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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20220817BHJP
【FI】
A63B53/04 B
A63B53/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018078168
(22)【出願日】2018-04-16
(65)【公開番号】P2019181007
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(72)【発明者】
【氏名】橘 康介
(72)【発明者】
【氏名】林 和広
(72)【発明者】
【氏名】則村 貴洋
【審査官】石原 豊
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-030883(JP,A)
【文献】特開平08-299506(JP,A)
【文献】特開2015-023985(JP,A)
【文献】特開2006-025948(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0032498(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00-53/14
A63B 49/00-51/16
A63B 55/00-60/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンデュラムテストによって打撃面の測定点におけるCT値を測定するとともに、前記ペンデュラムテストにより生ずる打痕凹部を形成するCT測定工程と、
前記打痕凹部の少なくとも一部を含む領域に、レーザー又はショットブラストによって装飾加工を施す装飾加工工程と、
を含んでおり、
前記装飾加工が施された装飾加工領域における凹凸の最大深さが20μm以下であるゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記CT測定工程の後に前記装飾加工工程がなされる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記打撃面にPVD処理を施すPVD処理工程を更に含み、
前記PVD処理工程が、前記CT測定工程の前に実施される請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
接着部材を更に有するゴルフクラブヘッドの製造方法であって、
前記接着部材を接着剤で貼り付ける接着工程を更に含み、
前記接着工程が、前記PVD処理工程と前記CT測定工程との間に実施される請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記装飾加工が施された装飾加工領域が、前記打痕凹部の面積の50%以上を占めている請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフ規則では、反発係数の上限に関する規制がある。R&A(ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブ・オブ・セントアンドリュース)及びUSGA(全米ゴルフ協会)が定めるゴルフ規則では、その付属規則IIの4cに、ペンデュラムテストプロトコルに定められている上限を超えるスプリング効果を持ってはならない旨が規定されている。具体的には、CT値が所定値以下に制限されている。なお、CTは、Characteristic time(特性時間)の略である。
【0003】
特開2004-267438号公報は、ペンデュラムテストを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-267438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
製品のCT値を厳格に管理するためには、生産された製品そのものにペンデュラムテストを行うのが確実である。しかし、このペンデュラムテストにより、フェース面に打痕が残ることが判明した。この打痕は、製品の外観性を低下させる。
【0006】
フェース面を研磨することで、この打痕は除去されうる。しかし、この研磨により、フェースが薄くなり、CT値が変化しうる。CT値が変化すると、CT値を測定した意義が失われる。
【0007】
本開示は、CT値の管理と外観性とを両立しうるゴルフクラブヘッドの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一つの態様では、ゴルフクラブヘッドの製造方法は、ペンデュラムテストによって打撃面の測定点におけるCT値を測定するとともに、前記ペンデュラムテストにより生ずる打痕凹部を形成するCT測定工程と、前記打痕凹部の少なくとも一部を含む領域に、レーザー又はショットブラストによって装飾加工を施す装飾加工工程と、を含む。
【0009】
他の態様では、ゴルフクラブヘッドは、打撃面とソールとホーゼルとを有している。前記打撃面が、ペンデュラムテストの打痕として形成された打痕凹部と、前記打痕凹部の少なくとも一部を含むように形成された装飾加工領域と、を有している。前記装飾加工領域が、レーザー又はショットブラストによって形成されている。
【発明の効果】
【0010】
CT値の管理と外観性とが両立されうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態のゴルフクラブヘッドの斜視図である。
図2図2は、装飾加工部が形成される前における図1のヘッドを示す斜視図である。
図3図3は、図2のF3-F3線に沿った断面図である。
図4図4は、第2実施形態のゴルフクラブヘッドの斜視図である。
図5図5は、第3実施形態のゴルフクラブヘッドの斜視図である。図5は、装飾加工部が形成される前のヘッドを示す。
図6図6は、ヘッドの製造工程の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、第4実施形態のゴルフクラブヘッドの斜視図である。
図8図8は、第5実施形態のゴルフクラブヘッドの斜視図である。
図9図9は、第6実施形態のゴルフクラブヘッドの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面が参照されつつ、実施形態が詳細に説明される。
【0013】
図1は、第1実施形態のゴルフクラブヘッド2を打撃面側からみた斜視図である。ヘッド2は、フェース4、クラウン6、ソール8及びホーゼル10を有する。フェース4は、打撃面4aを有する。ホーゼル10は、ホーゼル孔12を有する。ヘッド2の内部は空洞である。なお、打撃面4aにはスコアラインが設けられているが、本願の全ての図面では、スコアラインの記載が省略されている。
【0014】
ヘッド2の材質は限定されない。典型的には、ヘッド2のフェース4は金属製である。フェース4を構成する金属として、ステンレス鋼、純チタン、チタン合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金等が挙げられる。
【0015】
ヘッド2は、ウッド型ヘッドである。ヘッド2は、ドライバーヘッドである。ドライバーヘッドが装着されたクラブは、ドライバー又は1番ウッドと称される。好ましいドライバーヘッドは、300cc以上470cc以下の体積を有する。好ましいドライバーヘッドは、7度以上15度以下のリアルロフトを有する。
【0016】
なお、ヘッド2のタイプは限定されない。ヘッド2として、ウッド型ヘッド、ハイブリッド型ヘッド、アイアン型ヘッド及びパター型ヘッドが例示される。
【0017】
打撃面4aは、装飾加工部S1を有する。ヘッド2では、装飾加工部S1は2箇所に設けられている。各装飾加工部S1は、矢じりのような形状を呈している。より詳細には、各装飾加工部S1は、直線に沿って延びる細い帯状の装飾加工領域の集合体である。コンピュータで制御されたレーザー加工機により、この装飾加工部S1が描かれる。なお、レーザー加工機は、汎用のものを使用することができ、例えばKeyence社製のML-Z9500が挙げられる。
【0018】
このように、装飾加工部S1は、レーザー加工により形成されている。換言すれば、レーザーによるマーキングで、装飾加工部S1が形成されている。レーザーを照射することで、打撃面4aの表面が融解又は変質する。レーザーの照射により、打撃面4aの表面に凹凸が形成されうる。例えば、打撃面4aの表面に細かい溝が形成されたり、打撃面4aの表面粗さが変化したりしうる。また、打撃面4aにPVD被膜等の被膜がある場合、レーザーの照射により当該被膜が剥離しうる。結果として、レーザーが照射された部分の外観が変化し、装飾加工が達成される。
【0019】
本実施形態では、この装飾加工の前に、ヘッド2のCT値が測定される。図2は、装飾加工が施される前のヘッド2を示す。打撃面4aにおいて、測定点P1が設定される。測定点P1の位置は限定されない。例えば、打撃面4aにおいてCT値が最も高い地点が測定点P1とされうる。
【0020】
この測定点P1のCT値が測定される。前述の通り、CT値は、ペンデュラムテストによって測定される。このペンデュラムテストの詳細は、2003年2月24日にUSGAから発行された「Notice To Manufacturers」に添付された「Technical Description of the Pendulum Test」に記載されている。CT値の単位はμsである。CT値が大きいほど、反発性能が高い傾向にある。
【0021】
特開2004-267438号公報に記載の通り、ペンデュラムテストの試験器は、アームの一端に取り付けられた半球状の金属製質量体を有する。この質量体を振り子として降下させ、打撃面4aの測定点P1に衝突させる。測定に高い精度が求められる場合、同一の測定点P1に、質量体を複数回衝突させる。
【0022】
このCT値の測定により、打痕が生じることが判明した。この打痕は、見落とされうる程度に小さいが、フェース4をよく見ると視認されうる。打痕の形状は、直径1mm程度(又は1mm未満)の円形であることが判った。この打痕は外観性を低下させうる。
【0023】
反発性能の観点から、設計上のCT値がルールの上限に非常に近い値に設定される場合、製造のバラツキに起因して、CT値がこの上限を超える個体が生じうる。この観点から、CT値の全数検査を行うのが好ましい。CT値を厳格に管理する場合、製品そのもののCT値を測定する必要がある。しかし、打痕により、外観性が低下し、商品価値が下がる。装飾加工部S1は、この問題を解決しうる。装飾加工部S1により、打痕が目立たなくなる。
【0024】
装飾加工部S1を形成する装飾加工の方法として、レーザー加工の他に、ショットブラストが挙げられる。ショットブラストは、投射材と称される粒体を衝突させる表面加工である。投射材として、金属粒子及びセラミック粒子が例示される。このショットブラストにより形成された装飾加工部S1によっても、打痕が目立たなくなる。装飾加工は、凹凸加工を含む。
【0025】
図3は、図2のF3-F3線に沿ったフェース4の断面図である。測定点P1を中心とした領域に、打痕凹部R1が形成されている。打痕凹部R1は、球面状の凹みである。打痕凹部R1の形状は、完全な円形ではないが、ほぼ円形である。打痕凹部R1が形成された領域は、打痕領域とも称される。
【0026】
打痕凹部R1の形状は、前述した金属製質量体の形状に起因する。金属製質量体が打撃面4aに衝突することで、当該質量体の半球形状が打撃面4aに転写される。打痕凹部R1は曲面であり、実質的に球面である。打痕凹部R1の直径D1は0.2mm以上1mm以下程度であり、打痕凹部R1の深さD1は0.5μm以上5μm以下程度である。打痕凹部R1の曲率半径は、20mm以上30mm以下程度であり、更には24mm以上27mm以下程度である。なお、前述の通り、打痕凹部R1の形状は完全な円形ではないため、直径D1は、平面視における打痕凹部R1の最小包含円の直径とされうる。
【0027】
測定精度の観点から、同一の測定点P1に質量体をN回衝突させる場合がある(Nは2以上の整数)。この場合に、打痕が目立ちやすいことが判った。一方、質量体を1回だけ衝突させる場合、打痕は目立ちにくいことが判った。従来、ペンデュラムテストによる打痕は認識されていなかった。
【0028】
測定精度を高めるとともに、装飾加工の効果を高める観点から、Nは2以上が好ましく、3以上がより好ましく、4以上がより好ましく、5以上がより好ましい。CT値の測定精度を更に高める観点からは、異なる高さから3回ずつ合計9回、前記質量体を衝突させるのが好ましい。測定の手間を考慮すると、Nは9以下が好ましい。
【0029】
ヘッド2の製造方法は、構造物としてのヘッド2を得る工程を含む。この工程は、前工程とも称される。この前工程では、公知の方法によりヘッド2が作製される。公知の方法として、鋳造、鍛造、プレス成形、射出成形などが挙げられる。この前工程では、複数の部品が溶接、接着等で接合されてもよい。
【0030】
ヘッド2の製造方法は、ヘッド2の表面を研磨する工程、ヘッド2の表面に被膜を形成する工程,ヘッド2を塗装する工程等を含んでいても良い。
【0031】
ヘッド2の製造方法は、以下の工程(a)及び工程(b)を含むのが好ましい。
(a)ペンデュラムテストによって打撃面の測定点におけるCT値を測定するとともに、前記ペンデュラムテストにより生ずる打痕凹部を形成するCT測定工程。
(b)前記打痕凹部の少なくとも一部を含むように、レーザー又はショットブラストによって装飾加工を施す装飾加工工程。
【0032】
工程(a)の後に工程(b)がなされてもよいし、工程(b)の後に工程(a)がなされてもよい。打痕がより目立たないとの観点から、工程(a)の後に工程(b)がなされるのが好ましい。工程(a)及び工程(b)は、前記前工程の後に実施されるのが好ましい。
【0033】
打痕凹部R1を除去するには、打撃面4aを研磨する必要がある。図3に示される2点鎖線は、この研磨によって形成された新しい打撃面4bである。この研磨により、フェース4の厚みが薄くなる。フェース4が薄くなると、CT値が変化してしまう。この研磨に代えて、装飾加工部S1を形成することで、CT値を実質的に変化させることなく、打痕を目立たなくすることができる。
【0034】
レーザー及びはショットブラストでは、フェース4の厚みは実質的に変化しない。レーザー及びショットブラストは、CT値を実質的に変化させない。よって、最終完成品のヘッドのCT値を正確に把握することができる。
【0035】
ヘッド2の製造方法は、次の工程(c)を更に含んでいてもよい。
(c)打撃面4aにPVD処理を施すPVD処理工程。
【0036】
PVDは、physical vapor depositionの略であり、物理蒸着とも称される。PVDは、物質の表面に薄膜を形成する蒸着法のひとつとして広く知られている。PVD処理では、気相中において、物理的手法で物質を対象物の表面に堆積させて、薄膜を形成する。PVD被膜を構成する物質として、TiN(窒化チタン)、TiCN(窒化チタンカーバイド)、TiAlN(窒化チタンアルミ)、TiN(窒化チタン)、TiC(チタンカーバイド)、AlCrN(窒化アルミクロム)、TiCN(窒化チタンカーバイド)、TiAlN(窒化チタンアルミ)、AlCrN(窒化アルミクロム)、CrN(窒化クロム)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などが挙げられる。打撃面4aに施されたPVD被膜は、外観性を向上させうる。また、PVD被膜は、打撃面4aの耐久性の向上、バックスピン量の抑制等に寄与しうる。
【0037】
このPVD処理工程が、前記CT測定工程の前に実施されてもよい。前述の通り、打痕凹部R1を除去する目的で、打撃面4aが研磨されうる。PVD被膜が形成されている打撃面4aが研磨されると、PVD被膜が剥がれてしまう。この場合、PVD被膜を全て除去した上で、再度PVD処理を行う必要が生じる。研磨に代えて装飾加工を採用することで、PVD処理のやり直しが不要となる。PVD被膜を有するヘッドでは、装飾加工が有効である。
【0038】
図4は、第2実施形態のヘッド20の斜視図である。ヘッド2と同様に、ヘッド20は、フェース4、クラウン6、ソール8及びホーゼル10を有する。フェース4は、打撃面4aを有する。打撃面4aは、PVD被膜を有する。更に、このヘッド20は、接着部材22を有する。接着部材22及びPVD被膜の存在を除き、ヘッド20は、ヘッド2と同じである。
【0039】
本実施形態において、接着部材22は、プレートである。接着部材22には、製品名、製品のスペック等が表示されていてもよい。接着部材22の材質は限定されず、樹脂、金属及びセラミックが例示される。接着部材22は、ヘッド20の外面に、接着剤で貼り付けられている。接着剤として、有機系接着剤及び無機系接着剤が挙げられ、好ましくは有機系接着剤である。この有機系接着剤として、熱可塑性樹脂系接着剤、熱硬化性樹脂系接着剤及びエラストマー系接着剤が挙げられる。接着強度の観点から、熱硬化性樹脂系接着剤が好ましく、中でもエポキシ樹脂系接着剤及びポリウレタン系接着剤が好ましい。
【0040】
このヘッド20の製造方法は、前記工程(a)、工程(b)及び工程(c)に加えて、次の工程(d)を含んでいる。
(d)接着部材22を接着剤で貼り付ける接着工程。
【0041】
接着工程は、PVD処理工程の後に実施される。接着工程は、CT測定工程の前に実施される。接着工程は、PVD処理工程とCT測定工程との間に実施される。
【0042】
図5は、第3実施形態のヘッド30の斜視図である。図5は、装飾加工部S1が形成される前の状態を示す。ヘッド2と同様に、ヘッド30は、フェース4、クラウン6、ソール8及びホーゼル10を有する。フェース4は、打撃面4aを有する。打撃面4aは、PVD被膜を有する。
【0043】
このヘッド30は、接着部材32を有している。このヘッド30は、ヘッド本体34と接着部材32とを有している。ヘッド本体34は開口36を有している。この開口36が、接着部材32で塞がれている。接着部材32は、クラウン6の一部(クラウン6の大部分)を構成している。図5において破線で示されるのは、開口36の輪郭線である。
【0044】
接着部材32の周縁部が、ヘッド本体34に接着剤で接着されている。開口36において、クラウン6は、接着部材32のみによって形成されている。
【0045】
接着部材32の材質は、ヘッド本体34の材質と異なる。接着部材32の材質は、非金属とされうる。例えば、接着部材32の材質は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とされる。接着部材32の材質として、CFRPの他、アルミニウム合金、マグネシウム合金等が挙げられる。ヘッド本体34の材質は金属とされうる。
【0046】
このヘッド30の製造方法も、前記工程(a)、工程(b)及び工程(c)に加えて、次の工程(d)を含んでいる。
(d)接着部材32を接着剤で貼り付ける接着工程。
【0047】
この接着工程は、PVD処理工程とCT測定工程との間に実施されている。
【0048】
PVD処理は高温下で行われる。接着部材を接着した後にPVD処理工程を実施すると、高熱により接着剤が破壊される。接着剤の耐熱性を考慮すると、PVD処理工程は、接着工程の前に実施されるのが好ましい。
【0049】
前述の通り、打撃面4aにPVD被膜を有するヘッドにおいて、研磨によって打痕を除去すると、PVD被膜が剥がれてしまう。この場合、再度のPVD処理が必要となるが、この再度のPVD処理による高温で、接着剤が変質してしまう。研磨に代えて装飾加工を採用することで、再度のPVD処理が不要となり、接着剤の変質を防止することができる。
【0050】
前述の通り、接着部材32は、開口36において、単独でクラウン6の一部を構成している。接着部材32は、中空構造を有するヘッド30の外殻の一部を単独で構成している。接着部材32は、ヘッド30の構造体の一部を構成している。このような接着部材32は、打撃の際に変形しうる。この接着部材32は、CT値に影響しうる。この接着部材32の接着状態が変化すると、CT値が変動しうる。このようなヘッド30では、接着部材32が接着された完成状態においてCT測定工程を行うのが好ましい。また、CT測定工程の後には、接着剤を変質させうる高温処理(PVD処理)を行わないのが好ましい。研磨に代えて装飾加工を用いることで、接着部材32を有するヘッド30のCT値を正確に評価することができる。このように、CT値に影響しうる接着部材32を有するヘッドでは、装飾加工がより効果的である。装飾加工の効果を高める観点から、接着部材32が接着される前のヘッド本体34で測定されたCT値がCT1とされ、接着部材32が接着された後のヘッド30で測定されたCT値がCT2とされるとき、CT1がCT2と相違するような測定点P1が存在するのが好ましい。
【0051】
研磨がなされると、摩擦熱が発生する。この摩擦熱により、ヘッドは高温となる。この高温は、接着剤を変質させうる。接着部材32の接着状態が変化すると、CT値が変動しうる。研磨に代えて装飾加工を用いることで、接着部材32を有するヘッド30のCT値を正確に評価することができる。
【0052】
図6は、上記ヘッド20及びヘッド30のような、接着部材を有するヘッドの製造工程の一例を示すフローチャートである。この例では、PVD処理工程St1が実施されている。PVD処理工程St1の後に、接着工程St2が実施されている。接着工程St2の後に、CT測定工程St3が実施されている。CT測定工程St3の後に、装飾加工工程St4が実施されている。PVD処理工程St1は、装飾加工工程St4の前に実施されている。接着工程St2は、装飾加工工程St4の前に実施されている。CT測定工程St3は、装飾加工工程St4の前に実施されている。CT測定工程St3は、PVD処理工程St1の後に実施されている。CT測定工程St3は、接着工程St2の後に実施されている。接着工程St2は、PVD処理工程St1の後に実施されている。接着工程St2は、PVD処理工程St1とCT測定工程St3との間に実施されている。
【0053】
図7は、第4実施形態のヘッド40の斜視図である。ヘッド2と同様に、ヘッド40は、フェース4、クラウン6、ソール8及びホーゼル10を有する。フェース4は、打撃面4aを有する。
【0054】
打撃面4aは、装飾加工部S1を有する。装飾加工部S1は、点状(菱形)の第1装飾加工部S11と、この第1装飾加工部S11のトウ側に位置する第2装飾加工部S12と、この第1装飾加工部S11のヒール側に位置する第3装飾加工部S13とを有する。第1装飾加工部S11は、3つの点状(菱形)の模様を形成している。第2装飾加工部S12及び第3装飾加工部S13は、全体として平行四辺形の形状であり、その内部に細かい模様を有している。打痕凹部R1の少なくとも一部は、例えば第1装飾加工部S11を構成する1つの菱形に重なっていてもよい。打痕凹部R1の少なくとも一部は、第2装飾加工部S12又は第3装飾加工部S13の内側に位置していてもよい。
【0055】
図8は、第5実施形態のヘッド50の斜視図である。ヘッド2と同様に、ヘッド50は、フェース4、クラウン6、ソール8及びホーゼル10を有する。フェース4は、打撃面4aを有する。
【0056】
打撃面4aは、装飾加工部S1を有する。装飾加工部S1は、略菱形の第1装飾加工部S11と、この第1装飾加工部S11の周囲を囲む周囲線を構成する第2装飾加工部S12と、この第2装飾加工部S12の周囲に位置し縞模様で構成された第3装飾加工部S13とを有する。本実施形態では、打痕凹部R1の全体が、第1装飾加工部S11に重なっている。
【0057】
図9は、第6実施形態のヘッド60の斜視図である。ヘッド2と同様に、ヘッド60は、フェース4、クラウン6、ソール8及びホーゼル10を有する。フェース4は、打撃面4aを有する。
【0058】
打撃面4aは、装飾加工部S1を有する。装飾加工部S1は、4箇所に施されている。装飾加工部S1は、点状の細かい装飾加工領域の集合である。
【0059】
装飾加工領域は、打痕凹部R1の全体を含んでいてもよいし、打痕凹部R1の一部のみを含んでいてもよい。例えば図1の実施形態や図9の実施形態では、装飾加工部S1は、小さな装飾加工領域の集合であり、装飾加工領域間に小さな隙間がある。打痕凹部R1は、装飾加工領域だけではなく、この小さな隙間の領域にも存在している。よって、装飾加工部S1が打痕凹部R1の全体を含んでいるとしても、装飾加工領域が打痕領域の全体を占めているわけではない。しかし、この場合でも、打痕凹部R1の視認性を低下させる機能は発揮されている。これらの実施形態でも、打痕凹部R1を視認することは困難である。
【0060】
打痕凹部R1を目立たなくする観点から、装飾加工が施された装飾加工領域は、打痕凹部の面積の50%以上を占めているのが好ましく、60%以上を占めているのがより好ましく、70%以上を占めているのがより好ましい。
【0061】
装飾加工の前後でCT値が実質的に変わらないとの観点から、装飾加工領域における凹凸の最大深さは、20μm以下であるのが好ましい。最大深さが20μm以下であっても、装飾加工の視認性は高く、打痕が目立たなくなる効果は高いことが判った。装飾加工の視認性の観点から、この最大深さは3μm以上であるのが好ましい。
【0062】
この最大深さは、装飾加工領域の全体における、最も突出した位置と最も凹んだ位置とに基づいて決定される。
【0063】
装飾加工の前後でCT値が実質的に変わらないとの観点から、装飾加工領域の表面粗さの最大高さ(Rmax)は、20μm以下であるのが好ましい。最大高さ(Rmax)が20μm以下であっても、装飾加工の視認性は高く、打痕が目立たなくなる効果は高いことが判った。装飾加工の視認性の観点から、この最大高さ(Rmax)は3μm以上であるのが好ましい。
【0064】
装飾加工の前後でCT値が実質的に変わらないとの観点から、装飾加工領域の中心線平均粗さ(Ra)は、4.5μm以下であるのが好ましい。中心線平均粗さ(Ra)が4.5μm以下であっても、装飾加工の視認性は高く、打痕が目立たなくなる効果は高いことが判った。装飾加工の視認性の観点から、この中心線平均粗さ(Ra)は、0.1μm以上であるのが好ましい。
【0065】
最大高さ(Rmax)及び中心線平均粗さ(Ra)は、JIS B0601-1982に従って測定される。この測定では、三次元表面粗さ計(株式会社ミツトヨ社製のSJ-301)が用いられうる。測定方向は、粗さが最も大きくなる方向とされ、800μmの長さで且つ0.25~0.5mm/秒の速さで測定される。2.5μmのピッチで少なくとも1回測定し、得られた粗さ曲線を解析して、Ra(μm)及びRmax(μm)が算出される。なお、この測定では、触針先端半径2μm、頂角60°のダイヤモンド針が使用され、測定張力は0.7mN、カットオフは0.8~2.5mmとされる。上述の最大深さも、この粗さ計で測定されうる。
【0066】
打痕凹部R1の位置は限定されない。ヘッドのCT値を管理する観点から、打痕凹部R1は、打撃面4aにおいてCT値が最も高い位置を中心とした半径5mm以内の領域に位置するのが好ましい。
【0067】
上述した実施形態に関して、以下の付記を開示する。
[付記1]
ペンデュラムテストによって打撃面の測定点におけるCT値を測定するとともに、前記ペンデュラムテストにより生ずる打痕凹部を形成するCT測定工程と、
前記打痕凹部の少なくとも一部を含む領域に、レーザー又はショットブラストによって装飾加工を施す装飾加工工程と、
を含むゴルフクラブヘッドの製造方法。
[付記2]
前記CT測定工程の後に前記装飾加工工程がなされる、付記1に記載の製造方法。
[付記3]
前記打撃面にPVD処理を施すPVD処理工程を更に含み、
前記PVD処理工程が、前記CT測定工程の前に実施される付記1又は2に記載の製造方法。
[付記4]
接着部材を更に有するゴルフクラブヘッドの製造方法であって、
前記接着部材を接着剤で貼り付ける接着工程を更に含み、
前記接着工程が、前記PVD処理工程と前記CT測定工程との間に実施される付記3に記載の製造方法。
[付記5]
前記装飾加工が施された装飾加工領域が、前記打痕凹部の面積の50%以上を占めている付記1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
[付記6]
前記装飾加工が施された装飾加工領域における凹凸の最大深さが20μm以下である付記1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
[付記7]
打撃面とソールとホーゼルとを有しており、
前記打撃面が、
ペンデュラムテストの打痕として形成された打痕凹部と、
前記打痕凹部の少なくとも一部を含むように形成された装飾加工領域と、
を有しており、
前記装飾加工領域が、レーザー又はショットブラストによって形成されているゴルフクラブヘッド。
[付記8]
前記打撃面がPVD被膜を更に有する付記7に記載のゴルフクラブヘッド。
[付記9]
接着部材を更に有する付記8に記載のゴルフクラブヘッド。
[付記10]
ドライバーヘッドである、付記7から9のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【符号の説明】
【0068】
2、20、30、40、50、60・・・ゴルフクラブヘッド
4・・・フェース
6・・・クラウン
8・・・ソール
10・・・ホーゼル
S1・・・装飾加工部(装飾加工領域)
P1・・・測定点
R1・・・打痕凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9