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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】フィルムおよび包装体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220817BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20220817BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20220817BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20220817BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20220817BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220817BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08L29/04 S
C08L45/00
C08L53/00
B32B27/28 102
B32B27/34
B65D65/40 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018017564
(22)【出願日】2018-02-02
(65)【公開番号】P2019131770
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-08-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】和田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】西田 良平
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-291271(JP,A)
【文献】特開2015-020393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/00-29/14
C08L 45/00-45/02
C08L 53/00-53/02
B32B 27/00-27/42
B65D 65/00-65/46
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)、ガラス転移温度100℃以下の環状オレフィン樹脂(B)、および、芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)を含む層を少なくとも1層有するフィルムであって、
(A)が50質量%以上90質量%以下、(B)が5質量%以上30質量%以下、(C)が5質量%以上30質量%以下であることを特徴とするフィルム。
【請求項2】
酸素透過率が0.30ml/(m・24h・atm)未満であり、水蒸気透過率が20g/(m・24h)未満であり、且つ破壊エネルギーが0.10J以上である請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記環状オレフィン樹脂(B)が、ノルボルネン骨格を有する環状オレフィンとエチレンとの共重合体である環状オレフィン共重合体である請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)が、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物である請求項1~3の何れかに記載のフィルム。
【請求項5】
さらに、ポリアミド樹脂からなる層を有する、請求項1~4の何れかに記載のフィルム。
【請求項6】
延伸フィルムである請求項1~5の何れかに記載のフィルム。
【請求項7】
食料品、工業部品、医薬品、又は医療品を包装するための請求項1~6の何れかに記載のフィルムで形成した包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、透明性、酸素バリア性、水蒸気バリア性、耐衝撃性のバランス優れたフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
精肉、鮮魚、青果等の生鮮食品、レトルト食品、菓子類などの市場拡大や消費者のニーズの多様化に伴い、食品、および医薬品などの包装用フィルムは、内容物の視認が可能な透明性、内容物を保存する酸素や水蒸気バリア性、耐ピンホール性、耐熱性など様々な特性が要求される。
【0003】
エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(エチレン-ビニルアルコール共重合体、EVOH)は優れた酸素バリア性を有し、内容物の長期保存が可能であることから、食品、および医薬品包装分野において広く用いられている。エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物はその一次構造中にヒドロキシ基を含んでいるため、分子鎖間で水素結合を形成する。この水素結合により、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物は、酸素、窒素などの気体や有機体などに対して優れたバリア性を示す一方で、水蒸気バリア性や、高湿度下での酸素バリア性が必要な用途に関しては不向きであった。そのため、水蒸気バリア性(防湿性)を改善した検討や報告が多く開示されている。
【0004】
例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体と環状オレフィンを積層する方法があり、環状オレフィンからなる樹脂層と、ポリアミド樹脂、もしくはエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂からなる層が2層以上積層されている防湿性多層フィルム(特許文献1)や、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂の片方の表面に接着性樹脂層を介して、非晶性環状オレフィンコポリマーと低密度ポリエチレン系樹脂とを含有する層を設けたことを特徴とする多層フィルム(特許文献2)が開示されている。
【0005】
また無機物を使用している文献も数多く報告されている。特許文献3には、プラスチックフィルムの表面に、ガスバリア性樹脂としてエチレン-ビニルアルコール系共重合体とスメクタイト系の無機層状化合物とからなるガスバリア性樹脂組成物からなる層を有する積層フィルムについて開示されている。
【0006】
また特許文献4には、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体を含有する層、ポリプロピレンからなる層、ハイインパクトポリスチレンからなる層を有する積層シートであり、酸素バリア性、防湿性、耐衝撃性が良好な深絞成形用発泡シートについて開示している。しかしながら、上記に開示されているような積層フィルムや積層シートでは、エチレン-酢酸ビニル鹸化物層の他に、必ず防湿層が必要となり、さらにはエチレン-酢酸ビニル鹸化物層と防湿層との間には接着層が必要となる。そのため多層フィルム、および多層シートの設計が大きく制限されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-290138号公報
【文献】特開2010-274595号公報
【文献】特開2011-218804号公報
【文献】特開2011-51264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、酸素バリア層の他に別途防湿層を設けなくても、酸素バリア性、水蒸気バリア性、および、耐衝撃性などの機械特性のバランスに優れたフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、所定の環状オレフィン樹脂、および、芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素化物を含む層を少なくとも1層有する特定のフィルムによって、酸素バリア性、水蒸気バリア性、及び耐衝撃性などの機械特性のバランスに優れるフィルムが得られることを見出し、本発明に至った。
【0010】
本発明は、第1の実施形態として、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)、ガラス転移温度130℃以下の環状オレフィン樹脂(B)、および、芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)を含む層を少なくとも1層有するフィルムであって、(A)が50質量%以上90質量%以下、(B)が5質量%以上30質量%以下、(C)が5質量%以上30質量%以下であることを特徴とするフィルムを開示する。
【0011】
第1の実施形態のフィルムにおいて、酸素透過率が0.30ml/(m・24h・atm)未満であり、水蒸気透過率が20g/(m・24h)未満であり、且つ破壊エネルギーが0.10J以上であることが好ましい。
なお、酸素透過率は、JIS K7126-2法に基づき、23℃、0%RHの条件下における、厚み50μmのフィルムの測定値である。また、水蒸気透過率は、JIS K7129B法に基づき、40℃、90%RHの条件下における、厚み50μmのフィルムの測定値である。また、破壊エネルギーは、ASTM D3763に基づき、ハイドロショット高速試験機により、23℃雰囲気下で測定した値である。
【0012】
第1の実施形態のフィルムにおいて、前記環状オレフィン樹脂(B)は、ノルボルネン骨格を有する環状オレフィンとエチレンとの共重合体である環状オレフィン共重合体であることが好ましい。
【0013】
第1の実施形態のフィルムにおいて、前記芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)は、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物であることが好ましい。
【0014】
第1の実施形態のフィルムは、さらに、ポリアミド樹脂からなる層を有することが好ましい。
【0015】
第1の実施形態のフィルムは、延伸フィルムであることが好ましい。
【0016】
本発明は、第2の実施形態として、食料品、工業部品、医薬品、または医療品を包装するための第1の実施形態のフィルムで形成した包装体を開示する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフィルムは、酸素バリア層の他に別途防湿層を設けなくても、酸素バリア性、水蒸気バリア性、および、耐衝撃性などの機械特性のバランスが良好であり、該フィルムを用いて、食料品、工業部品、医薬品、医療品などを腐敗、腐食、品質劣化させずに長期間保管が可能な包装体を得ることができる。
なお、本願のフィルムは、所定の層を少なくとも1層含めば、上記の効果を奏することが可能となるが、該所定の層以外に、防湿層等の各種機能層を設けてもよく、そのような形態を除外する趣旨ではない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のフィルム(以下、本フィルムと呼称することがある)について説明する。
本発明のフィルムは、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)、ガラス転移温度130℃以下の環状オレフィン樹脂(B)、および、芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)を含む層を少なくとも1層以上含むフィルムである。
【0019】
<エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)>
本フィルムに使用するエチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)は、フィルム製膜安定性の点から、エチレン含有比20モル%以上50モル%以下が好ましく、下限は25モル%以上がより好ましく、上限は48モル%以下がより好ましい。係る範囲のエチレン含有比であれば、得られるフィルムが酸素バリア性、フィルム成形性に優れる。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の鹸化度は、酸素バリア性の観点から、90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、98モル%以上が更に好ましい。
【0020】
また、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)は、必要に応じて種々変性されていても良く、また変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物とエチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物との混合物でも良い。変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物としては、例えば、プロピレン、イソブテン等による変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、炭素数3~30のα-オレフィンの少なくとも1種、または炭素数3~30のα-オレフィンの少なくとも1種とエチレンによる変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、アクリル酸エステルをグラフト重合して得られる変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、(メタ)アクリル酸エステル-エチレン-酢酸ビニルからなる3元共重合体を鹸化して得られる変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物の水酸基をシアノエチル基により変性した変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、ポリエステルをビニルアルコールと解重合反応させてなるポリエステルグラフト物を含有する変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、酢酸ビニル-エチレン-ケイ素含有オレフィン性不飽和単量体の共重合体を鹸化して得られる変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、ピロリドン環含有単量体-エチレン-酢酸ビニルからなる3元共重合体を鹸化して得られる変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、アクリルアミド-エチレン-酢酸ビニルからなる3元共重合体を鹸化して得られるエチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、酢酸アリル-エチレン-酢酸ビニルからなる3元共重合体を鹸化して得られる変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、酢酸イソプロペニル-エチレン-酢酸ビニルからなる3元共重合体を鹸化して得られるエチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、ポリエーテル成分がエチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物の末端に付加している変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、ポリエーテル成分がエチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物の枝ポリマーとしてグラフト状に付加している変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、アルキレンオキサイドがエチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物に付加した変性エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物などが挙げられる。
【0021】
<環状オレフィン樹脂(B)>
本フィルムに使用する環状オレフィン樹脂(B)は、例えば、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン(DCPD)、1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン(DMON)、テトラシクロドデセン(TCD)などのシクロオレフィン骨格を有する樹脂であり、中でもノルボルネン骨格を有する樹脂が好ましい。また、環状オレフィンポリマー(COP)や、環状オレフィンとエチレンなどの共重合体である環状オレフィンコポリマー(COC)等を用いることができ、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物との相溶性を鑑みると、エチレンとの共重合体である環状オレフィンコポリマーが特に好ましい。
本フィルムに環状オレフィン樹脂(B)を用いることにより、水蒸気バリア性の向上を図ることができる。
【0022】
本フィルムに使用する環状オレフィン樹脂(B)のガラス転移温度は、50℃以上130℃以下が好ましい。下限は60℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましい。上限は、110℃以下がより好ましく100℃以下が更に好ましい。
また、環状オレフィン樹脂(B)のメルトボリュームフローレート(Volume flow index、MVR)は、1.0ml/10min以上50ml/10min以下が好ましく、下限は10ml/10min以上がより好ましく、20ml/10min以上が更に好ましい。
一般に、環状オレフィン樹脂は、シクロオレフィンモノマー重合比率が高いほど、ガラス転移温度は高く、MVRは低い傾向にある。
【0023】
ガラス転移温度、MVRが上記範囲であることにより、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)に対する環状オレフィン樹脂(B)の非相溶分散性が良好となり、(A)/(B)の海/島構造から、ドメイン径(分散粒子径)を小さくすることができ、フィルムの透明性が向上する。また、環状オレフィン樹脂(B)が粗大のドメイン(島)であることによるガスバリア性の低下、および透明性の悪化を防ぐことができる。また、良好なフィルム製膜安定性が得られる。
すなわち、環状オレフィン樹脂(B)のガラス転移温度が小さいほど、また、MVRに表される溶融流動性が大きいほど、分散平均径が小さくなる傾向があり、この知見を用いて、透明性、ガスバリア性、水蒸気バリア性の制御が可能である。更には、フィルムの引張伸び性の向上にも寄与する。
【0024】
ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用い、ISO 11357-1,-2,-3に準じて測定される。MVRは、ISO 1133に準じ260℃、2.16kgの条件で測定される。
【0025】
環状オレフィン樹脂(B)の平均屈折率は、1.51~1.55であることが好ましく、1.52~1.54であることがより好ましい。フィルム製膜されたエチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物の屈折率は、一般に1.52~1.54であるため、環状オレフィン樹脂の平均屈折率が上記範囲であると、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物との非相溶ブレンドにおいても透明性に優れたフィルムを得ることができる。
【0026】
<芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)>
以下、芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)をブロック共重合体(C)と呼称することがある。
本フィルムで使用する芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体(C)は、芳香族ビニルモノマー単位からなる重合体ブロックと、イソブチレン単位からなる重合体ブロックとを有するブロック共重合体よりなり、芳香族ビニルブロックは付加重合によりビニル芳香族モノマーから誘導される単位である。
【0027】
また、芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体の水素添加物(C)は、芳香族ビニルモノマー単位が水素添加された重合体ブロックと、イソブチレン単位からなる重合体ブロックとを有するブロック重合体である。当該水素添加物は、芳香族環を水素化したものであればよく、一般には、芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体を製造した後に、当該共重合体を水素化して得ることができる。芳香族環の水素化率は、本フィルムのガスバリア性向上の観点から、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましい。芳香族環の水素化方法や反応形態などは特に限定されないが、水素化率を高め、また重合体鎖切断反応の少ない方法が好ましい。
【0028】
芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体および/またはその水素添加物(C)を用いることにより、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)と環状オレフィン樹脂(B)からなる海/島構造の分散性や層界面密着性が良好となり、フィルムの耐衝撃性向上に寄与する。
【0029】
芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)を構成する芳香族ビニルモノマーの例としては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、t-ブトキシスチレン等のスチレン類;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類などのビニル基含有芳香族化合物;インデン、アセナフチレン等のビニレン基含有芳香族化合物などを挙げることができる。芳香族ビニルブロックを構成する芳香族ビニルモノマー単位は1種のみでもよく、2種類以上であってもよいが、中でも芳香族ビニルブロックが、スチレンまたはスチレンから誘導される単位からなっているものが特に好ましい。
【0030】
芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)の主な構成単位であるイソブチレン単位は、付加重合によりイソブチレンから誘導される単位(-C(CH)-CH-)である。
【0031】
芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)は、分子中に少なくとも1個の芳香族ビニルブロック及び/又は水素化芳香族ビニルブロックと、少なくとも1個のイソブチレンブロックを有していればよく、その構造は特に限定されない。例えば、直鎖状のABA型トリブロック構造、AB型ジブロック構造や、2以上に枝分かれした分岐鎖状または星型のいずれの分子鎖形態を有していてもよい。中でも、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)と環状オレフィン樹脂(B)との海/島相間の密着性や、他層との密着性の観点から、直鎖状のABA型トリブロック構造、AB型ジブロック、およびその混合物が好ましく使用できる。
【0032】
芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)における芳香族ビニルブロック及び/又は水素化芳香族ビニルブロックとイソブチレンブロックの割合は、ブロック共重合体(C)、芳香族ビニルブロック及び/又は水素化芳香族ビニルブロック、イソブチレンブロックの数平均分子量などにも依存するが、一般に、ブロック共重合体(C)の質量に基づいて、芳香族ビニルブロック及び/又は水素化芳香族ビニルブロックの割合が5~80質量%が好ましく、10~75質量%がより好ましく、15~50質量%がさらに好ましい。また、イソブチレンブロックの割合は95~20質量%が好ましく、90~25質量%がより好ましく、85~50質量%がさらに好ましい。
芳香族ビニルブロック及び/又は水素化芳香族ビニルブロックの割合が5質量%以上の場合には、本フィルムの機械的特性が良好となり、一方、芳香族ビニルブロック及び/又は水素化芳香族ビニルブロックの割合が80質量%以下、とりわけ75質量%以下であると、溶融粘度が高くなり過ぎず、本フィルムの成形性や加工性が良好となる。なお、芳香族ビニルブロック及び/又は水素化芳香族ビニルブロックを複数有する場合は、その総和として質量%である。同様に、複数のイソブチレンブロックを有する場合は、その総和の質量%である。
【0033】
芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)は、その数平均分子量が20,000~150,000であることが好ましく、下限は30,000がより好ましく、上限は100,000がより好ましく、80,000が更に好ましい。20,000以上であるとブロック共重合体(C)とエチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)、環状オレフィン樹脂(B)とを含む本フィルムの引張強度、引張伸度などの機械的特性が良好となる。一方、150,000以下であると、ブロック共重合体(C)の流動性が良好となり、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)、環状オレフィン樹脂(B)と混合した際のフィルムの成形性や加工性が良好となる。
【0034】
芳香族ビニルブロック及び/又は水素化芳香族ビニルブロックの数平均分子量は1,000~100,000であることが好ましく、2,000~80,000であることがより好ましい。1,000以上の場合には、本フィルムの耐衝撃性などの機械物性が良好となる。一方、100,000以下であれば、ブロック共重合体(C)の溶融粘度が高くなり過ぎることなく、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)や環状オレフィン樹脂(B)との混合も容易となり、得られた高分子組成物の成形性や加工性も良好となる。
【0035】
イソブチレンブロックの数平均分子量は10,000~140,000であることが好ましい。10,000以上の場合には、ブロック共重合体(C)の気体、水蒸気、有機液体等に対する遮断性が特に良好となり、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)、環状オレフィン樹脂(B)とを含有する組成物において遮断性が特に良好となる。一方、140,000以下であると、ブロック共重合体(C)の流動性が良好であり、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)、環状オレフィン樹脂(B)との重合体組成物の成形性や加工性が良好である。
【0036】
<(A)、(B)、および(C)の含有比率>
エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)、環状オレフィン樹脂(B)、および芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)を含む層における各成分の含有比率は、(A)が50質量%以上90質量%以下、(B)が5質量%以上30質量%以下、(C)が5質量%以上30質量%以下である。
【0037】
(A)の含有比率は、本フィルムの酸素バリア性の点から、下限は55質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。上限は85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
(B)の含有比率は、本フィルムの水蒸気バリア性の点から、下限は8質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また本フィルムの透明性、機械特性の点から、上限は25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
(C)の含有比率は、本フィルムの耐衝撃性の点から、下限は8質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。上限は25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0038】
<その他の層>
本フィルムは、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)、環状オレフィン樹脂(B)、および芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体及び/又はその水素添加物(C)を含む層を少なくとも1層有すればよく、当該層からなる単層フィルムでも、その他の成分からなる層を積層した多層フィルムでもよい。
その他の成分からなる層としては、例えばポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン樹脂を酸変性させた接着性樹脂などの熱可塑性樹脂層や、シリカ、アルミナ、酸化インジウム、酸化亜鉛、それらの混合物などの無機薄膜層などが挙げられる。
熱可塑性樹脂を積層する場合は、例えば本フィルムにポリアミド樹脂層を積層させたフィルム、好ましくは本フィルムの両面にそれぞれポリアミド樹脂層を有するフィルムとすると、フィルムに強靭性、耐ピンホール性を付与でき、好ましい。また両外層のポリアミド樹脂層の内側に接着樹脂層を設けると、各層間の密着性が良好となる。
【0039】
<その他の成分>
本フィルムには、その特性を阻害しない範囲であれば、各種樹脂層に添加剤を含有することができる。添加剤としては例えば、着色剤、無機充填剤、有機充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、加水分解防止剤、帯電防止剤、防曇剤、可塑剤、難燃剤などを挙げることができる。これらの添加剤の添加量は特に限定されるものではなく、本発明の所望とする物性を阻害することのない範囲において適宜決定することができる。
【0040】
<本フィルムの製造方法>
本フィルムは、単層フィルムの場合も、多層フィルムの場合も、公知のTダイ法、チューブラー法などの方法で作製することができる。多層フィルムの場合は、生産性、経済性の点から、共押出法での作製が好ましい。
また、本フィルムは、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムの何れでもよく、公知の方法で作製することができる。縦延伸倍率と横延伸倍率は、特に限定しないが、それぞれ1.1~5.0倍程度が好ましく、1.2~3.5倍程度がより好ましい。
【0041】
<厚み>
エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)、環状オレフィン樹脂(B)、および芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体(C)を含む層の厚みは、特に制限はないが、単層フィルムの場合は、例えば10μm以上150μm以下が好ましく、下限は15μm以上がより好ましく、上限は100μm以下がより好ましい。厚みが係る範囲であれば、食料品、工業部品、医薬品、医療品等の包装フィルムとしての耐衝撃性などの機械特性、ガスバリア性などに優れたフィルムとなる。
また、本フィルムがさらにポリアミドからなる層を有する場合、当該層の厚みは、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)、環状オレフィン樹脂(B)、および芳香族ビニル-イソブチレンブロック共重合体(C)を含む層の厚みに対して、0.5~2.0倍の比率が好ましい。また、層間に接着樹脂層を設ける場合は、該接着樹脂層の厚みは1μm以上、10μm以下が好ましい。
【0042】
<透明性>
本フィルムの透明性は、意匠性、内容物の視認性等の観点から、JIS K7136に基づき測定される厚み50μmの本フィルムの全光線透過率の値が88%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。なお、全光線透過率の値の上限は特に限定されず、可能な限り高い方が好ましい。
また同様の方法で測定される全ヘーズの値は10%未満であることが好ましく、8%未満がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。なお、全ヘーズ値の下限は特に限定されず、可能な限り小さい方が好ましい。全光線透過率、全ヘーズの値が係る範囲であれば、本フィルムは透明性に優れ、包装フィルムとして用いた際に内容物の視認性が良好である。
【0043】
<耐衝撃性(面衝撃)>
本フィルムはエチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物を単独で用いたフィルムと同程度の耐衝撃性を有するものであり、ASTM D3763に基づき測定されるハイドロショット高速試験機による破壊エネルギーが0.10J以上が好ましく、0.15J以上がより好ましく、0.20J以上がさらに好ましい。係る範囲の破壊エネルギーを有するフィルムであれば、内容物を包装し、例えば輸送の際に生じる衝撃によっても、破断やピンホールなどが生じにくい。
【0044】
<引張特性>
本フィルムはエチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物を単独で用いたフィルムと同程度の引張特性を示すものであり、JIS K7127-2に基づき測定される試験速度200mm/minで測定される厚み50μmのフィルムのMD方向への引張破断伸びが300%以上であることが好ましい。係る範囲の引張破断伸びのフィルムであれば、内容物を包装した際に、破断やピンホールが生じにくい。
【0045】
<酸素ガスバリア性>
本フィルムは適度な酸素ガスバリア性を有し、JIS K7126-2法に基づき、23℃、0%RHの条件下で測定される厚み50μmフィルムの酸素透過率が、0.3ml/(m・24hr・atm)未満であることが好ましい。係る範囲の酸素透過度であれば、包装フィルムとして内容物の長期保存性に優れたフィルムとなり、値が低いほど良好となる。
【0046】
<水蒸気バリア性>
本フィルムは適度な水蒸気バリア性を有し、JIS K7129B法に基づき、40℃、90%RHの条件下で測定される厚み50μmフィルムの水蒸気透過率が、20g/(m・24hr)未満であること好ましく、15g/(m・24hr)未満がより好ましい。係る範囲の水蒸気透過率であれば、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(A)では得られない水蒸気バリア性を付与することができ、酸素、水蒸気共に良好なガスバリア性フィルムを提供できる。
【実施例
【0047】
以下、実施例、比較例を示して説明するが、本発明はこれら例の範囲に限定されるものではない。
以下の略号で示す樹脂を配合して温度230℃で押出し、50μm厚の単層無延伸フィルムを作製し、評価結果を表1に示した。
【0048】
PE-1:エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(エチレン含有量:32モル%、鹸化度99%)
PE-2:エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(エチレン含有量:25モル%、鹸化度99%)
CO-1:環状オレフィンコポリマー(Tg78℃、MVF32ml/10min)
CO-2:環状オレフィンコポリマー(Tg138℃、MVF30ml/10min)
CO-3;環状オレフィンコポリマー(Tg158℃、MVF14ml/10min)
SI-1:スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(スチレン含有量:20質量%、ブロック共重合体の数平均分子量:60,000)
SI-2:スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(スチレン含有量:20質量%、ブロック共重合体の数平均分子量:70,000)
SI-3:スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(スチレン含有量:30質量%、ブロック共重合体の数平均分子量:70,000)
SB-1:スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体スチレン(スチレン含有量:20質量%、ブロック共重合体の数平均分子量:50,000)
【0049】
<透明性:全光線透過率、全ヘーズ>
JIS K7136に基づいて、全光線透過率透過率と全ヘーズの値を測定した。
【0050】
<耐衝撃性(面衝撃):破壊エネルギー>
ASTM D3763に基づき測定されるハイドロショット高速試験機による破壊エネルギーを23℃雰囲気下で測定した。
【0051】
<引張特性:引張伸び>
JIS K7127-2に基づき、試験速度200mm/minでのMD方向への引張破断伸度を測定した。
【0052】
<酸素ガスバリア性:酸素透過率>
JIS K7126-2法に基づき、23℃、0%RHの条件下における酸素透過率を測定した。
【0053】
<水蒸気バリア性:水蒸気透過率>
JIS K7129B法に基づき、40℃、90%RHの条件下における水蒸気透過率を測定した。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例1~7のフィルムは、いずれも、すべての評価項目において良好な結果を示した。これに対して、比較例1、比較例2、比較例3のフィルムでは、(B)成分を含んでいないので、水蒸バリア性に劣っていた。また比較例4のフィルムでは、(A)成分と(B)成分の2種混合系で、(C)成分を含んでいないので、耐衝撃性に劣っていた。比較例5のフィルムでは、(C)成分ではなくスチレン-ブチレン系共重合体であるので、酸素バリア性および水蒸気バリア性に劣ると共に、透明性に劣っていた。比較例6および7のフィルムでは、環状オレフィン樹脂のガラス転移温度が所定の範囲外であるので、透明性、耐衝撃性、引張特性、酸素バリア性、および、水蒸気バリア性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物の有する酸素バリア性や耐衝撃性等の機械物性を備え、更に水蒸気バリア性も良好なフィルムを提供することができる。食品、工業部品、医薬品、医療品等の包装材として好適に使用でき、内容物の腐敗、腐食、品質劣化を抑制し長期保管が可能となる。