(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】水性樹脂分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20220817BHJP
C08F 2/24 20060101ALI20220817BHJP
C08F 255/00 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C08F2/44 C
C08F2/24
C08F255/00
(21)【出願番号】P 2017533644
(86)(22)【出願日】2017-06-09
(86)【国際出願番号】 JP2017021462
(87)【国際公開番号】W WO2017213250
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2016115151
(32)【優先日】2016-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】原田 明
(72)【発明者】
【氏名】原口 辰介
(72)【発明者】
【氏名】田中 基巳
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-508006(JP,A)
【文献】特開2009-074047(JP,A)
【文献】特開2008-163130(JP,A)
【文献】特開2005-060485(JP,A)
【文献】国際公開第2004/101679(WO,A1)
【文献】特開2005-272621(JP,A)
【文献】特開2010-001334(JP,A)
【文献】特開2000-264933(JP,A)
【文献】特開平09-157314(JP,A)
【文献】特開昭57-137339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2、251-283
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンと、グリフィン法で計算されるHLBが1~8のポリエーテル樹脂(D)との分散物であるポリオレフィン分散体(A)、ラジカル重合性単量体(B)及び乳化重合用界面活性剤(C)を混合して重合する重合工程を含む水性樹脂分散体の製造方法であって、前記重合工程において、重合開始剤添加時に前記ラジカル重合性単量体(B)の混合量が、前記ポリオレフィン分散体(A)の固形分質量部の0.5~2倍であり、前記乳化重合用界面活性剤(C)の固形分の混合量が、前記ラジカル重合性単量体(B)の全量100質量部に対して0~3質量部である水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項2】
前記重合工程において、前記水性樹脂分散体の製造に用いる全てのラジカル重合性単量体(B)の50~100質量%を重合開始剤により一括重合する操作を含む請求項1に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項3】
ポリオレフィンと、グリフィン法で計算されるHLBが1~8のポリエーテル樹脂(D)との分散物であるポリオレフィン分散体(A)及び乳化重合用界面活性剤(C)の存在下でラジカル重合性単量体(B)を重合する重合工程を含む水性樹脂分散体の製造方法であって、前記重合工程において、
前記ラジカル重合性単量体(B)の混合量が、前記ポリオレフィン分散体(A)の固形分質量部の0.5~2倍であり、前記水性樹脂分散体の製造に用いる全てのラジカル重合性単量体(B)の50~100質量%を重合開始剤により一括重合する操作を含み、前記乳化重合用界面活性剤(C)の使用量が、前記水性樹脂分散体の製造に用いるラジカル重合性単量体(B)の全量100質量部に対して0~3質量部である水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリオレフィン分散体(A)がハロゲン原子を含有しない請求項1又は2に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項5】
前記水性樹脂分散体がプライマー用である請求項1~4のいずれか一項に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂を含む水性樹脂分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン重合体やプロピレン-α-オレフィン共重合体などのポリオレフィンは安価であり、しかも、機械的物性、耐熱性、耐薬品性、耐水性などに優れていることから、広い分野で使用されている。しかしながら、ポリオレフィンは、分子中に極性基を持たないため極性が低く、塗装や接着が困難な場合が多いことから、改善が望まれていた。
【0003】
そこで、ポリオレフィンの成形体表面を薬剤などで化学的に処理する方法や、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理などによって成形体表面を酸化処理する方法等、種々の検討が行われてきている。しかしながら、これらの方法では、特殊な装置が必要であるばかりでなく、塗装性や密着性の改良効果が十分ではなかった。
【0004】
また、比較的簡便な方法でポリオレフィン、例えばポリプロピレン基材に良好な塗装性や密着性を付与するための工夫として、いわゆる塩素化ポリプロピレンや酸変性プロピレン-α-オレフィン共重合体、酸変性塩素化ポリプロピレン等の変性ポリオレフィンを、ポリオレフィンの成形体表面に、表面処理剤、接着剤或いは塗料等として塗布する方法が知られている。変性ポリオレフィンは、通常、有機溶媒の溶液、又は水分散体などの形態で塗布されるが、安全衛生及び環境汚染の面から、水分散体の形態が好ましく用いられる。
【0005】
塗料としての性能及び貯蔵安定性を向上させるため、変性ポリオレフィンとラジカル重合性重合体を複合化させた水性樹脂分散体の開発が行われている。例えば、特許文献1、2には、オレフィン系重合体に親水性高分子がグラフト結合されたグラフト共重合体の水性樹脂分散体と、界面活性剤を含むビニル系単量体の水性分散体とを混合し、乳化重合する方法が記載されている。また、特許文献3には、変性ポリオレフィンと界面活性剤をビニル系単量体に溶解させ、水に分散した後に乳化重合を行い、水性樹脂組成物を得る方法が記載されている。さらに、特許文献4、5には、塩素化ポリオレフィン系樹脂の存在下、界面活性剤を使用してビニル系単量体を水に分散させ、乳化重合を行うことにより水性樹脂組成物を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-46777号公報
【文献】特開2013-133417号公報
【文献】特開2006-036920号公報
【文献】特開2004-91559号公報
【文献】特開2002-308921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び2に記載の方法では、ビニル単量体から得られるラジカル重合性重合体がポリプロピレン基材への密着性を阻害し、密着性が不十分であった。また、特許文献3~5に記載の方法では、ポリオレフィンの水性樹脂組成物に大量の界面活性剤が含まれるなどの問題があり、耐水性が十分ではなかった。
【0008】
本発明の目的は、上記問題点を解決し、ポリプロピレン基材への密着性及び耐水性に優れた塗膜を形成できる水性樹脂分散体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔6〕に関する。
〔1〕ポリオレフィン分散体(A)、ラジカル重合性単量体(B)及び乳化重合用界面活性剤(C)を混合して重合する重合工程を含む水性樹脂分散体の製造方法であって、前記重合工程において、重合開始剤添加時に前記ラジカル重合性単量体(B)の混合量が、前記ポリオレフィン分散体(A)の固形分質量部の0.5~2倍であり、前記乳化重合用界面活性剤(C)の固形分の混合量が、前記ラジカル重合性単量体(B)の全量100質量部に対して0~3質量部である水性樹脂分散体の製造方法。
〔2〕 前記重合工程において、前記水性樹脂分散体の製造に用いる全てのラジカル重合性単量体(B)の50~100質量%を重合開始剤により一括重合する操作を含む〔1〕に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
〔3〕 ポリオレフィン分散体(A)及び乳化重合用界面活性剤(C)の存在下でラジカル重合性単量体(B)を重合する重合工程を含む水性樹脂分散体の製造方法であって、前記重合工程において、前記水性樹脂分散体の製造に用いるラジカル重合性単量体(B)の全量に対して50~100質量%のラジカル重合性単量体(B)を重合開始剤により一括重合する操作を含み、前記乳化重合用界面活性剤(C)の使用量が、前記水性樹脂分散体の製造に用いるラジカル重合性単量体(B)の全量100質量部に対して0~3質量部である水性樹脂分散体の製造方法。
〔4〕 前記ポリオレフィン分散体(A)がハロゲン原子を含有しない〔1〕~〔3〕に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
〔5〕 前記ポリオレフィン分散体(A)が、ポリオレフィンと、グリフィン法で計算されるHLBが1~8のポリエーテル樹脂(D)とを分散媒に分散させて製造したものである〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の水性樹脂分散体の製造方法。
〔6〕 前記水性樹脂分散体がプライマー用である〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、ポリプロピレン基材への密着性及び耐水性に優れた塗膜を形成できる水性樹脂分散体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明の一つの態様は、ポリオレフィン分散体(A)、ラジカル重合性単量体(B)及び乳化重合用界面活性剤(C)を混合して重合する工程を含む水性樹脂分散体の製造方法であって、前記ラジカル重合性単量体(B)の混合量が、前記ポリオレフィン分散体(A)の固形分質量部の0.5~2倍であり、前記乳化重合用界面活性剤(C)の固形分の混合量が、前記ラジカル重合性単量体(B)100質量部に対して0~3質量部であることを特徴とする水性樹脂分散体の製造方法である。
また本発明の別の態様は、ポリオレフィン分散体(A)及び乳化重合用界面活性剤(C)の存在下でラジカル重合性単量体(B)を重合する重合工程を含む水性樹脂分散体の製造方法であって、前記重合工程において、前記水性樹脂分散体の製造に用いる全てのラジカル重合性単量体(B)の50~100質量%を重合開始剤により一括重合する操作を含み、前記乳化重合用界面活性剤(C)の使用量が、前記水性樹脂分散体の製造に用いるラジカル重合性単量体(B)の全量100質量部に対して0~3質量部であることを特徴とする水性樹脂分散体の製造方法である。
【0012】
<ポリオレフィン分散体(A)>
本発明において、ポリオレフィン分散体(A)は、オレフィン重合体(以下、「ポリオレフィン」とも称する。)を水、及び/又は水以外の溶媒に分散させたオレフィン重合体の分散体をいう。また、オレフィン重合体とは、主な構成単位としてオレフィンを含む重合体をいい、オレフィンの単独重合体や共重合体等のオレフィン系重合体(A1)(以下、「重合体(A1)」とも称する。)等を示す。
【0013】
[オレフィン系重合体(A1)]
前記オレフィン系重合体(A1)(重合体(A1))としては、反応性基を有さないオレフィン系重合体(A11)(以下、「重合体(A11)」とも称する。)や、反応性基を有する変性オレフィン系重合体(A12)(以下、「重合体(A12)」とも称する。)等が挙げられる。
【0014】
前記重合体(A1)の好ましい態様としては、下記(1)~(2)を満たすプロピレン系重合体が挙げられる。
(1)プロピレン含有率が50モル%以上である。なお、プロピレン含有率は、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上である。
(2)融点(Tm)が125℃以下である。なお、Tmは、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。さらに、Tmは、好ましくは60℃以上である。
【0015】
(反応性基を有さないオレフィン系重合体(A11))
前記反応性基を有さないオレフィン系重合体(A11)(重合体(A11))としては、公知の各種オレフィン系重合体及びオレフィン系共重合体を用いることができる。具体的には、特に限定されないが、以下のポリオレフィンを挙げることができる。エチレン又はプロピレンの単独重合体;エチレン及びプロピレンの共重合体;エチレン及び/又はプロピレンと、その他のコモノマー(例えば、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、シクロペンテン、シクロヘキセン、及びノルボルネンなどの炭素数2以上のα-オレフィンコモノマー)との共重合体;前記コモノマーから選択される2種以上からなる共重合体;α-オレフィンモノマーと、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのコモノマーとの共重合体;α-オレフィンモノマーと芳香族ビニルモノマーなどのコモノマーとの共重合体又はその水素添加体;共役ジエンブロック共重合体又はその水素添加物等。なお、単に「共重合体」という場合は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0016】
前記炭素数2以上のα-オレフィンコモノマーとしては、炭素数2~4のα-オレフィンコモノマーが好ましい。さらに、重合体(A11)としては、前記ポリオレフィンをハロゲン化した、ハロゲン化ポリオレフィンも使用することができる。ハロゲン化ポリオレフィンとしては、例えば、塩素化ポリオレフィンが挙げられる。その場合、塩素化ポリオレフィンの塩素化度は、通常5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上である。また、前記塩素化度は、通常40質量%以下であり、好ましくは30質量%以下である。
【0017】
前記重合体(A11)の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-ヘキセン共重合体、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩素化エチレン-プロピレン共重合体、塩素化プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEPS)などが挙げられる。これらの重合体(A11)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
前記重合体(A11)としては、プロピレン単独重合体、又は、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体が好ましく、これらは塩素化されていてもよい。重合体(A11)としては、プロピレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、塩素化ポリプロピレン、塩素化エチレン-プロピレン共重合体、又は塩素化プロピレン-ブテン共重合体がより好ましい。また、前記重合体(A11)は、塩素原子等のハロゲン原子を含まないものであることがさらに好ましく、ハロゲン原子を含まない、プロピレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、又はエチレン-プロピレン-ブテン共重合体が特に好ましい。
【0019】
また、前記重合体(A11)としては、その構成単位としてプロピレンを含有するプロピレン系重合体が好ましい。該プロピレン系重合体中のプロピレンの含有率は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上である。通常、プロピレンの含量が高いほどポリプロピレン基材への密着性が増す傾向にある。
【0020】
前記重合体(A11)の重量平均分子量(Mw)は、GPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて測定し、各々のポリオレフィンの検量線で換算した場合に、5,000~500,000であることが好ましい。下限値のより好ましい値は10,000、さらに好ましくは20,000、特に好ましくは30,000である。上限値のより好ましい値は300,000である。Mwが5,000より高くなるほどべたつき度合いが小さくなり、基材への密着性が増す傾向がある。また、Mwが500,000より低くなるほど粘度が低下し、水性樹脂分散体の調製が容易になる傾向がある。なお、GPC測定は、オルトジクロロベンゼンなどを溶媒として、市販の装置を用いて従来公知の方法で行われる。
【0021】
また、前記重合体(A11)の融点(Tm)は、125℃以下が好ましい。下限値の好ましい値は60℃以上であり、上限値のより好ましい値は100℃以下、さらに好ましい値は90℃以下である。融点が60℃以上であれば、樹脂にベタツキが生じることがなく、塗料として用いる場合に取扱いが容易となる。また、融点が125℃以下であれば、乾燥や焼付けに高い温度を必要としないため好ましい。
【0022】
前記重合体(A11)の製造方法は、本発明の要件を満たす重合体を製造できる方法であれば特に限定されず、いかなる製造方法であってもよい。製造方法としては、例えば、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合などが挙げられる。これらは、リビング重合的であってもよい。
【0023】
また、配位重合の場合は、例えばチーグラー・ナッタ触媒により重合する方法や、シングルサイト触媒により重合する方法が挙げられる。好ましい製法としては、シングルサイト触媒による製造方法を挙げることができる。この理由としては、一般に、シングルサイト触媒が配位子のデザインにより、分子量分布や立体規則性分布をシャープにすることができる点が挙げられる。また、シングルサイト触媒としては、例えば、メタロセン触媒、ブルックハート型触媒を用いることができる。メタロセン触媒としては、C1対称型、C2対称型、C2V対称型、CS対称型などの対称型を有するものが知られている。本発明においては、重合するポリオレフィンの立体規則性に応じて、適切な対称型のメタロセン触媒を選択して用いればよい。
【0024】
また、重合は、溶液重合、スラリー重合、バルク重合、気相重合などいずれの形態でもよい。溶液重合やスラリー重合の場合、溶媒としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ハロゲン化炭化水素;エステル類;ケトン類;エーテル類などが挙げられる。これらの中でも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、及び脂環式炭化水素が好ましく、トルエン、キシレン、ヘプタン、及びシクロヘキサンがより好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、重合体(A11)は直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0025】
(反応性基を有する変性オレフィン系重合体(A12))
前記反応性基を有する変性オレフィン系重合体(A12)(重合体(A12))としては、重合時にオレフィンと反応性基を有する不飽和化合物とを共重合した共重合体(A12a)や、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をオレフィン系重合体にグラフト重合したグラフト重合体(A12b)等が挙げられる。
【0026】
前記共重合体(A12a)は、オレフィンと、反応性基を有する不飽和化合物とを共重合して得られ、反応性基を有する不飽和化合物が主鎖に挿入された共重合体である。例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等のα-オレフィンと、アクリル酸、無水マレイン酸等のα、β-不飽和カルボン酸又は無水物とを共重合したものが挙げられる。共重合体(A12a)の具体例としては、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。共重合体(A12a)の製造方法としては、前記重合体(A11)に関して述べた方法を同様に用いることができる。
【0027】
グラフト重合体(A12b)は、オレフィン系重合体に、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をグラフト重合することにより得られる。該オレフィン系重合体としては、上述の重合体(A11)を用いることができる。また、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物における反応性基としては、カルボキシル基及びその無水物、アミノ基、エポキシ基、イソシアナト基、スルホニル基、水酸基などが挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基及びその無水物が好ましい。反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸又はその無水物、イタコン酸又はその無水物、クロトン酸などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称であり、他もこれに準ずる。
【0028】
前記グラフト重合体(A12b)の具体例としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びその塩素化物、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体及びその塩素化物、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体、アクリル酸変性ポリプロピレン及びその塩素化物、アクリル酸変性エチレン-プロピレン共重合体及びその塩素化物、アクリル酸変性プロピレン-ブテン共重合体などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
グラフト重合に用いるラジカル重合開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤から適宜選択して使用することができ、例えば、有機過酸化物、アゾニトリル等を挙げることができる。前記有機過酸化物としては、ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどのパーオキシケタール類;クメンハイドロパーオキシドなどのハイドロパーオキシド類;ジ(t-ブチル)パーオキシドなどのジアルキルパーオキシド類;ベンゾイルパーオキシドなどのジアシルパーオキシド類;t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートなどのパーオキシエステル類等を挙げることができる。前記アゾニトリルとしては、アゾビスブチロニトリル、アゾビスイソプロピルニトリル等が挙げられる。これらの中でも、ベンゾイルパーオキシド及びt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ラジカル重合開始剤と、グラフト重合体(A12b)のグラフト共重合単位の使用割合は、通常、ラジカル重合開始剤:グラフト共重合単位=1:100~2:1(質量部)の範囲であり、好ましくは1:20~1:1の範囲である。グラフト重合の反応温度は、通常50℃以上であり、好ましくは80~200℃の範囲である。グラフト重合の反応時間は、通常2~20時間程度である。
【0031】
グラフト重合体(A12b)の製造方法は、本発明の要件を満たす重合体を製造できる方法であれば特に限定されず、いかなる製造方法であってもよい。製造方法としては、例えば、溶液中で加熱攪拌して製造する方法、無溶媒で溶融加熱攪拌して製造する方法、押し出し機で加熱混練して製造する方法等が挙げられる。これらの方法を2種類以上を組み合わせ用いてよい。溶液中で製造する場合の溶媒としては、前記重合体(A11)の製造方法において例示した溶媒を同様に用いることができる。
【0032】
前記反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をオレフィン系重合体にグラフト重合したグラフト重合体(A12b)中の反応性基の含有量は、オレフィン系重合体1g当たり0.01~1mmol、すなわち0.01~1mmol/gの範囲であることが好ましい。より好ましい下限値は0.05mmol/gであり、さらに好ましくは0.1mmol/gである。より好ましい上限値は0.7mmol/gであり、さらに好ましくは0.5mmol/gである。反応性基の含有量が0.01mmol/gより多くなるほど、親水性が増すため分散粒子径が小さくなる傾向にある。また、反応性基の含有量が1mmol/gより少なくなるほど、ポリプロピレン基材に対する密着性が増す傾向にある。
【0033】
前記グラフト重合体(A12b)中の反応性基が、カルボキシル基またはその無水物、スルホニル基のような酸性基である場合、該酸性基を塩基性化合物で中和することにより、ポリオレフィン分散体(A)として使用することができる。前記塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの無機塩基;トリエチルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、2-メチル-2-アミノ-プロパノール、トリエタノールアミン、モルフォリン、ピリジンなどの有機塩基等が挙げられる。塩基性化合物による中和率は、水への分散性が得られれば1~100モル%の範囲で特に限定されないが、50モル%以上であることが好ましい。中和率が低いと水への分散性が低下する。
【0034】
[水以外の溶媒]
ポリオレフィン分散体(A)中に含まれる水以外の溶媒の比率は、該分散体全体に対して好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。水以外の溶媒の比率が10質量%以下であれば、貯蔵安定性に優れる傾向にある。また、水以外の溶媒としては、水に1質量%以上溶解する溶媒が好ましく、水に5質量%以上溶解する溶媒がより好ましい。そのような溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフラン、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-メトキシプロパノール、2-エトキシプロパノールが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明に係るポリオレフィン分散体(A)の製造方法は、オレフィン系重合体(A1)に界面活性剤を含有させて分散させる方法や、オレフィン系重合体(A1)に親水性高分子をグラフト結合させたグラフト共重合体を用いて分散させる方法であってもよい。ポリオレフィン分散体(A)は、界面活性剤を含まないオレフィン系重合体(A1)に親水性高分子がグラフト結合されたグラフト共重合体を用いて得られる分散体であることが好ましい。このようにして得られた分散体は、実質的に界面活性剤を含まないため、耐水性が優れる。
【0036】
本発明に係るポリオレフィン分散体(A)を製造するために使用する前記親水性高分子とは、25℃の水に10質量%の濃度で溶解させたときに、不溶分が1質量%以下である高分子をいう。この親水性高分子としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に限定されず、合成高分子、半合成高分子、天然高分子のいずれも用いることができる。通常、ポリオレフィン分散体(A)の機械安定性に優れることから、前記親水性高分子の数平均分子量Mnは300以上であることが好ましい。
【0037】
本発明において、分散体とは、分散粒子が極めて小さく単分子で分散している状態、すなわち実質的には溶解といえるような状態まで含む概念である。したがって、ポリオレフィン分散体(A)の平均粒子径の下限値は特に制限されず、0μm(分散体が完全に溶解している状態)であってもよい。本発明で用いられるポリオレフィン分散体(A)の平均粒子径は、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.2μm以下である。平均粒子径を小さくすることにより、分散安定性が向上し、凝集が抑制される。なお、平均粒子径は、動的光散乱法やレーザードップラー法等により測定できる。
【0038】
ポリオレフィン分散体(A)の固形分量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。前記固形分量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。前記固形分量が60質量%より少なくなるほど粘度が低下し、ラジカル重合性単量体(B)との重合性に優れる傾向にある。また、前記固形分量が20質量%以上より多くなるほど、乾燥に多量のエネルギーを必要とせず、乾燥性に優れる傾向にある。
【0039】
本発明で用いられるポリオレフィン分散体(A)には、必要に応じて酸性物質や塩基性物質を添加することができる。酸性物質としては、例えば塩酸、硫酸などの無機酸、酢酸などの有機酸が挙げられる。塩基性物質としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基、アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、2-メチル-2-アミノ-プロパノール、トリエタノールアミン、モルフォリン、ピリジン等が挙げられる。
【0040】
<ラジカル重合性単量体(B)>
ラジカル重合性単量体(B)としては、重合性に優れることからビニル系単量体が好ましい。ビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体;スチレンやα-メチルスチレンなどの芳香族系単量体;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド系単量体;(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本発明の効果を著しく損なわない限り、ビニル系単量体は特に限定なく用いることができる。
【0041】
これらの中でも、耐候性及び耐溶剤性の点から、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等;炭素原子数6~12のアリール基またはアラルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、例えば(メタ)アクリル酸ベンジル等、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸-2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリエチレンオキシドの付加物等;フッ素原子を含有する炭素原子数1~20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、例えば(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸-2-パ-フルオロエチルエチル等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
これらの中でも、ポリプロピレン基材への密着性の点から、メタアクリル酸イソブチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸-t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、スチレンが好ましく、アクリル酸ブチルがより好ましい。
【0043】
また、得られる水性樹脂分散体とメラミン樹脂、イソシアネート等の架橋剤を混合して塗料組成物としたときに、塗膜性能が向上することから、ラジカル重合性単量体(B)は、水酸基含有ビニル系単量体を含むことが好ましい。水酸基含有ビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。水酸基含有ビニル系単量体の含有量は、ラジカル重合性単量体(B)中に30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。水酸基含有ビニル系単量が30質量%以下である場合には、ポリプロピレン基材への密着性が向上する傾向にある。
【0044】
本発明では、ラジカル重合性単量体(B)の混合量(使用量)が、前記オレフィン分散体(A)の固形分質量部の0.5~2倍であることが好ましい。この倍率が0.5倍以上であれば、本発明の水性樹脂分散体を塗料に用いた場合の塗料組成物の安定性が向上する。また、前記倍率が2倍以下であれば、ポリプロピレン基材への密着性が良好となる。
【0045】
<乳化重合用界面活性剤(C)>
乳化重合用界面活性剤(C)としては、各種のアニオン性、カチオン性、またはHLBが8以上のノニオン性の界面活性剤を用いることができる。また、界面活性剤成分中にエチレン性不飽和結合を持つ、いわゆる反応性界面活性剤も使用することができる。これらの中でも、得られる水性樹脂分散体の貯蔵安定性向上の点から、アニオン性の界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、反応性界面活性剤であるアデカリアソープSR(商品名、株式会社ADEKA製)や、非反応性界面活性剤のネオコールSW-C(商品名、第一工業製薬株式会社製)を用いることができる。
【0046】
また、乳化重合用界面活性剤(C)の固形分の混合量(使用量)は、ラジカル重合工程で使用するラジカル重合性単量体(B)の全量100質量部(固形分)に対して、0~3質量部であることが好ましく、0~2質量部であることがより好ましい。前記混合量が3質量部以下である場合は、得られる水性樹脂分散体の耐水性が優れる傾向にある。
【0047】
<ポリエーテル樹脂(D)>
本発明において、前記ポリオレフィン分散体(A)はポリエーテル樹脂(D)を含有することが好ましい。すなわち、ポリオレフィン分散体(A)が、前記オレフィン重合体とポリエーテル樹脂(D)とを分散媒(水、及び/又は水以外の溶媒)に分散させて製造したものであることが好ましい。オレフィン重合体としては、オレフィン系重合体(A1)が好ましい。
【0048】
前記ポリエーテル樹脂(D)としては、グリフィン法で計算されるHLB(Hydrophile Lipophile Balance)が1~8の範囲のものであれば、合成高分子、半合成高分子、天然高分子のいずれも用いることができる。ポリエーテル樹脂(D)のHLBが8より低くなるほど、水性樹脂分散体の表面エネルギーが低下し、ラジカル重合性単量体(B)の含浸性が良好になる傾向にある。ポリエーテル樹脂(D)のHLBは、好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。
【0049】
本発明に用いるポリエーテル樹脂(D)は、通常、環状アルキレンオキシドまたは環状アルキレンイミンを開環重合することによって得られる。ポリエーテル樹脂(D)は、ポリオレフィン分散体(A)に含有されていればよく、オレフィン系重合体(A1)とポリエーテル樹脂(D)が結合されていてもよい。ポリエーテル樹脂(D)がブリードアウトしないことから、オレフィン系重合体(A1)とポリエーテル樹脂(D)が結合されていることが好ましい。
【0050】
オレフィン系重合体(A1)とポリエーテル樹脂(D)の結合方法は限定されないが、例えば、反応性基を有する変性オレフィン系重合体(A12)中で環状アルキレンオキシドを開環重合する方法や、環状アルキレンオキシドまたは環状アルキレンイミン等の開環重合等により得られたポリエーテルポリオールやポリエーテルアミンなどの反応性基と、反応性基を有する変性オレフィン系重合体(A12)中の反応性基とを反応させる方法が挙げられる。
【0051】
なお、ポリエーテルポリオールは、ポリエーテル骨格を有する樹脂の両末端に、反応性基としての水酸基を有する化合物である。また、ポリエーテルアミンは、ポリエーテル骨格を有する樹脂の片末端又は両末端に、反応性基としての1級アミノ基を有する化合物である。前記結合方法としては、開環重合等により得られたポリエーテルアミンと、重合体(A12)中の反応性基を反応させる方法が好ましい。
【0052】
ポリエーテル樹脂(D)は、構成単位として、親水性を示すポリエチレンオキシドやポリエチレンイミンと、疎水性を示すポリプロピレンオキシドやポリプロピレンイミンとを含むことが好ましい。中でも、ポリエーテル樹脂(D)は、ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドを含むことがより好ましい。ポリエーテル樹脂(D)のHLBは、前記ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドの繰り返し単位数により調整することができる。
【0053】
ポリエーテル樹脂(D)としては、例えば、ハンツマン社製の商品名:「ジェファーミン(登録商標)」Mシリーズ、Dシリーズ、EDシリーズや、商品名:「サーフォナミン」Lシリーズなどのポリエーテルアミンを使用してもよい。
【0054】
本発明に用いるポリエーテル樹脂(D)は、重合体(A12)との結合前に、重合体(A12)と反応しうる反応性基を1以上有していることが好ましい。反応性基としては、例えばカルボン酸基、ジカルボン酸無水物基、ジカルボン酸無水物モノエステル基、水酸基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基などが挙げられるが、少なくともアミノ基を1以上有することが好ましい。アミノ基は、カルボン酸基、無水カルボン酸基、グリシジル基、イソシアネート基など多種の反応性基との反応性が高いため、重合体(A12)とポリエーテル樹脂(D)を結合させることが容易である。アミノ基は1級、2級、3級のいずれでもよいが、1級アミノ基であることが好ましい。
【0055】
ポリエーテル樹脂(D)は、反応性基を1以上有していればよく、反応性基を1つのみ有することがより好ましく、反応性基としてアミノ基を1つのみ有することがさらに好ましい。ポリエーテル樹脂(D)が反応性基を2以上有している場合、重合体(A12)と結合させる際に3次元網目構造となり、ゲル化してしまう可能性がある。ただし、反応性基を複数有していても、該複数の反応性基の中に他より反応性の高い反応性基が1つのみ存在する場合には、ポリエーテル樹脂(D)として好ましく用いることができる。例えば、複数の水酸基と、水酸基よりも反応性の高い1つのアミノ基を有するポリエーテル樹脂(D)は好ましい例である。ここで、反応性とは、重合体(A12)の有する反応性基とポリエーテル樹脂(D)の有する反応性基との反応性を意味する。
【0056】
ポリエーテル樹脂(D)は、GPCを用いて測定し、ポリスチレンの検量線で換算した重量平均分子量(Mw)が200~200,000であることが好ましい。Mwの下限値のより好ましい値は300であり、さらに好ましくは500である。Mwの上限値のより好ましい値は100,000であり、より好ましくは10,000、さらに好ましくは3,000である。Mwが200より高くなるほど水性樹脂分散体の表面エネルギーが低下し、濡れ性が良好になる傾向にある。また、Mwが200,000より低くなるほど粘度が低下し、水性樹脂分散体を調製しやすい傾向にある。なおGPC測定は、THFなどを溶媒として使用し、市販の装置を用いて従来公知の方法で行われる。
【0057】
本発明に係るポリオレフィン分散体(A)は、オレフィン系重合体(A1)とポリエーテル樹脂(D)とを、オレフィン系重合体(A1):ポリエーテル樹脂(D)が100:1~100:100(質量比)となる割合で結合したものであることが好ましい。前記質量比は、より好ましくは100:5~100:70であり、さらに好ましくは100:10~100:50である。質量比が前記範囲内であることにより、ポリプロピレン基材に対する密着性が増す傾向にある。
【0058】
本発明のポリエーテル樹脂(D)は、オレフィン系重合体(A1)を分散させるものであって、本発明の乳化重合用界面活性剤(C)に含まれない。
【0059】
<水性樹脂分散体の製造方法>
本発明に係る水性樹脂分散体の製造方法は、ポリオレフィン分散体(A)、ラジカル重合性単量体(B)及び乳化重合用界面活性剤(C)を混合して重合する重合工程を含む。前記重合工程は、重合開始剤の添加時に前記ラジカル重合性単量体(B)の混合量(固形分)が、前記オレフィン分散体(A)の固形分質量部の0.5~2倍であり、前記乳化重合用界面活性剤(C)の固形分の混合量が、前記水性樹脂分散体の製造に用いるラジカル重合性単量体(B)の全量100質量部(固形分)に対して0~3質量部となるように各成分を混合する。
【0060】
ポリオレフィン分散体(A)、ラジカル重合性単量体(B)及び乳化重合用界面活性剤(C)を混合して重合する方法は、前記ラジカル重合性単量体(B)の混合量(固形分)及び前記乳化重合用界面活性剤(C)の固形分の混合量が、前記の条件を満たし、且つ本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。重合方法としては、例えば、一括重合及び/又は滴下重合を用いることができる。ここで、一括重合とは、一定量の単量体及び重合開始剤を仕込んで一度に重合する方法である。また、滴下重合とは、単量体を少しずつ滴下して重合する方法である。重合安定性及びプロピレン基材に対する密着性の観点から、一括重合が好ましい。本発明において、一括重合は、例えば、ポリオレフィン分散体(A)及び乳化重合用界面活性剤(C)の存在下で該ポリオレフィン分散体(A)の固形分質量部の0.5~2倍のラジカル重合性単量体(B)を混合した後に、重合開始剤を添加してラジカル重合性単量体(B)を一度にラジカル重合することにより行うことができる。また、滴下重合は、例えば、ポリオレフィン分散体(A)に、ラジカル重合下でラジカル重合性単量体(B)を滴下することにより行うことができる。
【0061】
本発明の製造方法は、重合工程において、水性樹脂分散体の製造に用いる全てのラジカル重合性単量体(B)の50~100質量%を重合開始剤により一括重合する操作を含むことが好ましい。一括重合するラジカル重合性単量体(B)の割合は、ラジカル重合性単量体(B)全量に対して、70~100質量%がより好ましく、80~100質量%がさらに好ましく、90~100質量%が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。この割合は多いほど得られる水性樹脂分散体を塗料に用いた場合の塗料組成物の安定性が向上する。また、この割合は少ないほどポリプロピレン基材への密着性が良好となる。
【0062】
ラジカル重合性単量体(B)の全量に対して50~100質量%のラジカル重合性単量体(B)を一括重合する方法としては、例えば、重合容器中に、ポリオレフィン分散体(A)及び乳化重合用界面活性剤(C)、並びに全量に対して50~100質量%のラジカル重合性単量体(B)を仕込んだ後、重合開始剤を投入してラジカル重合性単量体(B)を一括重合する方法、重合容器中にポリオレフィン分散体(A)及び乳化重合用界面活性剤(C)並びに重合開始剤を仕込んだ後、全量に対して50~100質量%のラジカル重合性単量体(B)を一度に投入してラジカル重合性単量体(B)を一括重合する方法等が挙げられる。この一括重合で使用しなかったラジカル重合性単量体(B)は、この一括重合の前後で、一括重合や滴下重合などにより重合することができる。
【0063】
重合開始剤としては、一般的にラジカル重合に使用されるものを使用することができる。具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類;2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及びその塩類;2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及びその塩類;2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}及びその塩類;2,2’-アゾビス(2-メチルプロピンアミジン)及びその塩類;2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明では、さらに還元剤を添加して、レドックス系重合反応を行ってもよい。特に、重合安定性の観点から、重合開始剤として有機過酸化物類を用いて、還元剤として硫酸第一鉄とイソアスコルビン酸等を用いたレドックス系重合反応を行うことが好ましい。
【0064】
重合開始剤は、得られる水性樹脂分散体のポリプロピレン基材への密着性が優れることから、ラジカル重合性単量体(B)100質量部(固形分)に対して、1質量部以下の割合で使用することが好ましい。重合開始剤の使用量は0.5質量部以下であることがより好ましい。
【0065】
また、重合開始剤の添加方法は、本発明の効果を著しく損なわなければ、特に限定されない。添加方法としては、例えば、重合開始剤を一括で添加する方法や滴下する方法等を用いることができる。重合安定性の観点から、重合開始剤を一括で添加する方法が好ましい。
【0066】
重合温度は、本発明の効果を著しく損なわなければ、特に限定されないが、得られる水性樹脂分散体のポリプロピレン基材への密着性の観点から、70℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましい。
【0067】
さらに本発明では、重合反応を行う際に、分子量調整剤として、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤を用いることができる。
【0068】
前記重合反応により水性樹脂分散体を製造した後、冷却し、水性樹脂分散体を取り出す際には、異物やカレット混入防止のため濾過操作を行うことが好ましい。濾過方法については公知の方法を使用することができ、例えばナイロンメッシュ、バグフィルター、濾紙、金属メッシュ等を用いることができる。
【0069】
本発明の製造方法により得られる水性樹脂分散体は、プライマー、塗料、接着剤、インキバインダー、ポリオレフィンと異種材料との相溶化剤等に用いることができ、特にプライマー、接着剤、インキバインダーとして有用である。用途としては、自動車内装用・外装用等の自動車用塗料、携帯電話・パソコン等の家電用塗料、建築材料用塗料、ヒートシール剤等を挙げることができる。これらの中でもプラスチック基材、特にポリプロピレン基材用のプライマーとして特に好ましい。
【0070】
本発明に係る水性樹脂分散体を塗料に用いる場合、塗料組成物の構成成分としては、本発明係る水性樹脂分散体の他に、無機充填剤、樹脂ビーズ、造膜助剤、基材濡れ剤、基材湿潤剤、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、着色剤、消泡剤、増粘剤などの各種添加剤が必要に応じて含まれてもよい。これら添加剤としては、公知のものを用いることができる。
【0071】
また、前記塗料組成物には、乾燥速度を上げる目的または仕上がり感の良好な表面を得る目的で、有機溶媒を造膜助剤として配合することができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン等のケトン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール類及びそのエーテル類等が挙げられる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳しく説明する。なお、実施例中の「部」は「質量部」を表す。また、水性樹脂分散体の初期密着性及び耐水性の評価は、以下に示す方法で行った。実施例のうち、実施例6は参考例である。
【0073】
<水性樹脂分散体の評価>
1.初期密着性
水性樹脂分散体の固形分100部に対し、造膜助剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテル60部、及び基材濡れ剤としてTEGO WET KL-245(EVONIK社製)3部を加え、ホモディスパー攪拌機(ポリトロンPT-3100)を用いて、700rpmにて5分間攪拌した。室温で一日放置した後、300メッシュを用いて濾過を行うことにより、水性塗料を得た。
【0074】
次に、ポリプロピレン基材(JPP(株)製、「TSOP-6」)から成形した厚さ3mmの基板表面をイソプロピルアルコールで清拭した。この基板に、得られた水性塗料を乾燥膜厚が20μとなるようにバーコート塗布し、10分間室温でセッティングした後、セーフベンドライヤー中、90℃の雰囲気で30分間乾燥させて塗膜を形成した。これを1日室温で静置して、試験片を得た。
【0075】
次いで、試験片の塗膜面に、基材に達するように縦横1mm間隔で各11本の切り込みを入れて100個の碁盤目を作った。そして、この碁盤目上にセロハン粘着テープを貼りつけた後、該粘着テープを急激に剥がした後の塗膜の状態を観察し、剥離された塗膜のマス(剥離マス)の数を確認した。基材密着性は、下記の評価基準に基づき評価した。
○(Excellent):100マス中、剥離マスが0~19マスである。
△(Average):100マス中、剥離マスが20~80マスである。
×(Bad):100マス中、剥離マスが81~100マスである。
【0076】
2.耐水性(質量減少率)
ガラス基板表面をイソプロピルアルコールで清拭した。該ガラス基板上に、得られた水性樹脂分散体を乾燥膜厚が100μmとなるように塗布した。そして、セーフベンドライヤー中、90℃の雰囲気で30分間乾燥させて塗膜を形成した。これを1日室温で静置し、ガラス基板から塗膜を剥離して、試験片を得た。
作製した試験片を10mm×10mmに切断し、質量(初期質量:W1)が0.2gとなるようにサンプル瓶に入れた。サンプル瓶に水100mlを投入した後、40℃で10日間恒温器にて保管した。保管後、試験片を取り出して質量(40℃10日間後の質量:W2)を測定し、質量減少率を以下の計算式より算出した。
質量減少率(%)={(W1(g)-W2(g))/W1(g))}×100
○(Excellent):質量減少率が4.00%未満
△(Average):質量減少率が4.00%以上、10.00%未満
×(Bad):質量減少率が10.00%以上
【0077】
[製造例1:無水マレイン酸変性プロピレン系共重合体の製造]
メタロセン触媒によって重合されたプロピレン-ブテン共重合体(オレフィン系重合体に相当)であるタフマー(登録商標)XM-7070(商品名、三井化学社製、融点:75℃、プロピレン含有量:74モル%、重量平均分子量(Mw):250,000(ポリプロピレン換算)、分子量分布(Mw/Mn):2.2)200kgと、無水マレイン酸5kgとをスーパーミキサーでドライブレンドした。その後、2軸押出機(商品名:TEX54αII、日本製鋼所社製)を用いて、前記プロピレン-ブテン共重合体100質量部に対して1質量部となるように、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(重合開始剤、商品名:パーブチル(登録商標)I、日油社製)を、液添ポンプで途中フィードしながら、ニーディング部のシリンダー温度200℃、スクリュー回転数125rpm、吐出量80kg/時間の条件下で混練し、ペレット状の無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体(グラフト重合体(A12b))を得た。得られた無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体の物性を以下に示す。
無水マレイン酸基の含有量(グラフト率):1.0質量%(無水マレイン酸基として0.1mmol/g、カルボン酸基として0.2mmol/g)
重量平均分子量(Mw):156,000(ポリスチレン換算)
数平均分子量(Mn):84,000
【0078】
[製造例2:ポリオレフィン分散体(A)の製造]
還流冷却管、温度計及び攪拌機を備えたガラスフラスコ中に、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体50g、タフマー(登録商標)XM-7070 50g、及びトルエン50gを入れて、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温した。昇温後、無水マレイン酸2.0gを加え、さらにt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(商品名:パーブチル(登録商標)I、日油社製)1gを加え、7時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。
得られた無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体の無水マレイン酸基の含有量(グラフト率)は2.0質量%(無水マレイン酸基として0.2mmol/g、カルボン酸基として0.4mmol/g)であった。
反応終了後、系を室温付近まで冷却し、トルエン70gを加え、次いで、ポリエーテル樹脂(D)として、2-プロパノール90gに溶解したジェファーミン(登録商標)M-2005(商品名、ハンツマン社製、HLB:3、数平均分子量:2000、)を10g(無水マレイン酸変性プロピレンーブテン共重合体100質量部に対して20質量部に相当)加え、70℃で1時間反応させた。その後、ポリエーテル樹脂(D)として、2-プロパノール90gに溶解したジェファーミン(登録商標)M-1000(商品名、ハンツマン社製、HLB:17、数平均分子量:1000)を10g(無水マレイン酸変性プロピレンーブテン共重合体100質量部に対して10質量部に相当)加え、70℃で1時間反応させた。
その後、ジメチルエタノールアミン2g、水54gを加えて系内を中和した。得られた反応液の温度を45℃に保ち、加熱・撹拌し、水300gを滴下しながら、系内の減圧度を下げて、ポリマー濃度が30質量%になるまでトルエンと2-プロパノールを減圧留去した。以上により、平均粒子径70nmの乳白色のポリオレフィン分散体(A)を得た。ポリオレフィン分散体(A)の固形分は30質量%であった。
【0079】
[実施例1:水性樹脂分散体の製造]
攪拌機、還流冷却管及び温度制御装置を備えたフラスコに、製造例2で得られたポリオレフィン分散体(A)を333.3部(固形分は100部)、脱イオン水を119.6部、及び乳化重合用界面活性剤(C)としてアデカリアソープSR-1025(商品名、株式会社ADEKA製、固形分25部)を8.0部(固形分は2部)仕込み、30℃に昇温した。次いで、ラジカル重合性単量体(B)として、アクリル酸ブチル100部を加え、50℃に昇温して1時間保持した。重合開始剤としてパーブチル(登録商標)H69(商品名、日油(株)製、固形分69質量%):0.02部と、還元剤として、硫酸第一鉄:0.0002部、エチレンジアミン四酢酸(EDTA):0.00027部、イソアスコルビン酸ナトリウム一水和物:0.08部、脱イオン水:1部を添加し、重合を開始した。
重合の発熱ピークを検出した後、パーブチル(登録商標)H690.03部及び脱イオン水10.0部を、15分間かけて滴下した。滴下終了後、60℃で30分間熟成し、水性樹脂分散体を得た。得られた水性樹脂分散体について、初期密着性及び耐水性の評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0080】
[実施例2~7並びに比較例2及び3]
ポリオレフィン分散体(A)、ラジカル重合性単量体(B)、乳化重合用界面活性剤(C)及び重合開始剤並びにそれらの混合比を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして水性樹脂分散体を得た。得られた水性樹脂分散体について、初期密着性及び耐水性の評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0081】
[比較例1:水性樹脂分散体の製造]
攪拌機、還流冷却管及び温度制御装置を備えたフラスコに、製造例2で得られたポリオレフィン分散体(A)333.3部(固形分は100部)、及び脱イオン水を28.5部仕込み、50℃に昇温して1時間保持した。次いで、還元剤として、硫酸第一鉄:0.0002部、エチレンジアミン四酢酸(EDTA):0.00027部、イソアスコルビン酸ナトリウム一水和物:0.08部、及び脱イオン水:1部を添加した後、ラジカル重合性単量体(B)としてアクリル酸ブチル:100.0部、乳化重合用界面活性剤(C)としてアデカリアソープSR-1025:16.0部(固形分4部)、及び脱イオン水:58.0部を含むプレ乳化液を2時間かけて滴下した。また、同時に、重合開始剤としてパーブチル(登録商標)H69:0.05部及び脱イオン水:45.0部を2.15時間かけて並列滴下して、重合した。滴下終了後、50℃で30分間熟成し、水性樹脂分散体を得た。得られた水性樹脂分散体について、初期密着性及び耐水性の評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0082】
[比較例4]
乳化重合用界面活性剤(C)を表1に示すように変更した以外は、比較例1と同様にして水性樹脂分散体を得た。得られた水性樹脂分散体について、初期密着性及び耐水性の評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0083】
【0084】
なお、表1中、ハードレン(登録商標)EW5303及びネオコールSW-Cとしては以下を用いた。
ハードレン(登録商標)EW5303:塩素化ポリオレフィン分散体、商品名、東洋紡社製
ネオコールSW-C:商品名、第一工業製薬社製
【0085】
表1に示すように、本発明の実施例1~7では、ポリオレフィン分散体(A)の固形分質量部の0.5~2倍であり、全量に対して100質量%のラジカル重合性単量体(B)を一括重合により重合させて水性樹脂分散体を製造した。また、乳化重合用界面活性剤(C)の固形分の混合割合が、ラジカル重合性単量体(B)に対して3質量%以下であった。そのため、得られた塗膜は、初期密着性と耐水性に優れていた。
一方、比較例1では、重合開始剤添加時にポリオレフィン分散体(A)と、ポリオレフィン分散体(A)の固形分質量部の0.01倍のラジカル重合性単量体(B)を、滴下により重合させて水性樹脂分散体を製造した。そのため、得られた塗膜は、密着性及び耐水性が劣っていた。さらに、比較例3及び4の水性樹脂分散体は、乳化重合用界面活性剤(C)の固形分の混合割合が、ラジカル重合性単量体(B)に対し3質量%より多いため、得られた塗膜は、耐水性が劣っていた。