(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】連結ケーブルおよび連結ケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/282 20060101AFI20220810BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20220810BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20220810BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220810BHJP
H01B 13/32 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
H01B7/282
H01B7/00 306
H01B7/02 Z
H01B13/00 521
H01B13/32
(21)【出願番号】P 2019035194
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須田 貴広
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-067852(JP,A)
【文献】実開昭58-083470(JP,U)
【文献】実開昭60-102261(JP,U)
【文献】特開昭58-143871(JP,A)
【文献】特開2019-026807(JP,A)
【文献】米国特許第04374694(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/282
H01B 7/00
H01B 7/02
H01B 13/00
H01B 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する線材と、
前記線材の両端に固定された一対の端子と、
前記端子の前記線材との接続部と前記線材とを覆う被覆と、を備え、
前記端子の前記接続部は、ブラスト処理された後、プライマーが塗布されており、
前記被覆はディップコーティングにより形成されている
ことを特徴とする連結ケーブル。
【請求項2】
前記線材は、ブラスト処理およびプライマー塗布がなされていない
ことを特徴とする請求項1記載の連結ケーブル。
【請求項3】
前記被覆は軟質塩化ビニルで形成されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の連結ケーブル。
【請求項4】
導電性を有する線材の両端それぞれに端子を固定し、
ついで、前記端子の前記線材との接続部にブラスト処理を施し、
ついで、前記接続部にプライマーを塗布し、
ついで、前記接続部と前記線材とを覆う被覆をディップコーティングにより形成する
ことを特徴とする連結ケーブルの製造方法。
【請求項5】
前記線材には、ブラスト処理およびプライマー塗布を施さない
ことを特徴とする請求項4記載の連結ケーブルの製造方法。
【請求項6】
前記被覆を軟質塩化ビニルで形成する
ことを特徴とする請求項4または5記載の連結ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結ケーブルおよび連結ケーブルの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、部材間に電流を流すのに用いられる連結ケーブル、およびその連結ケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などには、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は、例えば、銅張積層板から製造される。
【0003】
銅張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている。メタライジング法による銅張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行なわれる。まず、樹脂フィルムの表面にニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成する。つぎに、下地金属層の上に銅薄膜層を形成する。つぎに、銅薄膜層の上に銅めっき被膜を形成する。銅めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで導体層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接導体層が形成された、いわゆる2層基板と称されるタイプの銅張積層板が得られる。
【0004】
銅めっき被膜は電解めっき装置を用いて成膜される。電解めっき装置として、ロールツーロールにより長尺帯状の基材を搬送しつつ、基材に対して電解めっきを行なう装置が知られている。この種の電解めっき装置は複数のクランプが設けられた上下一対のエンドレスベルトを有する。基材はその幅方向が鉛直方向に沿う懸垂姿勢となり、両縁が上下のクランプに把持される。エンドレスベルトの動作により基材はめっき槽内を搬送される。上側のエンドレスベルトに設けられたクランプを介して基材に電流を流すことで、基材の表面にめっき被膜を成膜できる。
【0005】
上記タイプの電解めっき装置に関して、特許文献1には以下の事項が開示されている。基材を把持するクランプにはそれに接触する給電ブラシを介して給電が行なわれる。給電ブラシとクランプとの接触抵抗のばらつきに起因して、クランプに流れる電流が変動し、クランプに瞬間的な過大な電流が流れる場合がある。クランプに過大な電流が流れると、基材上縁のクランプに把持されている給電部分近傍の金属薄膜が溶解することがある。そこで、隣り合うクランプを電線で接続する。電線によりクランプ同士が通電されるので、クランプから基材に供給される電流のばらつきを低減でき、金属薄膜の溶解を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クランプ間を接続する電線はめっき液の液面近くに配置されるため、めっき液が頻繁に掛かる。そのため、電線として被覆を有し防水性に優れたものを用いる必要がある。しかし、通常の被覆を有する電線では、被覆の内部にめっき液がわずかに侵入することがある。めっき液は硫酸を含むことがあり腐食性が高いため、わずかでも侵入すると導体が腐食し、断線の恐れがある。そのため、より防水性の高い電線が求められる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、防水性の高い連結ケーブル、およびその連結ケーブルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の連結ケーブルは、導電性を有する線材と、前記線材の両端に固定された一対の端子と、前記端子の前記線材との接続部と前記線材とを覆う被覆と、を備え、前記端子の前記接続部は、ブラスト処理された後、プライマーが塗布されており、前記被覆はディップコーティングにより形成されていることを特徴とする。
第2発明の連結ケーブルは、第1発明において、前記線材は、ブラスト処理およびプライマー塗布がなされていないことを特徴とする。
第3発明の連結ケーブルは、第1または第2発明において、前記被覆は軟質塩化ビニルで形成されていることを特徴とする。
第4発明の連結ケーブルの製造方法は、導電性を有する線材の両端それぞれに端子を固定し、ついで、前記端子の前記線材との接続部にブラスト処理を施し、ついで、前記接続部にプライマーを塗布し、ついで、前記接続部と前記線材とを覆う被覆をディップコーティングにより形成することを特徴とする。
第5発明の連結ケーブルの製造方法は、第4発明において、前記線材には、ブラスト処理およびプライマー塗布を施さないことを特徴とする。
第6発明の連結ケーブルの製造方法は、第4または第5発明において、前記被覆を軟質塩化ビニルで形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、端子の接続部がブラスト処理された後、プライマーが塗布されているので、端子と被覆との密着性が高い。そのため、連結ケーブルの防水性が高い。
第2発明によれば、線材にはブラスト処理およびプライマー塗布がなされていないので、線材と被覆とは密着性が低い。そのため、連結ケーブルの柔軟性が高い。
第3発明によれば、被覆が軟質塩化ビニルで形成されているので、連結ケーブルの柔軟性が高い。
第4発明によれば、端子の接続部にブラスト処理を施した後、プライマーを塗布しているので、端子と被覆との密着性が高い。そのため、連結ケーブルの防水性が高い。
第5発明によれば、線材にはブラスト処理およびプライマー塗布を施さないので、線材と被覆とは密着性が低い。そのため、連結ケーブルの柔軟性が高い。
第6発明によれば、被覆を軟質塩化ビニルで形成するので、連結ケーブルの柔軟性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る連結ケーブルの平面図である。
【
図2】
図1の連結ケーブルの製造工程の説明図である。
【
図8】図(A)は実施例1における銅めっき被膜の厚さの測定結果を示すグラフである。図(B)は比較例1における銅めっき被膜の厚さの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(連結ケーブル)
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る連結ケーブル1は、主として導電性を有する線材11からなる。線材11は特に限定されないが、銅の撚線が好適に用いられる。線材11の両端には一対の端子12、12が固定されている。端子12は特に限定されないが、圧着端子が好適に用いられる。
【0013】
端子12のうち線材11と接続する部分を接続部12aと称する。端子12として圧着端子を用いる場合、接続部12aは線材11の端部が挿入されるスリーブである。両端子12、12の接続部12a、12aと線材11とは樹脂などの絶縁体で形成された被覆13で覆われている。この被覆13により連結ケーブル1の防水性が確保されている。
【0014】
(連結ケーブルの製造方法)
端子12の接続部12aと被覆13との密着性が弱いと、それらの間から液が侵入することがある。そこで、つぎの手順で連結ケーブル1を製造することが好ましい。以下、
図2に基づき、連結ケーブル1の製造方法を説明する。
【0015】
(1)まず、線材11の両端それぞれに端子12を固定する。端子12として圧着端子を用いる場合、線材11の端部を挿入したスリーブを圧着工具でかしめて、端子12を固定すればよい。
【0016】
(2)つぎに、各端子12の接続部12aにブラスト処理を施す。端子12はステンレス鋼などの金属製であり、その表面は酸化被膜で覆われている。ブラスト処理により接続部12aの表面の酸化被膜を除去する。
【0017】
(3)つぎに、接続部12aにプライマーを塗布する。プライマーとしては、端子12の素材である金属と被覆13の素材である樹脂との密着性を高めるものを選択する。
【0018】
(4)つぎに、ディップコーティングにより被覆13を形成する。ここで、接続部12aおよび線材11をコーティング液に浸漬した後、引き上げる。これにより、接続部12aと線材11とを覆う被覆13を形成する。
【0019】
このように、端子12の接続部12aにブラスト処理を施した後、プライマーを塗布することで、端子12と被覆13との密着性が高くなる。そのため、端子12と被覆13との間から液が侵入しにくくなり、連結ケーブル1の防水性が高くなる。
【0020】
ただし、線材11にはブラスト処理およびプライマー塗布を施さない方が好ましい。線材11にブラスト処理およびプライマー塗布を行なうと、線材11と被覆13とが強固に密着し、連結ケーブル1の柔軟性が低くなる。これに対して、線材11にブラスト処理およびプライマー塗布を行なわなければ、線材11と被覆13との密着性が低くなり、連結ケーブル1の柔軟性が高くなる。要するに、連結ケーブル1を曲げやすくなる。
【0021】
また、被覆13を軟質塩化ビニルで形成することが好ましい。そうすれば、被覆13自体の柔軟性も高くなり、連結ケーブル1の柔軟性が高くなる。
【0022】
連結ケーブル1は部材間を連結し電流を流すのに用いられる。連結する部材は特に限定されない。ただし、連結ケーブル1は防水性が高いため、液と接触する環境でも好適に用いることができる。また、連結ケーブル1は柔軟性が高いため、互いの位置関係が変化する部材間を連結するのにも好適に用いられる。例えば、連結ケーブル1は電解めっき装置に用いられる。
【0023】
(電解めっき装置)
図3に示すように、電解めっき装置2は、ロールツーロールにより長尺帯状の基材BMを搬送しつつ、基材BMに対して電解めっきを行なう装置である。基材BMは薄膜状であり、その片面または両面にめっき被膜が成膜される。
【0024】
電解めっき装置2はロール状に巻回された基材BMを繰り出す供給装置21と、めっき後の製品をロール状に巻き取る巻取装置22とを有する。また、電解めっき装置2は基材BMを搬送する上下一対のエンドレスベルト23(下側のエンドレスベルト23は図示省略)を有する。各エンドレスベルト23には基材BMを把持する複数のクランプ30が設けられている。供給装置21から繰り出された基材BMは、その幅方向が鉛直方向に沿う懸垂姿勢となり、両縁が上下のクランプ30に把持される。基材BMはエンドレスベルト23の動作により電解めっき装置2内を周回した後、クランプ30から開放され、巻取装置22で巻き取られる。
【0025】
基材BMの搬送経路には、前処理槽24、めっき槽25、および後処理槽26が配置されている。基材BMはめっき槽25内を搬送されつつ、電解めっきによりその表面にめっき被膜が成膜される。
【0026】
図4に示すように、めっき槽25は基材BMの搬送方向に沿った横長の槽である。基材BMはめっき槽25の中心に沿って搬送される。めっき槽25にはめっき液が貯留されている。めっき槽25内を搬送される基材BMは、その全体がめっき液に浸漬されている。
【0027】
めっき槽25の内部には、基材BMの搬送方向に沿って複数のアノード27が配置されている。また、後述のごとく、上側のエンドレスベルト23に設けられたクランプ30は基材BMに電流を供給する給電端子としての機能も有する。基材BMとアノード27との間に電流を流すことで、基材BMの表面にめっき被膜を成膜できる。
【0028】
めっき槽25には、基材BMの表裏両側にアノード27が配置されている。したがって、両面が導電性を有する基材BMを用いれば、基材BMの両面にめっき被膜を成膜できる。
【0029】
図5に示すように、クランプ30は本体部31と可動部32とからなるバネクランプである。可動部32はヒンジ部33を介して本体部31に設けられている。したがって、可動部32はヒンジ部33を中心として本体部31に対して回動可能である。本体部31の下端には基材BMと接触する接触部31aが設けられている。また、可動部32の下端には基材BMと接触する接触部32aが設けられている。可動部32が本体部31に対して回動することにより、本体部31の接触部31aと可動部32の接触部32aとの間が開閉する。
【0030】
ヒンジ部33には図示しないねじりコイルバネが設けられている。ねじりコイルバネにより接触部31aと接触部32aとの間が閉まる方向に付勢されている。接触部31aと接触部32aとの間を閉じれば、クランプ30で基材BMを把持できる。また、接触部31aと接触部32aとの間を開けば、クランプ30が把持していた基材BMを開放できる。
【0031】
基材BMは薄膜状である。基材BMの一方の主面を第1面S1とし、第1面S1と反対側の主面を第2面S2とする。また、本体部31の接触部31aが第1面S1と接触し、可動部32の接触部32aが第2面S2と接触するとする。
【0032】
本体部31の上端には略水平に配置された板状のスライダ31bが設けられている。スライダ31bは後述の給電装置40と接触し、給電装置40から電流の供給を受ける。本体部31および可動部32は、それぞれ金属などの導電体で形成されている。また、本体部31と可動部32とはヒンジ部33で接触しており、導通している。給電装置40から供給された電流は、本体部31および可動部32を流れて、基材BMに供給される。
【0033】
図6に示すように、上側のエンドレスベルト23には、上記構成のクランプ30が複数並んで設けられている。クランプ30の本体部31の上部がエンドレスベルト23に固定されている。
【0034】
めっき槽25の上方には給電装置40が設けられている。給電装置40は基材BMの搬送経路に沿って略水平に設けられたブスバー41を有する。ブスバー41は図示しない整流器に接続されている。ブスバー41の下方には複数の給電ブラシ42が並べて配置されている。各給電ブラシ42は圧縮バネ43を介してブスバー41に取り付けられている。圧縮バネ43の付勢により給電ブラシ42は本体部31のスライダ31bに押し付けられている。
【0035】
エンドレスベルト23の動作にともない、複数のクランプ30は略水平方向に移動する。この際、クランプ30のスライダ31bは給電装置40の給電ブラシ42に順次接触する。整流器から供給された電流は、ブスバー41および給電ブラシ42を介して各クランプ30に供給される。また、各クランプ30から基材BMに電流が供給される。このように、給電装置40はクランプ30を介して基材BMに給電する。
【0036】
なお、めっき槽25に貯留されためっき液の液位は、基材BMの上側の縁より上であり、クランプ30の下端部(ヒンジ部33よりも下方の部分)のみがめっき液に浸かる程度である。
【0037】
このような構成の電解めっき装置2を用いれば、薄膜状の基材BMの両面S1、S2にめっき被膜を成膜できる。
【0038】
上記構成の電解めっき装置2において、本実施形態の連結ケーブル1は、例えば、隣り合うクランプ30、30を電気的に接続する連結ケーブル1Aとして用いられる。なお、連結ケーブル1Aの取り付け方法は特に限定されない。連結ケーブル1Aの一方の端子12を一方のクランプ30の本体部31にビスで固定し、他方の端子12を他方のクランプ30の本体部31にビスで固定すればよい。
【0039】
隣り合うクランプ30、30を連結ケーブル1Aで接続すれば、各クランプ30から基材BMに供給される電流のばらつきを低減でき、一部のクランプ30から基材BMに瞬間的に過大な電流が流れることを防止できる。
【0040】
また、
図5に示すように、本実施形態の連結ケーブル1は、例えば、クランプ30の本体部31と可動部32とを電気的に接続する連結ケーブル1Bとして用いられる。なお、連結ケーブル1Bの取り付け方法は特に限定されない。連結ケーブル1Bの一方の端子12を本体部31にビスで固定し、他方の端子12を可動部32にビスで固定すればよい。
【0041】
本願発明者は、クランプ30の本体部31と可動部32とを連結ケーブル1Bで接続しない場合、基材BMの両面S1、S2に成膜されるめっき被膜の厚さに差異が生じるとの知見を得ている。具体的には、クランプ30の本体部31に接触している第1面S1に成膜されためっき被膜は厚く、可動部32に接触している第2面S2に成膜されためっき被膜は薄い場合がある。
【0042】
この現象はクランプ30の本体部31側と可動部32側との電気抵抗の差異に起因すると考えられる。すなわち、本体部31側(給電装置40と第1面S1との間)の電気抵抗が低く、可動部32側(給電装置40と第2面S2との間)の電気抵抗が高いことから、第1面S1に電流が多く流れ、第1面S1側のめっき被膜が厚くなると考えられる。
【0043】
クランプ30の本体部31と可動部32とを連結ケーブル1Bで接続すれば、給電装置40と基材BMの第1面S1との間の電気抵抗と、給電装置40と基材BMの第2面S2との間の電気抵抗との差異を小さくできる。電流を基材BMの両面S1、S2に均等に供給できるため、両面S1、S2のめっき被膜の厚さの差異を小さくできる。
【0044】
図5に示す例では、連結ケーブル1Bはヒンジ部33の上方においてU字形に曲げられた状態で取り付けられている。連結ケーブル1Bの一端は本体部31の上下中央付近に固定されており、他端は可動部32の上部に固定されている。したがって、クランプ30を開閉するたびに、連結ケーブル1Bの曲げ伸ばしが行なわれる。しかし、連結ケーブル1Bは柔軟性が高いので、クランプ30の開閉を阻害することがない。
【0045】
連結ケーブル1A、1Bは、いずれもめっき液の液面より上方に配置される。そのため、通常の操業状態において連結ケーブル1A、1Bがめっき液に長時間浸漬されることはない。しかし、連結ケーブル1A、1Bはめっき液の液面近くに配置されるため、めっき液が掛かることは頻繁にある。連結ケーブル1A、1Bは防水性が高いため、めっき液が掛かったとしても、めっき液が被覆13の内部に侵入しにくい。そのため、連結ケーブル1A、1Bが断線する可能性は低い。
【0046】
(銅張積層板)
前記の電解めっき装置2を用いて基材BMの両面S1、S2に銅めっき被膜を成膜すれば、銅張積層板を得ることができる。なお、電解めっき装置2は銅張積層板を製造するのに限定されず、種々の製品を製造するのに用いられる。
【0047】
図7に示すように、銅張積層板50は、基材BMと、基材BMの両面S1、S2に成膜された銅めっき被膜54、54とからなる。
【0048】
基材BMは絶縁性を有するベースフィルム51の両面に金属層が形成されたものである。ベースフィルム51としてポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。金属層は、例えば、スパッタリング法により形成される。金属層は下地金属層52と銅薄膜層53とからなる。下地金属層52と銅薄膜層53とはベースフィルム51の表面にこの順に積層されている。一般に、下地金属層52はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。特に限定されないが、下地金属層52の厚さは5~50nmが一般的であり、銅薄膜層53の厚さは50~400nmが一般的である。銅めっき被膜54は銅薄膜層53の表面に形成されている。特に限定されないが、銅めっき被膜54の厚さは1~3μmが一般的である。
【0049】
前記の電解めっき装置2を用いれば、電流を基材BMの両面S1、S2に均等に供給できるため、両面S1、S2の銅めっき被膜54、54の厚さの差異が小さい銅張積層板50を製造できる。
【実施例】
【0050】
(連結ケーブル試験)
種々の手順で連結ケーブルを試作し、防水性および柔軟性を確認した。
【0051】
・試料1
銅の撚線の両端に圧着端子を固定した。圧着端子のスリーブにブラスト処理を施した後、プライマーを塗布した。撚線にはブラスト処理およびプライマー塗布を行なわなかった。その後、撚線および圧着端子のスリーブに対して、ディップコーティングにより被覆を形成した。被覆の素材として軟質塩化ビニルを用いた。得られた連結ケーブルを試料1とする。
【0052】
・試料2
銅の撚線の両端に圧着端子を固定した。圧着端子のスリーブにブラスト処理を施した後、プライマーを塗布した。撚線にはブラスト処理およびプライマー塗布を行なわなかった。その後、撚線および圧着端子のスリーブに対して、ディップコーティングにより被覆を形成した。被覆の素材として硬質塩化ビニルを用いた。得られた連結ケーブルを試料2とする。
【0053】
・試料3
銅の撚線の両端に圧着端子を固定した。圧着端子のスリーブおよび撚線にブラスト処理を施した後、プライマーを塗布した。その後、撚線および圧着端子のスリーブに対して、ディップコーティングにより被覆を形成した。被覆の素材として軟質塩化ビニルを用いた。得られた連結ケーブルを試料3とする。
【0054】
・試料4
銅の撚線の両端に圧着端子を固定した。ブラスト処理およびプライマー塗布は行なわなかった。撚線および圧着端子のスリーブに対して、ディップコーティングにより被覆を形成した。被覆の素材として軟質塩化ビニルを用いた。得られた連結ケーブルを試料4とする。
【0055】
・試料5
銅の撚線の両端に圧着端子を固定した。撚線の全体を軟質塩化ビニル製のチューブに挿入し、チューブの両端を熱収縮チューブで封止した。得られた連結ケーブルを試料5とする。
【0056】
・試料6
銅の撚線の両端に圧着端子を固定した。撚線の全体を軟質塩化ビニル製のチューブに挿入し、チューブの両端をPTFE製のテープで巻き締めた後、熱収縮チューブで封止した。得られた連結ケーブルを試料6とする。
【0057】
得られた試料1~6に対して防水性の評価を行なった。防水性の評価は、連結ケーブルをU字形に曲げた状態で硫酸銅を主成分とするめっき液に24時間浸漬し、撚線への水分の侵入の有無を確認することで行なった。
【0058】
また、得られた試料1~6に対して柔軟性の評価を行なった。柔軟性の評価は、手作業で連結ケーブルを曲げ伸ばしした時の人間の感覚に基づき行なった。
【0059】
その結果を表1に示す。なお、表1中、防水性の評価において○は撚線への水分の侵入がないことを示し、×は撚線への水分の侵入があることを示す。また、柔軟性の評価において○は軟らかいことを示し、×は硬いことを示す。
【0060】
【0061】
表1より、ブラスト処理およびプライマー塗布をした後に、ディップコーティングにより被覆を形成すれば、連結ケーブルの防水性が高くなることが分かる。また、被覆の素材として軟質塩化ビニルを用いれば、硬質塩化ビニルを用いる場合よりも連結ケーブルの柔軟性が高くなることが分かる。また、撚線にはブラスト処理およびプライマー塗布を行なわない方が、連結ケーブルの柔軟性が高くなることが分かる。
【0062】
(膜厚試験)
銅張積層板50の両面の銅めっき被膜54、54の厚さを測定する試験を行なった。
【0063】
・実施例1
前記の構成の電解めっき装置2を用いて、基材BMの両面に銅めっき被膜54、54を成膜して銅張積層板50を製造した。ここで、クランプ30の本体部31と可動部32とを連結ケーブル1Bで接続した。また、銅めっき被膜54の設定厚さを3μmとした。
【0064】
得られた銅張積層板50の両面の銅めっき被膜54、54の厚さを測定した。測定には蛍光X線膜厚計を用いた。その結果を
図8(A)に示す。
図8(A)のグラフの横軸は基材BMの幅方向の位置を示す。0mmは基材BMの上縁であり、524mmは基材BMの下縁である。0mm側の縁が給電装置40に接続されたクランプ30に把持されている。縦軸は銅めっき被膜54の厚さを示す。
図8(A)のグラフより、両面の銅めっき被膜54、54の厚さにはほとんど差異がないことが確認できる。
【0065】
・比較例1
実施例1と同様の条件で銅張積層板50を製造した。ただし、クランプ30の本体部31と可動部32とは連結ケーブル1で接続しなかった。得られた銅張積層板50の両面の銅めっき被膜54、54の厚さを測定した。
【0066】
その結果を
図8(B)に示す。
図8(B)のグラフより、両面の銅めっき被膜54、54の厚さは、特に下縁に近づくほど、差異が生じることが確認できる。両面の銅めっき被膜54、54の厚さの差異は最大で1μm程度である。
【0067】
以上より、クランプ30の本体部31と可動部32とを連結ケーブル1Bで接続することで、両面のめっき被膜の厚さの差異を小さくできることが確認できた。
【符号の説明】
【0068】
1 連結ケーブル
11 線材
12 端子
12a 接続部
13 被覆