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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】接合性導体ペースト
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20220812BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20220812BHJP
   H05K 3/32 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
H01B1/22 A
C09D11/52
H05K3/32 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020132264
(22)【出願日】2020-08-04
(62)【分割の表示】P 2016012141の分割
【原出願日】2016-01-26
(65)【公開番号】P2020194786
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2020-09-01
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽二
(72)【発明者】
【氏名】赤井 泰之
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 克昭
(72)【発明者】
【氏名】酒 金▲てい▼
(72)【発明者】
【氏名】張 浩
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】恩田 春香
【審判官】鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-167259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子と溶剤を含む、電子素子を接続するための導体配線及び/又は接合構造体を形成するための接合性導体ペーストであって、導電性粒子として銀粒子を含み、溶剤として下記式(1)
1-O-(X-O)n-R2 (1)
(式中、R1は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基及び炭素数3~5の脂環式炭化水素基から選択される1価の基を示す。Xは炭素数3~6の脂肪族炭化水素基及び炭素数3~6の脂環式炭化水素基から選択される2価の基を示す。R2は水素原子、又は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基及び炭素数3~5の脂環式炭化水素基から選択される1価の基を示す。R1とR2は同一の基であってもよい。nは1~3の整数を示す)で表される化合物を含み、
式(1)で表される化合物の常圧下における沸点が200~290℃である、接合性導体ペースト(セルロース系樹脂を含む場合及び300℃以上の沸点を有するアルコール又はカルボン酸を含む場合を除く)。
【請求項2】
式(1)で表される化合物を、溶剤全量中90重量%以上含む、請求項1に記載の接合性導体ペースト。
【請求項3】
式(1)で表される化合物の25℃におけるSP値[(cal/cm31/2]が8.6以下である請求項1又は2に記載の接合性導体ペースト。
【請求項4】
式(1)中のR1がメチル基である請求項1~3の何れか1項に記載の接合性導体ペースト。
【請求項5】
式(1)中のXがプロピレン基又はトリメチレン基である請求項1~4の何れか1項に記載の接合性導体ペースト。
【請求項6】
接合性導体ペースト全量における銀粒子の含有量が50~99.8重量%である請求項1~5の何れか1項に記載の接合性導体ペースト。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の接合性導体ペーストを基板上に塗布し、その後焼結することにより導体配線及び/又は接合構造体を形成する工程を有する電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体素子、LED素子などの電子素子を接続するための導体配線や接合構造体を形成する用途に使用する接合性導体ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体素子、LED素子などの電子素子を実装する際には複数の材料間を高強度に接合する必要があり、そのために導体配線や接合構造体や、これらを備えた配線基板が用いられる。
【0003】
前記導体配線の形成方法としては、例えば、絶縁基板に張り合わせた銅箔にエッチングを施すことにより銅配線を製造する方法が知られている。しかし、前記方法ではエッチングにより廃棄物が大量に生じることが問題であった。
【0004】
その他の方法として、導電性粒子と接着剤を含む導体ペーストを印刷法等によって絶縁基板の上に塗布し、その後、焼結することにより導体配線を製造する方法が知られている(非特許文献1)。前記接着剤を含有する導体ペーストは適度な粘性を有するので、精度良く印字することができ、それを焼結することにより配線が製造される。しかし、焼結後に非導電成分である前記接着剤や接着剤由来の成分が残留するため、導電性粒子間や導電性粒子と基板とのインタラクションが阻害されることにより、良好な導電性が得られ難いことが問題であった。
【0005】
特許文献1には、銀粒子とアルコール溶剤(メタノール、エタノール、又はエチレングリコール)を混合して得られる、接着剤を含まない導体ペーストを使用することで焼結後の非導電成分の残留を抑制し、電気抵抗値を引き下げることが記載されている。しかし、前記アルコール溶剤を使用した導体ペーストは「にじみ」が生じ易く、更にメタノールやエタノールは印刷温度における揮発速度が速いため、これを使用した導体ペーストは印刷時に粘度が変動し易く、精度良く微細パターンを形成することは困難であった。また、エチレングリコールを使用した導体ペーストでは、基板との接合強度に優れた導体配線が得られ難いことが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-170277号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Yi Li, C.P. Wong,"Recent advances of conductive adhesives asa lead-free alternative in electronic packaging: Materials, processing, reliability and applications", Materials Science and Engineering, 2006, R51, p1-35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、基板上に、電子素子を接続するための導体配線や接合構造体を印刷法等によって形成するための接合性導体ペーストであって、印刷温度では粘度の変動を抑制してムラ無く印字することができ、焼結温度では速やかに焼結して、良好な導電性を有し、基板と電子素子とを高い接合強度で接続可能な高精度の導体配線や接合構造体を形成することができる接合性導体ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(1)で表される化合物は適度な粘度を有する為、溶剤として前記式(1)で表される化合物を含有し、且つ導電性粒子として銀粒子を含有するペーストは、接着剤を添加せずとも、印刷に適した粘度を有し、にじみを生じること無く印字できること、前記式(1)で表される化合物は印刷温度では揮発しにくく、溶剤として前記式(1)で表される化合物を含むペーストは、印刷時には粘度の変動を抑制することができ、ムラ無く印字することができること、溶剤としてエチレングリコールを使用したペーストに比べて低温でも導電性に優れた焼結体を形成することができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、導電性粒子と溶剤を含む、電子素子を接続するための導体配線及び/又は接合構造体を形成するための接合性導体ペーストであって、導電性粒子として銀粒子を含み、溶剤として下記式(1)
1-O-(X-O)n-R2 (1)
(式中、R1は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基及び炭素数3~5の脂環式炭化水素基から選択される1価の基を示す。Xは炭素数3~6の脂肪族炭化水素基及び炭素数3~6の脂環式炭化水素基から選択される2価の基を示す。R2は水素原子、又は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基及び炭素数3~5の脂環式炭化水素基から選択される1価の基を示す。R1とR2は同一の基であってもよい。nは1~3の整数を示す)
で表される化合物を含む接合性導体ペーストを提供する。
【0011】
本発明は、また、式(1)で表される化合物の常圧下における沸点が160℃以上であり、且つ25℃におけるSP値[(cal/cm31/2]が8.6以下である前記の接合性導体ペーストを提供する。
【0012】
本発明は、また、式(1)中のR1がメチル基である前記の接合性導体ペーストを提供する。
【0013】
本発明は、また、式(1)中のXがプロピレン基又はトリメチレン基である前記の接合性導体ペーストを提供する。
【0014】
本発明は、また、接合性導体ペースト全量における銀粒子の含有量が50~99.8重量%である前記の接合性導体ペーストを提供する。
【0015】
本発明は、また、前記の接合性導体ペーストを基板上に塗布し、その後焼結することにより導体配線及び/又は接合構造体を形成する工程を有する電子部品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の接合性導体ペーストは、溶剤として式(1)で表される化合物を含有するため、印刷法に適した粘性を有し、にじみを生じ難く、印刷法によって高精度の配線パターンや接合構造体パターンを形成することができる。また、接着剤を添加して増粘する必要がなく、従来は焼結後に残留する接着剤由来の非導電成分によって電気特性が低下するという問題があったが、非導電成分が残留することによる電気特性の低下を防止することができ、電気特性に優れた導体配線や接合構造体を形成することができる。
更に、本発明の接合性導体ペーストは、印刷温度では揮発しにくい式(1)で表される化合物を溶剤として使用するため、印刷時に粘度を一定に保持することができ、ムラの無い、高精度の印字が可能となる。
更にまた、本発明の接合性導体ペーストは、溶剤としてエチレングリコールを含有する場合に比べて、より低い温度で焼結しても、基板に対する接合強度に優れた導体配線や接合構造体を形成することができ、焼結による基板等の劣化又は損傷を低減することができる。
従って、本発明の接合性導体ペーストを使用すれば、導電性に優れ(すなわち、電気抵抗値が低く)、接合強度に優れた導体配線や接合構造体を、印刷法により精度良く形成することができ、基板と電子素子とを、前記導体配線や接合構造体を介して強度に接合することができるため、電気特性に優れた電子部品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(溶剤)
本発明の接合性導体ペーストは、溶剤として、下記式(1)で表される化合物を1種又は2種以上含む。
1-O-(X-O)n-R2 (1)
【0018】
式(1)中、R1は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基及び炭素数3~5の脂環式炭化水素基から選択される1価の基を示す。前記炭素数1~5の1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基等の炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル基、アリル基、1-ブテニル基等の炭素数2~5のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等の炭素数2~5のアルキニル基等を挙げることができる。前記炭素数3~5の1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基等を挙げることができる。
【0019】
式(1)中、Xは炭素数3~6の脂肪族炭化水素基及び炭素数3~6の脂環式炭化水素基から選択される2価の基を示す。前記炭素数3~6の2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、プロピレン基(-CH(CH3)CH2-)、トリメチレン基(-CH2-CH2-CH2-)等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基等を挙げることができる。前記炭素数3~6の2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、Xは炭素数3~6の脂肪族炭化水素基が好ましく、特に好ましくは炭素数3~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、最も好ましくはプロピレン基又はトリメチレン基である。
【0020】
式(1)中、R2は水素原子、又は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基及び炭素数3~5の脂環式炭化水素基から選択される1価の基を示す。前記炭素数1~5の脂肪族炭化水素基及び炭素数3~5の脂環式炭化水素基から選択される1価の基としては、上記R1における例と同様の例を挙げることができる。R2はR1と同一の基であってもよく、異なっていてもよい。
【0021】
nは1~3の整数を示す。nは好ましくは2である。
【0022】
式(1)で表される化合物を構成する炭素原子の数としては、印刷温度では揮発し難く、焼結温度ではより速やかに揮発する点で、8~13個が好ましく、特に好ましくは10~12個である。
【0023】
式(1)で表される化合物は、印刷温度においては揮発しにくいことが好ましく、沸点(常圧下における)は、例えば160℃以上(なかでも170~290℃、とりわけ200~260℃)であることが好ましい。沸点が上記範囲を下回ると、接合性導体ペーストを調製若しくは印刷する際に揮発して粘度が変動し易く、導体配線や接合構造体をムラ無く、高精度で形成することが困難となる傾向がある。
【0024】
また、式(1)で表される化合物は、焼結時には速やかに揮発することが好ましく、凝集エネルギー密度の平方根(SP値;(cal/cm31/2)は、例えば8.6以下(なかでも7.6~8.4、とりわけ7.6~8.2)であることが好ましい。尚、SP値(25℃における)はFedorsの計算式により算出することができる。
【0025】
式(1)で表される化合物において、式(1)中のXがプロピレン基であり、nが2の場合の具体例としては、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルペンチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルイソペンチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールエチルブチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルペンチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルイソペンチルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルブチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルペンチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルイソペンチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルペンチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルイソペンチルエーテル、ジプロピレングリコールイソブチルペンチルエーテル、ジプロピレングリコールイソブチルイソペンチルエーテル、ジプロピレングリコールジペンチルエーテル、ジプロピレングリコールペンチルイソペンチルエーテル等を挙げることができる(異性体を含む)。
【0026】
式(1)で表される化合物において、式(1)中のX、nが上記以外の場合の具体例としては、上記例示に対応する化合物を挙げることができる。
【0027】
本発明の接合性導体ペーストは、その効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて上記式(1)で表される化合物以外の溶剤を1種又は2種以上含有していても良いが、本発明の接合性導体ペーストに含まれる溶剤全量における上記式(1)で表される化合物(2種以上含有する場合はその総量)の占める割合は、例えば50重量%以上、好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。尚、上限は100重量%である。
【0028】
(導電性粒子)
本発明の接合性導体ペーストは、導電性粒子として銀粒子を含む。
【0029】
銀粒子の平均粒子径(メジアン径)は、例えば0.1~15μm、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは0.3~8μmである。尚、銀粒子の平均粒子径(メジアン径)は、レーザー回折・散乱法により測定することができる。
【0030】
また、銀粒子の比表面積は、例えば0.5~4.0m2/g、好ましくは0.6~3.0m2/g、より好ましくは0.7~2.5m2/g、特に好ましくは0.8~2.5m2/gである。尚、銀粒子の比表面積は、BET法により測定することができる。
【0031】
本発明の接合性導体ペーストに含まれる全銀粒子のうち、粒子径が0.1~15μmの銀粒子の割合は、例えば70重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。前記粒子径を有する銀粒子を上記範囲で含有すると、一層電気抵抗値が低く、電気特性に特に優れた、導体配線や接合構造体を形成することができる点で好ましい。
【0032】
本発明においては、なかでも、平均粒子径が異なる銀粒子(群)を組み合わせて使用することが、より一層電気抵抗値が低く、電気特性に優れた導体配線や接合構造体を形成することができる点で好ましく、平均粒子径が0.1~1.5μm(より好ましくは0.1~0.5μm)の銀粒子(群)と平均粒子径が1.5μmを超え、8μm以下(より好ましくは5~8μm)の銀粒子(群)を、例えば70/30~30/70、好ましくは40/60~60/40、特に好ましくは45/55~55/45(前者/後者:重量比)の割合で組み合わせて使用することが好ましい。
【0033】
銀粒子の形状としては、例えば、球状、扁平な形状、多面体等が挙げられ、形状の異なる導電性粒子を組み合わせて使用しても良く、同じ形状の導電性粒子のみを使用しても良い。
【0034】
本発明の接合性導体ペーストには、銀粒子以外の導電性粒子(以後、「他の導電性粒子」と称する場合がある)を含有していてもよいが、銀粒子の含有量は本発明の接合性導体ペーストに含まれる導電性粒子全量の例えば75重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは85重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。尚、銀粒子の含有量の上限は100重量%である。従って、他の導電性粒子の含有量は本発明の接合性導体ペーストに含まれる導電性粒子全量の例えば25重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下、特に好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下である。銀粒子を上記範囲で含有すると、電気特性に特に優れた、導体配線や接合構造体を形成することができる点で好ましい。
【0035】
他の導電性粒子を含有する場合、本発明の接合性導体ペーストに含まれる銀粒子と他の導電性粒子の重量比(前者:後者)は、例えば4:1~30:1、好ましくは6:1~25:1、より好ましくは8:1~20:1である。
【0036】
前記他の導電性粒子としては、例えば、パラジウム、白金、金、銅、ニッケル等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
[接合性導体ペースト]
本発明の接合性導体ペーストは、導電性粒子としての銀粒子と溶剤としての式(1)で表される化合物を含む。
【0038】
本発明の接合性導体ペースト全量(100重量%)における溶剤の含有量(2種以上含有する場合は合計含有量)は、例えば1~50重量%、好ましくは3~40重量%、特に好ましくは5~30重量%である。
【0039】
また、本発明の接合性導体ペースト全量(100重量%)における式(1)で表される化合物の含有量(2種以上含有する場合は合計含有量)は、例えば1~50重量%、好ましくは2~40重量%、特に好ましくは3~30重量%である。
【0040】
更に、本発明の接合性導体ペースト全量(100重量%)における導電性粒子の含有量(2種以上含有する場合は合計含有量)は、例えば50~99重量%、好ましくは60~97重量%、特に好ましくは70~95重量%である。
【0041】
更にまた、本発明の接合性導体ペースト全量(100重量%)における銀粒子の含有量(2種以上含有する場合は合計含有量)は、例えば50~99.8重量%、好ましくは60~97重量%、特に好ましくは70~95重量%である。
【0042】
本発明の接合性導体ペースト全量(100重量%)において、式(1)で表される化合物と銀粒子の合計含有量が占める割合は、例えば70重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。従って、本発明の接合性導体ペーストに含まれる式(1)で表される化合物と銀粒子以外の成分の含有量(2種以上含有する場合は合計含有量)は、例えば30重量%以下、好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0043】
そして、本発明の接合性導体ペーストに含まれる式(1)で表される化合物は、印刷温度においては揮発速度が遅く、焼結温度においては揮発速度が速い。そのため、本発明の接合性導体ペーストを使用すれば、印刷時は粘度の変動を抑制して、ムラなく印刷することができる。そして、焼結時は、溶剤としてエチレングリコールを含有する接合性導体ペーストに比べて低温(例えば150℃以上、250℃未満、好ましくは170~200℃)でも、接合強度に優れた焼結体を形成することができ(焼結時間は、例えば0.1~2時間、好ましくは0.5~1時間)、焼結工程における基板の劣化又は損傷を防止することができる。
【0044】
本発明の接合性導体ペーストを印刷法(具体的には、ディスペンサ印刷法、マスク印刷、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法等)などにより基板に塗布し、その後、焼結することにより導体配線や接合構造体を形成することができる。
【0045】
前記焼結温度は、例えば150℃以上、250℃未満、好ましくは170~200℃である。また、焼結時間は、例えば0.1~2時間、好ましくは0.5~1時間である。
【0046】
前記焼結は、空気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等の何れで行ってもよいが、なかでも空気雰囲気下で行うことが、経済的であり、且つ、より電気抵抗値が低い導体配線や接合構造体が得られる点で好ましい。
【0047】
本発明の接合性導体ペーストを基板上に塗布する厚さとしては、上記方法で形成される導体配線や接合構造体の厚みが、例えば15~400μm、好ましくは20~250μm、より好ましくは40~180μmとなる範囲である。
【0048】
導体配線や接合構造体を形成する基板としては、例えば、セラミック基板、SiC基板、窒化ガリウム基板、金属基板、ガラスエポキシ基板、BTレジン基板、ガラス基板、樹脂基板等が挙げられる。本発明の接合性導体ペーストは上述の通り低温で焼結可能であるため、熱に弱い基板も用いることができる。
【0049】
導体配線や接合構造体の形状としては、電子素子を接続することが可能な形状であれば特に制限されることがない。
【0050】
また、本発明の接合性導体ペーストは、接着剤(例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂等の分子量10000以上の高分子化合物)を含有してもよいが、その含有量は、接合性導体ペースト全量(100重量)の例えば10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下、最も好ましくは0.5重量%以下である。そのため、本発明の接合性導体ペーストによれば、接着剤や接着剤由来の非導電成分によって、導電性粒子間や導電性粒子と基板とのインタラクションが阻害されることが無く、導電性に優れた導体配線や接合構造体[電気抵抗値は、例えば10×10-6Ω・cm以下、好ましくは9.0×10-6Ω・cm以下、特に好ましくは8.5×10-6Ω・cm以下、最も好ましくは7.0×10-6Ω・cm以下である]を形成することができる。
【0051】
更に、本発明の接合性導体ペーストを使用して基板上に形成された導体配線や接合構造体は、焼結によって導電性粒子が密に集合し、導電性粒子同士が溶け合うことにより、基板に対して優れた接合強度を発揮することができ、例えば銀メッキを施した銅基板に対する接合強度(JIS Z 3198準拠)は、10MPa以上、好ましくは20MPa以上である。
【0052】
本発明の接合性導体ペーストは上記特性を有するため、例えば、印刷法を用いて電子部品(例えば、パワー半導体モジュール、LEDモジュール等)を製造する目的に好適に使用することができる。
【実施例
【0053】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0054】
以下において、平均粒子径(メジアン径)はレーザー回折・散乱法により、比表面積はBET方法により測定した値である。
【0055】
使用した銀粒子及び溶剤は、以下のとおりである。
・「AgC-239」:平均粒子径(メジアン径)7.9μm、比表面積0.72m2/g、福田金属箔粉工業(株)製
・「FHD」:平均粒子径(メジアン径)0.3μm、比表面積2.54m2/g、三井金属鉱業(株)製
・「DPMIA」:ジプロピレングリコールメチルイソペンチルエーテル、沸点:226℃、SP値:8.0(cal/cm31/2
・「DPMNP」:ジプロピレングリコールメチルイソプロピルエーテル、沸点:203℃、SP値:8.0(cal/cm31/2
・「EG」:エチレングリコール、沸点:197℃、SP値:15.4(cal/cm31/2
【0056】
実施例1
「AgC-239」45.5重量部と、「FHD」45.5重量部と、「DPMIA」9.1重量部を室温で混合して接合性導体ペースト(1)を得た。
【0057】
得られた接合性導体ペースト(1)を、マスク印刷方法により、ガラス基板に厚み約180μmに塗布し後、空気雰囲気下、室温(30℃)から180℃まで昇温速度1℃/秒で昇温し、その後180℃で30分間加熱して焼結を行って導体配線を得た。
得られた導体配線について、四探針法(http://www.mccat.co.jp/3seihin/kksoku/mcpt610.htm)により電気抵抗値を測定した。
【0058】
実施例2
実施例1と同様の方法で得られた接合性導体ペースト(1)を使用し、室温(30℃)から250℃まで昇温速度1℃/秒で昇温し、その後250℃で30分間加熱して焼結を行った以外は実施例1と同様にして導体配線を得た。
【0059】
実施例3
「DPMIA」に代えて「DPMNP」を使用した以外は実施例1と同様に行って接合性導体ペースト(2)を得た。
【0060】
接合性導体ペースト(1)に代えて接合性導体ペースト(2)を使用した以外は実施例2と同様に行って導体配線を得た。
【0061】
比較例1
「DPMIA」に代えて「EG」を使用した以外は実施例1と同様に行って接合性導体ペースト(3)を得た。
【0062】
接合性導体ペースト(1)に代えて接合性導体ペースト(3)を使用した以外は実施例1と同様に行って導体配線を得た。
【0063】
比較例2
接合性導体ペースト(1)に代えて、比較例1と同様の方法で得られた接合性導体ペースト(3)を使用した以外は実施例2と同様に行って導体配線を得た。
【0064】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
【0065】
(導電性評価結果)
表1より、本発明の接合性導体ペーストによれば、アルコール溶剤(具体的には、エチレングリコール)を使用した接合性導体ペーストに比べて、より低い温度での焼結により、導電性に優れた導体配線が形成できることが確認された。
【0066】
実施例4
Cu/Ag基板(1)(銀メッキを施した銅基板、銀メッキ厚み:1μm)に、マスク印刷方法により実施例1と同様の方法で得られた接合性導体ペースト(1)を塗布して塗膜を形成した(塗膜厚み:約100μm)。
次に、形成された塗膜の上に、Cu/Ag基板(2)(銀メッキを施した銅基板、銀メッキ厚み:1μm、寸法3mm×3mm)を載せたものを、ホットプレートを使用して、0.4MPaで押圧しつつ、180℃で60分間、空気雰囲気下で加熱して焼結を行って試料(基板(1)/焼結された接合性導体ペースト/基板(2))を作成した。
得られた試料(n=4)について、万能型ボンドテスター[dage4000(http://jp.caeonline.com/listing/product/9044507/dage-4000)]を使用して、室温条件下、JIS Z 3198に準拠した方法で、基板(1)と基板(2)間の接合強度を測定して接合性を評価した。
【0067】
実施例5
接合性導体ペースト(1)に代えて、実施例3と同様の方法で得られた接合性導体ペースト(2)を使用した以外は実施例5と同様に行って試料(基板(1)/焼結された接合性導体ペースト/基板(2))を作成し、基板(1)と基板(2)間の接合強度を測定して接合性を評価した。
【0068】
比較例3
接合性導体ペースト(1)に代えて、比較例1と同様の方法で得られた接合性導体ペースト(3)を使用した以外は実施例5と同様に行って試料(基板(1)/焼結された接合性導体ペースト/基板(2))を作成し、基板(1)と基板(2)間の接合強度を測定して接合性を評価した。
【0069】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表2】
【0070】
(接合性評価結果)
表2より、本発明の接合性導体ペーストは、アルコール溶剤(具体的には、エチレングリコール)を使用した接合性導体ペーストに比べて、基板に対して、より接合強度に優れた導体配線や接合構造体を形成することができた。