(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】転写具
(51)【国際特許分類】
B43M 11/06 20060101AFI20220815BHJP
B43L 19/00 20060101ALN20220815BHJP
【FI】
B43M11/06
B43L19/00 H
(21)【出願番号】P 2019032221
(22)【出願日】2019-02-26
(62)【分割の表示】P 2015028012の分割
【原出願日】2015-02-16
【審査請求日】2019-03-05
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001351
【氏名又は名称】コクヨ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 啓二
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 恵
(72)【発明者】
【氏名】福井 哲也
【合議体】
【審判長】吉村 尚
【審判官】藤本 義仁
【審判官】比嘉 翔一
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体ケースの前側に転写物を転写するための転写ヘッドを有した転写具本体と、
前記本体ケースの上部にスライド可能に保持されたスライダーと、
このスライダーに
対して回転可能に支持され、前記転写ヘッドの前側、左右側、及び、上下側を覆い隠す形状を有したキャップとを備えたものであり、
前記スライダーの
前方向のみのスライド操作に伴わせて、
前記キャップを前記転写ヘッドから退避した使用位置から前記転写ヘッドの前側、左右側、及び、上下側を覆う被覆位置に位置変更させるとともに、前記スライダーの後方向のみのスライド操作に伴わせて、前記キャップを前記被覆位置
から前記使用位置
に位置変更させる案内機構を備えている転写具。
【請求項2】
前記キャップにおける前記被覆位置から前記使用位置への移行が、使用者の指による前記スライダーに対するスライド操作により行われるものであり、前記キャップが前記使用位置に位置する際の前記スライダー上に前記指を置いた状態で、そのまま前記転写ヘッドの前記転写物をその下に位置する転写対象物に押し付けて転写し得る請求項1記載の転写具。
【請求項3】
前記キャップが、前記スライダーに対して回動可能に支持されたものであり、
前記案内機構が、前記キャップ又は前記転写具本体の何れか一方に形成された突出部と、他方に形成され前記突出部に係わり合う突出部当接部とを備えたものである請求項1又は2記載の転写具。
【請求項4】
前記突出部が前記キャップに形成されたものであり、前記突出部当接部が前記転写具本体に形成された案内溝である請求項3記載の転写具。
【請求項5】
前記転写具本体が、内部に転写物を収容した前記本体ケースと、この本体ケースの前側に突出して配された前記転写ヘッドとを備えたものであり、
前記キャップが、前記被覆位置において前記転写ヘッドの左右両側に位置するとともに後端縁が前記本体ケースの前端縁に沿うように形成された側壁を備えている請求項1、2、3又は4記載の転写具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写物を転写するための転写具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、不使用時において、転写ヘッドを覆うためのキャップを備えてなる転写具が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ところで、不使用時において、転写ヘッドが外部の物品等に接触してしまうのを比較的簡易な操作によって抑制できるようにしたものとして、本体ケースに対してスライドする湾曲片状の部材を設けた転写具なども存在する。かかる転写具は、片状の部材をスライド移動させることにより、当該片状の部材を転写ヘッドの転写方向側に位置させるようにしている。
【0004】
ところが、このようなものは、転写ヘッドの略全体を覆い得るものとはなっていなかったので、外部の埃やゴミが転写ヘッドに付着してしまうことを必ずしも十分に回避できるものとはなっていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情に着目してなされたもので、キャップをスライド操作することにより、転写ヘッドを好適に覆い得る設計の自由度に優れた転写具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は次の構成をなしている。
【0008】
請求項1の転写具は、本体ケースの前側に転写物を転写するための転写ヘッドを有した転写具本体と、前記本体ケースの上部にスライド可能に保持されたスライダーと、このスライダーに対して回転可能に支持され、前記転写ヘッドの前側、左右側、及び、上下側を覆い隠す形状を有したキャップとを備えたものであり、前記スライダーの前方向のみのスライド操作に伴わせて、前記キャップを前記転写ヘッドから退避した使用位置から前記転写ヘッドの前側、左右側、及び、上下側を覆う被覆位置に位置変更させるとともに、前記スライダーの後方向のみのスライド操作に伴わせて、前記キャップを前記被覆位置から前記使用位置に位置変更させる案内機構を備えているものである。
【0009】
請求項2の転写具は、請求項1記載の構成において、前記キャップにおける前記被覆位置から前記使用位置への移行が、使用者の指による前記スライダーに対するスライド操作により行われるものであり、前記キャップが前記使用位置に位置する際の前記スライダー上に前記指を置いた状態で、そのまま前記転写ヘッドの前記転写物をその下に位置する転写対象物に押し付けて転写し得るものである。
【0010】
請求項3の転写具は、請求項1又は2記載の構成において、前記キャップが、前記スライダーに対して回動可能に支持されたものであり、前記案内機構が、前記キャップ又は前記転写具本体の何れか一方に形成された突出部と、他方に形成され前記突出部に係わり合う突出部当接部とを備えたものである。
【0011】
請求項4の転写具は、請求項3記載の構成において、前記突出部が前記キャップに形成されたものであり、前記突出部当接部が前記転写具本体に形成された案内溝である。
【0012】
請求項5の転写具は、請求項1、2、3又は4記載の構成において、前記転写具本体が、内部に転写物を収容した前記本体ケースと、この本体ケースの前側に突出して配された前記転写ヘッドとを備えたものであり、前記キャップが、前記被覆位置において前記転写ヘッドの左右両側に位置するとともに後端縁が前記本体ケースの前端縁に沿うように形成された側壁を備えているものである。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、キャップをスライド操作することにより、転写ヘッドを好適に覆い得る設計の自由度に優れた転写具を提供することができるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図9】同実施形態のキャップを説明するための斜視図。
【
図10】同実施形態のスライダーを説明するための斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を、
図1~10を参照して説明する。
【0017】
この実施形態は、本発明を、転写物である糊(図示せず)を用紙等の転写対象面に対して転写するための転写具Tに適用したものである。この転写具Tは、比較的小型のもので、例えば、かばん類に収納される一般的な大きさのペンケースの中に収容され得る大きさに設定されている。
【0018】
転写具Tは、糊を転写するための転写ヘッド12を有した転写具本体1と、この転写具本体1にスライド可能に保持されたスライダー2と、このスライダー2に支持され、前記転写ヘッド12を覆い隠す形状を有したキャップ3とを備えている。この転写具Tは、前記スライダー2の前後方向へのスライド操作に伴わせて、前記キャップ3を前記転写ヘッド12を被覆する被覆位置(C)と前記転写ヘッド12から退避した使用位置(U)との間で位置変更させる案内機構Gを備えている。
【0019】
以下、この転写具Tについて詳述する。
【0020】
転写具本体1は、内部に転写物である糊を保持した転写テープPを収容した本体ケース11と、この本体ケース11の前側に前方に向かって突出して配された転写ヘッド12とを備えたものである。
【0021】
本体ケース11は、
図1及び
図2に示すように、内部において、転写テープPを繰り出すための繰出リールmと、この繰出リールmから繰り出されるとともに転写ヘッド12の転写ロール121を経由した転写テープPを巻き取るための巻取リールnを回転可能に支
持している。
【0022】
本体ケース11の内部に配された繰出リールmは、繰出ギアmgを一体に保持している。巻取リールnは、前記繰出ギアmgに噛合する巻取ギアngに支持されている。そして、繰出ギアmg、及び、巻取ギアngを主体にして、繰出リールm、及び、巻取リールnを連動して回転させるための連動機構Rを構成している。なお、連動機構Rは、通常のものであるため、詳細な説明を省略する。繰出リールm、及び、巻取リールnに巻回される転写テープPは、フィルム状の基材の一面側に転写物である糊を添付してなる通常のものである。
【0023】
本体ケース11は、合成樹脂製のものであり、左右の側壁111、112と、この左右の側壁111、112の上端縁部間に配された上壁113と、前記左右の側壁111、112の後端縁部間に配された後壁114と、前記左右の側壁111、112の下端縁部間に配された下壁115とを備えている。本体ケース11は、その先端部に、転写テープPを転写ヘッド12の転写端たる転写ロール121に導出するとともに、転写ロール121を経由した前記転写テープPを本体ケース11の内部に導入するための開口部11aを有している。
【0024】
この実施形態では、本体ケース11は、右の側壁112を有した第一ケースc1と、左の側壁111、上壁113、後壁114、及び、下壁115を有した第二ケースc2とによって構成されている。これら第一ケースc1と第二ケースc2とを組み合わせることにより、繰出リールm、及び、巻取リールnを収容し得る内部空間を有した本体ケース11が形成されるようになっている。
【0025】
左の側壁111は、その前端に、被覆位置(C)におけるキャップ3の後端縁たる開口端縁3aが当接又は近接し得る左の前端縁111aを有している。左の前端縁111aは、本体ケース11の開口部11aを構成するものである。
【0026】
右の側壁112は、その前端に、被覆位置(C)におけるキャップ3の後端縁たる開口端縁3aが当接又は近接し得る右の前端縁112aを有している。右の前端縁112aは、本体ケース11の開口部11aを構成するものである。
【0027】
右の側壁112は、上縁側における後部から前端部に亘って連続する凹み領域112bを備えている。凹み領域112bは、正面視において中央側に凹んだ部位であり、スライダー2やキャップ3の右側の部位が配される領域をなしている。すなわち、凹み領域112bに、スライダー2の横壁22、及び、キャップ3の右側の側壁31を配することができるようにして、前記横壁22の外面、及び、前記右側の側壁31の外面を、本体ケース11における右の側壁112の主たる外面と略面一にさせている。
【0028】
右の側壁112には、凹み領域112bに対応する位置に、スライダー2、及び、キャップ3を案内するための突出部当接部たる案内溝Mが形成されている。案内溝Mは、後述する案内機構Gを構成するものである。案内溝Mは、側面視においてL字状をなすものであり、本体ケース11の上壁113に略沿うように前後方向に延びてなる前後溝m1と、この前後溝m1の前端に連続して形成され、下方に向かって屈曲する屈曲溝m2と、この屈曲溝m2の前端に連続して形成され、上下方向に延びる上下溝m3とを備えたものである。上下溝m3は、前後溝m1よりも短寸のものである。
【0029】
上壁113は、その前端に、被覆位置(C)におけるキャップ3の後端縁たる開口端縁3aが当接又は近接し得る前端縁113aを有している。上壁113の前端縁113aは、本体ケース11の開口部11aを構成するものである。
【0030】
上壁113は、スライダー2を前後方向にスライド可能に支持するためのスライダー支持部Jと、このスライダー支持部Jと略平行に配されたスライダー2の姿勢保持用のスライド補助部Hと、前縁部付近に配された左右方向に延びるキャップ係止部Kを備えている。
【0031】
スライダー支持部Jは、前後方向に延びる溝状のものである。スライダー支持部Jは、スライダー2に設けられた本体係合部たる突出部23と係わり合い、スライダー2を本体ケース11に対してスライド可能に支持し得るものである。
【0032】
スライダー支持部Jは、スライダー2の突出部23が本体ケース11から離脱し難いように構成されている。すなわち、スライダー支持部Jは、外部に表出するスリット状の開口部j1の幅よりも、内側に形成された内部溝j2の幅を広く形成させてある。一方、スライダー2における突出部23は、先端に設けられた幅広部分231と、この幅広部分231よりも左右方向に幅狭な基端部分232とを備えている。そして、スライダーの幅広部分231が前記スライダー支持部Jの内部溝j2に位置するように構成されている。
【0033】
スライダー支持部Jの開口部j1は、前後方向に延びるスリット状のものであり、その後部側に、スライダー2における突出部23の幅広部分231を内部溝j2側に挿通させるための挿通部j11を備えている。挿通部j11は、隣接する前後の部分よりも、若干幅広の離間空間を形成したものである。
【0034】
内部溝j2は、突出部23の先端に形成された幅広部分231が配される部分である。内部溝j2には、前側の部分に内方に向かって突出する前側の突出部t1を有しているとともに、後側の部分に内方に向かって突出する後側の突出部t2を有している。前側の突出部t1は、キャップ3が被覆位置(C)にあるときにスライダー2の幅広部分231が節度係合し得る部分となり、スライダー2の後方への移動を規制するものである。このようにすることで、キャップ3は被覆位置(C)にある状態が保持されるようになっている。後側の突出部t2は、キャップ3が使用位置(U)にあるときにスライダー2の幅広部分231と節度係合し得る部分となり、スライダー2の前方への移動を規制するものである。このようにすることで、キャップ3は使用位置(U)にある状態が保持されるようになっている。なお、後側の突出部t2は、略四分の一円柱状に内方に向かって突出した形状をなしている。すなわち、突出部t2における前側(前側の突出部t1を向く側)は曲面状の外面を有するように構成されているとともに突出部t2における後側は後方を向く平面状の外面を有するように構成されている。このように後側の突出部t2を構成することにより、キャップ3を被覆位置(C)から使用位置(U)に遷移させる場合と、キャップ3を使用位置(U)から被覆位置(C)に遷移させる場合とによって、スライダー2との係わり度合いを変化させている。すなわち、キャップ3を被覆位置(C)から使用位置(U)に遷移させる際は、スライダー2は突出部t2の曲面状の外面と係わり合うため、そのスライド操作は、比較的滑らかに行うことができるようになっている。その一方で、キャップ3を使用位置(U)から被覆位置(C)に遷移させる際は、スライダー2は突出部t2の平面状の外面と係わり合うため、そのスライド操作(特にスライド開始段階)は、使用者に比較的大きなスライド力を要求させるようになっている。つまり、この実施形態におけるスライダー2は、前記突出部t2と係わり合うことにより、キャップ3が使用位置(U)にある状態を好適に保持することができるようになっており、安易にキャップ3が被覆位置(C)に移動することを抑制するものとなっている。
【0035】
スライド補助部Hは、上壁113に形成された前後方向に延びる溝状のものである。スライド補助部Hは、スライダー2のスライド突起212と係わり合うようになっている。これにより、スライダー2が、上壁113に対して左右方向に回転してしまうこと、すな
わち、ぶれ動くことが抑制されるものとなり、前後方向へのスライド姿勢を好適に保持できるようになっている。
【0036】
キャップ係止部Kは、上壁113の前縁部付近に形成されたもので、左右方向に延びてなり上向きに開口した溝状のものである。キャップ係止部Kは、使用者が誤ってキャップ3を下方に押圧してキャップ3を使用位置(U)から被覆位置(C)に向かって操作した場合に、キャップ3の端縁すなわち下壁33の後端縁33eが一時的に係止し得る部位となっている。
【0037】
下壁115は、前端に、被覆位置(C)におけるキャップ3の後端縁たる開口端縁3aがが当接又は近接し得る前端縁115aを有している。下壁115の前端縁115aは、本体ケース11の開口部11aを構成するものである。
【0038】
転写ヘッド12は、転写物を転写対象物に押し付けて転写するためのものである。転写ヘッド12は、糊が添付された転写テープPを転写対象面に対して押し付ける転写端たる転写ロール121と、この転写ロール121の両側を回動可能に支持する板状をなす左右の支持部122とを主体に構成されたものである。左右の支持部122は、図示しない横架フレームに支持されており、当該横架フレームに支持された左右の支持部122は、第一ケースc1と合成樹脂により一体に形成されている。転写ヘッド12の正面視における左右方向の幅寸法は、本体ケース11の対応する幅寸法よりも小さく設定されている。
【0039】
次いで、スライダー2について説明する。
【0040】
スライダー2は、合成樹脂製のものであり、操作者の指による操作を受けて前後方向にスライド移動し得るものである。スライダー2は、前記転写具本体1の上側の部位、すなわち、本体ケース11の上部に保持されている。スライダー2は、本体ケース11の上壁113の上に位置するとともに上壁113に沿う板状をなしたスライダー本体21と、このスライダー本体21の右側の端縁から下方に向かって延出した横壁22と、前記スライダー本体21から下側に突設された本体係合部たる突出部23と、前記スライダー本体21の前端部に設けられキャップ3に設けられた回転軸xを回動可能に支持するための軸支持部24とを備えている。
【0041】
スライダー本体21は、下面側に突出して形成され本体ケース11の上壁113と摺接し得るための前後方向に延びるレール211と、下面側に突出して形成されスライド補助部Hと係わり合うスライド突起212とを備えている。また、スライダー本体21には、その上面側に、操作者に対してスライド方向を促すとともに指の滑り止め機能を兼ねた凹凸部分を有する表示部213が設けられている。スライダー本体21の下面側における左右方向中間部には、上壁113のスライダー支持部Jと係わり合う突出部23が下方に突出する態様で設けられている。
【0042】
横壁22は、スライダー本体21における右側の端縁から下方に向かって延びたものである。横壁22は、本体ケース11における右の側壁112の上縁部に形成された凹み領域112bに配されるようになっている。横壁22は、内面側に前後方向に延びるレール状の突起221を備えている。この突起221は、本体ケース11に形成された案内溝Mの前後溝m1と係わり合うようになっている。これにより、スライダー2が上壁113に対して上下方向に回転し難いものすなわちぶれ動き難いものとなり、前後方向へのスライド姿勢が安定保持できるようになっている。
【0043】
突出部23は、本体ケース11のスライダー支持部Jと係わり合うものである。突出部23は、先端部に設けられスライダー支持部Jの内部溝j2内に配される幅広部分231
と、基端部に設けられスライダー支持部Jの開口部j1内に配される基端部分232とを備えている。突出部23は、幅広部分231が内部溝j2内に位置することにより、本体ケース11から離脱することを抑制する機能を発揮している。
【0044】
軸支持部24は、スライダー本体21の前端部に設けられている。軸支持部24は、キャップ3に設けられた回転軸xを回動可能に支持するためのものであり、前記回転軸xの下側を支持する下アーム部材241と、前記回転軸xの上側を支持する上アーム部材242とを備えている。上アーム部材242は、先端側に矩形平板状の閉塞部材242aを備えている。閉塞部材242aは、被覆位置(C)において、キャップ3の回転軸xを支持している左右の軸支持部35間に形成される隙間skを閉塞し得るものとなっている。この隙間skは、キャップ3の内部空間spと外部空間とを連通し得るものであり、この隙間skを閉塞部材242aにより閉塞することで、前記内部空間spを閉塞し、外部からの異物が侵入することを抑制している。
【0045】
続いて、キャップ3について説明する。
【0046】
キャップ3は、合成樹脂製のものであり、本体ケース11及びスライダー2と協働して、転写ヘッド12の全体を隙間の抑制された状態で覆うことができる立体的形状のものである。キャップ3は、被覆位置(C)においてその内部空間spに転写ヘッド12を位置させることができ、当該転写ヘッド12の前側、左右側、及び、上下側を覆い得るものであり、外部から内部空間spに向かって埃やゴミの侵入を抑制することができるものである。キャップ3は、前記スライダー2に対してヒンジ部を介して回動可能に支持されているとともに、本体ケース11に対してスライド可能に係わり合っている。キャップ3は、被覆位置(C)において、後方に位置する開口端縁3aを有しており、被覆位置(C)において、本体ケース11の開口部11aと略一致するように設定されている。また、キャップ3は、使用位置(U)において、開口端縁3aが、本体ケース11の上壁113に添接又は近接するようになっている。
【0047】
キャップ3は、左右の側壁30、31と、これら左右の側壁30、31の前端部間に設けられ被覆位置(C)において転写ヘッド12の前側に配された前壁32と、前記左右の側壁30、31の下端部間に設けられ被覆位置(C)において転写ヘッド12の下側に配された下壁33と、前記左右の側壁30の上端部間に設けられ被覆位置(C)において転写ヘッド12の上側に配された上壁34と、上壁34の外面側に突設された壁状の左右の軸支持部35と、これら左右の軸支持部35間に架設された左右方向に延びる回転軸xとを備えている。
【0048】
右の側壁31は、内側に向かって突出し本体ケース11の案内溝Mに係わり合う突出部gを備えている。より具体的に言えば、右の側壁31は、被覆位置(C)において後方に向けて凸状に延出した延出壁部31aを有し、この延出壁部31aの内面に、内側に向かって突出し本体ケース11の案内溝Mに係わり合う円柱状の突出部gが配されている。
【0049】
キャップ3は、左右の側壁30、31、前壁32、下壁33、及び、上壁34を主体にして、内側に転写ヘッド収容空間である内部空間spを形成している。左右の側壁30、31は、前記被覆位置(C)において前記転写ヘッド12の左右両側に位置するとともに後端縁30e、31eが前記転写具本体1の本体ケース11の前縁すなわち左の前端縁111a及び右の前端縁112aに沿うように形成されている。なお、右の側壁31の一部、すなわち、上側の後端縁31eは、被覆位置(C)においてスライダー2の横壁22の前端縁22eに沿うように形成されている。上壁34は、前記被覆位置(C)において前記転写ヘッド12の上側に位置するとともに後端縁34eが前記転写具本体1の本体ケース11の前縁すなわち上壁113の前端縁113aに沿うように形成されている。下壁3
3は、前記被覆位置(C)において前記転写ヘッド12の下側に位置するとともに後端縁33eが前記転写具本体1の本体ケース11の前縁すなわち下壁115の前端縁115aに沿うように形成されている。上壁34は、回転軸xを臨む位置に切欠部341が形成されている。
【0050】
この転写具Tは、スライダー2の前後方向のスライド操作に伴わせて、キャップ3を前記転写ヘッド12を被覆する被覆位置(C)と前記転写ヘッド12から退避した使用位置(U)との間で位置変更させる案内機構Gを備えている。以下、案内機構Gについて説明する。
【0051】
案内機構Gは、キャップ3に設けられた円柱状の突出部gと、転写具本体1の本体ケース11に形成され前記突出部gに係わり合う前側において下方に屈曲した形状をなす案内溝Mとを主体に構成されている。
【0052】
使用位置(U)にあるキャップ3を被覆位置(C)に位置変更する際の動作を説明すれば次のとおりである。
【0053】
スライダー2を、指により前方にスライドすることにより、このスライダー2の前側に位置し、当該スライダー2に回動可能に支持されたキャップ3は、スライダー2とともに本体ケース11上をスライドし前方に向かって移動する。このとき、キャップ3の突出部gは、本体ケース11の案内溝Mの前後溝m1と係わり合っており、使用位置(U)の姿勢を概ね保持したまま前側に遷移することとなる。
【0054】
次いで、キャップ3の突出部gが、案内溝Mの屈曲溝m2に達すると、カム作用により、円柱状の突出部gが屈曲溝m2に沿って下方に案内され、キャップ3は、スライダー2に保持された回転軸xを中心にして下方に回転する。
【0055】
しかる後に、キャップ3の突出部gが、案内溝Mの上下溝m3に達すると、キャップ3は、使用位置(U)における姿勢に対して略90°下向きに旋回した姿勢をとり、開口縁部3aが本体ケース11の開口部11aに略一致する被覆位置(C)に位置することになる。
【0056】
被覆位置(C)にあるキャップ3は、その開口端縁3aが本体ケース11の開口部11aと当接又は近接することになり、外部から埃やゴミが侵入することが抑制されるとともに糊が乾くことが抑制される。また、キャップ3の軸支持部35間の隙間skには、スライダー2に設けられた閉塞部材242aが配されることになり、外部から埃やゴミが侵入することが抑制される。
【0057】
被覆位置(C)にあるキャップ3を使用位置(U)に位置変更する際の動作は、前述した順序の逆の順序を経て行われることになる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係る転写具Tは、転写物たる糊を転写するための転写ヘッド12を有した転写具本体1と、この転写具本体1にスライド可能に保持されたスライダー2と、このスライダー2に支持され、前記転写ヘッド12を覆い隠す形状を有したキャップ3とを備えたものである。そして、前記スライダー2のスライド操作に伴わせて、前記キャップ3を前記転写ヘッド12を被覆する被覆位置(C)と前記転写ヘッド12から退避した使用位置(U)との間で位置変更させる案内機構Gを備えている。このため、キャップ3をスライド操作することにより、転写ヘッド12を好適に覆うための設計の自由度に優れた転写具Tを提供することができるものとなる。すなわち、キャップ3が転写ヘッド12を覆い隠す形状を有したものであるため、転写ヘッド12を好適に覆うも
のとなっている。さらに、キャップ3を、スライダー2のスライド操作に伴わせて被覆位置(C)と使用位置(U)との間で位置変更させる案内機構Gを有しているため、所定の形状を有したキャップ3をスライダー2のスライド操作という簡単な操作によって位置変更させることができるものとなっている。キャップ3は、転写ヘッド12を好適に覆うものであるため、被覆位置(C)において外部から埃やゴミの侵入が抑制され、転写ヘッド12に埃やゴミが付着することが低減されるものとなっている。さらに、キャップ12は、転写ヘッド12を好適に覆うものであるため、被覆位置(C)において転写物たる糊が誤転写されることが好適に抑制されるものとなっている。しかも、キャップ12は、転写ヘッド12を好適に覆うものであるため、被覆位置(C)において転写物たる糊が乾燥することを好適に抑制し得るものとなる。
【0059】
また、この実施形態では、転写具本体1に、キャップ3を支持したスライダー2を保持させることにより、所期の目的を達成することができるものとなっている。このため、この実施形態における転写具Tであれば、転写ヘッド12を被覆するための必要な部品点数が抑制されたものとなっており、且つ、転写ヘッド12を被覆するための手段を簡易な構造で実現できるものとなっている。
【0060】
前記キャップ3が、前記スライダー2に対して回動可能に支持されている。そして、前記案内機構Gが、前記キャップ3に形成された突出部gと、転写具本体1に形成され前記突出部gに係わり合う突出部当接部たる案内溝Mとを備えている。このため、案内溝Mが転写具本体1に形成されるものとなるため、一定の長さを有した案内溝Mを強度に優れた態様で形成し易いものとなっている。
【0061】
前記転写具本体1が、内部に転写物を収容した本体ケース11と、この本体ケース11の前側に突出して配された前記転写ヘッド12とを備えたものとなっている。そして、前記キャップ3が、前記被覆位置(C)において前記転写ヘッド12の左右両側に位置するとともに後端縁30e、31eが前記本体ケース11の前端縁111a、112aに沿うように形成された側壁30、31を備えている。このため、被覆位置(C)においてキャップ3の側壁30、31が本体ケース11の前端縁111a、112aに密接又は近接し得るものとなるため、内部空間spを外部から遮断するための構造を実現し易いものとなっている。
【0062】
前記スライダー2が、前記転写具本体1の上側の部位に保持されている。このため、キャップ3が使用位置(U)において、転写具本体1の上側に位置するものとなるため、使用時において、キャップ3が邪魔になることを好適に抑制することができるものとなっている。しかも、使用者は、転写具本体1の上側に配されたスライダー2をスライドさせることにより、キャップ3を被覆位置(C)から使用位置(U)に移行させ、その状態からすぐに転写作業を開始することが可能となる。より具体的に言えば、使用者は、例えば、人差し指又は親指を使って、スライダー2をスライドさせてキャップ3を使用位置(U)に移行し、スライダー2上に前記人差し指又は親指を置いた状態で、そのまま転写作業を開始することができるものとなる。したがって、この転写具Tであれば、使用者のワンアクションによって、キャップ3を被覆位置(C)から使用位置(U)に移行させるとともに転写作業を開始し得るものとなり、使い勝手に優れたものとなる。
【0063】
前記スライダー2が、前記被覆位置(C)と前記使用位置(U)において前記転写具本体1に対して節度係合し得るように構成されている。このため、スライダー2及びキャップ3が、被覆位置(C)を好適に維持することができるとともに、使用位置(U)を好適に維持することができるものとなっている。
【0064】
なお、本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。
【0065】
転写具は、転写物を転写対象物に転写するものであればどのようなものであってもよい。換言すれば、転写物は、本実施形態に示された糊に限られるものではなく、例えば、修正用の修正剤(修正テープ)や装飾用の装飾剤(装飾テープ)であってもよい。更に、転写具は、必ずしも転写テープを利用したものに限られるものではなく、例えば、転写ローラを介してインクや糊を塗布するものであってもよい。
【0066】
転写端は、転写テープを転写対象面に押し付ける機能を発揮するものであればよく、本実施形態に示されるものに限られるものではない。転写端としては、例えば、板面を利用して転写対象面に転写テープを押し付けるようにした板状部材等を挙げることができる。
【0067】
転写具本体を構成する転写ヘッドは、本実施形態で示されたものには限定されない。例えば、転写物を保持した交換部品であるリフィルに転写ヘッドを設け、そのリフィルと本体ケースによって転写具本体を構成するようにしてもよい。換言すれば、転写具は、上述した実施形態で示したような、転写テープが無くなった場合は以後使用できなくなるいわゆるディスポーザブルタイプのものには限定されるものではない。
【0068】
案内機構は、カムを利用したものには限られず、種々のものが考えられる。案内機構として、例えば、一端を転写具本体に回動可能に支持させるとともに他端をキャップに回動可能に支持させたリンクを用いるようにしてもよい。
【0069】
案内機構は、前記転写具本体に突出部を形成し、キャップにその突出部に係わり合う突出部当接部を設けるようにしてもよい。
【0070】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…転写具本体
2…スライダー
3…キャップ
12…転写ヘッド
G…案内機構
(C)…被覆位置
(U)…使用位置