化合物は、本発明の樹脂組成物(第1態様)において、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0112】
前記熱可塑性樹脂の具体例として、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテル、ポリオレフィン、液晶ポリマー、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリルスチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリグリシジルメタクリレート(PGMA)、及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー(ABS)が挙げられる。
前記熱可塑性樹脂としては、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリルスチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリグリシジルメタクリレート(PGMA)又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー(ABS)等の付加重合系ポリマーが好ましい。
前記熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0113】
本発明の樹脂組成物(第1態様)中の、本発明の高分子化合物と前記熱可塑性樹脂との質量比(高分子化合物/熱可塑性樹脂)は、下限値は特に限定されないが、0.1/99.9以上であることが好ましく、0.5/99.5以上であることがより好ましく、1/99以上であることがさらに好ましく、2/98以上であることがいっそう好ましく、10/90以上であることが特に好ましい。
一方、前記質量比(高分子化合物/熱可塑性樹脂)は、上限値は特に限定されないが、95/5以下であることが好ましく、90/10以下であることがより好ましく、80/20であることがさらに好ましい。
前記質量比(高分子化合物/熱可塑性樹脂)が前記下限値以上であれば、熱分解抑制効果の発現に必要なチオール基を十分有しているために耐熱性が向上する傾向がある。
前記質量比(高分子化合物/熱可塑性樹脂)が前記上限値以下であれば、熱可塑性樹脂に対する熱分解抑制の寄与が十分に大きいため耐熱性が向上する傾向がある。
【0114】
本発明の樹脂組成物(第1態様)は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、本発明の高分子化合物及び前記熱可塑性樹脂以外の他の成分を含んでもよい。
前記他の成分としては、例えば、顔料、紫外線吸収剤、接着促進剤、離型剤、安定化剤、酸化防止剤、消泡剤、可塑剤、粘度調整剤等の添加剤が挙げられる。
これらの添加剤は公知の化合物を使用することができる。
前記他の成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0115】
また、本発明の樹脂組成物(第1態様)中の前記他の成分の含有量は、使用用途に合わせて適宜選択すればよいが、本発明の樹脂組成物(第1態様)の総質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0116】
本発明の樹脂組成物(第1態様)の製造方法は、特に限定されず、例えば、本発明の高分子化合物、前記熱可塑性樹脂、及び必要に応じて使用する他の成分を公知の方法で混練する方法を例示できる。
本発明の高分子化合物は、溶液が高粘度になりにくく、取扱い性が高いため、熱可塑性樹脂への添加が行いやすい。
【0117】
〈組成物と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物〉
本発明の樹脂組成物(第2態様)は耐熱性に優れる。
第2態様の樹脂組成物は、本発明の組成物を含むことで、熱可塑性樹脂が熱分解し始めても、化合物(E)のチオール基による連鎖移動反応によって熱可塑性樹脂の熱分解が速やかに停止する。また、化合物(E)は耐熱分解性が高く、沸点も高いため揮発せずに留まり、チオール基による効果が十分に発揮される。
従って、本発明の樹脂組成物(第2態様)を用いた塗料は、塗膜の耐熱性が高い。また、塗料の粘度が上がりにくく取扱い性に優れ、塗装作業が行いやすい効果がある。
【0118】
本発明の組成物は、本発明の樹脂組成物(第2態様)において、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0119】
前記熱可塑性樹脂は、本発明の樹脂組成物(第1態様)における熱可塑性樹脂と同様である。
【0120】
本発明の樹脂組成物(第2態様)中の、本発明の組成物と前記熱可塑性樹脂との質量比(組成物/熱可塑性樹脂)は、下限値は特に限定されないが、0.1/99.9以上であることが好ましく、0.5/99.5以上であることがより好ましく、1/99以上であることがさらに好ましく、2/98以上であることがいっそう好ましく、10/90以上であることが特に好ましい。
一方、前記質量比(組成物/熱可塑性樹脂)は、上限値は特に限定されないが、95/5以下であることが好ましく、90/10以下であることがより好ましく、80/20以下であることがさらに好ましい。
前記質量比(組成物/熱可塑性樹脂)が前記下限値以上であれば、熱分解抑制効果の発現に必要なチオール基を十分有しているために耐熱性が向上することになる。
前記質量比(組成物/熱可塑性樹脂)が前記上限値以下であれば、熱可塑性樹脂に対する熱分解抑制の寄与が十分に大きいため耐熱性が向上することになる。
【0121】
本発明の樹脂組成物(第2態様)は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、本発明の組成物及び前記熱可塑性樹脂以外の他の成分を含んでもよい。
前記他の成分としては、例えば、顔料、紫外線吸収剤、接着促進剤、離型剤、安定化剤、酸化防止剤、消泡剤、可塑剤、粘度調整剤等の添加剤が挙げられる。
これらの添加剤は公知の化合物を使用することができる。
前記他の成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0122】
また、本発明の樹脂組成物(第2態様)中の前記他の成分の含有量は、使用用途に合わせて適宜選択すればよいが、本発明の樹脂組成物(第2態様)の総質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0123】
本発明の樹脂組成物(第2態様)の製造方法は、特に限定されず、例えば、本発明の組成物、前記熱可塑性樹脂、及び必要に応じて使用する他の成分を公知の方法で混練する方法を例示できる。
本発明の組成物は、溶液が高粘度になりにくく、取扱い性が高いため、熱可塑性樹脂への添加が行いやすい。
【0124】
なお、本発明の高分子化合物及び本発明の組成物の両方を、前記熱可塑性樹脂に添加して樹脂組成物としてもよい。その場合、本発明の高分子化合物及び本発明の組成物の両方の合計量を用いて樹脂組成物との質量比とする。
【0125】
[潤滑油用添加剤及び潤滑油]
本発明の潤滑油用添加剤は、複数のポリマー鎖が2価以上の連結基で連結された高分子化合物であって、前記連結基は、チオール基と、チオエーテル構造及びチオウレタン構造の少なくとも一方とを有し、相対重量平均分子量に対する絶対重量平均分子量の比(絶対Mw/相対Mw)が1.25以上である高分子化合物を含む。
【0126】
また、本発明の潤滑油は、このような潤滑油用添加剤を含むものである。
潤滑油は、車両の内燃機関やATF、MTF、CVTF等のいわゆる駆動系などに用いられるが、潤滑油の粘度が高すぎると動作性が悪くなり、粘度が低すぎると油膜切れにより表面が接触して摩擦が増加したり、摩耗、焼き付きなどが発生したりしやすくなる。このため、潤滑油には、低温から高温まで適切な粘度を有すること、使用中のせん断力により粘度低下を起こさないこと等が求められる。潤滑油の粘度の温度依存性を表す指標として粘度指数(Viscosity Index)があり、粘度指数が大きいほど温度変化による粘度の変動が小さい。
【0127】
従来、潤滑油に使われる粘度指数向上剤は、潤滑油の粘度指数向上効果を高めようとするとせん断安定性が悪化し、逆にせん断安定性を高めようとすると粘度指数向上効果が低くなる傾向があり、両特性を満たすことが困難であった。
本発明の潤滑油用添加剤は、潤滑油に、温度が変動しても十分に要求性能を満たす粘度指数を付与し、かつ、潤滑油のせん断安定性を低下させにくい。従って粘度指数向上剤として極めて優れる。さらに、本発明の潤滑油用添加剤を含む潤滑油は、高い粘度指数と高いせん断安定性を備える。
本発明に用いる高分子化合物及びその製造方法について以下に説明するが、特に断らない限り、前述の説明がそのまま適用される。
【0128】
化合物(B)としては、(メタ)アクリル酸、モノ(メタ)アクリレート系化合物、ポリ(メタ)アクリレート系化合物、モノビニル系化合物、ポリビニル系化合物、モノエポキシ系化合物、ポリエポキシ系化合物、モノイソシアネート系化合物、ポリイソシアネート系化合物等が挙げられる。
【0129】
前記モノ(メタ)アクリレート系化合物としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0130】
以下、分岐アルキル基は、環状アルキル基を含むものとする。
前記アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数6~30の直鎖又は分岐アルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
前記炭素数6~30の直鎖又は分岐アルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-へプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、n-ペンタデシル(メタ)アクリレート、n-ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n-へプタデシル(メタ)アクリレート、n-オクタデシル(メタ)アクリレート、n-ノナデシル(メタ)アクリレート、n-エイコシル(メタ)アクリレート、n-ヘンエイコシル(メタ)アクリレート、n-ドコシル(メタ)アクリレート、n-トリコシル(メタ)アクリレート、n-テトラコシル(メタ)アクリレート、n-ペンタコシル(メタ)アクリレート、n-ヘキサコシル(メタ)アクリレート、n-ヘプタコシル(メタ)アクリレート、n-オクタコシル(メタ)アクリレート、n-ノナコシル(メタ)アクリレート、n-トリアコンチル(メタ)アクリレート、1-メチル-n-ペンチル(メタ)アクリレート、1,2-ジメチル-n-ペンチル(メタ)アクリレート、1-メチル-n-ヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、1-エチル-2,2-ジメチル-n-プロピル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、1-メチル-n-ノニル(メタ)アクリレート、1-メチル-n-デシル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリメチルへプチル(メタ)アクリレート、2-メチル-n-ノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、2-メチル-n-デシル(メタ)アクリレート、2-エチル-n-ノニル(メタ)アクリレート、イソウンデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、2-エチル-n-デシル(メタ)アクリレート、1-エチル-n-トリデシル(メタ)アクリレート、2-デシルテトラデシル(メタ)アクリレート、2-ドデシルヘキサデシル(メタ)アクリレート又は2-テトラデシルヘキサデシル(メタ)アクリレートが、連鎖移動剤(F)として重合に用いる際の溶媒への溶解性が向上するため好ましい。
【0131】
前記炭素数6~30の直鎖又は分岐アルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物の中でも、炭素数8~22の直鎖又は分岐アルキル基を有するn-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、n-ペンタデシル(メタ)アクリレート、n-ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n-へプタデシル(メタ)アクリレート、n-オクタデシル(メタ)アクリレート、n-ノナデシル(メタ)アクリレート、n-エイコシル(メタ)アクリレート、n-ヘンエイコシル(メタ)アクリレート、n-ドコシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、1-エチル-2,2-ジメチル-n-プロピル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、1-メチル-n-ノニル(メタ)アクリレート、1-メチル-n-デシル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリメチルへプチル(メタ)アクリレート、2-メチル-n-ノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、2-メチル-n-デシル(メタ)アクリレート、2-エチル-n-ノニル(メタ)アクリレート、イソウンデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、2-エチル-n-デシル(メタ)アクリレート又は1-エチル-n-トリデシル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0132】
炭素数22以下の直鎖又は分岐アルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物は結晶性が低く、取扱い性が高く、多官能チオール化合物(A)への溶解性が高い。炭素数8以上の直鎖又は分岐アルキル基を有する(メタ)アクリレート単量体を用いることで、連鎖移動剤(F)として重合に用いる際の溶媒への溶解性が向上する。
【0133】
前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物としては、例えば、ジオールと(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるジエステル化合物、1分子あたり3個以上の水酸基を有する化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるポリエステル化合物、及び2個以上のエポキシ基を有する化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる化合物が挙げられる。
前記ジオールと(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるジエステル化合物の具体例として、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジ(メタ)アクリロキシプロパン、2,2-ビス〔4-((メタ)アクリロシキエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-((メタ)アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル〕プロパン、ビス〔4-((メタ)アクリロキシ・エトキシ)フェニル〕メタン、2-ヒドロキシ-1-(メタ)アクリロキシ-3-(メタ)アクリロキシプロパン、及びトリシクロデカンジメタノールジアクリレートが挙げられる。
前記1分子あたり3個以上の水酸基を有する化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるポリエステル化合物の具体例として、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラキス(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサキス(メタ)アクリレートが挙げられる。
前記2個以上のエポキシ基を有する化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる化合物の具体例として、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及びビスフェノールFジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0134】
化合物(B)としては、多官能チオール化合物(A)との反応性が良好であることから、モノ又はポリアクリレートが好ましく、多官能チオール化合物(A)との反応により高分子量の連鎖移動剤(F)を調製できる点から、ポリアクリレートがより好ましく、架橋を抑制するために、ジアクリレート及びトリアクリレートがさらに好ましい。
これらは1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。例えば、ジアクリレート又はトリアクリレート、及びモノアクリレートを併用してもよい。
【0135】
化合物(B)として用いられるモノビニル系化合物、ポリビニル系化合物、モノエポキシ系化合物、ポリエポキシ系化合物、モノイソシアネート系化合物、及びポリイソシアネート系化合物としては、前述のものが挙げられる。
化合物(B)としては、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等が好ましい。化合物(B)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0136】
本発明の潤滑油用添加剤に好適に用いられる高分子化合物は、ポリマー鎖として、以下のラジカル重合性モノマー(D)に由来する構成単位を有する。
ラジカル重合性モノマー(D)としては、化合物(B)において例示した(メタ)アクリル酸、モノ(メタ)アクリレート系化合物、ポリ(メタ)アクリレート系化合物、モノビニル系化合物、ポリビニル系化合物が挙げられる。
ラジカル重合性モノマー(D)としては、モノ(メタ)アクリレート系化合物が好ましく、モノ(メタ)アクリレート化合物がより好ましく、モノメタクリル酸エステル化合物が最も好ましい。
【0137】
前記モノ(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-へプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、n-ペンタデシル(メタ)アクリレート、n-ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n-へプタデシル(メタ)アクリレート、n-オクタデシル(メタ)アクリレート、n-ノナデシル(メタ)アクリレート、n-エイコシル(メタ)アクリレート、n-ヘンエイコシル(メタ)アクリレート、n-ドコシル(メタ)アクリレート、n-トリコシル(メタ)アクリレート、n-テトラコシル(メタ)アクリレート、n-ペンタコシル(メタ)アクリレート、n-ヘキサコシル(メタ)アクリレート、n-ヘプタコシル(メタ)アクリレート、n-オクタコシル(メタ)アクリレート、n-ノナコシル(メタ)アクリレート、n-トリアコンチル(メタ)アクリレート、1-メチル-n-ペンチル(メタ)アクリレート、1,2-ジメチル-n-ペンチル(メタ)アクリレート、1-メチル-n-ヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、1-エチル-2,2-ジメチル-n-プロピル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、1-メチル-n-ノニル(メタ)アクリレート、1-メチル-n-デシル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリメチルへプチル(メタ)アクリレート、2-メチル-n-ノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、2-メチル-n-デシル(メタ)アクリレート、2-エチル-n-ノニル(メタ)アクリレート、イソウンデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、2-エチル-n-デシル(メタ)アクリレート、1-エチル-n-トリデシル(メタ)アクリレート、2-デシルテトラデシル(メタ)アクリレート、2-ドデシルヘキサデシル(メタ)アクリレート、及び2-テトラデシルヘキサデシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0138】
前記モノ(メタ)アクリレート化合物の中でも、炭素数6~22の直鎖又は分岐アルキル基を有する、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-へプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、n-ペンタデシル(メタ)アクリレート、n-ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n-へプタデシル(メタ)アクリレート、n-オクタデシル(メタ)アクリレート、n-ノナデシル(メタ)アクリレート、n-エイコシル(メタ)アクリレート、n-ヘンエイコシル(メタ)アクリレート、n-ドコシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、1-エチル-2,2-ジメチル-n-プロピル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、1-メチル-n-ノニル(メタ)アクリレート、1-メチル-n-デシル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリメチルへプチル(メタ)アクリレート、2-メチル-n-ノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、2-メチル-n-デシル(メタ)アクリレート、2-エチル-n-ノニル(メタ)アクリレート、イソウンデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、2-エチル-n-デシル(メタ)アクリレート、又は1-エチル-n-トリデシル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0139】
前記モノ(メタ)アクリレート化合物としては、上述のような炭素数6~22の直鎖又は分岐アルキル基を有する(メタ)アクリレート単量体を用いることが好ましく、炭素数8~15の直鎖又は分岐アルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物がより好ましく、炭素数9~15の直鎖又は分岐アルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物がさらに好ましい。
前記炭素数が前記上限値以下であると、結晶性が低く、取扱い性が高い。
前記炭素数が前記下限値以上であると、得られる高分子化合物の潤滑油への溶解性が高く、潤滑油用添加剤としてより好適である。
【0140】
前記炭素数の範囲のアルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物の含有量は、ラジカル重合性モノマー(D)の総量100モル%のうち、10~100モル%であることが好ましく、15~80モル%であることがより好ましく、20~60モル%であることがさらに好ましい。
前記炭素数の範囲のアルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、得られる高分子化合物の潤滑油への溶解性が保たれ、前記範囲の上限値以下であれば、得られる高分子化合物の粘度指数向上効果がより高まる。
【0141】
さらに、ラジカル重合性モノマー(D)としては、前記炭素数の範囲のアルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物と、炭素数5以下の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物を併用することが好ましい。これにより、連鎖移動剤(F)と反応させたときの立体障害が適度に少なくなり、連鎖移動剤(F)のチオール基との反応率が上がるため、得られる高分子化合物の分岐度が高まり、せん断安定性がより高まる。また、連鎖移動剤(F)がモノマー(D)に溶解しやすくなり、均一な重合系となり反応性が高まる。
【0142】
ラジカル重合性モノマー(D)の総量100モル%中の、炭素数5以下の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物の含有量は、0~90モル%とすることが好ましく、20~85モル%とすることがより好ましく、40~80モル%とすることがさらに好ましい。前記範囲の下限値以上であれば、得られる高分子化合物のせん断安定性がより高まり、前記範囲の上限値以下であれば、得られる高分子化合物の潤滑油への溶解性がより高まる。
【0143】
炭素数5以下の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレートが挙げられる。好ましくは炭素数4以下の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物であり、メチルメタクリレート及びn-ブチルメタクリレートがより好ましく、n-ブチルメタクリレートが最も好ましい。
ポリマー鎖を形成するラジカル重合性モノマー(D)に由来する構成単位は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0144】
さらに、直鎖又は分岐アルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物に由来する構成単位以外の構成単位を含んでいてもよい。その含有率は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が最も好ましい。
【0145】
本発明の高分子化合物は、例えば、連鎖移動剤(F)を用いて、ラジカル重合性モノマー(D)をラジカル重合することで得られる。
連鎖移動剤(F)の使用量は、ラジカル重合性モノマー(D)の総量100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.2~15質量部がより好ましく、0.3~10質量部が最も好ましい。前記範囲の下限値以上であれば、本発明の高分子化合物の分岐度が高くなりやすく、前記範囲の上限値以下であれば、得られる高分子化合物の粘度指数向上効果が高まりやすい。
ラジカル重合の形態としては、特に限定されず、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、逆相懸濁重合、逆相乳化重合、ソープフリー重合、沈殿析出重合等の方法が挙げられる。
【0146】
ラジカル重合の中でも、簡便さの点で溶液重合が好ましい。重合溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素系溶媒(トルエン、エチルベンゼン、キシレン等)、脂肪族炭化水素系溶媒(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等)、エステル系溶媒(酢酸ブチル等)、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール等)を例示できる。重合溶媒は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0147】
重合溶媒は、炭化水素系溶媒が好ましい。前記炭化水素系溶媒としては、液体の炭化水素を用いることがより好ましい。前記液体の炭化水素としては、パラフィン、シクロパラフィン及び芳香族系炭化水素のうち、25℃で液体の炭化水素を用いることがより好ましい。さらに好ましくは、最終製品に基油として用いられるものであり、パラフィン、シクロパラフィン及び芳香族系炭化水素のうち、15℃における密度(振動式)が1g/cm3未満であり、25℃における粘度が5.0cP以上のものである。例えば、植物油、鉱物油、PAO等の合成油等の潤滑油基油が挙げられる。なかでもパラフィン、シクロパラフィン、又はその混合物が、粘度や動粘度の観点から好ましい。
また、重合溶媒としては、沸点が100℃以上であるものが好ましく、例えば、パラフィン、シクロパラフィン、トルエン及びそれらの混合物などが挙げられる。
【0148】
特に、最終製品に用いられる液体の炭化水素中で重合することにより、重合して得られた本発明の高分子化合物を、貧溶媒に析出させたり、溶媒を乾燥したり、液体の炭化水素へ再溶解する手間を省くことができるため、好ましい。
重合溶媒の使用量は、ラジカル重合性モノマー(D)の総量100質量部に対して、50~1000質量部が好ましく、100~500質量部がより好ましい。前記範囲の下限値以上であれば、重合後に得られる高分子化合物の重合率が上がりやすく、前記範囲の上限値以下であれば、過度な粘度上昇が防止でき、取り扱い性や工程通過性がよい。
【0149】
ラジカル重合開始剤としては、ジベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルマレエート等の過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ系化合物が挙げられる。アゾ系化合物は、連鎖移動剤(F)中のチオール基と反応しにくいため好ましい。ラジカル重合開始剤は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0150】
ラジカル重合開始剤の使用量は、ラジカル重合性モノマー(D)の総量100質量部に対して、0.0001~10質量部が好ましく、0.001~5質量部がより好ましく、0.01~1質量部がさらに好ましい。前記範囲の下限値以上であれば、得られる高分子化合物の重合率が十分高くなり、前記範囲の上限値以下であれば、不純物による悪影響を受けにくい。
【0151】
ラジカル重合の重合温度は、適宜設定でき、例えば、ラジカル重合開始剤の使用温度範囲として好適である点で-100~250℃であることが好ましく、0~150℃であることがより好ましく、30~100℃であることがより好ましい。
【0152】
ラジカル重合の重合時間は、適宜設定でき、例えば、0.5~48時間が好ましく、1~24時間がより好ましく、2~12時間が最も好ましい。前記下限値以上重合を行えば、転化率を上げることができ、前記上限値以下であれば、重合に必要な電力やコストを下げることが可能である。
【0153】
本発明の高分子化合物の相対重量平均分子量(以下、「相対Mw」とも記す。)に対する絶対重量平均分子量(以下、「絶対Mw」とも記す。)の比(絶対Mw/相対Mw)は、下限値は1.25以上であり、1.27以上であることが好ましく、1.29以上であることがより好ましく、1.30以上であることがさらに好ましい。
前記比(絶対Mw/相対Mw)が前記下限値以上であれば、高分子化合物が充分な分岐を有し、潤滑油用添加剤として用いると、潤滑油のせん断安定性がより高まる。
【0154】
一方、前記比(絶対Mw/相対Mw)は、上限値は特に限定されないが、通常、3.00以下であり、2.80以下であることが好ましく、2.50以下であることがより好ましく、2.15以下であることがさらに好ましい。
前記比(絶対Mw/相対Mw)が前記上限値以下であれば、得られる高分子化合物の、潤滑油用添加剤としての粘度指数向上効果がより高まる。
【0155】
本発明の高分子化合物の相対Mwは、下限値は特に限定されないが、5000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましく、15000以上であることがさらに好ましく、17000以上であることがいっそう好ましい。
一方、本発明の高分子化合物の相対Mwは、上限値は特に限定されないが、350000以下であることが好ましく、200000以下であることがより好ましく、50000以下であることがさらに好ましく、45000以下であることがいっそう好ましい。
本発明の高分子化合物の相対Mwが前記下限値以上であれば、分岐を生成しやすく、粘度指数向上効果に優れる。
本発明の高分子化合物の相対Mwが前記上限値以下であれば、粘度指数向上効果にも優れると同時にせん断安定性にも優れる。
【0156】
本発明の高分子化合物の絶対Mwは、下限値は特に限定されないが、6250以上であることが好ましく、12500以上であることがより好ましく、18750以上であることがさらに好ましく、21250以上がいっそう好ましい。
一方、本発明の高分子化合物の絶対Mwは、上限値は特に限定されないが、1050000以下であることが好ましく、600000以下であることがより好ましく、150000以下であることがさらに好ましく、135000以下であることがいっそう好ましい。
本発明の高分子化合物の絶対Mwが前記下限値以上であれば、分岐を生成しやすく、粘度指数向上効果にも優れる。
本発明の高分子化合物の絶対Mwが前記上限値以下であれば、粘度指数向上効果にも優れると同時にせん断安定性にも優れる。
【0157】
連鎖移動剤(F)の相対Mwは、範囲は特に限定されないが、500~50000であることが好ましく、1000~40000であることがより好ましく、2000~25000であることがさらに好ましい。
連鎖移動剤(F)の相対Mwが前記範囲の下限値以上であれば、本発明の高分子化合物を得やすくなり、前記範囲の上限値以下であれば、増粘による取扱い性の困難を解消しやすい。
【0158】
本発明の高分子化合物は、液体の炭化水素の溶液として得られることが好ましい。前述のように、溶液重合で高分子化合物を重合した後、溶媒を乾燥させてから液体の炭化水素に溶解させてもよいが、液体の炭化水素中で溶液重合して高分子化合物の液体の炭化水素溶液を直接得ることが好ましい。
より好ましくは、炭化水素溶媒中でチオール基含有化合物(A)と前記チオール基と反応する官能基を含有する化合物(B)とを反応させ連鎖移動剤(F)を合成したのち、前記連鎖移動剤(F)を用いてラジカル重合を行い、高分子化合物の炭化水素溶液を得る。あるいは、チオール基含有化合物(A)と前記チオール基と反応する官能基を含有する化合物(B)とを反応させ連鎖移動剤(F)を合成したのち、前記連鎖移動剤(F)をラジカル重合性モノマー(D)に溶解させて炭化水素溶媒中でラジカル重合を行い、高分子化合物の炭化水素溶液を得る。
液体の炭化水素溶液中の高分子化合物の濃度は、用途等に合わせて適宜調整可能であるが、5~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、15~40質量%が最も好ましい。前記下限値以上であれば輸送費の抑制となり、上限値以下であれば、高分子化合物が温度変化により析出しにくくなる。
【0159】
本発明の高分子化合物は、潤滑油用添加剤として使用することができる。潤滑油用添加剤とは、粘度指数向上剤、摩擦低減剤、流動点降下剤、防腐剤等の様々な役割を担うことができる。中でも、本発明の高分子化合物は粘度指数向上剤、摩擦低減剤、流動点降下剤として有効に使用することができる。特に、粘度指数向上剤として性能を発揮する。さらに、せん断安定性も併せ持つことができる。また、他の添加剤と組み合わせても有効に使用することができる。
【0160】
潤滑油は、基油(base oil)に粘度指数向上剤、摩擦低減剤、流動点降下剤、防腐剤、洗浄剤、消泡剤等が添加されたものである。基油は液体の炭化水素であり、植物油、原油から精製された鉱物油や、PAO等の化学的に合成された合成油などが挙げられ、目的に合わせて選定される。
本発明の高分子化合物を用いた潤滑油用添加剤は、内燃機関用潤滑油、駆動系潤滑油、作動油等のさまざまな潤滑油に特に限定されず用いることができるが、前述のとおり、粘度指数向上効果と高いせん断安定性を併せ持つため、特に駆動系潤滑油に好適に用いられる。
【0161】
潤滑油は、本発明の高分子化合物の他に、各種添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、塩基性、過塩基性又は中性の金属塩等の清浄剤、コハク酸イミド類等の分散剤、ヒンダードフェノール類等の酸化防止剤、モリブデン系及び亜鉛系化合物等の摩擦摩耗調整剤、硫黄系化合物等の極圧剤、シリコン油、脂肪酸エステル等の消泡剤、4級アンモニウム塩等の抗乳化剤、窒素原子含有化合物等の腐食防止剤等挙げられる。
【0162】
潤滑油中の本発明の高分子化合物の含有量は、潤滑油の全質量を100質量%した際に、0.01~30質量%が好ましく、0.1~15質量%がより好ましく、0.5~10質量%が最も好ましい。前記下限値以上であれば、潤滑油の粘度指数が改善され、上限値以下であれば、温度変化に伴う析出を抑えやすい。
【実施例】
【0163】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0164】
[原料]
本実施例で使用した原料の略号を以下に示す。
【0165】
〈多官能チオール化合物(A)〉
PEMP:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(SC有機化学社製)。
EGMP:テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)(SC有機化学社製)。
PEMA:ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)(東京化成工業社製)。
DPMP:ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)(SC有機化学社製)。
【0166】
〈化合物(B)〉
EHA:2-エチルヘキシルアクリレート(三菱ケミカル社製)。
C6DA:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(三菱ケミカル社製)。
TMHDMI:トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート(東京化成工業社製)。
TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート(東京化成工業社製)。
NPGE:ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(東京化成工業社製)。
LA:n-ドデシルアクリレート及びn-テトラデシルアクリレートの混合物(LA1214、BASF社製)。
A-DCP:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(新中村化学工業株式会社)。
A-DOD-N:1,10-デカンジオールジアクリレート(新中村化学工業株式会社)。
【0167】
〈触媒(C)〉
TPP:トリフェニルホスフィン(東京化成工業社製)。
CHDP:シクロヘキシルジフェニルホスフィン(東京化成工業社製)。
(ラジカル重合性モノマー(D))
MMA:メチルメタクリレート(アクリエステルM)
BMA:n-ブチルメタクリレート(アクリエステルB)
EHMA:2-エチルヘキシルメタクリレート(アクリエステルEH)
LMA:ラウリルメタクリレート(アクリエステルL、ドデシルメタクリレート)
TDMA:トリデシルメタクリレート(アクリエステルTD)
(いずれも三菱ケミカル株式会社製)
【0168】
〈熱可塑性樹脂〉
VHK:ビーズ状のポリメチルメタクリレート(PMMA)(商品名「ダイヤナールBR-80」、三菱ケミカル社製)。
VH:ペレット状のPMMA(商品名「アクリペットVH」、三菱ケミカル社製)。
PGMA:ポリグリシジルメタクリレート(商品名「メタブレンP1901」、三菱ケミカル社製)。
PMMA-SH:Thiol Terminated Poly(methyl methacrylate)(Polymer Source社製)。
【0169】
[測定方法及び評価方法]
〈相対重量平均分子量(相対Mw)〉
高分子化合物の相対Mwの測定には、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用し、以下条件にて測定した。その後、Polymer Laboratories製のポリメチルメタクリレート(Mp(ピーク分子量)=141,500、55,600、11,100及び1,590の4種)を用いて作成した検量線を使用して、相対Mwを算出した。
装置:HLC-8220(東ソー社製)。
カラム:TSK GUARD COLUMN SUPER H-H(4.6×35mm、東ソー社製)と2本のTSK-GEL SUPER HM-H(6.0×150mm、東ソー社製)を直列に接続したもの。
溶離液:テトラヒドロフラン。
測定温度:40℃。
流速:0.6mL/分。
【0170】
〈絶対重量平均分子量(絶対Mw)〉
高分子化合物の絶対Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(Viscotek製GPCmax)と光散乱検出器を使用し、以下条件にて測定した。その後、装置付属のソフトウェア(OmniSEC)を用いて、各溶出位置における絶対分子量と固有粘度を算出し、絶対Mwを求めた。
カラム:TSKgel guardcolumn HXL-H(6.0×40mm、東ソー(株)製)1本とTSKgel GMHXL(7.8×300mm、東ソー(株)製)2本とTSKgel G3000 HXL(7.8×300mm、東ソー(株)製)1本を直列に接続。
溶離液:テトラヒドロフラン。
カラム及び検出器温度:40℃。
流速:1.0mL/分。
検出器:TDA302(Viscotek製)。
試料濃度:2mg/mL(ポリマーをテトラヒドロフランに溶解)。
注入量:150μL。
装置較正用の標準品:ポリスチレン(Viscotek製、分子量105,000)。
【0171】
〈耐熱性の評価(ΔTd5)〉
高分子化合物を熱可塑性樹脂に添加し、溶融混練して樹脂組成物を調製した。特に断らない場合、質量比は高分子化合物:熱可塑性樹脂=10:90である。この樹脂組成物の熱重量測定を行い、得られた5%重量減少温度(Td5)を「樹脂組成物のTd5の測定値」とした。一方、高分子化合物と樹脂のそれぞれの熱重量測定を行い、それらの値を用いて以下の(1)~(3)の手順で「樹脂組成物のTd5の計算値」を求めた。「樹脂組成物のTd5の測定値」から「樹脂組成物のTd5の計算値」を差し引いた値を、ΔTd5とした。ΔTd5>0であれば、耐熱性が向上したと言える。
(1)高分子化合物の熱重量測定を行い、各温度に対する重量減少率を得て、高分子化合物の重量減少率曲線を得る。
(2)熱可塑性樹脂の熱重量測定を行い、各温度に対する重量減少率を得て、熱可塑性樹脂の重量減少率曲線を得る。
(3)各温度における高分子化合物と熱可塑性樹脂の重量減少率を前述の質量比で案分した値を樹脂組成物の重量減少率とし、重量減少率曲線を得た。これより、重量減少率が5%となる温度を「樹脂組成物のTd5の計算値」とした。
「樹脂組成物のTd5の測定値」は、熱重量・示差熱同時測定装置を用いて樹脂組成物の昇温時の熱重量測定を行い、重量減少を追跡して求めた。以下に装置及び測定条件を示す。
装置:TG/DTA6300(SIIナノテクノロジー社製)。
測定条件:窒素気流200mL/分、30℃~500℃、昇温速度10℃/分。
また、高分子化合物に代えて、化合物(E)を含む組成物を熱可塑性樹脂に添加した場合も、同様にして耐熱性の評価(ΔTd5)を行った。
【0172】
〈動粘度、粘度指数(VI)及びせん断安定性指数(SSI)〉
JIS-K2283に準拠し、40℃における動粘度(KV40)と100℃における動粘度(KV100)を測定した。基油にはYUBASE2(SK lubricants社製、KV40=9.181mm2/s、密度(振動式)15℃=0.8354g/cm3)を使用し、濃度10質量%で測定した。
次に、求めた動粘度を用いJIS-K2283-1993の方法に従い粘度指数(VI、(Viscosity Index))を算出した。
また、KRLせん断安定性試験機にてCEC-L45-99準拠のKRL20h試験を行い、試験前後の動粘度(KV40およびKV100)を測定し下記式からせん断安定性指数(SSI(Shear Stability Index))を算出した。SSIは0に近いほど優れている。
SSI=(試験前サンプルのKV100-試験後サンプルのKV100)/(試験前サンプルのKV100-ベース液体の炭化水素のKV100)×100
【0173】
[製造例1]
多官能チオール化合物(A)であるPEMPの10gに、触媒(C)として細かく砕いたTPPの0.1gを加え、均一になるまで撹拌しながら80℃に加熱して完全に溶解させた。得られた混合物の7.33gに、化合物(B)としてC6DAの2.26gを加え、PEMPとC6DAのモル比を1.5:1.0として、室温(25℃)で撹拌し、連鎖移動剤(F-1)を得た。
【0174】
[製造例2]
PEMPとC6DAのモル比を2.0:1.0とした以外は、製造例1と同様にして連鎖移動剤(F-2)を製造した。
【0175】
[製造例3]
PEMPとC6DAのモル比を2.5:1.0とした以外は、製造例1と同様にして連鎖移動剤(F-3)を製造した。
【0176】
[製造例4]
化合物(B)としてC6DA及びEHAを用い、PEMPとC6DAとEHAとのモル比を1.5:1.0:1.0とした以外は、製造例1と同様にして連鎖移動剤(F-4)を製造した。
【0177】
[製造例5]
化合物(B)としてC6DA及びEHAを用い、PEMPとC6DAとEHAとのモル比を1.5:1.0:0.5とした以外は、製造例1と同様にして連鎖移動剤(F-5)を製造した。
【0178】
[製造例6]
化合物(B)としてTMHDMI及びEHAを用い、PEMPとTMHDMIとEHAとのモル比を2.0:1.0:1.0とした以外は、製造例1と同様にして連鎖移動剤(F-6)を製造した。
【0179】
[実施例1]
1.高分子化合物の製造及び測定
撹拌装置、窒素導入管、温度計及び冷却管を備えた250mLの4つ口セパラブルフラスコに、ラジカル重合性モノマー(D)としてメチルメタクリレート(MMA)を100質量部、製造例1で得た連鎖移動剤(F-1)を6.0質量部、及び、重合開始剤として2,2’-アゾビスブチロニトリル(AIBN)を0.3質量部加え、さらに溶媒としてトルエンをモノマー成分に対するグラム当量が1.0となるように加えて混合し、窒素雰囲気下、反応混合物を撹拌しながら80℃に加熱した。5時間加熱撹拌した後、ヘキサンを貧溶媒として再沈して高分子化合物を得た。
得られた高分子化合物の酢酸ブチル溶液の溶液粘度を測定した。すなわち、高分子化合物を酢酸ブチルに溶解させて固形分濃度を40質量%に調整した。この溶液の粘度を、E型粘度計を用いて、室温(25℃)で測定した。
【0180】
2.樹脂組成物の製造及び測定
得られた高分子化合物とアクリル樹脂(VHK)とを、高分子化合物/アクリル樹脂(VHK)(質量比)=10/90となるように混合し、溶融混練して樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物の5%重量減少温度を測定してΔTd5を求め、高分子化合物の耐熱性向上効果を評価した。
測定結果を表1に示す。
【0181】
[実施例2~6]
連鎖移動剤の種類及び使用量を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、高分子化合物及び樹脂組成物を製造した。
高分子化合物の溶液粘度及び樹脂組成物のΔTd5を測定した。
測定結果を表1に示す。
【0182】
[実施例7]
高分子化合物と混合する熱可塑性樹脂をアクリル樹脂VHに変更した以外は、実施例1と同様にして高分子化合物及び樹脂組成物を製造した。
高分子化合物の溶液粘度及び樹脂組成物のΔTd5を測定した。
測定結果を表1に示す。
【0183】
[実施例8]
高分子化合物と混合する熱可塑性樹脂をポリグリシジルメタクリレート(PGMA)に変更した以外は、実施例1と同様にして高分子化合物及び樹脂組成物を製造した。
高分子化合物の溶液粘度及び樹脂組成物のΔTd5を測定した。
測定結果を表1に示す。
【0184】
[実施例9]
連鎖移動剤の種類及び使用量を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様にして高分子化合物及び樹脂組成物を製造した。
高分子化合物の溶液粘度及び樹脂組成物のΔTd5を測定した。
測定結果を表1に示す。
【0185】
[比較例1]
連鎖移動剤の種類及び使用量を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様にして高分子化合物及び樹脂組成物を製造した。
高分子化合物の溶液粘度及び樹脂組成物のΔTd5を測定した。
測定結果を表1に示す。
【0186】
[比較例2]
連鎖移動剤(F-1)の代わりに、ステアリル-3-メルカプトプロピオネート(STMP、SC有機化学社製)を3.6質量部用いた以外は、実施例1と同様にして、チオエーテル構造を有するがチオール基は有しない化合物(X-1)を製造した。
得られた化合物(X-1)と熱可塑性樹脂であるアクリル樹脂(VH)とを、化合物(X-1)/アクリル樹脂(VH)(質量比)=10/90となるように混合し、室温(25℃)で撹拌して、樹脂組成物を調製した。
樹脂組成物のΔTd5を測定した。
測定結果を表1に示す。
【0187】
[比較例3]
チオール基を有するがチオエーテル構造及びチオウレタン構造は有しない化合物(X-2)として、PMMA-SHを用いた以外は比較例2と同様にして、樹脂組成物を調製した。
樹脂組成物のΔTd5を測定した。
測定結果を表1に示す。
【0188】
【0189】
表1に示すように、実施例1~8の高分子化合物は、高分子化合物を含む溶液の粘度が低く取扱い性に優れ、また熱可塑性樹脂に添加したときのΔTd5が高く、耐熱性に優れていた。実施例9の高分子化合物は溶液粘度が低く取り扱い性が良好であった。
一方、比較例1の高分子化合物は、高分子化合物を含む溶液の粘度が高く取扱い性が悪かった。比較例2及び3の高分子化合物は、熱可塑性樹脂に添加したときのΔTd5が0以下であり、耐熱性向上効果が見られなかった。
また、実施例1~8において、5%重量減少温度測定の際の加熱時に臭気は発生しなかった。
以上より、本発明に係る高分子化合物が優れた特性を示すことが確認できた。
【0190】
[実施例2-1]
多官能チオール化合物(A)であるPEMPの10gに、触媒(C)として細かく砕いたTPPの0.1gを加え、均一になるまで撹拌しながら80℃に加熱して完全に溶解させた。得られた混合物の7.33gに、化合物(B)としてC6DAの2.26gを加え、室温(25℃)で撹拌し、組成物(E-1)を得た。
【0191】
[実施例2-2]
PEMPとTPPとの混合物の4.89gに、C6DAの1.13gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて組成物(E-2)を得た。
【0192】
[実施例2-3]
PEMPとTPPとの混合物の6.11gに、C6DAの1.13gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて組成物(E-3)を得た。
【0193】
[実施例2-4]
PEMPとTPPとの混合物の7.33gに、C6DAの1.13gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて組成物(E-4)を得た。
【0194】
[実施例2-5]
PEMPとTPPとの混合物の9.77gに、C6DAの1.13gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて組成物(E-5)を得た。
【0195】
[実施例2-6]
多官能チオール化合物(A)として、PEMPの代わりにDPMPを用い、DPMPとTPPとをDPMP/TPP(質量比)=10/0.1で混合した混合物の7.83gに、C6DAの1.13gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて組成物(E-6)を得た。
【0196】
[実施例2-7]
多官能チオール化合物(A)として、PEMPの代わりにDPMPを用い、DPMPとTPPとをDPMP/TPP(質量比)=10/0.1で混合した混合物の9.00gに、C6DAの1.13gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて組成物(E-7)を得た。
【0197】
[実施例2-8]
チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)としてTPPの代わりにCHDPを用い、PEMPとCHDPとをPEMP/CHDP(質量比)=20/0.1で混合した混合物の3.91gに、NPGEの0.87g及びEHAの0.74gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて組成物(E-8)を得た。
【0198】
[実施例2-9]
チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)としてTPPの代わりにCHDPを用い、PEMPとCHDPとをPEMP/CHDP(質量比)=20/0.1で混合した混合物の3.91gに、TMHDMIの0.84g及びEHAの0.74gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて組成物(E-9)を得た。
【0199】
[実施例2-10]
チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)としてTPPの代わりにCHDPを用い、PEMPとCHDPとをPEMP/CHDP(質量比)=20/0.1で混合した混合物の3.91gに、C6DAの0.91g及びEHAの0.74gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて組成物(E-10)を得た。
【0200】
[実施例2-11]
チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)としてTPPの代わりにCHDPを用い、PEMPとCHDPとをPEMP/CHDP(質量比)=20/0.1で混合した混合物の3.66gに、C6DAの1.13g及びEHAの0.92gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて組成物(E-11)を得た。
【0201】
[実施例2-12]
チオール基と反応する反応性基を有する化合物(B)としてTPPの代わりにCHDPを用い、PEMPとCHDPとをPEMP/CHDP(質量比)=20/0.1で混合した混合物の3.91gに、C6DAの1.13g及びEHAの0.46gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて組成物(E-12)を得た。
【0202】
[実施例2-13]
多官能チオール化合物(A)として、PEMPの代わりにEGMPを用い、EGMPとTPPとをEGMP/TPP(質量比)=20/0.1で混合した混合物の0.47gに、C6DAの1.41gを加え、実施例1と同様に反応させた。次いで、PEMPの4.89gを加え、室温(25℃)で撹拌し、組成物(E-13)を得た。EGMPとPEMPの合計量に対するTPPの量は、0.044質量%である。
【0203】
[比較例2-1]
PEMPとTPPとの混合物の3.18gに、C6DAの1.13gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて組成物(E-14)を得た。
【0204】
[比較例2-2]
PEMPとTPPとの混合物の3.91gに、C6DAの1.81gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて組成物(E-15)を得た。
【0205】
[比較例2-3]
撹拌装置、窒素導入管、温度計及び冷却管を備えた2Lの4つ口フラスコに、TMPTAの59.2g、メチルエチルケトン(MEK、沸点79℃)の600g、PEMAの259.2gを加え、窒素雰囲気下、反応混合物を撹拌しながら還流温度まで昇温した。2時間撹拌した後、冷却してマイケル付加反応を終了させ、組成物(E-16)を得た。
【0206】
[比較例2-4]
反応容器に、PEMAの432g、MEKの400g、TMPTA296gを加えて反応混合物とした以外は、比較例3と同様にマイケル付加反応させ、組成物(E-17)を得た。
【0207】
[参考例2-1]
多官能チオール化合物(A)として、PEMPの代わりにEGMPを用い、EGMPとTPPとをEGMP/TPP(質量比)=10/0.1で混合した混合物の5.58gに、C6DAの2.26gを加えた以外は、実施例1と同様に反応させて多分岐化合物(E-18)を得た。
【0208】
各例で得られた組成物(E-1)~(E-18)においては、x、y、及びrは仕込み量に基づくx’、y’、及びr’をそのまま用いることができる。
rは、(fB×化合物(B)のモル当量)/(fA×多官能チオール化合物(A)のモル当量)であり、反応時のモル比(反応性基/チオール基)を表す。
各例における化合物(A)~(C)の量、溶媒量、反応温度(外温)、fA、fB、fA+fB、r、r×(fA-1)×(fB-1)の値、及び、MMAへの溶解性の評価結果を表2又は表3に示す。
MMAへの溶解性は次のとおり評価した。室温(25℃)において、メチルメタクリレート(MMA)に対し、濃度が1質量%となるように、組成物を加えて混合し、溶解状態を目視にて確認し、溶解性を以下の基準で評価した。
A(良好):組成物が溶解し、溶液が均一になった。
D(不良):組成物が溶解せず、溶液が不均一になった。
【0209】
【0210】
【0211】
表2及び表3に示すように、実施例2-1~2-13の組成物(E-1)~(E-13)、及び参考例2-1の組成物(E-18)は、MMAへの溶解性に優れていた。一方、比較例2-1~2-4の組成物(E-14)~(E-17)は、MMAへの溶解性が劣っていた。
以上より、本発明に係る組成物が優れた特性を示すことが確認できた。
【0212】
[実施例2-14~2-17]
撹拌装置、窒素導入管、温度計及び冷却管を備えた250mLの4つ口セパラブルフラスコに、連鎖移動剤、ラジカル重合性モノマー(D)としてMMA、重合開始剤としてアゾビスブチロニトリル(AIBN)、及び溶媒としてトルエンを表4に示す組成で加えて混合し、窒素雰囲気下、反応混合物を撹拌しながら80℃に加熱した。5時間加熱撹拌した後、ヘキサンを貧溶媒として再沈して分岐ポリマーを得た。
【0213】
[比較例2-5~2-8]
反応混合物の組成を表4に示すとおりに変更した以外は、実施例2-14と同様にしてポリマーを製造した。
【0214】
実施例2-14~2-17及び比較例2-5~2-8において、ポリマーの相対Mw、及びポリマーの溶液粘度の測定結果を表4に示す。
ポリマーの溶液粘度は次のとおり測定した。ポリマーを酢酸ブチルに溶解させ、固形分濃度を40質量%に調整し、E型粘度計を用いて室温(25℃)で溶液粘度を測定した。
【0215】
【0216】
表4に示すように、連鎖移動剤として組成物(E-1)、(E-3)、(E-6)、(E-13)を用いた実施例2-14~2-17は、分岐ポリマーが高分子量でもポリマー溶液の粘度が低く、取扱い性に優れていた。一方、連鎖移動剤を用いていない比較例2-5、分岐の少ない連鎖移動剤を用いた比較例2-6、2-7では、実施例2-14~2-17と同程度の分子量のポリマーであるにもかかわらず、ポリマー溶液の粘度が高かった。また、組成物(E-18)を連鎖移動剤として用いた比較例2-8は、ポリマーの分岐数が不十分なため、ポリマー溶液の粘度が高かった。
【0217】
[製造例3-1]
多官能チオール化合物(A)であるPEMPの10gに、触媒(C)として細かく砕いたTPPの0.1gを加え、均一になるまで撹拌しながら80℃に加熱して完全に溶解させた。得られた混合物の7.33gに、化合物(B)としてC6DAの2.26gを加え、PEMPとC6DAのモル比を1.5:1.0として、室温(25℃)で撹拌し、チオール基含有化合物(G-1)を得た。
【0218】
[製造例3-2]
PEMPの代わりに、ステアリル-3-メルカプトプロピオネート(STMP、SC有機化学社製)を3.6質量部用いた以外は、製造例3-1と同様にして、チオエーテル構造を有するが、チオール基は有しない化合物(X-1)を製造した。
【0219】
[実施例3-1]
チオール基含有化合物(G-1)と、熱可塑性樹脂(H)であるVHKとを質量比(G/H)が1/99となるように混合し、室温(25℃)で撹拌し、樹脂組成物を調製した。
【0220】
[比較例3-1、3-2]
組成を表5に示すとおりに変更した以外は、実施例3-1と同様にして樹脂組成物を調製した。
なお、比較例3-2において、チオール基を有するがチオエーテル構造及びチオウレタン構造は有しない化合物(X-2)として、PMMA-SHを用いた。
【0221】
実施例及び比較例で使用したチオール基含有化合物(G)及び比較対象化合物(X)の相対Mw、樹脂組成、及び評価結果を表5に示す。
【0222】
【0223】
表5における5%重量減少温度(Td5)の「G(測定値)」の欄は、チオール基含有化合物(G)又は比較対象化合物(X)のTd5の測定値である。
「H(測定値)」の欄は、熱可塑性樹脂(H)又は比較対象化合物(X)のTd5の測定値である。
「G+H(測定値)」の欄は、樹脂組成物のTd5の測定値である。
「G+H(計算値)」の欄は、チオール基含有化合物(G)又は比較対象化合物の熱重量測定値と熱可塑性樹脂(H)の熱重量測定値とを用い、それらの質量比から計算されたTd5の値である。
「Δ(G+H)」は、「G+H(測定値)」と「G+H(計算値)」の差であり、ΔTd5である。
【0224】
表5に示すように、チオール基含有化合物(G)を含まない比較例3-1、3-2の樹脂組成物はΔTd5(Δ(G+H))が0以下であるのに対して、チオール基含有化合物(G)と熱可塑性樹脂(H)とを含有する実施例3-1の樹脂組成物は、ΔTd5が0超となり耐熱性向上効果を有していることが示された。また、実施例3-1において、5%重量減少温度測定の際の加熱時に臭気は発生しなかった。
【0225】
[製造例4-1]
多官能チオール化合物(A)であるPEMPの10gに、触媒(C)として細かく砕いたTPPの0.05gを加え、均一になるまで撹拌しながら80℃に加熱して完全に溶解させた。得られた混合物の7.33gに、化合物(B)としてC6DAの2.26g、EHAの0.92gを加え、PEMPとC6DAとEHAのモル比を1.5:1.0:0.5として、室温(25℃)で撹拌し、50℃で3時間撹拌して連鎖移動剤(F-11)を得た。相対Mwは16000であった。
【0226】
[製造例4-2]
C6DAの代わりにA-DOD-Nを用い、PEMPとA-DOD-Nのモル比を1.5:1.0とした以外は、製造例4-1と同様にして連鎖移動剤(F-12)を得た。相対Mwは23000であった。
【0227】
[製造例4-3]
C6DAの代わりにA-DCPを用い、PEMPとA-DCPのモル比を2.0:1.0とした以外は、製造例4-1と同様にして連鎖移動剤(F-13)を得た。相対Mwは8000であった。
【0228】
[製造例4-4]
C6DAの代わりにA-DOD-Nを用い、EHAの代わりにLAを用い、PEMPとA-DOD-NとLAのモル比を1.5:1.0:0.5とした以外は、製造例4-1と同様にして連鎖移動剤(F-14)を得た。相対Mwは13000であった。
【0229】
[実施例4-1]
撹拌装置、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた500mLのセパラブルフラスコに、ラジカル重合性モノマー(D)としてLMA50モル%及びBMA50モル%、製造例4-1で得た連鎖移動剤(F-11)をラジカル重合性モノマー(D)総量を100質量部として7.1質量部、及び、重合開始剤として2,2’-アゾビスブチロニトリル(AIBN)を0.25質量部加え、さらに溶媒としてトルエンを300質量部加えて混合し、窒素雰囲気下、反応混合物を撹拌しながら80℃に加熱した。5時間加熱撹拌した後、メタノールを貧溶媒として再沈して乾燥し、高分子化合物を得た。
【0230】
[実施例4-2]
ラジカル重合性モノマー(D)としてTDMA50モル%、BMA50モル%、連鎖移動剤(F)として(F-11)を6.8質量部用いた以外は、実施例4-1と同様にして、高分子化合物を得た。
【0231】
[実施例4-3]
連鎖移動剤(F)として連鎖移動剤(F-12)を6.8質量部用いた以外は実施例4-1と同様にして、高分子化合物を得た。
【0232】
[実施例4-4]
ラジカル重合性モノマー(D)としてLMA35モル%、BMA65モル%、連鎖移動剤(F)として(F-12)を6.9質量部用いた以外は、実施例4-1と同様にして、高分子化合物を得た。
【0233】
[実施例4-5]
ラジカル重合性モノマー(D)としてEHMA100モル%、連鎖移動剤(F)として(F-13)を6.5質量部用いた以外は、実施例4-1と同様にして、高分子化合物を得た。
【0234】
[実施例4-6]
ラジカル重合性モノマー(D)としてLMA35モル%、BMA65モル%、連鎖移動剤(F)として(F-14)を8.3質量部用いた以外は、実施例4-1と同様にして、高分子化合物を得た。
【0235】
[実施例4-7]
ラジカル重合性モノマー(D)としてLMA50モル%、MMA50モル%、連鎖移動剤(F)として(F-14)を8.5質量部用いた以外は、実施例4-1と同様にして、高分子化合物を得た。
【0236】
[比較例4-1]
ラジカル重合性モノマー(D)としてEHMA100モル%、連鎖移動剤としてPEMPを2.0質量部用いた以外は、実施例4-1と同様にして、高分子化合物を得た。
【0237】
実施例、比較例で得られた高分子化合物の相対Mw、絶対Mw/相対Mw、また、10%YUBASE2溶液を調製して動粘度(mm2/s)、粘度指数(VI)、せん断安定性指数(SSI)を測定した結果を表6に示した。
なお、粘度指数(VI)は潤滑油の粘度の温度依存性を表す物性値であり、数値が大きいほど温度による粘度変化が小さい。せん断安定性指数(SSI)は、高分子化合物(潤滑油用添加剤)の添加による潤滑油の粘度向上が、せん断力によりどれほど減少するかを示す指標であり、0に近いほど優れている。
【0238】
【0239】
前述の通り、粘度指数向上効果とせん断安定性はトレードオフとなりやすいが、表6に示すように、本発明に係る実施例4-1~4-7の高分子化合物は、十分な粘度指数(VI)を有しながら、SSIが小さく、これを添加した潤滑油はせん断安定性にも優れていた。特に、実施例4-1~4-4、4-6~4-7の高分子化合物は、VIが約180以上と高い値を示しながら良好なせん断安定性を両立していた。一方、比較例4-1は、粘度指数(VI)は十分であるが、SSIが大きいため、これを添加した潤滑油はせん断安定性が不十分であった。
これにより、本発明の高分子化合物は、粘度向上効果とせん断安定性を両立することが裏付けられた。